課題番号:1501

平成18年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学大学院理学系研究科(地殻化学実験施設)

(2)研究課題(または観測項目)名

岩石破壊に伴うクラック発生とガス放出の解明

(3)最も関連の深い建議の項目

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成18年度実施計画の位置付け

 地下水に見られる地震直前の化学種濃度変化を実験的に検証するために、岩石の変形に伴う微小な亀裂形成によるガス放出の機構を実験的に明らかにすることが、本計画の目標である。本5カ年計画で具体的には、制御された加圧装置を用いて亀裂の成長を可視化する装置の作成(1年次)、アコースティックエミッションから亀裂の位置と大きさの特定(2年次)、真空下での亀裂生成の可視化(3年次)、微小量放出ガスの連続分析法の開発(4年次)、を行なった上で、これらを総合して岩石破壊のタイミングと放出ガス組成やその放出量との関係を明らかにする(5年次)。破壊に伴うガス放出の実験はこれまでも行なわれているが、定性的な域を出ず、岩石破壊のどの段階でどの様なガスがどのくらい出るといった具体性に欠けていた。この種の実験を岩石種、含水量、温度、加圧速度などパラメータを変えて行ない、観測で得られている結果との対応から、地下深部で進んでいる化学プロセスを明らかにする。さらに、実験研究と並行して、活断層から放出されている地殻流体の起源を明らかにし、活断層の活動度と地殻流体の挙動との関連性や、地震発生にかかわる地殻流体の役割を明らかにする研究も行なう。

(6)平成18年度実施計画の概要

 18年度は、岩石破壊に伴って放出されるガスの空間的な起源をさらに詳細に調べることと、アコースティックエミッションによる亀裂形成のリアルタイム可視化を目指す。具体的には、鉱物分離を行って各鉱物ごとに保持されているガスの組成を調べ、破壊寸前に取り出した岩石試料の薄片観察や亀裂の空間分布の計測からどの鉱物と亀裂が交差するかを検討し、放出ガスの組成や発生パターンの理解を進める。

(7)平成18年度成果の概要

 18年度は、アコースティックエミッションによる亀裂形成のリアルタイム可視化を目指すことも目標の一つとしていたが、岩石破壊に伴って放出されるガスの空間的な起源を詳細に調べ、どのような条件でガス放出が起きるのかについて検討を行った。
 使用した試料は茨城県産の稲田花崗岩で、モード解析の結果、石英30.6パーセント、長石62.6パーセント、黒雲母4.1パーセントであった。これを直径50ミリメートル、長さ100ミリメートルの円筒状に整形した。長軸方向の圧縮を可能にする専用の真空容器に試料を入れ、11kN/m2s(キロニュートン毎平方メートル秒)と22kN/m2s(キロニュートン毎平方メートル秒)の二つの圧縮速度で圧縮を行い、真空容器内に放出されてくるガスの量と組成を四重極質量分析計で計測した。7秒ごとの組成変化の記録から、22kN/m2s(キロニュートン毎平方メートル秒)の圧縮速度のときは、破壊点においてのみ多くのガス放出が認められたが、11kN/m2s(キロニュートン毎平方メートル秒)のときは、破壊圧力の6割程度に達したころからメタンの緩やかな上昇が観測された。

図1.岩石圧縮に伴うメタン濃度の増加の様子。横軸は破壊時刻が100となるように規格化した時間。赤線が11kN/m2s(キロニュートン毎平方メートル秒)、黒線が22kN/m2s(キロニュートン毎平方メートル秒)のときを示す。

 破壊時を含め、放出される全ガス量は圧縮速度に依存しなかったことから、圧縮速度の違いがメタンの放出挙動に影響を与えたと考えられる。
 そこで、メタンが岩石中のどこにあるかを調べた。
 先ほどと同じ産地の花崗岩を、ジョークラッシャーや乳鉢などで調粒し、磁化率や比重によって精選することで、石英、長石、黒雲母に分離した。各鉱物の大きさは0.5ミリメートル〜1ミリメートル程度になるようにした。それそれの鉱物をSEM-EDXによって同定を行い、99パーセント以上の純度で分離できていることを確認した。
 分離精製された鉱物を元の花崗岩の組成と同じになるように混合した混合試料を0.9グラム、単一鉱物それぞれを0.9グラム、そして鉱物分離していない0.9グラムの花崗岩小片、の計5種類の試料を準備した。それぞれを岩石粉砕用真空容器の中で、1,000回の衝撃破壊を行って粉砕し、放出される全ガス量と組成を測定した。その結果、花崗岩小片からは0.17プラスマイナス0.06cm3STP/g(立方センチメートルSTP毎グラム)、混合試料からは0.14プラスマイナス0.05cm3STP/g(立方センチメートルSTP毎グラム)のメタンが放出され、放出ガス量に違いは見られなかった。単一鉱物の場合は、石英が0.23プラスマイナス0.06cm3STP/g(立方センチメートルSTP毎グラム)、長石が0.08プラスマイナス0.05cm3STP/g(立方センチメートルSTP毎グラム)、黒雲母が0.36プラスマイナス0.11cm3STP/g(立方センチメートルSTP毎グラム)で、鉱物ごとに見ると長石、石英、黒雲母の順で含まれるメタン量が多いことが分かる。これをモード解析の結果で数値上の混合を行うと、これも0.14プラスマイナス0.05cm3STP/g(立方センチメートルSTP毎グラム)となって、数値上は混合試料のものと全く一致した。
 もしメタンが鉱物と鉱物の間に相当量が含まれているとしたら、以上の結果はかなりの不一致を示したはずであるが、誤差内で一致した。これは、メタンはほとんど鉱物内にあり、鉱物が破砕されることによってのみ外に放出されることを示している。
 ここでもう一度図1を見直すと、圧縮速度の違いがメタン放出量の差異を引き起こしている。岩石の破砕実験から、鉱物が破砕されて始めてメタンが放出されることが示されたので、圧縮速度の違いによって鉱物の破砕の仕方、言いかえると、微小亀裂の生成のプロセスが異なったことを示唆するものである。
 岩石の圧縮条件を変えると、測定される物理的な変化に顕著な差異が見られることは常識である。この差異を化学物質の濃度を指標に、ある条件下ではあるが、非接触で測定が可能であることを示す結果である。

(8)平成18年度の成果に関連の深いもので、平成18年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

(9)実施機関の参加者氏名または部署等名:角森史昭、野津憲治、小泉早苗

他機関との共同研究の有無

なし

(10)問い合わせ先