第8期研究費部会(第2回) 議事録

1.日時

平成27年5月25日(月曜日)16時~18時30分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)改革の推進について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,甲斐委員,高橋委員,西尾委員,小安委員,白波瀬委員,鍋倉委員,西川委員,上田委員

文部科学省

村田科学技術・学術政策局科学技術・学術総括官,唐沢科学技術・学術政策局人材政策課人材政策推進室長,奈良科学技術・学術政策研究所長,富澤科学技術・学術政策研究所科学技術・学術基盤調査研究室長,常盤研究振興局長,鈴木学術研究助成課長,前澤学術研究助成課企画室長,他関係官

オブザーバー

吉田東京大学准教授,平田北海道大学教授,勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長,山本日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員

5.議事録

【佐藤部会長】
 それでは,時間となりましたので,ただいまより第8期の第2回の科学技術・学術審議会学術分科会の研究費部会を開催したいと思います。
 本日は,第1回の議論を踏まえて,科研費における若手研究者の独立やチャレンジを促進する支援の在り方について議論を深めていきたいと思っております。
 本日は,若手研究者への支援やキャリアパス形成の条件についての議論を深めるためにお二人の方に出席いただいております。最初は,東京大学大学院総合文化研究科の吉田丈人先生でございます。お二人目は,北海道大学大学院情報科学研究科の平田拓先生でございます。よろしくお願いいたします。
 お二人のプレゼンテーションの後,科研費における若手研究者支援の議論の前提となる我が国における若手研究者をめぐる状況や政府の動向等につきまして,科学技術・学術政策局人材政策課より御説明を頂きます。引き続いて,科学技術・学術政策研究所より大学教員の職務状況について御説明を頂きます。
 その後に科研費の分科細目の見直しに関する検討状況について,日本学術振興会から御説明を頂きます。
 それでは,議事の1番目でございます。本日御出席いただいております二人の先生方から,これまでの若手研究者への支援やチャレンジを促す支援等について御意見を賜りたいと思っております。お二人の御意見を伺った後に質疑応答の時間を設けたいと思います。
 それでは,まず吉田先生,どうぞよろしくお願いいたします。

【吉田准教授】
 東京大学大学院総合文化研究科の吉田と申します。東京大学で准教授をしているほか,日本学術会議の若手アカデミーのメンバーとして活動をしております。若手アカデミーは前期,昨年の9月いっぱいまでは若手アカデミー委員会として分科会が学術会議の中に設置されており,そこで3年間議論してきたところも御紹介できればと思いまして,配付資料を付けさせていただいております。
 若手アカデミーの簡単な御紹介を最初に申し上げますが,日本学術会議の中に独立した組織として今期から発足しました。年齢は45歳未満という形で,29人で活動を開始し,3年後にはその倍の60人になる予定で活動しております。
 主な活動内容は,若手研究者を巡るいろいろな状況の分析や,いろんな学協会の中にある若手の会を横につなぐような若手研究者ネットワークというものを独自に作り,そこでいろいろな意見を伺う,シンポジウムを開催するなどして,学協会の若手の会の代表の方に来ていただくなどというような活動をしております。
 今期はまだ余り議論が進んでおりませんが,前期の若手アカデミー委員会の中で,若手研究者支援や研究支援,人材活動を通じた日本の科学技術を高めていく方法の提案について議論を進めておりまして,これは若手アカデミーの中で何か提言のような形で日本学術会議から出ているわけではありませんが,有志の提案という形で意見をまとめております。それは別添資料2として配付しておりますので,参考にしていただければと思いますが,若手研究者をめぐる状況の自己分析や,どういう支援があるのかということについて,これは若手研究者が考えるところですので,行政のプロの人たちが考えるのとは少し違って,いろいろな突飛なアイディアもあるかもしれませんが,議論を進めています。本日はこの話を全てする時間はありませんので,かいつまんで,あるいは私が個人的に大事だと思うところをお話しさせていただきます。
 前期の2014年の9月29日に,「我が国の研究力強化に資する若手研究人材雇用制度について」という提言が日本学術会議から出ています。これはシニアの先生方の中に若手アカデミーのメンバーが2人入りまして,議論を続けていく中で取りまとめた提言であり,別添資料3として配付しておりますので,これも是非参考にしていただければと思います。本日の研究費に関する議論の中で,この提言の関係するところとしては,エフォート管理です。ポスドクのエフォート管理のようなことをすることによって,弾力的な勤務を可能とするような方策が望ましいのではないかとか,あるいは,長期的な研究人材の育成と確保についても提言しています。
 また,プロジェクトに雇われている若手のポスドク研究者はたくさんいますが,プロジェクトのために使われて,その次のキャリアにつながらないというような問題も発生していますので,大型の研究費を持つPIに対して,ポスドクの育成責任のようなものを課すべきではないか,さらには,そのPIの人材育成実績などの情報公開をすることによって,ブラック研究室ではないですが,そういう研究室をできるだけないようにしてはどうかというようなアイディアも出されております。
 そういう議論を若手アカデミーあるいは日本学術会議の中で進めている中,今回,その議論について,研究費部会でプレゼンをする機会を頂きまして,科研費改革についての学術分科会の中間まとめを読みましたが,非常に入念に,研究費や若手支援に関わるような主立った論点がほとんどカバーされているのではないかと思いました。
 しかし,少し補足してもよいのではないかというような視点がありましたので,指摘させていただきます。まず,異分野融合による新しいパラダイムの形成というのは,イノベーションとも関係して,非常に大事なことだと考えられています。ここで,予算とはまた全然違う次元ですが,研究時間の確保が非常に重要です。その議論が抜けているので,是非そこも検討していただきたいと思うのと,大学において独創的な研究テーマの芽を育てることも大事だと書いてあり,これも実際大事なことではありますが,そのためにはやはり持続的な研究費の配分,それは競争的資金なのか基盤的経費なのかということは別として,そういうものが必要です。これはまた後で詳しくお話ししたいと思います。
 それから,研究者のキャリアパスのイメージが書かれていますが,やはり今現在の問題は,アカデミアだけではなくて,世の中に広くキャリアを築いていけるようなキャリアパスという視点が非常に大事ですので,研究人材がアカデミアでないキャリアをどのように進んでいったらいいかという論点も是非入れていただければと思います。
 そういうことを考えまして,若手研究者支援と研究費に関する個人的な意見という形で幾つか論点を御紹介させていただきます。1つは,私自身の研究分野は生態学ですが,そこでも人口減少というのは非常に大きな問題になっています。例えば里山,里海の管理の担い手がいなくなって,この後どうするのか,国土をどのようにして形成したらいいかというのが大きな問題になっていますが,やはり研究費や若手研究人材の問題も人口減少社会という現実を避けて通れないと思います。実際,博士課程進学者の減少が生じており,これはやはり人口減少と絡めて見ていく必要があります。学術分科会の中間まとめの中に,国全体の修士課程進学者は増えているが,博士課程入学者数は減っているというデータが出ています。同じ時代の例えば25歳人口,そのままストレートに行けばちょうど博士課程に進学する年齢の人口がどれぐらい変化しているかというと,約20%減少しています。そういう時代の中で,博士課程進学者が減少している一方で,修士課程進学者は増加しています。学術分野によってもかなり異なる状況が生じているでしょうし,大学によってもそれは異なる傾向にあり,さらには,量だけではなく,質と言うと少し語弊があるかもしれませんが,どういう人材が博士課程に進学してくれるかというところが変わってきているというような印象を持っています。
 そこで,今後,博士課程進学者の減少を適正に評価していく必要があると思います。こういうふうに評価したらいいと一言でいうのは難しいのですが,例えば平成24年の年齢人口の分布を見ますと,0歳児が100万人ぐらいであり,今後,この10年間に進んだペースよりは少し緩やかになりますが,それでも人口減少は確実に進んでいきます。こういう中で研究人材をどのように育成していけばいいかということは1つの大事な視点だと思っています。
 それから,博士課程から学位取得,それから,独立研究者までの継続的な支援を是非お願いしたいと思っていまして,これは後でもう少し時系列を追ってお話ししたいと思いますが,経済的な支援と雇用改善によって経済的な安定性を確保するということが非常に大事です。今現在,若手研究者は生活に対する不安を非常に大きく持っており,そのことから研究に集中できないということも生じています。そのため,研究に集中できるような環境を築くことが大事なのではないかと思います。
 それから,スタートアップです。これは新規雇用時のこともありますし,異動先の研究機関において新たにラボを立ち上げるというときにも関係します。このスタートアップですが,これは大学,あるいは研究科,あるいは専攻によって違うかもしれません。講座制によって,小講座,大講座など,昔はそういうふうな言い方をしましたけれども,若手が独立してラボを築くのか,あるいは,もう既にシニアの研究者がいるラボに入って共同で運営するのかによってスタートアップに必要な経費は大きく変わってくると思います。
 それから,研究基盤を支える経費としての科研費。ここで中心的に議論されている話題だと思いますが,やはり継続性というところが大事ではないでしょうか。あるいは,長期的な視点に立って研究成果を評価するとか,流行(りゅうこう)外の新しい芽をどのように生み出すのかとか,あるいは,そのエンジンとなる共同研究をどのように推進していけばいいかということも大事だと思いますし,研究期間の柔軟化ということも是非考えていただきたいと思います。
 それを具体的に,代表的な研究者のキャリアパスと研究費の支援の提案という形で考えると,これは分野や経歴によりますし,社会人の学生などもいますので,一概にこのモデルが当てはまるとは言えませんが,代表的なモデルとしてお話ししたいと思います。今,特別研究員制度,DC・PDは非常にいい制度だと若手研究者も,自分たちでも思っております。博士課程でDCをもらうとか,あるいは研究費機関のTA・RAによって経済的にサポートされて,その後,うまくいけばPDとしてポスドクになる,あるいはプロジェクトの研究員としてポスドクになるということがあると思います。
 その後,大体ここで1回頂くと,PDは3年間ですから,PDの間というのは非常に研究者としてはハッピーな時間でして,自分の好きな研究を自由に伸ばすことができる。しかし,3年経過した後,パーマネントな仕事に就けるかというと,なかなか厳しい状況になっております。
 そこで,優秀なPDには,もう一度PDのチャンスを与えるというような,卓越PDとここで書きましたが,PD2のような制度かあってもいいのではないかと思いますし,逆に博士を持って,あるいは,ポスドクを経験した中からキャリアを転換していくことを支援したり,アカデミア外のキャリアパスを支援したりする。実は今の東京大学の中を見てもそうですが,博士課程の学生,あるいはポスドクに対するそのようなキャリア支援はほとんどないと言ってもいいぐらいだと思います。そのような支援によって,安定と競争が確保できるのではないかと思っています。
 それから,その後,テニュアトラック,あるいはパーマネントの若手研究責任者として育っていき,ミドル,シニアと進んでいくわけですが,やはり1つのネックは,スタートアップというところです。研究機関や講座によっては十分なスタートアップができるというところもあるかもしれませんが,そこで研究が途絶えてしまうというリスクも実はここにあるわけです。そこで是非自立を促すような制度があってもいいのではないかと思いますし,今現在,科研費にはスタートアップを支援する研究種目がありますが,非常に限られた金額です。実際,分野によっては数千万円の金額が必要となるものもありますから,そういうものを考慮していただきたいと思います。
 それから,実際に独立して研究室を立ち上げた後に一番問題となってくるのは,研究室の中でどのように長期的に研究成果を積み上げていって,その中からシーズを出していくのかということだと思います。それが最終的には大型の研究費につながっていって発展し,社会実装や実用化が視野に入るわけですが,このシーズを出すのに,今,基盤研究(B)や(C)は最大でも研究期間は5年であり,もっと短いサイクルだと,3年に一度科研費を申請しないと研究室が運営できないというような状況です。そのため,安心して挑戦的なテーマに取り組めるのかということが非常に問題になっており,もちろん競争的資金で選抜されていることだと思いますけれども,良いラボには10年間くらい長期的に基盤的な研究費を配分してもいいのではないかと考えています。
 こういうシステムを構築することによって,安心と挑戦を両立できると思いますし,こういう大型研究費によって,共同研究や,国際共同研究,あるいは新分野の創出につながります。研究費が分野の間を流動し,固定化しないということが非常に大事だと思います。そのことによって,社会の変革につながるイノベーションを促せると考えているところです。
 それから,分野間の連携や学際研究というのは非常に大事で,イノベーションや新しい分野を生むメカニズムであるわけですが,それを生み出すにはやはり研究時間の確保が非常に大事です。若手アカデミーにおいても,研究時間がどんどん減ってきているという認識を持っております。ヒトとモノとカネだけあっても駄目で,やはり時間がないといけないということですね。
 そういう共同研究を促すような研究費の枠組みや,その枠組みを生み出すための人的なネットワークがあってもいいかもしれません。これは若手アカデミーが運営している若手研究ネットワークみたいなのもありますし,学協会の中でも若手の会というのもあると思います。国際的に開かれたグローバル・ヤング・アカデミーや,文科省で開催しているような先端科学シンポジウムのようなものも非常に大事なメカニズムではないかなと思っております。
 ただ,若手研究者支援を実際に政策として考えていく上での難しさは,目的は同じでも政策にはいろいろなやり方があるということです。これは政策担当者の腕の見せ所で,何かをやれば何かトレードオフがあってうまくいかないことが出てくるので,それをどう最小化していくのかということを是非考えていただきたいと思います。
 それから,先ほどキャリアの話をしましたが,あれは代表的なキャリアであって,いろんな多様なキャリアがあります。それをサポートできるような政策を是非考えていただきたいということがあります。
 もう一つは,是非若手アカデミーを活用していただきたい。若手アカデミーの中には,学協会をつないでいる若手研究者ネットワークもありますし,若手アカデミーの中でいろいろな分野の研究者が一堂に会していますので,若手アカデミーに審議依頼をいたければ何かお答えできることがあるのではないかと思います。
 最後に,別添資料1ですが,上田代表のもとに昨年の10月から若手アカデミーを立ち上げて活動を開始しているところです。
 どうもありがとうございました。

【佐藤部会長】 
 どうもありがとうございました。
 それでは,続けて平田先生にお願いしたいと思います。その後,質疑,討論をしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【平田教授】
 御紹介いただきました北海道大学の平田です。よろしくお願いいたします。
 私は現在北海道大学におりますが,7年前に山形大学から北海道大学に異動しておりまして,今回は地方の拠点でない大学での経験についてもお話しさせていただきたいと思います。吉田先生のような俯瞰(ふかん)的なお話はできませんが,実際どのようにサバイバルしてきたかということを御紹介させていただきます。
 私は山形大学で修士課程を修了し,その後東京工業大学に進学しましたが,当時は大学院が重点化される前でしたので,地方の拠点でない大学には博士課程はありませんでした。そのため,進学先が限られておりました。東京工業大学で博士号を頂き,その後,就職しました。
 ここで,私のキャリアは余りスタンダードではなくて,少し外れているということを申し上げたいのですが,学生のときは超音波工学をやっていまして,もともとバックグラウンドは電気電子工学なのですが,ドクターの3年生のときに,決まっていた就職が駄目になりまして,それでたまたま山形大学で助手を探しているところがあり,そこで仕事をさせてもらうことになりました。山形大学で全く違う分野である電子スピン共鳴分光という計測の仕事を始めることになりました。
 その後,山形大学において助手から助教授,2007年に教授になりましたが,2008年に北海道大学に異動しております。
 通常ですと,呼び戻されるケース以外では,地方の拠点でない大学から拠点の大学に移るということはかなり少なくて,ここでテーマを変えたということと,ここで移ったということが,自分自身としては余り普通のキャリアではないかなと感じております。
 小さいチームで戦うにはどうしたらいいかということをお話ししたいと思います。きょうは研究費の部会ですので,ふだん研究費,研究費と大学で言うと,嫌われると嫌なので,余り言わないのですが,きょうはそういうお話をする場所だと思いますので,やります。
 もちろんいい研究をするというのが第一ではありますが,グラントの実績がないとキャリア構築には結び付かないので,これをちゃんとやっていくことが大事だと考えています。ある本でクレジットサイクルということが紹介されていたのですが,つまり,ペーパーで信頼を得て,グラントも取って,信頼を得て,それを投資といいますか,研究に使ってまた成果を生み出すと。つまり,ペーパー,グラント,マネーという,このサイクルをうまく回すことで次のステップに行くというのがクレジットサイクルという考え方なのですが,これを意識して,小さいチームですけれどもやってきました。
 私の最初のスタートは,93年に助手になり,最初に東電の財団から研究助成を45万円ほど頂きまして,これを元手にスタートしました。恐らく最初の小さい成功体験が大事ではないかなと思います。
 次に,1年ほど前に事業が終了しているのですが,内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムという大型の若手支援プログラムに採択され,やらせていただいておりました。それをやった経験がどうだったのかということを御紹介したいと思います。
 このプログラムでは計測の仕事をしました。予算規模でいいますと,直接経費で1億5,000万円ぐらい応募できるもので,麻生政権のときの景気対策の一環として行われたものです。このプログラムに採択していただいて一番良かったのは,ほかのグループとの連携ができたことです。つまり,ふだんから共同研究をやっていますが,何もないところでこういう大きな仕事をやりましょうと言っても,実際はなかなか難しくて,何かドライブがかかるものがないと難しいのですが,このプログラムに採択されたということで,3つのグループと一緒に研究をすることができました。
 それから,潤沢な研究費と繰越しの自由度。繰越しについては,ほぼ無制限でしたので,そういう意味では年度末に何か気にするということがほぼなくて,研究している立場としては,年度末のいつも予算のことを気にする時期に,何も考えずに普通に仕事を進められたということが非常によかったと思います。最近は科研費もかなりフレキシブルに対応できるようになっていますので,そういう点では同じようなことかと思います。
 それから,スタッフを雇用することができました。私は,北大に教授として移りましたが,私の着任以前からいたスタッフというのは当然いまして,准教授,助教よりも若い教授として私がそこへ行きましたので,そこで自分のチームを作るということはなかなか難しいのです。自分と一緒にやれるスタッフという意味で,大きな資金があったため,博士研究員を雇用することができました。
 最後に,認知度アップです。もちろん研究の上で認知度が上がればいいのですが,採択されたことにより,学内や同業の研究者の中でいろいろな機会に声をかけてもらえるようになりました。例えば大学の中で大きな何かプロジェクトを応募するときに声をかけていただくということも含めてですが,これが大きなサポートを頂いてよかった点です。
 これは重複制限が非常に厳しいグラントでして,ほかの研究は一切してはいけないというグラントだったので,私は2つほど,ほかの科研費のプロジェクトとJSTの先端計測というプログラムを打ち切りましたが,このように重複制限が厳しいと,そのグラントが終わったときに次のグラントが全くないということになるため,私にとってはこれが一番恐怖でした。先ほど吉田先生より長期間のサポートというお話がありましたが,これが長期的なことにならないということがありました。
 少し恥ずかしいのですが,個人的にどういうグラントを取っているかということなのですが2004年ぐらいに私の前任のところの教授の先生が退職しまして,この後ずっと1人でやってきています。ここで申し上げたいのは,普通は特に問題がなければ,重複制限に妨げられない範囲で幾つかグラントを頂いて研究できるのですが,このNEXTというプログラムでは,先ほど申し上げましたように,重複制限が非常に厳しかったので,それ以外のグラントが何もなくなったと。この後,幸い科研費の基盤研究(A)に採択されましたが,採択されるか全く分からないということで,非常に難しい状況に陥るところでした。実際に私の同僚でも,NEXTプログラム終了後に研究費を取れなかったので,全くほかにグラントがなくで厳しい状況になったグループもあります。
 それで,若手の研究者が成長するために望ましい環境とはどういうものかということですが,これは私の個人的なところでお話しさせていただきます。まず1つは自分の仕事ができる,裁量の余地があるということです。研究グループによっては,教授の先生の指示どおりやるんだというところも中にはあるので,そうしますと,若手の研究者に裁量の余地があるかどうかというのは分からないのですが,私は個人的には割と自由に仕事をさせてもらえたので,これはよかったです。
 それから,自分のグラントが獲得できるということも大事でありまして,いつまでもボスの研究費があるわけではありません。これは当たり前のことなのですが,そのときに自分がちゃんとサバイバルできる必要があるので,自分のグラントが獲得できるというのは大事です。それから,スタートアップの話は非常に重要で,必要最低限でもスタートアップのための環境がちゃんとあるということが大事です。既に存在しているグループに入っていく場合には,そういう意味で何もないということはほとんどありませんが,最近,大学の間でも公募で人事が行われることが非常に多いので,場合によっては,空の部屋に机が1個あって,電話だけあって,じゃあ,始めてくださいということも地方の大学では実際にあります。そういうときに,移ってくる前の研究室から物を持って来られればいいですが,そうでない場合には非常に難しいので,ちょっと大変かなと思います。科研費のスタートアップ支援については,大抵は充足率が7割ぐらいだと思いますが,そういうところが上積みがされると,少なくとも仕事がスタートできるかなと思います。
 それから,最後,有名な先生のグループに行くということは,若手にとっていいこともあるのですが,もろ刃の剣でして,自分の仕事が後でまたプロモートされるときにちゃんとアピールできるかどうかという必要があるので,これは個人的には大事な点だと思っています。
 独立した研究をしたときに,私の経験でよかったことは,周りにアクティブに活躍する人がわりといっぱいいたもので,そういう人に助けていただいたということです。それから,異なる分野の研究者とコラボレーションができる,つまり,小さいチームですと,全部自分のところではできないので,いろいろなフォーメーションができるということが非常によかった。
 一方,基盤経費あるいは時間が不足しているということで,非常にこれは難しい局面になる可能性があります。特に地方の大学ですと,経済的にハンディがあり,デュアルサポートシステムということを研究費部会でもよく議論されていると思いますが,これは地方の拠点ではない大学ではほぼ機能しないのでありまして,私が最後山形大学にいたときは,教授一人当たり30万円ぐらいしかいわゆる校費がなく,グラントなくして研究費なしという状態ですので,グラントが取れるかどうかということが非常に重要ということです。その際に,基幹的な大学,例えば北大も割と恵まれている中の1つですが,そういうところと地方の拠点でない大学ですと,そもそもハンディキャップがあります。授業の負担とか,学生の負担とか,2倍ぐらい違うと個人的には感じていますが,それでも負けないぐらい,竹やりでも戦わないといけないということを感じておりました。
 最後に,研究意欲を維持するために何が必要かというと,一番は,やりたいことができるという環境が大事で,これは研究費も関係していますが,研究したい人は大体やりたいことがやれているとハッピーですので,それが一番。それから,サポートする研究費,それから時間が必要です。
 最後に,非常に個人的な視点ですが,例えばNEXTのような大型研究費に採択されても,科研費はやらせていただきたかったというのが私の正直なところです。これは内閣府で決めている制度設計なので,全くもってしょうがないですし,過度な集中を排除するという必要も非常によく分かるのですが,次の種を残しておきたいという趣旨です。
 それから,これは私が周りの若手にも少し意見を聞いてきたのですが,科研費の採択の可能性と金額の規模を考えて,どうしても短い期間の小規模な種目に申請してしまう傾向があると。つまり,本当はもっと研究費が必要だけれども,採択されるかどうかということを考えると,大体2割半しか採択率はないですから,本当は基盤研究(B)ぐらいの予算でいきたいところを,基盤研究(C)に応募するなどということがありますので,できれば最長期間で申請しても必要な規模のサポートが得られるような,安定的な研究が進められるといいのではないかと思います。
 最後に,ハイリスクな挑戦を多くやらせる。今,科研費には挑戦的萌芽研究がありますが,余裕がないとなかなかチャレンジングなことをできないということがあります。実際かつかつの予算で皆さん研究している場合が多いのですが,どうしても新しい仕事だと失敗するリスクも高いので,ある程度失敗してもまたチャレンジできるという余裕がないと,成功にたどり着けないと思っております。
 比較として正しいかどうか分かりませんが,アメリカのNIHのR21というグラントがありまして,これは挑戦的な研究をするということで,2年間で約3,000万円規模の予算になっています。そこまで大きくなくてもいいですが,例えば基盤研究(B)と基盤研究(C)の間ぐらいの規模,あるいは,装置なり,お金のかかる研究にはもう少しサポートして挑戦的なことをやらせるというような仕組みがあれば大変助かると思っております。
 以上です。

【佐藤部会長】
 平田先生,どうもありがとうございました。先生の経験に基づいた提言,御意見,提案,ありがとうございました。
 それでは,吉田先生,平田先生から御説明いただきましたが,今から10分程度,委員の先生方から御質問,また御意見を承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。

【小安委員】
 お二方,どうもありがとうございました。お話を伺っていて感じたことがあるのですが,吉田先生と平田先生は分野が違っておられるようで,分野によって状況が随分違うことがあるのではないかと思います。例えば若手がスタートアップするというときに,例えば人文社会系でしたら,1人で研究を続けられる方が多いので,就職した段階で即スタートアップということになります。
 しかしながら,ほかの分野だと,まず装置を作るところから始めるなど,いろいろなことがあると思います。そのときに,今の私たちがここで議論する前提というのは,全ての分野がすべからく同じシステムだというところでスタートしています。例えば科研費の若手研究(B)からスタートして基盤研究(S)まで,予算の額が分野によらず全て同じです。これは時々話題になるのですが,こういうことや,実際にラボをスタートして安定するまでにどのぐらいの時間がかかるかとか,こういうところが随分分野によって違うのではないかと思います。こういうことはなかなか議論しにくいのですが,例えば若手アカデミーでは,たくさんの分野の方と議論されているとおっしゃっていましたが,こういうところは皆さんどのように考えていらっしゃるか,教えていただきたいと思います。

【吉田准教授】
 私は生物学,生態学なのですが,自分のことをお話ししますと,さきがけと科研費の若手研究(A)をもらったので,どうにかラボをセットアップできましたが,それがなかったら多分ラボはセットアップできないぐらいのお金がかかりました。最初,イニシャルコスト数千万円,ランニングコストでも二,三百万円あると自分の好きな研究ができるという状況ですね。それは分野によって大分違う。それを一概に,例えば今,若手種目で若手研究(B)がありますが,はっきり言って若手研究(B),あるいは,スタートアップ支援の種目もたしか150万円ぐらいで,それだと分野によってはセットアップできないということは当然生じてくると思います。あるいは,若手研究(B)だと,ランニングコストを賄えない。私でも,若手の年齢でしたけど,基盤研究(B)を取らないとやっていけないという状況がありますので,もちろん政策を考えるときに,同じ基準でというのは致し方ない理由もあると思いますが,やはりそれだけだと十分に若手研究支援者を支援できないというのが,若手アカデミーの中でも共通した認識だと思います。そのため,やはり多様なキャリアパスや分野の違いについて,是非考慮していただきたいと思います。

【小安委員】
 もう一つ伺います。若手アカデミーは45歳未満とおっしゃいましたが,若手アカデミーでは45歳までを若手と考えていらっしゃるのですか。若手の定義もいつも問題になっていて,分野によってどのぐらい違うのかというところ,もし御経験があったら教えていただきたいのですが。

【吉田准教授】
 45歳までにするかどうかというのは日本学術会議の中でもかなり大きな意見がありましたが,グローバル・ヤング・アカデミーは,多分30代でないと駄目です。40歳を超えるともう駄目なんですね。40歳までにしようという話もあったのですが,それだと人数を集められないということで,45歳となりました。それも,発足時に42歳まで,任期中に45歳にならない年齢ということでやっています。だから,43歳の人は実は入れませんでした。だけど,40歳を超えた研究者は若手かというと,私自身は多分若手はちょっと抜けて,ミドル的なところにあるのかなと思っていますので,確かにおっしゃるとおり,そこはなかなか難しいのですが,それは臨機応変,そのときに応じて若手を定義してもいいのではないかなと思います。
 科研費でいうと,若手種目は,公募要領をちゃんと覚えていませんが,日本学術振興会の特別研究PD,学位を取ってから何年というふうに変わりましたよね。それは非常にいいことだと思っていまして,特に社会人の学生で,一旦マスターを出て,ドクターに進学したいのだけど,経済的な理由で行けなかったので一旦働いたけれども,やっぱり勉強に戻りたい,学問の世界に戻りたいという学生がいるんですね。そういう学生がキャリアを築くサポートをしていただけるというのは非常に大事なことかなと思っています。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。西尾先生。

【西尾委員】
 吉田先生がおっしゃいましたことで1つだけコメントさせていただきたいことがあります。それは,8ページに,「研究者のキャリアパスのイメージ」では,研究人材がアカデミアでないキャリアパスを選択することも大事な論点ということが書かれています。先生からの御説明では,そういうことへ支援活動などがなされていないということでしたが,これは実を言うと,ある程度なされています。ポスドクの問題が相当顕著になってきた5年以上前からもうなされているのですが,博士人材の方々,あるいはポスドクの方々が大学だけを就職先と考えてしまうと,教員ポストがどんどん減ってしまっている現状では難しいものがあります。そこで,企業の研究所に行くことも推奨しましょうということで,JSTだったと思うのですが,ある競争的な資金が準備されて,企業にインターンシップに行く経費を国からサポートするというものです。それが獲得できますと,その大学ではポスドクの方々を企業にインターンシップに出して,企業でいろいろなことを経験するための費用を全て大学が持つことが可能になります。企業の研究所を経験してもらうことによって,キャリアパスとして大学のみにおける研究活動を考えている方々の意識を変えていくというプログラムでした。それから,現在,大学でなされている博士課程教育リーディングプログラムでは,カリキュラムそのものを産業界と一体となって策定することによって,産業界,官庁関係にもどんどん進出していく人材を育てています。研究人材がアカデミアでないキャリアパスを選択することも大事であるという観点からの,徐々にではありますが,着実にいろいろ手は打たれているということを申し上げます。
 実は,この問題解決するときに一つの障害があって,博士人材やポスドクを擁している研究室の教員の意識を変えないと,この問題はなかなか解決しないと考えております。私も理事・副学長のときに,先ほどのようなプログラムを推進する経費を獲得し,学内向けの説明会を開催しましたが,ポスドクの方々がなかなか集まっていただけませんでした。これは,研究室の指導教員から,そのような説明会に行く時間があったら,実験していなさいと言われてしまうからです。つまり,指導している教員の意識を変えていくことも,もう一方で進めていかないと,この問題は解決していかないと思っています。ただし,教員サイドも徐々に,ポスドクのキャリアパスのことを真剣に考えないといけないという危機感は浸透しつつあるようには感じております。

【吉田准教授】
 少し応答させていただきます。アカデミア外のキャリアパスの支援が全くないというふうには私も認識を持っていませんで,支援があるというのは,実際議論の中でも紹介されているし,認識しています。ただ,十分なのかというと,まだまだやはり足りないという認識があると思います。特に先生がおっしゃったように,日本学術会議の提言でも触れていますが,やはりPIに対する責任は,人材育成の責任です。若手研究者をプロジェクトに対して使ってしまって,それで消耗させてしまうのではなくて,それは国の宝だという意識を持ってキャリアを支援していただくというところはやはり大事で,そのPIを擁している研究機関に対してそういう義務を課すべきじゃないかと思います。それは私も自分のところの専攻を考えてみますと,博士課程の学生が,キャリアの支援に関するような授業や説明会みたいなものがあるのかというと,東京大学でもありません。それを作っていただくというような,そういうインセンティブを是非大学の方に与えていただきたい。逆に企業の方にも,実際雇ってみると,博士課程の人材は非常に優秀だったというようなアンケート結果も出ています。やはりそういうものをもう少し促進していくような,例えば補助金を作って,博士課程の人材を企業で雇うと給料が高くなるので,新卒の学部卒の方がいいと考える企業もあるわけです。その給料の差額をマッチングファンドで国から出していく。そのことによって博士課程を卒業したような人材を企業で1回試していただいて,どんどん進めるような政策みたいなものもあるのではないかと思います。だから,もっともっとやれることはたくさんあるのではないかと思っています。

【西尾委員】
 私も,イノベーションを起こしていくためには,博士人材,ポスドクの方々が非常に高い潜在力を有していることを企業サイドに分かっていただくような活動を,今後,大学サイドから強力に行っていく必要があると思っています。よろしくお願いします。

【佐藤部会長】
 鍋倉先生。

【鍋倉委員】
 鍋倉です。やはりPIになるというのは,そこまである程度競争があって,いろいろなアイディアでなっていく。そのとき,まずスタートアップで研究がすぐにスタートできるということが一番重要だと思います。私も秋田大学という地方大学でPIとしてスタートしましたが,そのときに一番問題だったのが機器です。実際にスタートするのに重要なのは,機器をいかに早くそろえるかということで,残念ながら科研費の若手研究種目ではまだそれが十分ではないと。そういうことで,機器の流動性,例えば大きなラボ,ほかの大学にあるような実験機器,使っていないような機器をいかにそこで集約してスタートできるかというような,そういう取組が私の実感としては非常に重要だったと思っています。
 そういう意味で,いかに早く,スタートアップ経費としてすごく大きなお金を出すかということも重要かもしれませんが,そうではなく,まずランニングコストとしての科研費,それとスタートできるための機器の整備をいかに早急化するかという点について少しお考えをお聞きしたいということと,もう一つが,共同利用機関みたいなものを使っていかに早く成果を出すかということ。アイディアをいかに現実化させて,そこで推進力として伸ばしていくかということについて,少し御意見をお聞きしたいと思います。

【平田教授】
 私の経験でしかないのですが,共用機器があれば,新しく移ったときに仕事がしやすいというのは全くそのとおりでして,学内で自由にアクセスできる共同の装置があれば自分のラボで全部購入する必要は当然ないので,アメリカなんかでは割とそういうスタイルが多いと思いますが,国内ではまだそうなっていないところも多くあります。私は幸い,異動するときに,前の大学のラボの道具を全部持っていくことができたので,非常にラッキーだったのですが,それができない場合には,恐らくかなり戦力がなくなってしまうということがあります。
 ですので,鍋倉先生の御指摘のように,共用機器というのがあって,若手の人が移ってきても,それを使ってある程度仕事がスタートできるということはとても大事で,そういうのを進めるためのグラントなどがアメリカのNSFでありますが,国内ではそういうものは余り聞いたことがないので,進められれば若手としては異動したときのリスクが非常に減るかなと感じます。

【吉田准教授】
 ほとんど平田先生と同じ意見でして,私の学内でもそういうリストを作ってほしいと教授会でも一応言ったことがありますが,なかなかできないですね。どこかのラボが大きな資金で取ったものは,もう少しほかのラボにも使わせてもらいたいと思うのですが,そういうリストを作ること自体,結構難しくなっているので,そういうところから進めていってほしいなと思っています。

【佐藤部会長】
 それでは,西川先生。

【西川委員】
 今の装置の共用化の問題は,分野によっても違うと思いますが,今,非常に進んでいます。私の専門分野は化学です。その分野ですと,昔,分析センターが各大学にあったわけですが,それが全て共同機器利用センターという形になって,学内だけではなくて,全国の大学にわたってお互いに共用機器として登録者が使用できるようなシステム構築が進み,実績を上げつつあります。特に中心になっているのが分子研で,そこを中心にしていろいろやっているので,是非そういうことを利用していただけたらと思います。
 それから,科研費でも,お金を出し合って装置を買うことができるような仕組みを作っておりますので,是非そういうことも利用していただきたいなと思っております。
 それから,私の質問ですが,若手が安定した職を得るという問題です。いつも,これが気にかかっているのですが,一応曲がりなりにも若手でアカデミックな意味で職を持っている人というのは,3つのパターンに分かれると思います。任期がなく安定した方,それからテニュアトラック,それから任期付の助教やプロジェクトなどで雇用されている非常に不安定な方たち。吉田先生にまずお尋ねしたいのですが,一番問題になるのは最後の方たちだと思いますが,日本学術会議の若手アカデミーでどの程度そういう方たちに関する議論が進んでいるかということ,あるいは,そういう人たちの意見を吸い上げるような仕組みができているかどうかを伺いたいと思います。

【吉田准教授】
 そこは非常に大事な問題だと若手アカデミーでも認識していまして,やはり経済的な生活の安定性がないと研究に集中できないと。そういう人たちの意見をどうやって若手アカデミーで吸い上げるかということなのですが,若手アカデミーの委員自体は,実はパーマネント,あるいはテニュアトラックの教員です。だから,自分たちの中にはそういう不安定な方はいないのですが,学協会のそれぞれに若手の会というのを持っているところがありますから,そういうところをつなげるものとして若手研究者ネットワークというものがありまして,幾つの学協会が今参加しているか,数を覚えていませんが,数十ですね,100はいかなかったと思いますが,そういうところから,任期付きのポスドクのポジションにあるような若手研究者の意見も吸い上げられるような,そういう仕組みは一応作っていまして,アンケートなんかをやると,そういう方たちの意見も出てきておりますので,私たちも注意して見ているところです。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。それでは高橋先生,簡単によろしくお願いします。

【高橋委員】
 ものすごく基本的な質問をさせてください。若手からいろいろな提言があるというのは,私自身はとてもいいと思います。でも,私個人の感想では,私たちが日頃こういう会議で議論しているのと同じ御意見なのです。だから,なるほどと思う一方で,おお,そうだったのかと驚くことが余りありません。それは悪いと言っているのではありません。せっかくの機会なので,若手アカデミーの人たちは,シニアの研究者たちはこういうことが分かっていないのではないかということがあれば教えてください。もちろん,若手は今これだけ苦しんでいるのだということを訴えたいというなら,それはそれで結構です。でも,なぜ若手のアカデミーが必要かということも一言お願いできますでしょうか。というのも,今日の御発言をお聞きしながら,私たち,つまりシニアのメンバーは,若手のことを結構理解できているなと思ったのですよ。

【吉田准教授】
 それはここにおられる先生方が皆さん優秀だからということだと思いますが,分かっておられないような大学のトップの先生たちも,学長レベルだったらそれはないと思いますが,研究科長レベル,あるいは専攻レベルだったら十分そういうことはありまして,理解できていないところはあります。
 若手アカデミーの存在意義は何かというと,自らが自分たちの世代のために声を上げるというところが一番大事なところで,もちろん,例えば若手アカデミーで議論されていることで大事なことは,例えばここの部会で話されていなかったらここの部会の存在意義がないわけですよね。やはり国の中央で研究費のことを考えている部会で漏れていることがあったらいけないと思います。だから,それはないと思いますが,若手アカデミーの存在意義というのは,自分たちで自分たちの問題についてちゃんと語る,そういうことができる装置が日本学術会議の中に新しくできたというところだと思います。

【高橋委員】
 ありがとうございます。でも,その各大学の研究科長や専攻長に対して提案する立場には,私たちはないのです。例えば,若手アカデミーさんが,今後自分たちの大学の執行部に対して果敢に提言しようというプランがありますでしょうか。是非あってほしいなと思うのですが。

【吉田准教授】
 そうですね。今後そういう活動もしていきたいと思っています。どうしても日本学術会議は東京で会議をやらないとなかなか難しいところがあるのですが,地方を回りながら,それぞれの地方の大学,あるいは研究機関で抱えている問題点なんかも,地方の人たちと是非議論したいと今検討しているところです。若手アカデミーは実は立ち上がったばかりで,まだ会議を2回ぐらいしかやっていませんので,これから活動を活発にやっていきたいと思っているところです。是非お知恵があったらよろしく御協力ください。お願いします。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。ちょっと時間が迫ってきましたので,この議論は終わりにしたいと思いますが,後で討論の時間も設けておりますので,何かもっと具体的に本音で言うことがあるようでしたら,是非お願いしたいと思っております。
 吉田先生,平田先生,改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
 それでは,次,科研費における若手研究者支援の議論の前提となるような若手研究者を巡る状況や政の動向につきまして,科学技術・学術政策局人材政策課より御説明を頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。

【唐沢人材政策推進室長】
 失礼します。科学技術・学術政策局人材政策課の唐沢と申します。私の方から資料3に基づきまして,若手研究者を巡る状況につきまして,関連データや主な施策について御説明申し上げます。なお,説明時間が限られている関係で,多少駆け足での説明になることを御承知おき願います。
 資料3の1ページを御覧ください。こちらが研究者の卵と言われる大学院在学者数の推移の状況でございますが,御承知のように,平成3年の大学院重点化以降,その後10年間で院生の数は約2倍になる。後,現在の傾向としましては,平成23年度をピークに,修士課程,博士課程ともに減少しているという状況にございます。
 資料2ページ,資料3ページは,進路の関係のデータでございますが,資料2ページは,修士課程修了者の進路の状況でございます。この折れ線グラフにございますように,就職率は増加傾向にある一方,ピンク色の折れ線グラフにございますように,博士課程等への進学率は年々減少する傾向にあるという状況にございます。
 資料3ページをごらんください。続きまして,博士号取得者の卒業後の状況でございます。左側の図の折れ線グラフの真ん中が修了者に占める就職者の割合の合計値でございますが,博士課程修了者の就職率は近年横ばい傾向にあるという状況の中,就職者の内訳は,3ページの右手にございますように,これは平成26年3月修了者の状況でございますが,大学教員と医師等が全体の約半数程度を占めているという状況にございます。
 4ページは,ドクターを取った後のキャリアパスの主なものですが,説明は割愛させていただきます。
 5ページを御覧ください。5ページは,先ほどから話題になっていますが,ポストドクター等の延べ人数の推移でございます。実はこの資料にございますように,資料左手と右手で多少調査手法が変わった関係で一概には比較できない部分がございます。資料左手は,従来,2008年度以前は,調査対象を雇用財源,競争的資金等の雇用財源を中心に調査をしておりましたが,2009年度以降は,大学や公的研究機関に対しての全数調査ということで調査をしております。右手の図でありますように,2009年と2012年度を比較した場合には,ポストドクター等の人数は減少しているという状況にございます。
 また,資料6ページには,ポストドクター等の雇用財源の状況でございます。こちらの図は2012年度の実績でございますが,円グラフの右手にございますように,科学研究費補助金をはじめとする競争的資金その他の外部資金で雇用されているというのが42.7%として約半分を占めているという状況にございます。
 資料7ページを御覧ください。こちらがポスドクを出て大学や公的研究機関に勤務される研究者の方々の年齢分布でございます。左手が平成25年度の大学本務教員の状況でございますが,20代,30代合わせまして24.5%という状況。一方,平成22年度の独立行政法人の研究機関における研究者の状況でございますが,20代,30代合わせて39.7%という状況で,このデータを見る限りでは,大学と比較すると独立行政法人の方が年齢構成が若いということが見てとれるかと思います。
 資料8ページを御覧ください。こちらは若手研究者の割合の推移でございます。8ページの左手には大学本務教員の39歳以下というのが赤の折れ線グラフで示されておりますが,若手教員の割合は低下傾向にあり,先ほど御紹介したように,平成25年,2013年度には24.5%という状況にございます。
 一方,独立行政法人研究機関,こちらは平成19年度と22年度での若手研究者数の割合等でございますが,研究者数が全体として3年間で増えている中,いわゆる常勤で任期なしといった安定的なポストについている若手の割合は, 2,160人から1,698人ということで,4.6%減と大きく減少しているという状況にございます。
 引き続きまして9ページを御覧ください。9ページ以降は研究者の流動性に関係するデータでございますが,9ページは,平成14年度と24年度,10年間を比較したセクター間,セクター内の異動率の状況でございます。御覧いただくと分かりますように,10年前と比較して大きな変化は見られないものの,いずれも低いという状況にございます。
 また,資料10ページは大学や公的研究機関の研究者の流動性の状況でございますが,10ページの左手が大学本務教員の異動状況です。ここで離職と書いてありますのは,注釈のとおり,定年や死亡等を除くということでございますので,ある種異動の状況と捉えていただければと思いますが,このグラフを見ますと,25歳から30歳をピークに,年齢が上がるにつれて減少しているという状況で,若手教員の流動性は高いが,シニア教員の流動性は低いという状況が見てとれるかと思います。
 一方,資料10ページの右手は,任期制の適用割合でございます。大学,独立行政法人ともに,34歳以下のいわゆる若手の者については,任期付き割合が多いという状況が見てとれます。
 続きまして,資料11ページを御覧ください。こちらは,まだ速報値ではございますが,今年の3月に科学技術・学術政策研究所と当方で大学教員の雇用状況に関する調査として,旧帝大と早慶,筑波,東工大を含めた研究大学を擁するRU11を対象とした平成19年度と25年度の任期付き,任期なし等々の状況を比較した調査でございます。この赤丸で囲んであるところが19年度と比較しての大きな変更点,変化の点かと見受けられますが,主な点としては,任期なしの教員ポストのシニア化,若手教員の任期なしポストの減少,さらには任期付きポストの増加が顕著であるという点です。
 また,このグラフの中の赤の棒グラフが競争的資金等,外部資金で雇用する者でございますが,その割合が増えているということが見てとれるかと思います。
 引き続きまして12ページでございます。これ以降が,こうした状況の中,文部科学省の若手研究者の育成支援策のうち重立ったものを全体像としてお示ししたものです。12ページの左手には,若手研究者支援というのはいろいろな側面があるかと思いますが,研究費支援等々もありますけれども,そういった観点から便宜的に整理したものでございます。
 幾つか支援がございますけれども,本日は,時間の関係もございますので,私が所属している人材政策課で担当しております,赤文字で書かせていただいた科学技術人材育成のコンソーシアムの構築,テニュアトラック普及・定着事業,特別研究員事業,ポストドクター・キャリア開発事業の4つの事業について概要等を御説明申し上げます。
 資料13ページを御覧ください。まず科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業でございます。こちらは,平成26年度より実施している事業でございますが,この事業を実施する背景といたしましては,13ページの上段にございますように,若手研究者というのは長期にわたって任期付きポスト間の異動を繰り返す傾向にあり,雇用が不安定であるといったような問題意識の下,事業の概要が中段にございますように,複数の大学研究機関等でコンソーシアムを形成していただき,若手研究者等の流動性を高めつつ,安定的な雇用を確保することでキャリアパスの多様化を進める仕組みを構築する大学等を支援するということで,昨年度より事業を実施しているものでございます。
 14ページを御覧ください。こちらがテニュアトラック普及・定着事業でして,平成23年度より実施しているものでございます。先生方御承知かと思いますが,テニュアトラック制のイメージは14ページ右下段にございますように,公募を実施するなど,公正で透明性の高い選抜方法を経て,一定の任期を付して雇用した後,任期終了前に公正で透明性の高いテニュア審査が設けられている人事制度でございます。こうしたテニュアトラック制を普及・定着させるべく,こうした取組に対して先導的にやっている大学を選定し,支援するという取組でございます。
 引き続きまして15ページを御覧ください。こちらは先ほどの先生方の説明にもございましたけれども,日本学術振興会において実施しております特別研究員事業でございます。特別研究員事業の現在の区分は,博士課程学生を対象とした特別研究員DC,DC1,DC2のほか,ポストドクターを対象としたものとしては,PD,SPD,そのほかにRPDということで,リスタート・ポストドクトラル・フェローシップということで,こちらは平成18年度から,主として女性研究者等の出産・育児による研究中断後に円滑に研究現場に復帰することの支援という枠組みを設けて支援をしているものでございます。15ページ下段にございますように,特別研究員採用者のその後の進路等を見ますと,5年後,さらには10年後には大半の者が常勤の研究職に就職しているという状況が見てとれるかと思います。
 引き続きまして資料16ページを御覧ください。こちらは先ほど西尾先生からもお話がありましたが,ポストドクター・キャリア開発事業でございます。こちらの事業の問題意識としては,ポストドクター等のキャリアパスとしては,大学等のアカデミアの世界が中心でございますが,今後は広くその能力を産業界も含めた場で活躍していく多様なキャリアパスの開拓が重要だろうという問題意識のもと,事業の概要にございますように,ポストドクターを対象に企業等において3か月以上の長期インターンシップの機会の提供等を行う大学等を支援するということで実施している事業でございます。
 最後,17ページを御覧ください。こちらは,昨年秋の産業競争力会議の議論以降,現在内容を検討中というもので,検討中のイメージを御紹介させていただくものでございます。17ページ右上にございますように,昨年秋以降,産業競争力会議の新陳代謝・イノベーションワーキンググループにおいて,大学改革やイノベーションについていろいろと検討がなされる中で,その1つとして,今後若手が活躍できるような制度として,新しく卓越研究員制度のようなものを作ってはいかがかという御提言を頂いております。今年に入り,文部科学省内に卓越研究員制度検討委員会を立ち上げるなど,その具体な詳細を検討している状況でございますが,制度のイメージにございますように,若手を研究職に惹(ひ)きつけることを目指して,優れた研究者を卓越研究員として選定して,産学官の機関や枠を超えて,独創的な研究活動を推進する新たな制度の創設ということで,現在,省内のみならず,各大学のいろいろな取組等がございますので,大学の実情や御意見を伺いながら,詳細を検討しているという状況にございます。
 続きまして,資料18ページ以降でございますが,こちらは,今後の方向ということで,科学技術・学術審議会の中に人材委員会というものがございます。この人材委員会において今年の1月27日付で第7期の提言を取りまとめいただきました。その提言の内容でございます。その提言の中には,種々取組を進めるということが言われていますが,19ページ,20ページにございますように,今後の人材政策の中で,特に若手研究者の育成,研究環境の整備という点や,研究者全体の流動性,あるいは博士号取得者のキャリアパスの多様化という御指摘を頂いております。
 19ページの黄色の部分でございますが,若手研究者の育成に係る今後の施策の方向性ということでは,先ほどもございましたが,ポストドクターというのは,競争的資金等の外部資金の雇用が半数を占めているという状況に鑑み,雇用者の育成責任として,研究機関が組織としてキャリア開発に取り組むべきだといったような御指摘を頂いているところでございます。
 また,20ページにございますような研究者全体の流動性に関連いたしましては,昨今国立大学における機能強化の一環として取り組まれている年俸制やクロスアポイントメント制度等の導入,また,博士号取得者のキャリアパスの多様化では,中長期の研究インターンシップ等を通じて産学官のマッチング機会の充実に取り組むべき等々の御指摘を頂いたところでございます。
 最後,21ページ以降でございますが,こちらも科学技術・学術審議会の総合政策特別委員会で今年の1月に中間取りまとめいただいたものでございます。これは現在内閣府の総合科学技術・イノベーション会議において,来年度からの第5期科学技術基本計画における検討が進められているところでございますが,それに向けて文科省サイドから,ポスト第4期科学技術基本計画ということで提言を取りまとめたものでございます。
 21ページにございますように,今後取組を進めていくに当たってのポイント1といたしまして,科学技術イノベーション活動を担う人材というのは,システム改革が最も重要で,あらゆる取組手段を通じて実行するということと,そして,22ページから23ページに関しては,具体な提案として,22ページは若手人材のキャリアシステムの改革,23ページには多様な人材の活躍や人材の流動促進ということをうたっています。なお,22ページや23ページの内容等につきましては,先ほど御紹介させていただきました人材委員会における提言等々と重複するところがありますので,説明は割愛させていただきます。
 私からの説明は以上です。

【佐藤部会長】
 短時間でたくさんのこと御説明いただきまして本当にありがとうございました。次の科学技術・学術政策研究所からの御説明の後で御質問等を頂きたいと思っております。
 それでは,科学技術・学術政策研究所からに大学教員の職務状況について御説明を頂きたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【奈良所長】
 科学技術・学術政策研究所の奈良でございます。よろしくお願いします。
 いわゆるフルタイムの問題,非常に長い期間OECDのデータなどが議論されてまいりました。それで,これは5月に発表したものですが,いろいろな大学の教員の先生が,いろいろな活動をするに当たって,明らかに研究時間が短くなっているのではないかという問題意識で取りまとめさせていただいた資料でございます。具体的な中身は,実際に研究を行いました研究室長から御説明させていただきます。よろしくお願いします。

【富澤科学技術・学術基盤調査研究室長】
 科学技術・学術政策研究所の富澤と申します。資料4に沿って御説明いたします。資料4は,ただいま所長の奈良より申し上げました分析結果を取りまとめた資料でございます。2ページに本調査研究の目的を書いております。この文部科学省が実施した大学等におけるフルタイム換算データに関する調査は,略称でFTE調査と申しておりますが,この調査データを使って分析したものであります。ただ,この調査ではもともと大学院生,博士課程の大学院生や,ポスドクを多く含んだ医局員,研究員等についても調査していますが,この資料に関しましては教員に絞った分析となっております。
 3ページに分析に用いたデータセットを書いておりますが,もともとこのFTE調査というのは,研究開発統計の国際的な基準で,研究者数は,FTE,フルタイム換算で調査すべきという基準がOECDによって定められております。FTEというのは,研究者が職務時間の50%を研究に充てた場合は,その人を1人と数えるのではなくて,0.5人と数えるという数え方ですが,そのFTEのデータを得るための調査をしなければならないということで,この文部科学省の調査が実施されております。
 したがって,この調査のもともとの目的は,研究従事割合を調べることにあるのですが,この調査の実施に当たりましては,研究時間割合だけではなくて,ほかに教育や社会貢献に相当するような活動にどのぐらい充てているかということまで調べております。したがって,その調査から,大学研究者の職務活動の内訳が分かるという仕組みになっておりますので,それを分析したということになります。
 4ページに一番基本的な全体的な結果を示しております。この調査は,2002年,2008年,2013年の3回実施されておりますが,2002年の時点では,大学教員平均で46.5%あった研究時間割合が,2008年では36.5%と,4分の3ぐらいに減ってしまったという大きな変化が起きました。2013年の調査結果については,2008年から比べると微減となっております。研究時間割合が減った分どこが増えたかといいますと,2002年から2008年にかけては,教育の割合や,この調査で言うところの社会サービス,3種類に分かれておりますが,それらの社会サービスのいずれもが増えているという状況です。
 それから,2008年から2013年にかけては,研究時間や教育時間には大きな変化はありませんが,そのかわり,社会サービスの中のその他(診療活動等)が増えております。
 これは日本全体の状況なのですが,カテゴリー別,分野別などに見ていくと違うのではないかということで,5ページにカテゴリー別の研究時間割合の変化を示しております。5ページの左の方にカテゴリーとして,大学の種類別や学問分野別など,幾つか示しておりますが,表の中の白い部分には研究時間割合に絞って数字を示しております。右側の数字のところに色が付いた部分は,どれだけ研究割合が変化したかという差分の値を示したものですが,マイナスの場合は赤い色で示しております。そうしますと,2002年から2008年にかけては,あらゆるカテゴリーにおいて,研究時間割合が減ったという変化が起きております。
 ところが,2008年から2013年にかけては,あるカテゴリーでは減っていますが,分野によっては増えているものもあるとか,個人の職位で見ると,助教に関しては減っているけれども,ほかの職位に関してはそれほど減っていないなど,そういう状況になっております。
 特に詳しく見ますと,保健分野とそれ以外の分野では大きく違っておりますので,ここから先は保健とそれ以外の分野に分けて見たいと思います。
 まず6ページですが,保健分野の教員の状況を職位別に見ております。保健分野に関しましては,2002年,2008年,2013年の3時点において,一貫して研究時間割合が減っているという変化が起きております。その分,社会サービスのその他(診療活動等)が増えております。職位別に見ますと多少違いがありまして,全体としては研究時間割合は減っていますが,特に助教のところが,2008年時点ではそれほど減っていなかったのに,2013年度では大幅に減っています。その分,診療時間が増えているという変化が起きております。
 それから,7ページは,理工農分野をまとめて示しております。人文社会のところは省略していますが,保健分野のみが特異な変化をして,ほかの分野ではそれほど違いはないということを申し上げておきます。
 理工農学では,2002年から2008年にかけては研究時間割合の大幅な減少があったわけですが,2013年は僅かではありますが増えています。これを職位別に見ますと,講師のところは2008年から2013年にかけて少し減っておりますが,ほかの職位では研究時間割合が少し増えている状況です。ただ,これをもって回復というふうに言っていいのかどうかといいますと,研究時間割合に関しては,2002年から2008年に大幅に減った状況がそのまま続いていると解釈するのが適切かと思います。
 8ページからは,別の切り口を示しております。先ほども少し話がありましたが,教員の任期付き,任期なしという区別で示したものです。日本全体の教員についてサンプリング調査をしておりますので,任期あり,なしを区別した人数が分かるのですが,真ん中の丸いグラフを見ますと,任期ありの教員が23.9%でした。それから,左の丸いグラフが,任期あり教員について,職務の範囲,これは契約上の職務の範囲を聞いていますが,これで見ますと,86.3%は教育と研究の両方に従事する人たちです。それ以外には,研究専任の方が5.1%,教育専任の方が3.5%おります。その他というのは,例えば産学連携専任の方などです。
 一方,任期ありについては右側の丸いグラフですが,95.5%の方が教育と研究の両方に従事する職務となっています。
 8ページの下のグラフは省略しまして,9ページにまいりまして,今申し上げた任期の有無別を更に職位別に見たのが上の方の小さい棒グラフになります。これで見ますと,教授は大部分が任期なしですが,助教になりますと,任期付きの方が多くて,52.9%となっております。
 今のカテゴリーでそれぞれの方の職務活動時間の割合を示したのが下のグラフになります。これを見ますと,教授のみは任期なしの方が研究時間割合が大きいですが,それ以外に関しては,任期ありの方が研究時間割合が大きいという状況になっております。
 それから,10ページにまいりまして,特に2002年から2008年にかけて大幅な研究時間割合の減少が起きたため,2013年の調査を実施する際に,その原因を探るような調査項目を入れようということで,研究時間を増やすためにはどうしたらいいか,それから,研究パフォーマンスを上げるためにはどうしたらいいかということを質問しております。それで,この2つの点について,このページのグラフの左側にずらっと並んでおります17の選択肢を用意しまして,上位2つのみを選んでもらうという調査をしております。
 それで,研究時間を増やすための有効な手段としましては,1位に挙げたものと2位に挙げたものを足してですが,回答者の60%の方が,大学運営事務・学内事務の手続の効率化を挙げております。そのほかにも,上から4つ目にところにあります教育専任教員の確保による教育活動の負担の低減など,要するに,研究以外の他業務の軽減に関する項目を選んでいる方が多いという傾向があります。
 それから,右側のグラフですが,研究パフォーマンスを上げるための有効な手段に関して一番回答割合が多いのは,先ほどと同じ,大学運営事務・学内事務手続の効率化ではあるのですが,その割合は大分下がりました。その分,17の設問を3つのカテゴリーに分けた真ん中のカテゴリーである研究関連人材,例えば研究補助者・技能者の確保など,そういったものを選んでいる方が増えております。
 したがって,研究パフォーマンスを上げるためには,時間の負担の軽減も必要ですが,それと同時に,研究関連人材に関する手当てが必要という,そういう調査結果となっております。
 それから,11ページに関しまして,今の同じ調査項目に関して,更に教員の職種別に見ております。これで見ますと,左側の方に関しましては,研究時間を増やすために有効と考えられる手段は,どの職位の方でもほぼ同じで,大学運営事務・学内事務手続の効率化を挙げているという傾向があります。
 一方,研究パフォーマンスを上げるために有効だと考えられる手段に関しましては,教授,准教授,講師の方は,大学運営事務・学内事務手続の効率化を挙げておられますが,助教の方は,研究補助者・技能者の確保を一番多く回答しているという違いが出ております。
 12ページにまとめを3つに分けて書いておりますが,上の2つは,今私が申し上げたことをほぼそのまままとめただけですので,3番目のところ,特に本日のテーマであります若手研究者の話に絞って書いた部分を説明いたします。助教の職務活動については,診療活動等の時間割合が増加して研究時間割合が大幅に減少するという変化が保健分野で起きており,そのような保健分野で起きていることが日本全体の統計の値にも表れてしまっています。
 それから,助教は約半数が任期あり教員であって,恐らくは他の職位と比較すると不安定な雇用状況であると思われます。また,助教は任期あり,なしにかかわらず,研究時間割合は他の職位よりは大きくなっております。
 それから,助教は,研究パフォーマンスを上げるための有効な手段については,研究補助者・技能者の確保を最も多く選択しているという状況になっております。
 私からの説明は以上です。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。ただいま人材政策課と科学技術・学術政策研究所から調査の報告を頂きました。大変貴重なデータがそろっていて,若手は大変厳しい状況にあることがよく分かったと思います。
 それでは,今から10分を目安に皆様から御質問,御意見等を承りたいと思います。小安先生。

【小安委員】
 分かっていたこととはいえ,もう1回,今頂いた資料を見て愕然(がくぜん)としたことがあります。人材政策課の資料3の最初のところに大学院在籍者数の推移がありますが,私が大学院生だったのは昭和50年代の前半ですが,このときですら随分オーバードクターが問題になっていました。それが今見てみると,博士課程の人数がその何倍かになっているわけですね。一方で,大学の教員のポストの数は,ほとんど変わっていないか,減っているか,そこの数字が今回出てないので分かりませんが,それでなおかつ,任期制の部分が非常に増えているというデータをお示しいただきました。
 もしも若手対策というのが,最終的に任期なしのポストを得ることが目的であるとしたら,これは大学だけで議論している状況,アカデミアのみで議論すること自体がナンセンスです。それこそ全体がどうなっているかということを言わなければ駄目で,博士課程卒業者の就職状況と書いてありますが,これも,任期なしがどのぐらいということが出てこないと,やはり状況がつかめないなと強く思いました。
 したがって,今のNISTEPからのお話でも,大学の先生も大変なことはよく分かるのですが,大学院を出た人たちをどう支えるかといったときには,学術だけで議論していても恐らく全く収まらないことは間違いないと思います。したがって,そこを含めて,どういう政策を採っていくのかが問われていると思います。人材政策課から今いろいろと取り組んでおられることの御紹介がありましたが,もっともっと社会との関係のところを進めていかなければ,大学,アカデミアに閉じている中では,どう考えても,これは算数としても合わないような気がします。
 日本学術振興会の特別研究員事業の資料を見てみますと,毎年1,000人ずつぐらいかもしれませんが,10年たったときに9割の人が常勤の研究職についているというデータがありました。今回の資料からは,これぐらいしか,常勤の研究職へのパスというのは読めなかったのですが,もし特別研究員事業が成功しているのであれば,それをきちんと継続し,あるいは拡大していくことが必要でしょう。また,先ほどのポストドクター・キャリア開発事業のように,もっといろいろなところに出していくということが本当に有効なのであるならば,それはやはりきちんと継続あるいは拡大していくとか,そういうふうな観点で考えていかないといけないと思います。もっとも,そうなってくると,これは研究費部会で議論する話なのかなとも思うのですが。何かいろいろなところが見えてきて,もう少し考え方を変えた方がいいのではないかなというような気すらいたしました。私の感想とも意見とも言えないものを話させていただきました。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。大学院修了者の職については,本来大学院をこんなに我が国が増やしたのは,やはり産業界とか,いろいろなところで活躍できることを期待して作ったわけですよね。このミスマッチに関しては,リーディング大学院プログラムで努力はされているのですが,まだ実効的成果は見えておりません。この場で議論するものではないのですけれども,将来にわたって強力な,本当に産業界と連携したものが必要だと思います。

【高橋委員】
 パフォーマンスを上げる研究時間を増やすための有効な手段等々で,断トツ1位なのは,運営業務・学内事務手続の効率化です。一見すると,この件は皆が納得しやすいでしょうが,これをこのまま認めては危険なところがあるのではないかと私は思います。1つは,大学はグダグダと会議ばかりやっているのだから,そういう部分を効率化しなさい,もしうまくいかないのなら,学長の権限を増やしてぱっぱと物事を進めなさいというやり方,これはやはり間違った方向です。大学というのは徹底的に学問中心にして,そして民主的に学問に携わる者が自分たちで考えて,自分たちで決めていくという根本があります。しかし,今の政策は,学長の裁量をどんどん増やして,見た目の効率化を図ろうとしています。そしてそれに逆らえば運営交付金を減らしますよ,というわけです。大変危険な政策ではないでしょうか。こういう流れにあるときに,このようなデータが出ると,会議を減らした大学にうまく点数をあげましょうということになりかねません。このような愚行だけは,私たちは絶対に許してはいけないということを申し上げたい。今見ているこのデータは,単に運営費交付金が減って,その結果として,私たちが絶対に必要とすべき事務職員の雇用を諦めざるをえないという,やむにやまれぬ状況の中からこのような数字が出ているわけです。私たち学者がやるべきではないことを,毎日せっせとやっています。私たちは学問と教育をするために税金をもらっているわけで,事務のお仕事は,事務のプロの方々のお仕事です。それで彼らは給料をもらっている。それがもう,今はぐちゃぐちゃになって,私たちが事務の仕事をすると,効率は悪いし,下手くそですし,いっぱい間違えるし。挙げ句の果てに,事務仕事に時間が取られてしまった結果として研究ができないという現実にさらされています。単に会議をなくしたらいいという,そういう短絡的かつ独裁政治的なものを許すものではありません。
 あともう一つは,小安さんがおっしゃったように,一般社会の企業に,高い論理力と思考力を持った博士号を持つ人間が出て行って,そこで活躍してくれなければ困るわけです。確かに算数が合いません。これに関する政策が,文科省の中で閉じていないかということです。この議論は,経済産業省や内閣府のマターにも通じるものですから,そこに向かって文科省からも強く提言すべきだと思います。大学だけを見て,ああだこうだと議論しても,もうどうしようもないという,小安先生の意見は非常に強いものがあります。ですから,経産省と手を組むなど,その辺りはいろいろあるとは思いますが,そうしてもらわないと困るわけです。
 あと,最後に,卓越研究員のことが少し出ておりますが,これも今日の議論ではないとはいえ,私は「しまった」と思うことがあります。というのも,この委員会で,「若手の職がない,若手が困っている」と一生懸命発言しているうちに,ふと気がつくと,卓越研究員のような案が,これまた議論が全くされずに唐突に出てくるわけです。厳しいことを申し上げますと,今回の卓越研究員制度のアイディアは,まるで大学人事への介入と捉えられるわけです。各大学が,それこそ独自性を出して,それぞれの部局が一生懸命に学問のことを考えて,こういう人事が欲しい,こういう人事で行くのだ,だからこういう若手を入れるのだ,というときに,中央がその人事に介入して良いはずがありません。卓越研究員も,ぱっと見るといいことがいっぱい書いてあるのですが,これははっきり申し上げて大学における人事の侵害なのです。このように私たちは若手,若手と言いながら,ではどうしたらいいのかというときに,議論が尽くされないまま,降って湧いたように提言が出てくる。これは絶対に阻止しなければいけません。私はこの2年間,研究費部会において,議論すべきことは何だろうかとそれなりに考えながら参加してきました。しかし,一生懸命かつ真摯に議論した結果が,悲しいかな,全く議論を尽くされないところでゆがんだ形で出てくるという経験をしました。私たちはその辺りを非常に気をつけて,言うべきことは言わなければいけないと思います。研究費部会で扱う議題であるかどうかは,言った後で考えたらいいのではないかなと思います。お願いします。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。大学人の本当に思うところを語っていただきましてありがとうございます。文部科学省の方で何か。

【村田科学技術・学術総括官】 
 卓越研究員について,確かにここの議論の場ではございませんが,一言。これは今,まさに大学の関係の先生方の御意見も十分承りながら制度設計をしているところでございますし,もう一つは,当然これは大学,あるいは研究機関で,そういう方をどういうふうに受け入れていただくかということを前提としながら,当然大学・研究機関の人事権ということを踏まえながら制度設計しているわけでございますので,その点については御理解を賜ればと思います。制度設計については,引き続きいろいろ関係者の皆様の御意見を聞きながら十分検討させていただきたいと思っております。

【小安委員】
 それに関しては,僕も別のところで,これはおかしいと言ったら,説明に行くといって訪ねてきたのですが,全く納得できませんでした。以前私は日本学術振興会でこれに近いものを提案して,こういうやり方をした方がいいと言いました。そのときは根拠を示して出したのに,それは一顧だにされずに,全く予算の裏付けもない形でこういうものが出てくるというのは納得できません。政策の場で一体どういうふうに物事が申し送られているのかということに深い疑念を抱きましたので,是非そこはきちんと考えていただきたいですね。

【高橋委員】
 財源はどこから来るのですか。

【村田科学技術・学術総括官】
 財源の点も含めて今いろいろ検討させていただいています。

【佐藤部会長】
 是非財源は内部ではなくて,外から来るように政策を頑張っていただきたいと思っております。

【高橋委員】
 この件は,産業競争力会議のメンバーの方々からの提言と聞いております。問題なのは,今,大学人にいろいろな意見を聞きながら検討するとおっしゃいましたが,それをそのまま信じる訳にはいかないのです。といいますのも,私は最近,京大の本部に深く関わっておりますので,議論は全く尽くされていないということを知っております。とにかく,こういう重要なことを,一部の意見だけを聞いて拙速に決めてはいけないと思います。そしてこの議論はこの研究費部会に大いに直結することです。ですから,こういう議論が出たときに,「これはほかの課の担当なので,この会議の議題ではありません」と言われるのはとても問題です。それを言われると,非常にむなしい気持ちになります。是非よろしくお願いします。

【村田科学技術・学術総括官】
 いろいろ厳しい御意見を頂きました。いろいろな懸念や,あるいは御心配の声というのも私ども十分承知しておりますので,引き続き,別にどこの課とか,どこがとかいうことではございません。大学に関わる大事な制度でございますので,しっかり検討させていただきたいと思っております。

【吉田准教授】
 すいません。ゲストなのに質問して申し訳ないですが,NISTEPの方にこのデータのことをもう少しお聞きしたいのですが,資料4の4ページで,これは百分率で割合の話が出ていますが,絶対的な時間がどうなっているのか,あるいは時間の質ですね。私のこれまでの実感として,私が大学院生のころというのは,教授の先生たちというのはもっと自由に研究に対していろいろな意見が,サロン的な形で,そういうところからイノベーションみたいな新しいことが出てきた。そういう余裕のある研究室運営ができたと思うのですが,今,自分が教員になってみると,そんな余裕はほとんどない。そういう時間の質も変わっていると思うのですが,その辺はどういうふうな,別の調査でどういうふうなことが出ていたか,教えてください。

【富澤科学技術・学術基盤調査研究室長】
 2つ目の質問からお答えしますと,時間の質,例えば時間の連続性が重要というような議論がありましたが,この調査では,もともと研究従事割合を調査するという目的だったものですから,そういうデータはここでは取れていません。ただ,幾つか既に行われたアンケート調査等の中で,そういう時間の中でも連続した時間を取れることが重要だといった御意見は幾つか表れているものはあるかと思います。
 それから,前半でおっしゃっていました割合だけでなくて実時間でどうかというのは,この調査自体はもともと実時間で調査しておりますので,実時間のデータも存在します。ただ,それで見ますと,どうも2008年はトータルの職務時間が長くなって,その後,2013年で減っていったりして,同列に比較していいかどうか,まだ我々もよく分からないということもありますのと,それから,余り実時間を問題にすると,もっと働けというようなことになってしまってもまずいだろうということで,私どもは時間割合に注目した分析にとどめておりますが,データとしては存在しているということです。

【甲斐部会長代理】
 今の回答に関連して1つ質問ですが,2002年より前の統計はないのでしょうか。つまり,国立大学の法人化が始まったのが2002年と2008年の間ですよね。現場の実感として,法人化後,本当に雑用が多くなりました。研究時間や教育時間が減ってきて,その他の雑用がいっぱい増えて,それは多分皆さん実感していると思います。なので,2002年より前はそんなに変わっていないのではないかと思うので,その統計があるとはっきり分かると思います。
 私の感覚としては,研究時間は減り,教育時間はまあまあ同じぐらいで,それ以外がものすごく増えている感じがしていたので,その他の職務,学外事務等が増えていないのが意外でした。これは何か質問の設定の仕方ではないかなという気がしますが,例えば法人化の中期目標を書かされるとか,自己評価を書かされる,他の評価も行うなどの業務がとても増えました。それは多分一番右の学内事務等に入るのかなと思うのですが,全然増えていないんですね。確かに社会サービスをいっぱいしろというのも,オープンキャンパスなど,増えましたので,そちらの方の負担も結構多いのですが,学内事務等の割合がどうして増えていないのかなというのが実感なので,2002年より前の統計の有無と,その設問の仕方の2点について教えてください。

【富澤科学技術・学術基盤調査研究室長】
 まず2002年より前の統計があるかどうかということですが,この調査自体は2002年に初めてやったものですから,ないのですが,類似の調査があることはありまして,まさに科研費の研究として,高等教育の研究者の方がこれに類似した調査をやっております。2002年の調査を始めるときは,そういうものを参考にしておりますので,完全な連続性はありませんが,ある程度参考にできるようなデータはあります。
 それで見ますと,2002年の46.5%よりは,割と多い状況です。つまり,研究時間割合の長期的な減少というのもあったように私どもは考えております。ただ,やはり2002年から2008年のがくっとした大きな変化というのはなかったのではないかと。じわじわと減っている中で2004年ぐらいの法人化ですか,そのあたりにがくっと落ちたのではないかという状況になっております。

【甲斐部会長代理】
 あと1点,細かいことで申し訳ないですが,運営費交付金がどんどん減っていって,ボディーブローのように大学は痛んできて,大学としては何でもいいからお金を取らなきゃいけないという状況が生まれています。それで,個々の教員には科研費を獲得せよという圧力が来るのですが,それ以外に,大学や部局ごとに何かお金を取らなければいけないというのもいっぱいありまして,その仕事量も確かにすごく増えているのですが,それは一体どこに入るのですか。

【富澤科学技術・学術基盤調査研究室長】
 狭い意味では研究費の申請は,これは統計上の分類で仕方がないのですが,これは研究の一部となっておりますので,例えば科研費の申請書を書くというようなことに関しては研究の一部に当たります。ただ,今先生がおっしゃったような,大学として何か……。

【甲斐部会長代理】
 大学として取るもの,研究ではなく。グローバルCOEや人材育成用の支援費など,機関として獲得するものも全部研究ではないですね。

【富澤科学技術・学術基盤調査研究室長】
 それは学内事務だと思います。4ページのグラフでいいますと一番右です。確かにここが増えていないのは,私どもにとっても謎なのですが,そういうことを担当されている方がどうも一部に集中しているのではないかとか,これは日本全体の統計ですので,いわゆる研究大学のイメージではなくて,日本に六百何十ある大学の全ての平均を満遍なく取るような調査になっておりますので,少々イメージと違うところもあるかもしれません。

【高橋委員】
 今の甲斐さんと全く同じ意見を持っています。グローバルCOEや認証評価などに携わっている人は,このアンケートに答える暇すらないのだと思います。
 また,こういうデータが出されたのはとてもよかったと思います。これを基準にして,これからいろいろ研究費部会でやるべきことのプライオリティーが考えられると思います。今日は議題としては挙げませんが,例えば研究構成に関すること,eラーニング。確かこの部会だったと思いますが,いろいろな方をお呼びして御意見を聞きました。そういう活動をとおして,新しいeラーニングが今どんどん入ってきています。日本学術振興会と,JST,CITI。あのときも意見を言いましたが,それぞれを個別に見たら,確かにエクセレントです。私,この前CITIをやりましたら,3時間ぐらいかかりました。生命科学の研究不正に端を発した訳ですが,このeラーニング,若干「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」的になっています。個々の事象に対して,別々にあれをやるべきだ,これをやるべきだという考え方が進み,加えて法人化後に舞い込んだおびただしい量の雑用も含め,結果として,日本の学術の活力が大きく落ち込んだことを我々は認識しなければなりません。全体を俯瞰(ふかん)してバランスを取ることこそが,この研究費部会の使命ではないでしょうか。1個1個を近視眼的に見るのではなく,1人の現場の研究者が本当に日本を支えてくれる環境を作っているのか。そのために研究費をどうしたらいいのかということを真剣に考える必要があります。その意味において,今回忙しさというデータが1つの数字になって出てきたというのは本当に有意義だと思っています。
 それから,先ほど甲斐さんがおっしゃったような法人化の後の雑用。こういうものも1回列挙してもいいかもしれません。例えば私のラボだったら,あるいは生命科学だったら,試薬の管理,いろいろな遺伝子操作,動物関係も山のようにあります。でも,国立大学のときには,少なくとも試薬に関しては,その雑用の時間はなかったはずです。それは国の指導がきちっとなっていたからですね。それが今法人化のもとで,試薬の管理などをやらなければなりません。
 あと,もう一つは,会計検査の問題です。細かくなるので余り言いませんが,私たちが人間の常識で正しいと思っていることが会計検査院レベルでは駄目だと言われる。そうすると,書類が次から次に増えていく。法人化にまつわる雑用の増加度について,項目とその度合いを,特に会計検査院マターを中心にしてリストアップしたら,現実がかなり浮き彫りになるはずです。それをもとに,本当に研究者サイドに立った議論ができるのではないでしょうか。今回の報告はそういう意識喚起という意味でも有り難いと思います。

【西尾委員】
 甲斐先生もおっしゃっていたことですが,法人化が始まってから,評価に関わる仕事など,教育,研究以外に関わる仕事が大幅に増えています。そのときの問題は,このような言い方は非常に問題かもしれませんが,有能な研究者,有能な教員ほどそういう仕事を学内で次々依頼されています。それは,研究者としてすばらしい方は,そのようなアドミニストレーション的な仕事にも長(た)けておられる方がたくさんおられるからです。そういう状況の中で,私は国立大学法人化が始まったときに,文部科学省のある方にも,このままでは日本の研究力は衰退しますよということを相当強く申し上げたことがあります。そこで,データの算出については,単なる平均値を取ってしまいますと,そういう深刻な偏り状況がデータ値には表れなくなってしまうことは問題かと思います。

【佐藤部会長】
 データにつきましても,学内の仕事が余り増えていないのは不思議な話なので,もう一つ実効性のあるようなデータも取れるようになれば有り難いと思います。
 時間の制限もありますので,誠に申し訳ありませんが,質問はこれで終わりにさせていただいて,事務局からまた御説明を頂きまして,その後討論の時間ということになっておりますので,事務局の方から御説明を頂きたいと思います。よろしいでしょうか。

【前澤企画室長】
 それでは,資料の5-1,5-2に基づきまして,科研費における若手研究者を巡る状況とそれから論点のまとめについて御説明いたします。
 資料5-1の1ページでございますが,科研費の全体の種目構成でございます。この中で39歳以下,私もぎりぎりそこに入っていますけれども,39歳以下が若手研究者を対象とした種目ということになっておりまして,特別研究員奨励費から研究活動スタート支援,若手研究(B),若手研究(A)となっております。若手研究(S)という種目につきましては,現在,募集停止しております。
 それから,2ページ目が若手研究者への科研費における支援制度の変遷です。昭和27年,1952年から60年程度かけまして次第に若手研究者の年齢的な範囲を広げ,また支援額も増額してきております。それから,若手種目は飽くまで基盤種目を申請する力を付けるためのものという位置づけですので,平成21年度からは受給回数制限を導入しております。
 3ページは,26年度の若手研究(A),若手研究(B),それから,研究活動スタート支援の採択件数と採択額の割合でございます。採択件数は全体の約3割,採択額が2割となっております。
 4ページは,科研費の応募資格者数,全体と若手の推移でございます。全体の応募資格者数は増加しているのですが,39歳以下の応募資格者数は減少傾向にあります。これは先ほどもお示しいただいた研究者全体が年齢層が低くなるに従って少し減少しているという傾向とも一致すると思います。
 それから,5ページ目でございますが,昨年度の年齢別の新規の応募件数,採択件数,採択率でございます。39歳以下の採択率がおよそ3割,40歳以上の採択率が25%となっております。また一番採択率の高い年齢層は35歳から39歳となっております。
 6ページが,年齢別の1課題当たりの年間配分額です。こちらにつきましては,年齢とともに上昇しまして,ピークは60歳から64歳となっております。
 それから,7ページ目が昨年度の年齢層別の種目別採択件数です。39歳以下の若手研究者は,研究活動スタート支援,それから,若手研究の採択が大部分を占めておりまして,40歳から,ある意味当たり前でございますが,基盤研究(B),(C),挑戦的萌芽研究が多くなります。
 8ページ目,こちらは年齢別の機関種別採択件数ですが,国公私立大学とその他,独法などの間では64歳まではほぼ差はございません。65歳からは,私立の大学の割合が大きく増えまして,機関を異動して研究活動を続ける方が多いことが読み取れるかと思います。
 それから,9ページ目が,分野を総合系,人文社会系,理工系,生物系,それから,時限付き細目に分けた場合の年齢別の採択件数です。どの系も35歳から39歳に採択件数のピークがありますが,特に生物系でその件数が多く,かつ40歳以降急激に採択量が減少する傾向があるかと思います。
 10ページ目は昨年度の年齢別に教授,准教授等,職位別の採択件数を割合で示したものでございます。年齢を問わず教授の採択率が高く,また,准教授につきましては,40歳から44歳の年齢層で研究員と採択率が逆転しております。
 11ページ目は,39歳以下の研究者の応募採択件数の過去5年の推移です。こちらを見ますと,過去5年で若手研究(A),若手研究(B)のシェアが縮小する一方で,基盤研究(B),基盤研究(C)と挑戦的萌芽研究のシェアが拡大する傾向にございます。
 それから,12ページは,39歳以下の研究者の研究種目別の新規採択率,過去5年間の推移でございます。基盤研究(C)の採択率が平成22年度の35%から更に近年上昇しておりまして,それ以外の研究種目につきましては,20%から30%でほぼ一定でございます。近年,基盤研究(C)とその他の種目の採択率に差が生じておりまして,更に若手研究(B)と基盤研究(B)の採択率も,この年齢層につきましては,ほぼ一定となっております。
 13ページから19ページまでは,平成25年度に行いました科研費アンケートの結果を御紹介しております。これは全国立大学とそれ以外の研究機関で,平成25年度の科研費交付件数が58件以上の200機関を対象とした調査でございますが,13ページはポスドクへの科研費応募資格の有無を雇用財源別に見たグラフです。科研費で雇用されているポスドクにつきましては,応募資格を付与している,していない機関が約半数ずつになっておりますが,科研費以外の外部資金で雇用されている場合には,特段の要件なしに応募資格を付与,又は追加要件も満たす場合に資格を付与している合計は3割程度になっております。内部資金で雇用されている場合は,この2つの合計で5割強となっておりまして,逆に応募資格は付与していない機関の割合の方が少なくなっております。
 この真ん中と右の円グラフで,紫の部分,その他といいますのは,16ページに主な回答をまとめておりますが,外部資金のルール,雇用実態,部局の受入れ体制,それからポスドク所属の責任者の判断などにより資格の付与を個別に判断しているという事例になっております。
 14ページは,国公私立大学その他の研究機関別にこの公募資格付与について見た場合でございますが,科研費で雇用されている場合には,公立大学,私立大学で応募資格を付与していない割合が比較的多いこと。逆に独法では応募資格を付与している割合が高くなっている。また,内部資金で雇用している場合にも,独法とその他研究機関で応募資格を付与している割合が高くなっております。
 15ページでございますが,ポスドクに応募資格を付与していない主な理由としましては,雇用元の業務に専念する必要があるということ。ポスドクが科研費以外の研究を主体的に行う環境を提供できないということ。それから,エフォートの考え方。雇用元の課題遂行中のみ,その研究機関での身分を有しているという考え方などが挙げられております。
 それから,17ページ,18ページは,外部資金なり内部資金で雇用されているポスドクに科研費申請を認める追加要件をまとめてございますが,割愛いたします。
 19ページは,先ほども少しお話に出ました若手研究者の定義と申しますか,その考え方でございますが,学位取得時期を若手研究の応募要件とする場合につきましては,約4割の機関が学位取得後10年程度が適当ではないかと選択しております。
 また,別の4割につきましては,年齢要件と学位取得時期の組合せ,それから,学位取得は分野によって相当異なるため,一律には応募要件にできない,あるいは年齢のままでよいという御意見がございました。
 20ページには,我が国の主要な若手研究者を対象とする支援事業における概要をまとめてございます。年齢による制限では,最先端・次世代研究開発支援プログラムの45歳を除きまして,おおむね39歳,40歳といったところかと思います。
 なお,特別研究員につきましては,ここには簡単にまとめてございますが,例えば人文社会学につきましては,所定の単位を修得の上,退学された,満期退学の方も,3年未満につきましては資格を認めているですとか,分野によって柔軟なやり方をしてございます。
 それから,このページの下2行は,参考といたしまして海外の事例,NIHの若手研究者向け支援事業の形成率と,それからEUでのERCによるスターティンググランツの概要を載せております。どちらでも,むしろ生物学的な年齢による要件というのは設定してございませんでした。
 それから,21ページ,22ページは,科研費の研究種目別の費目構成比のほぼこの10年間での変化です。全体で見ますと,21ページの一番左のグラフでございますが,人件費・謝金は11%から23%に増加しまして,物品費が77%から57%に減少しております。特に,その右の方に行っていただきまして,特別推進研究,新学術領域研究,それから,基盤研究(S)といった大型種目におきまして,人件費・謝金,その他の割合が高くなっております。
 22ページに行っていただきまして,一方,基盤研究(C)や若手研究(B)といった種目では旅費が3割を占めるとともに,基盤研究(B)では人件費・謝金,旅費で配分額のほぼ半分を占めてございます。
 それから,23ページでございますが,本日も少しお話が出ましたが,昨年の研究費部会で行いました若手研究者からのヒアリングでも重複制限の緩和ということについて言及がございました。現在の若手種目と一般種目の重複制限につきましては,若手研究(A)は,新学術領域は除きますが,挑戦的萌芽研究には応募できるが,若手研究(B)及び基盤種目全てに応募できない。若手研究(B)は,加えまして挑戦的萌芽研究にも応募できないということになっております。
 なお,昨年度から募集しております特設分野研究につきましては,若手研究(A),(B)との重複応募が可能となっております。
 続きまして,資料5-2,「若手研究者の育成のための科研費改革について(論点)」を御説明いたします。まずこれまでの議論の経緯をまとめてございますが,この研究費部会におきましても若手研究者の支援というテーマにつきましては,過去,何回も取り上げております。特に第5期の研究費部会でございますが,平成22年7月におまとめいただきました報告書で,若手研究者支援につきましては包括的な議論を相当していただいておりますので,まずそちらを御紹介いたします。
 この平成22年の報告書におきましては,科研費における若手研究者支援の意義等につきまして,最初の丸にございますように,若手研究者が研究活動を始める段階で研究の機会を幅広く与えるために支援を行うとともに,できるだけ早い段階でより円滑に基盤研究に移行していくことができるように枠組みを構築していくことが必要であるとされてございます。
 その下の四角のところに具体的な方策の御提案がございますが,まず1),若手研究(B)につきましては,若手研究者の研究活動を奨励する重要な研究種目として,他の研究種目よりも高い採択率を維持するように,又は30%の採択率の確保に向けてということがございます。これは現在,先ほどデータを御紹介いたしましたように,実現していると考えております。
 それから,3),4)が若手研究(A)の見直しの方向性でございますが,若手研究(A)につきましては,基盤研究の中に位置づけるべきであるということ。それから,その場合に,基盤研究(B)の中には若手に対する優遇措置を講じる必要があるのではないかということが御提言されております。
 1ページめくっていただきまして,6)でございますが,平成22年のころにちょうど政権交代で仕分などもございました関係もありまして,若手研究者等の間で将来の支援についての不安が広がっている状況を踏まえ,若手研究(A)を基盤研究に位置づける時期については十分にその影響を踏まえて決定すべきであるということ。
 それから,その他若手研究(S)については,基盤研究とのバランスから様々な課題があり,今後も厳しい財政状況が続くとすれば,新規募集を停止すべきであるという御提言がございます。
 それから,昨年度,第7期の研究費部会でおまとめいただきました審議の報告,中間まとめでございますが,こちらにつきましては,先ほど吉田先生から少し御意見も頂きましたが,研究者のキャリアパスのモデルを示しながら,科研費改革の基本的な方向性の1つとして,優秀な研究者が所属大学や,年齢,性別などの属性に関わりなく,自らのアイディア,構想に基づいて継続的に学術研究を推進できるようにするという観点から見直し,科研費における重複制限の在り方の見直し,早期終了や,最終年度前年度応募の活用,それからライフイベントに配慮した優れた研究の積極的な支援,その他,いろいろなことを支援する必要があるとされています。
 その下の2ポツ,若手研究者の育成に向けた科研費改革の視点といたしまして論点を事務局として整理いたしました。まず現状のまとめでございますが,こちらにつきましては,先ほどデータの御紹介などもございましたので飛ばしまして,3ページ目の矢印の部分に幾つかの論点をまとめておりますので,そちらから御説明いたします。
 1つ目でございますが,過去の議論の経緯やいろいろな現状の課題を踏まえまして,科研費において若手の自立と研究者としてのキャリアパスの確立を支援するためには,独立の際のスタートアップ経費,それから,活動基盤を確立し,より発展的な研究に挑戦するための研究費支援を重点化していくことが効果的ではないか。
 2つ目としまして,そのため,若手種目,基盤種目全体を通して,若手研究者の成長を支援し,挑戦を引き出しつつ,基盤研究へ円滑に移行する仕組みの構築が必要ではないか。
 3つ目,一方,若手研究者の健全な競争を促しつつ,安定的に研究活動に取り組み,自らの発想を生かした研究に挑戦することを可能とするために,重複制限の在り方,それから,研究機関の柔軟化について見直しが必要ではないか。
 4つ目,このような研究費の獲得が研究機関における若手研究者の処遇と結び付くような仕組みが望ましいのではないか。
 その下に検討を要する課題例を6つ挙げております。1つが,独立する若手研究者へのスタートアップ支援。2つ目が,若手種目,基盤種目の全体的な再構成。こちらには若手そのものの定義,支援対象範囲というものも含まれてくるかと思います。それから,若手種目における採択率の向上,あるいは在り方。それから,基盤研究(C),若手研究(B)において基金化を活用しまして,研究機関を柔軟化していくこと。それから,若手の挑戦を促すことに向けて重複制限の在り方の見直し。それから,今後の研究展開に生かしていただくために審査結果のフィードバックをすることを少し考えてはどうかということでございます。
 それから,若手研究者の支援には研究機器の共用が効果的であるという御意見を鍋倉先生などから頂戴いたしましたが,こちらにつきましては,1点付言いたしますと,この研究費部会とはまた別の競争的研究費の改革に関する検討会というものを現在進めてございまして,ちょうど前回,先週の金曜日ですけれども,間接経費を活用した研究機器の共用の議論というものを進めてございます。専門の支援員の配置も含めまして,機器の共用は若手研究者の御支援にもなりますし,その他,例えば海外から外国人の研究者を呼んでくるときの助けになるのではないかとか,そういう御議論を頂いたところでございます。
 以上でございます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。若手支援を考える上で大事なデータと今までの審議の経過等をまとめていただきました。
 申し訳ありませんが,時間が早く過ぎてしまいましたので,時間の関係で, 6時15分まで議論をしまして,それでは不足なのは分かっておりますので,議論を更に深めることは次回に持ち越したいと思っております。15分からは最初に申し上げました日本学術振興会から分科細目の話を報告していただきます。それでは,今,文科省の方からも説明いただきました若手支援のことにつきまして御意見を賜りたいと思います。

【西尾委員】
 平田先生からの説明で,大分ショックを受けましたのは,拠点ではない地方大学ではデュアルサポートシステムはもう機能してないということです。教授1人当たりの年間の運営費交付金,つまり,基盤経費による研究費が30万円であるということは,ショッキングなデータでした。特に,デュアルサポートということの重要性を審議した特別委員会の主査を務めた者として,この現況というのは相当深刻なものと考えています。そこで,このように深刻な状況であるということを,平田先生には世にどんどん出していただくことをお願いします。その上で,科研費との関わりでいきますと,基盤経費である程度の取っ掛かりのところまで研究成果を得て論文等の実績を積み,それから科研費に申請するというようなプロセスが従来の状況だったと思いますが,基盤経費が枯渇してしまっているので,そのような状況が成り立たなくなってしまっています。いわゆる学術研究を進める苗床がもう枯れてしまっているわけです。そうなるとどういうことが重要かと申し上げますと,挑戦的萌芽研究のような論文リストがない形でも,記述内容の独創性がしっかりしていれば科研費が獲得できるというようなことを,デュアルサポートシステムの構築の観点からも強力に拡充していくことが重要と考えます。デュアルサポートシステムを構築していく上での現実を踏まえた工夫が求められる中で,一つの改善策になるのではないかと切実に感じました。
 実を言いますと,私はJSTの研究主幹を務めておりますが,さきがけなどの審査においても,論文リストにこだわらずに,書いてある内容で採否を決めていきましょうということを強力に進めつつあります。ですけども,それを実行していくのはなかなか難しい面もあり,特に,審査員には卓越した目利き力が求められます。それでも,そういうことが今後重要なのではないかと考えております。以上です。
【小安委員】
 全くおっしゃるとおりだと私は思います。それともう一つ,平田先生がおっしゃったことだと思いますが,やはり研究費の切れ目の問題というのはすごく大きくて,重複制限というのをもう少し考え直した方がいいかもしれないと思っています。若手だけに限って重複制限を議論するというのは,これは全然ロジックが違っていると思います。やはりどこの国でも基幹的なグラントをオーバーラップして取っていくことで安定的に研究室が進むというのはある意味当然のことになっています。もちろん3つも4つもというのは普通許されませんが,ある程度のオーバーラップは許して,きちんと研究室が運営できるという姿をどこかで考えなければいけないと思います。
 それから,もう1点は,最初にも申し上げましたが,独立という表現をしたときに,独立の意味が分野によって全然違っている点です。人文社会系でしたら,本当に大学院の間から独立して1人でやっているけれども,それ以外の分野,例えば私は生命系にいますが,そこだと,大学院が終わってすぐに独立というのは非常に違和感があって,やはりある程度のトレーニングを積んだ上で独立するという,そのスタートの時点が随分違います。科研費というのは,全ての分野を同じルールで作っていくということが一番の基盤にあるので,ここをどういうふうに考えるかということも議論しないと,なかなか全ての分野をきちんとサポートするということは難しいのではないかなと思います。

【白波瀬委員】
 1点基本的なところで,私が人文社会系なので,先生方のお話と少し想定するところが違っているかもしれませんが,まずはやはり若手の研究者を支援するという場合には,2つのポイントがあって,1つはスタートの時期です。皆さんキャリアが浅いので,最初に助けてあげる必要があります。
 もう一つは継続性ということで,これについては,吉田先生や平田先生からも御報告の中で御指摘がありました。さて,若手の方から継続性ということについてどういうようなニーズがあるというふうにお考えでしょうか。つまり,ここで言いかえれば,継続性は重複ということとも実は概念的には非常に密接だと思うのです。つまり,若手の中でも勝ち組を作っていくというか,だけども,その概念というのは,次の日本の学術の方向性の多様性という概念からすると,もしかしたら相容(い)れない側面があるかもしれない。過去の業績とは独立のところで審査をしようということを今の御提案でも試みられているようです。ただ,そのときに,若手としては,継続性というのは,やっぱり1の次は2という形で積み上げる形で欲しいのか,あるいは,複数時点で,1回負けてもまた勝てるという,そういう複数のチャンスの提供を求めているのか,その辺りはどういうふうにお考えでしょうか。

【吉田准教授】
 今の若手の支援のシステムからいうと,バランスが必要だと思います。学問の多様性がいつでも生まれていくようなものを担保しつつ,継続性も確保するという,両方です。だから,どちらかに偏ってはいけないと思うのですが,今のシステムの在り方は,継続性の方が足りないという方向に向かっているのではないかと私自身は感じています。
 例えば挑戦的萌芽研究という種目がありますが,もちろんシーズを生んでいくのは非常に大事で,これは若手もシニアも全然関係ないわけですが,本当にシーズとして機能していたかということをちゃんと日本学術振興会なりが検討すべきだと思います。シーズが育ち,その上の例えば基盤研究(B)とか,より大型のところに行っているのか。私の生態学の分野の中でいうと,挑戦的萌芽研究で採択されるような中身をちゃんと,タイトルぐらいしか見ていませんが,どちらかというと基盤的な研究費さえあれば,挑戦的萌芽研究はなくてもどんどんシーズが生まれていくと思います。継続的にラボが運営できていれば,研究者というのは新しいことを見つけるというのが商売ですから,どんどん新しい芽は生まれていくと思います。そういう意味で,挑戦的萌芽研究に投資することが本当に役に立っているのかどうかを再検討しつつ,基盤的な研究費がより長期的に継続して,いいラボに,ちゃんと研究費が途切れないような,さっき平田先生の話にもありましたが,平田先生のラボがちゃんと継続できるような基盤的な研究費みたいなものの在り方ということを是非考えていただきたいなと思っています。

【高橋委員】
 私自身は,業績を無視して評価するというのは余り賛成しないです。前にも1年ぐらいそういう企画がありましたが,全然よくありませんでした。きちんと論文を書いて,論理性があって,実行力があって,計画性があるというのは,やはり大切なことです。ただ,おっしゃりたいのは恐らく,金のあるものだけがぶくぶくと太っていくというようなことは,それはもうゆがんだ社会ではないかということですよね。それを私たちは新しいところに持っていって,今まさしくおっしゃったこと,そこが全てだと思います。私は極論を持っていて,平均点ぐらいから上に全部お金を回して,好きなことをしなさいと言ったら,日本の学術は一気に世界1位になるという持論を持っています。なぜかそれが受け入れられないのですが,そういう意味で,いかがでしょうか。
 これから日本学術振興会からの御提案も賜るらしいので,少し勇み足で申し訳ありません。もう一発過激な意見を言うと,私は特別推進研究は廃止した方がいいと思います。あるいは,前から言っていますが,JSTのERATOなど極端に大きな研究費は,今本当に必要なのでしょうか。バブルのときはいいです。でも,こうやって若手が苦しんでいる。忘れてほしくないのですが,50代も苦しんでいるのですよ。ラボがどんどん閉鎖していって,そして研究費すらなくなると,そのラボの学生は教育できないということですから,大学と国家にとってものすごいマイナスです。そういうことを考えるべきです。こういう惨状において,科研費の在り方に関して何とか知恵を出そうというときに,その一方で,今までの10人のポスドクの雇用費に特別推進研究が要るのだと言っている。しかも,詳しくは言いませんが,特別推進研究の多くは固定客で,先ほどのグラフ見てびっくりしたのは,60歳から65歳の科研費が一番多かったですね。70歳になっても多いですね。私は特別推進研究の審査をしていましたからよく分かりますが,本当に必要なのかということです。つまり必要ないということです。では,そこをぽっと若手に持ってきてやるというのが,言うほど簡単でないのはよくよく分かった上で言っていますが,考え方として,そういうような改革はどうかなと思います。
 挑戦的萌芽研究は,今はびっくり仰天するような申請書を書かないと,挑戦ではないのではないかと。本当は,これは当初の計画と違うんですね。あらま,びっくりを書かないといけない。これはやっぱりおかしいんですよ。今おっしゃったことがまさしくそうで,ずっと私たちは失敗も成功も繰り返しながらも,新しいことのために生きているような人種を,その本能をそのまま育てることこそが日本の学術のためになる。科研費はそのお金でないと駄目だということです。

【佐藤部会長】
 どうも高橋先生,ありがとうございました。特別推進研究の生物分野の問題はよく知られている課題ですね。それでは議論はこれで終わりにしまして,次回に回したいと思います。
 それでは,日本学術振興会から分科細目についての報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【山本主任研究員】
 それでは,科研費の審査方針の改善につきまして報告いたします。資料6を御覧ください。現在,学術システム研究センターを中心に科研費の審査方式の大幅な見直しを検討しております。これは平成30年度に向けた,系・分野・分科・細目表の見直しという中で出てきたことではありますが,その中で,こちらの審査部会の方から,これまでの分科・細目表に基づく審査というのは,いかに審査を公平・公正に行うかという観点で行われてきて,見直しが行われてきているのですが,今後は学術動向の変遷に即した審査を行うために適したものとなっているか,またこれまでの分野の枠に収まらず,新たに伸びていく研究を見いだせるかというような観点も重要視していく必要があるのではないかという御指摘も頂き,そういうことを踏まえて,本来コミュニティーとして科研費の審査をどういうふうにしていくのがベストであるかという幅広い議論を行いつつ,新しい審査方式を検討しております。
 ポイントは2つありまして,1つは競争的な環境で優れた研究課題を選んでいくということ。2つ目は,審査方式を改善することで審査の質を高めるという点でございます。
 御存じのとおり,現在の科研費の審査体系は,昭和43年に原形を持つ,いわゆる2段審査と言われているものでございます。平成30年度をめどに,ここで使われていた系・分野・分科・細目表というものを一旦廃止し,新たな審査区分表を作成するということを考えています。これは科研費の歴史始まって以来の大きな審査方式の変化になるかと思います。
 大型研究種目,先ほど少しお話も出ました特別推進研究でありますとか,新学術研究,それから,基盤研究(S)に関しましては,そこに書きました大型種目の改善検討というところに入るのですが,これに関しては現在検討中でございまして,先ほど頂いた意見も踏まえまして,どうあるべきかということを考えているところです。
 今日,中間報告としてお話しできるのはその下の部分でございまして,基盤研究(A),(B),(C),挑戦的萌芽研究,若手研究(A),(B),これに関しましては,現在御存じのとおり,321の細目がございます。実際は432の審査区分で審査が行われています。それが全て同じように2段審査で行われているところでございます。
 それをやはり学術の多様性に配慮しつつ,競争的な環境で審査を行えるように改善することを考えています。特に基盤研究(A),それから若手研究(A)は,額も高額ですし,それから,応募件数も,細目によっては10件に満たないところがたくさんございます。そういうところで絶対的な評価で選んでいても,隣の細目と比べたらどうかということがあります。
 したがいまして,60件程度の応募件数をめどに,複数の細目を束ねた規模での相対評価が可能な審査区分を設定します。これが中区分と申し上げているものでございます。中区分の数は70個程度になる見込みでございます。それで,相対評価によって,少し広い範囲の学問分野の中で,その中で優れた研究課題を見いだしていくということを進めるというのが第1のポイントです。
 第2は,丁寧な審査ということですが,それには特設分野研究でも既に始めている総合審査方式を導入します。これは第1段審査の書面審査と,合議審査を同じ人がやるというものです。1件1件について議論を戦わせながら,ちゃんと読んで,議論を戦わせながら採否を決めていくということで,審査委員間の徹底的な議論のもとで本当に重要な課題を選んでいく方式です。さらに,採否は議論して決めますので,審査コメントをフィードバックすることができますので,そういう意味での研究計画の見直し等にもサポートになるかと思います。
 今回の改革の一番大きなところはこの基盤研究(A),それから,若手研究(A)に対する中区分の導入でございまして,これが実現するということで,かなり研究者の意識も変わってくるだろうということが期待されます。
 一方,基盤研究(B),(C),挑戦萌芽,若手研究(B),比較的小規模の研究につきましては,小区分での公募と書いてありますが,これは今想定しているのは,大体現在の細目クラスの規模です。これらは,既に十分相対評価が可能な数の応募がありますので,そういうものの中で学術の多様性と広がりに柔軟に対応するような審査を行っていきたいと思っています。
 ただ,審査方式としては,2段審査の合議審査ではなくて,書面審査を2回やるような,審査委員同士が電子システム上でダブルチェックする方式を採用することを現在検討しております。
 小区分の数,あるいはその内容については,詳細検討中で,およそ平成27年度中に全体像を取りまとめまして御報告する予定でございます。以上でございます。

【佐藤部会長】
 山本先生,どうもありがとうございました。今の日本学術振興会で検討していただいております審査の区分の仕方,説明いただいたような改革を進めようということでございます。時間も余りありませんが,質問,御意見等,委員の皆様からいただければと思いますが,いかがでしょうか。
 このような方向は,今までも議論されて,むしろ研究費部会としても日本学術振興会の方にお願いした件ではございますけれども,その方向の具体的案ができつつあるということでございます。
 特にございませんでしょうか。
 それでは,今日の審議はこれで終わりたいと思います。

―― 了 ――

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