平成20年度年次報告
課題番号:1002
北海道大学大学院理学研究院
北海道北部沖の海底地下構造探査および自然地震活動調査
1.(1)イ.列島規模のプレート内の構造と変形
1.(1)ア.日本列島及び周辺域のプレート運動
1993年北海道南西沖地震は、1940年積丹沖地震と1983年日本海中部地震の震源域間に発生した.これらの大地震はユーラシア・プレート(アムール・プレート)と北米プレート(オホーツク・プレート)との相互作用による歪・応力場に支配されて発生した.しかし、にもかかわらず1940年積丹沖地震の震源域以北(北緯44度以北)でのプレート境界の位置は全く不明のままである.
プレート境界を規定するためには地震活動や地震の発生機構の情報が不可欠である.さらにプレート境界を規定する海底地殻構造もきわめて重要な情報である.したがって5ヵ年の後半(平成19年度)でエアガンと海底地震計を用いた人工地震探査を実施し、当海域での海底地殻構造を明らかにする.また当海域での地震活動を精査し、地震の発生機構の解析から応力の実態を明らかにする.
平成17年度の実施計画では、当海域で行われた過去の制御地震探査、および最近の自然地震活動調査の整理・検討を行った.さらに1874年北海道北西部沿岸に起った地震について、過去の地震資料を用いて再検討した結果、既存の報告よりより大きな地震(マグニチュード5.5からマグニチュード6.4)であったことが明らかになった.
平成18年度の実施計画では、地震活動と海底地下構造との関係を明らかにするために平成19年度に実施予定していた人工地震による構造探査海域(留萌沖)、およびその周辺での自然地震の震源分布、発生機構を調査し、構造探査のための基礎資料を得た.
平成19年度では、平成18年度の調査に引き続き、さらに長期間の1995年10月1日~2007年9月30日、陸上地震観測網で得られた地震カタログに基づいた当海域での地震活動の特性を調査した.さらにサハリン南部で2007年8月2日被害地震(マグニチュード6.4)が発生し、北海道大学とロシア・アカデミー・サハリン地震観測所との共同で臨時観測を実施した.
平成20年度では、これまでの調査では不明であった1940年積丹沖地震の震源域での最近の地震活動を精査するために、海底地震計を20台当該海域に設置し、約2ヶ月間の地震観測を実施する.また北海道西部、日本海北部海域における海底下に伏在する断層構造を把握するために、既存の反射法地震探査データの解析を行う.
平成20年度においては、1940年積丹岬沖地震の震源域付近で、20台海底地震観測を設置し、約2ヶ月間の地震観測を実施する.観測終了後、20台すべての海底地震計を回収し、海底地震計に記録されたP波とS波の到着時刻を検測する.得られた検測値に基づいて地震の震源を計算し、日本海北部東縁でのプレート境界での詳細な地震活動を明らかにする.
また北海道西部、日本海北部海域における海底下に伏在する断層構造を把握するために、既存の反射法地震探査データの解析を行い、地震活動の原因となるテクトニック・プロセス、とくに背弧海盆において正断層として形成された断層系が逆断層に転ずる、インバージョン・テクトニクスを詳細に解明する.
1940年積丹岬沖地震の震源域付近で、19台海底地震観測を設置し、約2ヶ月間の地震観測を実施した.海底地震計に記録されたP波とS波の到着時刻の検測値に基づいて地震の震源を計算した.その震源分布によれば、気象庁一元化震源よりもはるかに多くの地震を観測することができた.とくに、奥尻海嶺に沿って地震活動が活発であること、さらにその海嶺近傍の海洋海山で微小な地震が時空間で集中的に発生していたことなど奥尻海嶺沿い(地形断層沿い)で比較的地震活動が高いのを確認した.一方、1940年積丹岬沖地震の震源断層では微小地震を含め、地震はほとんど発生していなかった.
また北海道西部、日本海北部海域における海底下に伏在する断層構造を把握するために、既存の反射法地震探査データの解析を行い、地震活動の原因となるテクトニック・プロセス、とくに背弧海盆において正断層として形成された断層系が逆断層に転ずる、インバージョン・テクトニクスを詳細に解明した.なお、計画(上記(6))と一致した.
無
最近の自然地震活動調査の整理・検討から、1874年北海道北西部沿岸に起った地震について、過去の地震資料を用いて再検討した結果、既存の報告よりより大きな地震(マグニチュード5.5からマグニチュード6.4)であったことが明らかになった.さらにサハリン南部で2007年8月2日被害地震(マグニチュード6.4)が発生し、北海道大学とロシア・アカデミー・サハリン地震観測所との共同で臨時観測を実施し、より精密な地震活動の推移を知ることができた.1995年10月1日~2007年9月30日、陸上地震観測網で得られた地震カタログに基づいた当海域での地震活動の特性を調査し、幾つかの海底地形断層沿いで地震活動が比較的高かったのを確認した。とくに奥尻海嶺に沿って地震活動が比較的活発であること、一方1940年積丹岬沖地震の震源断層では微小地震を含め、地震はほとんど発生していなかったことなどが確認できた.また奥尻海嶺に沿って発生した比較的大きな地震はほとんど東西圧縮力による逆断層タイプであり、日本海東縁で発生した1983年日本海中部地震、1993年北海道南西沖地震などと発生機構が同じであることが理解できた。
北海道大学大学院理学研究科地震火山研究観測センター
他機関との共同研究の有無:無
部署等名:理学研究科附属地震火山研究観測センター
電話:011‐706‐2643
e‐mail:murai@mail.sci.hokudai.ac.jp
URL:http://www.sci.hokudai.ac.jp
図‐1 1940年積丹岬沖地震の震源域付近の地震活動. 丸:平成20年度実施した海底地震観測から求まった地震、赤線:海底地形断層、1940年積丹岬沖地震の断層面(破線枠).
研究開発局地震・防災研究課