参考資料3_諸外国における研究助成体制について

米国における研究助成体制について

1.研究助成体制の概要

  • アメリカ連邦政府には、大学制度や大学自体を所管する行政機関はなく、また連邦政府の行政機関には我が国の各省庁のような厳密な所掌事務の分担がないことから、大学で行われる研究に対する助成も多数の省庁が競合的に実施している。このうち主なものは、1.国立衛生研究所(NIH)、2.国立科学財団(NSF)、3.エネルギー省(DOE)、4.航空宇宙局(NASA)、5.農務省(USDA)、6.国防総省(DOD)であり、これらの6機関により、連邦政府による基礎研究支出の97%を占めている(FY2009)。
  • なお、アメリカ連邦政府の研究開発費1477億ドルのうち、軍事関連は817億ドル(55.3%)、非軍事は660億ドル(44.7%)であり、我が国とは全く様相が異なる。しかしながら、オバマ政権下では、非軍事研究への重点投資が行われており、対前年比5.9%増(37億ドル増)となっている。また、例えば国防総省による基礎・応用研究の各種機関へのファンディングのうち約3割程度が大学に措置されているなど、軍事関連の研究開発費のうち相当部分が学術研究活動につながっていることに留意する必要がある。さらに、アメリカでは民間のファンディング団体(例:ゲイツ財団)の存在も重要であり、連邦政府のファンディングシステムで中で埋没しがちな世界規模の課題に積極的に取り組んでいる。

2.主な資金配分機関

 ○ 国立科学財団(NSF)

(1) 主な機能

  研究助成、教育及び人材育成、研究設備・施設の整備

(2) 設置形態

  連邦の独立機関

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約2,100人

  (PO:525人(さらにその内、研究機関からの短期任用研究者:204人))(2009年)

    ※ 多数の専門職員を置いているが、これは個々の研究グラントの審査をプログラムオフィサーと呼ばれる職員が中心となって審査・採択していることによるものと思われる。

(5) 主要財源

  連邦政府補助金

  (予算総額)約68 億7,251 万ドル(約6,185億円)(FY2010)

 ※ 米国は10月から新年度予算開始

(内訳)研究費 :65億5397万ドル

    事務経費:3億1854万ドル

(6) 事業実施分野

    基礎研究を中心とした科学・工学全分野(医学以外)。医学以外の全ての研究分野に対する支援を行っている唯一の連邦機関。

(7) 事業内容

1. 研究助成:51億8,310万ドル(総予算の80%)

    件数 :約1万件超(申請数:4万超、採択率:25%前後)

    申請者 :研究者個人または少数のグループ

    受給者 :主任研究者の所属する大学等

    研究の性格:研究者の自由な発想に基づく研究

    選定方法  :ピア・レビュー(NSF職員と複数の外部審査員による)

    選定基準  :すべてのグラントに共通して、知的メリットと幅広いインパクトを基準として採択

    資金の種類:公募の際、対象となる研究テーマを特定するグラントとしないグラントがある。また、研究経費を初年時に一括して支給する基本グラントと、各年次に支給する継続グラントがある。NSFから資金提供を受ける大学等公私立の機関は全州にわたり、2,000機関を超える。

2. 教育及び人材育成:8億4,526万ドル

    新しい科学技術分野を担う人材の養成と、次世代の教育のために有能な教師の育成を重視し、義務教育以前から大学院教育以降までにわたる、科学と工学の教育を支援

3. 研究設備・施設の整備:1億5,201万ドル

    大型の研究施設・設備について、ロードマップを策定して計画的に支援(例:電波望遠鏡、南極の観測サイト、超高速ネットワーク環境、海洋観測船、重力波観測設備)

 ○ 国立保健研究所(NIH)

(1) 主な機能

  研究助成及び研究実施

(2) 設置形態

  国立

(3) 所管官庁

  保健・衛生省(Department of Health and Human Services)

(4) 人数

  18,000人以上(うち研究者6,000人)

(5) 主要財源

  主に連邦政府補助金

  (予算総額)約312億ドル(約2兆8,080億円)(FY2010予算)

※ 米国は10月から新年度予算開始

  (内訳) おおよその割合

      80%:外部の大学・研究機関等への配分

      10%:NIH内の研究所へ配分

      10%:事務経費

(6) 事業実施分野

  生物医学

(7) 事業内容

1. 研究助成:(総予算の約83%)

    5万件の競争的資金を全州と海外の大学等の研究者32万5,000人以上に配分。内外の科学者、物理学者、生物医学界有識者による厳格なピア・レビューシステムを採用。NIHの外部研究部門(Office of Extramural Research)がNIHの資金配分に必要な企画・管理運営を担っている。主に研究者個人の自主性に基づく研究を支援する「グラント」と、国家的重要課題を研究機関に委託する研究契約である「コントラクト」の2種類に分類できる。

2. 研究実施:(総予算の約10%)

    傘下の研究所において研究を行う。(27の研究・センターを直轄。)

※ 1.のグラントと2.は厳格に区別されており、傘下の研究所はファンディング対象となり得ない。

 ○ エネルギー省(DOE)

(1) 主な機能

    エネルギーの安定確保と促進、核兵器の管理、科学技術の振興(研究助成及び研究実施)、核物質による環境汚染への対応

(2) 設置形態

  省庁

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約11万人(連邦職員13,973人、契約職員93,094人)

※ 設備運営のために科学・技術の高度な専門知識が求められるため、契約職員が多い。

(5) 主要財源

  連邦政府

  (予算総額)約332億ドル(約2兆9,800億円)(FY2008)

(6) 事業実施分野

  物理学、化学、物質科学、生物学、スパコンなど科学・技術分野

(7) 事業内容

1. エネルギーの安全確保と促進:68億8,000万ドル

2. 核兵器の管理:90億8,800万ドル

3. 科学の発見と革新:37億9,000万ドル

    DOEの科学技術政策は、Office of Science(SC)(予算総額47億5,800億ドル:FY2009)を通じて行われ、高エネルギー物理学、原子物理学、核融合科学などの国家的プログラムを監督するとともに、基礎的なエネルギー科学、生物環境科学、コンピュータサイエンスの基礎研究プログラムを運営する。このうち、大型装置を伴う研究計画についてはロードマップを策定して計画的な整備を行っている。各分野の研究者によって構成された常設の「分野別諮問委員会」が置かれ、担当分野の現状と課題を分析し、必要な研究施設について勧告するとともに、専門的立場から大型プロジェクトの評価、優先順位付けを行っている。

4. 環境汚染対策:56億7800万ドル

3.主な研究関係機関

 ○ 機関名 National Academies(NA)

    ※ 全米科学アカデミー(NAS)、全米工学アカデミー(NAE)、医学機構(IOM)、全米研究会議(NRC)を総称してNational Academiesと呼ぶ。

(1) 主な機能

  科学的助言、研究者コミュニティの構築等

(2) 設置形態

  民間の非営利組織

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  職員1,100名

(5) 主要財源

  各省庁をはじめとする依頼機関との契約およびグラント

※ 政府からの直接の予算割当はない。

(予算総額)約2.5億ドル(約225億円)(FY2005)

※ 米国は10月から新年度予算開始

(6) 事業実施分野

  自然科学全分野

(7) 事業内容

    議会・連邦政府省庁・その他財団などの組織からの国家の科学技術問題に関する調査依頼に基づき、委員会を設置し、検討、提言を行う。報告書・白書等を発行するとともにシンポジウムや専門委員会を開催し、研究者コミュニティを構築している。

イギリスにおける研究助成体制について

1.研究助成体制の概要

イギリスにおいては、科学政策については連合王国政府が連合王国全体として責任を有し、教育政策については、それぞれの国(イングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランド)ごとに対応する政府(イングランドは連合王国政府)が責任を有する構造になっている。

科学研究予算については、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)(2009年6月にイノベーション・大学・技能省(DIUS)とビジネス企業規制改革省(BERR)を統合して設置)が、公的研究部門のための研究資金の供給機能を果たしており、目的別・領域別で構成されている研究会議(the Research Councils)へ予算配分を行っている。ビジネス・イノベーション・技能省は、予算配分に先立ってそれぞれの活動とパフォーマンスに関する証拠を収集し、また、研究会議は、国の包括的目標に対して将来どのような投資を行うつもりであるかを挙げた詳細な計画を提出する。そして、これらに対するアセスメント及び評価に基づいて、各研究会議への割当が決定されている。 

研究会議は、高等教育機関や研究機関の研究開発と研究者養成を支援しており、そのためのファンディングを行っている。さらに、いくつかの研究会議は大学の研究者のために国内外に附属の研究所を有しており、それぞれの歴史や経緯、領域ごとの研究スタイルの相違を反映して、それぞれの体制や運営方法に違いがある。これらの研究会議が共同で設立したRCUK(Research Councils UK)は、法令等に基づいて設置された公的な機関ではなく、研究会議全体の協議会的機能を果たす機関である。既存の研究領域はもとより、多分野にまたがる可能性のある研究領域にも対応するとともに、研究会議全体として一体となった戦略的枠組みを構築し、また一体となって他の機関とも活動できるよう、対外的には「単一のバーチャルな会議」として活動できることを目指して設立された。

一方、大学の教育、研究及び知識移転のための基盤的資金は、それぞれの国ごとに、高等教育資金会議(the Higher Education Funding Councils)から目的を指定しないブロック・グラントの形で配分されている。高等教育資金会議は、大学への教育・研究費の配分のほか、高等教育・研究の発展を支援するプログラムへの助成、大学の資金及び運営の健全性のモニタリング、教育の質の評価の確認なども行う。研究費は、その大学の研究者数と研究や知識移転の実績に基づいて評価がされ、配分額が決定されている。

さらに、政府以外の機関ではあるが、The Royal Society(王立協会)、The Royal Academy of Engneering(王立工学アカデミー)、The British Academy (英国学士院)は、政策形成に際して、学会(科学コミュニティ)を代表して独立した意見の表明や提出を行うとともに、国からの助成金に基づいて、研究者への資金配分を行ったり、卓越した研究者による国際的なネットワークの構築に向けた活動を行ったりしている。

2.主な資金配分機関

 ○ 研究会議(the Research Councils)

(1) 主な機能

  研究助成、研究奨励

(2) 設置形態

  執行型非省庁公共機関

(3) 所管官庁

  ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)

(4) 人数

  RC全体(7機関)で約12,000人

(5) 主要財源

   国庫支出金、国庫補助金

  (予算総額)RC全体(7機関)で28億8300万ポンド(約4兆362億円)(2009年)

    英国の基礎研究における主要な助成機関。7つの分野ごとの研究会議(1.芸術・人文科学分野、2.バイオテクノロジー・生物科学分野、3.工学・自然科学分野、4.経済・社会研究、5.医学、6.自然環境研究、7.科学技術施設)と、これらによって構成される英国研究会議(RCUK)で構成。

    各研究会議でプログラムは異なるが、主として、研究者の自由な発想に基づく研究への助成、研究奨学金や研究奨励金による研究者養成を行っている。また、BBSRC(バイオテクノロジー・生物科学研究会議)、MRC(医学研究会議)、NERC(自然環境研究会議)、STFC(科学技術施設会議)は傘下に研究所を有しており、自ら研究活動も実施している。

研究会議名

分野

予算

RCUK(英国研究会議)

各会議の横断的な取組(研究支援、訓練、知識移転、国民関与の促進)

AHRC
(芸術・人文科学研究会議)

歴史、言語学、英語、フランス語、他語、哲学、古典、芸術、ドラマ、ダンス、音楽、デザイン

122,523千£

BBSRC(バイオテクノロジー・
生物科学研究会議)

農業食品、畜産学、生化学・細胞生物学、生物分子学、工学・生物学システム、遺伝子・発生生物学、植物・微生物科学

464,976千£

EPSRC
(工学・自然科学研究会議)

材料、機械、医療技術、情報通信技術、数理科学、物理科学、プロセス、環境、持続性

796,624千£

ESRC
(経済・社会研究会議)

経済、教育・人材開発、環境・計画、行政・法律、産業・雇用、社会問題

195,369千£

MRC(医学研究会議)

ヘルスサービス・パブリックヘルス、感染・免疫、分子・細胞治療、神経科学・メンタルヘルス、生理システム・クリニカルサイエンス

728,754千£

NERC(自然環境研究会議)

大気、地球、地球観測、海洋、局地方、考古学、淡水・陸地

433,657千£

STFC(科学技術施設会議)

大型施設を利用した研究(天文学、オーロラ、計算機科学、エネルギー研究、環境、機能性材料、核物理学、素粒子物理学、中性子科学、宇宙科学)

641,870千£

○ イングランド高等教育資金配分会議(HEFCE)

(1) 主な機能

  大学への教育・研究費の配分

(2) 設置形態

  Non-Departmental Public Body(執行型非省庁公共機関)

(3) 所管官庁

  ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)

(4) 人数

  264人(フルタイム換算)(2009年)

(5) 主要財源

  国庫補助金

  (予算総額)75億3469万ポンド(約1兆549億円)(2009年)

(6) 事業実施分野

  全分野

(7) 事業内容

1. イングランドの130の大学、150以上の高等教育カレッジへの教育費、研究費の配分

2. 高等教育の発展を支援するプログラムへの助成

3. 大学の財政、運営の健全性のモニタリング

4. 資金提供先の教育の質の評価

5. 高等教育カレッジへの教育プログラムへの資金提供

 

3.主な研究関係機関

○ 王立協会(the Royal Society)

(1) 主な機能

  科学者への助成や科学的助言

(2) 設置形態

  不明

(3) 所管官庁

  ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)

(4) 人数

  不明

(5) 主要財源

  国庫支出金等

  (予算総額)7,216万ポンド(約101億円)(2007年)

(6) 事業実施分野

  自然科学分野

(7) 事業内容

    • 著名な研究者等へのフェローシップの支給
    • 政策立案者への科学的助言
    • 科学政策に関する報告
    • 王立協会エンタープライズファンド(顕著な技術(特に環境関連技術)を有したアーリーステージにある企業に対し、その商業化を支援するファンド)

フランスにおける研究助成体制について

1.研究助成体制の概要

フランスは、従来独立したファンディング・エージェンシーは存在しておらず、研究者は、通常自らが所属する公的研究機関(CNRS等)や大学、あるいは所属機関の所管省庁から研究費を得てきた。

しかし、組織ごとの予算は硬直化し、研究実施の柔軟性、資源配分プロセスの透明性や費用対効果の面が問題視されていた。また、国が定めた優先分野に対する重点投資など、より直接的に政策誘導可能な資源配分システムの構築が必要であった。

こうした状況の中、政府は、国の優先分野に対する重点投資、国際的基準に合致した透明性のある評価システムの構築、柔軟な研究実施体制の整備、競争的環境の醸成による研究の活性化、産学連携など機関間パートナーシップの推進、基礎研究と応用研究の適度なバランスの維持を目的に、2005年2月に、GIP(公益団体)として、政府によって特定された優先順位に従って研究プロジェクトへの助成を行うANRが設立された。

さらに、同年、研究開発促進公社(ANVAR:助成や融資により中小企業の技術革新に対する資金面のリスクを負担)と中小企業開発銀行(BDPME:中小企業向けに融資と信用保証を行う政府系金融機関)との合併により、技術開発をはじめ中小企業に対する総合的な支援を行うOSEOが設立された。

2.主な資金配分機関

 ○ フランス国立研究機構(ANR:Agence Nationale de la Recherche)

(1) 主な機能

1. 国の研究政策に基づいて、基礎研究、応用研究への助成、イノベーションの創出、官民協力を支援

2. 公的研究機関から産業界への技術移転

(2) 設置形態

  国立

(3) 所管官庁

  高等教育・研究省

(4) 人数

  常勤職員(スタッフ):約110人

※ スタッフの約半数は研究者

※ その他、外部からの出向者(collabprators、フルタイム)が約140人

(5) 主要財源

  政府補助金

  (予算総額)8億1,900万ユーロ(約983億円)(2009年)

(6) 事業実施分野

  全分野

(7) 事業内容

1. 研究助成:6億740万ユーロ(2007年)

    国の研究政策に基づいた、基礎研究・応用研究への助成を行う。具体的には、公募型プロジェクトとして、6つの指定分野(1.持続的エネルギー・環境、2.情報・コミュニケーション、3.工学・プロセス・安全、4.生物学・保健、5.エコシステム・持続的開発、6.人文学・社会科学)を設けて公募している。また、指定分野外・先端研究の分野のためのファンドも用意されている。

    • Chairs of Excellence…ハイレベルの研究者、外国人研究者、外国在住のフランス人研究者に対する支援
    • Young Researchers…39歳未満の研究者又は大学教員による研究プロジェクトを支援
    • Blanc…野心的なプロジェクト、国際的に競争の激しく、注目の集まっているパイオニア的なプロジェクト、伝統的な研究の道筋を突破するプロジェクトを推進

    公募型プロジェクト全体の配分先は、大学(24.6%)、CNRS(国立科学研究センター)(23.8%)などである。また、研究段階ごとの予算総額に占める割合は、基礎研究が61%、応用研究が35%、競争段階前の開発が4%となっている。

2. その他

    がん克服に向けた研究開発事業、中央政府と地方政府との契約に基づく研究開発プロジェクト、OECD Inovationとの共同によるイノベーティブ・テクノロジー・カンパニーの創設のためのコンペティションや、技術移転等のための組織再編、EUREKAプログラム等を実施。

3.主な研究関係機関

 ○ フランス国立科学研究センター(CNRS:Centre National de la Recherche Scientifique)

(1) 主な機能

 基礎研究の実施

(2) 設置形態

  公的法人

(3) 所管官庁

  高等教育・研究省

(4) 人数

  25,686人(うち研究者11,517人、事務・技術スタッフ14,169人)(2008年)

※ このほか任期付雇用者7,619人

(5) 主要財源

  政府補助金80%、その他20%

  (予算総額)29億149万ユーロ(約3,482億円)(2008年)

(6) 事業実施分野

  全分野

(7) 事業内容

    8つの直轄研究所(化学研究所、エコロジー・環境研究所、物理学研究所、生命科学研究所、人文学・社会科学研究所、情報科学研究所、工学・システム化学研究所、数学研究所)等において研究活動を展開。

    1,098のCNRSの研究ユニットの85%以上は、国内外の大学や他の研究機関との連携が図られており、共同研究を通じて共同研究先である大学等への研究資金配分の機能も果たしている。

ドイツにおける研究助成体制について

1.研究助成体制の概要

ドイツにおける科学技術政策に係わる主要な政府組織には、連邦教育研究省(BMBF)、連邦経済技術省(BMWi)、及び16からなる州政府があり、これらの調整を行う合同科学会議(GWK)(2007年までは教育計画・研究振興連邦・州合同委員会(BLK))がある。ドイツでは、連邦政府と州政府が共同で研究を支援することが、基本法で示されている。

研究資金助成機関としては、主に大学の基礎研究への助成を行うドイツ研究振興協会(DFG)、産業界で実施する研究開発への助成を行うドイツ産業研究協会連合(AiF)がある。

2.主な資金配分機関

 ○ ドイツ研究振興協会(DFG)

(1) 主な機能

  研究助成、議会等への科学的助言

(2) 設置形態

  民法上の公益法人 (大学、公的研究所、アカデミー、他の協会といった会員で構成)

    ※ 会員となっている各組織の代表者によってGeneral Assemblyが構成されており、ここにおいて、DFGの運営方針の決定や、理事長・副理事長、Senate(DFGの戦略立案部門)の選任、DFG新会員の決定等を行っている。

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約750人(うちPO:118人)(2010年)

(5) 主要財源

  連邦政府助成金、州政府助成金等

  (予算総額) 22億120万ユーロ(約2,641億円)(2009年)

  (内訳)研究費 :21億2860万ユーロ

      事務経費:7260万ユーロ

(6) 事業実施分野

  人文・社会科学、自然科学の全分野

(7) 事業内容

    大学及び公的研究機関の支援、研究者間の協力・交流支援、若手研究者の支援、議会への助言などを行っている。主なファンディングプログラムは、以下のとおり。

1. 個人研究助成プログラム

    博士課程を修了した研究者に対して、1~3年間個人研究プロジェクトへの助成

2. 共同研究センタープログラム

    分野融合研究や大学以外の研究機関との共同研究を行うために設立された大学研究施設における研究への助成

3. 優先領域プログラム

    特定のトピックスやプロジェクトの共同研究や調整への助成

4. 若手研究者支援プログラム

    ポスドクからの早期独立の支援や優秀な研究者への長期支援

5. 研究トレーニンググループ

    分野の異なる研究グループや海外の研究者コミュニティーとの共同研究や研究交流を通じて教育・研究を実施する大学への支援

6. 科学賞

    有能な研究者や市民に対する研究成果の普及に貢献した研究者の表彰を行う。

    ※ その他、ネットワークの構築、大学図書館や情報センターも含めた研究設備や機器の整備、産学連携の場の提供等の支援も実施している。

    DFGの戦略立案は、基本的に研究者コミュニティーにより行われる。戦略を立案する部門には、SenateとJoint Committeeがあり、前者は政策及び重点プログラムを決定する部門で、マックスプランク学術振興協会の理事長や大学協会の理事長等39名の研究者や学者で構成される。後者は、決定された戦略に基づき、予算等をより詳細に決定する機関で、Senateのメンバーに加え、連邦政府、州政府の代表から構成される。

○ ドイツ学術交流会(DAAD)

(1) 主な機能

  研究者等への支援

(2) 設置形態

  民法上の公益法人(非営利団体)

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  271人(2008年)

(5) 主要財源

  連邦政府、EUからの助成、州政府等

  (予算総額) 2億8100万ユーロ(約337億円)(2007年)

(6) 事業実施分野

  人文・社会科学、自然科学の全分野

(7) 事業内容

    高等教育の国際交流を促進することを目的とし、250を越えるプログラムを実施し、特に学生及び科学者の交換留学を支援

    DAADにおける主なプログラムは以下のとおり。

1. 外国人に対するグラント及び奨学金(71百万ユーロ)

  ドイツの大学や研究機関における優秀な外国人若手研究者や学生を支援

2. ドイツ人に対するグラント及び奨学金(84百万ユーロ)

  海外留学や海外での研究を支援

3. ドイツの大学の国際化(60百万ユーロ)

  海外研究者に対してドイツの大学をアピール、ドイツの高等教育の国際化を促進

4. ドイツ研究の促進(38百万ユーロ)

  海外の大学におけるドイツ研究を促進

5. 新興国との教育的協力(51百万ユーロ)

  新興国や途上国の、科学的、学問的、経済的、民主主義的発展を促進

 ○ アレクサンダー・フォン・フンボルト財団(AvH)

(1) 主な機能

  研究助成

(2) 設置形態

  民法上の財団法人(非営利団体)

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  132人

(5) 主要財源

  連邦政府、州政府、民間

  (予算総額) 6800万ユーロ(約82億円)(2008年)

(6) 事業実施分野

  人文・社会科学、自然科学の全分野

(7) 事業内容

    海外の質の高い科学者によるドイツでの研究、ドイツと海外研究者の共同研究、およびドイツの若手研究者による海外での共同研究を支援

2.主な研究関係機関

 ○ マックス・プランク学術振興協会(MPG) 

(1) 主な機能

  研究実施

(2) 設置形態

  民法上の公益法人

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約13,000人(うち研究系:約4,700人)

※ この他、客員研究員、ポスドク、博士課程学生など約11,850人

(5) 主要財源

  連邦政府・州政府、政府、EUによるプロジェクト支援等

  (予算総額) 17億2,000万ユーロ(約2,064億円)(2008年)

(6) 事業実施分野

  人文・社会科学、自然科学の全分野

(7) 事業内容

    ドイツ国内に約80の研究機関を傘下に有する。各研究機関は研究テーマが定められており、神経システムの機能や星や銀河の誕生といった学際的な分野で基礎研究を行っている。人類の英知や技術のブレークスルーを生み出すとともに、国際的に活躍できる若手研究者を育成するため、学際的な環境で、大学や他の研究機関とも協力して幅広く研究を実施している。また、大学では十分対応できていないようなイノベーティブな分野にも取り組んでいる。

 ○ フラウンホーファー応用研究促進協会(FhG)

(1) 主な機能

  研究実施

(2) 設置形態

  民法上の公益法人

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約17,000人

※ スタッフの大部分は科学者及びエンジニア

(5) 主要財源

  連邦政府・州政府、民間からの委託等

  (予算総額) 約14億ユーロ(約1,680億円)(2008年)

(6) 事業実施分野

    市場ニーズや技術イノベーションに合わせて技術分野を設定し、社会全体の利益となるような応用研究を実施。

(7) 事業内容

    59の研究所をはじめとしドイツ国内40箇所に散在する約80の研究ユニットにおいて応用研究を実施している。研究費総額の3分の2は民間企業や公共機関からの委託研究となっており、実用化に向けた製品・プロセス開発を行い、最先端の研究設備や蓄積したノウハウを活用して、実用的かつ価値の高い成果を生み出している。

 ○ ドイツ研究センターヘルムホルツ協会(HGF)

(1) 主な機能

  研究実施

(2) 設置形態

  民法上の公益法人

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約28,000人(うち研究者:約9,000人、客員研究員:約4,500人)(2008年)

(5) 主要財源

  約3分の2は連邦政府・州政府からの助成金、約3分の1は政府・民間からの委託等

  (予算総額) 約28億ユーロ(約3,360億円)(2008年)

(6) 事業実施分野

  エネルギー、地球・環境、健康、キーテクノロジー、物質構造、輸送・宇宙の6分野を重点分野としている。

(7) 事業内容

    16の研究センターから構成され、主に大型研究開発施設を利用した研究開発を実施している。大規模な研究開発装置等をコアに活動する、ドイツを代表する研究組織の一つである。各研究センターは、自然科学・工学、生物学・医学分野等、上記の重点分野の基礎的・基盤的研究、工業化前段階の技術開発等に取り組んでいる他、研究及び教育における大学のパートナーとしての役割も果たしている。

EUにおける研究助成体制について

1.研究助成体制の概要

リスボン戦略で謳われた「EUを世界でもっとも活力と競争力に満ちた知識基盤型経済」とすることを実現する法的・財政的手段を運用するため、研究面での計画として、2007年~2013年までを対象とする第7次フレームワークプロジェクト(FP7)を開始した。

第7次フレームワーク・プロジェクト(FP7)の概要

○ 4つの基本構造

  • Cooperation:10分野(健康、バイオ、情報通信、ナノテク、エネルギーなど)を設定しEU諸国と他の国の共同研究を促進する。
  • Idea:ERCを設立し、工学、社会科学、人文科学などを含めた科学技術分野において学術的価値に基づく研究者主導の基礎研究を支援する。
  • People:研究開発人材の強化のための活動を支援する。
  • Capacities:研究インフラの整備、中小企業研究支援、地域研究振興(クラスター構築)の他、「社会における科学」や国際協力に対する研究の支援等を行う。

○ ETP、JTIによるEUREKA計画との連携

    経済的社会的な影響の大きいセクターや重要技術に関して主要企業を中心に欧州レベルの研究開発体制を構築するため、ETP(欧州テクノロジー・プラットホーム)において、有識者のレポートを基に戦略的アジェンダを策定してプロジェクトを推進する。また、ETPの中でも戦略性が高く、社会経済への影響が大きいものについて、研究開発に続くイノベーション段階を実施する体制を与えるJTI(ジョイント・テクノロジー・イニシアティブ)により、市場に近い段階で民間企業の意向も反映した活動を支援する。これらを通じて市場化技術への支援が強化され、欧州の政府間イニシアティブであるEUREKA計画(欧州先端技術共同体構想)との連携を緊密化する。

イノベーション政策を含む科学技術関連政策について、政策形成・執行を行う中心的な組織は、欧州委員会研究総局及び企業・産業総局である。研究総局は、研究開発プログラムの推進や資金配分政策を担当し、FPの取りまとめ機関として基礎研究を含めた技術開発の資金的支援に取り組んでいる。

FP7において基礎研究を支援するため、EUから自律した資金配分機関として、2007年にERC(ヨーロッパリサーチカウンシル)を設立し、研究者主導で基礎研究の振興を図っている。

2.主な資金配分機関

 ○ 欧州研究評議会(ERC)

(1) 主な機能

  研究助成

(2) 設置形態

  各国から独立した組織。EUが予算措置及び組織設置の法的地位を授与。

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  108人(2007年12月) ※ 2013年には389人に増員を計画

(5) 主要財源

  (予算総額) 75億ユーロ(約9,000億円)(2007~2013年)

          ※ FP7全体の約15%の予算規模に相当

(6) 事業実施分野

  工学、社会科学、人文科学などを含めた科学技術分野(但し、最先端科学に係る研究であること)

(7) 事業内容

    学術的価値に基づく研究者主導の基礎研究の振興を図るため、ピア・レビューによる評価を行い、新領域も含め世界最高水準の先端科学研究支援する。 このため、若手研究者(博士号取得後2~9年)が独立して研究するための支援を行うERC Starting Independent Reseacher Grantと、研究リーダーとして独立して研究を行う者(年齢制限なし)に対する支援を行うERC Advanced Inveatigators Grantの2つのグラントを設けている。

○ 欧州委員会研究総局

(1) 主な機能

  行政執行機関(資金配分を担当)

(2) 設置年

  1992年(EUの設立年)

(3) 所管官庁

  -

(4) 人数

  約500人

(5) 主要財源

  約68億ユーロ(約8,160億円)

(6) 事業実施分野

    環境、健康、エネルギーなど研究分野型と知識基盤経済、国際協力など研究分野横断型、合わせて15の局から構成されている。

(7) 事業内容

    研究開発プログラムの推進や資金配分政策を担当している。EUにおける研究開発に係る施策の推進と産業の国際競争力の向上、EU諸国における研究活動とEUにおける研究活動の調整、環境、健康、エネルギーなど分野別の研究支援、現代社会における科学の役割に対する理解増進などを実施している。また、FPをとりまとめる機関となっており、FP7を通じて基礎研究を含めた技術開発の資金的支援に取り組んでいる。(FP7におけるCooperationの資金配分等を行っている。)

お問合せ先

研究振興局振興企画課

-- 登録:平成22年12月 --