【資料2-1】東北マリンサイエンス拠点形成事業「新たな産業の創成につながる技術開発」 最終評価結果


東北マリンサイエンス拠点形成事業「新たな産業の創成につながる技術開発」 最終評価結果

平成28年9月
東北マリンサイエンス拠点委員会


【各課題の評価】

研究代表者名:北海道大学大学院水産科学研究院 宮下 和夫
研究課題名: 1.三陸沿岸域の特性やニーズを基盤とした海藻産業イノベーション

総合評価:S
理由
・学術的に大きな成果であると共に、医薬品等の開発にもつながる成果に結びついており、当初の研究開発計画を上回る科学的成果が出ている。
・本研究の成果に基づき健康機能性に対する消費者の認知度が向上してアカモクの売り上げが向上した結果、岩手県山田町の岩手アカモク生産組合では、復興庁の被災地域企業新事業バンズオン支援事業に採択されて新規工場の建設が決定しており、被災地における産業化に十分貢献できているといえる。

コメント
・三陸地域において、この成果が今後どのように活用されていくのかが重要であり、今後の展開に期待している。
・病院食等の健康食品へ加工できる原料として大きな可能性を秘めており、さらなる地域産業創成が期待される。
・養殖アカモクについての基礎的な知見が得られており、評価に値する。
・研究・実用・事業化の全てにおいてすばらしい成果が得られており、本事業の優良事例と言える。
・本研究成果を活かし、さらに機能性の高い、高付加価値のある製品の開発を期待する。
・学術的にも、新たな科学研究のシーズを生みだしている。
・養殖技術開発により安定生産が可能な産業化への道が確立されており、評価に値する。


研究代表者名:東北大学大学院農学研究科 佐藤 実
研究課題名: 2.電磁波を水産物加工に用いた新規食品製造技術の開発

総合評価:A
理由
・計画通りに研究が進められ、電磁波を用いた解凍技術について、実用化につながる重要な成果が得られている。
・実際に現段階で被災地の産業には直接結びついてはいないが、全国的にこの技術を活かしていけば、今後の産業展開を実現できるポテンシャルが大いにある。

コメント
・不可能と思われていた冷凍食品の生食用解凍を可能とし、さらに多様な食品加工分野への応用の道も見据えた研究がなされており、評価に値する。
・100MHzの解凍技術については、実用化が期待できる省エネ、省ロス、省コストな夢のある技術であり、今後の研究開発と事業の発展に期待する。
・骨の脆弱化技術については、さらなる研究開発が必要である。
・水産加工場で原材料を解凍する場合に、どのような設備が必要となるのか、その運用にどの程度のコストがかかるのかについても例示されるともっとよかった。
・科学的解明が不十分な箇所があり、また、実用化には、実用装置の生産が不可欠であるため、今後の事業に期待する。ニーズの掘り起こしが必要であり、難しいとされるウニの冷凍に関して応用できるのではないか。


研究代表者名:東北大学大学院農学研究科 多田 千佳 
研究課題名: 3.排熱活用小型メタン発酵による分散型エネルギー生産と地域循環システムの構築

総合評価:B
理由
・排熱を利用したメタン発酵による小規模なエネルギー生産を目指した研究として一定の成果が得られてはいるが、中間評価以降の計画内容が十分に達成されたとは言えない。
・メタン発酵による処理水の利用という副次的成果が出てはいるが、被災地での産業化には至っておらす、今後の産業化についても期待が薄い。

コメント
・実用化には比較的大規模な取組が必要であり、当初の目的であった小規模な産業化への展開は困難と思われる。
・需要とコストを考慮した場合、被災地での実用化が難しい。
・新しいエネルギー供給システムとして重要な研究課題であり、それに実際に挑戦したという点、この研究課題の長所と短所を明らかにした点において評価できる。
・今後、地域社会における廃棄物処理政策の中に、得られた知見を反映させていただきたい。
・学術的な各要素の概念としては評価できる成果が出ているが、実用化への可能性が不明。
・副産物となる液肥の活用については、立地の問題が考えられる。


研究代表者名:東京大学大学院農学生命科学研究科 潮 秀樹
研究課題名: 4.東北サケマス類養殖事業イノベーション

総合評価:A
理由
・サケマス養殖に関する様々な技術開発が実施され、一定の成果が出ており、計画内容を満たしていると言える。
・生簀システムなど被災地で実用化できているよい成果が見られ、評価に値する。

コメント
・どの程度被災地の産業振興に貢献できるか現時点では不透明な部分もあるが、養殖の効率化、魚の価値の向上につながる基礎的な知見が得られている。
・一部計画通りに進捗しなかった部分も見られるが、多方面で重要な成果が出ており評価に値する。
・さらなる実用化については今後とも研究・開発が必要であり、現場で応用できる程度にまで、継続して課題に取り組まれることを期待する。
・銀ザケの出荷時期を調節するための基盤技術とシステムを完成したことは評価に値する。
・魚の高付加価値化及び安全性向上については、さらなる技術開発が必要である。
・販売戦略の構築については、さらなる検討が必要である。


研究代表者名:東京海洋大学海洋科学部海洋環境学科 浦野 直人
研究課題名: 5.三陸産ワカメ芯茎部の効率的バイオエタノール変換技術開発と被災地復興への活用法の提案

総合評価:B
理由
・学術的には興味深い成果が出ているが、それぞれの要素技術は実用化レベルに至っておらず、当初の計画内容を達成できていない。
・事業化への取組が乏しく、被災地への貢献に結びついていない。

コメント
・学術的にはしっかりとした取組が成されており、ワカメの加工の廃棄部分を原料としたバイオエタノール、酒類、スーパー酵母など様々な有用物を作成できる可能性を示す成果が得られていることは評価に値する。
・原料確保、コストパフォーマンス、初期投資等を踏まえた事業化における競争性が今後の問題である。
・新しい重要な成果が多く出ているが、実用化、現場での普及につながる成果とは言えず、被災地への成果の還元が十分成されていない。
・学術的には面白い内容であり、個々の技術については評価できるが、経済的観点からも成り立つ事例が不足している。


研究代表者名:東京海洋大学海洋科学部食品生産科学科 鈴木 徹
研究課題名: 6.高度冷凍技術を用いた東北地区水産資源の高付加価値化推進

総合評価:C
理由
・評価に関する書類とヒアリングまたは口頭発表から、成果内容が詳細に読み取れないため、計画通りに研究開発が実施されたとの判断はできない。
・評価に関する書類とヒアリングまたは口頭発表から、成果内容が詳細に読み取れないため、被災地への貢献等、成果の還元が行われたとの判断はできない。

コメント
・高度冷凍技術の新規開発・改良を進め、一部は実用化に結びついており、被災地での事業化も手がけられ復興につながる成果であるように思えるが、このプロジェクトでの具体的成果が明確でなく、評価が難しい。
・成果の取り扱いについて説明が不足しており、本プログラムの趣旨と異なっているため、評価が難しい。
・資料やヒアリングまたは口頭発表において具体的な内容の説明が不足しており判断が難しく、評価のレベルを下げておくという選択肢を選ばざるを得ない。
・成果の公表の在り方について、特許等で守るものでなければ、広く一般に使ってもらえるように努めるべきではないか。
・成果内容のデータの公開が不十分であり、成果の活用への道筋が不明確であった。


研究代表者名:東京海洋大学学術研究院海洋環境学部門 荒川 久幸 
研究課題名: 7.漁場再生ニーズに応える汚染海底浄化システムの構築

総合評価:A
理由
・技術的な面において十分な成果が出ており、計画に基づきしっかりとした技術開発がなされていることは評価できる。
・完全な実用化には至っていないものの、次に同じような状況で技術が必要になった際、ある程度使用可能な技術が成果として出ている。

コメント
・油で汚染された海底泥の分析、浄化技術が確立された点は高く評価できる。
・被災地の海底の油汚染状況を定量的に詳細に調べたことは、高く評価できる。
・気仙沼湾の浄化を現実に進めるには難しい状況であるが、将来的には非常に有用な技術である。
・事業規模が大きくなると実施可能かどうか不安がある。
・東北地域には麻痺性貝毒シストがあり採泥法によっては拡散の危険性がある。事業化の際には生物環境調査が必要となるため、今後専門家の参加が望まれる。
・今後活用可能な基礎技術が確立されており、社会的にも還元されうるという点を評価する。
・コスト的には難しい面もあるが、技術開発としてはある程度成功と言える。
・実用化には国家プロジェクトが必要であり、地域の行政・漁民からの評価も得られればなおよい。


研究代表者名:独立行政法人理化学研究所 福西 暢尚
研究課題名: 8.三陸における特産海藻類の品種改良技術開発と新品種育成に関する三陸拠点の形成

総合評価:A
理由
・海藻類の品種改良技術開発について、計画内容を満たす十分な成果が出ている。
・種苗生産工場を新設するなど、成果の還元も成されていると評価できる。

コメント
・海上養殖への展開には、解決すべき課題が残っているが、海藻の品種改良において科学的な大きな成果が出ている。
・三陸海岸における理研食品の事業の安定化に役立つ技術が確立されており、現地の産業活性化に貢献すると考える。
・一企業の利益にとどまらず、被災地の復興につながる形になることが望まれる。
・有用変異体の種苗生産体が海面養殖に流れでないようにするシステム作りに留意する必要がある。
・この技術で品種改良された種は陸上の閉鎖環境でのみ養殖されるよう注意してほしい。
・有用系統については、地元事業者との合意が必要とされる時期がいずれ来る可能性がある。
・産業として広く普及できるかは今後の課題であるが、大規模養殖につながる技術開発が成されている点で高く評価できる。


【本事業全体へのコメント】

・本事業は被災地域の復興、産業振興を目指すことが出発点で、そこから技術開発、あるいは既存技術を組み合わせて新しいイノベーションを引き起こすというのが目標であったため、研究開発された技術や、その実用化された段階が商業化なのか産業化なのか等について、本来詳細を明示する必要があるという認識を持つことが大事。

・5年間で産業化まで結びつけるということは大変難しいが、今回の8つの課題の研究全体としては、本当によい研究の芽が出てきていると感じた。最終年度を終えたが、ここで終わってしまっては勿体ない。

・本事業で得られた成果を今後発展させていく方法として、JSTのNexTEPなどの制度がある。企業が興味を持つ技術については、さらに事業化へ向けた取組を実施できるため有効である。文科省の1つの役割としても、要素技術で良いものが開発された場合、次にその受け皿となる企業へ受け渡しできたかどうかという点が重要となる。

・事業の最終年度を終えた時点であっても、得られた成果や研究内容が今後どのように展開されるのかについて担当研究者から情報提供した方が効果的。

・事業で得られた研究成果については、評価や論文、学会発表、シンポジウム等を含め、きちんとした方法で残していくべきである。

・本事業は実際に事業化までを目標とする事業であり、文科省が実施する事業としては珍しい事例。5年間で事業化に至るというのは研究開発では大変難しいことであり、今後、10年程度の長いスパンでの予算措置が行える事業が増えるとよい。

・一部課題において評価委員会に提出された資料が評価を実施するのに不足しており、成果内容の判断が困難となるケースがあった。今後、同様な評価を実施するにあたっては、評価に当たって必要な資料や提出された資料の取扱い等について、事務局と課題担当者間で認識を共有し、評価が円滑に行われるよう配慮する必要がある。



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-- 登録:平成30年02月 --