資料1 第2回北極研究戦略委員会議事録(案)

科学技術・学術審議会 海洋開発分科会 第2回北極研究戦略委員会 議事録(案)
 
日時:平成28年4月11日(月曜日)14時~16時
場所:文部科学省17階 研究振興局会議室
出席者:
(委員)
池島 大策  早稲田大学国際学術院教授
浦辺 徹郎  東京大学名誉教授・一般財団法人国際資源開発研修センター顧問
榎本 浩之  国立極地研究所教授・副所長
三枝 信子  国立環境研究所地球環境研究センター副研究センター長
白山 義久  国立研究開発法人海洋研究開発機構理事
杉山    慎  北海道大学低温科学研究所准教授
谷      伸  GEBCO指導委員会委員長
藤井 良広  上智大学大学院地球環境学研究科客員教授
藤井 良一  名古屋大学宇宙地球環境研究所教授
山口     一  東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
(事務局)
田中 正朗   文部科学省研究開発局長
白間 竜一郎  文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当)
林     孝浩  文部科学省研究開発局海洋地球課長
小酒井 克也  文部科学省研究開発局海洋地球課極域科学企画官
山口    茂  文部科学省研究開発局海洋地球課長補佐
議事:
(1)事務局より、当日の議題・配付資料について確認。
(2)以下の議題について、各担当者より説明及び報告があった。
   1.今後の北極研究のあり方について
   2.その他

【藤井主査】  ただいまより海洋開発分科会北極研究戦略委員会第2回を開催します。本日は、御多用中のところ御出席いただきまして、ありがとうございます。
事務局の方から、本日の出欠と配付資料について御確認をお願いいたします。
【山口海洋地球課長補佐】  本日は、13名中10名御出席の予定であり、会議の定足数は満たしております。
また、本日、高倉委員、瀧澤委員、横山委員がご欠席となっております。
本日の配付資料につきましては、お手元の議事次第中にございます資料1から資料4をお手元にお配りさせていただいております。不足等がございましたら事務局まで申し出いただけますよう、お願いいたします。

(議題1について)
【藤井主査】  それでは議題に入ります。
最初に、前回議事の記録についてですが、時間の関係上、ごらんいただき修正等がありましたら、1週間後の4月18日までに御連絡を頂きたいと思います。
【藤井主査】  最初に資料2、3に基づきまして、前回の委員会で出ました主たる意見、それから今回の審議に当たっての論点について、事務局から説明願います。
【小酒井極域科学企画官】  資料2をごらんください。第1回会議で委員の方から御発言がございましたものを事務局としてまとめさせていただいたものでございます。
最初に、国際共同研究・観測に関する主な意見ということで、一つ目の丸ですが、基本的にArCSのプロジェクトといったものは科学者コミュニティーを中心に進められているということで、研究、観測の結果の利用の面に関してはどのようなスタンスを持つのかということを明確にしておく必要があるのではないかといった意見。また、次に、北極域研究については中長期的にどのような課題があって、今現在どこの部分を実施していて、どこが抜けているのか、また国際動向などの柱も幾つかあるのではないかと。また、その中でGRENEプロジェクトがやってきたこと、またArCSではそれを受けてどこまでできていて、足りない部分がどこかというようなところが見えると、研究計画が今後立てやすいといったようなこと。
3つ目として、観測等については中長期のプランの下、進められていますので、その辺の状況を少し示してもらうと理解が進むし、今後何をやっていくことが必要というようなヒントも出てくると思うといった御意見。また、最後のところですが、これは我が国の北極研究の位置がどこにあるのか不明確な印象がある。また、国際共同研究等については、大きなマップの中で日本の位置、観測でカバーできている部分、欠落している部分、さらには日本がリードしていくものがあると日本の立ち位置というものが見えていくのではないか。また、その中で何が課題で、そのために誰が何をやっているのかといったことを整理していく必要があるのではないかといった御意見がありました。
次に国際連携、国際協力について。1ページ目の丸3つは主にデータに関することですが、まず1点目としましては、データの各項目の観測手法の標準化ですとか、各国のデータシェアリングのシステムなどが必要となると思うが、このような国際連携のシステムに日本が参加していくためには今後どのような取組を進めるべきかといったような御意見。また、データの標準化に際して、具体的に誰がイニシアチブを持って進めていくのかといったことも含めて議論し、この委員会である程度提言できるとよいのではないかといった御意見。また、3つ目ですけれども、観測データ等については必ずしも日本だけが持っているということではありませんので、いろいろなデータをメタデータでつないで、使いやすく一元化するといったような話もあることから、ArCSで得た成果の蓄積ですとか極地研等の固有のデータの蓄積機能の位置関係を明らかにさせながら、どこまでやるのかといったところもある程度提言できるとよいといったような御意見。
裏面の一番上の丸ですけれども、我が国が利用国の視点からアジア諸国を取りまとめて北極評議会に対して意見を出せる余地はあるのではないか。今後、研究、観測の部分ではなく、北極域の利用の視点からどういう戦略をとっていくのか、また産学官の産といったものは誰なのかというところまで意識して問題を提起しておく必要があるのではないかといった御意見。
次に、人文・社会科学と自然科学分野の連携についてといったところで、2段落目になりますけれども、GRENEからArCSへの脱皮というものは、自然科学だけに重点が置かれていたものを、人文・社会科学が参画することにより、より総合的な取組を国として戦略的に実施するものを持つべきではないかということ。航路の利用等については、沿岸国の法令整備等に日本が関与し、その対処まで含めるとすると相当な戦略が必要となるが、一方で、限られた時間、人員の兼ね合いもあるので、その辺を念頭に置いて議論することが必要ではないかといった御意見。
また、ステークホルダーへの情報発信につきましては、これも2つ目のパラグラフですけれども、人文・社会科学からのアプローチには、国際法などのルール形成の面と、現地に密着して発生している課題を明らかにしていくという2つの側面があるのではないか。また、ArCSはその2つを組み込んでいるところでごすが、国際的なルール形成への貢献まで行けば、日本の利益等の課題とも絡んでくるのではないかといったこと。また、社会科学については、法やルール形成などを通じて政策課題をカバーできるといった面がある一方で、多様な人間社会で起こっている課題をどのようにカバーしていくかといったことをArCSで考えられればよいのではないかといったような御意見を頂いたところです。
それを踏また資料3ですが、下線を付したところが、第1回の議論を踏まえての修正点です。まず1ポツの議論の基本的な方向性の2つ目の段落ですけれども、「その際、北極域研究に関しては、中長期的な課題や短期的な課題があると考えられることから、北極圏国などの諸外国の動向を踏まえつつ、我が国の立ち位置を明確にした上で、それぞれの課題を整理し、焦点を絞って検討を進める」と修正しております。
次に裏面ですけれども、一番下のステークホルダーとの関係というところです。2つ目のポツですが、「研究開発・観測結果の利用に関して、戦略的に進めるため、産学官それぞれの役割を明確にしておく必要があるのではないか」といった形で修正させていただいているところです。
資料の説明は以上です。
【藤井主査】  ありがとうございます。前回の議論からの抽出部分というのが多いわけですけれども、御意見等がありましたら願いします。
【浦辺委員】  ここの中でも我が国の立ち位置というのがなかなか難しいところで、これはいつも問題になるところだと思うのですが、例えば中国ではもう既にいろいろな港の投資をしているとか、イギリスの北極研究の在り方の文書だとロイドみたいな保険の会社であるとか、そういった企業活動をある程度前面に出している国が多いかなと思います。ただ、日本の科学技術政策の中では、あまり企業活動とか、企業の方から、国として援助してほしいという声がなかなかないと思うので、少しその辺が他のオブザーバー国、あるいはACの国との大きな違いかなと思うのですけれども、今度の海洋開発分科会での考え方というのは、そことは少し一線を引いて、やや研究の面を中心にやっていくということだと思います。
その中で我が国の立ち位置というのが、研究の中での我が国の立ち位置というのが一体どこにあるのかなというのが、少し皆さんに教えていただければありがたいと思いました。
【藤井主査】  ありがとうございます。立ち位置と言ってしまうと難しい面がある気もしますが、産学官とかいろいろな国の施策というような面ですと、比較的立ち位置というのは明確だと思いますが、個人的には、国際連携と国際競争という立場の中でどういう連携を築いていくのかということに関しては、やはり立ち位置が必要かなというふうに思います。比較的政策的な部分もありますが、委員の皆様から、科学技術における日本の立ち位置というのは一体なのかという、御質問がございますけれども、いかがでしょうか。
【谷委員】  この立ち位置は、我々の中で立ち位置をまず確立するという部分と、それから確立した立ち位置を世界に宣伝するということを明確にするという言葉の中に入っているかと思いますけれども、明確にするというのは、今、立ち位置が国内でも必ずしも明確になっていないから、まず決めようという話なのか、あるいは決めた上で、世界に宣伝することを明確にするという、どちら側を考えているのでしょうか。
【藤井主査】  直感的には、まず日本の中では当事者も含め、必ずしもはっきり認識されていないので、しっかり議論をして、作っていくのか、それとも議論の中できちんと作り上げていくのかという両方の側面があるように思いますけれども、実際にやられている方の御意見を頂きたいと思いますが、いかがでしょうか。
【白山委員】  昨年、我が国は、北極政策に関する戦略を明確に規定しました。その中には研究開発に関しても立ち位置は明確に記載されているというのが私の認識です。
【藤井主査】  資料3-1の概要の3ページ目ですね。3ページ目のところが、これは立ち位置というのでしょうね、やはり。施策の根幹みたいなものと考えてよろしいのでしょうか。
【山口委員】  立ち位置は明らかで、日本のすぐれた科学力で政策までコミットしていくということだと思う。結局は北極をサステーナブルに今後利用していく、そのために何が必要かというのを日本は考えていくのだと。それは領域や国の利益にとらわれるのではなくて、逆に日本は直接的な権利を北極に持っていないからこそ、世界で守りつつ、利用していきましょうということが言えるという立場を利用しようということだと私は思っています。
【藤井主査】  どうもありがとうございます。
【谷委員】  物すごく分かりやすくて、全くそのとおりだと私も思いますけれども、この文章、その1つ前の枕言葉に、北極圏国など諸外国の動向を踏まえつつという記述がありまして、少し回りを見ながら決めようと書いてある。今委員がおっしゃったのは、とにかく日本の位置は決まっていて、人が何をやっていようがこれをやる、これが正しいのだということで、私はそのとおりだと思うのですけれど、動向を踏まえつつというのは結局何かというと、単に研究だけではなく、政策や外交とかを考慮しないといけないということかなと思うので、そうなると、そういう意味では立ち位置は本当にクリアに決まっているのかなというところが分からない点です。
【藤井良広委員】  私もずっと悩ましくて、研究戦略なのか、国の戦略なのかというところのつながりがよく見えなくて、この場でどこまで議論されるのか。山口委員が言われたのはまさにそのとおりで正しいのでしょうけれども、国あるいは地域の戦略ということになると、やはり利害関係や何のために研究するのかといった研究オリエンテッドの部分だけではなくて、外交とか様々なものが絡んでくるので、そこまでこの場で広げていくのか。広げないとしても、研究の戦略の中にそういうものを踏まえてやっていくのか否か。北極に関して、解明して維持していくということを踏まえた上で、さらに政策的、戦略的なものがどうも求められているような。昨日の日経に載った、榎本委員と白石大使の議論で、白石大使の方はまさにそういうのが入っているので、この場でどこまで議論をしていけばいいのかというのは少し悩ましいと思っています。
【藤井主査】  主たるものは科学技術の面だと思いますけれども、それを進めていく上で、どうしてもそういう側面が必要になってくるという面はあります。
【藤井良広委員】  科学技術を外交に使っていくということを明確に言われているので、それも非常に必要な局面で、しかも他国がそういう形で動いているのは間違いないので、我が国としてそこを踏まえないわけにはいかない。むしろ踏まえるときに、科学技術の研究力の強さ、強みみたいなものも踏まえて我が国の外交の強みに持っていくということが国としての位置付けで、それは正しいのではないかという気がします。
【藤井主査】  モチベーションとして科学技術からスタートするのかということもあると思いますけれども、通常のやり方は、モチベーションはそこにあって、やっていくうちに様々な展開があるという考え方かとも思うのですけれども、もう少し積極的にということなのでしょうか。
【山口委員】  少し個人の考えも入りますけど、ほかの資料を見ていても、皆さん科学技術とおっしゃいますが、技術の部分が入っていないのです。工学と言い換えてもいいです。結局、科学があって、技術があって、産業があるわけで、産業まで文科省が面倒見なくてもいいのかもしれませんが、技術のところは見て欲しいと思います。そうすると、そのストーリーが見えてくるのではないかと思うのです。例えば資料4も科学の部分から、人文・社会科学に飛んでいます。そうすると、ごく一部の先住民の人たちのための何かみたいな話になってくるので、日本が何をすべきかというのがやはりよく見えてこない。実は日本は寒冷域の技術においてすごく高いものを実は持っており、アラスカ・パイプラインのパイプは全部日本製です。ゼネコンの人たちが施工しているわけで、最近でも日本の作ったカナダの北極海航路向けの貨物船が、単独で初めて北西航路を横断しているわけです。だからその辺をうまくつなげて見える化をすると、まさにサステーナブルな利用というのが見えてくると思うのです。日本はそういう仕組みを見せられる力があると思うのです。
先月、北極科学研究委員会がありまして、北極科学サミット週間です。そこでACのタスクフォースの人たちと話をしましたが、もうサステーナブルディベロップメントという話ばかりで、やはり彼らは利用したいのです。でも、汚されたくないわけです。だから安全に、かつ経済的に利用するという両方の面で力を持っているのは、多分日本が一番ではないかと思っています。
【藤井主査】  ありがとうございます。
【杉山委員】  比較的現場の立場から言うと、今我が国の立ち位置というのは、山口委員が説明されたのが非常にクリアで、そのとおりだと思います。そこまでは我々も頭に浮かぶのですが、我々は逆に、具体的に何を考えるかというと、中長期的な課題や短期的な課題、これらは比較的、研究者で次に何をやるかというときにすぐ頭に浮かんでくるのですが、その間をつなぐもの、日本としてどんな立ち位置かというのが決まっていて、我々は現場でどんなことをやらないといけないか、どれからやるかということを悩んでいて、その間をつなぐような指針をこういった場で与えていただけると、現場の研究者は動きやすいのではないかと思います。
山口委員がおっしゃられたこともその1つだと思いますけれども、日本の我々のコミュニティーで3年ほど前に、これから北極研究でこの先5年、10年、どんなことをやっていくかというような、中期プランのようなことを研究者の間で取りまとめました。ただ、やはりそこは研究者の視点が中心になってしまうので、最終的にそれが日本の立ち位置にどう貢献できるかというところまで考えるのは難しいです。ですから、そこをつなぐような指針、示唆を与えていただけると、次を考える者にとってはありがたいです。
【藤井主査】  ありがとうございます。
【浦辺委員】  北極政策のない我が国の中で、例えば資料3-1の3ページ上の一番下に、北極海航路や資源開発に関する経済的な可能性を探究すべくというのが入っています。これは、全ての国の北極政策というのを見てみても必ず入っています。それで、それをやるに当たっては、その上の環境変動、気候変動というのは最大限努力をしなくてはいけないというのが非常に共通したものだと思います。ただ、今のところ日本では航路を開発しようというような積極的な動きはないけれど、資源に関して見れば、将来的には関わるかもしれないというところが多いのではないかという気がします。
ただ、資源開発でも石油であるとか金属であるとかというのは、海底より下の話なので、海底より下の話だと、大陸棚の両側から延ばしてきて、最終的にそこがどのように分配されるかによって、主権的な権利が発生します。そうすると、その主権的な権利の中で、例えばそれがロシアから来るのであれば、ロシアと話し合いをして資源開発をするということになるわけです。
今の各国の大陸棚延伸の申請は、ノルウェーは終わりましたけれども、今出されているのはロシアです。アメリカは国連海洋法条約に入っていないので出しようもありませんが、カナダが一旦出しかけてやめてしまった。今どういう状態かというと、あと2年掛けて調査をして、3年後ぐらいにもう1度正式に出し直すというのがカナダの状況です。デンマークというか、グリーンランドです。グリーンランドはもう申請が出ています。ロシアとグリーンランドが出されていて、ロシアはもう審査が始まっています。ですので、この次がデンマークで、その後何年かしてカナダという形になると思うのですが、それを全部足し合わせると海底資源はほぼ100%近くなくなってしまうというか、公の海の海底資源というのは、ガッケル・リッジの一部を除いては残るところがないのではないかと思われるので、公の海の資源が残るという可能性は、非常に少なくなっていると思います。
その中でやはり資源開発を行うとなると、そこでの技術開発、資源開発のための技術開発や、氷海の下での調査、探査も含めた調査という技術に関しては、海の中の面ではその2つのことは結構日本でも寄与できるところはあると思います。そうなると、その開発と、それから環境に影響を与えない技術などを日本が主体的にやれるかどうかは、北極圏国と組まない限り無理なわけですけれども、氷海域におけるそういう技術というのは十分やっていけるのではないかと思いますし、そのような技術を使って我が国が北極のサステーナブルディベロップメントに貢献する能力とか目標とかというものはできるのではないかなと思っています。
【藤井主査】  ありがとうございます。
【山口委員】  北極海航路に関して、日本は実は世界で一番先に研究をやっています。90年代の大きな国際共同研究プロジェクトです。現在、北極海航路を前面に出している大きな国家プロジェクトがないので、余り目立っていませんけれども、私自身が行っていますし、産業界もようやく動き出しまして、商船三井が非常に強い砕氷のLNGタンカーを発注して、この間進水しました。これは3隻。それから日本郵船も耐氷型の自動車運搬船を造っていますし、より省エネ型耐氷船の基礎技術ができたといったように、余り目立っていないですけれども、これらを束ねれば、すごい力になると思います。日本はこうした種をたくさん持っていますので、対外的に上手に見せていくことができると思います。国交省や経産省などは言いにくい部分もあるでしょうけれども、文科省だときれいな立場で言えると思います。そうやって情報を束ねて出していっていただけると、日本の地位も上がっていくのではないかと思います。
【藤井主査】  今おっしゃったように、立ち位置としては、科学技術だと思いますけれど、いろいろなピースが既にある部分もあるので、それをいかに入口から出口のところまで見せ、そういう中で網羅的に出していくことはできるのではないか思います。
【白山委員】  2つ御指摘させていただきたいと思います。1つは、海底資源については、確かに大陸棚の延伸という話はありますが、海水部分について、公海というのは北極海にたくさんあるという認識も当然あるということで、公海部分の海水にも、生物資源を考えればたくさんの資源があるということは忘れてはいけないことだろうというのが1つ。もう一つは、北極の研究の意義は北極に閉じないということも忘れてはいけないと思います。地球環境全体に非常に大きな影響を持っているのは間違いありません。北極というのは最初に大きな影響が出るということも、我々としては既に研究成果が出ているわけで、世界あるいは日本の国の今後の地球環境の変動に対するミティゲーションとかアダプテーションを考えるときの非常に重要なケーススタディーをするべき場所だという位置付けも、当然非常に重要なのではないかと思っています。
【藤井主査】  ありがとうございます。
【榎本委員】  どのような情報のピースがあって、どこに存在しているかというのがうまく見えていないというところに関しては、科学者、研究者も数年前までそういう状態でして、たくさんの方が北極に行っているにもかかわらず全体像が見えないということで、研究者はそこで、全体を見られるような仕組みを作り始めました。例えば山口委員の北極航路の科学的な研究発表の会場の半分以上が企業の方が参加され、熱心にメモを取っていかれます。また、白山委員がおっしゃられたグローバルという観点に関しては、アラスカで開催されました北極科学サミット週間でも、中緯度の国、イギリス、ドイツ、日本、韓国などの非北極圏国が呼ばれ、北極に関するそれぞれの国の考え等が聞かれるという場面がありました。
【池島主査代理】  この審議に当たっての論点というところの1番に、立ち位置という形を明確にした上でと書いてあるので、つい、この立ち位置が明確になるかのように感じて、様々な方向性を探っていくのかと思うのですが、そもそもその立ち位置を明確にした上で研究者がこれまで研究を行ってきていないという現状があるわけです。研究者は、それぞれ国の政策とか北極政策というものを必ずしも意識していない。分野によってそれぞれ特色があるというのは確かです。ただ、分野によっては、去年北極政策が出たけれども、ようやく国の政策が出てきたと。でもだからといって、北欧の国やロシアと違って、日本に北極学というものが、そもそもない。だから雪氷学とか雪とか科学の分野でそれぞれ、資源とか、船舶に関するようなものがあって、北極全体として見定めて何か政策に関わるようなものがなかったり、ほとんどそういうことは意識されていなかった。ですから、この戦略委員会を作った際には、これまでのことを踏まえてもう1回構成し直せと言っているのか、それともそういうことは考えなくていいのか、そういうことまで結局は踏み込んだ議論が出てくるのではないかなと思います。そうしないと、「諸外国の動向を踏まえつつ」と見て、基本的な考え方は、結構、総花的でもあるし、内心は北極航路とか資源開発の経済的な可能性だけを見ているという考え方もいけないわけで、そこのところを相当考えるとなると、かなり短期では結論が出にくいかもしれない。ただ、いい機会ではあると思うのですが、やはり全体をまとめるような見方というものが果たしてどこまであるかということは、非常に大きな考え方だと思います。
【藤井主査】  この委員会を通して俯瞰的に全部見て、全体を押さえるということはできるのではないかという気がします。

【浦辺委員】  1つ、非常に重要なのは、やはり国連の海洋法の中で、200海里まではそれぞれの国のEEZですが、200海里を超えるところは、海底ではなくなってしまうので、海面は、当然のことながら残るわけです。だからそこにおける科学調査というのは非常に今後とも重要な点だと思います。ですから、どこかの国に海底及びその下が属してしまう前に、やはり北極の公海域における科学調査の自由というのは必ず守っていかなくてはいけない。ところが、そういうものは資源調査目的等との理由で禁止、あるいは許可を与えないとか、様々な動きが世界的には出ています。だから北極海でも北極の国だけで、公海域に関しても調査は行わせないという動きは当然出てくると思います。ですから、その前からきちんとした研究もしていて、そういう枠組みを使う研究の中できちんとした法の支配や海洋法の厳正な適用などは、国として、産業とは別に強く主張していく必要があると思います。
【池島主査代理】  その点で、国際法という観点から委員がおっしゃられた点は非常に重要で、公海の部分については、その残っている部分、今、氷で覆われているけれども将来的には溶けるかもしれないということで、その公海部分の漁業に関する規制や今後の取組をどうするかというのが、AC議長国のアメリカが中心になって研究調査、それから諸外国との交渉というか協議が始まっています。韓国でもシンポジウムがありましたけれども、そこで例えば日本や韓国という話が出たように、今後どのような立ち位置で公海漁業の資源維持や利用に関わるのかということを伝えなくてはいけない。その際、日本の漁業政策をどうするかというところまで、水産業界でどれだけ決まっているのかという話になるということですので、そこまで踏み込んで考えておかなければいけないというのは、行く行くはあると思います。
【藤井主査】  恐らく科学技術で、これまで自由にやっていたので保証されるべきだということは非常に言いやすいと思いますが、海洋法などを議論する際に、国際的にどういう条件が必要ということは言えると思いますが、主として議論していくのは、例えば外務省等ではないかと思いますが、その辺は具体的にはどうなっているのでしょうか。
【浦辺委員】  北極担当の大使もおられますし、基本的には、前面に出ていくのは外務省だと思います。海洋法に関しては専門家の方もおられるから問題はないのだけれども、日本の産業界等でどうしても守ってほしいなどというのは、やはり専門ではないので分からないので、そういう意味ではこういうところで議論をして、何が日本としては守るべきものなのか。それは、サイエンティフィックにはもちろん環境であるとか漁業資源であるとか様々な、そこが何か変なことが起こると日本にも影響があるから、これは何とかという、どうしても譲れないところというのはあると思いますので、そういう情報を取りまとめて、可能性としてでも挙げていく必要があると思います。
【藤井良広委員】  ここではやはり研究、科学技術の研究の戦略性ということに絞っていて、その戦略性の中に外交とかそういうものが入ってくると。かつ、ここでは、我が国の立ち位置は、やはり北極圏国ではないというポジションです。その国々の中で基本的な科学技術の優位性というものを踏まえて我々がどう働き掛けていけるのか。ここになってくると外交になってきますけれども、そういう問題提起はできると思いますし、むしろした方がいいと思います。
それから企業に関しては、市場性がないと、研究だけ、調査だけで終わってしまいます。その市場性の部分というのは、この研究開発の中から出てきた様々な働き掛けをしていく展望が見えてくれば、明日にでも動き出しますので、あまりこちらで考えなくてもいい。ただし、1つ最近の傾向で言えば、環境問題と絡んで、環境法までいかなくて、ソフトローみたいなところで、あるいは会計やガバナンスの部分とか、そういう部分でかなり動きがありますので、それもここから1つ問題提起として、分析するのではなくて、彼らが動き出すとすれば、もちろん法的な枠組みができるのが一番望ましいけれども、できない段階でもどんどん欧米の企業も動いていますので、そういうものに、我が国の企業なり我が国の法体系も準備というものが要るのではないかということぐらいは言ってもいいのではないかという気はします。
【藤井主査】  今のような視点を我々としては常に持ちつつ議論を進めていくという形で、特に先ほど、サステーナブルなディベロップメントを今あるものの中で最後までつなげていくという話や、情報をしっかり整理できるかという話もありましたので、常にその辺のところを頭に入れながら、スペシフィックな科学のターゲットを見るだけではなくて、そのたびごとに少しずつ議事録等に残して、最終的な提案を作れたらいいかと思います。最初から全てやるのはちょっと難しそうなので、今回はそういう整理で一応スタートをかけさせていただくということでいかがでしょうか。それでは、今回時間的な制約もありまして、全てはできませんでしたが、事務局がいろいろな先生方とも相談して、まとめていただきました。それが資料4と机上配付ですけれども、まず資料4の方について説明いただきま、その後に榎本委員のお考えを今回は示していただいて、次回以降、どうリバイズするかというのをここでお諮りしたいと思います。
資料4を小酒井企画官からお願いします。
【小酒井極域科学企画官】  それでは、資料4を説明します。
前回、指摘のございました課題等を整理した上で、国際動向も踏まえつつ日本の現状ということで整理しました。まず1枚目ですけれども、諸課題としまして、1の温暖化増幅から13のブラックカーボン、雲・エアロゾルの変動と効果といった課題を挙げた上で、これまでの動向、取組状況等ということで、一番左の欄が北極研究に関する世界の動向、諸外国における北極域研究の動向、さらには我が国における北極研究の取組状況等ということで、2枚目以降、その研究基盤ですとか、我が国の国内研究拠点の整備、国際連携拠点の整備、コミュニティー形成と情報発信、さらには人材育成といったことで縦に整理しています。横の欄は、GRENEプロジェクトが始まる以前、1990年ぐらいから2010年ぐらいまでの動向、その次がGRENEプロジェクトが走っていた2011年から2015年、その隣が2016年から2020年までの、現在進んでいますArCSプロジェクトでの研究期間、2021年以降といった形で取りまとめました。
一番上の北極研究に関する世界の動向ということで、例えば北極評議会や国際北極科学委員会の設立。2011年から2015年のところには、日本がACのオブザーバー参加等を記載しています。
次の、諸外国における北極域研究の動向ですけれどもEISCATプロジェクトへの参画ですとか、GRIP、NEEM、IABPの研究動向等を記載しています。
2011年から2015年の欄を縦にご覧いただければと思いますが、まず黒と黄色の丸数字がございます。この丸数字は上の研究課題の番号に対応しています。黒い数字で書いているところは、どちらかというと研究者グループあるいは研究者個人レベルでの研究を意味しており、色が付いた、黄、緑、赤の数字のものは、ある程度国家的なプロジェクトとして予算措置されているといった形で整理しています。
2ページ目の研究基盤については、「みらい」による観測や自律型無人潜水機、遠隔操作無人探査機等の開発等や水循環変動観測衛星「しずく」や陸域観測衛星「だいち」について記載しています。また、黄色で囲んだEISCATのプロジェクトの状況や雲レーダー、小型の航空機、地球シミュレーター、ADSの整備等といった項目について記載しています。
その下の研究拠点の整備につきましては、海洋研究開発機構、国立極地研究所にそれぞれセンターが設置されてところですが、2016年には北海道大学を含めた3機関で、共同利用・共同研究拠点の文科大臣認定を受けたこと。また、国際連携拠点の整備では、これまでニーオルスン基地の整備等々を行ってきましたが、2016年以降、カナダのCHARS等の建設を予定しています。また、北極コミュニティー形成と情報発信では、ADSを活用した情報提供ですとか、北極環境研究コンソーシアム、JCARの設立等を記載しております。
人材育成としては、GRENEプロジェクト、あるいはArCSプロジェクトでの若手研究者の海外派遣ということで、整理したのが資料4です。
【藤井主査】  説明について質問等ありますか。そもそも諸課題の13の分け方自体、非常に大きな課題と、スペシフィックな課題も入っておりまして、こういうのも比較的整理をしていく必要があると思います。
【山口委員】  記載されている課題を現象としてまとめたため、出口が見えない。これは10年、20年やって、どういうパラダイムが築けるのというのが全く見えない。こういうふうに俯瞰できるのはとてもありがたいが、もう一工夫が必要。
【藤井主査】  本日は、榎本委員に、一つの整理として、御発表いただいて、その中で出口、それから何が残って、次のArCSの後には何が残りそうかなど、全体を見渡した上で、何が行われつつあるのか、今後何が必要かという議論をしていただきたいと思います。
【榎本委員】  資料4では1990年から2011年以降に関する感じで、横軸には年表、時間軸、縦軸には世界諸外国、研究対象、あと基盤、技術等に関係するところといったものが入っていますが、横軸では、私の資料の方は2011年のGRENEから、2016年に新しくスタートしたArCSでの取組に焦点を当てています。
2011年にGRENEが始まる以前は、研究者同士のお互いのコミュニケーションが大変不足していて、それがこの2011年以降緊密になったというところです。2016年以降はArCSということで、以前は、密になったといっても、それは自然科学だけでしたが、以降は社会科学、人文社会との関わり、あと政策決定というものを意識してのプロジェクトというのが2016年からの横軸の時間軸になっています。
縦軸の方ですと、私の本来は科学が主に中心ですけれども、世界の動向の中でIASCの方が北極評議会よりも先に設立されていたというように科学が先導していまして、その後、政策を決定、議論する評議会が設立されていたという背景があります。資料4の2011年-15年のところでは、日本のACオブザーバー国参加の承認というのがありますが、実は日本以外にも、韓国、インド、中国、シンガポールなども同時に承認されていまして、急に北極圏以外の多くの国の参加が承認されたということで、北極はもはや北極圏に閉じた世界ではなくて、グローバルの中で見ていこうということがが評議会側からも示されたのではないかということで、それに対応するような研究課題もGRENEの中で取り組まれました。
資料4の最初のページの下の方に研究対象、ジオスペースから人間と社会まで入っていますが、資料4では丸番号で書かれていますが、それぞれの専門家の方は何をやっているのか分かるのですが、この丸の番号だけでは、どこまでできて、どこが抜けているのか、何をやっているのかというところが分かりにくいと思いましたので、少し、基本的な方針や進捗状況を簡単にまとめました。ただし、ジオスペースと、人間と社会というところでは、今回GRENEが終わったところで、GRENEの成果を基に組み立てるには少し情報が少なかったので、GRENEで主に扱った海洋・海氷、大気、陸域、氷河・雪氷について触れています。それ以外のところは専門家の方に御議論いただきたいですし、大急ぎで、個人的な情報の範囲からスキャンしたため、抜けているところが多くあります。そういったところは御議論いただければと思います。
それでは、我が国における北極研究の取組状況というところで、資料は4ページあります。一番左の大きな縦長の、温暖化の解明から国際的な指針というところは、この検討会で御議論いただきたいことなので、私の方から提案ということではありません。
最初のページは、氷河・氷床・凍土・積雪に関して、まとめました。
氷河・氷床では、IPCCレポートが出ますと、まずグリーンランドの氷床が解けて海水準が上がっているといったことが出てきます。陸上の雪氷が溶けて海に入りますと海水準が上がるということで、陸上の雪氷の縮小が大変話題になっていますが、氷河・氷床と一言で言っても、それぞれ時間的な応答が異なり、山岳氷河がかなりの数がありまして、既に変化が始まって、しばらくすると溶け切るものは溶け切ってしまうという状況になってきています。それを引き継ぐように、21世紀に入ってからはグリーンランド氷床が融解を始めました。南極はまだ変化が出ていませんが、次にスタートを切るとしたら南極というのが将来起こるかもしれないと思います。それで、氷河・氷床の融解、次にスタートを切り始めたグリーンランドの氷床、それがどういった海水準に影響を与えるか、グローバルな問題というところで、日本はモデル研究の強みがありますから、そういったところの観測とモデルというところをここに入れてやってきています。
グリーンランドに関する研究テーマですと、氷が溶けている、あるいは体積が減っている話題が出ますが、溶け水になって海に入っていく以外に、氷のブロックのまま海に落ちてくるものが半分を占めているといいうことがしっかりと把握されていなかったというところで、不確定要素を大きく持っていました。そういったところの研究が始まりました。近年ですと2012年にグリーンランド氷床の表面全域が溶けたというニュースが流れましたが、北極海の氷が最低になったというニュースの1か月前にありました。表面が融解したというところで、国際的なコミュニティーは、その年の国際学会の発表は、どれだけ溶けたか、その発表で埋め尽くされました。ですが翌年、今度は、その溶け水がどこにしみ込み、どれだけ氷床を不安定にさせているか、いきなり崩れ出す動きに影響するというところになっています。現在は表面の融解をモニターする以外に、溶け水がどんな氷自体の不安定を及ぼすか、あるいは過去何千年、あるいは万年スケールの中で、そういったことが起きたことがあるのか、形跡はないのか、そういったところに研究の課題が進んできています。両方とも日本のグループはしっかり関わっています。
もう1か所、その結果生じる環境変化と社会への影響というところで、自然科学者は、グリーランド氷床は岩の上に氷が乗っているイメージですが、実は周りに住んでいる方たちが多くいます。漁業も行われていて、先住民の方もいる、あと、交通のルートになっていて、グリーンランドから崩れ落ちてくる氷の塊、あるいは排出されている大量の淡水がそこにどういう影響を与えるかというところが社会の関心です。日本に対してもそういったところの応援が求められています。こういったところについて、GRENEで最初の融解の研究は始まったわけですけれども、社会への影響というところではArCSの中で関わりが含まれているところです。
積雪に関しては、北極海の海氷縮小、あと氷河の融解、それと同様に積雪面積が早く減少してしまう、ある意味消えてしまうということが分かってきました。この30年間でユーラシア大陸の西側の方では、1か月近く積雪期間が短くなったということが分かってきています。それが人間の生活圏あるいは植物、土壌、そういったところにどういう影響が与えられているか、あるいは今後どうなっていくか、さらに将来はどうなるのかというところが積雪の関心になっています。これに関しては、日本が持っている衛星データがここで大変貢献していて、国境を越えた北半球全部のモニタリング、そういったことも行われています。
あと、積雪の中にはブラックカーボンが含まれていて、それが話題になっていますが、幾つかの地域に限ってですが、日本のリサーチグループが入っていってサンプリングも開始しています。
3番目の永久凍土、凍土については、永久凍土の変遷のプロセスについては、未実施となっています。IPCCレポートの中でも、これまでのレポートの中では余りしっかり取り扱われていなかったというので、次のレポートではしっかり扱うという提案がされているところですが、日本のコミュニティーは、実力はありますが、断片的な活動しかできていないという状況にあります。国際的なところでも期待されているところですが、まだ対応できていないところです。
次に大気に関してですが、一言で大気と言っても、大変多様性があります。成分を見ているのか、あるいは気象予測、グリーンハウスガスのような長期の気候変動、温暖化を見ているのかというところがあります。
温暖化増幅については、北極が地球温暖化全体の中で特に顕著に早く変化している点の解明に対応していく活動です。温室効果気体・不純物については、グリーンハウスガスとして二酸化炭素、あるいはメタンの放出。これについては91年、IASCが設立された時期から日本はモニタリングを続けてきました。かなり長いデータを続けてきた蓄積があります。さらに、二酸化炭素だけではなく、メタンやそのほかの温室効果気体への関心にもつながってきています。ブラックカーボンについても北極圏の気候にとって重要ですが、グローバルに広がるもの、あるいは長距離に輸送されるものというのがありますので、各国からのインベントリーの提出が要請されている状況です。二酸化炭素あるいはブラックカーボンを、それぞれの国がどの程度出しているのか。それが提出されますとルールの取り決めなどに入っていく可能性があるというところで、ここはGRENEでのプロジェクト活動に引き続き、ArCSでも活動に入ってきまして、特にインベントリーを提出した後の国際的なルールがどう決定していくかというところでは、国際法関係の方々などに関わっていただき、ArCSで新しい取組が始まった段階です。
北極-中緯度気象連鎖については、日本、韓国、ヨーロッパの中緯度の国や、アラスカを除いたアメリカなどの国々が北極からの寒波の影響を受けるということで、北極の変化、海氷の減少に伴う地表面状況の変化が中緯度の国を脅かしているという認識が、近年非常に高まりました。北極の変化は北極に閉じたものではないというシンボルのようになっていますけれども、ここに日本もかなりの力を注いでいまして、成果も上げてきています。特に北極と日本をつなぐ偏西風のルートですとか異常が伝わっているルートというところでは、世界的にも進んだ活動がありまして、WMOが主催した北極の気候変動予測を改良するプログラムが動いていますが、日本が先陣を切っていい成果を出しているということで、一つのモデルケースとして日本は評価されています。こういったところもArCSとして行っていくところです。この最後の気象予測というところでは、中緯度への影響もありますが、もちろん北極海での予測の向上というのもありまして、これは北極航路を通る船の安全航行のための情報として、一方で有用なものとなっています。
海洋・海氷・生態系について、海氷の減少については、なぜ海氷の減少が起きているのか、海洋の中でどう構造が変わっていくのか。氷が減った後の広がった海水面、水が広がっているところですが、そこでどのような変化が起きているのか。大気と海が接する面積もそこで増加しましたし、ガスの交換、波浪の発生なども増えてきています。もちろん人間の産業活動もそこに入っていくわけですけれども、そういったところの将来予測。先ほどの気象予測の方はもっと短期間でしたが、海洋を含めた予測になると長期間見ないといけないというところがあります。
海氷については減少状況を端的に見せてくれるのが人工衛星観測でして、これはJAXAの、水循環観測衛星「しずく」が、マイクロ波により極域の極夜の暗い時期、あるいは夏の霧や雲で覆われている時期も観測可能というところで、世界最先端の海氷観測情報を出しています。面積だけではなく、現在関心は、氷の厚さに移ってきています。更に、夏の最少時期だけではなくて、春、どれくらい急速に消えていくのか、あるいは秋にどれだけ急速に戻ってくるのかといったところも大変な関心事となっており、通年観測や、氷の下で何が起きているのかといったものについては観測体制、観測の技術が求められています。
北極海の氷の上は、ロシアが1931年から漂流ステーションというものを維持してきましたが、最近氷が割れてばかりなので、その観測を諦めました。このため、氷の地域の情報が今急激に空白になってしまったというところがあって、どこかの国がそこに行って、何か調べてくれないかというような状況です。ただ、定常的にやるには大変なので、海氷のところの下から4行目、MOSAiCという活動が今提案されていて、どこかの国の砕氷船を北極海に1年置いてくれないかと。そこでドイツが砕氷船を置くことになりました。1年間、ドイツの砕氷船を北極海の真ん中に漂流体として置く。国際的な研究、国際的なネットワークで研究者がそこに行って観測するということを、1年だけ行います。そこでどれだけ成果が出るかというところですけれども、そういったキャンペーン的なものが予定さており、日本からも乗船して観測することがArCS等でも予定されています。
あと、生態系のところでは酸性化が大変重要な問題になっており、海水面、氷が減って開いていく海の中に対してどんな変化が起きているか、大きな懸案事項があります。これもGRENE、ArCSで取組んでいます。
陸域環境、陸の生態系に関しては、生態系という言葉が入ると、急に時間スケールが長くなります。1回行った観測だけではなかなか成果が出ない、長期のモニタリングが必要になってきます。あと将来どう変わっていくかというところも、精度のいい、長時間積分できるような情報が必要になってきますが、大変難しいところです。
北極域地表面、多様な表面が広がっていますので、あと国境があり、接近しにくいところもありますし、長期観測が難しいということで、これはそれぞれの国が自分の担当地域をカバーするようなところがありますが、それだけだと偏りがありますので、陸域観測ネットワーク、INTERACTという活動がありますが、EUが呼び掛けまして、国際的に、カバーするレンジをマッピングして、抜けているところがないか、そういった国際的な呼び掛けも行われています。最終的にそこで活動するかどうかは、それぞれの国の活動次第というところで、日本もそういったところとのやりとりを続けながら、領土もありませんし、入っていけるところはわずかですが、重要な観測サイトはスーパーサイトとして設定して、モニタリングするという取組が行われているところです。GRENEでもそういったところは一部行われました。
陸域の水循環、これは実は余りこれまで行われていなくて、陸と海と大気をつなぐというところが大変難しいテーマになっています。特に陸と海をつなぐというところでは、水と物質が河川を通じて回っていくところで、ここは大切なところですが、まだ河川のコミュニティーと陸のコミュニティー、河川というか海のコミュニティーと陸のコミュニティーがまだしっかりつながっていないところがありまして、一部の研究者による先進的な解析結果はあるので、かなりリンクしていることは分かっていますが、まだまだこれは未着手ということになっています。
生態系、森林域、ツンドラの植生、こういったところもGRENEの中ではいろいろ観測ラインを定めて見ていくということをやりましたが、従来信じられていたマッピングの情報はかなり怪しいと、出来上がっているものを信じないで、作り直さないといけない、あるいは気候変動によって、それ自体がこれから書き換えられる状況になってきているという指摘がありました。そういったところのモニタリング体制も望まれている状況です。
【藤井主査】  今の説明に対して御意見や御議論いただきたいと思います。
【三枝委員】  GRENEが開始されてから比較的個別に行われていた研究が大分まとまってきたというお話を伺いまして、そのとおりだと思いますが、これからのことをお話しいただくのであれば、例えば大気のグループ、陸域のグループ、海洋のグループの個別の研究が、さらに統合的な知見になって、例えば北極域全体の大陸スケールで温室効果ガスが、どこかで吸収が増えているのかや、放出に転じているのではないかなど、少しスケールの大きい知見に持っていくところが、多分GRENEのところで既に着手されていると思うので、そのあたりを強調して、次の5年はそういうところをさらに加速するというようなお話が見えるようにしてはいかがでしょうか。例えば、もう既にボトムアップ的なデータと、そのインバージョンなどのトップダウン的なデータを使って、モデル比較、複数の方法を使って不確実性を減らしながら、大陸スケールの発生・吸収量の長期トレンドの検出くらいまで行っているはずだと思うので、そういうところをこれからはさらに強化するとすれば、例えば海氷がこれからさらに加速的に、正のフィードバックがさらに進むところはどのあたりであるかとか、そういうもう一歩先の知見に結び付くような気がするので、そのあたりを強調していただけるといいと思いました。
【藤井主査】  ありがとうございます。
【榎本委員】  情報の共有とモデル計算などでは、いろいろトライアルを行いまして、失敗も成功もいろいろ経験して、進むようなところができてきているかと思います。私のこの資料の中では、現在と、開始間もないArCSまでしか書いていなくて、将来のところは触れていないので、そういったところは将来重要なポイントの一つになると思います。
【藤井主査】  やはりGRENEのところで何が分かって、分かっていないのがあったので、ArCSで少し形も変えながらさらに発展させたかとか、そういうところも知りたいし、それから、今言われたような、これはいわゆる原因と結果とその効果みたいな形で書かれていますが、大本の温暖化に対する解明とか、どういうふうにつながっているのか。この各々のピースがどのようにつながっているかというのを、どこかのレベル、スケールでまとめていただきたいと思います。
これは第1回目ですので、こういう形で出していただいたものを、さらに今後リバイスをかけていきますが、最後に御提案したいと思いますが、人文・社会科学に関しては、次回以降に同じようにこういう形で作っていただいて、夏を目途に粗々のドラフトみたいなものができれば良いと思っていますけれども、こういう中で、どういうことをさらに明らかにしていくと全体像が分かって、よりよい計画づくりになるかという視点もありますので、是非いろいろ御意見を頂きたいと思います。
【杉山委員】  まさにこれだけ並べていただいたのは、現在、研究現場で行われていたり、解明しつつあるという、それぞれのピースだと思います。これはどちらかというとボトムアップというか、現場からの情報を榎本委員にたくさんまとめていただいて、これがまとまったということが一つGRENEの成果だと思いますけれども、既にGRENEで行われつつあると思いますが、今、三枝委員が言われたような、これらが連携して、1つのもう少し大きな目標に取り組むというようなことが実際にGRENEでも行われて、なおかつArCSでもそれを目指していると思います。その先にあるのが、最初に出てきたような、私たちの国の立ち位置というか、日本が強みを生かして、また国際社会の中でどんな部分を担って、どんな部分で強みを発揮していくべきかというような最終目標に、こうしたピースがどういう貢献ができるか、その間をつなぐような議論ができると良いと思います。
【藤井主査】  ありがとうございます。
【谷委員】  GRENE、ArCS、その先という記載があります。5年のプログラムなりプロジェクトが進んできて、その5年、立案したときはそれでいいと思いますが、その5年先に、さらに観測を継続できるというコミットはないわけです。そうすると、例えば人を雇ったとか、観測機器を設置しに行ったどこかの国にといっても、5年間置いて、5年後に、撤収しろというような話になってしまうわけですが、実際は10年とか20年観測しないといけない話だと思います。
今の予算の付き方で見ると、どうしても見直しがあって、5年たったら、また新しいのをうまく考え付いて、立ち上げて、その都度プロジェクトが変わるので雇用関係もやり換えるし、機械も買い直すということが起きるのではないかと思うのですが、それは長期の、ロングレンジのモニタリングという点で、余り望ましくないのではないかなと思います。
GRENE、ArCSというふうにやっていくと、やはり5年後に次の名前を考え付いて、とれたやつはよかったね、続けられるねというし、とれなかったら、それはやめてしまうしみたいなことになると思いますけれども、そうではないのではないかなという気がします。どのようにしてそれをカバーしていくのかということを考えないといけないのかなというふうに思います。
(ここまで)すごくよくまとめられて、これを見ていると、うまくいっているな、できないところは大変だろうなと思いますが、書かれていないところが目に付くような気がするので、それが1つ目と、また書かれていないことですけれども、私は海底地形図を作る国際プロジェクトをやっています。北極海の海底地形図というのは粗々のものがありまして、皆さん使っていますけれども、まだ粗々なんです。細かい海底地形図を作ろうという努力をしている国があって、それはびっくりするような答えが出ている。例えば氷床が海底に押し寄せていって、跡形を海底面に付けて消えていった、その海底地形を見て、昔そこで何が起きていたか、氷床がどこまで延びていたかとか、どう動いたかというのが見られるのですけれども、たまたま日本にはそういう分野の学者さんがいないものですから、この項目全体の中に出てきませんけれども、世界でやっていて日本にないものがあると。それはやらなくてもいいのかもしれませんけれども、私はたまたまそういう北極海の海底地形図を作るプロジェクトにもかんでいるものですから、ちょっと寂しいなということです。
それからもう一つは、情報の管理ということがありまして、得られた観測成果なり研究成果なりというものが国際的にワンストップになるようなものを作るというときに、論点の方では、そういった国際的なデータの共有に我が国も参画すると書いていますけれども、これはありませんので、我が国が構築して日本がリードすると言ってもいいと思いますけれども、ただ、これも必ずしも日本が強くないので、どうするかということを決めないといけないですけれども、強いリーダーシップを持って情報の管理を統合するというと、北極圏の外の国として、全体のデータを地球規模でまとめますよというメッセージというのは強いものがあるのではないかと思います。
【藤井主査】  どうもありがとうございます。
【山口委員】  GRENEのときは極地研という組織で、個人が集結して、一生懸命研究し、科学的にいい成果もたくさん出た。ArCSで一番大きなのは、やはり組織として作ったということではないかと思います。これをやはり永続していきますと、5年以後も、ポストArCSでも、そこが中心になって日本の北極研究を進めていくという議論になれば良いと思います。今、谷委員がおっしゃったのもその一つだと思います。こういうことがあるから5年で切ってはだめですよというふうな議論をここでやるべきではないかと思います。
【藤井主査】  そのためにも、この期だけではなくて、長期的な重要性みたいなものを議論しておく必要があると思います。やはり将来的にも、当然漠然となってくるけれども、こんな重要なことがあって、少なくともここで終わらないというのは当たり前の話なので、いかに科学的にアイテムをきちんと出していくか。科学技術の進歩もありますので、そこをきちんとここで出せるかどうかが非常に重要かなと思って、このような提案をさせていただいています。
【杉山委員】  私は氷床の研究をしていますが、ここに並んでいるように、GRENEやその前までは、やはり海洋の人は海洋を見て、氷床の人は陸の上の氷を見ていたのです。それがGRENEで5年やるにしたがって、私でさえ氷床が海に流れ込んで海底とインタラクションしているというのを見て、理解が進みました。海洋研究は日本の一つの強みだと思うので、それが頭にあったので、氷床研究で世界にアピールするならば、海洋研究者と組んで、その氷床と海洋の海面、境界をやるべきではないかと自然と思い付きました。
まさにそういうことを谷委員が思い付かれたというのは、それが一つの我が国の強みを生かして、北極研究の幾つかのところで存在感を出していく、示唆の一つではないかと思いますけれども、そういった例がまだ幾つもあるのではないかと思いますので、是非情報を出していただけたらと思います。
【白山委員】  3つほどあります。まず1つは、これはもちろん今の取組のレビューなので結構ですけれども、今後戦略委員会として議論するとすれば、やはり北極のサイエンスで、谷委員がおっしゃったとおり、今後の重要なポイントは、どこかの1か国ができるものではないので、国際的な何か研究がしっかりとできる必要があるということは明確だと思いますが、そのときの基本的なポリシーとしてのオープンデータサイエンスというようなポリシーを明確に出すということが1つは重要なのではないかということを。これは個々を語っている限りは出てこなくて、もっとオーバーオールのポリシーとして是非出していただけるといいと考えました。
もう一つは、技術開発等の部分が非常に脆弱でして、必要な技術としてこういうものがないと今後の北極の研究開発は前に進みませんと、そういうことで明確な必須の技術みたいなものもしっかりとリストアップするというか、ディスカッションするというか、そういうことをお考えいただく必要があるのではないかと。もちろんプラットフォームもあるかもしれませんが、いろいろあるのではないかと思います。
最後が、やはり北極研究に対して税金を使って行うという観点からは、パブリックのサポートとか、そういうものも必要な案ではないかというふうに思います。例えば、フランスの有名なアパレルメーカーのアニエスベーというのがありますが、そちらはタラという研究船を、私財をなげうって造って、来年か再来年ぐらいから、1年以上かけて北極の氷に閉ざされる観測をやろうという計画があります。そういった強い民間のコミットメントがヨーロッパではあるということも認識をしておく必要があると思います。つまり、どうやれば民間のコミットメントが得られるかとか、あるいはサポートが、社会のサポートがあれば、先ほどの谷委員の御心配もはるかに軽減されるはずですし、そういうことも少し、ここの戦略としては考える必要があるような気がします。
【藤井主査】  どうもありがとうございます。
【藤井良広委員】  まさに研究戦略としては、中国をはじめとする諸外国同様、国の予算だけに限定する必要はなく、民間が資金を導入するような魅力的な枠組みを作るということだと思います。北極圏国でない我が国に、ほかの国なり、日本企業だけに留まらず、アップルやマイクロソフトも協力してくれるかもしれない。しかし、それはやはり北極研究という共通の財を安全に、かつサステーナブルに開発していくという共通の課題を踏まえた提案、枠組みを、我が国が示せるかどうかです。これだけの材料があれば、私はできると思いますけれども、是非そういう方向でまとめていただきたいと思います。
【池島主査代理】  南極に関しては、国策として、当初から、日本が南極の観測調査を行い、日本も多大な貢献をしてきており、今日まで南極観測調査というのは一種の国策であり続けているわけです。
北極については、少なくとも北極政策というものができたわけですけれども、今後そういう、国策というか、国の形での何らかの大きなプロジェクトというのか、施策になっていくのかということが、問われているのだろうと思います。それが立ち位置ということを示す位置であろうし、それほど大きくしないでいいという立場の人もいれば、オール・ジャパンで全部をやる必要があるんだと、それだけのものを、この5年間のArCSというものだけではなくて、国全体としてもっと幅の広い、盤石な何らかの科学的な枠組みとかパラダイムというものを作るのだということなのかどうかが結局は問われる。そのためには5年ないし10年、もっと先に続けていく。実際オブザーバーになった以上はやめられなくなったというのが事実上、我々の立ち位置かと、そのためのものを考えて、ここで戦略として出していく必要があるのではないかというのが感想です。
【藤井主査】  今の南極との比較も含めて、非常に難しい問題ではあると思いますが、文科省側の方としてはどういうふうに考えていますでしょうか。
【林海洋地球課長】  北極の問題というのは、南極に比べてちょっと立ち位置が違うのは、元々南極というのは、大陸があって、南極条約があって、世界で協力していくという枠組みがあって研究開発が始まったと。北極は元々、それぞれの国の領海であったりEEZであったりと、少し政治状況が変わった中で、少し研究もできるようになって、1990年代ぐらいから研究が進んできたということで、少しスタートや置かれている環境が元々違ったということがあると思います。
元々こういう長期的な観測というのは、我々としては大学なり研究機関で、運営費交付金で長期的に進めるべきものであると思いますが、そういった経緯もあって、ここ数年で相当盛り上がりを見せたということで、後からプロジェクト的に立ち上がってきたと。
やはりプロジェクト的にやるということになると、ある程度の期限を切って、評価をしっかりしながら、善し悪しをしっかりチェックして次に進んでいくという、これが通常のやり方になっていくと思いますが、昨今、政策も状況もかなり変わって、海洋総合政策本部の方で北極政策が昨年作られておりますけれども、そういった全体の場の中で、少しずつその政策の位置付けも変わってきて、やはり長期的にやらなければいけないということになると、その辺のこともやはり踏まえて、少しお金の出し方も、きちんと考えていかないということになるのだと思います。
現在は、昨今のその重要性が急激に増しているという観点からプロジェクト的にやっているということではありますが、こういうところでの検討も踏まえて、急に来年から長期的にはならないですけれども、ArCSの終わる頃に、ではどうしたらいいのかということは、きちんと考えていかなければいけないということだと思います。
【田中研究開発局長】  基本的に、この戦略検討会であまり条件を自ら設定しないで、大きな戦略として考えていく必要があるというのであれば、それはむしろ考えていただければというふうに思います。たまたま国は、こういう大体5年ぐらいの周期でプロジェクト設定をしますけれど、それは一種の手法の問題ですので、戦略とは本来別の話と理解しております。したがって、戦略としては例えば10年とか、場合によっては20年とか、そういうオーダーでお考えいただいて、それを当面の5年間はどういうやり方でやるかという、それは逆に言うと我々事務方に課せられた責任というふうに思います。
その上で、GRENEから、ArCSに移る過程で体制整備が図られたということを御紹介いただきましたけれども、そういう意味では既に体制整備していますので、ある部分では基盤的なこの体制の恒久整備ができていると思っています。したがって、あとは、プロジェクトというのは、予算のとり方の問題でありますし、この予算だけではなくて、もっと大きな課題が出てくれば、それは当然それに見合ったような枠組みを我々は考えるということは理解していただきたいと思います。
【藤井主査】  そういう意味でも、ここで、北極研究、技術開発も含めて長期的な重要性を作っていくということが非常に重要だという気がいたします。
そういう観点で、先ほど1つ出ましたけれども、もっと重要な問題もあるけれども、それが入っていない可能性もあるというような御議論があったと思います。これは前回のときも非常に強く皆様から出た御意見で、やはり網羅的に全部ある中で今どこをやっているのかと、それがどうしてやっているか、重要度もあるし、困難さもあると思いますけれども、そういうような仕分けです。それから、やはり国際的に日本はここを分担しているけど、もっと強い国があるのでそちらがやっているとか、何かそういう全体の仕分けが必要かなという気がします。
これが第一歩なので非常に重要だと思いますが、例えば酸性化、非常に重要だと思いますけれども、これが分かればいいのかというのは、私は素人で分からないのですね。だから、これを日本は今やっているけど、もっと重要なことがあるのかもしれないしという、専門家の方は分かっているかもしれませんけれども、これをやれば必要十分なのか、必要だけどまだ十分ではないのかみたいな議論をしていただけると、非常に強い案ができると思います。やはり限界を知るのは非常に重要なので、そういう観点でこれをポリッシュアップしていただくということができるかどうかなんですけれども、いかがですか。
榎本委員の方で、こういうコミュニティー、もう既にGRENEの方でやられているということもあるので、そこの結果も見ながら、全体のレビューの中からこういうものを作り出していくという、先ほど山口委員から出たように、技術の進歩というのもあるので、できないことはできないわけですね。だから将来はこういうことをやりたいというのもあるのではないかと思います。
技術の問題についても様々な基盤がありますが、この中をさらに具体化すればよろしいということでしょうか。例えば海面下の自律型の無人潜水機を開発するとか、さらにそれをもう少し開発するとか、いろいろあると思いますが、ここの部分を強めていくということでよろしいのでしょうか。
【山口委員】  こういう観測が必要だから、こういう技術が必要だというふうな言い方ですね。また、もう一つの技術の視点としては、産業につながっていく技術というのがあるわけです。それはこの枠組みを超えるとは思いますが、他省がどういうスタンスでいるのかまとめて欲しいのですけれども、そういう情報が出てくると、ここの議論もやりやすくなると思います。
【藤井良広委員】  同時に、ほかの国の体制はどうなっているのかという点や、北極圏国とそうではない国との、どうやっているのかというのも情報があれば非常にありがたいですね。
【榎本委員】  日本とEUを比較することはできませんけれども、例えばEUは、すぐEU内でコミュニティーが作られて、技術も持ち寄りがあります。例えばヨーロピアン予測センター、ECMWFというのがありますけれども、そういったところが北極の気象情報を全部まとめて予測する。ESAというところが衛星打ち上げ計画をずっと立てています。あとデータアーカイブ、先ほど共通のデータ、オープンサイエンスとかそういうのがありましたけれども、そこもある国が担当して大きなシステムを作り上げていくという、複数のそういった機関が、一緒にやる枠組みがあります。
【藤井主査】  さきほど、企業も余り積極的ではないという話がありましたが、他省庁ですとそういった企業との関係とかあると思いますが、大体の雰囲気でも教えてもらえますでしょうか。
【林海洋地球課長】  海洋本部の方で関係省庁の連絡会議を開催しています。北極海航路の件で、産業界との関係で今一番動いているのは国交省で、一、二年前に勉強会を立ち上げて、関係するような企業の方も入って、いろいろな情報交換というような場というのはございます。外務省はもちろん北極大使のポストも作りましたし、北極に対してどう日本の立ち位置を示していくかという観点からいろいろなことを、国際的な場にいろいろ出て日本の立ち位置を説明する等している状況です。
そういう意味で、今、海洋本部の取りまとめの下、特に海洋本部、政策の中でも、科学技術を生かして貢献していくということになっているので、そういう意味では我々が、これまでも研究開発を行ってきましたし、どういうことをやっているのかというのをもう少し各省とかにも知らせながら、進めて行くのではないかという感じです。
【藤井主査】  機器開発等ですと、現在やっている大型研究計画の方でやらなければいけないものもあると思います。ですから、長期の見通しがあれば、その開発も含めて、この場でこういうことが必要であるということを中長期の中で、提案していければ良いと思います。
【白山委員】  長期というものがどのくらいをイメージされているか、人によって多少違うのではないかと思いますけれども、海洋に関わることというのは、どちらかというと中期ぐらいの、変化率は陸上に比べてはるかに早いので、つまり樹木の寿命は100年単位ですけれども、海洋の生物がどんなに長生きしても、特に植物であればもう数か月のオーダーであるわけですから、どちらかといえばサイクルは早いということを意識していただく必要があります。余り長期という議論だけというのも少し不安でございまして、5年ぐらいのオーダーの話も少し、しっかりとしていただければと思います。
5年のターゲットが見えると、もう本当にここ1~3年でも、やはりある程度明確な課題というのも見えてくるのではないかと思います。
【藤井主査】  中期がなければ短期もないので、それをきちんと作るということかと思いますけれども、一方で、先ほど出ましたように、この課題自体が少なくとも5年で終わるということはないので、やはり長期の視点も同時に作っていくということを、この委員会でできたらいいのではないかと思います。
【山口委員】  産業にまで行くには10年かかりますし、構造物の寿命は20年、30年ですので、それだけの投資をするかどうかというのも大きな経済的なデシジョンですので、入れておく必要があると思います。
【藤井主査】  榎本委員にお聞きしますが、今1年とか2年で非常に変動があるといったときに、予算の面など、ArCS等で対応できる体制になっているのでしょうか。
【榎本委員】  ArCSはいろいろな範囲をカバーしていますけれども、カバーしていないところもあって、世界はどんどん進みつつあるけれども、日本が遅れている分野もあると思います。
【藤井主査】  その部分も含めてちょっと、先ほどあったような形で全体像をお示しいただいて。全部やる必要は必ずしもないわけですので、その部分を見たいということなのですが。
【三枝委員】  その時間スケールの話で言いますと、先ほどおっしゃったような1年、2年で素早く変動するものと、温暖化影響の検出や長期トレンドの検出となりますと、気候学的には30年ぐらい必要です。10年だと年々の変動が大き過ぎますし、温暖化の影響について長期トレンドを示すことが難しいので、どうしても30年となります。ただ、それは非常に基本的な気象要素ですとか海氷面積ですとか、海面と大気の熱交換量ですとか、基本的な量については長期的に行って、主要な複数機関がそのモニタリングを続けるというコンセンサスを共有した上で、戦略的に、複数の機関が協力して、その重要な項目については長期やる。その上で、例えば5年ごとの研究テーマでは、その長期のモニタリングをしながら分かってきた重点的に監視すべき領域とかプロセスについて、次の5年ではここを強化するというふうにやるのがいいだろうと思います。そのためにも、できるだけ早く、今まで出てきた知見を大陸スケール、10年ぐらいの時間スケールで、今どういう変化がどこで起きつつあるかという知見になるべく早く、全体見えるようにする必要があると思います。例えば、この辺でメタンがいよいよたくさん発生し始めたようだとなったら、そこに次の5年は集中投資をするとか、そのための技術開発をするとか、それが見えると非常に分かりやすい戦略になると思いました。
【谷委員】  今メタンの話をおっしゃいましたけれども、例えばシベリアで、日本もシベリアに出て常時観測をしていると承知していますけれども、それは広いシベリアのごく1か所とか2か所です。
ロシアがやっているかというと、実はほとんどやっていなくて、あの広いシベリアの中でメタンが、ツンドラでメタンがどう出てくるかという全体像を誰が知っているかというと、誰も知らないのです。日本がそのネットワークから抜けているのではなくて、世界中がネットワークから抜けています。そういう問題意識というのを世界に提示するとか、重点的にやるべき、本当に押さえるべきところを各国協力して観測するように、しかも長期のモニタリングをするように説得するとかということも、このグループが考えなければいけないのではないかと思います。
【藤井主査】  どうもありがとうございます。そうですね、まさにそういうことも必要ですね。人工衛星ではモニタリングできないのでしょうか。
【谷委員】  グラウンドトゥルースをとってというのはあるみたいですけれども、場所が限られています。
【三枝委員】  あと、大気のCO2、メタン濃度の観測点が、それでも少しずつ増えてきましたし、航空機観測ですとか温室効果ガスの衛星観測も増えてきましたので、いわゆるインバージョン解析、大気の輸送モデルと大気中の濃度から発生源、吸収源を逆推定するという方法が、過去5年ぐらいで大分分解能が上がってきましたので、5年前はすごく悪かったものが、分解能が少しずつ上がってきたので、次の5年で大分進むだろうと思われる分野でもあると思います。それが本当に出てくると、東シベリアや西シベリアでどれくらいの分解能で長期トレンドを出せるようになるのではないかという段階にあるのではないかと思っています。
【谷委員】  科学者として政策決定者に何を提供すべきかといえば、信頼できる事実です。インバージョンで出して説明しないと、政策決定者が動かない。彼らが動く程度にレゾリューションなり、精度を上げないといけないですけれども、まだそこまで行かないというところが怖いところですね。
【藤井主査】  今日の資料自体は、今の御議論のようにまだまだ改訂していくべきものと考えておりますけれども、さらに御質問とか御意見はありますか。
【浦辺委員】  三枝委員のおっしゃったようなことを全部日本でやる必要はないと思います。既に様々な取組が行われていると思うので、基本的にはこれまでのことをまとめて、今後必要なものの中で日本がやれるものというものを明確にしていく必要があると思います。その中で、例えばこういうふうな観測をすれば日本が世界的に非常に大きなコントリビューションができるというところが誰にも見えないので分かりにくい。だから、AUVにしても、カナダは氷床の下のAUVをこれから開発して、調査をして、何とか大陸棚延伸のデータをとろうとか。要するに地形図がない。ロシアは持っているけど公開しないので、データを誰が持っていて、誰が持っていないのかということが起こってしまっています。日本がとれるデータが一つの科学的な意味での政策になって、そこは日本に聞かなければいけないというものが出てくれば、法の支配的なものに関しても非常に発言権が増すのではないかなという気がします。次回は是非、何が足らないのかというのを教えていただくと非常にありがたいと思います。
【藤井主査】  コミュニティーの方に聞けば、ここは我々が絶対強いという部分があると思うので、多少バイアスが掛かってもいいので作っていただければと思います。
【藤井良広委員】  説得力のある俯瞰図としていくためにも、外向けには優先度を示していく必要があると思います。
【池島主査代理】  最後に1つだけ、資料3の主な論点のところの最後の方にありますが、ArCSを作ったのは、人文・社会科学分野と自然科学分野の連携とか何らかの協力関係とか、これをうまくできないかということで研究が進んでいる。そこがGRENEとの大きな違いであり、発展であると。そのときに、この北極研究戦略委員会としては、自然科学分野や技術などの研究に対し、人文・社会科学としてはどこまで関与して、どのぐらいの部分が大事なのかという話だと思います。
なぜかというと、地球温暖化の問題や様々な法的枠組み、国際法の枠組みというのは、全部そういう自然科学のデータその他を参考にして、いろいろな形での国際社会での枠組みづくりというのが始まってきました。そこに結局日本としてどのような貢献ができるかというのは、最終的には法制度を作る上で一番大きな関与です。それは大陸棚の問題であれ、それから深海底資源や、その他いろいろなところで関係してくる話で、行く行くは外交やその他のところに関わってくるわけですけれども、その架け橋というか、そういうものまでやるのかというところは、ある程度我々として考えておく必要があるかなという気がしました。
【藤井主査】  今回は、榎本委員が所掌できる部分を中心に作成いただきました。提案としては、今回できなかったところを専門の方に作っていただけないかというふうに思いますが、ジオスペースに関してもですが、今回は特に人間と社会のところは非常に重要な人文・社会科学関係の部分が作成されていませんので、責任者の方を決めて、その方が適切な方を選ぶとか、そういうふうにできたらと思いますが、今回作成いただいたものに対していろいろご意見等ありましたので、それも考慮しながら作っていただけたらと思います。フレキシビリティーを持ちながらより具体的な課題等をあげていただいた方がいいかと思いますが、どなたか適任の方はいらっしゃいますでしょうか。
【池島主査代理】  人文・社会科学ということでは、高倉委員がいらっしゃいますが、先生は文化人類学という分野で、それ自身専門性も高いと思います。
【藤井主査】  恐らく1人の方では当然カバーできないので、その方が知っている方を、グループを作るなどして、ひと月ぐらいで粗々のものをまず作っていただくというのはいかがでしょうか。
【榎本委員】  GRENEからArCSというところで、呼び掛ける仕組み自体はできているかと思いますので、お願いして探していただく。
【藤井主査】  そして、榎本委員にリエゾンをやっていただければと思います。
【榎本委員】  あと、話題としては、自然環境の方は長年のモニタリングとか、これから時間を掛けて調べるとかという、結構時間が、短期に変わるものも急激に起こるものもありますけれども、自然界がコントロールしていくものですけれども、人文・社会科学の方は、ある日突然、ある1年の中で急激に何か決められるという、かなり違う時間スケールが出てくることを読み取れるかとかという、そういったところがあると思います。
【藤井主査】  先ほど出ましたように法整備の問題もあるけれども、ローカルな方々のニーズなど、2つの面があります。
【榎本委員】  例えばアメリカが今、北極評議会の議長国をやっていますけれども、その2年間の間にアメリカが関わるところは結論を出そうしているとか、次はフィンランドですとか、そういういろいろな時間スケールがあると思います。
【藤井主査】  では、少し大変ですが、今のような形で高倉委員にお願いをして、それを榎本委員の方でサポートしていただいて、コミュニティーの意見を取り入れて作っていただくということでよろしいでしょうか。
あと、ジオスペースはどういたしましょうか。
【谷委員】  海底地形の世界でどうなっているかというのは、ある程度、頭の中にマップがありますが、ただ、我が国はほぼゼロです。JAMSTECが海底地形の調査をされていますが、それを使って何かするところまでは至っていません。ただ、そのJAMSTECがされている、「みらい」でされている北極海の地形データというのは、一番データの少ないところが測られているので、非常に感謝されます。
【藤井主査】  その辺もちょっとまとめていただけますでしょうか。
【榎本委員】  ジオスペースは高層大気の方ですが。
【藤井主査】  高層大気もありますね。高層大気は、三枝委員が研究されていますが、御本人がやるというよりも、その方が音頭をとっていただいて、まとめていただくということですが。
【榎本委員】  今回のこの情報を頂くために、私の研究所の方でもいろいろと声を掛けましたので、そこは、声を掛ける人は見当が付いています。
【藤井主査】  分かりました。是非コミュニティーに広く声を掛けていただいて、御意見を頂きたいと思います。是非よろしくお願いします。
できる限り網羅的にまず作っていただいて、その中で何をやるかというような観点でお願いしたいと思います。
そうしましたら、次回は、人文・社会科学のデータとジオサイエンスの部分について、粗々なもので結構ですので、作成いただくということにしたいと思います。

(議題2について)
【藤井主査】  その他ですが、事務局の方から何かありますか。
【山口海洋地球課長補佐】  人事異動がございましたので、ご紹介させていただきます。
4月1日付けで大臣官房審議官研究開発局担当として、白間が着任しました。
【白間審議官】  本日は遅れて参りまして、申し訳ございませんでした。4月1日付けで審議官を拝命しました白間と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
【藤井主査】  それでは、どうもありがとうございました。またよろしくお願いいたします。

―― 了 ――


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