大学における研究費の在り方について(審議経過の整理)(研究費部会・基本問題特別委員会) 概要

平成14年6月11日
学術分科会 研究費部会
同 基本問題特別委員会

(審議の背景と経緯)

○ 第2期科学技術基本計画における競争的資金の拡充と改革という方針を受けて、現在、総合科学技術会議において、我が国の競争的資金制度全体の改革について検討中。
○ 国立大学等の法人化については、調査検討会議の最終報告を踏まえて、文部科学省で具体的な検討が進行中。
○ 学術分科会における研究費の在り方に関する検討としては、

  • 研究費部会では科学研究費補助金の改善について継続的に審議を行っており、
  • 基本問題特別委員会では大学における研究費の在り方全般について審議を行っており、
    これまでの審議経過を以下のとおり集約して整理。

○ 大学における研究費の在り方については、大学改革の取組を視野に入れ、今後引き続き検討を行っていく。

(主な内容)

1.基盤的経費と競争的資金による研究支援の意義

(1)大学の使命と国の役割

○ 大学の使命は、「多様な知の創造と継承」。我が国の学術研究及び高等教育の発展に向けて、大学がこのような使命を十分に果たすことができるよう必要な財政支援を行うことは国の重要な役割。

(2)基盤的経費の必要性

○ 新しい「知」の創造につながる独創的な研究を育てるためには、競争的資金を獲得するまでの揺籃期にある研究を行う環境を保障することが極めて重要。また、「知」の継承という観点からは、大学において、高い水準の教育と、それと密接な関連をもって行われる研究が安定的に行われることが必要。そのためには、研究者が自らの発想に基づき日常的に教育研究活動を行うことのできる環境を保障することが重要。

○ しかしながら、我が国の高等教育費への公財政支出は低く、大学の教育研究基盤の整備は諸外国に比べて立ち遅れており、充実が必要。

(3)デュアルサポートシステムの意義

○ 我が国ではこれまで、国立大学の教育研究基盤校費などの基盤的経費と科学研究費補助金等の競争的資金の二本立てによる研究支援(デュアルサポートシステム)を基本。

○ しかしながら、近年、教育研究基盤校費は厳しく抑制される一方、物価の上昇やインフラ整備等の増大に伴い、その本来の機能を十分に果たせていない状況。

(4)諸外国の状況

○ 英国の大学については我が国と同様に高等教育ファンディングカウンシルとリサーチカウンシルによるデュアルサポートシステム。

○ 米国は、連邦政府からの研究費はNSF、NIH等の政府機関からのグラント等の形であるが、州立大学には州政府から包括的交付金が交付され、私立大学は基金の運用収入や民間からの寄付金収入により支えられているなど、我が国の大学との財政構造の違いを認識する必要。

(5)間接経費導入との関係

○ 平成13年度から我が国の競争的資金にも間接経費の導入が開始されたが、米国のように大学における教育研究活動や管理運営に要する経費を間接経費の中から措置できるようにするためには、競争的資金の大幅な拡充と間接経費制度の広範な定着が必要。

(6)デュアルサポートシステムの堅持

○ 今後とも我が国の大学の研究費については基盤的経費と競争的資金によるデュアルサポートシステムが適当。国立大学の法人化に当たっては、各大学において研究者が基礎的な研究活動を行うために必要な研究費を運営費交付金等により確実に措置することが必要。

2.競争的資金の人件費への充当

(1)研究者本人の給料への充当

○ 米国では、研究者本人の人件費(給料)を研究費の中から支出することにより、競争的環境が醸成。

○ 我が国の場合、大学教員は一般にフルタイムであり、雇用形態や人事制度が米国とは大きく異なる。このような実態を踏まえれば、教員の人件費も含めて大学の教育研究活動に要する経費については、大学が組織として措置することを原則とすべき。

○ 一方、例えば教員のインセンティブの向上や国際的に優れた研究者の確保等の観点から、今後、大学が外部から多様な研究費を受け入れることが可能となる場合には、競争的資金を研究者本人の人件費に充当することも考えられる。

○ ただし、その際には、勤務時間・人事管理の大幅な見直しや教育に対する影響など、教員の人事制度や大学教育の在り方と密接に関係することから、今後十分な検討が必要。

(2)ポストドクター等の雇用

○ 科学研究費補助金においては、平成13年度からポストドクター等の研究スタッフを雇用することが可能であり、今後これを積極的に充実。

(3)大学院博士課程学生に対する経済的支援と競争的資金

○ 優秀な研究者を養成・確保するためには、優れた大学院学生、とりわけ博士課程の学生に対する経済的支援策を講ずることが重要。

○ 大学院教育を受ける学生としての立場にも配慮しつつ、奨学金の支給やフェローシップ型の支援など多様な形態による支援を行うことが重要。

○ その一つとして大学院学生を競争的資金により研究スタッフとして雇用し、研究プロジェクトに参加させることも考えられる。

○ 研究者の養成という観点からは、日本学術振興会の特別研究員制度のようなフェローシップ制度が高く評価されており、その充実が必要。

3.科学研究費補助金の改善・充実

(1)科学研究費補助金の拡充

○ 科学研究費補助金は研究者の自由な発想に基づく学術研究を支える基幹的資金として重要な役割。

○ 我が国社会の持続的発展のためには、重点分野の戦略的推進と同時に科学研究費補助金等による多様な学術研究の推進が不可欠。

○ 今後とも科学研究費補助金の大幅な拡充を図るとともに、競争的資金全体の中で半分以上の割合を確保することが必要。

(2)研究テーマに応じた研究費規模の確保

○ 研究遂行に必要となる研究費規模の増大に対応し、基盤研究(S)・(A)、学術創成研究費のような規模の大きい研究種目を充実。

○ 一方、科学研究費補助金が研究者個人に着目した研究費であることにかんがみ、基盤研究(C)のような規模の小さい研究種目についても、人文・社会科学や自然科学の理論研究、萌芽的研究など、多額の研究費を必ずしも必要としない分野の研究にとっては不可欠。

○ 科学研究費補助金の予算の拡充状況を踏まえ、今後は個々の課題ごとに研究者が必要とする研究費を配分するよう運用を改善。

(3)研究経験のある人材の参画による評価体制の充実

○ 米国のNSFやNIH等の機関においては、プログラムオフィサーやプログラムディレクターと呼ばれる研究経験のあるスタッフが数百人規模で配置され、評価者の選考、研究計画の評価、審査会への参画、申請者との連絡等の業務に関わっている。

○ 科学研究費補助金に関し、このような役割を担うものとして、文部科学省に学術調査官、日本学術振興会に学術参与が配置。いずれも大学教員等の研究者が非常勤で従事し、主な業務内容は評価者の推薦、審査会への参画など。効果的・効率的な審査・評価を行うためには、今後、学術調査官や学術参与のような研究経験のあるスタッフの増員、機能の充実が必要。

○ その際、我が国の研究現場の実情等を十分踏まえ、それが円滑に機能するよう、特に以下の点に留意する必要。

  1. 課題の審査はピアレビューによるべきであり、これらのスタッフは審査・採択のプロセスには関わらない。
  2. 大学教員との人事交流等により一定の任期を付して採用するとともに、採用期間中も研究活動を継続することができるように配慮。このような取組を進める中で、研究評価や研究マネージメント等、多様なキャリアパスの形成を期待。
  3. 申請者からの問い合わせに応じたり、助言を行うなど、研究者のニーズを踏まえたサービスの向上の観点から業務内容を充実。一定の種目については、不採択者に説明を行う機会を検討。

(4)海外の研究者の評価への参画

○ 学術研究は、国際的なアイデアの交換が基本であり、海外の研究者が評価に参画することには大きな意味がある。このため、科学研究費補助金において、海外の研究者の参画を検討することが適当。当面は、研究費規模の大きい種目において、試行的にメールレビューによる中間評価への参画を検討することが適当。

○ 一方、知的財産戦略に基づく国際競争の観点からは、海外研究者の参画は慎重に検討すべきとの意見もあり。

4.競争的資金制度の全体調整

(1)マルチファンディングの意義

○ 我が国においては、多様な競争的資金が併存するマルチファンディングにより、基礎研究から技術開発まで様々な研究開発を推進。

(2)研究費の全体調整

○ 研究費全体のバランスという観点からは、競争的資金の各制度間の調整だけでなく、国家的観点から戦略的・重点的に推進されるプロジェクト型の研究に係る経費について適切な調整が図られることが重要。

○ また、競争的資金については、各制度の目的・性格の明確化を図り、それぞれの特徴が十分に発揮されるようにすることが重要。

○ 特に、大学における研究費という観点から見た場合、1普遍性への追求を目指して研究者が自由な発想に基づいて行う研究活動を促進するための研究費と、2明確な達成目標を定めて配分される研究費との整理が重要。

(3)科学研究費補助金に係る運用

○ 学術研究の推進を目的とする科学研究費補助金の運用に当たっては、研究内容の多様性を保障するとともに、研究者自らが課題を見つけ、チャレンジしていくことを支援することが重要。

○ このため、科学研究費補助金については、申請数に応じた分野別配分を行うなど、研究者コミュニティの自立性を尊重した運用。これによって、結果的に学術研究の動向を適切に反映した分野間配分が行われている点が科学研究費補助金の特徴。

○ 一方、分科細目表における「総合・新領域系」の新設や「時限付き分科細目」により新しい学問領域へ対応。また、学問的・社会的要請の強い分野について特定領域を設定して重点的・機動的に推進。今後ともこのような運用を行っていくことが必要。

研究費部会 委員等名簿

(◎:部会長、○:部会長代理)

委員

家 泰弘 東京大学教授(物性研究所)
  池上 徹彦 会津大学長
池端 雪浦 東京外国語大学長
大崎 仁 国立学校財務センター所長
  奥島 孝康 早稲田大学長
  郷 通子 名古屋大学教授(大学院理学研究科)
  鈴木 昭憲 秋田県立大学長
  谷口 維紹 東京大学教授(大学院医学系研究科
  鳥井 弘之 東京工業大学教授(原子炉工学研究所)・日本経済新聞社論説委員
  長尾 美奈子 東京農業大学客員教授
  野中 ともよ ジャーナリスト
野依 良治 名古屋大学教授(大学院理学研究科)

科学技術・学術審議会会長

阿部 博之 東北大学長

科学官

位田 隆一 京都大学教授(大学院法学研究科)
井上 明久 東北大学教授(金属材料研究所)
廣川 信隆 東京大学教授(大学院医学系研究科)

基本問題特別委員会 委員等名簿

(◎:主査、○:主査代理)

委員

池端 雪浦 東京外国語大学長
  大崎 仁 国立学校財務センター所長
  奥島 孝康 早稲田大学長
  木村 嘉孝 高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所長
  郷 通子 名古屋大学教授(大学院理学研究科)
小平 桂一 総合研究大学院大学長
末松 安晴 国立情報学研究所長
鈴木 昭憲 秋田県立大学長
  谷口 維紹 東京大学教授(大学院医学系研究科
  鳥井 弘之 東京工業大学教授(原子炉工学研究所)・日本経済新聞社論説委員
  野依 良治 名古屋大学教授(大学院理学研究科)

科学技術・学術審議会会長

阿部 博之 東北大学長

科学技術・学術審議会会長代理

小林 陽太郎 富士ゼロックス株式会社代表取締役会長

科学官

秋道 智彌 総合地球環境学研究所教授(研究部)
井上 明久 東北大学教授(金属材料研究所長)
井上 一 宇宙科学研究所教授(宇宙圏研究系)
勝木 元也 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所長
本庶 佑 京都大学教授(大学院医学研究科)