3.審議の結果

1 応募資格の見直し

 科研費(一部の研究種目を除く)の応募資格は、従来、指定された研究機関に「常勤の研究者(当該研究機関に常時勤務し研究を主たる職務とする者)として所属する者」としてきたが、研究者の勤務形態や職名の多様化に伴い、これを見直す必要が生じている。
 本部会においては、「研究者の自由な発想に基づく優れた独創的・先駆的研究を格段に発展させることを目指した研究資金であり、我が国の学術研究の振興そのものを目的としている」(平成15年5月27日 研究費部会報告)という科研費の目的・理念を前提としつつ、「職務の内容と研究との関係」、「研究機関への帰属度」等の側面から、今後の応募資格の在り方について検討を行った。
 その結果、より多様な勤務形態・職名等に対応し、優れた独創的・先駆的研究を広く対象とできるようにするため、今後の応募資格については、従来の機関指定制を維持しつつ、次の4つの要件を全て満たすこととすることが妥当であるとの結論を得た。

<研究者に係る要件>

a 指定された研究機関に、当該研究機関の研究活動を行うことを職務に含む者として、所属する者であること(有給・無給、常勤・非常勤、フルタイム・パートタイムの別を問わない。また、研究活動以外のものを主たる職務とする者も含む。)

b 当該研究機関の研究活動に実際に従事していること(研究の補助は除く。)

<研究機関に係る要件>

c 科研費が交付された場合に、その研究活動を、当該研究機関の活動として行わせること

d 科研費が交付された場合に、機関として補助金の管理を行うこと
 どの職員を前記の要件を満たす者として位置づけるかは、個々の職員の資質・研究能力を踏まえつつ、各研究機関の判断と責任において決定されるべきものである。基本的考え方として、この点は、従来の応募資格であった「常勤の研究者」の採用が各研究機関の裁量に委ねられていたことと何ら変わるものではない。

2 研究種目の構成の見直し

(1)研究種目そのものの見直し

 科研費の研究種目は、現在14に分かれており、また、「基盤研究」等一部の研究種目は、応募金額や研究の性格に応じて更に複数のサブカテゴリーに分かれている。このような研究種目の細分が応募件数を増大させる原因となっているとの意見や、重複応募制限のルールを複雑にしているといった意見が一部にある。
 しかし、科研費の研究種目は、これまで学術研究を巡る諸状況に即して、その目的、対象、応募金額、研究期間等について見直しを重ね、改善を図ってきた結果、現在の構成・内容になっているものであり、合理的理由に基づいて定められている。研究種目そのものの在り方は科研費全体の在り方にも関わるものでもあり、本部会においては、現在の学術研究を巡る諸状況に沿った構成・内容になっているかを検証しつつ検討を行った。

1.科研費における研究種目の設定の考え方

 科研費制度においては、学術研究を振興する観点から不可欠な要素を勘案し、研究者のニーズに応えつつ効果的に研究費助成を行うため、その目的・対象、応募金額の規模、研究期間等により階層的に、現在14の研究種目を設定して、その中から研究者が、自らの研究計画に適合した研究種目を選択する仕組みとなっている。
 学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲に基づく研究であって、人類共通の知的資産を形成するものであり、研究者の知的好奇心をその源泉としている。人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野において、多様な考え方により、多様な研究が行われることをその特徴としており、こうした学術研究への助成においては、多様な研究に柔軟に対応できるようにしておく必要がある。
 このため、科研費においては、所属研究機関を問わず、できるだけ多くの優れた研究者の多様なニーズに応じた支援ができるよう、研究費の規模が小規模である研究課題に対しても研究費の支援ができるようにしなければならない。

2.研究費が小規模である研究種目の必要性について

ア) 科研費のうち、研究費規模が比較的に小規模である基盤研究(B)、基盤研究(C)及び若手研究(B)の審査は、日本学術振興会の科学研究費委員会において行われている。これらの研究種目の審査においては、系・分野・分科・細目表の細目毎に置かれる6名又は3名の審査員による個別審査(第1段審査)と、その審査結果を基にして行う複数の審査員による合議審査(第2段審査)が行われており、複数の審査員の目を経て採択研究課題の選定が行われている。
 総合科学技術会議からは、競争的研究資金の在り方に関して、科研費を例にあげつつ、「研究費の小規模な研究開発課題が多い。このため、若手研究者を中心に多数の応募を行わざるを得ない状況となっており、その結果、欧米に比べても、膨大な数の申請件数となり、評価に過重な負担をかける一因となっているものがある。」との現状認識のもと、「交付される研究費が小規模な若手向け制度については、金額の規模を大きくすることを検討する。」との指摘がある(総合科学技術会議「競争的研究資金制度改革について(意見)」平成15年4月21日)。また、科研費に対して、「基盤研究等についてみると、申請件数は約7万2,000件、第1段審査の際の審査員は約3,700人であり、審査員1人当たりの審査件数は、毎年わずかずつ減少しているとはいえ、現状でも平均98件であり、審査は短期間のうちに行われている。このことから、現状においても、審査員に過剰な負担がかかっていることが考えられ、また、今後、研究実績よりも研究計画の内容を重視した審査に転換を図っていく上でも、大きな障害となる可能性がある。本件は、申請件数が著しく多いために生ずる問題とも考えられるが、その原因については、1件当たりの配分額の妥当性や申請書様式の妥当性を再検討するとともに、大学等における研究費の実情、諸外国の実情等も併せて検討して、制度・運用の最適化を図る等、適切な改善策を追求することが必要である。」との指摘もある(総合科学技術会議「競争的研究資金制度の評価」平成15年7月23日)。

イ) このため、本部会では、研究種目の見直しの一環として、研究費規模が比較的に小規模でありかつ応募件数が多い、基盤研究(B)、基盤研究(C)及び若手研究(B)の必要性について審議した。
 平成16年度の新規の応募件数を見ると、特別推進研究128件、基盤研究(S)396件、基盤研究(A)2,123件、基盤研究(B)12,032件、基盤研究(C)26,778件、若手研究(A)1,048件、若手研究(B)14,042件となっており、基盤研究(B)、基盤研究(C)及び若手研究(B)への応募件数は極めて多い。
 分野別に応募総件数に占める基盤研究(B)への応募件数の割合を見ると、総合領域20.0%、複合新領域29.2%、人文学19.3%、社会科学19.8%、数物系科学20.3%、化学25.9%、工学25.5%、生物学23.6%、農学32.8%、医歯薬学16.9%となっており、複合新領域、化学、工学、農学においては、応募先として基盤研究(B)を選択する割合が高く、これらの分野においては、基盤研究(B)が重要な役割を果たしているということができる。
 同様に、分野別に応募総件数に占める基盤研究(C)への応募件数の割合を見ると、総合領域45.1%、複合新領域36.0%、人文学57.1%、社会科学49.9%、数物系科学46.3%、化学35.4%、工学39.2%、生物学40.1%、農学37.6%、医歯薬学54.6%となっており、人文学、社会科学、数物系科学、医歯薬学においては、応募先として基盤研究(C)を選択する割合が高く、これらの分野においては、基盤研究(C)が重要な役割を果たしているということができる。
 さらに、分野別に応募総件数に占める若手研究(B)への応募件数の割合を見ると、総合領域29.0%、複合新領域21.5%、人文学18.6%、社会科学26.0%、数物系科学23.3%、化学27.0%、工学25.7%、生物学26.6%、農学22.0%、医歯薬学25.5%となっており、総合領域、社会科学、化学、工学、生物学、医歯薬学においては、応募先として若手研究(B)を選択する割合が高く、これらの分野においては、若手研究(B)が重要な役割を果たしているということができる。

ウ) 以上に鑑みると、基盤研究(B)、基盤研究(C)及び若手研究(B)は、人文社会系の研究者にとどまらず、理工系、生物系の研究者にとっても、その研究活動に不可欠な役割を占めているということができる。また、研究の内容によっては、例えば、実験の場合に、基盤研究(C)で研究を始めて成果があがるにつれて、更に高い精度や精密性を要求する研究に進展し、基盤研究(B)、(A)、更には特別推進研究へと移行していく場合があり、研究の初期の段階にあるものに対して基盤研究(C)の果たすべき役割は重大であると言える。一方で、理論や数学などの場合には、移行しなくても、定常的に科研費が得られることにより、きちんと研究を行い、成果を挙げることが可能な場合もある。

エ) 学術研究の助成においては、多様性に富んだ明日の学術研究の芽を育んでいくことが重要であり、「畑の隅々まで栄養分をしみこませておく」という発想こそが必要である。
 応募金額を一定規模以上のものに制限することは、できるだけ多くの優れた研究者にその多様なニーズに応じて支援を行うという科研費制度の趣旨に反するものである。研究の質は金額の多寡によって決まるものではない。
 研究者のニーズが高い基盤研究(B)、基盤研究(C)及び若手研究(B)にこそ十分な所要額を確保し、多様な研究を広く支援できるようにすべきものであると考える。
 なお、基盤研究(B)及び基盤研究(C)は、若手研究者向けの研究種目として捉えるべきではなく、基盤研究(B)及び基盤研究(C)の金額の範囲で研究ができるものを対象として、年齢に関わらず応募できるものとして設けられていると考えるべきである。
 以上のことから、基盤研究(B)、基盤研究(C)及び若手研究(B)については、研究費規模が比較的に小規模であり、かつ応募件数が多いとしても、学術の振興に重要な役割を果たしていることから、今後においても存置し、その充実を図るべきものと考える。

オ) なお、若手研究者への支援に関しては、若手研究者に限って応募することができる研究種目として若手研究(A)及び若手研究(B)が設けられている。金額の規模に関しては、若手研究(A)においては、研究期間が2~3年間で500万円以上3,000万円以下とされており、金額について基盤研究と比較した場合、基盤研究(A)と基盤研究(B)の中間に位置している。また、若手研究(B)においては、研究期間が2~3年間で500万円以下とされており、基盤研究(C)と同じになっている。若手研究者への支援については、近年予算の大幅な増額が行われてきているところであるが、今後とも予算の拡充によってその充実を図るべきである。

3.基盤研究(C)審査区分「企画調査」の必要性について

 審査区分「企画調査」は、
 1)「特定領域研究」の新規発足研究領域として応募するための準備調査を行うもの、
 2)1)以外で学術振興上、必要性の高い共同研究(国際共同研究を含む。)等の企画を行うもの、
 3)日本での開催が予定される国際研究集会について、研究内容面に関する企画等の準備(組織委員会等が行うものを除く。)を行うもの、
を対象に、1年の研究期間で応募総額500万円以下で設けられている。
 これについては、実際の研究と事前の企画調査は異なる研究の段階であっても一連の活動であり、これらを分離して審査する必要があるか、また、科研費の独立の審査区分としていることは適切かどうかとの意見があり、このことについて審議を行った。
 この問題の背景には、実際の審査の場において、研究の企画や事前調査を対象とする「企画調査」に基盤研究(C)審査区分「一般」で応募すべきと思われるものが多く見られる点が指摘されているが、「企画調査」の目的は公募要領等に明示されており、このことがきちんと理解されていないところに問題がある。この「企画調査」は、交付される金額は少ないが、複合的な研究領域や新しい研究領域に対応する特定領域研究への領域応募に向けて研究者が集まり、様々な調査を行うために有意義であり、今後とも特定領域研究などを活発なものにするため、有効に活用できるよう存置すべきである。

4.国際共同研究のための新たな研究種目の設置について

 国際共同研究は政府間、大学間又は研究機関間で協定を結んで進めることが多く、当事者間での信頼関係が必要であり、研究の継続性が非常に重要となる。このため、国際共同研究の継続がいつまで保証されるかということが明確にならないと成り立たない研究計画が、特別推進研究、特定領域研究の中で他の研究と同時に審査に付された場合、他の研究との比較が困難で採択研究課題の選定に支障が生じる場合がある。
 このようなことから、国際共同研究支援については、その特性に応じた新たな研究種目を設定することについて、今後更に検討を行うことが必要である。

(2)重複応募制限の見直し

ア) 科研費においては、研究の目的・性格、研究実施形態、研究者の年齢の違いにより、研究種目や審査区分を設けているが、これらの研究種目や審査区分の趣旨を踏まえ、科研費の「重複応募制限ルール」を定めている。
 現在のこの重複応募制限ルールにおいて重複応募を認めない場合としては、
 1.1人の研究者が非常に多額の研究費の交付を受けるものについては、その研究にのみ専念すべき義務があるとの考え方に基づき、他の研究種目の研究を同時に実施することを認めない場合(例:特別推進研究を受給する者は他の研究種目の助成を受ける研究を一切実施できない)と、
 2.1人の研究者が多数の研究を実施することにより、多額の研究費が当該研究者に集中することを避け、限られた財源でより多くの研究者が研究できるようにするため、同一研究種目又は審査区分内において複数の研究を同時に実施することを認めない場合(例:基盤研究(A)審査区分「一般」と基盤研究(B)審査区分「一般」を同時に受給できない)
とがある。
 これらに該当しない場合、すなわち、1人の研究者が異なる研究種目(特別推進研究を除く)又は審査区分の研究を同時に実施する場合については、それぞれの研究種目又は審査区分に対応して、研究の目的・性格、研究実施形態等が異なり、研究の活性化、研究の新たな展開が期待でき、かつ1研究課題当たりの研究費も多額ではなく、研究費の過度の集中も生じないため、複数の研究を同時に実施することを認めている。

イ) この科研費制度内における重複応募制限の在り方については、平成13年7月10日の本部会の報告において、今後検討すべきとされていたこと、また、重複応募制限のルールが複雑に過ぎるという意見が一部にあり、実際に、誤って重複応募制限に抵触したと思われる事例が毎年200件程度見られることから、ルールを単純化・明確化することの可能性・適切性について検討を行った。
 しかしながら、現在の重複応募制限ルールは各研究種目の設定趣旨・特性等の違いによる合理的理由に基づいて定められたものであり、1人当たりの応募可能件数を一律に定めるような単純化は好ましくない。また、前記のような問題については、問合せ窓口を設けること等により丁寧な対応をとれば解決できると考えられることから、現時点でこれを改正する必要はないと考える。

ウ) 以上により、現行のルールの内容を分かりやすく示す方法を工夫するとともに、各研究機関に対して現行のルールの周知徹底を図り、誤ってこれに抵触するケースをできる限り少なくするよう努めることが適切である。
 なお、近年、競争的研究資金が拡充されるに伴い、科研費とそれ以外の競争的研究資金との間で同一研究者に対する研究費の集中や重複の問題が生じてきている。
 競争的な研究環境を醸成すれば、優秀な研究者がより多くの研究費や研究課題を獲得することは当然であり、競争的研究資金の集中・重複の事例の全てを問題とすべきではないと考える。しかし、科研費において重複応募制限ルールを定めている趣旨から考えれば、使い切れないほどの研究費が特定の研究者に集中したり(過度の集中)、同一の研究課題に対して複数の競争的研究資金が配分される(不合理な重複)ような場合は、国費の効果的・効率的な使用を確保する等の観点から、是正が必要であると考える。
 この問題については、各競争的研究資金を所管する関係府省等の共通の指針を定め、政府全体で対応することが望ましい。

3 募集・審査の在り方の見直し

(1)現状

 科研費制度においては、幅広い学術研究の分野の振興を効果的に進めるために第一線の研究者によるピア・レビューを導入している。採択すべき研究課題の審査及びその後の中間・事後評価(以下、「審査評価」という。)については、研究種目の目的・性格・規模等に応じて審査評価体制を工夫しており、制度全体としては、特に審査を重視して改善が図られてきているところである。
 特別推進研究及び特定領域研究の研究課題は、科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会において審査されている。審査部会の下に置かれる人文・社会系、理工系、生物系の各委員会においては、1.レフェリーによる評価、2.書面審査とその後の合議審査、及び3.ヒアリングとそれに基づく合議審査の3段階の審査を実施している。このような3段階の審査体制は、現在、我が国で採りうる最善のものであり、積極的に評価すべきである。
 各委員会での審査は、各研究課題ごとに依頼した特定の研究課題に対応した専門研究者(レフェリー)により作成される審査意見書と、より広い視野での第一線の研究者によるヒアリングと合議が組み合わされることで、総合的で適正な判断が可能となっている。
 また、基盤研究等の研究課題は、日本学術振興会科学研究費委員会において審査されている。系・分野・分科・細目表の細目毎に6名又は3名の審査員による第1段の書面審査及び第2段のそれぞれの分野ごとの合議審査を経て、採否が決定されている。これらの審査は、平成11年度の科学研究費補助金業務の日本学術振興会への移管後に抜本的に体制が拡充されており、現在、約4,500名の研究者が審査に参画してきめ細かく行われている。なお、今後応募の増加が見込まれていることから、審査員を更に増員するなど、審査員1人当たりの負担を軽減し、より効果的で適正な審査が行えるよう中長期的視点から更に検討が必要である。

(2)課題

 科研費における審査体制については、多数の研究者が審査員として事前評価を基に議論し、研究種目によっては、ヒアリングを経て研究計画内容の重要性を審議し、最終的には採択研究課題を投票により決定するなど、とりわけ透明かつ公正に行われているとの声が強い。しかし、採択率が低く審査で採択されない研究課題が全体の約75%を占めることもあり、応募審査の在り方に関し、改善を求める声も少なくない。
 例えば、競争的研究資金については、応募者への評価意見や不採択理由の開示が求められている(総合科学技術会議「競争的研究資金制度改革について(意見)」平成15年4月21日)。また、基盤研究等の審査については、審査員1人当たりの審査件数が平均98件(平成15年度)と多く、審査が短期間に行われていることから、審査員に過剰な負担がかかっているが、こうした審査状況は、研究実績よりも研究計画の内容を重視した審査に転換を図る上でも大きな障害となる可能性があるとの指摘がある(総合科学技術会議「競争的研究資金制度の評価」平成15年7月23日)。さらに、この立場からは、金額の規模の拡大による応募件数の抑制、応募件数が著しく多い中での対応策としての予備審査の実施、審査の年複数回実施などについて検討すべきとの要請がなされているところである。
 このため、本部会においては、1.予備審査及びいわゆる「覆面審査」の導入、2.年複数回応募について審議を行った。

1.予備審査及びいわゆる「覆面審査」の導入について

 現在、科研費の公募に当たっては、研究の目的、従来の研究経過・成果、準備状況、研究計画・方法、業績を記入する簡にして要を得た研究計画調書(平均10頁程度)の提出を求め、これを前提として審査を行ってきている。
 詳細な計画を提出させ審査する前に、一旦簡単な申請書で審査を行う「予備審査」や応募者の氏名、業績など、応募者に関する情報を審査員に伏せて審査を行ういわゆる「覆面審査」は、研究計画を詳細に記述する応募書類(例えばNIHでは平均50頁弱と言われている)の存在を前提として意味を成すものであると考えられる。
 その点で、このような仕組みの相違を勘案しないで予備審査等の導入を図ることは適切ではないと考えられる。
 例えば、予備審査については、研究計画調書をこれ以上に簡略化すると研究計画の内容・方法等に関して十分な審査ができなくなり、研究計画の意義等の判断が困難となり、ひいては重要な研究課題を見逃す恐れすらあることが懸念される。
 同様に、いわゆる「覆面審査」については、論文リスト等を含め業績等は、少なくとも、科研費における研究計画調書の場合にあっては、研究計画の実現可能性、妥当性を判断する材料として重要な役割を果たすことが多い。研究計画は実績の裏付けの検証があってこそ達成可能性が適切に評価されると考えられるからである。
 これらの問題について考える場合には、我が国と欧米諸国との研究費制度の違いを考慮に入れる必要がある。例えば米国の場合、研究費には研究者本人及びスタッフの人件費、研究実施に伴う施設設備費及びその維持管理費が含まれており、助成される研究費の規模が大きいことから、それに見合った恒常的に大規模な審査評価の仕組みとなっている。これに対して、我が国の場合には、研究者は研究機関に雇用され、研究者本人及び主要スタッフの人件費、研究実施に必要な施設費及びその維持管理費は、その研究者が所属する研究機関において措置されることを予定していることから、助成される研究費の規模が小さく、それに見合った支援の仕組みとなっている。とりわけ、科研費にあっては、人件費、施設費等の必要性を説明する部分がほとんどないこと、優れた研究者の多様なニーズに応じて、できるだけ多くの能力ある研究者への支援ができるよう、審査に当たる研究者及び応募する研究者の双方の負担を軽減する観点などから、審査に必要かつ十分な内容を盛り込んだ応募書類に基づく審査の仕組みがとられてきたのである。
 また、公表実績が少ない若手研究者への支援に関しては、科研費では、若手研究者に限って応募することができる研究種目として、若手研究(A)及び若手研究(B)が設けられている。加えて、独創的な発想に基づく芽生え期の研究を対象とする研究種目として設けられている萌芽研究においては、研究業績を問わず、研究計画の内容を重視する審査が行われている。
 このような点を勘案すれば、審査評価を改善していく上で、我が国で最も急ぐべきことは、むしろ審査員の増員等、現行審査体制の充実と審査評価結果の開示にあるものと考える。不採択になった研究者の不満の多くは、評価意見や不採択理由の開示が十分になされないことから生じているものと考えられる。しかし、我が国の場合、恒常的に大規模な審査評価の仕組みが整備されているという状態には至っておらず、プログラムディレクター(PD)、プログラムオフィサー(PO)などの整備が開始されたばかりであることから、審査はもちろんのこと、評価意見や不採択理由の作成及び開示に必要な体制が十分とは言い難い状況にある。このようなことから、問題の解決のためには、審査評価が円滑にできるよう、審査評価体制の整備充実を目指すべきである。このため、日本学術振興会に設置されている学術システム研究センターを中心として、事務体制の充実も含め円滑な審査評価のシステムが構築できるよう積極的な支援が望まれる。

2.年複数回応募について

 本部会は、このことについて、平成15年5月27日の「科学研究費補助金制度の評価について」において、迅速かつ機動的な研究費助成という点では利点もあるが、一方で、同じ応募を何度も繰り返すなど応募件数の増加も予想され、その実現には審査・事務体制の充実をはじめ、解決すべき課題も多く、引き続き十分な検討が必要であるとした。
 これに対し、総合科学技術会議の平成15年7月23日の「競争的研究資金制度の評価」において、応募件数が著しく多いことについての対応策として、審査の年複数回実施を検討することも必要であるとの指摘がある。
 しかしながら、複数回の応募を認めた場合、
 1)早期交付あるいは早期の公募を行うことができないこと、
 2)年度途中で交付する場合に、1年分の研究費を交付するためには、包括的な繰越明許が可能となる制度設計が必要となること、
 3)配分機関において、複数回の審査の作業を処理できる体制にないこと
など様々な問題がある。
 仮に、全員に対して複数回の公募を行うこととなれば、例えば、1回目の公募において採択されなかった研究者が2回目の公募においても応募できることとなり、配分機関の作業量が約2倍になるばかりでメリットが少ない。
 また、試算型の配分方式(各分野への科研費の配分を分科細目ごとの応募件数・応募金額に応じて算出するタイプ。4(1)の記述参照)を採る基盤研究等の審査においては、初回の応募分と公平感を持たせて審査するための方法が問題となる。
 さらに、現状の審査評価体制を前提とした場合、予算単年度主義の原則の適用除外や複数回の公募のための予算額の倍増、審査評価体制の抜本的な拡充等がなければ、それに費やす労力に比してメリットが少なく現実的でない。
 以上を勘案すると、この点に関しては、審査評価・事務体制の充実など、解決すべき課題も多く、現状においては全ての者に複数回の応募を認めることは適当でないと考える。
 ただし、研究者が科研費を有効に使えるようにするという観点に立てば、複数回の応募ができれば好ましいことであって、その必要に応じ体制を整えるべきとの意見もある。
 年度途中に応募資格を得た研究者や、外国から来た研究者など、限られた人数を対象とするのであれば、柔軟性を持った運用を行うことにより、年複数回応募の導入を検討する余地もあると考えられる。このため、その実施方策について今後更に検討を進めるべきである。

4 研究費の配分の在り方

(1)試算型の継続の適否

 本部会は、このことについて、平成15年5月27日の「科学研究費補助金制度の評価について」において、配分方法の改善に関し、客観的な公平さを持って科研費を各学問分野に配分する観点からは、基盤研究等については、試算型(各分野への科研費の配分を分科細目ごとの応募件数・応募金額に応じて算出するタイプ)以外には適切な配分方法が見当たらないのが現状であるとしている。また、試算型は必ずしも万能ではないが、学術研究を振興する上で大きな役割を果たしてきたことも事実であることから、現状を基本としつつ、分野調整型(各分野への科研費の配分を学問的要請や社会的要請を第一線の研究者が総合的に判断して分野間調整を図るタイプ)との双方の配分方式を組み合わせた科研費全体の在り方については、今後とも継続的に検討していくことが適当であるとした。
 これに対し、時代を先取りする新しい知、科学技術の創造のためには、試算型研究における分野別配分額の構成が、我が国の現状に照らして適切かどうかの検証や、諸外国との比較、また、試算型の補助金が現在の我が国の大学の研究活動において果たしている役割の再検討を行うことが重要であるとし、このような検討においては、基盤的研究や息の長い研究に対する配慮も必要であるとの指摘がある(総合科学技術会議「競争的研究資金制度の評価」平成15年7月23日)。
 科研費は、我が国の学術研究を総合的に推進しつつ、長期的な研究者の育成の効果を有する研究費であることから、5、6年の短期間で学問分野別の配分割合が大きく変動するようでは学術研究の継続性・多様性の維持に支障を来すということに留意し、長期的な観点に立って、試算型の適否について今後とも適宜検討していく必要がある。検討に際しては、分科細目の改定を含めて考える必要がある。

(2)分野別の配分方式の必要性

 科研費制度は、全ての分野を通じて一律の基準で運用されてきている。このため、全ての分野に対応できるようにする必要がある一方で、ある分野にとってみればそれが必ずしも適切でないという場合が生じ易い。科研費制度に寄せられる様々な要請についてみても、ある部分をとってみれば適切に見えるが、制度全体を俯瞰した場合には適切でないことも多い。これらのことは、全分野を一律に論じることから生じる問題であることから、本部会では、分野別の配分方式を導入することについての是非について検討を行った。
 現在、審査では、人文・社会系、理工系及び生物系に分かれているが、例えば現在問題となっている環境、安全保障、人間科学といったものは、様々な分野が共同しており、今後研究テーマとして考えていかなければならない融合的な研究課題が増加すると考えられる。
 このような場合に、現在の、3つの系のうち1つを選んで応募しなければならないこととすると、どうしてもこれらの学融合的な研究課題が、審査の最初の段階で外れてしまうケースが多くなると予想される。このような場合について、特別推進研究や特定領域研究の場合には、全ての分野の研究者が集まって総合的に議論しているため、ある程度カバーすることは可能であるが、基盤研究等の場合においては、第1段審査でふるいにかけられ、新しい分野がなかなか育たないということがあるのではないかという懸念もある。
 学融合的な研究課題についての審査体制の問題については、基盤研究等においても、系・分野・分科・細目表に総合・新領域を設けて対処してきたところであるが、今後これを十分活用することを含め、更に学術の動向を見極めながら、柔軟性のある分野の構成にするなど、検討を深めていく必要がある。なお、このような新しい分野の育成については、政府や科学技術・学術審議会が研究分野を指定するのではなく、研究者コミュニティが自律性を持って対応すべき問題であって、研究者コミュニティが自律的に重点化すべき分野を提案していく機運を作ることが重要であり、そうした提案を受ける窓口の周知も必要であることを指摘しておきたい。
 今後においては、学問分野の特性に応じて配分方式を変えることも検討に値する。現在の制度でも、第2段審査において採択件数と充足率のどちらを重視するかを分野によって変えることはある程度可能であるが、試算型の枠組みを維持しつつ更に柔軟かつ適切な配分を行うための工夫が必要である。
 配分審査を行う上で重要なことは、科研費をどのように効果的に配分するかにある。今後、配分方式を考えるに当たっては、「きちんと査定し、合理的に配分することにより、優れた研究を行う可能性のある、できるだけ多くの能力ある研究者に研究費を配分できるようにする」という観点から検討すべきである。

5 経費執行の弾力化

 科研費の経費執行においては、研究の進捗に柔軟に対応できるよう弾力化が図られてきている。
 例えば、平成3年度以降、交付額の総額の30%(この額が300万円に満たない場合は、300万円)を限度として、研究の進捗に応じて費目の変更ができるようになっている。また、平成11年度には、それまであった国際学術研究以外の研究種目では、非常に限られた場合にしか認められていなかった外国出張等の経費の支出について、その制限を大幅に緩和し、ほとんどの研究種目で支出できるよう改めた。
 さらに、平成13年度には、研究期間が4年以上の特別推進研究等の研究課題について、中長期的に研究を遂行することができるよう「研究期間の最終年度前年度の応募」を認め、科研費を継続的・安定的に獲得できる仕組みを導入するとともに、平成15年度には、繰越明許制度を導入し、計画当初に予期せぬ事情により研究の遅れが生じた場合などにおいて、年度を越えた使用もできるようになっている。加えて、平成16年度からは、それまでの「設備備品費」と「消耗品費」の区分を撤廃し、「物品費」として費目を大括り化し、研究機関において補助金を容易に管理できる工夫も行っている。
 また、平成13年度には、研究者が改姓した場合においても、研究計画調書における旧姓や通称のみによる表示を認めるとともに、平成15年度には、育児休業に伴い科研費による研究を中断・再開できるようにする措置を導入し、女性研究者の環境変化等にも柔軟に対応できるよう経費執行の弾力化を実施している。
 科研費は、間接経費や研究支援者の雇用経費の導入なども行い、研究者の自由な発想を実現するための研究経費として、これまでに的確で柔軟な研究費使用を実現してきている。このため、現時点においては、十分な経費執行の弾力化が行われているが、今後、我が国における研究環境の変化や社会の変化に伴い、研究活動に支障が生ずる場合には、科研費の柔軟な使用について適宜検討する準備が必要である。

6 不正使用の防止

 科研費に係る不正な使用が、厳しく指摘されている。科研費によって支援されている研究者・研究活動の全体から見ればごく一部のケースに過ぎないとは言え、国民の税金によってまかなわれている科研費の不正な使用は、納税者の信頼を損ない、制度全体の存立基盤を危うくするものである。
 科研費の不正な使用の中には、ごく少数ながら極めて悪質な事例がある一方で、制度・ルールの改善(費目間流用、年度間繰越、研究開始時期、間接経費、外国出張、研究支援者雇用、終了前年度応募、育児休業中断等に係る改善)に関する理解不足によって結果的にルール違反となったケースも少なからず見受けられる。このため、「不正な使用」を未然に防止するためには多様な対応が必要である。
 具体的には、これまで、研究機関による補助金管理・監査の徹底、研究機関の責任の明確化、説明会・研修会等の充実、不正な使用を行った研究者等に係る応募資格の一定期間停止などを行ってきたが、今後とも関係施策の充実に努め、不正使用の防止を徹底していく必要がある。
 研究費の適正な使用は、基本的には研究者のモラルによって維持されるべき問題であって、徒に硬直したルールにしたり、いわゆるペナルティーを過度に強化したりすることにより対応すべきものではない。本部会としては、科研費の交付を受ける全ての研究者に対して改めて自覚を促したい。

7 独立した配分機関体制の構築

 科研費に係る審査・配分事務については、平成11年2月の学術審議会科学研究費分科会報告において、「科学研究費補助金のうち、制度としてある程度整えられた、運用上の混乱を生じさせない研究種目については、日本学術振興会に移管し、よりきめ細かな審査・評価や研究者へのサービスの向上を目指すことが期待される・・・・同振興会を学術振興のための中核的機関、いわば日本版NSFあるいは日本版リサーチ・カウンシルに育成し・・・・ていくことが期待される」との提言が行われたことを受けて、平成11年度から徐々に移管を進めてきた。
 日本学術振興会においては、学術システム研究センターを設置し、プログラムディレクター(PD)の役割を担う所長及び副所長、プログラムオフィサー(PO)の役割を担う主任研究員及び専門研究員を配置するなど、審査・評価体制の充実を着実に進めており、現在までに、研究種目・予算の約半分について、移管が終了している。
 残された9つの研究種目については、移管のための諸条件(日本学術振興会における、ピア・レビューのための基盤の整備、審査・評価組織の整備、事務処理体制の整備等)がどの程度整っているかを見極めつつ、計画的に移管を進めていくことが必要である。
 この点について、本部会において検討を行った結果、次のような結論を得た。

  • 9つの研究種目は、移管のための諸条件が既に整っていると思われるもの(既に日本学術振興会において審査等の事務を行っている、萌芽研究、若手研究、特別研究員奨励費、学術創成研究費)と、今後更なる体制整備が必要であると思われるもの(特別推進研究、特定領域研究、研究成果公開促進費、特定奨励費、特別研究促進費)とに分類できる。
  • これらのうち前者の4つの研究種目については、前期計画として、平成17年度から概ね4年間で、順次日本学術振興会への移管を進めていくことが望ましい。
  • 後者の5つの研究種目については、前期計画の終了までに、必要な体制整備を検討しつつ、日本学術振興会への移管に関する後期計画を策定することが望ましい。

8 研究成果の発信の在り方

 学術研究は人類共通の知的資産を形成するものであり、その成果はより多くの人々に共有されることが大切である。また、学術研究の推進を図るためには、学術研究への国からの投資の必要性等について広く国民の理解と支持を得ることが重要である。このため、個々の研究者を含めた各大学等が、その行っている研究の内容、意義、必要性、成果について、できるだけ多くの機会をとらえて社会に対し積極的に情報を発信していく必要がある。
 科研費を用いて実施した研究の成果の発信は、学術研究全般の重要性を社会にアピールし、国民の理解と支持を得る上でも、国民の貴重な税金を原資とする科研費を用いて行われる研究について、国民への説明責任を果たす意味でも、また、科研費の役割について国民の理解を増進し、科研費の将来の拡充を図る上でも、極めて重要である。
 本部会では、学術研究全般についての成果発信の現状について整理・確認した後、特に科研費に係る研究成果の発信の在り方について、具体策の審議・検討を開始した。
 科研費を用いて実施した研究の成果の評価に関して、「成果事例中心の評価では、我が国の競争的研究資金全体の約51%と最大の資金規模を持つ本制度(科研費制度)の成果を論ずるには不十分」であるとの指摘がある(総合科学技術会議「競争的研究資金制度の評価」平成15年7月23日)。「国費を投入して行う研究開発にあっては、効果的・効率的な成果の創出が必要であり、大学等における基礎研究を担う本制度(科研費制度)においても、その成果や社会への還元の状況を的確に把握・評価し、あるいは社会に対して説明する責任は重大である」としている(同上)。
 科研費が支援対象としている学術研究は、目標があらかじめ設定された研究と異なり、「その成果の見通しを当初から立てることが難しく、また、その成果が実用化に必ずしも結びつくものではないこと等の性質を有」(科学技術基本法第5条)しており、研究を実施すれば必ず直ちに一般の国民の目に見える形で成果が創出されるものばかりではない。
 また、学術研究の成果が評価され、顕彰されあるいは実用化されるまでには、一定の期間が必要であり、特に著名な国際賞により評価されるまでには、数十年の期間を要することもある。
 このようなことから、これまで、学術研究は公開を前提とし、その成果は国内外の学界における研究者相互の評価という形で常に厳しい専門家の目にさらされ、適正に評価された研究成果は次の研究に発展し、次の研究成果の創出につながるという、研究者相互の評価システムの中で不断に評価され、研究ポテンシャルが維持されてきた。
 しかしながら、国費を投入して行う科研費による研究について説明責任を果たしていくためには、学術的価値の評価についてばかりでなく、納税者である一般の国民に対しても、研究成果の発信を積極的に行うべきであり、特に研究者の責任として、研究の成果を我が国の将来を担う子どもたちにもわかりやすく伝えることが重要であると考える。
 このため、新しい知的資産を積み上げていく取組の重要性について社会の理解を得ることが、現在、学術研究関係者が直面している非常に大きな課題となっている。しかし、研究者が研究成果の普及、社会との対話に過度に時間をとられ、研究時間を確保することが非常に難しくなるような状況をつくりだすことは、決して日本の学術研究の推進にとって好ましいものではない。今後、科研費を用いて実施した研究の成果の発信により科研費制度が有する意味やその研究成果を深く理解してもらう努力は、個々の研究者だけにとどまらず、文部科学省や科学技術・学術審議会なども行う必要があり、その方法等を含め今後検討していくことが必要である。
 科研費を用いて実施した研究の成果の発信については、科研費自身の中でもこれを支援する仕組みがあり、研究成果公開促進費の中で、1学術研究の発展に資する観点から、学会等の専門家集団に向けて研究成果の発信の促進を図る事業と、2一般国民に向けて学術研究の動向・内容の普及啓発の促進を図る事業、の2つについて助成が行われている。
 また、平成16年度からは、科研費を用いて実施した研究の成果を広く発信するためのホームページの作成について、その費用を科研費の直接経費から支出できることを補助条件に明示し、個々の研究者自身による成果発信の取組の促進を図ったほか、国立情報学研究所の科学研究費補助金データベースにより、研究課題・成果情報の一般向け試験公開を開始した。
 今後は、第一に、個々の研究者自身による成果発信への支援を拡大すること、第二に、文部科学省や日本学術振興会が研究者と連携・協力しつつより総合的で広範な成果発信を展開していくことが必要である。後者の例としては、各研究者が成果発信を行うホームページのポータルサイトの構築、テレビ等のメディアの活用、各種イベントの開催、科学ジャーナルとの連携などが考えられる。
 このため、これらを含め、国民の理解と支援を得るための効果的で分かりやすい研究成果の発信方法について審議した結果、次のような結論を得た。

 学問の専門化が進み、研究者同士でもわかりにくくなっている現状において、一般国民にわかりやすく学術研究の重要性を説明することは、研究者の片手間ではできない段階に達しており、このような役割を担う専門家を計画的に養成することが必要となってきている。
 専門家の養成に当たっては、科学ジャーナルと連携する方法も考えられるが、最終的には一般誌でも採り上げられるように解説できる人を同時に育てていくことも重要であり、国がイニシアティブをとって、大学等での育成はもとより、専門家と非専門家あるいは国民の橋渡しをする人材を育て、日本全体としての科学に対する理解・関心を高める方策について検討することが必要である。
 今後、検討を進めていくに当たっては、科研費を用いて実施した研究の成果等の評価を十分に行う観点から、長期的な視点に立って、論文や著書、学会発表、特許、有形無形での産業界への貢献、人材養成等を追跡して多角的に調査分析し、科研費制度の直接的な貢献を極力明らかにしていく必要がある。これを十分に行い得るよう、プログラムオフィサー(PO)や調査分析機能等の体制整備に十分な資源を投入することが重要である。
 また、国民に対する説明責任を果たし、国民への知識の還元や国民の理解を増進する観点から、研究者自身による研究成果の発信について、科研費その他の経費の支出を可能にする財政的な支援を行うことについても検討するとともに、現在、国立情報学研究所が一般向け試験公開中である科学研究費補助金データベースの正式運用を早期に実施する必要がある。
 さらに、関係機関が、個々の研究者が科研費を用いて実施した研究の成果の発表を行うホームページのポータルサイトの構築や、科学ジャーナルの刊行支援を行うほか、テレビ等のメディアの活用、各種イベントの開催、科学ジャーナルとの連携を行えるようにすることについて検討する必要がある。
 なお、研究成果の発信の在り方については、科研費だけの問題にとどまらず、学術研究全般に共通する問題もあると考えられることから、この問題については、費用対効果の問題も含め、他の適切な場で更に広く議論がなされるべきであると考える。

9 研究費全体の中における科研費の在り方

 研究活動に対する政府の財政的支援(研究費の支給)には、既に述べたように(1)研究の目標・内容等を政府があらかじめ定めるタイプのものと、(2)研究者の自由な発想に基づく研究(学術研究)を支援するタイプのものとがある。
 そうした研究費の全体を視野におき、前記の(2)に属する競争的研究資金である科研費の在り方を検討するには、例えば、前記の(2)の中での研究費配分の在り方、前記の(1)に属する競争的研究資金と(2)に属する競争的研究資金(科研費)の関係など、多様な側面を考えることが必要である。
 第一に、前記の(2)の中での研究費の配分の在り方については、学術研究に対する政府の財政的支援の具体的な方法として、1.競争的研究資金(科研費)による優れた研究の支援、2.基盤的研究資金による定常的研究活動の支援、3.大学共同利用機関の設置等による特定目的の研究の支援などがある中で、1.の科研費のみが「倍増」という政府の目標のもとに予算措置において優遇されていることから、少なからぬ研究者の間に、このことが2.の基盤的研究資金の充実に障害となっていたり、あるいは今後の削減を招くのではないかとの危惧も生じている。
 このことについては、科学技術関係経費についてのデータで見れば、前記の2・3に係る研究費の総額は、わずかながら増加しているところである。
 しかしながら、基盤的研究資金が十分に確保されているとは言えないこと、また、国立大学の法人化等により、各研究機関内での基盤的研究資金の配分については、各機関の広範な裁量に委ねられることとなることから、個々の研究者に基盤的研究資金がどの程度配分されるかについては、各研究機関によって大きな差が生じたり、基盤的研究資金の削減により大きな影響を受ける研究者が生じることも予想され、今後科研費への依存度が一層高まっていくとの指摘もなされている。しかし、審査によって採択された「優れた独創的・先駆的研究」のみを対象とする科研費がその本来の意義・特性に従って有効に活用され、デュアルサポートシステム注)が十分に機能するためには、一般の研究者を広く対象とする基盤的研究資金が確保される必要があり、このことについて各研究機関は十分に配慮する必要がある。
 このように、科研費については、「2.基盤的研究資金による定常的研究活動の支援」や「3.大学共同利用機関の設置等による特定目的の研究の支援」の充実を図りつつ、今後ともその拡充に努めていく必要がある。
 第二に、前記の(1)に属する競争的研究資金と(2)に属する競争的研究資金(科研費)の関係については、現在、合計28の競争的研究資金制度があることは、研究者のニーズに応じて多様な支援を行う体制があるという点で、基本的には好ましいことである。
 ただし、これらの諸制度は、「競争的研究資金」という一つのものとして論じられる傾向があるが、科研費が「研究者の自由な発想に基づく研究(学術研究)」を対象とするという他の競争的研究資金とは異なる特性を有している、ということを常に明確にしておく必要がある。
 政府が定めた重点分野に対して科研費を重点的に投入すべきであるという主張が一部にみられるが、中長期的に我が国の研究開発基盤を充実していく科研費の意義・目的について、関係者のみならず広く国民に理解を求めていく努力を今後一層行う必要がある。科研費によって支えられる学術研究から生まれてくるブレイクスルーこそが将来の重点分野を形成していくのである。
 現在、我が国においては、競争的研究資金を獲得することによって更に研究を進めるという方向で関係者が意識改革を行い、競争的研究資金を獲得しようというチャレンジ精神が研究者に広がっていることに鑑み、科研費については採択率を上げる方向で今後とも拡充を図っていくことが強く求められる。
 なお、科研費がその本来の意義・特性に従って有効に活用されるためのデュアルサポートシステム注)の望ましい在り方についての検討については、大学等の経費、教育・研究の在り方にも関連して、様々な要素が含まれ、大学制度の根幹に関わるものであることから、本部会における審議だけでなく、各研究機関内における基盤的研究資金の配分などの研究費全体の問題として、他の適切な場で更に審議することが適当である。

注)  デュアルサポートシステム
 運営費交付金など研究者の基礎的な活動にかかわる基盤的研究資金と、科学研究費補助金等から成る競争的研究資金の双方によって支援を行う研究費システム。

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研究振興局振興企画課学術企画室

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