資料1-1 学術研究の推進体制に関する審議のまとめ(案)

平成20年 月 日
科学技術・学術審議会
学術分科会研究環境基盤部会

1 基本的考え方

1.学術研究の意義

○ 国公私立大学や大学共同利用機関を中心に行われている学術研究は、人文学・社会科学、自然科学からその複合・融合分野にまで及ぶあらゆる学問分野を対象とする知的創造活動であり、研究者の知的好奇心・探究心と自由な発想を源泉として真理の探究を目指すものである。

○ 学術研究は、人類特有の知的な営みであり、それ自体優れた文化的価値を有するとともに、重厚な知的資産を形成・継承し、多様な分野において優れた人材を育成することにより、いわゆる「知識基盤社会」における社会発展の基盤を形成するものである。

○ 学術研究の推進と、その発展のために不可欠な人材育成は、国の重要な責務であり、国として、財政的支援の充実を含め、積極的に推進することが必要である。

2.学術研究の政策的推進

○ 学術研究は、個々の研究者や研究者グループ、研究組織において、自由な発想に基づいて主体的に実施されるものであり、国としては、このようないわゆるボトムアップによる多様な研究活動に必要な支援を行うことが基本である。

○ 国の学術政策の推進にあたっては、日本国憲法第23条において保障される学問の自由を尊重するとともに、教育基本法に定められた大学の役割や特性を踏まえることが大原則である。

(参考)
○ 日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
  第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
○ 教育基本法(平成十八年十二月二十二日法律第百二十号)
  (大学)
  第七条 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
   2 大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。

○ 学術政策の推進の方向としては、研究の多様性を確保し幅広い研究活動を促進するとともに、卓越した研究拠点の形成を推進することが重要である。

○ 多様性の確保の観点からは、研究者の自由な発想と大学等の主体的な取組を尊重し、それらの自主性が発揮できる環境を整えることが重要である。そのため、国は、基盤的経費の確実な措置と科学研究費補助金やグローバルCOEプログラム等の競争的資金の拡充により(デュアルサポートシステム)、各大学等において多様な学術研究が安定的・持続的に幅広く行われるよう支援することが必要である。

○ 拠点の形成については、各大学等の取組を支援するとともに、国全体の学術研究の発展の観点から、大学の枠を越えた研究拠点の形成や大規模な学術研究プロジェクト等については、国の学術政策として重点的に推進することが重要である。重点的な推進のための意思決定の過程においては、研究者の自主性に基づくボトムアップを基本とし、研究者コミュニティにおける議論と合意形成を踏まえ、国の施策に反映していくことが重要である。

○ 研究者コミュニティによる合意形成にあたっては、議論の公開性と透明性を確保するとともに、コミュニティの自主性・自律性を担保することが重要である。具体的な合意形成のプロセスについては、更に検討が必要であるが、科学技術・学術審議会の学術分科会(以下「学術分科会」という)は、研究者コミュニティの意向を国の施策に反映させる役割を有しており、その機能の強化が必要である。

2 学術研究組織の整備

1.学術研究組織の現状と課題

○ 学術研究の主な担い手は、国公私立大学及び大学共同利用機関である。大学においては、学部や研究科のほか、大学や学部等に附置された研究所・研究施設において、研究活動が実施されている。さらに、国立大学の全国共同利用型の附置研究所や大学共同利用機関等においては、全国の関連分野の研究者による共同利用・共同研究が実施されており、我が国全体の学術研究の発展に大きく貢献している。

○ 国公私立大学の附置研究所・研究施設は、学生に対する教育の体系を基本として設置される学部・研究科等と異なり、研究上のミッションを掲げて特に設けられる組織である。
 これらの研究組織は、優れた研究の芽をさらに発展させる場として特定分野の研究を組織的・集中的に深め、先端的な研究課題に自発的に取り組んだり、個々の学部・研究科等では実施が困難な多分野にまたがる総合的な研究体制を構築し、細分化された研究の組織化や新たな研究領域の開拓、課題解決に向けた総合的なアプローチを行うなど、各大学における特徴的な研究の発展に大きく寄与している。
 また、研究科等との連携により教育活動に参加し、学生に最先端の研究に触れる機会や学際的な環境で学習する機会を提供したり、独自の研究環境や研究成果を活用して地域貢献活動を行うなど、研究、教育、社会貢献の各面において、大学に個性を与える役割を果たしている。

○ 研究組織においては、組織としてのミッションの達成に向けて構成員が目的意識を共有し、様々な研究課題を設定して取り組んでいる。このような組織的な研究活動は、特定の研究課題に取り組む個別の研究プロジェクトとは異なり、共通のミッションの下に一定の人的・物的資源を継続的に備え、様々な研究活動を組織的・体系的に展開してその成果を結集・蓄積・継承することができるという特長がある。
 なお、研究組織のミッションとしては、緊急の学問的・社会的課題への対応等比較的短期間で取り組むべきものと、特定の学問分野に関する総合的な研究や継続的なデータ収集に基づく研究等ある程度長期的・継続的に取り組むべきものとが考えられる。前者の場合は、大学等が組織を設置する際に必要に応じ存続の時限を設定することが適当である。また、後者の場合であっても、内外の学問動向等を踏まえ、定期的に組織の研究活動の自己点検評価や外部評価を行い、必要な見直しを行うことで、様々な研究課題に柔軟に取り組み、組織の活性化を図ることが重要である。

○ 従来、学術研究組織に関する国の施策としては、国立大学における附置研究所・研究施設の設置や全国共同利用化、大学共同利用機関の設置等を行っており、これらの拠点組織において、大型プロジェクト等の重点的な研究推進も行ってきた。

○ 国立大学は、国公私立大学全体の大学院学生の約6割(理工系の博士課程は8割)を有するとともに、専任教員の所属する附置研究所や研究施設を設置する大学も多い。平成16年に国立大学が法人化され、国立大学における研究組織の設置改廃や学内における予算配分は、基本的に各法人の判断で、自主的・自律的に行うこととなり、大学独自に新たな研究組織を設ける等の動きが見られる。一方、附置研究所・研究施設については、法人化以前は、法令(国立学校設置法体系)により設置され、国立学校特別会計において研究所・施設毎に国から予算配分を受けていたが、法人化以後は、大学全体の運営方針に基づく資源配分の中で位置づけられることになったことから、国全体の学術研究の発展の観点から必要な研究の推進が、大型プロジェクトも含め、困難になる可能性が指摘されている。

○ 私立大学は、国公私立大学全体の約7割の学生、約5割の教員を有しており、それぞれの建学の精神に基づき特色ある研究活動を展開している。研究の多様性を確保し国全体の学術の発展を図るためには、私立大学の研究機能を一層活かしていくことが不可欠である。国としては、私立大学学術研究高度化推進事業等により各大学の研究組織の整備を支援するとともに、国公私立大学を通じた21世紀COEプログラムやグローバルCOEプログラム等により教育研究拠点の形成を支援しており、各大学においては、これらの支援も活用しつつ様々な研究活動を推進している。その結果、人文学・社会科学分野において優れた研究実績を有する大学や、自然科学分野において優れた人材を多く育成した実績を有している大学も少なくない。しかしながら、多くの私立大学では、先端的な研究のために必要な組織を整備したり、優秀な研究者を研究所等で研究活動に専念させたりすることが困難な状況である。他方では、優れた人的・物的資源を有していても、全国の拠点として国全体の学術研究の発展に資するような仕組みがなく、私立大学の研究機能を活用するための仕組みの整備が必要である。

○ 公立大学は、地域における学術研究拠点として大きな役割を果たしており、それぞれの地域の個性や特色に応じ、研究活動を推進している。地方分権の進展等に伴い、近年その数は急増(過去20年間で倍増)しており、国全体の学術研究の発展のために公立大学が果たす役割も大きくなっている。公立大学の特徴的な研究活動を国全体の学術研究推進の観点から活用する視点が必要である。

○ 研究の活性化と発展のためには、複数の国公私立大学が連携協力し、それぞれの所有する人的・物的資源を活用して相互補完を図ることが有効である。近年は、大学間協定の締結やコンソーシアムの形成等により共同研究や人事交流、情報共有を行う等、国公私立大学の枠組みを越えた連携の例も増加している。さらに、各大学の自主的な判断により、複数の国公私立大学が共同で研究組織を設置することも有効である。

○ 大学共同利用機関は、全国の国公私立大学の研究者のための学術研究の中核拠点として、個別の大学では整備や維持が困難な施設・設備や学術資料等を全国の研究者の利用に供し、効果的な共同研究を実施することで、我が国の学術研究の発展に重要な役割を果たしている。大学共同利用機関は、それぞれの分野の研究者コミュニティの要請等に基づき、学術政策として国により設置されてきたが、平成16年に法人化され、大学共同利用機関法人が設置主体となった。法人化にあたっては、複数の大学共同利用機関が将来の学問体系を想定して分野を越えて連合し、機構を形成することによって、国全体の学術研究の総合的な発展に資することを目的とし、既存の16の大学共同利用機関が4つの機構(大学共同利用機関法人)に再編された。大学共同利用機関法人においては、各大学共同利用機関による共同利用・共同研究の推進に加え、機構化のメリットを活かし、機関間の連携等により、従来の学問分野の枠組を越え、新たな研究パラダイムの構築に向けた取組を進めている。

○ 上記のような状況を踏まえ、国公私立大学を通じた大学間の連携協力の促進や、個々の大学を越えた拠点組織の整備など、国公私立大学全体を視野に入れて、今後の学術研究組織の整備のあり方を検討することが必要である。

2.学術研究組織の整備に関する大学と国の役割

(大学における主体的な組織整備)

○ 国公私立大学における研究活動は、各大学がそれぞれの研究戦略に基づいて自主的・自律的に実施するものであり、そのための研究組織の設置や改廃は、各大学が主体的判断に基づき実施するのが原則である。

○ 各大学においては、それぞれの目指す役割・機能に応じ、個々の研究者や研究室レベルで行われる多様な研究活動を推進するとともに、優れた研究や特徴的な研究等を発展させる必要がある場合には、必要な研究組織を機動的に整備して研究を重点的に推進することが求められる。また、大学全体としての研究活動や教育研究組織のあり方について、定期的な評価と見直しを行い、活性化を図ることが重要である。

(国の役割)

○ 国は、各大学における多様な研究活動を支援するとともに、国全体の学術研究の発展の観点から必要な中核的研究拠点となるべき研究組織については、内外の研究動向や研究者コミュニティの意向を踏まえ、国の学術政策として重点的に支援を行う必要がある。

○ 国全体の学術研究の発展の観点からは、大学の枠を越えて研究者の知を結集させる共同利用・共同研究の拠点(国際的な拠点を含む)を支援していくことが特に重要である。共同利用・共同研究の拠点となる研究組織(複数の研究組織がネットワークを組んで拠点を形成する場合を含む)については、個別の大学の判断のみにより設置改廃を行うべきではなく、研究者コミュニティの意向を踏まえ、国の学術政策として一定の関与を行って行くことが必要である。国公私立大学の既存の研究組織の中には、既にこのような拠点としての機能を有するものや、将来的に拠点として発展することが期待されるものがあり、そのような研究組織は、国として重点的に支援する。なお、大学共同利用機関については、特定の大学に属さない共同利用・共同研究拠点として、国が関与・支援を行っている。

○ また、学際的・学融合的分野等新たな学問領域に係る研究組織や、国内で他に当該分野の研究を行う所がなく唯一の研究の場となる研究組織については、各大学において個性的な取組が積極的に推進されることが望まれ、国としても、研究の多様性の確保の観点から、基盤的経費の措置等により各大学の取組を重点的に支援していくことが重要である。
 このような研究組織についても、共同利用・共同研究を推進することが適当であるが、研究者の数が少なくコミュニティとしての広がりが必ずしも大きくない研究分野については、拠点となる組織に研究者が集結することも考えられる。研究の深まりにつれて、新たな研究者コミュニティが形成されたり、研究者コミュニティの広がりが生まれ、全国的な規模で関連研究者による共同利用・共同研究拠点として発展することが考えられ、そのような場合には、拠点の形成に向けて国としても支援することが必要である。

(国立大学法人に対する国の関与の見直し)

○ 現在、国立大学法人については、附置研究所の設置を文部科学大臣が定める中期目標の別表において位置づけており、その設置改廃を行う場合には、学術分科会研究環境基盤部会において妥当性を審議の上、文部科学大臣による中期目標の変更手続きを行うことが必要となっているが、共同利用・共同研究拠点以外の組織については、各大学の自主的・自律的な判断による機動的・弾力的な組織編成を可能にする観点から、次期中期目標期間においては、組織の設置改廃についての国の関与を廃止すべきであり、中期目標の記載事項としないことを検討する。
 なお、各大学がそれぞれの学術研究推進戦略に応じて重点的に取り組む研究に係る組織については、それぞれの大学の中でしっかりと位置づけていくべきである。

3.共同利用・共同研究の推進

1.共同利用・共同研究の意義・役割

○ 個々の大学の枠を越え、全国の国公私立大学等から研究者が集まって共同利用・共同研究を行う「全国共同利用」のシステムは、我が国が独自に発展させてきた仕組みであり、これまで国際レベルの研究成果をあげるなど、我が国の学術研究の発展に大きく貢献してきた。

○ 多くの研究分野において、多様な背景を有する全国の関連研究者が共同して研究を進める必要性と有効性は大きく、人的・物的資源の効率的な活用の観点からも、今後更に共同利用・共同研究の充実を図っていくことが重要である。

○ 共同利用・共同研究の機能は、1関連研究者で大型の研究装置を共同で開発し(改良・機能向上を含む)利用すること、2個別の大学では収集・保管等が困難な大量の研究資料やデータを収集・整備し関連研究者で共同利用すること、3関連研究分野の発展に資する共同研究や研究集会を組織し研究者の交流を図ること等、研究分野の性格等に応じ多様であるが、総じて、研究者の知を結集させ、研究者コミュニティの意向を踏まえて共同で研究を推進するという点が重要である。
 「全国共同利用」という用語は、国立学校設置法施行規則(平成16年廃止)の規定等を踏まえ、従来共同利用・共同研究のシステムを指す用語として用いられてきた。その趣旨は、「全国の研究者が共同で利用する研究所・研究施設」というものであるが、「利用」という言葉は、設備や資料の共同利用のみを想起させることから、共同研究の拠点としての意義を明確にすることが必要である。このため、以下、本報告書においては、「共同利用・共同研究」という用語を用いる。

2.共同利用・共同研究の課題と今後の方向性

(国公私立大学を通じた共同利用・共同研究拠点の整備)

○ これまでの「全国共同利用」は、国立大学の全国共同利用型の附置研究所や大学共同利用機関等を拠点として推進されてきた。平成16年に国立大学が法人化される以前は、「全国共同利用」の拠点は国立学校設置法の法体系の下で法令によって設置され、「全国共同利用」に必要な経費は国が国立学校特別会計により措置しており、国立のシステムの中で、国の学術政策上必要な体制を整備してきたとも言える。今後は、国全体の学術研究の発展のため、並びに学術の継承・普及・活用に不可欠な人材育成のために、国公私立を問わず大学の研究ポテンシャルを活用し国として最善の研究体制を整備する観点から、公私立大学についても、共同利用・共同研究の拠点としてふさわしい研究環境や特色ある設備・資料等を有する場合には、拠点として位置づけ、重点的に支援すべきである。

(共同利用・共同研究拠点の制度的位置づけの明確化)

○ 他方、現在国立大学に置かれている全国共同利用型の附置研究所等においては、大学の内部組織として大学全体の運営方針に基づく資源配分に左右されることから、研究者コミュニティの意向との調整が困難な場合が生じている。同様の問題は、公私立大学に拠点を整備する場合にも起こりうることであり、国として重点的に支援するものとして、共同利用・共同研究拠点の制度的位置づけとこれに対する支援のあり方を明確にする必要がある。大学共同利用機関は国立大学法人法に根拠規定があるが、大学に設置する拠点は現在法令上の位置付けがないことから、国公私立大学を通じた共同利用・共同研究拠点について、学校教育法施行規則等に必要な規定を設けることが適当である。

○ そこで、国公私立大学を通じた新たな制度として共同利用・共同研究拠点の整備を国の学術政策の重要な施策と位置づけ、既存の拠点組織の見直しを行うとともに、これまで拠点のなかった分野等についても、研究者コミュニティの意向を踏まえ、必要な場合には拠点の整備を行っていくことが必要である。

○ これまでの国立大学の全国共同利用型附置研究所等は一分野につき一拠点とすることを原則としてきた。今後国公私立大学を通じて共同利用・共同研究拠点を整備していく際には、研究分野によっては、一定の役割分担の下で複数の拠点を設けて相互に連携を図ったり、一定の地域においてその地域の研究者が集結する拠点を設けることで地域の学術研究の活性化とレベルアップを図ったりするなど、柔軟な形態を可能にし、当該研究分野の特性や研究者コミュニティの議論を踏まえて最適な拠点整備を行うべきである。なお、各拠点組織が対象とする研究分野の範囲は、国際的な学問動向や関係学会の状況等を踏まえ、一定のまとまりをもった範囲とすることが適当であり、特定の先端的研究分野に特化したり、ある程度広い領域を設定して異なる分野の研究者の交流により学際的なアプローチを行うなど、研究者コミュニティにおいて適切な範囲を設定することが必要である。

(ネットワーク型の拠点の形成)

○ さらに、分野の特性等に応じ、従来のような固定的な組織ではなく、ネットワーク型の研究推進が可能となるような形態も推進すべきである。例えば、
 1特定の国公私立大学の研究所等が中心となって、他の研究組織とネットワークを形成する形態
 2大学共同利用機関法人に特定のテーマの研究を推進する存続時限付きのヴァーチャルな研究組織を設置し、国公私立大学の関連の研究者が参加する形態
 等が考えられる。

3.共同利用・共同研究拠点のあり方

(運営体制)

○ 共同利用・共同研究の効果的な推進のためには、研究者コミュニティの自主性・自律性に基づいた運営を確保することが極めて重要であり、開かれた運営体制を整備し、運営に外部研究者の意見を反映する仕組みを整える必要がある。その際、国際的な共同利用・共同研究拠点にあっては、海外の研究者の意見の反映にも配慮することが必要である。また、研究者コミュニティによる運営を確保するためには、拠点組織の研究者の人事に関しても外部の意見を取り入れる等の配慮も考えられる。なお、複数の研究組織がネットワークを組んで拠点を形成する場合には、ネットワーク全体としての運営を協議する場が必要であるが、その場合にも、ネットワーク外の研究者の意見を反映する仕組みが必要である。

(共同利用・共同研究の公募)

○ 共同利用・共同研究の実施にあたっては、国公私立大学等の研究者に対して広く研究課題の公募を行い、関連研究分野の動向を踏まえ、外部研究者を含む合議体により公正な採択を行うことが必要である。共同利用・共同研究の実施方法や研究課題・参加者の規模等は、分野に応じて多様であり、一律の基準を設けることは適当でないが、それぞれの研究分野の内外の動向や研究者コミュニティの意向を踏まえ、各拠点において適切な共同利用・共同研究を実施することが必要である。

(共同利用・共同研究に参加する研究者への支援)

○ 共同利用・共同研究の拠点組織においては、共同利用・共同研究に参加する外部の研究者への支援を適切に行うため、必要な事務職員や技術職員を配置するなど、体制を整備することが必要である。

○ また、共同利用・共同研究の形態に応じて、外部から参加する研究者が研究を実施するために必要なスペースや情報基盤へのアクセス等を確保することが必要となる。さらに、共同利用・共同研究の形態によっては、国内外の研究者のための宿泊施設が確保されるようにすることも望ましい。

(情報提供・研究成果の発信)

○ 全国の多様な研究者の参加を促進するため、共同利用・共同研究に関する情報提供を充実させることが重要であり、とりわけ、研究成果に係る情報発信については、研究者コミュニティの発展に資するとともに、社会に対する説明責任を果たす観点からも、積極的な取組が求められる。

(人材の流動性)

○ 共同利用・共同研究の活性化のためには、国公私立大学を通じ、優秀な研究者が共同利用・共同研究課題に参加することが重要である。また、拠点組織とその他の国公私立大学との間での人事の流動性を高めることも重要である。所属を越えた人事の流動性を高めるためには、必要に応じ任期制や公募制を採用するほか、異動によって研究者が処遇面で不利にならないような仕組みも必要であり、年俸制の導入は方策の一つと考えられる。
 国公私立大学の研究者が一定期間所属大学における教育職務を離れ、最先端の研究環境を提供する拠点における研究活動に参加することで、新たな研究活動の発展を期することも考えられる。国立大学法人について、非公務員化された人事制度の下で、研修休業制度等を自由に創設することが可能になったことも踏まえ、各国公私立大学において、それぞれの主体的な判断により研究者の休業制度を設ける等の工夫が望まれる。また、優秀な研究者が拠点における研究活動に専念できるよう、各種フェローシップ制度の活用や、所属大学における代替教員の確保に必要な経費の支援を行うための方策の検討も必要である。

(人材育成)

○ 共同利用・共同研究拠点においては、国内外の優れた研究者が結集し、最先端の研究環境の下で独創的・先端的な研究活動を展開している。大学院学生等の若手研究者がこのような環境の中に入ることは、高度な人材育成の観点からも、研究の活性化の観点からも有効である。拠点においては、全国の国公私立大学と連携・協力して大学院教育等に貢献するとともに、若手研究者の共同利用・共同研究への参加を積極的に推進することが望ましい。

(国際的な視点)

○ 共同利用・共同研究拠点は、我が国における当該研究分野の中核的研究拠点として国際的なレベルの研究を推進し、当該分野の研究の発展をリードする役割を果たすことが求められる。また、国際的な連携が不可欠な分野等においては、当該分野の国際的な連携・協力の窓口としての役割を果たし、内外の研究者の交流の場を提供することも期待される。国際的な共同研究を実施するためには、国際的にも魅力ある研究活動を推進し、海外の諸機関と継続的な友好関係を構築することが必要であるとともに、国際的な対応を専門とする事務職員の配置や組織の設置など、外国の研究者の受け入れのために必要な環境や仕組みの整備も必要である。また、国際的にも中核的な研究拠点を目指すためには、国際公募を実施し、待遇面等について柔軟な人事制度を整えることにより、国内外から卓越した研究者を集め、国際的な研究環境を目指すことも考えられる。さらに、国際的に当該分野をリードする役割を果たすためには、海外の若手研究者を受け入れたり、拠点において育った人材を海外の研究機関や国際機関等に送り出したりすることも重要である。

(評価)

○ 共同利用・共同研究の拠点組織においては、拠点としての役割・機能を十分に果たしているか、不断の評価を行うことが必要である。共同利用・共同研究の評価においては、研究者コミュニティの要請に応えているか否かという観点が重要であり、開かれた運営体制による日常的な評価機能に加え、定期的に外部評価を受けることが必要である。また、分野の特性に応じ、国際的な評価を実施することも必要である。
 なお、共同利用・共同研究による研究成果は、参加した研究者の成果として評価されるとともに、拠点組織の成果としても評価されるべきである。また、大学におかれる拠点組織の活動の評価は、当該大学の評価にも適切に反映されるべきである。

4.共同利用・共同研究拠点の整備

○ 前述したように、共同利用・共同研究は、大学の枠を越えて研究者の知を結集し、国全体の学術研究の発展を図る極めて効果的なシステムであり、国の学術政策として、国公私立大学を通じてそのための拠点整備を推進し、必要な支援を行うことが重要である。

(拠点の設置形態等)

○ 共同利用・共同研究の拠点の設置形態としては、研究分野の特性、研究者の状況や必要とされる研究基盤の性格等により、特定の国公私立大学の中に設置したり、複数の国公私立大学が共同で設置したりすることが適当な場合と、特定の大学に属さない大学共同利用機関とすることが適当な場合がある。

○ 大学内の拠点は、多様な学問が存在する場で研究が行えるというメリットや、学生に対する教育や研究指導を身近に行える等の人材育成面のメリットがある。また、大学側にとっても、特徴的な研究活動を実施するとともに、最先端の研究環境における教育研究活動を可能とし、大学に個性を付与し大学院教育を高度化するというメリットがある。

○ 他方、特定の大学内に拠点を設置する場合には、共同利用・共同研究の拠点組織は、通常の内部部局とは異なり、当該大学のみのための施設ではなく、いわば全国の関連研究者のための施設であり、その運営には研究者コミュニティの意向を反映させることが強く求められるということを、大学として十分認識することが重要である。

(拠点の新設に係る手続き等)

○ 共同利用・共同研究拠点を設置する際には、研究者コミュニティからの拠点設置の要請に基づき、拠点を設置しようとする国公私立大学や大学共同利用機関法人が計画案を策定し、学術分科会において、その妥当性を審議することが適当である。

○ その際、上述したような研究者コミュニティの意向を運営に反映させるため外部の関連研究者が参加する開かれた運営体制を整備していること、共同利用・共同研究課題を広く公募する仕組みが整っていること、適切な支援体制が整っていること等を要件とし、研究者コミュニティの要請や内外の研究動向を踏まえているか、計画案に具体性や実現性があるか、学問分野の発展への寄与が期待できるか、といった観点からの検討を行うことが必要である。

○ 既存の拠点組織についても、研究者コミュニティの意向を踏まえ、共同利用・共同研究が適切に行われているか等について、国として定期的な評価と見直しを行う必要がある。

○ 共同利用・共同研究の拠点となる組織の改廃等は、大学等の独自の判断のみで行うことは適当でなく、研究者コミュニティの意向を踏まえ、学術分科会で国全体の学術研究の推進の観点から妥当性を判断することが必要である。

(経費の負担)

○ 共同利用・共同研究に必要な経費(拠点の運営経費や共同利用・共同研究に係る研究費等)は、個々の国公私立大学の枠を越え、国全体の学術研究の発展に資する経費であり、国において安定的な財政措置を行うことが重要であり、そのための支援スキームが必要である。その際、共同利用・共同研究に供する施設・設備等に係る経費についても、その負担のあり方について新たな視点で検討する必要がある。なお、複数の研究組織がネットワークを組んで拠点を共同利用・共同研究拠点を形成する場合には、ネットワーク内における経費の配分・使用を適切に行える仕組みが必要である。

○ 共同利用・共同研究に必要な経費に係る国に対する予算要求の手続きや会計処理上の取り扱いについては、研究者コミュニティや社会に対する説明責任が果たせるような仕組みを検討する必要がある。

○ なお、現在、国立大学法人の全国共同利用型の附置研究所等については、共同利用・共同研究に係る経費が国立大学法人の運営費交付金の中で措置されており、各法人が定める優先順位の中で位置づけられているが、共同利用・共同研究に係る経費は、当該法人のみのための経費ではなく、全国の関連コミュニティの研究活動のための経費であるため、国として、法人の優先順位とは異なる観点から財政措置を行うことが適当である。

○ 以上を踏まえ、共同利用・共同研究拠点の整備及びそれに対する支援等のあり方について、国において具体的な制度設計を行うことが必要である。

5.大学共同利用機関法人に期待される役割

○ 大学共同利用機関法人は、関連分野の大学共同利用機関の設置主体であり、拠点としてのノウハウを有するとともに、各分野の意向を踏まえた運営の仕組みを有している。大学共同利用機関や大学共同利用機関法人が、国公私立大学の研究組織との連携の強化等によりネットワークの中心としての役割を果たしたり、国公私立大学に置かれる他の拠点組織に対する支援を行ったりして、関連分野全体をリードする中核としての機能を果たすことが期待される。

○ また、大学共同利用機関法人が、幅広い関係者の議論の場となり、学際的分野や新たな学問領域のコミュニティを育成し、研究拠点を形成する役割も期待される。

○ 大学共同利用機関法人が、このように学術コミュニティの中核としての役割を果たすためには、例えば教育研究評議会をより幅広い関係者から構成するようにする等、その運営体制等のさらなる強化を図ることが望まれる。

4 学術研究の大型プロジェクトの推進

1.学術研究の大型プロジェクトの意義

(学術研究の大型プロジェクトの意義)

○ 学術研究の大型プロジェクトは、最先端の技術や知識を集約して人類未到の研究課題に挑み、世界の学術を先導する画期的な成果を期するものである。大学における研究・教育を支え、国民の科学への関心を高め、国際的な競争と協調の中で我が国がリーダーシップを発揮する上でも、学術政策上推進の意義が大きい。

○ 多くの物的・人的資源の投入を要する学術研究の大型プロジェクトは、個々の国公私立大学では実施が困難であり、国の学術政策として、共同利用・共同研究体制により、国公私立大学の研究者の参加を得て推進していく必要がある。

○ 学術研究の大型プロジェクトは、研究者の知的好奇心・探究心に基づき真理の探究を目指すものであり、その推進のための意思決定にあたっては、学問の自由を最大限尊重し、研究者コミュニティによる自主性・自律性を確保し、権力的な関与を排除することが重要である。この点は、政策主導で実施するいわゆるトップダウン型の大型プロジェクトと大きく異なる点であり、十分な留意が必要である。

2.学術研究の大型プロジェクトの推進

(大型プロジェクトの計画的推進)

○ 大型プロジェクトは、研究施設・装置の建設・製作からその運転・維持まで、長期間にわたり多額の経費を要する。学術研究全体の状況等を踏まえ、学術研究に対する公財政支出の相対的状況や今後見込まれる財政状況にも留意しつつ、中長期的な資源投入の見込みを検討した上で、長期的な展望をもって計画的に推進することが必要である。

○ 大型プロジェクトにおいて大規模な研究施設・装置を整備する際には、特定の限定的な研究分野だけではなく、広範な分野の研究者の利用にも配慮し、幅広い学術研究の推進に留意する必要がある。そのため、計画段階から、幅広い研究者コミュニティの意向を踏まえるための工夫が必要である。

○ なお、大型プロジェクトは、様々な研究者による幅広い研究と議論の中から方向性が生まれ、多様な研究の成果を集積することによって推進が可能になるものである。萌芽的な段階の研究を含め、研究施設・装置の製作に向けた技術開発や施設・装置を利用した多様な研究等についての支援にも配慮することが重要である。

(新たな大型プロジェクトの推進に関する手続き)

○ 学術研究の大型プロジェクトを新たに推進する際には、研究者コミュニティにおける開かれたボトムアップの議論と合意形成の上に立って、推進母体となる大学共同利用機関法人等の拠点組織が計画をまとめ、学術分科会において妥当性を審議した後、国の学術政策として推進を決定することが適当である。

○ 研究者コミュニティの合意形成にあたっては、当該研究分野におけるコミュニティの合意形成に加え、関連分野も含めた幅広い研究者コミュニティの議論と大筋の合意形成が必要である。

○ 学術分科会では、研究分野毎の分野別委員会等において、当該分野における学術的意義、プロジェクトの必要性・緊急性や経費の見積もり、当該研究分野及び関連分野全体に対する公財政支出の影響の見通し等について、審議を行う。その上で、学術分科会として、学術研究全体の状況や国際的な動向等を踏まえ、プロジェクト推進のために公費を投入する妥当性を審議することが適当である。

○ なお、大型プロジェクトの推進やその評価については、日本学術会議においても議論が進められているところであり、今後国において更に具体的な手続きを定める際には、留意する必要がある。

(大型プロジェクトの評価)

○ このような意思決定を経て、国としてプロジェクトを推進する段階においては、公財政支出の妥当性について、他分野の研究者や社会一般に対する説明責任を十分に果たし、理解を得る必要がある。現在推進している大型プロジェクトに対する評価と同様に、プロジェクトの進捗状況や成果について定期的に厳格な評価を実施し、評価結果をもとにプロジェクトの継続や中止、改善等の措置をとるとともに、評価結果を積極的に公表・発信することが重要である。

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研究振興局振興企画課学術企画室

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