第9期学術情報委員会(第10回) 議事録

1.日時

平成30年6月27日(水曜日)13時00分~15時00分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.議題

  1. 電子化の進展を踏まえた学術情報流通基盤の整備と大学図書館機能の強化等について
  2. その他

4.出席者

委員

喜連川主査、引原主査代理、永原委員、赤木委員、家委員、逸村委員、井上委員、岡部委員、北森委員、竹内委員、谷藤委員、辻委員、美馬委員

文部科学省

(事務局)磯谷研究振興局長、千原大臣官房審議官(研究振興局担当)
原参事官(情報担当)、丸山学術基盤整備室長、高橋学術基盤整備室参事官補佐

オブザーバー

安達国立情報学研究所副所長、林科学技術・学術政策研究所上席研究官

5.議事録

【喜連川主査】  それでは、定刻になりましたので、ただいまより第10回の学術情報委員会を開催いたしたいと思います。前回は、オープンサイエンス推進におけます課題につきまして、科学技術・学術政策研究所の林上席研究官から、「オープンサイエンスに関する政策討議と実態調査」というお題で御発表いただきまして、これをベースに非常に活発に議論させていただいた次第です。今回は、先週以降、国家の政策に関する文書が種々公表されたので、当委員会の所掌に関連した部分を中心に紹介をさせていただきたいと思います。
 それらに関連して、内閣府で策定が進められております「国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のガイドライン」は、引原先生を中心に進んでおりますが、その検討状況についても御説明したいと思います。
 この一連の御紹介の後に、潮見坂綜合法律事務所の末吉弁護士から、「限定提供データの保護」と題しまして、今国会で改正が決定しました不正競争防止法の一部改正について御説明いただき、データ流通や利活用に関します法令の状況などについても紹介をいただきたいと思っております。
 末吉先生、後ほどどうぞよろしくお願いいたします。
 なお、今回もオブザーバーとして、NII(国立情報学研究所)の安達副所長並びにNISTEP(科学技術・学術政策研究所)の林上席研究官に御出席をいただいております。
 それでは、まず事務局より資料の確認をお願いいたします。
【高橋参事官補佐】  失礼します。最初にお断りで恐縮でございますが、3月に開催されました本委員会において、当初、本日の議事の案といたしまして、これまでの審議状況を一旦整理してはどうかという方向性が示されておりましたが、ただいま冒頭、主査から紹介がありましたとおり、国の政策の方向性が各種文書により公表されており、データ利活用やオープンサイエンスに係る記述等、本委員会に関連した記述が多数見られますことから、これらを紹介しまして、必要に応じて整合性を取るなどした上で、次回以降、改めて議論いただきたいと考えた次第でございます。
 このため、本日は、お手元の議事次第に記載のありますとおり、配付資料といたしまして、1から9まで、それからまた、メーンテーブルのみ机上資料といたしまして、1から4までの大部な資料を紙媒体にて御用意しております。不備がありましたら事務局へお申し出ください。
 それから、本日の傍聴は、25名の方の登録がございます。傍聴の方々の資料に関しましては、御案内のとおり、ペーパーレスとさせていただいておりますので、お持ちの端末にダウンロードをお願いいたします。ダウンロードの方法については、お手元のクイックガイド等を御確認いただければと思います。
 以上でございます。
【喜連川主査】  どうもありがとうございます。きょうはかなり大部の資料、未来投資戦略、統合イノベーション戦略等々の資料がお手元にあると存じます。
 まず用意いただきました政府の資料について順に説明を、丸山室長、よろしくお願いいたします。
【丸山学術基盤整備室長】 まず資料1から順を追って御説明させていただきたいと思います。お手元に御用意いただければと思います。
 まず資料1は、前回の主な意見でございます。振り返りになりますけれども、今、御紹介がありましたとおり、前回はNISTEP(科学技術・学術政策研究所)の林上席研究官から、オープンサイエンスに関する実態調査の関連で御発表いただきました。
 主に、データ公開に関する研究者の対応や考え方等について説明をいただきましたが、1ページ目の中ほどの下の2つ目にありますとおり、データ公開基盤の脆弱性あるいはその下にありますデータ公開に対する懸念、また、その下にありますとおり、データ公開用リポジトリの認知度の低さ、更には、おめくりいただいて2ページ目でございますけれども、上から2つ目の丸にありますように、公開データを入手するための障壁などについての説明があり、その後、その下の2ポツ、意見交換が行われたところであります。
 本日は御説明する資料が多数ございますので、詳細な御紹介は省略させていただきますけれども、御参考にしていただければと思います。
 それから、続きまして、資料2でございます。「経済財政運営と改革の基本方針2018」と、これはいわゆる骨太方針でございますけれども、経済財政諮問会議での答申を経て、去る6月15日に閣議決定がされたものであります。
 全体の資料は、机上資料の1としてございますが、その中から、関連部分のみを抜粋したものを資料2としていますので、こちらで説明をさせていただきます。
 右端にページ番号を振ってございますので、それも参照いただきながらになりますけれども、まず1枚おめくりいただきますと、目次がございます。「現下の日本経済」ということで、現状と課題、あるいは対応の方向性を記述した上で、第2章として、「力強い経済成長の実現に向けた重点的な取組」というものが整理されています。
 それから、少しおめくりいただきまして、4ページになります。本資料では添付を省略いたしましたけれども、第3章として、「経済・財政一体改革」の推進、さらには、5ページ目には、第4章として、「当面の経済財政運営と2019年度予算編成に向けた考え方」といった構成になっております。
 学術情報委員会との関係で関連する記述を御紹介しますと、1ページめくっていただきますと、右下のページ、6のところでございますけれども、「第2章 力強い経済成長の実現に向けた重点的な取組」という部分がございます。
 いろいろ書いてありますけれども、1枚おめくりいただいて、7ページ、冒頭に2ポツとして、「生産性革命の実現と拡大」という項目が立っております。
 めくっていただくばかりで恐縮ですが、もう1ページおめくりいただくと、右下の8ページというペーパーです。(4)として、経済構造改革への基盤づくりということで、2行目、政府は、データ利活用基盤や人材・イノベーション基盤など、データ駆動型社会の共通インフラを整備するとともに、大胆な規制・制度改革や「Society5.0」に適合した新たなルールの構築を進めるということが記述されております。
 それから、1枚おめくりいただきますと、右下のページ、9ページでございますけれども、中ほど上段の(5)イノベーション・エコシステムの早期確立という部分がございます。これは3行目でございますけれども、下線が引いております、イノベーションが自律的かつ持続的に生まれ続けていく「イノベーション・エコシステム」を早期に確立する。大学が知識集約産業の中核として、このエコシステムを支える役割を果たすべく改革を進め、大学等が生み出す多様なシーズをビジネスに結び付けるとともに、我が国イノベーションの国際展開を図るという記述がございます。
 それから、1枚おめくりいただいて、右下のページ番号、10ページでございますが、下の方に5ポツとして、重要課題への取組というところがございます。これの具体的記述としては、もう1ページおめくりいただきますと、右下のページ番号、11ページでございますけれども、(2)投資とイノベーションの促進という項目のマル1、科学技術・イノベーションの推進という部分で、「Society5.0」の実現、イノベーション・エコシステムの構築に向けて、「第5期科学技術基本計画」及び「総合イノベーション戦略」に基づき、官民を挙げて研究開発を推進する。若手研究者への重点支援やオープンイノベーションの仕組みの推進等により、我が国の基礎科学力・基盤技術から社会への実装までを強化するとともに、地方創生につなげるということの記述がございます。
 骨太方針における記述内容の御紹介は以上でございますが、かなり大きなくくりではございますけれども、オープンイノベーション等に向けたイノベーション・エコシステムの構築に向けて、様々な観点から記載がありますことを御紹介させていただきました。
 それから、資料3-1で、これは未来投資戦略2018の説明に移りたいと思います。まず資料3-1が概要のペーパーですけれども、この未来投資戦略2018は、「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革というサブタイトルが付けられておりますけれども、まず全体構成と概要でございますが、最初に基本的な考え方として、「デジタル革命」が世界の潮流であると。その中で、データ・人材の争奪戦、「データ覇権主義」の懸念がある一方で、日本の強みである豊富な「資源」として、技術力・研究力、人材、リアルデータ等がございます。他方で、課題も存在すると。人口減少あるいは少子高齢化云々等でございますが、こういう状況を踏まえて、一番右端の青いところでございますけれども、「Society5.0」で実現できる新たな国民生活や経済社会の姿を具体的に提示すると。これとともに、従来型の制度・慣行や社会構造の改革を一気に進める仕組みの重要性を明示しております。
 その上で、第4次産業革命技術がもたらす変化、新たな展開として、Society5.0の重要性が述べられているところでございます。
 構成としては、その後、今後も成長戦略推進の枠組み、それから、もう1ページおめくりいただきますと、重点分野とフラッグシッププロジェクトということで整理がされている。
 最後に3ページ目でございますけれども、経済構造革新への基盤づくりの(1)として、データ駆動型社会の共通インフラの整備。この中に、一番右端ですけれども、イノベーションを生み出す大学改革と産学官連携といった記述もございます。
 また、(2)で、大胆な規制・制度改革に係る方策が示されております。
 なお、この未来投資戦略の位置付けについて、日本経済再生本部の下に、従来、産業競争力会議というのがございましたけれども、これを発展させて成長戦略の司令塔として未来投資会議が設立、設置されまして、これにおいて取りまとめられ、骨太方針同様、6月15日に閣議決定がなされたものでございます。
 中身の具体的な部分については、資料3-2をごらんいただきたいと思います。未来投資戦略2018の抜粋でございますけれども、先ほどの骨太方針同様、必要部分を抜いています。関わりが薄い部分も多少ありますけれども、幅広に御紹介をさせていただきます。
 なお、該当部分が大部でありますので、大変申し訳ないんですが、先ほどの骨太方針のように下線を付す処理をしておりませんので、御了承いただきたいと思います。
 まずおめくりいただきますと目次がありますが、今、構造については御説明いたしましたので、ここは飛ばしていただいて、右下の資料のページの11ページでございます。第1として、「基本的視座と重点施策」というところがございます。1ポツの基本的考え方。これは一番下に(3)世界の動向と日本の立ち位置という項目がございます。1枚おめくりいただきますと、右下のページ番号、12ページでございますけれども、デジタル新時代の価値の源泉である「データ」や、データと新しいアイデアを駆使して新たな付加価値を創出する「データ覇権主義」を巡る国際的な争奪戦が繰り広げられているとした上で、一方で、一部の企業や国がデータの囲い込みや独占を図る「データ覇権主義」、寡占化により、経済社会システムの健全な発展が阻害される懸念も指摘されている。こうした中、日本は、企業の優れた「技術力」や大学等の「研究開発力」、高い教育水準の下でポテンシャルの高い「人材」層、ものづくりや医療等の「現場」から得られる豊富な「リアルデータ」、企業や家計が保有する潤沢な資金に恵まれながら、そうした資源を経済社会システムの革新や新ビジネスの創出に戦略的かつスピード感を持って活用できているとは言い難い。手をこまねいて後手に回ると、日本は新たな国際競争の大きな潮流の中で埋没しかねないという指摘をされております。
 その下、「他方」のところでございますけれども、2行目、現場からの豊富なリアルデータによって、課題を精緻に「見える化」し、データと革新的技術の活用によって課題の解決を図り、新たな価値創造をもたらす大きなチャンスを迎えているとされております。
 それから、2枚おめくりいただきますと、右下の14ページに、「第4次産業革命技術がもたらす変化/新たな展開」として、先ほども御紹介しましたSociety5.0という項目が記載されています。冒頭に、第4次産業革命の新たな技術革新は、人間の能力を飛躍的に拡張する技術であり、豊富なリアルデータを活用して、従来の大量生産・大量消費型のモノ・サービスの提供ではない、個別化された製品やサービスの提供により、様々な社会課題を解決でき、大きな付加価値を生むものとされております。
 1枚おめくりいただいて、15ページでございますけれども、(2)経済活動の「糧」が変わるという項目の3パラグラフ目でございますが、「さらに」の部分でございますけれども、21世紀のデータ駆動型社会では、経済活動の最も重要な「糧」は、良質、最新で豊富な「リアルデータ」。データ自体が極めて重要な価値を有することとなり、データ領域を制することが事業の優劣を決すると言っても過言ではない状況が生まれつつあると。
 その上で、一つパラグラフ飛ばしていただきまして、例えば最後のパラグラフでございますけれども、3行目に、ものづくり、医療、輸送など、現場にあるリアルデータの豊富さは、日本の最大の強みであり、サイバーセキュリティ対策に万全を期しながらそのデータ利活用基盤を世界に先駆けて整備することにより、新デジタル革命時代のフロントランナーとなることを目指すと書かれております。
 それから、1ページおめくりいただきますと、右下のページ、16ページでございますけれども、「地域」「コミュニティ」「中小企業」が変わるという項目がございます。これの2パラグラフ目でございますけれども、豊富なデータと、高速大容量の通信回線などの活用により、地域でも日本中・世界中の知識集約型の企業や大学・研究機関とコラボレーションが可能となり、町工場も世界とつながり、地域発のイノベーションと付加価値の高い雇用の場が拡大すると記されております。
 それから、2ページめくっていただきますと、右下のページ番号18でございますが、4として、経済構造革新への基盤づくりというところがございます。これの2パラ目、「このため」の以降ですが、データ利活用基盤や人材・イノベーション基盤など、データ駆動型社会の共通インフラを整備するとともに、大胆な規制・制度改革や「Society5.0」に適合した新たなルールの構築を進めるとした上で、(1)データ駆動型社会の共通インフラの整備。このマル1、基盤システム・技術への投資促進というところでございますが、これの2つ目のポツ、「また」以降でございますけれども、セキュアで高速の学術情報ネットワークを企業にも開放し、「Society5.0」に係る産学共同研究を加速度的に進めていくと記されております。
 現在でもSINETにおきましては、民間企業と大学等との共同研究の枠組みで、企業の参画は可能となっております。こういった部分をどこまで広げられるかということについては、現在、NII(国立情報学研究所)とも議論をしているところでございます。
 それから、その下でございますが、ポツでございますけれども、様々なデータの流通が国内外で本格化する中、最後ですね。サイバーセキュリティ対策を推進するということが記されてございます。
 それから、1枚めくっていただきますと、右下のページ番号が19ページでございます。マル3として、イノベーションを生み出す大学改革と産学官連携という記述がございます。第4次産業革命が進展する中、知と人材の集積拠点である大学・国立研究開発法人のイノベーション創造への役割が重さを増しつつある中、イノベーションの果実が次の研究開発に投資されるイノベーション・エコシステムを産学官が協力して構築するとございます。
 それから、2ページめくっていただきまして、右下のページ番号21とございますけれども、ローマ数字の2で、「経済構造革新への基盤づくり」ということで、1つ目に、データ駆動型社会の共通インフラの整備。基盤システム・技術への投資促進という項目ございます。この(2)の部分で、政策課題と施策の目標が記されておりますけれども、目に見えるモノを中心としたリアル経済圏から、データやアイデアといった目には見えないものが行き交うサイバー経済圏へと、社会経済の在り方が大きく変わりつつあると。
 2パラグラフ目のところですけれども、「このため」以降ですが、新たな資源となったデータの高度活用・流通を促進し、民間企業の大胆なデジタル・トランスフォーメーションのための環境整備を図っていくと。
 また、これらを支えるデジタル・インフラとして、深刻化するサイバーセキュリティの強化などのインフラ整備を加速するとございます。
 それから、1ページおめくりいただきますと、右側のページ番号で、22ページでございますが、3ポツとして、「イノベーションを生み出す大学改革と産学官連携・ベンチャー支援」という項目がございます。自律的なイノベーション・エコシステムの構築として、(2)政策課題と政策の目標でございますが、第4次産業革命の進展により資本集約型経済から知識集約型経済に経済構造が変化する中、知と人材の集積拠点である大学・国立研究開発法人のイノベーション創造への役割は重さを増しつつあると。これまでの改革により、大学等のガバナンスとイノベーション創出力の強化を図ってきたところであるが、今後、世界と伍して競争を行うためには、イノベーションの果実が次の研究開発に投資されるイノベーション・エコシステムを産学官が協力して構築することが必要であるとございます。このためには、この統合イノベーション戦略を踏まえて、産学官連携を推進すると最後にございます。
 それから、(3)新たに講ずべき具体的施策でございますけれども、3ページ飛ばしていただきまして、右下のページ番号、25ページでございますが、小さいローマ数字の2として、我が国が強い分野への重点投資ということで、最後の行ですが、4つ目のポツですけれども、研究拠点や研究基盤の整備に当たっては、知識集約社会の形成を目指し、国際的に優位な学術情報通信基盤等やこれまでの集積を活用するという記述がございます。
 それから、最後に、右下のページ番号の27ページに、「知的財産・標準化戦略」ということで、(2)政策課題と施策の目標として、IoT、ビッグデータ、AI等の活用の進展等を背景として、時代の変化に機敏に対応するのみならず望ましい変化を自ら作り出す、プロイノベーション戦略を基調とする新たな知的財産戦略が必要となっているということで、(3)新たに講ずべき具体的施策として、最後の28ページでございますけれども、まず1つ目の丸のところに、著作権法における柔:@^軟性のある権利制限規定の整備を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの策定、著作権に関する普及・啓発及びライセンシング環境の整備促進などの必要な措置を講ずるとあります。
 また、次のポツに、不正競争防止法におけるデータの不正取得等に対する差止めの創設等の整備を踏まえ、法の適切な運用環境を整備するため、ガイドラインの策定、不正競争防止法に関する普及・啓発などの必要な措置を講ずるという記述がございます。
 未来投資戦略に関しては、関連記述としては以上になっております。
 それから、続けての御説明で申し訳ございません。次は、資料4-1でございます。資料4-1は、統合イノベーション戦略の概要のペーパーでございます。統合イノベーション戦略の位置付け等は、後ほど本体の資料を御説明する際に触れさせていただきますが、まず構成の御説明をさせていただきます。
 総論として、世界の潮流・我が国の課題と強みが整理されております。これを踏まえて、統合イノベーション戦略の基本的な考え方というのが真ん中にございます。これが示された上で、下の方でございますが、知の源泉として、オープンサイエンス等が整理をされております。それらをベースとした知の創造、それから、知の社会実装、知の国際展開というふうに各項目が整理された上で、さらには、強化すべき分野での展開として、AI技術であるとか、バイオテクノロジー、環境エネルギー等々が取り上げられていると、こういう構造になってございます。
 それでは、本体の方でございますけれども、資料4-2をごらんいただきたいと思います。これも抜粋をしておりまして、こちらの資料は関連部分、下線を引いてございますので、そちらを参照にしていただきたいと思いますけれども、1ページめくりますと、目次。今、構造等は御説明しましたので、下のページ番号、3ページをごらんいただきたいと思います。
 まず、「はじめに」ということで、(1)に第5期科学技術基本計画は、第1期科学技術基本計画以降20年間の実績と課題を踏まえ、我が国を「世界で最もイノベーションに適した国」にすることを通じて、未来社会としての「超スマート社会」、イコールSociety5.0でございますけれども、これを実現することを掲げたわけであります。
 (2)として、統合イノベーション戦略の必要性という項目ございますが、こちらにおいて、第5期基本計画が策定されてから3年目を迎え、国内においては多くの分野で進展が見られるが、その間、世界では従来の延長線上にない破壊的イノベーションが進展し、我が国の科学技術イノベーション能力の相対的低下が指摘されているとされています。
 特に、世界において、知の融合、破壊的イノベーションの急速な進展、創業の役割変化、いわゆる「プラットフォーム」の急拡大と実体経済への進出、イノベーションを巡る覇権争いの顕在化、持続可能経済への転換等、根本的なゲームチェンジが起こりつつある中、これまでの延長線上で科学技術イノベーション政策を進めることの限界が露呈しており、我が国が長年築き上げてきた制度・仕組み等、経済社会システム全体の在り方が再考に迫られているとされております。
 1枚おめくりいただきますと、右下のページ番号、4ページでございますけれども、冒頭、第5期基本計画で提唱されたSociety5.0は、科学技術イノベーションの活用を通じて人間中心の社会を構築する壮大な構想であり、少し飛ばしますけれども、データ覇権主義的傾向が強まる中、その意義が国際的にも注目されつつあると。
 一つ、パラグラフを飛ばしますけれども、「そこで」の後でございますが、第5期基本計画の折り返し点である2018年度に総合戦略2017等における様々な施策の進捗状況を確認・評価するとともに、幅広く科学技術イノベーションに関連する政策や経済社会システムを検証し、PDCAサイクルのアクションとして実行する。こういう意味で、統合イノベーション戦略を策定するという、こういう位置付けになってございます。
 それから、(3)で、新たな戦略形成プロセスと体制という項目ございます。2つ目のパラグラフの最後でございますけれども、この統合イノベーション戦略の策定に当たりましては、このCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)の有識者議員、外部有識者、関係府省庁幹部等で構成される「政策討議」が設けられて、鍵となる分野で重点的な議論が行われたところであります。
 今後は、その下にございますけれども、「さらに」の後ですが、イノベーション関連の司令塔機能強化を図る観点から、特にイノベーションに関連が深いCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)、IT総合戦略本部、知的財産戦略本部、健康・医療本部、宇宙開発戦略本部、総合海洋政策本部等の司令塔会議について、官房長官を中心とした横断的かつ実質的な調整・推進機能を構築するため、2018年夏を目途に、「統合イノベーション戦略推進会議」、こういうものが設置されて、体制整備が図られるということが書かれてございます。
 1ページおめくりいただきますと、右のページ番号、5番でございますけれども、総論として、(1)第5期基本計画・総合戦略2017の取組状況と。中段にございますマル1で、「未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創造の取組」という項目ございますが、それの2つ目のパラグラフ、Society5.0の実現に向けた取組については、少し飛ばしまして、いまだ制度の全体設計ができていないとしています。今後は、Society5.0の実現に向けた社会基盤の全体設計を行い、各分野のプラットフォーム開発の方向性を明確にするとともに、各分野のデータ連携基盤の整備に早急に取り組む必要があるとされています。また、データを解析・活用するためのAI技術の確立・活用に向けた研究開発等に加え、必要な質・量のIT人材の育成・確保を図ることが求められている。さらに、Society5.0の実現の障害となる制度については、その改革等について早急に検討すべきであるとされております。
 2ページおめくりいただきますと、右下のページ番号の7でございますけれども、2つ目のパラグラフでございます。知の基盤の強化に向けた取組については、ちょっと飛ばしますが、そのオープンサイエンスに関しては、我が国の大学等研究機関の意識・取組が不十分であると、十分であるとは言い難いという指摘がございます。
 それから、1枚おめくりいただきまして、右下のページ番号、8ページですけれども、(2)の世界の潮流といたしまして、2つ目のパラグラフ、中ほどですが、近年の世界的なゲームチェンジは、サイバー空間の劇的な進化等によって「全ての多様な知の要素を融合してイノベーションを生み出し、プラットフォームを形成、その上で新たな多様性が生み出され、それがその上位次元での融合とプラットフォーム化、多様化を繰り返す」というメカニズムが誕生したことにあるとございます。
 それから、その下のマル1、「知の融合」が鍵となる世紀へという部分におきましては、2つ目のパラグラフ、近年、急速なデジタル化、IoT化、生体認証、センサ、AI等の解析技術の急速な発展・普及、更にはバイオテクノロジーの進展や脳活動の探究により、「情報空間」、サイバー空間、あるいは「現実空間」、フィジカルですね。これに「心理空間」(ブレイン等)まで加わり、際限ない融合が進展している。その結果、サイバー空間における多様な知の量・質の獲得、その融合、解析及びプラットフォーム化が現実世界や人間行動にとって決定的に重要な意味を持つようになっているという指摘がございます。
 それから、その次のページ、9ページでございますけれども、真ん中の中ほどのマル4、各国の覇権争いと持続可能な世界への期待ということで、知の融合による、破壊的イノベーションやプラットフォームビジネスの現実世界への進出は、人類の経済社会活動に大きな影響を与え、格差の拡大、科学技術イノベーションを巡る覇権争い等、世界の不安・不安定の要因になっている一方で、環境破壊や貧困等世界の抱える課題を持続可能に解決する「SDGs」を達成する鍵になり得ると期待されているとされています。
 それから、このページの最後、(3)ですが、ゲームチェンジ下における我が国の強みということで、イノベーションを巡るゲームチェンジが進展する中、これまで国際競争力の観点から弱みとも思われていた我が国の特徴が逆に強みとなる可能性があるとされています。
 一つおめくりいただいて、右下のページ番号、10ページでございますけれども、知の融合として、サイバー空間とフィジカル空間が融合するAI時代においては、質の高い現実空間の情報をいかに獲得し、処理するかが重要である。我が国は、製造、医療、農業等の現場において各地にその特色を生かした質の高い現場や高い要求水準を求める多様な消費者やユーザを抱えていることから、必要な情報・データ等を収集・蓄積・利活用できる状況を創り出すことができれば、世界の中でも圧倒的優位に立つ可能性がある。その際、各種公的データの学術研究への積極的な利用や産学連携による産業展開の加速化が重要となる。このため、地域における知識集約の中心を担う大学をつなぐネットワーク基盤等、最大限の活用を本格化に進めることが重要であるとされています。
 それから、破壊的イノベーションの創造でございますけれども、基礎研究の成果が破壊的イノベーションや創業につながる今日において、シーズとなる「基盤技術」と創業から事業化までを支える「資金」の集積が、将来の競争力を決定的に左右するとした上で、この点、我が国の大学や研究機関は世界的に見ても総じて高い研究開発力を有するとともに、産業界は優れた技術を有し、企業は潤沢な資金を蓄積している。我が国には、世界でも稀にみる中小企業の集積が存在し、通信基盤も含めたインフラ環境等が整備され、一定規模の質の高い市場も存在していると。少し飛ばしまして、中段ですが、我が国の有する知や資源を融合することによって、いかに「日本型のイノベーション・エコシステム」を実現するかが鍵となっているとされております。
 その下のプラットフォームでございますけれども、我が国には、米国や中国に出現しているような国際的な巨大プラットフォーマーは存在せず、規模の経済が幅を利かすプラットフォームビジネスにおいて、我が国企業等がグローバルなシステムを構築するのは困難という見方もある一方で、国を挙げて実現を目指すSociety5.0は、それ自体がおよそ全ての経済社会活動を包含するプラットフォーム概念であり、適切な全体設計とデータ集積・連携の仕組み、AIやブロックチェーンなどの技術、国際標準化や知的財産戦略、オープン・アンド・クローズ戦略等を適切に組み合わせるとともに、国民のITリテラシーの向上を図ることにより、健康医療、農業関連アプリケーション等、様々なビジネスが展開する世界最先端の包括的官民プラットフォームになる可能性を秘めているとされています。
 それから、次の11ページでございますが、中ほどの(4)統合戦略の基本的考え方として、中ほど3パラグラフ目でございますけれども、統合戦略は、科学技術イノベーション創出の基礎となる知の「源泉」を構築し、それを踏まえて大学、国研、産業界等が様々な知を「創造」することにより、その知が創業や政府事業等を通じて次々と「社会実装」、国内外に「展開」されることによって社会変革を起こしていくことを想定し、基礎研究から社会実装・国際展開までの「一気通貫の戦略」を提示するとしています。
 それから、12ページでございますけれども、今後の課題として、最後の「さらに」というところがございますが、「地方創生」に資するイノベーション・エコシステムの実現に向けた取組がいまだ不十分であることは、これまで述べてきたとおりであるとした上で、大学等の研究機関は、地域の知識集約経済の中心として、これまで以上に地方創生を推進できるはずである。この潜在的可能性をどう顕在化させるか、今後検討する必要があるとされております。
 それから、右下のページ、13ページでございますけれども、「第2章 知の源泉」の部分です。多少ダブるかもしれませんが、今日における「知の源泉」の鍵はデータ・情報であり、特に、経済社会活動から生ずる膨大なデータ、学術研究のプロセスや成果に関わるデータ、政策立案の過程で必要となる信頼性のあるエビデンスなどのデータや、データの質や量が科学技術イノベーションの将来を握ると。
 第5期基本計画では、Society5.0の実現の観点から多種多様なデータを収集・解析、共通プラットフォームを段階的に構築することとし、また、学術研究に係るオープンサイエンスを推進するということが記載されております。
 その下、少し飛ばしますけれども、「分野間」及び「分野ごと」のデータ連携基盤の整備を早急に進めるとともに、これら基盤間の相互運用性の確保も含めた「全体アーキテクチャーの設計」に早急に取り組む必要があるとした上で、我が国としては、諸外国のデータ連携基盤との連携も視野に入れながら、官民が一体となった取組を早急に進める必要があるとしています。
 その下に、オープンデータの推進については、データポリシーを策定した国研が2法人にとどまるということなど、研究データの管理・利活用のための基盤整備が遅れており、リポジトリの整備、研究データの管理・利活用についての方針・計画の策定、研究データの機械判読可能化、諸外国の研究データ基盤との連携等を急ぐべきであるとされております。
 その下でございますけれども、EBPM。このEBPMは、Evidence Based Policy Makingの略で、証拠に基づく政策立案のことです。この推進については、データ収集・分析の必要性についての認識は共有されつつあるが、いまだ各府省庁、各大学等にデータが分散し、多くが二次利用及び機械判読不可能な形式・様式で保存されている。このため、機械判読可能化・標準化等を早急に進めエビデンスシステムの早期構築を目指すべきであるとされております。
 その上で、次のページがオープンサイエンスのためのデータ基盤の整備ということでございます。
 四角の中は、後段に書かれているまとめでございますので、1枚飛ばしていただきますと、右下のページ番号、15ページでございます。これは学術情報委員会の中でも議論になりましたけれども、オープンサイエンスのためのデータ基盤の必要性・重要性ということで、ICTの発展により、サイバー空間が支える科学へと大きく変容し、学界、産業界、市民等あらゆる者がサイバー空間にある研究データを利活用し、協働によって知の創出をするというオープンサイエンスが進展してきている。このような社会の変化に応じて、新たな制度を整備しつつ、研究データの取扱いについての対応方針や運用を再定義することが求められる。今後も我が国の研究や産業をますます発展させるべくイノベーションを創出するためには、社会インフラとして、オープンサイエンスのためのデータ基盤の構築が必要であるとされております。
 それから、現状認識は、この委員会でも共有されておりますので、省略をさせていただき、右下のページ番号、16ページのマル3でございますが、今後の方向性及び具体的に講ずる主要施策としてまとめられている部分を説明させていただきます。
 研究データを我が国のデータインフラから公開できるよう、主として機関リポジトリを対象としたシステム開発や、国際認証基準等を参考にしたリポジトリの整備・運用を進めると。その上で、研究分野の特性等を踏まえたオープン・アンド・クローズ戦略を考慮したデータポリシーやデータマネジメントプランの策定を促進し、これらに基づく研究データの管理・公開等を促進するとともに、公的資金による研究成果としての研究データについては、データインフラを通して機械判読可能化を促進するとしています。
 さらに、これらの取組が大学・国研等で適切に行われるよう、研究データの管理や公開・共有に従事する研究者等の意識向上や基礎的な知識の習得のための取組や、研究者や大学・国研等における現状、取組等についての調査・分析を行い、研究者等の意識向上等に資する方策を検討するとしております。
 その上で、1つ目がリポジトリの整備及び展開ということで、文部科学省が主体となり、機関リポジトリを活用しクラウド上で共同利用できる研究データの管理・公開・検索を促進するシステムを開発し、2020年度に運用開始。これはNII(国立情報学研究所)で現在進められている共通基盤の部分を示しております。
 それから、その下でございますけれども、同じく文部科学省が主体となり、全文データベースに登載された論文と識別子を付与した研究データを紐づけ、管理・公開するシステムの開発を2018年度中に検討でございます。これはJSTで今、検討しているシステムを指しております。
 それから、国際認証基準等に基づくリポジトリの整備・運用のガイドラインを内閣府が策定し、大学・国研等にガイドラインの適用を推奨というふうにございます。
 それから、その下の2でございますけれども、研究データの管理・利活用についての方針・計画の策定等として、内閣府は、国研におけるデータポリシーの策定を促進するためのガイドラインをこの6月までに策定するといったこと。
 それから、国研は、これを踏まえて研究分野の特性、国際的環境、産業育成等に配慮し、必要に応じてオープン・アンド・クローズ戦略を取り入れ、データポリシーを策定すると。
 それから、競争的研究費制度の目的、対象等を踏まえ、大学・国研・企業等の研究実施者がデータマネジメントプラン等のデータ管理を適切に行う仕組みを導入するという記述がございます。
 それから、次のページでございますけれども、人材育成の研究データ利活用の実態把握ということで、能力開発プログラムの拡張あるいは大学・国研等のデータポリシー等の作成状況、リポジトリの整備状況、研究データ利活用の優良事例等々の調査を2019年度から実施したいということが記述されております。
 最後になりますけれども、右下のページ、18ページですけれども、「知の国際展開」ということで、中ほどの下線の部分ですけれども、「知の源泉」の現状を見れば、制度的には国際的な情報ハブとなり得る立ち位置を確保しつつある。しかしながら、米国や中国の巨大なプラットフォーマーが国境を超えて膨大なデータ連携を行っているほか、米国、カナダ、メキシコ等では、公的なデータ交換システム連携が進展し、欧州においても域内の連携基盤、データ基盤構築を図りつつ、北米との互換性を模索しつつあると。翻って我が国は、Society5.0の実現に向けたデータ連携基盤の全体設計など国内のデータ連携基盤を構築している段階であり、この面での国際連携を図ることが急務である。オープンサイエンスについても、データポリシーの策定が進んでおらず、研究データの管理・利活用について欧米主導で議論が進んでいる状況は極めて大きな懸念があるという指摘がございます。
 以上が総合イノベーション戦略でございますが、先ほど御説明した国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のためのガイドラインの検討が進んでおりますので、この点を御説明して、一旦説明を切ります。
 資料5をごらんいただきたいと思います。これはCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)に設置された国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会と。当委員会の引原先生が座長をお務めの委員会でございますけれども、こちらにおいて議論がされております。
 本ガイドラインの位置付けとして、この取組への期待あるいはこの研究データの利活用としてのポリシーの策定がもたらすもの、その意味合い、それから、このガイドラインの対象となっております国立研究開発法人における考え方等がこの位置付けのところで整理された上で、2ページ目に「データポリシー策定のポイント及び並行して取り組む事項」ということで、ポリシー策定の目的、あるいは、その主体はどう考えるか。さらには、その管理対象とするデータが具備する要件等々の、それから、データ利活用のための要件、ポリシー策定とともに取り組むべき事項等がまとめられております。
 それを踏まえて、具体的には、データポリシーで定める項目として、3ページ目以降の3ポツで整理がされております。
 なお、この6月20日のこの検討会の会議において、まだこの冒頭で、(仮称)、(案)というふうにもなってございますけれども、これの取りまとめに向けた議論が行われておりまして、現在そこでの意見をこの文言の中に反映中ということで聞いております。
 少なくとも6月中への策定が統合イノベーション戦略において求められているということもあり、近々、成案が公表されるものというふうに理解をしております。
 なお、今後、ここで書き切れなかったような行間の部分の解説を含めたQ&Aの作成を検討中というふうにもお聞きしております。
 ちょっと長い時間をおかりして、大変申し訳ありませんでした。政策関連文書の説明をさせていただきました。
 以上でございます。
【喜連川主査】  はい。できたばかりの資料を、要点を大変分かりやすく御説明いただきまして、とてもインフォーマティブで有益であったと思います。
 最後の内閣府のポリシー策定ガイドラインですけど、引原先生が座長をされていますが、何か補足するようなことがございましたらお願いします。
【引原主査代理】  ありがとうございます。今、もうほとんど御説明いただいたとおりでございます。今、最終のまとめ中ですので、(仮称)、(案)が取れたものとして皆さんに公開するものになります。
 御説明ありましたように、Q&Aと、それから、運用に関する方針の説明会等がなされるということになりますので、それを受けて実際の実施になろうかと思います。よろしくお願いいたします。
【喜連川主査】  どうもありがとうございました。
 質問はいろいろあるかと思うんですが、全て終わりましてから、まとめて議論の時間を取りたいと思いますので、引き続き事務局より、資料6・7についてお願いします。
【丸山学術基盤整備室長】  それでは、引き続き、済みません。説明を続けます。次は資料6をごらんいただきたいと思います。資料6は、著作権法の一部改正の法律が5月18日に成立しております。本日は、大変申し訳ないのですが、担当課の出席がかなわない状況でございましたので、もし細かい質問がある、あるいはこれに基づいてもう少し詳細な議論をしたいということでございましたら、また必要に応じて後日詳細な説明の機会を作りたいと思いますので、本日は改正のポイントのみの紹介にとどめたいというふうに思います。
 まず著作権法、今回の改正の趣旨でございますが、資料6の頭にございますとおり、デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するということ。それを踏まえて、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直していると。情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにするものということでございます。
 著作権制度が簡単に解説されておりますけれども、その下、著作権の保護に関しては、他人の著作物、この関連で言えば、論文であるとか新聞、写真、あるいはコンピュータプログラム等を含むものでございますけれども、こういったものを利用する場合は、著作権者の許諾が必要ということが原則になっておりますが、他方で、その例外もございまして、これは権利制限規定と言われているものですけれども、法律等で定める一定の場合は、著作者の権利が制限され、許諾を得なくても利用することが可能ということになっております。
 例示的には、その下にございますけれども、引用、報道のための利用であるとか、学校の授業での著作物のコピー、教科書への著作物の掲載等々がこれに当たるものとして、規定によって整備されているということでございます。
 今著作権法の改正のポイントは4点というふうにお聞きしています。その概要でございますが、1つ目がデジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な著作制限規定の整備ということでございまして、現行法では、何々のための利用、何々のための複製などと、個別的・具体的な要件が記載されているものでしたけれども、これをある程度抽象的に定めた規定を整備して、包括的に運用するというものであります。所在検索サービスを掛けたときに、画面に出てくる著作物の一部分が表示されたりするわけですけれども、そういったものとの関連が整理されているということです。
 それから、2つ目としては、教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備ということで、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材を、ネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにするというふうに聞いています。
 現状は、その利用の都度、個々の利用者の許諾とライセンス料の支払いが必要になる部分を、ワンストップの報償金支払いのみにしようというものでございます。
 それから、もう一つ、3番目でございますけれども、障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備ということで、これはマラケシュ条約という、視覚障害者の判読に障害があるものの著作物の利用機会を促進しようというための条約でございますけれども、これの締結に向けて、現在、視聴覚障害者等が対象になっている規定を見直して、肢体不自由等により書籍を持てないなどの方々のために録音図書の作成等を許諾なく行えるようにするということでございます。
 それから、4つ目がアーカイブの利用促進に係る権利制限規定の整備ということで、美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようにするといったようなものでございます。
 それから、その中には、国会図書館における外国の図書館への絶版等資料の送付を許諾なく行えるようにするといったものも含まれているというふうに聞いております。
 施行期日は、この教育の情報化に関連する部分を除いて、来年の1月1日ということになっております。
 それから、続きまして、資料7でございますけれども、資料7は、データの流通・利活用に関する主な法令を紹介したものでございます。データ流通・利活用に関する法令の中心的なものとしては、官民データ活用推進基本法というものがあるわけでございますけれども、その前提として、まず平成26年に右肩のオレンジ色の部分ございますけれども、サイバーセキュリティ基本法が制定されて、データ流通におけるサイバーセキュリティの強化が図られたという点がございます。その後、右側のオレンジ色の部分ですけれども、個人情報保護法が27年に改正されております。パーソナル・データを安全に流通させるため、個人情報を匿名加工情報に加工し、安全な形で自由に利活用可能とする制度が創設されるといったようなことが行われております。
 こういったものを踏まえまして、官民データ活用推進基本法が28年12月に制定されております。この官民データ活用推進基本法は、下の青い箱の中にも記述がございますけれども、「官民データの活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民が安全で安心して暮らせる社会及び快適な生活環境の実現に寄与することを目的とする」ということで、11条に、「事業者は、自ら保有する官民データであって公益の増進に資するものについて、個人及び法人の権利利益、国の安全等が害されることのないようにしつつ、国民がインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて容易に利用できるよう、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」と、いわゆるデータのオープン化について記載がなされております。
 2ページ目には、個人情報保護法等の関連で、この匿名加工情報制度の導入が2つ目にございますけれども、この改正のポイントが記載されております。
 なお、3ページ目にございますように、官民データ活用推進基本法なんですが、これにおける個人情報や法人情報等の公開することが適当でないデータの取扱いは、平成11年及び13年に想定されております情報公開法の原則に沿っているというものでございます。
 それから、4ページ目でございますけれども、そのほかに官民データ活用推進基本法が28年12月に制定されたわけでありますけれども、その後、幾つかの関連の法改正がなされています。
 その一つが医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律というもので、29年5月制定のものです。特定の個人を識別できないように匿名加工された医療情報の安心・安全な利活用を促進するという観点で、匿名加工する事業者に対する規制を整備したものでございます。
 それから、本日御説明いただきますけれども、不正競争防止法がこの5月に一部改正をされております。
 それから、最後の5ページでございますけれども、法令以外にもこのほかガイドライン、あるいは報告書等の類いで、幾つかの方向性が出されております。29年6月に、公正取引委員会が、「データと競争政策に関する検討会」の報告書というものを出しております。3行目以降ですけれども、インターネットやIoT等によって収集されるパーソナル・データや産業データの事業活動への投入財としての利活用に焦点を当てて、今後のデータの独占禁止法の適用の在り方や競争政策上の論点を整理するために検討を開始して、報告書として取りまとめたものというふうに聞いております。
 それから、この6月に、経済産業省が「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」というものを公表しております。民間事業者等が、データの利用等に関する契約やAI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に関する契約を締結する際の参考として、契約上の主な課題や論点等をまとめて整理したものでございます。
 ごくごく簡単でございますが、関連資料の説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。
【喜連川主査】  ありがとうございました。
 それでは、冒頭申し上げました不正競争防止法の一部改正に関しまして、潮見坂綜合法律事務所の末吉弁護士より御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
【末吉弁護士】  弁護士の末吉でございます。いろいろここまで国の政策を御説明いただきまして、ちょうど資料6の著作権法改正は平成24年改正のリターンマッチ、積み残しを整理したんですけど、都合10年掛かってやった割には、ネズミ1匹ではないかという御意見もあるわけでございますが、私、著作権は平成16年から何かいろいろやらせていただいていますし、それから、資料5のオープンサイエンスは、喜連川先生、引原先生と御一緒にいろいろ検討させていただいているところ、不正競争防止法が変わったという話をしたがゆえに、本日ここにお呼びいただきました。
 ちょっと言い訳から入らせていただきますと、今、Society5.0というお話がございましたが、私が思いますに、日本国は大きなプラットフォーマーもなく、ドイツ国と協定を結んで、いわばコラボレーションしていろんなデータを一緒に活用しながらエコシステムというようなことを御指摘されていますけれども、みんなでイノベーションを横でつながって展開しましょうという戦略の中、いろいろ伺ってみると、どうも契約だけでは心配だと。ビッグデータを場にさらすというのに当たっては、契約だけでは心配だという御意見が多々あり、1年ちょっとでビッグデータ保護を立法するとすれば、どこかに当てはめるとすると不正競争防止法改正しかないであろうと。しかも、これは経済産業省管轄で、経済産業省の方が立法を強力に通してきたというところがございます。
 実は私、平成2年から同じ不正競争防止法の中でも、営業秘密の保護というのを、下働き含めて、ずっとやってきたのですが、私の経験では、この営業秘密の保護は、平成2年のスタートから約25年掛けて、今の形になっています。それでも、今、私、被害者側代理人もやっています。つまり、営業秘密を盗まれたところの代理人をやっていますが、それでもまだ刑事事件などになりますと十分ではない。いろいろ警察当局にも、「弁護士はもっと、こういうのを持ってくるときには考えてから、使いやすい法律を作ってから持ってらっしゃい」と怒られているわけです。そういう意味では、今回も、大変拙速に作られている部分があり、しかも、なかなか一朝一夕にはこういう制度は出来上がらない、という言い訳から先にさせていただきます。
 この不正競争防止法の平成30年改正というのは、大きく3点からなるというふうに説明されています(スライド2ページ)。冒頭、限定提供データの保護というふうになっていますが、これは本当はビッグデータの保護と名前を付けたかったところです。しかし、伺ってみますと、法令用語でビッグデータというのはあり得ないのだそうで、いろいろ議論した上で、限定提供データの保護というふうになっています。これが1点目でございまして、ちょっとこの後、この点のお話をさせていただきます。
 それから、2点目が、技術的保護手段。例えば、データを保護するときに技術的手段を施すと。これまではその効果を妨げる機器などを売っている業者に対して刑事罰を科す規制があったところ、どうも裏をかく人が出てきて、機器を売らなきゃいいと。では、私のところにいらっしゃい、サービスをしますというような感じで、例えばそういうサービス提供をして、結果的に技術的保護手段の効果を妨げるという商売をしておる悪質な業者がいるということで、それも刑事罰ですよという形にしたのがこの2点目でございます。
 それから、3点目でございますが、これはテクニカルタームなのですが、書類提出命令というのがございます。例えば営業秘密を侵害されましたという民事事件がございましたところ、訴えられた被告側が、これは私の営業秘密だ、あなたのじゃない、これは出したくないなどと言って、もめる場合がございます。その場合に、これはインカメラという、非常に分かりづらい言葉で、カメラというのは、実は裁判官室という意味でございまして、裁判官にだけ、まず被告側の情報を見てもらって、それで、本当に、なるほど、被告側の営業秘密が入っているかどうか、被告側の営業秘密が入っていても、なお、出させるときには、秘密保持命令というようなものを発令するのですが、果たして出させるのが適当なのか、あるいは秘密保持命令を掛けるのが適当なのかというのを裁判官が、あるいは一部の代理人が集って検討する会がありますが、これはどうも素人だけでやっていてもだめなのではないのと。第三者たる専門委員を関与させましょうというようなことを知的財産法全体で見直したので、この際、不正競争防止法にもそう入れましょう。これは3点目。これらが今回改正されたわけでございます。
 本日は、この1点目でございます。これは条文でございます(スライド3~4ページ)。片仮名ではなく、平仮名と漢字でございますが、非常に分かりづらいので、ちょっと飛ばします。
 大事なのは、不正競争防止法の2条1項というところにちょっと割り入りまして、11号から16号という条文を今回作りまして、これが今回の限定提供データの保護でございます。今の点は、後でまた戻ってくることにしまして、話を先に進めますと、じゃ、限定提供データというのは何を言っているのかと言いますと、本当はビッグデータと言いたかったんですが、ここは、ちょっと赤くしたところですね。「業として特定の者に提供する情報」(スライド5ページ)。これは例えばIDパスワードを前提としてございます。
例えば、IDパスワードで、ビッグデータにアクセスできるようにしておりましたところ、盗られましたというような事例、そういう事例でこの限定提供データの保護が働くように。ビッグデータという言葉が使えなかったのですが、それらしい言葉が、赤字にはなってございませんが、下から3行目の「相当量蓄積」という言葉で、ここで定義されているところでございます。これはここまでいろいろ御説明を頂いた国の施策との関係で申しますと、改正の趣旨は(スライド6ページ)、まさに安心してデータをやりとりできる、あるいは場にさらさせるために、未来投資戦略2017を受けているわけでございますし、それから、知的財産推進計画におかれましても、価値あるデータの保有者及び利用者が安心してデータを提供し、かつ利用できる公正な競争秩序を確保するため、制度を作りなさいと。いわば、コラボレーションしながらのイノベーションを促進するためにこういうデータの保護を図ったというところでございます。
 この際、立法事実として、こういう立法をしなくちゃいけないという背景として幾つかの例が挙げられているんですが、ここでは3つばかり掲げています。
 一つは(スライド7ページ)、気象データ提供事業者の例というところでございまして、有料会員に商品として提供する気象データが、提供先の事業者から無断で複数の関連会社に流通されていたと。契約先でない企業からの問い合わせで不正流通が発覚したのだが、把握できていない事例もあると懸念していて、要するに、こういうことがあるので、契約だけでは心配だと。抑止効果ある差止請求ができるようにしてもらいたいという提供事業者の御意見。
 あるいは技術関連情報提供業者、技術関連データを提供している事業者の御意見で(スライド8ページ)、学術目的での使用に限定して、図書館に技術関連情報データを提供したところ、その図書館から、ある統計分析会社がデータを大量にダウンロードしたと。この統計分析会社が、当該データを用いて作成したレポートを商材として企業に提供してしまった。ので、直接契約関係のない不正使用者に対しても差止請求を可能とする法的根拠が欲しいんだと、これが2例目でございました。
 それから、3例目は、船舶関連データを共有するオープンプラットフォームの例でございまして(スライド9ページ)、船舶関連データを、船主・オペレーター・造船所・船舶機器メーカー等からなるオープンプラットフォームで共有していたと。その利活用を推進すべく、データの提供者、利用者の双方の意見を聞きつつ、データ利用に係る規約等の整備を進めていると。これは今後の問題。プラットフォームを作って、それを広く公開していくことも考えている。提供者側は、規約違反による利用や第三者提供を心配しているというようなことで、そのために何か法改正をできないのかと。こういう大きく3点の例をここでは掲げさせていただきましたが、このような立法事実を集めまして、今回の改正に至っているということでございます。
 先ほどの条文で書いてあるところをポンチ絵に(スライド10ページ)、これは経済産業省の手でポンチ絵にされているところでございますけれども、これは細かくごらんいただくというよりも、こういうふうに見ていただければと思います。
 まず向かって一番左側、これがデータ提供者でございます。データ提供者からこういうデータが出ていってしまうと。違法に出ていってしまう類型の上の系列は、これは平たく言うと、盗人でございます。不正アクセスをされて盗まれていくと。下の系列は、そうではなくて、契約で導出されている。契約によって提供されていると。ところが、一定の類型の契約違反で勝手に使われたり、第三者に流されたりする。つまり、上の系列と下の系列がある。
 今日は省略いたしますが、営業秘密の事例では、この違法な赤い部分というのが実はもう少し広く、25年間で広くしてまいりました。あるいは、営業秘密の場合には、刑事罰も用意するところまで、25年間掛けてやってきたのですが、今回は、いわば小さく生んで、大きく育てるという理念の下に、この限定提供データについては、赤い領域、つまり、違法の領域はかなり絞られてございます。上の系列は比較的、盗人なので、持っていってしまって、使ったり、提供したりするのは、全て差し止めの対象になりますが(①②③)、その後の転得者ですが、これは知って(悪意で)取得、使う、提供する、こういう類型、これは全部アウトになります(⑥⑦⑧)。また、事後的悪意者は権原外提供類型がアウトになります(⑧’)。
 片や、この下の系列、契約によって受け取りました、ところが、ふらちな者があって、これは図利加害目的かつ任務違背で使ってしまう人(④)と、図利加害目的で提供する人(⑤)がアウトになります。あるいは転得した人については、悪意で取得、使用、提供類型(⑥⑦⑧)がアウト、事後的悪意は権原外提供類型がアウトになります(⑧’)。このかなり狭くなったところの領域が差止請求の対象になると。こういう構造になってございます。
 つぎに、今の図を文字化して解説しています。①②③が不正取得類型(スライド11ページ)。④⑤は契約によって受け取っているのですが(スライド12ページ、著しい信義則違反類型)、図利加害目的かつ著しい信義則違反で使用(④)、あるいは図利加害目的で第三者提供すると(⑤)、アウト。ここをちょっと細かくやってみますと、第三者提供禁止の条件で、データ提供者から取得したデータを、不正の利益を得る目的又は提供者に損害を加える目的(これはテクニカルタームで、図利加害目的と申します)をもって、横領・背任に相当すると評価される行為態様で使用する行為(④)、図利加害目的で第三者に提供する行為(⑤)、これらを差し止めの対象とするという、そういう内容でございます。
 次に、悪意転得類型で、不正取得類型の①又は著しい信義則違反類型の⑤が介在することにつき悪意で取得(⑥)・使用(⑦)・第三者提供(⑧)の場合がアウト(スライド13ページ)。
 それから、最後に、事後悪意転得類型(悪意、権原外で第三者提供、⑧’)と、こういう形でございます。
 そして、念のために適用除外規定ができていまして(スライド15ページ)、まず、取引によって限定提供データを取得した者(その取得した時にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為であること又はその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為若しくは限定提供データ不正開示行為が介在したことを知らない者に限る)がその取引によって取得した権原の範囲内においてその限定提供データを開示する行為。これは取引の安全のためでございまして、まともな取引者について保護する趣旨でございます。
 また、相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示の場合の適用除外。取得の経緯はいかがなものかというところがないわけではないけれど、結果として得たデータは、実は無償で公衆提供されているという場合については、正当なものとして適用除外になっていると。
 今回小さく生んだということの一つに、実は、ちょっと議論があったのですが、例えば不正に取得したデータを使って、そこからいろんなものを作っていった。このような、不正使用行為によって生じた成果物についても差止請求などが掛かるようにしてはどうかという議論がございましたけれども(スライド16ページ)、今回は、そこまでは手を付けないというところでございまして、この点ではかなり差止請求が限定的であるというところでございます。
 そして、どういう救済措置が用意されているかというと(スライド17ページ)、この限定提供データに係る不正競争行為に該当しますと、刑事罰はございませんで、民事的に、差止請求と損害賠償請求と信用回復措置が考えられると。これはほぼ営業秘密に対する民事的な保護、救済とニアリーイコールという形になっているところでございます。
 そして(スライド18ページ)、今、夏、ちょっと過ぎぐらいまで大変頻繁にガイドラインを考えましょうというワーキンググループが開催されておりまして、そこで議論されています。この改正が通過した国会におきましても、このガイドラインをしっかり作るようにという御意見を各方面から頂いておりまして、ガイドラインを通じて予見可能性を高めた上で、法律が施行されるようになってございまして、今それに沿った検討が行われているところでございます。
 そして、新しい制度で不意を突かれたということのないように制度全般の周知をするとともに、今後見直していくということもやってくださいということになっているところでございます。
 最後にアスタリスクを2つ付けさせていただきましたが、大前提として、この限定提供データの制度というのは、当然セキュリティ対策を十分に施していただいて、関係各方面においてビッグデータの保護はしっかりやってもらうということが前提でございますし、いろいろデータ提供をしていただくときの契約関係については、別途また情報提供契約のガイドライン等で示されているとおり、契約関係は十分検討していただくと。そういうことをやっても、なお、それをかいくぐるような形で行われた場合の救済の不備に備えて、この不正競争防止法というのがあるんですが、きょうはオープンサイエンスということもあって、お話しさせていただいているので、例えばオープンサイエンスなどを考えてみると、ここで言う差止請求権者というのは、これは基本的には保有者。この限定提供データの保有者となるわけでございます。
 先ほど限定提供データの定義のところが出ておるんですが、「業として」というのがあるんですけど、業としてというのは、反復、継続すれば業としてというのは満たされると解釈されておりますので、ガイドラインも恐らくそうなりますし、無償でも構わないということになるので、オープンサイエンスに関わる関係機関は十分差止請求権者にはなり得るということになるのですが、肝心要の差止請求の要件として損害がないといけないんじゃないかという議論がございまして、無償でオープンサイエンスを展開している機関において、果たして損害というようなものが観念できるのか。要するに、損害のおそれがあるから差し止めをするという構造になりますので、条文上も損害が要ると。
 ところが、いろいろ御意見頂いているのは、そういうような損害があるんでしょうかという疑問点です。
また、これは喜連川先生にも御指摘頂いているんですけれど、準拠法はどうなるんだと。これは、かつてデータ保護法という制度があったときがございますが、今回、いわば世界的に見ても余り例のない法律による保護でございまして、委員の先生方におかれましては、グローバルの視点を当然お持ちかと思いますので、グローバル展開していくときの、例えば学術的なビッグデータについては、この法律で果たしてグローバルに守ってもらえるのか。あるいは守ってもらうための工夫、より守ってもらえるであろう工夫というのはあるのかなどというような御指摘を頂いているところでございます。
 ちょっと駆け足での御紹介になりましたが、私からは以上でございます。ありがとうございました。
【喜連川主査】  ありがとうございました。
 それでは、きょうは非常に御説明いただいた内容が多岐にわたるところではございますが、前半の未来投資戦略と統合イノベーション戦略に関しましては、またいろいろお伺いする機会もあろうかと思うんですが、末吉先生にお伺いする機会は余り、必ずしも多くないと思いますので、まず最後のこの不正競争防止法改正、ちょっと我々、言葉になじみがない、限定提供データ等も含めて、不明瞭な部分をせっかくの機会ですから、最初に先生にお伺いをするのはどうかと思いますが、いかがでしょうか。
 どうぞ。岡部先生、まずどうぞ。
【岡部委員】  ありがとうございます。私、ちょうど今週、情報セキュリティの講義で不正競争防止法の話をしなければいけないところだったので、大変参考になりました。ありがとうございます。
 ちょっとお伺いしたいのは、今回、限定提供データということで法律の保護に入ったデータのうちには、多分今までほかに保護のしようがなかったので著作権法で守られていたようなデータもあるのではないかと思うのですが、この限定提供データとしての保護と著作権法の保護は重なることがあるのか、それとも今回、この限定提供データというのができたので、今までぼんやりと著作権法だよと言っていたところと線が引かれるようになったのか、それはどちらと考えればいいのでしょうか。お教えください。
【末吉弁護士】  不正競争防止法の中で、営業秘密との関係は、これは選択的な作りになっているので、営業秘密で保護されるデータについては、営業秘密の不正競争でやってくださいと。実は、データというのはこれから3通りになるのかなと私は思っておりまして、一つは、営業秘密で保護する。二つは、この限定提供データで保護する。もひとつ、その他というところがありまして、今、先生の御指摘の著作権法で保護し得るものというのは、その他になるところと限定提供データでも保護し得るところとあると思うんです。ただ、不正競争防止法と著作権法とでは切り口が全く違う。
 御案内のとおり、データが著作権で保護されるというのは、ほとんどデータベースの著作権でございまして、データベースの著作権が保護されたのは、日本でも例が少のうございまして、かなり限定されているところで、それを真似してくるというのは、実は限定提供データを真似してくるより、もっと難しいんじゃないかと思います。
 私が担当した事件では、タウンページというデータベースがございます。電話帳の、いわゆる昔でいうと職業別電話帳ですね。これは真似されたんですけど、そのときに初めてデータベースの著作権の侵害だということを主張させていただいたのですが、そのとき、なぜ侵害が認められたかというと、職業分類が同じだったんですね。データベースとしての創作性というのはデータそのものではなくて、職業分類みたいな基本的には体系の創作性なんです。その体系を真似していかないと、データベースの著作権侵害にならないんですね。つまり、限定提供データを真似するよりも、データベースの著作権を真似する方が実は難しいです。
 その事件は非常に大掛かりに真似しまして、バグまでそっくりだったので、結果、データベースの著作権侵害だと認めていただいたのですが、一般的にはデータベースの著作権で保護されることは、かなり限定されていると我々認識していますので、ほぼ無視し得るのではないか。つまり、元に戻りますと、重複関係を気にしなくちゃいけないのはやはり営業秘密との関係で、それは選択的になると。両方ともの保護を求めることは出来ない。
 そのほかの領域として、データベースの著作権で保護される領域があるけれども、それはちょっと別の次元だというふうに私は整理しているところでございます。
 答えになりましたかどうか。ありがとうございました。
【岡部委員】  ありがとうございます。先生のおっしゃるのは、私が法律を読んだ限りの理解と本当に整合しています。ただ、例えば今回この気象データの例で挙げていただきましたように、今までこういう何か有料でデータを売るときには、著作権だ、著作権だと、売る方が言って、もらった方もそうかなと思ってというところがあったので、多分この法律ができ、今おっしゃったようなことがまたそれこそ裁判に出てきたら、もう少しクリアになるのではないかなと思いました。どうもありがとうございます。
【末吉弁護士】  ありがとうございました。
【喜連川主査】 データベースの著作権というのは習いますけれど、私も内閣府でなぜこれが認められたかという事例を教えてくださいと随分やりましたが、あまりパッとしない事例しか出てこず、先生と同じで、これはもう使えないなと。データをオーガナイズする意匠性というのを主張するのは極めて難しいと感じました。したがって、原則、データには著作権はない。そういう理解が一番すっきり分かるという感じがしています。
 谷藤さん、いかがですか。
【谷藤委員】  私どもの方、まさにデータプラットフォーム開発中で、この事案は、日々の宿題になっておりまして、きょうの御講義ありがとうございます。
 このお話をオープンサイエンスやデータに置き換えて、急ぎ理解した範囲での質問なんですが、データ駆動型社会を目指して研究及び産業利用のためにデータが集積されるようになると、価値が高まる。だから、欲しい人は増える。しかし、国は公共として、無償提供するので、無償で利用できる状況がプラットフォームの一つの理想の姿になっていると思います。
 しかし、先ほどの保有する側、すなわち、データプラットフォームを運用する側からすると、皆さんに使ってもらいたいけれども、誰がどういう使い方をしているかは理解していないと、不正に使われたときに分からないので、パスワードアカウントでログインをして使ってもらうようにしようとしている。その時点で、データへのアクセスは、パスワードなどを使ってでしか使えないという状況が前提になると考えられます。
 そうしますと、そういう環境の下でこういったオープンデータを運用していこうとすると、常に安心・安全な運用をしようと思うとコストが掛かるので、この場合の損害とはどう説明できるでしょうか。不正に取得されたデータが機械学習や、AIに飲み込むという形でブラックボックスの中に行くと、保有している側からは不正を訴えること、すなわち損失を証明することはは実際にはできないということになります。
 実際面として、こういった検討されている方ではどういう想定をされているんでしょうか。
 
【喜連川主査】  ちょっと質問が長過ぎますので、2つの質問を1行ずつでもう一回リフレーズできますか。
【谷藤委員】  1つ目は、損害の定義のバリエーションはありますか。
 2つ目は、データの権利を確認する実際の例はありますか。
【末吉弁護士】  ありがとうございます。1点目は、基本的に金銭賠償なので、そこは基本的に金銭化して考えます。それはいろんな理屈があり得て、先生が言われたとおり、資本の投下とか、あるいは、要するに、盗まれて、多分使われています。だから、それは損害は発生し得るんじゃないかと私は思っていまして、私は無償提供であるとしても、損害の理論構築は可能なのではないかと思います。疑問点としては掲げさせていただきましたけれども。ただ、金銭以外のものを損害として定義するというのはなかなかハードルが高いんだろうと思います。
 それから、2点目なんですけど、御質問に対する答えになるかどうか分かりませんけれども、立証のことを言っておられるようにも思います。盗まれたものかどうか分からないという。実はタウンページのデータベースの場合は、決め手になったのは漢字でした。
 固有名詞の漢字は、当時のコンピューター技術では、使える漢字が限定されていて、実際の漢字をパラフレーズする。例えば「凮月堂」の「凮」、かぜがまえに百という漢字がコンピューターにはない。そうすると、実は紙媒体の方にはちゃんと「凮月堂」と書いてあるんですけど、電子化されているのは、「風月堂」と書いてあるんですね。というようなところを100見つけまして、一つ一つ言い換えが同じになっているという主張をしたら、それが通って、勝ったわけです。
 つまり、電子データを真似したでしょうと。我々で言うトラップ(わな)という技術でございます。これは先生方の世界で言うと、例えばコンピューターのプログラムで、デッドコピーされたかどうか分かるトラップを入れておくという、よく言われますよね。それと同じような工夫というのは、私はビッグデータでもあり得るんじゃないかなと思います。
 
 答えになっているかどうか。以上です。
【谷藤委員】  ありがとうございます。
【喜連川主査】  その1点目の論点は多分、持っていって、向こうで何らかのサービスを盗んだデータを用いて実施するとする。それによってその人が何らかの利益を得ると。それは出した側は、その利益をこっちに返してくれというような意図は必ずしも持てなくて、そもそもオープンにしようと。だけども、表現が難しいのですが、国家のデータだけれども、何か不用意に第三国に持っていかれて、向こうのサーバーからサーブされるみたいな話のときにどうなるのか、といったところだと思うんですけど。
【末吉弁護士】  ありがとうございます。今の喜連川先生の設例に答えますと、私の理解では、今言われたのは向こうに得られている収益をこちらに持ってくるという趣旨ではないというところですね。
【喜連川主査】  持ってくる趣旨ではないんですけど、それを損害とも言えるのかどうかみたいな話に関わってくるのかなという気がしながら聞いていたんですけど。
【末吉弁護士】  ええ。向こうに得られた収益そのものを持ってこられるかどうかというのは、一個の論点です。
【喜連川主査】  はい。
【末吉弁護士】  ただ、無償で公開している趣旨は、広くあまねく、例えば国民に、あるいはグローバルに提供しているという目的があります。それを真似していって、別のビジネスを始めているときには、今はやっていないけれど、もしそういうことをやられるのなら、それはライセンスだと。法律論で言うとですね。やらないかもしれないけれども、ライセンスするとすれば、得られる収益は下さいと。
【喜連川主査】  要するに、出す側がもうちょっとしっかり整備しないといけないということをおっしゃっておられるわけですね。
【末吉弁護士】  そうかもしれません。
【喜連川主査】  そうですね。はい。それは非常によく分かります。
【末吉弁護士】  そういう構造になると思います。
【喜連川主査】  それともう一つは、今回、先生が御指摘した、データ利用生成物に対して権利が及ばないというのは、際限なく漏れていると。ですから、ほとんどビジネスで、いわゆるこの機械学習作成物だけを業としようと思っている人にとってみれば、こんなパラダイスみたいな法律はないわけですよね。ここもデータを作っている人に対する配慮、というか、動機付けが極度に落ちる可能性があって、私はこれに対しては非常に反対であるというのは随分申し上げたのですが、先生がおっしゃったように、小さく始めて、大きく育てようというところの大人の解釈としてはしようがないのかもしれないんですが、そこら辺の損失というものを利益損失というものはかなり大きなものじゃないかなと思うのですが、その辺はいかがでしょうか。
【末吉弁護士】  御指摘のとおりです。その成果物、生成物を今回、規制の対象外にしたというのはいろいろ御批判のあるところであることもよく分かります。いずれそこは対象にしなくてはいけない。ただ、もう一つ大事なことがあって、実は営業秘密と同じように考えると、対象は違うんですけど、その保護の対応を同じように考えると、実は一番の肝は刑事罰なんですよ。
 最近、営業秘密の摘発事例が非常に増えてまいりました。私どもの代理するケースはほとんどのケースが刑事先行なんです。どうしてか。民事の決め手がないんです。日本はディスカバリー(証拠開示手続)がないので、相手が真似しているかどうか分からないんです。そうすると、いろいろ積み上げていって、まず刑事立件をやってもらうんです。これは警察と交渉するのですが、うまく交渉していって、これは嫌疑があるというふうに警察当局がいろいろ検察とも協議しながらやってくださるのですが、そうすると、まず何をやるかというと、押収・捜索というのをやります。そうすると、ここから証拠が出てきます。これは令状に基づく捜査なので、一網打尽なんです。ある意味で日本のディスカバリー代用は、実は押収・捜索です。
 日本はいろんな反対があって、民事事件のディスカバリーが認められないので、実際は権利の救済という観点からすると、刑事事件で、我々は、それをテコにして言い訳をする連中(侵害者)に対して、対峙しています。そうすると、いずれこのビッグデータ、限定提供データについても、私、同じ局面があって、成果物に対して及ぶといっても、それが成果物である立証ができなければ、その情報は使えないんです。
 例えば出来上がりのAIがありますと。これは成果物なのかもしれないんですけど、怪しいかもしれないんですけど、それを今のところ、今の制度の延長でいくと、やはり刑事罰の武器がなければ、立証の手段を被害者側はなかなか確保することができない。
【喜連川主査】  それは実はテクノロジーが今、大分進んでいまして、そういうものをトラッキングできるように突っ込むというのが研究されているんですね。だけど、先生がおっしゃられたことは、要するに、ポートフォリオとして見るべきであって、限定データというカテゴリーで闘うものではなくて、営業秘密として闘って、押収を利用するというのが効果的であると。それは非常に重要なメッセージだと思うんですね。その場合は、つまり、今回の法適用がノングローバルであるというのがグローバルに適用されると、そう思ってよろしいわけですね。
【末吉弁護士】  はい。そうだと思います。ただ、先生が言われるポートフォリオはなかなか難しいと思います。営業秘密と絡ませて、営業秘密とのうまいあんばいで保護していくと、先生のおっしゃるとおりになると思います。
【喜連川主査】  ということで、なかなか難しいところではありますが、非常に重要なことをお伺いできたと思います。
 ほかに何か御質問ありますでしょうか。じゃ、井上先生、お願いします。
【井上委員】  末吉先生、ありがとうございます。制度を分かりやすく御説明していただいて、私も勉強になりました。ありがとうございました。
【末吉弁護士】  恐縮です。
【井上委員】  オープンサイエンスとの関連で言いますと、私の理解では、公的資金を導入して得られた成果であるデータについては、なるべくオープンにして、共有していこうというような流れだというふうに理解しておりまして、それと、この不正競争防止法の新たな限定提供データに対する保護とどうリンクしてくるのかなというのが一つ確認しておきたいところではございまして、先ほどやっぱりインフラを構築するためのコストなどもあるしというような話もありましたが、私の基本的な理解では内閣府の会議でもそうですし、こちらでもそうですけれども、大学、公的資金を入れて、研究する場合にも必ずしも単独でやるわけではなくて、産官学連携などでやることも多いわけでございまして、そうしますと、機密保持、企業秘密などの形で保護しなきゃ、相手先との関係で保護しなきゃいけないようなものは出てきますよということが、オープンサイエンスの議論では常に留保として付けられたわけですけれども、その文脈ではもろにこの不正競争防止法の改正のようなものが関わってくるのかなというふうに考えていまして、相手先との関係で守らなければいけないデータについて、ある程度守れるようになるというような話だと理解しておりました。
 では、それ以外のオープンサイエンスで公開して、なるべく利用してもらおうというものについて、果たして、データを生み出して保有している皆様方がどういうスタンスで、勝手に使われていたらなるべく止めに行こうというようなスタンスであるのか。ちょっとその辺、確認させていただけますでしょうか。
【喜連川主査】  一例はエンバーゴですね。
【井上委員】  そこのところですか。なるほど。エンバーゴに関して、じゃ、そうしますと、それがやぶられたときに営業上の利益が害されると言えるかという、そういうことに、末吉先生、なっていきますかね。
【末吉弁護士】  はい。そうじゃないでしょうかね。
【井上委員】  そうしますと、その場合には、その期間の間については、ちゃんと守ってくださいと。
【喜連川主査】  期間もありますし、そもそもこれが動き始めると、どう研究者がふるまっていくかというと、原則、ミニマルデータセットを開示することになりますね。要するに、周辺の広いところは、これからの自分たちの知財領域に入りますから、そこは押さえた方が国益上、得なわけですね。これはちょっと貪欲なやり方をしていますけれども、その部分は多分、研究者間のシェアードリソースになるかもしれないですね。ここは保護したいですね。
【井上委員】  分かりました。ある意味では、きれいに、表に出せるデータというところはもうオープンで、皆さんで使ってもらうけれども、実はその後ろにある膨大なものについては、保護していこうよという、そういう流れですね。
【喜連川主査】  と私は思っています。これは分野によって受け止め方が大分違うと思いますけれども。
【井上委員】  分かりました。了解しました。その意味では不正競争防止法というのは非常に大きなツールになってくる可能性があると。
【喜連川主査】  このクローズ戦略というのはそういうことだと思います。
【井上委員】  ありがとうございました。
【末吉弁護士】  ちょっと1点いいですか。
【喜連川主査】  はい、どうぞ。
【末吉弁護士】  今指摘されたとおりだと思いますが、もう一点、私が思っておりましたのは、データを管理なさるお立場で、どう考えるかなのですが、基本的には利用いただくだけという世界なのか、かなりのまとまったデータをどこかに契約で移して、それをいろいろ検討していただいて、何かを返してもらう。委託・受託の関係で切り出すというようなことが、もしおありになるものがオープンデータでもあるのだとすると、その契約関係だけでは不安だというシチュエーションは、先ほどのこのポンチ絵で言うとAとCの関係。通常は盗人みたいなBだけしか、オープンサイエンスでは想定できないんだと思いますけれども、場合によっては、Cという受託業者が出てきて、その契約だけでは不安だねというのは、先ほどの立法事実にもありましたけれども、大きな立法の根拠になっているので、喜連川先生が言われたような守っていくような部分が、もちろんあるかもしれないし、逆に切り出していくというところのためにこの制度を使っていくという戦略も私はあるのではないかと思います。
 以上です。
【喜連川主査】北森先生。
【北森委員】  大学というか、実際の現場のサイエンティストとしての質問なのですが、そうしますと、例えば機関リポジトリとしてデータを蓄積していく場合と、それから、今までの議論で、物理だとか、化学だとか、バイオだとか、分野によって状況が違うので、コミュニティ、つまり、学会等にリポジトリを置くという可能性もなくはない。まあ、諸外国はそちらの方も動いているわけですね。
 そうすると、機関に置いたり、あるいはコミュニティに置いたりという場合には、これは、そのデータはプロテクトされる方に来るんでしょうか。それともそれはオープンになる?
【喜連川主査】  それ、誰に聞いておられるのか、よく分からないのですが。
【北森委員】  どなたかお分かりになる方に。
【喜連川主査】  それは今から考えていくところだと思いますけれども、どちらに置くというか、研究者が今、進行中のものというのは、やっぱり自分に近いところに置かざるを得ないような気がします。実装として、どうなるかというのを考えますと、個別に置いておくところというのは、実はあんまり、逆に盗まれる。さっきの先生の盗人ということが起きやすい環境だと思いますので、IDプロテクテッドワールドになると、要するに、実はそのワールドは、学会とその法人格を持った研究者の所属する部分とが結構シェアラブルリソースの公開になってくるのではないかなというのが、これはすごい先のイマジネーションなので、当たっているかどうかは分かりませんけれども。
【北森委員】  この先、先ほどの政策の方にも明確にうたわれているので、大学だとか、あるいはそういう学会でこういう議論が進んでいくと思うんですね。そのときにリポジトリやハードウェアを備える方と管理する人たちがどこまでどういうふうに考えなきゃいけないのかということを結構明確にしておかないと、リソースをどのぐらい掛けるかということにも関わってくるし。
【喜連川主査】  ええ。その議論はちょっと、きょうやるのには少し重いと思うのですが、自分のところに持っておくリソースと、いわゆる世の中で、ちまたで言っているクラウド側に物を置く場合では、コスト的には倍以上となっているんですね。何でそんなに倍も払うのかというのを考えますと、盗人が勝手に取っていかれたときの責任を向こう側に転嫁するためにやっているようなものですね。あるいはシステムの管理も含めてですね。
 このお作法の全体のトータルコストをどうやってリバランスしてミニマイズしていくかというのはちょっと難しい問題で、今これまでの議論はまだそこまで至ってなくて、まず何をどうしましょうかというポリシーのところまでですので、これはまた丸山室長とも御相談いただいて、こういう点が今後検討すべきだというところをノートしておきたいと思います。
 それで、井上先生。
【井上委員】  ちょっと確認ですけど、もう時間もないので、済みません。短くしますけれども、差止請求権者のところで、今のようなお話ですと、機関リポジトリというお話と、それから、学協会なり何なりというような話、いろいろあると思うのですが、それから、データを生み出した研究者などもいるわけですけれども、不正競争防止法の考え方でいきますと、営業上の利益を侵害されるものが差止請求権を持つということになっているのですが、末吉先生、このあたりは誰がどういう形で訴えるというような形になっていくことが想定されるでしょうか。
【末吉弁護士】  済みません。それは未解決ゾーンだと思います。今も恐らくガイドラインのところでいろいろ議論が、非公開なものでよく分からないのですが、議論されていると思いますが、経済産業省の御意向ではできるだけ広い範囲で差止請求権を認めたいと。そういう意味で言うと、請求権者を広げる方向の解釈になるでしょうし、あるいは損害の概念も広げてくると思うんですね。
 ただ、ちょっと心配しますのは、ここで議論されているようなことを前提に、果たして、経済産業省の知的財産政策室が考えてくださるかというと、ちょっと疑問もあるので、ちょっと失敗したなと思うのは、本当に今日の説明者は経済産業省の方がよかったのかなと。私が出てきたので、その問題意識をストレートに経済産業省にフィードバックすることができなかったので大変申し訳ないのですが、是非経済産業省の知的財産政策室にもこういう考え方はインプットすべきなのではないかなと個人的には思います。
 以上です。
【喜連川主査】  ちょっと不正競争防止法と、まだそのオープンサイエンスという大義名分の中で守らなきゃいけないところの最後の帳尻合わせというのは必ずしもできていないと思いますので、そこは事務局にも御相談して、何かそういう会話を国益上はやっぱりやっておく必要があるのではないかなと。
 時間が本当に足りないんですけど。じゃ、永原先生。
【永原委員】  ただいまのお話と関連するのですが、本来差止請求は、データ保有者がその権利を持つと理解いたしました。その場合,どこかのリポジトリにストックされているデータが侵害された場合、データ保有者というのは、学協会、あるいは大学なりということになるのでしょうか。
【喜連川主査】  そうでしょうね。
【永原委員】  そうだとすると,それに関わってくるそのデータを創出した個々人や、そのデータ創出のために費やされた公的資金すなわち研究費にはその権利はなく、大学なり、学協会だけがそういう請求権を持ち得るということでしょうか。
【末吉弁護士】  今の点はかなり明快でございまして、それはいずれも保有者足り得る。オリジナルの保有者もそうですし、そこからお預けになった先も保有者足り得る。ただ、ここでの一番の問題は、法人格がないところが預かっている場合、どういう構成にするのかというのは、実は実務的には、要するに、請求の主体になれるかどうかというのは、民事訴訟法上の問題がありまして、そちらがちょっと絡んでくるので、余りここでは細かくやらない方がいいと思います。いずれガイドラインが出てまいると思います。そういう論点だと思います。
【喜連川主査】  原則は、私は法人格を有するものということで、知財も全て大学保有ですよね。機関保有になっています。それと同じ。
 済みません。この難しい、数字が付いている絵だけ、最後に皆さんで確認をしておくのがいいのではないかと。皆さん、もっと頭がいいので御理解をされたのかもしれないのですがその図の中のこの5番が図利加害ですよね。4番は字が潰れてよく分からないんですけど、横領・背任と書いてあるのですが、要するに、この真ん中の下にあるCという人は、きっちり契約したと。にもかかわらず、裏切って、誰かに渡しちゃうとか。裏切って、自分が使うというのが4と5と思えばよろしいわけですね。
【末吉弁護士】  はい。そうです。
【喜連川主査】  その渡すのを図利加害と言うんですね。
【末吉弁護士】  済みません。ちょっと今日は説明の仕方が分かりにくい。
【喜連川主査】  ちょっとよく分からなかった。
【末吉弁護士】  スライド12ページで補って考えていただくと、ここに図利加害の解説が出ておりまして、これは図利加害の解釈でございます。
【喜連川主査】  そういうことですね。
【末吉弁護士】  はい。
【喜連川主査】  というので、この類型は分かるんですけど、この表の中にさっき言ったAI生成物というのは、例えば7のところの使用も、2のところの使用も、みんな使用して、データを捨ててしまって、成果物だけ持っていたら全部オーケーということですか。
【末吉弁護士】  使用が問題になるところは、使うなと言えるだけで、今の先生の御指摘で、使っちゃった後に成果物しか残らなかった場合は、要するに、救済されない。
【喜連川主査】  されないわけですよね。
【末吉弁護士】  はい。それが最大の問題です。
【喜連川主査】  それは私どももいろんなところで申し上げたんですが、データを作る人とデータを使う人と。やっぱり作る人がいないと、使う人がいないんですよね。作る産業というのは、これから日本を支えるというか、グローバルに見て一番大きなフロンティアになるところで、そこをかなり軽んじておられる、今、法制度の立て付けになっていると。これは何か文部科学省的にも、日本の産業的にも、ちょっと若干残念な状況であるというのは、ここで強く認識をしておく必要はあるのではないかなと思います。
【末吉弁護士】  ただ、裁判所的には確かに、成果物に対して差止請求はできないですね。ただ、使ったということに対する損害賠償というのはできるんですね。
【喜連川主査】  使った。だから、それは営業秘密の方じゃないんですか。
【末吉弁護士】  いやいや、ここでもできるんですよ。
【喜連川主査】  ここでもできるんですか。
【末吉弁護士】  使ったことに対する損害賠償請求はできる。その損害額が幾らかというところは、裁判所は悩むところだと思うんです。成果物に対する差止請求権はないんだけれども、使ったことによる損害、侵害した人が使ったことへの損害をどう評価するかというところは、実は今後の課題になってくるんです。
【喜連川主査】  それはできるんですか。
【末吉弁護士】  ただ、問題は、要するに、先生が御指摘されているのは、できちゃったものに対して手を付けられないじゃないかと。それはおっしゃるとおりなんですよ。
【喜連川主査】  そこら辺、ちょっとこれじゃ分かりにくいですね。この16ページの「不正使用行為によって生じた物の取扱い」というのは、「対象外」と書いてあるわけですが、損害賠償はできるということですか。
【末吉弁護士】  いやいや、使ったもの、出来上がったものに対する損害賠償ではなくて、使ったこと自体をどう評価するかという問題なんですよ。ちょっと詭弁かもしれませんが。
【喜連川主査】  ちょっと難しいですね。
【末吉弁護士】  出来上がったものに対する差止請求がないということなんですね。
【喜連川主査】  分かりました。使い続けて利益を向こうは得続けると。そうすると、損害賠償をし続けられることができると、そういうことですね。
【末吉弁護士】  いや、そこまでうまく行くかどうかは別なんですけど、裁判所はそこで悩むと思います。そんな盗人を、そんな安く済ませていいのかというふうに多分考えると思います。
【喜連川主査】  なかなか議論できないと思うのですが、法律の勉強を今回はさせていただきました。前半の統合イノベーション戦略並びに未来投資を見ての印象といたしましては、皆さんも同じだと思うんですけど、これほど色濃くデータと出てきた時代の中で、このオープンサイエンスの研究データの議論を、私ども、この委員会の中で皆様と一緒に御議論させていただいたわけですけれども、ある意味で言うと、それが非常に重要な役目を果たすということを再確認できたかと思います。
 きょうは少し議論の時間が、丸山室長、取りづらかったので、できれば夏休みを越えるとちょっとピンぼけになっちゃうような気もしますが、どこかでもうちょっとこの深い議論を、御意見を皆さんに頂くような機会が得られればいいなというふうに個人的に考えました。
 それでは、お時間になりましたが、最後に、事務局から御連絡などあればお願いいたします。
【高橋参事官補佐】  本日の議事録については、各委員の先生方に御確認を頂いた上で公開させていただきます。
 現状、次回の第11回については、7月26日(木曜日)、10時から12時、場所は文部科学省13階、13F会議室を予定しております。
 ついては 事務局からは以上でございます。
【喜連川主査】  どうもありがとうございました。それでは、本日の会議は閉会とさせていただきたいと存じます。

―― 了 ――

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