第3章 南海トラフ地震発生帯掘削計画によって得られる成果

「ちきゅう」による巨大地震発生帯の直接掘削では、大きくわけて1 付加体内部の地質構造の解明、2 巨大地震震源断層の直接調査、3 深部での地殻変動の観測、の3つの成果が期待されている。

(1)付加体内部の地質構造の解明

南海トラフでは、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが比較的緩やかな角度で沈み込んでおり、その際に海洋プレート上の堆積物がはぎ取られ、陸側に押しつけられることによって、付加体が形成されているという基本理解がなされている。付加体は日本列島の骨格をなす地質構造である。これまでの掘削によって付加体及び沈み込む前の海洋地殻の構造に関する新たなデータが加わり、さらには地質年代精度の向上により、地質構造進化の過程が明らかになりつつある。この結果、日本列島形成史が大幅に見直される可能性も示唆されている。

(2)巨大地震震源断層の直接調査

南海トラフ沈み込み帯では、プレート境界及び付加体内には莫大なひずみエネルギーが蓄積されているものと考えられており、岩石破壊の限界に達すると破壊を起こし、それがプレート境界断層面を形成していると考えられる。南海トラフ地震発生帯掘削計画(ステージ3)では、ここを掘り抜いて地質試料を採取し、断層の物理・化学的性質を明らかにすることを目指している。海溝型巨大地震の深部発生領域からのサンプルリターンは世界で初めての試みであり、断層試料の採取に成功すれば、室内実験などにより、断層の摩擦特性の把握や破壊強度の推定等、巨大地震発生のメカニズム解明に不可欠な情報をもたらすと期待されている。

(3)深部での地殻変動の観測

南海トラフ地震発生帯掘削計画では、超深度掘削孔に地震断層やその周辺の地殻の微少な変動を捉える長期孔内観測装置を設置する予定である。これらは将来的にDONET(Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis:地震・津波観測監視システム)につなげられ、地震観測網の一環として組み入れられる予定である。震源域により近い場所に地震計が設置されれば、秒単位で緊急地震速報を早く出すことが可能となる。南海トラフにおける地震では地震発生から津波到達までの時間は非常に短く、少しでも早く避難関連の情報を出すことが重要である。また掘削孔でのモニタリングを行うことによって、巨大地震の準備過程から破壊に至るまで、そして地震の最中から終了後まで、全ての巨大地震プロセスを観測することも可能になる。更に、震源域近くの海底下深部において地震波やひずみ測定を行うことは、これまでの陸上観測や海底面観測では探知できなかった地殻内の微少な動きを感知可能とするものであり、地震発生のメカニズムを解明する上で画期的な成果に結びつくことが期待される。

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