1 科学研究費補助金制度の趣旨・目的

(1)制度の概要

ア) 科学研究費補助金制度においては、学術研究を振興する観点から不可欠な要素を勘案し、研究者のニーズに応えつつ効果的に研究費助成を行うために、その目的・対象、申請規模等により階層的にいくつかの研究種目を設定しており、研究者が、自らの研究計画に適合した研究種目を選択する仕組みとなっている。
 年間の申請件数は、約8万5千件(継続課題を含めると約10万9千件)である。うち、2万1千件(継続課題を含めると4万5千件)が公正な事前評価(以下、「審査」という。)を経て採択されており、大学等の研究者にとって不可欠のかつ信頼性の高い研究資金として定着している。
 主な研究種目は、以下のとおりである。

1. 「特別推進研究」は、国際的に高い評価を得ている研究をより一層推進するために、研究費を重点的に交付することにより格段に優れた研究成果が期待されるものを対象としている。研究期間は3~5年。研究費の制限は設けていないが、研究期間中の研究費総額は5億円程度までを目安としている。

2. 「特定領域研究」は、学術研究分野の水準向上・強化につながる研究領域、地球規模での取り組みが必要な研究領域、社会的要請の特に強い研究領域を特定して、一定期間、研究の進展等に応じて機動的に推進し、当該研究領域の研究を格段に発展させるための研究種目である。
 領域設定期間は3~6年。領域設定期間における研究費の制限は設けていないが、単年度あたり2千万~6億円程度を目安としている。

3. 「基盤研究」は、独創的、先駆的な研究を格段に発展させるものを対象としている。研究期間は2~4年。研究期間における研究費総額は5千万円まで。申請する研究費総額に応じてA、B、Cの区分を設けている。
 これに加え、平成13年には、それまでの研究成果を踏まえて、さらに独創的、先駆的な研究を格段に発展させるものを対象として5年間の研究期間で、総額5千万~1億円程度の助成をする「基盤研究(S)」を創設した。

4. 「萌芽研究」は、独創的な発想、特に意外性のある着想に基づく芽生え期の研究、例えば、新しい研究分野の展開につながるような成果が生まれること、又はその契機となることが期待されるものを対象としている。研究期間は1~3年。研究期間における研究費総額は500万円まで。

5. 「若手研究」は、37歳以下の研究者が一人で行う研究であって、将来の発展が期待できる優れた着想を持つものを対象としている。研究期間は2~3年。研究期間における研究費総額は3千万円まで。

イ) 科学研究費補助金の研究種目のうち、「基盤研究」、「萌芽研究」及び「若手研究」(以下、「「基盤研究」等」という。)は、申請件数の多い代表的な研究種目であり、その審査に当たっては、客観的な公正を保つとともに多様な学問分野を維持・発展させるという観点に立って、これを効果的・効率的に行うため、審査分野の区分を示す「分科細目表」を定めている。研究者は自らの研究計画の内容に適合した「分科細目表」の区分(細目)を選び申請を行い、申請課題はその区分ごとに審査されることとなっている。

ウ) 科学研究費補助金の研究課題の審査は、文部科学省及び日本学術振興会において行われており、文部科学省では「特別推進研究」及び「特定領域研究」の審査を、また、日本学術振興会では「基盤研究」等の審査を行っている。

エ)また、極力早期に補助金を交付し、研究期間を長期間確保するため、研究実施年の前年9月に新規申請の公募を行い、11月に研究計画調書を受け付けている。
 「基盤研究」等は科学研究費補助金制度全体の金額で約6割、件数では約7割を占めているが、これらの新規申請課題については4月中旬に採否を決定し、6月上旬には補助金を交付している。「特別推進研究」については、申請者からのヒアリングを行った上で5月下旬に採否を決定し7月下旬に補助金を交付している。「特定領域研究」の新規領域についても、ヒアリングを行った上で7月上旬に採否を決定し、9月上旬に補助金を交付している。

(2)制度の趣旨・目的

ア) 科学研究費補助金は、研究者の自由な発想に基づく優れた独創的・先駆的研究を格段に発展させることを目指した研究資金であり、我が国の学術研究の振興そのものを目的としている。

イ) 限られた財源の中で、幅広く学問分野全体の振興を最も効率的・効果的に進めるためには、行政が研究領域を設定し研究を推進するのではなく、あらゆる学問分野について各学問分野の専門家が選定する課題を支援する仕組みが重要であり、この仕組みを具体化したものが現行の科学研究費補助金制度である。

ウ) 科学研究費補助金制度は、第一線の研究者によるピアレビューを根幹とするシステムであり、助成すべき課題の審査においては、人文・社会科学から自然科学までの各学問分野の最新の研究動向が考慮される必要があり、各学問分野の専門研究者により構成される審査体制がとられている。

エ) このような趣旨・目的のもとに運用されている科学研究費補助金制度は、我が国の学術研究基盤の充実及び研究水準の向上に大きく貢献しており、今後とも、この制度の趣旨・目的に沿って、推進する必要がある。

(3)制度の特徴及び効果

ア) 学術研究は、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野における知的創造活動であり、その成果は、人類共通の知的資産を形成するとともに、産業、経済、教育、社会などの諸活動及び制度の基盤となるものであり、また、人間の精神活動の重要な構成要素を形成し、広い意味での文化の発展や文明の構築に大きく貢献するものである。

イ) 科学研究費補助金制度の趣旨・目的は、このような性格を持つ学術研究の振興、とりわけ独創的・先駆的研究を格段に発展させることであり、その性格上、他の競争的研究資金制度にはない様々な特徴及び効果を有している。その主なものは以下のとおりである。

1.自由なテーマ設定

 科学研究費補助金制度は、個々の研究者が自らの知的欲求に基づき、あらゆる学問分野の研究について自由にテーマを設定し、応募することとしている点で、他の競争的研究資金制度とは大きく異なっている。

2.新しい学問分野の創出

 「基盤研究」等においては、最新の学問動向等を勘案して5年ごとに見直し設定される分科細目に基づく審査により、多様な学問分野の新しい芽に対する研究費助成が可能となっている。
 また、「特定領域研究」では、領域設定自体を研究者が提案することにより、時代に即した新しい学問分野を創出することが可能となっている。これは学術研究の振興の観点からは非常に重要であり、他の研究資金で対応することは、ほとんど不可能である。

3.長期的視点に立った研究者の育成

 学術研究の振興を図るためには、優れた研究者の育成が不可欠であるが、それは大学院やポスドク制度などの養成制度のみによって可能なのではない。自らの発想と構想による研究活動の積み上げこそが、研究者を鍛え上げていくのである。 
 このような観点から、科学研究費補助金制度は、長期的視点に立って研究者を育成する機能を内包している制度である。科学研究費補助金の研究種目は、比較的少額の研究費による研究を対象としたものから相当規模の研究費による研究を対象とするものまで、目的や規模に応じて、いくつかの段階で設定されている。研究者は自ら目指す研究の目的や必要な研究費規模に応じて、申請者本人が適切と思う研究種目に申請することが可能であり、その際、研究計画の内容とともに、その実行可能性について、それまでの研究実績等も勘案した審査が行われ、研究者としての発展段階に応じた助成が得られる仕組みとなっている。例えば、「基盤研究」、「若手研究」により優れた成果を得た研究者には、必要に応じてより規模の大きな「特別推進研究」や他の大型競争的研究資金による研究へと移行していく段階への支援がされている。

4.研究者相互の共通基盤の形成

 科学研究費補助金による研究を通じ、研究者は相互に情報交換を行いつつ切磋琢磨し、研究者自身の活力を生み出している。特に「特定領域研究」においては、研究領域を設定して課題を公募し、総括班会議やシンポジウムを開催することにより、我が国における新たな学問分野の開拓に向けた研究者相互の共通基盤の形成に大きな役割を果たしている。

5.研究の相互評価機能

 科学研究費補助金による研究成果は公開を前提としている。学術研究の健全性を維持するためには、他の研究者から適正に評価される必要があるが、成果の公開性と科学研究費補助金による共通基盤の提供により、学術研究の相互評価が可能となっている。

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