2.(2)「地殻活動モニタリングシステムの高度化」研究計画

 日本列島全域の地殻活動モニタリングは、政府の地震調査研究推進本部が策定した基盤的調査観測としての地震及びGPS連続観測網により行われ、今日では、その観測データ及び解析結果は広く公開されている。モニタリングシステムによって得られるデータは、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築やシミュレーション結果の検証において必須なものである。また、過去のデータとともに日本列島地殻活動情報データベースとして整備されることにより、大地震発生時の即時対応等にも活用できる。列島規模の広域のモニタリングシステムだけでなく、想定東海地震震源域や想定東南海・南海地震震源域等、大地震の発生が予想される特定の地域における地殻活動モニタリングの高度化も重要である。
 本研究計画では、関連研究者の連携の下、モニタリングシステム高度化のために、新たなモニタリング手法の研究開発、既存のモニタリング手法の改善、既存の観測網やデータ流通網等の整備や改善、地殻活動モニタリングに有用なその他諸観測の整備等を実施している。また、特定地域においては更に高密度かつ多項目の観測を実施している。

ア.日本列島域

(地殻変動データによる地殻活動モニタリングシステムの高度化)

 基盤的調査観測として、GEONETによる日本列島の広域地殻活動モニタリングを実施しており、そのデータは広く公開されて多くの研究者に活用されているとともに、解析結果は、地震調査研究推進本部地震調査委員会や地震予知連絡会等の重要な検討資料となっている。例えば、2007年(平成19年)3月25日に発生した能登半島地震(マグニチュード6.9)の際には、地震発生の7時間後に地殻変動量を公表した(国土地理院[課題番号:6004])。これに加えて、VLBI測量、高精度三次元測量(水準測量)、高度地域基準点測量(GPS測量)等を実施しGEONETによる観測データを補足する詳細な地殻変動情報を提供している(国土地理院[課題番号:6001、6008、6009])。2006年(平成18年)4月21日の伊豆半島東方沖の地震(マグニチュード5.8)活動により、真鶴GPS観測局が北東に変動したことを観測した。(海上保安庁[課題番号:8005])。
 GEONETの1秒毎のデータがリアルタイムで取得可能になったことから、短時間で地殻変動を検出できるリアルタイム地殻変動監視システムが開発され、電子基準点の変動がリアルタイムで追跡可能になり、変動図やモデル図が迅速に他のデータと重畳して利用可能になった。伊豆半島周辺域を対象にリアルタイムGPS解析を行ない、2006年4月21日に発生した伊豆半島東方沖の地震において地殻変動検出を行うことができた(図44)。この事例は、GPSデータを用いてリアルタイムに地殻変動を検出した我が国では初めての例であり、世界的にも珍しいと思われる。リアルタイム解析による地震に伴う地殻変動観測結果は、GEONETの通常解析の結果と調和的であり、この解析手法が地震の断層メカニズムの推定に十分使えることが分かった(国土地理院[課題番号:6026])。

(地震観測データによる地殻活動モニタリングシステムの高度化)

 Hi-net等から得られるデータを用いて、低周波微動活動、短期的ゆっくり滑り等の地殻活動の発生、推移をリアルタイムで把握する地殻活動モニタリングシステムのハードウェア及びネットワーク環境の整備を行った。波形解析に基づく超低周波地震解析システムを開発し、従来から指摘されていた南海トラフ沿いの地域だけではなく十勝沖でも超低周波地震が発生していることを検出した(図45)(浅野・他,2007)。また、低周波微動が発生している四国のフィリピン海プレート上面付近で超低周波地震も発生していることを発見した(図1)(Ito et al., 2007)(防災科学技術研究所[課題番号:3007])。
 リアルタイム配信されるF-netのデータを用いて、長周期波動場の自動検出と震源メカニズム自動解析システムを開発して太平洋プレート沿いの東日本太平洋岸地域のモニタリングを実施している。このシステムで決定された発震機構解は防災科学技術研究所による解とよく一致する。また、2006年4月21日に発生した伊豆半島東方沖の地震では、地震発生後3分程で解析結果がWeb及びメールによって情報発信されるなどリアルタイム解析にも優れている(東京大学地震研究所[課題番号:1413])。
 地震活動度の変化と応力変化を関連付ける手法を2003年(平成15年)宮城県沖の地震(マグニチュード7.1)により宮城・岩手県の内陸地方で誘発された地震活動に適用し、応力増加率などの推定を試みた。また、日本の内陸及び海域において、地震発生域別にb値の空間分布を求め、大地震の発生との関連性を調べた。(図46)(気象庁[課題番号:7004])。
 御前崎沖海底地震計の観測点補正値の導入による震源決定精度の改善の評価を行った。観測点補正値を使用した震源計算結果と気象庁一元化震源カタログとの比較を図47に示す。沿岸から離れた南海トラフ付近の地震の深さが浅くなる傾向があり、補正値による効果が認められた(気象庁[課題番号:7005])。また、定常的な一元化初動発震機構処理業務への自動処理の導入による決定能力の向上、F-netの波形データの導入によるCMT解の決定時間の短縮・精度向上を進めた(気象庁[課題番号:7006])。

(地殻活動モニタリング高度化に資する諸観測の実施)

 日本列島域における地磁気基準点(柿岡、女満別、鹿屋、父島)の観測を実施するとともに、地磁気基準点である柿岡の全磁力観測装置において、測定最小分解能を0.1nT(ナノステラ)から0.01nT(ナノステラ)に改良更新するなどの地磁気全磁力基準値の精度向上を図った(気象庁[課題番号:7003])。また、全国11点の地磁気連続観測、10点の地磁気連続観測点及び3点の一等磁気点で絶対観測等を実施した(国土地理院[課題番号:6003])。伊豆諸島(八丈島)における地磁気全磁力、地磁気三成分の連続観測を実施した(海上保安庁[課題番号:8006])。
 地殻変動の監視のため、全国25験潮場で潮位連続観測(30秒間隔)を実施するとともに、得られた30秒潮位、毎時潮位、日平均潮位、月平均潮位等のデータをホームページで公開している(国土地理院[課題番号:6007])。全国28ヵ所で潮位観測を継続して実施し、験潮による潮汐から平均水面を求め、この変動から地殻変動をリアルタイムで集中監視している。図48は、神津島観測所において観測された、平成19年1月13日の千島列島東方の地震による津波の記録である(海上保安庁[課題番号:8004])。全国69ヶ所で潮位観測を継続し、観測結果をCD-ROMで提供するとともに、新たに2か所(愛知県外海地方、大東島地方)に観測施設を新設した。また、各機関が所有する潮位データを一元化して共有するシステムを整備した(気象庁[課題番号:7017])。

(観測データ流通ネットワークの高度化)

 衛星回線でこれまで実現されていた全国の大学等へのデータ配信機能が、JGN2やフレッツグループなどの地上の高速広域ネットワークに移行され、新しい全国地震データ流通ネットワークJDXnetが構築された(図49)。衛星回線は観測点からのデータ収集専用に縮小され、その効率的な利用のために新しい高性能低消費電力VSATの開発が進められた。また、各大学の地震データ利用システムHARVESTの更新、地震観測点のチャネル情報の分散管理システムCIMSの開発などが実施された。これらは、各大学の独自の観測を維持しつつ、各大学との相互協調を促進し、合同観測などでの協力体制を容易にするものである(東京大学地震研究所[課題番号:1413])。

イ.東海地域

 大地震の発生が予測されている東海地域においては、列島規模のモニタリングに加えて、より高度化された地殻活動モニタリングのための研究開発が実施されている。
 短期的ゆっくり滑りの早期発見及び把握のために、地域ごとのグループ化による同時異常監視の最適化の検討をした(気象庁[課題番号:7007])。東海地震に到るまでのシミュレーション精度向上、海底地震観測の実施、精密制御震源(アクロス)によるモニタリング手法の開発、地殻の上下変動の潮位やGPSによる精度向上、レーザー式変位計の技術開発などを実施した(気象庁[課題番号:7008])。
 GPSを用いた高密度地殻変動観測では、GEONET観測網と相補的になるようにGPS大学連合独自による稠密アレイ観測を実施し、得られた結果を用いて歪解析を実施し、東海地方の詳細な面積歪変化を求めた(図50)(東京大学地震研究所[課題番号:1414])。駿河湾内で海底地殻変動観測が実施され、年間約30ミリメートルの変位が観測された(図51)。銭洲岩礁及び神津島でのGPS観測で、銭洲岩礁の変位速度が、西向きに43ミリメートル毎年、北向きに19.7ミリメートル毎年と求められた(名古屋大学[課題番号:1705])。
 観測強化地域の高精度三次元測量(水準測量)を森−掛川−浜岡−御前崎検潮所間の路線で計画通り4回実施した。また、御前崎においては800メートル深井戸の歪計・傾斜計・長距離水管傾斜計等の連続観測の実施、切山観測点では長距離水管傾斜計、館山では水晶管伸縮計・水管傾斜計の連続観測を実施した。御前崎を含め全国4ヵ所で絶対重力観測を実施した(国土地理院[課題番号:6011、6012、6013])。
 地下水観測を、測地(GPSを含む)・歪・伸縮・傾斜の観測結果と相補的・有機的に結びつけ、適切な理論モデルも用いることにより、地殻活動モニタリングの高度化が図られた。東南海・南海地震予測のため紀伊半島南部に高度化した地下水等総合観測施設を2点新設し、東海の既存地下水観測施設3箇所を高度化し、東海の観測網と東南海・南海地震の観測網を統合化して、1秒毎の水位や地殻変動データを収集しリアルタイムで送信し、ダイナミックな地下水変化を地殻変動・地震と直接比較してすばやく解析できるシステムを構築した(産業技術総合研究所[課題番号:5009])。GPS連続観測点データから東海地域の長期的ゆっくり滑りについて詳細に検討した結果、当初の浜名湖周辺での滑りが沈静化し、その周囲で滑りが生じていると推定された(国土地理院[課題番号:6025])。

ウ.東南海・南海地域

 南海トラフ沿いで発生する超低周波地震については、新たに開発した超低周波地震解析システムにより深部低周波微動域でも超低周波地震が発見され(Ito et al., 2007)、プレート境界域の地殻活動のモニタリング指標として利用されている(防災科学技術研究所[課題番号:3007])。
 南海トラフ軸寄りの地震活動をより詳細に把握するために、室戸沖から潮岬沖にかけての海域において、よりトラフ軸寄りまで観測網を拡げて、長期地震観測を継続した(東京大学地震研究所[課題番号:1415])。
 東南海・南海地震域における地殻変動特性を研究するために2点のGPS観測点を増設した。さらに干渉SAR解析を実施し、地殻変動の面的分布を調査した(国土地理院[課題番号:6025])。また、高精度三次元測量(水準測量)を牡鹿地区、松江地区、延岡・日南地区、東南海・南海地震を想定した室戸地方及び松本地方で実施した(国土地理院[課題番号:6014])。

エ.その他特定の地域

 大地震の発生が予測されているその他の特定の地域においても、列島規模のモニタリングに加えて、より高度化された地殻活動モニタリングのための研究開発が実施された。

(宮城県沖)

 宮城県沖においては、長期繰り返し海底地震観測を平成14年度以来行っている(東北大学[課題番号:1206]、東京大学地震研究所[課題番号:1416]、気象庁[課題番号:7010])。2005年(平成17年)8月16日に宮城県沖で発生したマグニチュード7.2の地震はこうした海底地震観測網の直下で発生した。また、この海域では海底地殻変動の観測が行われており、今回の地震に伴って海底基準局が東方へ約10センチメートル動いたことが明らかとなった(海上保安庁[課題番号:8003]、Matsumoto et al., 2006)。この地震に関して東北大学では、GEONET並びに東北大の観測網双方のGPS連続観測データから得られた変位時系列を用いてYagi and Kikuchi(2003)の方法による逆解析を行い、プレート間滑りの時空間発展を推定した。平成17年度は、本震後67日間と最大余震後25日間の平均的な余効滑りを時間に依存しない逆解析法により推定したが、平成18年度は時間依存逆解析法によって推定した。2005年12月2日の最大余震(マグニチュード6.6)による地震時の変動の影響を避けるため、本震〜最大余震・最大余震〜2006年7月の二つの期間に分けて解析を行い、図52a)及びb)の結果を得た。最大余震前後の非地震性滑りによって解放された地震モーメントは、それぞれ、Mo(モーメント)イコール3.68かける10の19乗Nm(ニュートンメートル)(Mw(モーメントマグニチュード)6.98相当)とMo(モーメント)イコール3.19かける10の19乗Nm(ニュートンメートル)(Mw(モーメントマグニチュード)6.93相当)になった。両期間をあわせると、6.88かける10の19乗Nm(ニュートンメートル)(Mw(モーメントマグニチュード)7.16相当)となり、本震とほぼ同程度の歪みが非地震性滑りで解放されたことが分かった。(東北大学[課題番号:1206])。
 長期観測型海底地震計による繰り返し観測が「重点的調査観測」として引き続いて実施され、想定震源域及び周辺の詳細な地震活動が把握された。この海底地震観測は、想定震源域の南側領域で発生した2005年宮城県沖の地震の本震及びその前後の地震活動の観測に成功した。本震直後には海底地震計による緊急余震観測が科学研究費により実施されている(Hino et al., 2006)。また、平成16年度「パイロット的な重点的調査観測」で実施した大規模人工地震構造調査の解析が引き続きすすめられ、詳細な深部海底下構造が明らかになった。この結果、沈み込む太平洋プレートは、海溝軸から陸寄り約140キロメートルの地点で急に深く沈み込むことが分かった。また、海溝軸に平行な方向でのプレート境界の形状変化も求められた(Watanabe et al., 2006)。これまでに求められた大地震のアスペリティは、太平洋プレートの折れ曲がり領域を境界としているように見える。さらに、海溝軸に平行な方向のプレート境界の形状変化もアスペリティ境界との関係が示唆され、アスペリティの分布は沈み込む海洋プレートの形状と大いに関係があると考えられる。また、本課題で求められた震源は、プレート境界付近に数多く分布する(東京大学地震研究所[課題番号:1416])。
 平成18年4月から10月にかけて想定宮城県沖地震の震源域周辺に自己浮上式海底地震計(以下、OBS)が展開された。気象庁・仙台管区気象台のOBSのデータと、同期に観測を行った大学のOBSのデータをあわせて地震波形が検測され、平成18年度に開発された観測点補正を使った震源計算が実施された。OBS観測が行われていない期間の震源の位置を、OBS観測が行われている時期の震源のうち、地上観測点間の検測値の時間差が類似している震源の位置に置き換えた上で、Double Difference法で震源の相対的な精度を向上させる手法を検討した。OBS観測期間中に震源が得られた地域の震源については震源精度の向上が確認できた(気象庁[課題番号:7010])。

(糸魚川−静岡構造線)

 糸魚川−静岡構造線においては、平成14〜16年度にパイロット的重点調査観測が実施され、糸魚川-静岡構造線の構造が、諏訪湖を挟んで北と南で大きく異なることが明らかになった。平成17年度から5ヵ年計画で、「重点的調査観測」が行われている。これらのプロジェクトのデータを活用して、断層周辺の地震活動を調査した。諏訪湖の南側で、構造線に直交して行われた線状自然地震観測データのトモグラフィー解析によって、深さ10キロメートルまでの地殻構造が明らかになった(Panayotopoulos et al., 2006a,b)。この構造を使うと震源は気象庁一元化震源より平均で3キロメートル浅く決まるが、活断層より5キロメートルから10キロメートル下方に存在する。このことから、活動度の高い活断層の周辺でも、断層活動に直接関係付けられる微小地震活動は少ないことが分かった。一方、糸魚川-静岡構造線南部の一部の断層(白州断層など)の深部には微小地震活動の存在も明らかになった。さらに、微小地震の起震メカニズムから、この地域では、東西圧縮の応力場が卓越することが分かった(今西・他,2006)。活断層の深部での応力場と地震活動の関係をモニターすることによって、活断層の活動を評価する可能性が示めされた(東京大学地震研究所[課題番号:1416])。
 断層帯中南部(諏訪湖周辺)の7箇所において、新たにGPS繰り返し観測点が設置された。平成18年9月から10月にかけて、新設点、既設点におけるGPS繰り返し観測が実施された。既設点に関しては、過去5年間の観測結果から、この地域の地殻変動速度を推定し、断層帯北部(松本盆地東縁断層帯)では、断層の東側に変形の集中する領域が見られるものの、断層帯中部(午伏寺断層周辺)では見られないことが明らかになった。また、干渉SAR解析においては、山間部での干渉は難しいものの、盆地部で良好な干渉画像を得ることができた。これにより、断層帯最北部(神城断層)周辺に変形の集中域が見られることが分かった。この結果は、GPS繰り返し観測の結果とも調和的である(国土地理院[課題番号:6016])。

(南関東とその周辺域、伊豆半島東部)

 南関東とその周辺域においては、平成15年度に完成した房総アレイによって、房総半島周辺の地震活動がモニターされた。気象庁一元化震源を基にして周辺地域で発生した地震を解析し、トモグラフィー法によって関東の下の構造を調べ、フィリピン海プレートの形状とプレート内の速度構造と地震活動の関係を明らかにした(Hagiwara et al., 2006)。その結果、地震活動が空間的に集中する傾向のあることが分かり、太平洋プレートからの脱水過程との関連が示唆された(Hirata et al., 2006a,b)。これらの成果を用いて、地震活動のモニタリングの精度を向上させることが出来るようになった(東京大学地震研究所[課題番号:1416])。
 茨城県南部において、深さ1,000メートル級の調査ボーリングが1箇所実施され、VSP検層などによって、堆積層の物理特性が明らかになった。この井戸にHi-netが整備された(防災科学技術研究所[課題番号:3010])。
 伊豆半島東部では、地電位差、比抵抗、全磁力連続観測が実施された。このうち、伊東市奥野で行っていた直流法を用いた比抵抗連続観測システムを更新し、電流制御精度が0.25パーセント程度に向上した。ただ、この更新以前も制御精度は1.25パーセント程度であることが確認され、以前報告していた数パーセント以上の電位振幅の変動は電流制御の不定性を超えて有意であることが確かめられた(詳細は1405参照)(東京大学地震研究所[課題番号:1416])。
 相模湾では、平成15年からの海底地殻変動観測により、同海底の海底基準点がユーラシアプレート安定域に対して北西に4.1センチメートル毎年の速度で移動していることが明らかになった。この速度は、周辺の伊豆大島、真鶴等のGPS観測結果と大きさ、方向ともに調和的である(図53)(海上保安庁[課題番号:8003、8005])。

(日本海溝・千島海溝周辺)

 平成18年度は、平成17年度に取得した三陸沖北部(青森沖)のデータ解析が昨年度から引き続き進められた。さらに、根室沖想定震源域及び周辺に平成17年12月から展開した海底地震計30台が平成18年9月に回収され、約9ヶ月間の海底地震連続データが陸域観測網データと統合されて三陸沖北部(青森沖)の地震活動が把握された。また、三陸沖北部から十勝沖にかけての対象海域で総計42台の海底地震計による観測が開始された(東京大学地震研究所[課題番号:1415])。
 福島に1点、宮城に5点のGPS連続観測点が設置された。2005年8月16日に発生した宮城県沖の地震の地震時の地殻変動及びその後の余効変動について、原因となるプレート間滑りの時空間的広がりと変化が地殻変動観測データから解明された。2005年以降の北海道太平洋側のゆっくり滑りのパターン変化を追跡し、余効滑りの時間的発展について検討した。水準測量データや三角・三辺測量データを用いて、過去に発生した大地震の滑り分布の推定を行い、1952年(昭和27年)十勝沖地震(マグニチュード8.2)は、2003年十勝沖地震(マグニチュード8.0)とほぼ同じ領域で発生したことが示された。1973年(昭和48年)6月17日根室半島沖地震(マグニチュード7.4)の滑り域と、1952年、2003年十勝沖地震の滑り域の間には、100キロメートル程度のギャップがあり、十勝沖と根室沖の大地震震源域(セグメント)の境界がこの付近にあることが示された。2003年以降岩手付近で西向きの遷移的な変動が観測され、岩手付近でのプレート間カップリングの時間変化に関するモデル化が行われた(国土地理院[課題番号:6023])。

(その他)

 深部低周波地震の波形の中から特定の位相の到着時刻を読みとるのは往々にして困難な作業であり、これが深部低周波地震の検出と震源決定を難しくしている理由のひとつである。Kao and Shan(2004)によって開発された、走査型震源決定法(Source-Scanning Algorithm)を用いて、鳥取県西部地域の深部低周波地震の震源域を推定することが試みられているが、鳥取県西部のような短時間(一分間に数個以上)に地震が連発するような状況では、後発の地震に関しては必ずしも正しく推定できないことが分かってきたので、引き続き、解析方法の検討を行っている。なお、鳥取県西部地域については、2000年(平成12年)の本震以来、低周波地震の発生数が気象庁一元化震源カタログ上で700個を超えた。これらの地震は、誤差範囲内で、同一の震源域で発生しているように見えることが二重走時差震源決定法による解析で確かめられた(京都大学防災研究所[課題番号:1809])。

課題と展望

 2005年宮城県沖の地震については、余効滑りの時空間変化がとらえられ、最大余震前後の滑り量分布の比較などから、1978年(昭和53年)の地震のアスペリティの一部が破壊されたあと、その周辺で非地震性の滑りが発生・伝播し、本震で破壊を免れた領域は引き続き強く固着していることが示唆され、従来にない極めて明確なメッセージを出すことができたと言えよう。
 モニタリングデータは、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築やシミュレーション結果の検証に利用されることを通じて、予測シミュレーションの精度向上に寄与する。観測されたデータを予測シミュレータに入力して将来を予測するという利用法は、ひとつの理想的な活用法ではあるが、それには詳細なモデルの構築と検証が必要である。そのためにはまず、プレート境界で非定常的に発生している非定常的ゆっくり滑りや余効変動などの非地震性の滑りを説明する地殻活動予測シミュレーションモデルの構築を行い、モニタリングによって得られたデータを再現すること、並びにそのモデルの検証・改善にモニタリングデータを活用することなどから始める必要があるだろう。地殻活動モニタリングシステムの高度化、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築、地殻活動情報総合データベースの開発の3つの課題の合同研究会を今後も開催し、研究者間の情報交換を進め、モニタリングとシミュレーションのより密接な関係を築いていくことが重要である。

参考文献


図44
 リアルタイムGPS解析によって得られた2006年4月21日伊豆半島東方沖(マグニチュード5.8,7キロメートル)の地震に伴う地殻変動(国土地理院[課題番号:6026])。


図45
 超低周波地震の分布。
 超低周波地震解析システムにより、従来から指摘されていた南海トラフ沿いの地域だけではなく十勝沖でも超低周波地震が発生していることを検出した(防災科学技術研究所[課題番号:3007])。


図46
 陸域浅部におけるb値の空間分布図。青系はb値が小さく、赤系は大きい値を示す。解析対象期間中に発生したマグニチュード6.0以上の地震を星印で示す。マグニチュード6.0以上の地震は低b値の領域で発生する傾向がある。ただし、北海道南部、富士山周辺、富山県、熊本県などでは顕著な低b値がみられるものの、マグニチュード6.0以上の地震は発生していない。なお、マグニチュード6.0以上の地震を除いたカタログや、解析対象期間を変えた場合も、同様の傾向がみられる(気象庁[課題番号:7004])。



図47
 補正値を用いた震源計算結果と気象庁一元化震源カタログの比較。丸印は補正値を用いた震源、丸印からの直線は気象庁一元化震源カタログとの比較を表す(気象庁[課題番号:7005])。


図48
 神津島観測所において観測された、2007年1月13日の千島列島東方の地震による津波の記録(海上保安庁[課題番号:8004])。


図49
 全国地震データ流通ネットワークJDXnetの構築(東京大学地震研究所[課題番号:1413])。


図50
 (左図)東海地方のGPS観測網と変位速度場(赤点:GPS大学連合,青点:国土地理院)。
 (右図)変位速度場から推定した面積歪速度(東京大学地震研究所[課題番号:1414])。


図51
 駿河湾の海底地殻変動観測点における変位ベクトル(彦根固定)。年間約3センチメートル毎年の変位速度が得られた。陸上の変位ベクトルは,国土地理院GEONETによる2005年6月15日から2週間の座標平均と2006年07月15日から2週間の座標平均との差(名古屋大学[課題番号:1705])。


図52
 陸上GPS観測網のデータ解析により推定された2005年宮城県沖の地震の震源域周辺におけるプレート間滑りの空間分布。(a)8月16日の本震発生後から最大余震(マグニチュード6.6)が発生する前(11月30日)までの期間の地震時滑り量分布。(b)最大余震発生から2006年7月16日までの滑り分布。灰色のコンターはYamanaka and Kikuchi(2004)による1978年及び1981年宮城県沖地震の滑り量分布。大きな星印は2005年の地震の本震位置、小さな星は12月2日の最大余震(南側)及び12月17日に発生したマグニチュード6.1の余震の震央(北側)(東北大学[課題番号:1206])。


図53
 相模湾海底基準点(赤い矢印)と海上保安庁GPS観測点(黒い矢印)のユーラシアプレート安定域に対する変動ベクトル(海上保安庁[課題番号:8003、8005])。

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