学術研究の重要性について(見解)

2001/07/24 答申
科学技術・学術審議会学術分科会

学術研究の重要性について

平成13年7月24日
科学技術・学術審議会学術分科会

 本年3月30日に閣議決定された科学技術基本計画の実行に向けて、政府の総合科学技術会議においては、「平成14年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」が取りまとめられた。
 科学技術基本計画においては、研究開発投資の効果を向上させるため、重点的な資源配分を行うこととされている。具体的には、「科学技術の戦略的重点化」として、「基礎研究の推進」と「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」をいわば車の両輪として位置づけ、それぞれを進めることとされている。科学技術の振興を図る上で、長期的視野からこれら両者がバランスよく推進されることが必要である。
 大学等(大学及び大学共同利用機関をいう。)における学術研究活動は、科学技術の戦略的重点化における「基礎研究の推進」について中核的な役割を果たすことはもちろん、「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」においても大きな役割を担うものであり、それに対する資源配分の在り方は科学技術基本計画の成否を左右する重要性を持つと考える。
 本分科会は、このような観点から、大学等が主として担う基礎研究の重要性を再確認するとともに、重点化戦略における大学等の役割の重要性について検討を行い、その考え方を以下のとおり取りまとめたものである。

1.基礎研究への十分な投資の必要性

(1)大学等における学術研究は、個々の研究者の自由な発想と旺盛な好奇心に基づき行われるものであり、それによって初めて未知の分野を開き、未来社会の在り方を変えるブレークスルーを生み出し得るのである。人類の未来を拓き、国家・社会の発展の基盤となるような独創的な研究成果は、過去の歴史に照らしても、研究者の自由な発想に基づく多様な基礎研究を幅広く推進する中から生まれるものである。

(2)経済発展や社会的課題の解決のためには、もちろん達成目標を明確化して特定の分野・課題の研究開発を重点的に推進することが必要である。しかし、それと同時に、次の世代に向けての技術革新の芽を育てるという中・長期的な視点に立った幅広い取組が不可欠である。現時点で見通せる短期的な投資効果を重視するあまりに、研究者が自発的にテーマを発掘する長期的視野の研究を軽視すれば、結果として、10年先、20年先に、我が国の研究は国際的な指導性と競争力を喪失してしまうことになる。
 さらに、研究者の自由な発想に基づく基礎研究の成果が課題解決型の研究の発展に波及効果を及ぼす可能性が大きく、また課題解決型の研究を担う優れた研究者はこのような基礎研究を推進する中から育つものである。

(3)以上の観点から、基礎研究を推進することは国として極めて重要なことであり、今後の研究投資において、国家的・社会的課題に対応した研究開発への重点的投資と並んで、研究者の自由な発想に基づく幅広い分野の基礎研究に対しても十分な投資が行われるべきである。
 このため、大学等における長期的・継続的な研究活動をも支える基盤的経費や国際的に卓越した研究を推進するためのプロジェクト経費を確実に措置するとともに、競争的資金の倍増に当たっては、その中核を占める科学研究費補助金の倍増を図るべきである。

(4)なお、基礎研究の中には行政ニーズに対応した特定の技術開発を視野に置くなど、政策目的の実現を意図して行われるものもある。このような研究は、政策の実現という観点からは重要な意義を有するが、研究者がその独創性を遺憾なく発揮し、将来にわたって優れた研究成果を生み出していくためには、研究者の自発性を尊重した知識創造型の研究である学術研究を推進することが極めて重要であることを改めて指摘しておきたい。

2.国家的・社会的課題に対応した研究開発における学術研究の重要性

(1)大学等における学術研究は、研究者の自由な発想と旺盛な好奇心に基づいて行われるものであるが、同時に研究者の社会的問題意識が研究の原動力となり、社会との関係において一定の目的意識をもった研究が行われる場合が少なくない。このような研究は、基礎的な段階のものが中心になると思われるが、基礎研究・応用研究といった区分にとらわれる必要はない。

(2)科学技術基本計画における「国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化」の推進に当たっては、重点事項に係る特定の技術開発目標を短期間に達成するためのいわばトップダウン方式による政策目的直結型の研究開発の実施が重視されるものと思われる。しかし、中・長期的観点に立って国家的・社会的課題の解決に向けて取り組むためには、上記のような一定の目的意識をもった学術研究の推進についても重視すべきであり、これに対して十分な投資が行われることが重要であると考える。

(3)このような一定の目的意識をもった学術研究を推進するための研究資金の配分に当たっては、目標設定の考え方、対象となる研究課題の審査・選定方式等の仕組みが、学術研究の本質である研究者のイニシアティブを十分尊重したものとなることが特に重要である。

(参考)科学技術・学術審議会学術分科会委員名簿

池上 徹彦 会津大学長
池端 雪浦 東京外国語大学教授(アジア・アフリカ言語文化研究所)
大崎 仁 国立学校財務センター所長
奥島 孝康 早稲田大学長
郷 通子 名古屋大学教授(大学院理学研究科)
小平 桂一 総合研究大学院大学長
末松 安晴 国立情報学研究所長
鈴木 昭憲 秋田県立大学長
田中 正之 東北工業大学教授(工学部)
野中 ともよ ジャーナリスト
野依 良治 名古屋大学教授(大学院理学研究科)
松本 和子 早稲田大学教授(理工学部)
有川 節夫 九州大学教授(大学院システム情報科学研究院)
飯吉 厚夫 中部大学長
家 泰弘 東京大学教授(物性研究所)
石井 寛治 東京経済大学教授(経営学部)
木村 嘉孝 高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所長
立石 信雄 オムロン株式会社代表取締役会長
谷口 維紹 東京大学教授(大学院医学系研究科)
鳥井 弘之 日本経済新聞社論説委員
長尾 美奈子 東京農業大学客員教授
中西 重忠 京都大学教授(大学院生命科学研究科)
薬師寺 泰蔵 慶應義塾大学教授(法学部)
柳田 敏雄 大阪大学教授(大学院医学系研究科)

◎:分科会長、○:分科会長代理

[敬称略]
(平成13年4月1日現在)

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