資料1-2 「学術振興上の重要な課題」の捉え方についての意見

「重要な課題」としての対象の捉え方

○ 基本的には、自由な発想の上にたって、自主・自律的に真理の探究、学術の深化に向けた研究と戦略的な課題の両面を重視して取り上げるべき。現時点で国際的に脚光を浴びている課題に取り組めば、問題解決には貢献するが、将来において基盤となるインパクトを与えるものは限られるであろう。短期的な成果のみ追いかけ続けることにならないように留意すべき。

○ 学術振興、という視点を重要視するなら、やはり基本は多様性を尊重した学術振興を目指すことが基本的に重要であり、そのためにはボトムアップ型のイノベーションスタイルを基盤に据える研究体制とすべき。学術の底流には「学問の自由」や「研究者の自主性、自由な発想」といった言葉に象徴されるように、研究の方向性は学術の進展の中で自ずと生み出されてくるものであり、予見できたり、特定の政策によって生み出されるものとは違うのではないかと思う。問題はこのような研究者の自主性を如何にして掘り起こし、生まれ育ちつつある研究を更に飛躍的に発展させるための土台を提供すること、一方では将来発展するかも知れない研究分野のレベルアップを図り、世界に発信できるような国際的研究へと繋げていく仕組みを構築できるか、ということではないか。 

○ 「重要な課題」を捉える観点としては、研究分野の急成長期に求められる次世代研究者養成の観点、我が国で生まれ世界での優位性と独自性を最重視する観点(欧米にはできない研究でアジアの拠点となるポテンシャルの高い研究)、次世代の研究者の成長の場(海外からの学生、大学院生、若手研究者等が集まる研究)を重視する観点などが大事ではないか。

○ 「学術振興上の重要な課題」は、あくまでも学術システム全体を俯瞰した振興策であって、決して個別の分野やプロジェクトの検討ではないと理解している。専門分野に特化した振興策ももちろん重要であるが、本分科会で議論すべきこととの切り分けが必要と考える。何を対象とするかに関してコンセンサスを形成するところから始める必要がある。

○ 「研究者の自主性と研究の多様性の尊重を振興の前提・原則とする」とあるが、そこに問題(課題)が蓄積している。ここを放置して、戦略的振興を図ることは砂上の楼閣を作るようなものと考える。国立大学の法人化後の足腰の強化策を十分に検討すべき。

学術研究を推進する上での課題

○ 評価が分かれる研究者であっても、型破りの大きな目的をもち、周囲の期待を受けているなど、創造性豊かなポテンシャリティを備えた研究者を、コミュニティが一定の割合で育てていく観点も重要(分野の閉鎖性の打破、シミュレーション研究の重視、シニア研究者の経験知の活用等)。

具体的な「重要な課題」として、我が国の優位性(統計数理の優位性、分子進化の優れた研究者の存在)などから、数理・物理・情報と生物学の融合研究として、ゲノム時代の総合的な時空間生命情報科学(「包括生命科学」)を推進し、研究者養成を加速することが考えられる。

○ 学術研究の多様性を積極的に進めるために、国家プロジェクトではカバーされないテーマに絞るくらいの戦略的な研究費配分が必要ではないか。

○ どちらかというと理工系、生物・医学系の研究が注目されがちだが、我が国の学術を強化するためには人文社会科学の発展は極めて重要であると思う。人間社会における新たな価値観の創造、といった研究分野を発展させ、社会にもアピールして行くことが大切だと思う。また、医学や他の理系分野と統合させながら、共同で地球規模の問題解決を図ることも大切である。

○ 研究分野が多様化・複雑化した現代において、従来型の研究手法に頼っていては発展しにくい状況にあり、情報・データ集積型の研究と仮説検証型の研究の融合体制による生命医科学研究の推進などが必要。

○ ボトムアップ研究から生まれる研究体制を強化するため、若手研究者が相互に乗り入れ、情報交換や共同研究が推進できる全国的な研究組織体制を構築する仕組みなどが考えられるのではないか。また、分野によっては、世界の研究組織との連携を図り、合同シンポジウム、若手研究者交流等を推進する体制の構築を奨励する仕組みの検討も重要である。

○ 分野横断型の研究の重要性に関連してStanford大学学長による含蓄深いコメントが紹介されていたが、そのコメントの本質は下線部にあると考える。

   「したがって,大学や研究助成機関としては,分野横断型の研究活動(学際的研究)を―狭い学問分野ではなく広い研究テーマに立脚する研究センターの設立などによって―奨励すべきである.その際のチャレンジ(克服すべき挑戦課題)は,伝統的な学問諸分野,そして研究の卓越性を担保する上でそれらが果たしている役割を損なうことなく,それ(学際的研究の奨励)を行なうところにある.」

   学際研究の遂行および奨励は常にこの点に立ち返りつつ行われるべきものと考える。学際(interdisciplinary)研究は、伝統的学問分野(discipline)における卓越性(excellence)があってこそ開花する。学際研究の成否は、それを実践する研究者の軸足となる学問分野における卓越性と相関している。

○ Dual Supportの確立や、研究に対する人的、技術的支援策、大型プロジェクトや小規模研究を戦略的に推進する国際評価も含めた、優先順位付けを行う仕組みの構築が急務ではないか。

○ コミュニティーの意向なしに研究目標を設定しても混乱を招くのではないか。例示がかえって有害となることを危惧する。

○ 独自の研究手法が大きな成果を生み出すことから、それを助長するような施策が必要。

教育研究に係る課題

○ 「ボトムアップ研究」を高頻度に理想的な方向へ導くための研究教育の充実をはじめ、柔軟な思考や多様性に富んだ創造力を引き出す教育ということの必要性を強く感じる。従来の学術潮流にとらわれない、革新的な学術の進化を求めるには、研究という現場にターゲットするイノベーションも重要だが、それと併せて学横断的な教育改革(既存の学部フレームを発展的に統合する、新しい大学院構想を考える、など)を根本的に行うことも重要ではないかと思う。学術研究と教育を担う大学等が、あくまで自主性を持って改革に取り組めるよう、行政と大学がお互いを尊重しつつ、一緒になって推進できるような学術振興政策が求められているのではないか。

○ 学術活動における「定量化・数値化し難いもの」の重要性は人文・社会系のみならず自然科学の分野においても常に指摘されているところであるが、単なる指摘に留まっており、具体的対処策は見出せないでいる。根本的解決策は無いのかもしれないが、この問題を放置したままに各種の評価が実施されるようでは、学術活動の在り方そのものに歪みがもたらされることになりかねない。特に、不適切な評価の在り方が、若手研究者の伸び伸びとした挑戦意欲を阻害したり、行動様式に影響を及ぼしたりすることが憂慮される。

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