1.大学図書館の機能・役割及び戦略的な位置付け

(1)大学図書館の基本的機能

 大学図書館は、大学における学生の学習や大学が行う高等教育及び学術研究活動全般を支える重要な学術情報基盤の役割を有しており、大学の教育研究にとって不可欠な中核を成し、総合的な機能を担う機関の一つである。

 大学図書館は、これまで、大学の教育研究に関わる学術情報の体系的な収集、蓄積、提供を行うことで、教育研究に対する支援機能を担ってきた。また、大学図書館に蓄積された学術情報は、検索可能な形態で公開されることにより社会全体の共有財産として、学術情報基盤を構築してきた。

 学術情報基盤としての大学図書館が果たすこのような基本的機能の重要性は変わるものではないが、現在の大学及び大学図書館を巡る大きな環境変化の中で、大学図書館は多様な課題に直面している。

(2)環境の変化と大学図書館の課題

 「はじめに」で一部触れたとおり、現在、大学及び大学図書館を巡る環境は大きく変化してきている。一つは、インターネットの普及に代表される社会全体における電子化の進展と学術情報流通の変化である。もう一つは大学を巡る財政面、制度面を含む環境の変化である。

1.電子化の進展と学術情報流通の変化

 インターネットの普及により、大学図書館の利用者である学生、教職員もサーチエンジン等で情報を探索することが当たり前となり、インターネット上の多様な情報資源に容易にアクセスできるようになった。特に、若い世代ではブログ、YouTube、Twitterなどによる情報発信を含めインターネットや携帯電話の利用が当たり前の習慣となってきた。このような情報環境の変化を念頭におき、大学図書館は自らの立場や位置付けを明確にした上で、情報の収集、組織化、提供の在り方を工夫していく必要がある。

 学術情報流通においても、主要な海外学術雑誌のほぼ全てが電子ジャーナルとして利用できるようになり、出版社若しくは主題別に雑誌を包括的に契約するパッケージ契約が一般的となった。今後も電子ジャーナルをはじめとする電子情報資源へのアクセスを保証することは大学図書館の基本的な課題である。

 ただし、今後電子化が進展していく流れの中にあっても、印刷物が重要な学術情報であることには変わりない。したがって、大学図書館は、電子ジャーナルに代表される各種電子出版物へのアクセスを積極的に確保すると同時に、紙媒体として刊行される主に人文社会科学分野や医学分野等の学術図書等の収集、蓄積、提供にも留意する必要がある。

 大学図書館では、従来、所蔵する図書、雑誌等に関する情報をOPAC(オンライン蔵書目録)として組織化してきた。また、NIIと協同してNACSIS‐CAT/ILLを構築し、活用することによって、自館にない資料でも効率よく探すことのできる仕組みを実現し、学術情報基盤として運用してきた。しかしながら、大学図書館以外の学内施設が所蔵する資料、機関リポジトリのデータ、また、インターネット上の学術情報などについては必ずしも統合的に大学図書館が扱えているわけではない。これらの多様な媒体や形式で提供されつつあり、大学図書館がこれらの学術情報の収集、蓄積、提供に適切に対応していくことが課題となっている。

 一方、サーチエンジンをはじめ、学術論文に関するデータベースや主題等に特化した書誌データベースなど、学術情報を検索し、アクセスを支援するためのサービスがインターネット上に数多く存在しているが、その収録範囲、提供される情報の質や種類は多様であり、これらを大学図書館機能の中にいかに組み入れていくかが重要な課題となる。

 さらに、NIIが学術系コンテンツサービスの強化を図ってきた結果、論文情報ナビゲータ(CiNii)は、日本語学術文献の検索、フルテキストデータの提供には不可欠のものとなっており、近年になってから提供されている電子ジャーナルリポジトリ(NII‐REO)、学術機関リポジトリポータル(JAIRO)なども着実に普及している。これらはサイバー・サイエンス・インフラストラクチャ(CSI)構想の一環でもあり、大学図書館における新たな課題も踏まえて、各種事業等のさらなる展開の検討が期待される。

2.大学を巡る環境変化

 他方、18歳人口の減少、国立大学の法人化、国公私立大学の基盤的経費の削減傾向等により、我が国の大学は全体として厳しい環境に置かれており、また大学間における競争も厳しさを増している。

 大学における教育に関しては、学生は授業を受けるだけでなく、より自発的な学習や実践の必要性が重視されてきており、大学図書館にもその支援の「場」の提供や図書館職員等による学習支援が期待されている。さらに、学生には前述のインターネット等の情報環境に対応できる知識やスキルを身に付けることが求められている。

 また、我が国においても科学技術の振興は重要施策と位置付けられており、大学における研究活動の貢献に対しても大きな期待が持たれている。多くの研究分野で共同研究が増加し、学際的研究の重要性も指摘されているところであり、大量の研究データを分析し成果を見出す新しい研究の在り方、いわゆるe‐Scienceも顕著になりつつある。

 大学図書館は、大学における学習、教育、研究活動の変化や新しい動向に対応し、より効率的な支援を展開するとともに、特に学生を中心とする利用者の情報リテラシー能力の向上にはより積極的に関与していくことが望まれる。

 なお、米国における大学図書館の役割に関する動向としては、1.研究者の活動に即した支援、2.Web環境を含めたコレクション構築、3.インターネット環境への対応、4.情報リテラシー教育への関わり、5.ラーニング・コモンズなどが挙げられており、こうした状況は我が国と同様の傾向にあるといえる。

(3)大学図書館に求められる機能・役割

1.学習支援及び教育活動への直接の関与

ア.学習支援

 最近の大学においては、学生が自ら学ぶ学習の重要性が再認識され、その支援を行うことが大学図書館にも求められている。近年、整備が進められているラーニング・コモンズ、図書館職員等によるレファレンスサービスや学習支援は、このような要請に応える方策といえる。

 ラーニング・コモンズは、複数の学生が集まって、電子情報資源も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする「場」を提供するものである。その際、コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく、図書館職員等が、それらを使った学生の自学自習を支援することも重要である。

 また、学生の自学自習を支援するためには、教員や図書館職員だけではなく、大学院生や学部3、4年生などが自身の経験などに基づき下級生を指導する体制を組織化することも効果があると考えられる。

 このような「場」を利用して、学生がレポートや論文の書き方を実践的に学んだり、ライティングセンターの講義や演習を実施することも考えられる。また、各種検索ツールや大学図書館の使い方のガイダンス、教員による研究会の実施にも対応することで、学生や教職員の知的交流活動の活性化を図ることが可能であろう。

イ.教育活動への直接の関与

 学生が大学を卒業して以降も生涯にわたって自ら学習し、課題解決するためには、電子情報資源、印刷物を含めて、適切な情報を得るために各種ツールを使いこなし、得られたデータや情報を分析・評価し、その成果を分かりやすく表現し、発信する能力を身に付けることが求められている。

 現在、情報環境が豊かになり、多様な情報に容易にアクセスできるようになったが、多くの学生はそれらの分析と選択のスキルが不十分であり、利用可能な関連する情報を常に入手できているわけではないことに留意する必要がある。

 中学校の教科「技術・家庭」における「情報とコンピュータ」に関する内容、高等学校の教科「情報」においては、コンピュータの活用や情報の収集・処理・発信に関する基礎的な知識、技能の育成を図ることとしている。しかしながら、大学においてはさらに踏み込んで、大学図書館の利用方法も含めて、情報を探索し、分析・評価し、発信するスキルを一層高める情報リテラシー教育が必要である。また、さらに一歩進めて、メディアの情報を客観的に評価するメディアリテラシー教育についても、必要に応じて、大学図書館において取組みを検討することが求められる。

 情報リテラシー教育は、大学図書館が主体となって取り組むことが求められている。例えば、新入生に対する初年次教育の一環として必修の授業として開講することが考えられる。カリキュラムの開発や実施を教員と協同して行うだけでなく、図書館職員が教員を兼任するなどして、直接授業を担当することも視野に入れるべきである。

 情報リテラシー教育の中では、検索ツールや基礎知識を身に付けるためのチュートリアルシステムが、欧米だけでなく日本でも開発されている。これらを複数の大学図書館及びその職員が協同して行うことも考えられる。

 なお、大学におけるe‐Learningへの取組みについて、大学図書館における学習、教育、研究への関わりが強調される中で、その教材作成への関与、教材の整理・提供といった面での貢献が期待されている。

2.研究活動に即した支援と知の生産への貢献

 研究者に対する研究活動支援とは、基本的には学術雑誌、図書、その他研究を進めるうえで必要な情報へのアクセスを確保することである。さらに、研究プロセスそのものに密着し、そこで生み出される多様な情報を組織化し、次の研究活動へと活かせるようなサイクルを形成するための基盤を構築することによって、知の生産に貢献することも必要とされだしている。

 研究者間のコミュニケーションを促進し、研究プロセスで生み出される論文になる前の学術情報を蓄積し、共有するためのいわゆるe‐Scienceやサイバー・サイエンス・インフラストラクチャ(CSI)と呼ばれるシステムの構築、運用に当たっては、大学図書館側からの貢献も期待される。

 大学等において構築されている機関リポジトリは、研究者自らが論文等を登載していくことにより学術情報流通を改革するとともに、その公開の迅速性を確保するものである。それと同時に、大学等における教育研究成果の発信を実現し、社会に対する教育研究活動に関する説明責任の保証や、知的生産物の長期保存などを図る上でも、大きな役割を果たすものである。

 我が国においては、現在、NIIと大学等との連携により、130件を超える機関リポジトリが構築されている。国立大学の8割を超える機関がリポジトリを構築していることになり、収録コンテンツ数(全文情報)は全体で70万件を超えている。現状において、大学内で刊行されている紀要の電子化を実現している例が多いが、それ以外にも機関リポジトリの展開には次のような方策が考えられる。即ち、1.大学で使われる教科書をオープンアクセスとして提供する、2.学位論文の収集と電子的な公開のためのプラットフォームとして活用する、3.研究者の研究データの蓄積、共有システムとして活用する、などである。

 今後、各大学等において構築したリポジトリを継続して運営していくためには、大学全体におけるリポジトリ事業の位置付けの明確化、大学図書館業務としての定着、システムの構築と維持体制の整備などが課題である。

 さらに、電子ジャーナルの導入や機関リポジトリの整備などが進む中で、論文などの学術研究成果にオンラインにより制約なくアクセスできることを 理念とするオープンアクセスを推進する必要がある。

3.コレクション構築と適切なナビゲーション

 図書、その他資料の収集、蓄積、提供といった大学図書館の基本的役割を踏まえると、現在においても学術図書を中心とするコレクション構築として重視されるべきものであるが、これについては、教員や学生などの利用者のニーズを踏まえることが必要である。学術図書のコレクション構築において、従来は教員に負うところが大きかったが、教員の流動性が高まる中で、図書館職員の果たす役割も大きくなってきている。

 また、大学図書館は、コンソーシアムの構築・運用を通して、電子ジャーナルの導入に成功し、多くの大学図書館においてこれまでにない多様な電子ジャーナルへのアクセスが実現され、利用も着実に増加してきた。電子ジャーナルのパッケージ契約は、雑誌タイトルベースでの選択を許さないなど、これまでの印刷物における選書、購入、管理、蓄積とは業務の内容が異なっており、大学図書館で必要とされる業務も、電子化された学術情報へのアクセスを確保するための外国出版社等との調整や交渉へと、大きく変わってきている。

 電子ジャーナルの継続的な価格の上昇、高額なバックファイルなどは、電子ジャーナルへの広範なアクセスを困難にしつつある。電子ジャーナルのバックファイル整備は、買い取り方式であること、その利用が広範囲に及ぶことを踏まえれば、個々の大学や設置主体を超えた購入方法が合理的といえ、具体化の方策を検討する必要がある。また、電子ジャーナルのパッケージ契約維持のため、他の資料購入の予算を削減せざるを得ないなどの弊害も生じている。今後、より選択肢の広い新しい提供体制について模索していく必要がある。個々の大学や設置主体を超えた取組みとして、NII並びに国立大学図書館協会の電子ジャーナルコンソーシアム及び公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)が連携し、電子ジャーナルの効率的な整備に向けて体制を強化することとしており、関係諸機関、団体はそのために協力していく必要がある。

 また、学術図書と同様に、冊子体の学術雑誌に関しても、我が国の大学図書館全体として分担保存しておくことについて検討する必要がある。欧米においては,複数の大学図書館が協同して印刷物の保存書庫を構築、運営するプログラムが存在している。日本においても同様のプログラムが運用可能であるかどうかを検討する必要がある。

 また、大学図書館には、多様な学術情報への的確で効率的なアクセスを確保することが求められており、例えばディスカバリーサービスのような、より適切で効果的なナビゲーションの在り方を検討することが重要となってきている。

4.他機関・地域等との連携及び国際対応

 前述の大学図書館の役割を果たすためには、学内の多様な組織、例えば情報系センター、教育や研究の支援を行うセンターなどとの連携はもちろんのこと、学外の関連機関との連携も重要である。さらに日本語の電子図書などに関しては出版社との連携も検討していく必要がある。

 類縁機関である文書館、博物館、美術館との連携(いわゆるMLA連携)は、文化情報資源の共有化という点で積極的に進めるべきであり、国際的にもこうした連携の動きが活発になっている。

 大学の機能として、特に国立大学の場合には、社会・地域連携の一翼を担う組織としての位置付けや、社会に対して開かれた存在であるということが望まれる。大学図書館としても、一般市民に対する開放をはじめ、展示会や講習会の実施など、保有する情報資源や人材を活用して、社会・地域連携に積極的に取り組む必要がある。また、特に公共図書館との連携は重要で、東海地区や鳥取県の取組みの例があるが、ここ数年連携に取り組む地域が増えてきた。連携の内容も閲覧利用から相互貸借に拡大する等、連携の緊密さが増してきた。

 大学の国際競争力向上の観点から、大学図書館もしかるべき強化を図る必要がある。教育研究上、必要不可欠な資料の確保、とりわけ、電子ジャーナルの整備については、我が国だけではなく、グローバルな問題となっており、海外の大学図書館との連携を図りながら対応を検討することも必要である。また、職員の海外研修を増やすなど、世界の大学図書館の動向を把握し、新しいプログラムを我が国の状況に適合した形で取り入れていくことも必要である。さらに、外国人留学生受入れ推進の観点からも、留学生に対応するために、英語、中国語、韓国語などの言語に堪能な大学図書館職員の確保及び留学生が利用し易い環境整備の検討が必要である。

(4)大学図書館の組織・運営体制の在り方

1.各大学における戦略的な位置付けの明確化

 大学図書館は、各大学における学術情報基盤であるとの認識に立って、大学の情報戦略についてイニシアチブを発揮することが重要と考えられる。

 各大学において、大学図書館は、その果たすべき役割・機能の変化を踏まえ、中・長期的な将来計画を策定する必要がある。それを役員会等に提示することや、全学的な理解を得ることを通して、大学全体の将来構想並びにそれに係るアクションプランの中で、重要な学術情報基盤としての大学図書館の戦略的な位置付けを明確化し、改めて学内外に向けてアピールしていくことが重要である。

 その際、大学としての情報戦略の下で、大学図書館が、学内外の知の集積拠点であり、そのアクセスの窓口として機能するため、学内組織が管理する各種情報との連結を図る等、学内における知識・情報流通の結節点と位置付ける仕組み・システムを構築することが必要である。

 大学図書館の役割の重要性から、図書館長の学内的位置付けを高めるとともに、図書館長の選考方法や任期の適切な設定、あるいは専任制の導入について検討する必要がある。例えば、国立大学においては、法人化後、理事が図書館長を兼ねる大学もあり、平成22年10月現在、約35%の大学で理事や副学長が図書館長を兼ねている。また、情報担当理事、即ち図書館長が情報化統括責任者(CIO)を兼務する例も多い。これらの場合にあっては、大学図書館の機能発揮及び円滑な運営を確保する観点から、図書館長を補佐する副館長制の導入についても検討する必要がある。

 公立大学においても、図書館長の学内的位置付けを高めるとともに、図書館長の選考方法や任期の適切な設定について、同様に検討する必要がある。その他、図書館長は、学術情報の管理運営、大学図書館運営に精通する人材が学内で十分に確保できない場合、必要に応じて学外の専門家と連携、若しくは登用するなどにより、方針の決定及び運営ができるような仕組みを検討する必要がある。

 また、私立大学についていえば、図書館長が大学内外における責任ある主体としてそのイニシアチブを発揮することができるような位置付けが一層明確にされる必要がある。また、大学図書館が重要な学術情報基盤であるとの認識の下、大学図書館運営を統括する図書館長が大学全体の学術情報基盤を充実させる責任の一翼を制度的に担うとともに、大学の内外に対して学術情報基盤に関わる施策を広く周知させる責任の一端をも積極的に担うべきである。

 図書館長がリーダーシップを十分に発揮して、持てる資源を機動的・効果的に運用することを可能とするためには、全学の図書館に係る経費と職員を、一元的に管理する体制の構築は重要である。

 大学図書館は、大学全体の目標・計画に基づく、具体的な戦略を主体的に立案し実施し、また、それに連動して独自の点検・評価システムを導入することにより、定期的な評価結果を運営に反映させるという循環を定着させる必要がある。

 今後、大学図書館が、学生、教職員に適切で多様なサービスを提供していくためには、来館者数や貸出冊数だけでなく、提供している多様なサービス毎の利用統計の整備が必要である。電子ジャーナルなどの電子情報資源に関しては、出版社から提供される統計についての多角的な分析や、大学図書館パフォーマンスを測定するための評価、調査を定期的に実施することが重要である。これらの利用データは、大学図書館における施策や方針の策定のために活用するだけでなく、大学の経営陣や社会全体に対しても大学図書館の重要性や価値を具体的に示すものとして重要である。

 また、大学の認証評価機関等が大学図書館に関する評価を行う際、各大学における図書館の役割・機能が変化してきていることを勘案し、従来の蔵書数、職員数等大学を構成する施設としての観点のみならず、学習支援や教育研究に関する機能の観点から評価することが期待される。

2.財政基盤の確立

 大学を巡る財政上の環境も劇的に変化してきている状況下にあって、大学図書館の機能を維持・向上させるためには、各々の大学の教育研究の特色を踏まえた戦略的で安定的な経費の確保策を策定し、その実現を図ることが必要である。

 公立大学については、国立大学と同様に厳しい財政状況にあるが、その中で、大学図書館においては、教育研究活動に支障が生じないよう、予算を全学共通経費として安定的に確保していくことなどが重要である。

 私立大学については、経常費補助金による補助割合が経常費全体の約1割となっており、近年減少傾向にある。また、収入で支出を賄えない学校法人も増加し、特に地方の中小規模大学の経営状況が厳しくなっている。このような状況の中で、大学図書館が大学の重要な学術情報基盤であるとの認識を踏まえれば、大学図書館の機能を維持・向上させることを通じて、大学の教育研究の質を一層高め、さらには国際的な競争力を強化するためには、所要の大学図書館予算が確保される安定的な財政基盤の確立が急務である。

 そのためには、大学図書館が、学内諸組織から、重要な学術情報基盤であるとの信頼を得ることが前提であり、具体的には、大学予算全体の一定の割合を共通経費として大学図書館経費に充当するといったシステムを構築することが一つの有効な手段である。また、最近、価格上昇が続いている電子ジャーナルの契約に係る経費など、ほぼ定常的に増加し続ける経費の確保には、全学共通経費化や競争的資金の間接経費の充当を図る一方で、複数年契約方式や支払方法の工夫などによりその縮減を図るなど、戦略的な予算の確保について検討する必要がある。

 また、学術情報資源の充実とその活用に向けた各大学図書館の特色ある独自のプロジェクト(例えば、所蔵資料の電子化とその公開、学習支援の積極的な遂行、利用者サービスの新しいモデルの構築、地域・社会・他機関との連携など)を立ち上げるなどして、競争的外部資金の獲得にも一層努めなければならない。

 大学予算全体の削減が続く時期にあっては、とりわけ大規模大学においては全学的な図書館活動を一体的に管理・運営するために必要な経費総額が、大学本部から本館(中央館)に直接配分されることが重要であり、使途について一定程度の裁量権が図書館長に付与されることが必要である。

 もとより、大学図書館予算に係る安定的な財政基盤を確立するためには、大学図書館自体の対応として、予算の集中的ないし一元的な管理を通じて、予算の一層効率的な執行を図らなければならない。また、これら施策の実現を通じて、予算の効率的な執行が可視的なものとして大学全体の予算執行に確実に反映されるよう、図書館長自らが上記の諸課題に対してイニシアチブを明確に発揮しなければならない。

 また、大学図書館においては、所蔵資料が増大する中で、かねてより図書館施設の狭隘化が指摘されているところである。さらに、最近、各大学においては学習及び教育研究と密接に関連してラーニング・コモンズが整備されるなど、新たな図書館施設の整備も必要となってきているところである。こうしたことを踏まえて、図書館施設の整備について大学全体の施設整備計画に明確に位置付けたうえで、施設の耐震化やエコ化と併せてその整備・改修を図っていく必要がある。

3.専任職員及び臨時職員の配置並びに外部委託の在り方

 大学図書館が重要な学術情報基盤として十分に機能するためには、学術情報の電子化に対応した大学図書館の在り方の変化を十分に認識しつつ、これに関わる業務運営及び組織が当該目的に有効に資するものでなければならない。

 我が国の大学が現在求められている業務の効率化と人件費の削減の下では、専任職員と臨時職員が担うべき業務と、外部委託等に委ねることが可能な業務との区分けをも考慮した大学図書館の業務体制の在り方を模索することも一つの方法であるといえる。

 学術情報基盤実態調査によると、平成21年度の大学図書館における専任職員の割合は国立46.9%、公立45.3%、私立48.0%、合計47.5%、臨時職員の割合は国立53.1%、公立54.7%、私立52.0%、合計52.5%となっており、ここ数年、臨時職員の割合が増加している傾向にある。

 また、大学図書館(分館、部局図書館・室を含む。)における業務の実態は、図書館業務について全面外部委託を行っているものが公立3館(2.3%)、私立59館(5.8%)、合計62館(4.3%)、一部業務(清掃、警備、その他を除く)を外部委託しているものが国立176館(60.3%)、公立76館(61.3%)、私立658館(64.4%)、合計910館(63.3%)となっている。そのうち、受付・閲覧業務を外部委託しているものが、国立36館(20.5%)、公立26館(34.2%)、私立228館(34.7%)、合計290館(31.8%)となっている。

 このような国公私立大学図書館の状況の中にあっても、特に公立大学図書館は、地域に密着した大学として付加価値を持つために、その存在意義、学術情報、業務について建設的に説明していくことが重要であり、こうしたことを担う人材が必要である。

 また、学習、教育、研究を支援する基盤的な業務については、学術資料や図書館情報学に精通した然るべき教育を受けた人材を配置することが重要である。これらの状況に鑑みて、学術資料に関する専門知識を有し、図書館情報学における図書館経営論などを習得した大学図書館の「核」となるべき職員の確保と育成が重要である。

 その際、大学図書館における業務の中核となる部分については、専門的な能力を有する人材が、ある程度長期にわたって安定的に雇用され、それに従事することが重要であり、こうした体制の実現について検討していく必要がある。

 大学図書館においては、業務の多様化、高度化が求められる一方で、大学全体の人件費削減を受けて、図書館職員についても例外なく削減が求められている実態にある。こうしたことに対応して、業務全般の効率化を図りつつ、目録遡及入力作業や休日・夜間の開館時間の拡大などの一部業務に関しては外部委託等が行われている。他方、こうした状況の下では、図書館職員が図書館業務全体を把握し遂行することが困難となるため、業務全般に係るスキルの継承が不可能になっているといった弊害も見受けられる。

 しかしながら、定型業務であるからといって単純に外部委託等に委ねられるものではない。大学図書館が抱える全ての業務について、その質を維持し、高度化していくといった観点も重要であり、一部業務について外部委託等に委ねる場合であっても、大学図書館の管理・運営に責任を有する図書館職員によるチェック体制の確保が不可欠である。

 なお、平成22年1月、内閣府の官民競争入札等監理委員会において、国立大学法人の事務のうち、施設管理・運営業務と並んで図書館業務についても、市場化テスト手法を含めた民間委託の一層の適用も視野に入れた業務の改善について検討が行われ、「図書館運営も民間委託すべき業務を切り分けて民間委託すべき。」と指摘されているところである。大学図書館においては、かねてより図書館業務へのコンピュータシステムの導入や共同分担目録作業等により業務の平準化・効率化を推進してきた。さらに、製本や受付・閲覧などの一部の可能な業務については外部委託を活用するなど、業務の改善に努めているところである。

 このような大学図書館の業務の方向性を考えるに当たって、情報の電子化が高度に進んだ現在の大学図書館においては、高度な研究教育を推進する上で学術情報をニーズに応じて的確に利用者に提示・教示する業務を遂行するためには、図書館職員と教員との協働・連携が一層重視されなければならない。このような教員との協働・連携を図る上では、これに資するための専門性、即ち協働・連携を具体化・現実化するための専門的能力の開発、さらにはその向上が一層求められる。

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研究振興局情報課学術基盤整備室

(研究振興局情報課学術基盤整備室)