課題番号:1413

平成18年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

日本列島域の地殻活動モニタリングシステムの高度化

(3)最も関連の深い建議の項目

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成18年度実施計画の位置付け

  1. GPSデータによる日本列島の歪・応力蓄積の空間分布とその時間変化のモニタリング手法の開発
    • 5ヵ年の到達目標
       国土地理院GEONETデータを全データ取得し、GPS大学連合が取得するデータを併合して独自の精密測位解析を実施して稠密な地殻変動時系列データを得ると共に、歪の時空間変化を準リアルタイムモニタするシステムを開発する。また、応力逆解析手法を用いて日本列島の応力の空間分布とその時間変化をひずみと同様にリアルタイムモニタする手法を開発する。さらに、測地データインバージョンを同システムに組み込み、プレート間固着やスローイベントの時空間変化を準リアルタイムに監視する地殻変動即時監視システムをテスト的に開発する。
    • 平成18年度の計画の位置づけ
       前年度に引き続き、GEONETデータ解析の基本ツールによる解析を進める。GEONETの過去のデータに基づいて、日本列島の歪・応力の空間分布についての基本的な作図を行う。
  2. 地震データによる日本列島域の地殻活動モニタリング手法の開発
    • 5ヵ年の到達目標
       基盤的調査観測網や気象庁、大学等の地震波形データを用いた震源位置・メカニズム解などの自動処理解析システムの高度化の研究開発を進める。得られた波形情報と震源情報を用いて、プレート境界等で発生している繰り返し地震等の中規模地震を用いた地殻活動モニタリングシステムの研究開発を進める。広帯域地震計等を用いた長周期波動の自動検出システムの研究開発を進める。
    • 平成18年度の計画の位置づけ
       長周期波動の自動検出システム、プレート境界をターゲットとした応力蓄積解放モデルなどの研究を進展させる。また、全国的な共同研究を推進するために、研究基盤となるデータ利用システムの大学等への普及を進めるとともに、最新のブロードバンド回線を利用した観測流通システムの研究を進める。
  3. 共同研究の推進
     全国の大学、気象庁、防災科研、国土地理院などによる研究集会を随時開催し、取組むべき課題や手法について議論し共通の認識を深める

(6)平成18年度実施計画の概要

  1. GPSデータによる日本列島の歪・応力蓄積の空間分布とその時間変化のモニタリング手法の開発
     GEONETデータ解析基本ツールによる解析を進める.日本列島の歪・応力の空間分布についての基本的な作図を行う。解析結果にジャンプの補正などを施し、日本列島歪場の変化を追えるようなツールを開発する。また、我々の結果を地理院の成果と比較し、GPS大学連合のデータを取り込んだ統合解析を実施するなどして、より高度な日本列島の地殻変動のモニタリングシステムを構築していく。また,高度化したインバージョン手法を他の地震等に適用する.
  2. 地震データによる日本列島域の地殻活動モニタリング手法の開発
     広帯域地震計データを用いた長周期波動の自動検出システムでは、対象とする領域をさらに拡大して実証実験を進める。日本列島規模のメカニズム決定を可能とするため、緊急地震速報等をトリガーとしたシステムの開発を進める。プレート境界をターゲットとしたモニタリング手法の開発では、地震のデータを用いた応力蓄積解放モデルの構築を進める。全国的な共同研究を推進するための基盤となる観測データ流通システムについては、最新技術を利用した高度化の研究を進める。
  3. 共同研究の推進
     全国的な観測流通システムの高度化の研究については、全国の大学、気象庁、防災科研などとの共同研究を進める。また、シュミレーション、モニタリング、データベースの3つの部会の合同で、相互の関連研究の推進のために研究集会を開催する

(7)平成18年度成果の概要

  1. GPSデータによる日本列島の歪・応力蓄積の空間分布とその時間変化のモニタリング手法の開発
     平成18年度にはGPSの全国データを取り込みつつ,解析を継続した.ただ,地震研究所の新館落成に伴う引越し等で作業が遅れ,解析ツールの開発などは進まなかった.データのインバージョン解析については手法がほぼ完成し,そのマニュアルを作成した.
  2. 地震データによる日本列島域の地殻活動モニタリング手法の開発
     広帯域地震計データを用いた長周期波動場の自動検出と震源メカニズム自動解析システムの研究では、衛星通信によってリアルタイム配信される広帯域地震波形データを用いたGRiD MTのモニタリング対象領域をほぼ東日本太平洋岸地域に拡大して実証実験を行っている。GRiD MTは、モニタリング対象領域を10キロメートル間隔のメッシュに分割し、分割されたメッシュを仮想震源としてその点でのMT解を常時(1秒ごとに)決定し、得られたMT解から理論波形と観測波形のVariance Reduction(VR)をモニタリングすることによって、地震の発生・位置・メカニズム(モーメントテンソル)解を完全自動で決定するシステムである。地震活動の高い群発地震活動や余震活動の地震のメカニズム決定に威力を発揮する。
     図1は、2006年に決定されたメカニズムである。茨城沖・千葉沖は地震活動度が高いので、数多くの地震のメカニズムが決定されている。GRiD MTにより決定されたメカニズムはマニュアルで決定される防災科技研のF-net解と高い一致を示す。また、2006年4月21日に発生した伊豆半島東方沖の地震(Mj(気象庁マグニチュード)イコール5.4)は、モニタリング対象領域で発生し、地震発生後3分程で図2の解析結果が、Webおよびメールによって情報発信がなされた。

    図1.GRiD MTのモニタリング領域と2006年の解析結果

    図2.GRiD MTによる伊豆半島東方沖の地震(Mj(気象庁マグニチュード)5.4)の解析結果

  3. 共同研究の推進
     全国的な観測流通システムの高度化の研究については、全国の大学、気象庁、防災科研などと共同研究を進めている。今年度は、各大学の地震データ利用システムの更新時期を迎え、各大学の地震データ利用システムHARVESTのハードウェア、ソフトウェアが更新された(図3)。

    図3。全国地震データ利用システムHARVESTの更新

     また今年度は各大学が協力して、これまで衛星回線で実現されていた全国の大学等へのデータ配信機能に代わる、JGN2やフレッツグループなどの地上の高速広域ネットワークを用いた地震データ収集・交換ネットワークを構築し、地上回線による全国地震データ流通ネットワークJDXnet(Japan Data Exchange Network、図4)を運用開始した。さらに、国立情報学研究所が来年度から運用開始するSINET3を有効活用して、JDXnetのデータ交換機能の信頼性向上や、全国の大学等の研究機関で、地震データのリアルタイム利用を可能にするシステム開発を進めた。

    図4.全国地震データ流通ネットワークJDXnetの構築

     更に、各大学の地震観測点のチャネル情報を、各大学が協力して分散管理し、ネットワークを通じて自動的に情報交換する、全国的な分散データベースシステムCIMS(Channel Information Management System)を開発した(図5)。本システムは、各大学の独自の観測を維持しつつ、各大学との相互協調を促進し、合同観測などでの「協力体制」を容易にするもので、各大学のチャネル情報はネットワーク上で分散管理され共同利用される。今後、各大学で試験利用した後に本格的に運用開始する予定である。またその後、大学以外の機関にも普及を進めて、各地震観測機関で全国の地震観測点のチャネル情報を分散管理するシステムへと育てていく予定である。
    図5.チャネル情報管理システムCIMSの開発

(8)平成18年度の成果に関連の深いもので、平成18年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

(9)実施機関の参加者氏名または部署等名

加藤照之、鷹野澄、卜部卓、鶴岡弘、中川茂樹、山岡耕春、平田直

他機関との共同研究の有無

GPS大学連合、地震研特定共同研究「全国地震観測データ等を用いた地殻活動モニタリング手法の高度化」研究組織(北大、弘前大、東北大、名古屋大、京大、高知大、九大、鹿児島大の地震観測研究者、気象庁、防災科研の研究者、衛星受信装置を設置しているその他大学等の研究者など約40名)

(10)問い合わせ先