課題番号:1504
東京大学大学院理学系研究科(地殻化学実験施設)
地殻変動に伴う化学物質の伝搬機構の3次元モニタリング法による解析
5ヶ年の到達目標は、地殻変動に伴って地下水中の化学物質がどのように移動して地表で観測されるかを明らかにするため、テストフィールドとして東海地域の特定の一点を選び、地下水の3次元アレー観測を行なうことであった。相互の距離が等しく、同じ帯水層をきる観測井をできるだけ多く掘削し、各井戸の深さの異なるストレーナからそれぞれ独立にガスだけ抽出して四重極質量分析計で分析する。また中心部の井戸の最深部にトレーサを注入して各ストレーナ位置で増加を調べる能動実験も行ない、化学成分の地下水を媒介とする伝播機構を明らかにする。16年度、17年度では複数の井戸を掘削する場所の選定を行い、18年度から実際の掘削を考えていたが、現状では掘削実現の見通しがない。そのため、17年度からは現在整備しつつある非揚水型の多成分ガス分析システムを利用して、化学物質の伝搬機構が明らかにできる測定を始め,18年度もその方針を維持する。
東京大学大学院理学系研究科の所有している地下水観測網では、御前崎と鎌倉において深さの異なる2本の井戸を所有しており、鹿島では近い距離内に同一帯水層と考えられる2本の井戸が使える。御前崎と鎌倉では深さの異なる井戸に等価の観測装置を取り付けたので,溶存ガス濃度の長期安定した連続測定を確立し、それらのデータから,溶存成分の垂直移動に関する情報が得られるかの検討を行う。
3次元アレー観測を行うための予備テストとして、御前崎観測点の深さの異なる(100メートルと500メートル)の観測井において、帯水層間でのガス成分の上下移動が検出できるかを確かめる観測に取りかかった。これまで、溶存メタンの発泡が原因で安定したデータが得られなかったが、ようやく安定したデータが得られるようになった(本報告の1503も参照)。その結果,大気圧の変動に関係するメタン濃度の変化が検出されるに至った。メタンの濃度変化は近傍の微小地震活動とは全く関係しておらず、地殻変動を検知するためのアレー観測を行なう際のよい指標となりうるかは,今後の連続測定の結果を待たねばならないだろう。
なお、本研究課題は、5カ年計画の間で井戸掘削が不可能なこともあり、中間評価の意見に従って、平成19年以降,研究手法の点で関係が深い1503と統合されることとなった。
野津憲治、角森史昭
なし