3.研究目標・研究目的

(1)基本的な考え方

 基本的には、「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」の報告書を基軸として、研究体制を構築する。がん研究における独自のミッションを担いつつ、かつ裾野を広くした学横断的な新しいがん研究を目指すためにも、計画研究と公募研究を両立させながら、弾力的、効率的かつ機動的な組織構築と運営体制が重要である。

(2)研究の目標・目的

 「がんの体系的理解と個人に最適ながん医療を目指して」をキャッチフレーズとして統合的ながん研究体制を推進する。がんの複雑性と多様性をより深く理解するため、遺伝情報維持システムと細胞増殖調節システムの破綻としてがんを理解することがより重要となっている。従来からのがん研究の流れを受け継ぎ発展させながらも、シグナル系の異常、遺伝情報の異常といった分子レベルから細胞・組織の異常まで、それらのネットワーク系を解析し、同時あるいは順次に引き起こされる出来事を統合的な視点で捉える、というアプローチをより鮮明にする。ヒトゲノム・プロテオミクス研究の情報を基盤に個々のがんの発生と悪性形質獲得にいたる病態を把握し、発がんリスクなど、これまで体質と呼ばれてきたものを科学的に解明することによって、新しいがんの分子診断法の開発、オーダーメイド医療実践への応用法、がんの発症前診断技術、がん化学予防の確立を目指す。また、このような科学的な基盤的研究に基づく化学療法、分子標的療法、免疫療法、遺伝子療法、再生医療などを駆使した集学的な医療によるがん治療を行い、個人のがんに最良の治療法を確立する。

(3)従来の研究体制を次にどう活かしていくか

 基本的には上記のように、科研費で支援されてきたがん研究では多くの成果が挙げられてきたことを考えれば、その基本精神を受け継ぎながら、更なる発展を目指すための研究体制の構築を目指すことが重要である。一方では、国際的にも競争の激しいがん研究において先導的役割を果たすためには、たゆまぬ自己改革と新たな分野への挑戦が求められている。実際、現在のがん特定領域における各領域の設定・運営については、研究体制の推移という歴史的背景もあり、やむを得ない側面もあるものの、今後さらに改善するべき点も残されている。現在、がん特定領域全体の「司令塔」として機能している「がん研究の総合的推進に関する研究(総合がん)」のような組織は基本的には今後とも必要であるが、今後どのような体制を組んで有効に運営するか、については検討の必要がある。例えば、「がんの戦略的先端研究(先端がん)」領域は厚生労働省が支援するがん研究との連携を図る窓口として機能しているが、今後はがん研究体制の統合的推進組織を検討し、より広範かつ緊密な連携を深めて行くことが望ましい。一方で、領域間の研究重複を避ける、など外に向けてもより理解されやすい組織の構築が重要である。がん研究費と他の大型研究費の重複受領については、不必要な重複を避け、出来るだけ個々人が担うミッションを明確にし、本来の目標を達成できるような研究費の配分・受領方法を検討していく必要がある。つまり現在のがん特定研究の研究領域の在り方については新しいがん研究の時代に即して、基本的には今までの実績に基づき更なる発展を指向する、という視点に立ちながら臨むべきである。

(4)若手研究者支援、異分野との統合的発展

 がん研究を革新的に発展させるためには人材養成、異分野との連携が必須ともいえる。したがって、的確なプログラムを組み、推進することが重要であるが、全体としては長期的な視点に立った支援体制が重要であると考える。人材養成という視点からは、がん研究者の裾野と世代をより広くするため、公募研究に枠を設ける。若い世代を学問的のみならず、経済的にも支援することは人材養成の要ともいえるものである。また、TRやゲノム研究など、がん関連プロジェクトについては、本研究体制が統合的な発展を図るための具体的方策が重要と考え、支援・連携委員会を設定し、相互の発展を図る。これについては各研究領域との交渉を行っていきたい。また、がん研究の新分野や病理・病態学など、がんのシステム的理解により貢献できるような分野については講習会やシンポジウムなどを通して人材の育成に務めることが重要である。すなわち、科研費の特定領域研究に代表されるように、個人の考えを尊重し責任を明確にしながらも、グループとして研究に取り組むことによってお互いに助け合い刺激し合う、という研究支援体制は、国内においてより重厚な研究環境を実現する、という意味で効果的と考えられる。

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