資料3-1-1 大強度陽子加速器計画中間評価報告書(概要)

(中間評価報告書のポイント)

 本評価は、平成20年度後半からのJ-PARCのビーム供用開始を控え、運用・利用体制を中心に検討を行ったもの。

○ JAEA、KEKの両機関が、J-PARCの一体的な運営のため「J-PARCセンター」を設置するとともに、重要事項の意志決定を行うため「運営会議」を設置したこと、

○ 成果公開課題の利用について原則無償とし、かつ、公募受付から、審査結果通知まで一元的に行うワンストップ窓口体制を整備すること、については、適切であると評価する一方で、

○ 中性子の産業利用については、当面は、基礎的な分野で成果を創出するとともに、トライアルユース制度などを最大限活用することにより、ユーザー層を広げていくことが重要であり、今後とも取組を進めていくことが必要と判断した。

 また、
○ 400MeV(メガ電子ボルト)へのリニアック性能回復は、測定時間の短縮や実験精度の向上など、効果は大きく、最優先課題として取り組むべきであり、平成20年度からの着手は適切であると判断するとともに、

○ 国際公共財として認知されるためには、研究環境・生活環境の整備が必要であると同時に、J-PARCの目標・理念等を深めるため、国際的な広報活動の強化が必要と考える。

1.はじめに

 本計画は、平成20年度のビーム供用開始を控え、適切な運用・利用体制等の構築が必要な極めて重要な時期を迎えているとともに、平成15年の中間評価実施後3年が経過し、諸情勢の変化もみられる。このため、本部会では、施設の運用体制や利用体制を中心に以下の事項について評価を行い、結果を取りまとめた。

2.計画の意義及び進捗状況について

 科学技術・学術的意義等の極めて高い計画であり、国際公共財としての規模の大きさ、対象とする研究分野の多様性、関連する研究者層の広がり、見込まれる成果の重要性などに鑑みれば、国として、本計画を着実に進めることが必要。なお、現在約7割強の施設が完成し、リニアックについては、所期のエネルギーまでのビーム加速に成功するなど、計画は順調に進捗していると評価できる。

3.中間評価(平成15年12月)における指摘事項への対応について

(1)リニアック性能回復について

 中性子の強度が増加し測定時間の短縮や実験精度の向上が実現できるとともに、ニュートリノやハドロン実験においても、ますます活発に国際共同研究が展開されることが期待される。このため、最優先課題として取り組むべきであり、平成20年度からの着手は適切。

(2)第2期計画について

 原子核・素粒子実験施設等の充実については、関連する研究者コミュニティで、当該分野における優先順位付けを行い、その時点での財政状況等を踏まえつつ、判断していくことが必要。また、核変換技術については、重要な基盤技術として引き続き研究開発を進める必要があるが、核変換実験施設の整備については、原子力政策全体の中で検討していく必要があり、今後、原子力委員会等の評価を踏まえて進めていくことが適当。

4.多目的研究施設としての運用体制の構築について

 J-PARCの一体的かつ効率的・効果的な運営を行うために「J-PARCセンター」を設置したことは適切である。また、運営会議を設置し、重要事項についての意志決定メカニズムを構築したことや、予算の執行や施設の運転・維持管理等について、センターにおける柔軟な運営を可能とすることは評価。なお、本計画は両機関の技術・ノウハウをもって進めていくことが不可欠であり、当面は、両機関の協力の下、一体となってセンターを運営していくことが必要。

5.円滑な施設利用体制の構築について

(1)利用ポリシー・課題選定等について

 成果公開課題の利用については原則無償とすることは適切である。なお、物質・生命科学実験施設において、成果非公開の場合は、1ビームライン当たりの利用料金(1日につき約180~210万円)については、他の同様な大型施設の利用料金と比較しても妥当。
 各実験施設とも課題公募は、受付から、審査結果通知まで一元的に行うワンストップ窓口の体制が整備されることは適切。

(2)先端研究施設としての幅広い利用への対応について

 中性子の産業利用は、放射光と比べ産業界に根付いている状況にはなく、当面は、基礎的な分野で最先端の成果を創出するとともに、トライアルユースと施設共用制度などを最大限活用し、ユーザー層を広げていくことが重要。
 今後、両機関のミッションを超えるような分野で利用されるビームラインの設置が必要になった場合や、より多くのユーザーが利用を希望するようになり、かつ既存の制度で対応が困難になる蓋然性が生じた場合には、共用促進法の適用など国が必要な対応をしていくことも求められる。
 今後のビームラインの整備に当たっては、利用ニーズの把握やこれを踏まえた研究分野間、学術研究と産業利用のバランスを考慮することが必要。

(3)物質・生命科学実験施設の産業利用の促進について

 産業界との共同研究の推進、コーディネータや技術支援者の育成など、産学官一体となった取組みも産業利用の幅を広げていく上でも重要。また、知的財産権の保護や機密保持の徹底など産業界に使いやすい仕組みを早急に整備することが必要。

6.運転経費の考え方について

 J-PARCの機能を最大限発揮させるために、定常的に運転(運転日数約230日、利用日数約200日等)した場合、施設全体の運転経費を約187億円と算定した考え方は妥当。一方、光熱費や装置保守費など、今後のビーム試験や運用の経験を基に、経費削減に向けての努力を行うことが必要。

7.国際公共財としての取組みについて

(1)国内外に開かれた研究施設としての環境整備について

 国内外の研究者が利用可能な国際的に開かれた国際公共財と認知されるためには、研究環境及び生活環境の整備が必要。特に生活環境に関しては、今後、茨城県や東海村など自治体との連携・協力の下、速やかな対応が必要。

(2)諸外国との連携強化や国際的な広報活動について

 中性子分野では世界最大のパルス中性子施設として、先端技術開発の推進においてアジア・オセアニア圏における中心的な役割を果たすべき。原子核・素粒子物理分野においても、世界における中心的な役割を担うことを期待。また、将来に向けてJ-PARCの目標、理念、研究成果の理解を深めていくために、広報担当者を配置し、国際的な広報活動の強化を図っていくことが必要。

8.今後の課題等について

 今後、J-PARCセンターの位置づけ等については、今後の施設の運用の状況等を踏まえて両機関でそのあるべき姿について検討することが必要であり、これも含めたJ-PARCの運用・利用体制については、今後の情勢、研究や技術の進展、利用ニーズの動向、運用開始後における知見や経験等を踏まえ、適切な時期にレビューを行うことが必要。

9.おわりに

 本計画はJAEAとKEKというミッションや文化が異なる機関が共同で進めている画期的なものであり、今後のビッグプロジェクトの進め方の試金石であるといえる。今後の運用に伴い、両機関がお互いの文化を尊重しつつ融合していく中で、新しい文化や成果が発信されることを期待する。

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