資料5 学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(たたき台)

学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(たたき台)

1 能動的学修環境整備の在り方について 

【問題意識】

 中央教育審議会の答申では、大学教育改革に対する期待が高まり、その中で、「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要。」とされている。
 また、学生には、授業のための事前準備・授業受講・事後展開を通して主体的な学修に要する総学修時間の確保、教員には、学生の主体的な学修の確立のために、教員と学生あるいは学生同士のコミュニケーションを取り入れた授業方法の工夫、十分な授業の準備、学生の学修へのきめの細かい支援などが求められるとなっている。
 このようなアクティブ・ラーニングを推進するにあたり、各大学では、図書館等の機能を見直すとともに、必要なスペースを整備する動きが広まりつつあるが、その規模、内容はまちまちである。
 その整備にあたっては、スペースの用意・確保とともに、スペースをどのように活かすかが重要であることから、効果的な利活用を促進させるための方策について審議・検討し、その周知を図ることの意義は大きい。

【対応】

(基本的な考え方)
 能動的な学修環境を効果的に整備するためには、そのためのスペースの確保に加え、組織的には、図書館、情報系センターなど学術情報に関わる組織と教育を担当する部局教員が協力して推進する体制が重要であり、内容面においては、学習のための空間、提供するコンテンツと学習を補助する人的サポートの有機的な連携が必要である。

 学習空間については、学生のニーズに合わせた多様な学習活動が可能となるようなスペースを用意することが必要であるが、その際、開放性、透明性の高い空間とすることが重要である。「見る」「見られる」という空間の中で、熱心に学習している姿が他の学生の学習意欲を刺激し、周辺への指導・教育効果の発現が期待できる。

 コンテンツについては、学生のニーズに応え、電子媒体、印刷媒体にかかわらず迅速に入手できるようにすることが理想である。授業に対するサポート、連携強化の観点から、授業の関連資料を図書館の書架に配置するとともに、電子化を推進し、その利活用を促進する取り組みも重要である。e-learning環境の整備、授業の保存・配信、電子的教材の作
成、オープンコースウェアによる授業公開等、電子的な教育環境の構築についても検討すべきである。

 人的サポートに関しては、多様な学習空間やコンテンツを用意した後は、学生の自主的な利用に任せるというのではなく、大学院生による学習支援、図書館員によるレファレンスサービス、教員による指導助言など、学習をサポートする体制の構築が不可欠である。

(専門的人材の確保) 
 アクティブ・ラーニングを支える人材として、直接学生に接する大学院生、教員、図書館員のほか、そのデザインを担当する専門職としての人員が必要である。専門職の役割は、各大学で設置が進みつつあるURA(リサーチ・アドミニストレーター)的なものになるが、こうしたプロジェクトの企画は、主に教員と図書館員との協力で行われることから、その過程で、図書館員の中から育つことが望ましい。
  図書館は、学術情報を活用した能動的な学習支援の場として、その機能が変化していることから、図書館職員についても、そのための専門性を踏まえ、教員や他の職員とも異なる職種としての性格付け及び人材確保が重要である。

(アクティブ・ラーニングにおける図書館と教員との関係)
 教員と図書館の関係については、図書館として教育面でより積極的に関与する観点から、教材等、資料の作成をサポートする体制を構築すべきである。図書館は、これまでの資料を集めて管理して利用を促すという機能から、資料を学生や教員と協力して作っていくというところまで踏み込むことが重要であり、このような流れが定着することにより、図書館の性格が変わっていくものと考えられる。
 ただし、教育のデザイン自体は、あくまでも教育担当教員からのアプローチにより行うべきものであり、図書館の役割は、学習環境として刺激的な空間を提供し、学内の教員に授業に対する新しいアイデアの構築を奨励・支援することであることに留意すべきである。

(教員に対するFDの推進)
 アクティブ・ラーニングを推進するためには、その重要性・効果など、教員の理解を促す必要がある。教員に対する啓蒙活動として、学習空間を学生に利用させるためのアサインメントの出し方や成績の一部として勘案することなど、学内のFD(ファカルティ・デベロップメント)関係機関と協力して、教育現場でのICT技術の活用に関するFDを推進することが不可欠である。

(活用する情報の共通化)
 大学教育としての質を保証する観点から、各分野において溢れる学術情報のうち、どのような資源をどのような方法で活用すれば一定の教育効果が得られるかについて検討し、その結果、提供すべき基本的な情報について標準化すべきである。例えば、法律学において提供すべき判例などが想定されるが、更に、それをどう普及するかまで踏み込む必要がある。
  大学間で、プログラム化やナンバリングなど、教育に関する一定の共通基盤について、共同開発・シェアした上で、各大学としての特徴を出していくということが求められる。
 教育に提供すべき学術情報のプログラム化、標準化が進めば、教員に対するサポートだけでなく、図書館が自主的に資料を作成することも可能になる。

(学生の動向を反映させた教育の展開)
 近年、大規模データの解析・利活用に対する関心が高まっているが、その対応に関しては、教育に関する部分が最も遅れている。学生の意向とコンテンツの選択、その学習への波及効果など、学習に関わる情報の把握及び分析が重要である。 
 デジタル化の進展に伴い、学生の様々な学習データが集められるようになっているが、それらについての解析を行い、学生の学習到達度などを含めた情報を利活用できるシステムを構築できれば、教育の仕方や教材の内容も変化すると考えられ、大学教育の新しい局面が期待できる。
 その場合、図書館として単独で学習データの解析・利活用を行うことは難しいことから、大学全体として取り組む必要がある。

(電子的な情報の利活用)
 情報資源として、文献だけでなく、研究や教育に関わるデータを集約、保存することが重要であり、機関リポジトリを機能させることが適切である。
 データの教育現場における利用については、図書館職員、大学の職員・教員が協力して行うプログラムを組み入れないと進まない。データ全体に目配りしつつ、必要なデータを選んで活用することが重要で、そのための仕組みを開発する必要がある。
 そのためにも、図書館と情報系センターの連携、人事交流が効果的であり、学術情報に関わる組織を一体化させることも望ましい方法である。

(学習方法の方向性)
 最近では、従来、授業として行っていたことは全てオンラインで済ませ、教室では双方向でアクティブな学生の参加を求める教育手法の導入も進みつつある。
  大学として、学生の学習時間をどう確保して、より良いものにしていくかという中で、教室、図書館、それ以外の空間がそれぞれどういう役割を果たすかという全体的なデザインを追求することが必要である。
 教育においては、多様性の確保も極めて重要であることから、学習空間とコンテンツと人的サポートの連携を基本的な要素としつつ、大学のニーズや特性等の状況に応じて、ユニークで効果的なアクティブ・ラーニングを展開していくことが望まれる。


2 学習資源の電子的保存・共有・普及の促進について

【問題意識】

 教育改革に資する学習機能の高度化において、各大学の有する優れた教材、授業等の学習資源の電子的保存・共有・普及は意義があるという意見は多いが、あまり進んでいない。
 授業の予習・復習などとともに、アクティブ・ラーニングの推進においても、これら学習資源の電子的活用は、極めて重要であり、学生の学習時間の増加につながることから、積極的に推進する必要がある。

 電子書籍が普及しつつある中で、一般的に厚く重い学術書の電子的利用に対する学生のニーズは極めて強い。学術書の出版において、電子的な利用を基本として、必要に応じて、POD(プリントオンデマンド)により、データを出力し、任意に冊子体を作成する流れが進展しつつある。欧米に比べて本を読まないとされる日本の学生に多くの学術書に接する機会を与え、教育改革の一環としての効果が期待できることから、普及させるための方策の検討が必要である。 

【対応】

(教材・授業等の電子的利用) 
 教材や授業を電子化し、機関リポジトリ等に保存・提供することにより、学生はいつでも予習・復習等へ活用することが可能になり、その教育効果は極めて大きい。そのため、大学として、教材・授業等を電子化することに取り組み、重要データや著作権上の問題など、公開できない部分がある場合は制限するなど、まず、電子的保存に対応することが重要である。
 優れた授業を広く共有することにより、提供する大学は大学のアピールに寄与し、活用する大学は学生のレベルアップにつながるなど、双方の効果が期待できる。
 海外では、様々な公開ソフトウェアや民間のプラットフォーム等を活用したオンライン教育の環境構築が進展しており、図書館は、既にある資料のデジタル化だけでなく、デジタル化を見据えた教科書、教材の開発を教員と協力し、授業と連携して作っていく新しい方向が求められている。

(学術書の電子的利用)
 学術書の電子出版に関しては、著作権の許諾等とともに、出版社の納得できるビジネスモデルの構築が必要になる。文化庁が主体となり、官民連携で国立国会図書館の蔵書を電子書籍化し、配信するモデル実験も開始されたことから、こうした動きを踏まえつつ、更なる電子化を進展させる必要がある。


3 蔵書のデジタル化等による大学図書館の機能強化について

【問題意識】
  
 海外の大学図書館では、電子書籍を含む学術情報のデジタル化による効率的な利活用への取組が進んでいるが、日本は、特に図書館の蔵書に関するデジタル化が著しく遅れている。日本では、蔵書の数を誇り、紙媒体を残そうという意識が強い。各図書館では、開架式書庫が大きなスペースを占め、蔵書が継続的に増加するため、国立大学における図書館関係の施設設備要求はその多くが保存用書庫という状況である。
 蔵書の効果的な保存・活用のための方策及びそれを活かした大学図書館の機能強化のための検討が必要である。

【対応】

(効果的な方策)
 大学の状況に応じて、以下に示す方法などを参考に、より効果的・効率的な保存方法を導入することにより、図書館の機能合理化を推進すべきである。 
 1 各大学の有する蔵書のデジタル化・保存を計画的に進めつつ、貴重書や稼働率の高い書籍、授業に関連する参考図書など、資料を紙媒体で維持・提供する必要性について検討し、その必然性が低いものは除籍するなど、省資源化に取り組む。
 2 書庫に関しては、自動書架の導入による近代化や大学単独もしくは共同で遠隔地書庫を設置し、稼働率の低い紙媒体資料等を所蔵するなどにより、省スペース化を図る。
 3 紙媒体資料については、大学内においては中央図書館と部局図書館、大学外に関しては国立国会図書館を含めた複数の大学図書館の間で、資料の重複保存を抑制するシェアード・プリントの考え方を導入・推進する。
 蔵書のデジタル化やシェアード・プリント等の実施による合理化の推進により、効果的な資料の利活用の促進、空いたスペースのラーニング・コモンズへの転用等の有効活用、設備投資の抑制など、より効果的な環境構築が可能になることから、積極的な取り組みが望まれる。

(著作権への対応)
  なお、蔵書のデジタル化の促進にあたっては、著作権処理の問題を解決する必要がある。
  現行の著作権保護期間は50年となっており、それ以上経過したものは、自由に利用できる。今般、著作権法の改正により、国立国会図書館に限って、著作権者の許諾なしで、保存のためのデジタル化及び絶版本等について大学図書館等への配信が可能になった。
 著作権に関する解釈・取り扱いを確認しつつ、より円滑な蔵書の電子的利活用に向けた対応を促進させることが重要である。

(蔵書のデジタル化に伴う人材活用)
 また、蔵書のデジタル保存が進展することによる業務効率化に伴い、現在、図書館における紙媒体資料の整理・管理に多く要している人材を機能高度化のためのプロジェクトの企画など、必要な専門職としての業務に振り向ける対応が可能になり、人材活用の面からも適切な方向が期待できる。

 

 

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研究振興局情報課学術基盤整備室

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