二、本計画策定の方針

1.本計画推進の基本的考え

○ 前章の計画の長期的な方向で述べた考え方に従い,地震・火山現象の理解を目指した研究,地震発生・火山噴火予測の研究,及び地震・火山現象が引き起こす災害予測に資する研究を計画的に行う。理解を目指す研究では,低頻度大規模の地震火山現象など甚大な災害を及ぼす事象や予測の基礎を生み出す研究を優先して推し進める。このような考えに基づき,今後5年間の計画を策定した。
○ 本計画では,地震,津波及び火山噴火災害を引き起こす根本的な原因は,地震発生・火山噴火であるという認識から,まず,災害誘因である地震と火山噴火の仕組みを自然科学的に理解する研究を行う。次に,科学的理解に基づき予測する手法や技術を開発する。さらに,地震の揺れや津波,噴火など災害誘因としての自然現象を事前に及び即時的に予測・評価する研究を進める。これらの観測研究を進めるためには,長期的な取組と,成果が防災・減災に効果的に利活用される必要があることから,計画実施体制を整備する取組を推進する。
(1)「地震・火山現象の解明のための研究」では,地震・火山噴火の予知・予測の研究や災害予測の基礎とするために,これまでに発生した地震や火山噴火の特性を解明し,地震や火山噴火が発生する場や地震火山噴火現象の物理・化学過程を解明する。
(2)「地震発生・火山噴火の予測のための研究」では,多様なデータや考え方を取り入れ,地震や火山噴火の発生を予測する手法を開発する。物理・化学的過程に基づく演繹的(えんえき)手法や先行現象の観測事例に基づく帰納的手法を用いて,予測を目指す。
(3)「地震発生・火山噴火による災害誘因の予測のための研究」では,地震や火山噴火がどのように災害をもたらすかを解明し,それらを災害誘因ととらえて,地震・火山研究を災害軽減に役立てることを目指す。地震学・火山学的な手法により災害誘因を予測する研究を推進するとともに,これを災害軽減に結び付けるための研究を行う。
(4)「研究を推進するための体制の整備」では,関連機関,研究分野と連携を取りながら,計画の進捗状況を把握して研究を効果的に推進する体制を構築し,観測網やデータベース等の研究基盤を整備・拡充する。研究者・技術者の育成,国際共同研究,予知を目指した研究の現状を知ってもらうための取組を組織的に行う。

2.本計画の概要

1.地震・火山現象の解明のための研究

地震・火山噴火現象を理解することは,それらの発生予測や付随して起きる地震動,津波,降灰,火砕流等よる災害に備えるための基礎である。近代観測データだけでなく史料・考古・地質データも活用して,また,低頻度大規模な現象に特に注目して,過去の地震や火山噴火の理解を進める「地震・火山現象に関する史料・考古・地質データの収集と整理」,「低頻度大規模地震・火山現象の解明」を行う。また,多項目の観測に基づき地震・火山噴火の発生場の理解を進め,地震・火山現象の物理・化学過程を理解に基づくモデルを構築するため,「地震・火山噴火発生場の解明」,「地震発生モデルの構築」,「火山現象のモデル化」を行う。

(1) 地震・火山現象に関する史料・考古・地質データの収集と整理
地震・火山現象とそれに伴う災害を長い時間スケールにわたって正確に把握するために,史料の解読・解釈,考古学的な発掘痕跡の集約,地質調査データの調査・分析を行う。近代的な観測データや現在の地震・火山関係の資料と対比・統合することを意識して,データベース化を進める。

(2) 低頻度大規模地震・火山現象の解明 
低頻度大規模地震・火山現象の発生過程や,それによる強震動,津波,噴火現象を理解するために,現在の地震学的・火山学的知見と対比しながら,近代的観測データの解析や史料・考古・地質データの解読・分析を進める。国外の事象も対象に事例を増やすとともに,最新のデータが得られている2011年東北地方太平洋沖地震・津波の発生機構や余効活動,近い将来南海トラフで発生し得る巨大地震の予測に資する研究に注力する。

(3) 地震・火山噴火発生場の解明
 地震断層やその周辺構造,マグマだまりや火道などの物理・化学的特性,また,それら周辺の応力・ひずみの時空間分布を明らかにするために,地震・地殻変動観測や電磁気的探査等を実施する。地震と火山の相互作用や,東北地方太平洋沖地震及びその余効変動による大きな応力場の擾乱(かくらん)等に着目し,地震活動や火山活動に及ぼす影響を調べる。得られた成果は,地震発生のモデル化や火山現象のモデル化などに利用する。

(4) 地震発生モデルの構築
地震発生予測のためのシミュレーションや高精度の地震動・津波のシミュレーションを行うためには,プレート境界面や地下の地震波伝播速度等の構造モデル,さらに,地殻・マントルの変形特性やプレート境界面の摩擦特性の分布が必要である。このため,これまでに得られたデータや新たな観測データに基づき,多くの研究で共通に利用可能な日本列島域の構造モデルを構築する。

(5) 火山現象の定量化とモデル化
大規模な災害を引き起こす可能性があるマグマ噴火と,噴火としての規模は小さいが突発による危険性の高い水蒸気爆発や火山ガス噴出の発生を予測するため,多項目観測データや火山噴出物の解析から,前兆現象やそれに続く様々な噴火現象を捉え,それらの諸現象の物理・化学過程,相関・因果関係を明らかにする。その際,火山の性質や噴火様式に着目し,色々な火山の相似・相違性を比較検討する。さらに,マグマの挙動についての理論的及び実験的研究の成果を取り入れて,火山現象のモデル化を図る。 

2.地震発生・火山噴火の予測のための研究

 科学的理解に基づいた地震や火山噴火の予測を目指した研究を実施する。長期的な地震の防災・減災計画の基礎となる地震の規模や頻度の予測の高度化を目指した「地震発生の長期評価手法の高度化」,観測データと物理・統計モデルに基づくプレート境界の地震発生や地殻活動の定量的理解と予測を試みる「モニタリングによる地殻活動の理解と予測」,さらに,地震に先行すると報告されている事象の統計学的検証と発現過程理解に基づき地震発生の短期予測を目指す「地震先行現象に基づく地震予測」を行う。また,可能性のある噴火現象を俯瞰的視点でまとめるとともに,火山活動の事象分岐論理を取り込んだ,噴火の発生,規模・様式,それらの推移の予測を目指す「噴火事象系統樹の高度化」を行う。

(1) 地震発生長期評価手法の高度化
地震発生の長期的評価は,地震災害に備えるための基本であり,信頼性や精度の向上は重要である。史料・考古・地質データ等に基づき推定された長期間の地震の繰り返し特性を活用し, さらに,近年の観測データや数値シミュレーションなどを利用する手法を開発して,地震の長期評価手法の高度化を行う。

(2) モニタリングによる地殻活動の理解と予測
観測網の充実により地殻活動の詳細を把握することが可能になってきた。これを利用して地殻活動予測を行うために,地震発生場の研究に基づき開発された物理モデルを 利用した数値シミュレーションと観測データを比較することにより地殻内の状態を定量的に推定し,地殻活動予測を試みる。また,地震活動等を利用して地殻活動の予測を行い,その予測の性能を評価する。

(3) 地震先行現象に基づく予測
地震短期予測のためには,地震発生に先行する様々な現象を利用することは不可欠である。地震に先行する現象の報告は多いが,非常に多様であり,系統性は明瞭ではない。先行現象補足のための観測を行い,これまでに得られているデータも含めて,現象と地震の関係を統計的に評価する。また,地震先行現象の発現機構について研究を進める。

(4) 火山噴火事象系統樹の高度化
可能性のある噴火現象を網羅し,俯瞰(ふかん)的に火山活動を正確に理解するため,史料,地質学的調査,観測データ等を網羅的に調べ,近い将来に火山災害の懸念される火山について,火山活動や噴火現象の時系列を噴火事象系統樹としてまとめる。また,火山活動の活発化や噴火の発生,噴火発生後の噴火規模や様式の急激な変化の予測 をより客観的に行うため,事象分岐と観測データの特徴を,これまでの観測や火山学的知見,本計画の成果を基にまとめる。

3.災害誘因としての地震・火山噴火の研究

東日本大震災以降,社会的な要請に応えた地震・火山噴火に関する研究の推進が強く望まれている。社会の側から見た災害事象は,地震・火山噴火という自然現象である「誘因」が,自然・社会「素因」に働きかけ,その作用・影響が顕在化し被害をもたらすことである。地震・火山噴火研究の成果を効果的に社会還元するためは,理学,工学,人文学,社会科学等の複合領域の知見を有機的につなげ,地形・地盤・海水等の自然素因や人間・社会基盤等やまち・くらし・経済等の社会素因への影響・被害という視点から,今後の誘因研究を推進していく必要がある。このため「事前予測手法の研究」「即時予測手法の研究」「地震・火山災害事例の研究」「災害発生機構の解明」「被害軽減のための災害情報の高度化予測情報の活用の促進」を実施し,防災・減災に資することを目指す。

(1) 事前予測手法の研究
 地震・火山による災害対策に資するため,地震や火山噴火に伴う地震動,津波,地滑り,山体崩壊等の災害誘因を,地震や火山噴火前に高精度に予測する手法を開発する。そのために,本計画で得られる地震発生や火山噴火の理解や,構造モデル等の最新の研究成果を利用して,災害誘因の予測研究を行う。

(2) 即時予測手法の研究
 地震や火山噴火に伴う地震動や津波,降灰・噴石,山体崩壊等の災害誘因を,地震や火山噴火発生直後に高精度かつ即時に予測するために,各種観測データの利用法や解析手法の研究を進める。

(3) 地震・火山災害事例の研究
強震動・大規模噴火などの災害誘因が,地形・地盤など災害の自然素因のみでなく,建造物や諸施設の脆弱(ぜいじゃく)性などの社会素因とどう結び付いて災害を出現させたかを,歴史地震・噴火・津波などの場合を含め長期的視野をもって明らかにする。歴史記録に基づき地震・火山災害の特性や地域性を明らかにし,データベース化を図るとともに,地震 ・火山噴火による災害と社会環境の関係を明らかにする。

(4) 災害発生機構の解明
誘因である「地震発生・火山噴火」が,自然素因に与える作用力,社会素因の損傷・破壊・途絶に与える影響,社会影響素因の被害拡大・社会混乱に与える波及効果,を検証し,災害発生機構の解明を進める。それらの関係性において,「二次災害の抑止」「被害の軽減化」「社会混乱の防止」などの防災・減災に資するための誘因研究の新たなモデルを複合領域で構築し,自然・社会の変化に応じた研究推進を通して,それぞれの研究の社会的位置づけの検証を実施する。特に,社会的影響の大きな首都圏などの大都市圏で想定される地震災害については,重点的に推し進める必要がある。

(5) 被害軽減のための災害情報の高度化
地震発生・火山噴火の予知・予測は,現段階ではデータの総合的判断に基づくことが多く,決定論的あるいは確率を付与した情報や,確度の高い情報を発信することは難しい。このような不確実な予測情報を災害軽減に有効に役立てるための方法を検討する。また,地震発生・火山噴火に関わる平常時の「災害啓発情報」,発災直前の「災害予報・警報」,発災直後の「災害情報」,復旧・復興期の「災害関連情報」についても,災害素因の影響も考慮したリスク・コミュニケーションの方法論などに基づく災害情報の高度化を進める。

4.研究を推進するための体制の整備

観測研究の成果が防災・減災に効果的に役立つためには,関連機関との連携の下に,適切な計画推進体制を整備する必要がある。さらに,長い時間スケールをもつ地震火山現象の理解とその予測には,基盤となる観測網の維持・発展を進め,データを継続的に取得するとともに,膨大なデータの効率的利用が重要である。地震・火山災害を軽減するためには,防災研究分野や行政機関との連携を強化し,成果が適切に利活用される筋道を作ることが必要である。また,長い時間スケールで観測研究を実施できるよう若手研究者・技術者の育成に努め,観測事例を増やすために国際的な共同研究を推進するとともに,国際交流を進め,各国の防災研究に学ぶことも必要である。

(1)推進体制の整備
 国民の命を守る実用科学としての地震・火山研究を実施し,成果が防災・減災に効果的に役立つことのできるような計画推進体制を作る。このために,社会の中の科学としての観点から,地震・火山防災行政,自然災害研究の中で本計画がどのように貢献するべきかを十分に踏まえた上で実施計画を立案し,推進する。特に,地震調査研究推進本部との一層の連携を図る。さらに,計画の進捗状況を把握し,計画の達成度を評価し,計画実施に関する問題点と今後の課題の整理を行い,次の実施計画に反映させる体制を整備する。このために,各機関の実行計画に関する情報交換及び協力・連携方策の検討を行い,成果が効果的に利活用される仕組みを構築する。

(2)研究基盤の開発・整備
学術的な基礎研究を主体として実施する観測研究体制として,国立大学法人東京大学地震研究所(地震火山科学の共同利用・共同研究拠点)の地震火山噴火予知研究協議会を中核として,研究基盤を強化する。長期的な観測を継続する観点から,防災業務機関が日本全国の陸域に展開している地震観測網や地殻変動観測点などの観測基盤を維持・発展させるともに,近年新たな観測研究成果が得られている海域や火口近傍などにおける観測体制を強化する。本計画で得られる観測データ・調査資料等の基礎的資料や研究成果である構造モデルやソフトウエア等をデータベース化し,これらを共有する仕組を構築する。基礎データを蓄積するだけでなく,取得したデータを自動解析し,解析結果を自動的に共有できるシステムとする。これらの観測網による超大容量の地震・火山観測データを効率的に流通するためのシステムを構築する。また,関連機関が連携して効率的に臨時観測等を行うための体制を整える。海域や火山の噴火火口近傍,深部高温領域などの観測困難領域において,安定したデータを取得するための機器開発を行うとともに,地下状態のモニタリング手法や宇宙技術による地殻変動モニタリング等の技術の高度化を行う。

(3)関連研究分野との連携の強化
本計画が災害科学に貢献すべきであるという観点から,理学だけではなく工学,人文・社会科学等の関連研究分野との連携を図る。近代的な観測の行われた期間は,地震や火山噴火現象の推移を理解して予測するには短すぎることから,過去の事例を調査する歴史災害研究を行うことが不可欠である。これらの観点から,地震・火山噴火災害軽減の課題を解決するための分野関連携の学際研究を進める体制を構築する。

(4)研究者・技術者・防災専門家教育
地震・火山噴火の発生予測の方法の構築とその検証には,世代を超えた継続的な観測研究と人材育成が不可欠である。また,物理学・化学・地学のような基礎学問分野だけでなく,地質学,歴史学,フィールド調査や数値計算技術等の幅広い技術の習得が必要である。さらに,地震・火山の専門教育を受けたものが防災・科学技術にかかる行政・企業・教育機関に携わることは重要である。このような観点から,複数の教育・防災業務機関が連携し,観測研究を生かした教育活動を継続して,若手研究者・技術者を育成する。

(5)社会との共通理解の醸成と災害教育
防災担当者や国民に,防災・減災に関連する地震・火山現象の科学的知見や,現在の地震・火山の監視体制,予知や予測情報の現状を知ってもらうため,関連機関が協力して,研究成果を社会に分かりやすく伝えるための取組を強化する。なお,その基礎として学校教育,社会教育などに,地震・火山噴火についての豊富で系統的な情報を,自然科学的知識のみでなく,防災学や災害史など人文・社会科学分野も含めて提供する体制を構築する必要がある。

(6) 国際共同研究・国際協力
大規模な地震・津波,火山噴火災害は,地球規模で発生することから,国際的な防災・研究機関と連携を強める。さらに,災害科学の先進国である我が国の責務として,開発途上国における地震・火山噴火災害の防止・軽減に国際貢献する体制の維持・整備を行う。低頻度の災害とその誘因の研究をするためには,日本だけでなく海外の他の地域の事例を研究する必要があることから,国際的な共同研究を行う体制を整備する。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)