4.法人形態の骨組み

(1)法人形態の考え方

(研究領域の考え方と機関の連合)

○ 今日の地球規模での貧困、人口、環境、生命倫理等の問題の顕在化は、科学技術の加速度的進展やグローバル化と無縁ではない。現在、我々が直面している文化、生命、環境、経済などに関わる極めて複雑・多様な問題の解決には、従来の学問分野を超えた新しい総合的な取り組みが必要となっている。

○ また、学問の高度化によって、学術研究領域は細分化・専門化の道をたどってきたが、近年の科学やハイテク技術の発展により、科学研究分野間の境界線が不明確となり、今や従来の分野を超えた協力なくしては飛躍的発展が困難となっている。

○ 大学共同利用機関は、これまで特定の研究者コミュニティの研究者の共同利用・共同研究の拠点として発展してきたが、このような機能は今後も重視すべきである。他方、上記のような学問の状況にかんがみ、法人化する機会を捉えて大学共同利用機関に、新分野の創出に向けて効率的に自らを発展させる仕組みを持たせることが重要であると考えられる。

○ このようなことから、大学共同利用機関の法人化に当たっては、単に既存の大学共同利用機関の自律的な運営を確保することにとどまらず、各機関が将来の学問体系を想定して分野を越えて連合し、機構を形成することによって、総合的な学術研究の中核の一つとして今後の我が国の学術全体の発展に資するという観点が重要である。

○ 以上のような認識に基づいて、既存の大学共同利用機関の再編を考えれば、各機関が担う学問分野を軸にしながらも、研究領域を大きく、人間文化、自然、情報・システムの3つの分野にくくることが適当である。すなわち、人間文化あるいは自然と人間の関わりを対象とする研究領域、自然界そのものを広く対象とする研究領域、及びその両者に関わりつつ複雑な現象を情報とシステムの観点から捉えようとする研究領域の3領域とし、それぞれに対応する機構を考えるものである。

○ 高エネルギー加速器研究機構については、上記の3分野の区別からは自然分野に分類されるべきものであると考えられるが、1加速器という大型の特殊装置を中心として構成された機構であり、実態的にも、研究手段として加速器を利用する研究者が広く集い、交流等が行われていること、2機構の規模としても、新たに構成される3機構に比して遜色のないものであることなどから、そのまま1つの機構とすることとした。

○ 大学共同利用機関を以上の4つの機構に再編成し、学術研究のダイナミックで総合的な発展を目指すものとし、今後、大学共同利用機関の特性と実績を活かし、大学研究者等との共同研究をさらに発展させるとともに、大学附置研究所等との連携を強化する方策を検討することが必要である。

(2)新機構の構成及びその理念

1 人間文化研究機構

(機構の構成)

 国文学研究資料館、国際日本文化研究センター、総合地球環境学研究所、国立民族学博物館、国立歴史民俗博物館

(機構の理念)

○ 21世紀を迎えた今日、自然と人間の歴史的営為とが地球規模で複雑に絡み合った難問が山積している。それらに対応するために、文化に関わる大学共同利用機関が旧来の学問の枠を超えて連合し、新しいパラダイムを創出する研究拠点を形成するものである。この機構は、膨大な文化資料に基づく実証的研究、人文・社会科学の総合化をめざす理論的研究など、時間、空間の広がりを視野に入れた文化に関わる基礎的研究及び、自然科学との連携も含めた研究領域の開拓に努め、また、問題解決型の課題研究にも取り組み、文化の総合的学術研究の世界的拠点となることを目指すものである。

(機構化の利点)

○ 人間文化に関わる研究所が機構を構成することにより、人類の未来に向けての学術研究が効率的、かつ創造的になる可能性が大きく拓ける。そこに期待されるのは、単なる学術分野の融合や総合ではなく、機構内の研究所間での多様なプロジェクトを媒介として生まれる、新しい研究分野の創出である。機構を構成する各研究所とその研究者はそれぞれの個性を保ちつつも、その専門分野を超えた研究プロジェクトに積極的に参加することによって、この機構の創造的発展を図るものである。この機構には、博物館、資料館の文化資料のナショナルセンターとしての機能を持つ研究所が参画している。機構を構成する各研究所が既に蓄積し、これからも収集に努める「資料」と「情報」は、研究推進のみならず、機構の研究成果を広く社会に還元する上で、大きな効果を発揮するものと期待される。

2 自然科学研究機構

(機構の構成)

 国立天文台、核融合科学研究所、分子科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所

(機構の理念)

○ 近年、宇宙、物質、エネルギー、生命等をめぐる自然科学分野における学問の進展と知識の蓄積は著しい。このような学問の高度化によって、各学問分野の境界線は不明確となり、物理学、化学、生物学、基礎医学など独自に発展してきた自然科学の「学際化」や「総合化」が図られている。また、自然科学における各分野の結びつきは、新たな学問分野を生み出し、それらの体系化により、直面する困難な諸問題を解決し、人類社会に豊かさをもたらすことが期待されている。
 この機構は、多様な自然科学分野で先端的研究を進めている大学共同利用機関が、分野を超えて連合し、広範な自然の構造、歴史、ダイナミズムと循環等の解明に総合的視野で取り組むことにより、自然科学の新たな展開に貢献しようとするものである。この機構は、自然科学研究の拠点として、大学及び大学附置研究所等との共同と連携、自然探求における新たな研究領域の開拓、育成等を積極的に推進することも目指すものである。

(機構化の利点)

○ 21世紀の科学は、人類が直面する複雑・多様な問題の解決を迫られており、従来の学問分野を超えた総合的な研究の取り組みが必要になっている。それぞれの分野における研究拠点として活動している国立天文台、核融合科学研究所、分子科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所は、上記の視点のもとに自然科学研究機構を構成することにより、宇宙、物質、エネルギー、生命など自然界の広範な対象を、観察、理論、実験、創造に基づいて解明する実証科学の多様な発展を目指すものである。
 この機構は、既存の分野はもとより、今後創出されるであろう新分野の育成等も含め、広範な研究分野を想定するものであり、このような機構を作ることによって、我が国の学術研究に発展的な未来像を与えることを期待する。この機構は自然科学の多様な発展を理念・目標として、個別の分野を超えて大学等との連携を図るとともに、大学院教育等の人材養成機能の強化に取り組んでいく。志を同じくする研究所等があれば、今後この機構への参加等の可能性も考えられる。
 一方、現段階で既存の5研究所が機構を作る利点は、自然に対する視点や研究手法の異なる研究者が、分野を超える学術研究の方向を、相互理解を深めつつ探っていける点にある。そこで得られる新たな知見は、試行錯誤を経て新しいパラダイムの形成を促すであろう。その際、同一の機構における組織的共同により、個別の研究所であっては不可能な学問の急展開に対応する研究組織や共通設備などの開発を機動的に推進し、さらには新たな学問分野を創成していくなどの活動も、可能になる。そのような機能を機構として、如何に効果的に発揮しうるか、今後具体的に検討していくことが必要である。

3 情報・システム研究機構

(機構の構成)

 国立情報学研究所、国立遺伝学研究所、統計数理研究所、国立極地研究所

(機構の理念)

○ 生命、環境、情報社会など、21世紀の人間社会の変容に関わる重要課題の解決には、従来の学問領域の枠にとらわれない研究への取り組みが必要となる。この機構は、生命、地球、環境、社会などに関わる複雑な問題を情報とシステムという立場から捉え、実験・観測による大量のデータの生成とデータベースの構築、情報の抽出とその活用法の開発などの課題に関して、分野の枠を越えて融合的に研究すると同時に、新分野の開拓を図ることを目指すものである。また、国際的競争と連携のもとに、その成果を広く共同利用に供するとともに、新たな研究領域に対する研究基盤を提供するものである。この機構において4研究所が連携することにより、情報とシステムの観点から分野を越えた総合的な研究を推進し、新たな研究パラダイムの構築と新分野の開拓を行うことを特長とするものである。また、システム情報研究の方法論、データベースやネットワークの高度利用に関する研究開発と事業を通して、学術研究に関わる国内外の諸機関に対して、研究の機動的、効果的展開を支援するための情報基盤を提供することも1つの特長とするものである。

(機構化の利点)

○ この機構の設立により、各研究所が従来から進めてきた研究の充実に加えて、これまでの研究所の枠を越えた新しい融合的研究方法を新たな構想の下に推進しうる。例えば、進化科学及び地球システム研究(生命進化や地球環境変動などのデータの生成と解析)、推論・帰納科学研究(大量データから有用な情報を抽出する方法の研究)、学術研究基盤システム研究(情報の共同利用に必要なソフトウェアとネットワーク技術研究)などの学際的テーマを機構の共通テーマとして研究する可能性を検討する。これらは、機構長等のリーダーシップの下に、新しい時代に対応する新分野の創造を目指した研究として推進し、その成果や発展に応じて、既存の研究所の再編等も検討することとする。

4 高エネルギー加速器研究機構

(機構の構成)

 素粒子原子核研究所、物質構造科学研究所

(機構の理念)

○ 国内外の、主として大学における素粒子・原子核の研究者、及び生命体物質を含む物質構造の研究者が加速器を用いてその研究を行おうとする場合に、その機会を提供するとともに、そのための手段としての高エネルギー加速器に関する開発研究等を行うものである。機構内の研究者は、機構外の研究者と共同で上記の分野の理論的実験的研究を行うものである。

(機構の特性)

○ 過去における加速器科学の発展を顧みるならば、加速器は20世紀前半に物質の究極構造を探求するために人工的に原子核を破壊する装置として開発された。今日では単に素粒子物理学や原子核物理学の研究手段にとどまらず、いろいろな物質形態や生命現象をX線や中性子線、中間子線等を利用して調べる場合に必要欠くべからざる装置になっている。また、医学分野への応用に関しても目覚しいものがある。つまり物質の究極構造に一歩一歩迫っていく中で、手段としての加速器もより精密化かつ大型化し、その応用も物質生命研究の分野へと広がってきたという事情がある。加速器は本来研究の手段として位置付けられるものであるが、今日では、各分野の研究にとって不可欠の要素となっており、それゆえにこそ、加速器自身の研究開発も重要性を増している。

(3)機関再編に期待される効果

(新規分野の開拓)

○ 現代の人間活動が様々な課題や困難に直面する中で、学術研究の総合化と新分野の創成は一層重要性を増している。法人化に当たり、学問的理念を共有する研究機関が協力して総合的学術研究の強力な推進と新たな学問領域の育成やパラダイムの生成を可能とする開かれた体制を構築するためには、広範な学問分野を網羅する大学共同利用機関が連合する形態をとることが有効である。上記の4機構においては、大学との適切な役割分担を踏まえつつ、具体的な共同研究等を通じて、時代が要請する新たな学問分野の創出に戦略的に取り組むことが期待される。

○ 新規分野の開拓については、各機構において、それぞれの目的・業務を踏まえ、関連分野の研究組織の再編等を行うことにより、新たな分野に対応する研究組織を形成するという方法や大学附置研究所等と連携して、大学内に新たな分野に対応する研究組織を作るという可能性も検討に値する。また、機構における新規分野の開拓の成果が大学に還元されることも期待される。

○ 新規分野の開拓は、単に研究面だけではなく、総合研究大学院大学との連係等により、通常の大学では成しえない教育、分野を超えた高度な総合的教育による、研究人材や高度の専門能力を有する人材の養成の面でも貢献することが期待される。

(共同利用体制の推進)

○ 大学の附置研究所や研究施設の中には、全国共同利用を目的とするものが相当数存在するが、我が国の学術研究の発展のためには、大学セクターの共同利用の研究組織群を法人化後も十分機能させる必要がある。そのため、個別の法人とされる大学において、研究所等の全国共同利用の機能が適切に維持発展されるよう、各機構が推進役を果たすことが必要である。したがって、共同利用を推進するための経費を各機構から配分する仕組み等について、今後検討する必要がある。

(事務処理体制の効率化)

○ 法人化に伴って新たな事務負担が生じるが、機構を形成することによって、機構本部事務局において共通事務を一括処理することで、事務処理体制の効率化を図ることが可能となる。今後、各機構において、研究所も含めた事務局体制の在り方について、具体的な検討が必要である。

○ また、機構を形成し、さらに機構間の連携を図ることにより、必要に応じた海外拠点の設置など、規模の利点を活用した取り組みが可能となる。

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)