学術分科会(第68回) 議事録

1.日時

平成30年7月3日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

東海大学校友会館「阿蘇の間」

(〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビル35階)

3.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾分科会長、庄田委員、甲斐委員、小長谷委員、白波瀬委員、松本委員、荒川委員、井関委員、大島委員、小川委員、亀山委員、小林委員、小安委員、里見委員、瀧澤委員、鍋倉委員
(科学官)
頼住科学官、苅部科学官、三原科学官、吉江科学官、相澤科学官、大久保科学官、長谷部科学官、寺﨑科学官、林科学官、東科学官、三浦科学官、上田科学官、渡部科学官

文部科学省

伊藤文部科学審議官、磯谷研究振興局長、中川総括審議官、藤野サイバーセキュリティ・政策立案総括審議官、勝野科学技術・学術総括官、千原研究振興局審議官、渡辺振興企画課長、西井学術機関課長、小桐間学術研究助成課長、蝦名高等教育企画課長、岡本学術研究助成課企画室長、丸山学術基盤整備室長、山口学術企画室長

4.議事録

【西尾分科会長】  皆さん、おはようございます。ただいまより、第68回科学技術・学術審議会学術分科会を開催いたします。
 まず、配付資料の確認を事務局、よろしくお願いいたします。

【山口学術企画室長】  本日は、タブレットPCを御用意しており、ペーパーレス会議ということで実施いたしますので、恐縮ですが、配付資料については、一覧の方を御覧ください。操作など、不明な点がございましたら、お近くの職員にお声掛けください。
以上でございます。

【西尾分科会長】  皆さん、よろしいでしょうか。
 まず、事務局の異動がありましたので、紹介をお願いいたします。

【山口学術企画室長】  研究振興局長の磯谷の方が急遽、所用が入りまして、遅れて到着予定でございます。
 大臣官房サイバー・セキュリティ・政策立案総括審議官の藤野でございます。

【藤野サイバー・セキュリティ・政策立案総括審議官】  失礼いたします。引き続きどうぞよろしくお願いします。

【西尾分科会長】  よろしくお願いいたします。

【山口学術企画室長】  続いて、大臣官房審議官研究振興局担当の千原でございます。

【千原研究振興局審議官】  千原でございます。よろしくお願いいたします。

【山口学術企画室長】  以上でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 それでは、議事に入らせていただきます。
 まず、1番目は、学術研究等の最近の状況についてです。閣議決定文書の状況等について、事務局から説明をお願いいたします。

【山口学術企画室長】  それでは、資料1-1から1-3まで併せて御説明させていただきます。去る6月15日になりますが、三つの関連した閣議決定がなされました。いわゆる骨太の方針、それと未来投資戦略、更に統合イノベーション戦略、昨年、総合戦略と言っていたものですが、最後の統合といいますのは、趣旨としては、基礎研究から社会実装、国際展開までを一気通貫で実行すべく政策を統合したとの位置付けになっております。これら盛り込まれている基本的な趣旨、要素は軌を一にしております。非常に広範に学術政策等の関係でもございまして、政府開発投資の所要の確保や若手研究者支援への重点化、Society5.0やSDGsへの対応等々についてでございますが、分量や時間の関係もございますので、最も詳細かつ具体的に記載がございます最後の統合イノベーション戦略、資料1-2に基づいて4点ほど、トピック的に御紹介したいと存じます。
 資料1-2を御覧ください。まず1点目ですが、4ページ目を御覧ください。下線が一部引いてございます。ここは、国際共著論文が扱われているところでして、目標の一つとして位置付けられております。ただ、この国際共著論文の性格、扱いにつきましては、かねて学術分科会等でもかなり議論があったところでございまして、今般、内閣府との交渉過程におきましても、これはあくまでも研究力そのものの指標ではなく、国際化の指標の一端であるという位置付けに、私どもとしてもいわば強く押し戻して、このような形になっているところでございます。
 2点目として、6ページ目を御覧ください。本文中と注記のところに下線がございます。我が国の研究生産性が低い、論文当たりのコストが高いという指摘がございます。指摘があるという意味では、もちろんそのとおりなのですが、実質的に見まして、国際的な比較可能性のあるデータというものが必ずしも十分ではない。そういう状態にもかかわらず、かなり大ざっぱな比較でこのように断じてしまうことには、誤解を生む弊害も少なくないと考えられますので、なお書きとしまして、下の方にあります注記、注釈をぎりぎりのところで押し込み、一定のバランスをとったところでございます。
 ちょっと読み上げますが、「なお、研究生産性の検討においては、研究費投入と論文産出・公表のタイミングの違いや、特に国際比較の際は、研究開発費や研究者数の各国での算出方法の違い、研究の性格や機器の内外価格差の違いなどに留意する必要がある。」というくだりでございます。
 続いて3点目です。同様に、9ページ目を御覧ください。何か所か下線を引いておりますが、研究力向上に向けたリソースの重点投下・制度改革というところがございます。詳細は後ほど資料1-3の方で御覧いただければと思いますが、ここでは、科研費ですとか、JSTの戦略創造事業での若手への重点化ですとか、いわゆる海特、ポスドクを海外に長期派遣します海外特別研究員事業の拡充、あるいはいわゆる共共体制、共同利用・共同研究体制の様々な機能がありますが、新分野創成機能等の強化などを内容とする研究力向上加速プランを実施することとされたところでございます。
 最後に、同じく9ページ目の下線の中で、(オ)というところがございます。ここにつきましては、かねてより、現場からお声を頂戴していたところでもあり、今般、文科省といたしましても、内閣府にひとつ積極的に働き掛けをした、いわば目玉の一つでございまして、ちょっと読み上げますと、「プロジェクト型の競争的研究費で雇用される若手等が、プロジェクト以外の研究活動を行う際の要件等についての考え方を整理」していく、内閣府中心にしっかりやっていくということとされたところです。以上でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。私の方から1点、報告いたします。それは、委員の皆様方には事務局より連絡いたしましたが、科学技術・学術審議会総会及び総合政策特別委員会の方針により、各分科会で第5期科学技術基本計画の進捗状況の把握と分析を行うこととなっております。その把握と分析案については、既に事務局より委員の皆様方に照会いただき、委員の御意見を踏まえまして取りまとめていただきました。本日の参考資料4に入れております。こちらの資料で総合政策特別委員会に提出いただいていますので、皆さんには御了解を頂きたくお願いいたします。
 次に、研究環境基盤部会から報告がありますので、きょう、稲永部会長が御欠席でございまして、松本部会長代理より御報告を頂きます。松本先生、お願いいたします。

【松本委員】  御紹介いただきました松本です。部会長代理として研究環境基盤部会のことを御報告したいと思います。
 本部会は現在、審議を進めているのが大学共同利用機関の在り方に関する検討状況です。資料1-4を御覧ください。大学共同利用機関は、皆さん御存じのように、昭和46年に高エネルギー加速研究所が設置されたことを皮切りに、大学では実現困難な高度な人・物的資源を大学等の利用に供する共同利用の研究所として、我が国の学術研究を支えてきたところであります。平成16年の国立大学の法人化というのがございましたが、それに合わせて四つの大学共同利用機関法人が設立されました。その下に17の大学共同利用機関が設置されております。前期第8期では、研究環境基盤部会において共同利用・共同研究体制の在り方について審議が行われました。そして、平成29年2月に、意見の整理というものを取りまとめております。この意見の整理では、現在の四つの機関法人の枠にとらわれずに、大学共同利用機関を時代の要請に沿った構造とするために、第4期中期目標期間での各機関法人、大学共同利用機関の在り方を整理するとされました。
 このことを踏まえまして、今期、第9期では、研究環境基盤部会において、大学共同利用機関が基礎科学力の復権の牽引役としての役割を担うとともに、イノベーション創出など、今日の社会経済的な課題に貢献することができるよう、その在り方について、5月から審議を進めております。スケジュールが資料1-4にございます。
 検討課題につきましては、資料1-5を御覧ください。ここでは、四つの課題を中心に審議をしておりますが、(1)として、機関における研究の質向上を検討しております。中身は、1が機構法人のガバナンスの強化、2が人的資源の改善、3が物的資源の改善、4が機関構成の在り方になっております。
 (2)は、人材育成機能の強化、(3)が関係する他の研究機関との連携であります。この連携に関しましては、1、大学の共同利用・共同研究拠点、つまり、共共拠点との連携をどうするか。2としては、地方創生あるいはイノベーション創出とどういうふうに連携していくかということであります。(4)は、機構法人そのものの枠組みを中心に検討しております。この四つの課題を中心に審議をしているところでございます。
 具体的には、例えば大学共同利用機関が学術研究の動向に対応しつつ、その役割を果たすことができるよう、大学共同利用機関が備えるべき要件を定めるとともに、一定期間ごとに大学共同利用機関を検証し、その結果を踏まえて、その在り方を検討する仕組みを導入することなどを検討しております。
 今後、先ほどの資料1-4にありましたように、7月から8月にかけて4機関法人並びに総研大、総合研究大学院大学からのヒアリング等を通じて議論を深めてまいります。そして、検討の方向性を取りまとめていきたいと考えているところでございます。
 以上で該当の報告を終わります。

【西尾分科会長】  松本先生、どうもありがとうございました。
 先ほどの資料1-1から1-3、また、ただ今御説明いただきました資料1-4、1-5等に関することにつきましての御意見、御質問等は後でまとめてお受けしますので、どうかよろしくお願いいたします。
 最後に、中央教育審議会大学分科会将来構想部会で審議されている「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」について、事務局より説明願います。

【蝦名高等教育企画課長】  高等教育局でございます。お手元の資料1-6を御覧いただければと思います。今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめの概要と、その次のページ以降は本文となってございます。
 中教審におけます今後の高等教育の将来像につきましては、昨年の3月に、文部科学大臣から中教審に対して諮問が行われまして、その際には、経済社会の変化やグローバル化の急速な進展、本格的な人口減少社会の到来の中で、大学の在り方について検討すべしということで、四つの諮問事項がございました。1点目として、各高等教育機関の機能の強化に向けて早急に取り組むべき方策は何なのか。2点目として、変化への対応や価値の創造等を実現するための学習の質の向上に向けた制度の在り方、3点目として、今後の高等教育全体の規模を視野に入れた、地域における質の高い高等教育機会の確保の在り方、また4点目として、高等教育の改革を支える支援方策の在り方という4点でございました。
 これらにつきまして、昨年の3月から審議を開始いたしまして、一旦、昨年末に論点整理を行ったところでございますが、今回は、それに引き続き、最終的な答申の時期は秋と見定めながら、この時点でこれまでの議論の論点整理を深める形で行うというようなことで中間まとめを行うに至ったというものでございます。
 1-6の1ページ目に概要ということで、この中間まとめの内容をポンチ絵のような形で整理をしてございますので、これに基づいて御説明をと思ってございます。
 中間まとめにおきましては、まず2040年というのはどういう社会になるのか。その中で高等教育における課題と方向性というものは、どういうものがあるのかということについて、まず整理を行ってございます。
 2040年の社会の姿としては、一つには、持続可能な開発のための目標、SDGsを見定めた社会というものが展望できるのではないかということ、また、Society5.0や第4次産業革命ということが言われる中で、2040年というのは、現時点では想像もつかない仕事へ従事をし、幅広い知識を基に新しいアイデアや構想を生み出せる力が強みになっている社会となっているのではないか。また、人生100年時代と言われてございますけれども、生涯を通じて切れ目なく学び、全ての人が活躍し続けられる社会というものが展望できるのではないか。グローバル化ということは更に進んで、多様性を受け入れる社会システムが是非必要だという状況になっているのではないか。また、地方創生という観点からすると、より知識集約型経済に移行していく中で、地方の拠点というものが創出をされ、個人の価値観を尊重する生活環境が全国の各地で迎えられるといったような社会が展望できるのではないかというようなことで整理をしてございます。
 その上で、こうした2040年に向けた高等教育の課題と改革の方向性として、一つには、高等教育における学びというものを再構築する必要があるのではないか。具体的には、これまでも何を学び、身に付けることができるのかということを中軸に据えた学修者本位の高等教育というものを目指して、改革が進められてきていますけれども、これを引き続き追求をしていく必要があるのではないかということ、また、個々人の強みや卓越した才能を最大限伸長する教育や、文系・理系の区別にとらわれない、新しいリテラシーにも対応した教育や専門知と技術を組み合わせた教育の充実ということが求められるのではないかということ、また、この間、初等・中等教育については、新しい学習指導要領の作成の作業が行われ、特に社会に開かれた教育課程ということで、教育と社会との接点をより深めていこうというような取組が行われておりますけれども、こうした初等・中等教育を終えて高等教育に進学をしてくる、その接続の部分を意識した高等教育における、例えば社会に開かれたといったような文脈での在り方の再構築も必要ではないかといったようなことについて指摘をしてございます。
 また、こうした2040年を展望した場合、高等教育においては、これまでも担ってきたものでありますけれども、より新たな役割として任ずる必要があるものとして、一つには、リカレント教育を通じ、世代を超えた知識の共通基盤としての機能をより深めていく、よりその役割を強めていく必要があるのではないかということ、また、国内外に必要な教育を提供するような、例えば日本の高等教育機関が国際展開をしていく、海外にも教育の場を提供していくといったようなことを新しい役割として展望することができるのではないか、また、地方創生等にこれまで以上に力を注いでいくといったことが考えられるのではないかということについて、整理をしてございます。
 また、そうした高等教育に対する社会からの関与や理解と支援の在り方についても整理をしており、高等教育機関自らがその強みと特色を社会にしっかりと発信していくことが重要ではないかということ、その際には高等教育の質保証について、国内はもとより、国外でも認知がしっかりとされていく必要があるのではないか。また、産業界との関わりで言えば、雇用の在り方や働き方改革などが議論されておりますけれども、そうした産業界のニーズと高等教育が提供する学びのマッチングというものをより強めていく必要があるのではないかということ、また、公的支援においては、教育投資の効果を最大化する形で行われていく必要があるのではないか、こうした、それぞれ高等教育にまつわる様々なファクターが相互に結び付き、人材面での社会への高等教育機関としての還元と社会からの支援というものがそれに対して得られていくような好循環を生み出していく必要があるのではないかというようなことを記してございます。
 また、2040年、人口減少がこれから22年先ということですので、もう既に生まれた子供が社会へ、高等教育の場に出てきているわけでございますけれども、18歳人口の減少というのは避けられない未来でございますけれども、そうした状況を踏まえつつも、一旦社会に出た後も学びを継続するための魅力的な高等教育の提供といったようなものなども視野に入れながら、2040年を迎えていく必要があるのではないかとございます。
 具体的にどういった改革をしていくかということについて、この真ん中ぐらいから下の緑色の帯から幾つか整理をしてございますが、一つには、社会の変化に対応できる人材とその成長の場となる高等教育の在りようとして、個々人の強みを最大限に生かすことを可能とする教育に転換をしていく必要があるのではないか。先ほど2040年の課題と方向性で述べたところと同様でございますが、そのためには教育の質の保証と情報公表をより一層進めていく必要があるのではないかとしてございます。
 一つには、大学全体としての、高等教育機関全体としての教学マネジメントの確立と、その前提としての学修成果の可視化、学修成果をしっかりと可視化し、把握をするということが取組として必要ではないかということで、教学マネジメント指針というものを策定し、各大学に取り組んでいただくというようなこと、あるいは大学に学生の学修時間等の学修成果の情報公表を義務付けるということについて、引き続き検討する必要があるのではないかといったようなことなどが示されてございます。
 また、併せて高等教育機関として成立する際の入り口である設置認可、あるいは7年に一度といったようなタイミングでやってくる認証評価制度などにおいても、こうした教育の質の保証の観点から見直すことがあるのではないかといったようなことも触れられているところでございます。
 その下の赤い帯のところで、高等教育機関の教育研究体制として、多様性ということをキーワードとしながら、多様な教員、多様な学生、それから多様な教育プログラム、多様性を受け止めるガバナンスなどについて、今後の改革の方向性を示しているところがございます。多様な教員ということからしますと、実務家や若手、女性等、様々なバックグラウンドの教員の採用と、その質保証をしっかりと行っていく必要があるということ、あるいは多様な学生としてリカレント教育の充実や留学生交流の推進、あるいは先ほども少し出てまいりました高等教育機関の国際展開といったようなことについて、これらがより一層進むような仕掛けを考えていく必要があるのではないかということ。
 右側に移りまして、多様で質の高い教育プログラムということからしますと、学部等の組織の枠を越えて多様な資源を活用したプログラム、学位プログラムと呼んでございますけれども、といったようなことを大学教育の中心に据えることができないだろうかというようなことで、そのためには、様々なテクニカルには設置基準などのルールがございますけれども、それらについて緩和をするというような方向性を示唆しているところでございます。
 また、多様性を受け止めるガバナンスとして、大学や産業界、地方公共団体との恒常的な連携体制をしっかりと形作って、地域における高等教育の機会確保ということを実現していくといったようなことや、あるいは国立大学における一法人複数大学制度の導入、また、私立大学における学部単位での事業譲渡の円滑化、また、国公私の枠を越えて、ある部分についての連携した取組を可能とするような大学等連携推進法人、仮称でございますけれども、こうした仕組みの創設や、学外理事の複数名の登用の促進といったようなことについて整理をしてございます。
 また、こうした多様性を追求するということとともに、大学の多様な強みというものをしっかりと強化をしていくためには、大学の中軸となるような強みや特色というものをより明確化をしていく必要があるのではないかという点についても整理をしてございます。
 青い帯の18歳人口の減少を踏まえた大学の規模や地域配置というあたりは、昨年の年末に論点整理を行いましたところから、議論としては、目立った進捗はございませんが、2040年、これから22年後の大学進学者数の推計は、粗く見積もりますと51万人ぐらいになるのではないか。これは現在の80%ぐらいの規模になるのではないかというような試算を行うとともに、こうした18歳人口のみならず、リカレント教育等による多様な年齢層の学生の増加ということにも留意をする必要があるということにも触れてございます。
 その上で、将来像については、国として今後もこうした中教審での議論を深め、一定のものを示すということであるとしても、各地域において、自治体や産業界を巻き込んで地域の高等教育の将来像についての議論などが恒常的になされることが望ましいといったようなこと、そのための仕組み作り等について、方向性を示すところでございます。
 これらにつきまして、6月のこの時点で中間まとめとして整理をしたところでございますが、冒頭申しました諮問事項に対しまして、例えば高等教育の改革を支える支援方策の在り方など、これまで十分、中教審においても議論が進んでないものも一部含んでございます。今後、この中間まとめをベースにしながら、秋の答申に向けて更に検討を深めていくことになろうと思います。
 説明は以上でございます。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 それでは、資料1-1から1-6までの御説明につきまして、御意見あるいは御質問等ございましたら、何なりと頂ければと思いますが、いかがでしょうか。どうぞ。

【林科学官】  京都大学の林と申します。科学官として参加させていただいています。今、高等教育企画課長の方から御説明ありました教育の質の保証と情報公表というのにちょっと質問があるんですけれども、この学修成果の可視化の一つの例としまして、例えば知識、理解、強み。知識、理解は恐らく学生の成績なんで、どれぐらいこちらが教えたことを達成するかとか、そういうことで客観的に測ることができますけれども、普遍的なスキル、リテラシー、それから、再生、理論と実践、それから、論理的思考力、あるいは態度・志向性、こういったものは一体何をどのように想定しているのか、もう少し詳しくお知らせいただきたいんですが。

【西尾分科会長】  それでは、お答えいただけますでしょうか。

【蝦名高等教育企画課長】  ありがとうございます。御指摘の情報公表、学修成果としてどういった情報について把握をし、公表するかということについて、これまでどういった評価をされているかということでございますが、お手元の資料1-6で本文の方にありますけれども、27ページぐらいから、教育の質の保証と情報公表についての検討の状況が示されているところでございます。その中で29ページぐらいから、具体的な方策ということが整理をされてございまして、まず、ここ全体について、教学マネジメントの確立ということが必要だと。そのためにも、教育情報をしっかりと把握し、測定し、活動の見直しに活用するといったようなことが必要だということで、把握、それから、公開の義務付けが考えられる情報の例として、この本体の方の29ページから30ページぐらいにかけて整理がされている部分がございますが、把握・公表ということについて、例えば、単位の取得状況とか学位の取得状況、進路の検討状況等の卒業後の状況等々といったこと、大学教育の質に係る情報としては、入学者選抜の状況とか留年率、中退率といったことなどが示されてございます。
 一方、把握や活用、公表の在り方について一定の指針を示すことが考えられる情報の例として、これは公表までは求めないけれども、大学として教学マネジメントを回していくために是非とも把握していただくことが望ましいのではないかと考えられるものとして、例えば、アセスメントテストの結果、資格取得や受賞、卒業論文・卒業研究の水準等々に加えて、ナンバリングの状況とか履修系統図の活用状況等々といったことがこの時点での検討の結果として示されているということでございます。
 御質問いただきましたのは、これらをどのように把握するかということだったように伺いますが、ここも、こうしたものが例として考えられるだろうということで、引き続きの検討が必要ということにされておりますが、いずれにしても、まず把握をしていただき、公表の義務付けまでという、かなり重いタスクを大学の方にお願いするものについては、数値的に把握が比較的容易であろうと考えられるものでもって考えているところでございます。
 その上で、把握や活用、公表の在り方について指針を示しながら、各大学の状況も踏まえて、それぞれにお取り組みを頂くようなもの、また、公表を義務付けるところまで考えていないものとしては、先ほど述べたようなアセスメントテストの結果以降の幾つかのことを例示しているということで、ここは、ものによっては段階的に考えているところでございます。いずれにしても、引き続き検討しているということでございます。

【西尾分科会長】  先生、よろしいですか。
 ほかにございますか。どうぞ。

【荒川委員】  東京大学の荒川です。資料1-6の最後の「高等教育機関の教育研究体制」の標題の中で、教育体制あるいは学部教育についてはよく議論がなされている印象を持たせていただきましたが、研究体制について余り言及されてないような気がしました。これはあえて避けられたと理解してよろしいでしょうか。

【西尾分科会長】   お答えいただけますか。

【蝦名高等教育企画課長】  ありがとうございます。全体を通じて、確かに学部教育をかなり想定した議論がこれまでされているところは事実でございまして、大学院の関係につきましては、現在、中教審の大学院部会での検討が進められています。中間報告の段階では、こうした大学院部会での検討も踏まえて、お手元の1-6の資料でいきますと36ページ以降に「各高等教育機関の役割等」ということで、学校の段階等々を踏まえて今後の方向性について指摘してございますが、その中で、37ページ以降に大学院について整理してございます。現在、大学院部会の方で検討しているものを、この段階でこういった方向性で示せるだろうというものについて一定程度の整理をしてございますけれども、全体として学部における教育というものが念頭に置かれているような感じをお受けとめかもしれませんが、実際そういったことでございまして、最終的には、こうした将来構想部会における検討と大学院部会における検討を全部合わせた形で、今後の高等教育の将来像という形で整理できたらと思っております。

【西尾分科会長】  荒川先生、よろしいですか。
 ほかにございますか。どうぞ。

【小林委員】  最後の「多様性を受け止めるガバナンス」のところで、国公私の枠を超えた連携を可能とする大学等連携推進法人制度の創設を御検討いただいているところですが、これは大学のみならず大学共同利用機構法人、あるいは大学共同利用機関も含めて御検討いただいていると理解してよろしいでしょうか。

【西尾分科会長】  回答をよろしくお願いいたします。

【蝦名高等教育企画課長】  ありがとうございます。連携推進法人、仮称でありますけれども、これにつきましては研究開発法人のようなものも含めて考えていく必要があるだろうと思っています。
 具体的には、例えとして適当かどうか分かりませんが、一般社団法人の形をとりまして、ある一定の業務について各法人が社員として参加をし、そこの法人を舞台にして一定の業務を共同して行うというようなことを考えておりますが、一つには典型的に考えられますのは、地域単位で、地域の国公私の大学が共同してある一定のこと、それは、事務的な物品の調達ということもあるかもしれませんし、ある一定の教育の分野について共同で何かをしようということもあるかもしれません。そういった地域的なつながりをベースにした共同的な連携した取組を一つ想定してございますが、それに加えて、例えば研究などの分野におきましても、国公私を通じた大学と研究機関の間で、一定の業務といいますか、分野についての連携協力を行うと。そういうことを進めていくための仕組みとして、こうした法人を併せて検討しているというような状況でございます。

【西尾分科会長】  先生、よろしいですか。
 そうしましたら、相澤先生、どうぞ。

【相澤科学官】  科学官の相澤です。1点、資料1-2のイノベーション戦略に関してのコメントです。この資料の中では、大学に関してのイノベーション、それから国際化、産学連携、若手等の話がいろいろ大学関係のことが出てくるわけですけれども、それぞれかなり分野依存性が強い問題があるんじゃないかと思っています。大学のことを議論するときに、大きく分ければ理工学・情報とバイオ・医学、それから人文・社会という大きく三つのカテゴリーは相当性格が違うところでもあり、何か一緒くたにした議論をすると、なかなかなじまないところがあるんじゃないかと感じています。より分野を限定して、キーワードを入れていただけると、大学の方へのメッセージとしては届きやすいと思った次第です。

【西尾分科会長】  いかがでしょうか。

【山口学術企画室長】  御指摘は本当にそのとおりだと思っております。まさに本日の会議でも、人文・社会科学の検討などもそういったことの表れかと思いますし、あるいは研究時間の分析等においても、平均値だけで見ていてもなかなか見えない、分野による違いなどもございます。そういったことを一層留意して進めてまいりたいと思います。

【西尾分科会長】  どうも貴重な御意見をありがとうございました。今後、今の御意見を反映していくということで対応したいと思います。
 磯谷研究振興局長が到着されましたので、一言お言葉をいただけますでしょうか。

【磯谷研究振興局長】  今年の1月16日付で前任の関から引き継ぎまして研究振興局長に就任しました磯谷でございます。
 学術分科会、余り開催されてなかったんですけれども、これからしっかりと先生方の御意見を頂きながら、学術の振興に取り組んでいきたいと思います。よろしくお願いします。

【西尾分科会長】  どうかよろしくお願いいたします。
 それでは、ほかに御意見等いかがでしょうか。どうぞ。

【白波瀬委員】  説明ありがとうございました。1点だけです。2040年の社会像に向けた将来像を御議論いただいているわけですけれども、いつも枕詞に18歳人口の減少ということがあって、それに対応するためにリカレント教育とか実務家と、そういう流れのような気もするんですけれども、全体としてもう少し積極的なアクションというか将来像を提示していただけると大変有り難いと思います。
 リカレントといっても、今までどういう人生を歩んできたに関わらず、高等教育を改めて受けるとか、あと若干違和感は、新たな教員として、実務家があって、若手、女性、外国籍となっていますが、質的に異なるカテゴリーが同列にある印象をうけます。学部教育を中心ということのようなんですけれども、高等教育の市場を拡大するという点でも、国際化、インバウンドの話は、本文の中にもあるんですけど、20年ではなく40年の将来像なので、もう少し積極的な形のメッセージを頂けると大変有り難いと思います。感想です。

【西尾分科会長】  今頂きました御意見に対しまして、何かコメントいただけますでしょうか。

【蝦名高等教育企画課長】  ありがとうございます。先ほどの「多様な教員」のところは、少し構造化できるように努力したいと思います。ちょっと平坦に並び過ぎていますので。
 それと、2040年について、18歳人口の減少というのは避けられないことだろうと思いますが、その中でも、大学の数はそれに比べて多いので、統廃合だと、もうシュリンクしていくという将来像は、我々としては是非とも描きたくない。それは、数の問題もあるかもしれませんけれども、できるだけ大学としての教育・研究の機能が高まるような形で連携・統合というものも、そういった文脈の中で考えていきたいと思っているところでございまして、御指摘も踏まえてしっかり取り組んでいけたらと思っています。
 リカレントとインバウンド、あるいはアウトバウンドということもあるかもしれませんが、そのあたりも、特にリカレントに関しては、この間、人生100年ということでの検討なども進み、例えば厚生労働省が持っている給付金のようなものも含めて高等教育機関での活用拡大のような議論もありますし、そこは少し、そういった新たな分野、もちろんこれまでも取り組んでいたわけですけれども、少し次元の違う取組として前向きに取り組んでいけるようなこともこの中で描けたらと思っているところでございます。
 また、国際展開のようなことも含めて、大学という知的な基盤が、18歳を中心に提供されてきたわけでありますが、それを余すところなくその機能を発揮できるような方策を見据えたような答申を目指せていけたらなと思います。ありがとうございます。

【西尾分科会長】  よろしいですか。
 ほかにございますか。どうぞ。

【瀧澤委員】  瀧澤でございます。先生方は専任で大学で教えていらっしゃると思いますけれども、私も、非常勤で慶應義塾の理工学研究科で、サイエンスライティングを8年ぐらい教えております。
 そこですごく感じますのは、ちょうど学生が、修士の1年生が多いんですけれども、就職活動を始める頃なんですね。慶應だと修士を出て就職する子が多いんですけれども、そうすると、そのときに初めて……、初めてと言っては語弊があるかもしれないですけれども、自分の人生をどういうふうに生きるのか、どういう価値観を持ってどういう会社を選んだらいいのかというのを真剣に考える時期なんですね。人生についてなるべく私なりに関わっていこうと思って、いろんな相談を受けるんですけれども、彼らはとにかく人生の中で、これからの人生失敗したくないという思いが物すごく強いんですね。私なんか自分が失敗を連続してきた人間なので、失敗することはそんなに大したことではないと思っているんですけれども、彼らは小さい頃から非常に大切に育てられてきて、心配している。よく聞いてみると、そんなに大きな失敗というのがなくて、人生最大のピンチなんていう課題を出すと、受験勉強がどんなに大変だったかというような回答が出てくるぐらいなんですね。
 私が常々言うのは、慶應ですから、出ると、社会の指導層になっていくので、自分の頭の中だけがお花畑でいいんじゃないんだよと。社会のためにどう自分が生きていかれるのかということを考えていかなきゃいけないんだよと。ちょっと私から見ると恥ずかしいようなことを言っているわけですけれども、そうするとそれなりに彼らも目を輝かせて、そういう話を今までしたことがなかったのですごく新鮮ですというような話をしてくれるんですね。
 ですから、何というか、知識も大事なんですけれども、知識は、1回社会に出て、今話に出ているようなリカレント教育ですとか、そういうものでまた新たに蓄えることもできるんでしょうけれども、その基礎になる自分の人生のテーマ設定ですとか、どういうふうに生きていくんだというところが、今、学生と関わっていると、余りにも乏しいのではないかなと感じてしまうわけなんですね。なかなかこういう文章の中にそういうことは反映しにくいと思うんですけれども、実はそういうことがすごく重要じゃないかなと感じます。

【西尾分科会長】  どうも貴重な御意見を頂き、ありがとうございました。今後の高等教育の在り方を考えるときに、今お話がありましたようなことに対して、学生がいろいろ考えられるような、そういうプロセスも大切ではないかという御意見だと思います。今の御意見をきっちりと反映していただければと思います。
 ほかにございますか。そろそろ時間が来ておりますが、先生どうぞ。

【大島委員】  東京大学の大島です。資料の1-6の今後の高等教育の将来像に向けてということで、非常によくまとめていただいたと思います。この中で2点についてコメントがございます。1点目は高大接続のいわゆる学部教育と、もう1点は大学院のリカレント教育についてです。
 高大接続について、2020年に入試改革も行われます。また、新学習指導要領への移行もありますので、是非、教育課程部会と連携しながら、この2020年の節目に際して、初等中等教課程から高等教育課程の学部教育へとシームレスにつなげていただけると有り難いと思います。
 もう1点、リカレント教育についてですが、これに関しては、ほかの委員からも多くの御意見がありました。リカレント教育については、長年言われてきていますが、なかなか進んでないところもあります。現在のリカレント教育に関しての課題を一度整理していただいた方がいいのではないかと思います。その整理とともに、こちらのリカレント教育は、企業あるいはほかの分野、大学、大学院だけではなく、社会との連携も非常に大事なので、その観点における課題を出すとともに、解決に向けていただけると有り難いと思います。
 以上です。

【西尾分科会長】  リカレント教育に関しましては、今後、その質とか内容とか、あるいは社会との連携についていろいろな課題があると思います。そこで、早急にリカレント教育に関して、どういう内容のものをしていくかということを徹底的に議論していただくことは大事かと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

【井関委員】  東京医科歯科大学の井関でございます。1点だけ簡単な質問をさせてください。国際展開ということを考えたときに、海外と日本は教育システムの違いがあると思います。例えば、医療系ですと、今6年制を出て、その後は博士に進みますが、海外では修士を取ることも可能になっていると思います。今の状況だと、間違っているかもしれませんが、修士課程を作ってもいいんじゃないですかと大学で申しましたら、いや、それはできないというふうに言われた記憶があります。国際展開するに当たっては、日本側の教育システムを柔軟な形にしていくことが可能になると考えてよろしいでしょうか。

【蝦名高等教育企画課長】  ありがとうございます。国際展開を図っていく際に、まず取り組まなければいけないことの一つとして、せんだって東京規約というのを発行しまして、これは日本も含めてアジア諸国まだ5か国ですが、お互いの高等教育に携わる学生なり研究者同士の行き来を、流動性を高めていこうと。特にお互いの学位の仕組みとか高等教育機関の制度がどうその国に位置付けられているかという、お互いの情報をお互いがほぼ知らない状況で、大学同士が手探りでやっていますというようなことを国レベルで少し解決しようじゃないかということで、それぞれの国にインフォメーションセンターを作ると。それぞれの国の高等教育なり学位に関する情報をしっかりと発信していこうという取組が行われていて、こうしたものがアジアだけじゃなくて進んでいくとなれば、受入れのときにあれこれと悩んだ結果やはり無理だねとなっていったようなものも進んでいくというようなことが展望できないだろうかということが一つございます。
 あと、それの進み具合も見ながらではありますけれども、例えば、大学に上がるまでの過程が12年じゃなくて11年の国もあり、そういった国について、どう日本側に受け入れていくか。これには規制緩和が必要なわけですけれども、そうした緩和策にどのようなことが考えられるかといったことなども検討しているということで、国際展開を進めていく上では、日本の教育に対する評価は高いといえば高いですけれども、しかし郷に入っては郷に従えという部分もあるでしょうし、まずはお互いどういうことを制度として持っているのかということを情報を共有し合うとともに、それぞれの制度が担保している質があると思いますけれども、その中で譲れる部分については折り合っていくといったことも今後展望していかなければいけないのかなと考えております。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。きょうは高等教育局の方から御説明いただきましたところ、大変貴重な質問がたくさん出ております。今後もこの分科会と高等教育局との関係については、綿密に連携を取っていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
 最後に1点だけ、気になることがあります。資料1-3の説明が本日されてないのですけれども、その最初のところに、研究力向上加速プランというのがありまして、そこで科研費に関しては若手研究者への重点支援ということが書いてあります。これは重要なことだと思うのですけれど、それの3ページの参考資料のところに行きましたときに、科研費による若手研究者への支援強化の三つ目の丸のところに、大型種目から若手研究者を中心とした種目への重点化と書いてあります。その意味が、大型種目の予算を若手研究者を中心とした種目の予算に移すことによる対応ということであれば問題があると思います。大型種目はそれなりに重要であると思っていまして、その辺りの今後の対応については十分な配慮が必要だと思います。
 若手研究者への支援は、現在、日本にとって非常に大きな課題であり、予算の削減等で若手のパーマネントのポジションが非常に限られてきているということは深刻な問題です。ただし、日本における研究力全体を考えたときに、若手だけを増やせばいいということではなくて、我が国の研究者全体の年齢構成として、理想的な構成比率が多分あるのだと思っています。その辺りをきっちりと分析データ等を基に考えて、どのような年齢構成比率が適切かということを考察した上での施策を打っていくことが重要ではないかと思います。
 それと、先ほどから研究生産性という言葉が出ています。私としては新しい言葉として聞いておりますので、この定義は一体何なのかというようなことも含めて今後議論が必要かと思っております。
 時間が来ておりますので、次の議題に行かせていただきます。学術研究の研究力強化についてということで、日本の研究力低下の主な経緯、構造的要因等について、事務局より説明願います。

【山口学術企画室長】  資料2-1から3までについて、併せて御説明いたします。
 まず資料2-1を御覧ください。総括ペーパーとなっております。本資料の位置付けとしては、近年指摘されております我が国の研究力の相対的な低下傾向、このことについては複合的な要因が想定されるわけですが、科政研(NISTEP)を始め関係部局の協力を得ながら、論文指標を中心に、従来に比べ一定深掘りの分析を試みたものでございます。
 今世紀に入ってからの我が国の自然科学系のノーベル賞受賞者数は米国に継ぐ水準でして、我が国の研究水準の高さや層の厚さを象徴している面がございます。一方、同時にそれらは、二、三十年前からの努力と支援が結実したものであるという側面も見逃してはならず、同様に、本分析でも、構造的な把握のためには、少なくとも1990年代程度まではさかのぼる必要があると考えたところです。
 その際、大学を取り巻く社会・経済的背景を含め、歴史的経緯について振り返りつつ、時間軸と主体ですとか空間軸とをクロスさせ、世の中で同時期に、あるいはその前後にどういうことが起こっていたのかという、関連性やタイミングに特に注目しながら、俯瞰的な考察に努めたものです。
 また、従来の分析に比べ、マクロだけでなく、先ほども関連する御指摘がございましたが、分野ですとか主体ですとか、可能な範囲で、よりミクロにも、さらに、相対値も大切ですが、絶対値そのものにも目を向けるよう、特に留意したところです。
 総括的なまとめとして、主な構造的要因として3点挙げさせていただいております。詳しくはまた次ページで見てまいりますが、第一に、一つの大きな契機となりましたのが、90年代以降の企業の基礎研究撤退と言えるのではないか。第二に、大学と企業双方での研究者としてのキャリアパスの狭隘化・不安定化による、博士課程学生を含む若手研究者の厚みの減少。そして第三に、特に近年、教員の実質的な業務量増加、あるいは自由な研究資金の減少、そして若手ポストを中心とした更なる状況悪化、これらがボディブロー的に拍車を掛けた。こういったことが相まった形で、典型的には論文生産性の高い若手研究者の厚みが、自然減ももちろんありますが、それにもまして減少したこと。そして、先ほど西尾会長の方からも御指摘ございましたけれど、アカデミア全体としても研究環境が悪化したこと。こういったことが研究力低下の最大の要因と言えるのではないかと考えたところです。
 下段を御覧ください。こうした問題意識の下で、改めて今後の方向性としまして、第一には、自由で多様な研究を担保していくこと。第二に、企業との連携ですとか、あるいは修士課程段階も含め、適切な情報提供などを通じ多様なキャリアパスを描き直し、企業との実践的な接点ともなる大学院教育をより実質化していくこと。そして第三に、人件費やポストの観点も含めた形で若手をしっかりバックアップしていくといったことが考えられます。
 そうしたところから、さきに触れた研究力向上加速プランなど、本文の中で説明してしまったため、資料1-3自体は御参照くださいという形にしてしまって申し訳ございませんでしたが、若手をより一層応援していく方向、ただ、それは全体の年齢構成等も見ながらということでございまして、関係する人材委員会や大学院部会などでも、研究力強化に向けて、総合的な研究人材の育成確保に係る検討が進められているところです。
 2枚目を御覧ください。以上の要因分析を時間軸、空間軸の形でプロットしたものです。説明の便宜上、3列ございますが、まず右側の企業を取り巻く状況について通しで見てみたいと思いますので、御覧ください。
 まず、記載ございませんが、前史として80年代後半には貿易摩擦を背景に、いわゆる基礎研究ただ乗り批判ですとかバブル景気が相まって、企業では基礎研究ブームが興隆していたところです。ところが、90年代に入ってバブル崩壊後、中央研究所が次々に廃止・縮小されていき、基礎研究から急速に撤退した格好となりました。
 その結果、まず、産業に関わりが深い、いわば日本のお家芸的な分野と言われた物理学ですとか材料科学・化学等の、しかもトップ論文を中心に論文数が激減いたしました。また、企業での理学を中心とする分野での研究者需要後退に伴い、後を追うように、2000年代に入って、それら関係分野での博士課程への進学者が減少に転じ、また、リストラされた企業の研究者も、アジア諸国へいわゆる頭脳・技術流出をし、その数、一つの推計ですが、特許を保有する一流研究者だけでも1,000人を超えます。
 さらに、バブル崩壊後、失われた10年、20年と来たわけですけど、団塊世代の60ないし65歳到達に伴う退職開始以降は、逆に新卒者はバブル期以上の売手市場ということで、アカデミアに残ることが民間就職に比べ見劣りしやすくなり、マスター段階の早期から研究が手に付かないような状況も見られるようになっている状況にあります。
 続いて、大学に着目して、左側の欄を御覧ください。国立大学では、80年代に本格化した財政再建路線、マイナスシーリングの下で、次善の策ということではございましたが、助手、技官等を上位ポストに振り替えるということによる予算確保という実態が一定進展してございました。続く90年代にかけては、少し視野を広げますと、東西冷戦終結ですとかインターネットの普及によって、世界の単一市場化が一気に加速するというパラダイムシフトが起き、更に我が国では、団塊世代が管理職となり、18歳人口がピークを迎える、そういった事情が重なった時代でもございました。
 そうした中で、国際的な研究競争激化等を背景に、91年に大学審議会から、大学院学生の規模を少なくとも2倍程度にという答申が出され、大学院重点化による指導体制の充実等を図るため、こちらも高齢化による自然増もありますが、それにもまして、若手ポスト等から教授ポストへの振り替えが加速し、ポストの逆ピラミッド化が進展いたしました。
 2000年代以降、博士課程進学者数は減少しますが、社会人や留学生の増加などで、両者を合わせるとシェアにして過半数に達します。教員一人当たりの学生数を指すST比、大学院ST比は、高止まりの状況が継続いたしました。
 また、下の方ですが、特に法人化以降、社会からの期待と責務の高まりに伴い、教員の研究活動以外の業務量も増加しましたが、常勤教員当たりの常勤職員数で例えば見ますと、医療系を除くと横ばい、あるいは絶対数で見ても技術系職員数は実数で減少しているといった状況でして、教員一人当たりの業務負担は実質増加いたしました。各種業務に伴う象徴的には学内会議の多さの合理化が、最も研究時間の確保につながるとの声が大きくなっている状況でございます。
 最後に、真ん中の接点といいますか、若手研究者を取り巻く状況についてです。企業や大学でこのように変化があり、若手研究者にも影響が及んでまいります。博士課程の学生数、倍増しますとともに、続いて打ち出されたポスドク等1万人支援計画も早々に達成されまして、90年代末のタイミングで、我が国の論文の世界における存在感といいますか、シェア、順位は既に最盛期を迎え、逆に言えば、そこがピークであったということになります。
 しかし、先ほど触れましたように、企業での研究者需要後退もあり、2003年をピークに理工系の博士課程進学者数は減少に転じました。また、アカデミアの方でも若手ポストが少なくなっている先ほど触れた状況の中で、人材流動性向上を目指した任期制普及ですとか、期間限定、分野特定の大型プロジェクト雇用の拡充によりまして、若手のキャリアパスという面からは結果的に問題が先送りされる格好となりました。このように、いわば綱渡り的な脆弱な構造の下で、特に法人化以降は基盤的な経費の減少や、更に義務的な経費、管理費の増、例えば法定福利費、消費税ですとか、電気代や電子ジャーナルの高騰ということもございます。自由に使える研究資金が減少いたしました。
 また、法人化自体とは直接には別の問題ですが、同時期に、行革推進法に基づく総人件費の抑制ですとか、高齢者雇用安定法改正を踏まえた定年延長なども重なりました。これら相まった形で世代交代がうまくいかず、任期なしの若手ポストが少子化による自然減以上に減少し、ポスドクや助教も高齢化傾向を招いているといったところです。
以上が構造的な要因分析の概要でして、本来、バックデータのところが肝腎なんでございますけれども、時間の関係で何点かだけ、特に御覧いただければと思います。
 資料2-2が関係する参考データ集となっております。例えば2ページ目を御覧ください。セクター別の経年グラフでして、国立大学の論文生産は、実は既に90年代末から停滞期にあったことですとか、トップ論文はより明瞭かと思いますが、あるいは少し言い方が変かもしれませんが、国立大に勝るとも劣らぬほど、企業論文が減少しているということが分かるかと思います。
 また、4ページ目を御覧ください。研究大学の象徴ということで、東京大学を例に取った数値でございますが、先ほど言及したST比の推移でして、大学院重点化の過程で高まった教員負担が、その後も構造的に高止まりしているということが分かります。
 あるいは、5ページ目を御参照ください。分野別に見る必要があるということの一つの典型的な現れですが、我が国の論文は全分野で平均的に減少したわけではなく、分野別に明瞭な特徴があるということなどが見てとれるかと存じます。
 続いて、関連して、資料2-3の方を御覧ください。本分析を深める過程で多くの有識者ですとか研究機関、団体などの方々からヒアリング等で御協力を頂きました。その中で現場での特色ある具体的な取組事例も多く収集しましたので、積極的に情報共有を図ってまいりたいと存じます。これらは1例ですが、かいつまんで紹介したいと思います。
 まず、研究活動以外の業務の在り方ですが、学内会議について多くの取組事例がございました。中でも、整理方針を定め、事務職員も意思決定を担ったり、業務の性格に応じて手当を支給することで、コスト意識やインセンティブを伴った運営を行い、委員会等を多数削減している例ですとか、組織の大ぐくり化、あるいは運用上複数の会議を集中的に開催するなどの例がございました。
 また、次ページですが、クロスアポイントメントは企業との例なども出てきておりますが、学内でも柔軟にクロアポを運用する例もございます。また、研究費の獲得状況、この辺はいわゆる文系に配慮した形であったりもするわけですが、そういったものですとか、講義の在り方など運用の工夫によって各種業務の負担を軽減する例も多数ございました。
 次に、キャリアパスの形成関係としてまとめたところです。例えば、原則全ての助教にテニュアトラックを適用することで、あらかじめキャリアパスを明確化する例ですとか、意見ということでございますが、キャリアパスということであれば、博士人材を官公庁も積極採用してほしいという声も多くございました。
 また、海外留学等については、学生自身が留学の必要性を感じなくなってきていることですとか、帰国後のポストへの不安、代替教員確保の困難さ、海外経験が評価されないなどといった課題に対応した形で取組例があったところです。
 続いて、若手研究者の関係です。若手研究者といっても、様々な観点が重複していたりもしますが、例えばということで、若返りとなるような振り替えについて本部で手厚く支援するような例ですとか、あるいは組織や人員の柔軟な運用を進めたり、職位ごとの相対評価の要素を入れていく例などがございました。
 また、研究専念ということで、会議の役職指定という運用の工夫ですとか、サバティカルでの条件緩和、通常7年程度という例が多くなっている中、3年や5年で認める例ですとか、あるいは先ほども一部言及いたしましたが、プロジェクト型の研究において、別の研究を行う余地を担保するような工夫例などがございました。
 最後に、研究推進・支援人材関係ですが、URAの関係では、URA自身のキャリアパス形成にも資するような取組ですとか、URAが若手、女性、外国人研究者などにきめ細かな支援をする例、あるいは本格的に国際化支援に貢献する例などがございました。
 また、先ほど減っているという話をさせていただいた技官につきまして、全学組織化することで幅の広い対応を可能にしている例などもございました。
 長くなりましたが、ひとまず以上とさせていただきます。

【西尾分科会長】  御説明どうもありがとうございました。文部科学省の方で研究力低下の主な経緯、構造的要因等をこういう形で分析いただきました。説明の内容を伺うにつけても、相当深刻な状況です。これをどのように打破していくのかということが我が国にとって非常に重要だと思っております。資料の2-3の方は、そのような深刻な課題がある中で、研究力向上に向けたグッドプラクティス的なものを掲げていただいている次第です。
 そこで、事務局にお伺いしたいのですが、資料において、片方は要因であって、もう片方がそれに対しての改善案なのですけれども、きょう議論をしていただく内容は、要因分析の内容が、書かれている内容で問題ないですかということが一つ。もう一方で、記載されていることに加えて、何か更に別のグッドプラクティスをなさっている方がこの分科会にいらっしゃれば、それをお話しいただくということでよろしいんですか。

【山口学術企画室長】  おっしゃるとおりでして、いずれにしても既にこういった一定の方針の下で走っている部分もございます。ただ、ちょっとここはこういう点に留意するべきじゃないかですとか、ここはもっとこうした方がいいですとか、そういう意味で全体的に必要な御指摘を頂戴できればと思っております。

【西尾分科会長】  それで、本日頂く御意見が、今後の文部科学省いろいろな施策の中に生かされていくということでよろしいですか。

【山口学術企画室長】  はい、おっしゃるとおりです。先ほども少し申しましたが、例えば人材委員会ですとか大学院部会などでも関連した議論をしておりますので、そういうところとも連携してしっかり伝えていくという面もございます。

【西尾分科会長】  ありがとうございました。どうぞ。

【小安委員】  ありがとうございます。しばらく前のこの分科会で、「いろいろな政策をやったにもかかわらず、研究の成果が上がらないからけしからん。」みたいなプレゼンがあったときに私はすごく怒って、「政策が間違っていたとなぜ認めない。」と発言しました。その後にこういう分析が出てきたことに対して非常に敬意を表します。こういう分析があって初めて我々は議論ができると思います。
 さて、先ほどの1-3の資料に関して最後に委員長がおっしゃったことが非常に気になったので、そこに引っ掛けて、若手のことに関してもう少し分析が必要ではないかと申し上げたいと思います。
 これは先ほど相澤科学官が分野の検討が必要だとおっしゃったこととある程度関連するのですが、今、我々がやっている「若手を支援しろ。」というのは、実はあれは若手を放り出しているだけであって、全然支援になっていないということを非常に強く感じています。
 多分に分野の特性があるとは思いますが、私はライフサイエンス分野の、どちらかというと医学系ですが、ある程度規模の大きな研究室というのは若手にとって非常に大事です。若手を全員独立させてしまって、教授も准教授も助教も全部同格で全員が独立といったら、聞こえはいいんですけれども、僕は単に放り出しただけだと思っています。高等教育局が帰ってしまったのは非常に残念です。
 科研費の採択の分析をしていたときに気づいたことがあります。例えば若手Aや若手Sにどういう人が採択されるかというと、ほとんどがビッグラボに所属している優秀な若手です。なぜかというと、彼らが優秀なのはもちろんですが、彼らは別にその研究費が取れなくても、困らないのです。つまり、ある程度大きなラボの中でみんなが基盤的な経費を使えているから採択されなくても明日からの研究に困ることはないので、大型の競争の激しい研究費に応募できるのです。ところが、本当に独立しちゃった人間は怖くてそんなリスクが高い研究費に応募できないのです。私は若手に手厚くといって若手Aや若手Sを作ったといっても、やり方が間違っていたのではないかと今でも思っています。
 ですから、分野の特性まで踏まえて、どうやって若手を支援していくかということを考えるべきであって、今の若手の置かれた状況が正しいのかどうかということをやはり分析する必要があると思います。
 ちょっと長くなってしまいましたが、以上のようなことを考えると、若手、若手といって大型種目を全部若手に振り替えるなどという、こんなばかな議論をすべきではなくて、本当に若手が活躍できる環境をどうやって作るかという議論をすべきです。放り出すのではなく、もう少しちゃんとした支援にしてほしいというのが私の意見です。ありがとうございました。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。

【甲斐委員】  今の関連で、若手に関して一言意見を言わせていただきたいんですけど、西尾先生が資料1-3の最後に言及なされましたが、今までは高等教育の在り方に関することなので、この部分は研究に関することなので、研究の方でこの議論を行うのかなと思っておりました。この若手研究者への支援強化というのは多分CSTIから突然あげられた案であって、ここでもんで出た案ではないと思います。学術に関することを最も議論しているのはここの場ですので、文科省もCSTIの意見をそのまま受けるのではなく、この審議会等で良く議論して構築した意見も上げていってほしいと考えています。
 科研費を大型種目から若手研究者を中心とした種目へ重点化していくという方針、この方向性で実行すると日本は将来的に大変なことになると思います。日本で言う大型種目は、海外と比較すると、決して大型ではありません。基盤Aであっても年間千数百万ぐらいしかならないので、それはアメリカでいえば若手が申請する額です。日本で言う若手研究者の種目というのは、最も数が多いのは若手Bなんですけど、これは年間200万足らずです。このような種目を大幅に増やすために、日本で言う大型種目を減らしてしまったら、世界との競争力はなくなります。
 資料には、「科研費において」という枕詞が付いているんですけど、付いていなければ他の様々な競争的資金制度で対応することが可能なんですけれども、この枕詞があると科研費制度の方針に影響します。若手を強化するということは耳障りは良いのですが、科研費制度を熟知した上での策をたてていかねばならないと思います。是非ここでしっかり考えた意見を反映してほしいと思います。
 それからもう一つ、今、小安委員が言われた話に同意することですが、日本で言う若手の支援とか強化とかいうのは、もう少し分析して考え直していただきたいと思います。若手を一人一人PIにしてしまって別々にするということは、小安委員のおっしゃるように、若手を放り出していて、若手にとって決していい研究環境を与えないです。付け加えると、若手ばかりではなくて、実は教授、准教授も大変になります。日本は外国のように、研究費でポスドクを何名も雇えるような研究費はほとんどないんですよ。その中で研究を進めるためには、日本的な家内工業的にみんなで頑張るというか、研究室全員の獲得研究費等を合わせて全体で協力して研究を進めるという、理系ではそういう研究室が多いんですね。
 そういうふうにやっているのに、教授、准教授、助手を一人一人にさせてしまうと、私は生物系なんですけど、例えば毎年入ってくる学生に教授もピペットの持ち方から教えなきゃいけないんです。これは、教授が授業・実習・大学運営・各種委員会その他いろんな業務もある中で毎年毎年そこからやらなきゃいけないとしたら、本当に研究にならないですね。最先端の研究どころではない。みんなで作業分担してやっているから何とかなっているんです。だから、施策が耳障りのいいことで全体を考えない、現実を考えないでやってしまうと、極めて危険だと思います。
 もう一つ、2-1、2-2の方にありましたけれども、ポスドク1万人計画もそうですけど、その後に出た助教の任期制、この方針もここ、文科省側から出て、全国の大学が従った形になったのです。それまで任期制がなかった助手が任期制付きの助教に変わっただけで、自然発生ではなく、制度を変えたのだから当然です。これを現在、年齢の高い教員の方が任期がなくて、若い人が任期制が圧倒的に増える傾向にある、これは問題だという。だから今度は高年齢の教員も任期制にして、若い人に回すべきだと。これは全然間違った方法だと思います。
 この助手を任期制の助教に変えた制度改正は、現在大きな弊害を生じさせています。これをしたために博士課程大学院生が助教にならなくなったんですね。もう少し安定で良い待遇をしてくれる会社と比較して魅力的でないと考える学生が増えたのでしょう。その結果、大学の現場では大変なことになってきているんですよ。大学院生も、実は大学院生数は変わっていないというマジックのような表が出ていますけど、現場にいる者としては、博士課程への進学率は落ちていっています。これは実感です。教えていらっしゃる先生方は感じていると思いますけど、留学生とか他大学からの入学者数を増やして、何とか数を保っていますけれども、内部進学率は落ちています。
安易に高年齢教員にも任期制を課すような議論を行うなら、その前にこのような分析も深く行って、もっと大きな弊害を生じさせないよう熟慮すべきでしょう。
 そういう様々な現場の問題も把握しながら、ここでは全体を考えて審議していかねばと考えております。耳障りのいい「若手支援」という言葉だけにだまされないで、しっかりした方策を考えていただきたいと思います。

【西尾分科会長】  小安先生、また甲斐先生のおっしゃったことは、核心を突いていることと思いますので、どうか今後対応をお願いします。

【磯谷研究振興局長】  研究振興局長、磯谷です。大変いろんな御指摘ありがとうございます。
 少しだけ確認までに申し上げますが、科研費について若手研究者への重点支援ということなんですが、私の理解では、2~3年前から研究費部会等で御議論いただいて、「科研費研究者支援プラン」という形で、採択率などを充実しようということを決めていただいた。我々としてはその流れを今回提案させてもらっているという理解です。例えば「若手研究(B)」といった若手研究者の種目に、大型種目から振り替えて増やすというような理解ではなく、そこは行間を読む必要はありますが、若手研究者を中心とした種目というのは「若手研究(B)」のことを言っているのではなく、「基盤研究」にももちろん若手の方は多数応募していますし、分野の特性ももちろん配慮した形で「基盤研究」というものをきちっと強化していきたいということが文科省の方針です。したがって、政策の落とし方についてはそういう非常識なやり方はやらないようにと十分思っていますし、科研費自体がこれからシュリンクしていくというよりは、我々としては、科研費はやはり研究費部会等の議論を踏まえて充実を図っていく、その中でどういったところを念頭に置きながら支援していくのかを考えるという理解でおります。
 それから、分野別の取り上げ方、これは大変難しくて、科研費の中で、分野というものをどう取り扱うのかというのは、学術システム研究センター、JSPSの中でも議論はされていると思いますが、研究室の在り方とか講座制とか、研究現場での在り方については、是非、小安先生等々からも御意見も頂いて、我々としても検討していきたいと思います。その中で科研費がどうあるべきか、分野をどうするのかという話というのは、またこれも一筋縄にいかない大変難しい問題で、そこはしっかりと検討はしていきたいと思っています。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。どうぞ。

【小林委員】  ちょっとテーマが変わって恐縮ですが、資料2-1の2ページのところで、研究力が低下してきた原因について、時代背景とともに非常にきれいに説明していただいていると思うのですが、私は大学院生が減ってきているということが決定的に問題だと思っています。私は文系ですから、別に大学院生に何かを頼むということはないし、多分頼むとハラスメントだと文系では言われるので、そういうことはやらないのですが、理工系や数学系では大学院生は非常に重要だろうと思います。
 日本の人口の半分以下の韓国の大学院生の方が、今、日本よりも大学院生の数が多いのは多分皆さん御存じだと思いますが、加えて、留学している韓国の大学院生は日本の何倍も政府支援で行っています。
 実は資料2-1の若手研究者のところを見ていただくと、ポスドク1万人支援計画と理工系分野の博士課程進学者が減少の間にちょっとたまたま偶然スペースがあるのですが、何がここで起きているかというと、日本育英会が変わっていったわけですね。無利子から有利子が増えて、それから給付が減って、貸与が増えて、2004年になると学生支援機構に変わってしまったわけですね。ですから、日本育英会の以前のときまでは、ドクターのときにもらって、たしか3年以内に常勤の研究職に就けば、返済しないでいいということだったと思います。
 ところが、学生支援機構になると、ごく少数の優秀な人だけ返さなくていい。どのくらいいるかというと、調べると11%です。89%の人が何百万も返さなきゃいけない。これではやっぱり行こうとは思わないと思います。
 それと、ポストがないという問題とあると思います。ポストの問題はいろいろお考えいただいていると思うのですが、私たまたま、福井県と何の関係もないですけれども、行政評価委員長というのを頼まれて、あそこは第二次産業でもっているのです。福井県で公立の小学校から高校まで行くと、4,000万かかります。大学進学者の77%が県外の大学に行きます。そのうち県に戻ってくるのが36%しかいなかった。
 これをどうすりゃいいのかということで、理工系に限ってというのが非常に文系としては不満だったのですが、でも、私自身そういう提案をしたのですが、理工系に限って大学院の授業料を、修了後、福井県で7年間働くと、福井に本社がなくてもいいのですが、福井で7年間働くと、その授業料は全部県が払うという方式にしました。そうしましたら、男子に限って64%が今、帰るようになりました。これは日本で初めてやりまして、今、19のほかの県がまねています。例えば富山県は薬学等に限ってとか、必要な人材に限ってやっています。残念なのは女子が相変わらず4割ぐらいしか帰ってこなくて、帰ってこない人にアンケートしたら、「大都会じゃないから」という、それは解決が難しいですが。
 ただ、やはり第二次産業を支えないと、福井の地方創生は成り立たないと思います。繊維と眼鏡のフレームはかなり中国に進出されていますので、そういうやり方で経済的な支援が変わったというのが、この時間軸でいうと、ちょうどそこにあるのかなというふうに思います。
 以上です。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございます。経済的な問題のこと、これも非常に深刻な問題だと思っています。手を挙げておられますので、どうぞ。

【大久保科学官】  科学官の大久保でございます。私は工学系でございますけれども、あるべき姿は別にして、我々の分野では研究のレベルをかなり支えていたのは、分厚い修士だったと思っています。博士の数は決して多くはなくても、非常に多くの修士の学生たちが研究のレベルを支えていたのが現実でございますけれども、昨今の就職活動の早期化、長期化で修士論文に学生たちが費やす時間が圧倒的に減ってきています。1dayインターンシップが始まりました昨年からは、学部3年の6月、修士1年の6月から就職活動が始まっています。こういった中でますます研究に取り組む時間がなくなってきているのが現実でございます。
 これは博士進学にも実質的には影響していると私は思っております。エビデンスとしてこれが示せるわけではないんですが。数少ない成長産業にリクルート産業がなってしまって、新聞社もここにどんどん入り込んでしまっている状況です。世界で日本だけがこんなガラパゴス化するような状況がはびこってしまっています。非常に緊急事態で今、進行していると思っております。
 以上です。

【西尾分科会長】  非常に危機的な状況について御説明ありがとうございました。おっしゃるとおりだと思います。どうぞ。

【鍋倉委員】  一番問題なのは、やはり先ほど皆さん言われたように大学院の減少ということです。
 一方で海外を見てみると、例えば、アメリカはもちろんアジア・オセアニアにおいてもシンガポールやオーストラリアには海外からかなりの数の学生が来ています。戦略として、大学の研究力強化という視点からは、日本人の大学院生だけではなくて、少し優秀な学生を、日本人に限らず国外、特にアジア地域から連れてくることが必要だと思います。
 欧米の優秀な研究者を日本に長期的に招へいするには、いろいろな面でかなり良い条件を日本の大学が示す必要があり、一部の大学や研究機関以外の多くの大学ではなかなか難しい。日本にシンパシーを感じる優秀な外国人学生を育てるというのが長期的な大学の研究力強化という視野からは重要と思います。
 また、オーストラリアなどでは、海外からの学生を多く受け入れることは、大学の財政的な大きな基盤にもなっているようです。これらを含めて、2040年を見据えるのであれば、海外、特に欧米以外の優秀な学生を今まで以上に積極的に受け入れていくことも議論する必要があります。 以上です。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。林先生、それから甲斐先生の順で、どうぞ。

【林科学官】  ありがとうございます。高等教育企画課長が帰られてしまったんですけれども、2000年以降、研究力が下がって、これは大学改革がどんどん進んできたのとほぼ同時期なんですね。それで今回も、先ほど御説明ありましたように、さらなる改革を進めていこうと。そうすると結局、大学の方は対応しなくちゃいけない。それで結局は大学の教員の忙しさにつながってくるんですね。
 例えば、今回ありました英語の入試を改革しようと。TOEFLですとか、そういうものを利用していく。きちんとそれで最初から示されていればいいんですけど、きちんと方向性が示されないまま、思い付きかのようにやっていくので結局、大学が対応しなくちゃいけない。
 逆にもうトップダウンの言い方をやめてしまって、大学の好き勝手にやらせていただいたら一番生産性が上がるんじゃないかなというのが私の感想です。ばーんとお金だけ取ってください、それで大学の好きなようにやってくださいと。そうしていただくのが一番いいんじゃないかなと思うんですけどね。

【西尾分科会長】  今の御意見は結構深いところがありまして、実を言いますと、国立大学の法人化に関する法案が通ったときには、参議院と衆議院で附帯決議というのがありまして、そこには、各大学の運営における自主性・自立性を尊重することなどが記載されています。ところが、附帯決議の内容が現状においてはなかなか反映されていないということが、今の先生の御意見になっているのではないかなということを思います。
 甲斐先生どうぞ。

【甲斐委員】  今の先生の御意見にちょっとだけ補足したいと思います。大学は文科省から補助金をもらっている関係で、文科省からの評価を大変気にします。なので評価項目のところも考えていただきたいなと思います。助教を任期制にするときに、文科省からの大学評価の項目の中に、任期制をしているかというところにチェックするところがあったんですね。それを大学はすごく気にして、各部局に対して任期制を取っているかということの調査依頼をして、各部局ではせざるを得なかったというのがありました。当時の助手たちが任期付き助教になることに対して、うちの部局ではかなりの反対があったんですね。それでは落ちついて長期の研究に取り組めないという意見が出されたのですが、半強制的に移行させられた経緯がありまして、その元は文科省の評価項目によっていたと思います。ですから、是非そういうことも考慮していただけたらなと思います。
 あと1点、ちょっと小さいことで申し訳ないんですけど、こういうデータは全ての議論の基になってくるので、データの取り方を気を付けていただきたいなと思うことを1点お願いします。
 資料2-2の35ページで申し訳ないんですけど、被引用率が上位10%以内のトップリサーチャーの半数以上は40歳未満である、だから若手研究者を補助しなければ、支援しなきゃいけないという論調に持って行っていると思うんですけど、このトップリサーチャーというのが筆頭著者になっているんですよ。
 これ、日本の理系生物系研究室の特徴なんですけど、日本の文化で、大きなラボの教授はなるべく直接実験に携わった若手に論文を書かせてあげるものなんですよ。本当に若手が完全にトップリサーチャーである場合もありますが、とても少ないです。多くの場合、教授が書かせてあげるやり方の場合は、決してこの若手たちがアイデアを出して計画し、資金を獲得し、研究を遂行し、よく考察して論文を書き上げたというのではありません。つまり、この人たちの論文ではなく、それは責任著者による論文なんですよ。我々はそう見ます。それを、筆頭著者の半数以上は40歳未満だから、40歳未満がトップリサーチャーという論調に導くのはミスリーディングだと思います。もしこういう表を作るんであれば、責任著者をついでに出していただけると、全然違うグラフになると思います。

【西尾分科会長】  貴重な御指摘、どうもありがとうございました。今の件は、是非、今後配慮してください。いわゆるコレスポンディング・オーサーを重視するということだと思います。そうでないと提示いただいているデータそのものがミスリーディングしてしまう可能性があります。
 次の議題に移りたいと思いますが、きょうのいろいろなお話の中でも、先ほど小林先生もおっしゃいましたように、奨学金を借りた場合に後でどれだけ自身の収入で返還していかなければならない、ということかありました。博士後期課程まで進学した場合には、それまでに投じた財政的負担をどのように回収していくかは大きな課題です。委員の相澤先生も私も情報分野なのですけれども、今、米国においてAIとかビッグデータ解析の分野でPh.D.を取得しますと、米国の企業は年俸3,000万円あるいはそれ以上でオファーしてくると言われています。
 そういう中で、国内で有能な博士課程の人材を育てたときに、海外へ出ていく可能性があります。そうなると、我が国の研究力ということを考えたときに、もう大学レベルだけでは考えておれず、グローバル化の大きな波の中で、給与体系そのものを大きく変えていかなければならないのではないかと思います。例えば、中国、インドでも、IT分野は通常の給与の5倍、6倍になっています。ただし、以上申し上げたことはIT分野のことだけを言っているのではなくて、全体的にPh.D.を取った方の給与がどれだけ上がっていくのかということで捉えていただくことが重要かと思います。
 ただし、博士人材の給与のことへの対応が急速には難しい場合でも、日本にいることに魅力があると思ってもらうことが大事かと思います。例えば、ビッグデータ解析をしている研究者にとっては、日本にいるということの一番のインセンティブは、日本に面白いデータがあり、そのデータを使って研究できることです。また、以前だったら、若手研究者は助手のときには任期も付かなくて研究に没頭できた、というような制度的な良さによって、我々は勝負していくということも考えなければならないのではないかと思っています。
 そういう点では、米国的でもない、ヨーロッパ的でもない、日本独特の現状を踏まえた研究力の強化の方策があるのではないかと思います。その辺りを我々が一緒に考えていく必要があると思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
 それでは、きょう最後の議題で、人文学・社会科学の振興についてということで、まず事務局から説明をお願いいたします。

【山口学術企画室長】  資料3-1と3-2を併せて御説明させていただきます。
 資料3-1を御覧ください。人文学・社会科学の振興につきましては、今期の学術分科会の中で、少し読み上げますが、「自然科学とは異なる特徴を踏まえた評価の在り方や、先導的な共同研究を推進する事業の検証・改善等について、人文学・社会科学の内外の動向も踏まえつつ、検討を行う」こととされております。
 今日、特にライフサイエンスですとか、人工知能の技術の進展も目覚ましく、それに伴いまして、第2期の科学技術基本計画以降、特に言われてきているところですが、科学技術のいわゆる社会実装において、2枚目に用語解説ということで、簡単なものを付けております。ELSIと呼ばれております倫理的・法制度的・社会的課題という問題意識が強く意識され、求められるようになってきているところでございます。
 さらに、本日も関係の閣議決定等もございましたように、Society5.0ですとか、世界の共通言語とも言われるSDGs、地球規模的視野の持続可能性といったことへの対応などを目指す上でも、諸学の個々の専門性はもとよりですが、より俯瞰的なアプローチというのが一層必要になってきているという面もございます。そういったところで、人文学・社会科学に対する期待の面とともに、社会に対する説明責任の面というのも一層高まっているのではないかと考えられまして、中長期的な視点も含めまして、課題や振興策等について御議論を精力的に賜っていきたいと考えている次第でございます。
 先に、3.スケジュールの所を御覧ください。本日はキックオフという位置付けですが、次回以降、関係する過去の様々な報告書の類ですとか、関係データなども順次用意しつつ、本格的に御議論を頂きたいと思っております。その際、既に一部の先生方に御相談等も始めておりますが、本委員会の関係委員ですとか、あるいは外部の有識者の方から幅広く、積極的にヒアリングなども交えつつ、月1回程度のペースで重点的に扱い、今期末が2月までということになっておりますので、そこまでに一定のまとめもしていきたいと考えております。
 肝腎の中身、2.の方でございますが、大きく5点書かせていただいております。特性や意義。過去の様々な観点・提言のフォローアップ。国内でも意欲的な取組がみられるところで、具体的・実践的な取組と、その課題や改善・促進方策。また、人文学・社会科学の置かれている状況というのは、海外においても説明責任を一層求められるようになってきておりまして、海外ではどうしているんだろうかといった問題意識。そして、大変難しい問題ではございますが、特性を踏まえた評価の在り方、まさにこの辺りにつきましては、特に日本学術会議におかれても、強い問題意識を持たれているものと承知しております。大きく言うと、こういった問題意識を持ちながら進めていきたいと思っております。
 その際、補足として、資料3-2の方を御覧ください。これは一つの参考資料ですが、本日の各種閣議決定ですとか、将来構想部会の中間まとめにもあるようなものも含めまして、しばしば指摘されております社会経済の変化に伴う考え方、価値観の変化のイメージ例というものを、便宜のためにキーワード的にある程度まとめてみたものでございます。
 ただ、留意点としまして、正に人文学・社会科学らしい観点から言えば、今、こう言われるとしても、そうであればこそ逆に、敢えて批判的に見ていかなくてはいけないという視点も肝要かと思われます。そういう意味で、例えば少なくとも、単純にモデルが移行するというのではなく、中ほどに注記しましたように、両者は程度問題としてハイブリッド化していったり、あるいはフェーズに応じた往復運動としてスパイラル化していったりというのが、実際のところではないかと存じます。いずれにしましても、人文学・社会科学の存在意義や社会貢献などをより確かなものにしていく上で、時代の不易流行をしっかり踏まえていく必要があるのではないか、という趣旨でございます。
 例えばということで、少しだけ申しますと、先ほども出ておりましたが、例えば教育面と関連して申し上げれば、従来型の演繹による着実性・計画性というものももちろん大事ですが、予測困難で答えがあらかじめないような状況下にあっては、帰納による仮説形成能力こそが重要性をましており、専門性を前提としつつも、幅広い教養ですとか、俯瞰力こそが求められているといった変容ですとか、異質・多様性、その組合せとしての強みを持ち寄ったポートフォリオこそが、変化や想定外の事態への対応、ひいては持続可能性にもつながっていくこと。ものづくりにしましても、かねて日本の代表的な強みでもありますし、基本ではあるんですが、実際のニーズを踏まえたバックキャスト思考ですとか、価値を作っていく、さらには価値をデザインしていくというような発想も、ますます重要になっていくのではないか等々でございます。
 雑駁ではございますが、こういったようなことも念頭に置きながら、次回以降、本格的に御審議を賜れればと思っております。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 今後、人文学・社会科学の振興について議論を展開していきたいということで、その趣旨を説明いただいたところです。今、説明いただきましたことも含めまして、今後、こういうところはより重点的に議論すべきだとか、いろいろな御意見があるのではないかと思いますが、何なりと御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
 小林先生、どうぞ。

【小林委員】  資料3-1の審議事項の所で、日本学術会議の課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業というのが、一応、書かれておりますけれども、現在、人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラムというのが走り出そうとしていると思いますが、是非その際、慎重に注意をしていただきたいというか、検討していただきたい点が四つございます。
 まず1番目は、多分、ここは文系の方は少ないと思いますので、人文学というか、私は社会科学ですが、データは2種類に分かれます。一つがサーベイデータ、もう一つがアグリゲートデータです。サーベイデータというのは意識調査のデータで、いわゆる主観的なものです。アグリゲートデータというのは地域単位、具体的に言うと、4分の1メッシュですと250メートル四方ぐらいのデータで、これは客観的なデータです。
 どう違うかというと、例えば「幸せですか」と言うと、サーベイでは戦争が終わった直後が一番幸せという回答になります。しかし、客観的なデータで言うと、可処分所得とか、刑法犯認知件数とか、やはり違う結果になるわけです。例えば、空飛ぶ車が実用化されたときに、サーベイで聞けば、お金がなくても、駐車場がなくても欲しいと言うでしょう。そういう人はたくさんいるかもしれません。でも、客観的なデータで言えば、例えば持家ですか、駐車場はありますか、何平米の家に住んでいますかと、全部、土地家屋調査で、政府統計で出てきます。
 ですから、サーベイデータだけ集めても世界には太刀打ちできないです。アグリゲートデータも一緒に集めていただきたいということです。これは、JSPSさんが調査されたアンケートで、回答者が4,000人いましたけれども、サーベイデータを使っている方は62%、アグリゲートデータを使っている方は74%、アグリゲートデータを使っている人の方が多いのです。私は両方使いますから、重複している方もいます。
 2番目にお願いしたいことは、日本のデータだけではなくて、外国のデータも集めるということです。つまり、先ほど外国から優秀な大学院生を入れたら、もっと来てもらったらと。私、本当にそうだと思います。実は、海外の国勢調査というのは非常に充実をしています。日本は、大調査、小調査を5年ごとにやりますけれども、小調査ですと紙の表裏1枚です。でも、中国の世論調査はその何百倍もあって、個人情報が全部入っています。一人一人の健康状態とか、何の資格を持っているとか、全部出ています。
 3番目に申し上げたいことは、このデータを各大学で集めて、バーチャルでつなぐということだけはやめた方がいいのではないかと思います。理由は、各大学が別々のプラットフォームを作ったらもう終わりです。もう既に研究機関でプラットフォームをお持ちのところはあると思いますが、多くの大学はそういうものを預かるところがなくて、これから作る。そうすると、ベンダーがばらばらに作ってしまう。それでは、後からではどうしようもないです。そうではなくて、例えば一つの考え方としては、情報システム研究機構の中でそれを受け取る。どこかの特定の大学が作ると、ライバルの大学は出さないですから、第三者機関として、西尾分科会長いらっしゃいますけれども、情報システムのところで集める。それについては人間文化研究機構も協力していただく。つまり、人間文化研究機構は、定性的なものを含めてコンテンツは豊富に持っています。貴重なコンテンツはたくさん持っています。ただ、システム化するところは情シスに頼る必要があると思うので、そこは本当に融合してやっていただく。
 それから、最後にお願いしたいことは、スピード感をもっと速くやっていただきたい。JSPSのアンケートに私も答えましたけれども、5年を目途にデータを集める、これは実はアメリカが1949年にやったことです。だから、70年後れています。今、韓国と中国の国際共著論文が急に増えています。なぜかというと、20年前に同じことをやっているからです。それにはアグリゲートデータも入っています。日本だけが社会科学の共同利用機構がないのです。本当は作っていただきたいのですが、情シスさんとか、人間文化さんが協力して、是非そういうものを一本化して、そこで預かろうと。場合によっては、科研費の申請のときに、その成果を提供するか、しないか、もちろん研究期間終了後何年という条件は付けて、書かせてもいいと思います。それを採択の際に参考にしてもいいぐらいです。
 それぐらいしてデータを集めていかないと、これは別に文系の研究のために言っているわけではないです。理系でいいものを作っても、どこでマーケティングするのか、実際に売れるのか、税収につながるのか、そういうことにも非常に貢献することができます。あるいは、生命科学に対しても、非常に多くの貢献を実はできることです。ですから、私は、是非これは分野を、何も文系にとらわれずに、とにかくもっとやっていただきたいし、情報システム研究機構さんには大変御面倒ですが、その受皿の中核をやっていただきたい、こういうようにお願いしたいと思います。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 JSPSのことに関しましては里見先生がいらっしゃいます。また、情報・システム研究機構への依頼事項もございました。里見先生、どうぞ。

【里見委員】  先日、人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラムのキックオフシンポジウムが開催されました。シンポジウムでは、各施設に多くの情報が保存されているけれども、なかなか系統立てて整理されていないという状況をどうすればいいかということを議論していただきましたが、まだ、データを出す、出さないという問題や、実際にどの機関でやっていくのかという問題があります。JSPSでは資金提供といった部分はある程度やれるかもしれませんけれども、全てを引き受けることは難しいと考えておりますが、枠組みを作るというところでの働きを我々はやっていきたいと思います。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 どうぞ。

【渡辺振興企画課長】  先ほどの人文学・社会科学のデータインフラストラクチャーについて、若干、補足させていただきます。
 私も今、JSPSさんの担当課長として、かなり密に先生方と意見交換しながら、作り上げる努力をしておるところでございまして、これまで日本でこのようなデータベースを作ったことがなかったということもあり、なおかつ、今、やっと始めたのに、これは絶対失敗してはいけないという不退転の決意で精力的に議論を進めています。
 若干、補足だけしますと、まずフォーマット等については、当然のことながら全部、統一できるような形で、NIIとも随分、調整といいますか、知見を頂きながら進めつつあります。
 それと、スピード感ですけれども、これは一応、事業として5年間を予定しているので、5年後には一定のものをという前提でいるんですけれども、当然のことながらすごい早い段階からデータそのものについては、ある程度期間を選定して進めていくこととしております。
 いずれにしましても、最後に小林先生がおっしゃったように、社会科学の共同利用機関が日本にないということも事実でありまして、そうした今後の社会科学、あるいは人文学・社会科学を含めた推進、進め方、そうしたことも是非、この審議会で議論いただきたいと思っております。

【西尾分科会長】  どうもありがとうございました。
 人文学・社会科学の研究の今後の新たな方向の中には、エビデンスデータを基にした学問の進展があるかと思います。それに関する議論も、今後、相当重要になってくると思います。里見先生には、いろいろな動きを御説明いただき、ありがとうございました。
 イノベーションに関しては、以前から人文学・社会科学系と自然科学系がよく飛行機の主翼と尾翼に例えられて、主翼に相当する自然科学系がイノベーション創出の原動力となり、人文学・社会科学系は、尾翼に相当してイノベーションの方向を間違いのないものにする、というようなことが言われてきました。ただし、現時点においては、主翼とか尾翼とか言っておれない状況で、最初から双方の分野が渾然一体となってイノベーションを起こすということを考えなければならない。それと、科学、サイエンスの定義も、先ほどありましたけれども、発見であるとか、発明をするということのみならず、新たな価値をいかに創造するかというところにパラダイムがだんだん広がっています。
 そういう中で、人文学・社会科学系の振興ということがますます重要になってきていると思います。今後、この分科会でこの課題について議論を展開するということは、タイミング的にも非常に重要かと思いますので、委員の皆様方には是非とも活発な議論をお願いいたしたいと思います。
 まだまだ皆様には御意見がおありかと思いますけれども、時間が来ておりまして、これできょうの会議は閉じさせていただきます。あとは、事務局にバトンタッチをさせていただきます。

【山口学術企画室長】  資料4を御覧ください。今後のスケジュールでございます。8月22日と9月26日についてはこういう予定でおりますので、可能な限り御配慮いただければ幸いでございます。また、それ以外についても、日程の方は今、お聞きしておりますので、なるべく早めに候補を御提示できるように努力したいと思います。
 また、議事録について、後日、メールにてまたやらせていただきたいと思いますので、お願いいたします。

【西尾分科会長】  局長、何かございますか。よろしいですか。
それでは、これで閉会といたします。

【磯谷研究振興局長】  ありがとうございました。

【西尾分科会長】  それでは、皆さん、本当に活発な議論、どうもありがとうございました。今後とも、どうかよろしくお願いいたします。



―― 了 ――

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