第8期学術情報委員会(第8回) 議事録

1.日時

平成28年10月18日(火曜日)15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.議題

  1. 「学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)」に係る施策の実施について
  2. その他

4.出席者

委員

西尾主査、逸村委員、井上委員、岡部委員、加藤委員、北森委員、喜連川委員、久門委員、高木委員、竹内委員、辻委員、美馬委員

文部科学省

(学術調査官)越前学術調査官
(事務局)小松研究振興局長、板倉大臣官房審議官(研究振興局担当)、橋爪科学技術・学術戦略官(制度改革・調査担当)、榎本参事官(情報担当)、渡邊学術基盤整備室長、玉井学術基盤整備室参事官補佐

オブザーバー

安達国立情報学研究所副所長

5.議事録

【西尾主査】    それでは、時間になりましたので、ただいまから第8回学術情報委員会を開催いたします。
  皆様方、本当に御多忙のところ御参加くださいまして、心よりお礼申し上げます。誠にありがとうございます。
  本日は、審議に関わる御説明を頂くために、日本学術会議オープンサイエンスの取組に関する検討委員会の土井美和子委員長と、京都大学図書館機構の引原隆士機構長に御出席いただいております。どうかよろしくお願いいたします。
  それでは、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。
【玉井学術基盤整備室参事官補佐】    資料の御紹介をいたします。
  皆様の机の上にクリップで留めました資料に、座席表に続きまして議事次第がございます。議事次第にありますように、本日は配付資料として資料1から6、また机の上のドッチファイルの方に入れておりますけれども、机上資料として11のものを用意しております。
  以上です。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。もし資料の不備等ございましたら、事務局の方にお申し出いただければと思います。
  それでは、審議事項でございますが、まず学術情報のオープン化の推進に係る施策の実施について、事務局より説明をお願いいたします。その後引き続いて、土井先生から日本学術会議のオープンイノベーションに資するオープンサイエンスの在り方に関する提言について御説明いただき、あわせて意見交換をしたいと考えております。
  それでは、榎本参事官、説明をお願いいたします。
【榎本参事官】    まず私から、基本的な考え方を述べたく思っております。私から3点、大きくお話しできればと思っております。
  まず1点目といたしまして、この資料1を少し眺めながらお聞きいただければと思っております。本年2月に審議まとめを取りまとめていただいております。オープンサイエンスは、この審議まとめも踏まえまして、もう検討の段階から実行の段階にあるという認識でございます。第5期の科学技術基本計画でも、基本計画の中で今回初めてオープンサイエンスという単語が入ったところでございます。こうしたことを受けまして、案段階ですが、今後5年程度の実行計画を次の資料2のとおり作成をしているところでございます。文部科学省内におきましても、研究振興局のみならず科学技術・学術政策局と一体となって、このプロジェクトに取り組もうとしているところでございます。そうした文脈の中で、今日はその進捗状況の御報告、それから関連いたします取組の状況も御報告いただきながら、御議論いただければと思っています。
  2点目といたしまして、こうした実行の段階でありながらも、オープンサイエンスは国際的な文脈の中で考えていく必要があると考えております。これも後ほど御報告いたしますが、今年のG7で議題となっております。また、そうした政府レベルにとどまらず、ファンディングエージェンシー同士、それから様々な民間レベルの規格・標準に関する検討もございます。政府レベルと、それ以外の国際的な議論の双方に日本としてしっかりと参画しながら、オープンサイエンスの推進に取り組んでいく必要があると考えております。
  3点目といたしまして、今度は国内でございます。国内のオープンサイエンス推進に関しては、より一層丁寧な議論を積み重ねる必要があると考えているところでございます。先ほど述べましたとおり、オープンサイエンスは基本計画に言葉として入っておりますし、様々な検討、議論も始まっているところでございます。一方で、日本の研究者コミュニティ全体を見た場合には、まだまだその考え方、あるいは具体的なところにおいて考え方が完全に共有し切れていないところもございます。そうしたことも踏まえまして、しっかりと進めていくということを前提に、研究者の方々への丁寧な説明、関連する機関との緊密な連携を通じて、2月にまとめていただきました審議まとめを実行するに当たっての様々な留意点に配慮しながら、実行に努めていきたいと思っております。
  この後引き続き、室長から、現時点で用意しております論点整理を御報告いたします。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。今、榎本参事官がおっしゃったところが大変重要なポイントで、今後どのように具体的に進めるかという点、現在、非常に重要なタイミングになっているということだと思います。
  それでは、渡邊室長、説明をお願いいたします。
【渡邊学術基盤整備室長】    それでは、関連の資料に基づきまして御説明申し上げます。
  まず資料1でございますが、これは今、榎本参事官の方からお話がありました趣旨でございます。今日の御審議といたしましては、具体的な施策を進める上での方向性、あるいは留意すべき点等について御審議いただければと考えております。その際の主な観点として、5点挙げさせていただいております。
  1点目は、データの流通をめぐる国際的な対応ということで、戦略性を持った各種プラットフォームの構築等々について対応していく必要があるという点です。
  2点目は、研究者コミュニティにおけるデータ戦略についてです。後ほど日本学術会議の検討状況についても御報告いただきますが、これらを含めまして、コミュニティにおけるクローズド戦略あるいはデータ戦略といったものをどう進めていくかという点です。
  関連しますが、コミュニティにおけるデータ公開のインセンティブについても以前から議論がございました。このインセンティブ付与を実行していくという点が3点目です。
  4点目は、データ公開と義務化についてです。海外では、研究資金配分機関における公開義務化の議論、あるいは実際の行為が進展しております。我が国における原則義務化の方向性を検討する際にも、この点を踏まえて御審議いただければと思っております。
  5点目は、大学等におけるデータの管理についてです。データ管理の重要性については御指摘いただいているとおりでございますけれども、大学等における組織的なデータ管理体制を構築するといった点から御議論いただければと思っております。
  こうした点を踏まえた御審議をお願いできればと思っております。続きまして、資料2を御覧いただきたいと思います。オープン化に係る施策等についてでございます。
  1ページ目に、オープン化推進に係る工程表の案を示しております。左側、ローマ数字の1から5の項目は、審議まとめの事項に対応しております。1、論文のオープンアクセス、及び2、エビデンスデータの公開、これは両方とも、研究資金配分機関における助成に当たってのポリシーの策定を進めることとしております。またエビデンスデータの公開は、審議まとめでも御提言いただいておりますデータ管理計画の導入を進める方向性、あるいはデータ基盤の整備、研究コミュニティにおける検討の促進などを位置付けております。
  2ページ目ですが、これは平成29年度概算要求に係る事項です。まず科学技術振興機構(JST)の情報事業では、オープンサイエンスに対応するため、左から、電子ジャーナルプラットフォーム、研究者情報の流通、研究成果、この場合は論文の書誌情報や特許情報などの統合検索サービス、この3つの事業について要求しております。3から5ページが各事業の内容ですが、特に3ページの電子ジャーナルプラットフォーム、J-STAGEについて、左下にありますように国際標準の機能強化、あるいはデータジャーナルへの対応などに着手するということで要求しております。
  ページ飛びまして、5ページ目です。論文情報の統合検索サービスの事業ですが、これにつきましては、下にあります研究情報と研究データ、研究データ情報との関連付けを進めるための基盤整備を行うということとしております。
  続きまして、6ページ目でございます。オープンサイエンス推進のための研究データ基盤の整備、これは国立情報学研究所(NII)の事業として要求しております。必要性ですが、3点掲げております。1点目は、データを利活用できる状態で管理、公開する必要があること。2点目は、海外のプラットフォームに依存する状況を変える必要があること。3点目は、長期的な保存の必要性について示しております。NIIと大学が連携し、クラウド環境を活用しながら整備を進めることを想定しております。
  続きまして、7ページ目を御覧いただきたいと思います。概算要求から離れますが、研究資金配分機関におけるデータ共有の推進方策についてです。JSTの実施例を紹介したいと思います。左から2つ目の欄ですが、JSTではデータマネジメント実施方針を公表しております。この中で、28年度以降採択された領域代表者からデータマネジメントプランの提出を受け、このプランに沿ったデータの保存、公開を実施することとしております。
  8ページ目を御覧いただきたいと思います。日本医療研究開発機構(AMED)の例でございます。こちらも取扱いとしてはデータマネジメントプランを基軸にデータの公開を進めていくということですが、公開の方法、あるいは公開のタイミング、いわゆるエンバーゴについても規定されております。データの公開につきましては、こういった事例も踏まえまして取扱いを拡大していくという方向性を考えているところです。
  続きまして、9ページ目を御覧いただきたいと思います。オープンサイエンスをめぐる国際的な動きです。これまでの審議で整理いただいた内容をまとめております。その中で1点、先ほどお話にありましたG7のつくばコミュニケについて御紹介したいと思いますが、これについては12ページを御覧いただきたいと思います。このページの下段で2点、オープンサイエンスに関する作業部会の設置と、インフラ整備などにおける国際連携について触れられております。冒頭にもございましたが、G7間での議論が進む中で、文部科学省といたしましては、G7の窓口となっております内閣府と連携する中で、こうした国際的な観点も踏まえた対応をとりたいと思っております。従って、このような観点からも進めるべき施策について御意見を頂戴できればと考えております。
  続きまして13ページ目ですが、13ページ以降は、大学・研究機関等におけるデータ共有の状況について、データベースをピックアップして、各機関におけるデータ取扱いの事例を整理したものでございます。また、飛んで恐縮ですが、19ページ目です。これは学術出版大手のエルゼビアが、著者に論文関連データをリポジトリに登録することを推奨している例を示しております。審議に当たって御参考にしていただければと思っております。
  続きまして、資料3を御覧いただきたいと思います。学術情報のオープン化に係る研究データの公開等について(案)です。この資料ですが、1の趣旨にありますように、論文とエビデンスデータは原則公開の方針を示しておりますが、一方で、データについては全て公開ではありません。今後施策に反映していくことを念頭に、この公開に係る取扱いについて基本的な事柄を事務局において整理したものです。2の(1)に、公開及び非公開の考え方ということで記してありますが、これは審議まとめで御提言いただいた内容と同様の記述です。
  2ページ目をおめくりいただきたいと思いますが、2ページの2に公開及び非公開の区分とあります。この非公開、公開の区分は、公開と非公開の間に制限共有、あるいは制限公開といった区分もあり得るということです。あるいは、3ですが、ここではいわゆるエンバーゴを設定すること、次の4で民間企業との共同研究における対応といった基本的な事柄について整理しております。なお、3ページにあります、3データ管理規則等については、データ管理規則の位置付け等について整理しているものです。
  私からの資料の説明は以上です。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。
  それでは、今の説明に続きまして、土井先生から、日本学術会議での検討結果の提言について御説明いただきたく、お願いいたします。
【土井情報通信研究機構監事】    ただいま御紹介いただきました、日本学術会議オープンサイエンスの取組に関する検討委員会の委員長をしております土井と申します。この学術会議の委員会では、今回、こちらの委員会でもいろいろ御審議を頂いておりますけれども、オープンサイエンスという中でも、この内閣府の取りまとめた資料の中でいいますところの研究データの共有、またそのオープン化に力点を置いて検討させていただきました。
  内閣府、文部科学省でいろいろ御議論された結果も存じ上げておりますが、学術会議といたしましては、研究者のコミュニティ、また行政の皆様から御意見を頂くということで、渡邊室長にも御意見を伺い、またこちらの委員であります高木先生にも2回ほどお話を伺いました。さらに、人文学とか社会学におけるオープンサイエンスに関する御意見を、当時の文化庁長官の青柳先生などにお話を伺って、この取りまとめを行いました。
  海外動向は既に色々と御存じと思いますので、さっと飛ばせていただきますが、1つ学術会議に関わることがございます。国際科学会議(ICSU)とインターアカデミーパートナーシップ(IAP)、国際社会科学研究評議会(ISSC)、世界科学アカデミー(TWAS)、4つの大きな科学技術の団体が組みまして、オープンデータに関するプリンシプルというのを出しております。学術会議はこれに同意をするかという意向調査を受けておりまして、まだ同意をしてはいないのですが、これから同意するかと思います。
  あともう1点、ほかと違う取組としては、学協会へのアンケートを行いました。学術会議には2,000以上の協力学術団体が登録されております。本来であればそこにアンケートを行いたかったのですが、予算の関係で、関連学協会にアンケートを実施するという形で行いました。学協会の中には、地球惑星連合のような連合体もありまして、回答は個別の学協会から頂いております。そのため、正確な回答率というのは出せないのですが、過半の学協会は、論文とか論文に関わるデータ、データベース等のデジタルデータを既に公開されています。半数程度の学協会では、研究者個人が持たれているデータは、きちんとフォーマットや様式を共通化することで価値を生むものだというのは認識をされております。ただし、過去5年の間にオープンサイエンスをテーマとしたイベントは、あまり開催事例が多くなく、1割程度でありました。とはいえ、半数近い学協会がオープンサイエンスに非常に興味を持っていただいて、自由意見を書き込んでいただいております。そういう意味では、ほとんど自由意見が書き込まれないのが多いアンケートの中で、半数以上がきちんと意見を書いていただいているという点は大きいと思っております。そういう中で、例えば人文系や社会系では、自分たちでデータを集めても、それをどうやって運営していいか分からない。特に、先ほども御指摘がありましたけれども、非常に学会としてスケールが小さいので、そういう小さな学会で個人情報・プライバシー保護、サイバーセキュリティー対策などを全部担保することは難しい。だから、誰かに頼んでデータを預けることができるのであれば、という御意見も頂いております。
  論点整理としては、まずデータに関して、議論されているデジタルデータのほかに、ウエットデータというものがあります。実際にウエットデータも合わせて配っているところとしては、創薬等支援技術基盤プラットフォームというものがあります。データは、生産、流通、活用という場面があります。オープンの意味は、先ほどセミクローズド、セミオープンという話がありましたが、よりオープンにすることが重要でありまして、そのためのガイドライン、オープン・クローズの戦略をどうするかということが1点目の論点です。
  2点目といたしましては、やはりインセンティブが必要ということです。論文化ができるとか研究成果の再利用ができるとかいうことのほかに、より新しいインセンティブとして、分野横断ができるのではないかということを取りまとめております。一つは、例えば古文書に六百何十年前に大きな地震があったということが書かれていて、そこを土木系の研究者の方がシーリングしてみたら、実際に地震があったことが地層から分かったというような、分野を超えたものや、ヒット化合物のライブラリーと創薬を合わせるというような話です。あるいは、社会実装として、公的データとウェブにあるような、ソーシャルネットワークにあるリアルタイムのものを組み合わせていくことで都市計画としてやっていくといったような、そういう新しい分野横断も、これからのオープンサイエンスの新しい論点であると考えております。
  問題は、もう一つのコストにあります。デジタルデータというとお金が掛からないように思われる方もいらっしゃるのですが、掛かります。もちろんデータを生産するためにも掛かりますし、流通させるためにも掛かりますし、流通するための標準化に研究者の方々が非常に多大な負担をされています。また、それを保存することにもお金が掛かります。本当に活用とバランスのとれたコストになっているかという点は考えていかなければなりません。分野別に考えてみると、データの生産性のコストが高いところでは、なるべくそれをみんなで共有したいということで、オープンのポリシーとしては占有期間を設けるというものがあります。データ生産性のコストが高いので、なるべく多くのデータをみんなで共有しようということです。一方、商用性・活用性が高いものをブリッジングデータと呼んでいますが、そのオープンポリシーには実際に占有期間の話もありますし、それよりは知財、特許がきちんと取れているか、あるいは、ごく限られた人たちと共有関係、実際に共有する、というような形になります。このあたりを、それぞれのデータの特性を踏まえて議論していく必要があります。
  こちらのデータは、国立天文台の大石先生から提供していただいたものですが、バーチャルオブザーバトリー(仮想天文台)ということで、実際にデータを取得する、観察するというところには全く関わらずに生み出されていく査読論文がきちんと増えているという話もあります。一方、イギリスのバイオのデータに関しては、第三者の機関に依頼して、実際に自分たちの集めたデータはどれくらい価値があるかということのレポートを出しております。投資は、一番左側なのですが、年間4,700万ポンド投資しております。アクセス利用額は、詳細は不明ですが、これくらいのお金はちゃんとあるよという話があります。社会に関しては、より広くインパクトがあることを、あえてまとめて、きちんと出すということもやっております。また、新しいものとしては、データを共有するだけではありません。例えば脳科学では、私が所属しております情報通信研究機構と、あるいは内閣府のImPACT、また理研やATRなど、こういう脳科学に関わっているところできちんと、どういう実験をやったらいいか、その実験をやるための刺激のデータセット、計測されたデータ、更に解析されたデータ、そういうものを共有していくことで、民間も交えて、良いデータを取得し、製品化を加速していこうという試みもあります。つまり、研究成果だけ、研究データだけではなく、そのプロセスも共有していくという方向性も出てきております。
  そういうものを取りまとめまして、提言としては3つ出させていただきました。1番目が研究データ基盤です。2番目が、研究コミュニティでそれぞれ性格が異なっておりますので、データ戦略を確立しないといけない。3番目がデータ生産者及び流通者です。実際に論文を書くということができず、なかなか研究者としての成果が上がらないということでキャリア設計がまだ成り立っていない方たちのキャリア設計をどうするかという、この3点を挙げさせていただいております。1番目は内閣府と文科省に対して、2番目が学術団体に対して、3番目が文科省に対して出させていただきました。実際にこの提言は7月に既に公開されておりまして、先ほどお話のあった内閣府からも要望を頂きまして、英文化もされております。英文化されたものは、先ほど御紹介のあったG7のワーキンググループの方で御活用いただくということになっております。
  本日ここでは、残りの時間で、研究データ基盤に関して少し補足をさせていただきたいと思います。重ねてのことになりますが、オープンサイエンスを推進する3つの要素は、公開と管理と検索です。公開するということは研究者の責任になりますし、保全する環境をどうするか、10年間という話は研究機関の責任になります。流通に関しましては図書館の責任ということで、機関がみんな、責任の所在が違ってしまうというところが1つ大きな問題であります。これをきちんとリンクさせていく、そういうための基盤が必要であると考えております。先ほどの中でいいますと、流通させるためのところがデータ検索になりますし、公開するためのデータのリポジトリがあり、それに今回はきちんと管理をする基盤というのを設け、それを全部このサイクル、データにとってのライフサイクルをきちんと回せるようにすべきであるという提言であります。実際には、今申し上げているこのデータ管理基盤に関して、もう既に論文やデータを発表する段階になりますと、今はリポジトリに登録をする。これはJAIRO Cloudがあるわけです。その論文を出したときに、ここに登録するわけですけれども、それ以外のデータも実は研究者は抱えております。なので、後々のために、この発表したデータに対して公開をしない分のデータもあるわけで、それは既存のデータとして残るわけです。これがきちんとタイムスタンプで、お互いにリンクを持っている必要性があります。そうすると、こちらはこちらで10年間きちんと残っていくわけです。
  今回の場合は、そういう研究データのライフサイクルをきちんと回すために、それぞれを個別の研究者がやっていくというのは非常に大変ですので、それを回せるようにしたいというものになっております。ちょっと細かいので恐縮ですが、例えば一初めに新しい研究をやってみようとかいう、先ほど申し上げた横断的な研究というのを考えているときに、いろいろなデータベースを検索します。その基になる実験データとか実験方法をもうちょっと知って、本当に自分たちが使えるデータなのか知りたいと思ったときには、公開されているデータだけではなく、そのデータや論文の基になっている、ほかのデータも知りたい。ついてはそういうデータを見せてくださいといったような案内が来るわけで、そのときに、研究されているデータから検索をして、そのデータが見たい。この論文とこの研究データはある。だけど、もっとほかのデータがあれば、そういうものも知りたいと思ったときに、じゃあこのデータはどこにありますかということを検索して再利用するというところが、この管理基盤で保証されている必要があります。
  そういうことを全部細かくそれぞれの機関がやるのではなく、この研究データ管理基盤の上であれば、研究者が最初にデータを作ったときに、最初に作ったときは非公開なのですが、ここから全部、論文ができて、あるいはエンバーゴが終わって、この部分は公開しますとリポジトリの方に登録する。その登録した分と双対の部分は先ほど申し上げたようにこちらに保存されていますから、検索したいといったときには、ある協定を結ぶなり、もう既に全部オープンになっているのだったらオープンになっているという、そのオープン・クローズのポリシーの下に残っているほかのデータも使うということができるわけです。そういうものを考えていきたいと、ここのところでは言っています。
  ですので、今までのデータベースは1つの分野で検索を公開していくということを考えられていたと思うのですが、今ここで申し上げている研究データ基盤は、データポリシーが異なるところでもお互いに検索をして、ある必要な契約を結ぶなどして、更に横断的な研究を促進するということをしたいと考えております。
  こういうことを、先ほどエルゼビアの話もありましたけれども、もう既に海外が進んでいるので、日本で今更やっても駄目じゃないかという御批判も受けます。確かに欧米が進んでいる部分もあります。でも日本が進んでいる部分もありまして、1つは、先ほど申し上げたようなJAIROのような研究機関のリポジトリの普及は、実は世界でも日本は進んでおります。そういうJAIRO Cloudの成功パターンがありますので、そこを基に実際に研究管理を加えていくことで、先ほどの研究データのライフサイクルを回していくというための一角はできている。検索するということに関しては、今までCiNiiやJ-STAGEがあるので、そこはあるということで、それを今欠けているデータ管理のところに加えることでできていくのではないかと思います。ただ、実際にやっていくときに、ユーザーインターフェース、アクセスコントロール、研究データ管理などいろいろなものを作っていかないといけませんが、それを全部日本だけで作る必要はなく、欧米とも共有化できるものは共有化して、日本だけが先行してガラパゴスになるというようなことがなく、欧米ともきちんと共有すべきものは共有してやっていくというやり方で、日本が先行しつつ、世界の共通の研究データ基盤を作っていければ一番良いのではないかということを考えて提言をさせていただきました。
  以上です。ありがとうございます。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。
  それでは、今まで、榎本参事官、渡邊室長、それから土井先生、3名の方々から、資料1から資料4を用いて、御説明等を頂きました。その中で、今、土井先生からは、日本学術会議での動きと、国レベルの研究データ管理基盤を構築していくべきではないかという重要な御提案を頂いております。以上のことに関しまして皆様方と意見交換ができればと思っております。
  その前に土井先生にお伺いしたいのですけれども、この委員会のメンバーが全部の学術分野を網羅しているわけではないので、日本学術会議で御議論いただく際に、各々の学術分野におけるオープン化に関するポリシーをどう定めていかれるかということに関して御議論いただくことが大切であり、この委員会としても期待していたところです。今回の御提言の内容からすれば、これからさらに、より具体的に各々の分野におけるポリシーについての継続審議がなされていくと考えてよろしいのでしょうか。
【土井情報通信研究機構監事】    全ての学協会に対して詰めていくということは難しいと思います。既に先行なさっているようなライフであるとか天文であるとか、そういう分野がありますので、そういうところはあえて学術会議でまた取り上げる必要はないと思います。そうではない分野、例えば、この中で先ほど触れさせていただいたような、研究のプロセスも含めてやっていくような脳情報なども一つ新しいところであります。そういうところであるとか、なかなか学協会の規模が小さいので、どこまでできるか分からないのですが、人文社会系から御意見を頂けないかというのは考えております。それに関しましては、先日、学術会議の総会がありまして、この提言のお話をする機会がありましたが、医療経済の分野のところからは是非こういうのが欲しいと思っていましたという御意見を頂いています。では、すぐそういうオープン・クローズに関するガイドラインの議論ができるかということについて後でお話をさせていただいたときに、やはり具体的に、もうここにデータを入れれば良いというような話があればそこで考えるというような、はっきり言うとデータベースがあるのだったら参加するけど、という話になりました。そこは鶏と卵になるので、そういうところはやはりある程度、こういう先例がありますというのを見せながらだんだん巻き込んでいくというやり方が必要かなとは思っております。
  あともう一つは、やはりプライバシーなどに関しても御質問を受けました。そこに関しても、やはりこの研究データ基盤に乗っていれば大丈夫だというのがだんだん分かってくれば入ってくると思うので、全部を巻き込むというよりは、やはり既に始まっているところもリンクを一緒にできるとか、一緒に進んでいるとできるようなところとか、幾つか先例を作っていけば乗ってきてくださるのではないかと思っております。そういう点で、日本学術会議はその中心になっていけるのではないかと思っております。
【西尾主査】    私ばかりが意見を申し上げて恐縮なのですけど、このポリシーを学術の各分野において早く設定すべきではないかということを考えている裏には、例えば、大量のデータを有している日本の研究所やセンターなどに対して、海外から、データを公開してほしいとか、参照させてほしいという要望を受けたときに、国としてのポリシーがどうなっているのかが分からない状況では混乱してしまいます。つまり、要求されたデータを研究所やセンターのレベルでオープンにしてしまうことが、国益を考えたときに良いことなのかどうなのか、現場サイドで迷ってしまいます。日本の各々の学術分野におけるポリシーを急いで策定しておかないと、今後、海外と研究データに関する学術外交をする場合や、国際共同で研究データ管理基盤を構築していく場合に、日本のデータに関するポリシーがどうなっているのかということが大変重要になります。日本学術会議の場合、全研究分野の研究者の方々がそろっておられますので、そういう観点から我々としても、今後是非検討を続けていただけると有り難いということを思っていまして、先ほどのような質問をさせていただきました。
【土井情報通信研究機構監事】    はい、分かりました。
【西尾主査】    それでは、御意見等ございますでしょうか。
【逸村委員】    土井先生に質問させていただきます。資料4の6ページのところで、学協会へのアンケートをなさったとお伺いしました。機関リポジトリをやるときに、やはりNIIの支援を受けまして、筑波大学、千葉大学、神戸大学、東京工業大学で、2,600ほどの学協会にオープンサイエンスのポリシーを尋ねたことがあります。SCPJというデータベースで公開されている、そちらとの重複の具合というのは何かデータがございますでしょうか。
【土井情報通信研究機構監事】    そこまでは調べられておりません。申し訳ありません。
【逸村委員】    そうですか。Society Copyright Policies in Japan、SCPJでググっていただくとデータベースが出てきて、最近どの程度手が入れられているか、私、存じ上げないのですが、論文のオープンアクセス状況を調べたものです。論文のオープンアクセスとオープンサイエンスは若干異なりますし、以前米国化学会のデータのマネジメントの担当者に話を聞いたことがあるのですが、論文は論文、データはデータと、そういう格好でやっているかと思うのですけれども、やはり先ほど西尾主査からもありましたが、国としての方針がどうなっているかというのを非常に学協会は気にするみたいですので、是非そこら辺との連携も図られればというコメントをさせていただきます。
【土井情報通信研究機構監事】    そのジャーナルに関してアンケートをとられたということは認識をしております。ただ、同じような規模ではできなかったので。そういう意味でとても関心を持たれており、ただ、ある意味待ちの状態なのです。なので、やはり何か先行事例を作っていくというのがないと難しいかなとは思っております。
【西尾主査】    喜連川先生は、本日は途中で御退席されると伺っていますので、特に研究データ基盤を構築していくことへのフィージビリティーなどについて、先生の貴重なコメントを頂けると有り難いと思っておりますが、いかがでしょうか。
【喜連川委員】    学術会議のオープンサイエンスの委員長として御発言いただきましたが、私もその学術会議のメンバーではあるわけですけれども、やはりヘビーサイエンスといいますか、大きなデータを扱うところだけではなくて、人文社会に至るまで非常に大きな期待感があるということは、学術会議としても肌で感じられるようなところではないかと思っております。そのときに、やはり文系、あるいは予算規模が必ずしも潤沢ではないようなサイエンスにおいては、そのデータをどう具体的に保存すれば良いかという話はやはり相当距離感のある状況になっているということから、一定程度の手を差し伸べるということは非常に重要なことだと思います。文部科学省のお立場としましては、例えば機関リポジトリという施策に関して10年以上ずっと支援をされて、それがようやく世界でも日本の機関リポジトリがかなり存在感を出せるようなところまで成長してきたということを見ますと、このシステムを作るというのは、世界的にまだ産声を上げたばかりのところで、やはりちょっと長期的に物事を考えていく必要があるのではないかなという気がしております。
  NIIとしては、多分そういう施策の一番イニシャルフェーズをお手伝いするところかなと思っておりまして、例えばResearchmapのようなものも、この辺の諸般の流れは必ずしも私はよく理解できていないのですけれども、最終的に運用フェーズに入った段階では、例えばJSTさんがおやりになるというような、そういうパイプラインがうまく流れていくことが望ましいと考えます。最初の立ち上げ部分はやはりITを本当にプログラムできる人間がいるところが、JSTさんができないと言っているわけではないのですけれども、我々の方がIT研究者を多く抱え、ちょっとだけこなれているというぐらいの意味なのですけれども、そういうところが世界と手に手をとりながらオープンなシステムを利用して作っていくということが国益に非常に資するのではないかなと、そんなふうに感じる次第です。
【西尾主査】    貴重なコメント、どうもありがとうございます。
  土井先生、日本学術会議としては、このデータ管理基盤を構築していくということに関しては非常に強い意向があり、研究者コミュニティとして要望が大変高いものと考えてよろしいですか。
【土井情報通信研究機構監事】    はい、それは感じております。なぜかと申しますと、この9月にありましたData Weekに大西会長が、WDS-IPOを日本が受けているということもあり、行かれたのですけれども、そのときにこれの英語版を持っていっていただいて、紹介をして、すごく反響があったということで、総会時にも随分お話をされていました。あとはJSTでも別の、ウルグアイかどこかのところでもやっていただいていますし、そういう意味では学術会議としてもこれは重要であると、喜連川先生からもコメントありましたけれども、やはり人文社会というようなところも含めてそういうものを作らないといけないと。だからエルゼビアとか出版社というのもあるのですけれども、そこでやると日本のデータはやはりなくなってしまうという話と、やはり自分たちの研究データを守るということは研究者として生きていくということに不可欠なので、そこはちゃんとデータを守っていくという意味では重要だと認識をしております。
【西尾主査】    分かりました。G7の会議の中で、オープンサイエンスをきっちりと推進することに関して、世界レベルのワーキンググループを設置することが議論されました。また、第5期の科学技術基本計画において、オープンサイエンスの重要性が言われる中で、具体的に何を推進させていくのかについては、今、喜連川先生がおっしゃったように、まずはフィージビリティー的な事業から徐々に始めて、それをどんどん発展させ、国全体に広げていくという方法があります。その方法による、ある種のサクセスストーリーが機関リポジトリだと思いますが、それに準ずるような形でデータ管理基盤を今後きっちりと構築していくことは、日本の研究データを基盤とした科学技術あるいは学術研究の国際的な競争力を高める上では非常に重要であるという観点で構想を練られていると考えます。ほかに御意見はございますでしょうか。
  井上先生、どうぞ。
【井上委員】    最初に主査からお話がありましたオープン・クローズ戦略についてなんですけれども、日本学術会議からの提言ですと各研究コミュニティでも検討をこれから進めていくというお話がございました。スライドの14ページだと思いますけれども、これは非常に難しいところだと思うのは、データ駆動型の研究というのは異分野の情報を組み合わせて進めていくことができるというところに新味があるというお話もあったわけでございますが、各研究コミュニティ、先駆的な取組をされているところは別として、やはり自分のコミュニティの中でのデータのライフサイクルみたいなものを念頭に置かれているというようなところがあると思いますので、各研究コミュニティの中だけで検討しているのではなかなか入れられないような視点というのがあるのではないかと。それから、先ほど主査がおっしゃいましたように、国の成長戦略ですとか競争戦略としてのデータの重要性というのもあろうと思います。横からの視点、横を結ぶという視点、それから上から、国が戦略的にどう考えていくかという視点、これも入らないとオープン・クローズ戦略というのは決まってこないというような気がしますので、日本学術会議の各研究コミュニティにお任せするというだけではなくて、ほかにもいろいろ視点を入れられるような仕組みづくりが必要かなと思いました。
【西尾主査】    土井先生は何かコメントございますか。
【土井情報通信研究機構監事】    御指摘、そのとおりだと考えております。そのため今回は、アンケートもとったので、呼び掛けた回答としてはこういう回答ですということなのですが、そういう意味では実際に、オープンとクローズだけではなく、この中でもセミオープン、セミクローズというお話がありましたけれども、そういうものを例えば何らかの形で、あるシステムなどができて、例えばNIIがそういうものをもし見せるようなことができる段階になれば、自分たちはどこに近いのかなという具体的なイメージができると思います。この部分は、例えばこういうデータを持っているところはセミクローズ、こっちはセミオープンといったような、今回インタビューを行ったところで例えばこうですとか、そういうものを少し示すことができれば、自分たちはどこに近いかなというような考え方ができるのではないかと思っております。だから、今のままだと御指摘のとおりだと思うのですが、今期の委員会としては、残り1年、何らかの形で少しカテゴライズをまとめてみるというところまではできればとは思っております。
【西尾主査】    どうぞ、竹内先生。
【竹内委員】    ありがとうございます。先ほど西尾先生からも機関リポジトリを一つの成功モデルとしてそれをフォローするというお話がございましたけれども、研究データと機関リポジトリで扱っている論文では1点大きな違いがあるということは十分御認識いただきたいと思います。機関リポジトリの場合、論文のフォーマットあるいはメタデータというのは極めて標準化が進んでおりまして、分野のことを知らない図書館員でもそれをうまく扱うことができたということが大前提としてございました。しかしながら研究データの場合は、どういうメタデータがあればそのデータが生きるのかということ自体の議論が進んでおりませんので、その部分のインプットというのはやはり研究コミュニティからしっかりしていただかないと、そのシステム構築等々の仕組みを作るということを研究機関あるいは図書館がやるということがあるとしても、それが全くできないということになると思います。構築の前提があるということを強く申し上げておきたいと思います。
【西尾主査】    その辺りを、研究コミュニティと同時に、NIIが持っておられる情報関連の様々な高度な技術を、フィージビリティの段階で、お借りしながらやっていく必要があります。ただし、それは予算を伴わないとできない。
【喜連川委員】    竹内先生がおっしゃったことは、本当にそのとおりだと思います。ただ、一方で見ますと、それがやはり日本のチャンスになるかもしれないなと思います。Researchmapは我が方が作っているのですけど、Researchmapというのは誰でも作れるのですね。つまり人があって、所属があって、経歴があって、論文のリスト、誰でも作れることです。けれど、この研究データのリポジトリというのは本当に誰もどうやって作っていいか分からないのです。だからこそ日本がやる価値があるんじゃないかなと思っていまして、難しいのは100%認識しているのですけど、やはりそこをみんなで力を合わせて、到底NIIだけではできませんので、ドメインの先生方と一緒にやっていくということがチャレンジではないかなと思っています。
【西尾主査】    竹内先生、喜連川先生、どうも貴重なコメントありがとうございました。
  どうぞ、北森先生。
【北森委員】    土井先生のお話で、学術会議でどうポリシーを出していくかということについて大変よく理解できました。ありがとうございます。
  それで、ちょっとコメントと、それからお願いと両方ともなのですが、この3月にイギリスの王立化学会、これはアメリカの化学会と、あるいはIEEEと同じように、世界最大級の学会の一つなのですが、そのイギリスの王立化学会に編集者シンポジウム、エディトリアルシンポジウムというのがありまして、イギリス王立化学会が出している約50の論文誌、これはみんなハイインパクトファクターで、その50のジャーナルのエディター、それからアソシエイトエディターが集まる、200人ぐらい世界中から集まる会で、そこの一番の議題がオープンサイエンスでした。このオープンサイエンスは、ロイヤルソサエティーではもう10年ぐらいずっと継続的に議論をしているところで、今年もその話をしていました。
  その中で得た情報なんですが、その50あるハイインパクトファクタージャーナルの各ジャーナルの下にデータジャーナルを作る、そういう計画が今進んでいます。これが実現すると、今普通に投稿している論文に対するデータと、それ以外のデータもそこに吸い上げられることになりますので、これはかなり我が国のデータの戦略ということに関しては大きな影響があろうかと思います。
  それで、その王立化学会はどういう財源でやっているのかというと、これはもう自前の財源でできる。ここでも繰り返しお話していますが、例えば丸善の3倍の売上げがある大きな出版社ということも言えるわけです。海外の大きな学会はそのぐらいの規模を持った財源ですので、自前でやってしまう。それで、どことコラボレートしているのかということを聞いたところ、産業界とコラボレートしていると。政府ではないのですね。政府とはもちろん連絡をとり合っているけれども、想定されるであろうユーザー、それから利益を共にする産業界と一緒になってその準備を進めているということです。これはかなり具体的に見せてもらいましたので、ここ数年のうちには実現するだろうと思います。
  そうなってきますと、例えば我々化学の分野で、ここで皆さんが発言されたように今持っている日本の強みをもって、向こうと協調関係にある、あるいは競争関係にあるということを調整していく必要が出てくるのですが、そのときに、ではステークホルダーとして日本はどこがその対応をするかということで、極めて難しい状況にあると認識しています。それは、英国のロイヤルソサエティーは化学会なのですけれども、じゃあ日本化学会に、私は今理事なのですけれども、それだけの財力があるかというと、それはもう皆さん御存じのように、日本の学会ではそういう財力はもう全くないわけですね。そうすると、向こうと何かを協調してやる、あるいは競争してやるといったときにも、こちらの学会で対等に話し合うというのが極めて難しい状況にある。では、学会ではなくて、誰が向こうと対応するのかということになると、恐らく機関では、機関リポジトリを持っている研究機関ではないし、そうかといって、NIIあるいはJSTでやっていただけるのであればそれはもう是非お願いしたいのですけれども、今のところそういう窓口というのもない。ということで、もう向こうは具体的に進んでいますので、その進んでいることに対してこちらがどういう交渉をしていくかという、その具体的な弾を日本側にも込めないといけない時期ではないかなと、しかも早急にやらないと間に合わないのではないかなという気がしております。そういう意味で、是非具体的な取組ができる窓口を作っていただければと思っています。
【西尾主査】    先生としては、例えば研究データ基盤を、先ほど言ったような方法で早急に立ち上げていくということに関してはどうお考えでいらっしゃいますか。
【北森委員】    あのデータ基盤の中に、例えば向こう側の各ジャーナルに対してぶら下がってくるデータのジャーナルと、日本側のデータ基盤の中に、そのジャーナルと提携をしているようなデータ基盤があれば、そことお互いに、こっちに入れても向こうで使っていいよと、そのかわり1件幾らだよというようなデータに関する価値をこちら側にとどめるようなものを作るという、具体的な方策をするということだろうと思います。
【西尾主査】    そうすると相当ストラテジックにいかないといけないですね。高木先生、先生の分野で、研究データ基盤を作っていくということについては、いかがでしょうか。
【高木委員】    ライフサイエンスの分野は、米国の国立衛生研究所(NIH)等のファンディングエージェンシー、それから出版社がそれぞれポリシーを持っています。それからデータジャーナルなり様々なものもありますし、公的データベースも日米欧で連携して作っているようなものもあって、大分準備ができているという状況です。
【西尾主査】    もうどんどんできているということでしょうか。
【高木委員】    ええ。論文を書くときにどのデータならどのデータベースに入れなさいというルール化もできているので、分野を超えたゼネラルな研究基盤というものとどうコンパチブルになるかというと、ちょっと難しい面があるのかなと。それからもう一つ、ライフサイエンスの特徴はやはり、先ほどちょっとメタデータの付け方が難しいのではという話もありましたけれども、ライフ分野ではこれは付け方が難しいということと、それから、データをそのままリポジトリをしているだけではなかなか使えないのですね。そこでやはり一手間二手間を掛けないと、再利用、利活用ができないということがございます。研究基盤は、先ほど小規模なところから出発してという話がありましたが、人文社会系のあたりのこれから整備するものと、もう既にライフサイエンスみたいにもう既に大きな国際的枠組みが相当固まっているようなものとありますので、そこは少し整理をしてやっていく必要があるのかなと思っております。
  それから、最近もネイチャー出版グループ等が、論文に必ずデータアベイラビリティーステートメントを付けろというようなことも強制し始めてきておりますので、そういう動きなんかもにらみながら考えていく必要があるのかなと思っております。
【西尾主査】    世界の動きは非常に急展開しているという中で、例えばメタデータの扱いや、先ほど土井先生がおっしゃったような検索機能を持ったシステムを構築していくとか、ユーザーサイドに対するサービスをどうしていくかということを検討することも非常に大事ですね。
  ほかに御意見等ございませんでしょうか。
  どうぞ、辻委員。
【辻委員】    どうもありがとうございます。今いろいろとお話あったように、研究データ基盤を国レベルでしっかり作っていくというのは是非お願いしたいところでございまして、特に情報学の分野で考えたときに、これから情報学とそれに接点を持つような各学会とのつながり、そこから生まれる研究というのが非常に重要になってくる時代になってまいりまして、そのときに、各学会、各分野の研究分野とのデータのやりとりというのが非常にキーになってくると思っておりまして、その点からも是非お願いしたいところかと思っております。
  その場合に、先ほど喜連川先生の方から長期視点でしっかり考えていきましょうというお話がございましたけれども、それももちろん重要でして、かつ、それ以前に、研究者からしますと、直近の話でインパクトファクターをどうやって上げていきたいかというと、すぐに海外の適切な出版社ですとか学会ですとかといったところにどんどん載せていってしまうという状況にあると思っていまして、その状況は恐らく避けるわけにはいかないと。ではどうしたらいいかというところなのですが、そのときに、先ほどお話ございました、そういった学会であったり出版社であったりとかのインターフェースを定めるというところと、それから関連する学会との、既存のデータベースというのがございますので、その既存のデータベースとうまく、これから作ろうとしていく研究データ基盤というものがつながるような形になるように、少しそこのインターフェースの標準化的な動きというものが併せて必要になっていくのではないかなと思いました。
  以上です。
【西尾主査】    ありがとうございました。非常に貴重な御意見かと思っています。
  美馬先生、先生の分野等におけるオープンサイエンスに関しての意識などについて、コメントを頂けますでしょうか。
【美馬委員】    ありがとうございます。私が理事を務めておりますのは教育工学会でありまして、教育工学というのは教育という営みを工学的に研究するというものです。その全国大会が先日、大阪大学でございました。そちらに西尾総長にお越しいただいて、基調講演をしていただきました。なぜお願いしたかというのは、ここで議論になっているようなことを教育工学でさえも、人文系と見られる節もありますけれども、そういう中において、なかなかこういう大きな流れを分かっていません。かつ一方では、今、インスティテューショナルリサーチといって、大学、特に高等教育においては、様々なもの、データが集まってきて、大学の改革あるいは教育の中に生かそうとしているんですね。教育工学を見ましても、ほとんどそういうものが知られていない状態でしたので、こちらの西尾主査のお話はとても貴重なものでした。
  多分、こういったことを地道にというか、そういう大きな大会のところでお話しいただくということは、これを広めていく上でとても重要なことだと思います。学術会議で議論されて、土井先生がいろいろヒアリング等なさっていらっしゃると思いますけれども、なかなかそれが学会員のところまで届かない。それを研究者としてどのように行っていくのかというのは、特に若い研究者に対して、どういうことが今後可能になっていくのかということもあわせて、こういうお話を広めていくというのを一方でしていく必要があると思いました。
  以上です。
【西尾主査】    どうも美馬先生、ありがとうございました。先ほど北森先生や高木先生がおっしゃったように、世界がどんどんパラダイムシフトしているという状況がもう一方ではまだ伝わっていないという、一種の歯がゆさがあります。そういう中で、先ほど言ったように海外と対等に研究データに対して交渉できるような、また、我々としてのよりどころとなるような研究データの蓄積に国としてどう取り組んでいくのかは、これはデータそのものがある種のパワーバランスになっていくのだと思うのですけれども、本当に重要な課題になってくるのではないかと思います。
  加藤委員、どうぞ。
【加藤委員】    JSTの加藤でございます。研究データのオープン化というお話をするときに、どの段階の研究データなのかを常に意識する必要があります。先ほど高木先生がおっしゃいましたが、研究データをオープン化して皆さん方が使えるようにするためには、一手間も二手間もかけないと使えないというのが実態でございます。まずファンディングの際、研究の段階から、データを制限共有というか、研究者相互間で共有ができるような体制を作っていく必要があり、まず、研究段階でオープン化されていないデータが存在し、そこからオープン化するデータに加工してオープン化するという段階が大きな流れとなります。そうしますと、研究データのオープン化のための基盤のプラットフォーム自体は、かなり長期間にわたって、どこの分野を先行させるかという展望をもって段階的に進めていくことに多分なるのではないかと考えられます。JSTでは、CRESTのある領域の分野のアドバイザーに高木先生になっていただき、そこのコミュニティの中で共有化のためのデータを実験的に蓄積していくという試みも始まっております。ですから、オープン化にはかなりの段階があって、その段階ごとにデータをキュレーションする作業が必ず必要になってくる、その上でオープン化するという段取りになります。
  そういう状況の中、既に、AMEDにおいて、制限共有という研究データシェアリングの概念が出てきています。限定された研究者だけに共有で使えるデータを作り、その中からオープン化するものを抜き出してオープン化するという段取りが具体的に動き始めております。オープン化するためにはオープン化するための前提となるデータがないといけないということで、やはりファンディングの段階からもそういう試みが必要と考えております。
  一方で、短期的な話から申し上げますと、JSTでは、J-STAGEというオープンアクセスジャーナルのプラットフォームを持っています。約1,000学協会を超えていますが、さらに、今回NII-ELSの事業終了に伴い、約700誌が移行される予定となっております。また、少し制限を緩和したこともございまして、今年度、更に新規に400誌ぐらいがJ-STAGEに登載される見込みとなっております。そういう状況にあるJ-STAGEとして、日本語の論文あるいは海外に向けた論文、そこに対してどういう強化をしていくかという中に、この学術情報委員会の中においても、論文に見合ったデータについてはオープン化すべきという提言があり、また、海外のデータジャーナルがいわゆるジャーナルプラットフォームの上でシステムを構築し、サービスを提供する方法で実現されていることから、J-STAGE上でのデータジャーナルの構築、また、論文に対するデータをきちんと管理するとことなど、具体的に取り組んでいこうとしております。また、発信力強化という観点では、約2,000の学協会約2,500誌の中から、ピンポイントで当該ジャーナルにアクセスするというのはなかなか難しいので、少なくともレビュージャーナルという形で、日本が推奨するジャーナルの論文を発信するようなことも併せてやっていこうということで検討を進めております。
  すぐできることは実施していくのは当然として、将来に向けて長期的にやらなければいけないこと、地道な話ですけれども、ファンディングの段階から、研究データを整備するところを今後いかに、研究者とデータのエンジニアが一緒になって進めていくことにも取り組んでいきたいと考えております。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。
  土井先生、先ほどの研究データ基盤は、研究や実験のプロセスの全部のデータを対象としようとなさっているのか、それとも、今、加藤委員からお話のありました論文と非常にリンクしているデータに絞っていくのか、その辺りは何か方針をお持ちですか。
【土井情報通信研究機構監事】    今のイメージといたしましては、プロセスを考えております。
【西尾主査】    プロセスですか。
【土井情報通信研究機構監事】    なぜかと申しますと、研究者の研究は、論文を出したらそこでおしまいというわけではありません。今、ここまでやった研究はこの形で論文になった。そこはオープンにし、それに関わるデータもオープンにする。だけど、それ以外のデータはあり、それを基にまた研究を進めるわけなので、そこのところの何をオープンにするかというところをサポートするというところが役割です。そういう意味では、既にデータベースがあるところはリンケージを張っていくみたいな、全てのデータを持つということは考えておりません。ただ、検索をしたりとかそういうところでは、日本のデータであればそこを全部、一気通貫で検索して、実は飛んでいった先はライフのデータであったり創薬のデータであったり、化学の、もしかしたら王立まで飛ぶのかもしれませんが、そういうものだと思っております。なぜかというと、全部を持とうなんてとても無理な話なので、レガシーはレガシーで、そこにリンクが付いていくという形の方が重要で、データはここにある、論文はここにあるということを全部ひも付けをして、欲しいものを見付けられるようにしていきたいというところなのです。
  だからそういう意味で、先ほど辻先生が言われたように、既存のものは既存のもので、それをどうやってリンクしていくか。だからそこで多分、オープン化していくためにどういうサポートをすればいいかというのが今まだ分かっていない部分もあるとは思うので、CRESTでやられているのもフィードバックしていただきながらやはり考えていかないといけないのかなと思っています。私もいろいろアドバイザーをやっていて、やっているときに本当に中身までは全部分からないので、それはそれでしようがないとは思います。ただ、そういうところで、やはりここは連携した方が良いよねというときにすぐ連携ができるようになっていけばいいと思うので、うまくいけばそういう形で、JST、CRESTとか、ERATOとかいろいろなところで、ほかのファンディングエージェンシーでも使っていただけるようなものになるのではないかと思います。というか、ならないと研究者への負担が増えるばかりで。
【西尾主査】    インセンティブですね。
【土井情報通信研究機構監事】    そこですね。だから、研究者の負担を減らしつつ今の状況に対応するにはどうしたらいいか、というところの答えの一つになればとは思っています。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。
  ほかにございますか。今日のいろいろな議論を聞いていますと、制約付きのオープン、制約付きのクローズという概念が今後の科学技術を進める上でも重要な鍵になってくるように思っていますが、何かコメント等ございますか。
  美馬先生、どうぞ。
【美馬委員】    先日の教育工学会のシンポジウムで1つだけ、面白いなということがあったので報告させていただきますと、先ほど土井先生がおっしゃったプロセスを共有するというところで、先ほど理研の脳情報のデータベースのスライド、13ページですか、ありましたように、この刺激データセット、こういったものを出していくことが、実は研究者養成とか教育につながっていくのではないかという話が出てきました。つまり、論文がただ公開されるだけではなくて、データの刺激セットとかそういうものがあると、それを教育の中で、同じような実験を使っていくことによって研究者養成、教育の中で使えるという、それはすごく面白い発想だと思って、ここで1つ御報告させていただきます。
【西尾主査】    岡部先生、いかがですか。
【岡部委員】    私、今年度から、実は日本学術振興会(JSPS)の学術システム研究センター主任研究員というのを仰せつかりました。これは、ファンディングエージェンシーであります日本学術振興会で科研費のいろいろな実務を運用する担当者ということでして、その立場というわけではございませんけれども、そこでの知見も踏まえてお話しさせていただきます。
  今日もいろいろ、研究データのオープン化について皆さんからお話がありまして、もちろんJSPSでもそれについて検討しております。論文のオープン化については、もう既にポリシーを今年度定める方向で進めておるのですけど、論文はある意味、研究分野がいろいろあっても、どこでも最終的には論文で出すという、ある程度コンセンサスがある。一方、研究データについては、やはり分野間のダイバーシティー、研究コミュニティ間のダイバーシティーが余りに大きくて、今日たくさん皆さんから出ている事例、古くからある天文学、あるいは高エネルギー物理、あるいはゲノムだとか、そういう歴史のあるところもありますし、幾つか挙げていただいた事例はどちらかというとオープン化が進んでいる先進事例だと思います。一方で、研究コミュニティで今までオープン化ということがほとんど意識されていなくて、ようやく最近そういうことの検討を始めたというところもあります。
  多分そういう分野では研究のやり方から考えていくような努力も必要になってくると思いますし、そういうところが本当にオープンになることで、先ほどから土井先生も御指摘いただいているような異分野融合による新しい創発みたいなことが出てくるという意味で、どんどん進めないといけないとは思うのですけど、一方で、ほかの分野のやり方を押し付けることが必ずしも、うまくいかないこともある。やはりそのコミュニティの方々に、自分たちの分野でオープン化ってどういうふうにするかというのを考えていただかないといけない。そういう意味で、やはり進み具合に応じたサポートというのが必要になってくるのではないかなと考えております。
  以上です。
【西尾主査】    どうもありがとうございました。
  久門委員、どうぞ。
【久門委員】    私は企業に属していて、しかも情報系ということで、データは四六時中扱っています。お話を聞いていて思うのは、コミュニティの中でデータそのものが共通言語として語られるコミュニティと、そうではないコミュニティがあるということです。例えば生物学の、特に遺伝子等の分野ではフォーマットが決まっていますし、データそのものが共通言語として語られるので、オープン化した場合でもそのデータの持つ意味とか再利用性が極めて分かりやすいわけです。一方、我々のような情報分野では、必ずしもそういう共通言語としてのデータはありません。そうすると、グラフを作ったとき生の数値データをグラフからリンクするのであれば、その後でそれを再加工して、ほかのデータの中に引用することが容易になるといった意味で再利用可能ですが、実験の途中で出てきたデータのようなものを仮に出したとしても、全員がとは言いませんが、その再利用性は極めて低いということが容易に想像できるのです。
  こういったエンジニアリング系のところでさえそういう状態ですが、例えばこれが人文系のところになりますと、そもそもデータとは何かということから考え始めなければいけないので、再利用する価値のあるデータと研究のエビデンスとを同時に考えるのは難しいのかもしれないというように思います。今、インターネットの世界ではデータを見つけるのは検索がメーンの手段になっていますが、最初にウエブを作った人たちは検索されることを想定して作ったわけではないのです。キーを付けるなどして後から検索可能にするためのというエンジニアリングによって、皆さんが検索できるようになったということがあります。
  最初からフォーマットを全部がちがちに決めますと、なかなかデータを作れなくなってしまう。事実、電子商取引で、今からもう10年、20年ぐらい前から電子商取引のためのフォーマットというのをがちがちに決めて、始めようとしたら、フォーマットは決まったものの誰もデータを作れなくなって、電子商取引そのものが進まなくなってしまったという事実がありますので、そういう意味で先ほど言いました共通の言語を持っているところに関してはもうそのまま進めていただければよいけれども、それ以外のところについては、検索をするにはどうしたらいいかということを想定して、簡単なキーワードを付けるとかを想定する必要があると思います。例えば写真を撮ったら写真の日付と、それに対してキーワードを付けるなどして検索可能にするというような別のフォーマットでの研究過程の記録方法を想定しないと、先に述べた分野以外のところでは扱いづらいのかなという気がいたします。
【土井情報通信研究機構監事】    いいですか。
【西尾主査】    はい、どうぞ。
【土井情報通信研究機構監事】    今の御指摘、そのとおりだと思います。必ずしも全部フォーマットを決めないとこれを使えませんということは考えておりません。先ほど時間がなかったので触れませんでしたけど、人文系でも、万暦版大蔵経というものの画像データベースを作って、それをやることによって、日本だけではなくグローバルに研究リソースを獲得するような、そういう動きもあります。ですから、そういう意味では画像データベースを持つということも非常に有意義になるので、そこから始めるというのもあると思うのです。それは何を目的にするかというところが違うので、そういう形で、こういう目的だったらここから始めればいいですみたいな、そういうものも少し示していくというのも重要かなとは思っております。
【西尾主査】    これまで土井先生の御説明に対しての審議をさせていただきました。土井先生、本当にありがとうございました。日頃、データ科学に関していろいろなところで御発言なさっているということもあって、非常に的確な御回答を頂きましたことに対しまして、誠に感謝いたしております。日本学術会議の方でオープンサイエンスに関してのリーダーシップをとっていただいていますが、先ほど来のポリシーの件と、それから研究データ基盤に関しまして、日本学術会議から継続的に強いメッセージを出していただきますと、今後、国の施策立案をする際に更に大きな意味を持ってくると思いますので、何とぞよろしくお願いいたします。今日はどうもありがとうございました。
【土井情報通信研究機構監事】    ありがとうございます。
【西尾主査】    それでは次に、大学におけるオープンアクセスの取組として、引原先生より京都大学におけるオープンアクセスの取組状況について御説明いただき、意見交換をお願いいたします。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    ただいま御紹介いただきました引原でございます。私は内閣府の、先ほどからお話がありますフォローアップ委員会の委員、というか座長をやっていまして、微妙な立場ではありますが、本日は京都大学の図書館機構長として御紹介させていただき、それに閉じたお話をさせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
  先ほど文部科学省の榎本参事官と、それから渡邊様がおっしゃっていましたけれども、京都大学の取組を御紹介させていただくということは、実際の現場ではどういう状況で話を進めているかということを御理解いただくということになるかと思いますので、足元を見た話をさせていただきます。それをお許しください。
  まず資料ですけれども、本日はこの内容でお話しさせていただきます。オープンアクセスの方針でございますけれども、まず京都大学でオープンアクセスの方針を決めていきました経緯でございます。どこの大学でもほとんど変わりませんが、まず1997年に学位論文の保存と複写に関する指示が出ております。それに合わせて大学では、学位論文の保全をベースにして、学位論文は学位の記録で、学位の授与の証明でございますので、その保存と複写に対してどう考えるかということを学内で検討しております。
  その後、2006年に学術情報リポジトリ、先ほどからお話がありますけれども、リポジトリの運用が指示されて動いております。2006年から、学内では学位論文の電子公開へのアプローチをしております。学位論文の電子公開へのアプローチというのは、我々のリポジトリはKURENAIと呼んでおりますが、そのKURENAIの運用のときにはほとんど意識されておりませんでした。ただ、学内的に工学研究科で先行事例として進めたわけです。学位論文を電子公開するということを研究科の学位申請手続を変え、学位プロセスを変えるということを含めて進めております。それで何を求めるかといいますと、学位を取得した人の研究成果に対する権利、あるいはその研究者を守るという立場を研究科の中で打ち出しております。
  学内的にはほとんど認知されなかったのですが、工学研究科は、京都大学3,000人の学部入学生の内、1,000人を超える学生がいる学部の大学院であますし、大学院生でもかなりの数がおります。700人でしょうか。その中で進めました結果、数百件という学位論文が、公開されていくプロセスにスムーズに乗っていきました。これは、なぜそういうことを今申し上げるかといいますと、学位論文の電子公開が2013年に文部科学省から指示されておりますが、その指示される前の段階で我々もう既に終わっており、工学研究科の考え方を全学に展開するということが非常にスムーズに実施することができました。その中で、学内で御理解いただくために図書館として説明したのは、基本的には研究者を守るということでした。もちろん秘匿のデータ等をどういうふうに扱うかということは、そのときに十分議論されておりますので、その議論に基づいて学内的に御承認いただいて、文科省の指示に従うことができたということでございます。
  そういう流れの中で、オープンアクセスというのは、我々の大学では非常にスムーズな流れであったと思います。スムーズな流れだったのですが、大きなトリガーはやはり電子ジャーナルの価格の高騰が2010年から始まったことです。その2010年からの価格高騰を何とかしろという要求があったことは、学位論文の話は全く別に動いていたことでございます。学内の電子ジャーナル価格高騰に関しては、どういうふうにお金を分担して払うかという問題が主体であって、研究内容をいかに公開するかという話とは当初何もリンクしていなかったのですが、それがいつの間にか電子ジャーナルの価格高騰への対抗の中で、グリーン・オープンアクセスということで絡んできたと御理解いただければいいかと思います。
  2014年に、研究大学のRU11の指示で、私が、海外の電子ジャーナルの状況を視察しろと指示を受けました。ただ、図書館長としては今更指示されても何もないだろうと思っていました。これに関係されるRU11の図書館の関係者あるいは副理事の方々に御出席いただく会議を持ったのですが、今更行っても仕方がないという御意見がほとんどでした。「何を調査するんだ」、「そんなことは図書館員はみんな知っている」と。そういう状況の中で、「調査に行かれないところは結構ですが、御協力いただけるところは得られるデータ、得られる情報を得て、共有してください」ということを申し上げて終わりました。
  実際に6大学が行ってくださいまして、半分ぐらい行ってくださいました。その中で私自身が1つ重要なポイントだったと思ったのは、京都大学と同じ予算規模のカリフォルニア工科大学は何をしているかということなのです。エルゼビアのパッケージは取っておりません。彼らはリポジトリの中でオープンアクセスをうたいながら、学内のコミュニティを守るために必要な雑誌を買う。自分たちの雑誌、自分たちのオープンにしたものは外には見てもらえるようになる。そういう環境を保ちながら、必要なものに研究戦略の中で資本投下をする、そういう考え方を明確にされておりました。
  今、電子ジャーナルのお話をしていますけれども、電子ジャーナルはただで読めるからという意識の研究者が多いのですが、学内でお金を払っているにもかかわらず、この当時は自分が払わなくていいからという状況だから、切りたくないという話だったのです。それは研究戦略とは全く別で、自分が被害を受けないからという戦略にすぎないわけです。それが電子ジャーナル問題の基本でして、自分が読まないものでも、読めたらうれしいということがありました。それに対して、読んでほしいという感覚もあるわけです。電子ジャーナルが学内でとれると、電子ジャーナルを読んでもらえますから、自分のものも読んでもらえるということがあります。ですから、そこの部分をグリーンにしてオープンアクセスにしておけば、読んでほしいために購読するということはまずなくなっていくだろうと言えます。そういう一つ一つ課題を潰していくような議論をしておりました。すみません、話を進めます。
  その中で、電子ジャーナルではなくて、まずオープンアクセスというものをきちんと確立しようということを考え、2014年の調査の後図書館機構で作業を進め、1年掛けまして2015年4月28日にオープンアクセスの方針を出しております。それは、私もびっくりしたのですが、ITmediaでもかなり取り上げられ、何か私が悪者のようになってしまいました。宣言したオープンアクセス方針の重要なポイントを次に挙げております。
  まず、対象は、京都大学に在籍する教員は全てです。学生に関してはどうかという話がありますけれども、この点については、オープンにする論文は拒みません。所属する者は基本的にはここを使っていいということになります。我々が学生の頃、留学したりしますと、どこの所属の論文かという問題がよく起きました。それは研究がなされた機関の論文であると使ったデータの所属に基づくわけです。ところが、自分の所属の論文であるという主張をすると、トラブルが起こることがあります。ですので、そこのグレーな部分をクリアにしないといけないのですが、ここでは所属する教員としております。対象とする研究成果ですけれども、この場合は学術雑誌に掲載された論文ということです。しかも2015年の4月28日にオープンアクセスの方針を制定した以降のもの、もちろん遡ってもいいのですが、それ以降のものは確実に登録すること、まずそこから始めております。どこに登録するかについては、KURENAI、リポジトリシステムをベースにしております。
  次に、オープン化の戦略ですが、まず学位論文の電子公開をファーストステージとして考えております。それが公開されましたので、その前例に乗りまして、次にオープンアクセスポリシーの策定をセカンドステージとしておりました。サードステージとしてオープンデータの模索を設定しております。ですので、コミュニティの再構築までは当然まだ時間が掛かります。オープンアクセスからオープンデータの間の話がこれからさせていただく話になるかと思います。
  オープンアクセスの意義と可能性ですけれども、当然ながら、先ほどからお話しておりますように、学術情報コミュニティの再構築というのが重要なポイントです。これは日本全体あるいは世界全体、学内ということもありますけれども、まず細切れになったコミュニティがあります。コミュニティが論文雑誌ごとにばらばらにされてしまっているわけです。論文雑誌ごとにホットなグループがあって、そのホットなグループを守る論文誌が存在する、それが状況です。ですので、そこを横串にして学術コミュニティを再構築しなければ、データも使われるはずはない、お互い別の雑誌のデータでしょう、ということになりかねません。ですから、まずその再構築のためのオープンアクセスというのは必要になります。それは論文の段階で既にそうなっています。別の論文誌は読まないという方もいらっしゃるわけです。ですので、まずコミュニティの再構築ということをうたわなければ、オープンアクセスの意味がないと言えます。それから、学術情報流通システムの改革というのは、それに合わせて改革をしていかなければいけないと思います。
  種々の学術情報の可視化というのは、先ほどメタデータの話もございましたけれども、各データの可視化ではなくて、全体どういうものが必要なのかというのがまだ分からない、見えていないわけですから、見えていない外のものの何が必要かというのは誰にも分かりません。ですから、それらを可視化していくという中で新しいものを作っていくのがオープン化であると言えます。それから、常に英語ばかり話をしておりますけれども、非英語圏の話というのが非常に重要だと思います。京都大学は人文社会系が非常に強い大学でございます。こういうオープンアクセスの話をしますと、文学部の先生方が関係ないという感覚でおられるわけです。しかしながら、非英語圏言語に関しても、全て重要な学術情報なわけです。それらを尊重した話を常にやらなければいけないわけです。一方で、グローバルな研究課題へ転換するということは若い人には非常に重要なことですし、大学としても活性化しますので、これは重要な可能性として考える必要があります。
  研究の動向を資料に示しています。これはオープンアクセスのポリシーを出していく機関の増加を表しています。これは、公開されているROARMAPのサイトです。現状では非常に機関が増えて、既に飽和しているように見えます。実数として、アジアの中で50機関がオープンアクセスのポリシーを出しております。これは論文に対するポリシーです。日本では6機関しか記載されていません。実際はもっと多くの大学が、京都大学の後、オープンアクセスのポリシーを宣言されました。残念ながら多くの大学はROARMAPに未登録の状態です。
  これはどういうことかということを失礼ながら申し上げますと、国内を見てオープンアクセスをされている。オープンアクセスというのは国内だけではなくて、やはりきちんとしたプロセスを踏んで、世界に対してどれだけオープンにしていくかという話が重要なわけです。この間、内閣府の真子さんが海外で講演されたときに、日本のオープンアクセスのベースになるリポジトリは80ぐらいありますからといっても、全然見えていないわけです。開いてもホームページが日本語ばかりだということもあります。そこからのリンクでも、日本語と英語が並列になっていればそれはアクセスできますが、全然データが出てこない。そういうような状態でオープンアクセスが進んでいるとは、とても言えないわけです。このような現状の中でオープンにするデータを載せていくというのは非現実的なことではないかと図書館関係者として思っております。ですから、もう少しきちんとしたプロセスを踏んで、せめてオープンアクセスの協会ができたのであれば、やるべきことをきちんとリストアップして、チェックして進めるというシステマチックなことをしてほしいと思います。個人の能力でここまで持って来るということはあり得ますが、国全体してどうするかということまでつなげることはなかなか難しいことだと思います。
  それから、KURENAIというリポジトリですけれども、現在、我々は14万件登録しております。学位論文の要旨だけのものは除いておりまして14万件なのですが、これが実際どのような内容かと申しますと、学位論文はわずかで、紀要論文が多いということです。学術雑誌の論文はオープンアクセスのポリシーの後、まだ少ない状態ですので、11%しかございません。これぐらいの割合です。紀要論文というのは国内に隠れたデータなわけです。余りこういうものは重きを置かれないかもしれませんが、紀要というのは大学においてはコミュニティの重要な情報交換のツールなわけです。大学は1980年代までは学内紀要を重視した動きをしていたと思いますが、それ以後はデータベースだけになってしまったところが多いと思います。ところが、コンテンツにきちんとデータベースとリンクが張られますと利用されていくということがあります。実際の登録数はオープンアクセスの採択後増えているのか減っているのかちょっとよく分かりません。合計としてある時期に一挙に学位論文を入れますのでなめらかな増え方をしませんが、徐々に増えていっていると我々は今読んでおります。目標としては平成30年代に20万件というのが目標としてございます。大体1年間に1万件ぐらいでしょうか。
  リポジトリの登録システムというのが、研究者の負担になってはいけないという話が結構先ほどからなされていました。登録システムが負担になると結局は誰も入力してくれないといえます。我々の大学では研究データベース、業績データベースが別途あります。それとリンクさせ、どちらかで入れるとデータが入っていくような形をとっております。リポジトリ時代はメールで申請していくという手間の掛かるやり方だったのですが、今はウエブ入力で登録のクリックをしていただきますと関連ページに飛びます。データは、ScopusあるいはResearchmapから自動的に流し込んでおります。そのデータに従って、もう著作権処理をしたものは完了し、入っていないものに対してだけ著者に連絡が行くことになります。入力され、自動的に公開できるものはもう自動で処理されるということです。そういう研究者にとっては何の負担もない状況になっていると言えます。
  一方、学内の説明会をするわけです。ここが問題なのですが、学内の説明会をして皆さんにお願いをするのですが、なかなか認知度がございません。義務化をしているにもかかわらず、なかなか認知されていない。それをいかにうまく説明するかということに関わってきます。よくされる質問だけちょっとお話ししておきます。お金を払ってオープンアクセスしているゴールドOAですが、その論文も登録する必要があるのかという質問があります。当然ながらそうです。オープンアクセスの対象となる論文はどのくらい登録されているかという点は、まだ少ないと言えます。これは去年の4月以降義務化されておりますので、1年後ぐらいにはエンバーゴの切れるものも多いことから、これから増えていくということになるかと思います。リポジトリで著者稿を上げるということも可能にしています。著者稿というのは最終版ではないものです。それをダウンロードしたら、最終版とどれだけ違うのかという話になりますけれども、それは著者稿であるということが分かるようにデータとして記述しております。要するにメタデータの問題です。説明会では、聞いた後、大分意識が変わって登録しましょうという考えの方が増えておりまして、特に若手には増えております。
  オープンアクセスの推進についてお話しします。我々は2016年から2021年に掛けてオープンアクセス推進事業を学内の重点戦略プランで行っております。本年度が初年度なのですが、6年間の事業として、学術論文等の研究成果公開の推進と世界的展開と銘打ちまして、論文登録推進を行っています。そのときにメタデータを充実する必要があります。このメタデータに関しても非常に注意が必要で、今世界的にメタデータに関してチェックがなされていまして、NIIの御協力を得てCERNに図書館員を送り、実際にCERNの中で、名寄せ等をチェックするということを通じて、メタデータをどういうふうに確実なものにしていくかということを検討していただいています。
  それから、一次資料の電子公開。これは画像データです。国宝のデータ等も我々の大学にございますけれども、そういう一次資料を公開することによる人文社会科学系の研究基盤の強化をうたっております。特に画像データを見ることによって、日本学や、ある時代の日本に関わる人文社会学、それを発展させるということが海外から要求されておりまして、そのために、京都大学として貢献しなければいけないという考え方で進めております。あとは人の育て方ということになるかと思います。
  ちょっと長くなりますけど、その中ではIIIFと呼ばれるInternational Image Interoperability Frameworkという組織がございまして、そこのコアメンバーに参画することを既に決めております。東京大学の部局が機関としては我が国で最初に登録されたと思いますが、我々は画像データとして皆さんがどういうふうな使い方をしていただけるかということを十分今チェックしておりまして、それに合わせて必要に合わせて皆さんの意識を高めながら参画するということで今動いております。
  推進によりまして、いろいろな人の育て方、要するに研究者、それから学生の育て方ということが重要となります。同時に図書館職員を育てて、キュレーターを養成していくということは必須でございます。そういうことがオープンアクセスの推進の中で一緒にやっていかないといけないことで、この上に我々はオープンデータが乗ってくると考えております。オープンアクセスからオープンデータということをもう少し話させていただきます。お話がちょっと長くなりますけど、お許しください。
  これはOpenAIREと呼ばれるモニタリングのホームページですけれども、実際には多言語で出ております。日本語でオープンになっているものがこれだけあるという数字が出ております。これはJAIROから流れていっているオープンなソースなわけです。ですから、何も英語でないといけないわけではなくて、きちんとオープン化していけば、ヨーロッパの人、OpenAIREはヨーロッパの方ですけれども、そこではきちんと日本語としてオープンになっていますよというのが見えているわけです。問題は、そこのメタデータであったり、アブストラクトであったりとか、そういうものがきちんと対応できるものであるか、あるいは付いている画像であるかとか、それが魅力的なものであるかどうか、それらが重要だと思います。
  もう一つ、問題というか、面白いことがございまして、OpenAIREで出てくるのは、論文が当然一番です。データセットもあります。でももっと多いのがプレプリントです。プレプリントは著者稿に等しいものです。プレプリントで有名なものがarXiv.orgです。数学、コンピューターサイエンス、量子バイオ、ファイナンス、それから統計力学、この辺の分野のプレプリントサーバがarXiv.orgです。こういうところを経由したプレプリント、これが先ほどの数字に上がってきているオープン化されたデータとなっております。いわゆる著者稿ということになると思います。これは、皆さん方が最後にデータになったものとおっしゃいますけれども、この分野では、研究者は自分のオリジナリティーとかプライオリティーを守るために先に出す、それからエディトリアルを受けると、そういう文化もあるわけです。そして、これがオープンアクセスには非常に重要なわけです。
  同じようなものが文系、人文社会学にもありまして、これはSSRNと呼ばれる人文社会系のプレプリントサーバーでした。ところが、非常に困ったことが起き、エルゼビアがこれを買い取りました。人文社会系のデータのプレプリントがいっぱいここに上げられていたわけですが、それをエルゼビアが買い取ってしまった。ということは、ソースの部分を全部買い取られたと思ってもいいと思います。もうそこまで手を出してきているというわけです。それは、ちょっと先のデータを見ますと、人文社会学は、この表でいきますと数としてはそんなに多くなっているわけではないのですが、彼らはこういう部分を先にもう押さえようとしている。物理とか、それからライフサイエンスは既にオープンデータも進んでおりまして、ここはもう勝手に進んでいる領域なわけです。だから、これに対しては今更何もできないですから、論文を書いたらそこのデータが自分たちに落ちるような戦略を打ってきているわけです。この社会学、人文社会系というのはそんなに何もやっていなかった領域のプレプリント、いわゆる何がソースか分からないとさっきお話があったかもしれませんが、人文社会系の場合、草稿の段階のものというのが非常に重要だと思います。そういうものがここで押さえられてしまいつつあるという怖い状況があります。
  オープンアクセスの場合は、メタデータが重要です。メタデータに関してはもう定義する必要ございませんけれども、結局は誰が使うかということ、どこから出たかというソースの部分は、必要なものは全部埋められないといけないのですが、全部に対して共通なものはできないかもしれませんが、最低限必要なものを共通化することはできると思いますので、まずできるところからやるということが重要かと思います。ただ、先ほどのプレプリントサーバーのarXiv.orgですけれども、これのメタデータの欠陥がございまして、著者データがファーストオーサーしかないのです。セカンドオーサー以降はない。これはNIIから私が派遣されて、ここのボードメンバー会議に行ったのですが、これを今からどうするかということを非常に重要な課題として検討している最中です。
  長くなりましたけれども、ちょっとだけ宣伝しますと、京都大学は今、こういうインターディシプリナリーなリポジトリジャーナルというのを出版し始めておりますし、オープンデータというのもこういうふうに展開しております。
  最後に、釈迦(しゃか)に説法みたいで申し訳ございませんけれども、インパクトファクターというのは、論文が創成されてから成熟したこの領域での相互引用の世界で、どれだけここからの数を増やして引用を増やすかという世界の話と言えます。オープンデータあるいはオープンアクセスというのは、この中から別の軸のもの、データを得ることによってパラダイムシフトを起こすことが重要なポイントだと言えます。そのパラダイムシフトがどうやって起きるかというのは誰も分かりません、はっきり言って。そのために必要なことというのは何かという点が重要です。クローズドした世界だと当然、この成熟した世界で自分たちが階段を積み上げていくだけの研究を進めると思います。それはモデルで言えば低次元のモデルでして、それを高次元なところへ持っていくというのがオープンデータであろうという考え方の下で説得して回っているという状況であると申し上げます。
  以上で終わらせていただきます。
【西尾主査】    本当に貴重で示唆に富む御説明、どうもありがとうございました。いろいろ御質問あるかと思いますが、いかがでしょうか。
  どうぞ。
【逸村委員】    大変貴重なお話ありがとうございます。筑波大学の事情はちょっと、あした聞いてみます。
  やはりここは研究者、特に若手に対しての働き掛けが重要だと思うのですけれども、現実問題として、この説明会などにはどのくらいの割合の方が参加されるのでしょう。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    説明会は、要請があれば図書館機構として応じています。最初の頃は図書館職員だけでしたが、だんだん増えてまいりまして、教授会で説明しろとかいう話もでてきましたので、意識は大分高まってきていると思います。大学院生、ドクターの学生さんも参加したりしていますので、徐々にということだと思います。
【逸村委員】    実際問題、私の知り合いの若い京大の教員たち、あるいはそれこそ博士課程の院生なんかもかなり登録しているのを、KURENAIを見させていただいて感じたので、やはりそれはかなり努力があったと、そういう理解です。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    期待したいですけれど。
【逸村委員】    ありがとうございます。
【西尾主査】    ほかにございますでしょうか。
  どうぞ、高木先生。
【高木委員】    オープンアクセスの意義・可能性のスライドの中で、学術情報コミュニティの再構築が非常に重要だというお話があったかと思うのですが、これはなかなか難しいことだと思うのですが。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    そうですね。
【高木委員】    何かそれをうまく生かせる秘けつなり、どこがネックになるかとか、もし御経験幾つかおありでしたら、教えていただければ。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    そんなにあるわけではなくて、ひたすら推進しているわけです。印象に残ったCalTechに行ったときの図書館職員、研究者とお話ししたときの印象からお話ししますと、まず学内に相談できる、議論できる人がいるということが非常に重要なことであるということです。ただ、どこで何をしているかが分からない状態で、先ほど申し上げましたがそれぞれ出す論文誌が違うわけです。同じケミストリーでも違うケミストリーであると。ところが、裏を返せば同じような話であるにも関わらず、それらの研究者がつながってこない。それを学内だけ検索できるリポジトリを介して、データなども共有もありますが。検索することによって、関連研究者がここにいるのかという検索ができると。そして関連の研究者で議論をして、学内でプロジェクトを立ち上げるというようなこととが可能になることが需要だと言えます。それから学外のCDLというカリフォルニア大学のデジタルライブラリーがありますが、そことのリンクを試みていました、要するに地域でのリンクに至るという考え方につながります。
  だから、ローカルな大学から、学部かもしれませんが、そこからだんだん地域に広げていって、コミュニティを再生するということを彼らがかなり強く言っていたのは覚えています。ただ、カリフォルニアのサイズが日本のサイズですから、日本全体で同じことをやったら、すぐにでもできるのではないかと私は思ってしまいました。
【西尾主査】    今おっしゃったことには非常に興味があります。融合領域であるとか境界領域研究を具体的に進めるために、こういうエビデンスとしてのデータや論文をベースにして、縦割りの学術領域を横にどうつないでいくかという、そういう可能性を秘めていると考えてよろしいですか。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    オープンアクセスという行動自身がそこに広げていくことであろうと思っております。おっしゃるとおりです。
【西尾主査】    本当にインパクトのある御説明で、感銘を受けました。
  北森先生、どうぞ。
【北森委員】    大変貴重な情報を頂き、ありがとうございました。大学、特にコンプリヘンシブな大学ですと、まさに日本全体の縮図みたいな形になっていると思うので、そこで、これを京都大学でよくできたなと。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    ありがとうございます。
【北森委員】    大学法人の基盤強化とか言われていて、めったなことをこういうオープンなところでは伺えないこともあるのですが、これは例えば、私は東京大学なのですが、工学系がうまくいったからといって、全学でそう簡単にコンセンサスがとれることではない。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    ないですね。
【北森委員】    総合大学の分野は、日本の縮図なので、日本全体で何か歩調を合わせようといても、そう簡単には合わないということが普通は予想されます。これが京都でぱっとうまくいく、これは、コツというか、どういうことでしょう。工学がうまくいったから全学それに倣ったというのでは、多分それだけではないだろうなと思うのですが、いかがでしょう。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    おっしゃるとおりでして、別に工学ができたからというわけではないのですが、工学が掛けた時間はものすごいです。当時私は工学研究科の執行部におりまして、特に教務担当だったのです。まず学位申請の規則があるから何もできないと言われ、その規則の方を重視する話になってしまいました。では、規則を変えたらいいじゃないかと、私は過激なので、規則を変える作業を教務として行いまして、それで動かしました。まずそういう、誰かが労を取らないと駄目だと思います。前例ができたので、それに合わせて他の学部が、まず薬学がフォローしました。その後、農学と、理系が大分進んでいきました。文系に関してはいろいろな問題がまだ残っておりました。
  何が問題かというと、やはり出してはいけないデータとか情報というのは当然ございます。理系の医学でもございます。そういうものに対するきちんとした説明と対応を行ったということも確かです。あとは、特に文系、人文社会系の方々は自分で最後に出版したいという考え方がございます。出版したいがためにその学位も公開したくない、あるいはその前のものも出したくないということがあります。だけど、雑誌に既に載っているものであれば問題ないということは理解していただきました。学位に関しては、京大出版会というのがございまして、出版会の編集長とお話ししますと、出版社が学位論文のまま出したら出版社は潰れます、そんな編集をしないような出版はいたしませんとおっしゃいました。人文社会系の場合は、著者が最初に考えた考え方が、編集あるいはその間の研究の進展の中でここまで変わったのだということが進化としてそこに残すことが非常に重要なことではないでしょうか、ということでした。
  この同じことを他の会議でも申し上げたことがありまして、人文社会系のある分野の方々は納得してくださっています。だけれども、理系で言えば物性関係の方々が実験装置を、鍋釜抱えて動けなくなるのと同じで、文系の方々は図書を抱えて動けなくなることが多々あります。その中で埋もれて、自分のデータの中で埋もれてしまって、そこから出られなくなるという状況に陥っているということが多いので、それは理系でも文系でも同じことが起きていると説明して、いろいろ理解を得る努力をしております。
【北森委員】    大変な御苦労を。これはやはり、そうしますと、今伺ったお話の中だけでも文化系と理科系と相当違いますので、やはり強いリーダーシップと方針の下で各部局を説得するというような、そういうことでしょうか、一言で。
【引原京都大学図書館機構長・附属図書館長】    そうですね、部局といっても声高い人がそんなにたくさんいらっしゃるわけではないので、その辺は丁寧にということになると思います。おかげさまでというか、残念ながら、それが理由か知りませんが、図書館機構長辞められなくなってしまいまして、まだ続けることになってしまいました。実のところ、やはり全学的にうまく説得できて、皆さんが納得していただけた段階で、各先生方が属しておられる学会とか、コミュニティへの展開があるだろうと信じておりまして、まずそういう学内を説得することが重要だと考え、足元からやって来たと思ってください。
【西尾主査】    他に御意見はよろしいですか。
  引原先生、本当にどうも貴重な御報告ありがとうございました。海外から見て日本のオープンサイエンス、オープンジャーナル、オープンデータ関連のことが見えていないという非常に深刻な御指摘であるとか、データが日本語の場合、英語でないからオープンにする意義がないということではないということとか、大変示唆に富む貴重な御報告、ありがとうございました。
  何かありますか。榎本参事官、どうぞ。
【榎本参事官】    御指摘ありがとうございます。今日は活発な御意見等を頂きまして、冒頭、私から述べた3つのうちの2つ目と3つ目、すなわち国際的な議論への積極的な参画、それから3つ目の国内における議論の積み重ねと実践、これを同時に進めなければいけないということを改めて、今日の議論を通じて認識した次第でございます。
  実は昨年3月にこの議論を始めた際、ですから1年半前になりますけれども、その際、まだ文部科学省にはオープンサイエンスに関する方針がございませんでした。その前までは、ジャーナル問題や、大学図書館ですとか大学のクラウド戦略、そして個別の切り口での議論でございましたので、この1年半にわたる議論を通じまして、この審議まとめも出来上がり、それから第5期の基本計画も出来上がったということで、私といたしましては、国における、これに関する基本的な方針はこの審議まとめであり、基本計画であると思っておりますので、今日の御指摘も踏まえながら、更に担当として作業に努めたく思っております。ありがとうございます。
【西尾主査】    榎本参事官、力強いメッセージ、どうもありがとうございました。
  それでは、今、榎本参事官の方からもお話しいただきましたけれども、この委員会でまとめました「審議まとめ」に関しましては、いろいろな意味で有効に使われて、今日の議論にもありましたように、どう実装していくのかというフェーズに来ているということです。ちょうどこの場に、それぞれの立場の代表の方々がいらっしゃいます。内閣府の委員会の座長が引原先生、日本学術会議の方の今後の牽引(けんいん)者が土井先生、文部科学省の担当課の方がいらっしゃいまして、これらの3者が、他の省庁も含めてお互い連携をとって、日本のオープンサイエンスをどのように今後力強く進めていくかというフェーズに来ているかと思います。そういう意味で、学術情報のオープン化についての今までの審議に関しましては大きな実りを得て、一区切りとさせていただきたく思っています。
  第8期の委員会期間は、後数か月間はあるのですけれども、これから新たな課題を議論するにしては、期間的に短過ぎまして、きっちりとした、我々が納得できる議論にまで至らない可能性が多分にございます。そういうことを踏まえて、緊急の課題が生じた場合には再度この委員会は開催させていただきたいと思いますけれども、第8期の本委員会は本日で最後にいたしたく思っております。私としましては、委員各位のこれまでの本当に多大なる御尽力に心から深く感謝申し上げます。皆様方の貴重なお時間を頂きましたこと、また本当に重要で、有意義な御意見等頂きましたことに対しまして、深甚なる感謝の意を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
  それでは、事務局の方にバトンタッチします。
【玉井学術基盤整備室参事官補佐】    今ほど先生からありましたように、本日で第8期の学術情報委員会が最後となりますので、事務局の方からも一言お礼を申し上げます。
【小松研究振興局長】    では、私の方からもお礼を申し上げたいと思います。西尾先生はじめ、委員の先生方には、2年弱の間非常に多くの会議に御出席を頂きまして、精力的な御審議、どうもありがとうございました。2月におまとめいただきました審議まとめに基づいて、文科省としても当面施策を進めていきますけれども、今日のお話を伺っていましても、整理しなければいけないことがまだまだたくさんあるし、課題も山積しているなと思って、ちょっと暗たんたる気分というか。でもオープンアクセスが進むことによって、一層学術、科学技術研究が前に進むということがあると思いますので、これは希望を持っていろいろな課題に取り組んでいかなければならないのではないかなと思っています。
  今年5月に日本で開催されましたG7の科学技術大臣会合でも、このオープンサイエンスについては議題の一つとして取り上げられておりまして、国際的にも大きな課題となっています。多分どこの国でもうまくいっているということはないのではないかと思っています。国際的にも取り組むべき課題となっており、また取組が加速していくと思いますので、その波に遅れないようにというか、むしろ本当は先導したいのですけれども、我が国としてもきちんとオープンサイエンスの取組を進めていきたいと思っておりますので、今後もどうぞ御指導よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
【玉井学術基盤整備室参事官補佐】    あとは事務的な御連絡になりますけれども、本日の会合の議事録につきましては、改めて委員の皆様に御確認を頂いた上で、公開させていただくことにしております。
【西尾主査】    それでは、これで閉会いたしたいと思います。皆様、長い間誠にありがとうございました。

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