資料1 北極研究戦略委員会(第1回)議事録(案)

科学技術・学術審議会 海洋開発分科会 北極研究戦略委員会(第1回)議事録(案)

日時:平成28年2月22日(月曜日)14時00分-16時00分
場所:文化庁5階 特別会議室
出席者:
 (委員)
池島 大策  早稲田大学国際学術院教授
榎本 浩之  国立極地研究所教授・副所長
三枝 信子  国立研究開発法人国立環境研究所地球環境研究センター副研究センター長
杉山     慎  北海道大学低温科学研究所准教授
高倉 浩樹  東北大学東北アジア研究センターロシア・シベリア研究分野教授
谷         伸  GEBCO指導委員会委員長
藤井 良広  上智大学大学院地球環境学研究科客員教授
藤井 良一  名古屋大学宇宙地球環境研究所教授
瀧澤 美奈子 科学ジャーナリスト
 (オブザーバー)
中村 卓司  文部科学省科学官(国立極地研究所教授・副所長)
 (発表者)
河野     健  国立研究開発法人海洋研究開発機構研究担当理事補佐
宮岡     宏  国立極地研究所国際北極環境研究センター副センター長
 (事務局)
田中 正朗  文部科学省研究開発局長
森     晃憲  文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当)
林     孝浩  文部科学省研究開発局海洋地球課長
小酒井 克也 文部科学省研究開発局海洋地球課極域科学企画官
山口     茂  文部科学省研究開発局海洋地球課長補佐

 議事:
(1) 事務局より、本委員会の主査の決定について報告。
(2) 事務局より、当日の議題・配付資料について確認。
(3) 北極研究戦略委員会(案)運営規則が原案どおり承認された。
(4) 藤井良一主査より、科学技術・学術審議会 海洋開発分科会運営規則第2条7に基づき、池島委員を主査代理に指名。
(5) 以下の議題について、各担当者より説明及び報告があった。
1.今後の北極研究のあり方について
2.その他


(議題1について)
【藤井主査】 議題に入らせていただきます。「1.今後の北極研究のあり方について」、事務局から資料に基づいて説明願います。
【小酒井極域科学企画官】 北極研究を含めました北極をめぐる現状です。初めに、昨年10月に初めて取りまとめられました我が国の北極政策についてです。
 資料2-1に基づきまして説明します。
 1ページ目、我が国の北極政策の策定の背景としては大きく2つあります。1点目は地球温暖化による北極海の海氷の融解によって、温暖化等の地球規模での環境への影響、北極海航路の活用、エネルギー資源の可能性、また、安全保障環境の変化によって、これは2つ目の丸ですけれども、北極をめぐる国際社会の関心が高まっているということです。
 その下の小さい矢印ですが、国際的なルール作りに関する議論が、これは北極評議会ということで、アメリカ、ロシア、カナダ、北欧諸国、8か国等の場で議論が活発にされているといったこと、また、それに伴い、非北極圏諸国も取組を活発化しているということで、我が国におきましても2013年にオブザーバー国の資格を取得しているところです。オブザーバー国は全部で12か国です。意義としては、まず、北極政策に取り組む国家的な意思を表明することにより、日本が北極問題の主要プレーヤーとして、国際的な取組に積極的に参加し、貢献する方針であることを内外に明らかにするといったこと、また、2つ目ですが、観測・研究、環境対策等、日本の強みである科学技術を基盤とした取組をアピールすることにより、国際ルール作りに主導的な役割を果たすといったことと、それに伴い、多国間・二国間の緊密な国際協力を構築していくといったものです。
 具体的な内容ですが、3ページ目、こちらが我が国の北極政策の内容です。まず、基本的な考え方ですが、日本の強みである科学技術をグローバルな視点で最大限活用するといったようなこと、具体的な取組については、3ページから4ページ目ですが、3点ほどです。1点目は研究開発、2点目は国際協力、3点目として持続的な利用といったところです。
 具体的な研究開発ということでは、グローバルな政策判断・課題解決に資する北極域研究の強化や観測・解析体制の強化と最先端の観測機器等の開発、あるいは国内研究拠点のネットワークの形成、北極圏国における研究・観測等の整備、あるいは北極域研究船の検討等が挙げられています。
 4ページ目の国際協力ですが、科学的知見の発信と国際ルール形成への貢献ですとか、北極評議会の活動に対する一層の貢献、北極圏国等との二国間、多国間での協力の拡大、また、「具体的な取組(3.持続的な利用)」という観点については、北極海航路の利活用に向けた環境整備や、鉱物資源あるいは生物資源等を含めた資源開発というところが取りまとめられています。
 これらに伴う文部科学省の取組としまして、平成28年度予算案についてですが、資料3が平成28年度北極関連予算案です。背景としましては、北極域の環境変化のメカニズムに関する科学的知見が不十分であるといったことや、北極域の環境変動は、単に北極圏国の問題にとどまらず、極端気象の頻発など非北極圏国にも影響を与える全球的な課題であるといったこと、また、北極政策に基づいて、我が国の強みである科学技術を基盤に国際社会の取組において主導的な役割を積極的に果たす必要があるといったことから、平成28年度予算案としては、北極域研究推進プロジェクト、ArCSプロジェクトと、先進的北極域観測技術の開発等について、それぞれ7.6億円、1.6億円、合わせて9.2億円が予算案として国会で審議いただいています。
 以上、北極研究をめぐる現状と今後の審議のスケジュール等についての説明とさせていただきます。
【藤井主査】 次に、文部科学省の補助金事業で実施されている、ArCSについて、これまで実施されてきたGRENEからの流れも含めて、代表機関であります国立極地研究所からご説明を頂きたいと思います。
【榎本委員】 国立極地研究所の榎本です。資料資料5-1に基づき説明させていただきます。2ページ目、GRENE北極機構変動研究事業、これは平成23年から平成27年までの5年間のプロジェクトです。本年度が最終年度で取りまとめ中ですが、戦略研究目標を4つ設定しました。温暖化増幅、北極から全球への影響、北極域から日本周辺あるいは水産資源などへの影響、北極域航路です。
 研究内容、期待される研究成果、日本社会・経済への貢献を目指してやってきました。
 この研究プロジェクトの背景には、これまでばらばらで短期間行ってきた日本のいろいろな北極研究活動を束ねて、異分野を連携させる、あと、モデルと観測を共働、ともに働かせるということがありました。そういった活動を中心にやってきました。
 次のページ、GRENE北極機構変動研究事業の実施体制です。文科省の下に北極研究戦略小委員会があり、代表機関は極地研、参画機関に海洋研究開発機構、そこでは研究基盤、海洋研究船「みらい」がここに入ってきました。真ん中に代表機関がありますが、右側に研究代表者、研究分担者、大学・研究所・企業などが参加という取組で、5年間行ってきました。研究基盤の中には雲レーダー、データアーカイブ、あと、同じ年度からスタートした北極環境研究コンソーシアムも日本の研究者の取組として特記されます。
 次のページですが、実施体制をさらに細かく見てみます。共同研究機関、全国39の大学・研究機関などと共同して、ALL Japan体制で実施、参加研究者は約300人ということで、これはこれまでにない大きな取組です。300人の研究者の中には、これまでかなり北極に行かれた方、あと、39の大学・研究機関でも個別に北極に出かけられていたのですが、皆さん短期間、1年から3年程度の短いものであったり、数人程度でデータをとってくるということで、個別ばらばらに行われていたところがありましたが、このグリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンスという事業の中で、それぞれ持っている情報をお互いに見直して、共同できるところを組み立てていくという取組が行われました。全国のいろいろな研究機関が参加しました。
 5ページ目に観測域分布があります。北極の特徴は多様性でして、真ん中に海がありますけれども、その周りを陸が取り囲んでいる、また、氷床もある、あと、人の暮らし、様々なものが混在しています。まずは観測とデータが必要ということで、各地で観測展開が行われました。
 海、陸、あと、ユーラシア大陸上に黄色いラインが1つ描かれていますが、これは民間の航空機を利用した大気のサンプリングなどもここで行われました。あと、現地のタワー観測、人が移動しながらの観測、砕氷船・係留系などの海洋の観測なども行われました。
 6ページ目、重立ったものを挙げていますが、基盤整備ということで、多数の研究者が共通にデータを利用できるということで、海洋地球観測船「みらい」の北極海航行では、多くの重要なデータをとっています。あと、ニューオルスン、これは北大西洋の北にありますスバールバル諸島にある国立極地研究所の観測拠点ですが、そこでのデータ収集、あと、砕氷船・係留系というところで、冬に氷で覆われるところ、夏になっても氷が消えないところでは、水中、あるいは砕氷船を使った観測として、外国砕氷船に日本の研究者が乗り込み観測するということを行いました。
 いろいろな分野、多様なデータが取り込まれ、観測とモデルの協働が行われる共通の情報交換の場ということでデータアーカイブシステムが作られました。
 7ページ、活動概要(北極域データアーカイブシステム)、ADSと書かれていますが、ここに観測で得られたデータを持ち寄って、見られる状態にする、ビジュアル化も進めました。あと、海外とのデータ交換とかもここでできるようにということで、多くのデータをここに収納して、さらに使いやすくということを行いました。
 研究成果を少し紹介します。8ページ、北極域における温暖化増幅メカニズム。北極域が話題になっているのは、急激に海氷が減っている、あるいは積雪面積が減っているということですが、地球全体の温暖化の中で、なぜ北極が2倍の速さで温暖化しているかということが大きな謎でした。それで、雪氷圏の高い反射率のせいというものがあったのですが、この研究では、下のグラフ、1月から12月の中で赤い棒がたくさん出ています。下に青い棒が出ていますが、赤いところが雪氷圏の高い反射率とところで、雪、氷が日射を反射するためということがこれまでよく知られていたのですが、これは氷が減ることによって大気をどんどん温めていきます。一方で、氷がなくなった後に出現する海が熱を吸収して、夏の間、温暖化を抑えている。しかし、秋になるとそこからの熱放射が大気を温め、あるいは水蒸気、雲などを大気に供給することによって、季節、場所、要素を超えて温暖化が連鎖していくことが分かってきました。夏だけの雪氷の問題ではなくて、秋、冬、翌年につながっていくことがここで分かってき、新たな分野、時間、地域を超えた連鎖が見えてきました。
 9ページ、陸上での積雪の減少が、特にユーラシア大陸の西の方で顕著で、この30年間の間に1か月も積雪期間が短くなってきています。その結果は、土表面の土壌、植生、そこから出てくる温室効果ガスに及んでいき、全球にそれが広がっていくということで、北極の大地から全球につながる温室効果ガスの流れがここで考えられます。
 あと、氷床の融解がよく知られていますが、現在まで様々なモデリングが行われているものの、まだまだ不明な点があります。9ページの右下には、グリーンランド融解の正確な予測のために日本のモデルが活動していることが書かれています。
 10ページ目、温暖化と言いながら、日本は冬寒くなったり、あるいは雪が増えているのではないかと言われており、つじつまがどう合うのかということがありました。北極と中緯度をつなぐ研究、これは中緯度の国が北極の研究にどう入っていくかというところともリンクして、大変重要なテーマです。この研究の中では、北極域の影響が中緯度にやってくる、それが対流圏だけではなく、成層圏という上下の大気の連携を通じてもやってくるということをはっきりさせてきました。
あと、日本周辺の気象や水産資源ということで、北極海の生態系に関する現地の観測や将来予測が、例えば海洋酸性化を通じて生態系の優占グループの変化というところで取り組まれて、今、いろいろな成果を出しています。
 11ページ、そういって出てきた成果が社会や産業にどう影響するかというところに関わるのですが、北極海航路の利用可能性、北極の海洋と大気、あと氷の変化の予測データを最終的には航行支援システムへつないでいくということで、11ページ左側には現地の太平洋域、大西洋域の観測の状況、予測の状況、真ん中はデータの公開、中期予測、右端には、残った氷と、どこを船がどれだけの日数で通れるかという情報へとつなぐようなシステムが表示されています。こういった取組を行ってきました。
 ここまでがGRENEの研究活動で、温暖化がどうして起きるのか、それが全球にどう影響を及ぼすか、あと、北極海航路にはどんな影響というところを中心に、新しい自然科学の知識を高めるということを行ってきました。
 12ページからは、ArCS、北極域研究推進プロジェクトについてです。ArCSでは、GRENEで分かってきた北極域の自然変動の特徴や将来予測が、環境変化、社会への影響にどうつながっていくか、内外のステークホルダー、国際的機関、行政、民間、NGOなどと書かれていますが、そこにどうつながるかということをしっかり持って、つないでいくというところがテーマになっています。ArCSで始まった新しい活動としては、そういったステークホルダーと社会への影響というものがあります。
 ArCSの目標の1番目はそのようなことが書かれており、2番目が協力体制、3番目はデータマネジメント、人文・社会科学的観点ということで、特にArCSでは、GRENEでは入っていなかった人文・社会科学的観点が多く取り組まれ、必要であるということになっています。こういった科学的な成果、人文・社会科学的な観点からの情報を直接国際会議の場に持っていけるようにといったところも考えています。
 最後では、国際連携拠点の整備、観測拠点を作る、あと、若手研究者の育成を行う、AC等北極関連会合への専門家派遣というものをここに書いています。
 13ページは実施体制。4つのメニューがあり、青で多く書かれているのが国際共同研究推進であり、これが研究推進。緑が3か所ほど出てきますが、これは北極にまだまだ少ない国際連携拠点に日本も関わって整備していくというところ。あと、緑には北極関連会合専門家派遣ということで、AC等の専門家派遣の会合の中に日本の研究者、専門家を参加させ、そこで発言、意見交換を行うことが書かれています。一番下には、若手研究者海外派遣となっており、次世代の研究者をここで育成するとことになっています。
 国立極地研究所、海洋研究開発機構、北海道大学がこの活動を担っているという形です。
 14ページには、テーマを記載しています。国際共同研究推進ということで、4つのメニューのうちの1つです。ここに8つほど研究テーマを挙げています。
 15ページには、ほかのメニュー、4つのメニューのうちの残りの3つですが、国際連携拠点整備、若手研究者海外派遣、AC等への専門家の派遣をここに挙げています。研究成果から、こういった海外の拠点への関わり、若手の育成、AC専門家派遣がここに集められています。
 16ページ、ArCSでさらに力を入れているところに、情報発信があります。研究者同士はそれぞれネットワークを持っていますが、ステークホルダーと呼ばれる人たちとのやりとりということでは、新たなチャンネルが必要とのことで、模索中ではあるのですが、情報発信担当あるいはホームページ、メールマガジン、公開講演などということで、得られた情報や考えを発信するシステムをArCSの中で構成しています。
 ArCSは始まって半年ですが、研究成果を幾つか、紹介しますと、17ページの真ん中に雲の絵がありますが、これは北極海を覆っている台風並みの巨大な低気圧でして、こういったものがいつどこで起きて、どういった氷の変化や海洋の変化を起こすかということは、北極海航路を通る船にとっても大変重要なものです。こういったところへの取組の成果が既に出始めています。
 18ページは、海洋環境と気候との関わりについての活動、係留系観測、衛星観測、数値モデル実験などを紹介しています。右側は多圏相互作用ということで、中長期気候変動におけるモデル開発という活動が進められています。
 19ページ、環境変動と人為的インパクトに対する北極海生態系ということで、氷の減少が進んでいるところですが、その後、開かれた海、海洋の中で生態系に何が起きるかというところで、成果、あと、社会への影響などをここで検討しているところです。
 これまでは、GRENEの北極研究、気候変動研究の成果、ArCSでの取組を紹介しました。
 最後の2枚で、北極域研究共同推進拠点、これは4月1日から開始する予定ですが、これについて紹介します。北海道大学、国立極地研究所、海洋研究開発機構、三者連携による北極域研究共同推進拠点の設置ということで、この三者が中心となって北極域の研究、取組を強化していこうというところです。連携ネットワーク型という新しい取組です。
 20ページの下半分に「背景」、「目的」とありますが、「背景」というところでは、これまで出てきたような北極域のいろいろな環境変化があり、そこが社会への影響を大きくしているということがあります。目的の中に何か所か出てくるのですが、三機関がそれぞれの特徴を生かしての協力、北極の課題解決に資する産官学の取組の促進、人材育成というところがあります。産官学というところはここで強調されているところで、産業、行政へのやりとりがここで目指している中に入っています。
 21ページにはその内容を説明したものですが、研究者コミュニティ、産官学連携支援事業、企業、官公庁関係者、北極域の国のステークホルダーたちといったところへのアクセスを三者考えていくことがあります。真ん中のゾーンにも、コミュニティの支援、具体的にどういったことをやるのか、あと、産官学連携の推進ということで、集会、フィジビリティ・スタディ、オープンセミナーといったものも産官学連携というところで書かれています。
 そういった中で、GRENE、ArCS、あとこの北極域研究共同推進拠点で、日本の活動を高めて国際的に評価されるような活動に持っていく。あと、そういった中で、国際的に主導して日本が大事な立場、役割を担っていけるというところが共通したポイントになっています。
【藤井主査】 ありがとうございます。御質問等ございますか。
【横山委員】 GRENE、ArCSで多くの成果を出され、ArCSの方は今後も実施されていくという時ですが、日本の成果と北極評議会加盟国の科学者あるいは科学成果との違い、あるいは他のオブザーブ国との科学成果の違い、特にこういう点が日本の研究は際立っているという特徴はありますか。
【榎本委員】 日本で北極の研究、国際的な動きが始まったのは、90年代から。これまでに地上の観測点、ニューオルスン、スバールバルなどに設置し、温室効果ガス、25年間の観測の実績があります。
 長期のモニタリングの実績を有しており、短寿命気候汚染物質等、大気のモニタリングについては大変な定評を得ています。
 あと、北極での活動の中で、氷の減少ということは分かっていますが、その後にどういった環境変化が起きるのかというところでは、気象予測が非常に大切であり、実は気象予測の観測点が北極圏には余りないということで、特に夏は氷が減少したものの、海上の観測点はほとんどない状態です。そこに日本の観測船「みらい」が入り、夏期に一種のステーションが生まれることにより、現場の観測、それのデータ同化、将来予測モデルへの導入といった複数の技術を導入により、観測から予測まで成功しています。日本が開始したこのような活動に他の国も加わりはじめ、参加者が増えて、これから、新しいキャンペーン、北極域の気象予測の大きなキャンペーンが始まる見込みです。
【谷委員】 国際共同研究推進について、いずれも大きなテーマで、多分日本だけではできないような話だと思いますが、この国際共同研究というのは、例えば既存の何かの国際的なフレームワークがあって、その中に参加するという意味なのか、あるいは日本がイニシアチブをとって、バイやマルチなどで共同の研究を実施しようという仕掛けのものなのか、どういう国際共同だと理解すればよろしいでしょうか。
【榎本委員】 両方の性格があります。例えば一番上の北極の気象ですと、日本だけではできない活動ですので、国際的なネットワークの中で日本がそこに参加するというのがありますが、あり得るべき姿というのは、日本が一種のモデルを出して、実施は国際共同だけれども、アイデアの大事なところは日本から出てきているというところはあります。
 あと、氷河や氷床についても、グリーンランド氷床の国際的な10か国近くが参加するプロジェクトで日本が大事な役割を担える実績もあるということで、参画しているものもあります。
 あと、大気物質では、ブラックカーボン、メタンと書かれていますが、これは実はどの要素を測れば共通のスタンダード情報として使えるかということは、まだ国際的にも模索している状態。そのような中、日本の研究者がこういったものを測定すればいい、あるいは精度にこれだけの正確さ、不正確さがあるということを提言していくということで、全球に、広い地域にネットワーク化あるいは全ての国と何か協定を結ぶことはできないけれども、大事な研究提案を入れていくというタイプの国際共同ができます。
 あと、テーマ7の北極の人間と社会というところで、ここがGRENEでは入っていなくて、ArCSで入ってきた新しい人文・社会系の要素。ここでは得られた自然科学の情報をどう社会が取り込んでいくか、あるいはルール作りに使用するかというところで、北国圏の国が何を考えているか、あるいはどのような情報を必要としているかという重要なところが含まれてきます。
【谷委員】 国際共同研究テーマのいずれもすごく大事で、それぞれ専門性が高いところですが、これの相互の関係ももちろんあると思う。各テーマ間の人材とか知見とかデータをシェアする仕掛けはどのようになっているのでしょうか。
【榎本委員】 8つのテーマは、幾つかのブロックにも書かれているが、こういったブロックを超えて、全体で意見交換会をする全体会合を企画しています。
 あと、個々の研究グループについては、例えば北極の海氷が減るというところと、海氷と接している氷河の末端部がどう変わるかというところ、付近に住んでいる先住民の方たちの生活がそれによって変わっていくというところで、内部の研究者間ではお互いに連携するというやり取りは行われています。この運営グループとしては全員を集めて意見交換をするというところ、あと、先ほどの情報発信とデータアーカイブは全部を貫く大事な役割があります。
【藤井主査】 今の点は北極研究の在り方にまさに直結しているところで、外形的な問題もあるが、実際の具体の連携みたいなものは非常に重要かと思います。
 あと、南極ですとSCARという国際的な枠組みがあり、いろいろ将来計画も含めて作っているが、北極の場合にそれに相当するのは北極評議会と考えてよいのでしょうか。
【榎本委員】 政策的なところでは北極評議会(AC)、あと、科学委員会としてはIASCという北極科学委員会があります。
 北極評議会(AC)の中には、科学に関するエキスパートグループやワーキンググループがあり、そこへの日本の代表者の派遣も行っています。北極科学委員会(IASC)の方は、IASCが設立された1991年以降、日本はかなり早い時期からそこに参加しており、その中のワーキンググループにも日本から委員を輩出し、国際的な動きの中でやっています。なお、IASCの参加者は北極圏国に限らず、広い参加者があります。
【三枝委員】 例えば多くの観測拠点があると思うが、GRENEで今までばらばらに個々のグループが実施していた研究を5年かけてここまでまとめ、ArCSでさらに各国とも連携していくということだと思うが、このようなデータをデータ同化して将来予測というところまで行こうとすると、データの各項目の観測手法の標準化や、それを各国がシェアリングしていく、データシェアリングのシステム、それから、それを各国の地球システムモデルなんかを使っているグループに渡して、本当に長期的な予測に使えるように、データ同化に使えるようにしていく仕組み、何かもう一段階必要になってくると思うが、再度そこのところについて、今後、取組をどのように進めていくお考えでしょうか。
【榎本委員】 北極評議会の活動の中にもSAON(Sastaining Arctic Observing Network)というのがあります。SAONという略称ですが、持続性のある北極観測活動について議論しています。また、3月に開催されるが、Arctic Observing Summitというものもあります。このようなところで、重複を避け、標準的なデータ、データの最適化という議論が行われています。
 これは北極ならではの問題で、いろいろな国がいろいろな形で取り組んでおり、そこに日本が参加しているということですが、それぞれデータをとっているスタイル、処理の仕方、流し方が異なるということは大変困るので、そこを共通化して、お互いに操作できるように、インターオペラビリティーや、いろいろ国際的な、GEOやWMOといった枠組みの表示に合わせてデータを取り込んでいくといった議論も進められているところではありますが、これだけあれば全員のデータが一括で扱えるという体制にはまだなっていない。これらの議論には、これから参加していかないといけない。
 日本の中ではADSをその形にして、国際的なGEO、Global Cryosphere Watch、WMOの研究などにもつながるスタイルで準備しているところ。
【瀧澤委員】 国際的な科学コミュニティの枠組みはしっかり進めて欲しいと思うが、科学的な成果を目指した研究だけではなく、この取組の中には例えば利用に関しての研究もあると思う。資料の後半に、明示的にはないが、20ページの「北極域の状況」という中に天然資源開発や北極海航路の活用というのがあり、北極海航路の活用は置いておいたとして、天然資源開発に関して、科学研究の方で何か計画などあるのでしょうか。
【榎本委員】 これはArCSから少し離れて、3者間の北極域研究共同推進拠点の中でのターゲットの1つとなりますが、自然科学情報が産業、政策にどう影響するかというところで、どういったニーズがあるか、どういったものを出せばいいかという対話をここではやっていくというところ。
 例えば資源がどこにあって、どれだけ採算が合うかというところまでは、ArCSの中では多分出てこないのですが、そういった活動が今話題になっているのが、氷の減少というところ。そういったところでは、北極海航路の話題があったが、氷がいつ減るのか、氷が減った後は静かな海なのか、嵐が来るようになるのか、あるいはその予測がどれだけ精度よく出せるかというところは、前半の方の科学研究プロジェクトから出せていくところです。それを社会、産業界が欲している情報に持っていくというところはあると思います。
 あと、ArCSでの海氷予測では、海上交通の実運用も目指しているので、実際に船、海で活動する方がどんな情報を必要としているのかにターゲットを合わせる努力もしています。
【瀧澤委員】 天然資源開発に関しては、北極海の氷の情報についてだけ供給していくということなのでしょうか。
【榎本委員】 ArCSではそのような環境情報までで、連携拠点では、産業、行政といったところも関わってくるので、この中の検討会、課題設定集会といったところでは、そこに関わる話題も出てくるかと思います。実学系もここに入ってきます。
【藤井主査】 この委員会は、ArCSだけではなくて北極全般の研究、技術開発、全てを対象とするので、それらがどこまで入ってくるのか、それから、その場合、どこがイニシアチブをとるのかということも含めて議論できればと思う。
【藤井良広委員】 テーマ7、北極の人間と社会ということで開発の部分、利用の面での国際協力となると、日本はオブザーバー国なので、北極圏国がルールメーキングでどれくらい主導権をとるのか、オブザーバーとしてどれだけコミットできるのか、あるいは、さらにオブザーバーの中でも、オブザーバーになっていないけれども利用国の視点で、という恐らく3段階ぐらい違ってくると思う。
 国際協力と単純にテーマ7の部分で言ってしまうと、実際、どこに日本がコミットできるのかというのは異なってくるので、ルールメーキングにオブザーバーも参加できるのか。これは我々だけで決められないので、それに対する働きかけが1つの国際協力のポイントになってくると思うが、そこの点を分けてやっていかなければいけないのではないかなと。
 仮に利用国の視点で言うと、日本がリーダーシップをとって、アジアの国とか他のところも取りまとめて、ACに対していろいろ物を申したりという余地は相当あるのではないかと思う。その点を今後、研究・観測・測定の部分ではなくて、利用サイドでどのような戦略をとっていくか。
 それともう1つ、利用でいうと、先ほど言ったような資源開発と航路の問題があるが、産官学といっても多様な形の産官学で、産は一体誰だというところを収めておかないと、ただ利用の対象になる船会社とか石油掘削会社だけではなく、リスクの部分もあるので、産業界がどのように動くのかというのを議論した方がいいと思う。利用者だけの企業が集まると、北極の氷がなくなることによる気候変動が経済社会全体に影響を及ぼす場合には全員がデメリットを受け、その意味で言えば経済社会全体の問題なので、その中でさらに特定の業種については直接的なメリット、デメリットが出てくるため、もし可能であれば、ここでそうことを投げかける議論ができればいいと思う。
【藤井主査】 どの視点までカバーするかというのは非常に難しい問題。枠組み、道具立ても含めた議論を行い、議論を詰められればと思う。
 あと、データの標準化等は、将来計画の中で具体的な枠組みを作っていくようなものが入っていないと、言葉だけになり、非常に問題ですので、具体的にどうするのか、誰がイニシアチブを持つのか、ということも含めて議論して、提言みたいな形で出せればいいと思う。
【瀧澤委員】 基本的にArCSは科学者コミュニティですので、利用の面に関してどういうスタンスを持つのかとを明確にしていった方がいいと思う。というのは、北極圏国は新たな資源の海洋が開けたということで、どちらかと言うと積極的に開発していきたいと思っていると思いますので、そうした時に科学的なアセスメントをしっかりやっていく、日本の立場として、そういった一歩引いたような客観的な立場を非常に明確にしていくというのは1つのやり方ではないかと思う。一方、日本の事情としても、よりクリーンなエネルギーへの代替ということも必要ですので、そこで国の中でどういった仕組みを作っていくのかというのは非常に重要ではないかなと思う。
【杉山委員】 GRENEである程度成果を上げ、今、ArCSに脱皮して、さらに国際社会の中で貢献していく、また、発信していくことがより求められると思うが、榎本さんは既にGRENEのそういった成果を持って国際会合の場にかなり参加されていると思うが、GRENEの成果で足りていないもの、国際会合でアピールするのに弱いと感じられるのはどういうところでしょうか。また、どこをGRENEからArCSに変えていく必要があると感じていますでしょうか。
【榎本委員】 私が国際会合に出ている雰囲気では、大変受け入れられています。2013年に日本が評議会のオブザーバー国になったが、何かを期待されているわけです。その後、国際会議に参加し、GRENEの成果や新しい動きを紹介すると、そういったところで是非やってもらいたいという、すごい期待を感じます。
 それは、北極圏の国自体が解決策を持っていないところで、新しく入ってきた日本がいろいろアイデアを持っているみたいだという期待。成功するか失敗するか眺めているのかもしれないが、例えばデータアーカイブシステム、北極圏の国は以前から持ちたいと思っていたけれども共通に持つことができなかった、一方、日本では持っている、そこで、どのように機能しているか、どのようにデータを収集しているか等について、日本が新しいモデルを提示しているところがある。
 不足している面としては、自然科学者が中心だったので、自然科学情報は国境を超えて、大気の中、海の中、全部流れていく、国境のない世界であるという点です。他方、実際現場に行くと、ここから先は国境で、同じデータを流すことができない、公開できないという条件が入ってきたりする。北極圏の国自体がそれに悩んでいて、例えばロシア、カナダ、アメリカとのデータ共有がうまくできていないところがある。
 これは、GRENEあるいはArCSだけの問題でなく、国際的に議論中です。北極評議会の会合にも日本はどう思うかみたいな日本の意見を今聞いていただけるような雰囲気になってきています。
 データの流れについてのさらに国際的な形を作っていけるのではないかということ、あと、自然科学のデータの流れが、最後に住人にどう影響を与えているかというところは今まで距離があり、1人1人の顔は見えないところで活動していた。ローカルなサポーターには会うが、その社会が何を抱えているかというところはGRENEの中では行われていないので、ArCSではそれにチャレンジしようとしているところ。人の顔が見えるような情報はより強調すべきと。
【杉山委員】 北極の現場の解決案により近いものの発信が重要と感じた。
【藤井主査】 北極の研究・観測というのは非常に奥が深い。中長期的にどういう課題があって、その中の今どこをやっていて、どこが抜けているのかみたいな、将来に行けば行くほど非常に漠然となってしまうが、国際的な動向とか、幾つかの柱があると思う。その中でGRENEはどこをやったのか、ArCSではその結果を受けて、どこをやって、これはやるけれどもさらにこういうことが残るということがある程度見えると、かちっとした研究計画が立てられると思うので、もしそういうものがあったら、次回、提示いただきたい。当然、粗々なものになると思うが、全体でどういう課題があるのかという整理も含めて示してもらえると、理解が進むと思う。
【藤井主査】 温暖化等は非常に時間のかかる研究だと思う。中長期のプランがあって実施されていると思うので、そこを見せてもらえると理解が進むし、今後何をやっていくべきかというのは、こういうところからもヒントが出てくると思うので、情報を頂ければと思う。
【池島主査代理】 この委員会では、戦略委員会という名称なので、何らかの戦略的な、中長期的なパースペクティブをある程度持てるような、提言や施策に関わる助言、アドバイスを求められていると思う。
 ArCSを例にとると、GRENEからArCSへの脱皮というのは、一番大きなところで言うならば、自然科学的なものだけに比較的重点が置かれていたものに人社系を入れて、もう少し膨らませ、より総合的な取組を国として、戦略的に何かできないかというところがあるのではと思う。
 利用の仕方、資源の開発、その下の資源の利用から北極海航路も、航路の利用を単に科学的な海氷の減少や気象データの問題ということもあるが、そこを通る上で、では沿岸国との関係はどうだと。また、船舶に必要な設備その他、人員の育成やそれに関する法令等について、沿岸国はどのように整備し、日本はそこに関与し、又は関わって対処すべきか、そういうことを考えるところまで行けたら、本当に温暖化が進んだ後に北極海航路ができた際にどうなるかというあたり辺の戦略まで考えられると思う。
【横山委員】 ArCSになって人社系が入ってきたということで、現在、日本国内の、池島先生など代表される先生方がArCSの枠組みにどう関わっておられるのかというのが1点目の質問。
 2点目は、自然科学と人社系が組み合わさったときに、どういうところを戦略的にやるといいのか。資源なのか、海氷なのか、どこが今のポイントなのかというのを、人社系の立場からのアドバイスを今後期待できるのかということをおうかがいしたい。
【池島主査代理】 私は、北海道大学のテーマ7、田畑伸一郎北大教授の北極の人間と社会というところに、研究協力者という形で参画しています。
 去年の秋にキックオフ会合があり、会合が始まったところ。具体的に人社系がどのように関与していくかというのはこれから決めるところ。
 例えば、テーマ1の北極海航路については、私の専門からすると、もう少し近隣、沿岸諸国、特にロシア、カナダ等が、どのように規制を行って、環境基準等を実施しているのかという観点からも研究し得る。テーマ4とか5の気候変動をどういうふうに人社系の先生方、特に私の国際法とか政治の部分と関与させるかというのは、今後の打ち合わせやすり合わせが必要といった状況です。

【高倉委員】 私は、テーマ7の北極の人間と社会で、参加機関の東北アジア研究センターの代表をしています。
 私は専門が文化人類学で、ロシア先住民の調査を行っています。GRENEでこれまで行われた科学的な知見が、日本にとってどのような意味があるのかという関心が出てくるのは当然だと思うが、北極圏諸国では、日本のことより、科学的な予測なりモニタリングが現地の社会にとってどのような意味があるのかということに関心がある。
 人間社会に関連して、人社系がこういう形で入ると、大きく2つぐらいの研究領域に分けられて、1つは国際法とか、そういった問題。ルールとか、そういうこと。もう1つは、人類学とか人文地理とかの、現地に入り込んで起きている問題を明らかにしていくというところだと思う。
 ArCSの特徴は、その2つを組み込んで、1つは国際法のようなことに関連して言えば、国際的なルール作りに貢献するというところまで行けば、日本の利益に関する問題に絡んでくると思う。
 一方、北極の住民にとって、先住民だけではなく普通の非先住民も多くいるので、その人たちにとって気候変動がどういう影響を持っていくのかという研究体制ができたのが一番大きな特徴だと思う。
GRENE事業の説明で、ばらばらだった自然科学の研究者が集まったという指摘があったが、ArCSの中で、私も法学の研究者に会ったのは初めてでそういう機会で人文系と社会科学系が一緒に議論するようになった、そして、それが理系と組み合わされるようになったというのが大きな特徴ではないかと思う。
 ただ、理系的なテーマと人間社会がどういうふうに関わるかの相互作用の全体像がまだうまく構築できていないという印象は持っている。
【藤井主査】 ArCSとGRENE以外の取組も含めた活動ですが、まず極地研究所から説明願います。
【極地研(宮岡)】 資料5-2に基づき説明します。まず、表紙の写真ですが、これは北極海にあるスバールバル諸島、その中にニューオルスン国際観測村があります。国立極地研究所はここに1991年から観測施設を設けて、観測しています。このニューオルスン基地ですが、ここは日本の北極研究にとっては最も高緯度に位置する場所で、最重要拠点の1つと言えると思います。北緯79度にあります。
 ここに拠点を設けた歴史的背景ですが、まず、1987年に当時のソ連のゴルバチョフ大統領のムルマンスク宣言がありまして、北極圏が科学研究に開放されたという非常に大きなエポックがあります。それを受けて1990年に、国際北極科学委員会が北極圏国8か国を中心に設立され、翌1991年に国立極地研究所はニューオルスンに基地を開設して、本格的な北極研究を開始したところで。今年で25周年を迎えます。
 ここの国際観測村ですが、11か国18の研究機関が活動を行っています。
 ページをめくっていただきまして、ニューオルスン国際観測村を含めて国立極地研究所が現在展開しております観測・研究拠点は赤い丸印で、計画中とあるのがArCSでさらに強化を図ろうとしている拠点です。
 まず、現有の施設ですが、スバールバルのニューオルスン基地が赤丸で示してあります。このニューオルスンとは別のロングイェールビーンという大きな都市がありますが、ここには最北の大学と言われているスバールバル大学があります。2番目の写真ですが、国立極地研究所はここにも研究拠点を設けています。
 その下、ノルウェーのトロムソにEISCATトロムソ観測所という、トロムソ大学が運営している観測所がありますが、ここで、EISCATレーダーという大型の大気観測用のレーダー装置が運営されています。ここにも1996年から国立極地研究所は研究拠点を設けて、この観測装置を使った研究を行っています。
 一番上の赤丸が、これはアイスランドですが、ここにオーロラの観測所を設けています。現在2か所ですが、1984年から本格的に開始した当初は、3か所にオーロラの観測所を設けて、オーロラの研究を開始しています。
 計画中のところですと、まずグリーンランドの真ん中あたりに印がありますが、これはArCSプログラムで実施を予定しているEGRIPという氷の掘削計画の観測拠点です。
 その右側が、ArCSでは北極海沿岸に領土を持つ5か国全てに拠点を設けるということで、新たにカナダのケンブリッジベイという北緯70度近くのところに新たな観測拠点、CHARSを設ける予定です。
 ロシアにも、今まで北極海にはなかったのですが、ケープ・バラノバ基地という、ここは2013年から再開された観測所ですが、ここに新たに観測拠点を置く計画です。
 さらに、東シベリアのスパスカヤパッドでも新たな観測拠点の整備を予定しています。
 アラスカで現在も運営しているアラスカ大学の国際北極圏研究センターを継続して運用する予定です。
 3ページ目ですが、特にニューオルスン基地での観測の状況について説明します。ここでの大きなテーマは温室効果ガス、地球温暖化に非常に影響がある雲とかエアロゾルの観測、陸域の生態系の変動研究を実施しています。
 国際共同研究としては、航空機を使った大気観測も、1998年と2002年には日本から飛行機を飛ばして、アラスカ経由で北極点の上空を通ってロングイェールビーン周辺を観測するという、北極圏の横断航空機観測を2回実施しています。そのほかにもドイツの航空機を使って、国際的なエアロゾルの放射相互観測等を2000年と2004年に実施しています。
 ラジオゾンデ集中観測、気象の予測精度向上のための国際共同研究を日本が提唱して実施しています。
 あと、ツェッペリン山頂共同観測。ニューオルスンの標高470メートルの高い山の頂上に、ノルウェーの科学研究所が運営する観測所があります。ここで雲やブラックカーボン等の、ブラックカーボンは東大グループがやっていますけれども、研究を実施しており、GRENE、ArCSでも継続して実施する予定です。
 4ページ目に、ニューオルスンでの温室効果ガスの観測の成果の一部が掲載されていますが、二酸化炭素濃度について、赤で示したのがニューオルスン基地、ブルーが南極、昭和基地でのデータです。右側がメタン濃度で、同じく赤がニューオルスン基地、青が昭和基地ですが、二酸化炭素に関しては右方上がりで、夏に植物の光合成活動が一番活発になりますので、そこで夏に極小値をとりますが、右方上がりに上昇して、現在では全世界的に400ppmを超えている状況です。
 それから、右側のメタンですが、これは、スケールの単位が右と左で違っておりまして、左側がppmv、100万分の1率、右側がbillion、さらに1,000分の1の小さなスケールですので、右側が南極と北極で少しバイアスにずれがあるように見えますが、実は左側の二酸化炭素も同じように、わずかながら北極側の方がバイアス値としても平均値としても上がっていますが、右側は左側に比べて約200倍ぐらいスケールを拡大した図になっていますので、北極側が少し値が大きいように見えています。
 留意いただきたいのは、メタンに関しては2000年から2006年ぐらいまでは一旦平衡状態になっていましたが、2007年ぐらいから再び上昇傾向になっているということです。メタンの季節変化は、大気中の水酸化というOHラジカルによる破壊が大きな減少要因ですが、それも夏にその活動の濃度が一番濃くなるために、メタン濃度も夏に極小値をとるという季節変動を行っていますが、全球的に2007年、2008年ぐらいからまた上昇に転じているというのは非常に注意すべきところです。
 次のページに、これもGRENE、ArCSでは含まれていない観測プロジェクトですが、北極圏のアイスランドは南極の昭和基地と1本の磁力線で電磁気的につながっているという世界の中でも非常にユニークなポイントになっています。こういう南北両方の部分を地磁気共役点と言っていますが、これが特に陸上にあるというのは非常にユニークでして、その下に、南極大陸を北半球に地軸座標でマッピングした絵がありますが、この二重のサークルはオーロラ帯です。オーロラ帯の真下にあって、しかも地磁気共役点があるというのは、ほとんど昭和基地とアイスランドに限られています。ですから、この非常にユニークな特徴を生かして、アイスランドに観測所を設けて、1984年くらいから本格的なオーロラの発生機構に関する研究を行っています。
 その次のページ、上の写真がアイスランド、下側が昭和基地ですが、非常に鏡対称に近い理想的な共役点オーロラが出ています。30年ぐらいにわたる共役点観測の結果として分かったのが、両半球でこのように鏡対称となるような非常に共役性のいいオーロラというのは極めてまれであるということです。
 共役性を悪くしている原因として、太陽風磁場や地磁気擾乱による共益点の位置のずれ、磁場の強度があります。あと、地理経度の違いや、電離層の状況の違いで、大半の共役点オーロラは南北両半球では非対称に出現することがはっきり分かってきました。このような知見は、オーロラ生成機構の研究に非常に大きく貢献してきています。
 次のページ、これも国際共同で実施していますEISCATレーダー、EISCATというのは非干渉散乱の英語の略語ですが、これはこの地図にあるように、スバールバルのロングイェールビーンとノルウェーのトロムソとスウェーデンのキルナ、フィンランドに非常に大きなアンテナを設けて、非常に強力な電波を上空に打ち上げ、上空の大気を構成している原子のさらに電子から散乱される散乱エコーをこの大きなディッシュアンテナで受信して、それを分析することによって上空の電子密度や電子温度、イオン温度あるいはイオンの速度、というものを精密に計測するレーダー装置です。上空を観測するリモートセンシングレーダーですが、このレーダーを運用するEISCAT科学協会に日本は1996年から加盟して、観測だけではなくて運営にも直接関与しています。
 その次のページ、EISCATレーダーによる幾つかの成果があります。左側が高度300キロの大気温度ですが、この30年間で約40度も低下しているということが解析から分かってきました。その下にあるこの直線が30年間の大気温度のトレンドですが、10年間でマイナス14度ですから、100年に直すと140度、非常に大きな寒冷化が進行していることが分かってきました。こういった上空300キロ、400キロというのは人工衛星とか国際宇宙ステーションが周回する高度ですので、そういった宇宙のインフラの、衛星寿命であるとか全球規模の気候変動に非常に影響があると。
 それから右の上ですが、この高緯度から地球の大気が宇宙空間に定量的に流出していることが分かっています。この右側のグラフは、赤が水素原子、ブルーが酸素イオンですが、こういったイオンの組成によって流出が起きているという仕組みが分かってきました。量的に言うと、水素原子が1日当たり約200トン、酸素原子は1日当たり400トン、宇宙空間に逃げているということで、これは地球大気の長期的な編成にとって非常に大きな問題です。
 それからEISCATの重要な貢献は、スペースデブリの観測ということです。高度800キロとか1,400キロというのは極軌道衛星が周回する高度ですが、ここのスペースデブリの検出にも非常に有効であることが分かっています。
 9ページ目ですが、これはグリーンランドでの氷床掘削で、ArCSでもEGRIP計画に参加する予定ですが、それ以前に既にGRIP計画、NorthGRIP計画、NEEM計画といった国際コンソーシアムの氷床掘削計画に参加して、気候・環境変動に関する重要な研究成果が得られ、ますます日本の貢献が重要になってきています。
 10ページ目ですが、NEEMコアの分析から明らかになった気候・環境変動の成果の一環ですが、結果はその右側にあるように、最終間氷期に全面的な表面融解が起きていたとか、年平均気温が12万年くらい前では現在よりも8度も温暖化だったというようなこと、あるいはグリーンランド氷床高度が現在よりも130メートル低かったということが分かってきました。
 その次のページ、スバールバルにおける生態系変動の研究で、陸上生態系の炭素吸収に与える影響等を現地のフィールド観測から明らかにしています。
 12ページ目、北極海の海氷減少に伴って、日本のような中緯度の気象にも非常に大きな影響を与えているというのを、データ同化の手法を使って評価が進んでいるという研究です。
 13ページ、これはベーリング海あるいはアラスカ湾付近の海水温度が、最近非常に顕著になっている北米東部の寒冷化に非常に大きく影響していることが分かってきています。
 14ページですが、国立極地研究所としては、ArCSを中心に、今後、政策判断・課題解決に資する北極研究の推進を進めていきたいということ、最先端の観測機器の開発という面では、例えば先ほど紹介したEISCATレーダーの次世代の更新計画への参加を今検討しているところですが、日本の得意とする最先端のレーダー技術を持って参画を計画しているということ、あるいは、国内の研究拠点の整備としては、極地研においては、北極観測センターから、国際北極環境研究センターという研究拠点として機能を強化しましたし、あるいは先ほど御紹介ありました北大、JAMSTECと連携した共同推進拠点を通じて推進していくということ、それ以外、研究拠点の整備、観測拠点の整備についてもArCSの枠組みを使って、今までなかったカナダとかロシア域の観測拠点を整備していきたい。あるいは、データの共有管理に関しては、データアーカイブシステム(ADS)をさらに強化して、国際的なSAONやGEOといった国際的なデータベースシステムと連携を図っていくということで、極地研としてさらに北極への貢献を積極的に図っていきたいと考えています。

【藤井主査】 何か御質問、御意見等はございますか。
【三枝委員】 ArCSのように5年ごとのプロジェクトだと、20年、30年とデータを取り続け、アーカイブし続けるというのは大変なこと。極地研のようにしっかりした研究所などがそういったところをリードしていただいたらいいと思う。また、標準化手法開発といったものも5年で終わらない面もあるので、引き続きこのリードをお願いできたらいいと思う。
 本日の資料では、生態系の観測という例で、二酸化炭素吸収という話が記載されていますが、研究者は論文に書けるような難しい観測を実施したいので、あるポイントで集中的に詳細なデータを取得するのですが、北極全体を理解するという目的では、もう少し基礎的なデータを多点で長期、10年、20年ととり続けるという、研究者の興味と少し異なったところに重要性があるのではと感じるところもあり、例えば極地研でこのような長期のモニタリングという意味で、項目を選んで実施していくという取組はあるのでしょうか。
【極地研(宮岡)】 生態系に関しては、ニューオルスンを拠点にしたモニタリング観測を、25年にわたって継続しています。
 GRENE、ArCSでも、グローバルな地球温暖化の議論を行うためには、観測拠点でプロセス研究的な、非常に精密なデータを取得し、それをモデルに適用して、広域の情報に置き換えていくプロセスが重要だと思う。そのための、CO2のフラックスタワーの維持等、長期的に有用なデータを取得する仕組みのサポートもArCSで考えているところです。
【三枝委員】 拠点を中心に実施するのであって、地上観測は難しいから、長期・多点というのは難しいということでしょうか。
【極地研(宮岡)】 必ずしもそうではなく、北極圏の陸域は広大であるので、重要な東シベリアであるとかカナダであるとかスバールバルであるとか、拠点をある程度絞り込んだ上で、リソースが許す範囲で展開するということです。
【藤井主査】 必ずしも日本のデータだけではないわけで、いろいろなデータをメタデータでつないで使いやすくする、一元化するというような話もあるので、ArCSとの関係、それから極地研がやるべきことというのは必ずしも同一ではないと思うが、位置関係をはっきりさせながらどこまでやるかというのもこの中である程度定義付けできるといいのではないかと思う。
 続きまして、JAMSTECの取組を河野理事補佐からお願いします。
【JAMSTEC(河野)】 資料5-3に基づき説明します。北極域では、先ほど来、説明されていますように、温暖化に対して極めて敏感に応答していまして、環境変化は予想を上回る速さで進行しています。詳しい説明は避けますが、JAMSTECでは観測船を使った海洋研究、地球シミュレーターを使ったシミュレーション研究、それから技術開発という3つの側面から研究を実施しています。
 2ページですが、中でも海洋地球研究船「みらい」を所有していまして、これは砕氷船ではございません。NKのクラスで言うとIAという上から2番目のクラスなのですが、これがポーラーコードという国際的な標準に照らしますと、PC7、氷海航行船としては最下位のクラスです。夏季に氷が解けた海域のみに行ける船を有していますが、建造以来、13回の北極航海を夏季に実施しています。
 現在は氷がますます溶けてきて、溶けたところで何が起こっているのかというのが重要なテーマになっていますので、JAMSTECがこれまで培ってきた海洋に関する研究が注目されているところです。
 平成28年度にはArCSと一緒に約45日間の航海を実施する予定です。これは恐らく今後も基盤となるツールですので、平成28年度以降も安定した運行を確保することがコミュニティの北極研究に対して重要だと確信しています。
 北極では氷が溶けることによって、巨大な低気圧ができたり、低気圧のできぐあいが変わることによって、めぐりめぐって日本に豪雪などをもたらすことが分かってきまして、これが沿岸国でないにも関わらず日本が北極にコミットする大きな理由の1つとなっています。
 JAMSTECでは特に生態系の研究にも力を入れています。氷が溶けることによって海が開けますから、大きな渦ができたり、その渦によって栄養塩という養分が運ばれることで生産が活発になるということが起こるかもしれないということです。
 4ページ目、そのため、例えばIASCの下にあるPAG、Pacific Arctic Groupでは、生物生産が高いホットスポットと言われるようなところでの観測を共同で実施しています。米、韓、カナダ、ロシア、日本、中国などが積極的に参加して、コーディネートして、観測をしていますが、JAMSTECの流氷域の研究は高く評価されていまして、今、PAGでは日本の研究者がバイスチェアを務めており、この秋からはチェアになる予定です。
 そのほかにも、Arctic Monitoring and Assessment Programme、北極海の環境評価をするようなものがArctic Councilの下にありますが、ここでも太平洋側の北極海での報告書の執筆者も輩出しています。
 一方で、二酸化炭素排出のために海洋酸性化が進行しており、小さい生き物にとっては非常に深刻な状態が今後訪れるだろうということが懸念されています。これは世界中で懸念されていますが、北極ではこの進行が著しく激しいです。
 酸性化といっても、実際に海が酸性になるわけではなく、弱アルカリ性の状態の海がより中性に近付くことを意味しているのですが、重要なことは炭酸カルシウムの飽和度です。ふだん海には炭酸カルシウムが過剰に溶けているので、小さい生き物も容易にそれを利用して骨格、殻を作ることができますが、この飽和度が1を切りますと、簡単には溶けませんけれども、溶ける方向の濃度になっているということです。外洋域では炭酸カルシウムの飽和度が1を切っているようなところは非常に少ないのですが、北極海では実際にそのような海域が広がっています。
 5ページ目の右上の図、Ωが1以下と書いてあります。我々はここにセジメントトラップを入れて、上から降ってくる微生物の死骸の貝を集めました。そこで、我々、新技術を開発していまして、マイクロX線CTという機械を使って、この殻の状態を調べました。これは人間が医療用に使うCTスキャナーと一緒で、X線を使って多数の断層を撮り、その厚みと3次元の構造を調べる装置で、現在、0.8マイクロメートルの解像度は世界で1番です。
 次のページに撮れる写真が記述してありますが、これは赤いと炭酸カルシウムと同じような密度で、青いとそれが非常に薄くなっていることを意味します。左側が2010年に撮った健康な翼足類と言われるプランクトンの貝殻で、赤い。一方、右側が同じ2010年ですけれども11月に撮ったもので、一見して壊れていますし、密度も薄くなっており、右側は酸性化の影響がΩ1より小さいところからとってきましたが、このような酸性化の影響が目で見える形で、かつ、数字で表せるようにできたということが非常に画期的であります。
 このため、今、この図を見せると、その国の研究者から必ず自分のサンプルを測ってくれという依頼が来ます。大変ではありますが、これを酸性化影響を調べるためのスタンダードな指標の1つとしていきたいと考えています。
 この次がメタン、ブラックカーボンの観測です。ブラックカーボンというのは、北極では特に白いところに黒いものが積もると熱を吸収しやすくなりますので、氷が余分に溶ける、それがまた気候変化に影響を与えるということで、これもやはり北極の問題が沿岸国のものだけではないという根拠の1つとなっています。また、陸域で氷が溶けると同時に排出されるメタン、それもやはり温暖化効果が大きい気体ですので、こういうことが地球全体の問題であると認識され、我が国も北極のオブザーバー国になったということだと思います。
 JAMSTECでは船のみならず、この左下の福江島あるいはルーリン、ポーカーフラットあるいはヤクーツクというようなところに観測機械を置いており、ここでブラックカーボンなどを測っています。「みらい」に積んだものと一緒に計測することで、全体としてどこで発生して、それがどのように運ばれていくかという研究をしています。
 将来的には、例えば森林火災あるいは工場などから排出されたブラックカーボンのデータをNCARとかで推定値を出していますので、それをうちで持っているモデルに同化して、科学天気予報というようなことを北極域でやっていきたいということを目指しているところです。
 次ページですが、天気予報ほどではないですが、中長期的なシミュレーションというのも重要になってきます。右上の図のいっぱい線があるのは、北極の氷の面積が将来どうなるか、いろいろな国のいろいろなシミュレーション結果を図示したものです。全て減っていくことについては一致しているわけですが、例えばゼロになる点を見ていただくと、2040年であったり2060年であったり、あるいは2100年だったりします。定性的な傾向は分かりましたけれども、現実にこれを政策に生かそうと思うと、氷がなくなるのは分かったけれども2040年なのか2100年なのかは分からないということでは使いづらいということで、より高度なモデルが必要だと言えると思います。
 10ページ目、JAMSTECではMIROCと呼ばれている気候モデル、これは中長期予測用ですが、これに、例えば日本付近という興味があるところだけ解像度をさらに細かくして、見たいところを細かく見るというようなネスティングあるいはダウンスケールと呼ばれる技術を使って、1つ、我々のところでどんなことが起こるのかというような予測についての高度化をしようとしています。
 もう1つは、モデルの中で扱うのが非常に難しいとされている氷床モデル、これをうまく組み合わせることによって、予測の高度化をさらに進めたいという、この2つの軸で進めようと思っています。
 最後が、技術開発です。現在開発中の機械を紹介します。長さ1.6メートル、直径15センチぐらいの細長いロケット状のものに簡便なプロペラが付いた機械を開発しています。筐体はアクリルでできていて、その中に上向きにカメラを仕込んで、氷の下の写真を撮ってきたいと考えています。これは一旦投入しますと、氷の下を自走して、写真撮影、塩分と水温を計測しながら、あるところまで来ると反転して、また戻ってきて浮上すると。これを氷縁部から入れることで、氷の下の写真、水温、塩分が測れるという機械です。目標は200キロ航走ですので、100キロ往復できることを目指していて、巡航速度をゆっくりすることで電池の消耗を減らし、センサーをすごく限定することで小さくし、全体として安く作るということを目標にしています。次の8月に試作機3機を北極に入れる予定です。
 12ページ、私たちも同様に、我が国の北極政策についてはArCSへの参加、北極域研究共同推進拠点への参画などを通じて貢献していく所存ですし、JAMSTECならではということで、北極観測技術開発にも着手したところです。
【藤井主査】 ありがとうございました。御質問、御意見等ございますでしょうか。
【杉山委員】 11ページで紹介されている技術についてですが、JAMSTECとして、これが一番重要と考えられて、今、開発されているということでしょうか。
【JAMSTEC(河野)】 そうではなく、私たちが持つ技術の中で最も簡単にできるものを短期間に行うもの。現状として、氷の下を観測できていないので、とにかく何でも測るということをまず目指して、これで少しノウハウを蓄積した後に、もう少しソフィスティケートされたツールを開発していきたいと考えています。
【杉山委員】 足掛かりの技術だと。
【JAMSTEC(河野)】 足掛かりです。
【藤井主査】 いわゆる定常観測的な要素というのも、「みらい」を安定して航行したいということは、そういう観点も含めて考えておられるということでしょうか。
【JAMSTEC(河野)】 海洋ということに限って言うと、分析や観測の標準化と、北極を例外とすると、データの流通の仕組みが非常によくオーガナイズされていて、「みらい」が安定的に海洋観測を実施することで、北極コミュニティの方にはこれから先ということもあるのですが、海洋コミュニティにはきちんとしたデータが定常的に提供されているということになっている。だから、それこそ重要なことの1つであると思います。
【藤井主査】 これまで、3人から御説明頂きましたが、これについてさらに総括的に御意見、御議論いただきたいと思います。その前に、小酒井企画官から資料6で、論点をまとめ案をご説明願います。
【小酒井極域科学企画官】 資料6に基づき説明します。「北極域研究のあり方に関する審議にあたっての論点(案)」です。まず「1.議論の基本的な方向性」ですけれども、先ほど御説明あった取組につきまして、これまでの成果、課題、改善すべき点、新たな観点等を議論し、今後の在り方を検討してはどうかということです。また、北極研究に関しては、先ほど来、御議論が出ておりますとおり、中長期的な課題ですとか短期的な課題があると考えられることから、それぞれの課題を整理した上で、焦点を絞って検討を進めてはどうかと考えています。
 「2.主な論点」ですけれども、先ほどの御説明や我が国の北極政策を踏まえ、事務局として、論点と思われる点について、主にこれは研究面が中心という整理をさせていただきました。先ほどから、例えば産学連携といったことも出てきていますが、欠落しているような論点等があれば、御指摘を頂ければと思います。
 まず、主な論点の「(1)北極域研究の意義・役割に関する論点」ですが、こちらは先ほど出ておりますとおり、1ポツの最後の方ですけれども、我が国の強みである科学技術を基盤として、国際社会において先見性を持って積極的に主導力を発揮していくことが必要ではないかといった点、また、その際、2つ目ですけれども、科学技術力をどのように捉え、今後どのように強化していくべきかといったようなこと。
 また、「(2)北極域に関する研究開発に関する論点」ですが、これは大きく白丸、裏面にかけまして6点ほど整理していますが、まず1つ目の丸の「研究開発、観測」のところでは、よりグローバルな政策判断ですとか課題解決に資する国際共同研究の拡充でございますとか、新たな国際共同研究を推進すべきではないかといった点、また、2つ目には、新たな観測拠点を整備するなど、国際連携をより強化していく必要があるのではないかといったこと、また、3つ目ですが、そういった研究開発とともに、観測体制の強化ですとか、最先端の観測機器等の開発が必要ではないかといったこと、また、その中で、北極域の研究船など、北極域の国際研究プラットホームの在り方についての検討が必要ではないかといった点、また、地球温暖化などの全球的な課題解決のためには、南極域の研究や全球的な研究との相互連携を進めるべきではないかといった点。
 また、「国内研究拠点」については、海洋研究開発機構、北海道大学、国立極地研究所に北極に関するセンターが設置をされていますが、そういった研究に関する体制整備に関する点、また、北極に関しては文科省以外にも環境省、総務省等でも研究・観測が実施されているところであり、オールジャパンとしての横断的なネットワークを構築すべきではないかといった点、また、研究基盤の共同利用ですとか、研究データを共有する枠組みの形成など、研究拠点がさらなる重要な役割を果たしていく必要があるのではないかといった点。
 また、「国際連携・国際協力」につきましては、国際的なデータの共有、枠組みへの参画ですとか、広範な国際協力に基づく対応、あるいはその中で、北極圏国等との二国間あるいは多国間での協力の拡大。
 また、次の「人材育成」では、北極域に関して国際的に活躍する人材を育成していく必要があるのではないかということ。
 また、「人文・社会科学分野と自然科学分野の連携の促進」では、北極域に関しては人間社会の様々な活動が実施されていることを踏まえ、人文・社会科学と自然科学分野の連携を促進すべきではないかといった点。
 また、「ステークホルダーへの情報発信」について、積極的な情報発信等が必要ではないかといったことを事務局としてまとめさせていただいております。
 これらにつきまして、先生方の御議論を踏まえて、さらにブラッシュアップをさせていただきたいと思いますが、このほか何かお気付きの点等あれば御指摘等を頂ければと思います。
【藤井主査】 どうもありがとうございます。ご意見等ございますでしょうか。
【谷委員】 既に主査からの御指摘がありましたが、我が国の北極域研究の位置というのがどこにあるのかというのが、今日いただいた資料の説明ではよく分からない。国際的にきちんとしたフレームワークのある総合的な研究があるかというと、そうでもなさそうで、我々人類が何を理解しておかないといけないのかという大きなマップがあって、その中でこういう国際共同研究とか国際事業、これとこれがカバーする、日本はその中で立ち位置はこれで、ここは見ている、穴はどこにあって、あるいは日本がリードしないとこれは絶対まとまらないものがあるというような、そういう絵があると、我が国の全体の立ち位置が見えるのかなと思う。
 先ほどからいろいろな御意見がありましたけれども、そもそも我が国は北極をどうしたいのかというところも別途あって、全地球のことを考える、人類の将来を考えるという事のほかに、日本は北極で何をしたいのか、あるいはどういう振りをしたらもっと発言力が増えるのだとか、いろいろなことを考えないといけないと思うが、まずその前に、一体何が課題で、そのために誰が何をやっているのかという整理が要ると思う。
【藤井主査】 まさにそれが非常に必要だと思う。最初は非常に粗々でいいので、そのようなものを作成いただき、少しずつ理解を深めたいと思います。
【谷委員】 ステークホルダーとは何を想定しているのでしょうか。
【小酒井極域科学企画官】 広く国民ですとか企業の方ですとか、北極に関して、影響を受けるという言い方が正しいか分からないが、そういう全ての方をステークホルダーと考えています。
【谷委員】 国外のステークホルダーを考えているか。例えば北極域先住民は一番影響を受ける人たち。人数はそんなにおられないけれども、本当に住む場所がなくなってしまう、あるいは今までの生活ができない人がいて、我が国の北極政策の中でも利用を考えると書いてあるが、利用したら住むところがなくなると思っているのかもしれないというところがある。ですので、彼らも重要なステークホルダーなのかもしれないのですが、そこも含めたステークホルダーということか、もうちょっとスモールスケールなものですか。
【小酒井極域科学企画官】 当然今住んでいる方も含めてステークホルダーと考えています。
【藤井良広委員】 軍事安全保障といった分野は、これは北極の場合、あるパートで必ず出てくる。ここでは一切触れていない。触れる余地も余裕もないのですが、そのあたり、戦略といった場合にどうなのだと。その分野は外してやるのだというなら、それはそれでそういう表現でも構わないのですが、ここではどのように位置付けるのか、入れた方がいいのか、入れない方がいいのか、事務局としてどのような認識なのでしょうか。
【榎本委員】 北極で様々な会合がありますけれども、例えば北極評議会では、軍事安全は触れないという宣言しているところもあります。
【藤井良広委員】 考え方を記載してもらった方がいいと思う。基本的な扱い方を記載してもらうと、そこは外してやればいいのだということになるので。
【池島主査代理】 専門から申しますと、本来はその部分を除いてなされるべきではないけれども、ACの在り方、北極評議会の設立経緯を見ると、軍事安全保障を除いて議事その他を行うということが設立以来の建前、原則なので、ACでは、科学や環境、持続可能な開発、発展という観点からの研究やいろいろな議題が多い。
 ただ、一般的には軍事安全保障はいろいろな形で周辺各国は実施している。ただ、本委員会でそれを含めるのか、含めた議論まで行うのか、カバーするのかどうかというのは、やはりここでの議論だと思います。
【藤井主査】 本委員会の名前は北極研究戦略ということですので、研究にどこまで含めるかということと、宇宙等も含めてそうですが、科学的成果をオープンに出して、それがどういうふうに使われるかというのはそこから先の問題だという考え方もありますので、どこまでをここで所掌するかというのは、次回以降、議論したいと思う。
【林海洋地球課長】 資料2-2の「我が国の北極政策」、これは昨年10月に海洋政策本部で取りまとめたものです。この5ページにまさに安全保障の観点もこの政策の中で書いています。ここでは、軍事的なプレゼンスを強化する動きを、北極における緊張や対立に転化させないことが重要というような観点であるとか、このような動向に十分注意を払いながら、北極圏国との協力を推進していくことが必要であると、というような政策の方向性が出ていますので、こういうものを踏まえながら、科学技術・学術審議会の中でどこまで考慮していくか、ということになると思います。
【高倉委員】 人社系の専門家から見ていくと、多分北極研究者というアイデンティティーはほとんど持っていない。例えばロシアの研究者というのは存在しているし、あるいはカナダの国際関係をやるとかという人はいるけれども、日本のロシア研究者は日本とロシア、あるいはロシアと例えばアメリカという形で見ていて、北極全体を見渡して研究するというアプローチは非常に少ない。
 これは、ある意味、ディシプリンが持っている性格と絡んでくると思うが、こういう形で北極研究を進めていくときに、それぞれの研究者が持たなければいけない見通しというのが、今までのディシプリンと少し違っているような感じがする。これは人材育成とか、中長期的な課題に関わってくるのではと思う。
 あと、人材育成ということに関連して、これは人文系だけではなくて自然科学の人からも聞いているが、なかなか北極域研究に研究者が育っていかない現状がある。これは抜本的に考えないといけない問題と思う。
【藤井主査】 今のような視点も加えていきたいと思います。本日、御議論いただいた長期的な課題、例えば産学官連携であればどのようなニースが具体的にあるのかとか、人社系では人間社会との関わりでは具体的にどのようなものがあるのか等を議論したいという話がありました。
 また、国際連携であると日本のとるべきスタンスをはっきりさせて議論すべきであるとか、長期のモニタリングの重要性等も話も出ました。今回頂いたものの中に少し加えて、ブラッシュアップして展開いただけたらと思います。
【谷委員】 本委員会では、どれぐらいのタイムレンジで考えるのか。研究船の話となれば、25年なり30年先を見て考えないといけないでしょうし、人材育成もかなりロングレンジで考えなければいけない。喫緊の課題もあると思うので、どの程度のタイムフレームで考えるのか。中長期とか短期がと記載されているが、どういう中長期なのか。
【藤井主査】 非常に重要なポイント。今回、ArCSがスタートしたという段階。そういう中で次のことも含めて考えながら、中長期を考えるというタイムスケールかと思う。
 長期的な問題、例えば先ほどお願いした中長期的なターゲット、重要性、網羅性、国際の中での競争と連携といった観点から作成いただきたいと思う。
 できるだけ詰められるところから詰めていく必要はあるが、今出てきた人材育成までを含めた各アイテムについて、アクション、目標を設定していくことが必要かと思う。
 事務局で本日の議論をまとめていただき、次の委員会までにもう少しどういう点を議論するか等について諮らせていただきたい。
【藤井主査】 それでは、その他とございますけれども、その他、何か御質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、次回について事務局から説明願います。
【山口海洋地球課長補佐】 次回会議につきましては、資4月頃の開催を予定しております。今後、日程調整の上、開催日程を決定させていただきます。
【藤井主査】 それでは、きょうの会合はこれで終了します。ありがとうございました。

―― 了 ――

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