大学図書館の整備について(審議のまとめ) はじめに

 大学等における教育研究活動全般を支えるコンピュータ、ネットワーク及びデジタルな形態を含む学術図書資料等の学術情報基盤は、学生の学習や教育活動はもとより、研究者間における研究資源及び研究成果の共有、研究活動の効率的な展開、さらには社会に対する教育研究活動の発信、普及等に資するものであり、極めて重要な役割を担っている。

 近年のコンピュータ・ネットワーク技術の発達と学術資料の電子化の進展などによる学術研究の高度化・多様化と国際的な展開により、学術情報基盤に対する要請も高度化・多様化してきている。こうした状況を踏まえて、学術情報基盤が学術研究活動を継続的に支え、その高度化を可能にするための基本的な考え方や国が考慮すべきこと等について、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会(以下、「作業部会」という。)において検討を行い、平成18年3月に、1.学術情報基盤としてのコンピュータ及びネットワークの今後の整備の在り方、2.学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方、3.我が国の学術情報発信の今後の在り方の3項目を内容とする「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(以下、「報告」という。)を取りまとめた。

 さらに、その後においても、引き続き学術情報基盤を取り巻く状況を把握し、課題等について整理するとともに、学術情報基盤の整備に関する推進方策等について検討を行い、平成20年12月に「情報基盤センターの在り方及び学術情報ネットワークの今後の整備の在り方」について、また、平成21年7月には「電子ジャーナルの効率的な整備及び学術情報発信・流通の推進」について審議のまとめを行うほか、報告以降の大学図書館のより一層の機能・役割の変化等を踏まえ、戦略的な位置付けとこうした背景下における大学図書館職員の育成・確保の在り方を中心とした審議を進めてきた。

 近年、大学図書館を巡る環境の変化には著しいものがある。第一に大学の教育機能に対する社会的要請が急速に高まったため、大学図書館は、教育機能の支援に対して、これまで以上に関心を持つようになった。特に、平成20年に取りまとめられた中央教育審議会「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」においては、「自らが立てた新たな課題を解決する能力」を中心とする学士力の育成が課題として提示されており、学生が自ら行う調査、学習のための基礎資料の整備を含む学習環境を充実する観点から、これまでも学習の場として活用されてきた大学図書館の貢献が一層期待されるようになった。この動向を踏まえて、大学図書館において「ラーニング・コモンズ」と呼ばれる学習環境の整備が進みつつある。さらに、e‐Learning、特に、学習マネージメントシステム(LMS:Learning Management System)及び学習成果進捗管理のためのe‐ポートフォリオの導入が急速に進展しており、これらの展開と情報資源のナビゲーション機能との統合が課題となってくると考えられる。また、このように学習のための電子的環境が整備されるとともに、学習のための教科書、参考図書等の図書を電子的に提供することが急務となってくる。

 また、大学(学士課程)が受け入れる学生に大きな変化が生じていることが指摘されている。平成22年に受け入れた学生にとって、小学校に入学したときには既にインターネットが存在し、高校卒業前に携帯電話の所持が当然のこととなり、この世代は高校においては必修の教科として「情報」を履修している。この状況は、大学図書館による従来の情報リテラシー教育の教育支援の性格を変えるだけでなく、さらに、図書館利用に関する学生の要望自体が変化することを予想させるものであり、大学図書館としてもこの変化に対応することの必要性を認識しなければならなくなった。

 第二に、大学の研究機能に対する社会の要請は、これまで以上に直接的な還元、例えば、特許、科学コミュニケーションなどを求めるとともに、教員の研究業績評価に厳格さを要求するようになっている。大学が産出する学術資料を蓄積、公表することを目的として急速に整備が進んだ大学の機関リポジトリは、これらの要請に応えるための基盤を提供するものとしても、一層の推進が期待されるようになった。また、教員や大学を評価する資源としての学術成果物の電子的管理と、教員業績データベース等との連携が顕在化しつつある。

 第三に、学術情報流通におけるインターネットの役割が、基盤として一層重要なものになり、それに伴って、「電子ジャーナル」の確保と利用促進という課題から、高等教育と学術研究における電子情報資源の導入、管理、提供に関する対応が大学図書館に課されることとなった。また、これらの電子情報資源に関する様々な、例えば、サーチエンジンなどのアクセス手段が一般に提供されるようになるとともに、利用者自身の情報探索技能も向上してきた。こうしたことからも大学図書館機能はより広範なものが期待されている。

 また、国立情報学研究所(NII)は、昭和61年に学術情報センターとして設置されて以来、大学図書館と協同して目録所在情報サービス(NACSIS  CAT/ILL)を構築し、活用することによって、我が国の大学における学術情報基盤の効率的運用を実現してきた。近年、急速に変化しつつある学術情報流通の状況を踏まえ、NIIと大学図書館との連携の強化について検討する必要があり、その際、具体的な連携の方策を大学図書館側からも示すことが望まれる。

 さらに、前掲の中央教育審議会の審議のまとめにおいても、我が国の大学が「国際的通用性」も備えることの必要性が指摘され、国際競争力の強化への対応が強く求められており、大学図書館においても、大学の方針に連動した対応が必要であり、その果たす役割を認識しなければならない。このため、常に海外の大学図書館との連携を強化し、図書館職員の資質の向上を図らなければならない。

 このように、報告が前提としていた環境は、一層の電子化を経ることにより、大学の教育研究の体制そのものが電子的環境を強めつつあることは明らかである。したがって、そのような環境変化に対応する大学図書館の課題について早急に検討する必要がある。

 こうした動きを背景として、作業部会においては、平成21年10月以降、大学図書館の実態を把握するための意見聴取を含めて10回に及ぶ審議を行い、この度、大学図書館の整備の在り方等について、審議の取りまとめを行った。

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研究振興局情報課学術基盤整備室

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