日本列島周辺域のプレート運動の解明

平成20年度年次報告

課題番号:1001

(1)実施機関名:

北海道大学大学院理学研究院

(2)研究課題(または観測項目)名:

日本列島周辺域のプレート運動の解明

(3)最も関連の深い建議の項目:

1.(1)ア.日本列島周辺域のプレート運動

(4)その他関連する建議の項目:

1.(2)ア.プレート境界域における歪・応力集中機構
1.(2)エ.地震発生サイクル

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 平成16年度から新規および老朽化した観測点にインテリジェント型GPS受信機を設置し安定したデータの取得を開始したいとしているが、設備の更新ができない状態でいる。この地域のプレート相対運動の値は年間1センチメートル以下であり、長期間安定してデータを取得することが必須条件となる。このため、最初の3年間は観測点設置作業および保守作業に重点を置く。また、20年度は本計画の最終年であるので、これまでのすべてのデータについての統一的な解析を行いこの地域の変位ベクトルを決定し、日本列島周辺域のプレート運動モデルの構築作業を行う。そのために、ロシア側研究者の招聘と共同解析を計画している。

(6)平成20年度実施計画の概要:

 今年度は、現有GPS受信機で、現在までに完成しているネットワークの観測を継続する。これまで運用されている、ウラジオストックを中心とした沿海州の観測点の巡回観測、ハバロフスクを中心とした大陸横断測線の臨時観測、サハリンの東西横断測線の繰り返し観測に関しては、最終年度であり、可能な限り多数点での観測に重点を置く。また、カムチャッカ州での連続観測の継続を、可能な限り日ロ共同研究の枠組みの中で進める。利用可能な全てのデータのアーカイブとそれらによるこの地域のプレート運動ならびに大陸内部変形の有無についての共同解析を進める。

(7)平成20年度成果の概要:

 既存の受信機とネットワークでの観測は、ロシア側の努力で継続された。現在、この地域(沿海州・ハバロフスク州・サハリン州)のネットワークは、日ロ間の共同観測の枠組みの中で14点設置できている。これに加えて、ロシア側の観測点が7点ある。また、2点のIGS観測点がある。これら全部の観測点と周辺の9点のIGS観測点を含めて、ITRF2000測地系のもとで、各観測点の速度を計算した。この結果から、対象領域の各観測点のユーラシアプレートを基準にしたときの相対速度を求めた。その結果、単純に、すべての点が想定されているアムールプレートの運動を示すものとはならなかった。これまでに提案されている15のモデルのアムールプレートのポールと速度を使って、今回の結果がどの程度説明できるか、χ二乗検定を行った。2003年までに出された多くのモデルは、今回の結果はうまく説明できない。アムールプレートを仮定しない場合のχ二乗と比べると、アムールプレートを想定した場合と、ほぼ同じ程度になっている。地域的に共通した明瞭な変動も観測されており、プレート内変形の可能性の検討のためにも、今後、観測点の新たな展開が必要であろう。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 なし

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

 本課題の対象地域の震央分布と想定されているプレート境界と、GPS観測点の展開された領域をFig.1に示す。Fig.2に、この領域内のGPS観測点のユーラシアプレート(EUR)に対する年あたりの相対水平速度を示した。この図の中の、灰色丸印の観測点とデータは、Timofeev et al.,(2008)によるものであり、YSSKは、IGSの点である。それ以外は、本課題の中で、日ロ間の共同観測で行われた観測の結果である.全体として、アムールプレートの運動を示す同一の変動を見てとることは、難しいのがわかる。しかしながら、いくつかの特徴的な優位な変動を見て取ることも出来る。この中で、ROSHに見られる大きな東向きの変動は、この観測点が屋上に設置されており、季節変動も大ききことから見掛けのものと判断している.しかしながら、日本海沿岸のSMIK,PLST,TERNは、大きさも方向もそろっており、これは確かな変動である。シホテアリン断層の西側の点では、GOBLでも同様の変動があり、シホテアリン断層に関係するブロック運動という見方も出来る。また、明らかにサハリンの観測点は、西向きの変動を示しており、サハリン島全体の変動の特徴である。
 アムールプレートの決定的な変動を示すことは出来ていないが、この領域の多くの点は、北東向きの変動成分を示しており、Fig.1に見るように、バイカルからこの領域にいたる測線、また、想定されるアムールプレートの南北の境界を横切るような測線での観測が今後必要になる。

Fig.1 プレート境界については、EURとPACは、NUVEL 1A(Demets et al.,1994)、AMUとOKHについては、Wei and Seno(1998), Seno et al.,(1996)による.点線は、不確かな境界.震源は、USGS NEICより.太い破線で囲んだ地域が、解析の行ったGPS観測網にある広がり。

Fig.1 プレート境界については、EURとPACは、NUVEL 1A(Demets et al.,1994)、AMUとOKHについては、Wei and Seno(1998), Seno et al.,(1996)による.点線は、不確かな境界.震源は、USGS NEICより.太い破線で囲んだ地域が、解析の行ったGPS観測網にある広がり。

Fig.2 調査領域内のGPS観測点のユーラシアプレートに対する相対水平速度(年あたり)の分布.YSSK(IGS)を除く赤丸観測点が、本課題で日ロ共同観測の行われた観測点.灰色丸印の観測点は、Timofeev et al.,(2008)による観測点とデータを使用.実線は主要な断層で矢印はその動きの方向.丸数字で示した断層は、1.中央シホテ・アリン断層、2.コラムビンスキー断層、3.プリブレツニィ断層、4.ティム‐ポロナイスキ‐断層を示す。

Fig.2 調査領域内のGPS観測点のユーラシアプレートに対する相対水平速度(年あたり)の分布.YSSK(IGS)を除く赤丸観測点が、本課題で日ロ共同観測の行われた観測点.灰色丸印の観測点は、Timofeev et al.,(2008)による観測点とデータを使用.実線は主要な断層で矢印はその動きの方向.丸数字で示した断層は、1.中央シホテ・アリン断層、2.コラムビンスキー断層、3.プリブレツニィ断層、4.ティム‐ポロナイスキ‐断層を示す。

参考文献
DeMets C., et al., (1994), Effects of recent revisions to the geomagnetic time scale on estimates of current plate motion, Geophys. Res. Lett., 21(20),2191‐2194.
Seno et al.,(1996), Can the Okhotsk plate be discriminated from the North American plate?, J.Geophys.Res.,109, doi:10.1029/96JB002944.
Timofeev V., et al., (2008), GPS measurements (2003‐2006) in the Sikhote Alin network, the Far East, Russian Journal of Pacific Geology, 2(4), 314‐324.
Wei, D. and T.Seno,(1998), Present‐day crustal deformation in China constrained by Global Positioning System measurements, Science, 294,574‐577.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

笠原稔・高橋浩晃・日置幸介

他機関との共同研究の有無:有
ロシア側協力機関
ウラジオストック: Institute of Applied Mathmatics, GeodesyLaboratory
ハバロフスク: Institute of Tectonics and Geophysics
サハリン: Institute of Marine Geology and Geophysics
カムチャッカ: Institute of Volcanology and Seismology

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

部署等名:北海道大学大学院理学研究院地震火山研究観測センター
電話:011‐706‐3591
e‐mail:mkasa@mail.sci.hokudai.ac.jp
URL:http://www.sci.hokudai.ac.jp/grp/isv/isv‐web/

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)