第7期研究費部会(第4回) 議事録

1.日時

平成25年7月17日(水曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 我が国における論文の生産性をめぐる状況について
  2. 研究費部会「審議のまとめ(その1)」(案)について
  3. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,小谷部会長代理,奥野委員,髙橋委員,柘植委員,濵口委員,大沢委員,北岡(良)委員,金田委員,小安委員,上田委員,佐久間日本学術振興会研究事業部長

文部科学省

吉田研究振興局長,菱山審議官,袖山学術研究助成課長,山口学術研究助成課企画室長,生川振興企画課長,他関係官

5.議事録

【佐藤部会長】
 時間となりましたので,第4回研究費部会を始めたいと思います。
 本日は前回までに議論した点につきまして,当部会としての審議のまとめに向けて議論を行ってまいりたいと思っております。例年,8月頃に中間報告を出すということでございますので,それに向けての取りまとめを行いたいと思っております。
 本日はかがみにありますように大きく二つの議題を予定しております。第1は,前回の懇談会でも話がありました我が国の論文の生産状況について議論を進めていきたいと思っております。科研費につきましてはいろいろ他の政府機関から批判があるところでございますけれども,先日の科学技術学術政策研究所のデータなどをお聞きしますと,かなり事実と反する批判が多いのではないかと思っております。
 第2は,これまで議論を深めてまいりました各論点に関して,審議のまとめの案を事務局で作成しましたので,それについて議論を進めていきたいと思っております。

(1) 我が国における論文の生産性をめぐる状況について

事務局より,資料2に基づき説明がなされ,意見交換が行われた。

 

【佐藤部会長】
 それでは,1番目の,我が国の論文の生産状況をめぐる状況についてでございます。
 第7期の研究費部会における大きなテーマの一つとして我が国の論文生産において科研費が果たす役割につきまして,科学技術・学術政策研究所より発表いただき議論を深めてまいりましたけれども,本日は科研費と研究成果の関係について議論を深めたいと思っております。

【北岡(良)委員】
 5ページ目の「研究開発及び論文の増加率の国際比較」で,括弧の中に研究開発費が2.2兆円と書いてありますが,これは7ページの科研費あるいはその他の科研費の研究費等を含めても大分多い。この内訳はどうなっているのでしょうか。科研費あるいは科研費以外,若しくは他の省庁含めて科学技術予算全部ということですか。この2.2兆円ということと,その7ページの科研費の総額と科研費以外の総額の論文数に対して,それ以外の2.2兆円の内訳のこの科研費以外の予算の中で,その論文に対応するのはどういう経緯でしょうか。

【山口企画室長】
 2.2兆円の統計的な子細は分かりませんが,大学部門において,競争的資金以外にも,基盤的経費,自己収入等々の収入があって,そのうち研究費として使われたものの規模感ということです。

【小安委員】
 今のお話を伺い,それからこの資料を見せていただくと,特に科研費に関する論文生産のパフォーマンスは非常に良いというふうに見えます。CSTPが科研費を非難したときに使った資料を出していただけると非常に差が分かってよいのではないかと思う。是非用意していただきたい。

【山口企画室長】
 総合科学技術会議からの指摘というのは,大意,我が国全体の論文指標が相対的に低下傾向にある中で,平成13年度から平成22年度の10年間で400億円も大幅に予算が増え競争的資金の6割をも占めている科研費の働きが悪いからではないか,という見立て,推測でして,必ずしもエビデンストベーストな議論ではありません。実際,例えば400億増は主に間接経費ですし,指摘の10年の間,科研費が競争的資金に占める割合は5割から4割に下がっているくらいです。また,そもそも論文産出に寄与する財源は競争的資金だけではなく,大学の基盤的経費も相当程度あるはずですし,仮に議論を競争的資金に限っても,むしろ科研費以外の方が予算が多かったり伸びたりしているというのが事実です。

【小安委員】
 資料の7ページを見ると結構びっくりします。科研費以外の競争的資金制度において非常に制度自体が増えて,更に資金も非常に伸びているということが見えるわけですが,そういうところはきちんと評価されているんでしょうか――評価というのは逆の意味でですね,きちんと議論に含まれていたのかどうかというのはちょっと気になりました。

【袖山学術研究助成課長】

 今申し上げましたように,精密なデータに基づいての批判というよりは,科研費が,特に基礎研究,論文生産に占める役割というのが非常に大きいということを前提として,競争的資金の中でも  その他の事業はイノベーション志向のものが非常に多いことから,論文生産ということに関して言えばやはり科研費が占める役割というのが非常に大きいはずだと。それで,我が国の論文の生産性が低迷しているということについては科研費に原因があるのではないかという非常に荒っぽい推定の下に議論されていて,そこのところについて,その説明責任は文科省の方で果たせというのがある意味,指摘の趣旨であるわけでございます。したがいまして我々としては,十分かどうかということはともかくといたしましても,このようにある程度のデータを用意して現状をきちんと公表していく必要があるということで,このように御意見を頂いている次第です。

【小安委員】
 ここで示されたデータや,今までここで議論されてきたようなことというのは,これまでCSTPに対してフィードバックがされていないという理解でよろしいですか。それとも,フィードバックしたけれどもまだ同じような批判が続いているということでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 我が国全体の研究費等に関する状況についてはこれまでも説明等はされていますが,こと,科研費,それから非科研費のものとその論文との関係という,そこのマッチングなどの取組については今回初めて科政研の方でしていただいたということでございますので,そういう意味では,CSTPの議論の中ではこういったデータはまだ入っていなかったというのが実情でございます。

【佐藤部会長】
 今回の中間報告で,今おっしゃったようなことをきちんと書くという趣旨ですよね。CSTPの批判に対してちゃんとしたデータに基づいて説明を示すということがこの中間報告の大きな目的だと思ってよろしいですね。

【濱口委員】
 1点質問ですが,8ページのところにも書いてありますように,最近,イノベーション志向の大型研究費が増えていて,日本の研究は基礎研究はレベルが高いけれども出口のところが余り開発されていないためにイノベーションが起きないということで,こちらに投資がどんどん移っている傾向があると思います。論文で見たときに,例えば応用化学と基礎科学と大まかに分けたときに科研費がどれぐらい,応用化学の分野でもコントリビューションがあるかどうかとか,そういうところは見えてこないでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 個別具体の論文について,基礎なのか応用なのか仕分するというのもなかなか難しい状況ですので,その大まかな分野ごとのデータというようなところについては,ある程度把握はできると思いますけれども,それがどの程度,要するに,その出口に近いのか,あるいはその基礎的なものなのかという分析はなかなか難しいかとは思います。

【佐藤部会長】
 他に,同じ工学の論文でもどこまで基礎的な工学になるのか,本当に製品に近付くような研究開発かはなかなか判定が難しいですね。

【濱口委員】
 分野別に少し見えないかなと。

【袖山学術研究助成課長】
 ただ,御案内のとおり,科研費の性格そのものは,基礎的なものである,応用的なものであるとを問わず,研究者の自由な発想に基づく研究であればサポートし得ることになっておりますので,実際として,非常に出口に近いような研究論文というのもこの科研費でサポートされている可能性というのは非常にたくさんあるとは思っております。

【奥野委員】
 二つほど質問があります。一つは,5ページに記載のとおり日本における2000年代の研究開発資金の増加率5%というのが外国に比べて非常に低い,ということを受けて,先ほどの御報告では,日本のGDP比での研究開発企業を増やさなくてはいけないというお話が一方でありました。ただ,問題なのは,日本が外国に比べてGDP比そのものがどのぐらい増えてきているのかということと,そのGDPの中で研究開発をどのぐらい増やしてきているのかと,この二つの部分に分けて考えなくてはいけなくて,もちろんGDP比の中で研究開発費を増やせればそれにこしたことはないのですが,日本は,御承知のとおり過去10年間デフレで名目成長率は非常に低いわけですね。例えば中国は年率10%以上ですから,これが10年間続けば,中国とGDPの比率でいえば2.5倍ぐらい,10年の間に開いてしまう可能性があるわけで,そういう意味で言うと,この10年間に日本の研究開発費が5%しか増えなかった主因は,むしろその名目GDPが伸びなかったということの方にあるのではないかというのを,もう少し踏まえて考える必要があるんじゃないかというのが1点です。
 そういう意味で言うと,非常に日本の研究開発費というのは貴重になってしまって容易には増やせないという状況にあるわけですから,これを科研と非科研,あるいはそれを内部運営費でもいいですけど,いろいろなものの中でいかに効率的に配分していくかということの方に注目をきちんとすべきだという気がいたしました。私の限られた経験だけでこういうことを申し上げるのは失礼なのかもしれないですが,例えば8ページに科研費以外の競争的資金制度の状況というものがありまして,私がタッチしたことで言いますと,21世紀COEとグローバルCOEというのを一遍経験したことがありますが,私の分野は経済,法律分野でして,いわゆる経済政治学分野ですかね。この分野で,正直言って,私,目を疑ったことが一遍ありました。約25校か30校ぐらい,1校当たり5年間で5億円というぐらいの枠で21世紀COEをやった。その二十何校がそれなりに一生懸命頑張って手掛かりをつかんだわけです。それを5年たって今度はグローバルCOEにした段階で,配分する学校の数を半分に減らしてしまった。しかも配分する額を学校当たり倍にしたということをしまして,せっかく手掛かりを作った学校の半分が,もうその手掛かりを失ってしまう,落ちてしまうわけです。他方,もらった大学の方,グローバルCOEをもらった方は正直言って余っており,経済・政治分野ですから,そんなに多額のお金をもらっても困るというぐらいたくさんの額をもらう。そういう非常に非効率な配分で,しかも,余り計画性のない配分をしたことがあるように思います。
 これは政権交代などいろいろ事情もあって文科省だけの責任ではないと思いますが,私が一番申し上げたいのは,科研費についてきちんといろいろなことを,データを見るということも大事だけれども,非科研費の部分について,きちんとその制度がうまく執行されてきているのか,個別のケースで何か問題はないのかというようなことについても是非御検討していただきたいというふうに思って,それを発言させていただきました。

【小安委員】
 今期の中間報告のときに是非,先ほど部会長がおっしゃったように,科研費のきちんとしたファクトに基づいた主張をするということが大事なことだと思います。以前からも話題に出ていましたが,このデータをもって本当に若手の方がパフォーマンスがいいのかというのはよくデータを分析した方がいいと思っています。
 それはやはりビッグラボにいる人は若い人でも科研費が取りやすいというのは,我々の分野ではもう厳然たる事実です。そうするとトータルとして非常に効率が良くなるのは当たり前であって,例えば地方大学で本当に頑張っている若手が取った科研費でどういう成果が上がっているのかというような統計がない限り,なかなかそれだけで言うのは難しいと思います。あとで足をすくわれないためにも,ちょっとそこの表現は注意した方がいいのではと思います。

【山口企画室長】
 御指摘の点については,なかなか複雑な分析が必要かと思われますが,科政研の方でも,研究種目間のクロスや時系列の分析などを更に進めていらっしゃいますので,今後更に検討を進められればと思っております。

【小谷部会長代理】
 科研費が研究を支えていることがよく分かる大変貴重なデータだと思います。これからこれを基に議論していく,若しくはいろいろなことを主張していくのであれば,先ほど小安先生もおっしゃったように,データの意味をきちんと書いておく必要があるかと思います。例えば5ページで外国の研究開発費が増加していると書いていますけれども,研究開発費とは何かが国ごとに違う可能性も高く,特に外国の方から指摘されたのは,例えば軍事関係のものが入っているとか入っていないとか大きく違いますので,それぞれ何を根拠資料にされているかをきちんと書かれた方が良いのではないでしょうか。それから,先ほど御説明の途中にもありましたけれども,単純に数字のデータが挙げられていますが,例えばどういうふうにカウントしている等でその数字の意味は大きく変わりますし,若手に関しても小安先生がおっしゃったとおりですので,その辺をきちんと記しておかないと,せっかくのデータが生きてこないのではないかと思います。
 それから,CSTPが指摘されたのは,ただ単に論文数が減っているということだけではなくて,新しい分野に対して機動的に対応できているかとか,国際共著論文を増やすことに対して少し消極的ではないかということもあったかと思います。それらに対して科研費がどういう役割を果たしているかというところも押さえておく必要があるのではないでしょうか。

【山口企画室長】
 御指摘ありがとうございます。できるだけ必要な注を付すなど配慮してまいりたいと存じます。また,国際共著論文への対応については,整数カウント・分数カウントの論点も含め,考慮すべき要素がいろいろとあろうかと存じますので,今回一定の整理はしつつ,秋以降に更に検討を進められればと思っております。

【髙橋委員】
 まず今日のこのデータ全体が非常にすばらしいというか,よくここまでまとめてくださったなと思います。しかし,端的に言うと,私は生命科学の分野におりますが,現場で感じていることがそのままデータに出た。私たちが現場の中でいろいろもがき苦しんでいるその感覚が,そのままデータに出たということで,もがき苦しむ感覚に自信を持ちました。それが第1点です。
 それからもう一つは,この全体像ですが,つまり科研費の生産性が悪いから何とかせいと言われていることに対し,これは大変だとデータを出していくということに対して私たちも頑張らないといけないなと理解しているわけですが,そのこと自体が何となく非常に,私自身には悲しいことですね。私はついおとといアメリカから帰ってきまして,実はワシントンDCで,『サイエンス』という雑誌のエディターをやっておりまして,そこのオフィスに招待されて日本の科学政策について聞かれました。今日は議論,議題ではないので詳しくは言いませんが,今の日本,ジャパンNIHをどう思うのかということ,世界各国からエディターがテレビ会議及び実際にエディター・イン・チーフもいて,聞かれました。そういうときに非常に悲しい思いをしているのが事実で,つまり,これだけ文科省の方々が,私たちも含めてここまでやらなければ日本の基礎科学が認められていないのかということです。
 これはすごく悲観的なことを言うと,これだけのデータを出しても,もしも総合科学技術会議が「そんなの論文の数だけじゃないでしょう」と言われたら,もうおしまいなわけですよ。結局どこに根本的な議論があるかというと,基礎科学の重要性を日本国がどれだけ認めるか,日本国の将来のために基礎科学がなければ将来はないと思う政治家なのかそうでないのか,その根本的な議論がまだちょっとよく分からない。
 そこは抽象的な概念をいろいろ言っても難しいということは私にも分かります。恐らく10年,20年,30年,ずっと同じ議論だと思いますが,しかしながらその議論なくして,今日のデータは論文数のデータですから,基礎科学が我が国の将来にどういう位置付けなのかという議論がなかなか見えてこない。それなくして,この中間報告,どっちの方向に向くのかなということを少し思いました。
 極論を言いますと,じゃ,科研費をつぶしていいのですかということですよね。全部イノベーションの方に行ったら,日本国は世界をリードする国になるのでしょうか。そういう質問をぶつけたときにどういう答えが返ってきたのでしょうか。私もそういう全体の枠の中でこのデータの位置付けを考えたいので,もしそういうことがお分かりになったら教えていただきたい。やはりその根本概念の,あるいは理念の議論がないと,データはデータで客観性を持ちますが,これは一つの論理にすぎないわけですね。せっかくこういう会議に出させてもらっていますので,よろしくお願いします。

【佐藤部会長】
 これは研究振興局で支援をしていただいていると思っておりますし,局長からお願いします。

【吉田研究振興局長】
 基礎研究と言いましょうか,基礎科学についての重要性というのは,私どもは当然のことながら強く認識をしているわけです。基礎研究や基礎科学なくしてはその次のイノベーションも生まれないということなので,先ほど科研費をごっそりととかいう話もありましたけれども,そういうことが起こらないようにいろいろと努力をしております。ただ,世間一般には,少し近視眼的に成果を求めるというような風潮も一方にはあります。その中で,基礎研究が何を生み出しているのか,科研費がどういう役割を果たしてきたのかということについて,ある意味では私どもも十分に宣伝ができなかった部分はあるのかもしれません。
 ただ,世間一般にはそういった指摘もありますので,その点でそうではないのかと。やはり論文の量だけの問題でもないかもしれないし,質ということも重要なのかもしれないのですが,一つはこういった科研費がこれまでどういった成果を上げてきているのかということをきちっと整理して,それがひとつ,今日お諮りしているこの生産性に関する資料でありますけれども,こういうものもきちんと今後のまとめに反映をさせて,更に科研費の充実ということを図っていかなくてはいけない。その際に,科研費も従来のようなやり方でいいのかという点については,いろいろ指摘もありますから,その点もある程度改善という形で盛り込んでいくようなことが必要だろうというふうには思っております。

【佐藤部会長】
 全く吉田局長がまとめて言われたとおりでございまして,文部科学省では,この点は十分認識されて政策としてやっていただきたいと思っております。
 最後ですが,柘植先生,総合科学技術会議にも参加されておりますので,経済,産業の振興という側面もありますし,いろいろな観点で議論されたと思うので,簡単に御意見をお願いします。

【柘植委員】
 今確かに科学技術政策から科学技術イノベーション政策と,第4期の科学技術基本計画は変わったわけですけれども,これは私も第3期に携わりまして,まず間違いない。今も私は総合科学技術会議の委員は科研費を増やしてきました。2,000億近くまで増やしてきた。これは増やそうというベクトルであることは,私は信じています。一方,やはり7ページのこの非科研費と科研費のこの棒グラフを見て,確かに科研費以外の競争的資金の予算がここのところ増えているわけですが,私はそこから次にもう少し,いわゆる基礎研究とか応用研究という二元論ではなく,むしろ基礎研究が10年,20年かかって,応用研究,ひいてはイノベーションにつながるという,このメカニズムがどういうふうに我々は強くしてきているのだろうかという議論まで入らないと,不毛な議論になると思います。
 繰り返しですが,私は今までも総合科学技術会議は,科研費は絶対に増やしたいということは堅持していると思いますので,やはり今日の議論,特に髙橋先生がおっしゃった議論はむしろそのつなぎとか価値のフローとかインターフェースとか,例えばアメリカの場合でしたら,NSFが日本の科研費の大体2倍を持っていますね。その基礎はガチッと固めながらも,その基礎を超えた,目的基礎という言葉は嫌われているようですけれども,ライフサイエンスにしてもICTにしても,そのNSFを超えたものについては一気通貫で基礎からイノベーションまで。ああいう責任体制に対しても日本の場合は,文部科学省の方としては,6割ぐらいが基礎から若干応用的なものが入って,それで,最終的には出口責任を持っている,例えば経済産業省とか国交省とか総務省とか,こういうところが残り3割ぐらいの予算でイノベーションまで責任を持ってもらっている。いわゆる価値のフローとインターフェースの比較もやはり併せてこの議論はしないと,なかなか内閣府の総合科学技術会議との議論の場でかみ合わないおそれもあるなと思って,今感じております。
 この機会ですから科政研にお願いしたいのは,そういう価値のフローとインターフェースですね。そのあたりの指標の比較をどういうふうにしたらいいのかというのも研究していただきたいと思います。

【山口企画室長】
 事務局としても,審議のまとめの素案を用意させていただく際に,総論部分で高橋委員や柘植委員の御指摘の趣旨を踏まえながら,学術研究や科研費の役割を述べるようにしたいと思います。また,研究者個人のヒストリーとして,例えば科研費で育った後で,目的基礎を取ったり,あるいはファーストを取っていったり,そういったステップアップ事例もプレイアップしていければと思っております。

【佐藤部会長】
 当面はこれで科研費のパフォーマンスの良さは強調していくことは本当に必要だと思います。もちろん柘植先生,吉田局長から言われましたように,広い観点でいろいろ発信することも必要だと思っております。

 

(2)  研究費部会「審議のまとめ(その1)」(案)について

事務局より資料3に基づき説明がなされ,意見交換が行われた。

 

【佐藤部会長】
 これまでの議論を大変明快におまとめいただいたわけでございます。今の話にありましたように,四つの論点,研究活動の国際化の問題,若手,新研究分野,研究者倫理と,こういうことになっております。
 それでは,まず国際化の進展に対応する科研費の在り方ということで,何かコメントや御意見等ございましたらお願いしたいと思います。
 私がこの部分で違和感を覚えたのは,基本方針では「“LaborからLeaderへ”施策を」ということを書いてありましたが,私の分野ですと外国の方がLaborという印象は余りなくて,やはり一人前の研究者で,もう元からそうだったという印象が強いのですが,これは分野によって違うのでしょうか。本当に私たちの仲間という意識ですけれど。このことは私にはピンときませんでした。

【小安委員】
 これは恐らく全体のコンテクストは分かりませんが,リーダーになってPIとして活躍していただくためには,研究費の制度の問題ではなくて,社会制度の問題があるので,そこまで含めた議論の中のコンテクストで議論されたのであれば,そうなのかなと思います。要するに,ポスドクや普通の研究員でなくて,本当にPIとして活躍していただくためには,家族も含めたケアが必要ですので,そのように捉えればいいのかなと思って私は読みました。科研費の中でできることというのは限られているので,ここで書かれているようなことをきちんとやるということは,まず最低限必要なことというふうに捉えればいいのではないかと思います。

【髙橋委員】
 今,委員長がおっしゃったのは全くそのとおりで,私の感覚だと,これを書くと,「ああ,日本はレイバーの国だったんだ」というふうに捉えますよね。民度の低さを露呈することになるので,これはやめた方がいいかなと思います。アメリカの話をまたしますと,アメリカのPIたちは,自分たちの学生とかポスドクを育てるときの一番のキーワードは論文を出すことではなく,いかに独立な研究者を育てるか,そこで競っているだけですね。そこにプライドを持っているわけです。

【佐藤部会長】
 すごく違和感を持ちましたので,小安先生のおっしゃった観点は大事ですけれども,この文章でこういう表現をするものではないですよね。

【小安委員】
 どこから持ってきた文かというのが分からないのですが。

【吉田研究振興局長】
 これは最初にありますように,我が国の研究開発力の抜本的強化との基本方針というところから引っ張ってきているのですが,実はこの前に「すぐれた若手,女性,そして,外国人が」というくだりで来るんですね。なので,どちらかというと,若手というところにこの“LaborからLeaderへ”というところが当てはまる感じになるのですが,引用の仕方が適切でなかったかもしれません。

【佐藤部会長】
 日本の、日本学術振興会の特別研究員というのは,正にレイバーではなくて,独立研究者として本当に支援しているわけなので,これは日本の誇るべきシステムです。こういうのは何か,すごく違和感を持ちました。
 時間もないので次に進んでよろしいですか。
 若手研究者の件でございますけど,次の項目,いかがでございましょうか。

【小安委員】
 この8ページ目に,これは今までになかった点だと思うのですが,科研費の研究代表者の人件費支出を可能にするということがあります。これはこれまでにない非常にいいことだと思うのですが,一方で,たしか似た議論が以前あったときに,これをやると更に運営費交付金を削る理由を与えるのではないかというような議論があって非常に慎重になった記憶があります。ただ,今般,政府から出された方針の中のどこかに,自助努力で外部資金を取ったときに,その分の運営費交付金を減らすようなことは直ちにやめるというような記載がありました。その点と併せるということであれば研究代表者の人件費支出を可能にするのは非常にいい制度だと思うので,これは書き方をうまく工夫していただかないといけないと心配になりました。

【袖山学術研究助成課長】
 この点については正に今後御議論を頂きたいことでございますが,今,小安委員から御指摘のような懸念というのは相変わらず存在しているところでございます。ですから,そういった状況というのを当然考えなければいけないということでございます。ただ,一方で,以前にその問題を議論したときと比べても,大学が置かれている状況,あるいはその人事制度などもどんどん変わってきているような状況もございますので,以前議論したときからのそういった状況の変化というものを更に踏まえて,こういったことも改めて議論をすべき時期に来ているのではないかというふうに考えて,このような記載をさせていただいているというところでございます。

【大沢委員】
 若手研究者の支援について,私自身は非常にいいことだと思うのですが,私たちの研究所,日本女子大には附属研究所がありまして,研究員のほとんどが結婚した後に再度大学に戻って,博士号を取ったという人が多いです。彼女たちはやはり40代,50代でございまして,非常にすぐれた,かつ,新しい視点で物事を考えている人たちなんですが,なかなか彼女たちが研究資金を取れないという問題がございます。
 そして,もう一つ。今,転職が非常に増えていて,男性でも一旦就職した後に大学に戻ってきて研究員になっているという,社会科学ではこういう人材も非常に重要だと思いますので,順調にすぐに大学に行ってそれから研究者になる,ということではない人生を歩む人たちへのセカンドチャンスとしてもこの科研費が重要に機能するような,そういう形への拡大を御検討いただき,年齢制限の見直しをしていただけたら幸いです。

【佐藤部会長】
 これは大賛成でして,私も学位論文を取ってから何年というようなクライテリアもなかなかいいと思うんですが,やはりくわえて女性の研究者の産休とか育児の期間で研究ができなかったことを,本人からの申告に基づいて何か考慮に入れるとか,その間は除外するとか,そういうことを積極的に努力する必要はあると思います。 

【袖山学術研究助成課長】
 今の女性研究者の例えば産休,育休明け等につきましては,現在ございます研究活動スタート支援がそういった方々を対象とした制度としてあるということは1点ございます。あるいは,今お話にございましたような様々なキャリアを踏まえた形でのスタート支援ということに関していえば,スタート支援そのものは年齢制限というものはないわけでございますけれども,先般,御指摘ございましたように,若手研究者について,今,年齢で切っているというところについて,特別研究員で変えるのであれば,そこも一気に変えたらどうかという御指摘がございました。それについては8ページで,今後の検討課題ということで整理をさせていただいております。なかなか大きな制度改正でございますので,来年直ちにというのは難しい状況でございますけれども,そこは早急に御検討いただきたいと思っております。

【佐藤部会長】
 ほかにはいかがでございましょうか。若手支援の件,御意見ございませんでしょうか。
 では,次に進みたいと思います。「新研究分野支援のための科研費の在り方」,この件につきましてはいかがでございましょうか。

【柘植委員】
 2点ありまして,8ページからですね。もともとこの改善方策は,基本方針,大臣にこの1月に建議した方針に基づいていますので,特にそこで強調されたのは,社会的課題を解決するということに対して人をどう育てるかとか,研究をどうするかということですので,一つはこの新分野支援のための科研費の在り方の中で,科研費の増額をここで主張する文章はどこかに入れていくべきではないでしょうか。それはどうなっているかと点検していきたいと思います。今,2,000億で,もう少し増やすべきだと私は思います。
 それから,2点目は,少し今度は我々の関連ですが,10ページの一番下に,「日本学術振興会が研究発表会を開催するなどにより,当該研究分野の振興を積極的に推進する」とあります。これをもう少し中身が分かるようにした方がよいのではないでしょうか。つまり私が心配しているのは,このままですと,日本学術振興会はその分野の仲間だけで研究発表会をするというクローズドミーティング的なものだけで終わってしまう心配があります。したがいまして是非,リワーディングの例えですが,日本学術振興会は関連ファンディング機関との協働の下,一緒に働く下というようなことで,この研究発表会を開催するなど,振興を積極的に推進する。つまり,これはバック・トゥ・サイエンスのもう一つの基礎に戻っていくものと,それから,社会還元を支えている,ほかのファンディングにつないでいくという,さっき私が言いました価値のフローとインターフェース,そういうものの視点を日本学術振興会はきちんと持ってこれを振興していただかないといけないということです。この2行のままだと,どうもその体質を変えないのではないかということを恐れます。是非ともそういう趣旨で,この2行はもう少し行政側の方で指導した文章,充実した文章にしていただきたいと思います。

【袖山学術研究助成課長】
 まず科研費全体の増額等については,その総論の方などで言及することについて検討していただきたいと思います。
 この新研究分野の支援について,来年度から実施する部分については,今回はとりあえず試行的に実施をするということで,別の予算枠ということではなく,従前の基盤研究(B),基盤研究(C)の枠の中で試験的に実施をしたいというふうに考えておりますが,この動向を,具体的な実施の状況を踏まえながらこのところについて新たに予算を要求していくというようなことも考えたいと思っております。

【柘植委員】
 ちょっと追加いたします。いろんな財政的な問題があるかもしれません。前,この場だったと思いますが,日本学術振興会から今の試みに3ケースほどトライアルでやりますという説明があったと記憶しています。そのときにも申し上げましたけれども,この問題,つまり,大臣にまで基本方針を建議せざるを得ない今の我々は,学術界もそうですし,社会もそうですけれども,試みにやるぐらいのフェーズの話ではないと,私はあのときも発言した覚えがあります。今更変えられないけれども,しかし,限定した試みも真剣勝負でやる。真剣勝負はバック・トゥ・サイエンスのもう一つの話のつなぎと社会還元のつなぎとここを真剣勝負でやらないと,3ケースぐらいでもいいですから,それをここの日本学術振興会としてコミットする文章に練っていただきたいと思います。

【佐藤部会長】
 はい。いいコメントありがとうございました。ほかにはこの件につきまして,御意見等ございませんでしょうか。
 では,次は,研究者倫理の教育のお話でございます。ちょうど前回に議論したところでございますけれども,いかがでございましょうか。
 前回の議論はどちらかというと,不正と誤謬の間の問題がすごくクローズアップされて,こういう倫理の問題に偏っていると誤謬のことまで不正と扱われる,そういうことになると研究をディスカレッジする方向に行くのではないかという議論は随分されましたが,そのことの影響もありまして,結構大きくこの報告案では取り入れられているとは思います。全体の趣旨はやはりこの倫理教育をやりましょうという話ですよね。それを強制的にやるというよりも,大学なり,研究機関なりがまずやって,将来的には科研費の交付を受ける段階とか,そういう段階で教育をしていることを示すことを求められるとか,そういうことに将来的には考えられるという話だと思います。

【小安委員】
 前回欠席して,議事録しか読んでいないのですが,大分白熱した議論だったというふうに読めますが,これは倫理教育というふうにわざわざ名を付けるかどうかということを私は非常に疑問に感じました。そもそもは研究者を養成する中に,当然あるサイエンスに対する一定のお互いの了解というのがあって,それがサイエンスをサイエンスたらしめてきたものだと私は思っていますが,そういうことを考えると,もし問題が起こるとしたらやはり教育者側の問題の方が結構大きいのではないかと思います。つまり,サイエンスに関するある一定の作法を全く教えなかったが故に,知らずにとんでもないことが起こるというようなことだって当然あり得ると思います。ですから,やはりここの書き方は大分前回の議論を受けて書かれていると思うのですが,今おっしゃった不正と誤謬の違い,それから,やはり何がその背景にあったかということをきちんと記載した上で,全体のコンセンサスとしてサイエンスを進めていく上でのきちんとした手順を踏みましょうというふうに持っていっていただく方が健全のような感じがいたしました。

【佐藤部会長】
 はい。もう先生には是非,前回に出席願えたら有り難かったと思っています。本来そういう議論が展開されることを期待しておりました。

【奥野委員】
 私が,こういう話によく似た話として思い付くものとして,納税があります。税金というのはやはり国民に納める義務があって,納税は当然国民の義務だということを皆様に知らせなくてはいけない。他方では,脱税という非常に悪いことをしている人たちがいて,それには厳罰をしなくてはいけない。ですから,そういう意味で,教育をきちんとするということは大事ですが,ただ,一律に余り厳密に,厳格に教育をし過ぎても,人間,ほとんどの人はまじめなので,そんなに教育をわざわざしなくても普通は分かるのではないかというのが1点です。それから,もう一つは,これは皆様には分かりにくい議論かもしれない,少し経済学的な議論になってしまうのですが,余り細かいミスまでチェックをし始めると,かえってコスト割れになってしまいます。
 要するに,膨大なお金を掛けて,ほんのわずかなミスをチェックするというのは余り社会的に意味がなくて,やはり非常に大きな悪いことをした人を捕まえてきて,そこに非常に厳罰を科すと。余りに小さいミスだったらば,とりわけミスですね。やや不正に近いことであっても,小さいことであれば,そんなには気にしないと。そうした方が社会全体のコストという,要するに,不正のコストと,不正を取りこぼしてしまうコストと両方併せた上での社会全体のコストという意味では,余り細かいことまではこだわらない方がいいのではないかというふうに思いますので,そこら辺書き方ですけれども,そういうようなことも入れていただければいいのかなと思います。とりわけ税金との関連でそういうことを書いていただけると,私としてはいいかなと思いますので,参考までに申し述べさせていただきます。

【佐藤部会長】
 大変いいコメントありがとうございました。前回は,そういう意味では,細かいことに議論がすごく行ったのではないかと思います。不正と誤謬の差異はというとき,分野によっては,あるデータにとっては,99.9999%の精度を求められると。だけど,ある業界では,ワンシグマのデータでいいという業界もあるし,その分野の発展段階などいろいろな段階で決まっていることで,そのことはやはりその分野での常識と言いましょうか,研究の進展の段階,厳密さの度合いによって違ってくるとは思う。それを細かくすることは何もこの倫理教育でやることではないと私は思いますが,その研究の現場の人にとって見れば余りきつくやられると,本当に意思,意欲がなくなるというのは,分かるのは分かります。

【髙橋委員】
 本当に今おっしゃったとおりで,それは前回私も少し申し上げたとおりですけれども,ここに,一つ何か付け加えていただければ有り難いなと思います。やはりこれは大きな問題ですから,最後に書いてありますよね。成果主義とか,若者のポストの不安定さ,私が前回いろいろとお願いしたところを入れていただいて大変有り難いのですが,もう一つ踏み込んで,こういうのはさっき先生が言われたように,日本の学術の在り方がどうかということですね。
 また,私,ワシントンでスミソニアンの自然史博物館へ行ってきました。巨大ですよね。そういうものがニューヨークとシカゴとたくさんあります。シカゴにはティラノザウルスの全骨も出ています。そこに行って,私は標本を見ると同時に,アメリカ人のビヘィビアを今回観察してきました。そうしたらもう,みんな「ワオ,グレイト」ですよね。ここでアメリカの税金がどういうふうに使われているかという議論は全くありません。日本でも科学博物館,すばらしいのがある。皆さん,そういうときに,「これ,何の役に立つんや。わし,税金を払っとるのに」と絶対言いませんよね。そこでみんな本当にすばらしい,自然をそこで楽しみます。そのようにして教育が進みます。これは倫理の問題というのはそこまで絡む問題で,学術の在り方,サイエンスの在り方,皆さんが,学問,知的好奇心を国民がどう思うかというここまで発展して,ここまで広げて,その中で,もっと具体的に言うと,大学の教育現場でさっきから議論が出ているように教えなければいけないことです。
 今,大学の教員は,私,何回もここで言っていますけど,今そういう余裕がないという現実もあります。ですから,こういう民度,文化を一言入れるといいのではないかと私は思います。よろしくお願いします。

【佐藤部会長】
 倫理というときに,同時にそういう広い観点からのものもきちんと教育すべきだろうということですね。もうこの倫理教育に関しては,本当に当然すべきであるということは,皆さんの合意は得られていると思います。

【濱口委員】
 ここの不正と誤謬のキーワードで考えると,不正が問題なのですが,これは,私は初等中等教育の課題のような気がします。ここでぶちまけるような感じですけど,高等教育でこんなこと教えることじゃない。一方,誤謬をどう考えるか。これはサイエンスにおける真理をどうとらえるという哲学的な課題です。『推論と反駁』という,カール・ポパーの著作の中でも書いておられますが,彼の考え方だと,反証可能性がないものは,真実とは言えないという考え方もあるわけですね。言い換えると,絶対的真理が存在し得ないという考え方も哲学的にある。ここはもっとそういうレベルで議論すべきことのようで,この不正というのは,これは初等中等教育で教えることではないでしょうか。

【佐藤部会長】
 そうですね。悪意を持って試みているのがやはり不正ですよね。これが真実かどうかというときの誤差を考えたときに,まだそれが確実であると言い切れない段階で発表するならば,そのことをきちんと明記して,そういう段階ではあるけれども,発表する価値があるといえば,やはり発表する価値はあると思います。前回の議論では,谷口先生が『ネイチャー』ですばらしい論文が出たけど,企業が再現実験をすると,1割程度しか再現できなかったという,すごい話も紹介されましたけれども。それは不正ではないとは思いますよね。

【濱口委員】
 それは単なる定量性のない実験だと思います。

【佐藤部会長】
 その他御意見ございますでしょうか。ほとんど時間はなくなりましたのですが。
 では,よろしいでしょうか。ただいまの御意見,審議のまとめの方に反映していきたいと思います。
 それでは,本日の研究費部会はここまでといたしたいと思います。

―― 了 ――

 

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