第12期研究費部会(第4回) 議事録

1.日時

令和5年11月14日(火曜日)10時00分~12時30分

2.場所

対面とオンラインによるハイブリッド開催

3.議題

  1. 今期の審議の進め方について
  2. 科研費の改善・充実に向けた今後の取組について(研究者からのヒアリング)
  3. その他

4.出席者

委員

白波瀬部会長、鷹野委員、仲委員、尾辻委員、塩見委員、新福委員、城山委員、中野委員、長谷川委員、華山委員、山本委員、岸本委員、速水委員

文部科学省

塩見研究振興局長、田畑学術研究推進課長、松本学術研究推進課企画室長、梅﨑学術研究推進課企画室室長補佐、他関係官

オブザーバー

杉野日本学術振興会理事長、水本日本学術振興会理事、大野日本学術振興会学術システム研究センター所長、岸本日本学術振興会学術システム研究センター副所長、西田日本学術振興会学術システム研究センター副所長、中川立命館大学古気候学研究センター長

5.議事録

【白波瀬部会長】
 皆様、おはようございます。久しぶりの対面、ハイブリッド開催となりますがよろしくお願いいたします。
時間となりましたので、ただいまより第12期第4回の研究費部会を開催いたします。
議事に入る前に、事務局より御連絡事項等をお願いいたします。
【松本企画室長】  
 大学の発表や報道等もございましたが、本部会の委員、そして科学技術・学術審議会の委員であられた中山俊憲先生が11月2日に御病気のため御逝去されました。心から哀悼の意を表すとともに、謹んでお知らせ申し上げます。本部会の部会長代理であられましたので、部会長代理につきましては、部会長とも相談させていただきまして、現時点では別の委員への改めての指名というのは行わない形とさせていただければと思います。
 以上です。
【白波瀬部会長】  
 ありがとうございます。
【梅﨑企画室長補佐】  
 それでは、事務局に人事異動がございましたので、御紹介させていただければと思います。
前回の開催以降、8月4日付で研究振興局長に塩見みづ枝が着任しておりますので、一言お願いいたします。
【塩見研究振興局長】  
 8月に着任いたしました研究振興局長の塩見でございます。先生方には本当にお世話をおかけしておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
【梅﨑企画室長補佐】  
 続きまして、9月1日付で学術研究推進課科学研究費助成事業執行分析官に長屋正人が着任しておりますので、一言お願いいたします。
【長屋分析官】  
 着任いたしました長屋でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【白波瀬部会長】  
 お願いいたします。ありがとうございました。
本日は、今期の審議の進め方について説明いただいた後、今後の研究費の改善・充実方策につきまして2名の研究者からヒアリングを行い、御議論いただきたいと思っております。
 事務局より、研究者の御紹介をお願いいたします。
【松本企画室長】  
 本日の議題2になりますけれども、お二人の先生方からヒアリングを行いたいと考えています。最初に、本部会委員の金沢大学の華山先生から、アメリカのNIHのファンディングやJSTの創発的研究支援事業を踏まえた御発表をしていただきます。それから、もうお一方、外部有識者として立命館大学の中川毅先生にもお越しいただいておりまして、イギリスのニューカッスル大学の御経験を基にイギリスのファンディングシステムを踏まえた御発表をしていただきたいと思います。それぞれ御発表いただいて、科研費制度の改善・充実方策について御議論いただければと思っています。
 以上です。
【梅﨑企画室長補佐】  
 続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。本日は対面とオンラインのハイブリッド方式で開催しておりますので、事務局から、配付資料の確認と、オンライン参加の注意事項について説明させていただきます。
 オンラインの方の資料については、事前にお送りしましたファイルを御参照いただければと思います。対面で御参加の委員につきましては机上に印刷した資料を配付しておりますので、そちらを御確認ください。
 また、特にオンライン参加の注意事項ですが、音声の安定のために、発言時を除いて常時ミュートにしていただくようお願いいたします。また、部会長、委員、オブザーバーを含めメイン席の方は常時ビデオをオンにしていただき、その他の方は常時ビデオをオフにしていただくようお願いします。
 また、発言される場合は挙手ボタンを押していただき、部会長が指名されますので、ミュートを解除していただいて、その都度お名前を発言いただくとともに、オンラインで聞き取りやすいようにはっきりと御発言いただければと思います。また、資料を参照される場合には、資料番号、あとページ番号などを分かりやすくお示しいただくようお願いいたします。トラブル発生時は電話にて事務局に御連絡いただければと思います。よろしくお願いいたします。
【白波瀬部会長】  
 よろしくお願いいたします。
 では、議題に入る前に、事務局より、今般公表されました令和5年度補正予算案に関する報告があるということでございますので、事務局より報告をお願いいたします。課長、よろしくお願いします。
【田畑学術研究推進課長】  
学術研究推進課長の田畑と申します。よろしくお願いいたします。
 資料を御覧ください。先週、10日金曜日に閣議決定されました令和5年度補正予算案の科研費について御報告申し上げます。
 資料を御覧いただきますと、科研費につきましては、令和5年度補正予算案におきまして基盤研究(B)、また国際先導研究の実施に係る経費といたしまして654億円を計上しております。科研費の基金化につきましては多くの研究者の方々、また研究現場から強い要望をいただいておりまして、我々としましても本年春先より、その実現に向けまして全力で取り組んでまいりました。
 現在、基金の種目は比較的小さい基盤研究(C)、また若手研究などの種目に限り基金種目として実施しております。今回、基盤研究(B)につきましては、約4万人の研究者が参画する科研費の中核をなす研究種目でございます。この基金化によりまして、研究の進捗に応じた研究費の柔軟な使用が可能となります。また、研究費の繰越しの事務手続等もかなり簡素化されますので、このことによりまして研究時間の創出にも資するものと考えております。
 科研費につきましては、補正予算案に合わせまして、今後、来年度、令和6年度当初予算におきましても必要な経費の確保に取り組んでまいりたいと思っております。また、改善・充実につきましては先生方、委員の皆様方の御意見をいただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
 以上でございます。
【白波瀬部会長】  
 大変ありがとうございます。特に基金化につきましては、事務局の御尽力にも感謝したいと思います。
それでは、議題に入ります。資料1に基づきまして今期の審議の進め方について、事務局より説明をお願いいたします。
【松本企画室長】  
 それでは、資料を御覧ください。
 これまでいただいた御意見のおさらいをざっとさせていただきます。4月の研究費部会においては、御覧いただいているように科研費全体の予算規模の問題、それから充足率の問題、基盤研究の種目構成や予算規模、重複制限の問題等の御意見をいただいております。
 さらに6月の研究費部会においては未就学児の養育期間を配慮した制度改善や基金化の問題、ダイバーシティの問題、審査委員の問題、さらには重複応募の問題やNIHのグラントとの比較、それから競争性を踏まえた研究種目の枠組みの再設定が必要ではないかというような御意見をいただいていたところです。
 資料4ページ、今期の審議の進め方について(案)でございますけれども、これまでの3回の開催を通しまして、少子高齢化など社会情勢を踏まえ、若手・子育て世代の研究者を含む多様性の高い研究チームが、より挑戦的・独創的な研究に取り組める環境を整備するため、若手・子育て世代の研究者への支援等について議論を行いました。これについては概算要求でも一部盛り込んでおりまして、現在、折衝中というところでございます。
 加えて、中長期的な課題として、少子高齢化に加え、厳しい研究環境や物価上昇への対応など学術研究をめぐる状況は大きく変化しているところでございます。
 今後、研究者からのヒアリングも行いつつ、学術研究を支える科研費の役割を整理した上で、研究種目の見直しも含めた審査負担の軽減や質と量の改善・充実方策の議論を進めることが重要ではないかとさせていただいております。
 上記の議論を進めるに当たっては、内容によりますけれども、審査システム等の観点から科学研究費補助金審査部会や日本学術振興会とも適宜連携して議論を進めることとしてはどうかとさせていただいております。
 主な審議スケジュール(案)でございますが、本日が第4回、この後、1月頃に第5回、2月か3月頃に第6回を予定させていただいて、4月頃には中間まとめ、期の終わる令和7年2月頃には審議まとめを取りまとめる予定とさせていただいております。
 それから、5ページ、今後検討すべき課題等について(案)を整理しております。制度全体についてですが、物価や為替等の厳しい社会情勢において、研究活動の国際競争力を向上させるため、イノベーションの源泉となる基礎研究・学術研究に要する予算、特に科研費予算の規模はどの程度が望ましいかという課題を記載しております。この後に関連する資料として、参考資料1から3をつけています。
 それから、持続可能な審査システム等として、ピアレビューで成り立っている科研費制度でございますが、応募者も審査委員も研究者です。日本の研究者の状況を踏まえつつ、1課題当たりの充足率の向上や研究者の研究時間の確保等の観点から、以下の制度の見直しなどに取り組む必要があるのではないかとさせていただいております。例として、研究種目の整理・統合としては挑戦的研究や国際共同研究加速基金、学術変革領域研究を取り上げています。それから、重複応募・受給制限、応募資格・応募要件などを検討すべきではないかとしてございます。
 それから、助成の在り方、研究費の枠組み等ということで、研究現場では、各機関における基盤的経費の不足等により「基盤研究(C)」などへの応募が増加しているとも考えられますので、独創的で先駆的な学術研究を支援する科研費の役割に基づきながら、基盤研究の助成の在り方を含む研究費の枠組みについて検討することが必要ではないかとしております。
 その他として、今後の展開として書かせていただいております大学間の連携や共同利用・共同研究等の組織的な取組との連携方策や、博士人材のキャリアパスの多様化等を踏まえた民間企業等との関連を促進する取組を検討することが必要ではないかとさせていただいております。
 この後ろは、それぞれの参考資料が続きますが、それぞれ簡単に説明させていただきます。
 参考資料1でございます。こちらは科学技術関係予算と科研費予算の推移ということで、近年、科学技術関係予算に対する科研費の予算規模の割合は、大体5~6%ぐらいになっているということでございます。
 参考資料2は、物価等の社会情勢を踏まえた科研費における配分額の推移ということで、科研費の平均配分額について、2013年を100として経年変化を見ると、消費者物価指標、円ドルの為替レートを考慮すると、各研究費の実質額は低下傾向にあるというグラフでございます。
 次に参考資料3です。これは令和3年1月の研究費部会でも一度出しているものです。仮に新規採択率を30%と、種目の性格や現状を考慮しつつ全体の新規採択率を30%として試算すると、令和元年度配分額と比較してさらに300億円程度が必要というものです。
 次も参考資料3の続きですが、これは、主要種目全体の新規採択率を30%として、さらに充足率をそれぞれ70%、85%、100%と向上すると大体どれぐらいの額が必要になるかということを試算したものになります。令和元年度の配分額と比較すると、さらに350億円から1,200億円程度が必要という試算になっています。
 参考資料4ですが、こちらは研究者数の推移ということで、大学の本務教員の年齢構成を示したものです。全体の人数は上がっていますけれども、右側の折れ線グラフのほうで青色のところ、25歳から39歳までの年齢比率は減少傾向が続いており、40歳以上の割合はそれぞれ増加しているということになっています。
 次の参考資料5は、は研究時間の推移ということで、大学等教員の職務に占める研究活動時間割合は減少傾向が続いているというものでございます。
 参考資料6です。応募資格について過去の経緯も踏まえて整理しています。現在の応募資格をこの参考資料6の最初に書いてございます。当該研究機関の研究活動を行うこと職務に含む者として、所属する者(有給・無給、常勤・非常勤、フルタイム・パートタイムの別を問わない。また、研究活動そのものを主たる職務とすることを要しない。)となってございます。
 次のページは過去の応募資格になっています。平成16年度公募までの応募資格はこのようになっていました。黄色のマーカーのところですが、常勤の研究者が応募資格者として定められておりまして、常勤の研究者とは、当該研究機関に常時勤務すること及び研究を主たる職務とすることの2つの要件を満たす者という整理をしていたところでございます。
 それから参考資料7は、研究機関数の推移です。科研費における「研究機関」についてですが、近年、企業・NPO等の研究所の申請を踏まえた機関指定等により、全体として機関数が増加傾向にあります。表で言う一番下から2つ目、企業・NPO等の研究所の増減割合がかなり増えてきているという状況です。
 続きまして、参考資料8になります。これも何度も資料を出していますけれども応募資格者の推移ということで、科研費の応募資格者の総数はほぼ横ばいでございますが、年齢別で見ると40代前半以下の研究者数が減少し、40代後半以上の研究者数が増加しているという状況でございます。
 参考資料9です。こちらは研究者を応募資格者の職種別の推移ということでございます。科研費の応募資格者について、職種別では、平成28年度と比較すると、正確に言うと名誉教授は職種というよりも称号ですが、「名誉教授」、「その他」のところがそれぞれ10%以上増加しているという状況でございます。
 参考資料10です。こちらは各研究種目の役割と全体構成という、いつもお示ししている図でございます。
 参考資料11です。こちらは「基盤研究」、「挑戦的研究」、「若手研究」等における新規応募時の重複制限で、いずれも新規応募で研究代表者の場合に限ったものを整理させていただいております。現状、例えば基盤研究(S)であれば挑戦的研究にも出せて、学術変革領域研究にも出せるという、重複受給も可という整理になっております。基盤研究(A)から(B)についてもほぼ同様ですけれども、(C)のところは挑戦的研究については重複応募ができないという整理になっています。
 参考資料12です。こちらは研究種目ごとの審査ということで、「基盤研究」、「挑戦的研究」、「若手研究」の審査区分・審査方法を整理したものでございます。中区分のところで挑戦的研究(開拓)、それから挑戦的研究(萌芽)のところで審査方式が違ってくるというような現状です。
 参考資料13です。「基盤研究」における応募総額や研究期間に係る主な変遷を整理したものでございます。現在の基盤研究は平成9年に現在の(A)、(B)、(C)という形が整理されて、平成20年に研究期間を2年から4年を3年から5年、基盤(S)の上限額を変更ということがございましたけれども、あまり変化してきてないという状況です。
 参考資料14です。こちらも何度も出させていただいていますけれども、基盤研究の応募件数の推移です。基盤(C)の応募数が増加しているのがお分かりいただけると思います。
 参考資料15です。こちらは研究種目ごとの充足率と採択率についてです。こちらも何度も説明させていただいておりますので説明は省略します。
 参考資料16です。こちらは研究種目ごと年齢別の応募・採択状況です。基盤研究や挑戦的研究では、おおむね35歳から49歳の研究者の採択率が高い傾向にあるということでございます。
 それから、挑戦的研究についての資料が次のページです。挑戦的研究については、平成29年度公募から、もともと挑戦的萌芽研究という種目を挑戦的研究の開拓と萌芽というものに見直して、それぞれ、開拓については3~6年で500万円以上2,000万円以下、萌芽については2年~3年で500万円以下と設定させていただいています。審査の中身も、評価項目等についてもここに書いているような形で制度改善しているところでございます。応募件数や採択件数の推移はこちらにお示ししているとおりでございます。
 続いて、こちらの資料は「国際共同研究加速基金」ということで、国際共同研究を推進する種目群でございますけれども、現在このような4つの研究種目があり、記載のような概要、中身になっています。
 次の資料は、「学術変革領域研究」についてまとめたものです。こちらの「学術変革領域研究」については、もともとの新学術領域研究を見直して、次代の学術の担い手となる研究者の参画を得つつ、多様な研究グループによる有機的な連携の下、様々な視点から、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを先導することなどを目的として令和2年度から創設したものでございます。学術変革領域研究は(A)と(B)の2つの区分を設置しております。各区分の概要については資料のとおりになっております。
 資料の説明は以上でございます。
【白波瀬部会長】  
 ありがとうございます。
 今後の審議の進め方について説明いただきました。今期のスケジュールを含めまして、こちらの進め方に関して御質問、御意見がもしありましたらお願いいたします。なお、今後検討すべき課題案の資料の内容に関しましては、研究者からの御発言の後、まとめて意見交換のお時間を取りたいと思っております。御質問等はございますでしょうか。よろしいですか。
 基本的な統計ということで適宜更新していただいて、何度も確認させていただくということにはなると思います。
 では、特にございませんでしたら、次に進めさせていただきたいと思いますけど、よろしいですか。ありがとうございます。
 では、今後の審議につきましては、本資料のとおり進めてまいりたいと思います。特に最初のところで大きな柱を提案していただきまして、今日は2つの具体的な御報告も受けながら発展的に議論を重ねるという形になるかと思いますけれども、基本的な方向性としてはお認めいただいて、今後この形で肉づけをさせていただくということになるかと思います。では、引き続きよろしくお願いいたします。
 では、次の議題に移りたいと思います。科研費の改善・充実に向けた今後の取組につきましては、研究者からのヒアリングということが計画されておりまして、本日は、冒頭の御紹介にもありました、本部会委員の金沢大学教授でいらっしゃいます華山力成先生、そして外部有識者として、立命館大学教授でいらっしゃいます中川毅先生、この2名の研究者から御発表いただき、それぞれ質疑の後、科研費制度の改善・充実方策について意見交換、議論を行いたいと思います。
 それでは、まず、華山先生から御発表をお願いいたします。
【華山委員】  
 御紹介いただきありがとうございます。金沢大学の華山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、貴重な機会を与えていただきまして誠にありがとうございます。私からは、「科研費の安定的供給と持続的支援の実現に向けた課題と提案」と題しまして意見を述べさせていただきます。
 まず初めに、私を本研究費部会の委員に選んでいただきました理由としまして、令和2年度から創発的研究支援事業というのが動いております。私はこちらの運営委員として、事業の基本的な骨格の策定と、運営方針の策定について、これまで携わってまいりました。このような安定的な研究資金を科研費制度等にも導入することが私のミッションの一つであると理解しております。
 まず、事業について説明させていただきますが、真ん中の事業内容を見ていただきますと、「自由で挑戦的・融合的な構想に、リスクを恐れず挑戦し続ける独立前後の多様な研究者を対象に、最長10年間の安定した研究資金と、研究者が研究に専念できる環境の確保を一体的に支援する」というのが事業の目的となっております。
 具体的には750件、3年間に分けてですから年間当たり250件なんですけれど、700万円の年間当たりの研究費プラス間接経費が支援されます。また、支援期間は基本7年間、さらには最長10年間に渡って研究に専念することができるという事業でございます。
 この期待される成果としましては、「独立前後の若手研究者が高い志を持って挑戦的な研究に取り組むことを長期的にわたり強力に支援することで、若手研究者にキャリアパス全体として魅力的な展望を与える。また、優れた人材の意欲と研究時間を最大化し、研究に専念できる環境を確保することにより、破壊的イノベーションにつながる成果の創出が期待される」、そういった成果が期待されております。
 こちらは当初の3年が終わりまして、昨年度の補正予算においてまたさらに3年間続けるといった形で、今後定常化に向けて動いているわけですが、採択された方、応募される方、さらに各方面の方々に伺ってみましても、非常に優れた制度であるという高い評価をいただいている事業でございます。このような取組を、これから独立する若手の研究者だけではなくて、独立後のシニア研究者にもぜひ導入すべきであると考えております。
 その点におきまして、まず、私自身が考える科研費などの競争的研究費制度の課題について、箇条書にさせていただきました。
 まず1つ目です。国際的競争力の観点から特に理系の分野では毎年1,000万円は最低限必要であると考えております。この例としまして、その下に設備備品費として100万円、消耗品費300万円、旅費50万円等が書かれておりますけれど、実感としまして1,000万円はないとちゃんとした研究をすることができないと感じております。比較対象としましては、米国のNIHの話をさせていただきましたが、そちらの最も一般的な研究費であるR01におきましては年間8,000万円もあります。しかも採択率は22%あります。こちらは人件費等も含んでいる額で単純な比較はできませんけれども大きな差がありますので、やはり1,000万円は最低限必要であると思っております。
 2点目です。ところが科研費におきましては、このような年間1,000万円を充足するような種目というのは特別推進(採択率11.4%)、基盤(S)(同12.3%)、さらに学術変革(A)の計画研究(同7.8%)しか満たすことができません。ということで、このような安定的な資金を獲得しようと日本のトップレベルの研究者が頑張られるわけですけれど、実に申請の90%近くが不採択になってしまうことが問題なのではないかと思っております。これは科研費に限らず、JSTとかAMED等の事業におきましても同様に非常に高い競争率の為、多くの研究者が不採択になってしまう。その結果、申請者さらに申請者だけではなく審査員の時間と労力の負担が大きいといったことが問題と考えております。これは現場の疲弊と意欲の喪失を加速してしまうといった形で、大きな問題として挙げられます。
 一方、NIHの例では、この右の表を見ていただきますと、これは2016年のデータですけれど、トップ10%と20%の研究者間で論文生産性と質に差がないという報告が提示されております。トップの2%ほどは確かにプロダクティビティーがちょっと高いんですけれど、それ以外の研究者もしっかり研究していて大きな差がないのに、日本の科研費制度では10%で切ってしまうので、それ以下の研究者に研究費が渡らないというのは問題であると考えております。
 3番目におきましては、こういったリスクがありますので、それを回避もしくは不足分を補充するために、重複申請が可能な種目に関して皆様が複数申請することが通常行われているかと思います。その結果どういったことが起こるかといいますと、トップ研究者が複数課題に採択される例が多々あります。例えば、基盤(S)並びに学術変革(A)の計画班、挑戦的研究などなど、トップの先生は非常に高名で研究計画も優れておりますので最優先で採択され、その結果、2番手、3番手の研究者は一つも採択されないといったことも多々ございます。これは科研費に限らずJST・AMED・NEDO等のCREST・さきがけ・PRIMEや、ムーンショットなどにおいても同様の事例が多数あると考えております。一方、複数採択された研究者は逆に使い切れずに、稼働率の低い高額機器を購入する事例もあるというように伺っております。
 4つ目の問題点としまして、PI(主任研究者)とnon-PIが日本の研究費制度では明確に分けられておりません。そのため、まだ講座制が維持されている研究室が多いと思うのですが、大御所ラボのnon-PIの方が採択されて、それがボスと研究内容が近い内容である一方で、中堅ラボのPIが自身でやっているような研究は全く採択されないといったことも起こっているかと思われます。この結果、同一ラボへの研究費の重複・集中が加速する可能性があり、さらに地方大学では十分な予算のない研究室が多数存在しております。
 実際、右側のグラフを見ていただきますと、これは内閣府が今年3月に出したデータですけれど、トップの研究者がどれだけ研究費を取っているのかの表です。実に2.8%の研究者が日本の研究費の約29.2%を取っている。一方で、左側の61.8%の下位の研究者の方々は100万円にも満たないような研究費で運営しているといった実情が指摘されております。その結果、現在流行の研究のみに資金が流れてしまい、次のブレークスルーとなるような地道な研究の芽を摘む可能性があるということが指摘されております。
 さらに5つ目です。科研費におきましてはどの種目に出すべきなのかといった選択が難しいところもございまして、基盤(A)にするべきなのか(B)にすべきなのか、もしくは(B)にすべきなのか(C)にすべきなのかなど、どの種目に出せばよいのかの選択が難しくて、時にはギャンブル的なところもあると思います。種目選択を誤ればその年度は研究費がゼロといった懸念もございます。私の身近な大御所の先生におきましても、年間5億円もらっていた先生が翌年ゼロになったといった例も実例としてあります。その結果、人件費・マウスなどを安定して継続することができません。
 最後に、採択率と充足率を上げるためには、一番重要なのはもちろん科学技術関連予算の増額が必要不可欠であると私も認識しておりますが、一方で、科研費のより効果的な配分方法も検討すべきではないかと考えております。その心としましては、PIが必要十分な研究資金を持続的に獲得できる仕組みを導入すべきであると考えております。
 それでは、次のページに移ってください。そこで参考にしたのが米NIHの研究費でございます。NIHの主な研究費がここに書かれておりますが、NIH予算というのは約450億ドル、日本円で6.8兆円、アメリカの全科学予算の半分以上を占めていると言われております。科研費におきましてはNSFとかのほうが近いと言われているんですけど、今回は主な代表的な研究費ということでNIHと比較させてください。
 支援対象として、まずPIとnon-PIがきちんと分けられているのです。そこが一つ重要なポイントでありまして、non-PIはPIの種目に出すことができません。そのちょうど中間のところにnon-PI用のものとしてK99/R00が設定されております。これはまさにJSTの創発みたいなもので、独立への移行期の研究者が獲得するような研究費でありまして、そこを境にしてちゃんとPI用とnon-PI用というのが分けられています。
 PIをまず見ていただきますと、種目が3つしかないのです。細かいのはあるかもしれませんけれど、日本のようにAMED何々事業とか、ムーンショットとか、JSTのCRESTとかいろいろな事業がたくさんありますけれど、アメリカは全てR01に集約されております。もちろん国からのトップダウンでいろいろな事業が進められるのですけれど、それも全てR01の中に組み込まれ、その分充足率とか採択率を上げるといった制度になっております。
 R01を見ていただきますと、期間としては3年から5年で、直接経費としては年間約7,500万円ぐらいです。さらにそれ以上の金額のものは、事前に許可があれば可能になるとされております。
 採択率におきましては22%で、さらに備考を見ていただきますと年3回の申請が可能です。また、このR01の特徴として、複数の課題の採択が可能であります。さらに更新も可能で、その場合は採択率が40%に上がるといった形で非常に安定的な資金となっています。。このR01は日本においては基盤(S)と(A)に相当するのではないかと考えております。
 一方、こういった大型予算を取れない方々にも配慮がありまして、その下にR03というのがございます。これは2年単位でありまして年間約750万円、採択率が28%、スモールグラントと言われておりますが、基盤(B)と(C)に相当するものであります。
 あとは、挑戦的研究に相当するものでR21というのがございまして、これは2年間で約4,000万円、採択率は22%、こちらは予備データなしでも可といったものです。
 一方、一番下のnon-PI用のものでは、K01といったものがありまして、これは3年から5年、年間2,000万円です。本人の給料込みですので全て使えるというわけではないのですけども、それでも十分な額があり、採択率は36%あります。こちらは若手研究に相当するかなと考えております。
 この米国の研究費を参考にしまして、日本でもこういった形で安定的かつ長期的な研究費を導入すべきではないかと考えております。そこで一つの提案としましては、日本版のR01・R03を導入すべきというのが下の図になります。まず、日本版のR01というのは1,000万円掛ける5年間、R03というのは200万円掛ける3年間といった形になります。それぞれ各3本までは年度をずらして採択することが可能であるというように書かせていただきました。例えば1本目の採択率におきましては広く40%ほどが採択される。これは基盤(A)に相当します。一方、この研究費だけでは足りないという方は2本目に申し込むことができますが、その際には採択率を減らし、30%へと低下させるといった調整をする。さらに3本目が欲しいといった場合には20%まで下げる。こういった形で、基盤(S)相当の額を担保することができると思います。基盤(S)は、今まででしたら不採択ですとゼロなんですけれど、こういった(採択数に応じて採択率を調整する)システムがあると、きちんとボトムアップとして、しっかりとした研究費が確保できるのではないかと思っております。
 赤の矢印①~③のところは、次の4本目についてです。①全て順調に採択された人の例では、4本目というのは1本目の終了時に起こるわけですけれど、そのときの採択率というのは同時としては3本目となりますので20%となります。②1本目終了の年、例えば6年目に不採択で、7年目にまた挑戦した場合というのは、同時としては2つ目になりますよね。2本目に採択されたものはもう終わっていますので。そのときの採択率は30%。さらには、③全て今まで取れていた研究費が更新できなかった場合というのは、実質同時に採択されるものはないので採択率を40%に上げる。こういった形で採択数に応じて採択率を変化させることによって、安定的な研究費を担保できるのではないかなと思っております。
 一方、R01とR03に関しては双方移行が可能でありまして、例えばR01が全て終了の次年度はR03との重複申請が可能である。もしくは、右側のR03におきましても同じような制度なんですけれど、R03終了の次年度には、例えばR01との重複申請を可能にして、採択されれば他のR03も終了させてR01に専念する。ステップアップやダウンさせる形で双方を行き来することができる。こういった制度を導入するとかなり安定的になるのではないかなと思っております。まずは科研費からこういったことを導入されて、いろいろと他の事業、JSTとかAMED等もこういった形で全て統合できれば素晴らしいですけれど、それはまた次の課題かなと考えております。
 一方で、こういったドラスティックな変化を望まない方々も多くいらっしゃると思いますので、研究種目を維持する場合についても方策2として提言させていただきます。
 大型研究費の採択率が非常に低い。10%しかなく、9割の方のトップレベルの研究者が採択されないといったことが問題であるということを何度か言わせていただきました。ですので、こういった特推とか基盤(S)とか学術変革(A)などの採択率を20%ぐらいに上げるという方策が必要であると考えております。もちろん研究費の予算全体が増えればいいのですけれど、なかなか難しいといった場合におきましては、まず、案1としましては重複制限を厳しくする。例えば、学術変革(A)の計画研究に採択されたら基盤研究は終了して他の研究者に回すといった形が一つかと思います。
 2つ目は、単純に金額を半分程度にする。特推を5億円から3億円、基盤(S)を2億円から1億円、学術変革を15億円から8億円などです。3億円でもJSTのCREST相当です。また、基盤(S)の申請者の75%は(A)との重複申請によって多くの方が実は(A)の方に採択されて、そちらで研究を行っているという実情もございます。ですので、下のグラフを見ていただきますと、現状は研究費の総額として上位の10%が満額で、10%以下の方はゼロになってしまうわけですけど、案2で総額を半額にすることによって2倍の研究者がちゃんと研究に従事することができるであろうと考えます。
 案3としましては、それを傾斜配分するという方策です。評価の高いものから低いものまで傾斜させると、それでも20%の研究者がちゃんと研究に従事することができます。
 案4は、逆に採択率を敢えて10%から8%に下げて、浮いた分で単年度のみの採択者を更に10%採用したらいかがかなと。そうすることによって見かけ上18%の採択が担保できるのではないかと考えます。リベンジで次の年にまた再挑戦するといった形ですが、1年間は研究費が切れることがないという制度として、こういった方策もあるのではないかなと考えております。
 続きまして最後の32ページです。学術変革(A)に関する私見について、最後に説明させていただければと思います。私自身、学術調査官を担当しまして、新学術領域において2年間、様々な領域代表者及び計画班・公募班の方々との意見交換でいろいろと意見をいただきました。そこで私自身が考えた案というのがこちらになりまして、主に問題点になります。まずは、グループグラントというのは欧米ではほとんど見られない仕組みでございます。かなり日本特有といいますか、ヨーロッパではちょっとあるのですけど、アメリカではほぼないシステムであります。採択率が7.8%と極めて難関であり、多くのトップ研究者の時間と労力を損失しているように感じております。申請書も非常に大きなものですし、ヒアリングにおける労力も大変です。ノーベル賞クラスの先生も平気で落ちるといったことで、何を基準に採択しているのかというのは、なかなか難しいところがあるのです。新学術領域とか学術変革といったことを狙うために、奇をてらった領域名が多くて、これが国際的に波及した例というのは、ほぼほぼございません。
 また、その分野の中心研究者2、3名が立案して、他の計画班員は主体的でないことが多いと感じております。そのため、領域が終了後にその研究にはもう取り組まない、そして次の領域に新しく入っていく。というように、本当にその領域をきちんと盛り上げようという形にはなっていないのではないかなと思います。
 さらには、5番目ですけれど、いろいろな研究者に伺いましたが、特定の分野及び領域の研究者間で、情報格差や機会喪失などを生じているという意見も聞きました。特に計画班と公募班と、さらには不採択者の間でです。不採択には全く情報が入ってこないので、その領域の研究をしているにもかかわらず全くメリットを得られないと不満に思われる研究者も多く見られます。
 さらに、計画班員は他の大型研究費を既に獲得している場合が多いです。また、大御所ラボの若手が計画班に入る、これは制度的にしょうがないのですけれど、研究費の重複・集中が加速する可能性があると思います。
 最後に、選考審査において、その研究内容や手法に精通する審査員というのは限られているわけです。様々な分野の研究者が集まっておられますので、専門的な立場から審査を行うことが難しい面もあるのではないかと考えております。
 そこで個人的な提言なのですけれど、学術変革(A)は240億円計上されておりますが、これはいっそ全て基盤研究に回すべきなのではないかなと思っております。基盤(A)を4,000万円とするならば600名を採択できます。これは基盤(A)の採択者数526名よりも多いのです。基盤(A)の採択数が2倍になるといったことで、そちらがまず何よりも優先すべきなのではないかなと思っております。仮に種目として残すならば、総括班と公募班のみでも十分ではないかというのが個人的な意見でございます。
 発表は以上になります。ありがとうございました。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございました。
 華山委員の御発表に関しまして御質問等がありましたら、どうかよろしくお願いいたします。具体的な提案もありましたし、いかがでしょうか。
 どうぞ、塩見委員。
【塩見委員】 
 30ページの提案はすばらしいと思いました。それで一つ、1,000万円では多分足らないと思います。僕は2,000万円だと思います。華山さんは人件費を300万円とされていますけど、これで来てくれるのは研究補助員ぐらいであって、ポスドクはこの額では雇用できないので。
【華山委員】 
 おっしゃるとおりです。
【塩見委員】 
 だから、NIHでも5万ドルだと思うんです、最低が5万5,000ドルだったかな。ヨーロッパはもっと多く1,000万円近くに今なっているので、ポスドクの給料でも。
 一方で、日本政府とか文部科学省は「海外からの研究者を増やせ、増やせ」と言っているわけだから、海外から人を呼んでこようと思うと、恐らくポスドクでも700万円ぐらいは出さないと来てくれないというところなので、やはり年間2,000万円ぐらいは欲しいなと、それを5年続ければいい研究をされる人が結構出てくると思います。
 もう一つは32ページです。全く僕も最後の提言、学術変革はもうやめたらいいんじゃないというのはそのとおりで、科研費というのは個人研究だと僕は思っています。だから個人にお金を出すべきなのではないかなと。個人のまさに自由な発想でというのが科研費の売りでもあるわけですから、このように基盤(A)が600名も採択できるというんだったら、そっちにお金を回したほうがいいと私も思いました。
 以上です。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。
【華山委員】 
 ありがとうございます。
【白波瀬部会長】 
 どうぞ、中川先生。
【中川オブザーバー】  
 ケースによると思うんですけれども、基盤(S)の上限額ではできない研究を思いつく人ってやっぱりいて、多くのお金を取りに行くリスクをあえて冒してアクションを起こす人って、たぶん野心とアイデアがある方が多いと思うんですけど、基盤(S)の上限額でカバーできない研究プランに関してはどういうすくい取り方をするというお考えなんでしょうか。
【華山委員】 
 R01に関しましては、書かれていますとおり、それ以上は事前許可があれば可能とされております。ですので、例えばこういった制度を導入した場合も、自分の研究はこれでは全然足りないという方には特別枠を設ける、もしくは特別推進を残すとかそういった手もあると思います。特別推進も採択率は10%と非常に厳しいものですので、同様にボトムアップ的にやるべきなのかなと思います。そこで足りなければそういった形で特別推進にすると。
【中川オブザーバー】 
 本当に必要ならもっと応募してもいいという文言は、私も自分が申請者の立場で見たことあるんですけど、心理的にはものすごく怖いですよね。ただでさえ採択率はすごく低い、その上充足率が低いのは分かっていますから、「ああ、お金がないんだな」というのも実感として伝わってきますから、もっとくれという申請書なんて書こうものなら通るわけはないという心理になる、そういう心の動きを酌み取ることって必要だと思うんですけど、どうしたらいいんでしょうね。
【華山委員】 
 超大型の研究費に関しては、正直申し上げると、JSTとかNEDOとかでやってほしいなと感じております。こちらの科研費は基本的にはボトムアップといった形になるかなと思っております。そこら辺の事業の切り分けといったところが非常に大きな課題だと感じておりまして、なかなか省庁間の縦割りがうまく有機的に動かないといった課題もあるかなというように思っております。
【中川オブザーバー】 
 分かりました。
【華山委員】 
 いずれにせよ、特推を除けば科研費においての最大の研究費というのは基盤(S)になっておりますので、この方策ですと3本目を取れれば基盤(S)に相当する額、1億5,000万円取れることになります。それより上というのは、もちろん国の予算次第といったところになるかなと思います。
【中川オブザーバー】 
 分かりました。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。
 山本委員、どうぞよろしくお願いします。
【山本委員】 
 この御提案というのは、前もお伺いしたように生物系のことをかなり中心に考えられていて、コンスタントに研究費が欲しいというタイプの研究です。そうじゃないのがあるというのは、分野間で違うということは改めて申し上げる必要はないと思うんです。それはあるので、これが全てパーフェクトとは言えないというのが1点。
 それからもう一つ、もっと深刻だと私が思ったのは、深刻というのは提案じゃなくて、現状が深刻だと思ったのは、研究者が今欲しているのは経常的な研究費だということです。つまりどういうことかというと、コンスタントに仕事ができるようにしてくださいという科研費以前の話になっています。昔だったらそれはもう保障されていたはず、あるいは、ある程度保障されたものが、もうそれがなくなっちゃっているから、なので、科研費でこれを何とかしてくださいという話になっている。事実はそうなんですけども、それをあまりにも強調し過ぎますと科研費の存在意義がなくなります。これは運営費交付金でいいじゃないかと、そういう議論が必ず出てきます。だから、科研費というのはある期間必要なことに研究費をつけるものであって、それがボトムアップであって、それはやはり外せない。基盤研究であっても経常経費としてしまったら、それは私はまずいと思っています。だから、もしそういうように進むということを皆さんが決定されるのであれば、それはすごく大きな決断、科研費事業そのものを解体するということに近いことを理解していただきたいと思います。
 以上です。
【白波瀬部会長】 
 大変ありがとうございます。極めて基本的なところで、デュアルサポート、基盤的研究、そして競争的基金ということですね。科研費についての御意見をいただきました。ありがとうございます。
 尾辻先生、お願いいたします。
【尾辻委員】 
 ありがとうございます。尾辻です。華山先生、御説明どうもありがとうございました。
 山本委員が懸念されていることを先におっしゃっていただいたので付け加えることになってしまうんですけれども、現状の国の厳しい財政状況を前提として、パイが広がらない中でどうするかといったときのオプションとして華山先生は中心的にお話をなされたのかなと思うんです。そのときに、デュアルサポートがもう既に劣化しておりますので、運営費交付金として支給すべき基盤的経費、つまり定常的な研究予算を何とか科研費の制度で賄えないかという立場での知恵をたくさん御提案いただいたように思いました。この持続可能な研究経費の予算配分をいただくことは、もうとにかく研究学術の苗床を育てる上では必要欠くべからざることであって、やはり私も山本先生と同じように、それは競争的資金の外側できちんと十分に配するべきであろうと、そうしなければ、競争的資金であるボトムアップ唯一の科研費制度がやはり崩れてしまう。そして、コンプロマイズした結果として超大型の、しかも採択率が10%台にとどまっている特別推進研究というのはトップダウン側に吸収すればいいんだろうという矢面に立ってしまって、科研費制度のフレームワーク自体が未熟なものに成り下がってしまうことをすごく懸念します。
 今回、資料1のほうで文部科学省様から初めて科研費制度の中で、私もずっと事あるごとに問題点を指摘してきた大型種目をちゃんと支援すると、そして競争的資金としての制度をもう一度見直して、我が国が科学技術立国として国際的なプレゼンスをもう一度復活できるだけの財政投資をこの科学研究費制度にかけていくんだという意気込みを文部科学省様が初めて示してくれたと認識しているんですけれども、その点にまず敬意を表したいし、うれしく思いますし、ぜひこの研究費部会としては最初に御提示いただいた、つまりパイを広げるんだと、それは文部科学省が砦となって国に対して、政府、内閣府等に対して覚悟を決めて上申するんだと、そこの覚悟をこの研究費部会で御議論いただいて、我が国の科学技術を支える次の未来はそこからしか開けないんだということで訴えていただきたいと思います。
 科研費制度として、今は2,500億円ですけれども、どう試算しても、文部科学省の最初の資料1では大型種目の採択率を非常に現実路線で20%台とおっしゃいましたけれども、全体3割という国が示した方針に限りなく近づけて、しかも充足率を一応キープしようとすると、どう頑張っても3,800億円程度は必要なんです。1,000億円以上は増やさなければいけない。その予算の投資と教育研究基盤経費を同等額復活させるという、その二本立てでぜひ御議論いただけるとありがたいと思いました。
 以上です。
【白波瀬部会長】 
 大変ありがとうございます。私の立場的にはこういう路線に早く乗っちゃったらいけないんですけれども、基本的なところは尾辻先生、あと山本先生がおっしゃっていただいたように科研費としての、競争的資金としての位置づけは区別し、基盤的予算は人的投資という観点からも決して妥協することなく、デュアルサポートの路線は維持すべきと思います。
 ただ、現実的にはいろいろな現在進行形の方々もおりますし、地方と都市との格差というのもございますので、その点は理論的なところだけで走るわけがいかないということは理解できます。、それは文部科学省さんのほうもその辺りを御配慮いただいて、いろいろ申請の内容を詰めていただいているとは思うんですけれども、超えてはいけないというか、死守しなければいけない構造というのはやはりあるのではないかなと私は思っております。
 中川先生、何かありますか。
【中川オブザーバー】 
 私のこの後の話の中で、その点に関する提案が1つ含まれています。競争的な資金でありながら持続可能なシステムの実現を御紹介できるかなと思います。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。
 仲委員、どうぞ。
【仲委員】 
 仲です。ありがとうございます。
 私も、科研費は競争的基金だというのは、本当にそのとおりだと思います。ただ、文部科学省が出しているということには、研究者を育んでいくというような役割もあるのかなと思っています。例えばスライドの31ページのところに配分を変更していくというような案があります(案3,案4)。トップの研究者が高くて上位10%の研究費は低く、上位20%の研究者はもっと低くというように、傾斜のようになっているかなと思います。数字が挙がっているのは研究者の上位20%ぐらいまでですが、ここをもっと、裾野を広げて5割ぐらいの研究者までは獲得できるというようにしないと、科学の芽とか学術の芽というのが育ってこないんじゃないかなと思うところです。研究者が力をつけていけばいくほどお金は集まってくるものだと思いますし、国家プロジェクトになれば国からもっとやってくださいみたいな話が出てきたりということもあるわけです。そうではない、本当に研究者が、これから立ち上げてという方たちが、自分たちのいろいろなアイデアを試してみて、つくり上げていくという過程を支援しないといけないんじゃないかなと思っています。
 以上です。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。大変重要な点、特に広報についても積極的に日本はやらなきゃいけないなとは思うんですけど、ありがとうございます。
 華山先生いかがでしょうか。
【華山委員】 
 山本先生と尾辻先生の議論で、私が今日お話ししたのは別に定常的な研究費にするわけではなくて、競争的資金としてお話ししているので、100%渡すわけではございません。経常的経費というのは100%なわけです。それをこれまで文部科学省が良しとしなかったというところがあったのかなと理解しているのです。今回のお話でも、個人的には採択率を10%のものを20%に上げるとか、安定的な資金としては最低でも基盤(A)クラスのものはやはり皆さん欲しい、40%ぐらいの採択率であれば素晴らしいという話をしたのであって、それが全て経常的経費という形では全くございませんので、そこら辺を理解いただければと思います。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。少なくとも華山先生から具体的にある意味でシミュレーションとか、具体的な対策を提示していただいたというのはとても有益でした。そこから見えてきたというか、誤解も含めて見えてきたものも、今回、私自身、個人的にはありました。ありがとうございます。
 あとはいかがでしょうか。
 どうぞ、岸本委員。
【岸本委員】 
 岸本でございます。御説明どうもありがとうございます。
 30ページのところで非常に勉強させていただきました。御存じだったら教えていただきたいと思います。NIHの場合、例えば企業から何か支援とか連携ということはなされているのですか。
【華山委員】 
 いえ、あまり聞かないですね。
【岸本委員】 
 あまりやらないんですね。
【華山委員】 
 企業とプライベートな財団というのはまた別枠がございまして、医学系で有名なHoward Hughes Medical Instituteというのはさらに2倍以上の支援があるような大型予算であって、ずっと継続される年間2億円ぐらいの研究費があります。そういったプライベートのファンディングとかもいろいろございますので、アメリカはそういった形でいろいろな選択肢があるんじゃないかなと思っております。
【岸本委員】 
 なるほど、分かりました。先ほども研究費で1,000万円、2,000万円は要るよというのは、企業の立場からしてもそのぐらいは必要だと思うんです。基礎研究の必要性を学会などで企業のメンバーが集まって話しするときがありますが、大学には基礎研究をやっていただきたい、だけどそれをどうやって支援していけるか方策があまり思いつかないのです。共同研究費だと目先のアウトプットを追い求めてしまいますし、逆に基礎研究支援となるとアウトプットから遠いので支援しにくいようなこともあるので、上手な方法というのが海外であるならと思ってお尋ねした次第です。また何かありましたら教えてください。
【華山委員】 
 そうですね。お願い致します。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。多様な財源が、例えばアメリカはあるとますし、財源提供の数というか環境が日本とは違うので、この辺りの情報も適宜御提供いただければと思います。
 いかがでしょうか。そろそろ中川先生のほうに移らせていただこうかなというタイミングでもあります。
 城山先生。
【城山委員】 
 1つだけ華山先生にお伺いしたいんですが、今いろいろな御意見がありましたけど、御提案の一つで学術変革(A)というのは必ずしも必要ないのではないかという、これは結構重要な御意見かなと思うんですけども、その点については比較的皆さんポジティブであってあまり触れられなかったので、できればこの辺の議論をお伺いしたいなというところが背景としてあるんですが、このグループグラントというのは何を指しているのかというのをもうちょっとお伺いしたいんです。つまり、ある提案をするときに当然グループとして提案するというのは、代表者がいて、チームがあれば当然これはグループなわけですが、そういう意味でのグループグラントと見るとあらゆるものがグループグラントになってしまうので、ここで言われているのはもうちょっと限定していて、学術領域を変革するみたいな大きなシステム転換の意図を持って計画班、公募班等を組織化するという、何かそういうものというのは必ずしも効率的ではないのではないかという御意見なのかなと。そういう意味では、グループグラントというのをもう少しスペシファイしていただいたほうがいいのかなというのをちょっと思いました。
 逆に言うと、それはすごく大事だなと思うのは、個々のプロジェクトで学術領域変革というところまで一気につなげるというのは、確かにそもそも考え方として無理のあるところがあるので、そこをどう考えるかというのは結構深刻に受け止めるべきお話かなというように思いました。
 ただ他方、これはどなたかのコメントにも最初のところにありましたけども、ある種の学術領域変革みたいなものが分野横断的な研究の窓口になっている側面というのがあって、確かに怪しげな奇をてらったものも多いんだけどもいろいろなものが入り得ると。その中で分野横断の提案もできるということがあり、既存のカテゴリーによる提案がかなり個別のディシプリンによった形で審査されていることを考えると、こういうものが分野横断の窓になっている側面があって、そういうものをどう考えるかというのは、領域変革までいかなくても何か少し場をつくっておくということは科研費でも必要なのかなという気がするところもあります。グループグラントというのは何を対象にするかと、それから、分野横断プロジェクトの一つの窓的な機能みたいなものを科研費としてどう考えるかという辺りについて、補足があればお伺いできればなと思いました。よろしくお願いします。
【華山委員】 
 ありがとうございます。もちろん様々な領域がありまして、一つという形で言えないのですが、よく見てきたパターンとしましては中心となる研究者、その分野のリーダーの方がその分野をさらに発展させるため、もしくは学術変革を起こすために異分野の方を取り込んで違ったアプローチからやられるといった領域がかなり多いのではないかなと思っております。
 ただ、もちろんそれに関してのデメリットがあるというわけでは全くなくて、もちろんそれはそれなりに良い面もあると思うのです。しかし例えば、基盤研究を申し込む上で、基盤(S)とかでも、もちろん分担者もたくさん入れるわけでして、いろいろな異分野融合というのはそこの時点でもう作られているわけです。それを大きなものとして15億円もかけてやるべきなのかと言われると、かなり疑問なのではないかなと思っております。その領域の中は玉石混交で、もちろんトップの人も来られますけれど、ただ単にお金が欲しいだけという人もおられて、領域が終わった瞬間に知らないふりという事例も見てまいりました。
【城山委員】 
 それか、(S)とか(A)とか比較的大規模なものであれば、コアの人がいた上で周りを取り込むことができるのでしょうか。
【華山委員】 
 やはり、分担者二、三名ぐらい、かなりのレベルの方が含まれていると思いますので、そういった形で基盤研究の中でも融合研究ができるようになると思います。
【城山委員】 
 それでやるべきだということですね。分かりました。ありがとうございます。
【白波瀬部会長】 
 では、そろそろ時間となりましたので、次の中川先生の御報告に移らせていただきたいと思います。大体20分程度ですかね。15分から20分でよろしくお願いいたします。
【中川オブザーバー】 
 今日はお招きいただきましてありがとうございます。
 私がなぜここにいるかというのを、自分なりに考えました。私は今、立命館大学で古気候学研究センターというところのセンター長をやっているんですけれども、その前に、いま表紙に出していますけれども、イギリスのニューカッスル大学というところで足かけ12年ほど勤務しまして、その間に、いま振り返って、自分の人生のあれが代表作だったな、たぶん最終的にハイライトということになるんだなという、ある大きな仕事をしたんです。そのためにイギリスのグラントをPIとして取りました。日本で言うと科研(S)におおむね相当するお金です。
 その成果を持って日本に帰ってきまして、その続きの仕事をするために日本でも同じくPIとして科研の(A)を2回取って、その他小さい科研の挑戦的とか国際共同とかいろいろ取る中で、イギリスの制度、日本の制度それぞれ一長一短で、必ずしも日本はあかんと決めつけるつもりは全然ないんですけれども、ただ、私なりに、随分制度も違うし、制度以前に考え方に違いがあるなと思う面が多かったもので、そういったことについていろいろな機会で発信させていただく中で、今ここにいらっしゃっている方の目に留まって、ちょっとうちでもしゃべってよという形でお招きいただいたんだというふうに理解しています。
 実は、いきなり白状しますと、私、先週まで自分の持ち時間は30分だと思っていまして、20分だったということに気がついて、いや、私のメールのチェックが甘かったんですけれども、大幅に内容を慌てて切ります。皆さんに中川の話を聞いたろうと思っていただくために、私が何を成し遂げた人間なのかということを、まずある程度しゃべらないといけないかなと思っていたんですけど、つまり自慢話をしなきゃいけないかなと思ったんだけど、これはやめます。なので、私は意味のあることをやってきた人間なんだということを信じてください。
 その上で、イギリスの制度にどのように支えられて、先ほど申し上げた、私が代表作だとみなしている仕事をやったかというお話を3つの観点からするつもりだったんですが、たぶん時間が切れて2つで終わると思います。
 1つはお金の話です。これは今日の、科研費の話合いですから、メインの話になってくると思います。そして、そのお金をどのように使うか、そして使われたお金のバリューをどのように評価するかという、3つの話を持ってきました。
 ただ、ここで挙げている3つの話というのは、私が本当に伝えたいことを説明するための、実は表面的なカバーだと私は思っています。本当に伝えたいことは、日本の科学技術を盛り立てていくために、例えばもっとお金を取ってこようというのは、もちろんそれは必要な議論なんだけれども、それでは足りないものがあるという話を今日、私はしようと思って来ています。
 一番足りないと私が感じているのは、この3つを上手に使うことによって、人の心を動かすことができるという話です。つまり、士気を高めることを考えなきゃいけない、という話をします。士気ってやっぱり大事なんです。科学技術も戦争も、たぶん似たような面があると思うんですけれども、予算を倍にしたら倍の陣地が取れる、という話では恐らくないんですよ。過去1年、2年の間、私たちは士気が低い、弾薬もないけれども頑張っているというニュースを繰り返し耳にしてきました。先端を切り開く研究って、やっぱりどこかしら無理がある、人がやらないからこそ最先端であるという中で、それでも突破できるためにはお金とサポートのほかに、心にコミットすることというのはやはり非常に必要で、それはお金の出し方を工夫することによって達成可能であると思うというのが私の今日の話のメインテーマです。
 本当はこのスライドの前にたくさん自慢話があったんですけれども、全部すっ飛ばしました。その上で、いろいろな委員会ですとか、あるいはメディアの方に、私のイギリスの仕事を紹介させていただく中で、よくこの質問を受けました。「同じことは日本ではできなかったんですか?」と。特に私の場合は、メンバーにも日本人がたくさんいましたし、私は地質学者なんですけれども、研究地点も日本でしたので、実はイギリスのグループグラントとドイツのグラントを組み合わせて国際的なグループを、コンソーシアムをつくって達成したんですけれども、なぜそこに日本の科研費は入ってなかったのか、日本ではできなかったのかということを、繰り返し聞かれました。当たり障りのない答えとしては、私はイギリスに雇用されていましたので、ニューカッスル大学のプロフェッサーだったもので、科研費に応募する研究者番号を日本で持ってなかったから、そもそも資格がなかったというのが一番大きな直接的な理由です。
 ただ、その後、日本の科研費制度を自分がPIになって日本でやる中で、日本の科研費だからこそできることもある、でも、私があのときイギリスでやったことというのは恐らく日本では難しかったんじゃないかな、mという印象を持っています。そのことも具体的にお話ししていきます。
 最初にやったことは、試料を採取するということなんです。どうしても自分の事例に引き寄せますので地質学ヘビーの話になってしまうかとは思いますけれども、そのために、実績も何もない若手だったもので、上限5万ポンドの予算枠に申請したんです。当時新人賞と呼ばれていた予算枠です。私の申請書は世界の6人のエキスパートによってピアレビューされまして、その6人が6人ともA4で約1.5ページから2ページの、長い意見をちゃんと返してくれて、6人が6人ともこの研究はすばらしいと言った。なんですけれども、6人のうち4人が、上限額5万ポンドではこの研究は無理だろうと言ったんです。それを集約したイギリスのNERCという、日本の学振に相当する機関の私の担当の編集者のような立場の人がちゃんとそのメッセージを受け止めて、何と上限額5万ポンドの申請だったのに対して、5万2,375ポンドくれたんですよ。私たち(NERC)としてできる限りのことをした、というメッセージが添えられていました。そして、そのできる限りのことの内訳が、この積み増しされた分の半額は、インフレ予測分だと説明されていました。これは結構衝撃を受けました。なるほどなと。それから、残りの半分はきちんと説明されていませんでした。「いろいろなところからかき集めた」と書いてありました。それを科研費がやるべきだとは思いません。正直100%でいいと思います。
 ただ、お伝えしたいのは、そのとき私の心に芽生えたものというのはすごく大きくて、今でも思い出すと涙がにじむぐらい、それは大きくて、それは何だったかというと、恐らく「忠誠心」です。この研究をやり遂げる以外の選択肢が、私の手から全て奪われたと感じました。だから、この後3年間、まずこのプロジェクトをやって、そこで手に入れた試料を基にプラス5年、基盤(S)に相当するプロジェクトをやったんだけれども、その8年間、ある種のランナーズハイのような状態を持続させることができたんです。私が当時取り組んだ研究のボリューム感、そして先進性を考えて、そういう気分の中で仕事ができたということは恐らく必要だったし、それができたことはとても幸せだったと思っています。
 その思い出を持って日本に帰ってきて、やるぞと思って必要な額を正直に積み上げて申請した科研(A)は、採択していただいたから文句を言う筋合いではないんですけれども、充足率は64%でした。すごく正直に書いたのですごく困りました。本当に困りました。ただ、困った部分に関しては、いろいろな業者の方に無理を聞いていただくとか、自分たちがハードワークするとか、いろいろなやり方でそこは埋め合わせることができたんだけれども、埋め合わせることができなかったのは忠誠心です。それと同じものは、申し訳ない、言いにくいけれども、私の心には芽生えなかった。その違いについては真剣に考えていただきたい。今日も何度か充足率の話が出ましたけれども、充足率の話というのは、60%のものを100%にすれば、6割だった効率が10割になるという話ではないと思います。もっとそれ以上の意味を持った、非線形のものだと私は思っています。
 それから、イギリスでそのお金をあなたにあげますよと、リーダーとしてやってみなさいという知らせを私が受け取ったのが2007年5月だったんです。そのお金を使って私が実際いつプロジェクトを始めたか。これが今日、私が一番お伝えしたいと思っているエピソードです。いつ私がそのプロジェクトを始めたかというと、2008年の2月に始めたんです。これはイギリスの学期の始まりにも、会計年度の始まりにも一致していないし、私がその採択通知を受け取ったタイミングにも一致していません。私が受け取った採択通知には、充足率はちなみに100%でしたが、「あなたには幾らあげる、そのお金をいつ使い始めて、いつ使い終わるかをあなたが決めなさい」と書いてあった。私がプロジェクトを始めるタイミングというのは、その日でもよかったけれども、来年でもよかったし、何なら10年後でもよかったんです。この自由度が本質的な、本当に本質的な違いをもたらしました。
 じゃあ、現場の私、研究者の使い心地にとって、それがどう違ったかという話に入っていく前に、「そんなこと無理じゃん」と多くの人が思われると思うんですけれども、なぜイギリスでそんなことが可能だったかという、その立てつけの話をしますと、イギリスといえども単年度決算の国なんです。なので、リサーチカウンシル、学振に相当するところから、大学にお金というのは採択されたその年からもう振り込まれ始めるんですよ。大学はそれをどうするかというと、大学は何千人、何万人という研究者を抱えていて、彼らが取ってくる外部資金を全てプールする、たった一つのユニバーシティ・オブ・ニューカッスルという銀行口座を持っているんです。この巨大なバッファの中に少し余計に入ってこようが、少し出ていこうが、実は大学の運営にとっては全く問題じゃないので、大学は研究者との間のやり取りとして、好きな日に大学から研究者に、そのお金を使っていいよという差し出し方をするんです。
 もっと言うと、間接経費は、ちなみに採択されたその日から入ってきます。なので、研究は始まっていないんだけれども、研究を始めるための準備のために、間接経費、環境整備のお金を使うということは、実はでき始めるんです。これは何となくイメージが湧くと思うんですけれども、ものすごく明らかなメリットがたくさんあります。一つは準備に時間をかけられる、当たり前ですよね。私、過去にあった事例ですが、(科研費が)採択されてある機械を導入して、その機械を使って分析がしたかった。すごく先進的な研究ですから、機械だってそんなにたくさん在庫があるわけじゃないんですよ。予算を手に入れて、その日に発注書を書いて機械が納品されたのは2年半後だったんです。プロジェクトの継続期間は5年ですよね。最初の2年半というのは、旧態依然とした方法で亀の歩みでやらざるを得ない。最後の2年半で一気にそれを取り戻すというかなり無理なことが起こります。イギリスの制度だったらお金を手に入れて、発注して、その機械の納入が例えば3年後であれば、じゃあ、4年目からプロジェクトを「せーの!」ので始めるということができるんです。
 それから、これがさっきの話にも、議論にもつながる非常に重要な話だと思うんですけれども、例えば今、私が科研(S)に相当するものを持っているとします。それでプロジェクトが終わったときに、じゃあ、次さらにその発展でこれをやりたいというアイデアは、当然浮かびます。あるいは、(B)をやっている人が次に(A)を思い描くことというのはあるわけですよね。現行の制度だと、よっぽど前倒しで研究がはかどらない限り、次のプロジェクトに申請できる機会というのは、最終年度の1回しかありません。そして、その最終年度の1回の採択率は15%とか20%なわけです。これは物すごいギャンブルです。つまり、確率8割からそれ以上のリスクでもって、研究は一旦途絶する、雇った技術サポートの人は解雇しないといけない。何なら機械の継続的なメンテナンス契約も一遍そこで切らなければいけない、だから次に機械を立ち上げようと思ったらすごくお金と時間が無駄にかかる。そういったことが分かっているから最終年度で、しかも重複申請、重複制限がかかっていますから、そもそも最終年度にしか挑戦できないわけですよね。
 でも、イギリスのいつ始めてもいいよという制度だったら、例えば今5年の(B)が走っている、その1年目から次の(A)の挑戦を始められるんです。最初の3年は恐らく落ちますよ。落ちたとしてもですよ、フィードバックがもらえるから、それを踏まえて内容をブラッシュアップしていける。そして、例えば4年目にそれがもらえたとしたら、今やっている5年のプロジェクトが終わる翌年の、その次の年にこのお金を使い始める、という長期計画ができる。長期計画ができると、資金枯渇のリスクが少なくなるし、そして(A)に出すのはさすがに怖いから、本当はもっと大きい挑戦したいんだけれども(B)にしておこうとか、(B)に挑戦したいんだけれども、お金が途切れると生きていけないから(C)でお茶を濁しておこうかとか、そういう突破力のない研究がすごくたくさん量産される、悲しいルーチンにやっぱりはまってしまうんです。安心してリスキーな挑戦ができるためには、挑戦の機会を複数回与えなければいけない。それを成り立たせる方法として、今のプロジェクトが終わった後でその研究を開始できるという制度はすばらしかったです。だから私は、通りやすくするために申請書に手心を加えるということを、イギリスでは一切しませんでした。日本では、やっています。
 そして、これも非常に重要なんですが、今、例えば(A)を持っている人がいたとします。その人が学術変革に、(学術変革というカテゴリが今後)残るかどうかは別として、採択されて、(A)が終わったときにそれを始めるという計画を持っているとします。そうすると、5年から10年の長期計画が、もうあるわけですよね。そういう人というのは、もうその間、お金を取り過ぎるのも研究者にとっては苦しいことなので、余計な申請をしなくなるんです。なので、きちんと意味のある挑戦ができるし、生きていくための散弾銃を撃たなくてよくなるので、申請書の絶対的な件数、これは確実に減ります。ということは、審査の労力を節約できるし、限られた数の申請に対してきちんと予算を措置できるということだから、採択率も充足率も上げられる計算になっていくわけです。
 (スライドの内容について)これはもう言っちゃいました。なので、全体としてのアプリケーションの数というのは、お取り置き制度を導入することによって確実に減らせると思います。
 それから、これがイギリスの制度にとっては非常に重要でして、(日本で)科研が採択されちゃうと、何しろ(研究を途切れさせないためには)チャンスは1年しかないから必ず出さざるを得ない、出さざるを得ないと一定の確率でそれは採択される、その採択された年が、例えば大学の重要な委員会の業務に当たっていたり、それから本当は競争力のあるチームを組みたいのに、「この人が重要なパートナーだ」と思っている人が別のプロジェクトにもう取られていたりするから、本当に組みたいチームが組めないということになって、すごく非効率なんです。準備期間をちゃんとできることによって、私は来年からこういうプロジェクトを始めますから、申し訳ない、それまでに大学の授業を減らしてくださいとか、委員会の仕事はそれが終わった後にしてくださいとか、あるいは今年さっさとやっちゃわせてくださいとか、そういうネゴシエーションが可能になって、プロジェクトが始まるときには自由の身なんです。
 これがさらに大学にとってもメリットがあるというメカニズムになっていまして、それは、イギリスが多分わりと最近導入した、Full Economics Costingというシステムなんですけれども、私は大学に雇用されていましたので、給料は大学からもらっていたんです。大学というのは教育機関ですので、給料を払うことによって大学が私から期待するエフォートというのは、教育と大学運営なわけです。ところが外部資金を取ってくると、そこに研究費というものが入ってきて、私は一定のエフォートをその研究費に対して割くということになりますので、大学としては100%給料を払っているのに、何だ、こいつは8割しか大学のために働いてないぞ、みたいな状況が発生するわけです。なので、このイギリスの制度ではそこをどうカバーしていたかというと、私が計上するエフォートのパーセンテージに応じて、私の人件費と社会保障費がリサーチカウンシルから大学に補填されるという制度でした。なので、大学はこのお金を使って、私が割くエフォートの分だけ、たとえば代用教員を雇用したり、委員会の仕事を有償で誰かに引き受けてもらったりということができたんです。なので、1年あるいは2年の準備期間があって、わりとたくさんのエフォートを要求する外部資金が取れていたのであれば、それがスタートする数年後には本当に自由の身になって、外部資金を取ってくれば取ってくるほど、どんどん研究に専念できる状況が、自動的に出来上がっていくというシステムでした。日本ですと、たくさんの外部資金を取って有名になると、いろいろな雑用ってたぶん増えてくるメカニズムだと思うんですけれども、それに対しては真逆のシステムだったと思います。
 そして、最後に私がそのように満を持してある時点から(プロジェクトを)始めて、ある時点までで完結させた仕事は、最終的に1本の論文という形で発表しました。本当に1本だけじゃない、その周辺に論文が数本ありますけれども、私が会心の一打だと思っている論文を書くのに、最初の試料採取の3年と、その後の分析に要した5年を合わせて、8年の時間がかかっているんです。ウン億円のプロジェクトでしたので、それをもらっていた8年間、メインのアウトプットが出ないというのは、かなりまずいことだったんじゃないかとよく聞かれるんですけれども、実はまずくなかったんです。それはどういうことかといいますと、評価の制度がうまいことできていたんです。
 日本ですと、たぶん多くの場合、「あなたの業績はどんな感じですか」と聞かれたら、「私は今年何本の論文を書きました」というリストをたぶん日本の研究者は全員毎年書いていると思うんですよ。人によってはこれぐらいの本数、人によってはこれぐらいの本数といろいろケースがありますよね。人によっては学生さんとか共著者とかを使って信じ難い数の論文を書いている人、もう200本書いている人なんかもいて、そうすると、信じ難い数の論文をちゃんと読んで、これがまともな仕事かというのをチェックするなんてできませんから、純粋な数のゲームになっていくわけです。なので、こういうシステムの中ではたぶんこの一番右端の人が、一番褒められるという話になってくるんだと思うんですけれども、イギリスの評価は面白くて、まず毎年の評価というのがなかったんです。五、六年に1回、不定期に評価が入るんです。そのときに、たとえ私に論文が5本しかなくても、あるいは200本あっても、関係ないと。おまえがこの論文で評価されたいと思う論文を、4本だけ出してくれって言われるんです。4本以外のものは存在すら匂わせるなと言われます。4本だけだと何ができるかというと、ピアレビューができるんです。ピアレビューをやった結果、審査員は4本の論文に対してA・B・C・Dの評価をつけます。
 その評価基準というのはちょっと抽象的な部分もあるんですけれども、地域的、国内的、国際的、国際的に本当にブレークスルー、みたいな、こういう感じのよくある4段階評価です。Dの評価をもらうと零点がつきます。Cの評価をもらうと1点がつきます。面白いのはBからなんです。0、1と来て、次は2かと思うと、そうではなくて3点がつくんです。これは何でかというと、Cが1なので、1掛ける2足す1という式なんです。つまり、Cを2本書いている暇があったらB1本を目指せというシステムなんです。同じ式がAにも当てはまって、Bが3ですので3掛ける2足す1で、Aの論文書いたら7点がつくんです。こういう評価が五、六年にいっぺん行われるということは、その五、六年の間にCの論文を100本書いた人よりもAの論文を1本書いた人のほうが評価が高かった。そして次の外部資金を獲得できる可能性も高かった、ということです。この制度があらかじめ分かっていたので、私は最後に会心の一打を打つために、思う存分時間をかけるということができた。それはやはり私の働き心地、それからリスクをどういう形で引き受けていくかという点において、すごく大きなことだったと、いま思い出しても思います。
 そして最後にもう一つ、成果の報告のタイミング、これも非常に衝撃的でした。日本の科研費ですと、例えば5年のプロジェクトだったら各年度の最後に報告義務がついてきます。イギリスで私、5年のプロジェクトをやったんですけれども、まずいつ始めるかというのを私が好きに決めることができて、そして報告義務はこのプロジェクトの継続している5年間にはないんです。じゃあ、いつあるかというと、プロジェクトが終了してから5年間、各年度の終わりにやってきます。例えば科研のプロジェクトが始まって、1年目にこのプロジェクトの中から出たたくさんの業績なんてあるはずがないんですよね、正直な話。なんだけれども、ありませんと言うと次の科研がもらえなくなっても嫌だし、自分の評価が下がるのも嫌だから、前にやっていた科研の成果を、まあ、関係もあるからこの科研のアウトプットという形で報告するというのは、正直ほぼ全員やっていると思います。(イギリスでは)それをしなくてよかった。きちんと時間をかけてホームランを1本打って、そしてそのホームラン1本の報告をプロジェクトが終わった後にゆっくりすればよかった。この安心感というのは、ものすごく大きかったです。
 駆け足になりましたけれども、何とか20分に縮めたバージョンは以上です。これに関しては私が言いたいことが本当にありますので、ここをもうちょっと詳しく聞きたいということは、もちろんこの後のディスカッションでも構いませんし、私に個人的にコンタクトいただければどんな質問でも答えようと思いますので、連絡先をメモって帰ってください。どうもありがとうございました。
【白波瀬部会長】 
 大変ありがとうございました。
 では、中川先生の御発表に関しまして、御質問等をよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。
 仲先生、お願いします。
【仲委員】 
 大変目が覚めるような重要な貴重なお話、どうもありがとうございました。こういった研究費のシステムというのは、科研費みたいに一般的なものなのかということと、こういったシステムを学んでいくというのは、大学院生が学位を取ってというようなことで言うといつ頃から始まるのかみたいな。ちょっと茫漠としていてすみません。しかし、こういうシステムを最大限に中川先生は活かされて、会心の一打を打ったということだと思うので、こういうことが可能になるためには、どういう研究世界への入り方があるのかというのを伺いたかったです。 
【中川オブザーバー】
 こういう制度とか考え方をどういうプロセスを踏んで体にしみ込ませていくかということですか。
【仲委員】 
 そういうことです。
【中川オブザーバー】 
 それはやはり若手のときから繰り返しグラントに応募して、実際お金はこういう出し方をされて、自分の心がどう動いたかを見つめ、そこに込められたメッセージを自分なりに解釈する中で、自然としみ込んでいったことだと思います。そういう意味では、お金を出す側ともらう側との、いい相互作用がそこにあったと思いますよ。同じような相互作用って、例えば日本で繰り返し科研に応募して、繰り返し6割切るような充足率を与えられると、もう最初から水増しした請求書を取りに行ったり、最初からどうせ本気の仕事はできないと思って、コンパクトなプロポーサルに妥協したり。それって誰かに教えられてそうなっていくわけじゃなくて、自然と身についていってしまう癖みたいなものですよね。だから、科学者、研究者のそういう考え方の癖とか、価値観とか、態度みたいなものって、制度によって私は自然と育まれたと感じています。いつからそういう教育を受けるか、という感じではないですね。イギリスのことなんか何も知らずに、私は36歳かな、それまでヨーロッパで研究機関に所属したことなんて一度もなく、途中から飛び込みで向こうで働き始めたんですけど、それでも確実に私の心にしみ込むぐらい、それは明白なメッセージだったし、よくできたシステムだったと、いま思い出して思います。
【仲委員】 
 ありがとうございます。研究費1,000万円の最初の忠誠心というようなことを本当に若手の研究者がみんな経験できるとしたら、もう本当にすばらしいなと思いました。ありがとうございました。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。
 あとはいかがでしょうか。
 どうぞ、華山先生。
【華山委員】 
 45ページについてちょっとご説明いただきたいのですけど、先生が考えられる一番大きな違いはここのシステムということなのでしょうか。この口座が全学で1つのみというところです。
【中川オブザーバー】 
 突き詰めるとそうなります。
【華山委員】 
 それが、例えば大学は皆さんの研究費を取って、それで配分を大学が決めるということなのでしょうか。
【中川オブザーバー】 
 やっぱり文部科学省、学振がいきなりそれをするのって難しいんですよね、単年度決算の原則はやはり行政としては崩しにくいところがあるので。なので、研究費のお取り置き制度を実現するための方策として、イギリスが編み出したある種の抜け道がこれで、それは大学のお金の使い方の自由度が、そのように設計されているということです。
【華山委員】 
 例えば研究費がゼロだった場合、それを多く取っている先生から今年は少し回してもらうとか、それが大学の裁量で決められるということなのですか。
【中川オブザーバー】 
 それはさすがに無理ですね。私の名前で取った外部資金は、私が使うしかないと思います。ただ、間接経費が入ってきますので、さっきも申し上げたように、そしてその間接経費の中には私の人件費が含まれていますので、例えば隣の研究室で食うに困ったポスドクがいる。でもそのポスドクのボスはそのポスドクがいないと研究が止まっちゃうのを私は隣で見ていて、困るのをよく知っている。だからそのポスドクに、僕の授業を代わりにやってよと言って、自分のFull Economics Costingで措置された予算の一部を回す、みたいなことはできます。研究の立てつけそのものを、申請書から完全に違うものにはできないので、そこは限度があります。
 ただ、大学にも、間接経費は使用期限がないので、みんなが使い残した間接経費の大きなプールがあるんですよ。なので、それを使って、ブリッジマネーと言いますけれども、いつも優秀なんだけど、去年まで5億円取っていたんだけど、たまたま今年ゼロになっちゃったという人がチームを解散しなくていいように、そういう大学がプールしているお金を自分の判断で、今年、おまえにあげるから、次に大きなお金が取れたら間接経費で返してね、みたいなネゴシエーションは可能です。
【白波瀬部会長】 
 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 山本委員、お願いいたします。
【山本委員】 
 非常に面白い考え方で、フレキシブルに予算の使う時期を決められるというのはすばらしいことのような気がします。うまくやれば種目であればできるのかなという気もしなくはなくて、非常にいいんじゃないかなと思いました。
 一つ質問があるんですけど、5年と決めておいて、後にずらしてもいいんですが、例えば早くやっちゃってもいいんですか。例えば、2年で済ませてしまってもいいんでしょうか。
【中川オブザーバー】 
 ものすごくそこは自由度高くて、実際私たち、日本で言うところの学術変革みたいなグループファンディングだったもんで、あるチームは早く終わって、別のチームは遅くかかったんですよ。どっちのチームもそれぞれヘッドオフィスに電話1本かけて、「もう今年でやめていいですか」とか、あるいは「もう2年頂戴」とか、「じゃあ、いいよ」って、すごい簡単でした。
【山本委員】 
 そうですか。
【中川オブザーバー】 
 成果が出るのであれば何の文句も言わないという感じです。
【山本委員】 
 もう一つ、ちょっと分からなかったんですけど、審査の負担が軽減されるという話をされていましたが、それは無駄な申請をしなくなるという面はあるんだけれど、それに至るために、例えば何回か出すわけですよね。
【中川オブザーバー】 
 そうですね。そういう意味では、回数は確かに繰り返し挑戦する感じになるけど、でも日本でも落ちたら繰り返し出しますよね。
【山本委員】 
 それはそうですね。
【中川オブザーバー】 
 ええ。だから、通ったらもう出さなくなる、今のプロジェクトが終わるまでは必要な分しか出さないという意味では、やっぱりトータルには減る気がします。
【山本委員】 
 ああ、なるほど。分かりました。
【中川オブザーバー】 
 あと、研究者視点からすると、「通っちゃったよ、どうしよう」みたいな、不毛な会話をしなくて済むようになると思います。
【山本委員】 
 はい、それは減りますね。ありがとうございます。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。
 尾辻先生、どうぞ。
【尾辻委員】 
 ありがとうございます。中川先生、大変貴重な御発表、御教示ありがとうございました。
 それで、私が感心したのは重複申請をいつでもというか、年間複数回実施できることと、それから研究開始時期を自己申告制で設定できる自由度がセットになっていることです。これがあればこそ、事前に準備を始めて、サステナブルに研究の発展とか継続が、結構皆さん効率よく、しかも計画的に進められる要かなと思ってとても感心したんです。科研費制度にもそういったことが導入できなくはない、オプションの一つ、選択肢として今後検討していくに十分値するなと思った次第です。どうもありがとうございました。
【中川オブザーバー】 
 本当にありがとうございます。このお取り置き制度は、もう本当にぜひ、ぜひぜひ本当に皆さんに議論していただきたい。同じ金額で、日本の研究力をかなり底上げできるポテンシャルを持っていると思います。
【梅﨑企画室長補佐】 
 事務局から補足させていただければと思います。
【白波瀬部会長】 
 どうぞ。
【梅﨑企画室長補佐】 
 参考資料の18、「国際共同研究加速基金」の概要という資料を御覧ください。こちらに関しては、国際共同研究を進めていただくという種目になっていて、これは全部基金種目になっています。例えば国際共同研究強化、ここの研究期間・応募総額のところを見ていただければ交付申請した年度から起算して最大3年度というような記載があります。これは海外の相手方の共同研究をやるときに、準備が整ってからお金を使い始めていただいたほうが効率的にやれるだろうというところで、こういった制度も一部研究種目のほうには導入しているということを補足させていただければと思います。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。貴重な情報です。
 いかがでしょうか。
【城山委員】 
 関連してよろしいですか。
【白波瀬部会長】 
 どうぞ。
【城山委員】 
 これは山本先生が先ほど言われていましたけど、基金だとやろうと思えばできるんでしょうか。つまり、例えば最初に御説明があった補正予算、基金化のメインの案件で六百五十何億円と書いてあるんですけど、基金ということは、多分初年度に複数年度分の全体のお金も積むという措置を取るということですよね。そうすると、それをいつからはじめるのか、エンドレスに延ばすことはできないとしても、むしろ今の国際の絡みのような合理的な説明がつけば開始時期を柔軟に操作するということは、基金という枠組みであればできるという、そのように解釈してもよろしいでしょうか。
【梅﨑企画室長補佐】 
 制度的に事務コストやメリット・デメリットを考えた上で導入するという判断をしなければいけないと思いますけれども、端的に基金の制度であればできます。
【城山委員】 
 ありがとうございます。
【白波瀬部会長】 
 鷹野先生、お願いいたします。
【鷹野委員】 
 鷹野です。ありがとうございます。
 中川先生、本当にすばらしいお話、ありがとうございました。
 幾つも感銘を受けたところがあるんですけれども、一つは充足率の考え方です。正直に積み上げたら足りなくなってしまうと。私、調査官を大分前に、もう20年以上前でしょうか、やったときに金額を決めたんですけれども、決める作業をお手伝いしたんですが、そのときにエクセルで一覧表がありまして、大体評価によって何%の充足率というのを計算するというような作業をしたんですけれども、そういった形で日本の科研費の場合にはおおよその充足率というのが決まってしまっていて、皆さんそれを分かっていますので、それに応じた申請をするというのが悪循環になっているのかなというのを改めて感じた次第です。こういった採択率と充足率の関係というのは本当に科研費制度でこれまでも大勢の先生方が検討されてきた課題の一つだと思うんですけれども、先生のお話を伺いまして、その点も私たちが今後真剣に考えて改善していくべき一つの視点かなと感じました。
 それから、もう一点だけ感じたことをお話しさせていただくと、報告と評価の仕方についてです。これも1年目、2年目で報告して評価を受けるということになりますと、申請の前にかなりの準備をして、おおよその結果の見通しが立った研究しか、研究しかでもないんですが、そういったものが採択される可能性が高いということで、そういった研究の仕方が主流になってしまうと思うんですけれども、新しい研究をするに当たってのやり方というか制度の大きなヒントを先生が御紹介くださったなと思いました。そういったことも今後の大きな課題かなということを感じた次第です。どうもありがとうございました。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。
 中川先生どうぞ。
【中川オブザーバー】 
 ありがとうございます。充足率に関して、いま、評価によって割と単純な掛け算をされたのかなというふうに理解して、なるほどと思ったんですけど、私、イギリスのその思い出を胸に抱えて日本に帰ってきて、こんどは自分が科研の審査員になったんですね。あのときの私のように、人生を切り開くために無理のあるアプリケーション、しかし夢のあるアプリケーションがもしあったら、あのとき4人の審査員が私にしてくれたように、こいつにもっとお金をあげなさいという作文を返そうと、そういうことがちゃんとできる大人になりたかったんですよ。すごいやる気満々で評価システムにログインして、実際あったんです、そういうアプリケーションが。これはもうちょっとお金をあげたほうがいいんじゃないのと書こうと思ったら、まずびっくりしたのが、自由作文欄がない。私でできることというのは、2つあるラジオボタンのどちらかを押すことだけだったんです。1つは「平均的な充足率でいい」、もう一つは「もっと減らせ」です。だから、これは結構誠実に書いていると思うから、なるべく満額あげたほうがいいよという意見を表明するメカニズムすらなかった、というエピソードです。
【白波瀬部会長】 
 分かりました。ありがとうございます。
 いかがでしょうか。
 速水先生、お願いいたします。
【速水委員】 
 ありがとうございます。すばらしいお話ありがとうございました。
 先ほど前のお話でやり取りがありましたデュアルサポートというお話で、経常的な経費と科研費は別でなければいけないということから考えますと、今回お話しいただいたのはまさに研究のための経費ということだと思うんです。もうずっと前になりますけれども、イギリスの大学というのは研究職と教育職が完全に分かれてしまっているというようなお話を一部の大学について聞いたことがあるんですけれども、今回お話があったような、もっと少額のものであっても、その中の自分が研究できる経費を得て研究職としてやっていられる人というのは何%なのか、その辺の人口的な分布みたいなのはお分かりでしたら教えていただきたいと思います。
【中川オブザーバー】 
 それはなかなか難しい質問で、ちょっと図を使って丁寧にお答えしてもいいですか。時間との兼ね合い、数分いただけますか。
【白波瀬部会長】 
 簡単に、よろしくお願いします。
【中川オブザーバー】 
 スターは一握りです。ただ、研究職と教育職がはっきり分かれているわけではないんですよ、イギリス。何かといいますと、図なしでいきますけれども、数年に1回の、五、六年に1回の競争力評価のときに、その大学に交付されている交付金の額に応じて、あなたにはこれぐらいのお金を、バックグラウンドの運営のために出しているんだから、何人ぐらいは競争力のある研究者がいますよね、という人数枠が割り振られるんです。その人数は、私のいたニューカッスル大学の自然地理学教室ですと、スタッフ11人に対して9人でした。その9人はそれぞれ4本の論文を報告して、さっきのA・B・C・D、0・1・3・7みたいな点数が、その研究者に対してもつくんです。そして、その研究者に対して点数がついて、その研究所の点数の合計に対して次の交付金が決定されるので、Cの研究者が6人いる研究室よりも、Aの研究者が1人いる研究室のほうが、より高いお金を次の年に稼げる可能性が高いんです。ちなみに、これは労働党政権の時代の話ですので、今は変わっているかもしれませんけれども。なので、一握りのスターがみんなに渡るお金を取ってきて、それを七、八割の研究者が分け合う。人数枠に入らなかった2人は、それでも人間ですので、ちゃんと評価されて昇進したいので、研究ではなくて、進んで大学運営とか授業のデューティーを引き受けていく、というビヘイビアになっていくんです。そうすることによって、例えばシニアレクチャラーに順調に昇進できる、みたいな制度になっている。だから、全員が教育もできる、研究もできる、大学運営もできるスーパーマンであることは期待されていなくて、お金を取ってくるのが上手な人はそっちで貢献しなさい。そうじゃない人はたくさん授業を引き受けてくれれば、居心地悪くならずに同じようにいられるという、そういうシステムです。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございます。よろしいでしょうか。
 あとはいかがでしょうか。
 どうぞ。
【塩見委員】 
 56ページの成果の報告ということですけど、もう何度も言われているのでまたかと思われるかもしれないんですが、文部科学省の方には特に、日本の場合、毎年のように報告書と年度初めの計画書みたいものを出して、さらに5年の研究だったら中間評価があって、最終年度評価があってという、それにすごい時間を使っているわけで、やはり無駄だと思うんです。しかも、じゃあ、そこでいい評価を受けられたら次に更新できるかというと、そんな確約もないわけで、継続更新とかをまた一から申請しなければならない。もちろん論文とかを出していたら、それは採択のプラスにはなると思うんですけど、評価自体が本当に次の研究費の獲得に生かされているのかということに関して、私はいつも疑問というか不思議に思っていて、これだけ何度もやっているのにどのように生かされているんだろうと、誰が読んでいるんだろうみたいな。だから、この56ページにあるようなイギリスのやり方というのが、これからの日本もやっていったほうがいいやり方の一つじゃないかなと思います。
【中川オブザーバー】 
 無駄もありますし、評価される側の心の動き、今日の私のメインテーマで繰り返し申し上げていますけど心の動きから言うと、毎年論文のリストを上げさせられて、中間評価が入って、お金も6割しかもらえないというのは、疑いの目で見られている気分になってくるんですよ。おまえはどうせ放っておいたら仕事もしないし、何なら着服ぐらいするだろう、みたいな。その見られ方に対して、自分をディフェンスしている気分にどんどんなっていくんですよ。だから、「ありったけお金をかき集めました。評価も終わってからでいいです。とにかくあなたを信頼します」と言われたときに、あのとき私の心に芽生えたものというのはやっぱり大きかったんですよ、本当に。そこのところ、もうちょっと僕たちのことを信じてよ、という思いがちょっとあります。今日は報道の方もいらっしゃっているから、迂闊なことを言うなよと釘を刺されているんですけど、やっぱりつかざるを得ない嘘ってあって、そういうのは研究者だって、傷つきながらしようがなくやっているんですよ。いいルーチン、信頼が生むいい連鎖は存在します。そこを目指していくべきじゃないかと思います。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございました。
 意見交換ということで、科研費の検討すべき課題についても議論するようにということではあるんですけれども、今の中川先生の御報告を受けて、それとも関連してということであったかもしれないんですが、全体の流れの中で御質問があればと思います。
 中川先生、いろいろありがとうございました。大変勉強になりました。ただ、1点だけ少し辛口のことを言わせていただきますと、全体のイギリス社会の中での状況というのはそれほどいいことだけではなくて、これは北米も含めまして分断がここでも存在する状況があります。でも、キーは裁量と自由度ということがあるかと思うんですけれども、そういう意味で、取るまでは本当にピアレビュー、ピアレビューということでかなりの審査がされるんですけど、オーケーと言われた瞬間の自由度というのは、結構あるとおもいます。もっとも、アメリカの事例ぐらいしかあまり知らないんですけれど、それのよしあしというのはあるかと思います。
 それで、もちろん会計監査じゃないですけども様々な制度がくっついているので、その裁量を可能にするために、かなり足元のところの制度改革というのも求められるんじゃないかと思うんです。ですから、研究費部会ってある意味ではすごく小さいところではあるんですけど、本家本元の足元の研究者、充実研究のこれからの日本からの科学の発信というところまで何か言えるようにうまく論理武装したいなとすごく思うんです。そうすると、ここの国はよくて、ここの国は駄目という形での提言というのはあまりにもったいないような気がします
 でも、先生がニューカッスルで、イギリスでトップランナーのお一人として走っておられた貴重な経験というのは、本当に今日、具体的に聞けてありがたかったなと思います。そこをうまく日本の制度に、ですから基金化というところはすごく大きな第一歩になっていて、ただスタートラインをどの程度始められる猶予をここで持ってくるのか、5年間の中でうまくできるのかというのは次の工夫かなとは思うんです。
【中川オブザーバー】 
 私もイギリスが全ての面でパラダイスだとは別に思ってなくて、だからこそ、そこから生まれるいろいろぎすぎすしたものもありましたし、急遽20分に縮めた中でシンプル過ぎるメッセージに集約した部分もあります。すみません。もしどなたかの気分を害されたら許してください。
【白波瀬部会長】 
 いえいえ。でも、裁量という点では、日本が思っている以上に他国は結構あると思います。ですから、長となっている審査委員長から含めまして審査のチームも、「ここについてはもうあげようよ」といったときに、結構あげられたりするんですよね。それが、日本の制度って何か不要にぎちぎちになっていて、そこのバランスはすごく難しいなと思うんですけれど、日本的にうまくそこの組合せをどうしたらいいかは、引き続き先生の御意見とか御経験を聞きたいなと思いました。
【中川オブザーバー】 
 それはぜひ皆さんでぜひ。
【白波瀬部会長】 
 よろしいでしょうか。
 あと、今もちょっと申し上げたんですけど、全体の検討の課題について、もし何かここで言っておきたいということがあれば。
 中川先生、どうぞ。
【中川オブザーバー】 
 食い下がるようなんですが、それが学術変革という名前で呼ばれてなくてもいいとは思うんですけど、予算上限の考え方は再検討の余地があるように思います。1兆円を要求されてももちろん困っちゃうわけですけど、そんなことは研究者だって分かっていますので、この扉を何としてもこじ開けたい、そのためにどうしてもこれだけは、少なくとも今回だけは要るんだ、というケースはやっぱりあるので。この機会に、例えば2億円使わせてくれれば、その後10年はバリバリやってみせるよみたいな話だってあるし、国のプライドまで高めるほどの突破力のある研究を、ある程度の数生み出そうとしたときに、予算上限はやっぱり大きな足かせだと私は感じます。だから、例えば基盤(S)だったら、ちゃんと理由さえあれば、非現実的なのは落とされるけれども、そうじゃなければ、「幾らでも本当に必要だと思う額を言ってこい」みたいなメッセージが、もし込められているといいのかなと感じます。
【白波瀬部会長】 
 大変ありがとうございました。翻ると、審査員の目利きが必要で、審査員こそがしっかりしないと駄目だぞというメッセージも聞こえてきた感じがします。
 いかがでしょうか。よろしいですか。
 どうぞ、長谷川先生、お願いいたします。
【長谷川委員】 
 ありがとうございます。
 華山先生、中川先生、今日は貴重な御講演ありがとうございました。資料の熱量からも大変時間をかけてくださったということで、非常に感銘を受けました。ありがとうございました。
 いろいろなお話を伺って、それから全体の事務局の皆様が作ってくださった資料も再度拝見しながら考えたのは、一つのキーワードとしては基金化ということと、大学との組織ぐるみで連携の見直しというものが何らかの形で科研費のより有効な使い方に非常に必要で、研究プロジェクトを始める際の加速に、大きなグラントも含めて新しい分野の開拓に必要なんだなという印象を受けました。よろしくお願いします。
【白波瀬部会長】 
 ありがとうございました。
 よろしいでしょうか。
 本日は本当に貴重な、お二人の先生方、華山先生と中川先生、本当に今日は大変ありがとうございました。委員の皆様の活発な御意見に対しても御礼申し上げたいと思います。ただいまいただきました御発表、御意見につきましては、事務局において整理をお願いいたします。次回の研究費部会でも引き続き制度の改善・充実方策について、研究者の方々から、現場の方々からの御発表もいただきながら議論を深めていきたいと思っております。
 では、最後に、事務局より連絡事項をよろしくお願いいたします。
【梅﨑企画室長補佐】 
 本日の議事録につきましては、作成後、各委員の方に御確認いただいた上で公開させていただきます。
 また、次回の研究費部会につきましては日程調整後に御案内させていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
【白波瀬部会長】 
 本日の会議はこれで終了したいと思います。大変ありがとうございました。
 
── 了 ──

お問合せ先

研究振興局学術研究推進課企画室

電話番号:03-5253-4111(内線4092)
メールアドレス:gakjokik@mext.go.jp