学術の基本問題に関する特別委員会(第7期)(第2回) 議事録

1.日時

平成26年3月24日(月曜日)16時から18時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾主査、小安主査代理、安西委員、甲斐委員、高橋委員、羽入委員、濵口委員、平野委員、荒川委員、亀山委員、金田委員

文部科学省

小松研究振興局長、山脇研究振興局審議官、板倉振興企画課長、合田学術研究助成課長、木村学術機関課長、中野学術企画室長

4.議事録

【西尾主査】  
 それでは,定刻でございますので,ただいまより第2回科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会を開催いたします。
 まず,事務局より配布資料の確認をお願いいたします。

【中野学術企画室長】  
 本日の配布資料でございますが,お手元の議事次第に一覧を掲げております。資料1が論点の展開イメージ(案),資料2として現状・課題の検討例,資料3として,第1回のこの特別委員会の概要のポイントをまとめたものでございます。それから,参考資料として科学技術関係予算等に関する資料という資料集を付けております。
 また,そのほかに机上にグレーのファイルでございますけれども,第1回の特別委員会の資料を置かせていただいておりますので,適宜,必要に応じて御参照いただければと思います。
 また,そのほかに机上配付資料といたしまして,甲斐先生からの御意見というものを机に置かせていただいております。資料に欠落等ございましたら,お知らせいただければと思います。

【西尾主査】  
 資料についてお気付きの点はございますか。もし不足しているものがありましたら,審議の途中でも結構ですので,申し出ていただければと思います。どうもありがとうございました。
 それでは,議事に入らせていただきたいと思います。学術研究の推進方策に関する総合的な審議ということで,学術研究に関しましての特別委員会としまして,3月10日の第1回の委員会におきましては,出席の委員から積極的な御意見を頂きました。そのポイントは資料3にまとめておりますが,これらを踏まえまして,論点の展開イメージ(案)等を修正いたしました。本日は,前回に引き続き論点の展開イメージ(案)を基に議論をしていきたいと思います。
 まず,資料につきまして事務局より説明をお願いいたします。

【中野学術企画室長】  
 お手元の資料1と資料2に基づきまして,御説明させていただきたいと思います。
 資料1の論点の展開イメージ(案)でございますが,前回第1回のときに様々な御意見を頂いたものを修正したものでございます。構成といたしまして,ゼロ番で,はじめに,1番,国力の源としての学術研究の本来的意義について,そして2ページに行きまして,2といたしまして,学術研究が「国力の源」としての役割を果たすための課題と解決の方向性としております。前回,役割を果たすための課題と改革,しかもそれが自己改革の方向性という形になっておりましたけれども,課題に対応して解決すべき方向性をまず示すんだろうと。その上で,解決の方法の中には自己改革もあれば国の改革もあるんだろうということでございましたので,構成を,まず2として課題と解決の方向性,そして,3ポツで学術界が行う取組,課題解決のための方策,そして4ポツで,国が行う課題解決の方策という構成に変更しております。
 また,資料の3ページの後ろに赤字入れしておりますけれども,今の構成のゼロ番と1番につきまして,第1回からの変更点を赤で示したものでございます。2ポツ以降につきましてはかなり変えておりますし,御意見もいろいろなものがありましたので,後ほどまた別途,御説明させていただきたいと思います。ゼロ,1についての変更点,赤字をまず御説明させていただきたいと思います。資料1の3枚目でございます。
 まず,はじめにのところですけれども,現状認識と危機感の共有等というタイトルのところは,現状認識も書いたということで,はっきりさせたものでございますが,危機感のところで,国際社会における位置付けということについての強い御意見,ございました。それを踏まえまして,「我が国の発展や国際社会への貢献が阻害されてしまう」の後に,「また,それにより,これまで我が国が築き上げてきた国際社会における地位や存在感が保てなくなる」という危機感を加えております。
 それから1ポツの国力の源としての本来的意義のところでございますが,最初に※の形になっておりますけれども,学術研究といったときに,基礎研究,応用研究,開発研究を含むもので,キュリオシティ・ドリブンのものであるということを,確認として書かせていただいております。
 また,意義,国力の源のマル3ですけれども,人材養成の観点につきまして,これは研究者という意味の人材養成だけではなくて,広く社会で活躍する人材を養成,輩出するというのも学術の大きな意義であるということで明記しております。
 それから,2ページ,裏面に行っていただきまして,意義のマル4の国際社会貢献につきましては,国際的に,高度知的国家と書いておりますけれども,そういった日本という位置からいって当然の責務であるという点を補強しております。また,その下の矢印ですけれども,これが国力の源という意味なんだというところで,現在及び将来の人類の福祉に寄与するという点を補強しております。また,その後でございますが,これらの価値の創造には未知のものへの挑戦とそれに伴うtry and errorなどが基軸であるため構造的にある程度の時間が必要であるということも認識として書いておいてはどうかということで,追記しております。
 2)ですけれども,前回,イノベーションにおける学術研究の役割等ということで,少し1との関係が不明だという御意見がございましたので,上記1)の学術研究の意義を,イノベーションとの関係において改めて整理するとどうかということで,位置付けを明確にしております。また,イノベーションのところでは,言葉としてこれで十分かどうかは分かりませんけれども,いわゆるリニアモデルということではなくて,オープンイノベーションの時代であるという中で,やはりイノベーションのためには,様々な,多様かつ質の高い学術研究という苗床が必要であり,それとともに学術研究と社会とのインターアクトが必要だというところで,キーワードとしてもオープンイノベーションということを入れております。
 また,その下も,先ほどのある程度の時間が必要ということとも関係するかもしれませんが,企業等,すぐに出口が見えるということであれば企業がやるのであると。そうではない中長期的な研究が学術なんだという御意見を踏まえて記載しております。
 また,その次のマルのところは,従来のセカンドランナーとして,フロントランナーのまねをしていくということであれば,課題の解決ということでよかったかもしれませんが,フロントランナーとしては,自ら課題を発見して,それに挑戦していくという学術研究が非常に重要なんだという補強をしております。
 それから,本文の2ページにお戻りいただきたいと存じます。今までのところが意義のところですけれども,そういった意義深い学術研究が,国力の源としての役割を果たすための課題と解決の方向性ということで,前回の資料では,課題ということで,外で言われているようなことを少し挙げていたのですが,ここの資料1自体ではどういう議論の進め方にするのかということで,骨だけにしております。まず,学術研究がこういった1のような役割を果たすことで,人類社会の持続的発展等に貢献することが社会で求められているので,学術研究は国力の源になっていくと,真(しん)に国力の源となっていくということが必要だといった上で,3ページに行って,現在の学術研究はそういった役割を本当に十分に果たしているのか。果たしていないとすれば,何が課題となっているのかということを委員会で検討していただいて,その解決に取り組むことが必要であると。
 課題解決の方向としては二つありまして,一つは学術研究の担い手である学術界の自己改革等。この学術界というのは,研究者個人でもありますし,大学等の研究機関,組織でもありますし,学会等の学術コミュニティーといったものも含めた学術界としての取組が一つ。それからもう一つは,そういったものを前提とした国による学術研究振興施策の改革というものがあるのではないかということでございます。
 それから,これは前回も書いておりましたが,改革の検討に当たっては,学術研究と社会とのインターアクト,対話や発信に留意が必要でありますし,また,分野の特性に応じた取組や支援も必要であるということを注意書きとして書かせていただいております。
 それから,その二つの課題解決のうちの一つ目ですけれども,学術界が行う具体的な取組として3ポツで,学術界が自主的・自律的に国力の源として研究活動を活発に行うための自己努力についてですけれども,これは,これまでもいろいろ改革をやってきましたということももちろんありますので,これまでの改革も踏まえるとともに,更に足りない点があるのであれば,どういったことが必要なのかということを検討してはどうかということでございます。
 三つ,骨的に挙げていますけれども,現場レベルにおける徹底的な意識改革,この意識改革は,当然制度改革等と相補的に取り組む必要がある。そして,2番目に組織改革や評価制度・人事制度,組織内資源配分等の組織レベルを中心とした改革。それから,説明責任をよりよく果たすための学術研究の意義や成果等の戦略的発信の強化などが考えられるのではないかと。
 そして,4ポツとして,今度は国の具体的な取組ということで,財政支援もありましょうし,制度改革もあり得ましょうし,その他,学術界の意識改革,促進のための改善や学術研究の意義,成果等の戦略的発信の強化などが考えられるということでございます。
 以上が資料1でございますが,引き続きまして資料2を御覧いただきたいと思います。今の資料1の構成でいきますと,2,3,4あたりの検討に当たりまして,現状・課題をどういうふうに検討していくのかということで,前回挙げさせていただいたものについて御意見も頂きましたし,また別途,全然違う構成の御意見も頂いておりますので,別紙のような形で,資料2として整理しております。
 資料2の1枚目が,いわゆる反映版でございますが,1枚おめくりいただいて,2枚目に前回の2ポツの部分から変わった部分が,赤字で分かるようなものを書いております。現状・課題を検討するに当たって,学術研究が国力の源として貢献しているんだろうか,十分に,新たな知に挑戦し,新たな知を創出しているだろうか,そして,十分に,時代を担う人材を育成しているだろうか,そして,そもそも,学術研究に対する社会からの付託ということについて,現場の研究者一人一人が十分に認識しているだろうかということから,それが本当に貢献できているのであれば,ここに挙げているような声が聞こえてこないはずではないかということで,これは御意見を頂いたものもありますし,外から言われているものも入っております。
 赤字のところだけ申しますと,特定の分野に研究費や人材が集中する傾向にある。あるいは論文指標において国際的に日本の順位が低下している。研究職の魅力が低下している。それから最後の方ですけれども,現実の実際的な課題解決や研究成果の社会還元への意識が必ずしも十分ではないといったことでございます。
 そして,こういった声の根底にあるものは何なのかということを掘り下げて御議論いただいてはどうかということで,例えばということで挙げております。赤字のところを申しますと,適切な評価が行われていないということについては,短期的な成果を求める傾向が強過ぎるのではないか,それから,前回上の方に挙げておりましたけれども,現象面を2番であるとすれば,その要因として研究時間の減少,学術基盤のぜい弱化,それから基盤的経費の減少,特定分野への資源配分の偏り,これは,偏っているということ自体が悪いということもあるんですけれども,それが若手研究者の意識にまで影響して,次代の若者が,いわゆるはやりというか,そこの分野に行ってしまうと,多様性が確保されなくなるのではないかということも御意見ございました。
 それから,若手研究者を育てる研究体制が崩れている。それは,若手がスタッフ化しているとか,ポストが不安定であるとか,そういったことも,スタッフ化も含めまして,シニアの研究者の意識を育てるという意識の問題,いろいろあるかと思います。
 これらは従来から指摘されているにも関わらず,なぜ改善できないのかということで,資源配分の在り方や大学の研究活動の在り方などについて,具体的な改善方策を考えていくことが必要ではないかという記載にしております。
 事務局からの資料説明は以上でございます。

【西尾主査】  
 今の資料1と2の位置付け等に関しては,御理解いただけましたでしょうか。前回は資料2で記述してある内容も,資料1の中に埋め込まれて書いてありました。今回,資料1の記述の流れを分かりやすくするために,資料1では概要として,論旨の流れを書かせていただいて,資料2の方は,資料1の個々の項目に該当する事項を,より掘り下げて具体的に記述しております。
 ここで,甲斐委員より御意見をペーパーで頂いておりますので,御説明をいただければと思いますが,よろしいですか。
 資料番号は特に打ってございませんけれども,机上配布資料として,甲斐委員からの御意見と記してあります資料を御参照ください。

【甲斐委員】  
 時間を頂きまして,ありがとうございます。机の上に,机上配布資料としてあるかと思いますけれども,根本から筋書き案を変えていただいたらどうかという提案を事務局に送りました。大分大きな変更になってしまうのでということで,机上配付資料として配られるという御説明でありました。
 これを出しました趣旨は,前回質問しましたけれども,本基本問題検討特別委員会ですか,これをなぜ立ち上げたか,ここで議論することは何なのかということを御質問いたしました。そのときに局長からも,これは科学技術基盤を上げるための国の政策への提言が本来の趣旨であると,そういうお答えがございましたし,何名かの委員からも,本質の課題というのは,まずは国の政策への提言,それから,それに伴って当然やらなければいけない学術会議の改革ももちろん含むけれども,先は国だろうという議論が前にあったかと思います。
 それを踏まえて,頂いた案を見ますと,やはり順序が違うんではないかなということを思ったから書きました。特に,2番の学術研究は国力の源として役割を果たすための課題と解決の方向性なんですけど,ここにあります課題は,つまり,学術研究がその役割を十分に果たしているのかという,この質問が最初です。我々,科学をやっているものとして最初に大きな質問があって,その課題に対して自分はどういうふうに考えるかというストラテジーを考えて解いていくというのが通常のやり方ですから,最初に挙げられたのが,こういうことなんだろうかというのをすごく疑問に思いました。それへの改革が,まず学術界がいっぱい改革をしていくと。それを何とか政策で支援しようと,そういうストーリーになっているんですけど,本委員会の趣旨が,国への政策の提言が先であると。それを言わなきゃならないほどの大きな基本問題が今あるということを,平野会長が最初に感じられてこの委員会を設立したんだと理解しておりました。その意義というか,なぜこの基本問題委員会を立てなきゃいけなかったかというのは,こんな従来言われているような小さなことを,一個一個また再びこの委員会で討議していくことなのだろうかというのが大きな疑問でした。
 まず,平野先生がお考えになった危機感というのは,多分,今広く学術界の方たちが共有している危機感なんじゃないかというふうに思いました。そこで,まずそれを挙げて,だからこそ,この委員会を立てたというふうに言って,それのために大きな問題,課題となるのは,政策側の課題というのを挙げて,学術界もやらなきゃいけなくてというふうにやったらいかがかと思ったわけです。その配布資料に,非常にまだまとまってなくて大変申し訳ないんですが,私の私案を書いてみました。
 順序として,最初に現在の危機的状況,なぜこの委員会が立てられたか,どういう危機的状況を学術界として感じているのかということを明確に書く。そうすると,その危機に対して要因を分析しなければいけなくなる。要因がたくさん挙がってくると,その中から自然と課題が挙がってきます。その課題に対して解決法を考えるということで,最初に国,それから学術界,それから実は企業に対しても書いてみましたが,それぞれに,当然のことながら改革案を考えていかねばならない。こういうストーリーの方が,学者側としては考えやすいのではないかと思ったわけです。そうすれば,学術界も本気で改革に取り組むのではないかと考えます。ここで前回挙げられた細かい間違った批判に対して,一つ一つ解決案を挙げていく方式では,広い学術界の中では大変な反発が起こると想像します。当然のことながら,最初の課題設定が間違っているという議論が始まって,素直には改革が進まないのではないかと思うのです。でも逆に,最初に大きな危機感があるんだ,だから我々は考えなければいけないと書けば,当然ながら,学術界も真剣に取り組むだろうと考えました。
 それで配付資料ですが,ゼロの「はじめに」の項目では,前回お話にあったように国際的に尊敬されるという必要性をうたうことと一緒に,なぜこの委員会を立てなければいけなかったかの危機的項目を挙げてほしいと思います。私が最初に追加していただきたいことのところに書きましたのは,長い厳しい経済状況の中で,大学の学術環境が悪化し続けて,それに伴って,人材育成にも既に大きな影響を及ぼしている,です。それを私は非常に実感しておりまして,それが危機的状況だと認識しております。
 案にありました2番のマルの方は,財政投資がある程度行われていたのに,なぜ十分に伸びていないのかと書いてありましたけど,そういう質問ではなくて,財政状況の中で一定の支援はなされてきたけれど,投資方策について検証が必要ではないか,そういうふうに変更したらいかがかと思います。まだまだほかに先生方から,本当に感じた危機感を挙げていただいて,ここで強く危機感を訴えるべきだと思います。
 1番はちょっと置いときまして,2番目の「学術研究が国力の源としての役割を果たすための問題点とその要因」,ここは「課題」と書いてもいいんですけど,1)の「現状の問題把握」が大事だと思います。私の大きな危機感の(1)におきまして,学術研究の土台を担い,人材を輩出する大学が疲弊していて,学術研究推進及び人材育成に影響が及んでいる。この場合の人材は,大学でも企業でも研究機関でも,全ての場面で研究に携わる,学術の推進に携わる人たちです。各界で学術・科学技術推進に関わる人たちは大学から輩出されています。ですから,その大学が疲弊して,学術研究の推進を担う役割ができなくなったら,全ての人材が枯渇すると思うからです。それが大きな問題だと思います。その他の課題としては,研究資源配分とか,社会の連携とか,たくさんあると思います。
 次に,問題,課題が出たら,まず2)「要因の分析」をしなければいけない。要因の分析に関しては,私が(1)の部分に対して非常に感じるのは,まず,基盤的経費の減少,この要因としてはデュアルサポートのゆがみが一番大きいと思います。それによって,それだけではないんですけれども,大学の財政が本当に逼迫(ひっぱく)しているということから,人件費が減少する。そうするとポストが減少します。国の政策では,ポストを減少させても,例えば助教を減らしても,競争的資金で得られたお金で,ポスドクとか特任助教で補えばいいという論理で通っていますけれども,そういう状態になったとき,実は大学院生の側から見ると少しも魅力的じゃないんですね。それは本当の短期的な雇用でありまして,テニュアではないと。
 そうすると何が起こるかというと,いい学生が大学院に来ない。また,大学院を出た後に残らないですね。ポスドクでは嫌だといって,永久就職である企業に行ってしまいます。良い人材が残ってくれないという残念な思いを何度も私はさせられています。そういうふうになると,将来的には大学で人材を育成するための教員がいなくなってしまうんですね。それに対して政府は,例えば外から留学生を入れたらいい,と言いますが,外から得た留学生は帰ってしまいます。日本の大学で優秀な教員を育成するということはとても大事です。その他の要因として,様々な競争的資金を得ろとか,評価にも対応しろとか,社会ともつながれとか,いろんなことが増えて,大学の先生の研究時間は減少している。学生も少子化に伴って減少しています。それから研究環境も劣化している。あと,適切な評価の問題,このように様々な要因が挙げられると思います。(2)の「資金配分」に関しては特定分野への偏りがあると思います。
 こういうふうに問題把握と分析を経た上で,初めて,3番目の項目の「解決のための方策案」を考えなければいけない。ここは,マル1 とし「政府がやらなければいけない改革」。マル2 番目に「学術界の取組の改革」。それからマル3 番目に,「企業等への改革要望」というふうに分けてみました。
 マル1 の「政府の施策改革」に関しては,私はちょっとここで議論していいのか,大学審議会と一緒にやるべきか,あるいは投げた方がいいのかは,ここで皆さんのお考えを聞きたいと思うんですけど,やはりもうここまで来たら,大学の在り方そのものを再検討しなければいけないのではないかと感じています。少子化の問題もありますし,ほとんどの大学が大学院を持つ必要があるか。実際に機能しているところは減ってきていることは確かだと思うんですね。そういうようなことを考えると,教育の大学と大学院を持つ大学というふうに分けることはある程度必要かもしれないと思います。それから,現在定員だけで考えたら全ての人が大学に入れるという状況であることもおかしいと思いますし,真剣に必要大学数のことも検討しなければいけないのではないかなと,ちょっと踏み込んだことを考えなければいけない時期にあるのではないかと思います。
 そういうことがもしできれば,財政支援策として,教育大学,大学院のある大学のそれぞれに適した十分な基盤的経費を支援する。この場合は,ただ欲しいといっているのではなくて,数が減るので可能ではないかなと考えます。学術研究を担う大学院大学の方には,優れた次世代の学術研究の担い手を育てるための支援策を講ずる必要があると思います。
 そのうちの一つが,その次のポツにありますように,大学院生の給与型奨学金制度の創設,又はRA費の充実化,これが必要だと思っています。これは先進諸外国では普通に行われていることですけれども,これがないために,優秀な学生が大学院に来ないという,現場では悲痛な思いをしております。同期の人たちがもっといい給料をもらっているわけです。わずかでもいいんですね,最低限の生活ができるぐらい得られたら学問をやってみようかという学生がいますが,全く得られない状況では難しいと思うんですね。
 マル1 の(2)の資金配分のことは飛ばしまして,マル2 の「学術界の取組」に関してですけど,政府がそういう改革を行う場合に,当然ながら大学の在り方を検討するかなり厳しい議論になると思いますので,これは学術界も責任をもってその議論に参加して,一緒に我が国に適した学術研究推進体制及びそれに伴う人材育成体制というのを考えて提案していくべきだろうと思います。
 それから,科研費を中心とした学術研究を支える資金の形態,審査,評価方法の改革も必要です。私は科学研究費の審査評価を行う場にも携わった経験がありますが,ほかの資金よりは大変公正に審査されて,いい制度だとは思います。でも,まだまだ改革することはたくさんあります。その中で,批判にもありますような,例えば学会支配とか,そういうことはないとは言えないので,そういうことにも真剣に取り込んで,更によい制度に作り上げていくという覚悟は要るかと思います。そういう中で,融合分野の生まれやすい支援方策というのも一緒に検討できたらなというふうに思います。
 (4)もちょっと飛ばしまして,マル3 の「企業への改革要望」ですけれども,これは,優れた人材育成のためには企業側との連携も必要であると考えます。例えば,現在たくさんいるポスドク,雇用がないポスドクがたくさんたまれば,やはり大学院学生は上がってこなくなるんですね。優秀な博士を諸外国では企業が雇用しているわけです。ですから,博士修了者の雇用促進というのを,企業も真剣に考えていただきたいと。
 それから最後は,日本版NIHは橋渡し研究をカバーすると言われできたように思いますが,実は橋渡し研究は,先進諸外国,特にアメリカ等では,半分は企業が投資しているんですね。でも,今回日本版NIHを立てるといったときに,いろんな各省庁からの橋渡し研究に関わる研究費を合わせた形で立ちました。そこに企業のお金は入っていないですよね。ですから,企業も公的資金に完全に依存するのではなくて,日本では橋渡し研究支援が薄いと非難するのであれば,やはりそれ相応の投資はするべきじゃないかと,そういうことも検討していただきたいと。
 こういうふうな流れで全体を議論していきますと,申し訳ないですけど,資料1とか資料2で挙げられたような細かい課題というのは,この中に当然入ってくると思います。最初に課題として挙げられた批判の中には,本当に当たっていないものが入っています。こういう批判に対して,一つ一つ皆さんの貴重な時間を費やして議論するよりは,大きな問題から議論をして,この中に細かい課題も吸収していくと,そういう形にしてはいかがかと思いました。
 すみません,ありがとうございます。

【西尾主査】  
 甲斐委員,どうもありがとうございました。
 資料の1と2の説明,それから甲斐委員からの御意見を頂きました。甲斐委員に質問ですが,資料1の1章に関しては,特段御意見はない,ということでよろしいですか。

【甲斐委員】  
 余りいろいろ言うと薄くなってしまうかなと思いましたので,国力の源としての学術の本来的意義というのをちゃんと書くのはいいと思います。その後のイノベーションとの関係において,改めて整理する必要があるのかどうかというのは,私は疑問だと思いますが,それはそれでよいかと思います。

【西尾主査】  
 分かりました。
 前回と今回,皆様から様々な意見を頂きまして,議論の展開イメージをきっちり定めていくことが大事だと思います。4月中をめどに骨子をまとめるということになっておりますので,積極的な御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。

【小安主査代理】  
 私,前回欠席したのですが,議論は読ませていただきました。私も,甲斐先生がおっしゃることは非常によく分かります。私は,学術分科会のときだったと思いますが,やはりこの問題は大学の問題とは切り離して考えられないのではないかと発言したはずです。そのときに,安西先生のところともきちんと一緒にやるべきだと申し上げたと思います。
 といいますのは,大学というところが人材を生み出して,日本の力になっているということはやはり疑いのないことです。大学というのは,やっぱり学問をするところであって,その学問が人を育て,そして,人を育てるのは別に学術のためだけではないと私は思います。人材育成が強くなるということが,一般の社会に優れた人材を送り出して,それが社会の活性化につながるということだと思います。つまり,学術の問題は全体に関わることであって,そういう形でも考えていかなきゃいけないと思います。そうすると,当然のことながら,学術界がまず自己改革するという矮小(わいしょう)化された表現ではなくて,国としてどういうふうに考えていくかということをまずやはり議論するというのは,非常に重要な視点ではないかなと思います。そういう意味で,それぞれの問題をどういうふうに把握するか,そしてその要因,いろんな分析の仕方があると思いますが,順番としては,私は甲斐先生がおっしゃっていることは非常によく理解できますので,そのようにきちんとした議論を進めていった方が良いと感じました。

【西尾主査】  
 どうもありがとうございました。
 ほかに御意見いかがでしょうか。

【金田委員】  
 私も1回目は失礼してしまいまして,後で資料を読ませていだたきました。今,甲斐先生の御意見は基本的に賛成なんですが,追加していただきたいことというふうに最初のポツでお書きくださっているところがありますが,学術研究環境の悪化というのは,恐らく二つの面で進行していて,一つは後ろに書いてありますけど,これは要因どころじゃなくて,基盤的経費が減少しているということは,何を意味しているのかというと,同時に,全部ほとんどの資金がプロジェクト的になっているんですよね。そうすると,それがやっぱり視野の広くて非常に基礎的なところの部分に十分回らなくなってしまっていて,すぐ結果を求める形にならざるを得ないという状況にあると思います。ですから,そういうところを,甲斐先生の話,もちろん賛成なんですけど,もうちょっと強調した認識を示しておいていただけたらと思います。

【甲斐委員】  
 これは全然粗いたたき台ですので,ゼロのところで,そういう大きな問題を一つ一つ先生方が挙げていただいたらいいのではないかと思います。

【西尾主査】  
 金田先生としても,甲斐先生のまとめ方の方がより良いということですね。

【金田委員】  
 そうですね。大きなところから入るというのは賛成ですね。

【西尾主査】  
 ほかに意見ございませんでしょうか。

【亀山委員】  
 すみません,文言上のがあるんですけど,資料1の一番後ろの赤字で書いてあるところですね。上から8行目,7行目,try and errorという言葉がありますよね。資料1の最終ページですけど,文言のことなんですけども,これらの価値の創造には,未知なるものへの挑戦と,それに伴うtry and errorなどが基軸であるための構造的,ここが意味がよく分からなくて,try and errorというのは,これはやはり試行錯誤と書いた方がいいかもしれないですね。試行錯誤などが基軸となるというのはおかしいんですよね。ですからこれは,未知なるものへの挑戦と,それに付加的に伴う試行錯誤を前提としているのでとか,前提となるので,あるいは基軸となるので,構造的にある程度の時間が必要,そういう書き方の方がよろしいかなと思いました。
 あと,全体として人材育成という場合には,まさにグローバルな社会で,経済的な,あるいはビジネスという,そういう側面で活躍していくべき人材と,もう一つ,イノベーティブ人材という,この二つの大きなタイプの人材の育成というものが要求され,それがうまくかち合うことによって,日本の発展というのが成り立っていくと思いますけど,その国のお金の使い方が,全体的な印象でいうと,底上げ的な方向性へ行くのか,あるいは一部の,やっぱり特権的な引上げを狙うのかということで,先ほどの甲斐先生のお話は,やはりある程度で一部の引上げということを特権的にやっていくという,そういう方向性に聞こえたんですが,それはやっぱり大事なことで,その教育大学,あるいは教養大学といってもいいと思うんですけれども,そういう峻別(しゅんべつ)というのは,この時代,不可欠になってきているのかなと思いました。

【西尾主査】  
 どうでしょうか。全体の流れをどうしていくかということが大事でございまして,前回考えていた全体の流れに対して,先ほど,甲斐委員からの御提案がありました。更に別のシナリオもあるかもしれません。羽入先生,どうぞ。

【羽入委員】  
 今,事務局と甲斐先生の両方の御説明を伺いまして,前回の議論は,私の理解は甲斐先生がおっしゃったような流れなのかなというふうに理解しておりまして,そちらの方が分かりやすいんですが,これは決して相反するものではないと,私は考えて解釈しています。やはり,一つ気になりますのは,国力の源というのを資料1の2ページで定義していただいていますが,これは,国力の源の定義なのかどうかというのが理解できておりませんで,むしろ,今議論に,少し話題になっていますように,やはり人材の育成とか人材というのが国力の源なのではないかという気がいたします。そうすると,前回も少し国力の源は何かということが重要ではないかと申し上げましたけれども,やはり,日本の場合には人なのだということが言えそうに思います。やはり,もう一度国力の源は何かということを考えることによって,甲斐先生の御提案の方向がより明確になるのか,そして,その中に事務局の提案が埋め込まれていくといったら失礼ですけれども,そういう方向性ってあり得るのではないかという印象を持っております。

【西尾主査】  
 前回も羽入先生から,国力の源に関する御質問がありました。今はどういう形で国力の源ということを書いているかといいますと,資料1の1章のマル1からマル4までを書きまして,その最後にマル1からマル4は,各々個別のものではなく,相互に関連作用しており,これらにより,人類社会の持続的発展,現在及び将来の人類の福祉に寄与するということをもって,国力の源について言及しております。羽入先生は,前回も含めまして,この国力の源の捉え方がこういうことでいいのかということに関しまして質問を頂いたところですけれども,先生としましては,やはり人材の育成であるということでしょうか。

【羽入委員】  
 一言だけ付け加えさせていただきます。確かに,マル1からマル4までが,国力の源であるということは確かですが,更にさかのぼって考えれば,本当に「源」ということでいえば,人がどのようにしてマル1からマル4までをなし得るかということなのではないかと思います。「源」といったときには,人材が一番分かりやすいような気がいたします。

【西尾主査】  
 なるほどね。ですから1から4というのが表に出てくるのだけれども,それをなし得る人材を国力の源だと考えましょうということですね。
 いかがでしょうか。

【小安主査代理】  
 その点はこの前,議事録から行くと鈴村先生の御発言だったと思いますが,国力というのは,現在から更に将来の世代にわたって,福祉の改善のための潜在能力をいかにして養成していくかということだとおっしゃったのが,私は非常に心に響きました。それを行うのが人であるという意味でいったら,全くそのとおりの解釈で,先生のおっしゃること,そのとおりだと思います。そういう表現が良いと感じました。

【西尾主査】  
 どうぞ。

【高橋委員】  
 私は,いわゆるこの委員会の下打合せから参加させていただいています。その際,そもそもこの委員会がなぜあるのかと伺ったところ,安倍政権下が定める学術行政の最初に「イノベーション」という文言が来て,さらには「科研費なんかなっとらん」というニュアンスで我々は叩(たた)かれている。これはいかんという感じでこの委員会を立ち上げようとなったと理解しました。
 先ほど甲斐さんから提言がでましたが,これがうまくいったら日本は来年からあっという間にいい国になりそうですね。つまり100%の正論です。もしこの委員会が,今日甲斐さんが出されたこの論点で議論ができるというのであれば大賛成なんです。しかし,これを全部4月までにまとめ上げるというのは,ちょっと難しいかもしれません。まず大筋を考えないといけませんね。よろしくお願いします。

【西尾主査】  
 4月にまとめるのは骨子であるということですので,細かなところまでの完全な記述ではなく,この委員会ではこういう大枠の下で議論をしていますということを世に出していけば良いと,私は考えています。事務局,それでよろしいですね。
 はい,どうぞ。

【濵口委員】  
 前回欠席しておりますので,論点の流れ,もうひとつつかみ切れてないんですけど,先ほどの人材の議論に関して,これを誰に出すかによってストーリーが変わってくると思うんですね。もし幅広く日本の社会に理解を得ようとするものとして書くならば,ちょっとストーリーが難し過ぎる文があるのと,何よりも強調しなくてはいけないのは,やはり日本人の人材の優秀な力をどうやって大学が作ってきたか,それが,社会全体の倫理規範や作り上げているし,仕事の精度も上げているしという,ごく当たり前のことが余り議論されてないような気もするんです,私は。専門家に向けるんだとこういう流れになってくるのかなとは思うんですけど,もしも幅広く社会全体に学術研究の理解をしていただくとしたら,国力の源といって,宇宙探査とかそこら辺がいきなり出てきても,話がピンポイント過ぎるんですね。そうではなくて,日本を支える人材をいかに育成してきたのか,そして,それがどれだけの,まさに日本の活力を維持している,源泉になっているのかというのをもう少し論点をきちっと整理した方がいいようには思うんですが。羽入先生の御意見に,私,賛成します。

【西尾主査】  
 今,濵口先生からおっしゃっていただきましたように,やはり,単に行政サイドだけではなく,一般社会に対しても学術の重要さを訴えていくものと考えております。平野先生,そこら辺を御説明いただけますか。

【平野委員】  
 端的に言いますと学術の在り方について,その対応,施策について大変危機感がある,それがベースであります。どこにどう理解をしてもらうのか,当然,国,それを構成する国民であります。きれいごとで言えばそうでありますが,まず国政をつかさどる方々には理解してもらいたい。
 その一番のもとは何かといいますと,やはり学術界が国際的にどのようなプレゼンスを持てるのか。教育界がどう持つのかということを,きちっと認識をしていただく,これは,国に対して,それを構成する国民に対して認識してもらわなきゃいけない。私は,個人的には,最近の動きに危機感を持っておりましたので,それを早めに皆さんとともに議論をしていきたいと考えました。
 そのためには,国際的に尊敬される学術のプレゼンスを持つこと,それから,それを同時に出していく,支えていく人々,教育,人作りに携わるということが,私は国力を充実させる基であると,こういうふうに個人的には思っております。
 国力というのは,非常に注意しなきゃいけない言葉で,何回も文科の方とお話ししたのですが,政権によって国力のとり方が違うというのは,私は一番嫌なことでありますが,あえてここでいえば,そこは注意をしなきゃいけない。しかし,世界から尊敬されるのは何であるかということが,私は一番の基であり,そういうことを支え,出していける人を作っていくんだということは,一番の軸に置いていかなきゃいけない,こういうふうに思ったわけです。それが最近,本当にこれでいいんであろうか,と心配している基であります。
 それから,同時に,科研費もああいう状態まで切り込みに入ってきたって,何が元であったか,なぜ理解してもらえなかったのか,理解しようとしなかったのか,それはやっぱり,私たちがきちっと考え,説明しなきゃいけないというふうに思います。
 それから,私は反省と改革は常に必要ですが,それだけで間違えた導出をしていったら,これは破壊に至るということも危惧します。しかし,何となくで,このまま進んでいっていったんでは,これは限られた中の動きでは,理解していただけないんで,きちっと説明をし,訴え,かつ,理解をしていただくようにしなきゃいけないというのが,この委員会にお願いをした一番の基であります。
 この基本的な危機感というのは,全部が悪いというわけじゃありませんが,プロジェクト偏重方式が本当によろしいんでしょうかと,これは天に向かってつばを吐くようなもので,文科の方々も努力をしていただいたことに,私は否定するつもりは毛頭ないのですが,在り方を考える必要があると思います。じゃあ,大学の教育の中ではどうあったらいいのか研究の場が疲弊しているとしたら,そこに対して,ある集中と選択が要るともし言われたら,どう応えられるかということも含めて,これは反省というだけではありませんが,改善が必要だったら,真摯(しんし)に私たちはそう動かなきゃいけない。ということがこの基でありますので,余り狭く考えるようにしない方が良いと思います。しかし,次期の科学技術基本計画に対して,やはりきちっと提言の中に入れていただけるようにはしたい。それがひいては,現場で御苦労されている学術界の方々に,きちっと反映できていけるようにしなければ,これは常に柳に飛び付くような形で,単発的なプロジェクトの回しに終わり,世界的には尊敬されない学術の姿で終わるというのは,こんな悲しいことはない。自分たちはその状況を理解しながら動いていかなきゃいけない。ある意味の部分については待ったなしでありますが,私は,そもそも論はきちっとやっぱり積んでおかないと,10回やった後,そんなのがベースじゃないということでは,これは話になりませんので,変な意味の拙速はいけないと思います。ということを思い,お願いをしたわけであります。

【西尾主査】  
 どうもありがとうございました。今,平野先生からおっしゃっていただきました意味でも,本日は非常に貴重な機会でございますので,是非,御意見をお願いいたします。
 荒川先生,どうぞ。

【荒川委員】  
 私も前回欠席させていただきましたので,ちょっととんちんかんなことを申し上げるかもしれませんが,今の平野先生がおっしゃったこと,大変よく分かりました。今回のこの委員会の目的は,具体的に言えば第四次,第五次,いずれにしろ今度の科学技術基本計画,あるいは日本の科学技術基本計画全体に対してどう提言をしていくかということが一つの目的であると思います。
 その観点でいきますと,現政権が科学技術基本計画を作るということを考えますと,やはり今の政府の大きな目標とある程度の整合性がとれる必要もあるかと思います。
 その観点で申し上げますと,今の政権といいますか,総合科学技術の姿勢というのは,基本的にはイノベーションであり,そして,経済的価値が生み出されることによって人間が豊かになる,国力が出てくる,そして福祉も発展する,そして,それがフィードバックして学術も発展するでしょうと,そのようなチェーンを作ろうとしている。雇用も生み出すという,そういうことかと思います。
 そうなりますと,そのような今の国の動きに対して必要なのは,もちろん,産業的出口があり,そしてイノベーションがあり,そして,技術開発,いろんなものがある。それに加えて,やはり学術というのが本質的に重要であるという,そういうストーリーを全体として描いて,その上で必要な学術の在り方とは何かという議論をしていくというのが一つの方向ではないかなという気がします。つまり,全体としてトップダウンで行って,国の政策とも一致していると。その中でどういう学術がその目的に向けて必要であるか,そして,その際には人材の育成もありますし,それから,まさに不連続な発展という観点では,様々な学術の種の育成を,学問として行うことも必要であると,そういう論点が展開できるのではないかと思います。
 そういう意味で,先ほど甲斐先生がお出しになった,こういうトップダウン的な論点といいますか,論理の展開というのは,大変分かりやすいのではないか,そんなような印象を持ちました。

【西尾主査】  
 甲斐先生,御意見いかがでしょうか。

【甲斐委員】  
 今のに答えるんですか。

【西尾主査】  
 是非いただけますと有り難く思います。

【甲斐委員】  
 今の最後は賛成していただけたのかなと思ったんですけど,非常に難しいです。うまく政府からの支援を得て,その論理に乗って,だけど学術の基盤も大事だよという論点で長いことやってきて,その結果大学は疲弊してしまったというのが現実じゃないかと思うんです。ここら辺で本気でちゃんと言わないと,学術界というか,大学が疲弊してほとんど駄目になってしまうと,イノベーションを担う良い研究者も出なくなってしまいます。企業にも出なくなる。大学にも良い教師が育たなくなる。そこまで来てしまっているというのが現実じゃないかなと思うんです。
 だから,学術も大事なんじゃなくて,学術が大事で,それをほったらかして政府の方針に沿わせて,もう既にぎりぎりまで頑張っているよというのが現実かなと思うんです。
 ですから,先生の言われる戦略もすごくよく分かるんですが,やはりここは頑張って,基本問題を提示された先生方がいらっしゃるので,それはちゃんと出して,それが何でこんなになっちゃったのか,余りプロジェクト型出口志向偏重ばかりでこのまま行くと日本は大変だよということは言ってもいいんじゃないかなと思ったのです。
 でも,とりあえずこういう大きな流れというのに賛成していただけるんでしたら,要因を話し合う中でそのような問題点の議論は全部出てくるんじゃないかと思います。皆さんの意見を積み上げるのが大事だと。
 一つだけ,安西先生に質問したいんですが,先生が座長の大学分科会がありますね,それに触れてしまうと思うような提案が入っているんですよ。私,僭越(せんえつ)だと思ったんですが,これは基本問題を語る上で,大学の存続は必要ですから,先生方の委員会とは密接にコンタクトを取るとか,ある部分合同とかしないと,我々が勝手なことを言っても,そちらは違うよというふうになるとよくないので,先生はどういうふうにお考えでしょうか。

【安西委員】  
 多少全般的なことになりますけれども,一番恐らく大事なことは,さっき平野先生が言われていたように,本当に心からの危機感を持つということだと思います。それを共有できるかどうかということなんです。本当に危機感を持って,ある意味ほとばしるような文章であってもらいたいなと思います。だから,そんな大学分科会がどう思うかどうかなんて関係ないと思います。甲斐さんだから言える面はあるんだけど,本当にそんなこと関係ないでしょう。だって,学術の基本問題を本当にきちんと語って提示すればいいと思うのですよ。余りそういうことは気にしないでいいのではないでしょうか。
 大学問題の方のことを一応申し上げておくと,これは一般に大学分科会で議論されていることから言いますと,ここで今言われている,これを聞いたら,「雲の上のことですね」って言うと思うんですよ,「関係ありませんね」と。大学というのは,4年制大学だけでも700以上ありまして,大学分科会は短大も含みますので,大学だけで日本には1,000以上あるんです。それ全体の議論をしておりますので,ここで言われていることは「関係ありませんね」ということになると思います。
 ただ,そういうことと関係ないと思います。やはりそういう,あらゆる大学関係者だけではなくて,一般の人々に至るまで,今,それこそ平野学術分科会会長が言われたように,やはり世界に本当に尊敬される学術と,それを支える人材を供給していかない限り,そういう大学ですら成り立たなくなるわけなんです。それはもう,そういうことの了解を取ってやるものじゃなくて,我々が言っていけばいいと思いますし,大学分科会で報告すべきだということであれば,それは幾らでも報告もし,意見をもらうことはできると思います。

【甲斐委員】  
 先生,1点だけ。大学院を持つ大学と,教育を主にやる大学というのを分けるという案をこちらから出した場合には,それは大学分科会ではどうなるんですか。

【安西委員】  
 それはいろいろ議論になるともちろん思いますし,こっちがやり玉に挙がると思いますけれども,本気でそうこちらが思うのであれば,出すべきじゃないかと思います。私は板挟みになるのですが,そのぐらい学術の現状というのが,科研費も含めて,本当に危機的状態にあるということを共有すべきじゃないでしょうか。

【西尾主査】  
 安西先生,本当に貴重な御意見を頂き,ありがとうございました。
 どうぞ。

【高橋委員】  
 安西先生のお墨付きを頂いたということで,ちょっと私がためておいた爆弾発言をします。猛反論が出てくるのを覚悟で言います。私の周りの人たちは口をそろえて,「トップダウンのプロジェクトを全部科研費に回したらどうか」と言います。つまり,もっと基盤的かつ安定的な研究費を増やして,研究者が安心して研究に集中できるようにすべきだという提案です。しかしこの提案が言われ始めて以来,既に10年ぐらい同じ議論が続いています。同じことを言っていてもらちがあかない。ですからここで爆弾発言です・・・いっそのこと,大学に配るお金を,科研費と運営費交付金(基盤経費)の二つにしてみませんか?
 さっき平野先生もおっしゃいましたけれども,現在,特に国立大学にきているお金は,「手を替え品を替え」的な,片仮名がいっぱい付いているようなプロジェクトで一杯です。この会議では大学の学長先生が多くいらっしゃるので,きっと私しか言えないと思うのですが,はっきり言ってそういう短期的なプロジェクトは迷惑だと考える教員も少なくありません。そのプロジェクトゆえに,現場の私たちは翻弄されて会議は増え,挙げ句の果てにそれらのプロジェクトのために部局のポストまで奪われる。そして研究する時間がない,教育をする時間がない,人材を育てる時間がない,本末転倒なわけです。このような爆弾発言をした結果としてプロジェクトが廃止になると,大学に来る全体のお金は減るでしょう。しかし,迷惑なお金はなくてもいいじゃないかという考え方もあります。
 政策として重要なことは,抜本的かつ本質的な改良です。現状を小手先で変えて,ここで○○プロジェクト,あちらで△△プロジェクト,という政策を繰り返していると,時間の問題で現場は破綻するというところまで来ています。私が共有すべきことは,この危機感だと思います。
 もう1点。先ほどの甲斐さんの提言に戻りますが,今日の会議で新たに議論されるポイントとして極めて重要だなと思ったのは,この委員会における問題意識を大学の問題ときちっとリンクさせるということです。つまり縦糸(学術)と横糸(大学)をきっちり捉える認識が重要です。
 最後に,「国民の民意」について発言させてください。これ,実は 厄介な言葉です。政府関係者は何かに付け,「国民は」と言われますが,実は「国民」という実態を余り考えずに使われていることがほとんどです。余談ですが,今,大阪では某氏の選挙で話題になっていて,そこではやたらと「民意,民意」と叫んでます。しかし当の大阪人は「民意って何や」と言っております。これと同じで,霞ヶ関界隈(かいわい)では「国民」あるいは「民意」という言葉がその場その場で都合よく使われている節があります。私達(たち)は気をつけなければなりません。
 それに関連する一例です。某大手新聞の「大学の在り方」に関する記事を読んでいるときです(京都大学ではありません)。ある一学生が「大学に入ってはみたけれども,最初から就職活動の教育ばっかりされるんだ」といっていました。「大学というのは,学問を教えてくれる所かと思っていたのに,いかにしてうまく就職するかばっかり教えてくれる。これが大学なんですか」と。これも民意の一つといえます。
 まとめると,都合良く使われる「民意」の言葉にひるむことなく,「学術を徹底的に推進することこそが真の民意である」という絶対に崩れない姿勢で,この会議を進めてくださればと思います。

【西尾主査】  
 どうも貴重な御意見ありがとうございました。
 どうでしょうか,ほかに御意見等ございますでしょうか。

【高橋委員】  
 あれっ,爆弾発言に反論が出ない・・・(笑)

【西尾主査】  
 貴重な御意見だと思います。

【亀山委員】  
 高橋さんの議論からはそれるんですけれど,先ほど安西さんの方から,心からの危機感をそれぞれが持つといいましょうか,表明していく,インパクトが強い言葉でということがありましたけれども,人文学の立場から言うと,恐らく人文学の最高の知性を生んだというのは,1970年代から80年代だと思うんです。フランスの例えばポスト構造主義あたりが出たときに人文学の知というのがいただ点に達して,そこからいわゆるグローバル化と同時に知のレベルダウンが落っこちてきたと思うんです。それは力の概念が入ってきたからです。つまり,最高度に知的なものを求める運動としてあったあの時代が,もうそれを支える基盤が全くなくなってしまって,今,人文学の研究というのは「やっていますね,御苦労さま」というぐらいのレベルだと思うんです。
 それが本当にどのぐらい意味を持つのかということもあるんですが,その心からの危機感というのが,つまり我々,例えば団塊の世代が持っている,ある意味非常に幸福な世代ですね,知的な期間を経験し,なおかつそれを十分に,知的なものの喜びを経験出来るという。しかしそれは非常に古い考え方の喜びであって,ことによると,もう全然,若い世代は全く別のパラダイムで考えていて,そこから新しい知が出てくるということになった場合に,この議論そのものが,つまり意味がないんじゃないかなと思えるようなある種の危機感を覚えるんです。つまり,例えば今,グローバルビジネスのトップを走っているソフトバンクであれ,あるいは楽天であれ,ああいった知的な,何か世界を切り開いていける知というのは,大学とは全く無縁のところから出てきて,そこが産業の繁栄を生んでいるという事実があるわけですよね。
 そういう方向性の中で,学術って一体何なのかな,とりわけ人文学的な学術知というのは一体どこまで意味があるのかな,そういう根本的な疑いを持つ,そのときに人文学知がやれることというのは,やはり学問的な研究を徹底的に教養のレベルまで落とし込んで教養教育をすることだと思うんです。それのやっぱり受皿として,教養大学って必要なんですよ,つまり教育大学というのは。そこはもう学術的なハイレベルのものは要求しないで,むしろ底上げ的なレベルで教養というものを徹底して,しかしその教養も,我々がイメージしている教養は全然駄目で,やはり教養って受皿があってこその教養なので,今の若い10代,20代の人たちの問題意識をどこまで受け入れられた上で新しい教養知というものを作るかということをやらなきゃいけないんですが,我々が自分たちのそれぞれの専門的なところで,人文学ですよ,固まっている以上は,絶対に世代間の断絶って埋まらないと思うんです。絶えず,我々は「若い世代は教養がない」ということで,我々の鏡に照らして彼らを映し出そうとしているんですが,もうそうじゃないんじゃないかなと,彼らの持っている知的な構造とか,あるいは知的な体系といったものを,我々が本当にしっかりと受け止めた上で新しい人文知というものを作っていかないと,少なくとも教養という概念も,あるいは人間教育というものすらも成り立たなくなるんだろうと思っているんです。
 ですから,少なくとも私は人文学の方でしか発言はできませんので,今,学術が崩壊しているというリアリティーというものを,理系あるいは工学系の視点から全く経験できないので,人文科学の場面から言うと,人文科学にはもうともかく夢がないので,全く夢がない以上は言葉も出てこないし,それを学ぼうとする人もいないと思うんです。
 で,人文学は大事だということをやっぱり国が言うべきだと思うんです。それで,人材を育てるんだよと,グローバル人材を育てるんだよと。ここにありますよね,豊かな教養や高度な専門的知識,これはお題目であって,国の人文学が大事だという気持ちはちっとも伝わってこない。人文学をやることによって,そこから富が生まれるんだという幻想すらも抱けないという,ここをやっぱり,夢のあるメッセージというものを人文学の分野の大学に対して与えていってほしいと思うんです。
 ちょっと抽象的で分かりにくいかもしれませんが,そういった観点から考えた場合に,学術の崩壊というのが人文学系でどうなのかということをもう1回検証される必要があると思っています。

【西尾主査】  
 どうもありがとうございました。
 どうぞ。

【高橋委員】  
 今の御意見,全くそのとおりだと思います。すみません,また爆弾発言します。ある方が言われてました:「国立大学は理学部と文学部と教育学部さえあればいい」。実は私もなるほどなと思ってます。つまり国立大学に何が求められるかというと,いわゆる明日,明後日(あさって),来年にはすぐには製品化にはつながらず,利益もでず産業とは直結しないけれど,やはり「知の根本」(今,亀山先生がおっしゃったようなもの)を支えるために,国民の税金を使わなければいけないんだという原則論ですよね,国立大学の根本です。
 私は理学部にいますが,理学部の教員は,「何かの役に立つために」というような教育はしません。むしろその逆で,本当は○○の役に立つと分かっていても,あえてそうは言わず,「自然の摂理を解明する」という筋を徹底的にとおします。もちろん京大の理学部においても,徹底的に学術を極(きわ)めることの重要さを学生に伝えます。このような理学人が放つ強烈なメッセージを,亀山先生の人文系からのメッセージに加えさせていただきたいと思います。
 でもこれって,安倍政権がうたう「イノベーション」に必ずしも一致しないですよね。ここが思案のしどころですが,この委員会からきっと良い知恵が出るのではないかと期待しています。

【西尾主査】  
 どうもありがとうございました。
 荒川先生,どうぞ。

【荒川委員】  
 私は現在,教育で言いますと,工学系研究科の電子工学専攻,それから理学系研究科の物理学専攻の教育をしておりますし,研究としては生産技術研究所で研究をしている者です。
 その観点もありますけれど,一般論で言えば,やはり学術の多様性というのが常に必要であることが一つ。それから,学術自体が,先ほどの亀山先生のお話でありましたように,やはり変遷してきているのではないかというのを我々は感じ取る必要があると思います。それから,大学も大衆化されているという問題もあると思います。
 四,五十年前というのは,東京大学で言えば定員が2,000人で,人口は多分,同じ世代で倍ぐらいあったかもしれません。そういう意味では,非常にレベルが高かったわけです。ですから,学生の質も高かった。多分,先生の数も,少なければ質が高いかというとまたそれは別かもしれませんけれども,ある種精選されて,しかもエリート意識をきちっと持っていた。そういう中での知的活動と今とを比べると,やはり大学の在り方というのは少しずつ変わってきている。それが大衆化ということになってくるわけですけれども,そういう側面もあるということをきちんと踏まえた上でいろいろ議論がなされるべきかと思います。
 高橋先生がおっしゃるように,その考え方も一つの考え方であるし,また,科研費のみというのもあるかもしれませんが,他方,やはりいろいろな社会とのインタラクションの下で学問というのを発展するというケースも多々あるわけです。西尾先生がおられる情報学も多分,そのあれだと思いますし,私どもの分野も,ものづくりということから逆にフィードバックして新しいサイエンスの舞台を作っていくというのがありますね。
 それから,例えばカミオカンデ,ニュートリノの学問も,実は技術がフィードバックして出てきていると。小柴先生は浜松ホトニクスときちんと議論して一緒に作り上げたという経緯もあるわけです。もう一つ例を挙げれば,ベル研究所というのがあります。今は実質崩壊をしておりますし,あれですが,かつてはベル研究所というのはノーベル賞受賞者を多々出し,そして技術のトップでもあり科学のトップでも,我々の分野ですけども,物理学のある面,これも固体物理,それから電波天文の測定技術を含めて,その分野でのトップの組織であったと思います。
 それまで何が起こっていたかというと,やはり目的の研究を行いながら基礎研究も一緒に輩出できているわけです。そういう分野もあるということもきちんと認識していただいて議論を進めていただくのが重要ではないかと思います。私が申し上げたかったのは,やはり学術というのは多様であると,その多様な中で,全体としてここの分科会でどういう結論あるいは審議をしていくかということを考えていくのが重要ではないかなと,そのようなことを申し上げたかったです。

【西尾主査】  
 荒川先生がおっしゃっていただきました学術の捉え方に関しては,前回,柘植先生からいろいろ御意見を頂きました。それに関しては資料1の1ページ目の1ポツの下の※印で,学術研究の捉え方を基礎研究,応用研究,開発研究を含むものとしましょうということになりましたので,先生のおっしゃることは十分に分かります。
 私としては,亀山先生がおっしゃったことは人文社会系としての根本的な問題だと考えます。もう一方で,今日,甲斐先生がおっしゃった意味での大学における基盤経費の深刻な状況がある場合,その状況は,人文社会系の人材を育成することにリンクした大きな問題ということなのでしょうか。

【亀山委員】  
 現実的なそういう基盤的な経費の中にそれが反映されるということが,国が頑張れよというメッセージにもなるんですよね。ですから,振りだけでもしていただきたいというんですか,国は。

【西尾主査】  
 なるほど,分かりました。
 はい,甲斐先生。

【甲斐委員】  
 亀山先生の御意見はすごくよく分かります。今のところ,まだ私は日本人であることを誇りに思うんですが,いつまでも誇りに思える国民でいたいなと思うんです。例えば,だから何でもかんでも学問はイノベーションのためにあるって言っちゃうと,すごく狭い範囲の学問だけが育っていく。どこかの国のように,とにかく発展させるためだけのものを開拓していこうというふうになってしまうと,民度が落ちますよね,やはり。全員が同じようにいろいろな教養を得るべきとは思っていませんけど,町工場のすばらしい職人が作れるものを自分は作れない,けれどそういうのを作っている人がいることを誇りに思いますよね。ある文学者がいろいろ深い思想のことを書いてくださって,それを読んで,そういう人も日本にいるということを誇りに思いますよね。そういうのはとても大事だと思うんですね。だから国は,学問はイノベーションのためにあるとちょっと言い過ぎているんではないかなと思うんです。そういうものを全て含めて,日本は誇りある国家であり,その中でイノベーションも育っていく,そのぐらいの余裕が既に日本にはあると私は信じたいですね。開発途上の,必死になってイノベーションだけで復興していこうという段階じゃないと思うんですね。それをちょっと強引にシフトされ過ぎているんじゃないかなと,広くというのをお願いしたいと。
 経費のことですけど,人文の人の科研費の話をしますと,本当にずっと自分がやりたい研究をするのに,今の科研費制度がちょっと合っていないとかそういうことをよく聞くんですが,実はそれは全部,競争的資金でやろうとしているからであって,昔のようにちゃんと基盤的経費があれば人文の方は十分できたと,それで深い研究ができたんだと,なのに何でもかんでも競争的に取らなくちゃいけなくて,しかもそれが何となくイノベーションにつながらなきゃいけなかったり,それが圧力というか,そういうバイアスを掛けられているという話を聞くんです。だから,そういうことからもデュアルサポートは必要で,何でも競争的に学問はやればいいということじゃないんだと思うんです。もちろんそれは程度の差とかがありますから,そういうのを両方含めて,国は全体学術が大事なんだと言ってほしいと思うんです。そうすれば,若い人たちは真剣に教養も身に付けるだろうし,その中で好きなのを見ていって,それは人の役に立ちたい,ダイレクトに役に立ちたいという子は結構たくさんいるので,教養を進めたところでイノベーションの方に行く子はたくさんいるんですよ。だけど,裾野が広がる。そういうことを,先ほどおっしゃったように,ほとばしるような要求を,私は理系なので全然駄目なので,ここは文系の先生方がうまく書いていただけたらいいかなと思いました。

【西尾主査】  
 荒川先生,どうぞ。

【荒川委員】  
 確認しておきたいのですが,必ずしも政府は全ての学術研究がイノベーションに結び付くべきだとは言っていないと思います。

【亀山委員】  
 分かりますけど,事実としては。

【荒川委員】  
 つまり,大型の資金を取ろうとすると,やはりタックスペイヤーに対する責任,あるいは国の政策への反映という観点がありますので,しばしばイノベーションに結び付くというのが,予算を準備する際には容易になるということであるかと思います。ただ,やはり科学研究費というのは厳然と学術に特化した競争的資金であるのではないかと思います。ですから,そういう意味で,依然として国は学術の発展をするとともに,新たな予算においてイノベーションを一つの理由としていると考えます。
 ただ,イノベーションばかりではなくて,例えば私,今,学術会議の方で大型研究計画の分科会で,マスタープラン2014というのを最近まとめたところでありますけど,そこにおきましては,とてもイノベーションには結び付かない宇宙の誕生の頃の話,あるいはリニアコライダーもそうですけれども,そちらにも投資をしようとしています。ですから,全ての予算が,学術がイノベーションに結び付かないとそのような財政的な支援が受けられないというのはやや極論,あるいは非常に極論であると私は考えております。

【西尾主査】  
 貴重な御意見ありがとうございます。ただし,イノベーションを想起するものとして新たなプロジェクトなどが多く組まれていきますと,全体の総枠予算が決まっている状況では,基盤的経費が細っていくことになると考えます。

【荒川委員】  
 科研費は必ずしも……,今は減っていますでしょうか。

【西尾主査】  
 来年度は少し減ります。

【荒川委員】  
 ちょっと減っていますね。ただ,もともと大分伸びていますから,そのあたりの,運営費交付金。

【甲斐委員】  
 日本版NIHをつくろうとしたときに科研費から1,000億取ろうという話が現実に出ましたよね。それを皆さんの反対で止めましたけど,ああいう議論が時々起こるのは現実です。
 それと,第4期科学技術基本計画の最初のイントロのところに,創造科学立国とかイノベーションの源となる大学みたいな表現があったんですね。それ以降のこういう審議会では,それが枕言葉に最初に出ます。ですから,イノベーションにつながるということは結構言われていて,それに圧迫を感じている。それと,デュアルサポートがなくなって,運営費交付金がなくなったために,大学は大変な経済状況になっていることは事実だと思います。末端の我々でもすごく感じますので,そういうことを総合して考えて,わずかな競争的資金,それをその中から更に分けて,イノベーションにつながる方に分けようという動きが確かに何度もありましたので,今はちょっとまずいかなと,私はそういう危機感を持っています。

【荒川委員】  
 もう少し正確なデータに基づいて議論させていただければと思います。

【西尾主査】  
 そうですね,第4期の場合でも,科学技術イノベーションと学術研究の関係が,先生がおっしゃった意味で捉えられているとしたら,それは大変良いことだと思います。ただし,第4期では,科学技術イノベーションと学術研究が少し異なった意味でリンクしたような形で強調され過ぎているように思われます。今後策定される第5期の場合には,荒川先生が先ほどおっしゃっていただきましたような意味で,イノベーションと学術研究を位置付けすることを強く訴えていくことが大切であると思っています。

【高橋委員】  
 ちょっといいですか。

【西尾主査】  
 少し待ってください。そろそろ濵口先生に,学長のお立場から御意見をお伺いしたく思います。

【濵口委員】  
 すいません,学長としての立場から発言したいんですけど,今,大学で何が起きているかというと,運営費交付金が大学改革係数でどんどん削られていますね。それで結局,うちの大学なんかでも基盤運営費交付金では給与全部払えないんですよ。
 で,何が起きているかというと,今,それと併せて任期制,年俸制が出ておりますね。研究者の心理は物すごく暗いんですけど,結局,人件費を競争資金が基になる間接経費で取るという形になってくるんです。それは何が起きるかと,その次のステップですね。恐らく社会科学の崩壊になってきます,文学の崩壊になってきます。先生,さっき文学部は必要だって言いますけど,経営的な感覚で言ったら,文学部ほどコストが出ないところはないんですよ。要らない。で,外語大で一手に受けてもらえばいいと。どうします? これ。本当に流れとしてはそうなってくるんですね。で,片方でイノベーション,イノベーションというキーワードが出ていますけども,それに科学者も少し悪のりしている部分があると思うんです。大学の先生に社会実装まで完璧に持っていけるようなイノベーションができる人はそんなにいないんです。
 それから,大学の科学技術というのは,基本的に要素技術なんですよね。そこの特性でもあるし,また限界でもある,それを越えて,挿話的なiPadだとか,そういうものを作るようなイノベーションというのはできないわけです。だから,我々のできる限界というのをしっかり見定めて,むしろそこに我々の担っている力があるので,要素技術なしには新しいものはできないので,そこをもっと書かないといけないと私は思います。
 それから,イノベーションに引っ張られて,国力の源とかこういう議論をしていますと,文系の存在価値って余りないんですよ。ね,先生。もっと違うキーワードをちゃんと出さなければ。ここで出すとしたら,僕はふと思いますのは,国としての品格の問題だと思います。それを我々,ストレートに言わないと,何か実用化のためのいろんな議論にどんどん下がってくるような気がしますので。

【亀山委員】  
 振りをしてほしいというのは,そのことなんですね。せめて振りでも。

【西尾主査】  
 ですから,羽入先生が何回も御質問されていたのはそこの問題ですね。
 金田先生,いかがですか。

【金田委員】  
 そういう役に立たない人文系の者として,実は先生の御指摘よりもっと事態は深刻になっていると思います。先ほど,亀山先生の話に,我々の世代は幸せな世代だという表現がありました。我々は苦し紛れにということですけども,時々若い教員の頃には,当時は教官と言っていましたけど,教員の都合で学生に迷惑を掛けるなと,学生がちゃんとやる時間と方向性を残しておかないと,邪魔をしたらいけないということを,半分冗談,半分本音で言っていました。ところが,今,それが大きく変わってしまっていて,時代はもう変わっていまして,セットアップした方向性と技術を与えたら皆さん,それなりの能力を示しますが,そこのところが非常にデリケートになっています。それは,やっぱりゆとりがないからということがあると思いますし,教育というものとか方向というものとか,広がりとかの考え方自体がずっと教育の結果として変わってしまっているわけですね。ですから,そこ全体について,やはり抜本的な議論を是非ともしていただきたいと思います。
 私なんかはもともと役に立たないというところがあるから,いつもよく言っているんですが,魚にはマグロとかハマチとか鯛(たい)とかばっかりあったって困るんだと,どこに何がいるのか分からないようなナマズとかアンコウみたいなのがあってもいいんだし,それから中には全く食えないものもあってもよろしいと,そういう状況でないと,社会の多様性と健全な方向は駄目なんだということを極論として時々言っていますけれども,やはり実態はかなり強く進行しておりまして,危機は更に大きいと思います。

【亀山委員】  
 最終的に危機はナショナリズムだと思うんですよね。イノベーションというところに特化して,もちろんイノベーションに膨大なお金が行くことは,それはもちろん我々として,人文系としても当然認めるし,認めざるを得ないし,それは日本の繁栄を支えているということも分かるんだけれども,しかしそこへどんどん特化していくと,最終的には人間って本能しかなくなってしまいますから,本能はもうナショナリズムに結び付くので,今回の例えばウクライナ問題にしろ,あるいは領土問題にしろ,全てナショナリズムというところでそういうのが自己肯定化されるような状況をどんどん生んでいくと思うんです。それがある意味でグローバル化の物すごく悲劇的な側面であると同時に,我々が今後直面するかもしれない悲劇なんだけど,そういった状況に対して,本当に日本人として尊敬される,国力で示される成熟というんですか,そういったものがほとんど見えなくなってしまうんじゃないかなという,大人としての日本は消えてしまうだろうな,今のイノベーションという。ですから,お金はどうぞ使ってください。でも国は人文系,大事にしていますよという振りは示してくださいということなんですよね。ですから,知らないうちにお金を使っていて構いませんから,しかし言い過ぎるなと,工学者,理学者というのはそれなりに,今言ったようにやっていくと思うんですよね。
 すいません,何か。

【西尾主査】  
 特に国際的な観点での学術研究の重要性ということからは,先生のおっしゃっていることは非常に大事だと思いました。どうもありがとうございました。
 どなたかどうぞ。

【高橋委員】  
 一つテクニカルなことを言わせてください。「イノベーション」という言葉ですが,きょうの議論においても,私たちは「イノベーション」イコール「出口志向の学問」というふうに暗黙の了解で定義付けて議論しておりますね。しかし先日の総会においては,「イノベーション」という言葉には,「基礎学術」の意味も含まれるのだとありました。少々定義の混乱があるようです。それって少し危険ですよね。なぜなら,あるときには「『イノベーション』には『学術』が入っていますから」とマルめ込まれ,でもいざ蓋を開けてみたら,やっぱり出口志向のところばかりに予算がいっていた,となりかねない。煙に巻かれてはいけないですね。
 例えば,きょうの資料1の2ページ目の2)の1個目のマル,イノベーションとはとか,何かとあるのですけど,「イノベーションは,上記マル2(の一部)ではない。マル1,マル2を包含した新たな」とあります。しかし内閣側はそういうつもりで使っているのではないようです。そのことを私たちは自覚する必要があります。

【西尾主査】 
 私は,イノベーションという言葉をなくすということではなくて,やはり,イノベーションの本来の意味を明確に記述し,我々としては,その真の意味をこの審議のまとめの中で表に出していくということの方が大事あると思っているのですけども。

【平野委員】  
 今の点については,あの会でも御説明したように,一番気を付けなければいけない言葉でありますし,文部科学省等で出しているイノベーションは,第4期の場合もそうでありますが,科学技術の基本的な政策のところでも,注は入れていますが,政権の取り方と,それからもう一つメディアの上げ方が私は非常に心配であると思っています。イノベーションは当然,シュンペーターがどう言おうとも,少なくとも技術革新とかそういう単純な言葉で終わっては大間違いであると思いますし,国民に分かりやすいからと短絡してはミスリードになると危惧しています。ここでは今,西尾先生が言われたように,こうだってもう1度言ってもいいと思います。しかし,それにおいて学術,人作りがどういうふうに寄与していくのかと,どうならなければいけないのかというのを間違いのないように訴えることは必要じゃないかなと改めて,強調したいと思います。

【高橋委員】  
 でも,私たちですら,それとは違う定義で使っていましたよね。困ったな。

【平野委員】  
 よく読むと変わってきて,きちっと今,総合的のような説明に書かれているんですが,一般的にはまだそこまで言葉が出ていない,間違いなく。ましてや,メディアは書いていない。

【小安主査代理】  
 イノベーションの定義の問題の話ではありませんが,今,お話を伺っていて,多様性というのは非常に重要なキーワードだと感じていまして,何をするにしても,どこから芽が出るか分からないというのが学問であって,そういう意味では多様性をいかに担保するかということが全体を伸ばすために必要だという議論は重要だと思います。一方,これは常に,いつも危機を伴っていて,多様性を確保すると言うと,必ず「ばらまき」という言葉で切り返されるのですが,ここをやっぱりちゃんと理論武装するというのが私たちがやらなければいけないことじゃないかなと思います。

【西尾主査】  
 はい,どうぞ。

【小松研究振興局長】  
 今日はいろいろありがとうございます。大変刺激的な議論が続いているんですけれど,このペーパー自体は先生方からいろいろ頂いた議論を事務的にとりあえず整理して議論に供しておりますので,いろんなふうに変えていけばいいというものとして私ども事務方も考えていますが,御議論を伺っていると,このペーパー,我々事務的には,まさしく今後の学術の国としての支援の在り方についていろいろ問題があるので,それに対応しようということで,この会で御議論いただいているわけですが,先生方からこうやってまとめられているものと,きょう御議論いただいていることとの間に,そんなにそごがないような感じが実はしています。今,イノベーションということが話題になっておりますので,いろいろ御議論を踏まえてまとめ直していかなければなりませんが,1ページから見ていただきますと,1)で学術研究と国力という,今,国力と盛んに言われているけれども,今の国力の定義でいいのかと。つまり,実用化をリニアラインでただひたすら行くと,そのプールとしてだけ学術研究を捉えるという捉え方でいいのかということに対して,1)では先生方のいろいろな議論を基にとりあえずまとめられていますけど,2)のところに,しからばそういうふうに学術とか国力というのを考え直そうとしたときに,今言われている,一般的に言われやすいイノベーションというのはそれでいいのかということはここに,高橋先生がおっしゃられたように書いてあります。ちょっと分かりにくいですけど,2)の題のところは,イノベーションにかぎが付いていますよね。これはいわゆるという意味です。ここに,イノベーションの意味を確認しようではないかと書いていますが,イノベーションというのは,上記マル2の一部のように言われているけれど,今のかぎを取った本当のイノベーションはそうではないのではないかということで,皆さんの御議論と同じではないかと思うんです。
 そして,その次に,例えば小安先生から御指摘のあった多様性ですね,多様で質の高い学術研究,また,先ほど荒川先生からも御指摘のあった社会とのインターアクト,この二つのどういうふうに考えるかということがイノベーションということの中で本来考えられるべきことではないか,としております。そして,その後ろにざっといろいろ書いてございますけれども,出口というのも,目の前の既に存在している出口だけを考えていくと行き詰まっていくという,先ほどの御議論があったわけですけど,イノベーションという言葉を無視しても,国の中で政策は立てられませんので,では,そのイノベーションとは一体何か,それと学術の関係は何かということが必要になるかと思います。今日も大分肉付けしていただいているので,それを整理していくと何とかなるような気もするんですけれど,そういうことを,議論としてはひとつやはり示さないと,なかなか理解をされないのではないかと思います。
 もう1点だけ申し上げますと,先ほどの1ページの1)のマル1のところ,知的探求活動それ自体によって知的・文化的価値を作っていくということがもともと国力の源であるということを考えなければいけない,つまり実用化して幾らもうかるかということで測るという一辺倒ではいけないのではないかというのは,これは高橋先生からも出ましたし,亀山先生のおっしゃった教養とかそういうところへつながるお話だと思います。これはしかし,一般の人たちに2級の教養を与えるとかいうことでは,つまりそれはよろず知識と言うにすぎないのであって,たくさんの研究者がいらっしゃるので,全部が最先端には行かないわけですけれど,知的地平の最先端にいつもいようと常に未知のことを開拓しようとして,その成果を持ち帰り,また学生から素朴な質問によることもあるでしょうけれども,それをもってまた次へ進むという,そのサイクルとずっと接することによって,学問的な評価からしたらレベルは低いかもしれませんが,国民としての教養というのは上がっていく,それがまた最先端の学術を支える苗床になるという関係で国力というのを増さないと滅びますよという話を,きょうも大分していただいているんですけど,分かりやすくしないと,私どももすぐそういう弊害に陥るんですけど,そうではないかということが前提条件で,これだけまずい状態になっているということだけを論じても,そんな必要はないじゃないかと言う人が多いので,改めて今日のような御議論を,断片はここに入っているわけですけれど,もう1回まとめさせていただけば,何となく次へ行けるのかなという感じがいたしております。
 あと1点だけ,甲斐先生のペーパーを拝見して事務的に考えますと,例えば今日もこういう格好がいいんじゃないかという御議論が出ていて,それに沿っていきますと,今の資料1の方は,最初の「はじめに」のゼロのところに二つマルがありますけど,頭のところは危機意識に近いこと,甲斐先生からの御指摘に近いことが出ているんですけど,2番目ではすぐ,政策の制約要因の方にいきなり飛んでしまっているので,非常に論旨が分かりにくくなっていて,もう少しここをきちっと書くべきであるという御議論かと思いますし,そのときに,すぐ国力の源にこういうふうに入るのがいいのか,それともこういうふうになっている中で,イノベーションに関する今の風潮みたいなものを,そもそも疑ってみる必要があるというところから,本当の学術と国力の関係は何かというふうに逆転して構成した方がいいのか,そのあたりをまだ多少お時間あるので更に御議論いただければいいと思いますが,ちょっと再整理をしたものを次回にお示しし,そしてその中でどういう施策的工夫を提唱していただくかを考えていただくという感じがいいのかなと思いました。
 長々と申し訳ありません。事務的にまとめていかなきゃいけない立場から,ちょっと一言申し上げました。

【西尾主査】  
 どうもありがとうございました。実を言いますと,これまで皆様方から意見を頂いてきたのですけれども,そろそろまとめにかかろうかなと思っていたところで,ちょうど局長の方から貴重な意見を頂きまして,誠にありがとうございました。
 今日の委員会では,これまで事務局の方で今までまとめていただいてきた議論の展開に関する提案と,甲斐委員の方から頂いた御提案のものがございました。羽入先生もおっしゃっていただきましたように,両者は本質的に全然別物ということではないと思っており,強調すべきところ等に関する順番の付け方に関して,少し見方が違うのだろうと考えております。
 「はじめに」に関しては,安西先生もおっしゃっていただきましたように,本当に危機的状況であるならば,それを熱がこもった形で,どれだけ明確に記述できるかということだと思います。
 次に,1章については,本日様々な意見が出ましたようにイノベーションの捉え方ということに関しましては再度検討をしたい,と考えております。また,国力の源というときには,やはり,それは人材そのものであり,国力あるいは国の品格という観点で学術研究の重要性を関連付けてまとめていけるのでないかと考えております。
 そこで問題は,2章のところからの書きぶりが今までまとめてきました議論の展開に関する提案と甲斐先生の御提案が異なっておりまして,甲斐先生は現状の問題把握を徹底的にここで行うべきではないか,ここで,危機的な状況に関して「はじめに」で書いたことをもう少しブレークダウンして明確に記述し,その要因もここでやはり探るべきではないかということをおっしゃっていただきました。
 今日の皆様方の御意見からすれば,甲斐先生の御提案の方がよりインパクトが形でまとめていけるのではないかということで,特段,異論を頂くようなことがございませんでした。そこで,今後は甲斐先生のおっしゃったような形で2章をまとめていくことにしたく考えております。
 3章に関しては,甲斐先生の御提案でマル1,マル2,マル3と書かれていることが,マル1のところが事務局で作っていただいた案ですと4章に対応していて,マル2のところが3章に対応していて,マル3のところは,特段,事務局案では対応している箇所がありません。ですから,今日の議論からすれば,問題点等を十分に論じ,要因を探った後で,要は政府の施策の改革から書くのか,学術界の取組の改革から書くのかということだと思います。甲斐先生のおっしゃったような流れ,つまり,政府の施策の改革から書くのが適切であるということが,今日の皆様からの御意見からすれば大勢であったと私は思っていますが,これについてはいかがでしょう。

【亀山委員】  
 いいと思います。

【西尾主査】  
 それで,企業等への改革の要望の件ですが,企業と今後どのような連携関係を持っていくのか。それに関して,企業も例えばトランスレーショナルリサーチ等に関しては国の公的資金だけを頼るのではなくて,企業自らも投資してほしいということなどを記述することは大事であると思っています。
 ですから,マル1,マル2,マル3の各々を一つの章立てとして書くということも視野に入れて,以上のような筋立てで進んでいきたく考えております。

【高橋委員】  
 一つ,ちょっといいですか。

【西尾主査】  
 どうぞ。

【高橋委員】  
 言葉の定義について,私自身がよく分かっていない点があります。「学術界」あるいは「学術コミュニティー」。私は前回のこの委員会において,「学術コミュニティーがきちんと動かないといけない」と発言してしまいましたが,あれから後,「学術コミュニティーって何だったっけな」と思い始めました。例えば学会なんていうのは,そこから給料をもらっているわけでもないし,あれはあくまでも有志で作るコミュニティーなんですね。大学及び大学院というのは,これこそ私たちが給料をもらっている組織なわけですから,学術コミュニティーとは根本的に違うわけです。例えば,今の言葉の大学等の在り方について,「学術界は責任を持って参加し」という文言も,具体的にどういうイメージでとらえたらよろしいでしょうか?甲斐さん,どうでしょう?

【西尾主査】  
 大学とか研究機関とか,そういう機関と,一方でそういう機関のもとでの研究者個人としての意識,ということもあると考えますが。

【高橋委員】  
 だから,全体,大きなものを指すわけですね。学会ではなくてね。

【西尾主査】  
 学会ではないと思います。

【高橋委員】  
 ちょっと考えます。

【西尾主査】  
 先ほど申し上げましたような方向で,今後,議論を進めていきまして,安西先生からも力強いお言葉を頂きましたけれども,今我々が持っている学術研究ということに関する危機感を十分に申し述べて,それに対して今後,どうあるべきかということをこの審議のまとめで明確に記述していきたいと思っております。そういう方針で今後進ませていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。
 今日までは,皆様方から日頃思っておられますことを,御意見として拝聴したいということを考えておりましたので,議論の仕方等についても特段大きな方向性を持って進めるということは行いませんでした。そのことに関しましては何とぞ御理解いただきたいと思います。
 先ほど,局長の方からもおっしゃっていただきましたけれども,事務局の方では大変な作業になると思いますが,今日いろいろ出ました意見をもとに,次回以降の審議の展開が委員の皆様方の総意の下で審議がなされていくようなたたき台を作っていただくということでお願いしたいと思います。
 次回の開催は,実を言うと来週でございます。来週ということで,余り時間はございませんが,頂いた御意見を整理しまして,また適宜メール等で御意見を頂きたいと思っています。私は,こういう重要な問題に関しましては集中的に議論して,骨子なりを早く作って,その後の肉付けは時間を掛けて進めていくということも一つの妥当な方法かと思っております。委員の皆様には年度末,あるいは年始の本当に忙しいときだと思いますけれども,何とぞ学術の基本問題ということの重要さに鑑みまして,是非御協力,また御参加のほどをどうかよろしくお願いいたします。
 それでは,次回は課題と解決のための取組について議論を深め,そろそろ骨子をまとめる方向で進めていきたいと思いますので,どうかよろしくお願いいたします。
 それでは,今後のスケジュール等について事務局の方から説明をお願いいたします。

【中野学術企画室長】  
 次回でございますが,既に御連絡しておりますように,4月2日の水曜日でございます。時間につきまして,2時から4時ということで御連絡しておりますが,場合によっては調整させていただく可能性がございますので,また御連絡をさせていただきたいと思います。場所は文科省の13階でございます。
 以上でございます。

【西尾主査】  
 本日の会議はこれで終了いたします。本当にどうもありがとうございました。

 

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