資料1-1_ 学術研究の推移について(審議経過報告)(案)

 はじめに

 

  第5期科学技術・学術審議会学術分科会は、平成21年2月以降、学術研究を巡る諸課題について審議を重ねてきた。平成21年11月12日には、第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめを行い、科学技術・学術審議会基本計画特別委員会や総合科学技術会議における検討に活かしたところである。また、各部会等における審議結果を、「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)」(平成21年7月31日)、「科学研究費補助金に関し当面講ずべき措置について(報告)」(平成22年7月27日)、「大学共同利用機関法人及び大学共同利用機関の今後の在り方について(審議経過報告)」(平成22年8月27日)、「学術研究の大型プロジェクトの推進について(審議のまとめ)」(平成22年10月27日)、「大学図書館の整備について(審議のまとめ)」(平成22年12月)として、とりまとめたところである。

  さらに、平成22年9月以降は、それまでの分科会や部会の議論・報告等も踏まえながら、これからの学術研究の在り方や振興方策全般について更に審議を進め、今般、その審議結果を、第5期科学技術・学術審議会学術分科会の審議経過報告としてとりまとめた。

    現在、政府全体として、来年度からの5年間の第4期科学技術基本計画の策定をはじめとする科学技術の推進や、10年後の成果目標を掲げた「新成長戦略」の実施等の我が国の成長・発展のための取組が行われているが、これまで我が国は、学術の探究を通して新しい知を生み出し、それに基づく応用・技術を通じて今日の位置を築いたのである。  

    平成22年には2名の日本人がノーベル化学賞を受賞し、我が国の学術研究の成果を国内外に示すのみならず、国民全体にとって大きな誇りと励みになったところであり、我が国が科学技術の力で世界をリードし成長・発展を遂げるには、その源泉たる学術研究の振興が不可欠である。

  学術研究は独創的な成果を上げ高い評価を得るまでには長い時間を要するものであるが、研究者の若い頃からの心血を注いだ研究の成果は新しい価値を生み出し、人間の可能性を拡大して、社会・経済  ・文化に広く大きなインパクトを与えるものであり、人文学・社会科学を含め学術研究の意義を改めて認識し、社会全体でその振興に取り組むことが必要である。

  このような認識の下、本審議経過報告では、学術研究の意義・必要性等を整理した上で、今後の学術研究の振興の方向性や具体的な振興方策をとりまとめている。  

   本審議経過報告を踏まえ、国においては学術研究の基盤的なシステムの充実をはじめとして我が国全体の学術研究の振興に取り組むとともに、各大学等においてはその主体性や独自性を発揮しつつ、それぞれ学術研究の推進に向けた取組を充実することを求めたい。

 

第1章 学術研究の現状・課題等と目指すべき方向

1.学術研究の意義、特性等

(1)学術とは

  •    学術は、英語では“arts and science”に対応する言葉であり、西欧古代以来の自由学芸と近代以降に大きな発展を遂げた諸科学を包摂する概念である。
  •    我が国において、「学術」という用語は、明治19年の帝国大学令の制定により大学制度が創設されて以来、学問全体を包括的に捉えた概念として定着しており、教育基本法や学校教育法等の現行法制においても、大学の目的規定等において用いられている。
  •    学術は、真理の探究という人間の基本的な知的欲求に根ざし、これを自主的・自律的に追求する研究者の自由な発想と研究意欲を源泉とした知的創造活動とその所産としての知識・方法の体系であり、その対象は人間の知的探究心の及ぶものすべてにわたるものである。
  •    学術の振興は、「学術」自体の価値を認めて高めることを目指すものであり、研究者の自主性・自律性の尊重や発揮を振興の基本とするものである  。学術はすべての学問分野にわたる知識体系とそれを実際に応用するための研究活動の総称であり、学術の振興は、科学技術の原動力として、社会の諸活動の基盤となる知の蓄積や新たな知を生み出し、人類社会の発展に貢献するものである。

(2)学術研究の意義、必要性

  •    学術研究は、人々の知的探究心を満たし、それ自体、知的・文化的価値を有するものとして、文化の発展や文明の構築の基盤となるものである。人類は、学術研究を通して新たな知を生み出し、それに基づく応用・技術により、生活の質を向上させ、今日の社会と文明を構築してきた。また、人文学・社会科学における人間の在り方の探究等をはじめ幅広い分野にわたる多様な知の創出により、人間の精神生活の充実も含めた文化の発展や国の豊かさを構築してきた。
  •    また、学術研究は、人文学・社会科学から自然科学まで幅広い分野において、基礎研究から実用志向の研究まで幅広く包含しており、新たな知の創造と幅広い知の体系化により、科学技術の推進や社会・国家の発展の原動力となるものである。すなわち、その成果により、新たな価値が創造され、人間のもつ可能性が拡大するとともに、生活習慣や社会規範への反映、産業活動における活用・展開等を通じて、我が国の国際競争力や国力を高めるものである。さらに、独創的・先端的な研究成果は、革新的技術等のブレークスルーやイノベーションを創出し、社会・経済の変革や成長をもたらすものである。
  •    学術研究に国境はなく、その研究成果は人類共通の知的資産として蓄積され、人類全体への貢献が期待されるものである。このため、我が国の学術研究環境を国内外に開かれた世界的に魅力あるものにし、国際的な連携協力や共同研究等を通じて人類全体の英知を生み出すことや、そのために必要な人材を輩出することは、先進国たる我が国が果たすべき国際的な責務でもある。
  •    学術研究の推進を基盤として、社会・経済・文化の発展を図りつつ、世界の知を先導し、人類社会の幸福と持続的発展のための課題解決に大きな役割を果たしていくことが、国際社会における我が国の存在感を高めることになる。このため、我が国の発展の基盤として、また国際社会への貢献として、国が中心になって学術研究の振興に努めることが必要である。

(3)学術研究の特性

  •    学術研究は、研究者の知的探究心を源泉に行われるものであり、研究者の長期の試行錯誤や多様な探究活動の積み重ねを通じて、社会・経済・文化の発展の基盤となる重厚な知の蓄積や独創的な新たな知が生み出されるものである。         
  •    このため、研究者の自主性と研究の多様性を尊重し、人文学・社会科学から自然科学までの学問の全分野にわたる均衡のとれた研究体制を確立して、知的資産の形成・承継を図るとともに、その成果を社会全体で共有することは、学術研究の振興にあたって留意すべき重要な原則である。
  •    このような学術研究の中心となるのは、学問の自由に基づく研究者の自主性の尊重等を基本理念とする大学及び大学共同利用機関(以下「大学等」という。)である。学術研究の振興においては、研究活動の遂行を通じて大学教育(大学院教育を含む。以下、同じ。)や若手研究者の養成が行われることが不可欠であり、大学等における教育機能と研究機能との有機的な連携と総合的な発展が必要である。

2.学術研究を巡る現状と課題

(1)国際的な研究活動の活性化の中での、我が国の存在感の発揮

  •    米国の競争力強化法やEUのリスボン戦略等による若手研究者への支援、ハイリスク研究への重点投資等の取組をはじめとして、現在、各国が、他国に先駆けて、自国の研究者、研究機関による経済的・社会的に価値のある独創的・先端的な知の創出を求める取組を戦略的に推進しており、知の国際競争が激化している。このため、国家戦略としていかに研究を推進し、価値ある独創的・先端的な知を創出していくかが各国政府の重要課題となっている。  
  •    グローバル化が進展する中、各国の優れた研究者は、より良い研究を進めるために国境を越えて大学等を移動したり、国際規模での研究活動を活発に進めており、地球温暖化をはじめとする人類の直面する世界規模の課題に対して科学者が国際的に協調して解決を目指す取組も進んでいる。
  •    また、知の国際競争が激化し研究の国際化が進む中、研究活動のアウトプットである世界の論文量は、一貫して増加傾向にあり、研究活動自体が単一国の活動から複数国の絡む共同活動へと様相を変化させている。

  •    このような中、我が国が、今後とも国際社会から信頼と尊敬を得られる国家として存在感を発揮するためには、世界の知を先導し、人類の持続的発展に貢献していく必要がある。その際、知の「国際競争力」を高め、イノベーションにつながる新たな価値を生み出すという視点と、知の「国際協調」を進め、人類の発展に貢献する知の創出に重要な役割を果たすという視点が重要となっている。
  •    このため、学術研究を巡る国際的な潮流等を踏まえ、学術研究の意義や成果を再認識した上で、長期的な視点や明確なビジョンを持って学術研究を推進していくとともに、国際社会においてイニシアチブを発揮できる学術研究体制を整備していくことが必要である。

(2)国際的存在感を発揮するための学術研究環境の課題

<1> 学術研究の基盤的なシステムの整備

  •    我が国の学術研究の質の向上とそのために必要な資源を確保するためには、基盤的なシステムの整備・充実など学術研究の推進のための改善を不断に図ることが必要である。
  •    各国の研究開発投資が増加傾向にある中、我が国の研究開発投資も増加傾向にあるものの、その伸びは急激に増加しているアメリカや中国に遠く及ばず、第3期科学技術基本計画に掲げられた政府研究開発投資の目標の達成は困難な状況にある。
  •    また、我が国の高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比はOECD加盟国28か国中27位に止まるとともに、国立大学法人運営費交付金、施設整備費補助金、私学助成等の基盤的経費は減少傾向にあり、各大学等における学術研究の推進にあたって大きな課題となっている。
  •    このような中、大学部門の研究開発費について、物価を考慮した実質額の年平均成長率を見ると、中国、韓国、イギリス、ドイツが、1990年代より2000年代の成長率を伸ばす一方、我が国は、2000年代の方が低くなっている。また、大学の内部使用研究開発費の政府負担割合は、ドイツ、フランスが80%以上、アメリカ、イギリス、韓国は70%程度を占めている一方、我が国は約50%となっている。
  •    科学研究費補助金(以下「科研費」という。)については、近年の新規採択率の状況を見ると、平成8年度までは20%台後半であったが、平成9年度以降は20%台前半でほぼ横ばいと欧米諸国より低い状況になっており、総合科学技術会議が30%を目安として示す中で、新規採択率の低迷が問題となっている。
  •    また、近年、研究の進展や高度化に伴い、研究施設・設備の大型化やその運用に係る経費が膨大になる一方で、安定的・継続的な研究活動を支える基盤的経費が削減されており、研究施設・設備の維持に必要な費用の負担が大学等の財政状況を圧迫している。
  •    我が国においては、大学等に対する基盤的経費の措置や科研費等の競争的資金による研究助成とともに、研究施設・設備、研究情報基盤等の学術研究インフラの維持・向上に努めてきたところである。しかしながら、上記のような状況の中で学術研究の基盤が脆弱化しつつあることが危惧されることから、学術研究の基盤的なシステムの整備・充実が急務の課題となっている。

<2> 研究者の研究環境の改善

  •    近年、大学等においては、管理運営に関する活動時間が増大しており、研究分野を問わず、研究に専念できる時間が十分に確保できないなどの課題が指摘されている。
  •    また、我が国の研究者一人当たりの研究支援者数は、主要国に比べ、低水準となっている。特に、日本の大学部門の研究支援者はドイツ、フランスの約半分程度であり、我が国の他の組織に比べても低水準である。なお、日本の大学部門の研究支援者数で増加しているのは「研究事務・その他関係者」であり、「技能者」や「研究補助者」は横ばいに推移して  いる。この点を含め、研究者が研究に集中して取り組める環境や研究支援体制の改善が課題である。

<3> 学術研究職の魅力の確保

  •    我が国の学術研究が持続的に発展していくためには、国際的な水準で研究活動を展開できる優れた研究者を継続的に一定規模確保していくことが必要であるが、  博士課程に入学する者の数は多くの分野において減少傾向にある。
  •    また、ポストドクターは約18,000人に達し、その半数以上が競争的資金等の外部資金により雇用されている状況にある。ポストドクターとしての研究活動を経て、大学教員をはじめ研究開発関連職にキャリアアップするケースがある一方で、博士課程修了後5年経過した時点においても依然として一定の者がポストドクターに留まっていたり、非常勤や任期付きといった不安定な状況に置かれたりしているケースも多い。さらに、各大学では博士号取得者の増加に比してアカデミックポストにおける新規採用数が伸び悩み、大学教員になる道が狭くなっている。
  •    このような中、優秀な学生であっても、キャリアパスが不透明であることに対する不安や、安定的な研究職を得るまでの期間の長さ、大学院へ進学する上での経済的負担等により、大学等で研究の道に進むことを躊躇する傾向が生じており、経済的支援の充実とともに、魅力あるキャリアパスの構築とその明確化・多様化が課題となっている。
  •    さらに、本来的には、学生が真理の探究や未知なるものへの挑戦といった研究意欲を高めるためにも、研究者の研究環境や研究活動を魅力あるものにしていくことが必要である。

<4> 学術研究における国際化の推進

  •    国際的な研究活動の活性化に伴う研究者の国境を越えた移動等、世界規模で「頭脳循環」が進展する中で、学術研究における国際化を推進するためには、世界に通用する人材を育成・確保することが欠かせない。
  •    若手研究者の資質向上やキャリア形成のみならず、我が国の学術研究を国際的に通用する水準に保つためにも、大学院生も含め若手研究者の国際的な活躍を促進する環境の整備を行うとともに、国外から優秀な研究者等を獲得することが必要である。
  •    さらに、我が国の学術研究環境を国際的に魅力あるものにし、世界中の優れた人材が我が国に集い研鑽を積んで、人類社会の発展のために世界で活躍していくことも必要である。

<5> 学術研究における社会との関わり

  •    学術研究はその進展につれて専門化・細分化する傾向にあり、社会が抱える複雑な諸問題を一つの分野では扱いきれないことなどから、社会の諸問題の解決に向けた方向性の提示等、人文学・社会科学から自然科学に至るまで、従来の学問分野の枠を超えた様々な分野の研究者の共同作業による学術研究の成果の社会への還元が課題である。なお、このような課題解決にあたっては、新たな学問分野の構築も求められる。
  •    一方、OECDが高校1年段階の生徒を対象に行った調査によれば、我が国は「科学を学ぶことの楽しさ」、「科学的な課題に対応できる自信」、「科学に関わる活動の程度」等に加えて、「科学の身近さ・有用さ」についての意識もOECD平均を大きく下回っており、次代を担う若者をはじめ、科学に対する社会の認識を高めることが課題となっている。
  •    学術政策の推進にあたっては、学術研究に対する国民各層の信頼と支持が得られることが基本であり、学術研究の意義や、成果を得るまでの長期の探究活動の積み重ねの必要性等について、国民の理解を高め、社会全体で学術研究の振興を図ることが必要である。 

3.今後の学術研究の振興の方向性

  •    我が国は文化国家として独創性や創造性により世界を先導してきたところであり、今後とも持続的に発展し、国際社会から信頼と尊敬を得られる国であるためには、独創的・先端的な知を創出し、人類共通の知的資産の蓄積において先導的な役割を果たしていかなければならない。
  •    そのためには、研究者の自主性と研究の多様性を尊重しつつ、多様な研究分野を幅広く支援することが欠かせない。研究者の自主性と研究の多様性の尊重は、国家の知的基盤の形成の基盤として、社会や時代の変化に関わらず学術研究の振興にあたって不可欠の前提・原則である。 

  •    このため、多くの大学等における研究者の多様な研究活動が活性化・高度化され、我が国全体の学術研究の層に厚み  をもたせることが可能となるよう、学術研究の基盤的なシステムを充実するための取組を進めることは、学術研究の振興に不可欠な国の役割である。
  •    特に、近年指摘されている研究者の研究活動時間の減少は、独創的な研究成果の創出等の研究面のみならず若手研究者の育成等の教育面にも影響を与えるものであり、研究者の視点に立った研究環境の構築や研究活動の推進こそが、学術研究の振興、さらには国家発展の原点であることを改めて認識することが重要である。
  •    さらに、我が国が将来にわたり世界の知をリードし発展し続けるためには、若手研究者の育成と活躍が必須の要件である。優秀な学生や若手研究者が将来の見通しをもって国内外で研鑽を積むことは、我が国の学術研究の発展の源泉であり、そのためには、アカデミックポストをはじめとする若手研究者のキャリアパスの構築とその明確化・多様化が不可欠である。
  •    その上で、我が国の学術研究が国際的な存在感を発揮し発展していくためには、我が国の知を結集して飛躍的な発展につなげていくことが必要であり、戦略的な視点をもって学術研究の振興を図ることも重要な課題となっている。このことは、大型プロジェクトの推進等をはじめとした学術研究自体の発展のみならず、学術研究の推進・貢献による社会の発展のためにも必要である。このため、国内外の動向も踏まえつつ、学術研究に係る方向性を示すような機能を充実するための学術研究体制の在り方についても検討を行うことが求められている。
  •    また、知の国際競争が激化する中、学術研究に係る国際的な競争・協調についても戦略的な取組が必要である。特に、研究者自らが、若い時期に、狭い殻に閉じこもることなく、様々な研究環境に身を置き、世界中の研究機関・組織の研究者と積極的に交流しながら自己開発・自己改革に努め、独創性を磨く機会を充実することが重要である。また、各国は優秀な人材の獲得をめぐって国際的な競争を繰り広げており、国外から優秀な研究者、学生を獲得することも必要である。
  •    なお、学術研究の振興に取り組むためには、我が国全体の資源が限られる中で、学術研究の現状や課題を踏まえた取組の改善や改革を図り、その必要性について社会の理解を得ていくことも求められる。

第2章 学術研究の振興方策

1.学術研究体制の整備

(1)我が国の学術研究体制の目指すべき方向

  •    我が国の学術研究は、大学及び大学の枠を越えて共同研究を行う大学共同利用機関を中心に進められてきた。また、大学等において行われる学術研究に対する支援を独立行政法人日本学術振興会(以下「日本学術振興会」という。)をはじめとする公的研究助成機関や民間学術研究法人が行ってきたほか、科学者の代表機関である日本学術会議、学術研究に係る自主的な取組を行う学会や大学関係団体等が、学術研究の振興に携わってきた。           
  •    学術研究の振興に当たっては、このような学術関係機関の機能が最大限発揮されるよう、学術研究体制が整備されることが重要である。
  •    まず、学術研究体制の中心たる大学等においては、我が国全体として学術研究の多様性を確保していくために、各大学等の学術研究へのスタンスの明確化や個性・特色の発揮等が求められる。教育面においては各大学等の個性・特色に応じた機能別分化の取組が進む中で、教育と研究の一体的推進という大学等の特性を活かし、研究面においても機能別分化の取組を学術研究の振興に活かしていくことが必要である。
  •    さらに、多様な研究活動は研究者間の交流を通じて生まれるものであることから、新たな研究者コミュニティの育成も含め、研究のネットワークの形成を推進することも必要である。
  •    その上で、戦略的な視点をもって学術研究の振興を図るためには、研究者個人の研究や組織的に行われている研究を結集して我が国の知の発展を図ることも必要である。このため、国内外の学術研究の動向を踏まえつつ、重点的に推進すべき研究分野・領域を設定するとともに、大学等や学問分野の枠を超えて研究を推進できるような体制を、関係機関の機能及び連携の強化により構築することが求められる。
  •    なお、これらの方向性に基づき学術研究体制が整備される前提として、後述する学術研究への財政的支援や研究基盤の充実等により、学術研究の「層の厚さ」や「裾野の広がり」を確保し、我が国の学術研究の全体的な質を高めていくことが不可欠であることに留意しなければならない。
  •    また、学術研究体制の整備の在り方について、透明性を確保しながら、社会の理解や支持を得ていくことも必要である。

(2)大学における学術研究の在り方

  •    国立大学の法人化をはじめとする大学を巡る環境の変化の中で各大学は当面の課題への対応を進めてきたが、さらに、学術研究の推進による社会の発展への寄与という大学の使命を踏まえた大局的な議論や実践が求められている。各大学においては、それぞれの主体性や独自性を発揮して、これからの時代を見据えた取組や改革を社会の理解と支援を得ながら推進していくことが必要である。      
  •    その上で、今後の大学における学術研究については、各大学がそれぞれの強みを活かして、限られた資源を集中的、効果的に投入し、将来にわたりその個性・特色が発揮されることにより、我が国全体として学術研究の多様性を確保することが求められる。特に、各大学が、既に多くの大学で取り組まれている研究分野だけでなく、大学の個性・特色が発揮できる分野や課題について研究を深化させていくことが期待される。
  •    重点的に取り組む分野や課題の設定は各大学の自主的な判断に基づくものであるが、各大学の状況や方針について大学間で共有するとともに、分野毎のネットワークを形成する等、我が国全体としての学術研究の多様性の確保や大学間の連携協力が促進されるような取組を検討することが必要である。また、このような取組に、後述する日本学術振興会の国内外の学術研究動向の調査分析が活かされることも期待される。
  •    なお、大学における学術研究には様々な特色や形態があり、世界トップレベルにある研究を推進・強化するほか、我が国独自の研究や小規模ながらも独創性のある萌芽的な研究を世界レベルのものに発展させることも、我が国の学術研究が国際的存在感を発揮するためには不可欠であることに留意することが必要である。
  •    また、各大学が自らの将来像に向かって持続的に個性・特色を発揮するためには、専門分野の特性等も踏まえて教員の役割分担の見直しを図るとともに、教員の年齢構成等の各大学の状況や課題に応じて、若手研究者の活躍を促進するための組織運営の在り方等についても十分な検討を行うことが必要である。
  •    さらに、各大学の学術研究が個性・特色を発揮するためには、教育機能との連携強化も必要であり、大学院教育において広範なコースワークや研究室のローテーション等を進めることにより、個々の研究室の枠を超えた新たな研究領域の開拓につなげていくことも期待される。        
  •    なお、各大学の機能別分化の取組を学術研究の振興に活かすためには、各大学の特色や研究分野の特性に応じた評価の在り方やファンディング・システムの構築の検討も必要である。

(3)大学共同利用機関の在り方

  •    大学共同利用機関は、、個々の大学では整備・維持が困難な最先端の大型装置や大量の学術データ等を全国の研究者に提供し、個々の大学の枠を越えた共同研究を推進する我が国独自の研究機関であり、大学における学術研究の発展に大きな貢献をしてきた。
  •    大学においては、個々の大学では大型の施設・設備の整備が困難になっていることや、中長期的な視点から新たな研究の芽を伸ばす仕組みの充実が求められるなどの研究環境の変化が生じている。また、国立大学の法人化以降大学間の競争が強まる傾向がある中で、所属機関の枠を越えて研究者が連携するシステムを整備することも重要になってきている。
  •    また、課題設定型の研究開発を行う研究開発法人については、国家的に重要な研究開発等を確実に実施するための新たな制度(国立研究開発機関(仮称)制度)の創設を検討することとされている。

  •    こうした中で、国立大学法人法体系の下、研究者の自主性の尊重等を基本理念とする大学共同利用機関の大学セクターにおける存在意義を改めて認識することが必要となっている。
  •    以上を踏まえ、引き続き、「国公私立全ての大学の共同利用の研究所」として、大学共同利用機関の機能の一層の強化に向けた取組を進めていくことが重要である。
  •    具体的には、我が国の学術研究全体に貢献する中核的な機関として、卓越した世界的研究拠点機能を強化し、共同研究の推進や、新たな学問領域の創成に向けた戦略的な取組を促進することが必要である。こうした取組の推進にあたっては、日本学術振興会の学術研究動向の調査分析機能を活用することも有効であると考えられる。    

       また、大学の研究者のために共同利用・共同研究に供する研究資源の着実な整備を進めていくほか、大学や大学の研究組織とのネットワークの形成、若手研究者育成などの面で、大学との組織的な連携を強化していくことが必要である。

       特に教育面においては、大学共同利用機関は、世界トップレベルの研究者や優れた施設設備などの魅力的な環境を活かして、総合研究大学院大学の基盤機関として若手研究者の育成に大きく貢献している。この仕組みは、世界に類例のない特色あるものであり、この制度を一層活性化し、優れた人材の育成を図るため、より積極的な広報活動の展開や大学との連携強化等の取組を進める必要がある。  

  •    なお、学問分野や研究活動の多様化をはじめとする学術研究の進展等に適切に対応した学術研究体制を構築していくため、大学共同利用機関の機構法人の在り方や新たな学問領域の創成に対応した適切な組織の在り方等については、各大学共同利用機関法人や研究者コミュニティの主体的な検討を踏まえつつ、引き続き検討していくことが必要である。

(4)学術関係機関の在り方

(日本学術振興会)

  •    日本学術振興会は、科研費の審査・交付等の学術研究の助成、特別研究員等の研究者養成、外国人研究者招聘や諸外国の学術振興機関との交流等の国際交流の促進、学術の振興に関する調査研究等を実施する、我が国を代表する学術研究の総合的な支援機関であり、研究者の自主性・自律性の尊重とピア・レビューを基本とした研究者中心の運営を進めてきた。今後とも、学術研究の特性を踏まえた支援機能や運営体制を一層強化することが求められる。
  •    特に、我が国全体として学術研究の戦略的取組を推進するためには、我が国の各学問分野の国際的な状況把握も含めた、国内外の学術研究動向の調査分析機能を強化することが不可欠である。現在でも、日本学術振興会の学術システム研究センターにおいて学術研究動向の調査等を行い、科研費等に係る事業の改善に活かしているところであるが、さらに、ファンディング機能の充実や、国や大学等における学術研究の方向性や重点分野の設定等の検討・取組への活用を目指し、一層の充実を図ることが求められる。
  •    そのためには、PD(プログラム・ディレクター)・PO(プログラム・オフィサー)の職務に対する適切な評価やキャリアパスの確立、大学等の研究現場との連携協力も含めた、PD・PO制度の機能強化をはじめ、学術システム研究センターの体制の充実について検討することが必要である。その際、諸外国の制度も参考にしつつ、我が国の実情や特性に即した検討が行われることが望まれる。

(日本学術会議)

  •    日本学術会議は、日本学術会議法に基づき、科学が文化国家の基礎であるという認識に立って科学者の総意の下に学術の進歩に寄与することを使命としており、  科学者の代表機関として、学術研究の在り方についても、研究者コミュニティによる専門的な検討に基づく提言等を行ってきた。後述する大型プロジェクトのロードマップの策定にあたっては、日本学術会議において、研究者コミュニティに対する大型施設計画・大規模研究計画の調査や各計画の評価等を実施し、「マスタープラン」を策定したところである。
  •    大型プロジェクトのような戦略的推進が求められる取組を含め、学術研究の振興にあたっては、研究者コミュニティの意見の集約を図った上でその推進に取り組むことが重要であり、日本学術会議においては、今後とも、研究者コミュニティの意思を集約し、社会に発信していくとともに、文部科学省をはじめとする関係機関との連携を推進していくことが期待される。

(学会)

  •    学会は、研究者による研究成果の発表や評価、研究者間あるいは国内外の関係団体との連携の場として重要な役割を担っており、その機能強化に向けた取組を進めることが期待される。特に、関連分野の学会間の連携の強化や諸外国の研究者との交流も含め、様々な研究機関の研究者のネットワーク形成の推進を図ることが期待される。

(5)研究開発独法との連携の在り方

  •    研究開発独立行政法人は、所管省庁の行政目的の下で、政策遂行に必要なもの、民間では実施困難なもの、具体的な技術的課題の解決のためのもの等、課題設定型の研究開発を行う組織である。
  •    一方、大学等の学術研究機関は、研究者の自由な発想を源泉とする真理の探究や価値創造を目指し、学問の自由に基づいた研究者の自主性の尊重等を基本理念とする組織である。
  •    課題設定型の研究体制と研究者の自由な発想を源泉とする学術研究体制が並存することは、多様な発想の確保や競争的環境の醸成に資するとともに、研究システム全体を重厚かつ重層的にするものであり、両者はそれぞれの役割や特性を踏まえて整備されることが必要である。
  •    一方、いずれの体制に属する機関についても、関連分野における共同研究や人材育成等について、機関間の連携・協力を図ることは、各機関の目的をより効果的・効率的に達成するためにも有効と考えられる。
  •    そのためには、相互理解の下にそれぞれの機関の目的が達成できるよう、情報交換、施設設備の共同利用、研究者交流、共同研究の推進等を図ることにより、双方の研究に刺激を受けながら関連研究分野の発展を目指すことが望まれる。      

2.基盤的経費の確実な措置と科研費等の充実

(学術研究への財政支援の在り方)

  •    学術研究の推進に当たっては、多様な発想に基づく研究活動を担保するための基盤整備と継続的支援を行うとともに、卓越した研究に対しては特別な支援を行うことが重要である。このため、国公私立を通じて、大学等における学術研究については、安定的・継続的な研究活動を支えるために十分な基盤的経費と、優れた研究に対して個別に助成する競争的資金によるデュアルサポートシステムによって支えていくことが求められる。  

(基盤的経費の確実な措置)

  •    今後とも我が国の学術研究を持続的に発展させ、世界の学術水準に伍していくためには、まず、我が国全体の研究の裾野を広げ、研究活動を安定的・継続的に支えることが必要である。そのためには、短期的な投資効果や効率性ばかりを追求するのではなく、資源配分の衡平性や研究の多様性という点も重視し、意欲のある研究者に十分な研究の機会が与えられることが必要である。大学等におけるより多くの様々な研究活動が高度化・活性化され、研究の層に厚みをもたせるためには、各大学等の基盤強化に向けた支援の充実が欠かせない。  
  •    いかに優れた研究者であっても、研究遂行に不可欠な研究基盤が脆弱な状況では、本来有する能力の発揮を期待することは難しい。また、競争的資金は研究の芽を格段に発展させる役割を担っているが、そのために必要な研究の芽を育成するためには基盤的経費が不可欠である。このため、大学等における安定的・継続的な研究活動を支える基盤的経費を国が確実に措置することにより、研究の多様な芽を育むことが必要である。

(科研費の在り方)

  •    本来、基盤的経費と競争的資金は性質の異なる資金であり、基盤的経費が削減された部分を競争的資金で充当するというような関係ではない。大学等において多様な学術研究を推進するためには、基盤的経費により教育研究環境が確実に整備されることが必要であり、その上でこそ、科研費等の競争的資金が活かされ、優れた研究活動が担保される。
  •    しかしながら、現実には、基盤的経費が減少傾向にある中で、大学等における研究の推進に当たって、科研費等の競争的資金がより大きな役割を担うようになっている。とりわけ、科研費は、我が国の学術研究を支えてきた最も重要な研究費であるが、近年、応募が増え続ける一方で、その増額は十分なものではない。科研費は、大学等における研究を支える不可欠のものであり、その抜本的な拡充を図ることが必要である。

  •    科研費は、人文学・社会科学から自然科学までのあらゆる分野にわたって研究者の自由な発想に基づく学術研究を支援する重要な資金である。特に、大学等における学術研究の振興にとって科研費が果たすべき役割は極めて大きい。
  •    科研費による基礎的な研究の成果を基に、特定の政策目的に基づく研究や研究成果を生かして具体的な製品開発に結びつける研究が、様々な競争的資金による支援を受けながら展開されており、科研費は、様々な研究活動の基盤を支えるものとなっている。さらに、科研費は、若手研究者の育成や、他の競争的資金のモデルとして我が国の競争的資金全体の質の向上に重要な役割を果たしており、科研費の充実によって、我が国の学術研究がさらに進展し、我が国の社会・経済・文化の大きな発展がもたらされることが期待される。   

  •    科研費の充実を考えるにあたっては、研究者の優れた研究に対して切れ目のない支援を行う観点などから特に採択率を重視し、新規採択率30%の確保を目指していくべきであると同時に、1件当たりの平均配分額の向上を図ることが必要である。
  •    また、経験の少ない若手研究者には、研究活動を始める段階で研究の機会を幅広く与えるとともに、研究者としてのキャリアを積み、優れた研究者を育成することに資するような研究助成の枠組みを構築していくことが重要である。このため、特に「若手研究」について、配分額が減少しないよう配慮しつつ新規採択率30%を確保するとともに、「基盤研究」についても、採択率の向上と配分額の充実を図る必要がある。    

  •    科研費の間接経費については、平成13年度の導入以降、順次措置する研究種目を拡大し、現在は一部の種目を除き、ほぼ全ての種目について措置してきたところである。間接経費については、全学的な研究環境の整備、女性や外国人研究者への各種支援策、研究成果の社会還元の推進、研究費の適切な管理、独創的な研究の推進など、研究機関の状況に応じて様々な形で有効に活用されている。このような間接経費の措置によって、科研費を獲得した研究者の研究環境の改善に加え、研究機関としての機能の向上や研究機関間の競争的環境の醸成が図られ、我が国全体の研究の質の向上や活性化にも役立っているところである。今後とも間接経費の拡充を図るとともに、各研究現場においては、研究環境の改善や研究機関の機能の向上等に間接経費をより一層効果的に活用することが求められる。
  •    なお、本分科会が昨年11月にとりまとめた「第4期科学技術基本計画の策定に向けた意見のまとめ」では、科研費への応募資格を有する研究者数の増加等を考慮しつつ、新規採択率30%の確保と間接経費30%の確実な措置が達成された場合の科研費の規模を計算し、第4期科学技術基本計画の最終年度に当たると想定される平成27年度時点の所要額は約3,500億円から約4,100億円と推計しているところである。
  •    さらに、研究費の拡充とともに、予算の効率的・効果的な使用と研究アクティビティの最大化を図ることが重要である。我が国においては、複数年にわたる研究計画を予算の単年度執行の原則の下で実施しているため、特に年度の替わり目における研究活動のアクティビティの低下をもたらす要因となっている。また、学術研究は、その進展等に伴い、当初予定した年度ごとの研究計画を自ら変更する必要が生じる場合も少なくない。現行の研究費の翌年度への繰越制度はあくまで避けがたい要因による繰越を例外的に認めるものであって単年度執行の原則の枠内の弾力化にとどまっており、かつ数次にわたる手続きが求められるものである。さらに、科研費は多くの研究者の研究を支える制度であるため、毎年の応募状況等の変動に関わらず安定的な研究費配分を行うことも重要である。
  •    このような観点から、平成21年に日本学術振興会に設置された「先端研究助成基金」のように、科研費についても、基金化して研究費の複数年度執行を可能とする仕組みを構築することができれば、多大な効果が期待されることから、その実現が強く求められる。

  •    なお、日本学術振興会は、科研費の配分審査等において重要な役割を果たしており、今後も、科研費の審査、交付等業務の文部科学省からの移管を進めることが適当である。移管に当たっては、日本学術振興会の事務体制を整備するとともに、学術システム研究センターの調査研究機能の一層の強化を図ることも必要である。

(大学における配分システムの改善)

  •    上述のように、基盤的経費の確実な措置、科研費の充実等、国公私立を通じて、大学等における学術研究への財政支援を抜本的に拡充する必要がある。その上で、支援規模の拡大のみならず、特に研究費に関しては、人文学・社会科学から自然科学に至るまで意欲ある研究者に多様な学術研究に取り組める機会が与えられることが重要である。
  •    このため、大学内での研究経費の配分については、研究分野の特性や研究者の研究活動の状況等を考慮するよう、配分システムの改善を図ることが期待される。その際、研究分野の特性等による研究手法の相違を踏まえた研究経費の措置や研究基盤の整備等を可能とするような取組が求められる。

3.研究者の研究活動の推進のための環境整備

(1)研究者の研究環境の改善と研究支援体制の強化

(研究に集中して取り組める環境の確保)

  •    現在、多くの研究者は、大学等の管理運営や様々な評価業務に多くの時間をとられ、十分な研究時間を確保できない状態にある。研究者を取り巻くこのような環境の改善を早急に図らなければ、研究活動の停滞につながりかねない。このため、大学等の管理運営等に要する研究者の負担を軽減し、研究に専念できるよう手厚い支援体制を構築して、研究活動の活発化に取り組む必要がある。
  •    研究者が研究に集中して取り組める環境の確保のためには、まずは、それぞれの大学等において、教員の業務等の改善や見直しが求められる。その際、研究や教育に係る業務のバランスを確保するとともに、個別の状況に応じて研究以外の業務を軽減することも考えられる。例えば、各機関の実情に応じた判断に基づき、特定の大型研究プロジェクトや共同研究に参画する教員には一定期間、大学運営等に係る負担を軽減することや、研究に専念させる研究専従教員とすることが望まれる。
  •    また、サバティカル・リーブの導入や、あるいは既に導入している大学等においてはより短期間でサバティカル・リーブを取得できるなどの配慮を行うことが期待される。さらに、大学等においては、他機関においてサバティカル・リーブを取得した研究者を受け入れて、思索や議論を深め、研究に専念させるシステムを導入することが期待される。

  •    また、昨今、大学等の教育研究に対する評価に係る作業が膨大になって個々の研究者への負担も大きくなっていることが、研究時間を確保する上で障害になっているとの指摘もあり、より効果的かつ効率的な評価の実施が関係者に求められる。さらに、各種の競争的資金においては、研究者がより研究に専念できるような方向で、事務手続きの簡素化も含めた競争的資金全体のルールの見直しや、審査及び評価の在り方の改善が求められる。
  •    なお、ピア・レビューで行う大学等の教育研究に対する評価や競争的資金の審査・評価は、学術研究の発展において重要な役割を果たしていることから、こうした役割を担う研究者に対しては所属する大学等において適切な評価や処遇がなされることが期待される。

(研究支援体制の構築)

  •    研究者が研究に集中して取り組める環境を確保するためには、研究支援人材の業務や研究支援体制の多様化・高度化も必要である。このため、事務手続きの改善に有効な研究事務管理体制を確保した上で、研究装置の保守・運用・整備を担当するテクニシャンや、高度な研究関連業務の処理ができるリサーチ・アドミニストレーターの配置など、博士号取得者をはじめとする必要な経験と能力を有した人材による研究支援体制を確立することが必要である。その際、高度な能力を持ちながら研究の第一線を離れた人材をあらためて活用することも考えられる。国は、こうした研究支援人材の確保と資質向上のための取組を推進するとともに、各大学等においては、これらの人材の配置や適切な評価・処遇に努めることが必要である。
  •    また、研究プロジェクトへの参画を通じて将来の自立した研究者を養成するため、研究を担う博士課程(後期)の大学院生によるリサーチアシスタント(RA)の充実を図ることも必要である。その際、RAは、大学等との契約に基づく労働の対価として報酬を受け取ることとし、必要に応じて研究内容等に関する守秘義務を課すことで、共同研究についても知的財産の取扱いに配慮できる研究支援スタッフとして実質的に機能するようにすることも考えられる。

(2)大学等における研究基盤の充実

(研究施設・設備の整備)

  •    大学等の研究施設については、「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)に基づく取組や私学助成等を通じて、耐震化をはじめ老朽施設の再生や狭隘化への対応等を重点的に進めてきたが、経年25年以上の老朽施設が、国立大学等では保有面積の約58%、私立大学では保有面積の約48%存在するなど、依然として様々な課題を抱えている状況にある。このため、今後も、老朽施設の計画的な整備をはじめとして基本的条件の整備を図った上で、独創的・先端的な学術研究を推進するため、その基盤となる施設について、若手研究者や外国人研究者、留学生にとっても魅力ある教育研究拠点の形成を目指すという視点も取り入れつつ、教育研究のニーズ等を踏まえた施設の高度化・多様化といった質的向上を進めていくことが必要である。
  •    その際、国立大学や大学共同利用機関等の施設について、将来展望を明確にして計画的に整備を行うために、次期5か年間(平成23~27年度)の施設整備計画を策定するとともに、私学助成の充実を図り、大学における研究施設の維持・管理や計画的な整備に必要な財政措置を行うべきである。また、各地方公共団体においても、地域の研究基盤を充実するため、公立大学の研究施設の整備に必要な財政措置を行うことが望まれる。
  •    また、近年、研究開発の大規模化・複雑化に伴う設備の大型化・高度化や、基盤的経費の減少傾向の中にあって、研究設備の計画的な整備・更新や維持・管理に必要な経費の確保が困難になりつつあるが、世界最高水準の研究成果を持続的に生み出す重厚な研究基盤を長期的な視点に立って計画的に整備する必要があり、国は、研究設備の整備・更新や維持・管理に必要な経費を安定的・継続的に措置することが重要である。
  •    また、限られた資源の有効活用を図る観点から、研究設備の全国あるいは地域単位での共同利用や既存設備の再利用、競争的資金により整備した研究設備の有効活用・再利用等を進めていくことが必要である。このため、大学間連携等による研究設備の相互利用や再利用を効果的に行うための体制整備を進めるとともに、設備の保守・運用・整備等を行う技術職員を確保する等の方策を講じる必要がある。

(研究情報基盤の整備)

  •    今日、ネットワーク、コンピュータを駆使して様々な研究成果、データベース等を統合し新たな「知」を発見・形成・活用する「e-サイエンス」は、従来の理論、実験、計算(シミュレーション)と並ぶ新しい科学の方法論として、世界で急速に進展している。今後、我が国の学術研究をより強化し、研究分野や国・地域を超えた連携を推進していくためには、このような新たな科学の方法論としての「e-サイエンス」の推進に向けた取組の強化を図っていくことが必要であり、それを支える研究情報基盤として、大学間の連携を図りつつ、学術情報ネットワークや大学等におけるICT整備の充実・高度化、大学図書館の機能強化等及び学術コンテンツ等の電子化を含めた整備が不可欠である。  
  •    特に、高度化・多様化しながら増大していく学術情報に対するニーズに対応するため、大学等の学術研究や教育活動に必要な学術リソースを共有するための基盤としての学術情報ネットワークの高速化・高度化を図るなど、安定的かつ信頼性の高いネットワーク環境の更なる向上に向けた取組を着実に推進することが求められる。また、これらの取組と併せて、情報ネットワークの維持・運用等に必要な人材育成や人材確保に向けた取組を推進することが必要である。
  •    大学図書館においては、急速な電子化の進展や大学を巡る環境の変化により  、その果たすべき役割・機能も変化しており、大学の教育研究、学生の学習を支える重要な学術情報基盤としての戦略的な位置付けを明確化し、改めて学内外に向けてアピールしていくことが重要である。また、このような状況変化に適切に対応するために、大学図書館機能を効果的に発揮できる環境整備を図るとともに、専門性の変化を踏まえた大学図書館職員を育成・確保していくことが必要である。
  •    なお、近年、大学図書館における電子ジャーナルについて、利用可能な数や種類が大きく増加しており、価格の上昇とも相まって、経費が膨らみ、図書館資料費に占める割合も年々増加している状況である。このため、新たな契約形態やコンソーシアムによる交渉・契約の在り方の検討も含め、電子ジャーナルの効率的な整備を図るための柔軟で持続性のある対応を進めるべきである。
  •    さらに、学術研究の成果は人類にとって共通の知的資産であることから、その内容については、希望するすべての人がアクセスできるようにすることが必要である。したがって、オンラインにより無料で制約なく論文等にアクセスできる「オープンアクセス」を推進することが求められる。このため、知的生産物としての教育研究成果を電子化して保存・発信するための「学術機関リポジトリ」の構築をさらに充実し推進するなど大学等における情報発信を積極的に進めるための取組を一層進めることが必要である。
  •    その際、学生の研究活動の成果である学位論文の公開や情報発信を進めることも求められる。

  •    併せて、我が国の学会の国際的な情報発信力を強化するため、学術雑誌の電子化を一層推進するほか、学会が刊行する学術雑誌の国際競争力の強化に向けた取組を推進することが必要である。

(文献・資料、研究用材料等の体系的な整備)

  •    学術研究の過程で収集された、図書等の文献・資料、生物遺伝資源等の研究用材料等は、知的資産として物あるいは情報の形で蓄積されることになるが、それだけでは多くの研究者に活用される研究基盤とはなりえない。そのような研究基盤とするためには、整備に携わる研究支援者等を確保した上で、蓄積された知的資産が体系化され、それが広く供用可能とされている必要がある。
  •    このような観点から、大学図書館等の文献・資料の整備・充実を図ることが必要である。また、大学等のみならず、博物館(資料館を含む。)、美術館等も、学術的に貴重な文献・資料等を所蔵し、その調査・研究を行っている。それらを有効に共同利用して研究に取り組むことができるようにするため、関係機関が連携・協力することや、そのために必要な国の支援について検討すべきである。
  •    また、研究用材料やデータベースの体系的な整備を促進することも必要である。その際には、ヒト由来の試料や情報の収集に関する倫理上の問題を解決する必要があり、社会を構成する多くの人々がそれぞれもっている判断、評価、行為などの基準について社会的に整合を図るため、人文学や社会科学の視点を取り入れて対応することも期待される。

4.優れた研究者の育成・確保

(1)若手研究者の育成の取組の充実

(知識基盤社会を牽引する人材を育成する大学院の充実)

  •    大学等における学術研究の大きな特性は、教育と研究が一体化して行われていることにあり、優秀な若手研究者の育成は、大学・大学院の機能強化にかかっている。特に、大学院は、知識基盤社会において、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上においても、極めて重要な役割を果たしている。各国が優秀な人材の獲得をめぐって国際的な競争を繰り広げる中、研究意欲のある学生や研究者にとって魅力ある国際的に卓越した拠点としての大学院の整備が必要である。
  •    また、大学院教育に関し、我が国ではそれぞれの大学院の教育目的や学生に修得させるべき能力等の目標が必ずしも明確ではないとの指摘がある。修士課程・博士課程を問わず、目標をどこに置くかで、教育内容も整備すべき環境も異なってくる。このため、各課程の教育目的に応じて、目標を定め、専門分野の特性を踏まえた教育内容・方法の充実を図っていくことが重要である。その際には、基礎研究を行う研究者養成を目的として一貫した教育を行う課程や、産業界と連携した高度専門人材の養成を目的とした課程など、目的や目標に応じた柔軟かつ多様な教育システムを検討することも求められる。
  •    さらに、大学教員について、教育業績や教育能力の評価を充実し、人材確保や処遇への反映を図るとともに、教育・研究指導能力向上の取組との有機的連携等の工夫が求められる。

  •    学生が自らの専門性を高めつつ、俯瞰的な視野や新たな課題へ挑戦する力を得られるようにするためには、一人の学生に対する教育が必ずしも一専攻での取組にとどまることなく、必要に応じて、他の専攻はもとより、他の研究科・大学や研究機関との連携が図られることも重要である。このため、各大学において、異なる専門分野をもつ複数の教員が論文作成等の研究指導を行う体制を確保したり、広範なコースワークや研究室のローテーション等の様々な研究に接する機会を設けるなど、学生が、複数の研鑽の場を経て、専門分野の枠にとらわれず創造的な研究活動を自立して遂行する能力を習得できるような取組を推進することが望まれる。
  •    また、先端研究を技術的に支える高度専門人材の養成をはじめとして知識基盤社会で活躍できる人材を養成するためには、産業界のニーズの反映や資源の活用等も含め、産業界との連携が図られることも必要である。

(大学院生や若手研究者への支援の充実)

  •    我が国が、今後持続的に発展していくとともに人類社会に積極的に貢献するためには、高度な知見を有する人材の養成・確保が国家的課題である。しかしながら、このような取組は、経済的なリスクを負いつつも、自らの研究意欲に基づいて学修に取り組む大学院生一人一人の熱意に大きく依存している。優秀な学生が研究者となることを選択するインセンティブを確保するため、大学院生に対する積極的な支援に取り組むことが必要である。
  •    その際、実質的給付型の経済的支援として、大学院生をティーチングアシスタント(TA)、リサーチアシスタント(RA)として雇用し、給付者と受給者の間に契約関係を生じさせ、早い時期から教育研究活動に参画させることにより、大学教員、研究者としての能力の醸成を図ることが必要である。
  •    また、我が国の学問をリードし、国際的な活躍が期待できる優秀な若手研究者に対しては、より研究活動に専念できるよう、日本学術振興会の特別研究員をはじめ、フェローシップのような給付型の経済支援の充実を図るべきである。その際、支援対象者の選別・評価の在り方が重要となる。  

(若手研究者のポストの確保)

  •    優秀な学生や若手研究者が将来への見通しをもって国内外で研鑽を積むためには、キャリアパスに対する不安を除くとともにキャリアパスそのものをより魅力的にすることが必要であり、そのためには、若手研究者のポストの確保が欠かせない。
  •    現在、ポストドクターをはじめ若手研究者のアカデミックポストの多くが競争的資金により措置されている状況にあるが、基盤的経費の拡充により、安定的にポストを整備・拡充するとともに、研究室の立ち上げ等への支援を充実することが求められる。また、テニュアトラック教員の新規採用数の増加等、テニュアトラック制の充実も必要である。  
  •    さらに、大学教員の年齢構成は高齢化が進む傾向にあるが、例えば、教授の退職にあたって准教授・助教のポストを増やしたり、再任用制度の推進をはじめ高齢研究者の人事の在り方を見直すなど、若手研究者の活躍を促進するための組織運営の在り方についても、各大学において、それぞれの状況や課題に応じた取組が求められる。
  •    国においても、基盤的経費の拡充等により、各大学の若手研究者のアカデミックポストをはじめとするキャリアパスの確立に向けた取組を支援することが必要である。

(研究支援者の育成とキャリアパスの確立)

  •    研究チームの一員である研究支援者は学術研究の重要な担い手となっている。このようなチームへの参画が、若手研究者養成の側面を有する  ことを認識し、研究支援者の役割や位置付けの充実を図ることは、研究支援体制の構築のみならず博士号取得者等の若手研究者の育成のためにも重要である。
  •    このため、研究内容の専門的理解の下で研究資金の調達・管理や知的財産の管理・活用等を総合的にマネジメントできる人材(リサーチ・アドミニストレーター)の研修・教育プログラムやネットワークの構築等に取り組むなど、高度な研究支援人材の育成・定着に向けたシステムを整備することが必要である。また、研究の現場において、チームやプロジェクトへの貢献という研究支援業務が適切に評価されることによりキャリアパスが確立されることも必要である。さらに、このような人材が専門的知見を活かしてPD・POや政策担当者等として活躍するなどキャリアパスの発展も期待される。

(キャリアパスの多様化に向けた取組)

  •    自らの研究意欲に基づいて研究に取り組もうとする大学院生や若手研究者を後押しするためには、自らの専門性を活かして活躍できる機会を得られるよう、持続的で発展可能性のある多様なキャリアパスが構築されることも重要である。具体的には、博士号取得者には、知的基盤社会を牽引するリーダーとして、アカデミアの研究者としてだけでなく、企業等の研究者、民間企業・非営利法人や国・地方自治体の職員等を含めた様々な世界で活躍することも期待されている。
  •    このため、大学等は、学生等に対し、博士号取得者の社会的役割やロールモデルを社会の中に示していくとともに、  経路とゴールが見えるキャリアパスを明示することが期待されており、国はそのような取組を支援することが求められる。また、博士号取得者が、大学等の研究者だけではなく、企業をはじめとする社会の多様な場で高度な専門職業人として活躍できるよう、産業界等との連携・協力により、優れた人材が確実に採用・処遇される環境を構築していくことが必要である。そのためには、企業等での一定期間の研究経験や実践的なインターンシップ等を含め産学協同で教育プログラムを実施するなど、若手研究者がこうした新しい社会の多様な場での発展の在り方を認識できるような取組を進めることも求められる。
  •    また、国際社会で我が国が存在感を発揮するためには、キャリアパスの多様化の一環として、若手研究者が海外の公的組織や国際機関で活躍することも期待される。
  •    さらに、客観的根拠に基づく政策形成が求められる中で、研究分野全般にわたる知見とともに政策の影響・効果の分析等に係る専門的知見を有する政策研究者の育成も期待される。

(2)頭脳循環を推進するための世界に通用する人材の育成・確保

  •    前述したとおり、世界規模で頭脳循環が進展する中で、海外との双方向の交流・移動により、世界に通用する人材を育成・確保することが求められている。      
  •    我が国の大学等の研究機関における近年の研究者の交流状況を見ると、海外からの受入れ研究者数は増加傾向にある一方、我が国から海外への派遣研究者数は横ばいで推移しており、特に30日を超える長期派遣研究者数はピーク時の半数以下にまで減少している。  
  •    このような状況も踏まえ、学生や若手研究者の「内向き思考」を解消し、海外の研究機関においても活躍できるような国際的な視野をもった研究者を育成するため、優秀な若手研究者等に対し、海外での研鑽機会を確保し、海外における研究活動を積極的に展開するよう支援の充実に取り組むことが必要である。

       このため、国は、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)や日本学術振興会の海外特別研究員等、国際的にも定着している制度を推進するなど、優秀な学生や若手研究者が海外で研鑽を積むことができる環境を整えるとともに、経済的支援を充実することが必要である。  

  •    大学等においては、海外の機関との単位互換等を含む協定等の締結、研究者が機関に所属したまま海外で研鑽を積むことのできるような派遣の充実、海外の日本人研究者のネットワーク化など、学生や研究者の海外留学・派遣を組織的・戦略的に進めることが求められる。
  •    なお、海外派遣等の取組の推進にあたっては、機会の拡大のみならず、国際的な研究ネットワークの中で存在感を発揮する海外の研究機関への派遣等、我が国の学術研究や研究協力の発展に有効な交流の枠組構築に向けた検討も求められる。

  •    また、日本人を含む海外で活躍する研究者に対し必要な情報を提供することが重要であり、大学や研究開発独立行政法人等においては、公募情報を提供するデータベースを活用して公平・公正で透明性のある手続きの下、積極的に国際公募を行うことが期待される。
  •    さらに、我が国の大学では伝統的に自校出身の教員が多い傾向にあるが、海外での経験をはじめとして異なる機関や環境での経験や挑戦が評価されることも必要である。

  •    一方、国立大学から海外機関へ移動した者については、「研究設備に対する支援」「能力向上の機会」「知的挑戦の機会」の満足度が増大する一方、海外機関から国立大学へ移動した者については、逆にこれらの満足度が減少するという調査結果もある。
  •    若手研究者の海外との循環を進めるためには、我が国の大学等における、研究設備も含めた研究環境の充実と、それによる研究水準の向上に取り組むことが必要である。

  •    さらに、我が国の学術研究の質を向上させるためには、国内の大学等の学生、研究者の流動性を高めるとともに、海外から優秀な留学生や研究者を獲得し育てることも必要である。そのためには、大学教育の国際化をはじめとした留学生の受入・育成の環境の充実や、国内外の研究者を惹き付けるとともに優れた人材が世界で活躍するための国際的な研究拠点の整備も求められる。

5.学術研究の飛躍・発展

(1)共同利用・共同研究の推進

  •    独創的・先端的な学術研究の推進・発展のためには、同一分野間はもとより異分野間の研究連携・協力が有効であり、国公私立を越えた研究者間のネットワークや大学等間の協定によるネットワークとその中心となる研究拠点の創成が重要である。大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点(文部科学大臣から認定された全国共同利用を行う国公私立大学の研究所)は、このようなネットワークの中心となる研究拠点としての役割を期待されており、着実に連携・協力等の取組を進めているところである。さらに、これらの機関への支援の充実による一層の機能強化を図ることが求められる。
  •    また、これらの機関は、機関間の協働や連携による研究の推進、領域融合の将来像や他分野への波及等に関する検討と取組の実施、新たな研究コミュニティの育成など、新たな学問領域の創成も含め異分野融合型研究の推進に中核的な役割を果たすことが期待される。
  •    さらに、世界に通用する独創的・先端的な研究を推進するためには、世界的視野で共同利用・共同研究を推進する方策を企画・立案するとともに、効果的な連携を図り、世界トップレベルの研究を牽引していくことが期待される。    

  •    なお、共同研究の推進やそのための関係機関の連携を強化するためには、研究拠点等への支援の充実とともに、研究拠点等の研究者による他機関や異分野の研究者とのコーディネートが極めて重要であり、その業務が研究者の業績として適切に評価されることも求められる。

(2)学術研究の大型プロジェクトの推進

  •    学術研究の大型プロジェクトは、最先端の技術や知識を結集して、人類未踏の研究課題に挑み、世界の学術研究を先導する画期的な成果を期するものである。こうしたプロジェクトは、大学等における研究を支え、多様な研究分野や産業への波及効果を生み出すのみならず、国際的な競争と協調の中で我が国がリーダーシップを発揮して世界に貢献するとともに、国民に夢や希望を与えるものである。
  •    このため、大型プロジェクトに一定の資源を継続的・安定的に投入していくことを、国の学術政策の基本として明確に位置付けることが必要である。

  •    他方、大型プロジェクトは、多くの物的・人的資源の投入を要するものであり、近年の厳しい財政状況を鑑みても、長期的展望をもって、社会や国民の幅広い理解を得ながら、戦略的・計画的に推進する必要がある。
  •    このような観点から、本分科会では、欧米の例も参考にしつつ、日本学術会議との連携により、大型プロジェクトの推進に関する基本構想として、大型施設計画(大型装置の整備を前提とする計画)と大規模研究計画(多数の研究者が参加するネットワーク型の計画)を対象とした日本版の「ロードマップ」を策定した。

       今後、これを踏まえ、専門家による客観的かつ透明性の高い評価を行いつつ、大型プロジェクトを推進していくことが必要である。

  •    学術研究の大型プロジェクトは、研究者の知的探究心に基づく主体的な検討と研究者コミュニティの合意形成を基本としていることから、ロードマップをより成熟したものとしていくためには、日本学術会議との連携のもとで、研究者コミュニティの意見集約やプロジェクトの評価の方法等を一層確立することが求められる。
  •    また、今後は、日本学術振興会における学術研究動向の調査・分析機能等も活かしながらロードマップの改訂を適時適切に行い、より戦略性の高い大型プロジェクトの推進に向けた検討を行うことが必要である。
  •    さらに、施設・設備の整備費や運用費が一体となった予算枠の確保など、新たな予算措置方策の可能性も含め、安定的・継続的な財政措置について検討を進めることが必要である。

(3)海外との研究協力の推進

  •    各大学が自らのもつ優れた研究あるいは特徴的な研究分野を推進しようとする際には、大学内部に視点を集中する傾向がある。しかしながら、学術研究の発展のためには、異分野や異文化との相互作用が重要であり、国内のみならず海外の大学等との連携や協力を推進することが重要である。
  •    このため、各大学においては、学内の各種組織を有機的に連携させつつ組織的な国際的活動を展開するなど、それぞれの特色や強みを活かして戦略的に研究協力を推進することが期待される。
  •    国においても、海外の研究者との共同研究をはじめ国際的な大学間連携の取組を支援することが必要である。また、日本学術振興会の海外研究連絡センターにおいては、情報面や人材ネットワーク形成等に関する各大学への協力・支援の推進が期待される。
  •    さらに、我が国として国際的に対応しなければならない課題、地球規模の問題の解決等国際貢献が求められる課題、大型プロジェクトに係る研究で国際的に役割分担することが必要な課題等については、研究者の自主性を尊重する一方で国益も意識しつつ、推進すべき分野の明確化など戦略的視点に基づく取組の推進について検討することが必要である。特に、大型プロジェクトで経費を国際的に分担することが必要なものについては、このような取組の充実が求められる。
  •    また、環境問題をはじめとして我が国が課題解決に向けて先進的に取り組んできた研究成果をアジアをはじめとした諸外国の課題解決に活かすなど、我が国の強みを活かした国際貢献の取組の推進も求められる。  

(4)人文学・社会科学の振興

(人文学・社会科学の意義・役割)

  •    人文学・社会科学は、人間の営みや様々な社会事象を省察し、あるいは批判を加えるという学問としての基本的な固有の役割があり、また、人間の精神生活の基盤を築くとともに人間生活の質を向上させるものとして文化の継承と発展において重要な役割を担っている。
  •    このような人文学・社会科学は、その多くが個人研究中心の学問であるため、その進展は研究者個人の意識に負うところが大きく、また、着想を温め成熟させる過程や長年の学問的蓄積が重要な意味をもつ場合も多いなどの学問的な特性を有する。また、研究成果の発信についても、自然科学のような論文や学術誌の査読という形態だけではなく、単行本等の書籍が用いられることも多い。
  •    人文学・社会科学はこのような学問的特性を有するものであるが、社会貢献をはじめとして学術研究と社会との関わりが求められる中で、社会の価値観に対する省察・批判や社会事象の正確な分析、それらに基づく仮説や制度設計等の社会への提言といった人文学・社会科学の機能の重要性が増している。
  •    また、グローバル化が進む中で研究協力を推進するにあたっては、どの研究分野においても、自国や相手国の文化的・社会的基盤の理解が必要である。このため、人間社会を探究してきた人文学・社会科学の機能の発揮が必要であり、さらに人文学・社会科学分野における国際交流・発信の推進も重要になっている。

       このような人文学・社会科学の機能の重要性を踏まえ、その意義・役割を踏まえた振興の在り方について検討することが求められる。

(政策や社会の要請に応える研究の推進)

  •    現在、地球環境問題や生命・倫理問題、科学技術の負の側面などの現代的課題への対応が求められる中で、人類の根源的な課題について批判的に問い続けてきた人文学・社会科学が、その強みである分析力を活かして解決への示唆を示すなど積極的に取り組むことが必要である。
  •    その際、近年、人文学・社会科学の分野においても、共同研究の推進や新しい研究手法の導入により一定規模の施設・設備を必要とする大型の研究が展開されているが、これらをさらに発展させるとともに社会の実際の取組や政策への反映に活かすためには、シミュレーションの手法を用いた研究や実験的な手法を導入した研究等の実証的な研究を、研究基盤や組織体制を整備しつつ推進していくことも望まれる。

       さらに、人文学・社会科学と自然科学との学融合的協働も重要であり、社会のニーズや自然科学をはじめとする他の学問分野からの要請を把握した上で人文学・社会科学の貢献の在り方を検討することが重要である。

  •    人文学・社会科学の研究全般については、学問の進展に伴い、各分野・領域の専門化・細分化が進み、教育・研究活動がそれぞれの体系の中で行われているのが現状である。人文学・社会科学の学問的発展のみならず広い視野と識見を有する若手研究者の育成のためにも、自然科学をはじめとした他分野との協働による異分野融合型研究、政策や社会の要請に応える研究等を推進することが必要である。
  •    文部科学省では、平成18年度より「政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業」として地域研究や実証的研究を大学等に対する公募により実施しているが、今後は、少子高齢化問題や地球環境問題等の全地球的な課題をはじめとした学融合的協働が必要な政策的・社会的課題への対応など、目的の明確化や実施手法の工夫も含めた改善・充実が必要である。

6.学術研究と社会との連携強化

(1)学術研究による社会貢献の推進

  •    元来、学問は、専門化し、細分化していく傾向を有している。また、我が国においては、ディシプリンの確立・深化にとどまらず、新しい研究の展開や、パラダイム転換を促すような知を創出する挑戦的な試みが十分ではないとの指摘もある。
  •    学問の発展による社会の課題解決を図るためには、専門分野のディシプリンの確立や深化だけではなく、分野を横断するアプローチを用いて新たな知を創出するといった、新たな展開が必要である。例えば、かつてゲーム理論は数学の応用分野として発展したが、経済学の分野で盛んに研究されるようになり、次第に、社会の対立と協調、淘汰と進化などの現象を解明する方法論と考えられることにより、政治学や法学、歴史学、生物学、生態学にも応用されるなどの広がりを見せ、学問の展開や社会の課題解決に大きな貢献をしている。このように、新たな学問の発展は、純粋な知的探究心や、社会や人類の抱える課題を解決しようとする使命感をもった研究者が、異分野の研究者との連携や共同研究等、新たな知との接触を試みることを通じて生まれるものである。      
  •    従来より、我が国は、世界を先導する知を創出する観点から、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点等における共同利用・共同研究の支援や科研費等の取組を通じて、新しい学問や研究領域の創出に向けた取組を進めてきたところである。
  •    今後とも、これらの取組の充実により、社会的課題の解決や学問的発展を促進する異分野融合型の研究に対する研究資金の提供や研究機会の提供等を積極的に推進することが必要である。

  •    さらに、学術研究による社会貢献を推進するためには、研究成果の社会還元等を促進すべく産学連携の推進が必要である。その際、産業界では、大学等に対し、実社会と直結した応用・開発研究のみならず、むしろそのシーズとなる基礎的な研究を期待していることも多い。産学連携を一過性のものに終わらせることなく、さらに発展させるためにも、大学等における基礎的な学術研究を推進する取組が重要である。
  •    また、大学等は地域の中核的な研究機関として地域社会への貢献も求められることから、地方自治体をはじめとする関係機関による産学連携の取組への参画や協力も期待される。

(2)社会とのコミュニケーションの推進

  •    学術研究は、本来、研究者の知的探究心と自由な発想に基づくものであり、その内容は多岐にわたるが、厳しい財政・経済状況の下で支援の充実を図るためには、社会の信頼と支持が得られることが基本となる。このため、学術研究に携わる者は、社会に対する責任を念頭において研究に取り組むことが必要である。
  •    大学等は、学術研究全体の中での自らの立ち位置や社会とのかかわりについて根本から議論し、学術研究の意義やそれぞれの研究内容について分かりやすい言葉で説明しつつ、積極的に社会へ発信していくことが求められる。
  •    その際、大学や学会等が組織的に、あるいはそれぞれの研究者が自発的に、公開講座等できる限り多くの機会をとらえて  社会との双方向のコミュニケーションを推進し、研究活動やその成果に対する理解を得るよう努めるとともに、社会のニーズ等も踏まえた研究活動を引き続き推進することが必要である。そのような双方向のコミュニケーションの中で、研究者の研究活動への社会からの多様な支援の充実も期待される。

  •    また、研究者の活動等により得られた知見や成果を広く社会に還元するためには、社会と研究者との間の橋渡しを担う取組の充実も必要である。このため、学会は、大学等と連携しつつ、多くの研究成果の中から社会が求める情報を探し出し、社会に的確に伝えるためのコミュニケーション活動や、それを担う専門的な人材の養成等を進めることが求められる。さらに、博物館や科学館、あるいは科学ジャーナリスト等による研究成果の社会への発信も期待される。
  •    なお、社会とのコミュニケーション活動には、研究活動への理解増進のために市民や学生と行われるもの、研究成果の社会還元のために産業界等と行われるもの、政策反映のために政策立案者等と行われるものなど多様なものがあり、コミュニケーションの相手や目的に応じて発信や対話の内容  ・手法等を工夫することも求められる。
  •    また、評価を通じて学術研究に対する社会の信頼や支持につなげていくことも重要であり、そのための評価の工夫も求められる。

  •    国は、このような学術コミュニティによる自発的あるいは組織的な取組を支援するとともに、関係者の連携を促進し、社会への発信や社会との対話を推進していくことが必要である。      

 

第5期科学技術・学術審議会 学術分科会委員名簿

 

(委員:14名)

佐々木 毅

学習院大学法学部教授

白井 克彦

早稲田大学学事顧問

 

有川 節夫

九州大学総長

 

石井 志保子

東京工業大学大学院理工学研究科教授

 

樫谷 隆夫

公認会計士・税理士

 

小林 誠

独立行政法人日本学術振興会理事

 

佐藤 禎一

国際医療福祉大学・大学院教授

 

鈴木 厚人

高エネルギー加速器研究機構長

 

田代 和生

慶應義塾大学大学院文学研究科教授

 

柘植 綾夫

芝浦工業大学長

 

中西 友子

東京大学大学院農学生命科学研究科教授

 

西山 徹

前味の素株式会社技術特別顧問

 

深見 希代子

東京薬科大学生命科学部教授

 

三宅 なほみ

東京大学大学院教育学研究科教授

(臨時委員:17名)

 

家 泰弘

東京大学物性研究所長

 

伊藤 早苗

九州大学応用力学研究所主幹教授・九州大学伊藤プラズマ乱流研究センター長

 

井上 明久

東北大学総長

 

井上 一 

宇宙開発委員会委員

 

内田 伸子

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授

 

岡田 清孝

自然科学研究機構基礎生物学研究所所長

 

岡本 義朗

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 政策研究事業本部主席研究員

 

甲斐 知惠子

東京大学医科学研究所教授

 

樺山 紘一

印刷博物館館長、東京大学名誉教授

 

金田 章裕

人間文化研究機構長

 

鈴村 興太郎

早稲田大学政治経済学部教授・日本学術会議副会長

 

巽 和行

名古屋大学物質科学国際研究センター教授・センター長

 

谷口 維紹

東京大学大学院医学系研究科教授

 

西尾 章治郎

大阪大学理事・副学長

 

平尾 一之

京都大学大学院工学研究科教授

 

水野 紀子

東北大学大学院法学研究科教授

 

宮下 保司

東京大学大学院医学系研究科教授

◎分科会長  ○分科会長代理

(平成23年1月17日現在)

 

第5期科学技術・学術審議会 学術分科会審議経過

 

第30回:平成21年2月2日

    ・科学技術・学術審議会学術分科会長及び学術分科会長代理の選任について

    ・議事運営等について

第31回:平成21年6月17日

    ・各部会等の審議状況について報告

第32回:平成21年9月8日

    ・第4期科学技術基本計画に盛り込まれるべき学術研究の推進方策について自由討議   

第33回:平成21年10月15日

    ・第4期科学技術基本計画に盛り込まれるべき学術研究の推進方策について自由討議  

第34回:平成21年11月12日

    ・「第4期科学技術基本計画に盛り込まれるべき学術研究の推進方策について」をとりまとめ

第35回:平成22年9月3日

    ・各部会等の審議状況について報告

第36回:平成22年9月16日

    ・学術研究の推進等について自由討議

第37回:平成22年10月18日

    ・学術研究の推進等について自由討議

第38回:平成22年11月2日

    ・学術研究の推進等について自由討議

第39回:平成22年11月16日

    ・「学術研究の推進について(審議経過報告)」(素案)について討議

第40回:平成22年11月24日

    ・「学術研究の推進について(審議経過報告)」(案)について討議

第41回:平成22年12月17日

    ・「学術研究の推進について(審議経過報告)」(案)について討議

第42回:平成23年1月17日

    ・「学術研究の推進について(審議経過報告)」をとりまとめ

お問合せ先

研究振興局振興企画課

-- 登録:平成23年02月 --