第7期研究費部会(第8回) 議事録

1.日時

平成26年4月21日(月曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省15F特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)など研究費の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,甲斐委員,柘植委員,平野委員,金田委員,小安委員,藤田北海道大学教授,村田千葉大学准教授,塩見東京大学教授,加藤日本学術振興会国際事業部長,勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長,村松日本学術振興会学術システム研究センター副所長

文部科学省

小松研究振興局長,合田学術研究助成課長,前澤学術研究助成課企画室長,他関係官

5.議事録

【佐藤部会長】
 時間となりましたので,第8回の研究費部会を始めたいと思います。
 本日は,まず,科研費をめぐる状況について事務局から説明いただきます。その後,本日お越しいただいております3名の先生方から,研究現場における研究費実態や科研費などの研究費政策についての御意見,御提言をお願いしたいと思っております。次に,国際関係の事業について,日本学術振興会から説明をいただくことになっております。そして,最後に,本日お伺いしました話を基に,自由に討論をお願いしたいと思っております。
 それでは,議事に入りたいと思います。最初は,科研費をめぐる状況でございますけれども,まず事務局から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【合田学術研究助成課長】
 それでは,私の方から,科研費をめぐる状況について,簡単に御説明をさせていただきたいと思います。
 御手元の参考資料1にお目通しいただければと思っております。前回も御報告を申し上げましたように,政府全体として,5月から6月の骨太,成長戦略,科学技術イノベーション総合戦略の改定について,現在,議論が進んでいるところでございます。これらが8月の概算要求,あるいは12月の平成27年度予算編成に大変重要な意味を持つだけではなく,今回は平成28年度から第5期の科学技術基本計画及び第3期の国立大学法人の中期目標がスタートするということもございますので,大変重要な枠組みになろうかと思っております。
 その準備,セッティングは既に進んでおりまして,前回,総合科学技術会議の議員でもあり,産業競争力会議の議員でもいらっしゃいます東京大学の橋本和仁先生の3月25日の御議論を御紹介申し上げましたけれども,それを踏まえて,御手元の参考資料1にございますのが,おおむね「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」ということで,骨太などの大きな枠組みとして提起をされているものでございます。
 前回の本部会で御紹介申し上げましたように,ちょうど1ページ目の真ん中あたりに,「橋渡し」機能を担う公的研究機関の改革として,産業技術総合研究所や理化学研究所の機能強化をどう図っていくのかという観点,2ページ目の下の方でございますけれども,橋渡し機能の強化に向けた「ファンディング機能」の改革として,プログラムマネジャー,プログラムディレクターなどをファンディング・エージェンシーの中でどう意識的に育んでいくのかという議論が行われております。
 それから,3ページ目の一番下,ローマ数字2の技術シーズ創出力の強化という項目が関係する部分でございまして,4ページの上の方,「(1)公的研究機関の技術シーズ創出力を強化する方策」という文脈で,丸1といたしまして,科学研究費助成事業等の競争的資金改革を進めるということが言われているところでございます。
 これにつきましては,前回御報告のとおり,3月末の産業競争力会議におきまして,私どもの副大臣から,この部会での御議論を踏まえて科研費改革を進めていくという意思表示をさせていただいたところでございます。
 なお,関連して,その下にございますように,今回,公的研究機関と大学との連携強化のための方策ということがかなり言われておりまして,丸1の第2パラグラフでございますが,優秀な研究者が公的研究機関と大学のポストを兼職・異動しやすくするために,年俸制の導入,あるいは医療保険・年金の取り扱い,退職金ルールの明確化など,環境整備を進めるクロスアポイント制度の積極的な導入・活用ということが言われております。それから,5ページの一番上でございますけれども,イノベーションの源泉となる大学改革の推進ということでございまして,現在進行中の国立大学改革によって,大学・教員評価や大学経営の改善,年俸制をはじめとする人事・給与システムの弾力化,大学院を中心とする教育研究組織の再編・整備,ガバナンスの強化,運営費交付金の評価の在り方の抜本的見直しなどにより,制度改正も視野に入れつつ,イノベーションを生み出す大学改革に積極的に取り組むということが言われておりまして,政府全体として,運営費交付金,それを担う国立大学のガバナンス,科研費,科研費以外の競争的資金というものを,横串を通して議論していこうという議論が今行われているというところでございます。
 それに関連いたしまして,9ページを御覧いただければと思います。この9ページの「資料4」と出ております資料は,産業構造審議会に3月末に提出された文章でございまして,先ほどの甘利内閣府特命担当大臣が産業競争力会議などに出したこれからの骨太などの基本的なアジェンダに対するような形になってございます。
 その中から御紹介申し上げますと,9ページの真ん中あたりでございますが,「国立大学法人改革以降,運営費交付金が減額され競争的資金が増額されてきたが,近時,大学等の研究者の基礎研究において,ともすると目先の研究資金が獲得しやすい研究を志向したり,申請等に係る手間の増大等により研究活動が制約されているとの見方があるが,それらをどのように考えるか」や,二つ飛びまして下から二つ目でございますが,基礎研究は,研究者の独創的かつ自由な発想に基づいて行われるべきであるが,特にパスツール型の目的基礎研究については,企業等外部とのコミュニケーションが大事であるといった議論でございまして,研究費部会で御指摘を頂いていることとかなり重なるような形で,政府全体として議論が進んでいるということは御覧を頂けると思っております。
 以下の産業構造審議会の資料は詳しい御紹介を省かせていただきます。
 なお,データの関係でございますけれども,23ページ以降は前回の本部会でも御紹介申し上げました総合科学技術会議の資料でございまして,23ページは,我が国のイノベーションシステムの主な課題・問題意識ということで,大学,公的研究機関,企業のそれぞれについてどのような課題がどのように関わり合いを持っているのかという分析が行われておりますし,その次の25ページには,人材の流動性あるいは資金の流動性の整理,30ページでは,平成13年から平成25年にかけての競争的資金がどのような推移であったかということがかなり分かりやすく,簡潔に整理をされているということでございます。
 したがいまして,これまでも本部会では,様々な御議論を賜っておりますけれども,この本部会での問題意識,すなわち法人化から10年がたった今,デュアルサポートシステム,運営費交付金,科研費,科研費以外の競争的資金と,これをどのように組み合わせて独創的・創造的な研究をし,それを更に学理研究に深めていく,あるいはイノベーションにつなげていくにはどうすればよいのかについて,産業競争力会議,総合科学技術会議,あるいは産業構造審議会,それぞれかなりの問題意識を持って議論されているということでございますので,是非引き続き積極的に御議論,御検討を賜れればと思っております。
 以上でございます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。現在の状況を詳しく説明していただきました。
 それでは,ヒアリングの方に入りたいと思います。まず千葉大学准教授の村田武士先生,2番目に東京大学の教授の塩見美喜子先生,3番目に北海道大学教授の藤田恭之先生から,今後の科研費の制度改善として重要と考えるポイント等について,御提案を伺いたいと思っております。
 それでは,まず始めに,千葉大学大学院理学研究科准教授でいらっしゃいます村田先生から御説明をお願いしたいと思います。
 村田先生は,日本学術振興会の特別研究員,海外特別研究員を経験された後に,複数の研究機関で任期付きポストを経て,現職についておられます。それらの御経験を踏まえて,特に若手研究者の支援につきまして,お話しいただけるのではないかと思っております。
 村田先生,どうぞよろしくお願いいたします。

【村田千葉大学准教授】
 御紹介ありがとうございます。千葉大学の村田です。
 まずこのたび機会を与えてくださいまして,どうもありがとうございます。海外でのポスドク経験や現在の所属大学での経験を踏まえて,若手研究者支援のための科研費の在り方,その若手が長期的な研究のキャリアを形成していく上での科研費の在り方,それから,大学を取り巻く状況を踏まえた科研費の役割などについて,話してくださいという依頼を頂きました。すぐに快諾はしたものの,経験の少ない私が一体ここで何を話せばいいのかということを余り考えずに引き受けてしまったのですが,私はかなり不安定な職を転々と渡り歩いてきたという経験がありますので,そこの時点でどんな研究費だったらいいのかなど思ったことについて段階的にお話しさせていただけたらと思います。
 どの程度不安定だったのかということですけれども,16年間で10回ほどのポジションなり,場所なりを変えて,転々としてまいりました。最初は学振のPD,DC1を頂きました。これは非常に有り難くて,そこで博士課程を過ごしたのですが,その後,また学振のPDを頂いて,理科大のポスドクを少々した後,英国のMRC研究所というところでまたポスドクをさせていただいて,その後,MRCのフェローシップをもらって,そこで継続して,今度,海外学振に採択していただいて,またそこでポスドクを継続するという形でした。日本に戻ってきまして,理化学研究所の基礎科学特別研究員というので,理研のポスドクをさせていただき,JST ERATOのグループリーダーになって,その後は,京都大学医学部の助教になりまして,グループリーダーも兼任していました。その後は,千葉大学理学部でテニュアトラック准教授として5年間過ごして,現在,千葉大にそのまま残って,准教授になっております。今日はこのそれぞれについて,頂いた研究費や思ったことについて述べさせていただきたいと思います。
 まず「DC1が当たる!」,これは非常にうれしくて,年間240万円の生活費と研究費までついてくるということで,おかげでドクター2年生のときに結婚することができました。これは取れなくても結婚する予定でしたが,体裁良く結婚することができまして,向こうの御両親も喜んでくれ,きちんとした結婚式を開くことができました。
 特別研究員は若手支援の中ですごく重要だと思います。今,大学で10人ぐらいの学生を持っているのですが,なかなかドクターに進学しません。千葉大学だとみんな優秀な子ですけれども,千葉の地元の人たちで,大学院のドクターコースまでとなると,家計的にも厳しいという中でこういった研究費があると非常に助かります。もし可能ならこういう支援を拡充することが重要だと思います。
 もっと重要なことは本当に優秀な,この中で1番の学生にドクターコースに残ってもらいたいという気持ちはあるのですが,優秀な学生は就職活動すると本当にすぐに決まってしまう。人事の人はすばらしいなと思います。本当に優秀な学生にドクターコースに残っていただいてやってもらうにはどうしたらいいのか,これはよく分からないのですが,我々教員の責任は非常に深いなと思います。1年生のときに話を聞くと,みんな研究者になりたいと言います。でも,研究室に入ってくると,楽しそうにやっているのですが,だんだん就職すると言い出すので,将来,研究者に進んだときのスター研究者みたいなところにお金を配分して,優秀な人にはこういう明るい未来が待っているというようなイメージアップが重要ではないかと思っています。
 次に,私の研究を簡単に説明させていただけたらと思います。私がやっているのは,V型ATPaseという非常に大きな,膜に存在するたんぱく質で,これは骨との間の破骨細胞などに存在しまして,ATPのエネルギーを使って,プロトンを内部に取り込んで,内部の酸性で骨が分解するとか,がん細胞ですとPHコントロールになって,また正常細胞の間を酸性化して,がんが転移するとか,そういう病気に関係するたんぱく質です。
 私の興味としましては,これはバクテリアの由来のよく似たものですけれども,これのメカニズムが知りたいということです。ATPのエネルギーを使って,これは回転しますが,どうやって回転してイオンを輸送するのか,詳細なメカニズムが知りたいということで,ドクターコースでは酵素学的ないろいろなことをやったのですけれども,なかなかこの複雑なコースは分からない。でも,継続したい。ドクターを取った後は,この酵素のメカニズムを知るためにこの詳細な形が知りたい,立体構造を知りたいというような,そういったモチベーションに変わりました。できたら海外で研究したい。
 次にどうしたかというと,当時は日本学術振興会のPDは同じ研究室に残ることができました。最近は特に厳しくなって,同じ機関でも駄目だというふうになっていると思いますが,同じ研究室で応募して,PDを頂くことができました。こうすると何がいいか。もし海外に行きたいとなった場合に,ドクターの2年生のときに海外にアプライ先を探して,次のビジョンを決めるとなるとなかなか難しいのですが,このお金ですと,お金がとれた後に十分な時間を持って海外に行くことは――言い忘れましたが,日本学術振興会のPDだと,その3年間のうちの1.5年間を海外で過ごすことができるという特典が当時はありました。今もあるのでしょうか。まず同じ大学に行って,その間に相手先に連絡をとって,ビザを取るのに半年掛かっておりますので,自分の研究を続けつつやっていけるというので,非常に助かりました。そういう意味で,海外に出て,長期的なキャリア形成として,やりたいことを継続するためにも学振PDは同じ研究室で受け入れ可能に戻してもいいのではないのかと思っています。
 海外のどこに行こうかと思ったときに,自分のサラリーは確保されているので,基本的にこれは海外,どこでも受け入れてくれると思います。自分の給料は持って,研究テーマを持って,やらせてくださいと言った場合に,どこのラボでもいいので,一番有名なところに行こうと思いました。私がやっているV型ATPaseによく似たFタイプATPase,ATP合成酵素を研究していて,この親水的な部分の結晶構造を明らかにして,ノーベル賞を97年にとったジョン・ウォーカー教授のところに行きたいということで,メールを書いて,そこに行くことになりました。
 イギリスのMRC研究所というのはすごくて,この建物からノーベル賞が15名出たというような非常に有名な場所です。最初に,サンガーやワトソン・クリックといった人たちを引き入れて作ったところですけれども,たんぱく質の形をX線結晶構造解析する聖地でもあるような場所です。こういうところにポスドクで雇ってもらうというのは非常に困難でして,そういう意味でも自分で給料を持っていけるという状況にあるのは非常に有利で,基本的に受け入れてくれると思います。更に言えば,自分でやりたいテーマをそのまま持っていくことができ,自分のアイデアを継続することができるという意味で,学振PDを非常に有り難くやらせていただきました。
 そのたんぱく質のX線結晶構造解析のやり方は目的のたんぱく質を10ミリグラムとか大量にとり,結晶を作る。この良い結晶が作れればX線を当てて,構造を解く。大量にたんぱく質をとるところと結晶を作るというところが難しくなります。向こうに行きまして,V型ATPaseの結晶化を2年間,全複合体をやり続けました。結晶ポイントは得られたのですけれども,X線を当てると全然回折しなくて,なかなかうまくいかなかった。
 1.5年の学振PDも本当にあっと言う間に過ぎてしまいまして,どうしようかと思っていると,きちんと頑張っていれば,1回入り込んでしまえば大体延長はさせてくれます。ということで,MRCのポスドクフェローにさせていただいて,この研究を継続することができました。継続していると,違うことでうまくいくものもある感じで,全複合体の結晶,これはいまだに世界的にもF型ATPaseも,V型ATPaseもこの立体構造,全体が分かっていません。まだ難しかったのですが,ばらばらになって,ここの部分の結晶になりました。それで,構造が解けそうだということで,日本学術振興会の海外特別研究員に応募させていただいたら,2年間の追加の研究の時間を与えていただきました。
 何とか論文をまとめることができました。表紙にもなったので,日本では,もしかしたら引く手あまたでいろいろな場所で借りられる場所があるのではないかと思っていたのですが,全く甘くて,研究室の助教はもうそこにポスドクが何人も順番待ちをしている状態で,横から入り込むようなことはちょっと難しい。特に自分の研究を継続したいとなった場合に,戻れるポストは本当に非常に少ないと感じました。さきがけ専属研究員で戻ってくる場合がありますが,これも分野がいろいろあり,私の分野にマッチしているものがなかったので,応募するところがないという状況でした。どうしようかといろいろ考えていたところ,理研に基礎科学特別研究員制度というものがあって,年齢制限35歳,私が応募したのは35歳で,ぎりぎりのところで採っていただきました。ただ,採択率も20%ぐらいで非常に少ない。これが当たらなかったら,今,私はどうしているのか,見当もつかない状態ですが,運良く採っていただきました。
 給料も当時は月々50万円ぐらい,あったのではないかと思いますが研究費もつきます。そして,自分のやりたいことをやることができる。理化学研究所の中で,研究を続けていいという所属場所を探すということが必要ですけれども,そういったところを探せば,自分の研究費でやりたいことを継続できる。こういった若手支援にはまずドクターに行ってもらうことが重要で,ドクターを出た後,海外に出た後,そして,海外から戻ってくるときに良いシステムや枠組みがもう少しあると,海外にも行きやすくなるし,戻ってくるときも心配なく戻ってこられると思っています。
 私が所属していたのは理化学研究所の横山茂之先生の研究室で,当時,タンパク3000というプログラムが流れていて,残り2年という中で,非常に潤沢な形で,幸せな状況で研究ができました。私はこのとき35歳にして初めて研究者番号を頂いて,研究者でいるからには研究費獲得も非常に重要だと周りの方からいろいろ教えていただいて,若手研究Bに出し,採用していただいて,また更に研究することができました。この若手Bというお金を例えば大学の助教の人がもらうのだったら非常にいいと思います。教授からやりなさいと言われているころ,私は若手Bが当たったのでこれをやらなければいけないとなるので,非常にいいと思います。研究者はある研究の中でこれをするということが決まっているので,更にまた違うものをやるとなったときにはちょっと微妙なお金になるかもしれません。
 ただ,タンパク3000の中では,非常に大きなラボなので,横山先生は余り細かいことをおっしゃらずいろいろやらせてはいただいたきましたが,ほかのポスドクの方は,研究費を取ることはどうなのかといろいろ悩んでいるところがあったような気がします。実際そのような話を聞きました。
 またこれは最後に紹介させてもらいたいのですが,一つ提案があります。ポスドクのようなまだ不安定な人,期限付きの研究者を科研費等の枠組みとして,自分の給料をサポートできるような枠組みがあれば,例えば海外に行くときに自分の給料があればどこでも雇ってもらえると思いますので柔軟な給料に充てるようなものがあればいいのではないかと思います。問題もたくさんあると思いますが,そのように思ったことがよくあります。そういったことは研究費によるのでしょうが,この基礎科学特別研究員にも当たるところですし,さきがけにもそうですし,科研費の枠組みとして重要な予算になるのではないかと思っていました。特に何がいいというと,自分のアイデアで研究できるという点が非常に重要ではないかとよく感じていました。
 その後,私の人生に転機が訪れます。岩田想先生というイギリスつながりで前から仲良くさせていただいていたインペリアル大学の教授がERATOプロジェクトを当てました。ヒトの膜の受容体の構造,立体構造,X線構造を解くというプロジェクトで,すごくチャレンジングなテーマでした。これは2005年から始まったのですけど,このときにはヒトの膜受容体の構造は一つも明らかになっていない状況で,それを5年間で解くと言い放った。すごいなと思っていたのですが,そこの研究員2名,補助員1名のグループリーダーに来ないかという話を頂いた。ただ,私はV型ATPaseしか研究してなかったので,これもやりたいと言ったら,岩田先生は,V型ATPaseをやっているのは非常にいいけれども,もう少し多様を持っていろいろやっていくのが重要だということで,V型ATPaseの方もやっていいが,このグループを持ってくださいと言われ,研究するようになりました。
 V型ATPaseの研究は特定領域の公募に採択されて,そちらでも継続することができました。この特定研究,今で言う新学術研究は私にとって非常にプラスになりました。班会議では本当に寝ないぐらいお酒を飲んで,密に語り合う,違ったテーマを持っている人と語り合うというのが非常に有効で,ここで新しい共同研究がたくさん生まれました。非常にすばらしい制度だと感じました。
 インペリアル大学の教授の岩田先生が京都大学の医学部の教授にもなって,助教になったらどうかと,助教にしていただきました。千葉の方にマンションを購入した2か月後ぐらいに決まって,単身赴任が決定し,片道5時間,週末に往復する日々が続きました。つらかったのですが,研究としては,ターゲットタンパク研究にも採用していただいて,V型ATPaseの研究を継続することができました。ただ,毎週5時間は厳しいということで,首都圏の方,千葉に近い方で就職活動をし始めました。
 文科省の特別技術振興調整費という中で,若手研究者の自立的研究環境整備促進というプロジェクトが流れており,千葉大学もこれを取って,公募していました。私はこれに採用していただきました。ここでうたわれていたのが,独立できるということで,100平米の場所とスタートアップ資金1,000万円程度,毎年700万円ぐらいの研究費を頂くことができて,ここで独立した研究室を持つことができました。自分で持ってきたものというのは,本当に顕微鏡1個みたいな状況でして,もし,このシステムでなく研究室が立ち上がって,授業があり,いろいろな雑用があったら,これはもう研究をできるのかと思うのですが,これは雑用や授業を少しにしていただいて,順調に立ち上げることができました。やはりスタートアップ資金はどうしても必要であると思います。
 残念ながらこれが終わってしまい,大学がそれぞれ同等の支援をするということです。大学にもよるのかもしれないのですけれども,学部でこれを支援するのは難しい。やはり金銭面的に難しいと思います。そういう意味でこのサポートは若手を独立させる上で重要なサポートだと思います。燃え尽き症候群と言われるかもしれないのですが,燃え尽きているというわけではなくて,ほとんど消化に近いような状態で,何もできなくて,授業あり,何ありという状況になってしまう場合があると思いますので,こういったところは一つ重要なサポートなのかと思います。それをしていただいたので,私の場合は非常に助かりました。
 こういう支援があったらいいと思うのは,研究に集中できるような,共通機器も充実した研究環境で,若手が集まって研究できるような状況があるといいと非常に感じました。
 今,私の研究室がやっているテーマは,岩田先生の流れもあって,ERATOグループリーダーでやってきたこと,ターゲットタンパク研究の分担者としてやってきたことはヒトの膜受容体の構造を解く方法で,この構造を解くために抗体が使える。結晶化を促進するような抗体の作製法などをいろいろ作ってきて,構造解析を行ってきました。この研究は今,8年ぐらい継続していて,大きなお金もあったので,いろいろ構造を解くことができて,このGPCR,ヒトの受容体のアデノシン受容体の立体構造は理研の城先生との共同研究ですが,バクテリア由来の一酸化窒素,抗体を使って構造を解くことや,これはまだパブリッシュしていないのですが,BandIIIというイオン輸送体,またこれも抗体を使って,その立体構造を解くことができていますし,やはり抗体は使えるということが長い研究の中で,いろいろな成果として出すことができました。
 あともう一つ,ずっとやってきたV型ATPaseですが,これも基盤研究Bにも採用していただき,新学術領域は私の転機になっている新学術領域,これは水和とATPというものですが,私は実験屋で,理論家の先生や計算の先生もいて,理論の先生が何を言っているのか最初は全然分からなかったのですが,つながるようなところもあり,新たな展開が発展できたと思います。私はその理論の先生と今,一緒にGPCRやこれを安定化する変異体を理論的に予測して,計算的に計算して,実験的に構造を解こうという新たな研究展開を今考えています。V型ATPaseで始まった共同研究ですが,こちら側につながって,基礎研究がこちらにつながっているというような状況を今迎えています。
 V型ATPaseの方は,今,さきがけにも採択していただいて,ずっと研究が継続できています。最初は,この全複合体を解きたいというところから始まったのですが,今のところまだ成功はしていませんが,この上側の部分の結晶構造を解いて,詳細に解いていくことによって,それがどうやってATPのエネルギーを使って回転しているのか,まだ完全ではないのですが,分かるようになってきましたし,膜の中でこの回転がどうやって輸送につながるのかについても,モデルを立てるといった状況にまでなっています。
 今はまたさきがけの支援を受けて,この全複合体が解けるまで挑戦したいと思っていますが,更にこれは病気に絡む,つまり,ヒトのV型ATPaseの研究をする価値があるということで,ヒトのV型ATPaseについても研究をして,バクテリアで分かってきたこととヒトで分かってきたことの違いを見ることによって,本当の意味の創薬につながるのではないか,出口に近いところに持っていけたらと思っています。
 去年,42歳にして独立して,准教授として部屋を持つことができました。そうすると,また授業も増え,いろいろなものが倍増した状態になっていますが,一旦立ち上がっているので何とかやっていけます。これが何もないところから顕微鏡1個でこの状況が来たら,どうなっていたのだろうということですけれども,今は何とかやれています。そして,今までやってきた基礎研究のベースの基に理論の先生と研究するようなことを立ち上げて,やってみます。
 簡単に紹介しますと,ヒトの創薬に関係するたんぱく質は相当あり,何千もあると思うのですけれども,ヒトの膜たんぱく質の構造,膜たんぱく質の構造,膜たんぱく質の創薬ターゲットとしては70%ぐらいあり,この立体構造の分かった数はまだ30個程度です。でも,立体構造が分かれば,その立体構造に基づいた創薬が可能だと思うので,ブレークスルーは,この立体構造をどんどん解くような,ハイスループット的に行けるようなコンソーシアムというか,研究団体が必要なのではないかと思っています。理論の先生を入れたり,超大御所の岩田先生とか,濡木先生にも参画いただいて,それぞれの技術を全部出してもらって,そして,公募班も入れて,全体大きな世界最大級のボトムアップ型,いろいろなところで研究して,アイデアを持って,やっていけるようなオールジャパン体制,連携体制を作っていきたい。そういったものを頑張っていきたいと思います。
 言いたかったことは,基礎研究をずっとやっていて,それをベースに新学術領域いろいろな基礎研究をやってきた人が融合して新たなところに展開できるというのは非常に良いシステムだということです。非常にすばらしいシステムだと私は感じています。
 以上,話してきたことを簡単にまとめさせていただくと,若手支援はキャリア形成と同義としますが,先ほども話しましたが,ポスドクとして雇用されればボスの研究費なのでボスのアイデアで研究することになる。当然結果はやはりボスのものになってしまう形です。なので,キャリア形成というのはボスにかなり依存してしまう。そういった研究をして,やる気も,特に時間がたってしまうというのは研究者としても悲しいことだと思うので,若手研究費でポスドクのような立場の人に与えられる研究費があるのならば,給料としてサポートできるようなシステムがいいのではないかと思っています。
 期間を3年から5年で,自分のアイデアを立案し,場所はどこか受入れ研究室を見つける。それは海外でも日本でもいいし,同じ研究室でもいい,また,ポイントとしては企業との架け橋がなかなか見付けられないと思うので,企業にも入れていただいたり,日本に戻ってくるときに,これを使えるなど。日本で使えるようにしなくてはいけないのかもしれないですが,海外にも行けるし,海外から出して,日本にも戻ってこられて,やりたいことが継続できる。薄給だとしても,これはお金の問題ではないと思います。研究者にとって最も重要なことは,自分のやりたい研究ができるということです。自分のやりたい研究ができない研究者を何人も見ているので,そういう人を救えるような研究費があればいいとよく感じていました。
 若手研究者が集結して,自分の研究に専念できるような研究環境があればいいと思います。各大学に行ってしまうと共通機器がなかったり,偉い先生がそれぞれ御自分で機械を持っているので,借りに行くのも相当難しい。貸してくれますが,気を使うということがあるので,共通機器がたくさんそろった環境がどこかにあって,成果が出ればそこを出ていってもらうようなシステムがあるといいと思っています。
 基盤研究費枠は本当にすばらしいと思うのですが,基盤研究SやAは怖くて出しにくいと感じます。落ちたら研究室を成り立たせるのにかなり厳しくなってしまうので,基盤SやAの不採用者の上位を基盤格下げで,何とか採択してくれたら頑張って出せる。また,重複して二つ出して,どちらか通れば,どちらかを辞退するというシステムがあるといいと感じました。
 ただ,これはそうすると,審査している先生はただでさえ相当大変なのに,倍増になってしまったらどうなるのかとは思うのですが,こうなるといいと思いました。
 基盤研究Bを頂いたときに,補助員を雇う計画をしていましたが,大幅減額になりました。審査員に「君の研究はそこまでではないので減額する」と言われるのだったら,そうかと思って受け入れるのですが,一律的に下げているのではないかと思う節もあるように思います。そうすると,人を雇おうと思ったときに,2割削減されたら雇えない状況になります。この機械があるからできるといったときに,減額されてその機械が買えない状況になってしまうとつらい。つまり,我々も一応考えてお金を申請しているので,減額されてしまうと計画した研究の遂行がなかなか難しいと思ったことがあります。採択率は全体として下がってしまうかもしれませんが,そちら側に回してもらうのも一つかと感じました。
 イノベーションや社会還元成果というのは,本当に長期にわたる基礎研究の積み重ねが非常に重要であり,更に融合することも必要ですけれども,そういう意味で,基盤研究が担う役割は非常に大きいと思います。削減しないでほしい,むしろ増やしてほしいと勝手に思っています。
 新学術領域は私が大好きですけれども,異分野の人たちが集まって,いろいろ語り合うことによってイノベーションにつながるという意味で,非常にすばらしい。CRESTやさきがけは,領域代表がいて,トップダウン的に行くのですけれども,新学術領域のアイデアは,それぞれが皆,話し合ったところでボトムアップ的に生まれるような,また違った意味で重要なものなので,もっと採択数を増やしてほしいと個人的に思います。
 では,どこを削減するかということですが,ないと思います。特別推進研究に関しても,これはトップダウン的に大きい研究費ですけれども,そういうものもやはり非常に重要だと思います。
 研究費を増やしてほしいということです。ただ,今まで生命系はいろいろお金を出してもらっていて,社会に還元できるようなところはなかなか結びつかなかったと思いますが,私はこれからではないかと思います。みんなそれぞれ研究して,いろいろ結果も出てきて,出していただいた研究費がもう少し社会に還元できるようなそんな時代になっていくのではないかと思うので,何とか増やしていただけたらと思います。私の言ったことがほんの少しでも参考になれば幸いです。御清聴をありがとうございました。

【佐藤部会長】
 村田先生,どうもありがとうございました。現場の声を聞かせていただいて,またすばらしい提言も頂きまして,ありがとうございました。質問,御意見につきましては,後ほどの意見交換の時間にお願いすることになっております。
 それでは,続いて,東京大学理学研究科教授でいらっしゃいます塩見先生から御説明をお願いしたいと思います。
 塩見先生は,ペンシルバニア大学で研究補佐員をされながら,アメリカで研究を続けてこられました。帰国後は,徳島大学,慶應義塾大学にも勤められ,2009年には猿橋賞を受賞されるなど,優れた研究実績を持っておられる方でございます。これまでの多様な御経験に加えて,若手研究者の視点からのお話もお願いできるのではないかと思っております。
 塩見先生,どうぞよろしくお願いいたします。

【塩見東京大学教授】
 東京大学の塩見と申します。どうぞよろしくお願いいたします。まずは,今日このような機会を頂きまして,どうもありがとうございます。
 「研究費の制度改善に関して」というタイトルでお話をしてくださいということで依頼を頂きまして,引き受けさせていただきました。そのメールにありました要望ですけれども,3点ありまして,大学を取り巻く状況を踏まえた研究費の役割,それから,女性研究者支援としての研究費の在り方,そして,最後に,研究費への提言というのをお願いしますということで,この流れで今日はお話をさせていただきたいと思います。
 先ほど御紹介ありましたように,私はアメリカに1990年から1999年,9年間おりました。それは研究員としてであり,PIではありませんでしたけれども,その後,徳島大学に移りまして,ゲノム機能研究センターというところで8年間研究をいたしました。その後,慶應の医学部に4年間おりまして,2年前に東大の理学部に移りました。
 経緯からお話をさせていただきたいと思います。実際,教授として独立したのが2年前ということで,比較的,月日としては浅いのですけれども,その辺りのことを中心にお話をさせていただきたいと思います。
 まず大学を取り巻く状況を踏まえた研究費の役割ですけれども,具体的に八つの問題点を挙げさせていただきました。これは私が勝手に選んだもので,もちろんそれ以外にもあるかもしれませんし,余分なものもあるかもしれませんけれども,とりあえず8項目挙げてみました。それに対しての解決策ですね。それを案として挙げさせていただきたいと思います。
 まず第1,状況1といたしまして,先ほど村田先生のお話でもありましたけれども,ラボのスタートアップ,又はセットアップ費用がないということです。私は自分自身が2年前に体験いたしましたので,本当にそうであると言えます。これは深刻な状況であると考えております。私はもう若手ではありませんけれども,若手だけではない問題です。どういうことかといいますと,私は慶應で准教授でおりましたけれども,キャリアアップをしたいということで,教授枠があれば,それに応募するわけです。幸いにも採用に至りまして,実際慶應から東大に引っ越す,あるいは徳島から慶應という引っ越しも私は体験いたしましたけれども,それをします。うきうきとして,良いポジションも得られて,夢を多く持って引っ越しをするわけですけれども,行ってみると,思いもよらないような困難が待っているわけです。
 周りの先生方を見ていると,これは近隣であった例ですけれども,ある教授が自分のラボをセットアップすることになりました。前任の先生が退いたその研究室に入ってみると,そこはマウス室であった。マウスはいません。棚もありません。空っぽになっていますが,空気をきれいにするためのダクトが天井に大きなものが二つ残ったままでした。それは前任の先生がそのまま置いていかれたのですが,自分はそこに大きな機械を入れたいので,それは邪魔であり,しかも,そのダクトが壊れているというふうにおっしゃっていていました。では,これは誰が処理をしなければならないかと私は聞かれたのですけれども,分かりませんというふうに答えました。私自身のときも問題点にありますけれども,セットアップにかなり費用が要りましたので,大学の方に御相談させていただいたときもありますが,大学はサポートはないという一言でした。それで,私の場合は,どうしたかというと,少し借金をさせていただいて,今もそれを抱えているのですけれども,大学の方からお金を借りまして,セットアップをしたわけです。
 研究費の役割といたしましては,今ないのは独立のラボ,PIになるときの支援です。それは若手だけではなくて,テニュアトラックだけではなくて,人々は動きます。それはなぜかというと,研究者の流動性を推奨するということがこの国内にはあります。文科省にもあると思います。しかしながら,こういう状況があるということで,その独立する人たちのセットアップを支援するような費用を,一律100%出す必要はありませんので,必要だという方に研究費として出していただけたらよろしいのではないかと思います。
 次,状況2です。研究費には継続性がないということですけれども,背景といたしましては,ポスドクをたくさん雇用とするということがあります。ポスドク1万人という計画があったかと思いますけれども,私はポスドク問題にも関わっておりまして,今現在,17,000人いるという数字を得ております。
 私はその問題を今ここで話したいのではなくて,例えば私が研究費を頂くといたします。採択されてポスドクを雇って研究を始めようとします。3年後,5年後にその研究費が終わるわけですけれども,次のアプライはするのですけれども,それが決まるのがちょうど年度が終わって,それを超してからになります。そうしますと,ポスドクを,本当に継続して雇えるか,雇えないかということが大きな問題になります。年度をまたいでしまうと,私はもうあなたを雇用することができませんので,どこかほかを探してくださいということになります。それが問題点だと思います。痛感しております。ということで,研究費の役割といたしましては,継続性をきちんと保全していただくような形式を作っていただけないかと思います。
 例えば研究費が今年度で終わるのであれば,来年度にその次の結果が分かるのではなくて,せめてその最終年度の秋11月,12月あたりには決定していると自分が雇っているポスドクを続けて雇用することができないかということを判断できます。またその人ももし私が雇用できないのであれば,次を探すときに極めて探しやすいと思いますので,そういう点を考えていただければと思います。
 続きまして,状況3ですけれども,先ほどの村田先生のお話にもありました。ここには具体的に書いてしまったのですけれども,例えば基盤研究Aで出しましたが,惜しいところで次点になって不採択となりました。その下は出していません。重複がありますので,出せないのですけれども,そうすると,自分は研究費がゼロになってしまう。しかしながら,隣には基盤研究Bで採択された方がいらっしゃって,比較するわけではないのですけれども,まだ何となくその人より自分の方が良さそうにも思うのだけれども,何で自分がゼロで彼は基盤Bをもらって研究ができるのかというようなことも実際起きております。
 それが現実問題ですけれども,問題点は研究費のランク間の壁を乗り越えられないということです。重複もありますし,一旦AならもうAであると。次点だからBにしてほしいというような制度がありません。ということで,これも一つ,こういうものがあったらいいと思うことですけれども,一つ下のランクでの例えば再審査をする。あるいは始めから重複を認めていただく。あるいは申請書が一旦は駄目だったことはそれでいいと思います。しかしながら,そこでリバイズをして,こういうところをもう少しこう書き換えると良くなるというような指摘があって,改訂版を出して再審査していただくというようなものがあれば,研究者もまた頑張ると思います。
 私が聞いた話ですけれども,例えばアメリカのNIHには,RO1などいろいろありますけれども,リバイズをさせるという段階がありますので,日本の制度の中に取り入れるのは無理ではないと考えます。ただ,その審査自体がかなり煩雑になるというのは,仕方がないのですけれども,どうにかこういう制度も立ち上げていただければよろしいのではないかと思います。
 状況4ですけれども,かなりナイーブなことを書いてしまいましたがちょうど私と同じぐらいの年齢の中堅どころの研究者と話しているとよく耳にすることなので,ここであえてちょうど中盤ぐらいに出させていただきますけれども,大型研究費というのはどうも,生命系は特にというふうに聞いておりますけれども,高齢の研究者の方々へ行ってしまうような傾向があるのではないかということです。それはどうしてかというと,年齢の高い方はどうしても,業績は減りませんので,年齢の分だけ増えていきます。60代の方と例えば50代の方では10歳違うとどう見ても業績はその高齢の方の方が上です。それに立ち向かいなさいと言われればそうかもしれませんけれども,なかなか難しい面もあります。
 ということで,それが問題点になります。大変申し訳ありませんがあえてここで言わせていただきますけれども,例えば高齢の方に研究をやめろとは,もちろん言いませんので,例えばそういう枠を作っていただいて,年間数千万円で一人ポスドクを雇って,一人テクニシャンを雇って,悠々自適にやっていけるぐらいの額を設定していただいて,それでやっていただけたなら,本当に頑張りどころの40代,50代の研究者というものに,例えば特推,基盤Sクラスの採択数を上げていただくと,もっと頑張ると思います。それは国のサイエンスにとっていい方向へ向かうのではないかと考えております。
 先ほど村田先生のお話でERATOの話が出ておりました。もちろんすばらしい研究をなさっている方もいるのですけれども,今回ERATOの審査にも関わらせていただき,ちょうど終わったところですが,いろいろ見ておりますと,その5年間,5.5年間で,最大がたしか12億でしたか。かなり多額です。それだけの費用を必要とする研究もありますけれども,実際本当にそれだけのお金を必要とする研究がどれぐらいあるかということを考えたときに,もしかしたら余りないのではないかという意見があります。私個人の意見だけではありません。こういった本当に大型なものは,かなり極端かとも思われますが,いっそのことなくしてしまって,それの少し下で採択数を増やしていただけるとよろしいのではないかと思います。あまり,極端なことを申しましても現実味がありませんので,ここではERATOの見直し,を提案させていただきます。
 もう一つは,小さ過ぎる研究費です。例えばそれは幾らかと言われても言い難いところがあるのですけれども,小さ過ぎる研究費も,複数取らないとやっていけません。複数取るとどうなるかというと,テーマを変えるように言われますので,テーマを変える。あるいはそれぞれ使い方が違う。いろいろな,研究とはまた違ったところのエネルギーを必要といたします。そういうことに気を取られていると,問題点に書きましたけれども,なかなか研究に集中できないということがありますので,いっそのこと大き過ぎるものも小さ過ぎるものも廃止してしまって,先ほど申しましたように,中間ですね。かなり大きく幅を取ったのですけど,まだこれよりも狭めることはできると思いますけれども,年間1億が最大でいいと思います。それよりも少なくてもいいかもしれません。下限は,どうでしょう,分からないですけれど,若手でスタートアップというときは500万ぐらいから始めてもいいと思います。それぐらいの範囲で,A,B,C,Dぐらいのクラス分けで,壁も取り払ってしまうような仕組みになっていってもいいのではないかと思います。
 それから,状況5ですけれども,運営費交付金がほとんどないに等しいという問題があります。これの背景は私にはよく分かりません。独法化がありましたので,そんなこともあるかと思って,クエスチョンマークを付けさせていただいたので,もし間違っていたら済みません。私が今回調べました。学部生の卒研生が,ラボに4月に入ってまいりますけれども,年間で,交付金として,運営費として頂けるのが一人頭1万円強だと聞いています。修士が4万円強,それから,博士が6万円程度ということで,卒研生が今年5人入ってまいりました。修士が今,M1に6人います。M2が4人いて,計15人います。彼らも研究をするので,月5万ずつぐらいは消耗品を使います。ざっと計算しますと,3学年15人ですけれども,それだけで年間900万ぐらいの消耗品が要ります。では,それだけのお金がおりてくるかというと,おりてきておりません。実際,年間で,今申し上げただけのものしか出てきません。
 では,大学の教官というものは何をしなければならないのかというと,研究と教育です。卒研生を持つとそれは研究になるかというと,余り研究にはつながりません。どちらかというと,比重は教育の方です。では,その教育費は国からあってもいいと思うのですけれども,それがない状態です。どうなるかというと,ちょっと言葉は悪いのですが,私が稼いできた研究費で彼らの教育をするという今の状況に陥っていると考えております。
 それから,本当に細かいことを申します。この間,ドアが壊れまして,修理をしたら,それも研究費から払うように事務から言われまして,ちょっと食ってかかったのですけども,それはどうしても駄目だと言われました。それから,今年度から私は基幹研究室を持たせていただいているのですけれども,附置研ではないにもかかわらず,東大はスペースチャージを取るということを決定して,今年から取られております。運営費交付金からオートマティカルに落とされて,残りが私の手元に入ってくるというふうになっております。そういう状況を是非いま一度知っていただいて,これは科研費などの研究費の役割ではないのですけれども,文科省の一つの役割として,いま一度考えていただけるとよろしいのではないかと提案させていただきます。
 それから,状況6ですけれども,私も夫婦で研究をしておりますが,周りでも夫婦で,研究者というのを何組か見ておりますけれども,遠距離で研究をしている方が非常に多い。割合として多いと思います。背景といたしましては,サイエンスだけではなくて,国自体が女性をもっと登用あるいは起用することを推進しております。では,実際に女性が研究しやすい仕組みがあるかというと,まだまだそういうふうにはなっておりません。例えば私の知り合いですけれども,夫は鹿児島,妻はつくばで助教をされている方で,子供も欲しいのですけれども,この距離では安定した家庭を持てないという方も知っております。
 では,一緒に住みたいとなると,男性はなかなか動きません。女性がどうしても動くことになります。動くためにどうなるかというと,ランクを下げることになります。これだけのことができるのに,例えばテクニシャンになるというような問題点が実際あります。では,それが嫌だとどうなるかというと,別居生活でDINKsということになって,子供をつくらない。そうすると,国が抱えている少子化問題にも関わってくるかと思います。
 ということで,double appointmentsも一つの案ですけれども,もしかしたら始まっているかもしれません。特に地方は,次に出てくるのですけれども,過疎化が大きな問題で上がっておりますので,例えば地方大学はうちに来たらポストが二つあると。それは等価でなくていいと思います私の知り合いにもカルテックに最近ラボを持った男性がいますけれども,そこでは彼の奥さんもPIとしてのポジションで,少し小さめのラボですけど,彼女もラボを持つことができております。実際,世の中を見るとそういうことも起きておりますので,良い案を私たちは自分の国へ投入できるのではないか考えます。
 問題点7,最後ですけれども,「地方は更に閑散と」ということで,私は徳島におりましたので,状況をよく知っております。では,これがどうして起こるかですけれども,やはりサイエンスは今,自分自身でできなくて,共同研究をしなければならない。学際化が推奨されております。そうすると,都市はいろいろな方がいるので,自分も都市へ行って,大きいところへ行って,いろいろな人と一緒に研究したいというのがあるのですけれども,どんどん進んでいきますと,本当に地方には誰も行かなくなるというふうになります。現実問題,募集をしても,応募はありますが,欲しい人材がいないということです。例えば自分が欲しい人よりも高齢の人しかいない,余り論文を持っていらっしゃらない人しかいないなど,そういう人しかアプライしてこないということがあって,実際問題,ポジションが埋まらない。なかなか埋まらなくて,空(あ)いて数年たっているということもあると聞いております。
 では,何かというと,地方に魅力がないからだとも思いますけれども,一つの案といたしましては,先ほどのdouble appointmentsもありました。私はRNAというものを研究対象としておりますけれども,アメリカのUMassというところがあって,これは州立の大学ですけれども,医学部,RNAi研究で,クレイグ・メローという方がノーベル賞を2006年におとりになって,彼がラボを持っているところですけれども,今どういう動きがあるかといいますと,少し若手,40代ぐらいのRNA研究をしている人たちを,その研究所,医学部で今どんどんリクルートしています。UMassはもともと有名なところですけれども,そうであっても,ここに来るとRNA研究,一流の方がたくさんいて,自分もできるという特徴を付けています。ここだったら,例えば転写というのができる,ここだったらがんが強いというような,地方に特徴を持たせるというのも一つのやり方かと考えております。それから,もう一つ,報賞性ですけれども,これを持たせるというのは動きが既にあると思います。
 続きまして,女性研究者支援としての研究費の在り方ですけれども,私が女性ということで御要望があったのかと思います。資料は文科省のホームページより抜粋してまいりました。こういう取組がたくさんあるということも分かっておりますけれども,まだまだ女性研究者がある位置,フィールド,ポジションは良いものではない。満足いくものではないということは皆さんも認識していらっしゃると思います。ここには文章化されているのですけれども,平成27年度までに自然科学系で,全体で30%にしましょうというような目標はあるのですけれども,実際問題,平成26年度が始まりましたけれども,十数%しかないというのが現実問題です。
 私が今,所属しております東大の大学院理学系研究科ですけれども,女性教授が何人いるかというと,3人です。では,母集団はどうかというと,87名です。単純に計算しますと,3.4%。しかも,この3人のうちお一人は60歳代で,あと数年で御退官されるので,その方が出ていかれますと2%ということになってしまいます。これは本当に危機的な状況であると考えておりますので,何とか女性にもっと入ってきてほしいと思いますけれども,何が問題かというと,やはり母集団がないということです。人がいないことにはどれだけ上げようと思っても上げることができないので,その母集団を広くするのが大きな課題ではないかと思います。
 例えば東大では,女性研究者養成システムか改革加速がありまして,私もサポートしていただいたのですけれども,こういうものは本当によろしいかと思います。それから,これは東大の広報のページから持ってきましたけれども,次世代育成支援対策行動計画の策定についてということで,平成24年7月の26日に出ておりますけれども,これは平成26年の7月31日までの2年間という期間限定です。これがどうしてか分からないですが,いろいろ目標がありまして,良いことが書いてありますので,実際こういうものが現実化していくとよろしいかと思います。
 RPDというものがあります。これは特別研究員ですけれども,Rというのは何かというと,リスタートということで,例えば出産をいたしました,育児をいたしましたということで,少しお休みをもらった人たちが戻ることができるPDというシステムです。男性もどうももらえるようですけれども,女性にとってかなりよろしいのではないかと思います。
 これは私ども所属しております日本分子生物学会が2006年に,女性をもっと使っていかなければならないということで,政府に提言したことを基に,この制度が成り立ったというふうに聞いております。これは実際,分子生物学会の中で,これまで37名だったか,39名だったかの女性がこのRPDのお世話になっているわけですけれども,彼女たちのアンケートをとりまして,去年の年会でポストを作りまして,キャリアパス委員会というものを行っております。私はこのキャリアパス委員会の委員長をしております関係で,このポスターを作らせていただいて,今日,皆様にもお見せしているわけですけれども,とても良いということが書かれております。こういうものを是非続けて,どんどん女性の研究者が研究をしやすいような環境というのを作っていってほしいと思います。
 このアンケートに答えていただけたのは,今まで三十何名あったわけですが,そのうちの17名ということで,少し声が小さいというのもありますが,今後,今の職を続けたいという大きな希望もあります。それから,ほかの職に就きたいという希望もあります。ということで,彼女たちが今思っていることを書き出したのが,御手元にありますので,御時間があるときに読んでいただけたら,もっと良い制度ができていくのではないかと考えております。
 それから,女性枠に関して一言ということで,これはあえてスライドを作りませんでしたが,いろいろな大学,テニュアトラックでもあるかもしれません。大学あるいは研究機関における女性だけに特化したようなポジション枠が巷(ちまた)ではあります。これに関してよくどう思われますかという質問を受けるのですけれども,私自身はちょっとネガティブなので,今は見直す時期にあるのではないかと思っております。女性の研究員,あるいは大学のスタッフを増やすという意味で,女性枠というのはよろしいかと思いますけれども,どうも周りを見ていると,その枠をきちんとうまく利用できている女性が少ないのではないかというふうに実は感じております。
 この間も男女共同参画の会議がありまして,そういうことを発言しましたけれど,特に女性には驚かれましたけれども,実際問題,彼女たちは,私から見ておりますと,ずっと不満があるようです。こんなこともある,こんないいものもある,どうぞ利用してくださいと言っても,どうもずっと不満が残るということを感じております。そういうポストがあるのはいいことですけれども,いま一度,もっとより良い制度というものを考えていく時点に来ているのではないかと考えております。
 それから,研究費の提言ですけれども,今,お話しさせていただいた問題点のほかにも幾つかあると思います。そういうことを踏まえて,いろいろ改革をしていってくださればというのが私の提言であります。
 最後に二つスライドを用意いたしました。サイエンスとは何であるかですけれども,大きなお金を使って,税金を使って,私たちはそれをさせていただいているわけですけれども,最終的にあるのは人,あるいは国民を幸福にするためだというふうに思います。サイエンスといっても様々あるわけですけれども,分野も様々で,基礎研究あるいは応用研究,出口志向というものがあります。何となく見ておりますと,すぐ即決するような出口志向がもてはやされる傾向があると考えられますけれども,基礎研究は本当に大事だと昨今も感じております。
 それはどうしてかといいますと,スライドに写真を載せたのですが,例えば家を建てるときに基礎がしっかりしていないと早い時期で崩壊してしまいます。やはりその基礎研究,基礎のやり方をきちんと学ぶ人たちを育てていかないと,幾ら出口志向,出口志向と言っても,何となく格好はいいように思われますけれども,どこかで崩れるということが起きてくると思います。ということで,その重要性も私は分かっているつもりではありますけれども,やはり基礎研究も大事にしていくということをまたみんなで認識する時期なのではないかと思います。
 国全体の研究費を有効に使うことが大前提であるわけですけれども,無駄がなく使われているかどうかと聞かれますと,アンサーは「Yes or No」だと思います。なかなか一概には言えないのですけれども,無駄というものは少ない方がいいわけで,でも,研究というものはもともと無駄というものが必要なものだと思います。なぜならば,未知のことを私たちは,未知のやり方で明らかにしていくということをしますので,きちんと道が決まっているわけではありませんので,やはり無駄ということは必要である。ただし,必要な無駄と不必要な無駄というものがあると思います。
 今,理研問題がありますけれども,人々の能力あるいは研究あるいは道徳をいま一度見直して,本当に基礎的な,道徳的な知識を持った,そういう知性を持った人をきちんと育て上げていくということがやはり不必要な無駄をなくす手立てになるのではないかと考えております。以上です。どうもありがとうございました。

【佐藤部会長】
 塩見先生,どうもありがとうございました。具体的な提言もたくさんありまして,大変役に立つお話を頂きました。ありがとうございます。
 それでは,今度は,北海道大学遺伝子病制御研究所教授でいらっしゃいます藤田先生からお願いいたします。
 藤田先生は,ドイツで5年間ポスドクをされた後,イギリスの研究所でグループリーダーをなさっており,海外での研究経験を積んでおられます。海外での研究室運営の御経験を踏まえて,特に海外の日本人研究者への支援,国際研究ネットワークの形成などについてお話しいただけるのではないかと思っております。
 藤田先生,どうぞよろしくお願いいたします。

【藤田北海道大学教授】
 御紹介あずかりました藤田です。よろしくお願いします。
 非常に若輩者でありますけれども,私の海外での研究生活経験を踏まえて,日本人研究者の国際化を促進するためにどのように科研費をモディファイするべきであるかということについて,幾つか提言させていただきたいと思います。
 まず,私の海外研究歴について,簡単に述べさせていただきます。大学院を取得した後,ベルリンのMax-Delbruck-Centerというところに5年間半,ポスドクとして過ごしました。その後,日本に帰りたかったのですけれど,良い職がなく,やむなくというか,幸いにもロンドンのMRC,LMCB研究所,先ほど村田先生のお話にあったMRCはLMBだと思うのですけれども,LMCBではセル・バイオロジーの研究所,これはユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの敷地内にありますが,そこでグループリーダーとして自分の研究室を8年半主催してきました。
 最初はテニュアトラックポジションでしたが,2009年にテニュアを取得しました。テニュアを取得したときの条件はかなり良くて,年間の研究費は,人件費を入れて,大体5,500万から6,000万ぐらいもらえるという非常に良い条件ではあったのですけれども,14年間ほど海外で生活しているということがありまして,妻が,ちょっと堪忍してと強く帰国を望んだこともあり,2010年から北海道大学の遺伝子病制御研究所に教授になり,1年間北大とMRCを兼任した後,2011年から本格的に北大に移って,今に至っております。
 このように海外で結構長く生活していて,その目線で日本を見たとき,あるいは海外から日本に帰ってきて感じたことは,やはり日本人研究者がもう少し国際化を達成した方がいいのではないかという必要性です。基本的に日本は地政学的にアメリカからもヨーロッパからもかなり遠いということもあり,海外の研究者と共同研究を行うということもスムーズにはいかないという問題もあります。それから,それだけでなく,例えばシャイな性格であるとか,英語力が非常に拙いということも国際化を妨げている点であります。
 日本人のシャイさというのは,私はシャイな性格では全くないのですけれども,かなりシャイな性格の方が多く,そのために一番問題となるのは外国人の研究者とまず知り合いになって,そこで対等なコミュニケーションを図るという能力が非常に劣っていることです。特に苦手なのが学会に行って,全然知らない人と仲良くなって,そこで話すということで,これはかなり苦手としています。例えば海外の学会に行って,夜の食事のテーブルで横に人が座ったときに,「How are you doing?」としゃべり掛けて仲良くなっていくということが非常に苦手です。ですから,海外の学会で日にちが過ぎていくと,だんだん日本人テーブルができてしまうという悲しい光景を目にすることが多々あります。
 また,日本人は,何が原因なのかよく分からないのですが,英語がすごく下手ということが非常に問題でして,例えば海外の学会で,原稿を棒読みというのもありますし,質疑応答に答えられない。結構良いトークをしているのに,外国人が何かわけの分からない批判的なこと,全然つじつまの合わない批判を言ってきても,それに対応できなくて,しどろもどろになってしまったり,又は全く聞き取れなくて,「Let's talk later」などと言ってごまかしたりしている非常に悲しい光景も結構見ることができます。
 また最近,国際化をしようということで,各大学で英語の講義が結構盛んに行われているのですけれども,残念ながら90分の英語の講義を,きちんと英語でできる教授はそんなに数が多くない。特に地方に行くといなくて,北大も少しそういうところがありますが,英語が下手な教授が英語をよく分からない学生相手に講義をしているという,「一体これは何なんだ」という場面が結構多く見られることがあります。
 あともう一つ,これも結構悲しいと思うのですけれども,海外から留学生がラボに来てもラボミーティングやジャーナルクラブは日本語でしているというラボも結構多く見られます。これでは誰が日本に来るのかという感じがあります。これはやはり教授あるいはスタッフの英語レベルが低いということによると思います。
 また,近年,大学や研究所が海外の大学,あるいは研究所と共同研究拠点の形成であるとか,大学生,あるいは大学院生の育成プログラムを盛んに行っていますけれども,これも全く知り合いがいない研究所と契約を交わすことは非常に難しく,向こうが相手にしてくれないので,何らかの研究者とのネットワーキング作りが非常に大きな威力を発揮します。このように日本人研究者は特に若いときに国際化をより進めていく必要性が絶対にあると私は考えます。
 そこで,日本人を海外に送り,海外で育て,呼び戻すという,これを私はサケ(鮭)型研究者育成計画というふうに名付けました。基本的には,日本の国から若手研究者を海外にとりあえず送り,そして,そこで育てるのをサポートし,育った鮭を呼び戻す。育った鮭は日本で英語教育や海外交流拠点形成など,そのほか教育などによって国際化を進め,そこで育った学生がまた海外で行くという,こういう巡回型の育成計画を今日提唱させていただきます。
 まず,「日本人研究者を海外へ送る」ですけれども,二つほどお話しさせていただきます。まず一つ,博士課程の大学院生あるいはポスドクを海外へ送る制度を整備する。もう一つは,ポスドクとして海外で研究生活をするメリットを積極的に作る必要性を痛感します。これについて述べさせていただきます。
 まず誰を送るかということですけれども,学部学生を送ってももちろんいいですが,基本的には日本のサイエンスを将来背負う可能性の高い博士課程の大学院生及びポスドクを海外へ送ることを推奨していきたいと思います。
 私は2011年に北大に赴任してからこの3年間で,ロンドンの共同研究者の下に,私の修士の学生と博士の学生の合計3人を1か月ごとに共同研究で送りました。学生が帰ってきたときには非常に興奮しており,非常に目がキラキラして,サイエンスは世界のものだということをその場で完全に感じることができるということでした。私は将来世界で通用するような,成功できるような研究者になりたい,あるいは英語をもっと努力しないといけないというふうに,非常に短期間だったのですが,非常に大きな教育効果を得ることができました。現在,いろいろな大学や,研究所で育成プログラムを開発したりしていますけれども,それだけではなく,科研費としても何らかのシステムを構築していくことができればより推進できるのではないかと思います。
 私の提言としまして,例えば特別研究員,DCを取得するような優秀な学生は,海外の研修を義務付ける。あるいは強く推薦する。行かせるということはかなり効くのではないかと思います。彼らは100万円程度の特別研究員奨励費を研究費として使用できるのですけれども,1か月ぐらい海外で滞在すると,大体40-50万円掛かりますので,これでカバーすることは可能です。そこで学生の所属する研究室は,「海外受け入れ研究室を探す義務を負う?」,クエスチョンマークになっていますが,負うということで規定する。
 ただ,PIによってはできないPIもいますので,そこは外部で受け入れ研究室のリスト作りなどでサポートする必要性が出てきます。また,海外も,いきなり来られても困るというところもありますので,受け入れ研究室には10万円から20万円程度の研究費を支給するという形にすると,より受け入れてくれる研究室が増えるのではないかと思います。もちろんほかの取組でもいいので,短期間でも大学院生を送り込むシステムを確立していけば,よりいいと思います。
 しかし,やはりポスドクが基本です。大学院生は行っても,1か月,3か月ということで,学べることは知れています。ただ,この期間,行くことによって,その後,ポスドクとして海外に行く閾値(しきいち)は間違いなく下がるということで,非常に価値あります。ただ,やはりポスドクを送り込むということが非常に重要だと思います。現在,海外特別研究員がありますが,これは枠が非常に少ないということで,これをより増やすということを提言させていただきます。実は私自身も海外特別研究員を取得しましたが,ちょっと額が多かったかと思いますベルリンは結構物価が安かったので,貯金することができました。
 ということで,もう少し減額してもいいので,数を増やした方がいいのではないかとプラクティカルな提言をいたしました。このように,ポスドクとして,行け,行けと言うのは簡単ですけれども,実は非常に大きな問題がここで控えております。私も日本人の学生としゃべって,将来どうするのか,ポスドクになったら海外に行くのかという話をすると,行きたいです,英語はうまくなるし,精神的にもタフになりそうですし,海外での人脈もできるし,自信も付くし,グローバルの視点も身に付きそうですねと,非常に良い点があるということは彼らも自覚しているのですけれども,それを上回るデメリットがあります。
 まず一番に言われるのが,行った後どうなるのですかという,先の見えない将来。海外に行かなくても先が見えないのに,海外に行ったら一体どうなるのかという話です。基本的に日本とのつながりは全くなくなってしまう。特に長くいればいるほど,なくなってしまう。そのときに海外でポスドク難民になってしまうという恐怖。実は私,ポスドク難民に何人も出会いました。文科省がどれだけ把握しているのか分かりませんが,日本に帰りたくても帰れないポスドクは海外にたくさんいらっしゃいます。こういうデメリットがあることから,幾らメリットがあっても,デメリットが大きく,基本的に彼らが海外に行く二の足を踏んでいる,非常に大きな理由になっています。
 私自身も村田先生も,多分,塩見先生もそういうことを何も考えずに,面白そうだから行ったと思うのですけれども,基本的にそういう蛮勇を持っている学生は今日余りいませんので,何らかのデメリットを減らす,あるいはメリットを増やす,両方の努力が必ず必要になってきます。しかも,これは言葉ではなく,システムを変革しないと絶対についてこない。これによってメリットを強めて,デメリットを軽減する取組が必ず必要になってくると思います。
 デメリットは日本とのコネクションがなくなるという,これが一番強烈です。特に海外に数年過ごすと,海外から職探しをするのは非常に難しくなります。特に出身先の教授とけんかして出ていった場合は,非常に難しくなります。JREC-INというシステムがあるのですけれども,これも実は助教レベルになると,内々で決まっているということが結構あって,応募してきたけど,意味がないということも結構あります。実は最近,分子生物学会で海外のポスドクやPIに発表機会を与え,国際化を図るという,非常に良い試みがあるのですけれども,政府としても何らかの取組をしていく必要があると思います。既に何かスキームがあったら申し訳ないですけれども,現在は送りっ放しで,アフターケアゼロと海外にいる日本人研究者では捉えられています。
 では,「コネなしポスドク難民の救済を!」ですが,私が考え付くこととしては,日本に帰還を願うポスドクのリスト作り。JREC-INの逆バージョンで,パブリケーションリスト,実験技術,人柄。自己PRになりますけれども,帰国後はどういうポジションに就きたいか,連絡先などのリストを作る。少なくとも日本から,ポスドクがどこかいないかなという気持ちになっても,全く今,どうしようもないので,こういうリストがあるとリクルートも若干進むと思います。
 ただ,一番大きな問題点はやはりメリットがないことです。海外で研究留学したことによる日本でのポジション獲得のメリットが現在ほとんどありません。これは小手先の改革では全く何ともならず,システム自体を少しでも変えていかないと,実効性がないと考えられます。
 海外留学のメリットを増やす提言ですけれども,対象者は,海外研究生活でファーストオーサー,又はコレスポンディングオーサーの論文を持っている研究者に限る。残念ながら,これを持っていない人,行っただけの人,行っただけではなくて,頑張っているかもしれないのですけれども,業績が出ていない人はサポートしないというふうにしてもいいかと思います。
 サポートしては二つ。その頑張ってやってきた研究者のサポートと,研究者の受入先のサポートの二つが考えられます。
 まず一つですけれども,科研費の審査で,海外研究経験がある者に有利なように少し配慮をすることです。どのような配慮をしたらいいのか一つ考え付いたのが例えば若手研究A,B,Cの欄に海外研究経験について書く欄を作るということを考えることができると思います。例えば海外のラボ,どこのラボに行って,この論文を書いて,それによってこういうことを学んだ。そして,日本ではその経験を生かしてこういうことができそうだという欄を作ることによって,何となく得をしているような気がすることが考えられると思います。又は,海外研究で論文を持っていると,1ポイント付与されるなど,そういうものがあると得するから行こうという感じになるかと思います。
 この次は科研費と余り関係ないのですけれども,キャリアパスで海外研究経験があることによるメリットを付与するということで,例えば給料を心持ち上げることです。例えば医師国家試験の免許を持っていると少し上がるということが大学でありますが,海外研究経験があると少しだけ上げる。また,大学に教職員の海外研究経験者の率をこれぐらいの率を保ってくださいと設定して,それを公表する。こういうちょっとしたプレッシャー,あるいはシステムの変更でも,非常に大きな効力を発揮すると思います。今では全く,行っても損するだけという感じですけれども,大きな効力を発揮する可能性が出てきます。
 また,一方,受入先にもある程度のサポートが必要ではないかと思います。例えば自分が助教やポスドクを応募しているときに,どこの馬の骨か分からないような人を海外からリクルートするのはなかなかリスクが高い。日本の何々先生の紹介や日本国内のリクルートの方がリスクは少ないですし,楽です。そういうことで,そういう海外からのリクルートをサポート,あるいは閾値(しきいち)を下げるために,海外研究経験者を雇うと少し得をするというシステムを構築することも非常に有効だと思います。例えば海外からポスドクを助教として,あるいはポスドクとして受け入れると,受入金が50万円もらえる。ただし,その出身ラボに戻る,あるいは出身研究機関に戻るというようなものは除いた方がいいと考えます。また,研究活動スタート支援という種目がありますが,これも海外から直接帰ってきた人には大幅増額というメリットがあると,受け入れ側も研究費がある程度増えますので,受け入れようかという気に若干なるのではないかと考えます。
 さて,それでは,サケを海外で大きく育てようというプランですけれども,海外でポスドクとして数年間過ごすことによって英語能力が上達したり,国際感覚が身に付きます。ただ, PIに就くと,格段に成長率は違います。例えばPIになると,接する人からして次元が変わってきます。例えば研究所のPI全員と必ず接することになりますし,研究所外のPI,あるいはグラントの審査のコミッティー,大学の事務の方,あるいはリクルートをしますので,様々な人と面接をしないといけない。あるいは講義で学生と出会う。このように非常に多様なスキルを必要とされますし,会う外国人の数も桁違いに増えてきます。これによって外国人とのコミュニケーション能力,英語力,国際感覚,海外の人脈は飛躍的に向上します。
 ここで日本人研究者が海外でラボを持つのに,どのようにしてラボを持てるのかと,どのようなシステムがあるのかというと,ほとんどはテニュアトラックシステムポジションを獲得します。大きく分けてこれは二つあります。一つは,理研のユニットリーダー,あるいはグループリーダーのように,採用時に十分な研究費とパックで自分の給料が供与されるということ。私はこの位置に属しておりました。もう一つは,給料と非常に少額のスタートアップ費用,大体1年か2年ぐらいを供与されて,その後は外部からの研究費獲得を所属研究機関が強力にサポートするというこちらの方がどちらかというと率としては多いと思います。この場合は,一,二年間以内に研究費を獲得できないとクビ,あるいはteaching dutyが大幅に増えるという非常に厳しい状況であります。
 このテニュアトラックのとき,また,テニュアトラックにのること自体も無茶苦茶(むちゃくちゃ)コンペティティブです。私はこの位置をとったのですけれども,このときも二つのポストに80人の応募者がおり,それを勝ち抜いて取ったということがありました。これは取ってもコンペティティブでかなり厳しいけれども,ここを勝ち抜くと,今度,テニュアトラックからテニュアに行く,これも結構厳しいところです。だから,ここはキャリアで最も厳しいところです。成功への大きなプレッシャー,又は立ちはだかるいろいろな壁もありますけれども,独立したてで一番やる気とキラキラ感があるとき。そして,また,実力が一番このときにぐっと伸びるときです。是非この時期をサポートしていただければと本当に心から思います。
 提言としましては,対象者は,海外で独立を果たした人,あるいは既に業績を上げたポスドクで独立を目指している人が対象者であります。提言は一つ,海外から科研費を応募するシステムを作る。これに尽きます。現在,さきがけは海外から応募できるという名目になっているはずですが,私も実はさきがけを出したのですけれども,審査員4人のうちの二人のコメントが,海外にいる研究者をサポートする必要はないというコメントでした。できるはずではないのか,何だそれはと思いました。そのほかの二人は,A丸だったのですけれども,その二人によって落とされたと今でも少し腹が立っている感じがあります。
 今,若手研究A,B,Cは海外から応募できないと思いますが,若手A,B,Cを海外から応募できるようにする。あるいは海外若手A,B,C,あるいは海外基盤S,A,B,Cなどを新設するということを是非検討していただきたいと思います。
 注釈ですけれども,これを獲得した研究者は将来日本に帰国して研究する義務を負うなどという,せこい条件は付けないでいただきたいと思います。また,起こり得る問題として一番大きなものは経費の事務処理かと思いますが,海外での研究機関では,研究費処理様式が非常に多様なので,そういう規定を少し緩やかに設定する必要はあるかと思います。
 できれば,日本の研究費は,日本で行える研究費に限るという概念を変えていただいて,サケを海外で大きく育てるという,視野と度量をより広く大きく持っていただきたいというふうに思います。この構築によって,日本人の海外の業績は大幅に上がることが予想されるだけではなく,このテニュアトラック,非常にコンペティブなテニュアトラックポジションの獲得に間違いなく,大きな助けになります。やはり研究費があるということで,間違いなく大学側はより採ってくれるようになります。また,テニュアトラックポジションに入った人が,次にテニュアを取得するときにも非常に大きな助けになるということが,業績だけでなく,日本人がそこで生き延びていくのに非常に大きな役目を果たすと思います。
 今度成功したらどうしたらいいのかということで,成功した日本人研究者を海外から呼び戻す。基本的にこれをしないと,海外で優秀な日本人がどんどんできてしまって,科研費にそんなに使っていいのかという話になると思います。これを含めて,このプロジェクトは完遂すると思います。ただ,これは非常に難しい。私の経験ですけれども,私は2009年にテニュアを取得して,2010年に北大に戻るときに,基本的にこれまで海外で築き上げてきた研究費5,500万,研究機器もたくさんありました。ポスドク,学生,技術員という育て上げた人を全て失い,ゼロからのスタートでした。実際には日本人のポスドクが一人だけついてきてくれたのですけれども,ゼロからのスタートということで,同僚や友人からは,自殺行為ではないか,これまでテニュアを取るのにあんなに頑張っていたのになぜだというふうに,えらく言われましたし,私も非常に悩みました。ただ,離婚の危機を迎えたということもありまして,帰らないと仕方がなかったのですが,帰ってきました。非常にタイミング良く,最先端・次世代研究開発支援プログラムというものがそのときにありまして,これを取得することができまして,非常に助かったのですけれども,これがなかったら一体どうなっていたのか今でも首が冷たいような思いがします。
 そこで大きく育ったサケを日本に呼び戻そう計画ですけれども,対象のサケは,一応パーマネント・ポジションを獲得しているということと,研究実績を上げている。もちろん研究実績を上げないで,パーマネントを持っている人もいらっしゃるので,この2点が非常に重要と思います。
 注釈ですけれども,海外で業績を上げるのは結構きついです。文化も言葉も違う人を相手にして,それを育て上げて,自分で厳しい環境の中で取れていく。それは日本で教授の研究費の下,業績を上げているのとは比較できないのではないかと私自身は思います。
 基本的に一つだけです。このスタートアップ大型支援,これに尽きると思います。これはこれまでも結構出ていた問題ですけれども,設備セットアップ,そして,研究費を初年度のみで結構です。2年目からは普通に科研費に応募していただければいいと思うのですけれども,初年度に支援がないと実際に研究を始めることが無理です。全てを捨ててきた研究者に何て冷たい仕打ちということになってしまいます。ただ,金額は海外における研究費獲得状況や研究費の設備状況によってフレキシブルに変えていいのではないかと思います。ただ,取るだけではなく,英語教育への従事,あるいは留学生の世話,海外交流拠点の形成などの何らかのdutyを付随させることによって,不公平感を若干弱めることができるのではないかと思います。
 今,提言させていただきましたけれども,送って,育てて,呼び戻す。これを巡回させることによって,大きな視野と,時間は掛かるかもしれませんけれども,より一層の国際化を推進していっていただきたいと心から思います。
 今日は時間の関係でお話しできませんが,これは海外で研究者が感じた日本の問題点で,これまでの二人の演者と結構重なる点が多いということで,研究者の縦割り構造,あるいは,地方大学で埋もれつつある若手研究者,科研費の審査が日本語ということもあります。アカデミックキャリアの流動性が非常に乏しい。講座制の弊害など,基本的にこれまでの演者と結構重なる点があるというのが私の感想であります。御清聴をどうもありがとうございました。

【佐藤部会長】
 藤田先生,どうもありがとうございました。具体的な提言が含まれておりまして,大変参考になるかと思います。
 御質問や御意見,その他は意見交換の時間にお願いしたいと思います。
 それでは,日本学術振興会から,国際関係事業について御説明をお願いすることになっております。それでは,どうぞよろしくお願いしたいと思います。

【加藤JSPS国際事業部長】
 日本学術振興会の国際事業部の加藤と申します。今日のお話で,研究費の在り方,方向,役割,そういったものについて,先生方からお話しいただいたところでございますけれども,その中で国際的な観点からの御意見等もございましたので,この機会に学術振興会の国際交流事業,それがどのような観点からの方向性で実施されているか。そして,どういった形態をとっているか,これについて簡単に御説明申し上げたいと思います。
 御手元の配付資料の4を御覧いただきたいと思います。最初に学術振興会の国際事業を御説明するに当たりまして,よって立つ国際戦略というものについて簡単に御説明申し上げたいと思います。学術振興会は現在昨年度から第3期の中期計画,5か年の期間に入っておるわけでございますけれども,この第3期の期間の学術振興会全体の在り方をどうするか。これを検討するに当たりまして,将来ビジョン検討会を一昨年立ち上げまして,有識者の方々にいろいろ御議論いただいたところでございますが,その中で国際交流事業の在り方についても御提言を頂きまして,そこにおいては強固な国際協働ネットワークの構築,それに向けて国際的な国際交流事業を戦略的に推進していく必要がある。そういった御指摘を頂いたところでございます。
 それで,昨年の5月ですけれども,その指摘に基づいて策定いたしましたのがこのポンチ絵のJSPS国際戦略というものでございます。この一番上のところを御覧いただければと思います。
 まずこの現状認識として,この学術研究を取り巻く状況でございますけれども,ここに書いてあります学術研究のグローバル化,地球的規模解決のための国際的な共同研究のより一層の必要性,さらにはまた新興国による国際戦略に基づく知の創造への投資増,更に優れた研究人材の獲得競争の熾烈(しれつ)化,そういったものを背景にしているということで,その中で学術振興会が強固な国際共同ネットワークをどう作っていくか,そのために基本的にこの四つの目標を定めたところでございます。
 丸1から丸4までございますけれども,まず丸1の国際的な共同研究の促進というところでございます。この国際的な共同研究というところでは,二国間的な共同研究,更に多国間というものがございますけれども,まず現在,学術振興会では,諸外国の学術振興機関,約60の振興機関との間で覚書というものを取り結んでおりまして,そことの間では,この覚書に基づいてマッチングファンドによる国際共同研究を進めるということを実施しております。
 ただ,必ずしも覚書に基づいた交流だけではなくて,研究者サイドからのニーズということであれば,特に新興国等の間において,そのマッチングファンドによらないけれども,その日本人グループと相手側研究者グループとの間で交流を行いたいというニーズに応えることも必要があると考えておりまして,そういったものを対象とするための事業を行っているところでございます。
 丸2といたしましては,国際的研究支援ネットワークの構築ということでございまして,ここでは各国の学術振興機関とのネットワークを強固にして,全体的に取組を進めていくという必要性を感じております。例えばGRC,これはグローバル・リサーチ,カウンシルということでございますけれども,NSFが提唱したフォーラムでございますが,こういったものに積極的に関わって機関間のネットワークを作っていくというものでございます。
 これはさらには,この機関間のネットワークと別に,丸2の下の部分にありますが,振興会事業を終えて帰国した研究者等のネットワーク,いわゆるJSPS同窓会というようなものでございますけれども,そういったものをより強化するということもネットワークの拡充と考えております。現在,14か国にその同窓会を作っているところでございます。
 さらに丸3といたしまして,世界的な頭脳循環の推進とそのグローバルに活躍する若手研究者の育成,これを取り上げているところでございます。世界的な頭脳循環ということで,先生方の御発言にもございましたが,日本からの研究者の派遣,さらに,外国からの研究者の招へい,特に若手研究者の交流と同時に,グローバルに活躍する人材を育成するための国際交流を通じた人材を育成するプログラムの重要性を書いているところでございます。
 さらに丸4といたしまして,大学等における研究環境のグローバル化支援,その一つとして,現在,学術振興会では世界9か国,10都市に海外事務所,海外センターを持っているわけでございますけれども,この海外センターは第一義的には相手国との学術交流の推進ということで,シンポジウムの開催,対応機関との連絡調整等を行っているわけでございますけれども,それにとどまらず,その海外センターを通じた日本の大学の国際展開の支援,例えば日本の大学が海外でシンポジウムを行う場合の共催,あるいは日本の大学が将来的にその大学の国際交流を担うような人材を育成するためのトレーニングの場として,海外センターを使っていただく。さらに日本の大学が相手国と大学間協定を結ぶ際のその側面的なサポート,そういった海外センターを通じた大学の活動,国際活動支援ということを行っているものでございます。
 そして,このセンターについては,その下の灰色の部分でございますけれども,現在,9か国,10都市に設置しているわけですけれども,単に設置国での活動にとどまらず,その周辺での活動も含めて,その活動を今後,世界的に展開していく,その必要性を考えているところでございます。
 配付資料の2ページ目を御覧いただければと思います。今申し上げたその国際戦略に基づいて,JSPSの各事業がどのように位置付けされているかということでございます。左側が今申し上げました四つのミッション。一番上が支援の対象,形態でございます。個人支援,グループ支援,さらに機関支援という三つのカテゴリーに分けてございます。
 とりわけ,1番目の国際共同の支援は,ここに書いている二国間,多国間の形態でのグループ等機関支援というものがございます。
 二つ目としては,若手研究者の育成ということでございまして,これは必ずしも大学のみで対応できないような取組を支援することも振興会でやっております。そして,頭脳循環においては,派遣としては,先ほど村田先生,藤田先生も御活用いただいた海外特別研究員は個人を海外へ派遣するというものでございます。その招へいについては,その下にあります外国人研究者の招へい,ポスドクの招へいが中心的なものでございますけれども,更に研究者のそのキャリアに沿ってシニアの方まで呼ぶという一連のフェローシップを用意しているところでございます。
 この派遣の中で,このマトリックスの一番真ん中に「頭脳循環」とだけ書いてございますけれども,これは頭脳循環を加速するプログラムということで,文科省の補助金で実施しているものでございます。いわば組織的な派遣によるプログラムということでございます。
 さらに,その下から二つ目の大学の研究環境のグローバル化というところでは,先ほど申し上げた海外センターを使っての活動支援,機関支援というものは,例えばこれは文科省の事業で学振に委託しているもので,WPI,あるいは世界展開力強化事業などがございます。そして,最後に,ネットワークということで,左側がJSPSとしての世界各国の学術支援機関とのネットワークの形成, ASIA HORCsはアジアのファンディング・エージェンシーとのトップの会合,それから,A-HORCsは日中韓のトップの交流,そして,G8-HORCs,GRC,こういったいろいろなレベルにおいての各国のファンディング・エージェンシーとの交流を行っているというところでございます。そして,右側が先ほど申し上げました個人ベースでのネットワークを作って,それを支援するということでございます。
 次のページが学術振興会の事業実施一覧ということでございまして,それぞれの事業がどのような規模で実施されているかというものを一覧にまとめたものでございますけれども,これは御覧いただければと思います。
 一つ,補足させていただきますが,左側の事業形態の下から二つ目の若手研究者研鑽(けんさん)機会提供グループ,ここで頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラムとありますが,この一番右側の交流人数は124件となっていますが,これは人数ではなくて,組織支援のプログラムでございまして,その組織支援等の対象となったのが124件ということでございまして,実際の派遣人数はもっと多くなっております。時間的なこともありまして,非常に概略だけでございますけれども,振興会の国際事業について御紹介とさせていただきます。

【佐藤部会長】
 加藤部長,どうもありがとうございました。学振の方で非常に多様な国際関連事業をされているわけでございます。それでは,委員の皆様から本日伺いました御意見や御提言を踏まえて,科研費を含めた研究費,施設の在り方につきまして,御意見等を自由に御発言をお願いしたいと思っております。特に村田先生,塩見先生,藤田先生,また,先ほどの加藤部長の国際関連事業の内容等につきまして,御質問等,御意見がありましたら併せてお願いしたいと思っております。

【小安委員】
 今の御三方などのお話を伺って感じたことを申し上げたいと思います。
 どんな場合でもスタートアップが大切だということは,ずっと言われていることだと思います。
 それから,藤田先生がお話にならなかった縦割りの中に,共通基盤の部分があって,これは非常に大事だと思っております。この辺りは,本来はきちんと大学が戦略に基づいてやるべきところであって,まさにデュアルサポートのシステムがきちんと面倒を見ないといけない部分だと思います。ですから,そういう形できちんと提言していくことが大事であって,ここは競争的資金でやるところではなく,大学が戦略的にやる部分ではないかと感じました。
 それから,もう一つ,私も経験がありますけれど,海外から帰ってくるときには,科研費が申請できるか,できないかということはタイミングとして非常に大きいのは確かです。ここは現在の単年度主義の考え方をアワードイヤーの考え方に変えることで,かなり解決できる部分があると思います。これは特に基金化が進めば,それほど問題なくできるのではないかと思いますので,そういう制度を積極的に進めていくということが必要なのではないかと感じました。
 それから,今日,たまたまだとは思うのですけど,御三方とも生命系の研究者でいらっしゃって,科研費のランクの問題をおっしゃいました。これは意外と生命系に特有な問題で,理工系の方と話すとなかなか理解されない部分があります。といいますのは,自分がそもそもどういう計画で研究を進めていくかを考えて,それに合ったサイズの研究費を申請するというのが本来の考え方ですが,生命系の場合にはどうしても多ければ多い方がいいという考え方なので,ランクという言葉が出てくるのだと思います。そこは少し考え方を変えていただいた方がいいかもしれません。さはさりながら,分野によって適正な金額はどうかという問題を提起しているという受け取り方もあると考えました。
 最後に一つだけ,藤田先生でも,村田先生でもいいのですけれども,お教えください。先ほど海外でポスドクをやって,なかなか後のキャリアが難しいということをおっしゃいました。国内でもPDをされている方は皆さん苦労していると思います。先ほど1万7,000人という数字が出てまいりました。どこにいても恐らく成功に至るには,同じぐらい苦労されていると思います。私も海外に行った方がいいと考えている人間ですが,ポスドク全体の問題として考えたときに何かやるべきことがあるのであれば,伺った方がいいと思いました。

【藤田北海道大学教授】
 基本的にはこの講座制の弊害というところに書いているのですけれども,若手がテニュアトラック制度か何かによって独立をなるべく早くする。私も35歳のときにロンドンで独立しましたので,一番やる気のあるときに独立できたのは非常に良かったと思っています。これがやはり日本では少ないというのはあるのですけれども,テニュアトラックをやるには,失敗したときの受皿がないとできないのです。結局これが日本の非常に大きな問題点で,ヨーロッパでももちろん失敗した後の受皿は厳しいことは厳しいのですけれども,日本よりは多くあります。例えばそこでベンチャーに変わる,もう一度ポスドクに戻る,サイエンティフィックなエディターになるなど,いろいろなフレキシビリティ,いろいろな受皿があるのですけれども,日本は余りにもその受皿が少な過ぎるということがあります。これは決して文科省だけでは解決できない,社会全体の構造を変えていかないとどうにもならないことではないかと。例えば,中途採用する企業をより支援する。例えば税金を安くするとか,公表するとか,そういう何かのシステムの変更がない限りは,根本的な問題は解決されていないので,結局は難しいということです。絵空事ですけれども,その辺りから変えていかないと,なかなか変わっていかないのではないかと。それはやはり日本が抱えている,流動性がないということに起因しているのではないかと私自身はそういうふうに考えています。

【柘植委員】
 なるべく簡単にですけど,3点と,それから,要研究テーマ事項ということを申し上げたいと思います。
 一つは御三方の言われていることはなぜ実行されていないのか,JSPSがあれだけの組織を持って,新理事長もあれだけ改革派の理事長なのに,当然と言われるものがどうしてされていないのか,是非,御三方の提言だけではないと思うのですけれども,御三方の提言を聞き置くだけではなくて,アクションアイテムにつながるように,この部会もアクションアイテムになって,逆に,JSPSの理事長に突き付けるぐらいのことがなぜできないのか。そこまで継続的につながっていく活動にしたいと思います。まずそれが1点です。これは是非ともつなげていきたいと思います。
 それから,2点目は,私も実ははるか昔,ドクターを経てから,学術の世界,研究職というよりは,むしろ産業の方で頑張ってきた方ですけれども,間違いなくこれから日本の学術,基礎研究プラス産業側でも課程,大学院で博士課程を取った者が活躍する。活躍しないと,日本がやっていけない時代になってきています。それは御三方,絶対確信していますよね。私もよく,欧米と付き合ってきていましたのでそれを感じます。御三方の言われたことは本当に身に染みています。そういう意味で,ドクターを出て,ポスドクで修練を踏んだものが基礎研究の境で生きていく能力を発揮するキャリアパスと同時に企業,実業の世界でも能力を発揮できるようなキャリア教育を併せて持つ。その適材適所で頑張る。
 御三方が,イギリスやアメリカでの経験した人たちはそういう多様な育ち方をする場が与えられている。かつ,育った人たちが合っていると思うのです。日本の博士課程教育では多様性を育てていないのではないか。結果的に最初は科学に夢を持っていた学部生がだんだん博士課程に行くのはやめておこうという話になっているのは,多分心の中ではそれを見ているのではないかと思うので,これを直さない限り,私は日本が駄目になってしまうと思うので,是非ともそういう意味で,日本再興を持続可能にするための博士課程,博士課程の新学者を増やすために,今の話は是非とも継続的に改善していくべきだと感じました。
 それから,塩見先生が少しお話しした研究費を用いて教育を行っているということは,ほんの氷山の一角であり,実際はしているという話です。別の部会でも,研究費で教育をしているのだということが出ていました。我々学術サイドは,きちんと社会に伝えていないし,社会からも研究だけに埋没しているのではないかと思われており,理解を得ていない,誤解を受けている面もあるなと思います。やはりこの点も研究費部会としても研究費は,実は広い意味での教育に受けているし,その教育を受けた者,実は,この間も部会で議論しましたけれども,高等教育だけではなくて,その人が実は初等中等教育にも,社会人教育にも影響を受けています。佐藤先生の30年前の研究を,今,我々が新聞で学んでいるわけですから。こういう話から教育研究費は,広い意味での教育効果があるという話を我々は社会に分かってもらうようにしないといけないと思います。
 それで,一つ,特に私がずっと今まで課題を持っていますのは,EUは,ヨーロッパの国はそれぞれの国で科学研究費を持っていますけれども,EUとして別の研究費を持っています。非常に魅力的だと思っています。参加しようとすると,やはりこちらも同等のようなファンドを持って,例えばJSTとかJSPS,それを持って国と国で交渉して,ジョイントでやろうではないかと,こういうスキームを私は国が作るべきではないかと思っています。そうすると,先ほどのお金を持ってポスドクが行くというような話とは全然違って,パートナーになります。この話は,JSPSか,JSTかが一度可能性を研究してほしいです。
 それを出せば,私はポスドクを向こうに出せると思います。そうすると,そのスキームでポスドクが帰ってきても,ポスドクの帰国後のポストのデザインは,自然にできるのではないかと。それが発展すれば,一石何鳥かあると思うので,EUの科学技術のプロジェクトに対して,日本とのコラボレーションができないかどうか。JSPS,それと文科省,JSTかもしれないので,そういう視点でちょっと研究してほしい。是非研究費部会の研究テーマにしてほしいと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。JSPSの方で先ほどの意見や柘植先生のお話を踏まえて,何かございますか。

【渡邊JSPS理事】
 今日,3人の先生から非常に多くの改善の御指摘を頂きました。まさに柘植先生のお話にありましたけど,制度の中で取り入れることができるような示唆が幾つかあったと思います。ただ,今日もお話しいただいた際,柘植先生はJSPSに突き付けてとおっしゃいましたけれども,JSPSだけではなくて,CSTPあるいは文部科学省などのもう少し大きなところの問題もあるのではないかと思います。村田先生,塩見先生も御指摘されましたが,例えばスタートアップの資金がない。あるいは競争的資金が切れたときの継続性の問題,共通機器が足りないという問題。こういったことは,競争的資金というよりもやはり大学の財政が枯渇しているので,大学が無責任にできませんと言っているところに大きな問題があって,まさにデュアルサポートの一つがなくなっている。非常に大きい問題だと思っています。
 科研費で少し御紹介させていただくと科研費もそういった中で効果を出していかないといけないということで,例えば科研費のみですけれども,個別の研究課題で研究費を出し合って共通機器を買いましょう,合算しましょうということを認めているのは科研費だけだと思います。そうしたことを率先してやって,国立大学でいえば運営費交付金が足りないところを,科研費をみんなで出し合って研究をやれるようにしようと。これは今までの競争的資金制度の考え方からいうと,一つ一つの研究課題なのだから,みんなで研究費を出し合って何か共通で使うということはあり得ないと言われていたのですけれども,そういったことを率先して変えております。
 繰り返しになりますけれども,今日基盤研究Aがもう少しで不採択だったときに基盤研究Bを取れるようにするなど,実際にどうしていこうかと審査も含めて考えていました。なかなか良い御指摘も頂きましたので,考えていきたいと思います。

【佐藤部会長】
 渡邊理事,どうもありがとうございました。
 誠に恐縮ですけれども,時間も過ぎてしまっておりますので,是非言っておきたいということがございましたらお願いしたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。
 それでは,本日予定した議題はこれで終わりにしたいと思っております。村田先生,塩見先生,藤田先生,今日はどうもありがとうございました。

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