課題番号:1505

平成18年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学大学院理学系研究科(地殻化学実験施設)

(2)研究課題(または観測項目)名

(3)最も関連の深い建議の項目

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成18年度実施計画の位置付け

 平成16年度からの5ヶ年の到達目標は、新たな観測開発の柱として、マントルヘリウムフラックスの時空変化の観測ができる装置の完成を行ない、テストフィールドに設置して観測結果を得ることである。本装置の完成にはかなりの設備費を要するので、それらを要求しつつ、試作装置ができた時に設置する場所の選定のための調査研究を行なうが、平成18年度にも設備費は認められていないので、平成18年度も観測場所の選定にかかわる研究を行なう。そのためにはマントルヘリウムが定常的にしみ出していて、地殻活動が活発な地点を選定する事が重要な課題である。そのテストフィールドでマントルヘリウムの放出をコントロールする要因を解明する。地下深部の状態変化をモニターするためには地下深部からしみ出してくる揮発性物質を使うことが重要で、その中でもマントルヘリウムは有望である。

(6)平成18年度実施計画の概要

 平成16年度から引き続き行っている、火山活動の影響が現れない活断層を対象として、四国地方の中央構造線から放出されるマントルヘリウムの調査を継続し,さらにトルコ・アナトリア断層でも調査を行う。

(7)平成18年度成果の概要

 中央構造線から放出するマントルヘリウムの調査結果をまとめて論文として出版した。
 四国全域の30点以上で温泉遊離ガスや温泉水を採取し、希ガスの同位体分析を行い、さらに過去にデータもあわせて、四国全域のヘリウム同位体分布図を作成した。得られた3He(ヘリウム3)/4He(ヘリウム4)比を中央構造線からの距離の関数としてまとめたのが図1である。3He(ヘリウム3)/4He(ヘリウム4)比は上部マントルで8RA(1RAは大気ヘリウムの3He(ヘリウム3)/4He(ヘリウム4)比で1.4かける10のマイナス6乗)で、大陸地殻物質では0.02RA以下であるので、四国からは中央構造線に沿ってマントルヘリウムの放出が見られる。活断層からのマントルヘリウムの放出の例は、サンアンドレアス断層に次いで世界で2例目である。さらに、マントル起源の3He(ヘリウム3)は,中央構造線よりもっと海溝側の前弧域でも放出していることは示された。その放出域は、沈み込むプレートからの流体の移動を示していると言われている深部低周波微動が見られる地域と符合している(図2)。このような地域では、上部マントルから下部地殻にかけて流体が通りやすい構造を持っており、マントルヘリウムの上昇経路になっていることが考えられる。

図1 3He(ヘリウム3)/4He(ヘリウム4)比と中央構造線からの距離の関係

図2 マントルヘリウムが出ている領域と非火山性深部低周波微動の見られる地域との関係

 マントルヘリウムの活断層からの放出は、17年度に行なったトルコ・アナトリア断層の西端域(マルマラ海を挟む地域)の調査で採取したガス試料や温泉冷泉水の分析からも明らかになった。この地域は大陸地殻起源の低い3He(ヘリウム3)/4He(ヘリウム4)比が混入しているガス試料や水試料が多くを占めていたが,数少ないマントル起源の高い3He(ヘリウム3)/4He(ヘリウム4)比はアナトリア断層上で見られ,活断層に沿ってマントル起源のヘリウムが放出することはこの第3例目で普遍的な現象と考えられるに至った。なお、マルマラ海西側で最高値が得られたことは、断層面でCO2(二酸化炭素)拡散放出が顕著であることと考え合わせると,この領域は揮発性物質が通りやすい性質を持つことを示した。

(8)平成18年度の成果に関連の深いもので、平成18年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

(9)実施機関の参加者氏名または部署等名

長尾敬介、野津憲治、角野浩史、トルファン・ドファン

他機関との共同研究の有無

ボアジシ大学(トルコ)カンディリ地震研究所 Mustafa K. Tuncer ほか3名

(10)問い合わせ先