参考資料1 前回の議論の概要

第11回研究費部会 主要な意見の概要

(特設分野研究の審査について)
○ 今の科研費審査の方法は専門性が担保されると同時に公平かつ公正なシステムになっており、妥当性があるが、学術分科会中間報告での指摘も適切。細目の大括り化と審査方式改善をセットにすることが必要。書面審査と合議審査とで同じ委員が議論をするように審査の方式を変えることで、両方の要請を満たせるのではないか。例えば、米国の国立保健研究所(以下「NIH」という。)のスタディ・セクション(以下「SS」という。)方式は非常に丁寧で、新しいテーマを発掘(ただし、科研費は件数が圧倒的に違うことに留意)。「知」の創造と蓄積、継承の上に研究の新しい芽を出すためには、多様性を生み出す力、人まねでない新しい発想を出す力が必要。単に細目の数あわせ的な大括り化ではなく、内容に踏み込み、専門性を保証し多様性を産み出す両面をもった審査制度を今、日本学術振興会(以下「JSPS」という。)で検討している。
○ 特設分野研究の審査では、申請1件当たり平均10分議論をし、審査委員には出身分野の代表の観点ではなく特設分野研究として優れたものを選んでもらった。問題は審査の負担であり、いかに本質的な部分を失わず簡素化するかが課題。合議審査では60件を扱うのが限界ではないか。また、審査委員の確保・育成が重要。
○ 特設分野研究の審査に携わった経験からは、SSは丁寧なよい審査方式であると言える。自分とは違う分野の審査委員と判断根拠を共有していけるし、審査委員の教育効果もある。今までは、既設分野の中で審査委員が読んで納得できる範囲の「融合」研究に採択範囲が限られていたし、申請する側も既設分野に融合研究的テーマを出すのはチャレンジングだったが、今回の特設分野研究の審査では新しい融合分野の芽になりそうなものを選ぶのによかった。
○ SS方式のデメリットは時間がかかりすぎること(申請書を読むのにこれまでの3倍かかる)。この審査方式を他の種目にも広げていくべきだと思うが、今のままでは困難。「基盤A」以上のみへの導入やプレスクリーニング、学術動向調査を生かしたテーマ設定などJSPSで運用について工夫してほしい。

(海外のファンディングエージェンシーの審査体制について)
○ 2011年9月に海外FAの調査を行った。SS方式の一つの目的は、審査委員を育てること。そのため、審査委員に毎回若手を必ず入れる。アクティブな研究者なら審査に参加するのが当たり前という意識が一般的にあるが、最近は予算が減っていてよいテーマでも落とさざるを得ないので、審査委員を引き受けてくれない例もあるという。
○ NIHは年間に審査コストとして1億ドルを使っている。
○ NIHでは、最も基本的なグラントを初めて受ける平均年齢が40歳を超えており、キャリアパスの問題で苦労している。また、20%の研究者に50%の予算が集中しているという課題があるとのこと。研究者一人当たりの研究費としては、年間80万ドル程度がいちばん「効率がよい」と聞いた。

(科研費の審査について)
○ 戦略的な審査体制も考えないといけない。審査全体の効率を上げることは非常に重要。例えば、サマリーで審査をし、(質の低い申請書を読む)無駄なコストと時間をかけないようにする。ただし、「基盤C」は簡単な審査で自由にやらせればよい。審査資料にマルチメディアを活用することも考えるべき。申請書と審査の専門性の関連性は重要なので、自動キーワードマッチングDBのようなシステムがあるとよいのではないか。
○ 「基盤C」の審査は省力化して負担がかからないシステムに変えると同時に、融合分野については、特設分野研究の経験を生かして新しい審査システムを考えていくべき。

(科研費の位置づけとデュアルサポートについて)
○ 米国では、特に若手のスタートアップは競争ができるところまで大学がサポートし、その上で競争する。日本でも若手のスタートアップ支援の充実が行われているが、デュアルサポート、特に大学のサポートが非常に重要。
○ デュアルサポートがなぜ必要か、もう少し議論が必要。データでも科研費をもらっていない研究者が沢山いるが、競争的研究資金だけでは大学の学術を支えるのに十分であるか。大学においては、知の創造だけではなく知の伝承が必要であり、暗黙知が息づいていることが学術の層を厚くしている重要な要素。それを支えていたのが基盤的経費であり、基盤的経費での研究から芽が出て、科研費に応募するという仕組みがうまく駆動してきた。このことが、今までの日本の科学、学術の推進の大きな基盤としてあった。それが根本から崩れかねない状況では、科研費に応募する芽が育たなくなる。
○ 科研費に応募するための芽を育てるというところを大学がやらないとイノベーション、経済再生につながらないのではないか。その流れをきっちり組み立てていくことが重要。
○ 本部会の審議報告書には、科研費以外の競争的研究資金の改革についても研究費部会として意見を入れていくべき。
○ 学術の位置づけは、産業・技術の芽を創るということだけではなく、国民の素養を高め、モティベーションや興味を高めること。学術として国民の税金に対する還元を考え、学術は学術として非常に重要であるとの視点を打ち出すことが必要。
○ 知の創造は学術の根幹にあり、社会と離れた学術はあり得ない。知の創造と同時に知の循環が必要。社会からの問い掛けがなければ学術も成り立たないという発想。社会からの問い掛けにどう学術が答えているか、知の循環をどう働かせるかという議論が科研費という文脈の中で必要。

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