平成18年度年次報告

（1）実施機関名

独立行政法人海洋研究開発機構

（2）研究課題（または観測項目）名

海洋底ダイナミクス研究

（3）最も関連の深い建議の項目

• 1（2）ア．プレート境界域における歪・応力集中機構

（4）その他関連する建議の項目

• 1（3）ア．断層面上の不均質性
• 1（4）ア．摩擦・破壊現象の物理・化学的素過程
• 2（2）ア．日本列島域
• 2（2）ウ．東南海・南海地域
• 2（2）エ．その他特定の地域
• 3（1）海底諸観測技術の開発と高度化

（5）本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成18年度実施計画の位置付け

　地震、津波と関連する海底変動、海底下のマントルや地殻から割れ目を通してもたらされる物質や熱の挙動および循環等を把握するために、観測研究を行う。
　平成18年度は、17年度に引き続いて、東南海・南海トラフ海域や三陸沖、十勝沖、相模湾、台湾など日本周辺を中心とした西太平洋海域で行う。具体的には、（a）断層活動、地殻内流体移動の把握に適した現場環境下で、深海底長期現場観測、掘削孔内観測、試料採取等による研究、（b）熱・歪・物性の測定等の掘削研究、（c）島弧海溝系、における海底地形、重力、地磁気等の地球物理的観測、試料採取・解析等を行う。

（6）平成18年度実施計画の概要

• （a）断層活動や地殻内流体移動の把握のための現場観測等：室戸沖南海トラフに設置された孔内間隙圧モニタリング装置からのデータ回収を継続し、付加体先端部デコルマの間隙圧変動を明らかにする。
• （b）海底ケーブルを用いた地震等の観測研究：豊橋沖・初島沖の海底ケーブルを用いた観測を開始、または継続する。
• （c）島弧海溝系地球物理的観測・試料採取・解析等：2003年十勝沖地震の影響について、さらに潜航調査を行い、解析を進める。また沖縄トラフ熱水域の地質・熱構造調査、日本海島根沖での電気伝導度構造探査、男女海盆での古環境的研究を実施する。

（7）平成18年度成果の概要

• （a）断層活動や地殻内流体移動の把握のための現場観測等　平成18年8月に実施された「かいこう7000-」による潜航調査航海（KR06-10）において、室戸沖南海トラフに設置された孔内間隙圧モニタリング装置（ODP Site1173および808）からのデータ回収を行った。2001年6月に設置して依頼、5年にわたり連続で間隙圧データが得られた。その結果、（1）プレート運動に伴う付加体先端部およびその海側での歪の蓄積・解放に対応すると思われる、長期的圧力変動が観測された。また（2）2003年7月に室戸沖で発生した超低周波地震や、2004年9月に紀伊半島沖で発生した地震に対応する圧力変動を記録していることが判明した。後者については、地震に伴う広域応力場の変動を捉えただけでなく、応力勾配に起因する間隙流体移動の影響も併せて起きているとの解釈を行っている（カナダ地質調査所との共著で論文）。
• （b）海底ケーブルを用いた地震等の観測研究
  　豊橋沖ケーブルを用いた観測開始のため、KDDIよりケーブルの譲渡を受けた。同時に、給電機能付き分岐装置、およびROV用海底ケーブル展張装置の開発等を行った。具体的には以下の成果が得られている：
  • 広い入力電圧電流範囲を持つ電源システム開発
    ケーブル自身を長尺の電気的アンテナとして利用、電気伝導度構造推定を可能にする目処
  • 10nsec（ナノ秒）の精度を持つ時刻同期システム
    海底で世界で初めて、水圧計の周波数基準の長期的校正等が可能になり、長期的信頼性の飛躍的な向上
    音響的な測地システムに十分な精度の時刻信号を供給期待
  • ROVに搭載可能なケーブル展張装置の開発
    自由なケーブルルートでの約10キロメートル程度のケーブル展張
    展張途中での作業中断と再開（ケーブルボビンの海底での着脱）
    展張後のケーブル回収
  • 水中着脱式コネクタによる分岐装置と観測機器の接続
    観測機器の保守・交換等が可能
  • 通信用海底ケーブル再利用によるコストを大幅減
    電源や光コンバータは可能な範囲で市販品を利用
    　また、平成18年4月21日に発生した伊豆東方沖地震（マグニチュード5.4）に伴い、初島沖の海底ケーブルステーションに泥流が到達するのがビデオや流速計等によりリアルタイムで観察された。これを受けて、4月22日〜25日に無人潜水船「ハイパードルフィン」による緊急調査を実施、観測機器が転倒・移動していることを確認した。速報としてプレスに発表した。
• （c）島弧海溝系における地球物理的観測・試料採取・解析等釧路・十勝沖のプレート収束域における海底変動現象の研究
  　海底での大規模な地殻変動動に起因して、地殻変動量に相当する静水圧で表される津波、速度に対応する水中音響波が生じることが解析的に知られているが、2003年十勝沖地震時に釧路・十勝沖海底地震総合観測システムで観測された津波計データに、両者が記録されていることを計算により示した。これを受けて、平成18年6月4日から18日にかけて、無人潜水船「ハイパードルフィン」により、津波計が地震時に海底地滑りの影響等を受けて移動していないかどうかの調査を実施した。
  • 中部沖縄トラフ伊平屋北熱水域の地質・熱構造調査
    　平成18年7月17日〜28日に実施された「しんかい6500」による調査では、熱水域の外側での熱流量測定を実施した。その結果、おそらく2キロメートル（あるいはそれ以上）の空間スケールでの大規模な熱水循環が存在することが示唆された。表層堆積物の透水率が低いことが、このような規模の大きく、おそらく長寿命の熱水系を構築していると考えられる。
  • 日本海島根沖での電気伝導度構造探査
    　電極アーム折りたたみ機構（特許出願2005-350021）を有する小型化されたOBEMを用いて、日本海島根沖での電気伝導度構造探査を実施した。下部地殻が全体的に抵抗が低く、一部に非常に比抵抗の低いエリアがある。この様な低比抵抗体の海域側への延長と、さらに深部の構造（フィリピン海プレート）との関係を、陸域データに海域データを加えることで解明することが目的で、必要なデータが取得できた。

（8）平成18年度の成果に関連の深いもので、平成18年度に公表された主な成果物（論文・報告書等）

• 木下正高・笠谷貴史・後藤忠徳・浅川賢一・岩瀬良一・満澤巨彦、伊豆東方沖地震に誘発された相模湾初島沖の海底地すべり、日本地すべり学会誌、43、41-43、2006．
• Kinoshita, M., Y. Kawada, A. Tanaka, T. Urabe, Recharge/discharge interface in the Suiyo Seamount hydrothermal system detected by submersible-operated heat flow measurements, Earth and Planetary Science Letters, 245, 498-508, 2006.
• Davis, E. E., K. Becker, K. Wang, K. Obara, Y. Ito and M. Kinoshita, A discrete episode of seismic and aseismic deformation of the Nankai trough subduction zone accretionary prism and incoming Philippine Sea plate, Earth Planet. Sci. Lett., 242, 73-84, 2006.
• 三ケ田均・家長将典・後藤忠徳・笠谷貴史,南海トラフにおける間隙水挙動に関する研究の現状と間隙水圧力観測の意義，地学雑誌、115、367-382，2006．

（9）実施機関の参加者氏名または部署等名

地球内部変動研究センター

（10）問い合わせ先

• 部署等名：経営企画室企画課
• 電話：046-867-9212
• URL：http://www.jamstec.go.jp
  （※独立行政法人海洋研究開発機構ホームページへリンク）