第7期研究費部会(第7回) 議事録

1.日時

平成26年4月8日(火曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省15F特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)など研究費の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,甲斐委員,平野委員,北岡(良)委員,金田委員,小安委員,谷口委員,西川委員,上田委員,谷口熊本大学長,中村東京大学教授,勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長,村松日本学術振興会学術システム研究センター副所長

文部科学省

板倉振興企画課長,合田学術研究助成課長,前澤学術研究助成課企画室長,岩渕基礎研究振興課基礎研究推進室長,他関係官

5.議事録

【佐藤部会長】
 時間となりましたので,第7回の研究費部会を始めたいと思います。
 本日は,まず,科研費をめぐる状況について事務局から説明をしていただき,その後,本日お越しいただいている2名の先生方から,研究現場における研究費の実態や科研費などの研究費政策への御意見,御提案をお願いしたいと思っております。その後,戦略的創造研究推進事業につきまして,担当から説明していただきます。最後に,本日伺いましたお話を基に,皆様に自由に御議論をお願いしたいと思っております。
 なお,今後の科研費の在り方に関する議論を広く本部会でしていただくことから,科研費の審査の具体的な制度設計等を担っていただいております日本学術振興会から,学術システム副研究所所長の勝木先生,また村松先生にお越しいただいております。それでは,議事に入っていきたいと思います。最初は,科研費をめぐる状況についてでございます。まずは事務局から,科研費をめぐる状況について御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【合田学術研究助成課長】
 それでは,御手元の,参考資料1,参考資料2,参考資料3に基づきまして,前回,2月26日の研究費部会以降の制度全体等の動きについて,簡単に御紹介いたします。
 まず参考資料1を御覧いただければと思います。これは,3月25日の産業競争力会議で配付された資料でございます。今後,産業競争力会議でいわゆる成長戦略の改定が,経済財政諮問会議では骨太方針が,総合科学技術会議では科学技術イノベーション総合戦略の改定が行われるということで,それぞれ27年度以降の予算に大変大きな影響を及ぼす政府の文書の改訂・策定が,連休明けから一斉に始まるということになってございまして,そのための議論が既にそれぞれで始まっているという状況でございます。特に,本部会での御議論にも大変深い関係がございます成長戦略につきましては,3月25日の産業競争力会議で,ただ今より御説明申し上げるような議論が行われているところでございます。
 参考資料1でございます。東京大学の橋本和仁教授は産業競争力会議の議員でありますとともに,総合科学技術会議の議員でもございますけれども,産業競争力会議の議員としてこの資料を提出しており,いわばアジェンダセッティングをしておられるところでございます。
 基本的な観点でございますけれども,1ページ目の1ポツに「研究開発法人を核とした産学連携プラットフォーム」とございますように,大学と産業界をつなぐために,理化学研究所や産業技術総合研究所といった研究開発法人を,より機能強化していこうというのが一つ目の提案でございます。それから二つ目でございますが,1ページ目の2ポツ「研究開発マネジメント人材の育成によるファンディング機関の機能強化」ということでございまして,プログラムマネジャーあるいはプログラムオフィサーを,ファンディングエージェンシーが,より体系的・意図的に育成していくことが必要ではないかという観点でございます。それから三点目でございますが,2ページ目の3ポツ「技術シーズ創出力の強化」という項目がございまして,その二つ目の丸の後半の文章,「このため、基礎的な研究資金の配分において、高い潜在力を持つ優秀な研究者のより多種多様な研究テーマにチャンスを与えるよう変えていくべき」という提言がなされてございます。そのことを前提といたしまして,その次の「丸1国内外を問わず優秀な研究者による多種多様な独創的研究を支援・活性化し,丸2それを基盤として,イノベーションに向けた研究拠点ベースの研究開発の加速化や,あらゆる世代の研究者チームによる世界水準の卓越した研究を推進」するとございます。これらのイノベーションや研究成果,研究人材が更に次の独創的研究を刺激するといった,卓越知を基盤としたイノベーションの循環の確立が必要であるということでございまして,科研費などで培われたシーズが,更に学理研究を深めていくという流れと,イノベーションという方向に行く流れと,この二つがまた相刺激し合って,卓越知を深めていくという方向性が示されたところでございます。
 続いて3ページ目でございますけれども,この橋本教授の御提案を踏まえまして,当日,甘利内閣府特命担当大臣から,我が国のイノベーション・ナショナルシステム構築のための検討項目というのが示されたところでございます。 1ポツの(1)が,先ほどの,研究開発法人をいかに機能強化するかという橋本先生の議論とタイアップしているものでございます。それから1ポツの(2)が,ファンディング機関の機能強化という橋本先生の議論とタイアップしたものでございます。それから2ポツの「(1)基礎研究を担う公的研究機関や大学の改革に関する検討」というところが,先ほどの橋本先生の研究費改革,研究費の在り方についての提言を受けたものでございまして,その二つ目のポツにありますように,効果的な資金配分の在り方を含めた技術シーズ創出力強化のための方策等ということが,現在,成長戦略のアジェンダになっているということでございます。したがいまして,昨年は,SIPをどうするか,ImPACTをどうするかなど,ファンディング政策自体についてかなり大きな議論がなされたところでございますが,本年度についてはどちらかというと,研究開発法人をどう機能強化するかという議論がなされています。そういう文脈の中で,研究費政策についても更に議論を深めてほしいという形で,かなりアジェンダの構造が変わっているということが申し上げられるのではないかと思っております。
 なお,これにつきましては,同じ参考資料1の10ページ目を御覧いただければと思っております。10ページ目に,「基礎研究の充実」という資料がございます。これは,当日このような議論を踏まえまして,文部科学副大臣から,文部科学省としてこう考えているということをお示ししたものでございます。「現状認識」の二つ目のチェックのところにありますように,自由な発想を保障し,研究者の創造性を最大限発揮できる環境がいずれにしても重要だという認識に置きました上で,「イノベーションのタネを生み出す」というところに科研費が出てまいりまして,一つ目の白い丸は科研費の性格,二つ目の白い丸は,研究者27万人の中から,毎年2.6万人,10%弱を選ぶという,大変セレクティブな構造であるということ,それによって大きな成果が出ているということを前提に,一つ目の◆でありますけれども,今後更に以下の観点から,科研費の抜本的改革,例えば審査分野の大括り化や審査体制・方法の改善に着手するということで,丸1といたしまして,科研費で育まれた多様な研究シーズを,一つには学理探究のためのチーム研究など大規模な学術研究へと,二つ目には,この後で担当課からも御説明しますように,我が国の持続的発展を支えるイノベーションへとつなげる筋道の明確化,それから丸2といたしまして,シーズマネーとしての位置付けを踏まえ,若手,女性,外国人,海外の日本人など多様な研究者による国際共同研究も含めた質の高い研究支援を更に加速化するための科研費改革に是非取り組みたいとしております。いずれにしても,科研費自体は,その枠の一番下にありますように,自由な発想を保障し研究者の創造性を最大限発揮するということが内在的な目的でありますけれども,この中には,この隣の「イノベーションのタネを大きく育てる」というところにブリッジでつながっておりますように,優れた研究が円滑に移行・加速することによって,イノベーションが前に進むという要素もあり,それをどのようにつなげていくかということを改革の一つのポイントとして進めていこうということを,文部科学省としてもお示ししたというところでございます。
 参考資料2でございますけれども,産業競争力会議の3月下旬の議論に先立ちまして,学術研究の推進方策については,既に,平野分科会長の御発案で,学術分科会に特別委員会を設けて議論いただいているところでございますが,資料2の1ページの一番下にございますように,この学術研究の推進方策全体の議論を踏まえながら,先ほど,産業競争力会議で文部科学副大臣がお示ししたものを御説明申し上げましたように,1ページの1番目の一番下の,「科研費の具体的な在り方については,特別委員会の議論を踏まえつつ,例えば,国際共同研究や融合領域研究,若手人材育成等を促進する観点から,基本的な構造の在り方(種目,審査・細目等)を含め,研究費部会・審査部会において検討」ということでございまして,これが,産業競争力会議で議論された科研費改革を,学術分科会でしっかり議論していくということにつながっているということになると思っております。まさに本部会,それから本日もお越しいただいておりますが,日本学術振興会の学術システム研究センターの先生方とキャッチボールをしながら,科研費改革について御議論を深めていただくということになるかと思っております。
 なお,参考資料2の2ページ目の真ん中あたりに「検討スケジュール」とございますが,平成27年度予算編成や,今後の科学技術基本計画の策定に向けた検討にも資するように,本年4月をめどに骨子を作成し,夏頃をめどに一定の審議を取りまとめるというのが,学術の基本問題に関する特別委員会の審議のスケジュールでございまして,本部会におきましても,夏頃に科研費改革の大変大きな方向性をお取りまとめいただき,平成27年度予算への反映,あるいは平成28年度以降の科研費改革へとつなげていただくことになろうかと思っている次第でございます。引き続きどうぞ御審議をお願い申し上げます。
 また,詳しい御紹介は省かせていただきますが,9ページ目以降に,科研費を含めた様々な研究環境,あるいはファンディングに関するデータを併せて付けております。これは学術の基本問題に関する特別委員会で配付した資料でございますが,お目通しを頂ければと思っております。
 最後に1点御紹介させていただきますが,参考資料3を御覧いただければと思います。これはまだ作成途上のものでございまして,是非先生方の御知恵をお借りしたいと思っているところでございますが,前回の本部会におきまして,科研費の成果をより可視化して社会に対して訴えていく必要があるという御指摘を頂きました。参考資料3の1ページ目に,「学術研究とは」というところがございます。これも詳しい御紹介は省かせていただきますけれども,学術の基本問題に関する特別委員会の御議論などを踏まえまして,一つ目には学術研究の特色を,二つ目には学術研究の特徴やそれを踏まえて社会はどんな期待をしているのかを,それから三つ目では特に一人一人の国民に対する学術研究の効果・成果をまとめているものでございます。その上で,学術研究を支援する科研費の役割として,「『顔の見える』知的成熟国家としての国際的信頼の獲得」から四つほど並べておりますけれども,その上で,それ以降のページでは,ノーベル賞など画期的な成果をもたらした科研費の研究成果,あるいは社会にブレークスルーをもたらした科研費の研究成果,またあるいは日常生活や地域社会・経済に影響をもたらした科研費の研究成果を取りまとめさせていただいているところでございます。
 1枚おめくりをいただきますと,これは東京大学から情報提供いただいたものでございます。後ほどお話をいただきます中村栄一先生の御分析などもまとめさせていただいておりますが,それ以外にも,5ページの下の方で,岩手大学の高木浩一先生のプラズマに関する研究がシイタケの収穫の拡大につながるという,当初思いもしなかった成果になったというような話でありますとか,あるいは,8ページの上でございますが,東京大学・お茶の水大学の藤巻正生先生の科研費の御研究が,そもそも機能性食品という概念自体を創り出したというようなことでございますとか,あるいは,11ページの下の方でございますが,京都大学の河原達也先生の御研究が,単に速記の機能化というだけではなくて,障害を持った方々に対する字幕付与サービスなどへの活用といったような,新たな社会的な価値を生み出しているというようなことなどをまとめさせていただいております。私どもも,こういうデータを収集することによって,政策形成の要路にいらっしゃる方の関心に応じて,科研費がどういう形で社会と関わりを持っているのかということや,こういう成果もあるということを是非お示ししていきたいと思っております。ちなみに,これだけで単純に見てまいりますと,科研費の投入に比べてその成果が数百倍というものもたくさんあるわけでございまして,前回御指摘がありましたように,これをならして,科研費の経済効果をもう少し整理させていただきたいと思っている次第でございます。いずれにしても,科研費の成果と,研究者コミュニティーを中心に科研費をどのように改善・改革をしようとしているのかを車の両輪にして,27年度以降もまた科研費の充実に努めていきたいと思っておりますので,引き続き是非御審議を頂ければと思っております。以上でございます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。それでは,次に熊本大学の谷口功先生と,東京大学理学系研究科の中村栄一先生から,今後の科研費の制度改革として重要と考えられるポイント等について,御提案をお伺いしたいと思っております。まず初めに,熊本大学の学長でいらっしゃいます谷口先生からお伺いしたいと思っております。
 熊本大学は,御承知のように,谷口先生のリーダーシップの下に,大学の強み・特色を生かした大学改革,研究の推進に取り組んでおられる大学でございます。研究面では,研究費獲得実績を上げている大学でもございますし,また昨年度,研究大学強化促進事業にも採択されております。それでは谷口先生,よろしくお願いいたします。

【谷口熊本大学長】
 御紹介いただきました,熊本大学の谷口でございます。今日は,地方にある大学も一生懸命頑張っているということを,是非皆様に御理解をいただきたいということで御時間を頂きました。今日お話しさせていただくことは,一番最後のところが大事なところでございますけれども,それに至る過程は,先ほど申しましたように,地方の大学も,かなり頑張っておりますということを御理解いただければということでございます。都会にある大学に比べて,それぞれの地域にある大学という言い方が良いかと思いますが,地方大学は,学生も先生方も覇気がないといけないということで,新入の先生方あるいは新しく入ってくる学生には,本学の歴史を少しひもとかせていただいて,五高の話を中心にかつてここからすごい人たちがたくさん出たということをお話しさせていただいております。3ページ右の方にありますものは,勝海舟さんが書かれたもので,本物は私どもの五高記念館に保存されておりますが,「入神致用」と書いてございます。神様の境地に入るまで,学術でも何でも道を極めて初めて,人とか社会の役に立つのだと。だから,本当に人とか社会の役に立とうと思ったら,なまじなことではできないということで,何事にも一生懸命,頑張るようにという話をさせていただいております。私どもは,ユニークな研究,先端的な研究をして,世界の中で存在感を示すような,そういう大学になりたい。社会と連携して社会を変えていくような,そういう力を持った大学になりたいということで,いろいろな項目を挙げさせていただいていますし,海外展開もさせていただきたい。いずれは,留学生の数を学生の10%にしたい。出ていくのも5%は出ていけというようなことを申し上げさせていただいているところでございます。
 幸いなことに,昨年,研究大学強化促進事業に採択を頂きまして,研究の方も,学長直轄の形です。私どもは,研究特区という言い方で,学内で,部局ではできない人の配置や研究費等々を,特区的に学長コントロールの中で自在にやらせていただいて,これぞと思う研究は伸ばすということをはっきり申し上げて動かしています。幸いなことに,医学系,生命系の拠点施設も,立ち上がったところですし,あと1年後には,自然科学系の国際革新技術研究拠点施設というのもしゅん工する予定です。こういう御支援も頂きながら,動かせていただいているということでございます。
 世界展開をした例というのも,二つ挙げさせていただきますが,一つは,私どものエイズ学研究センターというのがございます。エイズ学研究センターというのは,我が国では熊本大学だけにしかございません。そのため,ここの研究所は,アメリカのNIH等々とも共同研究を推進しておりますが,エイズ学に関する研究や新しい治療薬の開発というのに特化させていただき,今までに三つ,四つ,新しい治療法を開発させていただいております。特許の関係はどうもアメリカの方が強くて,なかなか我が国に特許料が入ってくるという形はならないようでございますけれども,国際貢献,人類のためにということで頑張っていただいて,満屋先生をはじめとしたこの道の専門家を集積して,この研究をやらせていただいているところでございます。もう一つ,自然科学研究関係では,新しいタイプのマグネシウム合金を開発させていただきました。熊大マグネシウム合金という名前を付けさせていただいて,しっかりと熊本大学の名前もアピールさせていただいております。マグネシウムは軽くていいのですがすぐ燃えてしまうこと,また強度が弱いところを,ジェラルミンよりも強く,かつ全く燃えませんというような,新しいタイプのマグネシウム合金を開発させていただきました。おかげさまで,去年あたりから,アメリカの連邦航空局あたりのいろいろな試験を全部パスしており,今までは,マグネシウムは燃えるものだという概念だったのですが,燃えないというところで,新しく航空機等々にも使える夢の材料という形にもだんだんなりつつあります。世界的ないろいろな研究グループともつなぎながら,この研究を更に進めさせていただいているというところでございます。
 私どもは,いわゆる旧六という,医学系のある,官立の医学校があった大学の一つのグループで,旧帝大ほど大きくはないですけれども,中堅どころランキングされるような規模の大学というところでございます。ここでは旧六全部の科学研究費の直接経費の獲得額の合計を書いていますけれども,前年と同じだったら1ということで,1より上に来ると前年比より少しずつ少しずつ増えているということでございます。平成23年は,基金化されたので,その分が入っていますので,急激に上に行っていますけれども,いずれにしても旧六の大学は,私どもを含めて,科研費は毎年,その前の年よりは少しずつでも増やさせていただいている。旧帝大は,その分,少し下がっているというところがあるかと思います。研究費というのは,これまで,とにかく発破をかけて,獲得いただいています。この間,研究費は外から取ってこないと研究はできないという認識がかなり明確になっております。そういう意味では頑張って維持していただいて,科研費は,前年に比べて少しずつでも増やさせていただいているというのが現状でございます。
 その辺の並びを,いわゆる研究大学であるRU11と,私どもの中堅的な旧六の大学のグループ,あるいは日本の平均と比べて,全部記載させていただいたのが,この図でございます。ブルーが熊本大学ですけれども,論文の被引用率トップ10%の論文を見ますと,旧六どこの大学も日本の平均よりは,ほぼ上にありますし,大きな,RU11と言われる大学に比べてもそんなに遜色はない。つまり,この旧六と言われる大学の中にも,しっかりとした高度なレベル,質の高い研究者というのは,それなりにはそろっているということも言えるかと思います。
 国際共著論文の割合は,その年によって若干違い,あるところがぽんと飛び出たりしますし,平均に比べたら少し落ちるというようなところもございますけれども,それ相応には頑張らせていただいている。国際連携は,いろいろな経費がどうしても掛かるものですから,できるだけ頑張らせていただいていますけれども,その辺が必ずしもまだ十分ではございません。それでも,国際共著論文という割合も比較的高く,ある種の研究をやっていくだけのレベルは,この旧六と言われる大学には十分あると御理解いただけるのではないかと思っております。
 同じようなことですけれども,これも論文の数等々です。最近,我が国は,新しいシーズをもたらすような論文の数が減って,いわゆるシーズ創出力が低下しているというようなことがございます。旧帝大あたりは,力を保っておりますけれども,旧六あたりも伸びてきてはおりますが,必ずしも十分満足できる状況ではない。一応それでも,質としては,被引用数でいきますと1を超えているというところがありますので,それなりの質は保たせていただいているということがございます。以上のようなことから,地方にある大学であっても,我が国の研究をかなり支えているというところはあろうかと思います。全体的にちょっと下がってきているというのは,どうしても地方の大学というのは規模が小さいですから,最近のように大学もいろいろなことをやらないといけない状況の中では,研究に費やせる時間というのがなかなか十分には取れないということもあろうかと思っております。時々はカンフル剤を打って新しいセンターをつくるとか,新しい組織をつくらせていただいてというようなことで,何とか研究レベルを,国際的なレベルあるいはそれ以上という形を保たせていただいているというのが現状かと思っております。
 私どもの実績を見ますと,科研費も,平成23年は基金化があり,その分のお金が入っているので,急激に獲得額が増えているところもありますけれども,毎年,徐々に徐々にという形で,何とか獲得金額も増やさせていただいています。おおよそ,直接経費で15億円ぐらいのお金を頂いて,それに間接経費を足させていただいているというようなのが,私どもの大学の科研費としての獲得金額ということでございます。
 先ほども少し申しましたけれども,科研費を利用して地方大学の先生も活躍しておられる例として,例えば新しい材料のマグネシウムのセンターで,一生懸命,新しい材料として,熊大マグネシウム,燃えない不燃マグネシウム合金というのを開発させていただいて,産業応用等々がもう始まりつつあります。しかしその研究も,このセンター長である河村先生がメインで平成16年ぐらいからの基盤的な研究,比較的大きな基盤研究を幾つか重ねさせていただいて,今は新学術領域の研究をやらせていただいています。ところが,実際にはこの研究は,ここで始まったわけではございません。更に10年,20年前から,こつこつとやってきた研究がここに至っているということでございます。最初は,科研費のいわゆる基盤研究Cとか,100万クラスのいろいろな研究を積み重ねて,やっと平成16年になって,ある程度形になったものですから,基盤研究Aを頂いて,そこからとんとん拍子で進んできたということでございます。ここの前にそういう積み重ねがあるんだということも御理解いただくと,大変有り難いと思っております。
 同じものが,これは医療の方ですけれども,私ども生命科学の発生医学研究所の客員教授でもあられる山中先生のiPS細胞を利用したものです。これも平成13年あたりから,比較的大きなお金を取らせていただいて,やらせていただいていますけれども,その前にやはり10年という積み重ねがある。西中村先生が一生懸命やっておられる研究というのは,その前の積み重ねというのがここに結び付いているということも,併せて御理解いただければと思います。
 この西中村先生の研究は,iPS細胞から,網膜のような2次元ではなくて3次元の腎臓をちゃんとつくることができるということが,明らかになってきて,非常に大きなインパクトを与えている研究になっているかと思っております。
 それから,比較的若い先生,これは若手Bを取られたところで,まだ准教授の若い先生でございますけれども, MRIの画像がもっと鮮明に見えないかという現場からの声があり,物理的な手法をうまく適用されて,この絵の,右側にありますように,本当に鮮明にMRI画像が見えるようになった。これを発表した次の日に,いろいろなところから電話が掛かってきて,使わせてくれ,使わせてくれというのがたくさんございましたけれども,まず本学の病院で使えということを命令しましたら,本学の病院はコンピューターが少し古くてこのソフトが入らないなどと言われて,それでは,本学でせっかく開発したのに本学で活用できないというのでは話にならない訳ですそこで学長経費を措置しまして,今では私どもの大学の病院でも使用できるようにさせていただいております。これは,おかげさまで,フィリップスとかの会社等々とも連携させていただいて,多くの方が御利用になれるようにという方向で,展開させていただきました。本当に,若い先生が,ちょっとした自分の技術を医療という分野に展開され,科研費の価値が非常に大きく花開いたものと思っております。
 科研費に対するいろいろな御意見というのは当然あるわけですけれども,いろいろな先生方から頂いた意見を,書かせていただいております。やはり科研費というのは,一つは非常に公平で,地方にいるからなどということではなくて,研究の中身を見ていただいているというのが,非常に有り難いと思っておられる先生が多うございます。それから基金化ということも非常に高く評価しているところでございます。一方では,研究期間が3年などということ中で,研究が途中でどうも切れてしまう。こういうことに対しての切実な意見が多うございます。何とか,もう少し長く続かないかということ,あるいは小さい金額の種目と大きな金額の種目というのは,審査方法も区別をしていただきたい。また小さい種目から始めても,展開するときに重複の制限がかなり厳しい。重複の制限というのは,もう少し何か考えていただくと,研究がつながり大きく発展させていけるのにという先生方の声があります。重複の緩和をしていただくか,あるいは,長期的に研究が行える種目をつくっていただくと,大変有り難いことでございます。そういう御意見が,非常に大きなものとして出ていると思っております。
 それから,基礎研究。必ずしも,基礎研究をやって応用研究となり花開くという,単なるリニアモデルで事が進むわけではないことは重々承知しておりますけれども,基礎研究の積み重ねというのが,やはり新しい本当のイノベーションに結びつく大きな展開につながるという意味では,非常に重要なものがある。研究がだんだん展開してきたときに,ちょっと横道にそれて,あるいはこれを発展させたような研究をしたい,研究費を頂きたいというときに,重複制限等々に引っかかってうまくできない。これが何とかならないかということが,先生方からの一つの大きな意見かと思っております。
 こういう意見等々をまとめてみますと,やはり出口志向の応用研究だけでは,なかなかうまくいかない。本当のイノベーションを生み出すためには,基礎研究というのが,長期にわたって必要ということがございます。先ほども少し言いましたけれども,例えば,1課題当たりの研究費を増やしていただくのもいいのですけれども,基盤研究AやBの審査と,300万ぐらいまでのCの審査とを少し変えていただく。大きなものは,途中で中間評価等々入れて進捗を見ながらというようなことも考えていただいて,Cは比較的簡単な審査で通していただけるようなということもあっていいのではないかと思います。私どもは,BやAにチャレンジするように促すことがかなりありますけれども,もともとの公(校)費といいますか,運営費交付金から来る研究費というのは,1人あたり,若い方だったら50万ぐらい,教授の先生でも最終的には100万ぐらいの小さな額になってしまう。そうなりますと,やはりみんな安全を考え,Bに出して落ちたらということを考えてCに出してしまう。Cでせっかくいい答えが出てきた,いい成果が出てきたのに,BやAに移れないという現状がある。ですから,科研費の特に基盤Cについては,何か少し工夫をしていただいて,比較的,少額ですから,審査等々も簡単にしていただくような方法がないものかと考えているところでございます。
 それから地域にあるいわゆる地方大学も,今申しましたように,いろいろな成果を上げております。イノベーションの創出の担い手になれるようなことを考えておりますので,余り大きな大学に偏った予算の配分ではなくて,ある程度,地方の大学にも配分していただきたい。地方の大学には,どんな小さい大学でも国立大学の場合は少なくとも三つ四つは,国際レベル,世界レベルの研究が必ずございます。そういうものを本当に育てることができるような制度改革というのが,できればいいと思っております。大学は,戦略的にかなり,限られたお金の中で取り組まないといけない。その意味では,間接経費の使い勝手も,学長が自在にできるようにというようなことも考えていただけると有り難いというのが一方でございます。
 研究者には,必ず自分の研究の意味あるいは意義を,一般の方,市民の皆様に分かりやすく,真面目にきちんと説明する責任があるということも常に申し上げております。大学も記者会見をやったときに,先生方がしゃべりますと,どうしても難しい細かい話になってしまいますが,やはり一般の人へ分かりやすく説明しなければならないという話もさせていただいております。
 一方では,科研費にも求められておりますが,大学は,研究成果公開のための経費をきちんと準備させていただいて,社会につなげるようにもしていただいております。
 それから,研究者の皆さんは,自分の領域だけではなくて,分野融合的に常に考えなさいという話をさせていただいております。研究レベルでは,分野融合的な,連携研究というのが少しずつ少しずつ広がってきております。そういうことも,地方にある大学であっても,世界をきちんと見据えた,国際社会を引っ張っていけるような,そういう研究をやっていきたいと思っております。私どもは,22大学の一つに選ばれましたから,責任を持ってしっかりやらせていただいているということを申し上げて,地方の大学も頑張っているということのお話とさせていただければと思います。ありがとうございました。

【佐藤部会長】
 谷口先生,どうもありがとうございました。熊本大学の,科研費による研究のすばらしい成果とか,また研究政策への提言も頂きました。後で御議論をさせていただきます。それでは次に,東京大学理学系研究科の中村先生から御説明をお願いいたします。
 中村先生は,すぐれた研究実績をお持ちでおられるわけでございますけれども,それに加えて,日本学術振興会の主任研究員も歴任されております。科研費の第一人者であられるわけでございます。また,戦略的創造研究推進事業の研究主幹でもあります。では,中村先生,よろしくお願いいたします。

【中村東京大学教授】
 先生方の前で,こういう立場でお話しするのは少し緊張しますけれども,佐藤先生もおっしゃったようなことをバックグラウンドにして,私が思っていることを申します。ただし,今日,事務局のお話,それから谷口先生のお話を聞いていますと,私が申し上げますことは,全く同じ内容をリピートするようなもので,それを私の立場から,違う言い方で述べるというものであります。
 こういう説明のときには,谷口先生は学長の立場ですが,私は個人研究者の立場でやるわけで,やはり自分の研究史を述べないと先に行かないと思われます。最初に申しますように,78年に私は東工大で博士を取って,アメリカ留学して,それから95年に,東大に移りました。専門は,もともとは有機反応,今でも反応開発というのをやっていますけれど,そのうち分子機能の設計・合成,それが発展して有機薄膜太陽電池,これは三菱化学とやっていますけれど,になって,最近は電子顕微鏡に興味を持って,電子顕微鏡で化学をやる,分子を見るというようなことをやっております。基本的に全部,完全な基礎化学が発展して太陽電池になったと,こういうものです。
 研究室は,我々はビッグサイエンスではありませんので,個人経営の研究室です。これは,困ったことに,赤字も黒字も毎年許されないというので,アワード・イヤーの考え方を切に望むという立場です。1984年に,幸運にも助教授で独立研究室を持ちましたけれど,本当にお金がなかった。ただ,その頃は,大学からお金が借りられたので,1,000万円借りて,8掛けで返しました。800万円でいいと。お金が使えない学科があったので,是非使ってくれということでした。そういう時代でしたので,100万円程度の寄附金を随分集めました。会社から廃棄物をいろいろもらってきたりしました。こうやって七,八年やっているうちに助教授になって,助教授のときにたしか基盤研究Aをもらったのですけれど,重点領域研究をやったり,旭硝子資金など,研究資金は1,000万円ぐらい。90年代は,1,000万,2,000万でやってきて,教授になったぐらいから,基盤研究S,特別研究推進,ERATO。今はSイノベというのをやっています。これは会社の寄附金ですね。それから奨学寄附金。これは貯蓄が大分ありますので,いざお金がなくなっても,この貯蓄で何とか,不正をしないで生き延びられるという,そういう体制がこの10年でできていますから,ある意味でゆったりできます。谷口先生がおっしゃったように,お金がなかったらおしまいになってしまいますから,どこかで,こういう昔の大学からの貸借のようなものが必須だと今でも思っております。
 御紹介がありましたように,2003年から,日本学術振興会の学術システム研究センターの初代の研究員で,主任研究員として,化学を担当して,週に2回,2年半ばかり,毎週毎週行っていました。その後,働き過ぎがたたって,科研費の特命,改革をやれということで,更に1年,毎週行きました。それで,この科研費の将来どう改革するかという文章を,本庶先生の下で作成しました。2011年から今度はJSTの,さきがけ,CREST,ERATO担当の事業の研究主幹かつ議長という,主監会議の議長をやっております。必ずしも望んだことではありませんけれども,学振のものと科研費と,それからJSTのお金を両方ともハンドルするというまれな機会に恵まれておりまして,それで今日,こういうお話をすることになりました。
 久々に,平成19年につくったものを見てみました。これは今でも学振のホームページに載っております。今でも,ここにまとめたことは正しいのではないかと思います。科研費というのは,研究者の自由な発想による個人研究を支援するものであると。それから,状況はどんどん変化している。これも,今やますます変化しています。もともと,イノベーションの源泉であって,日常生活を支える研究成果が出ている。それから人文科学系においては,顔が見える日本としての人文科学系の重要性がますます増している。理科系は,幾ら頑張っても日本の顔にはなれません。理科系はやはり持続的な発展と人類の福祉に貢献するという出口があり,どこに行くのかというと,オンリーワンを目指すものと多様性を確保するということを同時に実現するのが科研費であると。根本的には個の力を重視して,国を支える幅広い人材育成と,ノーベル賞の卵を産んでくるような科研費というので分かれていると。これを同時にサポートする必要があるという結論は,今でも変わっていないと考えております。
 これはパンフレットから取ったものですけれども,科研費は御存じのように競争的研究資金,それから公費のようなもの,このうちの上の部分です。そしてこれが研究者の自由な発想。こちらが,いわゆる政策ですね。ですから,やはり国家プロジェクトみたいなものの一部を担うというのは余り正しくなくて,やはり個人の研究だけで押していくというものであるということが間違いないと思っています。科研費というのは個人研究で,1人でやる。それからグループ研究。同じお金をたくさんでみんな使って,グループとしての成果を上げるという意味で,国家プロジェクト,共同利用研究と大きな一線を画して行うべきであるということが,今でも正しいやり方だと思います。
 ここで,今日お話しすることの問題意識を少し述べました。私は化学者ですから,化学者として,個人商店としての問題意識です。それから学振とJST関係者としても大事だと。東大も,やっとのことで世界をリードしているというような感じですね。もう必死に頑張っている。これはやはり,今日,ここに来ているのも,だんだん忙し過ぎて研究の時間がなくなりつつある。もう一つ気になるのは,一昨年,科学技術・学術政策研究所から出たもので,恐らく化学に限らないと思うのですけれど,2nd tier以下の大学の力が落ちつつある。熊本大学に是非頑張っていただきたいのですけれども,現実的には少し世界ランクが落ちている。つまり,トップと,周り,全体がうまく支え切れていないのではないかということ。その一つの理由が,応募件数が多くて破綻しているということ。これは,先ほど重複シーズの話が出ましたけれど,これに関係があるのではないかと私は思っています。それから先端研究とバードウオッチング的研究というものが少し混在していて,これを同じ仕組みで評価するから,大分,評価自身が難しくなっている。これは先生がおっしゃった基盤研究Cの問題と関係があると思うのですが。何はともあれ,未来志向であるということは大切で,これは応用ということを言っているわけではないのですけれど,基礎研究であれ応用研究であれ,やはり未来志向であるということが大切で,それを組織的に発掘する方策が完全に欠如している。我々全体にそういう意識がないと思うんですよね。だから,せっかくの基金化が十分に生かされていないと。これは,やはり大きな研究ほど,基金化でアワード・イヤーというのはすごく役に立っていたのですが,基盤研究Cみたいなものでアワード・イヤーというのは非常におかしいのではないかと実は思います。これに関しては,繰越しをやっていますよね。繰越しの件数がどこからたくさん出ているかということを文科省に調べていただければと思います。やはり繰越しの領域が多いところに,もちろん基金化の影響が,一番メリットが出るに違いないので,これはもう,調べれば分かることだと思っております。
 それから次,本題に少しずつ入っていきますけれど,未来志向の研究者を発掘し育てる。こういうことは非常に大切で,現状では,私もそうでしたけれども,ある程度,未来志向があるのですけれども,これはそういう人に資金提供があれば成果がある。これはやはり,個人史という歴史があります。30代の前半には100万円ぐらいでもいいかもしれないですけれど,だんだん1,000万円になって,50代ぐらいになってくると,未来志向が継続する人と,もう,やめてしまう人に分かれるのではないかと思います。こういうポートフォリオを考えた上で,ファンディングエージェンシーは個人のポートフォリオに基づいて制度設計する必要が絶対あると思われます。
 これは,中心になっている若手(S)がまさにそのやり方で,私たちがいるときに,JSPS発でつくった制度なわけです。未来志向ではない研究者はどうするのかというと,これは,支援機関としては,未来志向ではない人はカットしかあり得ないと思います。学長としてはこれでは済みませんから,大学や専攻としては未来志向の人材をいかに発掘して教育,育成するかというようなこと。ファンディングとしては,未来志向ではない人は御退場願うとしか言いようがないのではないかなと思います。
 非常に具体的ですけれども,私が思うに,応募件数が増加したことで,2nd-tier以下の大学のやる気を,割を食っているのではないかと。これは実は,余りに多過ぎるために重複をカットしているのだと私は理解しています。昔は多分三,四万件ではなかったかと思うのですけれども,そもそもなぜ今,9万件にまで多くなったかというと,それはまずは10年前,資格を緩和したために,とにかく誰でも応募できるようになったと。それから間接経費がついたので,これを取ってくるように,出さないと当たらないというようなこと。これは,いい意味では,大学や学校の自立心が向上した。いいことはいいのですけれども,誰でも出さなくてはいけないということになったこともあるかもしれない。それから,これは知る人ぞ知ることですけれども,細目ごとの資金の総額というのが申請数をベースにしているのは,もしかしたらダミー申請があるのではないかという,懸念はあります。ダミー申請かどうかは,恐らくよく見てみて,きちんと書かれていればダミーではないですね。ほとんど白紙みたいなのがもしあったら,これはもう完全にダミーとしか思いようがないです。そういうことがもしかして行われているとまずいとは思います。そもそも細目ごとの資金総額,細目ごとの応募数で資金総額を決めるということ自身が問題かと思います。
 それから,それに対して文科省がどう対応したかというと,これは応募者を減らすために重複応募を制限したわけです。これは私の理解で間違いないと思います。つまり,みんな出してくれると困るということです。9万件が,みんな3件出したら27万件きますから,これはやっていけないということの対応だと思います。このために,一律の施策をやることによって2nd-tier以下が被害を受けた。つまり,採択率は20%としますと,先端研究は一回やめたら再起不能です。その後,1人PIであるような比較的小さな研究グループだと,先生は1人しかいませんから。20%しか採択率がないと,今年取れない,来年も取れないかもしれない。そうしたら,これはもうこれでおしまいです。せっかくいい成果が出ても,一発で駄目になってしまう。これは,大きな大学では比較的大きなグループを持っていますし,それから我々もいろんなチャンネルを持っていますので,科研費以外もトライできますけれども,小さいところでは本当に科研費だけ。そうすると,ここで一番割を食うのは,実は重複制限です。
 それから,これは理由は分かりませんけれど,若手も最近,2回しか若手研究を出してはいけないということになって,手持ちのカードをいつ切るかという,サイエンスと全く無関係なギャンブルをするようになっていて,これも非常にやる気を失わせています。つまり,助手でやっているときには,2回出したら助教になって,独立したらもう出せないというようなことをみんな考えて,なるべく出さないようにするとか,そういうつまらない心配ばかりやるようになっています。これは上も同じです。どちらも,サイエンスとは全く無関係な心配をしなければいけないようになったというのは,重複制限の大問題だと思います。
 そこで提案は,やはり応募回数の制限と足切りを併用する必要があるのではないかと思っています。応募回数,応募数が少ないというのは,文部科学省は実際,御存じだと思うのですけれども,実はほとんど通ったことがない人がたくさん出しています。通る当てがない人がかなり出しています。これはもしかしたらダミーかもしれませんけれども,レベルが低いかダミーかどちらか。この部分が事務負担,審査員の負担を非常に増しているために,審査の質を下げていることは間違いないと思います。
 ですので,解決策の1。例えば2年間,不採択で,かつC評価とかB評価は分かりませんけれど,不採択プラス何か悪い評価であれば,X年間受け付けないとすること。英国はやっていますし,私の理解では中国も始めたのではないかと思っています。それから解決策の2は足切りですね,トリアージュ。これは『ネイチャー』,『サイエンス』から,アメリカから外資もやっていますけれども,3分の1とか半分とか,ばっと落としてしまいます。これはやはり低レベルの申請を入り口で排除することで,よい申請を丁寧に審査することができる。せっかくシステムセンターがあるので,学術システムセンターでプレスクリーニングして,適正数までいってから,例えば外部評価の人に送るというようなことは必要だと思っています。
 それから,もちろんこうなると複数細目申請することになりますけれども,これは当然,違うテーマで出してくれないといけないと。これは谷口先生のお話にもありましたけれど,どんな人もテーマを二,三は持っているわけですから,テーマ二,三を出す権利を損なうというのは,やはり国の学術政策としては正しくないものであると考えます。
 それから,あと若手の問題,人材育成ですね。もともと若手のホープを支援するために若手(S)を始めましたけれど,今,休止になっています。この若手(S)のいきさつというのは,37歳から42歳ぐらいに大変すぐれた教授が出てくる。こういう人はみんな年々1,000万円ぐらい欲しいわけです。基盤研究Aの受領者の平均年齢は大体50歳ですから,この人が出してもまず取れない。この事態を学振にいるときにいろいろ調べて,現実にこのあたりが落ち込んでいて,ほとんどお金が取れていません。これは要検証ですけれど,私が知る限り,化学の分野ではすぐれた若手教授が実は若手(S)を獲得して,その後伸びています。それから,もう一つ,JSTのさきがけも似ていますけれども,これは分野設定が非常に限られていますから,ここで分野設定されない基礎分野の若手教授がやる気増進しましたけれど,最近,やる気がなくなってしまった。教授になってもお金が取れませんから。世代別,大学別の研究費の取得状況をもう一回よく調査して,若手の育成に効果的な,審査や配分法を教えていただきたい。若手(S)が休止になったのは,私の理解ではNEXTプログラムが実際あったからだと思うのですけれども,これは1回採択で,もう終わってしまったので,このまま置いておくと,一過的な事業で継続的な事業も中止されるという非常な不条理が連続するのではないかと思って大変懸念しております。
 それから,特別推進研究。底辺を盛り上げるという話をしましたけれども,トップも当然のことながら上に上げなくてはいけない。これは個人研究の発想を展開して世界をリードする必要がある。これはグループ研究や共同利用と全く異なる役割です。個人個人がどんどん出てきた人をピックアップして伸ばす。基礎分野の研究者の能力を鍛える必要があって,やはりこういうのは,お金をもらえますと,大変に鍛えられます。期待も大きいですから。国際競争力を支える源泉となる。これが特推である。提案書というのも,当然,英語化するべきで,やはり本格的な国際審査とすべきです。たかだか何十件ですから,これは絶対そう思います。特に,先ほど申しましたように,世界と日本の関わりの中で,日本の顔となるべき,人文系の審査こそ,国際審査にして,こんなにすばらしい研究をしているということを,国の仕組みとして押し出していく必要が絶対あると思っています。今まで,人文系は日本語でいいというふうに流れていますけれど,これは間違いで,やはり人文系ほど日本の顔としての役割を是非果たしていただきたいと,理系としては思っております。それから,CRESTと異なるのは,今申し上げたとおりで,これは戦略目標になっていますから,非常に限られていますので,基礎分野全般を支えるためには特別推進研究は必須であり。今の5億円程度というのは絶対必須だと思っています。それからもう一つは,これから述べますけれども,JST/NEDO研究などへ橋渡しを円滑化する仕組みが必要で,今は何か,ポップアップしてくるが先につながらないという状況になっています。これは今,JSTとしてこれからやる仕事だと思っています。
 これは,先ほど私の研究を御紹介いただいたもので,科研費ニュースから持ってきました。ここのポイントは,2001年から2004年までやっていた特別推進研究ですけれども,この時には,ERATOを頂くことはもちろん分かっていませんでしたし,本当に純粋基礎研究としてフラーレンアナエチルの研究をしていました。ちょうどこれを頂くという可能性が出てきたときに,20億近く使いましたから,こんなにお金を使うのだったら,やはり世の中に役に立つこと,それから真(しん)に基礎的な研究をすべきであるという自覚がある意味,芽生えて,太陽電池の研究を始めて,3年ぐらいである程度成果が出たので,これを三菱化学にテクノロジートランスファーして,先月の3月24日に大成建設と三菱化学が何か一緒に,建材でこの1年で実用化するというところまで参りました。もう一つのテーマは,電子顕微鏡,カーボンナノチューブの中に分子を入れて電子顕微鏡で見るというような,純粋に学術的なテーマも行いまして,これはお金がいろいろありますので,いろいろないい人を雇って,一緒に研究した結果として,この基礎研究でも大きな成果を与えることができました。
 最初に特推をやっているときは,こんなことは全く想像もしておりませんでしたが,それなりの成果が出てきて,お金を頂いたところで,ERATOのお金が来たところで自覚が出てきて,これは本格的にやらざるを得ないだろうということで,頑張ったというものであります。
 最後のまとめですけれども,未来志向の基礎研究を国の戦略目標につなげる方策が必要です。ここに科研費があって,システムセンターがあって,文部科学省からいろいろなところが,何かプロジェクトをしていますが,この連関がやはり,皆さんよくお気づきのようにできていないと思います。文部科学省だけを取り出してみますと,文部科学省がいて,研究者のコミュニティーがいますけれども,学振と学術システム研究センターがあって,科研費がおりてくるときにハイブリッド審査をするというふうな形になっています。赤い線が引いてありますが,右側にJST,CRDSがあり,文科省と一緒に戦略目標をつくって,目標が降りてきて,更に下に降りて研究者コミュニティーに来るということですが,今,私たちがJSTで努力しているのは,降りてきたものを上にフィードバックして,サイクルをつくるということで,これはある程度,実はこの2年ぐらいで実現しつつあります。それは文科省の岩渕室長にも実は私の会議に来ていただいて,オブザーバーといいながら大分発言していただいています。理事長か理事,それからTD,みんなで議論して,これを下に下ろして,何とか下からまた吸い上げるという仕組みをつくろうと思っています。それを更に発展させますと,この中に,緑色のものを一つつけるだけで,実はこの全体が回りだすのではないかと,個人的に考えています。それはつまり,科研費が下に降りてきて,配分申請はしますが,研究者コミュニティーから出た成果を学振として分析して,そして国の戦略目標,国の方針を立てるように,方針立案に資するような情報提供をする。これは実は文科系もそうなのですけれど。JST自身が少しものづくりに特化し過ぎているような気がします。今の産業構造は,サービス業が非常に多いわけですから,文化系こそがサービス業の社会のニーズを拾い上げて,ものづくりプラス社会を文科省に上げて,研究三局の方で,JSTにおろしていただくと,ぐるぐる回るというような仕組みができるはずだと思っております。
 最初に申し上げましたように,全体としては,要はこれだけ。センターは仕事が増えますけれども,学術動向調査をやっておられるわけですから,この中で何か,これこそが政策としてやっていくべきだというのを,文科系・理科系の先生方がよく議論していただいて,ここだけつくって,あとは文科省の中でやっていただいたら,これが自然と回るはずであり,かつ,これが今度,内閣府の方にも上がっていく可能性が十分にあります。ここが,今,全く途切れているのが非常にもったいないと思っています。それが大きな枠組みの提案です。
 科研費を基盤として,基礎研究から社会実装までが見通せるような情報フィードバック機構を備えた研究システムの設計を,来る2年,今度の基本計画に盛り込むぐらいのペースで是非やっていただきたいと思っております。私がJSTを代表して言うのもおかしいですけれども,JSTの方も少なくとも主監会議はそのつもりでやっておりますので,是非学振,それから研究費部会でも,全体像の中で議論するためには,文部科学省の壁をなくして,中でよく議論していただいて,政策をつくっていただきたいと思っております。

【佐藤部会長】
 どうもありがとうございました。中村先生,まさに研究費の第一人者でございますので,極めて具体的な提案もございました。それでは次に,戦略的創造研究推進事業。これは,新技術シーズ創出ということでございますけれども,これにつきまして御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

 事務局より,参考資料4に基づき説明がなされた。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。御発表をお願いしていた件は全て発表していただけましたので,自由に発言を皆様からお願いしたいと思っております。いずれの御発表に対しての質問でも結構でございますが,いかがでございましょうか。

【北岡(良)委員】
 中村先生のお話を興味深く拝聴したのですけれども,文科省内部でのトップダウン・ボトムアップで学術科学技術政策をより効率化させるなり,あるいは応募をまず減らしていくということはよく分かったのですけれど,ここでおっしゃるお金というのは多分,科研費が2,300億ぐらいで,JSTが500億ぐらいですよね。一方,この範囲で,最近の動きは,先ほどの総合科学技術会議の方向性,資料3にありました,イノベーション創出のための研究開発環境の再構築に向けてという提言など中村先生自身は,こういう提言に関してはどういう御意見でしょうか。

【中村東京大学教授】
 意見は特にございません。これは多分,こちらの方々も大分考えているところでしょうけど,この関係は,私には理解できない状況です。

【北岡(良)委員】
 いや,理解できてもできなくても,中村先生から見たときの,国として,総合科学技術会議が,予算を持って,長いことやろうとする方向性と,このように実績がある文科省が,基礎研究から含めて,出口志向の研究も含めてやっているような,ある種の学術政策と,ある程度,統合しないと,国としては,ちぐはぐなことになるという気がするのですけれど,その辺の方向性というのは,先生からの,御意見はございませんでしょうか。

【中村東京大学教授】
 あちらのことを全く知りませんので,これは橋本先生にでもお聞きになった方がいいのではないですか。多分,連携なく行われているのは確かだと思うのですけれども。

【北岡(良)委員】
 分かりました。

【佐藤部会長】
 勝木先生にお伺いします。中村先生から,ページ15のようなサイクルを提案されておられるわけですけれども,学振としまして,例えば,戦略目標立案に資する情報提供などと書いてありますけれども,何かこれに対応するようなものをお考えになったりしていることはあるのでしょうか。

【勝木学術システム研究センター副所長】
 ここだけお答えするのはなかなか難しいのですが,中村先生がおっしゃったことに私は非常に感銘を受けました。私も常々考えているようなことをおっしゃってくださいました。特に研究を未来志向という言葉でお使いになったのは,我々は,知の創造などと言っていますけれど,要するに新しいこと,つまり今まで積み上げたことの中から新しいことが必ず出てくるので,それに挑戦するということが最も重要なことであると考えております。しかも,ここで先生がおっしゃったのが,つまり個人に対する,個人の自由な発想に対するものが科研費の最も重要なポイントだというお話だったところが,やはり科研費にとっては一番重要なことだと思います。
 成果をどう回すかという話は,全体としてやはり十分考えなくてはいけないことで,科研費だけを取り上げてもいけませんし,おっしゃるように,いわゆるJST側の話をどうするかということだけを捉えてもいけませんし,お互いにそれはやる必要があると思います。佐藤先生の御質問に答えるとすれば,科研費の方は,成果は出るのですが,一番重要なことは,そのことによって学者が育つということです。つまり,論文を出すけれども,出せるだけの力が育ってくるということが一番重要なことで,成果がどこに持っていかれるかという話は別な観点でやるべきことのように思います。もし成果が人とくっついていろいろなことをされますと,本来もっと伸びるべき人が,もっと違うところに使われてしまって,実際は,科研費の最もよいところが失われる可能性がある。ただ,成果について,それをどう回すかということは,やはり全体で議論する必要があるだろうと私は思います。
 ですから,先ほど先生がおっしゃった,ボトムアップの成果というものをシーズとしてどうするかというのは,全体として別の問題として議論しないと,科研費がそういうもので影響を受けますと,御心配になったような,個人の自由な発想というのが時として失われることがある。言葉は悪いですが,研究者たちが使い捨てにされてしまうという要素が出てきますので,それは十分賛成ですけれども,そういう観点で見る必要があるのではないかと思います。

【中村東京大学教授】
 全くそのとおりです。ただし,成果というのは,別に人を推薦するわけではないので,人がついてなくてもいいのです。この分野は強いとか,学振にいても,みんな随分議論はいたしましたので,皆さんの中にあるコンセンサスが必ずあります。ところが,JSTのCRDS戦略センターは,別にそういう情報は何もありませんから,勝手にやっているようなところがあるわけです。個人がどうこうというより,この分野は本当に強い。この分野は10年たったら何か成果が出る,この場合だと産業応用と医療みたいな。実は日本版NIHも本当は関係があると思うのですけれど,それは応用ですけれども,応用は別にして,センターで,せっかく学術動向調査をやっていますから,ただそれを冊子にしておしまいというのではなくて,もうちょっと役立てた方が皆さんのやる気も出るとは思っております。

【勝木学術システム研究センター副所長】
 そのことについては2年ぐらい前から随分議論を始めまして,学術動向調査というのはTrends in Scienceのことですね。あるいはTrends in Technologyですけれども。そういう学術動向が芽として出ているものがたくさんあって,そういうものを十分議論した上で,この方向だという,未来をもちろん見つめての方向だということを,一つの種目というか,一つの細目のようなものにしようということで,今年度から「特設分野研究」というのを始めております。それが必ずしもすぐに,動向調査から出てくるものではございませんが,そういう議論を積み重ねて,今,試行錯誤しているところですけれども,そういう意味では,動向調査といいますか,センターの研究員の少なくとも科研費,学術というものを見据えた上で,自分の分野だけではなくて学術というものを見据えた上でトレンドを提示して,それにボトムアップの枠組みを作り,人を集めるというようなことを今年から開始いたしております。

【平野委員】
 谷口先生,中村先生,ありがとうございました。大変,重要なお話を伺ったと思いますし,この部会においてもこれまでいろいろ議論されたうちの一部を,きちんと論理的にもお話しいただいたと思います。感謝しております。
 常々,心配しているのは,先ほど谷口先生がお話されたのですが,私が現役のときで基盤的経費がある程度あったときは,次はこの装置を入れながらこの研究をやるという,次年度のために計画を立てて,また若い方が教授になられるときに,その人が一番欲しい,やりたいというところへ学科としてお貸しした。若い人が,研究室を設置するときの支援が,十分ではないけれどもできた。次の科学研究費等々に申請をして,自分の芽を伸ばす環境があった。残念ながら,今,それはほとんどできない状況になっているが故に,私は,本日,科学研究費の在り方について御提言いただいたのは大変重要だと思っております。特にそのあたりの年代の方というのは,余り年を切るわけにいきませんけれども,研究室を設置する頃の方々をどう支援するかということについては,是非全体で考えていきたいと思っております。
 もう一件お話をしますが,残念ながら,同じ省にありながら,言いにくいのですが,JSPSとJSTはもう少し全体的に議論をし,内閣府がこれだけ動くのだったら,それに応ずるような対応を是非していただきたい。しかし,科学研究費が持っている一番重要な基は,勝木先生がお話ししてくださったところは大切にしながら,リンクし,突発的にと言っては失礼ですが,プログラム方式が出て,出口だけを見ており,それが本当にいいのかと言いたいことが何件もあるのですが,そういうところをどう文部科学省全体として,きちんと提言ができる体制をつくるかということがないと,いつまでたってもどこかから降ってくるような話で進むというのは,限られた予算の中で動かざるを得ない中で,私は危惧するところです。是非,学術を基にしながら展開するルートをきちんととって動いていかなければいけない時期ではないかと思っております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。合田課長,お願いいたします。

【合田学術研究助成課長】
 大変重要な御指摘を頂いたと思っております。今日,こういう議題の際に,中村先生に御指摘を頂いたり,それから岩渕が参りまして御説明したのもそういう趣旨でございまして,先ほどの3月25日の産業競争力会議における私どもの副大臣の説明もそういう趣旨で御説明させていただきました。是非そういう全体像で,文部科学省が一つになって対外的に説明をし,趣旨というものを考えられ,大学の学術研究が活性化するように取り組ませていただきたいと思っております。

【谷口熊本大学長】
 やはり学術が,本当に市民の皆様にとって大事だと思っていただけるような,そういうことをやっていかないといけないのだろうと思います。学術が本当に我が国の将来にとって大事だということ,支援をする意味があるということをしっかりと理解をしていただかないと単に応用というか,何か役に立ったということだけになってしまうと,なかなか税金を使うということを市民の皆様から御理解いただけないという状況が出てくるのではないかと思っています。その結果として,先ほど少し言いましたけれども,各研究者は本当に50万円ぐらいしかない状況,特に実験系の多くの研究者は本当に生活費がないという状況に陥っている。そうすると,地方にいる研究者実は力があるのだけれども,研究をすることができない。研究費がないことで研究者が働かないことになれば,せっかくの研究者が無駄になっているのではないか。それは我が国にとって大変な損失になる。そういう状況をやはり変えていかないと,大学で学術を進めるという話になかなかなっていかない。一方では,学術の大切さということを,市民の皆様,国民の皆様に本当に理解していただけるようなことに対して,きちんと手を打っていかないと,学術の推進ということがなかなかうまくいかないという気がいつもしております。

【中村東京大学教授】
 少し補足をよろしいですか。これは7枚目に申し上げたのですが,資金面の年次計画,ポートフォリオが本当は要ります。昔の講座費というのは,そういうふうにできていました。助手,教授になったら講座を引く。つまり,大学でもいるだけで一人当たり恐らく2,000万円ぐらい掛かっていると思います。2,000万円も掛けているのに研究費がゼロだったら,これは全部死に金になってしまう。2,000万円も掛けているのなら,五,六百万は研究できるお金が自動的に来る。そういうのが当たり前の考え方です。せっかく雇っているのですから。昔はそれが講座費として保障されていたのですけれど,何か競争的なのがいいということになって,特に今,重複が禁止されていますから,本当にもうギャンブルみたいにして,今年はゼロで,来年,では3,000万取れた。だけど,一年か二年ゼロだったら,もうポテンシャルゼロになっていますから,これは本当にお金の使い方が無駄になっています。ですから,やはりこれは研究者のポートフォリオというものをファンディングの方,これは高等局の問題かもしれませんけれど,そういうことを考えていただきたい。いや,大学は自立しているのですから,本来は大学の問題ですけれど。そういうものの中でファンディングを考えるということが必須な時期を迎えたと考えています。

【谷口熊本大学長】
 学長裁量経費を使わせていただいて,もちろん大学の中の戦略的なものを含めて,やはりこの人は育てなくてはいけないということで,必要な基礎研究の推進や研究者育成はある程度はやらせていただいております。今まで,公(校)費でやっていた研究など,基礎的な研究は,ある種,学長裁量経費あるいは間接経費のようなものを資源にしながら,ある程度はやらせていただくことはできるのですけれど,やはりそれは限りがあります。大きい大学では何とかなるかもしれませんけれど,やはり限度があり,研究支援も10人ぐらいだったらできるけど,もう少し人数が増えるとできないとか。そういうところが死活問題としてあります。ですから,基盤研究Cというのは,本当に生活費に,なりつつあるという現状になっています。だから,それが取れなかったら大変なことになるというのがあるから,みんなそちら側―すなわち安全な小さな研究―に走ってしまう。そうすると,何か新しい次のことをやろうというのがなかなか出てこないというところがあって,少し窮屈になっているかなという気が非常にしています。

【北岡(良)委員】
 谷口先生のお話を拝聴して,使われている大学院先導機構というのは,大学のガバナンスですよね。研究の具体的強化促進経営の中でこういう形をつくられて,やはり大学院教育を意識されていると思うのですけれど。それは科研費の研究費と,あるいは語学という意味では,どういう形の工夫というか,どのようなことを実際心掛けているか,参考に聞かせていただきたい。

【谷口熊本大学長】
 私どもは,拠点形成研究という制度を一方ではつくりまして,A,Bと2区分あります。Aは1,000万から500万程度,Bは200万円以下とか,幾つか分けて,これから育っていきそうなところをまず育てています。それで,いろいろな大きなプロジェクトをつくらせて,そして外部の資金を取っていく。それを取れなかったときには,大学が支援します。それこそ先端技術は一年空白ができてすっ飛んだら,もう一遍に駄目になってしまいますから,そこはつなぎますということをさせていただき,育てていくというやり方をやらせてもらっています。

【北岡(良)委員】
 そのリソースは科研費の間接経費ですか。

【谷口熊本大学長】
 主に間接経費を使用し必要に応じて学長裁量経費など,あらゆるものを集めます。

【北岡(良)委員】
 そういう大学のガバナンスをある程度工夫しておかないと。

【谷口熊本大学長】
 もう,あれこれ工夫をしないと。

【北岡(良)委員】
 これからはもう。

【谷口熊本大学長】
 とてもではないけどできない,それは。

【北岡(良)委員】
 お上のお金をくれというだけでは駄目で,工学部もガバナンスをどういう形で工夫していくかというのがあって,今日,いいお話を聞かせていただいたと思っています。

【谷口熊本大学長】
 とにかく,大学執行部でコントロールさせてくださいと。だから,普通ではやれないこともそこではやりますというようなことをお認めいただかないと。人も必要だったら,この1年は付けますということは,やらせていただきたい。そういうことの中でしか動かせない。もちろん,そのかわり,きちんとした研究成果は教育に落とすように,という話はするのですけれど,それぞれが具体的にどういうふうになるかということを明確にするのは,難しいところがあります。最終的には人材育成のところにつなげてください。そうしないと,次の研究者は育ちませんからという話はさせていただきます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。運営交付金が確実に減る中で,大変な苦労をされていると思います。

【勝木学術システム研究センター副所長】
 先ほど中村先生がおっしゃったこと,途中で大学の問題ということをつぶやかれました。科研費が競争的資金で,しかも個人の支援をするという,根本的に重要なものを制度としてずっと続ける限りは,今おっしゃったようなことは,この制度の中でできることは,ほとんどないと思います。ただ,問題は,先生がおっしゃったようにギャンブルになっているところを少しアワード化するとか,重複制限の前提として応募件数を適切に調節できるなど工夫が必要です。それも議論あるところですが。応募件数さえ適切になれば,一回限りの挑戦ではなくて,各自にとっては,様々なチャンスを与えるということはできると思います。ただ,科研費に間接経費が付いているので,間接経費を大学などの執行部が欲しいので,とにかく申請せよというようなことになりますと,申請者に対して極めてゆがんだ科研費の姿になりつつあるのは確かです。すべては,適切・適正な運営費交付金をどう増加していくかということが,科研費の在り方を我々が一生懸命考えるときに,そこが常に重要な根本問題になります。それは同時にお考え願いたいと思います。

【佐藤部会長】
 勝木先生,御意見発信をありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。先生方,いかがでしょうか。

【谷口委員】
 ではよろしいですか。先ほどの谷口先生,中村先生のお話を伺っておりまして,大変,おっしゃっていること,また御活動に敬意を表したいと思っております。あえて,そもそも論的な言い方で大変恐縮なのですが,中村先生がおっしゃったように,顔の見える日本。これは自然科学では到底不十分で,やはり人文学,社会科学を発展させないといけないという御発言をされたと思います。これは非常に重要な視点で,やはり文部科学省がこの視点を,是非重きを置いて考えていただきたいという気はいたします。
 と申しますのは,日本の顔とはそもそも何かという,そういうそもそも論になってしまうので,これは延々と続きますのでやめますけれど,ただ,時の政府のみが学術や日本の将来を決めるというのは,かなり難しいところがあるのではないかと。政権交代するところころと変わる,といったものではないことと思いますし。政治の世界がどう変わっても,やはり学術が世界から発信する日本のあるべき姿,あるいは文化国家としての日本といったものをいかにきちんと支えていくかということこそが,僭越(せんえつ)ながら申し上げますけれども,文部科学省が担うべき,非常に重要な問題だと思います。それが,法人化の前には,先ほど平野先生の御発言にありましたように,大学等における学術を支える仕組みがある程度担保されていたわけです。このような基盤的経費がどんどん削られていくということの結末は,経済の活性化とか,そういうものだけが一人歩きをして,文化としての学問というのは何かといったような問い掛けがおろそかになりがちであるのでは,と危惧します。ちなみに私はどちらかと申しますと応用研究をやっている人間ですので,それを通して世の中に貢献したいと思っていますが,一方で,期待することは,やはり日本の文化国家としての将来の在り方といったものをしっかりと見据えた支援対応策といったものが極めて重要ではないかと思っています。このようなメッセージを学術の世界から,時の政府やいろいろなところに発信していただきたい。やはり今日頂いた資料全てに共通するように,研究の応用的な側面が強調されているのが昨今の科学技術政策の状況ではないかと思われます。私は決して,これが間違っている,これ自身がいけないとは申しませんが,これだけでは,日本の国の将来というのは,やはりおぼつかないのではないか。やはり学術の力というのは,もう少し別のところで発揮されるべきなのではないかということを思うわけです。それを担うのは科学者コミュニティーであり,あるいは大学であったりするわけです。
 もとの話に戻りますが,人文学,社会科学がいかにこれから,世の中に,日本に発信していけるような仕組みをつくるかといった点が非常に重要かと思いますので,まず谷口先生にお伺いしたいのですが,熊本大学は非常に大きな総合大学で,文学部や法学部も持っておられるわけです。先生が今日お話になったことは,新しい開発が行われたとか,そういうお話で,大変お気持ちはよく分かるのですが,先生のいらっしゃる大学で,例えば人文社会科学がかなり衰退しているのではないかというようなことをお感じになっているかどうか,これからどのようにやっていくべきかといったような御意見をお伺いできますでしょうか。

【谷口熊本大学長】
 時間の関係で文系の話は余りできませんでしたけれど,私ども,文学部は,科研費の基盤Aを五つ持っており,そちらの方もしっかりやっております。特に本学では細川家のいろいろな文書に関しての重要文化財等々の幾つかの特徴的な研究をやらせていただいていることは確かで,衰退というか,全体的に大学そのものが衰退していることはあるかと思いますけれども,文系が特に衰退しているというふうには思っておりません。
 ただ,文系の先生とお話しすると,中村先生のお話にもありましたけれど,本来,文系の先生はもっと英語で,英語というか国際語で,いろいろなものをアピールすべきだといつも言いますけれど,考え方にずれが生じます。そんなのは相手は理解してくれないのだから,国内でいいということを言われる方もいらっしゃいます。もっといろいろな人とつながって,横で連携して,いろいろな人と共著のものをつくっていただいたらどうですかという話を例えばすると,文系というのは本を単著で書くのが,全て業績として評価されるのであって,共著でやったら評価されないと,このようなこともおっしゃいます。その辺の文化は少し変わっていっていただかないと,日本の本当にいいところを世界に対して発信できないというような状況が一方ではある。ですから,グローバル化したこの社会ですから,世界の中での自分たちということを考えてくださいということはいつも申し上げています。そのようなところが,我が国の人文社会系というところは弱いのではないか,あるいは独特な世界があるのではないかと感じています。これだけ世の中が,グローバル化しているのに,なぜそこだけ非常にドメスティックで進むのかというのが不思議に思います。
 そこのところがなくなっていけば,どんどん発信ができて,衰退どころではなくて,どんどん発展していく,そのような素材は持っていると思います。でも,皆さん一人一人がばらばらなのです。一人一人それぞれが頑張るのはもちろんいい。理系といえども個人の力というのがやはり基本になりますから。しかしそれで終わらないようにもしてくださいという部分が,どれだけうまく取り込んでいけるかということが大切であるかと思います。今や,倫理の問題などというのは,医学など,いろいろなところに全部関係がありますが,そのようなところが本当に一緒にやっていけるような体制というのも,一方では必要ではないかと思っています。研究者に対しては,自分の領域だけではなくて横につながれるようなことを考えてくださいということを常に申し上げています。理系の人はそれを割と理解してくださいますけれど,文系の方はなかなか,必ずしも素直に理解していただいていないというのが現状だと思っています。

【佐藤部会長】
 谷口先生,ありがとうございました。これは,国際的な連携もされておられる金田先生にお一言お願いするのがいいと思います。

【金田委員】
 私は完全に文系の人間でございまして,すぐ役に立つということは全くできないのですけれども,しかしながら非常に長期的な,ある意味で長期的な戦略,ないし長期的な考え方が研究にも教育にも必要だと思っております。それが全てのベースになると理解しておりまして,先ほどからの御議論の論調に全く反対ではない。むしろ賛成で,いろいろもっとこういう方向にやるべきだという御提案も頂いているのは大変納得しております。
 ただし一方で,勝木先生のお話にもありましたが,日本のここしばらく,特にここ数年顕著になっていますけれど,デュアルサポートの,つまり運営費交付金の部分と,科研費になるプロジェクトの研究費の部分とが,バランスが大きく変わってきておりますので,これは文系,特に我々のような,すぐになかなか成果の出ない分野をやっておりますと,非常に深刻に受け止めざるを得ないと思っております。ですから,既に御提案いただいておりますように,デュアルサポートというシステム自体も,どうあるべきか,どういう方向性で動くべきかということを,きちんと是非ともお考えいただきたい,御議論いただきたいというのが一つです。
 それともう一つ,中村先生の御提案にありましたように,文系のものこそ国際審査が必要であるという話であります。谷口先生にも同じような話がありましたけれども。私は,大型プロジェクトを動かすときには,当然そのような方向でよろしいと思います。ただ,いろいろな研究の多様性を維持するためには,全部同じ基準にしてしまったらまずいと思っております。それこそ小さな,ばらばらの個人の研究が実は一番大事なところで,一番重要な芽をつくるところですので,それを摘(つ)んでしまうということになるととんでもないことになりますので,それを生かす方法と,大規模な形で国際発信も含めてやる方向と,二つの方向を同時に考えるべきだと思っております。

【小安委員】
 私も今の御議論をずっと伺っていて,やはり一番大事なのはデュアルサポートの在り方ではないかと思いました。先ほど中村先生も,9万件の科研費の申請があって,その中で一度も取れない人が何人もいるというお話をされましたが,ではその方々は本当に学術に貢献しない人なのだろうかと,私は疑問を持ちました。かつてであれば,公費を使って,学術を進めながら,飛躍するときに科研費を使って一歩先に行くということができました。今は,科研費が獲得できなければ全く学術に貢献できない,すなわち人材育成にも貢献できないということになっており,これは大学の大きなマイナスになっていると思います。それから先ほどもありましたが,ある研究費を取っていて先端的な研究をしていて,その研究費が1年間なくなったら全くその先に行けないということが起こります。我々は常にこのような恐怖に震えているところなのですが,そういう間の部分をきちんと大学がサポートすることも,デュアルサポートがあればできるはずだと思います。
 こういうことを考えつつ,これをばらまきと言われないようにどのように制度設計するかということがとても難しいと思うのですけれども,谷口先生がおっしゃったように,ある程度大学のオートノミーの中で,戦略的にデュアルサポートをするというシステムをつくることができるのであれば,現在の科研費と,それからその周りにある戦略創造なりと,うまく組み合わせていけるのではないかということを強く感じました。
 それからもう一点だけ言わせていただきます,中村先生は今,JSTの御仕事をやっておられますが,私もCRDSの仕事をしました。更に学術システム研究センターの仕事もやりました。これに基づく感想ですが,CRDSのところに人社系の部分を入れていただいて,一緒に議論していただくということが実は非常に大事なのではないかと,今日またしみじみ思いました。CRDSも学術システム研究センターも,両方ともきちんとした調査をしているというのは知っていますので,それをうまく生かしていただける,そしてシナジーをつくるということが,恐らく今後大事なのではないでしょうか。

【中村東京大学教授】
 今の議論,本当は,これは学振にいるときから申し上げているのですけれど,もう一歩踏み込むと,教育中心の研究費をサポートする競争的研究資金と,最先端研究をサポートする,科研費になるのかな。それを本当は分けるべきです。先ほどから何度も申し上げているのですが,二つが実は両方あるので,これを一度に混在させるから話がおかしくなってきています。ですから,いずれも審査はするわけですけれども,一応,学部マスターだけで,例えば大学が動いているところのための資金,競争的研究資金。それからドクター,ポスドクがいて,世界的な競争をやっているときの研究資金は,本当は分けられるといいのですけれど,そうすると今持っているものが減らされるのではないかとか,いろいろな思わくがあるでしょうから,うまくやる必要があるのですけれど,本来はそうなのかなという気はしております。

【甲斐委員】
 私も今のお話をずっと聞いておりまして,大変学ばせていただきましたし,谷口先生と中村先生には大変いいお話を頂きましてありがとうございました。特に科研費の未来志向の話とか,大学の危機的状況とか運営のことに関しては,大変同意するところがありまして,勉強させていただきました。
 先ほどからの議論で,ここは研究費部会ですので,やはり研究費全体を考えなければいけないと思うのです。ただし,どうしても私たちが一番見えるのは科研費というか,皆さんが一番身近で取れるものが科研費ですから,全ての問題を,科研費に集約してきているような傾向がどうしてもあると思うんですね。先ほどの解決方法のところで,皆さん言ってらっしゃるように,デュアルサポートがなくなったのはすごく大きいのですけれど,それを例えば科研費の間接経費で,その大学に集中して,それで何とか補うという。これは,弊害が生まれると思います。ほかの大学の学長の先生などがよくおっしゃるのですけれども,谷口先生のところ,熊本大学はとても基盤Aをたくさん取ってすばらしいと,先ほどおっしゃっていましたけれど,文学部とか人社系の学科の方の人材というかポストがなくなりつつあると。消えてしまうのではないかという発言を聞いたことがあります。それは,つまり間接経費をプールにして,そのようないろいろなサポートをするという考え方で立っていると,間接経費を稼ぐところにどうしても重きを置いて,稼がないところはだんだん手薄になる。全ての経費が人件費も含めて,全てのプールで減っていく。そうすると全ての学科を維持する,教室を維持するだけのお金がなくなる。そうするとどうなるかというと,人社系にしわがいく。これは大変,日本の未来にとって大きなことだと思うんです。応用的な役に立つ研究ばかりで日本の科学が成り立っているわけでは当然ないですから,先ほどの顔の見える方というのが育つのは,すごく重要なことだと思います。顔の見える方は,必ずしも国際的共同研究をされている方でもないですので,やはり学問の多様性と,それを守るためには,研究費全体のシステムをきちんと考えるべきだと思いますが,それを全て科研費とか間接経費とかに回さないで,真剣にデュアルサポートのことも考えなければいけないと思います。
 それから,私たち,科研費は一番見えますので,科研費だって,まだまだたくさん改革しなければいけないと思いますし,先ほど,先生方の御発表にありましたように,申請件数が多過ぎて,審査もうまくいかなくなってという,そういう弊害がだんだん大きくなってきて,科研費のシステムというのも,そもそものところから戻ってきちんと考えたり,審査制度も考えたりとか,改革していかなければいけないことはたくさんあると思います。ただし,科研費ばかりではなくて,実を言うと,それ以外の競争的資金も動いているのですけれど,そちらの方は,多くの人たちには見えない。総額にしたら,全然科研費より小さいと,先ほどから何回か声がありますが,受けている人の人数の比率で言ったら,受けている人はすごく少ないわけで,単価が高いわけですね。そういうお金が,多くの研究者が見えない形で降ってくるという印象がある,一般の研究者はそういう印象があるものが多いです。突然,政策で立ち上がったものなどは特に何も見えないのです。なぜか突然降ってくる。なぜか突然終わる。そのようなことに関する検証とか評価というのが,科研費ほどは行われていないと思うんですね。科研費に関してはよく見えるから,ものすごく一生懸命,どうするべきだ,改革するべきだとか,それから評価もして,あれがよくないとか,みんなで言うのですけれど,あちらの方は何も見えないということが,やはり大きいと思うんです。それが起きたときに,科研費制度とか大学制度にまで影響を及ぼすんですね。科研費総額から比べれば少ないですけど,個々の人たちに関してはものすごく大きなお金なので,例えば科研費で言えば,かなり大型の,すごくみんなが頑張ってトップしか取れないようなお金が突然降ってくるわけです。そうすると,先ほど何か,若手のがなくなるディスカレッジといいますけれど,ああいうのが降ってきて,そこで雇われたポスドクたちというのがほかの科研費に流れられなくて,またディスカレッジになったり,そういう弊害もある。だから,そのようなこともあわせて,ここはせっかく研究費部会なので,科研費制度の改革ももちろんですけれど,個々の研究費全体を見える仕組みを考えるとか,みんなで何か改革をできるようなことも考えることが必要ではないかと思います。ですから,大学存続の意味として,基盤的経費といいますか,デュアルサポートがすごく大事だと思いますし,もう一つは,大きく研究費全体をみんなでしっかり討議していくというのが,今,大事ではないかと思います。それぐらい大学が今は疲弊しているのではないかと思います。
 もう一つ,小さなことを言いますけれど,教育的な資金という,研究費サポートみたいなのが要るのではないかと言っていたのですけれど,これも大変大きな問題で,実を言うと,大学生とか大学院生の教育に科研費が少し貢献しています。大きな声では言えないのですけれど。基盤経費がないので,教育用の何か小さな実験機材も買えない。ですから,自分の研究で買ったものを使わせてあげるといいますか,もちろん自分の研究でも使いますから,それは決して違法な使い方ではないとか言いながら,そうやってまでして学生を育てる。これは私,間違っていると思います。こんなことをしなければいけないようにしていってはいけないと思います。そうしないと,研究用の人材を育てるための経費も競争的資金で稼げというふうに言うのだったら,競争的資金を稼げる先生とか大学でないと,研究者を育てる教育ができないのではないかという。これも間違っているのではないかと思うのです。ですから,そういうことをもう少し,基礎からみんなで考える時期ではないかなと思います。

【西川委員】
 私は,この4月から学振に移りましたので,学振の職員の立場で意見を言わなければいけないのかもしれませんけれど,3月まで旧六の大学におりまして,谷口先生のお話が非常に身につまされました。まさに同じ努力,苦労をしてまいりました。そこのところで感じたことというのは,やはりデュアルサポートの問題です。基本的な運営費交付金が減らされているということに対して,大学の執行部自体が,いかに外部資金を取るかでやっきとなり,大学自体が疲弊し,それから教育もゆがめられている。そうしたことを,身をもって感じてまいりました。谷口先生のお話にもあったように,先生のお話は旧七帝大と旧六,それから地方大学という形で対比させてお話ししてくださったのですけれど,それは本当にそのとおりだと思います。確かにトップクラスの研究や人材を育てるのはいいのですけれども,それは砂上の楼閣であって,周辺を固めずに砂の上に塔を建てても仕方ないということです。その周りが本当に疲弊しきっているという感じがいたします。やはりそれには,研究費の面から申しますと,さっき甲斐委員が言ったような形で,科研費ではない,いつの間にか降って湧いたような,あるいは幸運にも取れたというような大型のプロジェクト,それらが大学そのものをゆがめているという感じがいたします。
 私たちは,いつも組織改革というものを迫られておりました。それは何かというと,こういうふうな研究分野を育てたいというのではなくて,むしろこういうことをやれば外部資金が取れる方向に行きます。はっきり言ってしまえばそういう形で,いつも競争を強いられてきたわけです。確かに科研費も,いろいろな面での見直しというのは必要だと思うのですけれども,それ以上に,それ以外の競争的資金が,今の教育・学術の分野をすごく疲弊させているということを認識しておく必要があると思っております。

【谷口委員】
 先ほどの続きですけど,こういう貴重な時間で,皆さん御議論に参加されて,何度もこの議論が出たと思うんですね。しかしながら一向にこれが行政,政治といったところに生かされないというような状況もあるわけですけれども,何かその仕組みのようなものというのは考えられるのですか。例えば研究費部会で議論しました。あるいは学術の基本問題検討委員会で議論いたしました。それで終わりではなくて,これをやはり科学技術・学術審議会の総会で議論していただいて,会長が文部科学大臣に提出していただくとか,あるいは政務戦略等,きちんとそういう議論をしていただくとか,それは相手側にとっても大変歓迎すべきことで,こちら側がアプローチをしないと,向こうからいつまでも来るのを待っているわけにもいかない。何かその辺の仕組みがあると,せっかくの議論がますます実のあるものになってくるのではないかという気がします。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。全くそのとおりでございまして,本当に,科学技術・学術審議会自ら,公費の着実に減っているような現状を打破することは,もう当然に訴えるべきことだと思っております。

【谷口熊本大学長】
 よろしいですか。私は今,国立大学協会の副会長をやらせていただいておりますけれど,それもある種,機能を分けてというか,そういうことで提案をまとめて政府とお話をさせていただくように,その準備のようなものはやっております。それぞれの,例えば文系を中心とした,大学教育系を中心とした考え方や意見がありますので,それぞれのところで,その意見をまとめるという作業もやっております。そのようなところで,いろいろなところとつながれるかと思っております。

【佐藤部会長】
 国大協でも頑張っていただきたいと思います。また,科学技術・学術審議会でも根本問題をまとめておりますし,これは平野先生を中心にやっておられると思います。
 それでは,御時間が来ましたので,今日の議論はこれで終わりにしたいと思います。貴重な御意見をお二人の先生から頂きましたし,これを今後の我々の審議の材料に使い,また学振の方のセンターでも有効に反映させていただければ有り難いと思っております。

―― 了 ――

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