第7期研究費部会(第10回) 議事録

1.日時

平成26年6月17日(火曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)など研究費の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,奥野委員,平野委員,大沢委員,金田委員,小安委員,谷口委員,野崎委員,上田委員,浦野委員,有信委員,金子委員,勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長,村松日本学術振興会学術システム研究センター副所長,佐久間日本学術振興会研究事業部長

文部科学省

小松研究振興局長,山脇大臣官房審議官,磯谷大臣官房審議官,安藤振興企画課長,合田学術研究助成課長,下間参事官(情報担当),前澤学術研究助成課企画室長,高山競争的資金室長,他関係官

5.議事録

【佐藤部会長】
 時間となりましたので,第10回研究費部会を始めたいと思います。皆様,御多忙のところ御参集いただきまして,ありがとうございます。
 本日は,まず科研費に関する最近の動向や,これまで頂いた御意見などにつきまして,事務局から御報告を頂きます。
 次に,これまで三回にわたって科研費の改革や方向性について審議するために,学長レベルの方から若手まで,御意見や御提言をお伺いしました。今回からは科研費改革の基本的な方向性のまとめに向けて,お伺いした御意見や御提言も踏まえまして論点を整理し,議論を行っていきたいと思っております。
 本日は,科研費改革を考える上で必要不可欠であります大学改革やデュアルサポートの再構築につきましても議論を深めるために,中央教育審議会大学分科会所属の株式会社ニチレイ相談役の浦野光人委員,東京大学監事の有信睦弘委員,筑波大学大学研究センター教授の金子元久委員の三人の先生方にも御出席いただいております。
 それでは早速,議事に入っていきたいと思います。第1,科研費に関連する政府内の最近の動向につきまして,事務局から御説明をお願いいたします。よろしくお願いします。

【前澤企画室長】
 学術研究助成課企画室長の前澤でございます。今から30分ほどお時間を頂戴いたしまして,事務局より配付資料の御説明を申し上げます。
 まず資料番号ですと,前後しますが,資料2-2の丸1を御手元に御準備いただけますでしょうか。こちらの資料2-2によりまして,最近の政府内の動向を御紹介いたします。この研究費部会の場で課長の合田から何回か御説明いたしましたとおり,昨年は科学技術イノベーション総合戦略でも課題解決型志向の科学技術イノベーション政策の包括的パッケージという点に主眼が置かれるなど,出口志向の傾向が強うございましたが,今年度は産業競争力会議,また総合科学技術会議の議論を含めて,いろいろと変化がございます。
 まず資料2-2の丸1,こちらは学術分科会で,5月26日に取りまとめられました中間報告でございまして,先日,平野分科会長から科学技術・学術審議会の総会にも御報告を頂いてございます。何回か御紹介している資料ではございますけれども,改めましてポイントだけ御説明させていただきます。まず,ページ数は右下の大きい方の数字を御覧いただいて,その7ページでございます。こちらでは「国力の源」としての学術研究ということで,まず今後の学術研究に期待される役割といたしまして挑戦性,総合性,融合性,国際性,このような要請があると規定されてございます。
 それから,学術研究をめぐる課題でございますけれども,まず10ページ,11ページでデュアルサポートの隘路(あいろ)と背景について説明をしてございます。10ページの下から二つ目の丸でございますけれども,我が国の大学は,基盤的経費と競争的資金によるいわゆるデュアルサポートシステムという基本構造によって支えられてきました。しかしながら,このデュアルサポートシステムにつきまして,大学関係者からは,基盤的経費と競争的資金の適切な配分についての議論が行われることが十分にないまま前者が削減され,後者は短期的な資金が制度ごとに縦割りで配分されていて連携が不十分であり,全体として非常に非効率であるために,安定的な教育研究活動や全学的視点に立った大学の構想力が阻害されているとの批判がされているという指摘がございます。一方で大学の外からは,基盤的経費の配分が固定化しており,大学内での予算,人材や施設,スペースの配分が既得権益化し,社会の変化に対応した有効な資源配分がなされていないのではないかという批判があるという指摘でございます。
 11ページになりますが,これらの二つの批判は,例えば大学において,全学的視点に立って資源配分を行うマネジメントシステムをよりよく機能させるべきという問題意識では共通しておりまして,その根底には(1)(2)(3)のような課題があると考えられると指摘されてございます。
 更に13ページでは,その課題を踏まえました具体的な取組の方向性を示してございます。上から3分の1ぐらいのところでございますが,デュアルサポートシステムの再構築ということで,二つ目の丸を御覧いただきますと,まず運営費交付金等の基盤的経費については,以下のような大学の取組を前提として,国がその確保・充実に努める必要があるとされてございます。例えば,人事給与システムの改革や,卓越した大学院の課程の形成,それから研究支援体制の強化や大学事務局改革,ガバナンスの確立と教育研究組織の最適化,更に一番下でございますが,国立大学改革プランを着実に実行することが必要であるという指摘がございます。
 14ページは科研費の基本的な考え方でございますけれども,科研費につきましては,これまでも審査体制の充実や基金化の導入など,学術研究の発展の観点から様々な改革を行ってきたところでありますが,更なる充実を図るため,四つの方向性が示されてございます。一つ目は,より簡素で開かれた仕組みによる多様な学術研究の推進と,その分野横断型・創発型の丁寧な審査の導入や応募分野の大括り化等,二つ目が,学術動向調査などの学術政策や科学技術政策への反映,それから科研費の研究成果等を最大限把握・活用するためのデータベースの構築等,三つ目が,グローバル・リサーチ・カウンシル等の交流や連携も活用した国際共同研究や海外ネットワークの形成の促進,それから四つ目が,卓越した若手や女性,外国人,海外の日本人など多様な研究者による質の高い学術研究支援の加速,これらのための改革に,研究者としてのステージや学問分野の特性などにも配慮しつつ取り組むことが必要であるとされてございます。
 なお,学術研究助成基金につきましては,今まで示されたような丁寧な審査の導入等により必要となるアワードイヤーの実現や,海外研究者との国際共同研究等の推進において,会計年度の制約がその支障になることのないようにするなど,研究費の成果を最大化する観点から,その充実を図るとされているところでございます。
 続いて15ページ一番上の丸でございますけれども,科研費以外の競争的資金につきましては,今まで示されたような基本的な考え方を一つの横串として位置付けて改善を図ることが,結果としてはそれぞれの資金の目的の最大化につながるという観点から,今後,総合科学技術・イノベーション会議において政府全体の立場でその改革について議論する必要があるとされてございます。
 更にその下でございますけれども,若手研究者の育成・活躍促進としまして,自立を促しつつも適切にサポートする体制の構築や,その次ページの一番上の丸でございますが,若手研究者が将来的に国際的な学術コミュニティーにおいてリーダーシップを発揮することが肝要であり,更に若手研究者の安定的なポストを確保することが必要であるので,そのためのテニュアポスト等で雇用するような仕組みの構築,このようなことが示されているところでございます。
 それから,資料2-2の丸2に行っていただきまして,まず一番上が5月23日の総合科学技術・イノベーション会議で配付されております科学技術イノベーション総合戦略2014の原案でございます。5ページ目になりますけれども,関係するところだけ御紹介いたしますと,第3章科学技術イノベーションに適した環境創出というところで,横長のページの左下でございますが,(2)多様な「挑戦」と「相互作用」の機会の拡大というところで,まず全体俯瞰(ふかん),イノベーションシステムの最適化という視点による政策運営が求められていると述べられてございます。
 それから7ページ,横長のページの左下でございますけれども,こちらにも大学改革についての記載がございます。その「大学改革については」で始まる段落の中ほどでございますけれども,「文部科学省は」とされまして,特に国立大学について国際的に競争力ある世界最高水準の分野や,それを基盤とした新領域を対象として卓越した大学院の形成を進める,ガバナンス機能の強化や学内資源配分について恒常的に見直しを行う環境の醸成等を強力に推進する,また第3期中期目標期間が開始する平成28年度に向け,新たな仕組みの構築を検討するとされてございます。
 その同じページの,今度は右下でございますけれども,丸3が研究資金制度の再構築でございます。1枚ページをめくっていただきますと,我が国のイノベーションシステムが効果的に機能するように研究資金制度の改革に着手するとされておりまして,特に科学研究費助成事業につきましては,より簡素で開かれた仕組みの中で「知」の創出に向けて,質の高い多様な学術研究を推進するとともに,各分野の優れた研究を基盤とした分野融合的な研究や国際共同研究,新しい学術領域の確立を推進するための審査分野の大括り化や審査体制などに係る改革を目指すとされておりまして,学術分科会でおまとめいただきました中間報告と同様の内容が盛り込まれているところでございます。
 その次に御用意しております資料の,15ページからが経済産業省の産業構造審議会産業技術環境分科会研究開発・評価小委員会の中間取りまとめ案でございます。こちらもポイントだけでございますけれども,31ページの横長のページの右下でございますが,全体としましては現状を踏まえた今後のイノベーションシステムの基本的考え方の章でございます。こちらで独創性の高い基礎研究の実施が大学の最大の役割と明記されているところでございます。
 さらに最後の資料となりますけれども,61ページからが財務省の財政制度等審議会で5月30日にまとめられた基本的考え方でございます。こちらの71ページでございますけれども,この基本的考え方では,財政支出につきましてはどの分野でも極めて厳しく,今後の財政の長期見通しなども踏まえて厳しい見方が示されているところでございます。71ページの左上,(2)国立大学改革と,教育分野の中では特に国立大学改革につきましても言及がございまして,こちらでも,各大学が機能強化の方向性をそれぞれ定めた上で教育研究組織を柔軟に見直し,資源配分の重点化を行っていくことが必要であるとか,一般運営費交付金も含めた運営費交付金全体をめり張りある配分を行うことができるように,実効性のある配分方法の見直しを行う必要がある,国立大学の機能強化の方向性に対応した制度規制の枠組みを検討するということが指摘されてございます。
 その次に,資料2-1の「科研費制度をめぐる状況」というデータ集についてポイントを御紹介いたします。まず初めの数ページが大学をめぐる状況ということで,大学関係,科研費関係,それから科研費以外の競争的資金関係のデータを入れてございます。
 4ページでございますけれども,大学関係の主要経費の推移,これは文部科学省の予算の面から見ましたその経費の推移でございまして,平成17年から平成26年予算までの表でございますが,平成24年度,それから平成26年度予算では少し増額しているものの,全体的な傾向としては厳しく減っており,特に国立大学関係で減額が大きいということでございます。
 それから5ページでは,その国立大学の運営費交付金の大学別推移をお示ししてございまして,同じ国立大学でありましても,左端の東京大学と右端の方にございます地方の単科大学とでは運営費交付金にもほぼ50倍の差があるということでございます。
 また個別の大学を見てまいりますと,6ページは東京大学の例でございまして,平成16年度と平成24年度の経常収益,経常費用をそれぞれ比較したものでございます。東京大学の経常収益を見ますと,例えば平成24年度には競争的資金が235億円からほぼ300億円に増えており,それに伴いまして,経常費用としましては教育研究経費等も602億から約200億円増えて793億円なっているという状況でございます。
 一方,7ページの新潟大学でございますけれども,こちらは競争的資金も8億円から29億円に増えてはございますが,それ以上に附属病院収益が増えているという収益構造が御覧いただけると思います。一方,経常費用につきましても,教育研究経費等が58億円から85億円へ伸び,その一方でやはり附属病院の経費の方も増えてございまして,162億円から約1.4倍の237億円になってございます。
 8ページの東京学芸大学の例でございますけれども,こちらは経常収益,経常費用ともに平成16年度から平成24年度にかけて縮んでいる例でございまして,経常収益の方で見ますとやはり運営費交付金収入が減っております。また経常費用の方では人件費の削減があったというところかと考えております。
 9ページが,競争的資金の間接経費受入額の推移を示したものでございます。平成24年度の競争的資金の間接経費受入総額は743億円で,そのうち536億円,全体の約70%程度を科研費採択上位の30機関で受け入れておりまして,間接経費収入も大学によって非常に差があるということでございます。
 また,10ページは科研費と科研費以外の間接経費の推移を大学別に表したグラフでございます。一般的な傾向といたしまして,科研費の間接経費は割と安定的に伸びている一方,科研費以外の間接経費では,一番多くの額を取っておられます東京大学や京都大学におきましても年によって非常に大きな差があるということでございます。
 それから,そこから数ページのデータは,既出のものでございますので省略させていただきまして,16ページからは科研費をめぐる状況の御説明でございます。16ページから17ページは,元文部省の主任学術調査官でいらした飯田益雄先生がまとめられました『科研費ヒストリー』という本を基にしまして事務局でまとめた科研費の沿革でございます。科研費制度は,御案内のように大正7年に,その基となる制度ができましたけれども,そこから大きな変革のありましたのは,昭和40年に科学研究費交付金などを統合しまして,今の科学研究費補助金というものになりました。それからさらに昭和43年には科研費制度の基本となる研究種目,それから書面審査と合議審査による2段審査方式が導入されまして,2段階審査方式のピアレビューは,このときから半世紀ほど科研費を支える審査の大きな方法となったわけでございます。
 17ページの下の方の黒の枠の中にまとめてございますけれども,近年の科研費では主に使い勝手を良くするという面での制度改善をいろいろしてございますけれども,科研費の大きな枠組みは昭和43年にできて以来,根本のところは変わっておりません。
 18ページは科研費を獲得した研究者数のデータでございます。科研費の採択率は各種目ならすと大体3割ということで,ばらまきという言葉で批判されるようなときもございますけれども,現実といたしましては,その左のグラフにて過去3年間の登録研究者と新規採択数の状況を示しておりますように,例えば平成25年度におきましては,登録研究者数,すなわち科研費応募資格のある方が約27万人,そのうち新規採択数が2万6,000件でございまして,約10%,つまりトップ1割の研究者の方が科研費を獲得している状況でございます。
 20ページが年齢別の応募採択状況,新規採択の状況でございます。こちらを見ますと,新規採択としましては30歳から40歳前半ぐらいの方が次第に多くなっておりまして,そのピークは30代後半に来ております。
 21ページは研究種目別・年齢別の新規採択率でございます。全体的には30代後半にどの種目もピークがあり,そこからだんだん降下しているということかと思います。それから基盤Cの採択率は20代から30代にピークがありまして,また60代でも上がるという傾向がございます。また特別推進研究は50代から60代のところに採択のピークがございます。
 22ページは年齢別の科研費の採択状況でございますけれども,35歳から39歳,それから40歳から44歳,このセグメントのところで若手研究から基盤研究にスイッチするという傾向が,明らかに見て取れるところでございます。これは種目のデザインからいっても当然かもしれません。さらに,それぞれの種目のピークの年齢を見てみますと,若手研究のA,Bでは35歳から39歳,それから挑戦的萌芽では40歳から50歳,54歳のところ,基盤研究のCでは40歳から49歳,基盤研究のBでは50歳から54歳,基盤研究のAでは50歳から59歳,さらに基盤研究のSでは55歳から59歳,特別推進研究では60歳から64歳というセグメントになってございます。
 25ページは科研費の顔と言われます特別推進研究の研究代表者の先生方の採択経歴でございます。左の方の赤いグラフが分野ごとの複数回採択者の状況でございます。それから右の方の青いグラフが特定推進研究を取られた先生が,それ以前に科研費のどの種目を取っておられたかのデータでございます。
 26ページ,27ページ,28ページと,それぞれ人文社会系,理工系,それから生物系の,何人かの典型的な先生方が特別推進研究をお取りになるまでにどのような科研費を取っておられたのか,データを調べて表にしてまいりました。
 29ページからが科研費の重複応募・受給制限についてでございます。去年の秋に文部科学省におきまして,全国立大学及びそれ以外の研究機関で科研費交付件数が58件以上の計200機関の事務局に回答をお願いしましたアンケートの集計結果でございます。まず重複応募制限につきましては,約65%から適当であると思うという御意見がございました。一方,厳しいと思うという御意見の中には,基盤研究C,若手研究Bと挑戦的萌芽研究への同時応募ができない,あるいは同一種目でも異なる研究テーマを同時に応募することができないというような理由が挙げられてございます。また科研費とほかの競争的資金との重複制限をもっと厳しくすべきであるというような御意見もございました。
 38ページも同じ科研費に関するアンケートの調査結果からでございますけれども,こちらはポスドクへの応募資格の付与についての調査でございます。科研費により雇用されるポスドクについては,約半数が応募資格を付与,ほかの約半数が応募資格を付与していないということでございます。科研費以外の外部資金,それから運営費交付金等の内部資金により雇用されるポスドクについても同様の設問で,応募資格を付与している,していないを調べておりますが,これを見ますとポスドクの方には科研費という独立して研究を行う資金の応募資格がかなり制限されているような状況も見て取れるところでございます。
 それから46ページは女性研究者の科研費採択状況でございます。平成23年には,科研費全体の予算の伸びがございましたので,ここで女性研究者の新規採択件数につきましてもやはり大幅に件数が伸びてございます。
 それから47ページが女性研究者と,それから男性研究者の種目別・年齢別の科研費の採択状況を比べたものでございます。まず左の方のグラフを御覧いただくと,基盤研究B,基盤研究Cにおきましては,男性よりも女性の新規採択率が高くなってございます。また右の方の男女比較の折れ線グラフでございますけれども,女性の方の折れ線グラフを御覧いただきますと,少し見て取れる傾向としましては,研究スタート支援,挑戦的萌芽,基盤研究B辺りの種目において女性では30代後半から40代の後半に少し落ち込みが見られます。それから基盤Aを取られるのも40代後半からです。一方で男性は,基盤Aにつきましては30代前半からだんだん伸びております。このデータだけでははっきりしたことは言えませんけれども,いわゆる女性のM字カーブに少し似たような傾向もあるかとも考えられます。
 それから49ページはサイエンスマップに基づく我が国の研究の多様性に関する分析でございますけれども,英国やドイツに比べて日本の研究領域の多様性は低く,特に学際的・分野融合的領域におきましては,弱みが見られるということでございます。
 それから,その次の50ページは科学出版物と共著論文の国同士の結び付きの強さ,弱さを図示したものでございます。1998年と2008年の状況を比べまして,世界的には国同士の結び付きが強くなっている中で,日本は,ほかの国との結び付きがやや後れをとっていることがお分かりになるかと思います。
 52ページでは谷口委員から事務局に教えていただきました資料をこの場で御紹介させていただきます。National Academy of Sciencesの機関誌に投稿されていました小論文でございます。アメリカの生命医学分野研究でも,言うなれば日本と同じような状況があるということでございまして,10年の間に,この生命医学分野研究の研究予算が25%減少した結果,例えば,短期的視野に基づいた研究が多くなってしまった,権威の高い学術誌への投稿プレッシャーによるモラルの低下が起こった,あるいは博士課程学生や若手研究者のポストが非常に足りなくなっている,それから研究機関にとっては間接経費を目的とした競争的研究資金の獲得競争が起きた結果ソフトマネーによる雇用が拡大して若手研究者のポストが非常に不安定なものになっているということが紹介されてございました。
 それから53ページは学術分科会の中間報告でも述べられましたグローバル・リサーチ・カウンシルの御紹介でございます。こちらは2012年に設立されました全世界的な学術振興機関の長によるフォーラムでございまして,日本からは日本学術振興会と科学技術振興機構が参加してございます。毎年1回の年次会合を重ねておりますけれども,来年の5月には東京で70か国以上の機関が参加しまして,「科学におけるブレークスルーに向けた研究費支援」と「研究教育に関するキャパシティ・ビルディング」の議題で開催されることが決定されております。
 それから54ページ以下が科研費による成果の御紹介でございます。まず54ページは科研費関連の新聞記事数の推移でございまして,左側の赤い棒グラフが2011年4月から2014年2月までの記事数でございます。大まかに言いまして2011年,2012年,2013年と年ごとの括りにしてみますと,徐々に記事数が増えているという傾向は明らかにございます。
 それから57ページ以下がノーベル賞などの画期的な成果をもたらした科研費の研究成果の具体例でございます。白川秀樹名誉教授,野依良治理事長,山中伸弥教授,いずれの方もノーベル賞を受賞されました研究の本当に萌芽的なところは科研費でお支えしたということでございます。
 その後ろの資料も具体例が続いておりまして,いろいろな産業的な成果,経済的効果のあった成果,例えば66ページの岩手大学の高木教授の御研究では,元々放電プラズマ電気エネルギーに関する研究が,予期せずシイタケの栽培につながったというような,科研費の研究がその後,本当に予想もしていなかった展開となった成果など,幾つかの成果例を御紹介してございます。
 次に資料3はこれまでの研究費部会における先生方の御議論につきまして,ヒアリングでおいでいただいた方々の御意見も含めまして,項目ごとに整理をしたものでございます。本日は主に左の方の欄でございますけれども,現状と課題を中心に御説明いたします。
 まずデュアルサポートシステムの再構築につきましては,例えば科研費の獲得ができなければ学術研究や人材育成が不可能な現在の状況は大学にとってマイナスという御意見がございました。
 それから,制度の基本的構造のところでございますけれども,例えば上から二つ目で,科研費は個人の力に立脚して研究の多様性の確保や国を支える幅広い人材育成,それからオンリーワンを目指してノーベル賞の卵を産むような研究を同時にサポートする必要があるという御意見。それから五つ目の最後でございますけれども,ボトムアップの研究成果は優秀な研究者が多様な分野や融合領域に挑戦し,開拓することを促すという観点で捉えるべきという御意見や,基礎研究から生まれる独創的な成果こそハイリターンを生み得る研究成果となる可能性があるという御意見,科研費の成果をいかに応用につなげていくかということは大事だが,その側面だけでは「文化としての学問」という観点がおろそかになる傾向があるという御意見がございました。
 その下の応募・審査の在り方についてでございますけれども,科研費は地方大学の活性化に大きな役割があるという御意見や,重複応募制限により若手研究者が本来のサイエンスとは無関係な応募のタイミングなどを心配しなければならない状況がある,あるいは研究者が元々少ない地方大学は研究費を取りにくくなっているのではないかという御意見,それから大学では研究者により大きな研究種目への挑戦を促しているのに,重複応募の制限により,研究者が少額の研究費の確実な獲得を考えて申請を行う傾向があるのではないかという御意見,また,特に大規模科研費は業績のある著名な研究者に集中する状況があるのではないかという御意見,「未来志向」の先端研究とそうではない研究が全く同じ仕組みで審査・評価されているという御指摘,それから,科研費に試行的に設置した特設分野研究の審査結果を踏まえた議論が必要という御指摘がございました。
 2ページ目は若手研究者の養成についてでございますけれども,下から二つ目で,日本にはテニュアトラックで失敗したときの受皿が少な過ぎるという御意見や,一番下の,日本の博士課程では多様な育ち方をする場が十分に与えられていないという御意見,博士を取ってポスドクで修練を積んだ人が実業,産業の世界でも能力を発揮できるキャリア教育が必要という御意見がございました。
 その下の女性研究者の支援につきましては,特に地方大学において夫婦でポジションを確保できるようなダブル・アポイントメントの導入なども御提言がございました。
 その下の国際化の促進加速につきましては,今の審査方法では本当に国際的に実力のある研究者や先端的な研究テーマを選び切れていないのではないかという御意見,科研費制度には徹底的な発信支援の役割があるので,国際発信を拡大していくことが必要であるという御意見,また,人文社会科学分野における国際化も重要だという御意見がございました。
 科研費の研究成果や学術研究の最新動向の積極的な発信につきましては,JSTやJSPSの互いの連携,それから異分野の研究者が一緒に研究できるような体制も必要ではないかという御指摘があったところでございます。
 最後に,資料1は今後の科研費の在り方についての基本的な視点について(素案たたき台)でございます。こちらは佐藤部会長から,本日以降の議論でどのあたりに焦点を絞って御議論いただくかを事務局で整理してお示しするようにという御指示も頂きまして,学術分科会中間報告の科研費改革に関する基本的な考え方や,先ほど資料3に基づき御説明したようなこれまで頂いた御意見も踏まえ事務局でまとめたものでございます。
 一番上でございますけれども,こちらは「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について(中間報告)」で示されました挑戦性,総合性,融合性,国際性といった現代的な要請に着目しつつ,科研費の審査や応募分野を,丸1,多様で水準の高い学術研究の推進の観点とともに,丸2,そのような質の高い多様性を基盤とした分野・細目にとらわれない創造的な研究を促すといった観点も踏まえて見直すことが求められるのではないか。
 二つ目は,女性や海外の日本人,若手を含む優秀で多様な研究者が学問的水準に基づく審査の評価を得て,学術研究を持続的に発展・展開することができるという観点から科研費の仕組みや審査の在り方等を見直すことが求められるのではないか。
 三つ目は,我が国の学術研究が国際的な研究者コミュニティーをリードしていくためには,若手研究者を中心として質の高い国際共同研究や海外研究ネットワークの形成を促進するという観点に留意することが必要ではないか。
 四つ目の視点としましては,国立大学改革プランをはじめとする大学改革と連携・連動して,科研費以外の競争的研究資金についても制度設計を促しつつ,デュアルサポートシステムの再構築という文脈の中で科研費の意義や役割を明確化することが必要ではないか。
 これらの四つの視点をお示しさせていただいております。
 その下のなお書きでございますけれども,丸1,丸2とございまして,丸1につきましては,学術分科会中間報告でも示されました「学術研究助成基金」につきまして研究費の成果を最大化する観点からその充実を図ること,それから丸2につきましては,学術動向調査などの大学・学術政策,科学技術政策への反映,それから科研費などの成果を把握・活用するためのデータベースの構築等につきましては,「戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会」が文部科学省内にございまして,こちらで専門的に今議論をしていただいているところでもございますので,こちらを踏まえまして検討が求められているということでございます。
 本日の御議論は,この資料1を基にしましていろいろと御意見を賜れれば幸いでございます。以上,事務局説明でございます。

【佐藤部会長】
 それでは,科研費改革の基本的方向性についての議論に入っていきたいと思います。文部科学省からの説明について質問等ありましたら,まずそれからお願いします。もしないようでしたら,資料1に基本的方向性のまとめを作っていただいておりますので,このテーマをもっと強調すべきであるなど,御意見を賜れれば有り難いと思います。

【野崎委員】
 1点伺います。ダイバーシティー・オリエンテッドという意味で,例えば資料1の丸の2番目のところ,「女性や海外の日本人,若手を含む」と書かれていますが,外国人は含まないということでしょうか。

【合田学術研究助成課長】
 ただいまの御質問ですけれども,御案内のとおり国内の研究機関にいらっしゃる外国人の方は当然科研費を申請いただいておりますし,御支援もさせていただいております。御議論で,特に女性研究者支援,それから現在管理機関が設定されないために支援が難しい海外の日本人研究者をどう支援していくのか,それから若手への支援といったことについて主に議論がございましたので,こう書かせていただいておりますけれども,ダイバーシティーという意味においては重要なポイントだと思っております。

【野崎委員】
 国内の外国人をマイノリティーとして認識しないというわけではないと承知しました。

【佐藤部会長】
 国内の外国人に関しては科研費も応募できますし,それを差別しているということはないと思います。

【奥野委員】
 いわゆる国際的な共著論文,共同研究が日本は非常に弱いというお話がありました。これは恐らく日本にいる外国人ではなくて,日本にいる日本人と外国にいる外国人の共同研究が少ないということだと思います。これをサポートする必要性を科研費で特に考える必要はないという御趣旨でよろしいのでしょうか。そうではなくて国内にいる外国人だけではなくて外国にいる外国人と日本にいる日本人との共同研究も含まれると,この科研費の対象として,そういう理解でよいのであれば,もう少しその辺りを分かりやすく強調した方がいいのではないでしょうか。

【合田学術研究助成課長】
 おっしゃるとおりでございます。これまでの御議論も,むしろ国際共同研究というものをどう進めていくかということで科研費改革を考えていくべきだという御議論を頂いておりますので,このペーパーについては今先生がおっしゃった趣旨で少し整理をさせていただきたいと思っております。

【有信東京大学監事】
 特に4番目の丸に関連して,学術分科会での報告でのデュアルサポートということが言われていましたけれども,いわゆる競争的資金の中での科研費の位置付けと,デュアルサポートという意味で,その基盤的経費と競争的資金との兼ね合いの問題,これをどう考えるかということで整理をする必要があると思います。特にデュアルサポートという観点で見ると,具体的に東京大学の例を見ても,はっきり言って一つの研究室に基盤的経費というのは百数十万円しか配分されず,しかも可処分所得になるのは数十万円という状況です。これで基盤的な研究を担うというのはもう土台不可能だと理系の人間は思いますが,一方,学内で議論をすると,文系の人間は紙と鉛筆があればできる,その数十万円で十分だという議論もあるわけです。つまり,これは,基本的に言うと,昔からの伝統に基づいて,学内での配分方式は,いわば固定化しているために,基盤的経費の中から新しい学問分野の,例えば新しい組織ができると,そこはどうしても不利になってしまう。既得権を誰も手放そうとしないので,新しい研究分野に基盤的経費が行きにくいという事情を考えると,デュアルサポートの中で,今の基盤的経費の在り方をどう改革していくかということを考えると,基本的には大学のマネジメントの部分にある程度手を入れざるを得ない。
 それからもう一つは基礎研究に関して,個別具体的に見ていくと様々な御意見がありますが,ここは大きく科研費としての役割,新しい研究者を育てていく役割をどういうふうにうまく,ダイバーシティーという観点の下で,日本の基礎的,基本的な研究をどう生かしていくかということの中でどういう振り分けをするかというのはなかなか難しいと思います。私は元々産業界の出身ですけれども,どこで見ても基礎研究が不必要だと言っているところはなく,みんな基礎研究は重要だと言っています。ただ,それぞれの観点が微妙に違うものですから,それを考慮しながらクラシファイをしていくという議論を進めるのがいいのかなと思います。ただ大学そのものが変わらないと,これはデュアルサポートというベースの下で科研費を論じないといけないので,是非そこを含めて御検討いただければと思います。

【小安委員】
 今の有信先生の御意見とも関連するのですが,資料2-2の丸の2で御説明いただいたこと,これは総合科学技術会議が総合科学技術・イノベーション会議になってからの資料ですが,今までの論調と少し違っていろいろなことが議論されている中に,お話があったような大学の改革と科研費のことに関しても,かなりこの部会の意見を入れていただいたような文言になっていますが。大学改革と科研費をリンクしていただくように働き掛けていただくことが非常に大事ではないかと思います。大学のマネジメントの問題と,この研究費の問題が合わさってデュアルサポートをどう考えていくかという議論にならなければならないので,項目別に挙げていただくだけではなくて,両者をリンクしていただけるように是非文科省の方から働き掛けていただきたい。
 産業構造審議会の資料にも,大学が独創性の高い基礎研究のシーズだということをはっきり書いていただいています。ここも含めて,大学改革と科研費をきちんとリンクして是非議論すべきだと主張していただくのは,今後大事なのではないかと思いました。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。そのとおりだと思います。これは平野先生の学術分科会で随分やっていただけるものと思っております。平野先生,何かおっしゃることはございますか。

【平野委員】
 分科会においても議論いたします。今後,後半に向けて国際的な観点から,今の日本の学術の足元を見ていくということを含めて議論することにしております。先ほど国のいろいろな会議とリンクをすることが必要であるとの御意見がありましたが,私もその必要性を痛感しております。御説明いただいた資料2-2は,それぞれ重要なところが多く,参考にすべきですが,気になるのは,例えば71ページは財政制度等審議会の資料ですが,いろいろ説明をしなければいけない点も多いのではないかと考えます。誤解とは言いませんが,そのような理解でよろしいのか,と危惧します。例えば,71ページ(2)国立大学の現状となっておりますが,必ずしも世界における評価は高くないと書いてあります。運営費交付金が削減されていることが問題であると言われているけれども,国からの競争的資金や寄附金等の自己収入等を含めた事業規模の全体としては増加しているにもかかわらずランキングが悪いという意見になっている。これは資金の内容についての検討がされているわけではないのではないかと危惧します。タイムズのランキングは何をどういうインデックスで見ているか,あるいはインデックスを一部変えられたらどのぐらい変わるのかということをきちんと解析されていると信じたいのでありますが,だとすると解析に問題があるということです。
 それから,私どもから科学技術・学術審議会においても報告いたしましたけれども,一つ論文数をとっても何が問題になってきているかといいますと,科研費は皆さんの努力のおかげで増えつつあるのに比例して論文総数も質のよい論文も増えている。しかしながら,プロジェクト方式で動いている出口志向のプロジェクト部分についての予算がずっと増えるに従って,総投資額に対する論文数がいる。出口指向のプロジェクトは,企業の方,産業界に大いに貢献することが大変重要な評価でありますが,こと論文数にこだわることは問題もあるということをよく認識して議論をしないと間違えた議論になり,お互い批判しながら終わってしまう。もう今はそんな時期ではないと思っております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。全くそうですね。出口志向のお金を除いて相関をとるとかいうのであれば分かりますが,論文が増えていないことに,出口志向のお金も含めて議論するから話が錯綜(さくそう)するわけです。

【浦野株式会社ニチレイ相談役】
 有信先生もかつては産業界におられましたけれども,今,産業界にいるのは多分この場で私だけなので,こういう問題には素人ですが,その反省を踏まえて,少し回りくどいかもしれませんけれども,今日の最後のところにつながるようにお話しさせていただきたいと思います。
 私は産業界の立場であくまで日本経済ということでお話しさせていただきます。やはりこの20年,産業界というのは本当に反省しなければならなくて,GDPの主なものを創出するのも産業界の活動でありますから,御存じのとおりこの20年間,全く伸びていないわけです。実質でこそ多少伸びていますけれども,名目で言ったら二十数年前と全く何も変わっていない状況です。そんな中で,例えば予算一つ見ても,1990年度の予算は66兆しかなく,今年度は96兆という予算になるわけですが,この中で社会保障に関わるものが,1990年は11兆です。それが今年の予算は30兆です。ここだけで20兆伸びています。それから国債の費用,これは利払いや発行費用などいろいろありますが,これは90年では14兆しかなかったところ,今年の予算で23兆を超えています。ここも10兆伸びているということで,社会保障と国債費で30兆伸びています。これは予算の総額の伸びと全くイコールです。先ほどその他の部分で見たときに,日本の予算というのは二十数年前と何も変わっていない。その中で若干でも学術に対する予算が増えているというのは喜ばしいことだと思いますが,その前に,何でこんなことになってしまったかということを産業界も反省し,大学の先生方にも少し考えていただければというのが今日の問題提起です。
 そういう中で今後のことを更に考えたときに,社会保障や医療の問題が今のまま何も変わらないとしたら,今から10年後には,更に40兆増えます。今,年金と医療で110兆掛かっており,これが10年後には150兆になります。これをどう支えていくのか。人口が減っていく中で成長というのは非常に難しいことですが,少なくとも一人当たりの生産性をうんと高めていくということをしない限り駄目なわけです。それにはもうイノベーションしかない。そのときに,私が一番思うのは,例えばこれは企業の方の反省からいくと,この20年間で企業がやってきたことというのが,バブルがはじけた後のデフレ状況の中で,マーケットの目で見たときにはできるだけ安いものをと。これは企業の目から見るとコストをセーブするというプロセスのイノベーションを企業は一生懸命やってきて,これは物流も流通の在り方も生産コストも下げてきたわけです。そのため,皆さん方には安いものを,いい性能のものを買っていただくことができた。そのことが結果として,先ほど有信先生がおっしゃっていた企業の研究機関も本当にすぐに成果を求める商品開発,あるいはコスト削減につながる商品開発,ここに注力してきた。かつては企業も結構,基礎研究をやっていましたが今はもうほとんど見られないと思います。
 そういう中で,例えば私どもが扱っている食品関係で言うと,今の時代に求められるものとは一人世帯が世帯数の中で一番大層を占めるようになって,その方々の栄養バランスをいかにきちんととっていくか。あるいは高齢者の方々に対しては日々のカロリーとか栄養バランスの取り方をきちんと考えてあげるような食品を作らないといけない。これはかなり技術開発が要る。例えば魚の切り身で栄養保証しようとしたら,部位によって全然違うため,非常に難しい。そんなこともやはり大学の先生方と一緒になって研究していかないといけない。あるいは食の世界では香りはとても大事なことだと思いますが,皆さん方もお気付きのように,生鮮品には香りはとても大事なもので,皆さん方もそれを楽しんでおられると思いますが,加工食品では香りがほとんど感じられないでしょう。これはやはりおかしなことで,企業も余裕があったら加工食品でも考えていきたいと思います。でも今の時代の中で,そういうことにお金を掛けられないことになってしまっていて,本当に企業は情けない。
 企業の目から見たときに,企業もこれから新たに研究開発を,イノベーションにつながるものをやっていく。まさにプロダクトイのベーションです。これをやっていこうと思うと,一つは大学の先生方がやっている科研費も含めて,データベースを民間が利用できる形になっているのかどうか。少なくとも当社の研究員に聞いてみて,先ほど申し上げたような食品の課題について,科研費などをサーチしても,すぐ引っ掛かる形にはなっておらず,なかなか使いづらいところがあるようです。
 企業から見ると例えばそんなところから始まります。そういう目で今の科研費の在り方を見たときに,思うのは,三百幾つに細分化されていること。その中で,先ほど20年の中で予算の話,GDPの話をしましたけれども,データによると科研費は倍に増えています。その分,競争的資金が増えたと言えば格好いいですけれども,もしかしたらそういう細分化された中で,ある意味不毛な獲得競争が行われているわけです。先生方も疲弊しているところがあるのではないかと思います。特に若手の先生方は150万から始まって500万程度の科研費を持ってくるのにどれだけの御苦労をされているか知りませんが,競争的資金という言い方はいいのですけれども,そのことがある意味目的化してしまって疲弊しているというのはあるのかと思いました。
 それから二つ目は,300の縦割りということで考えたときに,今後の世界の在り様,企業も,例えば食品を作るのは食品企業だけではなく,石油化学の会社も食品に入ってくるような,クロスオーバーの時代ですから,300の分野ということよりは分野横断的な在り方というもの,今でもそれは科研費の中にあると聞いていますが,それをもう少し広げることが必要であると思います。初めから科研費をそういう扱いにしておけば,先ほど有信先生がちらっとおっしゃっていた,基盤的経費というのは,もう一度もっと増やしていいのではないかと思う。特に若手の方は獲得競争に勢力を費やすよりは,基盤的経費を厚く配分する中で安心して研究活動をしてもらえる,これは企業も一緒です。社長が,すぐ通用するものをすぐ作るようにと言っていれば,基礎的研究はおろそかになります。そういう目で,むしろ基盤的経費を思いっ切り増やしてもらいたい。
 ただ,ここから先は語弊があるかもしれませんが,例えば八十幾つの国立大学が全部同じ割合で増えていくというのはどうかと思います。研究型の大学と社会に有用な人材をまずは出してくださいという役割など大学も機能別の部分があるでしょうから,そういう意味でうんと限られた大学でいいと思います。例えば東大が科研費の10%を取っているという話でしたが,いずれにしても研究型の大学に,この基盤的経費がより厚く行くようなことはもう一度考えてもいいと思います。
 最後に,その上で,これも有信委員がおっしゃっていましたけれども,学長のリーダーシップ。これは企業も一緒で,限られた資源をどこにどう配分するかというのは,その大学の特徴を生かさなくてはいけないし,あるいはもっと広く言えば,日本が強い分野はどこなのかと。その300に細分化した中で,全部均等にやるわけではなくて,日本がその中で強い分野,あるいは日本だったら,これにプラスほかの分野と融合していけばもっと強い分野拡大の分野ができるのではないかというものがあれば,そこに学長のリーダーシップで資源を配分していくというのはとても大事だと思う。日本も第二次世界大戦後のお金のない中で,傾斜生産というやり方を国を挙げてやってきた。そういうことが必要だと思う。個別企業ももちろん限られた投資の中で,当然,自分の一番強みのところを攻めていくわけですから,是非,基盤的経費も学長のリーダーシップで,学内でも傾斜配分ということも含めてやっていただければと思います。
 いずれにしましても,この学術研究にベースを置いたイノベーションができる国になることが,日本の喫緊の課題だと思っています。一方で我々企業は,学術研究というほど高度ではないけれども,企業にできる,今ある技術の組合せによって簡単なプロダクトイノベーションというのはどんどんやっていきたいと思っています。是非,先生方には学術研究にベースを置いた,より高いイノベーションということに軸足を置いていただければと思います。

【佐藤部会長】
 どうもありがとうございました。企業サイドから大変応援を頂いたという感じでうれしく思っております。最初のデータベースというのは,こちらのまとめの資料1の二枚目に議論もありますし,この点は是非盛り込んでいかなければいけないと思っております。

【谷口委員】
 浦野委員がおっしゃってくださった基盤的経費を増やすべきだという御意見は大変有り難く思います。一方で,先ほど平野委員が御指摘になった点とも関係するのですが,大学の在り方といったところで,総合科学技術・イノベーション会議の書類を拝見しますと,大学の機能強化ということがしきりに言われています。そもそも論になって大変恐縮ですけれども,大学の機能強化とは一体何かをきちんと理解をしないと,どういうふうに科研費や基盤的経費を増やせばいいかというその根幹の議論ができないという気がいたします。イノベーションは確かに重要であり,経済成長も大切でしょう。しかしそれが全てうまくいったとして,日本の国が本当に幸せになれるかというナイーブな問題が湧いてくるように思います。経済成長のみが必ずしも知的文化国家として日本が尊敬されるということには繋がらないのではないでしょうか。このような側面こそ,大学が大きな役割を担っているのではないかと思います。
 ちなみに大学の自律性や学問の自由といったような言葉は,教育基本法でうたわれているにも関わらず,最近では既に死語になったような状態になっているのではないかという気がします。一連の流れを見ていて,大学の役割というのは,そのときの政府が立てた方策を実行する機関になっていると言っても過言ではないような,心配を抱いています。たしか,以前に元東大総長の佐々木先生がおっしゃっていたように,大学の独法化は「縄で縛って海に放り込まれて,さあ自由に泳ぎなさいと言われているようなものだ」と。けだし名言だと思いますが,結局そういう中で大学の体力がうんと落ちています。大学に対して,常に反体制でやれとか,そういうことを申し上げているわけではないですが,新しい知を生み出すからこそ文科系であろうと理科系であろうと,既存の価値観に挑戦するのが大学における学術が果たすべき役割なので,結果的にはそれは社会の既存の価値観等に必ずしもそぐうものではないというところにも大学あるいは学術の意味があると思います。つまり,学術を通して明日の価値観を生み出していくことが大切ではないでしょうか。その重要性を無視して大学の機能強化を議論するというのは,やはり私はどこか間違っているのではないかという感じがいたします。
 もう一度,基本的な法律に基づいて,大学の本来の役割は何かというところから機能強化ということを議論しないと,ランキングがどうだとか,目先の物差しに振り回されて大学がおかしくなってしまう。これこそ日本の国の将来にとって,世代を超えたこれからの日本の将来にとって大きな禍根を残すのではないか。今の大学を巡る状況はそれぐらい大きな曲がり角に来ているのではないかと私は思います。無論,大学自体が時代に沿った自己変革を怠らないことも大切です。そういう文脈からも,浦野先生がおっしゃってくださったようなことは大変重要な御意見ではないでしょうか。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。これはもう根本問題といいましょうか,一番基本の問題でございますね。

【合田学術研究助成課長】
 総合科学技術・イノベーション会議の御議論を私どもディフェンスする立場にはございませんので,特にコメントはないわけでございますけれども,ただ総合科学技術・イノベーション会議の議論は,先ほど事務局からも御報告申し上げましたように,平野先生にお取りまとめいただいた科学技術・学術審議会学術分科会の議論をかなり深く踏まえて御議論いただいていると思っております。先ほど谷口先生がおっしゃったように,新しい知を生み出すというのが大学の大きな役割だと,farsightedな観点からそういうのが大学の役割だということ。しかもそれは産業社会にとっても,企業にとっても,現象の奥にある学理による探究というものをしっかりと突き詰めなければ持続的な発展というのはないという観点で,大学に期待をするというかなり本質として踏まえた上での議論が行われていると認識しております。もちろん,谷口先生が御心配なさっているように,かなり短期的な視野で成果を出すということに社会全体が偏ってはならないことには留意しなければならないと思いますが,少なくとも科学技術・イノベーション会議の御議論については,今先生がおっしゃったようなことをかなり深く踏まえてなされていると感じておる次第でございます。

【金子筑波大学教授】
 この委員会は初めて出席させていただいております。先ほどからデュアルサポートというのは問題だということが出ておりますけれども,大学の在り方と科研費の在り方をつなぐ問題として,私は今のところ三つぐらいあるかと思っています。
 一つは,先ほどにもお話が出ていた,大学に対して基盤経費を再び強化すべきだという議論ですが,ただ現在の大学の組織をそのままにして基盤経費を強化することはできるのかどうかというところは,一つ大きな問題だと思います。基盤経費を強化するといいますと,大学全般についてはできない。私学を含めてはできない。国立だけか,あるいは国立の一部だけかということになります。大学全体を差別化することは本当に可能なのかということがまず一つの問題だと思います。実際には大学の中でも学部を単位として予算が分配されていますが,学部の中でも費用についてはかなり大きな差があるところは内情そうされている。大きく考えてみますと,日本の大学は学部を中心に構成されていまして,これは日本の大学の出来方の,明治以来の歴史を少し反映しているところがある。アメリカは御存じのようにデパートメント型で,学部よりもかなり細かい組織でやっています。イギリスもどちらかというとデパートメント型が主流で,フランスはリサーチユニットというものを作っています。こういうふうに一定の,ある程度細かい,現実には学部よりはある程度細かく分かれた単位で活動していており,もし機関補助をするのであれば,単位と大学内での配分決定のメカニズムを考え直さないといけないのではないか。従来型の配分の仕方でもう一回機関保証に戻すということは,私は現在の段階では,現在の財政状況その他の成果からすれば無理であるし,効率的でもないのではないかと思います。
 第二点は大学院。私は有信委員が言っておられた中教審の大学院委員会に参加しておりましたが,そのときに一番大きな話題になりましたのは,結局は大学院が従人的な組織になってしまっていて,早くから専門を決め過ぎるために発展の余地がなくなっているのではないかという意見が非常に大きかった。これは私には非常に印象的でした。私は人文系ですが,人文系だけだと思っていましたら,自然科学系の先生もそういう意見が強かったのです。結果としてプレミナリーエグザムといいますか,専門に進む前に一定の基礎的な知識を持っているかどうかを確認するという段階が必要だという意見が多かった。政策的には,結局,大学設置基準の一部改正で,修士・博士一貫型の大学院で修士から博士に相当する部分に行くときに,そのような試験を修士論文に代えてできるという表現になったにとどまり,ほとんどインパクトがなかった。
 よく大学の論文が,基礎研究が非常に必要だということが言われていますが,私は基礎研究というのが何だかよく分からない。何でもいいからやっていれば基礎研究なのか。要するに自分の興味に従って,社会のために役に立たないのは全部基礎研究だというのは,非常に疑問に思います。私は周りの研究を見ていましても,若手がやっていることを見ると特にそうですが,何をやっているのか,これが基礎かと思う。基礎ではなくて枝葉です。若手が自由にやることが直ちに基礎になるかというと,私は全くそう思わない。一定の,分野としての総合的な視野を持っているか,あるいは社会的な視野を持っていることが前提で,その中で優秀な人が考え付くのが基礎研究だと思うが,そこのプロセスができていないのではないか。私は大学院に関してはそのようなことについて一定の改革ができること,それに科研費が結び付くことが全体としての生産性を上げることになるのではないかと思います。
 それからもう一つだけ申し上げておきたいのは時間の問題です。科研費はお金で,非常に重要ですけれども,もう一つ大きなリソースは時間です。日本の大学教員が使っている時間は大体1日平均11時間ぐらいで,これは決してサボっているわけではないが,欧米などと比べて非常に特徴があるのは,どんな大学の先生もやはり教育研究,アドミニストレーションに掛ける時間はほとんど一緒。大体,研究が4割弱,教育がそれより少し少ない3割ぐらい,それでアドミニストレーションが2割強ぐらいのところで,これはほとんどの大学でも同じです。この状態がこれでいいのかどうかというのは疑問である。無理やりに分化させることは必要ないと思いますが,大学の先生が自分の区分が何であるかということをもう少し明確に意識する必要があるのではないか。ここは科学技術・学術審議会ですから,研究のことが主要な論点となりますが,私としては教育のことも非常に重要だと思いますので,それがほとんど一様な階位でもって今,日本の大学の先生は応じている。やはりある程度分化させることが必要です。分化させるインセンティブを作ることは必要ではないか。その点で非常に重要だと思いますのは,大学と大学の先生の間の相互確認というか一種の契約といいますか,どういう時間を何の業務に使うのかということについて一定の基準,一定の原則を大学と教員の間である程度明確にするようなメカニズムが必要なのではないか。それをすると流動性にもかなり重要な要求が出てくると思います。今,人を雇うと,その先生が教育も研究もアドミニストレーションも全部やるということで,ワンセットで全部渡してしまうわけですが,ある程度機能的な契約みたいなことは必要になってくるのではないかと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。役に立たないものが基礎研究というわけでもちろんありませんが,やはり御本人が,直接役に立たないかもしれないけれども社会における自分の仕事の研究の意義をきちんと深めていること,自分の仕事が社会的にどういう影響があるのかということを自覚することだと思います。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
 そもそもの認識の問題があります。大学の学問の一つの中心的なことは知の創造である。実感として,我々研究者はすぐ分かることです。大学の機能強化という場合の機能とは何かといったときに,知の創造というのは人がやるわけであり,大学がやるわけではない。我々は大学で教鞭(きょうべん)をとっている以上は,自らも知の創造を行い,知の創造ができる後継者を育てていく。それは我々の中に伝統的にノウハウが詰まっているのです。そういうことが実際に行われていないのではないか,表面的に行われていないのではないかということが盛んに言われておりますけれども,それは抽象的なものの知の創造というような分からないことを言われてしまうのでそうおっしゃっているのかもしれませんが,我々はそれを作る人を育てている。具体的に育てていて,それが毎年出ていくわけです。いかにして社会で意味のあるものにするかというのは,社会からこんなに困難なことがあるという問いを我々に出されれば,我々にとってそういう困難なものを突破するのは楽しいことです。多くの場合には役に立たないかもしれないけれども,非常に基本的な疑問を突破することによって突破できることになるというのが大学の今までの伝統です。それが知の創造ということであり,大学の機能は人を育てることです。その育てることがつまり,魚釣りに行って,魚を買ってきて並べることではなくて,魚の釣り方とその釣り場を教えることです。我々はそれを知っています。基本的に学術というものは,あるいは大学というものは,そのノウハウを伝統的に持っているから大学なのです。研究者の一団に対してブロックファンドとして経費を与え,この中で自由な発想でもってとても困難なものをどう突破していくかということを行う人を育てるというのが我々の役目だと思っています。私は日本学術振興会におりまして,そういうことをやっておりますので,科学研究費について三百幾つではなくてというふうにおっしゃいますけれども,個人に至るまでの多様性というものが学術には最も重要です。それは,例えば病気が突然,世界から起こってきます。そのときに我が国は,熱帯病研究所もあれば,いろいろな研究所があります。そうすると世界から,我々の中にそういう人がいることが,つまり非常に基本的なことをやっている人が呼ばれていくわけです。現実に大学はそういうものに準備しております。基礎研究というのはそういう意味では国の安全保障でもあります。ですから投資価値は非常に高いものだと私は思います。

【谷口委員】
 口を挟むようで恐縮ですが,大学が本来持っている専門知と,それから暗黙知というのがあると思います。その後者の方が,急激に弱くなっていることも危機的な状況だということだと思います。

【小安委員】
 恐らく皆さんが同じようなことを言おうとしていらっしゃると思います。今おっしゃっていたようなことが行われていないというところに対して非常な危機感を我々は持っているのだと私は認識しています。学術研究の推進方策に関する審議の中でも,本来今おっしゃったようなことをやるべきであって,金子先生がおっしゃったことも,実際にはそういうトレーニングをきちんとして,若者が好き勝手に行うということではなく,どれだけ広い視野を持ってやれるかということをトレーニングするのが我々の役目であると思います。しかしそれがなかなかなされていないというところはきちんと改善すべきです。それができないような人だったら,大学からお引き取りいただきたいということぐらいまでのことを言ってもいいのではないかという議論がこれまでもなされたと思っています。考えている根本のところは一緒であり,ただそれに対してどうアプローチするかというところに違いがあるのではないかと感じました。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
 私もそう思います。現在を分析する必要があります。私はそもそものことを申し上げましたが,現在が確かにそうなっているかどうかは疑問に思います。したがって非常に厳しくした方がいいと私は思います。先ほど申しましたような基準に立って厳しくすべきだと思います。出口をやらないから駄目だというような,つまりインセンティブとよく言いますが,お金などで釣るような方向で世の中が動くことは極めて危険です。むしろ誇りを持たせることがなければ駄目だというような厳しさです。そういうものでくくるべきであって,役に立つことを説明しなさいという形でやるべきではない。基準をはっきりするべきであるということはそのとおりだと思います。

【金田委員】
 先ほどからの御意見に私も大変賛成ですが,特に基礎研究というのは枝葉になっているという御指摘は私も強く感じているところです。なぜかということを考えると,最近は大学あるいは大学を指導する立場の文科省も含めて社会的にどうしても学位の数,あるいは学位の早さという方向に流れているのが大きな原因だと理解しています。もっと熟成して広い視野を養い,きちんとした研究をする時間がなくて,結局早く結論の出る枝葉のことを選んでしまうというような方向性が非常に強いのではないかと思っています。これは特に文系の場合には大事なことですけれども,学位の早さではなくて学位のレベルとか審査とか評価のシステムも含めて,制度としてはきちんと考える必要があろうと思っております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。研究に関する話に戻していきたいと思います。分科細目,分野横断的なもの,また基盤を増やすことによって,大学の基盤的な経費になるなどの点は学術システム研究センターで十分議論されているところだと思います。その流れを教えていただければ有り難く存じます。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
 総合性,挑戦性,国際性とかいうものは,多くの場合は結果でございまして,その結果が出ていないからやっていないのではないかということがある。ただ取組としては,もう少しボトムアップ的に物事を始めないと大きな成果は得られない。これとこれを合わせればこういうものが出るはずだというような形の,いわばトップダウン的な方策はもちろんあり得るとは思います。製品を作る場合にはそれでよろしいかもしれませんが,学術の場合は,少し御批判あるかもしれませんが,その人自身が興味を持つというよりも非常に困難な問いを解こうとすることが非常に面白いことでございますので,それに対するものが集まってきて,それが総合化されて,交流が起こって,連携が起こって,結果的に融合する。例えば,私が少し書きました分子生物学がまさにそうです。最初に始めた人はデルブリュックという物理学者です。この人は一時遺伝学を学びに行きましたが,遺伝の仕組みの中に物理学が,生命の本質があると見たときに,遺伝学者が集まり,生物学者,化学者が集まりというふうにして自然に集まってきて,どんどん興味は深まり,最初の興味とは全然違うものができてきた。これは,時間は掛かったように見えますが,基本的には20年も掛かっていない。学術の場合はそういうものがたくさん転がっているはずです。そういうものを少しサーベイしながら,種になるようなものをヒントとして与えることによって幾つかのトップダウンでなくてボトムアップの,一つの触媒になるようなものから進めるような方策を分野として作っていってはどうかという議論をしております。
 具体的には,例えば今年から特設分野研究というのを始めました。センターの研究員でいろいろ議論をし,今年は食料循環研究という,我が国の今の食料安全保障の問題,あるいは自然の循環の中で様々に農薬とかエネルギーで断ち切られているものを,全体として見たときにどのようなサイエンスになるかというテーマを出し,それに400人近くの応募者がございまして,それを今審査しているところです。そういうものを年間三つぐらいずつ作りながら,その中から全く新しい視点を持って,結果的には問題解決がきちんとできるような人材を育て得るようなものを今取り組み始めております。即効性があるかどうかは疑問ですが,場合によっては非常に推進できるものになると期待しております。

【合田学術研究助成課長】
 ただいま勝木先生からお話しいただきました特設分野研究は審査の最終段階に入っておりまして,審査する先生方が相当熟議を重ねて御審査いただいているわけでございますが,その結果,状況,分析については,次回の研究費部会に改めて勝木先生,村松先生から御報告をしていただきたいと思っております。

【奥野委員】
 先ほど浦野先生から非常に興味深い話を伺ったのですが,日本の,過去20年ないしもっと長く,戦後ということを考えてみると,戦後すぐというのは日本は非常に活力を持っていて,企業にも非常にたくさん,いろいろな新しいプロダクトイノベーションみたいなものがたくさん起こりましたし,科学技術にも湯川氏などノーベル賞もたくさん出たわけですよね。最近それがだんだん小ぶりになってきている。一つはこの20年間のデフレ状況ということもありますけれども,それと同時に社会が少し硬直化してきているということが非常に大きいのではないかと個人的には思っております。先ほどから出ている大学の問題もそうですが,それ以上に学術,場合によっては科研費の,今日の話で言えば,ある意味歴史を重ねてきたがために,少し固定化,硬直化してきているのではないかというのが個人的には思っていることです。
 私自身,科研費の審査にも関わったことがありますし,科研費以外の競争的資金の審査に関わったこともありますが,正直言ってどちらについてもレフェリーの仕組みがうまく機能しているのかと。本当に専門家がきちんと,自分の専門家が評価しているのか非常に不安になるところがあります。例えば,これは非科研の例ですけれども,社会科学全部で審査員が20人か30人いて,その20人か30人が経済学も社会学も政治学も法学も全部を,自分たちがレフェリーになって見るわけです。しかもそれが膨大な額のお金です。先ほど社会科学は紙と鉛筆でできるとおっしゃいましたけれども,事実そういう部分もありますが,そういう面から見ると本当に巨額なお金です。その巨額なお金を,失礼ですけれども私も含めて半分素人が見ている。そういうやり方で本当にいいのだろうかという思うわけです。科研費の方も,今度は逆に,分野としてはもっと細かくなりますけれども,とりわけ二段階審査には一応なっていますけれども,一人のレフェリーが何十本も見るわけですよね。それは横並びにするという意味で点数の評価としてはいいかもしれないけれども,それが本当に自分の専門あるいは論文ないしは研究の専門家が見ているのかということに関して,私は非常に疑問に思うことがあります。私が若いときにはアメリカのNSFのレフェリーもしたことがありますが,半分論文になったような研究を,これからもう一段こう進めるというような研究計画を,そこにレファレンスが書いてあるので,私の名前がレファレンスにあると,評価してほしいと1本だけ来ます。それを私はまさに専門家だからです。世界全体でも研究によっては専門家が5人ぐらいしかいないというような研究がたくさんあります。そういうものを1人の人が20本,30本見て並行評価するというような科研費の仕組みで本当に評価できるのか。それで本当に大事な研究を拾い上げることができるのか。非科研の競争的資金もそうですけれども,特に科研費の応募書類の仕組みというのは極めて抽象的なことしか書かなくていいため,文章力の問題になってしまって,文章がうまい人が結局お金を取っていくという仕組みになっているような面もとてもある。だからレフェリーなどの仕組みを抜本的に見直すとか,そういう仕組みが少し硬直化しているので,せっかくの機会だったらもっと思い切って見直しされたらどうなのかなというのが私の個人的な意見です。

【勝木JSPS学術システム研究センター副所長】
 今,実は審査部会から我々日本学術振興会に御下問がありまして,御指摘にあったようなことも含めまして,少し徹底的に考えてはどうかということで,センターで議論を始めております。次回少しお話しできるかと思います。

【谷口委員】
 審査のことが出ましたので申し上げますけれども,先ほど事務局から御紹介いただきました米国National Academyの紀要に掲載されている「生命医科学の米国における深刻なシステミックな欠陥」というようなタイトルで述べられている中に,事務局がまとめられたとおり,その問題意識,改革の方法,何が必要かと述べている一つの中に審査体制があります。NIHグラントの採択率が非常に低くなっているというのは周知の事実ですが,その審査の仕組みも問題で,米国の複数の知人によるとスタディーセクションのレベルが非常に低くなっているらしい。これが全体の公平な審査ということに対してかなり影を投げ掛けているのではないか。そこまで踏み込んだ議論は,この中ではしておりませんけれども,そういうことだと思います。だからそこは日本の問題でもあるし,世界各国の深刻な,そういう大勢の研究者,限られた予算という問題から発する基本的な問題ではなかろうかと思いますので,科研費という文脈でも御検討されるというのはよろしいかと思います。
 それからもう一つ,別に米国に倣えという意味で申し上げているわけではないですが,このarticleで述べられていますのは,先ほど金田先生がおっしゃったことと関係がある大学院教育をどうするかという問題です。これにつきましては,「ノーベル賞か落ちこぼれか」といった教育体制というのではなく,サイエンスを支える多様な人材を育成することが大切だということを社会にも学生にも広く知らしめて,その適切な教育を行っていくのが重要ではないかということです。だから先端研究をやる人はいないと困るが,それを支える科学に関係するいろいろな人たちを大学院でしっかり教育するという仕組みにするということは,結果的にはもっと重厚なサイエンスの発展につながるのではないかということが述べられております。

【上田委員】
 私も民間の基礎研究所の者でして,ふだんの環境という意味で大学の先生方といつも意見が違います。大学の先生方が,学術に関する理念やビジョンは恐らく昔からそんな極端に変わっているとは思いませんが,それを継承する若い人が減っているのではないか。それはなぜかと言うと,現状をいろいろ見ると,例えば,大企業に就職して研究しようとしてもなかなか受け入れるポストがない。大学のポストもない。かつ一方では外資の会社で若いときから,能力があれば賃金が高くで,自由度も高くて,いろいろなことができる。そういう環境の中で学術が大事で学問がどうだといっても,現実的には優秀な若い人は,受験勉強も含めそれなりに苦労して努力しているその対価をどこに求めるかといったときに,学術,学術というふうになっていくだろうか。つまり将来,自分のセカンドキャリアをいろいろ考えたときに,大学院でドクターを出た人がなかなか社会でうまくいかず苦労している。それに対する具体案を真面目に考えていかないと,幾ら有識者の方々がいい意見を出しても,若い人はそういう議論に全然ついてきません。これはもう世代ギャップで,いろいろなやり方が全然違う。そこを考えるときに,まず大学院の定員が甘過ぎます。誰でも通ってしまう。つまり大学院は就職する前に,もうちょっと楽をしようかという人が多いようによく感じます。実際,我々の周りを見ていてもそうです。かつ,それだけにリスペクトされないということがあります。それから優秀な人には優秀なインセンティブということで,企業も今,基本給はそんなに上げられないけれども,ボーナスでかなり差を付けようとしている。そういうことが大学でされているのか。
 あるいは企業も今大変である。企業もなかなか投資する体力がなく,会社を潰すわけにはいきませんし,喫緊のいろいろな課題でやっていかないといけないが,イノベーションがないともたないということも一方で分かっている。日本はここが強いということで文科省あるいはいろいろな省庁がリーダーシップをとってうまくマッチングをして,産学がもう少し一体となって,そこに投資をしていくというようなことをもう少し考えてはどうか。そのときに重要なのは,マッチングみたいな形であり,現状はうまくいっていない。人事権,あるいは知財などが非常に壁になって,うまく合流していかない。そういうところを日本全体が変わって,例えば大学の先生が研究所の所長に何年間なる,その逆もあって,また大学に戻れるというふうにしていかないといけない。我々の研究所でも五十何歳が役職定年で,その後はある限られた人しか残れませんから,40ぐらいになると大学に行こうということでそわそわする。そんなことになると1か0かになってしまうので,そうではなくて大学に行っても戻れるなど,優秀な人はとにかくいつまでも,ある意味でのインセンティブを保証されるような社会にしていくような仕掛け,インフラを作っていかないと,理念だけでは若い人はそういうことを受け入れないというのは日々実感しています。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。文科省もリーディング大学院プログラムなどで産学連携をしながら優秀な院生を本当に作っていこう,供給側と受け入れ側のミスマッチを限りなく小さくしようという試みをやっています。始まって3年ぐらいで,まだ成果が出る段階ではないが,それは一つのいい方向で,努力はされていると思います。御指摘はもっともなことだと思います。

【有信東京大学監事】
 今の御意見,大体後半の部分はそのとおりだと思いますが,大学院の定員に関しては,もう少し慎重に,よく議論する必要がある。世界的に見て,まだ教育が不足しているという部分があります。現状で直ちに今の大学院の定員に直結して多過ぎるという結論を出すのは早計かと思います。
 それからもう一つ,科研費を考えるときに是非考えてほしいのは,いわゆる基礎研究,応用研究,開発研究,実用化という流れで物事が成就するという,この考え方を是非改めてほしいということです。この考え方の呪縛がものすごく強い。だからこそ,出口志向という,コンセプトは正しいが出口志向と言った途端に,リニアに戻ってきて,それにつながらなければいけないと考えてしまう。現実にイノベーションが起きている例を考えると,もちろん創薬や化学材料の一部など,そういう形で実現化するものもありますが,大半は,何かを実現するときに様々な基礎研究が必要です。半導体のプロセスを実際にやるためにも,化学反応の素過程の研究が必要ですし,例えばハードディスクドライブを実現するにも,スマホなら磁気に関する基礎的な研究など,ありとあらゆるものが必要である。そういう研究の種が必要だからといって探し回って,そこからまた始めるというわけにはいかない部分が常にあるわけです。だから常に基礎的な部分については,それぞれの興味本位で構わない,いわゆるcuriosity drivenで構わないけれども,大学でそういう基礎研究が様々な分野できちんと確保できていて,そういうものに対して応用側が自由にアクセスできるという構造が,人の移動も含めて確保されるというのが重要です。これは多分,日本学術振興会の今回の選択の仕方にもそういう考え方が一部取り入れられているように感じましたので,いわゆる直線的につながるということについてはかなり誤解がありますので,よく御検討いただければと思います。

【佐藤部会長】
 産業構造審議会などの産業の方の会議でも有信先生がおっしゃったような観点をきちんと発信していただけると,より進むのではないかと思います。

【大沢委員】
 資料1の素案たたき台にある2番目の,女性や海外の日本人,若手を含めた多様な研究者が研究でき,成果を発揮できるような科研費にすべきだということについては全く異論がありませんが,この間研究会で聞いたところによると,東京大学で修士課程を出た女性研究者の3割しか就職していないという状況は,実際にはほとんど教育投資の価値がない。そして,研究者に占める女性の割合は,どの研究,指標を見ても非常に低い。その理由を考えてみると,ただ単に研究費の分配の問題ではなくて,大学での採用において,非常に女性が採用されにくい。男性研究者のネットワークが非常に強くて,女性は最初から排除されている状況にあると思う。ポジティブアクションというほど,いろいろと批判も受けるのですが,ダイバーシティー&インクルージョンで,女性が研究しやすい環境を作るということをしていかないと,研究費を女性に配分するといっても,その人たちは選ばれた人にすぎない。裾野を広くしてダイバーシティーを,大学教育そして大学院教育において女性を優遇するのではなくてフェアなルールを是非日本の社会に作っていただきたい。それをどこかに書いてほしい。審査においても,審査員に男性が多ければ,どうしても女性の研究プロポーザルが受け入れられないということがあるかもしれない。あるいは審査においても年齢やどの人が応募しているのか,どの大学の人が応募しているのかといったことも偏見の対象になるので,ダイバーシティーということがこれからの日本の大きな鍵になるとしたら,是非その辺りの情報を全部隠して,内容を見るといった研究費の配分を考えていただけたらと思います。

【佐藤部会長】
 男女共同参画はいろいろ数値目標を掲げるとか,また人事の公募をするときは業績が同じだったら女性を優遇するとかなっていますが,それの実質化が伴っていないということでございますね。

【大沢委員】
 そうですね。やはり女性が自由に活躍できるような雰囲気作りも含めて,大学が努力すべきだと思います。

【野崎委員】
 1点だけ,先ほどの有信先生の御発言に関連して,科研費はトップダウンのJSTやNEDOなどと違って,科研費だから,ボトムアップでcuriosity,好奇心に基づいた基礎研究というのがボトムとして保証されるべきであるという一言を再確認し,一番最初に基本的な視点の素案に加えたい。そうでないと科研費までもがほかの競争的資金とごっちゃに議論されているような気がして,何が何でも科研費だけは基礎研究として死守したいという気持ちを感じました。

【佐藤部会長】
 それは学振の方のセンターで十分考慮していただけるものと思っております。
 時間になりましたのでこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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