資料3 科研費に関するこれまでの議論の概要

学術分科会中間報告

 現状と課題

改革に向けた基本的考え方

 デュアルサポートシステムの再構築

●かつては大学の基盤的経費で行っていた若手研究者のセットアップ支援を今後どのようにするかが課題。
●科研費の獲得ができなければ学術研究や人材育成が不可能な現在の状況は、大学にとってマイナス。
●文系を含め、すぐに成果の出ない分野にも配慮したデュアルサポートシステム自体の方向性について検討が必要。
●科研費以外の競争的資金は、教育、学術の分野を疲弊させている。大学は、科研費以外の大型のプロジェクトが獲得できる組織改革を進め、研究分野を育てる観点での組織改革に向かっていない。

○大学の自律性を前提とした戦略的なデュアルサポートのシステムを作ることができるのであれば、現在の科研費や戦略的創造研究推進事業等とうまく組み合わせていけるのではないか。
○デュアルサポートのバランス変化については、科研費に全ての問題解決を集約するのではなく、デュアルサポート全体の問題として議論すべき。基盤的経費の減少を科研費の間接経費等で補うといったような考え方だけでは弊害が生まれ、これらをどう組み合わせ戦略的に活用するかが重要ではないか。
○地方大学にも国際レベルの研究が必ずあるので、そういうものを本当に育てることができる制度改革が望ましい。このような観点から、間接経費は全学的な研究力強化の観点から学長の判断で配分できるように「オーバーヘッド」であることをより明確にする必要があるのではないか。

 制度の基本的構造

●科研費の役割は、次代の研究シーンに対して、新たな芽生えを提供することであり、多様性を確保し、新規分野の創成、融合分野の育成が必須。
●科研費は、個人の力に立脚して、研究の多様性の確保や国を支える幅広い人材育成と、オンリーワンを目指しノーベル賞の卵を産むような研究を同時にサポートする必要。
●研究の進展に応じて必要になる研究課題に対する助成額の適正規模は、専門分野によっても異なる点に留意が必要。
●研究費には広い意味での教育効果があるということについて、もっと社会の理解を得るようにすべき。高等教育だけではなく、初等中等教育や社会人教育も効果は及んでいる。
●科研費で一番大事なのは、「研究者が育つ」こと。その意味で、研究者が特定の成果に結びつけられてその後その発展応用だけをやることになると、本来もっと多面的に伸びるべき人をスポイルすることになり科研費の最も良いところが失われる可能性がある。ボトムアップの研究成果は、優秀な研究者が多様な分野や融合領域に挑戦し、開拓することを促すという観点で捉えるべき。
●基礎研究から生まれる既存の枠にとらわれない独創的な成果こそ、ハイリターンを生みうる研究成果となる可能性がある。学術界における基礎研究の充実があってこそ、既存技術や製品の枠組みにとらわれない、大きなイノベーションが生まれる。
●科研費の成果をいかに応用につなげていくかということは大事だが、その側面だけでは、「文化としての学問」という観点がおろそかになる傾向があるため、学術を支援する意義を自ら再定義必要がある。その一つとして、学術界は学術を通じた文化国家としての日本を発信すべき。

○大型プロジェクトを動かすときには国際的な審査を導入すべきであるが、多様性を維持するため、発想力を作る小規模の個人研究は独創性の芽を生かすことが大事ではないか。
○未来志向の研究者を発掘し育てることが重要。研究者のキャリアに対する研究費の「ポートフォリオ」を考えて制度を設計する必要があるのではないか。
○競争的研究資金については、教育的意味合いが強いもの、すなわち、学部生や修士課程学生が中心の大学が必要とする研究資金と、先端研究支援、すなわち博士課程学生、ポスドクがいて世界的な競争をしている研究に対する科研費を分けて考えられないか。

 応募・審査の在り方

●科研費は非常に公平で、大学名ではなくて研究の中身を見て支援されるため、地方大学の活性化に大きな役割。
●応募件数の増加に対して重複応募制限を厳しくしたことにより、応募回数制限や重複制限のある若手種目への応募のタイミングなど、若手研究者が本来のサイエンスとは無関係な心配をしなければならない状況が生まれている。また、研究者が元々少ない地方大学が研究費を取りにくくなっているのではないか。
●今の重複制限では、従来行ってきた研究を少し別の方向で発展させることに挑戦してみたいときなどに継続した研究費支援を受けられない。
●基礎研究の積み重ねが本当のイノベーションとなる大きな展開につながるため、大学では研究者に、より大きな研究種目への挑戦・移行を促している。一方、重複応募の制限が厳しすぎると、研究者は少額でも研究費の確実な獲得を第一に考えて申請を行う傾向があるので、研究の発展を阻害しかねない。
●特に大規模科研費については、業績のある著名な研究者に集中する状況が生じているのではないか。
●「未来志向」の先端研究とそうではない研究が、全く同じ仕組みで審査・評価されている。「未来志向」の研究を組織的に発掘する方策が欠如しているのではないか。
●学術動向調査などから学術の未来のトレンドを十分議論してテーマを設定し、ボトムアップの人を集める形式としては、今年度から科研費に試行的に設置した特設分野研究があり、その結果を踏まえた議論が必要。

○重複応募制限の緩和をする一方で、応募回数制限や質の低い申請を事前にスクリーニングする仕組みの導入、かつよりよい研究計画を丁寧に審査する方策についても検討すべき。スタディ・セクション方式(※10)の導入はその一手段ではないか。
○大規模研究種目と小規模研究種目を区別し、比較的少額の研究種目については、簡便な審査等についての検討が必要ではないか。
○応募件数の調節のために重複制限を前提としても、研究者に複数の機会を与えることはできるのではないか。例えば、大型研究種目の上位の不採択者については、より少額の研究種目での再審査(コメントフィードバック(※11)、リバイス申請(※12)、プレ採択(※13)を含む。)のシステムがあると、挑戦しやすくなるのではないか。
○芽が出始めた研究をきちんと育成するために、研究課題の中間評価や研究終了時に、評価に応じて支援を継続・拡大する仕組み(評価に応じた格上げの機会)を設けることも検討すべきではないか。
○機器の共用を進めるために、例えば審査の際に科研費で購入する機器の共用計画を評価するようなインセンティブがあると、研究費の有効性が増すのではないか。

 若手研究者の養成

●海外でポスドクを経験してもその後のキャリアが難しいという問題については、国内で頑張って成果を上げている若手にも同様のことが言える。キャリアパスの難しさは、全体的な問題として考えるべき。
●大規模プロジェクトに所属している若手研究者は申請の際に思いきって挑戦ができるが、独立した若手ほど確実に獲得できる研究種目に申請する傾向があり、実際、研究費が一年取れないと研究活動ができなくなる。
●流動性がないという社会全体の構造によるところがあるのではないかとも思われるが、日本にはテニュアトラックで失敗したときの受け皿が少なすぎる。
●博士を取ってポスドクで修練を積んだ人が、基礎研究の世界で能力を発揮するキャリアパスと同時に、実業の世界でも能力を発揮できるキャリア教育により、適材適所の進路が可能なようにすべき。日本の博士課程では多様な育ち方をする場が十分に与えられていないのではないか。

○独立して研究を行うための若手支援については、まずポスドクの時期に支援することが重要。また、海外から帰国する際に良いスタートアップの支援システムがあると、海外にも行きやすくなり、帰国時も心配なく戻ってこられるのではないか。
○科研費で自分の給料をサポートできるような枠組みがあれば、海外から戻ってくるときなどに国内ポストを獲得しやすくなるため、柔軟な使用ができないか。
○若手研究者の独立時、またはキャリアアップのために研究機関を移動して研究室を持つ際にも、やはりスタートアップ資金が必要。また、大学において共同利用機器を整備する、授業などの負担を軽減することも成果を出すまでのスタートアップ支援になる。

 女性研究者への支援

○研究現場への女性の登用は進んでいるが、夫婦で別の研究機関で研究をしている者も多く、安定した家庭を持てない場合もある。特に地方大学において、夫婦でポジションを確保できるよう、ダブル・アポイントメントの導入なども重要。

 

 国際化の促進加速

●現在の科研費の審査は国内研究者のみにより行われているため、本当に国際的に実力のある研究者や先端的な研究テーマを選び切れていないのではないか。
●科研費制度には、徹底的な発信支援の役割がある。言語や文化の障壁を乗り越えて、国際発信を拡大していくことが重要。そのためには、博士課程学生から若手研究者まで幅広く海外に派遣し、国際的なネットワークに入り込むことや研究成果の翻訳、出版支援の改善が必要。
●例えば海外にアピールする文学作品や我が国の社会について学術研究を通じて紹介することには日本の「顔」としての役割が期待されるため、人文・社会科学分野における国際化も重要。
●世界標準での研究促進という意味では、発表される論文は、単に学術誌に掲載されることではなく引用され影響を残すことが重要であり、その点を評価すべき。一方で、日本社会との関係性の中での独自の研究においては、日本語で書かれた書籍も意味を持つ。

○海外の研究機関で独立したポジションを取れるかが決まるテニュアトラックの時期は研究者として一番伸びる時期であり、この時期のサポートが非常に重要であるので、海外から科研費に応募するシステムを作ることも必要ではないか。
○海外でパーマネントポジションを有し、かつ研究実績がある者を対象に、帰国後のスタートアップの大型支援をすることが、国際研究ネットワークの形成には有効ではないか。
○海外から帰国する際に科研費申請をしやすくするため、会計年度ではなくアワードイヤーを導入すべきではないか。
○海外とのマッチングファンド方式での国際共同研究スキームを独立行政法人科学技術振興機構(JST)、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)などで立ち上げれば、その枠組みの中で組織的にポスドクを外国に出せるし、組織の中で順番に海外派遣をすることで帰ってきた後のポスト問題も自然に解決されるのではないか。
○将来のサイエンスを背負う可能性の高い博士課程の大学院生やポスドクを海外へ送ることを推奨すべき。そのためには、ポスドクとして海外で研究生活するメリットを積極的に作り出すことが重要。海外での研究経験、研究活動や業績について、科研費審査の上で配慮することは考えられる。
○国際研究ネットワークの育成については、通常の研究種目とは別枠として応募を認めるなどの工夫が必要ではないか。
○「特別推進研究」などは国際競争力を支える源泉であるので、提案書の英語化や本格的な国際審査の導入が必要ではないか。

 科研費の研究成果や学術研究の最新動向の積極的な発信

●JSTやJSPSは、政府の動きに対して、互いに連携して対応すべき。学術研究のトレンドを大事にしながら、学術を基にして成果応用を展開するルートをきちんと構築すべき時期に来ている。
●人文・社会分野の研究にしても個人で終わるのではなく、例えば倫理の問題は医学や色々な分野に関係してくるので、そういう異分野の研究者が一緒に研究できるような体制も必要ではないか。

○研究者コミュニティから出た成果をJSPSが分析し、国の戦略的な目標、方針の立案に資する情報を提供する流れを創出することが必要。科研費を基盤として基礎研究から社会実装までが見通せるような情報フィードバック機構を備えた研究システムに変えていくべき。
○学会等において、新分野の育成に関連した配分機関と研究者との意見交換の場を設けることも有効ではないか。

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研究振興局学術研究助成課企画室企画係