学術の基本問題に関する特別委員会(第7期)(第9回) 議事録

1.日時

平成26年9月30日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省3階1特別会議室

3.議題

  1. 学術研究の推進方策に関する総合的な審議について
  2. その他

4.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾主査、安西委員、甲斐委員、佐藤委員、高橋委員、柘植委員、濵口委員、平野委員、伊藤委員、金田委員、鈴村委員、瀧澤委員、武市委員

文部科学省

常盤研究振興局長、山脇研究振興局審議官、安藤振興企画課長、木村学術機関課長、合田学術研究助成課長、鈴木参事官(情報担当付)、森高等教育企画課長、中野学術企画室長

5.議事録

【西尾主査】
 それでは、定刻になりましたので、ただいまより第9回科学技術・学術審議会学術分科会 学術の基本問題に関する特別委員会を開催いたします。本日は、皆さん御多忙のところ委員会に参加いただきまして、心よりお礼申し上げます。どうもありがとうございました。
 今回は、既にお知らせいたしておりますけれども、産業界から見た学術研究における課題等について審議したいと思います。本日は、産業界の観点から御意見を伺うため、東芝株式会社の佐々木則夫取締役副会長、それから産業競争力懇談会(COCN)実行委員、小松製作所の渡辺裕司顧問にお越しいただいております。本日は、本当に御多忙のところ御出席いただきまして、誠にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
 それでは、審議に入る前に、まず事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【中野学術企画室長】
 失礼いたします。
 まず、本日、事務局に遅れてまいる者がございます。申し訳ございません。また、急な案件が入りまして、途中退席も予定されております。あらかじめおわび申し上げます。
 配付資料の確認をさせていただきます。配付資料につきましては、議事次第に掲載されております配付資料一覧のとおり、資料1から6、それから参考資料1ということでお配りをさせていただいています。一つ一つの確認は省略させていただきますが、欠落等ございましたらお申し付けいただければと思います。
 なお、資料4といたしまして、産業界からの意見(概要)ということで、これまで事務局におきまして、こちらでおまとめいただきました中間報告について、個別に産業界の方から伺った意見をまとめたものを配付しております。先般、メールにて事前配付したものから少し追加も入っておりますので、本日、御説明の時間はありませんけれども、御確認いただければと思います。
 それに関連いたしまして、参考資料の下、資料の一番下に机上配付といたしまして、具体的にお聞きした産業界の方の一覧をお配りさせていただきましたので、こちらも御確認いただければと思います。
 また、配付資料のほかに、いつものように、机上にグレーのファイルで、これまでの委員会の資料をつづったものを置かせていただいております。
 関連しまして、本日、柘植委員から御発表いただきます内容で、本年4月に経済再生担当大臣より提出された資料についての引用がございますので、そのオリジナルの資料のところに附箋を付けさせていただいております。必要に応じて御参照いただければと思います。
 以上でございます。

【西尾主査】
 ありがとうございました。
 資料4の産業界からの意見(概要)を読ませていただきましたけれども、様々な貴重な意見が述べられております。もし可能でしたら、御一読いただきますと有り難く存じます。
 それでは、審議に移りたいと思います。本日の審議の進め方でございますが、まず産業界から見た学術研究の課題等について、佐々木副会長、渡辺顧問から15分程度で御説明いただきたいと思います。また、配付させていただいておりますように、柘植委員から事前に資料提出がございましたので、佐々木副会長、渡辺顧問に御発表いただいた後に、柘植先生から資料について15分程度で御説明いただければと考えております。柘植先生の御発表の後、1時間程度、意見交換、質疑を含めた自由討論の時間とさせていただきます。その後でございますが、最後にその他として、科学研究費補助金に関わる平成27年度概算要求の状況について、事務局より簡単に説明いただきます。
 それでは、早速でございますけれども、佐々木副会長より15分程度で御説明をお願いいたします。どうかよろしくお願いいたします。

【佐々木副会長】
 どうもありがとうございました。学術そのものには若干縁が遠い方の人間でございまして、産業界からということで、「学術政策への期待」と題しまして、やはり学術そのものの中身というよりは、イノベーションを支える学術研究であるためにどうなっていていただきたいかというようなことを中心に、当社の経験も踏まえながら御説明を差し上げたいと思います。
 表紙を1枚めくっていただいて、イノベーションの種類という言い方はちょっとおかしいんですけれども、過去、科学技術がいろいろ進んでくる途中のところというのは、アナリシスという形で、やはり突き詰めて分析をしながらファクトを探究していくと。特に、領域を細分化しながら深掘りをしていくような、これは真実を探求するということで、今でも基本的には量子物理学ですとか、ビッグバン以降いろいろなこともあると思うんですが、まだまだこういう形でいける部分、いかなければいけない部分というのはあると思います。
 我々産業界から見てきたアナリシス型というのは、技術そのものが単純にうまく、いろいろな機械ですとか、システムですとか、そういうものに直接応用されることができて、シンプルなもののときには、産業界としてもこういう形でいろいろな研究開発をしてきたと思います。
 ただ、時間がたって、やはりいろいろなものが細分化されて、深掘りされた今の状況の中でいきますと、産業界からしますと、要するにそれを今度はシンセシスで合成、融合させていかないと、本当の意味でのビジネスに直結をするような新しいものができないということで、2番目にシンセシス型というものを考えてみました。これ、やはりあるベース、進んだベースをいろいろ、既に経験を持っていますので、そういうものに対して、それをどう融合させていくかによって新たな価値を作っていこうということだと思います。
 iPhoneなんて書いてありますけれども、iPhone自身が今、できるのは、高精細な液晶画面と実際のメモリ、非常に小さくて大容量のメモリとか、その他いろいろなチップがあったり、そういうことがないとスティーブ・ジョブズも成功しなかったわけです。御存じのとおり、スティーブ・ジョブズは途中で最初は失敗して追い出されています。そこから十数年かたちインフラが整ってくると、その中でいろいろな組合せをやって一番いいものを組み合わせたのが、タイミングも含めて、シンセシス型のものは非常にビッグヒットを生むような形になる。
 だから、やはり研究開発そのものも、学術的なものについても、アナリシスで深掘りするものとシンセシスで、深掘りしたもの同士をどう組み合わせていくか。ただ、シンセシスの場合は、その要素の数が増えれば増えるほど自由度が非常に大きくなってきますので、そこから最適組合せというものを本当に見付けていくのはなかなか難しいと思います。
 そういう意味で、次のページをちょっと見ていただきたいんですけれども、アナリシス型を従来の学術研究主体と高い親和性と言っていますが、本当に掘り下げていくところというのはまだまだあるわけで、これからいろいろやっていかなければいけないとは思うんですが、シンセシスの場合は、もう深掘りされたものをどういう組合せで使うと本当にベストな解が創り出せるかということだと思います。
 それを無限の自由度に対してやっていったときに、運よくその時代にベストな解を見付ける、匂いをかぐ人、それがイノベーターなわけで、そういうイノベーターというのはどういう要素があるのか。下の直感力・才能・運なんていう話ももちろんあるんですけれども、直感だけあっても本当は駄目なんです。基本的な知識がしっかりあった上で直感力がある。それを組み合わせていくような才能、それから時期が早過ぎると駄目だし、遅過ぎると駄目という運もあると、そういうことだと思います。
 そういう意味で、ちょっと次のページを見ていただきたいんですが、やはりそういう人間、ここではスーパーバイザーと書いてありますけれども、スーパーバイザー・プラス・プレーイング研究者みたいな、そういうところだと思います。その要件としては、やはり効果的な組合せをしっかり無駄なく見抜いていくような目利きの能力、それからスペシャリスト・プラス・ゼネラリスト、スペシャリストだけというのはやはり深掘り、アナリシス型ですので、なかなか難しい。だけど、広い知識、視野があってこそのスペシャリスト的なところが活きるということだと思います。だから、領域間の融合を可能とするような広い視野と、ここではタコつぼ的専門知識と書いてありますけれども、それを併せ持つ、そういうようなスーパーバイザーが必要だということだと思います。
 それから、バイタリティー、目的意識があって、目的達成に邁進する人、ここには見えないニーズを見せる意志と書いてありますけれども、こういう指向性がないといけない。それから、何を行うかではなくて何を実現するか。下の絵で、ロケットを飛ばしているのはバツで、月に行っているのは丸ですと。要するに、ロケットを飛ばすというのはあくまでも手段であって、月に行くという目的のための手段ですよね。だから、その目的というものをしっかり持った上で、それを確実に見せていきながら、継続的にやっていくバイタリティーが必要ということだと思います。
 その次のページ、クリエイティビティーと書いてありますけれども、柔軟な発想でやらなければいけない。ここでは当社の製品ばかり書いてあるんですけれども、今、我々のヘルスケアといいますか、メディカルの主力の機種というのはCTスキャンだったり、MRIだったりするわけです。これで、がんですとか、いろいろなものを見付けるわけですけれども、究極まで行ったから最終的な究極の診断機器ができるかというと、多分、そうではないですよね。我々、こういうCTとかMRIの最大の敵はゲノムだったり、DNAチップだったり、マーカーだったりするわけです。だから、今、成功している手法というのは最良の手法であるわけではないので、そこのところのジャッジもちゃんと見ていけるようでないといけない。
 それから、一般的な話ですけれども、マネジメント能力とリーダーシップをしっかりとって、ダイバーシティーのハーモナイゼーションもしていかなければいけない。
 下に囲ってありますけれども、優秀なスーパーバイザーは一朝一夕で育成は不可能で、学術そのものを実際にこれから担っていくような人たちの中でも、さらにこういう能力を育成していかないと、難しいのではないかと思います。
 その下に2つ書いてありますけれども、科学技術政策や教育政策の中で学術コミュニティーと連携した育成方策を早急に確立していく必要があるのではないかと思います。特に、真に優秀なスーパーバイザーが選択される――古い組織の中で柔らかい発想を持っているとスポイルされる人も結構あるような気もしますけれども、多様な発想による活躍の機会をしっかり与えていく。それから、発信、競争、しっかりそういうものをさせていくような、促していくような環境の醸成が必要かと思っています。
 次のページを見ていただきたいんですが、もう一つは実際に環境としてのシステムというものがあると思うんですが、やはり開かれた研究コミュニティーをしっかり実現していかなければいけない。
 それから、ちょっと失礼な書き方で、細切れの学部構成とか、縦割りの行政組織なんて勝手なことを言っていますけれども、やはりそういうところがなきにしもあらずの部分もありますので、是非ここのところをうまく修正していく方向性が欲しいと思います。
 それから、やはりダイバーシティー、最近は女性の話ばかりですけれども、外国人も含めて、多様な発想をもたらすダイバーシティーというのは非常に重要だと思います。
 それから、目的を共有するような柔軟なアライアンス。自分たちだけで深掘りしていると、なかなかアライアンスという形に行かないわけで、是非お願いをしたいと思います。
 それから、少数のばらまきというのはちょっと失礼な書き方なんですが、私、JSTの監事をやっていまして、大学の方にいろいろな補助が出ていくんですが、結構小さいですよね。我々自身、例えば東芝でいくと、東芝の1年間の研究開発費は大体3,500億円あるんです。1人当たりに配っていっても相当あるんですけれども、大学の先生に配っているお金はとても小さいのではないか。ビッグサイエンスをやれるのかと思うようなところもあって、もうちょっとまとめた方がいいのではないかといつも言うんですけれども、予算の問題もありまして、なかなか難しい。そういう意味では、予算に応じてだと思いますけれども、勝つための集中投資をちゃんとしっかりしていかないと、なかなか難しいかなと思います。
 それで、ダイバーシティー側に話を移して、次のページに行きたいんですが、今、日本の研究者は、そこに書いてありますように日本人・男性、ほとんどそんな属性ですよね。女性の比率14.4%、外国人比率8.1%と、日本の研究所はこれぐらいの感じです。そういう意味では、本当は多様な発想は多様な人々から出てくるわけで、こういうダイバーシティーについてもしっかり取入れていった方がいいのではないかと思っております。
 次のページに東芝の例を示しておりますが、コーポレートラボが3つございます。これ以外にワークスラボとか、開発センターとかいろいろあるんですが、コーポレートラボだけ取り上げても、この23.7%、25%、25%というのは女性の研究者比率です。先ほどの日本の平均14.4%というのはどこから来ているかというと、理学と工学の女子学生の比率がちょうど14%なのですね。それに引きずられて、どうしてもこういう構成になっていて、そこを我々はかなり努力して採っていくことを積極的にやっています。
 下に活躍事例がありますけれども、福島さんという我々の研究所にいた女性です。もともとは研究所で別のテーマをやっていたんですけれども、産休をして、数年休んだ後にもう一回戻ってきてちゃんと、前のキャリアを生かした状態で裸眼の3Dのディスプレーで、全国発明大賞を頂きまして、ここに書いてあるウーマン・オブ・ザ・イヤーも頂いております。
 こういうダイバーシティー、それから、それを支える環境の整備ということも必要かと思います。
 それから、次の9ページですが、ではグローバルにはどうなのという話になったときに、今、この地図の青い点で描いてあるところに研究機関がございます。東芝欧州、東芝アメリカ、ケンブリッジ研究所はケンブリッジ大学の中に造らせていただいて、あちらの先生などとも交流をしながらやっています。今、海外の研究開発人員としては4,900名ほどいます。海外の研究開発人員比率というのは全体の13.6%、ちょっと多いのか少ないのか分かりにくいですけれども、これぐらいの比率になっています。
 例えば、アンドリュー・シールズさんという人がいるのですけれども、東芝のケンブリッジ研究所ですけれども、世界に先駆けで量子暗号通信技術の実用化に向けた技術開発をしたということで、英国の物理学会から表彰されるとか、王立アカデミーで活躍をしています。
 最後に、まとめに入りたいんですが、ちょっと雑駁ではあったかと思うのですけれども、まず1つは、ある程度学術として深く掘り下げることは学術の世界でしっかりやっていかなければいけないんですけれども、我々産業界からすると、既にいろいろある中でどういうように物を作っていくか。シンセシス型イノベーションを生み出せるスーパーバイザーの育成とありますけれども、我々、ビッグデータから別な価値を生み出すということに、今、いろいろ力を入れていますけれども、同じことだと思うのです。だから、シンセシスというものを本当にしっかり、これからイノベーションの中で確実にやっていかなければいけない。それには、開かれた研究コミュニティー、それから細切れ、縦割りの解消、ダイバーシティーの実現、アライアンスの促進、勝つための集中投資というのは先ほどお話ししたとおりだと思います。
 その次のページ、育成のところ、世界のトップ10入りの大学というものは、大学のランキングはどうやって付けるのかというのはまた別な観点だと思いますが、やはりちょっと気になることもありますので、そういう意味では大学改革も必要だと思っております。
 それから、独創的な研究に重点配分をしていくこともしっかりする。
 それから、論文偏重のコミュニティー文化から脱却をしていく。
 それから、企業との直接オープン・イノベーションの奨励ということで、学術は学術、企業の研究開発は企業の研究開発という形になると、やはり産学共同の在り方というのは海外に比べて日本は結構薄いのではないかと思っております。是非そういうところも充実をさせていただければと思います。
 それから、そういうものを意識した研究支援体制を充実するということだと思います。
 最後のページになりますけれども、ダイバーシティー側を本当にどうしていくかということで、まずは理系女子を増やしていただきたいと思うんですが、これ、大学から始めたって無理なのですよね。やはり小学校、中学校とか、それぐらいのところからしっかりやらなければいけない。
 それから、日本のカルチャーを少し変えていかなければいけなくて、性別役割分業意識が小さいときから結構あるわけで、そういうものを解消する。それから、文理選択の仕組み、我々のときは理工系に行きたいなんていう話はたくさんあったけれども、最近、理工系は駄目ですよね。だから、そういうものを全部含めて魅力のある形にしていかなければいけない。
 それには、小中学校における理系教育の強化ですとか、あとは教師だと思うんです。教師がちゃんとしっかりしないとなかなか難しい。それから、ロールモデルというのはなかなか難しいのですけれども、例えばそれをどういうように若い人たちに見せていくか、その見せ方の問題もあると思います。
 あとは、女性の研究者、技術者の働く環境の整備ということで、今はいろいろなことをアベノミクスの中でもやろうとしていますので、まずそこはしっかりやっていかなければいけないと思うんですが、我々研究職は裁量労働制も含めてやっていまして、対象者の4分の1ぐらいは裁量労働を適用しています。その中に女性も結構いますので、そういうところもしっかりやっていったらいいのではないか。
 それから、外国人、給与体系が全然違いますので、インドとか東南アジアでやっているうちはいいのですけれども、西欧系でいくと全く違う部分もありますので、そういうことはやはり適切な仕組を構築していかなければいけない。これ、民間の会社は自由にできますけれども、国の研究機関とかもそういうところを整備していくことも含めて、外人は家族を連れてきて丁寧なサポートをしないと、なかなかいい成果を生まないところもあります。
 ちょっと口幅ったいお話もあるかとは思いますが、是非こういうようなことを御参考の上で、学術研究を進める環境作り、それから方向性に御反映いただけるということであれば非常に有り難いと思っております。
 以上でございます。

【西尾主査】
 佐々木副会長、貴重なお話をいただきまして、どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして、渡辺顧問より15分程度で御説明をお願いいたします。

【渡辺顧問】
 COCNの実行委員の渡辺でございます。きょうは、貴重な時間を頂きましてありがとうございます。
 我々、COCN、日本語では産業競争力懇談会と言っていますけれども、まだ余り知られていない組織ですので、ちょっと冒頭に紹介させていただきます。
 1ページの下の方に会社名が並んでおりますけれども、民間企業、主に物作りメーカーですけれども、34社が科学技術を中心にして、将来の産業競争力を高めていくためにどういうことをやるべきなんだ、どこに問題があるんだというような観点から議論をしまして、関係各所に提言を行っていくということをやっております。2006年に発足して、既に9年間続けておりまして、年間当たり10テーマほどを特別テーマという位置付けで取り上げまして、年度末に提言を行っております。
 下の方に上がっています会社名34社のほかに、4大学、京都大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学、プラス独法の産業技術総合研究所、こういうところにも入っていただいております。
 先ほど言い掛けましたプロジェクトとして、年間10テーマぐらいをやって提言を行っていますので、9年間の結果、今年9年目に入っているわけですが、約80の提言をやってまいりました。1つのテーマ当たり、小さいチームで20人ぐらい、大きい場合は100人を超えるようなチームを作りまして、メンバーは大学の先生、産業界の専門家、それから関係各省のお役人の方々、あるいは地方自治体の関係の方々、そういう方々に入っていただいて、1つのテーマを1年間徹底的に議論する。そして、こういうようにやったらいいのではないか、こういうように制度を変えるべきではないかということを80ほど既に出してまいりました。
 おかげさまして、この提言が予算化されて、国、あるいは自治体、あるいは産業界なりの現実的な活動に結び付いていくという、俗っぽい言い方でヒット率ですけれども、85%ぐらい達成しております。何といいますか、現場で実際に仕事をやっている人たちが議論をして、ネーションワイドに議論をして提言をするということで、できるだけ実行可能な提言内容にする。それから、提言だけに終わらずに、もし予算化されたり、やるということが決定された暁には、提言した本人たち、あるいはその企業、大学が、自分たちが実行の主役になっていくんだと、単に評論家的な活動に終わらせないというような形で活動しております。それがCOCNでございます。
 もう一つの大事なことは手弁当でやる。自分たちの費用で活動して、自分たちで背負っていくんだと、そういうことをモットーにして活動している組織でございます。
 今回の大学の在り方とかいうようなテーマについては、もちろん科学技術を中心にしていますので、そこから少し離れても、やはり人材の問題ですとか、研究所の在り方ですとか関連してきますので、大学運営に関する議論も相当してまいりました。きょう、2ページ目、3ページ目にCOCNの意見が書いてありますけれども、これはCOCNで議論した過去の内容をサマライズした内容でございまして、私個人の意見というよりはCOCNという会の意見だという立場でございます。
 それでは、2ページ目から、具体的に我々の考えを発表させていただきます。
 まず、産業界の考えるイノベーションとは、社会や人々の課題を解決することにより、新たな市場や事業が生まれ、収益が上がり、結果として経済成長や雇用の拡大に寄与するというものをイノベーションだと定義しておりまして、その中で、学術研究という活動はイノベーションを起こすための一つの重要な要素である。ただし、十分条件ではない、そのほかにいろいろな条件がうまく絡み合ってイノベーションというものが発動される、起こってくると考えております。
 大学とか国研の活動の在り方について、昨今、出口論とか、橋渡しの議論がいろいろとあちこちでやられるようになりましたけれども、これは我々産業界の立場から見て非常にいいことだと思っております。一方で、あえてこの議論が盛んに行われるようになったということは、過去の大学なり国研の在り方が、この部分に問題があったということの一つのあかしだと思っておりまして、この議論が実りある成果として、何らかの改善が進んでいくということを強く期待しております。
 無論、産業界においても知の創出力や人材育成力を支える学術研究の重要性とか、研究者の興味に任せての研究ですとか、あるいは自律的、自主的にそういう研究活動をするということについては決して反対するものではございません。これが学術研究活動の中で重要な意味を占めるということについては全く異論ございません。大いに結構だと思っております。
 我々が問題にしていますのは、その成果がどうやって社会に生かされるか、応用されていくか、その部分に問題があるという理解、意見でございます。特に、国立大学といいますか、私立大学でも国の税金を投入して行う研究活動には、何らかの形で社会にどうやって貢献していくかという意思表示なり、ロードマップなり、計画というものが当然付随していくべきものだろうと、私達は考えます。当然のことながら、新しいことをやっていますので、計画どおりに行かないとか、どうも考えていたことと違う現象が起こってしまうのは、新分野ですから当然のことです。
 この特別委員会の議事録を少し読ませていただきましたけれども、そういう失敗の中から、実は本当の大きな発見が起こるんだということについては事例は幾らでもあって、そのとおりだと思います。ですから、そのことを否定するつもりはありませんけれども、失敗しても、それを余り問題にせずに、黙って見ているべきだというのは少し度が過ぎたやり方だろうと思います。やはり国の税金を投入してやるからには、社会に対してどうやっていきます、そして、ここは思ったとおりの成果が出ました、ここは少し勘違いで、違う現象でうまくいきませんでしたとかいうようなことをオープンにすることが、最低限、国の税金を投じて行う活動に対する義務だろうと思います。また、そのことをオープンにし、議論をすることによって、社会的な共有知となっていくということは非常に大事なことだろうと思います。
 アカデミアという社会で非常に難しい、特殊、テクニカルタームといいますか、そういうもので議論をしないと深掘りができないというのは当然のことだと思いますけれども、一方で社会に対して分かりやすい言葉で、ここはこうなりましたと、社会はこう変えていくべきでしょうとかいう問い掛け、話し掛け、あるいは自分たちの意思表示、分かりやすい言葉で社会と接触していく、コミュニケーションを取っていくということをやらないと、納税者の立場から言うと、やはりこれ以上税金を投入するのはちゅうちょするという気持ちが出てくるのは当然のことであろうと思います。
 先ほど来、佐々木副会長の方から、大学とか国研で行う研究投資の規模が非常に小さいという御意見がありましたけれども、私も民間企業の研究部門で働いたことがありますけれども、その感覚を持っています。よくこんな小規模なもので世界的な活動ができるものだと、むしろ不思議に思うといいますか、敬意の念を感じさえします。ですから、一方で老人問題ですとか医療問題で財政が逼迫している中で、できるだけアカデミアの世界で効率を上げなければならない。そういう状況下というのは、もう現実として受け止めざるを得ない。
 その中で、アカデミアの研究開発に投入する投資をいかに効率を上げていくかと考えたときに、何といいますか、投資の民主的運営というようなことができる、そういうぜいたくな状況ではなくなっていて、これに関してはここで打ち止めて、その分の資金と人材をこちらの方に回していくというようなダイナミックな運営が行われ、例えばちょっと大きなテーマですと50人ぐらいの研究者を投入しないといけないとか、数十億円の資金を投入しなければならない。
 私個人的には、1つのテーマで年間30億円の資金を投入して商品開発、事業開発をやったという経験がございますけれども、それでも足りない、足りないと、いつも人とお金のことを大騒ぎしていましたけれども、少しまともな成果が見え始めたら、それこそ死の谷を渡るためには相当集中的な投資をしないと形が見えてこない。社会として、俺も参加したい、私も参加したいという形で民間企業なり、個人が参加してくる状況を作るためにも、相当大きな投資にまとめていかない限り、社会から見ていくと、何が成功しそうで、何が無駄な投資なのか全く分からない。だから、一律にやればやるほど全部が無駄な投資になっていくといいますか、成果に結び付いていかない投資になってくる危険性があるのではないかと思います。
 先ほども言い掛けましたように、研究の目的と目標、こうこうこうしたいんだ、こうすればいい社会になるんだとか、いつまでにこうするんだとか、それを第三者に評価してもらう。特に、アカデミア対アカデミアの総合評価というのも大事ですけれども、専門性はそれでないと評価できないと思いますけれども、本当に成果に近付いてきているのかというのは、我々民間の技術者でもある程度は直感的に分かります。ですから、そういう意味で、外の人たちに評価してもらうことをやる必要があるのではないかと思います。
 また、今後、いろいろなプロジェクトが、一つの専門性の深掘りではなくて、広く言えば社会学との連携まで含めて、横の連携の中で一つの新しいものを作っていくというような幅の広い活動が必要になってくると思います。そのときには、いわゆるマネジャーが必要になってくる。大学にもっとマネジメント、横の連携を強める、あるいは調整をする、そういうマネジメント能力を付けていかないと、小規模な研究活動ばかりがいっぱいあるという先ほどの問題と同じようなことが起こってくると思います。
 私の拙い経験ですけれども、アメリカとかヨーロッパの先進国の大きな講座を運営している大学の教授というのは、もちろん年を取ってからですけれども、若い頃どれだけの専門家だったか私には分かりませんけれども、大体マネジメントが非常に優れている。我々ビジネスマンから見ても、この人の使い方、人の集め方、資金の集め方は非常に優れているという、マネジメント能力の高い方が研究のリーダーシップを取っているということを何度も経験いたしました。そういう目で日本の大学を見たときに、そういう人材が余りにも少な過ぎるのではないかと思います。
 私の経験からいいまして、今、お話ししていることは、ほとんど全て大学の工学部と言われるところの活動に対する意見ですけれども、工学部というのは自然科学をアプライして社会に役立てていくことを目的に活動しているところでございます。そこが産業界とどうやって連携を取っていくかというということを考えたときに、出口論ですとか、ロードマップですとか、そういうものを出さずに産業界と一緒にやっていくということはあり得ないだろうと思います。もちろん、工学部でも部分的に自主研究、自分がいろいろとアイデアがあって、ちょっと試してみたいという研究テーマがあっても構わないと思いますけれども、それが大半を占めるというようなことは余りにも不健全であろうと思います。
 もう一つ、私が非常に気になっていることがございまして、それはポスドクの問題でございます。日本は先進国の中でも、人口比率でいうとドクターの数が非常に少ない。その少ない状況でありながら、民間企業はほとんどドクターを採りたがらない。これは20年ぐらい続いて、延々とポスドクの、あえて言わせていただきますけれども、犠牲者の学者さんたちの数が増えてきている。これはまさに大学の活動と、社会、産業界なりのニーズのミスマッチそのものの現象で、それが一番弱い人たちのところに現れていると思います。それは、多分、博士課程の教育が大学の学者後継者の養成機関として機能していて、先進国は既にもうその段階からもっと大きくエクスパンドして、産業界の最先端の技術を事業化していく、そこの人材として博士課程の学生たちを役立てていくんだという方向に切り替えていないという問題ではないかと、私は感じております。
 企業の方でも、なかなか採りたがらない。それはなぜか。私は企業側にいて、人事面接などをして分かっています、ある程度感じていますけれども、ドクター課程を出た学生さんは研究をしたがる、お客さんと接触するのを嫌がる、いい論文を書けばいいんでしょうという形で会社の中で自己主張しようとすると、この人に事業化を託したいというモチベーションがもう企業側は萎えてしまうというようなことを、人事面接をやりながら何度も経験しております。そういう問題なのではないかと思います。
 また、ダイバーシティーの話とも関連するんですけれども、企業の中でそういう研究活動、新事業を作っていくという経験を積んだ人たちを大学の中に入れていかないと、大学自身が社会との接点をもう一度強化、再強化していくという方向に動いていかないのではないかと思います。
 ヨーロッパに留学していたときにつくづく感じたんですが、ヨーロッパは学問というのは生活の中から生まれ出てきている、学問体系は生活の中から出来上がってきたんだなということを強く感じました。日本の場合は、追い付くために大学を国が作って、とにかくこうやれば、アメリカの後を追えば、ヨーロッパの後を追えば日本は発展するということで、大学が社会の中から自然発生したのではなくて、ある目的があって国が作った。その伝統が延々と続いているために、大学が社会と遊離したら存在できない。社会の要請に従って、社会の先取りをして、大学がこういう社会を作りましょうと。高齢化問題が起こりますよ、過疎問題が起こりますよ、少子化問題が起こりますよ、それが30年後に起こるから自分たちはこういう変革を考えています、これをやっていきましょうという社会に対する、あるいは政治家に対する、あるいはジャーナリズムに対する発信をやって社会を引っ張っていくというのが、多分、大学の非常に重要な仕事、社会での機能だろうと思います。
 そういう意味で、社会とのコミュニケーションを行わない大学というのは、税金を回すというところで非常に大きな問題が立ちはだかってくるのは、私はある意味で自然の成り行きかなと。逆に、そこを改善すれば、私は、おじいさん、おばあさんに回す医療費とか、介護の費用を少し我慢してでも、大学の予算を2倍にしましょう、5割増しましょう、ちょっと我慢すれば日本の産業力が回復してくるから、税収、財政が改善するから、その次におじいさん、おばあさんたちはもっと幸せな生活ができるようになりますからということは、日本人は我慢できる民族であろう、教育に対する敬意というものはほかの国に負けない国民性を持った国だろうと思います。必ずそういうことは起こるだろうと信じたいと思っております。
 長くなりました。どうもありがとうございました。

【西尾主査】
 どうもありがとうございました。佐々木副会長の御説明とも結構方向性が一致する内容もありまして、非常に貴重なお話をいただきました。
 続きまして、柘植先生からお話しいただきます。

【柘植委員】
 では、前のパネルに出していただけませんか。
 お手元のカラープリントもちらちら見ながら、ちょっと送りますので、フラットパネルを見ていただいて聞いていただきます。
 取りあえずプリントを見ながら見ていただきますけれども、表題に「“我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略”の持つ科学技術・学術及び教育改革面の内包的意味と、その実践を考える」という話を15分ほどでさせていただきます。これは、冒頭、事務局からありましたように、脚注にありますように、4月16日の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で経済再生担当大臣より提出されまして、最終的には科学技術イノベーション総合戦略2014にほとんど盛り込まれて、閣議決定までされていることであります。
 これは、5月7日の第5回の本委員会のときに参考資料として配られて、きょう、机上資料にありますけれども、ちょっと私事ですが、病気で入院、加療をしておりまして、入院中にこの送られてきた資料を見て、はっきり言いまして、ここまで我々の科学技術・学術審議会を取り巻いている環境が変わったかと、大げさに言えば驚愕したということであります。そういう意味で、私は、この資料の表題に科学技術・学術審議会委員というクレジットを書きました。
 なぜ驚愕したかというと、10年前に私は総合科学技術会議の議員を務めたことがありまして、それと重ねたこともあって驚愕したということであります。きょうの意味は、その2つを重ねて、学術の基本問題に関する特別委員会も含めて、我々科学技術・学術審議会として、この改革戦略の持つ、表紙に書きましたように内包的意味、インプリケーションですね。私に言わせると、我々に対するメッセージと受け止めるべきだと思うんです。そして、当然それは我々が実践をするべき、受け身ではなくて、我々が自主的に実践をすべきものと受け止めるべきなんですね。やはりそういうことを考えるときが今だと、そういう意味でお話をしたいと思います。
 時間がないもので、まず最初のページで要点だけを済ませてしまいたいと思います。
 今、申し上げたように、要点1は、この改革戦略の連携施策は大学、公的研究機関、産業の間で相互に密接に連関しておりまして、この連携施策設計に供するべく相互の連関課題の抽出と、その可視化を試みました。特に、この可視化によって、後ほど少し可視化しますが、同改革戦略は科学技術・学術のみならず、大学教育改革面に及ぶ内包的な意味を持ちます。イノベーション側から、我々科学技術・学術側との橋渡し機能強化を求めた画期的なメッセージと受け止めるべきであると思います。
 ちょっと余談でございますけれども、私が10年前に総合科学技術会議の議員をしていたときには、経済財政諮問会議は科学技術政策に対して、一言で言うと、産業的な表現を言いますと、科学技術投資はコストであるという考え方を持っていました。つまり、コストというのは限りなく削減すべきものであります。あるとき、「投資目標ではなく成果目標を基本とし」というように、経済財政諮問会議の文章が起案される瀬戸際まで来たことがありました。私たちは、それはおかしいと、せめて「投資目標のみならず成果目標も軸とし」という文章で、投資目標を消すことを止めたことが10年ほど前にありました。
 したがって、10年前にはコストという意識を持っていたんですね。コストダウン、産業的な発想で科学技術政策を見ていたのが経済財政諮問会議の風土だったわけです。それが、逆に投資であるというように発信をし始めてくれた。そういう意味での橋渡し機能を、経済財政諮問会議は我々に対してメッセージを送っている。
 3番に書きましたように、我々は教育界も含めて、もちろん基礎・基盤を揺るがせることなく、自律的に学術と教育の一体的な視座の下で、社会・産業との橋渡し機能を強化することが求められているということを自覚して実践したいということです。
 同時に、きょうは時間がなくて触れられないんですけれども、この戦略で欠落しているのは、初等中等教育における科学と技術教育の乖離に起因しますイノベーション・ナショナルシステム全体の負の循環構造です。今、佐々木副会長、それから渡辺顧問の中で触れたことと全部つながっています。これは、最後にちょっとだけしか触れる時間がないと思います。
 お手元の資料の3ページからは、非常に記述的に書いてるので分かりにくいんですけれども、戦略を分析したものをずっと羅列したもので、分かりにくい資料になって居るので、後でちょっと見ていただきたいと思います。6ページ、7ページです。
 それで、これを可視化してみました。本当に見やすくなったかどうか怪しいんですけれども、私なりに橋渡し構造、いわゆる経済財政諮問会議の方からどういう橋渡し構造を強化したいと我々にメッセージを送っているのかということを可視化してみましたので、画面の方を見ていただきたいと思います。
 まず、やはり経済財政諮問会議からの橋渡しというのは、当然、大学と公的研究機関と産業という3つのドメインの間に、知の創造と社会経済的な価値の創造というものを結ぶための橋渡し構造ということは、10年前にはとてもとても考えていなかった。もうコストダウン、コストダウンということしかなかったことに対して、こういう構造の中で橋渡しを求めているということなんですね。改革のポイントは、まさに産学連携のオープン・イノベーション実現による革新的技術を事業化につなぐ橋渡し機能の抜本的強化という、青のところが戦略の中でうたっている字そのものです。
 戦略1には、公的研究機関の大学・産業間の橋渡し機能という記述があります。その中には、研究員、大学教員の兼任、博士課程学生の受入れということが書いてあります。
 黄色は私の問題提起ですけれども、実践と実戦の両方の表現をあえて使いました。私もアメリカとかイギリスの大学と共同研究して、その中に参加したインボルブした博士課程の教育研究の院生を見ますと、まさに実戦的、実践的な研究参加でを見ましたので、本当に実践(実戦)的な博士課程教育研究の世界レベル化に日本の大学院の教育側が本気になるか、なってもらわないと、これは実現できませんという問題提起をしたいと思います。世界レベルの産学官の橋渡し機能強化には、大学院の博士課程の教育研究機能も実践(実戦)的に組み込まないとできない。今、これがイノベーション側にはないんですね。文部科学省がそういう形で組み込まないと、これはできませんということなんです。
 それから、戦略1(2)や戦略3には、公的研究機関を核とした世界的な産学官共同研究拠点・ネットワークの形成、受け入れた学生を企業からの受託研究や産学官共同研究に参加させてイノベーションマインド養成ということが書いてあります。従来から産業界もこういうように言っておりましたけれども、とにかくに私が驚愕したのは経済財政諮問会議がこういうことを公式に言っているということであります。
 これは、もう言わずもがな、教育と研究とイノベーションの一体施策が伴わないとできません。実は、自分自身も博士課程を修了して産業界に出たもので良くわかります。これは本当に実現せねば、先ほど両講師からもありましたように、そういう能力を持つことで得た博士課程修了者を産業界で活躍させる時期がもう来ていると。遅いぐらいなんですけれども、まさにこれを実現すべきであります。そのためには、教育と研究とイノベーションの一体施策の実行が必要ということで、これも先ほど言いましたように教育側が本気にならないと駄目ということであります。
 それから、戦略の別のところには、橋渡し機能の強化に向けたファンディング機関の改革と書いてあります。その中に、効果的な資金配分の在り方を含めた技術シーズ創出力強化のための方策と書いてあります。これも、日本の文部科学省系から、経済産業省系から、あるいは、ほかのところを含めたファンディングの仕組みに対して本当にやる気なのかと。確かに、米国の同制度のベンチマーキングに対して、今、日本の強み、弱みの分析が欠けていると私は思います。具体的に言うと、例えばライフサイエンスをやっていると、アメリカのライフサイエンスに対する投資というのは非常にストレートフォワードですね。基礎はNSFがきちんと守っているけれども、あとは入り口から出口までストレートに一つの組織がきちっとやっている。こういうことの日本の強み、弱みの分析が欠けています。これだけ複雑なファンディングのメカニズムに対して、本当にメスを入れることができるかと、こういう瀬戸際まで来ていると私は思います。
 戦略2では、技術シーズを生み出す大学や公的研究機関の改革という戦略が出されています。大学側には、イノベーションの源泉となる大学改革の推進ということが書かれています。公的研究機関には、公的研究機関の技術シーズ創出力強化ということが書かれております。
 この戦略2単独での改革は不可能であります。もう言わずもがなですが、いずれも大学院の教育研究改革との総合連関の制度改革が必須です。まさに科学技術イノベーション改革と教育改革の一体戦略の統合的な推進が肝要であります。それは同時に、産学連携活動と教育の二人三脚も必要だと思います。現実問題、各大学を見ると、確かに教育に産学連携を生かしているといえども、実態はほとんどが産学連携と教育とは連動していないと思います。先生の研究活動には産学連携は生かしていると思いますけれども、教育に産学連携活動を生かしているという教育方針の大学に、私は出くわしたことがないです。
 私、実は芝浦工業大学の学長をしていましたがたんですけれども、現在これは生かしつつあります。手前みそですが。イノベーション・ハブ構造構想というものがイノベーション・ナショナルシステムに出てくるんですけれども、この後、イノベーション・ハブこの構想というものがこれにのっとって出てきています。今、文部科学省が引っ張ってくれているのですかね、JSTが文部科学省から受けて。
 このイノベーション・ハブ構想は、教育と研究とイノベーションの三位一体推進の実践の場になるかが試金石だと思います。これは今後の課題ですね。これからイノベーション・ハブ構想というのが具体的になると思いますけれども、本審議会なり、この委員会の継続的な重要フォロー事項と私はしたいと思います。
 それで、時間がもう来ましたので最後です。この戦略では、初等中等教育から高等教育、大学院の教育の立て直しを目指した橋渡し機能の視野がすっぽり欠けています。我が国のイノベーションのナショナルシステムには欠けています。アンダーラインのところだけを読みたいと思うんですけれども、これイノベーション戦略を本当に持続可能なエコシステムとするためには、初等中等教育の再生から高等教育の実質化と大学院博士課程教育研究の世界レベル化全体の橋渡し機能の強化の一体的戦略が必要であります。きょうは付録を説明する時間がないんですけれども、1枚だけ後ほどどうしても見ていただきたいことがあります。しかし、これを強化しなければ、10年後も20年後も持続可能なナショナル・イノベーション・エコシステムにならないわけです。これは、私は文科省の中央教育審議会と、それから我々の科学技術・学術審議会との特別な合同部会を作ればできると思います。これが私の今のまとめであります。
 1番目、まとめますと、まさに10年前はコストだと外から見られたのに対して、投資だと期待されているときになった。我々は受け身じゃなくて、みずから橋渡し機能を、社会のための科学技術と教育の両面において貢献すべき時期が来たということであります。まさに科学技術イノベーション改革と教育改革の統合的な一体推進ということがポイントだと思います。この視座を学術の基本問題の1つの柱として位置付けるということを私は提案したいと思います。その中に欠落している初等中等教育に起因する科学技術と技術教育の乖離が、科学技術・イノベーション創造立国にもたらしている負の循環を立て直すことも含めていただきたいと思っております。
 1つだけ、是非付録を後で見ていただきたいですけれども、負の循環と言っているのはこの絵なんです。この絵だけは後で是非見ていただきたいんですけれども、ピンクで書いたところ、これは皆さんよく御存じのとおり、小学校、中学校の学年が上がるに伴って、学びが生活密着から徐々に抽象的になって、各分野も細分化される余りに、児童・生徒はだんだんおもしろくなくなってしまうということです。そのまま高校に行って受験戦争に巻き込まれてしまって、今は大学進学率がすごく高いわけで、全入時代です。
 それで大きく分かれると、最初のブロックですね、大学進学。抽象的思考でそれなりの点が取れる学生は大学院まで進学するようになってきます。そして、大学院の博士課程まで進学するんですね。それでアカデミックの方には非常に力を発揮してくれています。しかし、先ほど渡辺さんからも話がありましたけれども、産業界では社会人基礎力が不足しているということで敬遠されているのは、この原因なんです。結果的に博士に進学すると損すると、こういうふうに残念ながら学生たちは思うんですよね。これは日本にとって、物すごいマイナス効果です。
 もう一つは、全入時代で、その下の方ですね。今は抽象的思考に対応できないまま高校を卒業した学生も大学に進学していく時代です。全入時代。本当に自然科学をきちっと勉強しないでも大学に入れる時代なんですよね。
 最後です。一番下の黄色に書きましたように、科学技術・イノベーション創造立国の市民として、お父さん、お母さんにいずれなるんですよね。そういうお父さん、お母さんの子供が、またいずれ子供をもつわけです。こういう循環が起こっているというのが表題の負の循環であります。
 ですから、どの大学の問題とか、科学技術・イノベーション創造立国の問題は、やっぱりこの循環をプラスの循環に変えない限りもうだめだということでありまして、これは相当重たい、安西先生の下で、また別途じっくり話したい。すいません、時間が長くなりました。終わります。

【西尾主査】
 柘植先生、どうも貴重なお話をありがとうございました。特に教育との関わり、人材育成との関わりという観点で、非常に示唆に富むお話を頂戴しました。
 それでは、時間も限られておりますので議論に入りたいと思います。御三方の御発表、御説明に対しての御質問とか御意見等を含めまして、自由に御発言いただければと思います。
 安西先生、どうぞ。

【安西委員】
 大変貴重なお話を頂きまして、ありがとうございました。申し訳ありませんが中座しなければいけませんので、先に述べさせていただければと思います。
 第1点は大学の問題でございます。大学改革は焦眉の急でございまして、もう待ったなしだというのはおっしゃるとおりであります。この問題について、1点だけ申し上げますと、私はやはり国内の大学の間に、特に主要大学の間に競争がないというのが根本的な課題だと思いますので、この点については文科省におかれましても、いろいろお考えいただけるといいのではないかと思います。どんなに一生懸命努力している大学でも、あるいは場合によってはそうでない大学でも、常に順位は変わらないのが大学の世界でございまして、そこに風を通さないといけないのではないかと思います。
 それから、2番目は柘植先生の言われた教育の問題でございますけれども、今、大学の、特に入試改革の議論が進んでおりまして、従来のような入試の方法を根本的に転換したいという議論が行われております。これについては、高等学校の教育が非常に大きく関わってまいりますし、今いろいろおっしゃられたことも多々関係がございますので、またの機会にお話しできればと思いますし、是非これからのイノベーション立国に向けて、むしろ御支援いただければありがたいと思っております。
 3番目に、学術研究の問題でございますけれども、これは車、あるいは発電施設、社会的なシステム等の極めて大きな、大変多くの技術が関わる課題が大きく浮上していると思います。先般いろいろな人とお話をしたのですが、例えば車1台の中に含まれた技術をとってみましても膨大な数がございまして、リストアップすることはできないというのです。その一番土壌のところに、金額が少ないとおっしゃいましたけれども、科研費も含めて、本当に学術研究のレベルでもって頑張っている、そういう種がいっぱい仕込まれておりまして、その結果として日本の自動車技術が生まれてくるわけであります。その一番基になる学術研究のところについて、一括して学術研究がもっと社会と密接に結び付かなければいけないと言うには、やはりかなりのステップがあるので、全体をシステムとして捉えるべきではないかと思います。
 イノベーションと言われると、往々にして、すぐにお金になるような研究でないといけないと取られる可能性がありまして、それとは違う学術研究から本当のイノベーションとなる経済のマーケットオリエンテッドの技術までをシステムとして総合的に考えていく必要があるのではないかと思っております。それには、科研費等につきましては特にデータベースをしっかり構成して、常に誰でもその成果にアクセスできるような仕組みが必要ではないかと思っております。
 学術研究については、各国がむしろ戦略的に、マーケットオリエンテッドのところとまた違う、ベースのところで競争するという構造もございまして、特に国際的な共同研究の場でもって、学術研究をベースにした競争が相当顕著になっております。これは中国との関係等も含めて非常に大事なところでございまして、それも是非御理解いただければと思います。
 あと、最後になりますけれども、博士課程の学生の育成等につきましては、例えば博士課程教育リーディングプログラムが文科省にございまして、大体7年に7,000人ぐらいの博士課程の学生を、狭い意味での研究者ではなく、企業、国際機関、行政等々に送り込む、というものでございます。ただ、このプログラムは高等教育局でやっておられまして、研究振興局と連携しながらそれを進めていただく必要があるのではないかとも思っているところであります。
 おっしゃられたこと一つ一つは大変貴重なお話でございまして、いわゆる学術の側も真摯に受け止めなければいけないところがあると思います。ただ一方で、建設的に物事を進めていくためには、もう少し具体的に踏み込んで、いろいろな情報の共有をさせていただくことが必要ではないかと思います。どうもありがとうございました。

【西尾主査】
 安西先生の御意見の中で、車を例に取られてお話しになられました非常に大事な基礎的な研究が多々あるということに関しまして、佐々木副会長、渡辺顧問にコメントを頂けるとありがたと思います。

【佐々木副会長】
 多くの技術が関わるシステム、製品、そういうものをシステムとして大きく捉えなさいというお話をされたと思うんですが、それが先ほど私がお話をしたシンセシスの話にダイレクトにつながっているわけですね。だから、そこのところを本当に有効に、そういうものを見識として植え付けるような教育が本当に必要だと思います。
 それから、最初に大学間の競争がないという話をされたと思うんですけれども、大学だけじゃなくて、初等教育から競争させることが悪だということから日本の場合は始まっているわけですよね。
 私も実は諮問会議の議員を9月までやっていましたけれども、その諮問会議で、一度、教育の話の中で競争の話を当社の例でしましたが、東芝はアメリカで21年間、エクスプロラビジョン・アウォードというのをやっていまして、これは幼稚園から高校生まで5つぐらいクレードを分けて、「将来どうなると思う?」という単純な疑問でもって、そのアイデアをコンテストさせるんです。そうすると、もう21年たつとMITとかスタンフォードとかに入る人間が育っています。その卒業生の中から。
 競わせるということを今嫌っている日本の初等中等教育の中で、大学や社会に出たときに競争できる学生が育つわけがないと私は思っていまして、その話を安倍さんにしたら、そうだねという話になって、議事録に「じゃあ、分かった。競争させよう」と書かれた途端に、安倍さんのホームページが炎上したと聞きました。だから、そういう競争する環境が欲しいという話になると……。

【西尾主査】
 安西先生からコメントがおありのようですので、どうぞ。

【安西委員】
 手短に申し上げます。そのあたりのところは、例えば小中学校では全国の学力・学習状況調査が悉皆的に行われるようになりまして、その中で、イノベーションにつながるかどうか分かりませんけれども、B問題という記述力を測る問題が随分出されるようになりました。そういうことが高等学校、大学につながっていないというところが課題でございます。次期の学習指導要領がもうすぐ諮問されると思いますので、そういったことも踏まえて、是非産業界におかれましても、高校現場、大学現場が変わっていくように、特に高校のカリキュラムについては、理数教育も含めてもっとできることがあるかと思うのですが、具体的な情報を持っていろいろ御協力できればと思います。

【佐々木副会長】
 ちょっと補足したいんですけれども、我々アメリカで、東芝だけでやっているのではなくて、全米科学教育者アソシエーションというのがあって、そことやっていて、これはいい運動だから日本ともやりたいという話になったんですけれども、日本は競争と言ったら受け皿がないんですよね。
 あともう一つ、教師の側からというので、当社は中国の教育部と師範大学の生徒を対象に科学教育のカリキュラムコンテストをやっています。最初は幾つかの大学とやったんですけれども、向こうの教育部、日本で言うと文科省ですけれども、全師範大学でやってくれというので、今は全師範大学でやっているんですが、とにかく競争させていいものを生んで、それが良いというカルチャーを持っているのはアメリカと中国です。日本は全く逆ですよね。

【安西委員】
 申し上げたいのは、是非教育現場に向けて共闘させていただきたいということでございます。

【佐々木副会長】
 ありがとうございます。

【柘植委員】
 一言だけ、安西先生がおられる間に。安西先生がおっしゃった自動車の中身の例で、自動車というのを挙げたけれども、あの中の学術体系というのはとんでもなく書き切れないぐらいある。それは私も同意なんですけれども、我々の学術特別問題、学術側として、安西先生の言われたことを学術的な価値として、まだ我々は見える化というか、あるいは価値化し切れていない。日本学術会議においても、総合工学とあってもぼやっとしているんですね。ですから、そこは教育の現場に対しても、どうやって教育に落とし込んでいいか分かっていない。それは我々の方の問題じゃないでしょうか。

【安西委員】
 これからの技術というのは、特にシステム系の場合にはどういう分野の技術が役に立ってくるか分からないわけですね。そういう意味でオープンなわけで、企業等よりもっと広い土壌からイノベーションの種がつかまえられるようにしたいわけです。
 そのようにお考えいただいたときに、一番下の土壌においては、やはり若い研究者を含めて、自分からこういうことを研究したいという気持ちを持って、少ないお金かもしれませんけれども、何かの種を生み出していく「科研費」という土壌があることによって、戦略的な研究、あるいはマーケットオリエンテッドリサーチ、R&Dがいろいろなところから種を受け取ることができることが、これからの時代の在り方なのではないかと思います。

【西尾主査】
 渡辺顧問、どうぞ。

【渡辺顧問】
 裾野の広い技術で競争力を維持していくためには、いろいろなことに投資といいますか、競争力を維持させていく手を打たなきゃならない、それはよく分かります。ただし、それをやると、一方で副作用もまた出てくると。要するに技術、あるいは商品の競争力というのは、その瞬間その瞬間に、この技術がブレークスルーしたからこれが実現できてきたんだというようなことで現象が起こるんだろうと。そのときに、このアイデアを出した人はすごいね、社会貢献が大だねというふうに、全員で頑張ったという評価とともに、もう一方ではこの人がブレークスルーしたんだというような評価がないと、科学技術少年は生まれにくいんじゃないか、要するに社会から見えにくいというふうに思います。
 もう一つは大学間の競争について、私個人的には、特にこのことは地方大学、地方の国立大学の競争という意味で非常に大事だろうと思うんですね。今、内閣が地方再生をどうするかということで、地方が、やっぱりこれも社会の、日本が抱える大きな問題の、何といいますか、一番先に、弱いところに問題が集中して出てきていると。少子化の問題ですとか雇用の問題ですとか、おじいさん、おばあさんを介護する若い人さえももういなくなってしまっているとか、あるいはガソリンスタンド、スーパーマーケットが消えていくとか、そういうようなことが地方で起こっている。
 一方で国立大学も人口が地方で減っていく中で、当然若い人がいなくなりますから、規模が小さくなっていくのが自然の流れだろうと思います。それをどうやって食い止めるかといったときに、地方大学がその地域の特色を生かした産業、あるいは観光ビジネスを盛んにするとか、地理的な特徴を盛んにするとか、地方をよみがえらせるための知恵を出す人材、これはやっぱり地方大学が担うべきで、そういうことをすることによって、地方大学ですらもグローバル大学に成長するチャンスがあるんだろうと思います。
 例えばシンガポールですとか、スイスですとか、スウェーデンですとか、日本の国の規模から見れば地方のサイズですよね。それでも世界的に尊敬されるというか、生活レベルの非常に高いところで維持できるだけの人材がいると。だから、僕は地方大学の競争をもっと盛んにして、地方は地方で人材供給をやっていくんだ、アイデアを出してビジネスを盛んにしていくんだというような方向に、必ず行かざるを得ないというふうに思っています。

【西尾主査】
 安西先生がおっしゃっていただきました博士課程教育リーディングプログラムのことでございますが、本日、御三方から頂いた人材育成の方向性に関しては、このプログラムは大変マッチしているプログラムだと思います。高等教育局と研究振興局とがうまく連携をしていただければというお話がございましたが、山脇審議官、いかがでございますか。

【山脇研究振興局審議官】
 人材育成、特に博士課程の教育改革の問題は極めて重要で、きょうも高等教育局からも来ていますので、一体的にこれまで以上にその点はよく考えていかなきゃいけないと思っていますし、安西委員がおっしゃったように、もうちょっと深いところでの情報共有をした上での具体的な政策に結び付けていくということが大事だと思っています。

【柘植委員】
 関連意見ですが、いいですか。

【西尾主査】
 はい、どうぞ。

【柘植委員】
 リーディング大学院は、私はあれは是非是非充実していくということの大前提のサポーターのプラスの意見なんですけれども、佐々木さんがおっしゃった中で、特に私はこれを教育と是非やるべきだなと。佐々木さん御自身も、教育と一緒にやるべきだという中で私は理解していますけれども、11ページで、まとめのところで、企業との直接のオープン・イノベーションの奨励ということをおっしゃっています。オープン・イノベーションを意識した研究支援体制の充実。これをやる場合に、私はこれも教育とリンクしていく、当然それは博士課程の教育にこのレベルだと、それは今のリーディング大学院の教育研究とは別なプログラムになると私は想定します。
 ですから、リーディング大学院で今の博士課程の教育研究は世界から遅れているのはリカバーできます、ピリオドという理解ではだめだと思います。是非とも佐々木さんの11ページの企業との直接のオープン・イノベーションの奨励、こういうものを、これはですから研究振興局マターだと思うんですが、高等教育局とリンクして、博士課程の教育研究プログラムとリンクすることで、リーディング大学院のプログラムと、いわゆる二本立てという形でいくのが私は日本のあるべき姿だと思います。
 以上です。

【西尾主査】
 どうもありがとうございました。森課長、いろいろ出ています意見につきましては、今後よろしくお願いします。
 時間がどんどん少なくなっていますので、是非1人ずつ御意見を手短に言っていただければと思います。
 鈴村先生、お願いします。

【鈴村委員】
 ありがとうございます。時間の節約のため、ポイントだけ申します。
 最初に、独創的な研究に対する集中的な助成・投資という措置ですが、独創と独善の間の壁は薄く、真に独創的な研究は競争プロセスを経由して事後的に発見されていくものだと考えざるを得ないと思います。ここでいう競争とはアイデアの市場における競争でありまして、アイデアが結実した最終プロダクトの市場における競争とは異なる観念です。
 次に、最善な解の迅速な発見ということですが、事前的にはなにが最善であるかは誰にも分からないからこそ、研究者は多様な経路を慎重に模索して、失敗のリスクを冒しても発見手続きとしての競争プロセスに自律的に参加するのだと思います。アイデアの市場における競争プロセスに勝ち抜く可能性を持つ研究のシーズを的確に処遇して、開花のための土壌を豊かに提供することこそ、研究大学間の競争を勝ち抜くための戦略だと思います。これに対して、大学間のランキングを事前に付けて、公的な研究助成を高いランキングを得た大学に集中する仕組みは、アイデアの市場における発見プロセスとしての競争という観点からみて、焦点がずれるように思われます。欧米の大学におけるランキングが話題になりますが、これは上からのランキングではなく事後的な成功の反映としてのランキングであると思います。事実、発表される年ごとに欧米の大学のランキングは大きく変動する上に、大学に所属する創造的な研究者も、研究環境を提供する大学の競争能力を映して、優れた研究者の大学間移動も激しく起こっています。大学のランキングを予め定めて集中的な研究助成・研究投資を行うという構想には、些か懸念の余地があると思います。
 最後に、イノベーションに成功すればやがてはみんなハッピーになるのだから、老齢者に我慢させることは、多くの日本人も受け入れる方針だというご示唆がありましたが、私にはいささか抵抗感があります。かつてソビエト連邦の揺籃期には、国民が一時の空腹を我慢して50年間ベルトを締めれば、その後は全員が幸福になる共産主義社会が到来するという発想が確かにありました。しかし、我慢を強いられる時代の国民は、夢の実現以前に犠牲にされて歴史の彼方に姿を消して、それを補償する可能性はないのです。それのみか、夢の共産主義社会はついに到来せず、ソビエト連邦は消滅したという歴史は、軽々に世代間の負担論を語ることに対する警告として、忘れてはならないと思います。
 私はこの審議会で痩せ我慢の哲学をしばしば強調しましたが、私が触れた痩せ我慢とは公共的な仕組みの作り方を考える際に遵守すべきノブレス・オブリージュでありまして、科学・技術に対する公的助成に対して、その影に置かれる国民に痩せ我慢を強いる主旨の発言ではありません。
 以上です。

【西尾主査】
 すいませんけれども、お答えも手短にお願いします。

【佐々木副会長】
 はい。まず独創と独善は紙一重でという話をされておられまして、それで独創側という話なんですけれども、大体独善的な人が独創的な発想をするんですよ。だから、スティーブ・ジョブズが最初に失敗したのは、独善だったからで、環境が整っていないのと、やっぱりシンセシスすべき技術のレベルがまだ達していないところで独創的な対応をすると、それが独善となり失敗して首になったわけですね。ところが、十数年たってから自分たちができる要素技術を手に入れた上で、それを本当にシンセシスをしていくとできてしまうので、余り独善と独創ということにこだわり過ぎること自身が日本の独創性をなくしていると私は思います。
 それから、ベストの解というのは結果で分かるわけで、シンセシスの場合は10個、例えばパラメーターがあれば、その組み合わせ順列はとても大変な数になるわけです。だから、そういうものから本当にベストの解を、匂いをかぐというのは実際にはうそで、今の知識教育ではなくて、ちゃんとそれを見識に昇華をさせた上で、そこから突然の直感力みたいなもので、ある組み合わせをやるから、それがイノベーションというわけで、だから、そこのところをちゃんとフリーに、フレキシブルにできる勝者というものをあらかじめ予想をしてそういうことができる層をたくさん作っていかないと、今、これからのシンセシスの時代の中では確率でもってそういう人を育てていかないと、本当のイノベーションなんかできないと、そういうふうに申し上げているわけです。

【鈴村委員】
 最初の点についてのみ補足させてください。
 独創と独善の間の仕切りに関連してですが、スティーブ・ジョブズは独創を認められて公的助成を受け、それで成功したわけではありません。アイデアの市場における競争過程を勝ち抜いて、企業としても成功していったわけです。誰かが操縦席に座って、重点助成を指令していくイメージは学術の世界には相応しくないという意味では、スティーブ・ジョブズは私の議論の適合例だと思います。

【佐々木副会長】
 スティーブ・ジョブズは例として出したわけで、公的助成との関係は、私は独善と独創の中では言っていないつもりです。

【西尾主査】
 渡辺顧問、お願いいたします。

【渡辺顧問】
 老人に対する予算配分と学術予算の配分の話が出てきましたけれども、老人対策費を取って教育予算に回すべきだと言ったんじゃなくて、財政が非常に難しくなっている中で、老人予算というのは非常に、何ですか、コントロールしにくいというような意味での発言でございます。
 一方で、日本の国民が、もう昔から伝統的に、科学技術に対する、ほかの民族と比較すると異常なほど強い関心を持っている特殊な民族であるというのはよく言われていますけれども、そういう背景を基に科学技術で国のビジネスが再び産業競争力を発揮するようになれば、それは国民合意が得られるんじゃないですかという趣旨の発言です。

【西尾主査】
 どうもありがとうございました。
 濵口先生、どうぞ。

【濵口委員】
 きょうはどうもありがとうございます。
 お二人に、ちょっと聞きづらい質問なんですけど、あえて質問させていただきたいんですが、中国、アメリカ、あるいはヨーロッパと日本と比べてみまして、日本の会社が結構、例えば中国ですとリサーチセンターに大きなビルを建てて、膨大な資金を投入して研究開発をやっておられるんですね。アメリカやヨーロッパでも結構やっておられる。ところが、お膝元の日本にはなかなかそういう連携関係ができてない。日本の会社は同じですから、問題はむしろ行政にあるのか、大学にあるのかということだと思うんですね。会社の側から見ていて、どこに障害があるのかというのをお聞かせ願いたいんですけども。

【佐々木副会長】
 おっしゃるとおり、当社の例では、例えば清華大学に学部レベルの講座を持っていて、常に研究アイテムというのを10個ぐらい持ちながらやっていて、我々が清華大学とそういうことをやるのは、清華大学が、政府と連携しているからです。そういう意味では、そこでやった研究が実用化されて、それにまた資金が付くという確率が非常に高い。日本の場合は、さっき、ばらまきもいいと言われましたけど、決まったアイテムに対して少額でやって、それで出てきた成果に国からまた資金を出すことは余りないですよね。
 全体で考えたときに、国の政策と教育が相当程度リンクをしている。だからその先も見えるし、それは、見えるというのは資金だけではなくて、その後のビジネス、人脈も見えるわけですね。清華大学の中でやったものが本当に応用されるエリアが、例えば何億元あるような社会インフラとかそういうところに即適用されるわけですよね。だから、やっぱりそういう仕組も大切じゃないかと思います。

【西尾主査】
 渡辺顧問、お願いいたします。

【濵口委員】
 それをどうやって変えていったらいいのか。

【西尾主査】
 渡辺顧問、どうぞ。

【渡辺顧問】
 例えば、前回か前々回かの議事録を私、拝見していたんですけれども、その中にこんなような発言がありました。日本の企業が海外の大学と研究契約するときには、非常に具体的な契約書を取り交わす。だから非常にビジネスライクに研究契約が遂行できると。それに対して日本の場合は非常に抽象的な契約になってしまって、一言で言えば「頑張ります」というような内容になりかねないと。
 一方で別の経験もしておりまして、去年、今年あたりから、国研の税金を使った、大学も含めて税金を使って研究する研究テーマ、100件以上、ずっと目を通す機会があったんですけれども、非常にその100件ぐらいに共通して言える特性がございます。例えば日本は老人問題で大変だとか、資源小国で大変だとか、あるいは温暖化問題で大変だとか、そういうような問題意識を研究提案の中にいっぱい書いてありました。それが全体の半分以上を占めて、それで、そこはその説明を最初にしていただかなくても誰でも分かるんですけど、だからどうするというところになると、非常にいっぱい羅列するか、ほとんど書いていないか。だから、具体的に研究者として何をやるか、よく分からない。逆に言えば、そういう書き方で予算を獲得した場合は、もう結論は分かっているんです。成功するんです。部分的にでも何かちょっと新しい見地が出てくると、温暖化対策に対して貢献したということで、結果的に国研のやる、国の税金でやる研究がほとんど全部成功という形で終わりながらイノベーションは起こらないという問題を、今、我々は議論しているわけですね。
 そういう、大学と民間企業が研究契約をするときに、お互いにその場でけんかが起こらないように、うまく契約をやっていくというような習慣がありまして、それは日本人の他人に対する気遣いのいい面であろうと思うんですけれども、やっぱりビジネスライクに見たときに、何が成功して何がだめでしたねというようなことの議論が、何というか、棚上げしてしまう。だから、狭い最適化は全体最適化になってないというようなことで、結局、民間から見ると海外の大学との方が契約しやすいというようなことが起こっている。

【西尾主査】
 平野先生、この問題に是非一言コメントいただきたくお願いします。

【平野委員】
 きょうは大変貴重なお話をありがとうございました。今、ちょうど海外での共同研究の話がありますので、私は中国で一緒に、日本の企業の方々と共同研究している状況に絞って、日本の大学にいたときとかなり違う点について指摘させていただきます。まず、1つは、これはアメリカの大学と企業が契約するときもそうであろうと思いますが、大学院生を、きちっとオーバーヘッド等々の中からケアをすることです。大学院生は企業の研究者及び優秀な企画担当の方と、教員を含めて常に、自発的な基礎研究を元にして、どういうふうに展開をするかということについて学び取るという訓練を常にすることです。中国においても、同じようにしております。
 しかし、名古屋にいたときの企業との共同研究費は、多い、少ないというのは言いませんが、しかし、トップの方のサインや注目をしてもらえないぐらいの、もらわんでもいいぐらいの予算で動いておったんじゃないかと、思います。日本の大学との共同研究というのは、かなり似たような状況であり、同じような課題でも研究費の差は大きいですね。
 今、向こうで一緒に提案してやっているテーマについては、大学院生にきちっとスカラシップが出せるようになっております。知財については当然大学院生も含めて契約をするということで動いておりまして、常に研究室のゼミをやるは当然ですが、年何回かは企業の方を含めて、必ずロードマップをチェックしながら、ある意味で学生の意識トレーニングも含んでやっているというところであります。これは文系社会系の先生方とはちょっと違う研究体制かもしれません。
 あと1点だけ言わせてください。私の経験を含めて思っていることであります。日本の大学でいろいろな基礎研究のいい芽が出ておると信じておりますし、現実だと思いますが、その芽のかなりが海外の企業の方から先に声が掛かります。日本の企業から声が掛かる前に海外の企業から掛かるというのは、大変心配しておるところであります。これは、別に日本企業を攻撃するつもりは毛頭ありませんが、なぜであろうかということであります。
 以上です。

【西尾主査】
 濵口先生、今のことを踏まえて何か御意見ございますか。

【濵口委員】
 いろいろ問題点は山積しておると思うんですけど、どこに……、どこかに突破口があるはずなんですけど、それはここだというようなのはございませんか。

【渡辺顧問】
 要は、信頼関係が相当崩れていて、新しい活動についてお互いに提案し合うと。例えば、大学の都合で言うと、僕の慮りですけれども、ドクター課程の学生に参加してもらおうとすると、単年度契約じゃなくて、大学側から、3年契約にしてほしいとかそういうことを企業側に提案されたらいいと思うんですね。
 逆に、例えば文科省の方々がおいでになるので、私の、あちこち行って言いまくっていることで、今、ふるさと納税というのがありますけど、企業に対して、ふるさとじゃなくて研究者納税。ここの研究所にこの税金を回してもらえないかというような制度を作っていただければ、企業もリスキーな、あるいはちょっと試したいというようなことをやりたいけども、やっぱり利益から見ると、あるいは知的レベルからいって、ちょっとうちの社員じゃ難しいかもしれないと。新しいことをでもやってみたいというときに、大学の、非常に子細に合理的に物を考えられる訓練をした人たちに、あそこの研究室のあの人にこの研究をやっていただきたいから、税金をそちらに回していただけないかというようなことができるようになると、企業から喜んで大学の方に資金を流していく道ができるんじゃないかなということを、あちこちで提案しているんですけど。

【西尾主査】
 はい、どうぞ。手短にお願いいたします。

【佐々木副会長】
 何をしたらよいかというの1つの案としては、やはり今、日本の大学とやるときは、こういうことを研究してくださいという話で大体契約してしまいますね。そうではなくて、何を研究するんじゃなくて、何を実現するかをちゃんとコミットした形にした上で、ロードマップでその中途段階でちゃんとそれを成果発表していきながら、最後はゴールに行くこと、ここをコミットしないと、途中、この研究はしました、成果は出ませんじゃ我々はなかなか困る部分もありますので、そういうやり方が必要です。
 清華大学でやっているのはかなり具体的なアイテムでやっていますので、いつまでにこれをやります、あと成果発表会もちゃんとやりますので、そういうコミットする仕組み。それからもう1つは、コミットすると、できないと大変だからやらないみたいな話にならないように、ある程度研究ですからリスクがあるわけで、そこのフレキシビリティーについてはお互いに理解をしておけば、やっぱりゴールとロードマップをしっかりしていけば、それなりの資金も、それなりの期間も、日本の企業はちゃんと協力すると思います。

【西尾主査】
 武市先生、どうぞ。

【武市委員】
 私も大学から離れて3年半になりまして、大学にいたときのことを少し思い出しています。私も国内と、海外の企業との産学共同研究をやりました。今御説明いただいたように、米国企業との契約は、きちんとした目標も書きました。きょうお伺いしたい点は、先ほど来、産業界から博士の学生が直接研究に携わるという話題が出ていることについてです。大学において、共同研究のときに博士の学生が携わるということです。この点に関して、多くの大学の人はどうお考えか分かりませんが、私自身は、大学の博士課程の学生は、みずからが研究の課題を持って取り組むというスタイル、これを尊重すべきであると思っています。したがって、それが共同研究の課題として合うのかどうかというのは、そのときの構成員によるといえます。つまり、学生はそれに合えばよいのですが、学生の自主性を尊重するというのが教育の立場だと私は考えております。
 その一方で、先ほど申し上げましたような共同研究をやったときに、どう研究員を確保したかということがあるでしょう。これまで研究室でやっている課題は当然あるわけですので、それに加えて、近い分野であるにしても共同研究を実施するに際しては、研究員の雇用を必ずやってまいりました。そういう形でないと、共同研究の部分も継続性や持続性を保てない、責任が果たせない。ですから、博士の学生を共同研究の課題として入れるというふうなものが望まれるのか、あるいは、そういう形じゃなくても研究員が研究をするという形でいいのか、そのあたりのことをお伺いしたいと思います。

【西尾主査】
 それでは、佐々木副会長、それから渡辺顧問の順でお願いします。

【佐々木副会長】
 研究員の自主性というのは、もちろん非常に大切なことで、独創性もそういうところから生まれるわけです。ただし、我々が全くジャンルの違う研究をされている方と共同研究をするかといったら、しないですよね。だから、そういう研究をある程度独創的に、又は自主的に持たれている方がいればその人たちとやるわけで、だから、そういう意味で、無理やり、企業はこう思ってるんだからあなたの独創性とか自主性と関係ないところでと言っているわけではありません…。

【武市委員】
 そういうことではなくて、申し上げたいのは、大学院の学生がその研究に携わるということを求めるのかということなのです。で、もちろん……。

【佐々木副会長】
 それは先生次第なんですけど、大体我々、先生と契約をしますので。

【武市委員】
 ええ。ですから、私の考えでは大学院の学生は自主的にテーマを見付けるのであって、当然、だから共同研究をしているような場所に学生が進学してきた場合にはそういうことがあるでしょうが、それを前提として研究テーマを作ることは共同研究の場ではできないんだという、そういうことを少し申し上げたのです。

【佐々木副会長】
 我々、だから共同研究先を選ぶときには、その研究室で過去何をしてきたかをちゃんと調べた上でやっていますので、その研究室に学生が入ってくることは、その延長線上にいると我々は信じているんですが、そこは間違っておるでしょうか。

【武市委員】
 いやいや、それだとちょっと。その研究をするにしても、共同研究はある程度ここまでということの目標を設定しますね。2年後にこうと。そういうことと博士の学生の研究というのが、私の観点では必ずしも相入れないのだということです。そういう観点でございます。

【佐々木副会長】
 多分そういうところが、海外の大学とはできるけど日本の大学とはできない理由のかなり大きいところじゃないかなと思います。

【西尾主査】
 渡辺顧問、どうぞ。

【渡辺顧問】
 理学部、物理、量子力学とか天文学とかの分野については、私、全く経験ありませんので、そういう分野の話をするつもりはありませんけれども、工学部の活動というのは、先ほども少し言いましたけども、基礎科学の知見を産業応用するという活動が工学部の大きな意味での目標であろうと思います。産業応用すると、社会が今、何を欲しがっているか、何を実現したがっているかというのは、そういう意味で、工学部に入学した学生は、もう入学した時点から社会に興味を持って、これからはどういう分野が伸びていくぞとか、そういうことを、風を感じながら自分の専門を決めていく。先生と相談する、あるいは企業実習しながら、先輩技術者からいろんな情報を聞いて、社会の中での自分の座り場所といいますか、ポジションを模索していくというのが同時にあって、そこで技術者として深掘りをするという決断をして、そういう意味で、企業からこんな研究を提案してきているけど、受けるか受けないかというのは、先生と、学生でもポスドクでもいいんですけれども、それは当然、相談があって、決断するのは提案された大学側が決断するわけですから、そういう意味では学問の自由はそこで存在していると私は思います。
 ただし、工学部に入ってきたという時点で、何でも好きなことをやっている……。

【武市委員】
 念のため申しますが、私は工学部でございます。情報関係でございます。決して理学という観点だけではありません。

【柘植委員】
 一言だけ、ちょっと注釈というか、私も40年前ですけども、いわゆる課程ドクターを経てから産業界に来たもので、自分自身重ねて……。武市先生、まさに今、渡辺さんもおっしゃったことだと思います。教育側の先生方の意思決定です。責任を持って引き受けた大学で博士課程の学生をどう育てるか。アカデミックな中で生きていかせるか、あるいは産業界の中で生かすか、どういうふうに責任を持って育てるか。
 それで、私なんかはやっぱり産業界で育てるために鍛えられたのは、結果的に自分の博士課程の研究論文と並行して産業の研究をして、経済的な支援も得ながらやったと。結果的に、ほかのアルバイトをしなくて済んだわけですね。いろんな教育を、先ほど平野先生が中国の学生で言った、同じような勉強をしました。経済的な支援だけじゃなくて、いろんな契約とか、まさに社会人基礎力を学んだわけです。ですから、基本的には渡辺さんがおっしゃったように、先生が判断して、責任を持って教育するしかないんですね。

【西尾主査】
 濵口先生がおっしゃられた件、つまり、日本の大学に向けての企業からの大きな委託研究とかが、欧米、中国の大学に向けてと比べて何故実施されないのかというようなことは、今後、産業界と大学側が膝を交えた議論を積極的に行う時期に来ているのではないかと思います。文部科学省の方でもそういう機会を是非作っていただくことによって、本委員会で議論している教育と研究とイノベーションが密にリンケージしていくことを考えなければならないと思います。
 どうぞ。

【平野委員】
 一言だけ。私は今、武市委員が提案されたというか、発言されたことは非常に重要な、根幹に関わることだと思いますので、ちょっと私が舌足らずだといけないので付け加えさせてください。私が今、向こうでやっている研究所の中のテーマ設定で、どう企業の方と動くかということを申し上げます。
 まず、個人的にはこういうことが今必要ではないかという私の興味からですが、学内で関係する研究者をずっと調べます。全学から調べて、それに近いテーマの修士課程を含めてやっている人の実績を見ながら、日本の企業の方にコンタクトをします。こういう研究があるけれども、いかがかと。その次の深掘りを一緒に共同して進めるわけで、先に学生や教員の自発的な研究意識を元にします。武市委員が心配されるのは、私は同意であります。少なくとも学生の人たちのきちっとした教員との議論の上での課題設定の力というのは、先に持って付けておく上での共同研究テーマの設定が必要であると、私は信じております。
 以上です。

【武市委員】
 一言だけ、誤解されないように。私は決して学生と関わることがどうだということを申し上げているんではなくて、実際に共同研究をやっている場に学生もいることになりますので、それがどういうふうに研究が進められているかというのを彼らは見て育つわけです。直接に研究に関わらなくでもですね。そういったことが我々のところでの大事なことであって。
 それで、ちょっと先ほど触れましたのは、産業界の方々が特に博士課程の学生が関わるというふうなことをよく強調されるものですから、必ずしも博士課程の学生はそれを前提として進学してくるわけではない、ある研究の、そういった特定の研究ですね、狭い意味での。それよりさらに発展させられるようなことを研究したいと思って来ているものがあるのでという、そういった観点で申し上げたわけでございますので、誤解は……。

【西尾主査】
 最後に、伊藤先生、どうぞ。

【伊藤委員】
 最後に、ちょっと話を。柘植先生もお話がありましたように、イノベーションということで我々に投げ掛けていることは、例えば競争をいかに評価するか。その評価というのが、10個あるシンセシスだったら、だめなところを落とさなくちゃいけないわけで、それをいかに早く落とすかが非常に大切なことだと思うんです。その様な競争とか、渡辺先生が仰った様に失敗だというのが分かるとか、そういう評価をどういうふうに大学の教育に反映できるんでしょうか。何か、反映できるいい方法があればなと思うんですけど、これはまだ問題提起だけだと思います。

【西尾主査】
 すみませんが、佐々木副会長、渡辺顧問、手短にお答えをお願いします。

【佐々木副会長】
 さっき、安西先生のお話の中に、入試改革みたいなことがあったと思うんですね。

【伊藤委員】
 そうです。そうなんです。

【佐々木副会長】
 今の入試って知識を競わせていますよね。本当は見識を競わせなきゃいけなくて、だから、やはり記憶力を一生懸命競わせてもしようがなくて、理解力を競わせるようなことがちゃんとできれば、そこはそこで直感力とかいうものを持った人がちゃんとそれなりに育つと私は思っています。

【西尾主査】
 渡辺顧問、どうですか。

【渡辺顧問】
 どう評価するかという問題ですけど、それは一言で言えば非常に難しいです。特に誰もやったことのない新しい分野で入っていって、いろんな提案をする。断片的な実験データを見て、方向が合っているかどうか判断すると。それはジャッジ自身にもまたミスが伴うというのは、ある程度前提にしない限り身動きできなくなる。例えば、会社の中でも経営判断するときにいろんな提案が上がってくるけども、社長は1つ決めなきゃならないから、えいやと言うとちょっと失礼ですけど、とにかく何か結論を出さないと前に進めないからやるけれども、後で違ったと思ったら、「ちょっと方向転換しよう」と言って修正をかけていくと。そういうオープンな社会雰囲気、組織雰囲気を作り上げていくというのも、また健全な社会の発展に非常に重要なことではないでしょうかね。

【西尾主査】
 どうもありがとうございました。さらに議論は尽きないところですが、私の不手際で時間も過ぎているような状況でございますので、ここまでで一旦、議論につきましては閉じさせていただきます。
 ここで、合田課長の方から平成27年度の概算要求の状況について、資料の5-1を基に御説明いただきたいと思います。この本委員会をはじめ、研究費部会、学術分科会の議論を踏まえて要求がなされておりますので、その状況につきまして、合田課長の方から説明をお願いいたします。

【合田学術研究助成課長】
 もう時間も参っておりますので、詳しい説明は省かせていただければと思っておりますが、資料の5-2でございます。
 この委員会の御議論を踏まえまして、3年間、科研費については要求の段階からマイナスであったわけでございますけれども、4年振りに132億円増という攻めの要求をさせていただいております。先生方の御指導いただきながら、これをしっかりと確保すべく、当省を挙げて取り組ませていただきたいと思っております。
 先ほど御指摘もございましたように、科研費につきましては、現在300以上の細目にわたって採択が行われておりますけれども、これは御指摘を頂くまでもなく、既に研究者コミュニティーの中から、もう少し大括りにして、他分野との対話、連携、融合を進めていこうという大きなうねりが出てきてございます。これは私ども、第5期の科学技術基本計画の中でしっかり改革を進めていきたいと思っております。
 科研費改革を同時に進めていくのはもちろんでございますけれども、他方で科研費について閉鎖的ではないかという御指摘も先ほどございました。私ども、科研費ほどガラス張りで開かれた仕組みはないと思ってございます。
 それから、論文偏重という御指摘もございました。私ども、やはり研究者コミュニティーは論文が書けて何ぼだというふうに思っております。論文も書けないで、すなわち、新しい知的なアイディアや構想力を提起することなく、企業にお役に立つようなイノベーションは生まれないだろうと思っておりまして、むしろ私どもとしては、このような学術研究のモメンタムを新しい社会的な価値の創造にどう結び付けていくのかが大事で、それにつきましては、産業界、私ども行政、それから研究者コミュニティーと率直な、きょうのような対話を、是非、引き続きさせていただきたいと思っております。科研費はその重要な要だと思っておりますので、引き続きしっかり取り組ませていただきたいと思っております。
 以上でございます。

【西尾主査】
 どうも、簡潔に御説明いただき、ありがとうございました。
 今の御説明に関して、一言コメントをしておきたいとか、何かございませんか。

【武市委員】
 いや、言い出すと切りがない。

【西尾主査】
 それでは、予定の時間が参っておりますので、本日はこのあたりとさせていただきたいと思います。
 今後のスケジュール等につきまして、事務局より御説明をお願いいたしたいと思います。

【中野学術企画室長】
 はい。次回の特別委員会は、10月22日水曜日、10時から12時を予定しております。15階の特別会議室でございます。正式には、また改めて御連絡させていただきます。
 また、資料につきましては、机上にお残しいただきましたら郵送させていただきます。
 以上でございます。

【西尾主査】
 本日は御多忙のところ、佐々木副会長、渡辺顧問には、本当に貴重な御説明をいただき、また質疑等に応じていただきましてありがとうございました。また、柘植先生には、御発表ありがとうございました。

【佐々木副会長】
 どうもありがとうございました。

【西尾主査】
 それでは、本日の会議はこれで終了いたします。皆様、どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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