人文学・社会科学特別委員会(第1回) 議事録

1.日時

令和元年7月9日(火曜日)13時30分~15時30分

2.場所

霞山会館「牡丹の間」

(〒100-0013 東京都千代田区霞が関三丁目2番1号 霞が関コモンゲート西館37階)

3.議題

  1. 人文学・社会科学特別委員会の議事運営等について
  2. 共創型プロジェクトについて
  3. その他

4.出席者

委員

(委員、臨時委員、専門委員)
城山主査、勝委員、小長谷委員、須藤委員、岸村委員、小林傳司委員、小林良彰委員、新福委員、山本委員、窪田委員、盛山委員
(科学官)
頼住科学官、苅部科学官

文部科学省

角田科学技術・学術総括官、原振興企画課長、春山学術企画室長、藤川学術企画室長補佐

5.議事録

【藤川学術企画室長補佐】  文部科学省研究振興局学術企画室長補佐の藤川と申します。よろしくお願いいたします。
 ただいまより第1回人文学・社会科学特別委員会を開催いたします。本日は最初の会議となりますので、冒頭は事務局の方で議事を進めさせていただきます。
 なお、冒頭のみカメラ撮影を行いますので、御承知おきください。
 まず、本委員会の委員については、学術分科会に御出席の委員及び臨時委員に加えまして、人間文化研究機構理事、窪田順平委員、東京大学名誉教授、盛山和夫委員に専門委員として御就任いただいております。
 続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。資料はお手元の配付資料一覧のとおり配付しておりますが、欠落等ございましたら、事務局までお知らせください。
 主査につきましては、資料1-3の学術分科会運営規則、第4条により、西尾学術分科会長より城山委員が指名されております。
 なお、カメラ撮影につきましてはここまでとなりますので、御了承ください。
 以降の議事進行につきましては城山主査にお願いします。

【城山主査】  主査をさせていただきます城山でございます。よろしくお願いいたします。
 それでは、議事に入りたいと思います。
 本日の議題につきましては、配られている議事次第のとおりでございます。
 本日は委員会の1回目ということになりますので、審議に入ります前に、事務局の方から本委員会について御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。

【藤川学術企画室長補佐】  それでは、簡単に御説明させていただきます。
 資料は、1-1から1-3を用いまして御説明させていただきたいと思います。
 資料1-1でございますが、第10期第1回の学術分科会が3月14日に開催されまして、本特別委員会が設置された設置要綱でございます。
 調査事項は、枠内のとおりになっております。また、特別委員会の設置期間につきましては、資料1-1の方には入っておりませんが、第10期の科学技術・学術審議会の終了、2021年(令和3年)の2月14日までとなります。
 資料1-2をごらんください。資料1-2は、本特別委員会の委員名簿でございます。所属、職名等に変更がありましたら、後ほどで構いませんので、事務局までお知らせいただければと思います。
 資料1-3をごらんください。本委員会の議事運営などは、委員会のものを別途定めるということではなく、資料1-3の本委員会の親委員会でございますが、学術分科会運営規則及び公開の手続を準用し、運用することとしてはどうかと考えております。その場合には、資料1-3の運営規則、公開手続の中で「学術分科会長」とあるものを「主査」と読み替えること、あと、議事及び議事録につきましては原則公開という扱いでございます。
 以上でございます。

【城山主査】  どうもありがとうございました。1-3にありましたように、この委員会としての運営規則はありませんが、分科会の運営規則を読み替えるということ。それからこの1-3の2つ目の紙にあるかと思いますが、基本的には議事については公開でありまして、議事録についても原則事後に公開ということになるということでございますので、御確認いただければと思います。
 ありがとうございました。
 今の点、何か御質問、御意見等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 そうしましたら、続きまして、事務局の方から本委員会の進め方等について御説明いただければと思います。

【藤川学術企画室長補佐】  それでは、簡単に御説明させていただきます。資料につきましては資料2をごらんください。事務局にて本委員会の進め方についてまとめております。
 審議の目的及び進め方でございますが、共創による未来社会のよりよい実現に向けて、人文学・社会科学の学術知に対する期待がこれまでになく高まっている中、人文学・社会科学の振興や、人文学・社会科学と自然科学の連携の実質化に向けて、その丸1としてございますが、人文学・社会科学を中心とする研究者が研究課題を共創するプロジェクトに関すること、丸2といたしまして、丸1の共創プロジェクトと関係しますが、人文学・社会科学と自然科学との連携・協働の実質化に関すること、丸3といたしまして、研究データの共同利用のための恒常的なデータプラットフォームの構築に関することなどの調査検討を行いたいと考えているところでございます。今年度は、丸2の点も踏まえまして、丸1の共創型プロジェクトの事業化に向けた検討を中心に進めたいと考えております。
 2.の当面のスケジュールをごらんください。当面のスケジュールといたしましては、既に先生方には日程をお知らせし、日程を確保させていただいておりますが、この後御議論していただく資料3-1の1から5の論点に沿った議論を考えておりまして、本日7月9日と7月30日にかけては、論点の1、「事業の目的」や「研究テーマ設定の考え方」と「大きなテーマ」について集中的に議論をお願いできればと思っております。資料2の裏面でございますが、8月30日には共創型プロジェクトに関する3.の「プロジェクト運営」に関わるところから5.の「成果の考え方」について議論をお願いいたしまして、第4回の9月19日に第1回から第3回までの議論をまとめたいと考えております。また、本事業の9月から年度末までの進め方について事務局案を提示させていただきまして、御議論を頂きたいと考えております。第5回につきましては、第4回までの議論と、その間、シンポジウムを開催したいと思っておりますが、また、予算の状況なども踏まえまして、共創型プロジェクトの事業計画を取りまとめていただこうと考えているところでございます。
 第6回以降につきましては、共創型プロジェクトの状況も適宜確認しながら、丸3のデータプラットフォームの構築に向けたことを中心に調査検討をお願いしたいと考えております。
 以上でございます。

【城山主査】  以上、進め方についての説明を頂きましたが、何か御質問、御意見等ございますでしょうか。当面、2か月ぐらいの間に4回やるということで、特に3回目までにその中身と体制について大枠を固め、それを予算のプロセスの方に反映いただくと。で、4回目、5回目はその後、具体的な進め方について検討すると、そういうことかと思いますが、よろしいでしょうか。はい、ありがとうございました。
 それでは、早速でございますけれども、先ほどの日程案にございましたように、本日1回目ということで、共創型のプロジェクトについてその概要説明を頂いて、その後、ある程度時間をたっぷりとりまして、共創型プロジェクトの考え方について議論いただきたいと思います。
 それでは、事務局の方からよろしくお願いします。

【春山学術企画室長】  失礼いたします。資料は、3-1をまずごらんいただければと思います。「『共創型プロジェクト』の具体的事業化に向けた論点整理」というペーパーでございます。
 初めにございますとおり、昨年12月に人文学・社会科学ワーキンググループで審議のまとめをしていただきましたが、その中で共創型プロジェクトという御提案を頂いており、この内容の具体化に向けた検討を行う必要があるという状況でございます。
 具体化に向け、この委員会におきまして、目的、研究テーマの設定、運営実施体制等、このペーパーに幾つか書いておりますが、こうした基本的事項についての検討をお願いし、その検討結果に基づいて、文部科学省、我々事務局の方でその事業化を具体的に図っていくというスキームでございます。
 五つこのペーパーにございますが、先ほど御説明申し上げましたとおり、今回、次回につきましては、この中の1と2を中心に御議論いただくつもりでおります。
 1.で、まず、「事業の目的」というところでございます。
 昨年12月におまとめいただきました審議まとめでは、人文学・社会科学の重要性を強調する声が上がっている中で、課題として以下の2つを挙げていただいているところです。
 1つは、人文学・社会科学の現状といたしまして、個々の専門的な研究をマクロな知の体系と関連付けることが難しくなっていることから、研究分野の細分化又は現代的な社会課題に対する応答の不足が指摘されているのではないかということです。
 そしてもう一つが、自然科学との連携という視点からは、自然科学側による問題設定が主導する形になっており、人文学・社会科学側から、その専門性を発揮しながらインセンティブを持って協働することが難しくなっているのではないかということです。また、少し似たような話ではありますが、人文学・社会科学の学問体系の中で蓄積されてきた知と、自然科学から発せられる具体的ニーズの間にもいまだ距離があるということを審議まとめで御指摘いただいているところです。
 この審議まとめが、参考資料として一番後ろに付いているかと思いますが、こちらの5ページをお開きいただければと思います。3.のところで、共創型プロジェクトについて提言を頂いておりますが、3つ目の丸のところでございます。2.(1)といいますのは、今申し上げたような諸状況でございますが、こうした状況の克服のためには、人文学・社会科学の研究者がよりその専門知を生かしつつ、未来社会の構想において能動的に役割を果たすことができるよう、人文学・社会科学に固有の「本質的・根源的な問い」に基づく「大きなテーマ」を設定し、その中に自然科学の研究者も含む分野を超えた研究者が参加し相互に議論することを通じて、現代的課題に関する研究課題を設定し、共同研究を行う中でその「本質的・根源的な問い」に対する探究を深めていくというような共創型のプロジェクトを行うことが有効な手法と考えられております。
 また、こうしたプロジェクトの実施に当たりましては、初期段階で、人文学・社会科学に固有の「本質的・根源的な問い」に基づく大きなテーマの下で研究者の内発的動機に基づく提案を募り、その提案を異分野の研究者が相互に交換・議論して研究課題を形成するプロセスを尊重するプロジェクト運営を丁寧に行うことが重要であるということが言われております。
 資料3-1にお戻りいただきまして、こうした状況、それから審議まとめでの提言を踏まえると、この共創型プロジェクトのまず「目的」として、例えばこの丸1から丸4といったことが考えられるのではないかということです。
 丸1は、人文学・社会科学の研究者がその専門知を生かすことを通じて、未来社会の構想に参画する環境を醸成するということでございます。
 丸2は、人文学・社会科学固有の「本質的・根源的問い」を自然科学の研究者と共有することを通じて、連携・協働を図って課題解決に取り組む基盤を形成するということでございます。
 丸3は、本プロジェクトを通じ、「大きなテーマ」について一定の考察を社会に示していくこと、また、その活動を基にし、学術研究上の具体的な取組、例えば新たな専門知の創出等でございますが、そうしたことまで発展させるということです。
 丸4は、こうした考え方・取組を通じて、直接的なプロジェクトの実施に携わらないようなところであっても、人文学・社会科学の諸学においてそれぞれ固有の学問体系の中で現代的社会課題に対する位置付けを与えるようになるということで、非常に壮大な、この事業だけで完全に実施できるものではございませんが、理念規定のようなものも含めまして、こうしたものを目指して事業を実施することが目的として考えられるのではないかということでございます。
 1ページおめくりいただきまして、2ページになります。2.の「研究テーマ設定の考え方」ということで、今、1.の「目的」のところで「本質的・根源的な問い」あるいはそれに基づく「大きなテーマ」というものが出てきましたが、それについてどのような設定が考えられるかということでございます。
 こちらにつきましては、資料3-2をお手元に御用意いただきたいと思います。若干重複もございますが、1ページ目でこのプロジェクトのイメージをお示ししております。
 1.のところですが、この特別委員会におきまして、人文学・社会科学固有の「本質的・根源的な問い」と、それから「大きなテーマ」を設定していただくということでございます。図示しておりますのはそのイメージ例ということで、これにとらわれるようなものでは全くございませんが、例として一つ示させていただいております。
 2.といたしまして、研究者から「大きなテーマ」に即した研究アイデアを募集し、ワークショップ、シンポジウム、勉強会等、共創の場と申し上げておりますが、異分野を含む研究者の方同士で議論・意見交換をする場を設けて、その研究提案を更に練り上げるというプロセスを経まして、研究プロジェクトを作り上げていくということです。
 3.については、事業全体といたしまして、数値的な指標に限らない達成目標、これは研究課題の達成目標ということだけに限らず、むしろ共創による研究スキームの確立や普及を想定しておりますが、こうした数値的な指標に限らない達成目標を設定し、この事業の運営体制の下で、専門分野の掘り下げではない研究プロジェクトの協働や、社会発信を意識したアウトプットを意識しながら、共同研究を実施するということを書かせていただいております。
 同じ資料の2ページ目が、共創プロセスのイメージを図示したものでございます。左上のところに人文学・社会科学特別委員会ということで正に本委員会がございますが、ここから下に矢印が出ております。「本質的・根源的な問い」、それから「大きなテーマ」を提示ということで、この特別委員会で設定していただいた問い・テーマをプロジェクト運営組織――これはまだどういうものなのか決まっておりませんが、そうしたものに提示するということです。そして、その問いやテーマについて、右上の研究者コミュニティに問い掛けをしまして、右下の点線で囲っているところですが、「大きなテーマ」ごとにそうした共創プロセスを設け、時間を掛けて研究課題を作っていただくということでございます。その中には、例えば事業総括ですとか、テーマごとの代表も要るのではないかということで記載しておりますが、これも飽くまでイメージであり、具体的にどうするかというのはこれから議論するということを前提としております。イメージとしてこういうことをやっていくということに加えまして、最後、右上の方にございますが、その議論の中では、ステークホルダーからの応答とも通じながらこうしたものを作っていくということでございます。
 3ページの方に参ります。「本質的・根源的な問い」、それから「大きなテーマ」について、具体的な例示をしておりませんでしたので、なかなかイメージを持ちにくかったかもしれませんが、これは前期の人文学・社会科学ワーキンググループの中で、本日、専門委員として御出席いただいています盛山先生からのプレゼンから非常にインスピレーションを頂いているものでございますが、まず、「本質的・根源的問い」については、人文学・社会科学の諸学においてそれぞれ固有の、いわば古典的とも言える普遍的な「問い」というものであって、個々の専門分野を超えて共有ができるようなもの、例えば「正義」、「規範」、「共同性」、「言論の自由」、「個人の尊厳」、「平等」、「公正」、このようなものを挙げております。
 こうしたものを扱うテーマといたしまして、中段に「大きなテーマ」と書いておりますが、現代に存在する国内外における具体的な社会課題、あるいは未来社会に向けた構想というような課題だけに限らない部分もございますが、そうした課題に取り組むことで、先ほど御説明申し上げました「本質的・根源的問い」への探究を深化することができるようなテーマ設定ということで、例えば、「デジタライゼーションと人間・社会」、「生命科学の進展と人間・社会」といった、少しざっくりした粒度の設定もあるかと思いますし、また、「先進社会における社会的分断の構造解明」、「国際的移動と多文化共生に関する研究」、「持続可能な社会保障制度の構築に向けた研究」といったレベルの設定も挙げております。いろいろな考え方があると思いますが、研究者の方々がそこに参加して、内発的な動機に基づいて、インセンティブを持って研究課題を形成して取り組んでいけるようにするためには、その「本質的・根源的な問い」、それから「大きなテーマ」をどのように設定するのが最も望ましいかという視点での御議論をお願いしたいと思っております。
 こうしたフレームの下で、下段の「現代的課題に関する研究課題」、これは共創により設定する具体的な課題ということでございますが、「大きなテーマ」を扱うことを通じて、参加する研究者の方それぞれの専門分野を掘り下げる「本質的・根源的な問い」を探究することができるような具体的な研究課題ということで、これは共創の中で、それぞれの研究者の方が作り上げていくというものになっております。
 4ページはそのイメージということで書いておりますが、「本質的・根源的な問い」と「大きなテーマ」、例えば持続可能な社会保障制度の構築に向けた研究ということでいいますと、その「本質的・根源的な問い」といたしましては、「平等」、「公正」、「共同性」というような問いが考えられるかと思いますが、こうした中で具体的な研究課題を共創により設定していただくというイメージを持っております。
 説明が長くなってしまい恐縮ですが、資料3-3をごらんください。人文学・社会科学を対象としました既存の事業や、国際的な取組といったもので、この議論に参考になるのではないかと思うものを少し御紹介させていただければと思っております。
 お開きいただきますと、1ページのところにございますのは人文学・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業ということで、これは平成15年度にJSPSの事業として実施したものでございます。趣旨はごらんいただいているとおりでございまして、下の方にございますとおり、現代的諸問題の要素ということで、例えば倫理の喪失、グローバル化、持続的社会制度の破綻というような要素を基礎としておきながら、諸問題解決に資する基礎研究ということで、右に書いてありますような領域を設定して、その中で、これも少し共創に近いようなことでございますが、研究者同士の御議論をかなり丁寧にやっていただいて共同研究をしたというものです。
 2ページにその流れを書いておりますが、この研究領域につきましては、当時学術分科会で例を設定していただいた後、具体的な領域及びテーマの概要を決定し、そして領域別のワークショップを開いて、そこで参加の研究者の方々に御議論いただき、具体的な研究プロジェクトを作っていったものでございます。
 具体的な研究領域やプロジェクト名につきましては、3ページ、4ページに一覧がございます。研究領域として四つ、それから、それぞれプロジェクトを立てまして、3~4のプロジェクト研究をこのような体制で実施していただきました。城山先生や小長谷先生にもここに参画していただいているところです。
 5ページに行きまして、このプロジェクトにおきましては、研究成果の例として書籍の刊行をしていただいております。その書籍の一覧を掲げさせていただいておりますのと、6ページのところでは、その中の1つ、『紛争現場からの平和構築』という書籍でのまとめを、研究成果の一つとして御紹介させていただいております。
 続きまして、7ページに参ります。これは現在も実施している事業でございますが、課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業ということで、これは平成25年から実施をしたものでございます。事業といたしまして、この中段にございますが、領域開拓プログラム、実社会対応プログラム、グローバル展開プログラムという三つの領域とプログラムを設定いたしまして、それを1年ごとに設定するというやり方になっています。
 8ページをごらんいただきまして、これがその設定の仕方です。この事業で特徴的なのは、この課題と、それからテーマがございますが、まず課題を事業委員会で設定します。そして、実施に当たりましては、研究テーマ設定型と公募型という二つがございまして、テーマ設定型というのは、事業委員会で課題に加えてそのテーマや、テーマを実施するチームの具体的な構成も決定して行うものです。公募型は、先ほどの課題の中で公募して行うものです。
 具体的な例が9ページから15ページまでございます。例えば9ページをごらんいただきますと、これは平成26年から29年に行われた例、上に研究テーマ設定型2件というのがございますが、これは課題と研究テーマを事業委員会という、15名程度の委員会で具体的に設定して実施をするというものと、研究テーマ公募型というのは、課題だけを事業委員会で設定し、その下で公募をした結果、ここに掲げられているような研究テーマの申請があって、その研究を行うという仕組みの事業で、これは現在も実施をしているものでございます。
 続きまして、16ページでございますが、これは日本の取組ではなく、International Panel on Social Progressというもので、城山先生から御示唆を頂き、事務局でまとめさせていただきましたが、つたない部分もあるかと思いますが、御容赦いただければと思います。このIPSPですが、現在において最も差し迫った挑戦的課題というものに対して、分野横断的、それから党派性を持たずに、飽くまで研究という活動をベースとして、具体的行動を促すようなソリューションを開拓するという試みの下に、世界で活躍する人文学・社会科学の研究者を連携させるものということで、具体的には、この16ページの表にございますような22のテーマを設定し、それぞれのテーマの中で分野横断的な研究者の参加を得て、世界各地で2016年の冬から春ぐらいにワークショップを開いていただいて、それを書籍にしたというような取組でございます。
 17ページでございますが、総勢260人を超える執筆者がいるということでございますが、その約6割が経済学、社会学、政治学から大体同数ずつ参加しているということです。
 それから二つ目の丸では、その目指すところとしましては、単に今現在の政治社会問題を論ずるということではなく、長期的な視野で社会構造やシステムに関する研究を行おうとするもので、例えば資本主義、社会主義、民主主義、宗教、不平等ということについて、これら自体に対する問いといったものも射程に入れた研究を行うということです。
 そして、社会的進展を測る指標として「コンパス」と称したものを設定するということですが、この表に書かれていますとおり、Basic Values(基本的な価値)として、Well-beingやFreedom等、それからBasic Principles(基本的な原則)として、Basic rights(基本権)やDistributive justice(配分的正義)等といったものを設定しながら共同研究を実施するということです。
 18ページに参りまして、これは訳が追い付いておらず恐縮ですが、その世界観といたしまして、五つ書かれております。国民・国家という概念の総体化や、資本と労働、労働間のバランスの変化、また、国内外、それから国内の格差や不均衡の問題点ということ、それから宗教と、宗教観若しくは宗教と世俗間の論争や、ポスト冷戦における紛争や不安定さというようなことです。19ページに参りまして、こうしたコンテクストの中でIPSPといたしましては、Democracy and CitizenshipやPoverty, Inequality and Well-Being等、12個ございますが、こうしたものを含みながら議論をしているということです。また、中段のMoreoverのところでございますが、technology and innovation、globalization、social movements、identity/communityと、こういった四つの横断的な視点を持って、議論がきちんと横断的なものになるような工夫もしているということと、最後にございますが、こうした議論の中で最終的にレポートとしては以下三つのクエスチョンに答えることを目的としており、1.は、現在の状況はどういうものなのか、それが歴史的に見てどういう傾向にあってここに来るのか、将来的な展望はどうなのかということ。2.は、社会的公正の探究がどのような社会の変革を導いていくのかということ。3.は、こうした変革を促すものや障壁となるものが何なのかと、こういうような視点を持って検討したということでございます。
 20ページでは、IPSPの体制を御紹介しております。アマルティア・センがAdvisory Committeeの委員長ということでございますが、助言を行っており、それからSteering CommitteeやScientific Councilというような実施機関がありながら、Authorsとして、先ほど260名と申し上げましたが、実際に執筆をするグループや、助言やピアレビューを行う者がいるという体制で行われたということでございます。
 21ページでは、また少し話が変わりまして、日本学術会議で2010年(平成22年)にまとめられた日本の展望についてでございます。今もまた新しいものを学術会議で御検討されているものと承知しておりますが、この平成22年の提言の中で、「人文学・社会科学が立ち向かう課題」ということで、本日の議論の参考となるようなまとめをしていただいております。七つございまして、簡単に申し上げますと、(1)信頼と連帯、(2)多元性・多様性、(3)「機能する民主主義」、(4)グローバル化の中での平和、(5)格差のない社会、(6)「公共的言語」を確立し、知的基盤を作る、(7)世界史的人間主体を育成するというものです。学術会議からはこのような御提言を頂いております。
 こうした中で、先ほどの話に戻りますと、「本質的・根源的な問い」と「大きなテーマ」をどのように設定すると共創が一番うまくワークするのかという観点で、是非御議論をしていただければと思っております。
 資料3-1にまた戻っていただきまして、これは第3回以降の御議論で集中的にお願いしたいと思っておりますが、3.「プロジェクト運営」ということで、こうしたものを運営していくために、丸1のところですが、事業総括やテーマごとの代表者をどのように選出をしたらいいのかということ、丸2といたしまして、運営支援組織というものを選定したいと思っておりますが、そこに求められる要件は何かということを御議論いただければと思います。
 4.に参りまして、四つ書かれております。丸1、丸2は予算的な話ですので、最終的に決まっていく話でございますが、丸3といたしまして、複数の研究分野で構成するということを求めるのは、どのような単位で求めていくのかということ。それから、丸4といたしましては、テーマの中で横断的かつ一体的な取組、一体性を確保するということについて特に留意すべき点というのが何かということでございます。
 それから、5.「成果の考え方」ということで、公的資金による支援事業でございますので、丸1として事業全体としてのスキームの確立。それから、丸2としまして研究課題における成果。これは、一つは社会への応答ということと、もう一つ、学術研究としての成果というもの、こういった成果の考え方等をどのように設定していくのかということでございます。
 当面、今回、次回におきましては、御説明申し上げました「目的」のところと、「研究テーマ設定の考え方」、この二つについて御議論を頂きたいと思っています。
 説明が大変長くなりまして恐縮でございます。よろしくお願いします。

【城山主査】  どうもありがとうございました。かなり幅広く資料を御説明いただきましたが、きょうの議論のポイントは、恐らく資料3-1が概略になっておりまして、一つ目の1ページ目の「事業の目的」ですね。これは恐らく昨年の12月にまとめられた、配っていただきましたワーキンググループの報告書5ページのところがベースにあって、それをある意味では要約していただいたような形かと思いますが、これがベースになるんだと思いますので、これのインプリケーションのようなことを少し御確認いただくと。逆に、こういうことをやっていこうと思うと何が大事かというようなことを少し幅広く御指摘いただくというのも一つのきょうのポイントかなと思います。
 もう一つは、裏に行きまして2ページ目の、恐らくきょう、次回ぐらいは2.の部分の「研究テーマの設定」の仕方というところが大事になってくるのかなと思います。これは、先ほど御説明いただいたのでいうと図があったかと思うんですけれども、3層構造になっていて、資料3-2ですかね、図でいうと3ページ目のところに、「本質的・根源的な問い」というのが一番上にあるわけですが、「大きなテーマ」と、その下に「現代的課題に関する研究課題」という設定をしていて、その大くくりのテーマがあって、その中に課題を張り付けます。ここはいろんな提案をしてもらって、むしろ議論しながら組み立てていくという、そういうイメージで書かれていますので、こういうイメージでいいのかということ。それから、じゃあ、こういうイメージでやるとすると、どういうテーマの立て方がいいのかという辺りを少し議論いただいて、最終的には具体的なテーマについても具体的な例を出さなきゃいけないと思いますけれども、個別にいくというよりかは、特に最初はテーマの立て方辺りについて御議論いただければいいのかなと思います。
 恐らくそういう観点で、最後説明していただいた資料3-3というのはかなり分厚い資料ですけれども、これも見ていただければいいのかなと思います。
 若干、私なり小長谷先生も関わらせていただいたもので言うと、最初の人・社のプロジェクト1ページ目のものは、これはある意味では今の構成に若干似ていて、1ページ目にありますように、その領域の例というのは、これは審議会報告であるんですが、これは領域がそのまま四つこういう形で立って、その下に研究プロジェクトなり研究グループなりが張り付くという、そういうようなやり方をやっています。ただ、このときには、社会提言なり課題を発見するということはかなり強調されましたが、未来社会の在り方を考えるというところまではあえて踏み込まなかったというところがあったのかなと思います。
 他方、比較的最近の9ページ以降の課題設定による推進事業、JSPSの方でやられていた事業について言うと、見ていただければ分かるように、研究テーマもかなりスペシフィックに立てていますし、特に設定型の方はかなりディシプリン、社会課題というよりかはむしろディシプリンの新たな展開みたいなことも含めて立てられている。他方、社会実装、実社会対応型の方は、今度は極めて具体的な社会課題に関する対応を求めるという、こういうスタイルでやってきたので、若干スタイルは違うのかなと。ただ、こういうことのいい面、悪い面みたいなことも、御関係なりの方あるいは御意見あれば是非頂きたいなと思います。
 この辺りがテーマの設定の仕方という大きめの二つ目の課題に関わるのかなと思います。
 ということで、きょうは、あとは議論をお願いするということなので、75分ぐらいはあるかと思いますので、どこからでも構いませんが、いろいろ幅広く御意見を頂ければと思います。
 特に比較的少ないメンバーでの会議でもありますので、お二人の科学官の方にも御出席いただいていますけれども、是非御発言いただければと思いますし、それから、理系とのつなぎとか、あるいは若手ということで、岸村先生と新福先生、お二人、比較的若手で理系をベースにしながらこういうことに御関心を持っていただくという観点で参加いただいているので、そのお二人にも是非積極的に御発言いただければなと思います。
 ということで、あとはどこからでも御意見、御質問いただければと思いますが、いかがでしょうか。じゃあ、最初、小長谷先生。

【小長谷委員】  ありがとうございます。最初に事業のイメージを確認しておきたいと思って述べさせていただきます。
 最後に御紹介にありましたIPSPのテーマ設定は試みとして非常に面白いと思いますけれども、この場合は、実質的な研究期間というのは、2日の会議ですね。これが研究実質期間ということで、そうすると、これは基本的にはエディティング作業、本を作るための目的を持った集会で、オーバーオールに総体的な本を作っていこうという試みですね。これはこれで価値が高いと思いますけれども、これだと研究期間が2日ずつになってしまいますので、目指しているのはそういうところではないですよね。
 なぜこれが出てきたかというと、多分、きょうの私たちの議論の目的はテーマを決める決め方だから、テーマが一覧でたくさん出ているからということだと思います。そうすると、テーマの決め方で具体例としてあるのは、きょうお話があったのは、いわゆる人社プロジェクトというのと先導的うんぬんという、この二つの事例があります。これらは似ているようでかなり違います。前者はボトムアップですけど、後者はトップダウン的です。それらが同じように見えるのは、ボトムアップのものに対しても一応勝手にやっちゃいけないから、上に委員会というのが作られているわけですね。この委員会の作り、組織図から説明されると、この二つはとても同じように見えます。遠目から見て組織図が似ていても、下から作り上げたものと、委員会の方がかなり主導的に設定していったものに対してトップダウン的に動かしたものとは、かなり異質なので、今回、御提案になって我々が作っていこうとしているのはボトムアップというものではなかったかというふうに、私、理解しているんですけど、それでよろしかったでしょうか。

【城山主査】  最初に事務局の方からお願いします。

【春山学術企画室長】  今、小長谷先生がおっしゃったとおりでございまして、IPSPは確かにセッションが2日のものが中心になっておりますが、飽くまでテーマの例ということで御紹介させていただきました。今、概算要求に向けての作業をさせていただいているところですが、たしかワーキンググループの提言でも、例えば5年程度ということが言われておりましたので、それぐらいの期間の研究につなげていくためのテーマ設定の例ということでございます。
 また、ボトムアップというところにつきましては、それもおっしゃるとおりでございまして、この共創というものはある程度長い時間を掛けて、研究者の方々の専門知を生かした協働によって研究テーマを作っていただくということを考えておりますので、ボトムアップの中でそういったものを作り上げていくというところを特に大事にするプロジェクトだと思っております。この二つで言うと前者の方のタイプに類するものと考えているところでございます。

【城山主査】  ちょっと今の点、一つだけ補足させていただくと、海外のIPSPの例は、正におっしゃっていただいたとおり本を書くという話なのですが、多分あれの一つの面白い点は、全体として一つのストーリーを作るみたいなところまで練り上げているという単位で課題設定をするという点かと思います。他方、かつての人・社プロジェクトは4領域ですし、あるいは、今回、資料3-2で飽くまでイメージ例ですけど、「デジタライゼーション」、「生命科学」、「グローバリゼーション」、「多文化共生」、四つぐらい並んでいるわけですが、恐らく社会のある側面の大事な問題なんだけど、このぐらいの粒度でいいのか、ボトムアップでやりつつも全体像を描くようなことが必要なのかというようなことを多分お考えいただくといいのかなということでございます。
 それでは、小林先生、よろしくお願いします。

【小林良彰委員】  大変チャレンジングな御提案を頂いて感謝しております。何点かお尋ねしたいのですが、資料2の1.の「審議の目的及び進め方」を見ますと、特に今回は丸1、丸2というお話でしたが、共創するプロジェクトであるということと、自然科学との連携・協働の実質化ということになりますが、目的というよりは、これは進め方になると思います。そうなると、最終的に求められる成果は何なのか、最終的な成果を評価する評価基準は何なのか、それを是非最初に伺いたいと思います。それによって全体像がよりクリアになってくるのではないかと思います。
 やや似た項目になりますけど、資料3-1の方に、今度は事業になりますが、「目的」で、かなり社会的課題ということが強調されていらっしゃると思います。そうなりますと、お尋ねしたい2番目になるのですが、従来の課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業の中の実社会の方の対応プログラムと、今回御提案のものは、どこが違うのかということを是非伺えればと思います。従来の実社会対応プログラムの方もかなり社会的課題ということを扱っていらっしゃったように思うのですが、それと同じことをやるということでは多分ないと思うので、そうなると、そことは何が違うのか。特にそこの評価基準と今回の評価基準は何が違うのかというのがお尋ねしたい2点目です。
 3点目ですが、この研究の実際の行い方というのは、従来の課題設定によるこのプログラムとか、あるいは科研、大型で言えば特別推進とか、それと同じように、それぞれの研究者がそれぞれの研究機関に所属しながら、人文・社会ですから、大きな施設が必要ということでは必ずしもないと思いますけれども、それぞれの中でいわゆる研究しながら、時に会いながら、時にバーチャルに協議しながらという形でやっていくのか、それとも、それとは何か違う方策をお考えなのか。もう少しお互いに集まれるような場というのを設定して、どこかの研究機関が責任を持ってそれを引き受けてやるとか、要するに、従来とどこが違うのかというのをより明確に教えていただければ有り難いと思います。
 その3点を伺えればと思います。

【城山主査】  では、事務局の方からお願いいたします。

【春山学術企画室長】  全てにお答えできるか分かりませんが、二つ目の従来の課題設定による事業の実社会対応プログラムとの違いについて、私が御質問の趣旨を正確に理解できていないのかもしれませんが、例えば11ページから13ページをごらんいただくと、まず研究テーマの設定、これは事業委員会でこのJSPSの事業をしていただいておりますが、若干スペシフィックなものなのかなと考えております。というのは、テーマを設定するときに、今新しく考えようとしているものにつきましては、「本質的・根源的な問い」というものを必ず念頭に置いて、セットで設定をするということを考えております。一方、このテーマ型の方は、課題に応じてそれぞれの研究者の方が御自身の発想の中でテーマを設定して申請をするということでございますが、今回はそうではなく、それぞれの研究者の方に集まっていただいて、そこで協働し、研究課題の練り上げをしていただくという、そのプロセスの部分において従来の事業とは違いがあると思っております。
 そして、評価のところでございますが、資料3-1で、「成果の考え方」として、例えば丸1のスキームの確立、これは事業としての全体の成果ということですので、翻って、1ページ目の「目的」というところに返ってくると思っております。「目的」の丸1から丸4、専門知を生かすことを通じて参画することができる環境を醸成する、それから、「本質的・根源的な問い」を自然科学の研究者と共有することを通じて連携・協働していくということですとか、3の、実際にその成果、一定の考察を社会に示すということや、新たな専門知の創出ということまで発展させるということ。4はちょっと壮大な話ですが、こうした位置付けを与えるというようなこと。これらは、数価的な目標で必ずしも測れるものではないと思いますが、こうしたものが事業の目的としては考えられますので、むしろこれらをどのように測っていくのかという議論が今後必要なのかなと思っています。
 また、研究課題における成果といたしましては、社会への応答と学術研究としての成果ということですので、学術研究としての成果は、やはり学術的な意味での評価を頂ければ良いということになるのではないかと思っていますし、また、社会への応答ということで申し上げますと、今、社会的インパクトの評価はございますが、これもそう簡単な評価ではございませんが、そうしたものも使いながら評価をしていくというようなイメージを持っております。

【小林良彰委員】  ちょっとお尋ねしたいのですが、最初のお答えは、従来の実社会対応プログラムのテーマ設定が狭過ぎたから、より大きなテーマ設定をするというところが違いだというお話でしょうか。

【春山学術企画室長】  従来のプログラムは、このプログラムとしてこのような設定になっていると思うのですが、共創型の方では比較的これよりは広いテーマに必然的になるだろうと思っています。というのは、「本質的・根源的な問い」を幾つか並べていくようなテーマ設定になるからですね。

【小林良彰委員】  それから、研究者が集まってテーマを練り上げていくというお話ですが、では、どの時点で応募するのでしょうか。まず手を挙げて採択された人が集まって練り上げるのか、でも、それはまだ練り上がってない段階です。みんなが練り上げた時点で、それが終わってから応募するのでしょうか。そうすると、そこで採択されなかった人たちは、その練り上げる期間というのはある種、残念でしたという話で終わるのかということ。
 それから、学術的な成果というのは、評価はいろんな基準というのはあると思います。問題は、社会的課題の方の社会に対する対応の評価というのは、誰が、どういう基準で行うのでしょうか。

【春山学術企画室長】  正直申し上げまして、その具体的なイメージはまだ持っておりませんので、正にこの委員会で御議論いただけたらと思っております。
 それから、プロジェクトの採択のタイミングですが、これは本当に難しいところで、御議論をどこかの段階で形にしていただいて、それを採択するというプロセスが必要になってくると思っております。場合によってはそこでの御議論が5年間の共同研究という形では生かせないようなことがあるかと思いますが、その辺りはまだこれからの話でございますので、具体的にこれから考えていくということだと思います。

【城山主査】  ちょっと今の点、若干フォローしておくと、多分、今、小長谷先生がちょっと触れましたけど、そういうことを正にここで議論する必要があるのかなと思います。それで、若干過去のプログラムに関わった者として申し上げると、一つは、正に社会課題に対してどういうふうに取り組むかというのをボトムアップに考えるか、ある程度具体的なテーマを絞ってトップダウン的にやるのかというのは、多分一つの違いだろうと思います。そういう意味でいえば、いずれも「課題設定」という単語が付いているんですけど、ニュアンスは多分かなり違って、当初の人・社プロジェクトのときは、これ、当初、課題解決型にしようという話があったんですが、それをはね返して、むしろ新しい課題を発見することが大事なんですよという、課題設定型というのはそういうニュアンスだったんですね。他方、恐らくその後のJSPSのプロジェクトは、むしろ委員会が課題を設定して、それについて手を挙げる、あるいはこういう課題をやりたいという人に手を挙げてもらってやるという形なので、そういう意味では、先ほどの表現で言えば若干トップダウン的な色彩があるという中で、ここのスタンスをどうするのかということが課題になります。ここで、プロセスを書いているということはかなりボトムアップ的なものを念頭に置くということを恐らくワーキンググループは念頭に置いていただろうと思いますが、ちょっとそれを具体化するのは今後の話だろうと思います。
 あと、小林先生がおっしゃった二つ目のどうやって選ぶんですかというプロセスについて言うと、この最初の人・社プロジェクトをやったときは、最初は手を挙げた人でワークショップをやったんですね。それで議論をして練り上げたものを出してくださいと言って、それで採択・不採択という話をやりましたと。当然、そうすると、入ってくる人、入っていない人、公平かどうかみたいな話というのは、それなりにどう担保するかという問題が出てきたりとか、他方、途中で終わっちゃった人はそれまでですねという部分も確かにおっしゃるようにあるんですが、他方、ある意味では、いろんなアイデアをふ化してもらうこと自身がその事業のプロジェクトの目的だという部分もあって、いいアイデアがあれば、ほかでむしろ生かしてもらうということもあり得るという、そういう意味ではプロジェクトをやること以外もある種の重要目的として考えていたというところがありますので、そういう中でこことしてどういうスタンスをとるかということを正に御議論いただけばいいのかなと思います。
 それでは、盛山先生、お願いします。
【盛山委員】  最初に小長谷先生がおっしゃった問題ですが、基本的にはボトムアップかトップダウンかみたいな分け方は多分しない方がいいというのが、ここでの基本的なテーマだと思います。まず確認した方がいいと思いますのは、既存の二つのプログラムがあって、一つには通常の科研費があります。通常の科研費は純粋にボトムアップで、もしもボトムアップでできるものをやるのであれば、通常の科研費のサイズを増やすとか、その辺りで対応できる話になります。
 もう一つは、さっきから問題になっている「課題設定による」というもの。これは必ずしも厳密な意味でトップダウンではないのですが、ここの資料には最初に設定された課題が書いてなくて、どの程度の範囲の課題かというのが見えないのですけれども、かなりブロードな課題しか設定していないのですね。しかしそこでもまだ問題があるということです。
つまり、純粋な科研費のように、純粋ボトムアップでやってくださいというのであれば、ここでこういう議論、特別委員会を設けて何か新しいことを考える必要は多分ないわけで、それは個人がやればいい。それから、今までの課題設定型も、幾つかそれなりに進展はありますけれども、それでもいろいろとまだ本来もっとやるべきやり方があるのではないかというので、ここで新しく特別委員会を設けて、新しい可能性みたいなものを考えていくということだと思います。それは、何か新しい仕組みを考える、先ほど室長の方がいろいろと説明されましたが、多分、仕組みそのものもここで考えるというのがここでの仕事の大きな一つかなというふうに受け止めているのです。そういう了解でいかがでしょうか。

【城山主査】  では、小長谷先生。

【小長谷委員】  先ほどボトムアップとトップダウンと言ったのは、この二つをあえて説明するための区別の仕方であって、単にボトムアップの研究というだけだったら、おっしゃるように科研で十分なわけですね。だから、科研とか普通の共同研究と何が違うかというところを議論すると、今回の企画についてイメージを共有できると思います。
  大学内のリソースだったら、学内で既に配られている先生、それは個人が自分で選んだわけじゃなく、たまたま同じ大学にいらっしゃる先生方を組み合わせて作るということになります。科研だと、大学を超えて選ぶことができますけれども、そのときにこのテーマにぴったりの人を論文から探し出しても、学会では会えますが、異なる学会に所属する学問領域を超えてだったらなかなか会わないわけで、論文を読んでいる限りはいいなと思っても、実際に会わないからどんな人かも分からないし、会おうと思ったら交通費なり何なり研究費が必要になるわけですね。そうすると、研究費をとるための行動なんだけど、研究費がないとできないというような状態に陥ります。そこで、志を共有するような人と出会える場を用意して、それで実際にテーマが似通った関心とか、関心は違うけれども、結局メスの切り口が同じとか、そういう人たちが出会って大きな課題に取り組めたらいいなと思うんですね。
 それで、おっしゃるように、予算の都合上、採択されないのもありうるわけです。小林先生もおっしゃったように、残念ながらお引取り組が多分出てくるんだけど、そういう方は、それこそ小林先生がおっしゃったように、科研の大きめのサイズのところにどんどん応募していただいて、もともとそこの応募は人社はすごく少ないですね。理系ばっかりで。人社の大型への応募が少ないのはなぜだろう。そのために解決すべきことは何かというところから考えてもいいと思いますけど、今回の事業を進めてそこも同時に解決できたらいいですねと思います。

【城山主査】  まず、勝先生、その後、小林先生。

【勝委員】  ありがとうございます。今の議論で、ボトムアップあるいはトップダウン、この言葉を使ってはいけないのかもしれないのですが、ただ、やはり研究課題の設定においては、基本的にはボトムアップであるべきかなと思います。研究においては、テーマを決めるのが一番難しくて、論文あるいは研究をするときはいつもそうだと思うんですけれども、今おっしゃったような学会のネットワークというものも、やはり今までのネットワークの中でという限界があるかもしれませんが、異分野でのネットワーク作りも重要と思います。そのときに先ほどのIPSPの資料は非常に参考になるのかなと。ここで、Basic ValuesであるとかBasic Principlesということで17ページにあるように非常に大きなくくりが提示されてますが、これは、SDGsみたいなものだと思うのですけれども、サステーナブルな社会を形成するにはどういう価値観があるのかという、そういった広いテーマだけを提示して、それぞれその中で考えていくと。それぞれの個別のテーマはボトムアップで考えていくというのが、恐らく一番合理的なのかなと思います。また先ほどの成果の話なんですけれども、今回のは、こちらのペーパーを見ますと自然科学も含まれるということであるかと思うんですが、そこの部分がやはり、今までの平成15年のものと、「課題設定による先導的人文学・社会科学事業」については、こちらの方は自然科学は入っていなかったという理解でよろしいかと思うんですが、過去のこれらのプログラム、これも国のお金が入っていたわけで、この成果というものが、著作というもの、あるいは何か論文となっているのか。多分これから求められるのは、国際的な意味でその成果というのが求められていくだろうと思うので、やはり国際ジャーナルであるとか、そういったものに、それは個別の研究者がそれぞれ書くという形の集積というのでもいいと思うんですけど、そういったものが必要になると思います。単なるワークショップであるとか、あるいはシンポジウムとか、そういったものではなくて、やはり目に見えるもの、形に残るものが恐らく求められてくるだろうと考えます。今回は、ベーシックなバリューの下に例えばデジタライゼーションみたいなものが入れば、これはまた違う分野の先生が入るということにもなると思うので、そのBasic ValuesとBasic Principlesみたいな形で枠を決めて、あとは公募という形にするのが一番合理的なのかなと思います。質問ですが、過去のプロジェクトについては、その成果というのはやはり著作というのが主体であったという理解でよろしいでしょうか。

【城山主査】  では、事務局の方から。

【藤川学術企画室長補佐】  基本的には著作という形になっております。

【勝委員】  本で出たという。

【藤川学術企画室長補佐】  はい、本や、物によっては論文になっているものもありますけれども。

【勝委員】  それから派生する論文も幾つかあったんですか。

【城山主査】  若干補足すると、これも先ほど資料に付けていただいているんですが、最初のプログラムの例で言うと、本のシリーズを出したというのがあるんですけれども、これは、むしろアカデミックな成果はそれぞれ論文とか何か出してくださいと。そうではなくて、社会に課題設定をするということなので、ある程度一般的にちゃんと読まれるようなものをきちっと出してくれと。それを、何をもって評価するは正に難しい点なんですが、少なくともプロダクトとしては世論に訴え掛けるようなもののシリーズを十何巻本で出しますというのが、このとき形式としてとったものということで、そういう意味では、アカデミックな成果とは別の成果を出してくださいという言い方をしたということになろうかと思います。

【勝委員】  ありがとうございます。よく分かりました。

【城山主査】  最初の部分は、ボトムアップのむしろ課題設定の仕方のところも含めて御意見いただいたということかと思います。
 じゃあ、小林先生。

【小林傳司委員】  きょうは、できれば「事業の目的」の議論をしようということだと思います。それだとすると、資料3-1をもうちょっときちっと読んだ方がいいのかなという気がしました。
 恐らく人文学・社会科学に対する期待の声が高まっているというふうに事務局も書いておられる。そのとおりなんですが、その期待は、現状の人文・社会科学そのままでいいよという意味では全然ないというところの危機感を持たなくてはいけないんじゃないかと私は思っているんですね。やはり人文・社会科学が期待されているんだけれども、これは、今のままだったら期待に応えられてないんじゃないかというふうなクリティカルな観察をされているところを踏まえてのレスポンスだと理解すべきだろうと私は思います。
 それは、例えば「事業の目的」のところで二つ事務局が書いておられる。これは前のペーパーとの対応が一応あるわけですかね。前回のWGでのペーパー。やはり過度な細分化、それから現代的社会課題に対する応答の不足というところが指摘されていると。これへの対応が事業の目的だ、克服すべき諸状況だと言っているわけで、まず、これを我々が共有するかどうかという問題があると思います。
 それから、次のところは、これは自然科学との関係で、自然科学主導型で、それの僕になるという構造ではなくて、人文・社会科学の側(がわ)が主体性を持って自然科学と連携するということができているのかという問い掛けだと思います。ここで「インセンティブ」と書かれているんですが、ここ、「イニシアチブ」じゃないんですかね。「インセンティブ」ですか、ここ。私は何となく「イニシアチブを持って」の方がすっきりすると思うんですけどね。「インセンティブ」じゃないんじゃないかと思う。
 この二つの目的が、今、人文・社会科学が自らのありようを振り返って取り組むべきではないかと、こういう問題提起だろうと。
 そこで、次に、「共創型」と出てくるわけですね。この「共創」の言葉がバズワーズでありまして、これ、何かがよく分からないんですよ。今回のペーパーでも定義はされてないんですね、この資料の中では。ただ、推察するに、目的の二つ目のところとか、それからその下の丸2のような「専門分野を超えた連携・協働」とほぼイコールのように読めてしまうんですが、だとすると、これは従来の文理融合学際型研究とかいうマルチディシプリナリーな話なんですね。共創型というのはもうちょっと広いニュアンスを本当は持っているんじゃないかなという気はするんです。つまり、先ほど主査が、前の人・科プロジェクトのときには課題解決ではなくて課題発見という形で押し返したという議論をされて、それはそれでよく分かるわけですが、今回の解決とまでは言わないにしても、やはりソーシャル・レリバンスを考えるわけですね。そうすると、共創するときには、その専門家集団が生み出した知識によって、あ、そういう研究をしてくれてよかった、ありがとうと言ってくれる集団をやっぱり設定しなくちゃいけなくて、それが学者仲間だけというんじゃ今までと変わらないわけですよね。そういう意味では、共創型というのは、その知識を生み出してくれたことによって恩恵を得る方とか、あるいは彼らが期待しているようなとか、そういうふうなステークホルダーをどこかで巻き込むようなニュアンスがあると、共創という言葉はちょっと単なる学際とは違うだろうと。そうすると、評価においても、アカデミックな評価によるクオリティーコントロールに加えて、そういう知識の享受者による評価というものもあってもいいんじゃないかという議論も可能になるかもしれないと思うんですね。
 そう見ますと、この丸1、丸2、丸3、丸4といったところの位置付けが今度は悩ましくなってきまして、丸1、丸2、丸3はいいんですが、私、丸4、これ、日本語としてよく意味が読めない。もうちょっと何か分かりやすい表現にならないのかなと。何となく、「このプロジェクトに関係のない伝統的な人文・社会科学の方々のこういう感覚をちょっと身に付けて頑張るような雰囲気を持ったら?」と言っているように読んだんですけど、それでいいんですかね。そういうことですかね。
 丸1もなかなか微妙な書き方で、「人文学・社会科学の研究者がその専門知を生かすことを通じ、未来社会の構想に能動的に参画する」で終わらずに、「ことができる環境を醸成すること」となっていて、することができる環境ってどういう環境なんだろう、今はそういう環境がないのかしらというのが、ちょっとよく分からないですね。でも、この辺りが実はポイントになってくるんだろうなという気がして。それから、この丸1、丸2、丸3、丸4は、アンドなんですか、オアなんですか、どちらでお考えですか。

【藤川学術企画室長補佐】  アンド。

【小林傳司委員】  アンド。となると、これ、もう最初から分野を超えた連携というのを前提にしたプロジェクトというのを考えてくださいという議論になる。そうすると、ピアレビューというのはディシプリンベースで作られているので、ピアレビューでは評価は閉じなくなるということを覚悟しなくてはいけない。そういうふうな整理をした上で、立て付けとか、それから選び方とかの議論の方に入っていくという順序の方がいいのかなという気がします。ですから、今、私が申し上げたような理解でよろしいのかどうかということをちょっと伺いたい。特に丸4は私の解釈でよかったわけですか。

【春山学術企画室長】  そうですね。4は、本当に理念規定のような、少し遠い目的の話で、確かに1、2、3とはレベルが少し違うのかもしれませんが、プロジェクトをやってみて、そうした取組が普遍的に広がることによって4のような状況を目指すというぐらいの少し将来的な目標、目指すべきところのようなイメージで書いているものです。

【小林傳司委員】  いや、これ、主語と述語が何かねじれている感じがして、何に位置付けを与えるのかが見えないんですよ。

【城山主査】  これは私の個人的な解釈ですけれども、多分、小林先生が最初に言われた点と関連しているんだろうなと。つまり、社会科学なり人文学もきちっと現実の課題に向き合うようにしましょうということだけであれば、多分、丸1の話なんですよね。ただ、環境醸成なんて本当にどこまで踏み込むのかって距離感の問題はいまだに残ると。
 丸4は、多分それが一部の人では駄目で、ディシプリン全体として少なくともそういうものを、全てではないけれども、共有するように変わる必要があるという問題意識が背景にあるのではないかと思います。でも、その辺の問題意識の距離感というのは、多分、人・社の中でも分野によって違うかもしれないので、本当にどこまでコミットすることを求めるんですかというのはもう一つ別の論点としてあるだろうなと。ただ、その二つは、一部の人だけでいいのか、全体としてある種変わっていくことを求めるのかという、そこのニュアンスの違いなんだろうと思います。

【盛山委員】  関連で。

【城山主査】  はい。ではどうぞ。

【盛山委員】  小林先生の問題提起はそのとおりだと思います。今、御指摘があって改めて気付いたのは、実はこのプロジェクトというのはある意味で2段構えというか、メタの部分と研究そのものをする部分とがあって、資料にはこの両方がミックスした形で書かれている。つまり、最初におっしゃった環境を醸成することはメタ的なプロジェクトの目標で、その環境のもとで実際に研究者に参画していただいて研究をやっていただく。だから、このプロジェクトそのものとしては、そういう環境を作る、仕組みを考えることによって、専門的な研究でかつそれが同時に社会の様々な課題にも対応するような研究を遂行していただく。それをこの枠組みとして作っていくというのが多分この特別委員会としての検討課題の一つなので、そうした両方がここに織り込まれているのだと思います。それで、そういう書き方になているのかなと。

【城山主査】  その複数の目的が埋め込まれると、運営する方は多分大変なことになるだろうなと思いますが、例えば、小林先生が今言われた、どこで分野横断を求めるのか、どこでピアレビューを超えたことを評価するかというのは、この2ページ目の4.の「共同研究の実施について」というところで丸3ですね、つまり、どこの単位で分野横断を求めるのかですね。「大きなテーマ」のレベルなのか、個々のプロジェクトのレベルなのかって、多分そこは一つの選択の仕方で、これも一義的に決められるのかどうかというと、相当厳しいかなという感じもするんですが、多分そういう論点とも絡んでくるのかなと思っています。

【小長谷委員】  具体的には、小林良彰先生が質問されていた、どこで応募するんですかという、そのどこで応募というのは仕組みづくりですから、それがスキームの確立ということで、どんなスキームを作るかというのも成果だし、それから、そのスキームの下で個別に行われた学術成果というのも成果の評価だしという、その二重性ということだと思います。

【城山主査】  取りあえず小林先生にお話しいただいて、その後、できれば、せっかくなので発言されてない方も是非何か言っていただければと思います。ちょっとお考えいただければと思います。

【小林良彰委員】  冒頭の繰り返しで恐縮なのですが、やはり最終的な出口を明確にしておかないと、今までと同じ研究になってしまうのではないかなということを非常に恐れています。やはり評価が大事で、実際問題として、やってみて駄目なら、普通の科研費に応募しろという話ですけど、普通の科研費で求められている評価とここで求める評価が同じなのでしょうか。普通、例えば科研費は、私も特別推進代表とかやりましたけど、それはとにかく毎年のように国際ジャーナルのインパクトファクトがどうで、SSCIスコアがどうで、結局、国際共著論文の比率がどうでと、それを求められます。それを求められるならば、結果的にはそれに合った研究の方向性がどうしても誘導されていきます。そこで本当にWell-beingという研究をやるのかという話になります。Well-beingとか平等という、もちろんそういう切り口で研究はしますけど、そのもの自体に大上段から構えていくというと、多分、社会科学でそういうものがインターナショナルなジャーナルにすぐ載っていくかって、ちょっと違うのではないかなという気がするのです。そうすると、枠組みはいろいろ違うのだけれど、今までやったことと同じような成果しか出てこない可能性もなくはないと思うのです。そうすると、やはり明確に、さっき小林先生がおっしゃったように、ステークホルダーが誰で、そこがどう評価するのだという社会的課題の評価というところを明確に軸を打ち立てておかないと、結果的には私は従来と同じことになってしまうのではないかなという気がするので、そこはやはり明確に議論しておいた方が私はいいと思います。

【城山主査】  多分、今の点は一つの共通の大きな論点かなと思います。
 いかがでしょうか、どなたか。では、岸村先生。

【岸村委員】  今までの議論を聞いた上で感想に近い話になるかもしれませんが、私自身は、この話を聞いていて、やり方は非常に面白いと思っておりまして、特にこの共創の場ですね、何か対話をした上で具体的な課題を設定していくという仕組みはとてもいいと思いました。他の先生の発言にもありましたが、2段構えになっているのがとても大事で、それぞれの段階で同じ人が参加している必要はないんじゃないかと思います。このとき、共創のための議論の場というのはかなり広げておいて、扱うのは社会課題ということになりますので、一般市民の方も加わるなどするととても面白いと思いました。実際にどうやってそのような場を回していくか、という問題は残りますが。私は大学教員をやっておりますが、例えば大学の授業でもこのような内容を取り入れて、大学も総合大学などであればたくさんの分野の人がいますから、複数の分野から人を集めた上で、次世代を担う若い人に社会課題を考える機会を持ってもらうという意味で面白いのではないかと思いました。実際には、教養レベルの時点でやるのがいいのか、もっと学者に近いレベル、例えばJSPSの特別研究員のような人をかき集めてきてこういう問題をさせるというのも若い人を集める上では面白いと思います。いずれにせよ、そういう対話の場を重視した最初の段階と、その段階から上がってきた筋の良い内容について、受け手を探すだけというわけではないですが、実際それをプロの人が扱うに値するものに練り上げていく段階に進み、どう研究していくのか考えるというような流れになるかなと思いました。ファシリテーターのような役割で、最初からもちろんプロの方もいるべきだとは思いますが、最初の対話限りの参加も促せるようにしておくのが効果的と思います。なおかつ、その対話を受けてどのように本当の学術研究になるように持っていくかというのは、ちゃんと2段構えのものとして考えておくのが望ましいと思います。そのようにすることで、社会課題の解決ということであれば、ちゃんと市民の方の理解を得られやすくなるでしょう。先ほどの議論にあったようにプロの人が議論して何か面白いことを発掘しようというのでは、市民の方の当事者意識もうすくなりますし、なかなか難しいように思います。また、今回のプロジェクトをきっかけにそういう対話の場を広げていくようなことができれば、一般市民の方の政治参加や、民主主義のプロセスに関わるところにも社会課題の解決というのは直結していきますので、市民の活動を助ける仕組みとして非常に良いモデルケースになっていくのではないでしょうか。様々な地域や場面でこのような動きが起きてくるとすごく面白いことになるんじゃないかと思って聞かせてもらいました。
 私自身は化学をやっていますので、自然科学の学者ということになりますが、じゃあ実際どうやって関わっていくかというのを考えた場合に、私はこういう活動が好きなので興味本位で参加してみたいと思いますが、どういう方が実際参加してくれるのかなというのはちょっと分からないところがあります。「大きなテーマ」の設定の仕方次第だと思いますが、確実にこれは自分の分野だなと思えば責任を感じて参加する、というようなケースはあるでしょうが、もっと漠然としている場合に、例えば私、化学とか物質科学をやっていると、先ほど挙がっていた正義だとかそういう抽象的で大きなテーマが挙がったときに、どう関わっていいかも分からないので、遠慮というか、やっぱりお任せモードに入ってしまう可能性があると思いました。しかしながら、どのような場面で自分の専門知識や技術が役に立つかは予想できないことです。お金が付くかどうかという観点で参加を促すこともできるかもしれませんが、社会課題があったときに何か役に立てるとか自分のネットワークを生かして誰か紹介できるとかいうような場として設定しておくとともに、持続性のある場とするためにはそういうマインドを持って参加することを是(ぜ)とする土壌を作るようにするのも必要と思います。そういう中でいいネタが出てくれば当然自分も乗っていく、というような状態にしておかないと、なかなか広い分野から、特に自然科学系の研究者だと参加しにくくなってしまって、思ったように進まなくなってしまう可能性があるように思いました。
 知り合いがやっている活動で、若手アカデミーも関係したことがあるのですが、科学研究費で分類されている全分野から人を集めて議論するというのをやっている人がいまして、それは何か社会課題を解決するためではないんですが、例えばある学者のコミュニティで問題になっていることはほかの分野ではどうなのかなどを議論したりするときに、全分野を集めて議論するのは効果的です。社会課題解決のためにもそのような形で強制的に全分野を網羅するように人をうまく連れてきて、その方を窓口とすればある分野の専門知を使って解決できる人が見つけられる、などという仕組みになっていると良いと思いました。このように、各分野の最先端の知識を持った人を十分に集めてこられるような状況にしておかないと、広い分野から参画を募るというのは「大きなテーマ」に左右され過ぎてしまって実現しにくくなる面もあるんじゃないかなと思いました。
 以上です。

【城山主査】  どうもありがとうございました。
 では、山本先生。

【山本委員】  私は理解するのに、今回、必死に理解しながらで来たんですけれども、それで、今、あ、こういうことを一つしようとしたらいいのかなって気がしたところでお話しします。
 共創型のプロジェクトの話で、理工系の方のSociety 5.0ですとかに向けた共創の場づくりというのは、もちろんここ数年の新しいものですけれども、比較的いろんなところでやられています。それはJSTの多分早いうちで言うとCOIがそうだと思いますし、未来社会創造なのが多分今一番それらしいところで動いているんだと思います。それは、様々な、要するに学術の研究者だけじゃなくて、産業界であるとか、もっと市民社会の人ですとか、様々なステークホルダーが一緒に集まると。その未来社会がこの先どうなるんだろうかって、それは過去の学術の積み重ねで進むようなものじゃないよね、もっとすごいことが起こるよねといった議論をして、その中からバックキャストの形って言いますよね。じゃあ、今やるべき研究というのは何と。それはやっぱり分野融合であって、それは理工系のだけじゃなくて、人・社と一緒にやった形でしなくちゃいけないよねというマインドといいますか、場が、今、すごく動いているなと理解しています。
 それを人・社系の方がリードしてやってみたらどうかなという御提案なのか、確かにそういうことって考えてみれば、両方融合なので、理工系なり人・社系なり医療系なりって一緒の場というふうに言っていますけれども、どうしても理系の方のリードになってしまっている。だから、そうじゃなくて、人・社の方からそれをリードしてみるというのが一つ面白いのかなと思いました。それは、今、このプロジェクトでは、新しい手法を、共創に向けた環境とか仕組みとか新しいものを作るということでしたので、なるほど、それは今思ったみたいなやり方は今までなかったろうなと思って、面白いかもと思いました。その場合、ただ、全く新しいのではなくて、未来社会創造事業のようにある程度運営に進んでいる方たちがいらっしゃるので、そういった方たちの意見を聞くとか、その方たちの手法をまねてでも、全く人・社系ではやったことがないという意味では面白いのかなとちょっと思いました。この辺りは、それこそ須藤委員なんかも、私の考えはどうでしょうかという辺りでちょっと投げ掛けたいと思います。

【城山主査】  では、御指名で恐縮ですが、須藤先生、いかがでしょうか。

【須藤委員】  私も山本さんと同じようなことを言おうと思っていました。正に意見は同じだと思います。私は今、内閣府で科学技術関係のいろんなことをやっていますが、基本的には産業界で自然科学の立場から科学技術についていろんな議論をしています。先ほどの議論、なかなかついていけなく、何をしようとしているのか分からなかったのですが、今、山本さんの話を聞いていてほぼ理解できました。例えばSociety 5.0、資料2の最初のところに書いてありますよね。「Society 5.0の実現で共創による未来社会のよりよい実現に向けて、人文学・社会科学の期待が高まっている」ということなんですけれども、ここが自然科学の方から見ると人文学・社会科学の方に期待するところだと思います。我々が自然科学の立場でいろいろ考えたSociety  5.0というのが、概念はできたけど、実現に向けて今行き詰まっているというのもありますので、例えば人文学・社会科学側の人が新しくSociety 5.0を考えたらどんなSociety 5.0になるのかなというふうに、この場の議論を聞きながらイメージしていました。我々自然科学側からすると、是非この場で、そこを解決するような仕組みを作っていただきたいと思います。
 例えばSociety 5.0というのは日本の課題で、先ほど勝先生が言われたSDGsというのは世界的な課題で、似ているようで若干、日本に特化したものと世界を見たのとは少しずつ違うんですけれども、どちらにしても、そういったものを実現するために考えた今までのやり方を人文学・社会科学の人たちがもう一回考え直すと、どんなイメージになって、それを具体化するためにはどういう仕組みを作らなきゃいけないかって、そういうことを是非この場で考えていただければ良いと思います。いかがでしょうか。

【小林傳司委員】  これはちょっと。

【城山主査】  では小林先生。

【小林傳司委員】  Society 5.0というのは、今、これもバズワードになっているんですけれども、人文・社会科学がSociety 5.0の実現にどのように貢献できるかというのは、今、非常にいろんなところで議論されていると思います。それは一つの役割なんだろうと思いますが、恐らく全体を見渡したときに今起こっていることは、科学技術でできることと、それからやっていいことと、やらなくてはならないこと、この三つがうまくバランスがとれてないんじゃないかということを考えなくちゃいけないわけですね。これは科学技術の研究をやっている方が時々相談に来られるんですが、「実は研究では、ここまでのことがもう既にできるようになっているので、やってみたいんだけれども、これ、やってしまっていいんですかね」という問いを持って相談に来られるような、そういう場面が結構あります。ですから、技術的にはどんどんできることは増えていっていますし、それが我々の社会を変えてきているというのは事実ですが、それが本当にやっていいこと、やるに値することなのかとか、本当にやらなくてはいけないことなのかということと、きっちりと組み合っているかというところを考えるのは人・社系の仕事の一つなんですね。だから、ものすごく平たい言い方をすれば、今、Society 5.0というビジョンがあると。これが本当に追求に値するビジョンかどうかということを考えるような議論をする場所は、やはり日本の知的空間の中にどこかに残さなくてはいけない。場合によっては、みんながSociety 5.0で走ってしまうことのリスクというのがありますから、Bプランを考えていくような集団をどこかに残すとか、それが社会のためになるような、そういうところの部分にも、「にも」ですよ、にも人文・社会科学は貢献できるはずであり、私はそこも貢献すべきだと思います。ですから、両方やらなくてはいけないのではないかと。今、須藤委員がおっしゃったような意味での自然科学との協働の問題と、それからもう一つの問題と、両方やるべきではないかと私は思います。

【須藤委員】  ちょっといいですか。

【城山主査】  はい。

【須藤委員】  Society 5.0って出来上がったものじゃなくて……。

【小林傳司委員】  ビジョンです。

【須藤委員】  ビジョンも、飽くまでもあのとき作ったビジョンなので、時間とともに変えなきゃいけないと思います。だから、それを変えるのが今までの自然科学の人だけで変えていちゃ駄目なので、是非、人文学・社会科学の方も加わって変えなきゃ駄目だと思うんです、Society 5.0って。それをこういう場で議論できたら良いと思います。

【城山主査】  どうもありがとうございました。
 いかがでしょうか。では、窪田先生。

【窪田委員】  ありがとうございます。二つのことを言いたいと思います。
 一つは、今、最後にちょっと議論になった、望ましい社会を見据えて、科学技術とかそういうものに関してバックキャスティングからシナリオを考えるといった話は既に行われてきたわけですけれども、それが人文・社会科学、あるいは人文学の立場からできないのか。あるべき未来の姿というのを、単に科学技術のありようではなくて、非常に簡単に言えば日本社会がどういうふうになるかということから、バックキャストできないのか。そういうことがこの取り組みでできるのかというのが、私にとっては大きな興味の一つとして今日の議論を聞いていました。
 ただし、今日の説明の中で幾つか、先ほど小林先生が言われたことと割と似ているのですけれども、ある種の違和感を持って聞いていました。過去の人・社の振興に対するプログラムとの対比について、まだ十分に理解できていないところもあるのですが、やはり「共創型」という言葉の持つ意味があやふやなんですね。私は総合地球環境学研究所というところで、もともとは理系の出身ですけれども、環境問題の解決のために文理融合をやるという、それは文理融合が目的ではなくて、飽くまで課題を解決するための手段としての文理融合に取り組んできた立場からすると、この共創型というのが目的なのか、つまり人文学・社会科学と自然科学が融合することが目的なのかでしょうか。そういうプラットフォームを作るというのは大事なのかもしれませんけれども、それはいろんなところでもう既にやられているんじゃないかと思います。共創という言葉の意味合いがちょっと狭いと感じました。一方で、この全体イメージのポンチ絵を見ると、社会の方まで構造の中に入っているように見えるんですけれども、それはどの程度入っているのか。社会のステークホルダーを巻き込むところが、それは例えばテーマ代表とかそういう人たちの責任なのか、それともスキームを作る側(がわ)が考えなきゃいけないことなのか、その辺の自由度というか、ポイントがどこにあるのか、まだよく見えていない。それはこれからしっかり議論するべきことなのかもしれませんけれども、まだよく見えてこないなという感じがします。特に社会との連携をとるのか、積極的にとるのか、とらないのかという辺りが、大きく取り組みの性格を変えます。そこをどこまで踏み込むのかという点が私の議論させていただきたいところです。
 ありがとうございました。

【城山主査】  これは事務局に聞くというよりは、多分ここで議論しなきゃいけない話で、多分、今回、次回ぐらいでその辺りの距離感ですね、課題解決への寄与と分野としての人文・社会学振興というのと、二兎(にと)を追えるかという、どういう組合せを考えるかという、その辺りの距離感が一番一つの大きなポイントかなと思います。ということで、取りあえずは問題提起ということでよろしいでしょうか。
 では、頼住先生。

【頼住科学官】  今のことに関連してなんですけれども、私自身、きょうお話を伺っていまして、現代的課題に関する研究課題ということで、やはり現代とか社会的な課題ということが今回のこの文理融合といいますか、学際的な共創ということで非常に重要なのかなと思っております。特に今回は根源的な問いとか本質的な問いというふうに立ててくださっているんですけれども、これが学者仲間だけで終わらないで、人間の普遍的な問いにまでおりていって、それを踏まえた上で社会というものを非常に意識しながらやっていくという、そういう作りになっていると非常に強く感じております。仕組みについてはこれから考えていくということだと思うんですけれども、先ほど岸村先生もおっしゃってくださっていましたように、割とベーシックなところから対話とか社会的なニーズとかを意識しながら決めていくという方向性が出せればいいのかなと思っております。

【城山主査】  どうもありがとうございました。
 では、新福先生。

【新福委員】  済みません、話題がどんどん進むので、どこで入ったらいいかと思っていたのですが、話題が戻ってしまうかもしれませんが、若手として今回呼んでいただいていると思いますので、若手から、こういったプロジェクトに若手の人文・社会の研究者が参加するかどうかというところの視点も含めてお話ししたいと思っております。私は若手アカデミーの中で人文学も含めた様々な研究者の方と協働しておりまして、学科を超えないと会えない方々とともに、一緒の目的に向かって活動することの貴重さというものは日々感じております。
 その中で一つ派生的に生まれたプロジェクトを、今、京大の方で展開しています。もともと私はアフリカのグローバルヘルスの研究をしているのですが、そこでやはり医学の研究者だと、「人を救う」という価値観の下に医学的な介入や教育をどんどん進めていってしまうところがあるのですが、今、人類学の先生方と共同研究をしていて、人類学の先生方が本質的に大事な文化ですとか向こうの方を理解するということにアドバイスを下さって私の研究を進めるという形をとることで、時間は掛かるのですが、そのプロセスによって、より本当に意味のある現地の方への支援や教育、医療というものを考えることができるというふうなことを経験し始めています。
 ですので、人文・社会の先生方と一緒に行う、また、そういった先生方がリードしてくださる研究の価値というのは非常に感じるところですが、人文学系の研究は自身で資料や人に向き合いって深い考察をするような特色から、非常に時間が掛かること、やはりそれぞれ自分の研究プロジェクトは大事ですので、自分の研究に時間を割きたい、時間がとても貴重であるということも同時に感じます。こういったいろんな方を巻き込んで行う大きなプロジェクトでは、調整に時間が掛かる、ペーパーワークに時間が掛かるなど、そもそも若手の研究者はいろいろ教育負担もある中で、どれだけ手を挙げる人がいるのかというところは懸念するところでございます。
 その中で、私のような実学の研究者は、そういった人類学や人文学の研究者と共同研究をさせていただくに当たり、その先生方に「これをやってください」とお願いするのは申し訳ないというような気持ちがあります。自身のような実学者がこの真ん中でつなぐような役割をしてこのプロジェクトを動かしていくというやり方はどうなのかなと思っておりまして、この目的表現だけを見ると、人文・社会の研究者の方しか応募できないのか、PIになれないのかというふうに見えるのですが、もしそのつなぐ役割の人がリードしてもいい立て付けであれば、私のような考えを持つ研究者が申し込んで人文社会の研究者をうまく巻き込んで進めるというようなやり方ができると良いように思います。自然科学と人文・社会ですと、考え方や文化が大きく異なることでなかなか進んでいかないところもあると思います。実学は理系文系の真ん中辺に位置するものが多く、その人たちがつないで進めていくという方法だと、うまく進んでいくのではないでしょうか。この目的表現を読むとどうしても人文社会と自然科学のみが目立っていますので、是非、医療や環境といった、そのほかの分野も入って良いというふうなことが読み取れる記述にしていただくと大変有り難いと思います。

【城山主査】  ありがとうございました。一つは、その調整の担い手みたいなのが誰になるかということが重要ですね。正にその間をつなぐ実学の人という話。また、先ほどの話ですと、ある種の運営支援機能みたいなもうちょっと事務的な話もあり、そこは体制の話にも絡んでくるのかなと思います。また、ここでは、必ずしもいわゆる理系の人で実学系の人がPIになることを否定はしてないですよね、恐らく。その点はむしろ逆に明確になるようにした方がいいかなと思います。むしろ過去のプロジェクトでも理系の人は水とか土木とかの人が中心になっているのもありましたので、むしろそういう人を巻き込むことが戦略的にも大事なのかなと思います。
 何かみんなに当てるのはあれなんですが、苅部先生、いかがでしょうか。

【苅部科学官】  ちょっと考えたのが、ワーキンググループの審議まとめの中で、人文・社会科学というのは意義や価値の探究をする学問だって書いてあることと、これのプロジェクトの制度設計をどういうふうにかみ合わせるのかってことを少し考えたんですね。それで、具体的に私なりにイメージしたのは、この資料3-3の5ページ、6ページにある前にやった人文・社会科学振興プロジェクトの成果のものなんですが、私、実はこの中の教養教育についてのに加わったんですけど、自分のやったことに関しての言及は避けて、他人のやつに関して言うと、ちょうどこれは本が紹介されている『紛争現場からの平和構築』というものですけれども、例えばこういうふうな形で成果が出ることによって、例えば現代の社会において主権国家同士の壁が前提になっている、それを越えるような知恵が共同研究から出てきて、見え方も変わってくる。例えば政治と経済の壁もやっぱり越えて、また新しい知恵が出てくる。研究者もそういう発想が変わってくるし、こういう形で例えば一般の人も読めるような本を出すことを通じて、読者にもやっぱり新しい物の考え方なり視点なりが共有されてくる。そういうことなんだと思うんですね。ですから、そう考えていくと、これは先ほど皆さん議論になりましたけれども、最初、募集するときに、やっぱり科研費型のボトムアップでは駄目で、ある程度こちらの委員会の方でテーマ設定のような形で区分けをしながらプロジェクトを組んでいくという形にするのが望ましいんだと思うんですね。
 それからもう一つ、さっき出た成果をどう評価するかということで、これもなかなかいろんな考え方があると思うし、これだけというふうには言えませんが、例えばこういう人・社プロジェクトのときの一般読者にもリーダブルなものを1冊作るというのをもうちょっと更に進めて、例えば平和構築なら平和構築のスタンダードテキストを作る。そういうぐらい、つまり、この新しい問題に関してはこれをとにかくまず現時点で見ましょうみたいなことをやってみるということは大事だと思うんですね。実際、確かに、これは多分10年ぐらい前に出た本ですけど、ここから後、この手の平和構築の本、たくさん出ているんですよね。これはつまり、たまたまそういう社会情勢だったということもあるけれども、例えばこういう本が呼び水になっているのは確実にあるので、そういう成果の在り方ってやっぱり重視した方がいいんじゃないかということが1つ。
 それからもう一つは、できれば英語で発信してほしい。これ、嫌らしいことを言うと、さっき小林良彰先生がおっしゃったようなトップジャーナルに何本載った、そういう話になっちゃいますけど、そうじゃなくて、例えばこれが英語の本の形で出ていくことを通じて、さっき言ったようにSociety 5.0というのは日本社会だけが抱えている問題じゃないはずなんですよね。その問題を考えながら、あ、こういう解決策もあるんだって学問的に出てくる知恵が、実はほかの国にとってもいいアドバイスになるということがある。そのためにはやはり英語で何らかの形で出すということが必要だし、そのための手助けをやるのが重要じゃないかと思いますね。そんな感じです。

【城山主査】  何か価値に関わるような話というもののアウトプットをどういうふうに考えるかということの御意見かなと思いました。
 一通りしゃべっていただいていますが、何か追加的にもう少しお話しいただきたいことはございますでしょうか。

【盛山委員】  追加的に。

【城山主査】  はい。

【盛山委員】  ちょっと漠然と私個人のイメージみたいなものをお話ししたいと思います。もちろん先生方の意見がありますから、いろいろ議論していただければいいのですけど、一つは、私、このプロジェクトはいろんな形で、限定された研究者仲間だけじゃなくて、研究者の幅も広くて、いろんな階層の研究者、それからいろんな分野、それがひいては社会の普通の人との接点を持てるように、つまり、このプロジェクトが、人文学・社会科学の分野で今までにないようなプロジェクトとして進んでいって、それはいろんな専門の人が何らかの形で参加できるんだと。それで、それぞれの専門知を寄せ合いながら一緒に研究していくということが促進されていくような場が何か新しく用意されたんだなというイメージがどこかでできてくると。そういうふうになれば、このプロジェクトというのは非常に大きな意味があるかなというふうな印象を持っています。
 それから2番目に、その過程で、いろんな人が当然いろんな専門的な研究をしなければいけないのですが、と同時に、専門的研究というのは多くの場合、人文学・社会科学では最終的に個人技になるということが多いのですね。ただ、これは私の経験からいうと、やはり一緒に専門的に議論し合う場を広く用意することによって、お互いに知識を投げ掛け合いながら、新しい論理を組み立てていったり、新しいデータを得たりするというプロセスが非常に重要。これが、先ほど小長谷先生がおっしゃったように大きな研究プロジェクトが余りないという問題と関連しているのですが、専門知に閉じこもるということはそういう機会が非常に弱くなるのですね。このプロジェクトは、あえて異なる分野の人たちが専門知を持ちながらも、単に本を編集して、それぞれディスカッションしないで専門知を並べるだけじゃなくて、お互いに専門的に議論する場を設けて、共通の課題、共通に抱えているものにアタックできるような、そういう仕組みをこのプロジェクトの中でうまく作ってあげると。そこから本当にオリジナルで革新的で大きなテーマを突破するような、これは最終的には多分個人技にならざるを得ないかもしれないけど、そういう個人技を発揮するような人たちが出てくるといいなと思っております。

【城山主査】  どうもありがとうございました。
 あとまだ10分弱ぐらいはあるんですけれども、多分、きょうは結論を出す必要はないと思いますが、一つは、最初に小林先生がおっしゃった話で、目的をそれなりに明確にする必要はあるのかなと。アカデミックなレリバンスと社会的なレリバンスというのはありますが、このプログラムの独自性はやはり社会的レリバンスのところの側面はかなり強いので、そういうある意味ではステークホルダーも入れつつ、そこに分野横断的な人を入れるようなネットワークをきちっと作って活性化するみたいなところが多分一つの大きな柱になるのかなと。そのときに、じゃあそれをどうやって正に評価してもらうのかなとか、どの段階からいろんなステークホルダーなり市民なりを入れていくのかというのは、多分評価だけじゃなくて、もちろん上流からいろいろやっていくということかなと。何かその辺りは比較的皆さんそういう方向性なのかなと思いますが、その辺、違和感がないかどうかを少し、これ、次回だけ参加される方もあるので、また次回も確認しなきゃいけないと思いますが、ちょっとお伺いしたいなと。
 それから、余りこういう言い方はよくないのかもしれませんが、そんなに大きな予算の額があるわけでもないですよね、恐らくね。だとすると、確かに、何か余りいろんなことをやろうとし過ぎるのは結構大変かもしれないので、そういう意味でも、ある程度、これはこういう新しいことをやるんですと。それが間接的に確かに科研のプロジェクト提案が増える刺激になるかもしれないけど、直接そういうのを振興するのとはちょっと違うんだという方がいいのかなという気もするんですが、その辺も含め、何かございましたら。

【原振興企画課長】  主査におまとめいただいたとおりだと思います。予算についてはこれから要求するので、これは次回以降議論していただく「事業の目的」にも関係すると思いますけど、科研費でやればいいことは科研費やりで、新しい共創型プロジェクトとして仕組みを作っていくということは科研費ではできない人文・社会科学振興上の課題があって、それを解決するためにやるんだと。それがひいては、目先の話だけではなくていいと思いますけど、社会に何らかの還元があるので、わざわざ新しいプロジェクトを立てる必要があるということを目的の中に是非織り込んでいきたいと。予算が今確保されているわけではなくて、これから切り開いていかなきゃならないので、我々省内だけではなくて、省の外に出て予算を確保していくためにも、その辺のバックボーン的なものを是非委員の先生方からも御意見を頂きながらまとめていきたいと思っております。我々もこれから厳しい闘いに臨んでいきますので、その裏付けとなるような理論的なバックボーンを是非御議論いただければ大変有り難いと思います。

【城山主査】  済みません、余計なことを言ったようで。ある意味では、きちっとした立論ができればいろんな予算の額はあり得ると。少ないことも、多いこともあり得るということかなと思いますし、それから、もう一言だけ申し上げると、先ほど新福先生が言われたような、ある種、今までであればやっぱり理系の実学系の人たちがいろんなつなぎの役をやっていて、多分、医学系の公衆衛生だとか、工学系だと建築だとか土木だとか、今だと情報系に結構そういう仕事があるんだと思いますけど、それは分野のつなぎもあるし、ステークホルダーとのつなぎもあるんだと思いますが、きちっと人・社の方でも一定程度そういう人が多少育つということが人・社の生存能力を高める上では大事なので、その辺りが具体的には結構大事かもしれないですね。そうすると、若干、人材養成的な側面というのも入ってくるので、そういう側面はどのぐらい配慮するのかとか、若干、それこそポスドク的な人は雇えるぐらいの規模のプロジェクトにするのかだとか、多分その辺ともつながってくるのかなと思います。
 じゃあ、どうぞ。まず、山本先生。

【山本委員】  私、大学のマネジメントの方も取材しているんですけれども、ここ数年、文系不要論みたいなところで厳しい状況もあると。それで、自然科学系と違って研究費もとれないし、交付金が下がると厳しいという状況がありました。それに対して、今やっぱりすごく絶好のチャンスだと思います。それは、自然科学系の方がやはりSociety 5.0とか社会のプロジェクトをして学術だけじゃなくて産業界とか地域とか地域振興だとかとどういうふうに一緒にやっていこうってすごくなっている中で、でも、これ、人文系・社会科学系が足りないじゃないかということをすごく感じているときなので、今こそチャンスだと感じます。
 そのときに、こちらのプロジェクトが巨大なプロジェクトではないということ、今お話がありましたけれども、少なくとも、あ、人文系・社会科学系の方から、そちらの方から社会にコミットするすごい新しい動きが始まっているんだというのを感じさせるようなものになったらば、面白いんじゃないかなと。そうでないと、自然科学系の方が知っている親しい先生にちょっと声掛けて、自分たちの方に引っ張り込む、自分たちのリードを維持したままでやっちゃうみたいな話になるかもしれない。それはそれで進んでほしいとは思いますけれども、一方で、せっかく今の社会的なチャンスがあるのですから、学術の研究者の方たちも正に社会に大きく踏み出す、自分たちの専門分野じゃないところに踏み出すチャンスとして、このプロジェクトを使えたらいいかなと思いました。

【小林良彰委員】  よろしいですか。

【城山主査】  はい、では小林先生。

【小林良彰委員】  私としては一つ大きな希望があるのですが、主査から金額を聞いた後で言いにくいのですけれども、要するに、私、社会科学ですけれど、アメリカ型の評価でずっと来ているわけです。そこからは、アメリカの社会科学者も含めてですけど、大きな理論知というのは生まれてないのです。要するに、インパクトファクターはどうで、何がどうでという、本当にショートレンジのものしかやってないわけです。だから、私、社会科学で、どういうものが大きな理論知かって言われたら、一つはアマルティア・センだし、もう一つはジョン・ロールズだし、やはりヨーロッパなのです。ロールズは最初にアメリカで大学の教員をやっていたときはカントの研究をしていただけで、それがイギリスに行ってやはりかなりステップアップして変わって戻ってきたので、だからそういう意味では、このプロジェクト、額を聞くとちょっと言いにくいんですけど、やはり最終的に出てきてほしいものは、日本の人文・社会科学からの大きな理論知なのです。パラダイムシフトするような。その大きな理論知というのは、従来の学術評価だけではなくて、社会的課題にも答えられるようなものだから大きな理論知になるのです。だから、二つ分ける評価が最終的には一つになるのですけれども、そこにどうやって誘導するのかという筋道をきちんと議論した方がいいと思うのです。我々も常にインパクトファクトを求められます。それは科研をとればJSPSから求められるだけではなくて、所属している研究機関でも求められるわけです、毎年。おまえは今年どうだったの、来年どうだったの、ずっと聞かれるわけです。そこに応えていかなくてはいけないことを、ある程度その評価が落ちてでもこっちに行くということをどうやって誘導していくかということを作ることが、この委員会の目的だと思うのです。是非そういう理論武装で課長には予算をとってきていただきたいと思います。

【城山主査】  そういう意味でいうと、余り二兎(にと)を追うことに最初は警告をさせていただいたわけですが、他方、そうは言っても、インパクトファクターとか論文数ではないけれども、社会的なレリバンスを得ることがある意味では理論知というか、パラダイムシフトになるような、何かそういうところでのつなぎというのはやはり残す形での設計と、ある意味ではそういうものの要求をきちっとしていくべきだと、そういうお話かなと思いました。
 では、小長谷先生。

【小長谷委員】  私、次回お休みさせていただくので、今から次回分の発言をしますね。例えば「100年後の日本のデザイン」です。そういうテーマを掲げておくと、直近の未来ではないので、スペシフィックな応用ではなく、本質的な根源的な問題にもつながりますね。基礎から応用まで入れようと思うと、その応用というのはあした、あさっての応用ではない。ショートレンジでないところが必要で、バックキャストにもなるし、SDGsとSociety 5.0両方兼ね合わせたところにも行けます。それぐらい大きな課題をぽんと立てて考えていただいたら、2億円以内でもできるんじゃないかなと思いました。よろしくお願いします。

【城山主査】  では、どうぞ。

【勝委員】  今の議論、非常に重要だと思うんですけれども、やはりその際には是非海外への発信ということは必要なのかなと。この前のG20を見ていても、やはりいろいろな国がいろいろなバリューで話をしていて、やはり日本のバリューというか、価値観というもの、これは人・社が先導して自然科学も含めた、そういった新たな知を世界に発信していくという意味では、このプロジェクトは非常に有意義なものになるのではないかなと思います。もちろんインパクトファクターといったようなところも重要なのかもしれないんですが、やはりその発信ということ、国内だけでシェアするというのではなくて、国際的に発信していくということも是非考えていただければと思います。

【城山主査】  どうもありがとうございました。
 最後、小長谷先生と勝先生も言っていただきましたが、多分、大きい課題設定をどうするかというのは、これ、次回、少し具体的に議論していく話なのかなと。今、例に挙がっている、ちょっと先ほど申し上げましたけど、生命科学の課題とかデジタライゼーションとグローバライゼーションと、それはそれで課題なんだけれども、多分、それが全部つながったような形で100年後の社会なのか、50年後の社会なのかということを考えなきいけないので、何かそういう統合的なことを少し考えることを強いるみたいな仕掛けというのは何となく必要なのかなと思います。
 これは、先ほどもちょっと最初申し上げましたけど、御紹介いただいたIPSPの成果は、3巻ぐらいのアウトプットは実は電話帳みたいな本が出ているんですけれども、それは余り人に読まれるものではなくて、最後に出した本は『ニュー・ソーシャル・コントラクト』という題名の、将来の社会の在り方みたいな話に関する比較的ペーパーバックの軽いものを作っていて、それが多分一つのイメージとしてありうるわけですね。だから、日本においてどういう最終イメージなのか、何かそういう将来の社会像が出てくるというのも多分一つイメージとしてあるのかなという感じはしております。
 大体時間になりましたので、そろそろ終わりだと思いますが、どうしても何か一言おっしゃりたいということがあればと思いますが、よろしいでしょうか。
 それでは、事務局の方から連絡事項等お願いいたします。

【藤川学術企画室長補佐】  ありがとうございました。
 次回の本特別委員会につきましては7月30日の10時から12時、場所は文科省の中の会議室という形になります。また後日、詳細は御連絡させていただきます。
 本日の議論をまとめさせていただきまして、次回はまた深く議論していただきたいと思います。あと、本日、言い足りないことなどがございましたら、事務局の方にメールでも構いませんので頂ければ、それも次回の会議までにまとめさせていただいて、議論の参考にさせていただきたいと思います。
 あと、本日の資料につきましては、机上に残していただければ郵送させていただきます。
 あと、議事録につきましては、後日、メールにて送付いたしますので、御確認の方をよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【城山主査】  それでは、きょうは以上で終了させていただきます。どうもありがとうございました。

                                                                  ―― 了 ――

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