人文学・社会科学特別委員会(第17回) 議事録

1.日時

令和5年7月25日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、オンライン会議にて開催

3.議題

  1. 人文学・社会科学における共同研究の推進について
  2. 人文学・社会科学における研究データ基盤の整備について
  3. その他

4.出席者

委員

(委員、臨時委員、専門委員)
城山主査、白波瀬委員、大橋委員、尾上委員、北本委員、木部委員、安田委員、青島委員、後藤委員、森田委員、山中委員
(科学官)
松田科学官

文部科学省

名子学術企画室長、髙田学術企画室長補佐

5.議事録


 
 
【城山主査】  それでは、定刻となりましたので、ただいまより第17回人文学・社会科学特別委員会を開催したいと思います。よろしくお願いいたします。
 まず、初めに事務局から配付資料の確認及び注意事項をお願いします。
 
【髙田学術企画室長補佐】  資料は事前に電子媒体でお送りさせていただいておりますが、議事次第に記載のとおり、資料1から資料5、資料5につきましては、5-1、5-2をお配りしております。資料の不足等ございましたら、事務局まで御連絡をお願いいたします。
 なお、前回、委員の皆様からいただきました御意見を資料1にまとめさせていただいております。こちらは適宜御参考にしていただければと思います。
 それから、注意事項でございますが、御発言の際は「手を挙げる」というボタンをクリックしていただきまして、主査より御指名を受けましたら、マイクをオンにしていただきまして、お名前から御発言をお願いできればと思います。終わりましたら、マイクはミュートにしていただければと思います。不具合等ございましたら、マニュアル記載の事務局御連絡先までお願いいたします。
 なお、本日の会議でございますが、傍聴者を登録の上、公開としております。
 説明は以上でございます。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。それでは、議事に移りたいと思います。
 本日は議題1といたしまして、人文学・社会科学における共同研究の推進に関して、文部科学省において実施してまいりました「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」の事業成果につきまして、大阪大学の堂目先生と、事業統括者の盛山先生より御発表いただきたいと思います。
 また、議題2では、人文学・社会科学における研究データ基盤の整備につきまして、国文学研究資料館の渡部館長、それから人間文化研究機構の堀理事より御発表いただきたいと思います。
 それぞれの議題につきましては、御発表いただいた後に、質疑応答と意見効果の機会を設定させていただければと考えております。
 それでは、まず、1つ目の議題ですけれども、「人文学・社会科学における共同研究の推進について」でございます。最初に事務局から、資料2の「人文学・社会科学における『課題設定型』・『プロジェクト型』共同研究の推進について」ということで御説明いただければと思います。よろしくお願いします。
 
【名子学術企画室長】  学術企画室長の名子でございます。それでは、まず私から簡単に御説明をさせていただきたいと思います。こちら資料2、通し番号で4ページ以降でございますが、まず、「人文学・社会科学における『課題設定型』・『プロジェクト型』共同研究の推進について」という資料に基づきまして、簡単に御説明させていただきます。
 本日、大阪大学から、委託事業につきまして御報告いただきますが、まず、これをなぜ進めていたのかというところの経緯について、簡単に御説明させていただきたいと思います。
 まず、そもそも論になるのですけれども、もともとこうした人文学・社会科学につきましては、科学研究費補助金とか基盤的な経費、また共同利用機関ですとか、資料を整備しております附置研だとか、いろいろな基盤的なところの支援を進めておりました。
 それが平成15年度以降、人文・社会科学において、割と研究が細分化しているのではないか、もしくは現代的な課題にもっと対応していくような研究を進めていくべきじゃないかといった御意見もございましたので、平成15年度以降、平成10年度の報告書が契機となっておりますが、日本学術振興会で、こういう人文学・社会科学を中心した各分野の研究者が協働した学際的な課題設定型の研究を始めていただいております。
 また、文部科学省におきましても、平成18年度から、「政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業」という形で、これまで各取組を進めてきたという経緯がございます。
 少し時代が下りまして、競争的資金制度の在り方の検討とか、また、学術分科会の平成24年報告を踏まえまして、既存の人文学・社会科学振興に関する事業を一元化して推進していくと。課題設定型の先導的人文学・社会科学研究推進事業を推進するということで、日本学術振興会でそれまであったプログラムを統合して推進してきて、これが今に至るという形になっております。
 ちなみに、この課題設定による人文学・社会科学研究推進事業につきましては、平成25年度から令和2年度までは、「領域開拓」「実社会対応」「グローバル展開」の3つのプログラムで採択を実施してきた形になります。
 こういった経緯があったのですけれども、学術分科会人文学・社会科学振興の在り方に関するワーキンググループ、これは平成30年12月でございますが、こちらで、「より現代の現実社会が直面する諸課題の克服に向けて、人文学・社会科学の研究者がよりその専門知を生かしつつ、未来社会の構想において能動的に役割を果たすことができるよう、人文学・社会科学に固有の本質的・根源的な問いに基づく大きなテーマを設定して、その中に自然科学の研究者も含む分野を超えた研究者が参加し、相互に議論することを通じて現代課題に関する研究課題を設定し、共同研究を行う中で問いに対する探求を深めていく共創型のプロジェクトを行うことが有効な手法と考えられる」という提言がございました。
 ここを踏まえまして、以下2つの事業を実施ということで、1つが我々文部科学省において実施しておりました「学術知共創プロジェクト」、これは分野を超えた研究者等が知見を寄せ合って研究課題と研究チームを創り上げていくための場(共創の場)を整備することを支援するものです。こちらは大阪大学を実施機関として、令和2年度から4年度まで実施し、今年度はこれまでの取組を検証し、今後の人文・社会科学の推進方策に反映するということで取り組んでおります。
 また、もう1つは、こちらは特に細かくは説明いたしませんけれども、日本学術振興会で「学術知共創プログラム」を実施しております。先ほど申し上げました課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業におきまして、令和3年度から学術知共創プログラムを開始しているという経緯がございます。
 これを踏まえまして、今後の検討ということでございますけれども、学術知共創プロジェクトの事業成果の検証、また、学術知共創プロジェクトの事業成果の検証を踏まえまして、こういった共同研究とか、その意義、また、その成果発信の在り方及び今後の推進方策について、委員会の場でまた御議論いただくということで考えているところでございます。
 ページをめくりまして、これは過去の経緯として簡単に今お話しした流れをまとめた資料でございます。これは通し番号6ページでございます。
 また、7ページでございますが、これが今回大阪大学様に取り組んでいただいておりました学術知共創プロジェクトでございますが、こちらは令和2年度から4年度実施していたということで、その予算事業の概要の説明でございます。
 事業概要、真ん中にございますとおり、未来社会が直面するであろう大きなテーマのもと、分野を越えた研究者等が知見を寄せ合って研究課題と研究チームを創り上げていくための場を整備するという事業でございます。未来の社会課題に向き合うための考察のプロセスを体系化するということの下で実施していただいてございます。
 また、次のページでございますが、これは今日細かく説明するものではございませんけれども、日本学術振興会で取り組んでいただいているプロジェクトでございまして、こちらは、未来社会が直面するであろう諸問題に係る有意義な応答を社会に提示することを目指す研究テーマを掲げ、人文学・社会科学から自然科学など多様な分野の研究者や社会の多様なステークホルダーが参加して、人文学・社会科学に固有の本質的・根源的な問いを追求する研究を推進することで、その解決に資する研究成果の創出を目指すということで、研究プログラムとして研究費を支援する形のプロジェクトとなっております。
 なお、これまでの日本学術振興会でやっていただいた研究課題の例につきましては、参考までに通し番号8ページで記載させていただいております。
 また、過去のこういった共同研究のプログラムでございますが、採択課題につきまして、簡単に過去の事業とそれの事業期間、また採択率などを、御参考までに10ページに掲げさせていただいているところでございます。この茶色にしておりますのが、今日御報告いただくプロジェクトのものでございます。
 また、参考資料といたしまして、こちらは前回お配りしている資料でございますが、科学技術・イノベーション基本計画と統合イノベーション戦略2023、そちらで、今日御報告いただくプログラムの関係の記載のところと、あと過去の研究課題、こちらは平成14年度以降、いろいろな共同研究のプロジェクトを推進してきたと申しましたが、過去の採択課題、実施課題につきまして研究テーマ一覧を、かなりボリュームありますけれども、こういったことをやってきたということが分かるものとしてつけておりますので、また御参照いただければと思います。
 簡単ではございますが、私からの説明は以上でございます。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは続きまして、昨年度までの3年間、文科省の委託事業でありました「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」につきまして、同プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めておられました大阪大学の堂目先生から、資料3に基づきまして、プロジェクトの成果とか、そこから考えられる教訓等について御報告いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
【大阪大学(堂目)】  大阪大学の堂目です。よろしくお願いします。それでは、画面共有させていただきます。では、報告させていただきます。
 まず、本プロジェクトの問題意識ですけれども、学術と社会が乖離しているのではないか、あるいは言葉と現実が乖離しているのではないかという問題意識の上に立って始めました。特に人文学・社会科学の研究成果が社会課題の解決に十分つながっていないのではないかということです。そこで、学術と社会の乖離を反転させて、一致の動きを起こしたいと考えました。そのためには、学術と社会、双方からの参加によって、共創ネットワークを構築し、場づくり、そしてチーム構築、それから発信を循環させて、社会に開かれた学術を推進していかなければならないと考えました。以上が理念です。
 こちらは申請書に書いた図ですけれども、問い直すべき共通概念として、大阪大学、および社会ソリューションイニシアティブの基本理念である「いのち」を中心に置いて、その概念をめぐりながら、「場づくり」「チーム構築」「発信」を螺旋的に繰り返す中で、「いのち」を大切にする社会の実現に向けた学術の在り方を探っていこうというものです。
 本プロジェクトは、3つの大きなテーマ、すなわち、「将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方」、「分断社会の超克」、それから「新たな人類社会を形成する価値の創造」というテーマで進めました。リーダーはそれぞれ、大竹文雄 大阪大学感染症研究教育拠点特任教授、稲葉圭信 大阪大学大学院人間科学研究科教授、出口康夫 京都大学大学院文学研究科教授でした。2020年の10月末に実質的にスタートしましたが、この2年半の間に13回のワークショップ、3回のシンポジウム、9回のインタビューを実施しました。以下、取組ごとに紹介したいと思います。
 まず、ワークショップですけれども、大きなテーマごとに4回ずつ、それから合同のワークショップを1回、計13回実施しました。新型コロナウイルス感染症の影響のために、1回から9回まではオンラインのみの開催となりました。毎回20人から40人の方に参加していただきました。第10回からは登壇者によるディスカッションを動画として収録し、ホームページを通じて発信する形をとりました。コロナの影響が収まった2023年からは、会場にも何人か参加していただくハイブリッドの形をとりました。
 「将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方」ではワークショップを4回行いました。「ワーク・ライフ・バランス」、「コロナ対策を再考する」、「政策と専門知-市民・現場・対応」、「政策形成過程における専門家の在り方」というテーマで開催しました。政策形成過程に専門家がどう関わるべきか、政府に説明責任をとってもらうためにはどのような働き方を専門家はとるべきなのかという課題が後半強くなっていきましたが、これはコロナ感染症に限らず、様々な政策にも対応できる重要なテーマだと思います。
 「分断社会の超克」という大きなテーマの下では、「分断社会の超克~共感・共創・共生」、「専門知をめぐる格差」、「平和へのアプローチ」、「ビジネスの人権」というテーマでワークショップを開催しました。細かな論点はスライドに書かれています。特に第9回は、広島大学の研究者に中心になってもらい、平和をテーマにワークショップを企画していただきました。ちょうどロシアがウクライナに軍事侵攻したばかりのときであったので、参加者全員が自分事として平和の問題を考える場になりました。
 「新たな人類社会を形成する価値の創造」では、「AIと倫理」、「スマートディストピア!?」、「VULNERABILITY-AI・ロボット・サイボーグと“ひと”」、「新たな価値の創造を求めて-“わたし”と“われわれ”の境、人間と人工物の境を問い直す」というテーマでワークショップを開催しました。テーマ代表者の出口先生は、私、Iから私たち、Weへの意識変容が新しい価値をもたらすと考えますが、そのとき、Weの中にAIやロボットが含まれるのかどうか、特に人間の特性としてのVULNERABILITY、脆弱性ということを人工物も持つことができるのか否かを問いました。
 第10回、合同のワークショップでは、3つの大きなテーマ合同で開催し、「いのちを大切する社会を目指して-学術知と大学の役割」というタイトルの下、3人のテーマ代表者の方々に登壇していただきました。いのちの「脆弱さ」を基礎に置いた新しい価値というのはどういうものなのか、オープンなコミュニティーを形成する上で克服すべき分断には何があるのか、そして分断を乗り越えるためのコミュニケーションの在り方、特に政策担当者と専門家の間の健全な関係をどう構築するのかが議論されました。
 シンポジウムに関しては3回行いました。第1回の「命に向き合う知のつながり-未来を構想する大学」では、大阪大学名誉教授の鷲田清一先生に「学問と社会 再論」という演題で基調講演をしていただき、その後人文学・社会科学を軸とした学際的な組織運営をしている方々に登壇していただき、それぞれの事例を紹介しながらディスカッションしていただきました。
 第2回のシンポジウムでは、「未来につなぐ知-公共の要としての大学」というテーマで、比較的若い世代の研究者・実践家の方々に登壇していただき、知識生産の意味と在り方について議論していただきました。
 第3回のシンポジウムでは、原点に立ち返り、命を大切にする社会を実現するために、人類はどのような価値を創出していったらいいのかということ、あるいは、様々な分断を乗り越えて価値を共有していくためには何をなさなくてはならないのか、あるいはそのための学術や大学の役割は何かということを議論していただきまして、委員の白波瀬先生にも御登壇していただきました。
 インタビューについては、最初は対談形式で、登壇者それぞれの方の経歴と専門、それから関心のある社会課題、あるべき大学の姿などを聞いていきました。学問分野は異なりますが、皆さん共通した時代感覚といいますか、時代への感覚と問題意識を根底に持っておられるように感じました。全てホームページに掲載しておりますので、御覧ください。
 第10回のワークショップ以後のインタビューでは、第10回のワークショップの動画を見ていただいた上で、その動画にコメントしていただき、さらに自分が関心を持つ課題や学問領域に話を展開していただくという形でインタビューをしました。こちらも動画の形でホームページに載っております。
 チーム構築に関しましては、テーマ代表者の一人であります出口先生が、昨年度、「よりよいスマートWEを目指して:東アジア人文社会知から価値多層社会へ」という課題で先導的人文・社会科学研究推進事業として学術知共創プログラムに採択されました。また、「コロナ危機から見る政策形成過程における専門家の在り方」で、テーマ代表者の大竹先生が学術知共創プログラムに今年度採択されております。それ以外のところでも採択、チーム構築がいくつかできました。
 以上が2年半にわたる取組の概要ですけれども、これらの取組を通じて、共創の場の意味をどう理解するようになったかということを述べたいと思います。
 1つ目は、課題や論点に出会う場。様々な研究者、さらには社会の様々なステークホルダーとの議論によって、各自がそれまで考えていなかった、あるいは言語化していなかった課題や論点に気づく場であるということです。
 2つ目は、課題や論点の意味を深掘りする場。つまり、論点を抽出し、整理し、精査し、組み合わせることによって、課題や論点の意味を深掘りする場ということです。
 3つ目は、新たな価値創造に向けて様々な人と出会い、つながる場。1回のワークショップで終わりというのではなくて、課題や論点の気づきや深堀を進める中で、新たな価値創造に向けて、異なった人々が、つながりを含め、それを継続して広げていく場です。盛山先生は、第3回のシンポジウムのときに、さらに意見をぶつけ合う場であるとおっしゃられました。
 私の感想としては、共創の場の構築と継続のためにはいろいろな手法を開発しなければならないのですが、それだけではなく、それぞれの担い手が、何のために当該の社会課題を解決するのか、あるいは社会課題に向き合うとは一体どういうことなのか、あるいは何のために研究するのか、そもそも私たちはどこに向かおうとしているのかという根本的な問いを問い続けている必要があり、そこに人文学・社会科学の本当の役割があると思うようになりました。
 今後の取組の計画ですけれども、ネットワークの構築と拡大、社会の様々なステークホルダーと共創の場をつくり続け、ネットワークを拡大していきたいと思っております。今回いただいた御縁で、それをさらに広げていきたいと思います。それから、ワークショップの継続です。共創の場の在り方、つくり方を考えつつ、様々な形でワークショップを開催する。これは既に私の組織であるSSIで5年間やってきていることです。
 それから言語化です。ありたい社会、共創の場の在り方を言語化していくことも進めていきたいと思いますが、最後に、特に大阪大学、あるいはそのとき私が代表を務める社会ソリューションイニシアティブの今後の重点活動として、大阪・関西万博が2025年にあります。それから2030年のSDGs、それ以後のポストSDGsがあります。これらに向けて、このたび、関西経済連合会、関西経済同友会、大阪商工会議所とともに大阪大学が「いのち会議」を3月24日に立ち上げました。議長は西尾章治郎大阪大学総長です。
 「いのち会議」は、SDGsの次のゴールに向けたアジェンダという形で「いのち宣言」を2025年の万博で発出する予定です。そして、2025年以後、国連にインパクトを日本から与えていこうとするものです。こうした動きを大阪大学が中心になってつくっていく中で、具体的な活動に対して、今回の学術知共創プロジェクトで得られた知見とか成果、あるいはネットワークを生かしていきたいと思います。
 私からは以上です。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして、本プロジェクトの事業統括者であり、長年、人文学・社会科学の振興方策にも関わってこられました東京大学名誉教授の盛山先生から、大阪大学の御報告を受けての御感想、あるいは人文学・社会科学研究における課題設定型研究など、あるいは共同研究についての意義、あるいは今後の推進に関して御意見等いただければと思います。よろしくお願いいたします。
 
【東京大学(盛山)】  事業総括者の盛山でございます。本日は、大阪大学の学術知共創プロジェクトを終えての感想といいますか、総括というものをさせていただきたいと思います。この2年半、堂目先生、小出先生をはじめとして、皆さん、大変短い期間にたくさんのお仕事をなさいまして、大変感謝申し上げているところであります。
 もともとのプロジェクトの趣旨に関しましては、最初に名子室長より説明がありましたので、あまり詳しく説明する必要ないと思いますが、なぜ共創の場かという点についてだけ一言申し上げますと、具体的な研究テーマを追求するということだけではなくて、それもあっていいわけですけれども、研究テーマを戦略的に考えていくというのが、この共創の場というものの重要な意義だと考えております。
 なぜそういう場が必要かというと、次に述べる人文学・社会科学の現在の状況の中で、学術知の革新というものを目指すという観点から、そういう課題を徹底するということかなと思っておりました。
 結果として、既に御報告ありましたように、非常にたくさんのワークショップなどが実施されまして、その結果として7つの研究チームが構築され、このほとんどは先導人社のプログラムや、その他の科研費などに採用されております。極めて多彩な成果といえます。途中途中では事業運営委員会の先生からも積極的で適切な提言をいただきました。
 ただ、反省的なことを申しますと、まず、もともとこれが構想されたときは、2019年ですけれども、できれば大阪大学さんだけではなくて、全国で同時並行的に複数個走ればもっとよかったなという感じがありました。それから、本当はもっとゆっくりの予定であればよかったと思うのですね。その点、僅か2年半の間で非常にたくさんのことを成し遂げていただいたと思っています。
 もう一つ、反省的なことを申しますと、もともとの『中間まとめ』の中には「人文学・社会科学固有の本質的・根源的な問い」というのが強調されていたわけですが、若干、常にこれが意識されたわけではなかったかもしれないという感じを持ちました。
 それからワークショップでは、これはやってみて分かったのですが、多様性とオープンネスを重視されたという点で大変重要だったのですけれども、同時に、時々議論がばらばら過ぎるということも起こりました。これは、共創の場といっても一定の問題意識の共有が必要だったなということを思ったところです。でも、にもかかわらず、堂目先生、小出先生のリーダーシップの下で研究チームが構築されて研究が推進されつつあるということは、大変すばらしいことだと思っております。
 さて、そういう前置きの中で、ついでながら幾つかのよりメタ的な感想を申し上げたいと思います。人社系の学問に関しましては、かねてよりいろいろと問題が提起されているわけですが、私はこの共創のプロジェクトの背景としては、学術としての内在的問題を克服するといいますか、それに直面して乗り越えていくというところがポイントだと思います。
 この点、人社系の学問は、自然科学と比べて、現在、ややプログレスが見えにくい。つまり、どんな意義のある研究が生み出されているかということが、専門を超えた外部の先生方や社会の皆さんに分かりにくくなっている。そういう問題があると思います。
 それから同時に、私も内部にいながら感じるのは、最近の人社系の研究の成果の中に、「知的なわくわく感」といいますか、そういう感覚を持つことが、年取ったせいかもしれないのだけれども、以前から比べると弱くなっているかなという気がしているところです。
 そこには人文学・社会科学固有の困難がありまして、一つはまず、基本的に人社系学問というのは意味世界の探求だということで、経験科学の側面もあるのですけれども、自然科学のような形での真理への前進というものが明確に見えるわけではない。そういう中でどうやってプログレスというものを達成していくかということは、かねてよりは難しくなってきているということかなと思います。
 ただ一方で、もちろん学術ですから、真理とか、より正しい知識というものは目指していく必要があるわけです。困難に直面していることを自覚して、それをどう克服するかということを考えていく必要があると思います。
 一方、人社系学問というのは本来的には実践的でありまして、法学の先生は日夜、日常的な法曹の事業に携わっていらっしゃいますし、哲学、社会学、政治学、経済学、歴史学などなど、もう言うまでもないことだと思います。
 そういう中で、ただ困難がありますのは、先ほど申しましたように、どの知識が他の知識よりもよりよいものであるかについて、コミュニティでの合意を得ることが、はるかに難しくなっているということです。それは評価の難しさということとも関連します。
 では評価しなくていいかというと、そうではないわけです。どうやってそういう学術のプログレスを評価していくか。これはなかなか難しい問題で、私、具体的にこうすればうまくいくというアイディアがあるわけではないですけれども、基本的には学術コミュニティ内での自由で開かれた活発で理性的な議論を展開するしかないだろうと考えております。
 そういうことを背景にしながら、人社系の学問の支援というものに3つほどポイントがあるかなと考えます。
 1つは、まず、学術としてのプログレスに焦点を置くことです。技術的なイノベーションではなくて、人社系の学問が固有に抱えている問題をどう前進させていくかということに焦点を当てることです。
 2番目は、プロジェクト型共同研究、共創型ともいえるタイプの研究を支援する。むろん、研究チームを構築することを視野に入れて当然いいのですが、それと同時に、より緩やかな、勉強班型の研究体制というものも視野に入れていいだろうと感じております。
 最後に、発信が重要です。今日、人社系の学問に対する人々の評価、あるいは認知が弱い。そのために、一般社会向け発信というのを積極的にやるべきだろうと思います。支援の中に、そういう一般社会向け発信を支援する仕組みというものを織り込むということも考えられるかなと思いました。
 以上をまとめまして、繰り返しになりますけれども、学問の特性と固有の課題を踏まえた振興策というのが特別に重要であると感じております。そういう中で、「知的わくわく感」が再び人社系の学問の中で盛り上がることを期待したいと考えております。
 長くなりましたけれども、私からの報告は以上で終わらせていただきます。
 
【城山主査】  盛山先生、どうもありがとうございました。
 堂目先生からは、学術地共創プロジェクトという、具体的にここ3年間実施してきましたある種の振興方策の一環としてのプロジェクト形成プロセスの体系化、これについて御紹介いただいて、それをどういう形で今後展開させていくのかというお話もいただきました。それから、盛山先生からは、よりメタなレベル、そういう経験も踏まえて、今後の人社振興策といいますか、人社の在り方について、根本的な点を幾つか御指摘いただいたのではないかなと思います。
 本日は、このお二人の先生方の報告を踏まえて、御質問でも構いませんし、あるいは今後の振興方策、どうしていくのかというのが、大きなメタレベルで我々として考えていかなきゃいけないことですので、そういうことに関わる御意見なり、いろいろいただければと思います。
 それでは、いかがでしょうか。どなたからでもと思いますけれども。
 では最初、安田先生お願いします。
 
【安田委員】  ありがとうございます。非常に参考になります。私、自然科学の研究者で、環境問題とかをやっているのですけれども、これまで走ってきたのは、人社の方たちが中心になって自発的に面白いことを共創的にやっていくというプロジェクトで、御苦労の中でも非常に多様なことがあったということでお話しいただいて、なるほどという感じだったんですけれども、そういうのもすごく大事だなということと、あと、自然科学をやっている研究者、環境問題とかをやっている人間からすると、実は何かアウトプットで最後一番大事なのは人社のところで、幾ら科学データを集めたとしても、それを例えば保護区として設定したときに、社会の中でうまく機能するかとか、そこの社会の中でどういう問題がそれを妨げているんだとか、根本的に何をしたらいいのかというところって、結局人間の問題になってくるところがあって、出口として人社の先生方の力をすごく必要としている分野というのが、特に私の分野ではすごく感じるところがあります。だからこそ人社の先生方と何か一緒にやって、本当の社会実装といったときには結局そこに落ち着くから、何をしたらいいのだろうというところは、でも自然科学の学者は分からないということが起きていると。
 なので、もし可能でしたら、例えばですけれども、自然科学の研究者でそういう分野の人というのも結構いて、こういうことができないのかな、こういう問題にこれを実装するときに社会の中でどうしたらいいのだろうというところで、何か研究者同士のマッチングをうまくやれるような仕組みをつくると、もしかしたら人社の先生方は、もちろん軸になるもっとコアな社会実装だけのところではない御自身の専門分野はあると思うんですけれども、興味を持っていただいて、もし共創できる部分が何かあるのであれば、それを一緒にできる機会をつくるというのはすごくいいかなと思いまして、アウトプットとしても、結局最後は一番重要なところは本当に人社の部分で、人社の先生方がどのようにまとめてくださるかというところで本当に決まってくるというのは、何か自然科学の研究者からすると感じているところなので、例えばですけれども、何かそういうのの共同研究とかに関心を持っている自然科学の研究者と、あと人社の研究者の方が集まれる機会をつくって、例えばワークショップ形式で、自然科学でこういうことをやって、こういうことを目指しているとか、社会をよりよくしたいんだけれども、結局最後は社会とか人間とかの問題になるから、今までの科学的知見があったときに、じゃあこれを実装していくにはどうしたらいいのかというところで、もしその部分に興味がある先生がそこにいらしたら議論を深めていって、何か共同研究を始めるとか、何かそういう機会をつくるというのも今後重要じゃないかなと思っています。
 結局共同研究するときに一番難しいのが、誰が何をできるのかがお互い分かっていないという、分野が離れ過ぎちゃうと分かっていないというところがあって、私も何かキーワードで検索して何回かコンタクトを取ったことがあるのですけれども、本当に関心事と重複しているのかとかが分からなかったり、専門性も細分化されているので、必ずしも異分野の人間がこれだったらできる、実施してもらえるのかなということが、ぴったりじゃなかったりとかもすると思うんですよ。そこら辺は研究ですので、うまく調整して、お互いの興味の範囲ですり合わせていけばいいと思うので、まずは何か、全然違う分野だけれども、こういう力をお互い必要としていますというところのマッチングができるような何かワークショップでもシンポジウムでも、全然コストをかけないでオンラインとかでもいいかなと思うのですけれども、何かそういうのをつくって、そこにそういうので生まれてきた研究に研究費をちょっとあげますよみたいな場をつくったら、結構もしかしたら、もちろん100%うまくいくとは限らないのですけれども、今まで見えなかったようなマッチングが見えてくるかもしれないなというのは思いました。
 以上です。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。御質問というか、御意見かと思いますけれども、このプロジェクトにおいても、当初から学術知の共創なので、必ずしも人社だけという話ではなくて、理系も含めてやりましょうというのはあって、多分、堂目先生、小出先生のところでも、まさにそういうところも含めて多少いろいろマッチングの実験もされたと思うのですが、その観点から、何か今の御意見に対して、こういうことができたとかできないとか、あるいは次のステップでどういうことが課題かとかありましたら、堂目先生あるいは小出先生、何かありましたらコメントいただければと思います。
 
【大阪大学(堂目)】  ありがとうございます。学術知共創プロジェクトのワークショップでも、自然科学系の方も入っていただいております。実務の方も入っております。大阪大学は既に5年前に「社会ソリューションイニシアティブ」というシンクタンクを立ち上げておりまして、そこでは研究者だけでなく、企業、NPO・NGO、行政、当事者など、誰でも入っていただくという30人ぐらいの場をつくり、研究者だけ、企業者だけ、地方自治体だけで場をつくったりしてきました。研究者だけでの場でも、宇宙をテーマにしたときに、宇宙論を物理学で研究している方、哲学的な問いをしている方、実際に宇宙開発に関わっておられる方など、いろいろです。盛山先生が言われたように、最初からミッションが課せられていると息苦しくなりますが、何でもいいから楽しく過ごそうとなると、意見が分散してしまいます。この間をとっていくというのはなかなか難しいんですが、経験を重ねるうちに、プロジェクトも幾つかその中から生まれております。学術知プロジェクトでも同様です。
 大きなテーマの代表者である出口先生も、「京都哲学研究所」というのをNTTと一緒につくって、AIが広まっていく中で人間の在り方を考えることを始められました。盛山先生が言われたように、人文学というのは出口のところだけじゃなくて入り口のところから必要とされることも、理解されはじめていると思います。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 またいろいろ議論ができるかと思いますが、取りあえず、まずここまでにさせていただいて、そしたら、まず、大橋先生、お願いします。
 
【大橋委員】  ありがとうございます。まず、堂目先生のお取組、大変すばらしいものだなと思って伺っていました。人文・社会科学系から理系の人材を巻き込んでいくというのは、逆のケースって結構たくさんあるのですけれども、そういうケースって実はまれで、そういうものをしっかり持続性のある形で取り組まれたというのはすばらしいと思います。また、盛山先生のコメントも相当本質的なコメントで、勉強させていただいた次第です。
 堂目先生の取組を持続性を持った形でやっていくことになると、研究者、特に若手研究者のインセンティブに何らかの形でアラインしていかないと、ある程度エスタブリッシュした先生は若干余裕がありますけれども、若手の研究にもしっかり生かすような形が持続可能な姿なのかなと思っています。そうすると、先生の資料にもあったとおり、「業績」「研究費」「ポジション」という3つのものが、ある種若手の研究者にとっては重要なポイントで、そこに何らかの形で返っていかないと難しいのではないかと思っているのですけれども、そこの辺りについて、先生、お取組なり、今後に向けてのお考えなり、何かあったらぜひ伺わせていただければと思いました。ありがとうございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 
【大阪大学(堂目)】  これは私が応えるべきでしょうか。盛山先生でしょうか。
 
【城山主査】  堂目先生にむしろ現場でやっておられた観点から言っていただくのがいいかなと思います。
 
【大阪大学(堂目)】  大橋先生がおっしゃられたことは常にある問題です。集中して専門的な論文を書いていきたい、専門に籠もって修行したいという研究者に対して、他の分野や世界に越境してくださいというのはなかなか難しい。では、研究費が取れますよとか論文になりますよというインセンティブをつければ済む話なのかも疑問です。しかし、そういうインセンティブや評価があったほうがいいとは思いますが、それだけではないように思います。盛山先生が言われた「わくわく感」と、その人がどういう時期に来ているか、専門知識がどのように役に立つのだろうかと思う時期に来ているかどうかということも重要です。大阪大学では研究者を回ってインタビューしながら、時が来ているかもしれない、越境してくれるかもしれないという人を無理なく招いていくようにしています。
 盛山先生、いかがでしょうか。
 
【東京大学(盛山)】  大変難しい問題でして、正直言って、私自身が若手だったときと現在とでは、若手を取り巻く状況が180度ぐらい変わっていますので、あまり私からいいコメントをするのは難しいのですが、ただ直感的には、潜在的な能力のある人は、自分自身が戦略的に業績をどう積み重ねていったらいいかということと、それから同時に、学術全体に対してどう寄与することができるかということを同時に考えてくれる素地は十分あるだろうと思うのです。そこの時間配分等々に関しては、プロジェクトチームに入ったときに、上の人が多少気を遣ってあげることは必要だろうと思います。プロジェクトチームの中でも指導的な立場にいる教員が、若手研究者に対して、常に、両方が必要ですよと。もちろん無理強いする必要はないのだけれども、両方を視野に入れながらやりましょうねという、そういう文化を醸成していくというのが重要かと思います。このぐらいしか言えませんが、そのように感じているところです。
 
【城山主査】  ありがとうございました。大橋先生、取りあえずよろしいでしょうか。
 それでは、続いて、北本先生お願いします。
 
【北本委員】  コロナ禍もあって、なかなか当初の目標どおり進まなかった面もあるかと思いますが、いろいろなイベントを開催して共創の場をつくるという面では進展があったことが分かりました。
 共創の場として、ワークショップやシンポジウム、インタビューなどを主に企画したとのことですが、基本的に言葉を使って話すことによって共創するという点に共通性があると感じました。質問したい点は、それ以外に共創の方法を何か試されたことがあるかという点です。あるいはアイデアとして生まれてきたものがあるかという点でも結構です。
 もちろん人文系の方は言葉を扱うことに非常に長けている、対話が得意という面はあると思いますが、それ以外の分野と交流する場合に、必ずしも言葉がベストな手段ではない可能性もあると思うんです。その場合に、共創において、話すこと以外に何か手段があるといいなと。私自身も人文系と情報系あるいは理工系との共創をやろうとしており、参考になればと思ってお聞きしております。その辺りについて何かありましたらお願いします。
 
【城山主査】  堂目先生、お願いします。
 
【大阪大学(堂目)】  質問の意味をお聞きしたいのですが。学術は基本的に言葉を使うものですが。
 
【北本委員】  例えば、一緒に何かをつくるとか、そういったやり方もあり得るのかなと思うのですけれども。
 
【大阪大学(堂目)】  なるほど。それは今回のところでは特に試してはいないです。何かをつくるというのは、チームをつくって一緒に物を作ったり、作品を作っていったり、論文を書くというところは、先ほどのプログラムのほう、実装するほうではそうなっていくのかなと思いますが、そこに至るまでの場づくり、チームをつくっていくまでの場づくりで、何か話すこと以外のことは、今回は試しておりません。
 他方、SSIでは、例えば、社会課題に向き合うときにアートを取り入れていこうとしています。その場合には、まず作品を見るとか、お互いに感じるとか、そういう場を設定していくという、言葉の前の段階で、例えば命とは何かとか、貧困とはどういうことかということを感じ合う、体験し合うという場は設定しております。
 
【北本委員】  ありがとうございました。
 
【城山主査】  上の中での議論で思い出したのは、要するに現場を共有するというか、フィールドを共有するみたいなことができるといいのではないかという話は結構されていて、ところがそういうことができなかったのはすごく残念だったみたいなお話があったと思うので、何かそういうのも一つの、まさに先ほどの安田先生のお話ではありませんが、環境問題などについては現場を共有するというのはすごく大事な一つのツールなのかなという感じはします。どうもありがとうございました。
 では青島先生お願いします。
 
【青島委員】  青島です。どうもありがとうございました。堂目先生たちのプロジェクト、すばらしいと思いましたし、盛山先生のお話にはいちいち同意しました。本当にそのとおりだなと思います。
 その上で、日頃、自然科学系の方とのコラボレーションという話があるときに、両極に分かれると思っていまして。一つは全く期待されてないというパターン。一時期、研究費に応募するときに、取りあえず入ってくれみたいなのがありました。成果はこっちで出すので、みたいな話のパターン。もう一つは過剰に期待されるパターン。我々だと特に社会実装とか、マーケティングできるんじゃないかとか、そういう依頼があります。何でこうなるかというと、先ほどの盛山先生の話の中にもありましたが、結局、人文社会科学の中身を分かっていないというか、あまりに多様なものがたくさん入っているから。価値の問題や社会的合意を扱うものもある一方で経験科学もあるし、人社というのは1つのカテゴリーとしてラベルはついてはいるのだけれども、実際の中身は全然違うことをやっています。だから、今後自然科学とコラボレーションを進めるためには、その複雑な全体図をもうちょっと見えるようにマッピングできないかという考えもあるかと思います。でも、さすがに複雑過ぎてマッピングは難しいので、今、いろいろなプロジェクトでやられているように、結局、個々の課題ベースで模索しながら関係性をつくっていくしかないのかと。この辺りについてどう考えられているのかということについてお伺いしたいと思ったのが1点です。
 もう1点、最後に成果としての本の話がありました。社会に対してインパクトのある本を出していくことが人社にとって重要だというのは分かるのですけれども、例えば国際認証を受ける場合には、本は成果としてほとんどカウントされません。基本的には査読付きのジャーナル論文しか評価されません。本にも査読のプロセスを入れて評価に組み込むとか、そういう方策をとっていかないと、たとえ重要だと思っても、研究者はエネルギーを投入しないということがあるのかなと思いました。この辺りについてもし御意見ありましたら、お伺いしたいと思いました。よろしくお願いします。
 
【城山主査】  これはどなたにお返しすればいいのかというのはありますが、マッピングの話は、ある意味ではプロジェクトの中でもやろうとされたことだと思うので、堂目先生、答えられる範囲でレスポンスをいただけますか。
 
【大阪大学(堂目)】  おっしゃるとおり、期待していないか、過剰な期待があるというのが本当です。他方、人文学・社会科学者のほうが自然科学をどう見ているのかというと、期待していないか、煙たいか、あるいはすごいことをやっていると幻想を抱いているか、いろいろだと思います。要するに、お互い分かり合っていないということです。先ほどの北本先生の指摘にもありましたが、言葉を交わす前に、互いに研究現場を尋ね合って何かを共有することが必要かもしれません。しかし、一緒に集まって言葉を交わすまえに研究現場から訪ね合うということ、これはコロナということもあって今回やれなかったのですけれども、一つのアイデアかなと思います。
 あと、本に関しては、査読のついている本も、特に英語のものはあります。自然科学系では評価されないのかもしれませんが、例えば歴史の分野では、まとまった本が、できれば単著で出されているということがインパクトを持ちます。その人が一生かけて何を考えたかということが、その人の名前で、その人の人格も入って、本になって出ているということが、人文学・社会科学では今でも重要なのではないかと思います。まとまった書物がいろいろな言語に翻訳されれば、むしろ耐久性のある知的遺産になっていくので、本に対する評価もすべきだと思います。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 それでは、尾上先生、よろしくお願いします。
 
【尾上委員】  尾上でございます。堂目先生、盛山先生、ありがとうございます。私、お伺いしたい、何かサジェスチョンをいただければなと思うのは、研究企画支援についてでございます。こういう人文・社会科学を中心としてチームフォームするときの研究企画支援、これは自然科学でいうURAの方々が最初にうまくチームのキックスタートをさせるような試みと少し違うような観点というのは必要なのかなと思っております。先ほどの盛山先生のこういうことをやっていけばいいというところにもヒントはあったのかなと思いつつ、ふだん堂目先生がすごく苦労されてその場をセットアップされて、堂目先生自らがやっておられたところを担えるような研究企画支援者って、どんな、そういう像というのがあれば、教えていただければと思います。
 
【城山主査】  堂目先生がまずお話しいただいて、もし可能であれば、小出先生にもお話しいただくといいかなと思います。
 
【大阪大学(堂目)】  私は、今回、盛山先生が事業統括者で、私はプロジェクト・マネージャーをさせていただきましたが、決して私1人で進めたわけではありません。「学術知共創プロジェクト企画室」というチーム、これはSSIが母体になってつくりましたが、チームがありました。また、特にこのプロジェクトのために採用させていただいた小出准教授が、日常的にいろいろな研究者のところを回って、そしてつなぐという、単なるURAではない役割を果たしていただき、この2年半の活動ができたところがあります。小出先生にお話しいただければと思います。
 
【城山主査】  小出先生、よろしいでしょうか。
 
【大阪大学(小出)】  ありがとうございます。大阪大学の小出です。よろしくお願いします。今のお話で言いますと、恐らく、私も自然科学の出身で、もともと理化学研究所におりまして、iPS細胞の再生医療をずっとやっていました。そんな背景から人文・社会科学系の研究のつくり方を見ますと、まだ共創をして研究の成果を出したりするという文化とかモデルみたいなものが少ないように思いました。そのため、何か仕組み化されたような、今、理系でいうところの研究戦略・企画のようなファンクショナルなものに、まだ落とし込まれていないような気がしています。
 したがって、私は一人一人の研究者とお話をして、研究の企画をこちらから提案をして、選んでいただきながらつくっていくみたいな、もうどちらかというと研究企画とプロデュースを完全に外部化したような形の研究のつくり方というのを試行的に実践することにしました。プロジェクト前半はほとんど場づくりをして、自然発生的に出てくるかということを期待してはいたのですが、なかなか難しかったところがございました。
 私からは以上です。
 
【城山主査】  ありがとうございました。恐らく今回のプロジェクトの目的はプロセスの体系化だったのですが、場だけでは駄目で、ある種のサポート部隊というか、インフラをどうつくっていくのかということも重要で、この辺り、次のステップを考えるときの一つの重要な論点ではないかなと思います。ありがとうございました。
 それでは木部先生、お願いします。
 
【木部委員】  私は言語学でコーパスをつくったりしているのですが、ほかの分野と共同研究するときは分野をつなぐ通訳が必要だということを、最初にコーパスをつくった先生が言っていました。使っている言葉も違うし、概念も違うし、お互いにコミュニケーションが最初はできないのだけれども、だんだんその方自らが通訳ができるようになって、やっと研究ができるようになったと言っていました。ただ、それには物すごく時間がかかると思うのです。
 これは感想のようなものですが、お伺いしたいのは、最初の堂目先生の問題意識のところで、学術、人文学と社会が乖離しているという、そこが出発点になっているとおっしゃっていましたけれども、乖離している部分もあるかもしれないけれども、そんなに乖離していないのではないかと私自身は思っているのです。例えば国際社会でいろいろなことが起きると、その地域の専門家の先生が歴史を解説してくれたり、その地域の文化を解説してくれたりして、役に立っていると思うのです。それから、歴史学でも今、以前の歴史学に比べて方法論も随分変わってきて、歴史感覚、それから歴史の定説というのも変わりつつあります。そういう意味で、そんなに社会に対して貢献していないとは思っていないのです。私がやっているのは地域の言語のフィールドワークですけれども、地域に行くと、地域の人たちと一緒に、また、地域で異分野の方々との連携ができていると思うのです。一体、人文学は社会から乖離しているとか役に立たないというのはどこから出ているとお考えなのか、そこをお伺いしたいのですけれども。
 
【大阪大学(堂目)】  人文学・社会科学の分野でもフィールドをやっている研究者がたくさんいるではないか、言葉と現実は乖離していないのではないか、役にたっているのではないか、ということですね。私も、そういう面があると思います。
 ただ、フィールド研究をしている方々の話を聞くと、本当に当事者・関係者とコミュニケーションができているのか疑問を持っている人もいます。また、フィールドに来られる側の方々の話を聞くと、研究者が入り込みきれていないという声も聞くわけです。また、私の分野である経済学では、本当に経済政策という現場に用いられているのか、アメリカと比べて経済学者の果たす役割はどうなのかという問題もあります。これは大きなテーマの代表者である大竹先生が追及しておられる課題ですが、政策に社会科学系の知が本当に生かされているのか、専門家と政策担当者との間でコミュニケーションがとれているのかというと、かなり疑問です。だから全部乖離していると言っているわけではなくて、相対的にもっと入っていけるところがあるのではないかという意味の乖離です。
 
【城山主査】  ありがとうございます。何かいろいろ議論できそうなテーマですけれども、取りあえずここまででよろしいでしょうか。
 白波瀬先生お願いします。
 
【白波瀬委員】  ありがとうございました。一度お呼びいただきましたし、大変私としても勉強になりましたし、大先輩の同じ分野の先生がいらっしゃるので、そこのところは言いにくいところもあるのですけれども、そこは正直ベースで、意見というか、期待も含めてということで、このたびの試みは大変大きな意味があったと思います。そういう意味で、私も参加させていただいて初めて、あ、こういうことがあり、こういうことをなさっているのだということを知って、初めてというのはあったのですけれども、正直なところ、その後、そこでかなり高揚感もあって、議論も面白かったのですけれども、その後がどのように続いていくのかというのが、ある意味での大きな次の課題になるのかなと感じました。理系・文系も含めて、共創と言っても、まずネットワークの形成があり、研究者の核としては、研究者同士の信頼関係があってやる。具体的には物すごく、数学とか物理とか、化学なんかでもそうですけれども、もう方法論としても全く合わない分野もあるわけなので、理系の中だって私たち分からないわけですけれども、ある程度の共通のトピックと共通の方法論みたいなのを何か核にしないと、若い人たちも一緒にやっていて、これで一緒に何か書けるなとか成果が出るなとはなかなか感じないのではないかということがありますので、具体的な、何というか、つくり方というか、環境のつくり方というのは、今回、短時間なのにこれだけしていただいた結果を受けて、次にどうつながるかというところは、その辺りは工夫してもいいかもしれないとは思います。
 そういう意味で、最後、2つというか、1つですけれども、社会実装のときに人文社会と言われても困るのですねというか、人文社会の中で実装が果たしてどれだけ近いところで提言できているのか。逆に言うと、政策研究として何が役に立つのかというモデルが、みんな結構ばらばらなんですよ。でも、例えば社会学もはっきり言って役に立たないのが多いのですけれども、例えばフランスの社会におけるフルタイム女性の就労の背景に、物すごく実は研究としては別途だけれども、結果としてはそうだけれども、貢献したというのもありますのでね。ですから、どういう形で、科学というか、専門家としての研究成果を、即ではないけれども展開できるのかというモデルは少しずつ、学術の中で、オーソドックスな学術の中で提示していくことも必要ではないかなと、すごく思った次第であります。
 以上です。
 
【城山主査】  御意見という感じでよろしいでしょうか。多分、今まで議論された中で言うと、小出先生の、出会いの気づきがあるのだけれども、次のステップに行くときのプロジェクトマネジメントの話としておっしゃられた話だとか、あるいは大竹先生のプロジェクトで、専門知を活かすというのはどういうことかというのは、まさに実装とか社会的フィードバックといっても、一体それは何を意味するかというところ、多様なものをまず見なきゃいけないという点、何かそういうところともつながってくるお話だったのかなと思いました。どうもありがとうございます。
 それでは、森田先生お願いします。
 
【森田委員】  ありがとうございます。本日は大変ためになるお話を、どうもありがとうございました。私の質問は、先ほど最初の安田先生や大橋先生や尾上先生のお話に戻るのですけれども、東北大学の文系では、文系の4学部が集まって、文系URAというのを10年近く前につくったのですけれども、その失敗例(?)をお話ししたいと思います。助教さんがそのURAを担当してくださったのですけれども、最初の2代の助教さんはすごく優秀でした。ちょうど今回、大阪大がやられたような形で、その助教さんが、いろいろな文系の先生に対して、今どういう研究をしていますかと聞きに行っていて、それを持ち帰ってきて、この研究は面白そうだからみんなの前で発表してくださいと言って、文系4学部でみんなで集まって発表するという、そういうセミナーを大体2か月に一遍ぐらいやっていました。そこからじゃあ何か実際にうまく共同研究につなげることができたかというと、必ずしもそこまでうまくいっていなかったのですけれども、ただ、それを聞いていて、僕自身も非常に面白くて、わくわくして、知的に興奮したという、そういう体験がありました。
 ところが、さすがにその最初の2人の助教の方はすごく優秀だったせいか、すぐにいい就職先を見つけられて、出ていってしまわれました。その後の助教の方々には,残念ながら,最初の2代の方のようなことを引き継いでいただけませんでした。かつてのようにいろいろな各学部の先生から今ホットな研究というのを見つけてきて、それを文系のみんなの前で報告してもらうという、そういうチャンスがなくなってしまったのです。
 そこで、今回、阪大のプロジェクトは、小出先生というすばらしい方を見つけてこられて、それでいろいろなことが実現できたわけですけれども、うちではそれはできなかった。大橋先生のお話を聞いていると、うちの公募でそういったことができるような人材が来なかったのは、ちゃんとしたインセンティヴを用意しなかったからなんだなということが分かるのです。そこで、そういう人を募集するための公募の打ち方とか、あるいはそもそも,そのような人材を公募で見つけて来ることができるかというと結構難しいと思われるのですけれども、小出先生みたいな優秀な方、うまくそういうエネルギーもあって、そしてそういう能力もあってという方を見つけてくるようなノウハウ、それは一本釣りなのでしょうか。公募で見つかるのか、見つからないのか。このような方は,稀少であり、相当貴重な人材だと思うのですが、どのようにやれば、そういった方をリクルートしてこられるのだろうということについての何か知恵を教えていただけると、すぐに実際に役に立って大変うれしいと思います。お願いします。
 
【大阪大学(堂目)】  小出先生は、学術知共創プロジェクトに申請する前から、私がSSIに関わってほしいと思っておられた方です。SSIが立ち上がったばかりの時で、先行きは分からないけれども盛り上がりがあって、いろいろなものをみんなで決めていくという中で、小出先生はSSIのイベントに参加して、賛同してくれていました。お見合いみたいものはずっとありながら、学術知共創プロジェクトのような何か機会が来たときに、ポジションを通じてつながり合うわけです。だから、常に人を見ているシステムをつくらなきゃいけない。誰が来てもやれるようなシステムにしておくことは理想ですが、そうなるまでは、人が大切です。人が人を呼んでくるという。多様でいいのですが、問題意識を共有していて、方向性に賛同していて、そこにエネルギーが発生してモチベーションになる。「そのときが来ている人」を常にサーチしながら、場をつくる。共創の場というのはそういう場なのかもしれません。ときが来たらコアになって活動してくれるような人を呼び込み、つながり合っていくという意識をいつも持っています。
 
【城山主査】  ありがとうございます。私は外から見させていただいていた立場だったんですけれども、ある意味では小出先生が理系出身だったというのもよかったのではないかなという気がしていて、適度な距離感を持ちつつ、いろいろな議論に接していただいて、それを展開していただくことができたというのも結構重要かなと思いました。
 逆に森田先生の仰る最初のお2人が優秀だったの「優秀」というのは、どういう性質を持っていたことが何か寄与したとお考えですか。
 
【森田委員】  お2人とも政治学系の方で、特に最近の政治学の若手の方によくあるように、計量政治系の方でした。このため、文系だけれども自然科学的なバックグラウンドを持っている。それで、比較的いろいろなほかの手法を取り入れることに関して、すごく積極的な方だったと記憶しております。
 
【城山主査】  なるほど。どうもありがとうございました。どういうURAというか、サポート人材みたいなのを考えられるかというのも重要なテーマかなと思います。
 白波瀬先生、何かございますか。
 
【白波瀬委員】  2回目ですけれども、URAについては、小出先生は特例ということもあるのですけれども、代表者とかコアになる人との連携。だから、URAの人たちにお願いするというわけではないので、活用の仕方というのは体系的に考えたほうがいいかと思いました。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、まだいろいろ論点はあるかと思いますけれども、このテーマはむしろ今後引き続いて議論していくことでもありますので、今日はここまでにさせていただきたいと思います。
 それでは次に、議題の2「人文学・社会科学における研究データ基盤の整備について」に移りたいと思います。
 前回はJSPSにおける研究データ基盤整備についてヒアリングをさせていただきましたけれども、前回の主たる対象は社会科学系のデータの話だったと思います。本日は、人文学系のデータ整備の取組につきまして、2013年から本年度まで10年間にわたって「大規模学術フロンティア促進事業」で取り組んでこられた国文学研究資料館から御報告をいただきたいと思っています。また併せて、Digital Humanitiesということに関する取組を進めておられる人間文化研究機構から、機構の取組の現状や今後の展望について御発表いただければと思っています。
 それでは、資料の5-1に基づきまして、「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」について、渡部館長より御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
【国文学研究資料館(渡部)】  よろしくお願いいたします。国文学研究資料館の渡部泰明です。これから大規模学術フロンティア促進事業、10年目を迎えました日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画について、その要点を御説明申し上げたいと思います。
 日本語の歴史的典籍というのはあまり聞き慣れない言葉ですけれども、要するにこれは近代以前の日本語のあらゆる書籍と考えていただければ結構です。これは様々な分野にわたります。文学だけではありません。こういう知の遺産をどのように活用していくか、人々の間に広めていくかということが、大きな使命となっております。そのために、2つの目標と、それから、実際に運営していくに当たって3つの柱を立てました。
 目標として、1つは、開かれた学術研究基盤を構築していくこと、もう1つは、新たな人文系の共同研究モデルをつくっていくこと。日本文学研究は、どうしても個人の研究、人文学は広くそうですけれども、個人の研究が多かったのですが、組織的な研究を行っていくということです。さらにそれから、国文学に閉じ籠もらないで、異分野と共同研究していくことですね。それらを一体どのように可能とするのか。3つの柱の1つ、日本語の歴史的典籍データベースの構築。この一番中心になるのは30万点の画像データを作成して公開していくことです。2番目は国際共同研究ネットワークの構築。3番目は国際共同研究の推進。この3本柱について、以下御説明を申し上げていきたいと思います。
 まず、実施体制ですが、館長の下に古典籍共同研究事業センターを設置いたしました。そして、センターの委員会として4つ挙げてありますけれども、全て外部委員が過半数を占めて、事業計画に対するモニタリングとか評価とかをご審議いただくという体制をとって進めました。
 日本語の歴史的典籍データベースの構築に関しまして、画像データを作成していくという点ですけれども、これが最初はなかなか困難な問題がありました。それを乗り越えて、画像を公開していただける所蔵機関を次々と拡大していったということですね。拡大しなければ、目標である30万点というのはとても到達することができませんでした。これを増やしていくことによって何が起きたかといいますと、広く認知された結果、(資料61ページ)左下にあります国宝や重文を有する「静嘉堂文庫」、三菱の所蔵品などを中心とした文庫ですね。こういうところなどは、あちらから画像データを公開してもらいたいとお申出をいただきました。信頼感を獲得していったと言うことができるかと思います。
 画像データの作成の方法ですが、ここで我々の特色として一つ大きくお示ししたいのは、内製という手法を確立したことです。最初は業者発注が基本だったわけですけれども、業者発注はもちろんお金がかかるということもありますけれども、特にいろいろな制約が生まれてしまう。これを自分たちで行うという、そういう手法を確立した。そのやり方のマニュアルを作成いたしまして、これを共有化し、図書館の人たち誰でもができるようにしていくという、そのようにして画像データ作成を推進いたしました。
 さらに、データベースの構築にあたり、書誌データが一定の品質でないと使いづらく、また、世界中のウェブ上で流通するためには規格の統一を目指さなければならないということで、データの標準化にも我々は寄与いたしました。さらに国際規格として、デジタルオブジェクト識別子やクリエイティブ・コモンズ・ライセンス、あるいはトリプルアイエフという国際的な規格を用いて利便性の向上を図りました。そしてその結果、(資料63ページ)右下にあります新日本古典籍総合データベース、これをつくり上げていくことが当初の計画だったわけですが、その当初の計画を超えて、さらにそこに書誌データも含めて統合した国書データベースを今年の3月に公開いたしました。
 統合前の新日本古典籍総合データベースの利用状況が、右肩上がりで利用されていることは一目瞭然かと思います。
国書データベースという量的にも質的にも充実した研究基盤を構築しました。これによって、なかなか見ることの難しかった古典籍を、いつでもどこでも誰でも見ることができるようになりました。この波及効果としてどんなことが生まれたかというと、例えば学会発表のときに、何か古典籍を取り上げている研究に対して即座にその古典籍の情報と実際の古典籍の画像を確認することができるという、検証可能な学問の方法を確立していったこと、これが大きな方法的な進展であろうと私たちは考えております。
 ネットワークの構築が拡大した数字ということで、3つ数字を挙げました。176機関、60件、82機関ですけれども、176機関というのはデータベース構築のための協力してくれる所蔵先の数ですね。これが随分増えました。60件というのは共同研究ですけれども、特に異分野との共同研究などを60件進めました。それから82機関というのは、日本古典籍研究国際コンソーシアムを設立し、国内41機関、国外41機関が参加を得て、国文研はその事務局を務めています。
 このコンソーシアムは一体何かと申しますと、国文研が事務局となって、特に日本の古典籍に関する様々な情報交換をしたり、あるいは我々の持っている情報をお伝えしたりしていく活動を行っています。勉強会を行うというようなことも行っております。さらに、これらはそれぞれのコンソーシアム参加機関同士でも活用されていくものと考えております。
 共同研究、特に異分野との共同研究としてここにありますような共同研究を進めてまいりました。この共同研究は、先ほどからも話題になっておりましたけれども、契約を機関間で交わすことによって、特定の個人と個人だけではなくて、それだとなかなか出会いが難しい、それに対して、機関間で結ぶことによって、そういう出会いの機会をより増やしていくということですね。研究成果の発信件数は1,748件に上っております。また、若手研究者の育成という非常に大事な仕事に対しても、プロジェクトに関わった若手がそれぞれに常勤職に就いていくという形で、我々も責務を果たしていると考えております。
 さて、この共同研究の中でどういうものが生まれたかということで、一つ取り上げるとすれば、オーロラの記述が、それこそ日本最古の書物の一つである「日本書紀」にも見られて、そのデータを科学的に分析していくことによって磁気嵐のパターンなどが分かり、それがまた防災研究につながっていくという、これが我々の文理融合研究の一つの代表例になろうかなと思います。
 さらに、古代甘味料の復元や、それから(資料71ページ)右側の文献観光資源学というものは、地域に残っている資料を地域の人たちとともに研究し、また公開することによって、地域起こしと言うと少し大げさかもしれませんけれども、そういう地域文化の振興ということとも関わらせていきたいという一つの成果として示されたかと思います。「津軽デジタル風土記資料集」などを作成いたしました。
 さらに、日本の古典籍は基本的にくずし字で書かれていて、これが現代の人々にとって一つの大きなハードルとなっている。これを機械で読めるようにしていく。そういう研究を進めて、100万文字字形データをオープン化いたしました。CODHなどの協力を仰ぎまして成果としてデータセットを公開しました。また、このくずし字をAIで読み取っていくという、そういうところもかなり進みつつあると申し上げることができます。
 さらに、マテリアル分析という新たな学問領域を切り開きました。これは、書物をモノとして捉える。そうすると、書物というのは文字内容だけではない様々な情報がもう本当に凝縮している。それを高精細デジタルマイクロスコープなどによって科学的に分析することによって、成立年代であるとか、当時の人々の栄養状態であるとか、そうしたものを分析していくという道を切り開きました。
 さらに、これらを情報発信するということで、ニュースレターを作ったり、市民向けブックレットを作ったり、講演会、海外シンポジウム等、また、市民参加型のワークショップなども積極的に行いました。
 特にその中で非常に高い評価をいただいたものとして、「ないじぇる芸術共創ラボ/ぷらっとこくぶんけん」という試みがあります。例えばこの「ないじぇる芸術共創ラボ」というのは、芸術家をお呼びして、研究者が専門的知見に基づく様々な情報を提示することによってその芸術活動の参考にしていただく、インスピレーションを与える、そして新たな作品をつくっていただく、それを展示するということで、かなり関心を持っていただきました。
 さて、今後はどういうことを行わなければならないか。これがまた大きな問題になります。10年間、私たちはプロジェクトを推進してまいりましたけれども、これをこのまま終わらせてはならない。これを維持、さらに発展させていくことをしないと、今までやってきたものも、さらなる意味を持つことができないと我々は考えます。今後の展望としては5点。1つは、画像データ自体をさらに拡充していくこと。それから、30万点の画像、これを画像データではなくテキストデータに変換すること、そして機械も人間も読めるようにしていくこと。それから、古典籍メタデータを標準化していく。また、データを構造化していく、TEI等によって構造化していくということですね。それから、総合書物学、典籍防災学、先ほど御紹介しましたが、これをさらに展開していく。また、マテリアルとしての書物分析、これも先ほど申し上げましたけれども、これをさらに精緻なものへと進めていく。こういうことを行うことによって、世界史の上でもまれな日本の史資料というものを世界へと、そしてもちろん一般の人へと開いていく、そういう方向をつくっていきたいと私たちは考えております。
 以上でございます。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 続きまして、資料の5-2「人間文化機構におけるDigital Humanities」につきまして、堀理事から御説明いただければと思います。よろしくお願いします。
 
【人間文化研究機構(堀)】  人間文化研究機構の理事の堀と申します。よろしくお願いいたします。実は私、もともと人工知能の研究者でございまして、パワーポイントが嫌いです。パワーポイントには人々の創造性を阻害する面があると思っておりますため、自分で作っているソフトでプレゼンをさせていただきます。
 人間文化研究機構におけるDigital Humanitiesというお題を入れますと、私がこれまでに書き留めていきたいろいろな関連するテキストが出てきます。ふだんはそれを動的に構成してプレゼンを構成するのですが、今日はその中の一つのテキストをお見せしたいと思います。人間文化研究機構におけるDigital Humanities、何でDHをやりたいのか、何のためにやるのか、誰が何をどのようにやっているのかという話をしたいと思います。
 まず、何でDHをやるのか。DHの定義は、DHをやっている研究者によりましても、狭義の「人文学研究へのデジタル技術の適用」というものから、広義の「健全な市民社会を支えるための人文学の再構成」まで非常に様々ですが、基本的には我々は、人文学がますます面白くなるなら何でもやることを目指そうということを考えています。DHの一つ大きな特徴は、細分化されがちな分野の間を、文理を越えて、また国境を越えてつなぎたいということでありまして、これが、なぜやりたいかということの一つです。
 分野を越えた新しい研究を生むための要素が、大きく言って3つあります。1つは、データ。これは、広い意味で現物の生資料なども含む研究資料や研究成果です。料理に例えますと、研究資料・研究成果は、食材にたとえられます。種をまいて、水をあげて、肥料をあげて、育てて、花が咲いて、その成果の花や実や野菜、それから、狩猟でとってきたイノシシみたいな食材、また、研究の間で生まれる様々な資料全部です。次の要素は、情報技術です。情報技術というのは、料理で例えれば、食材を料理するための鍋、釜、包丁、まな板みたいな道具で、テキスト処理や画像処理や文字認識や音声処理の技術などがあります。最後の要素は、料理をする料理人と食べる人です。従来、食材を用意する人たちと食べて研究する研究者というのが分かれていたかもしれませんが、恐らく今後は、つくる人と食べる人は重なると思われます。データを使って料理して何かを生む、生んだ結果をまたデータとして、その過程も含めて公開するということになります。それをほかの人がまた使うというサイクルが回るようにしたいということでございます。
 DHの推進を「誰が」ということですが、人間文化研究機構にDH推進室というのが、概算要求で認めていただきまして、今年度から発足しました。専任の特任教授1名、特任准教授3名(この4名のうちの3名を今年の概算要求でつけていただきました)がおります。それから機構内の教員9名、合わせて合計13名でDH推進室というのを構成しております。
 第1世代と申しますのが、私を含めてですが、もともとは工学系の情報系の出身者です。人文学のデータって我々にとりまして非常に面白いのです。単なる数値データではなくて、意味を扱うということで、人工知能の研究者にとりましても非常に面白い分野ということで、情報系出身で人文学に入ってきた人たちが、第1世代です。それから第2世代は、もともと人文学の専門家で、情報技術を使うのは面白そうだということで、情報技術も身につけてDHをやっている人たち。それから第3世代は若い世代で、最初から当たり前に情報技術を使って人文学の研究をやっている人たち。その3世代がそろっております。恐らくは遠くない将来に、第4世代とでも申すべきでしょうか、ほぼ全ての人文系研究者がDHを駆使するようになるだろうと想像しています。DHは特別の分野ではなくなるだろうと考えております。
 もちろん、人文系のための新たな情報技術をつくるようなコアのところをやる人は、引き続き要るだろうと思います。先ほど出て来ていました文理の連携の話ですが、私は情報系出身で、若い頃は国文学研究資料館にしばらくおりました。そのときに上司から教えられた知見で、「一流の文系と一流の理系が一緒に仕事をすると、超一流の仕事が生まれる。二流の文系と二流の理科系が一緒にやると、四流の仕事になっちゃう」というのがあります。我々情報系にとりましても、人文系の人たちと組んで超一流の仕事が生まれれば、それはもちろん情報系の論文にもなりますし、人文系の論文にもなります。そういうことを、DHの分野では既に長い間、みんながやってきています。今後も、さらに、大学や研究所のあらゆる研究者と連携し、また市民とも連携しながら進めていくことになると思います。
 「何を」ということでございますが、FAIR idealということが、DHの分野で昔から言われております。FAIRは「Findable, Accessible, Interoperable and Reusable」です。まず、見つけられるようにする、アクセスできるようにするということで、私どもは、nihuBridgeというシステムをつくっておりまして、先ほどお話のありました国文研の先駆的で非常に大きなデータベースをはじめ、それ以外にも、6機関で様々、ここに並べているような非常に多くのデータベースを既に公開しております。そして、それらのデータベースの間を横串で統合検索ができるようになっております。
 そこまでは従来のデータベースやデジタルアーカイブズの仕事ですが、DHの場合は、それからさらに「Interoperable, and Reusable」にすることをめざしています。相互運用を可能にし、再利用を可能にするところがDHの大きな特徴です。先ほどの国文学研究資料館のデータも、すばらしい30万件の画像データができましたので、渡部館長からお話がありましたように、今度はあれを料理して、崩し字を自動認識してテキスト化し、さらに古文を現代語に訳して、古文を直接読めないような人々にも取りあえず入り口として入ってきてもらえるようにするというようなことをやっていくことになります。我々のnihuBridgeでは、アプリケーション・プログラミング・インターフェース、APIというのを提供しておりまして、プログラムを自分でつくっていろいろな料理をできるようになりつつあります。
 「どうやって」ということですが、恐らくは中央集権的システムではうまくいかないだろうと考えています。これは100年もたせる必要があって、中央集権的システムでやりますと、どこかでこけたときに全部こけることになります。自律分散型のネットワークを構築して、たとえ一部が壊れても、ちゃんと生き残るべきところが生き残るというネットワークを構築していく必要があります。また、分野間でいろいろなデータの種類の違いや方法論の違いがありますので、それぞれいろいろな中核となるハブがあるべきだと思います。人間文化研究機構は、そのネットワークの一つのハブになるべく、事業を推進していこうとしております。
 現在、nihuBridgeのさらなる展開や、普及啓発活動や、権利処理の問題に関するハンドブックと事例集の作成、DH教育講座の作成・公開などを企画準備中であります。残る今後の課題といたしましては、DHを全体的に推進するための機関・大学による連携・協力体制が必要です。全国的なDH人材の育成に向けた取組も必要不可欠と考えます。また、その他DH推進に係る諸問題の整理・対応。例えば分野や機関のこういったデータ連携をどのようにやっていくかというようなことが、課題として挙げられると思います。
 以上で私の御報告を終わりとさせていただきます。ありがとうございました。
 
【城山主査】  どうも堀先生、ありがとうございました。日本語の歴史的典籍の具体的な話とDigital Humanitiesの仕組みづくりをどうしていくのか、あるいはそれの意義ということについて、御紹介いただけたのかなと思います。
 それでは、これから限られた時間ですけれども、御質問、御意見等いただければと思いますが、いかがでしょうか。
 山中先生お願いします。
 
【山中委員】  渡部館長が話してくださったことに、付け足したいなと思うことあります。
 私も日本文学系の研究をしておりますので関わりのあることなのですが、30万点と、データが大変増えたことによって、国宝を持っている「静嘉堂文庫」のようなところからも自分たちのデータを共有したいという要望が出てくるようになったというお話がありました。それは国宝まで公開できるようになったということにも意味があるのですけれども、もう一つ、前半のお話で出ていたこととも通じてくると思います。人文系って学問が閉じているようなところがありまして、資料を自分たちでしっかり全部使いこなした後で公開する、だから資料を持っている人が勝ちみたいなところがありましたし、頭を下げて菓子折を持って資料を見せていただきに行くみたいな、そういう学問だったと思うんです。ですから、この事業を国文研が始めたときには、日本文学の研究とか人文系の研究の中で、冷ややかに見ているところもあったと思うのです。あんなことを国と一緒に始めてしまって、本当に大事な国文研として今までやってきた資料研究ができなくなるのじゃないか、というような、そういう冷たい目もあったと思うのですけれども、今は全くありません。それは国文研がこれだけ大量に、もちろん予算もいただいて、そしていろいろなことをワーッと進めて、30万点、これだけ公開して、私たちの役に立ててくれて、しかも共同研究もどんどん進めている。それを見ていると、もう国文学というのはこういう方向に行くのだなと、みんながそっちに行くのだと引きずられていった。そうすると、いろいろな大学から、じゃあ遅れてはいけないから、うちの資料も使ってください、使ってくださいと、あるときから雪崩が起きたようになって、流れが変わったという印象があるのです。先ほど盛山先生のおっしゃっていた、学術として進化していくという意味で言えば、国文学は確かに国文研のこのプロジェクトによって、私たち全体が、共同研究の重要性とか、もっと外に開いていくこととか、資料を共有することとかというのを、みんなが教育されたというか、目覚めたところがあって、たしかに進化した、そういう意味でもこのプロジェクトというのは大変高く評価したほうがいいなといつも思っていました。渡部館長、遠慮しているように見えたので、付け足させていただきました。
 以上です。これは質問じゃなくて感想です。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。前回もたしか山中先生に御指摘いただいていたと思いますが、データの話だけじゃなくて、それがある種研究のやり方を変えていくところにつながったパッケージだというところに意味あるというお話かと思いますし、今日のお話の1つ目の話と2つ目の話というのは実はつながっているということでもあろうかと思います。どうもありがとうございました。
 ほかいかがでしょうか。御質問、御意見等ございますか。
 白波瀬先生お願いします。
 
【白波瀬委員】  大変ありがとうございます。今、山中先生からの追加のお話につきましても、すばらしいなというか、ずっとこういうお仕事をなさっていたのだなという、もう本当に感銘を受けたのですけれども、欲がどんどん出るところがありますけれども、データってつくるまでがものすごく大変ですけれども、つくるためにやっているわけじゃなくて、使ってもらうために恐らくやられているわけですよね。ここの利用状況というのは、もちろんグラフでも見せていただいているのですけれども、この辺りは、いやもうちょっと使ってほしいよという御判断なのか、あるいは使いやすくこういうところは今工夫しているのだという、その辺り教えていただけますか。よろしくお願いします。
 
【城山主査】  渡部先生よろしくお願いします。
 
【国文学研究資料館(渡部)】  どうもありがとうございました。
 いや、まだまだ使っていただく余地があるなと思っていますし、もっともっと使ってもらえたらと思います。ただ、まだ画像データです。くずし字ですから、なかなかまだハードルがあるという方々も当然多いわけで、これをきちんと機械も人間も読めるような言葉にして、さらに現代語訳をしていければ、先ほど堀理事からのお話もありましたけれども、もっともっと使っていけるだろうと思います。書かれている内容に全然触れることなく終わってしまうことは、今までも随分あったわけです。けれども、日本の文化というのは、必ず(研究者でない)普通の人も参加しているわけです。データの利活用にも、そういう方々も参加をさせていかなければならないと我々は考えていますし、また、それによって我々自身もいろいろ啓発されることもございます。さらに利用を促すような努力をしていかなければならないと思っております。よろしいでしょうか。ありがとうございました。
 
【白波瀬委員】  ありがとうございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 それでは、後藤先生お願いします。
 
【後藤委員】  後藤でございます。私も同じ人間文化研究機構内の人間でございますので、少し補足的な説明をさせていただければと思います。
 恐らく先ほどの大阪大学がやっておられる事業とDH、先ほど主査も御説明いただいたとおり、かなりつながっていると私としては理解しております。というのは、人文学というのが恐らくこれからは、個の研究だけではなくて、加えて、いかにチーム型の研究をやっていくのかということが多分重要になってくるのだろうと。そのときに、情報技術という、ある意味では共通の手法みたいなのを使うことによって、ほかの研究者とか、情報学だけではなくて自然科学とか、それ以外の例えばコンピューターツールを使えるいわゆる職業専門家ではない市民も含めて、共同的な研究をやれるところが非常に大きいのだろうと思っています。
 なので、その観点からしても、そういう新たな人文学をつくっていくという観点からDigital humanitiesは重要だと思っておりますし、また、その点では、国文研さんがこれまで10年間で進めてこられたことというのは、ある意味では先導的なところがあるのではないかなと思っております。このようなモデルというのをいかに広く展開していくかというのが次のステップになるのかなと思っております。同じ機構内の人間ですので、あまりなかなか内輪ほめみたいなことはあまりしたくないのですけれども、ただ、次のステップとしては、そういうことをしっかり考えていかないといけないなというところは補足として申し上げておきたいと思います。
 以上でございます。
 
【城山主査】  ありがとうございました。
 ほかいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 後でまた事務局からも話があるのだと思いますけれども、社会科学系のデータの基盤のほうは事業を継続してやるということで、今年さらに新しいのが始まっていて、他方、人文系のDigital Humanitiesというのは、昨年度たしか概算で全体としても出したのだと思うのですけれども、人間文化研究機構さんの概算はついたということで、実際にどういうことをやっておられるかということを紹介いただいたのですが、全体バージョンとしては必ずしもうまくいかなかったというのがあって、多分それをどういう形で、少し修正した形で出すかというのが、来年度への概算要求に向けて多分考えなきゃいけないことで、いずれ事務局から後で御紹介いただくと思いますけれども、少しその辺のアイデアを整理した段階で、また皆さんに見ていただいて、いろいろな形で、こうしたらいいよ、ああしたらいいよとか、コメントをいただく機会を設定いただくのではないかなと思いますので、そういう局面でまたいろいろ御議論をいただければと思います。
 北本先生、よろしくお願いします。
 
【北本委員】  もし時間があれば、よろしいですか。
 
【城山主査】  どうぞ。
 
【北本委員】  先ほど堀先生に御紹介いただいた、人文機構のDH推進室ですが、今後どういう活動していくかを簡単に御説明いただけるとありがたいです。
 
【城山主査】  堀先生お願いします。
 
【人間文化研究機構(堀)】  ありがとうございます。基本的には人文学の中身づくりですよね。ですので、機構の中、機構の外で、いろいろな人文学の面白い研究プロジェクトが走っている中で、せっかく面白い成果や資料が生まれているにもかかわらず、それが必ずしもみんなで使える状態になってないということで、まず、機構の中をつないでいく。そういう研究プロジェクトをつないでデータをつくっていく、公開できるものをつくり、公開していくというのが第一。
 それから、人材育成。今までDHというのはあまり興味がない、情報技術、コンピューターなんか嫌いだとおっしゃっている先生が、実は非常にすばらしい資料を持っていらっしゃったりします。昔の先生はそれを隠すというか、大事に自分でしまっていらっしゃったりしていましたが、見せてもいいよとおっしゃる先生は増えています。でも自分ではどうしたらいいか分からないとおっしゃる先生もいらっしゃるので、そういう先生に対して支援をして、そのデータを出していただくにはどうすればいいか、支援をしていくというのがあります。
 具体的に支援をすると同時に、そもそもどうやったらいいのかというのが分からないという人文系の研究者はたくさんいらっしゃいますので、そういう方々のために、入門的な講座シリーズをつくって、大学の授業なんかでも使っていただけるようなビデオシリーズとして公開していきたいと考えています。それから、人文系のデータは、権利処理の問題が非常に難しいところがあります。ですので、権利処理の専門家を1人、特任准教授で迎えましたので、いろいろな難しいケースについての事例集や、人文系ならではの権利処理のハンドブックのようなものを今後作っていきたいと思います。いろいろやらなきゃいけないことはあるのですが、できるところから一つずつ着実にやっていきたいと思います。引き続き、そのための道具、こういうのを一緒につくろうというところでは、北本さんのCODHとも引き続き協力をお願いできればと思います。
 後藤さん、僕、何か言い忘れていないかな。
 
【城山主査】  後藤先生。
 
【後藤委員】  人間文化研究機構の人間という立場から説明しますと、これは機構本部内につくられております。その点から言いますと、特にまずは人間文化研究機構が関連する研究分野の研究機関ネットワークとか、そういうところを特にまず考えていくことになります。その中で、実際に機構内の各機関や人間文化研究機構に加えて、ほかの関連する機関も含めたDigital humanities研究みたいなのの下支えをしていくようなところを特に意識した組織であると考えております。
 なので、人間文化研究機構では例えば先ほどのnihuBridgeのような、各機関をつなぐようなハブみたいな機能というのはシステム的にもつくるのですけれども、特に各研究機関や大学がDHを進めていくときに、いかにそれをやりやすくしていくかということを考えるというのが、本DH推進室の役割だと理解しております。
 以上でございます。
 
【北本委員】  ありがとうございました。
 
【城山主査】  よろしいでしょうか。
 そうしましたら、議題の2つ目も、今日はここまでということにさせていただきたいと思います。
 本日の議題は以上でありますけれども、次回の進め方に関して若干御報告をさせていただきたいと思います。
 前回と本日で2回御議論をいただきました。これまでの御発表、御報告、それから御議論いただいた内容、また昨年度のこの委員会での議論等も踏まえて、人文学・社会科学における当面の振興施策についての方針案のようなものを作成したいと思います。直接的には来年の概算要求に向けてということかと思います。
 当該方針案の審議といたしまして、当初は予備日として8月23日の開催も検討していましたけれども、これについては書面審議とさせていただいて、少し期間を設定して、その間に皆様から原案についてコメントをいただくと。それを整理させていただくという形で進めさせていただきたいと思っています。という方向で進めさせていただきたいと思いますので、御了解いただければと思います。
 その方針案の作成につきまして、事務局から補足で御説明いただきたいと思います。それでは、名子室長、よろしくお願いします。
 
【名子学術企画室長】  学術企画室長の名子でございます。主査から今、御発言いただきましたように、方針案につきましては、今期の1回目と2回目の議論、また、昨年度いただいてまとめていただいている御議論もございますので、当面の施策の展開を見据えた形での内容という形で整理させていただきたいと思っております。
 具体的には、共創知創出に向けた共同研究の推進でしたり、データ・プラットフォームの充実、データ化やデータ連携に課題を抱える人文学分野への対応、あと人文学・社会科学分野の成果を可視化するための指標開発といった辺りの内容で整理させていただきたいと思います。
 1点補足ですが、今回、データのところで人文学の話を取り上げましたのは、城山主査からもお話しいただきましたけれども、JSPSでやっていらっしゃるデータは、人文学・社会科学、両方を対象にしているのでございますが、メタデータの整理といったときに、なかなか人文学分野でそういったところにまで多分到達できているというか、なかなか乗って行けない現状もあって、今、JSPSの事業が、社会科学の分野が中心的に一緒に進んでいる。ただ一方で、東大史料編纂所とか、歴史でいいデータとしっかり取り組まれているようなところについては、そのほうに参画はされて進めてきたという経緯はあるんですが、なかなかそういう形で進んできていないところが多い人文学分野に焦点を当てて、今回お話しいただいているということでございます。ここは今日の説明の補足ということでございます。
 私からは以上でございます。
 
【城山主査】  今御紹介いただいた項目を中心に、当面の方針のようなものを整理させていただいて、皆さんから御意見いただくと。そういう形で進めたいということであります。何かこの点、御質問、御意見等ございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、そういう形で進めさせていただきたいと思います。
 それでは、最後に事務局から連絡事項をお願いいたします。
 
【髙田学術企画室長補佐】  先生方、どうもありがとうございました。
 ただいま主査から御説明いただきましたけれども、次回は書面審議ということでさせていただきたいと思います。また、開催時期につきましては、8月上旬頃を予定してございます。2週間ほどお時間をとらせていただきまして、その間にメール等で御意見をいただければと存じます。
 また、本日の議事録につきましては、後日メールでお送りさせていただきますので、先生方、御確認をよろしくお願いいたします。
 連絡事項は以上となります。
 
【城山主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。皆様どうもありがとうございました。
 
―― 了 ――
 

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