資料2 COCN実行委員(渡辺小松製作所顧問)提出資料

科学技術・学術審議会学術分科会 学術の基本問題に関する特別委員会
 「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」中間報告に対する見解

平成26(2014)年9月30日
産業競争力懇談会(COCN)
実行委員 渡辺裕司
(株式会社小松製作所 顧問)

1. 産業競争力懇談会(COCN)とその活動について

産業競争力懇談会(COCN:Council on Competitiveness - Nippon)は、産業界の有志を中心に2006年に発足し、国の持続的発展の基盤となる産業競争力の強化につながる科学技術力の強化やイノベーションの創出を目的として、以下の具体的活動を行っております。

 ・産業競争力の強化につながる推進テーマの設定と検討
 ・推進テーマの実現に向けた産官学の役割分担の明示と課題の解決
 ・取り組んだ推進テーマを自らが実現する主体の設置
 ・上記の活動を踏まえ、科学技術力の強化とイノベーションの創出を目指した政策の提言

現在は、大学や独立行政法人研究所もメンバーに加え、更なる連携強化に努めております。また運営にあたっては現場感覚を重視した「手弁当精神」によって、一線の研究者や技術者あるいは事業担当者自らが汗をかきながら課題解決にあたっています。

《主な役員》
代表幹事 西田厚聰(株式会社東芝 相談役)
副代表幹事 庄田 隆(第一三共株式会社 相談役)
実行委員長 住川雅晴(株式会社日立製作所 顧問)

《会員》 (五十音順)
企業会員:民間企業34社
 IHI、沖電気工業、鹿島建設、キヤノン、小松製作所、JSR、JXホールディングス、清水建設、シャープ、新日鐵住金、住友化学、住友商事、住友電気工業、ソニー、第一三共、大日本印刷、中外製薬、東海旅客鉄道、東京エレクトロン、東京電力、東芝、東レ、トヨタ自動車、ニコン、日本電気、パナソニック、日立化成、日立製作所、富士通、富士電機、三菱ケミカルホールディングス、三菱重工業、三菱商事、三菱電機

連携する大学・独立法人会員:4大学・1法人
 京都大学、産業技術総合研究所、東京工業大学、東京大学、早稲田大学

2. 学術の基本問題に関する当会のスタンス

産業界の考えるイノベーションとは
社会や人々の課題を解決することにより、新たな市場や事業が生まれ、収益が上がり、結果として経済成長や雇用の拡大が実現すること。

学術研究はイノベーションの一つの要素でありその重要性は言うまでもないが、知の創出がそのまま課題を解決する、あるいはイノベーションを実現するのではない。
それを産業界に適切に橋渡しし、他の技術と組み合わせ、時には規制や制度の改革も伴った上で、事業を通してイノベーションが実現する、という視点が重要。

出口論や橋渡しへの大きな関心は、これまでの学術研究への膨大な国の投資が期待された成果を生み出していない、という社会の認識によるもの。この点をアカデミアはもっと真摯に受け止めるべきではないか。

3. 「学術研究の重要性」と「出口論や橋渡し」は両立すべき

産業界においても、「知の創出力や人材育成力を支える学術研究の重要性」「研究者の内在的動機、自主性・自律性の必要性」「試行錯誤や価値創出まで時間を要するテーマへの挑戦」に異論はない。

問題とするのは、「学術研究の閉鎖性」、すなわち「透明性と説明責任の不足」。

国費の投入を行う以上、トップダウンの戦略研究はもちろんのこと、運営費交付金によるボトムアップの研究にもそのプロセスに応じて目標と成果があるはず。
研究者個人の知的好奇心や学問の自由を理由に、外からの口出しを厭う体質や、情報が専門家集団の中でのみ共有される閉鎖性が、社会への透明性や客観的評価を損なっている。

公費による研究はすべて「研究の目的と目標」「ロードマップ」「第3者による成果評価」の3点を社会に公開することが資源配分の条件である。

政府においても、膨大な運営費交付金や科研費が、どこにいくら使われているのかをすべて明らかにして、各大学や研究所ごとの研究分野や投資効果を鳥瞰し、限られた国費をどの分野にどのくらい投入するのかという資源配分の議論と無駄の排除に活かすべき。

4. 分野の融合を進めるにあたっての課題

科研費の対象となる分野には、300の領域があると言われるが、お互いの縦割りが強い。システム化、融合化、統合化に向かう社会で、イノベーションの萌芽を生み出すには、チームで取り組む、お互いの装置を共有するなど、効率的な資源配分が必要。

そのためには、研究者が分野を越え、「社会との対話、交流を重ね、社会の負託に応えていく」ためのコミュニケーションの方法を見直すことや、特定の学会の中だけで理解される論文や報告書でなく、広く国民にわかる言葉で発信することが重要。

また、大学や研究所の「研究者」以上に、「運営責任者」に自主性を持たせて、組織としての研究成果を最大化するようなマネジメントを強化すべき

社会的な課題の解決、新たな技術やシステムの社会実装において、自然科学と人文・社会科学との融合の必要性が高まっているが、日本の人文・社会科学の国際競争力は、先進諸国の水準と比較して脆弱ではないのか。経済学者、法学者、心理学者などが、社会の課題解決の現場で、もっと前向きに発信する努力が必要なのではないか。

5. 教育(人材育成)のあり方

大学、特に大学院の教育は、研究者を育成するという意識に偏りすぎていないか。
例えば、博士課程への進学者の減少やポスドクの民間での就職が進まないのは、大学院を「学者や研究者を育てる機関」と考えている限り、解決は難しいのではないか。

産業界では研究者のみならず、多くの技術者を必要としている。大学は「研究者養成だけでなく、(産業界のために)広く社会でイノベーション創出を担う人材を育成する」という観点での意識改革からはじめるべき。
例えば、工学というのは理系の最大分野で、産業界と表裏一体で、社会の課題の解決、新機能の実現、生産性の向上など、出口を意識した研究に取り組んでいるはず。工学系の研究者からも出口論への懐疑がでることは産業界には理解できない。

研究者や教育者の評価の徹底も重要。例えば、民間企業の視点では当然と考えられるが、50代以降のシニア層の雇用や処遇の条件を評価に応じて柔軟に見直すことにより、限られた研究者や教育者のポストを、若手、女性、外国人のために開放すべき。
また、研究や教育の効率化を進めるには、例えば、国立大学の数を半減する程度の大幅な再編、改革も不可避ではないか。

この特別委員会の委員も大部分が大学などの研究者。少なくとも半数程度は異種な人材を入れ、外から見たアカデミアの視点での議論を深めるべきではないか。

以上  

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研究振興局振興企画課学術企画室

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