「学士課程教育の構築に向けて」中央教育審議会答申の概要

1. 基本的な認識

  • グローバル化する知識基盤社会において,学士レベルの資質能力を備える人材養成は重要な課題 である。
  • 他方,目先の学生確保が優先される傾向がある中,大学や学位の水準が曖昧になったり,学位の 国際的通用性が失われたりしてはならない。
  • 各大学の自主的な改革を通じ,学士課程教育における3つの方針の明確化等を進める必要がある。

2. 主な内容

【現状・課題】   【改善方策の例】
(1)学位授与の方針について    
・他の先進国では「何を教えるか」より「何ができるようになるか」を重視した取組が進展
・一方,我が国の大学が掲げる教育研究の目的等は総じて抽象的
・学位授与の方針が,教育課程の編成や学修評価の在り方を律するものとなっていない
・大学の多様化は進んだが,学士課程を通じた最低限の共通性が重視されていない
・大学は,卒業に当たっての学位授与の方針を具体化・明確化し積極的に公開
・国は学士力に関し,参考指針を提示

〔学士力に関する主な内容〕
1. 知識・理解(文化,社会,自然 等)
2. 汎用的技能(コミュニケーションスキル,数量的スキル,問題解決能力等)
3. 態度・志向性(自己管理力,チームワーク,倫理観,社会的責任等)
4. 総合的な学習経験と創造的思考力
(2)教育課程編成・実施の方針について    
・学修の系統性・順次性が配慮されていないとの指摘
・学生の学習時間が短く,授業時間外の学修を含めて45時間で1単位とする考え方が徹底されていない
・成績評価が教員の裁量に依存しており,組織的な取組が弱いとの指摘
・順次性のある体系的な教育課程を編成
・国は分野別のコア・カリキュラム作成を支援
・学生の学習時間の実態を把握した上で,単位制度を実質化
・成績評価基準を策定し,GPA等の客観的な評価基準を適用
(3)入学者受入れの方針について    
・大学全入時代を迎え,入試によって高校の質保証や大学の入口管理を行うことが困難
・特定の大学をめぐる過度の競争
・総じて,学生の学習意欲の低下や目的意識が希薄化
・大学は,大学と受験生のマッチングの観点から入学者受入れ方針を明確化
・入試方法を点検し,適切な見直し
・初年次教育の充実や高大連携を推進
(4)その他    
・ファカルティ・ディベロップメント(FD)は普及したが,教育力向上に十分つながっていない
・設置認可は弾力化されたが,質保証の観点から懸念すべき状況も見られる
・これらの活動に係る財政支援が不可欠
・教員,大学職員への研修の活性化と,教員業績評価での教育面の重視
・自己点検・評価の確実な実施,分野別質保証の枠組みづくりのため日本学術会議への審議依頼等の質保証の仕組みを強化
・財政支援の強化と説明責任の徹底

「学士課程教育の構築に向けて」中央教育審議会答申の概要

 中央教育審議会では,平成18年以降,大学分科会を中心として,学士課程教育に重点を置いた審議を行ってきたところであり,平成20年12月の総会において,その成果を答申として取りまとめた。

四角 内の【大学に期待される取組】及び【国によって行われるべき支援・取組】は,主なものを挙げた。

第1章 グローバル化,ユニバーサル段階等をめぐる認識と改革の基本方向

○ 大学全入時代の到来など大学を取り巻く環境は急速に変化。
○ 他の先進国との比較では,我が国の大学在学者数の比率は低い。大学教育を受ける機会の実質的保障と,教育の質的な転換・革新と教育力の飛躍的向上が必要。
○ 大学の個性化・特色化が進展。一方で学位水準の曖昧化,国際的通用性喪失のおそれ。
○ 学士の質保証を図るため,大学間の競争と協同,教育の多様性と標準性の調和を図る。
○ 学士課程教育の量的拡大と質の維持・向上を図る。人口減少社会,少子高齢化社会の中,各界で危機感を共有し,実効ある改革につなげることが必要。

第2章 学士課程教育における方針の明確化

第1節 学位授与の方針について

 我が国の大学が掲げる教育研究の目的等は総じて抽象的であり,大学の多様化は進んだものの,学士課程を通じた最低限の共通性が重視されておらず,各大学では,学位授与の方針や教育研究上の目的を明確化することが必要。

【大学に期待される取組】

・ 学位授与の方針の策定・公開,学習到達度の的確な把握・測定や卒業認定の組織体制 の整備,学位授与の方針の策定における客観性向上など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 各専攻分野を通じて培う学士力の提示,分野別の質保証の枠組みづくりの促進,OECDの国際調査への対応,学習成果を重視した大学評価の研究など


学士力に関する主な内容

  1. 知識・理解
     専攻する特定の学問分野における基本的な知識を体系的に理解(多文化の異文化に関する知識の理解,人類の文化・社会と自然に関する知識の理解)
  2. 汎用的技能
     知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能(コミュニケーション・スキル,数量的スキル,情報リテラシー,論理的思考力,問題解決力)
  3. 態度・志向性
     自己管理力,チームワーク・リーダーシップ,倫理観,市民としての社会的責任,生涯学習力
  4. 統合的な学習経験と創造的思考力
     自らが立てた新たな課題を解決する能力

第2節 教育課程編成・実施の方針について

1 教育課程の体系化

 我が国の学士課程の教育課程は,個々の教員の意向が優先され,学習の系統性や順次性などが配慮されていないとの指摘があり,各大学において,教育課程の体系的な編成が必要。

【大学に期待される取組】
・ 順次性のある体系的な教育課程編成,幅広い学びの保証,課題探求能力等の育成に配慮した教育課程編成・実施,大学間の連携・共同による教育内容の豊富化など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 個性や特色のある優れた実践への支援,大学間の連携強化に向けた取組への支援,複数大学による教育課程の共同実施制度の普及など
2 単位制度の実質化

 我が国の学生の学習時間が短く,授業時間外の学修を含めて45時間で1単位とする考え方が徹底されておらず,学習時間の実態を国際的に遜色ない水準にすることを目指した総合的な取組が必要。

【大学に期待される取組】
・ 学生の学習時間等の実態把握,授業計画の明確化,必要な授業時間の確保など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 学習時間の把握,上限単位の設定(キャップ制)の促進,シラバスの内容調査など
3 教育方法の改善

 学習意欲や目的意識の希薄な学生に,主体的に学ぶ姿勢・態度を持たせることが重要。双方向型授業や能動的活動に参加する機会を設けるなど,各大学は改めて教育方法の点検・見直しをすることが必要。

【大学に期待される取組】
・ 双方向型の学習の展開,ティーチング・アシスタント(TA),スチューデント・アシスタント(SA)の積極的活用,少人数指導の推進,情報通信技術の活用など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 教育方法の改善に関する優れた取組への支援,TA等の積極的活用に向けた支援・環 境整備の促進,教育方法の革新に向けた調査研究および拠点創設の可能性の検討など
4 成績評価

 我が国の大学は成績評価が厳格化されているとは言えず,教員間の共通理解の下,到達目標や成績評価基準を明確化するとともに,GPAなどの客観的な評価システムを導入し,組織的に学修の評価を行うことが必要。

【大学に期待される取組】
・ 成績評価基準の策定・明示,GPA等の客観的基準の厳格な適用,多面的な評価方法の導入・活用の検討,外国語コミュニケーション能力の評価の厳格化など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 成績評価の厳格化等の先導的取組への支援,GPAや成績証明書等の標準的な在り方 等に関する検討,成績評価における外部評価や相互評価の取組の促進など

第3節 入学者受入れの方針について

1 入学者選抜

 大学全入時代を迎え,入試によって高校の質保証や大学の入口管理を行うことが困難となっており,高校・大学は,様々な方法で客観的に学力を把握し,指導改善や入試,初年次教育の基礎資料として役立てることを通じ,学力水準の向上を図ることが必要。

【大学に期待される取組】
・ 入試の在り方の点検・見直し,推薦入試・AO入試学力の適正化,入試科目の適切な設定,調査書等の学習状況に関して必要な資料の明示化と積極的活用など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 入学者受入れ方針の明確化・具体化に向けた取組の促進,推薦入試・AO入試における留意点の明確化・周知など
・ 高等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組み(「高大接続テスト(仮称)」)に関する協議・研究の促進など
・ 大学入試に関する取組や関連データの情報公開の促進

2 初年次における教育上の配慮,高大連携

 初年次教育のプログラムの充実や体系化,その前提となる高校での学習状況等の情報の引き継ぎなど,高校との一層緊密な連携が課題。高大連携は,大学間の協同による教育の提供など普及・深化を図ることが必要。

【大学に期待される取組】
・ 初年次教育の導入・充実,補習・補完教育の充実,高大連携の取組の推進など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 初年次教育や高大連携に係る優れた取組への支援,補習・補完教育の教材開発等に対する支援など

第3章 学士課程教育の充実を支える学内の教職員の職能開発

1 教員の職能開発

 教員の授業内容・方法の改善・向上のための組織的な取組(ファカルティ・ディベロップメント)は普及したが,教育力向上に十分につながっておらず,その実質化が必要。

2 大学職員の職能開発

 専門性を備えた大学職員を養成するため,研修の場や機会の充実,環境整備を推進することが重要。

3 大学間の協働

 教職員の職能開発を実効あるものとするため,大学間の協同の体制づくりが必要。

【大学に期待される取組】
・ 教学経営における各方針の共通理解の確立,全新任教員の参加促進などファカルティ・ディベロップメントの活性化,大学院での大学教員養成機能の強化,大学職員の研修の場や機会の充実など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ ファカルティ・ディベロップメントの実施体制の強化の支援,教員養成・研修のプログラム・教材開発の支援など

第4章 公的及び自主的な質保証の仕組みの強化

1 設置認可・届出制度

 大学の要件を明確化・厳格化する等,設置認可制度・評価制度等の的確な運用が必要。

2 第三者評価

 これまでの課題を集約・整理し,分野別評価の在り方等の研究を進めつつ,必要な見直しを行うことが必要。

3 自己点検・評価

 大学教育の質の維持・向上を大学の責任で行う上で,自己点検・評価の徹底の充実・深化は極めて重要。多様なアセスメント活動など各大学における実施体制の整備が課題。

4 情報公開

 教育研究活動の状況など大学の基本的情報を国内外から容易にアクセスする環境は実現されず。社会に対して説明責任を果たす要請からも情報公開の推進が必要。

5 大学間の連携,開かれた協同のネットワークの構築

 大学が地域内の自主的な連携,協同により得意分野の強化,集約化,適切な役割分担を進め,地域のニーズに応じた教育を提供することが期待される。

6 大学団体等の役割

 学士課程教育の構築に向けた大学団体等の取組に期待。国は,大学団体等との連携を密にし,活動を支援することが重要。

【大学に期待される取組】
・ 内部質保証体制の構築,明確な達成目標の設定,インターネット等を通じた情報公開,自己点検・評価における他大学との連携(相互評価)など

【国によって行われるべき支援・取組】
・ 大学設置基準等の見直し,第三者評価制度等の確立に向けた環境整備,大学別の情報データベースの構築等情報発信の強化,学習者保護の体制整備,日本学術会議と連携し た分野別の質保証の枠組みづくりの促進など

第5章 基盤となる財政支援

1 財政支援の強化と大学の説明責任の徹底

 大学教育の質を保証するための取組を支えるため,国による財政支援が重要。大学の自主性・自律性を尊重しつつ,各大学を多角的に支援していくことが求められる。一方,大学は社会に対する説明責任を果たすことが重要。

2 学士課程教育の優れた実践に対する重点的な財政支援の拡充

 国がGP事業を通じて行う各大学の優れた取組の成果を,我が国の大学全体の教育改革の進展や,質の向上に効果的に反映させることが必要。国による財政的な支援を,計画・実践・評価・改善のサイクルに組み込み,大学教育改革の加速を促すことが重要。

3 教育の機会均等の確保と教育費負担の在り方の見直し

 我が国の私費負担の割合はOECD諸国と比べても高い水準。教育の機会均等の観点から,奨学金の充実,授業料減免,TAやSAを通じての経済支援など,個人補助を通じて,家計 負担の軽減と学習インセンティブを向上させる仕組みを取り入れることが望まれる。

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