資料1 人文学及び社会科学の振興に関する委員会報告案

科学技術・学術審議会学術分科会人文学及び社会科学の振興に関する委員会報告案

目次

はじめに~震災に立ち向かって~ 1
1.人文学・社会科学の振興を図る上での視点 2
(1)諸学の融合的連携と総合性 3
(2)学術への要請と社会的貢献 5
(3)グローバル化と国際学術空間 7
2.制度・組織上の課題 9
(1)共同研究のシステム化 9
(2)研究拠点形成と大学等の役割 11
(3)次世代育成と新しい知性への展望 12
(4)研究評価の戦略と視点 14
3.当面講ずべき推進方策 15
(1)先導的な共同研究の推進 15
(2)大規模な研究基盤の構築 18
(3)デジタル手法等を活用した成果発信の強化 19
(4)人文学・社会科学の学問的特性を踏まえた研究評価 20

はじめに~震災に立ち向かって~

 平成23年3月11日に起きた東日本大震災は、わが国の社会に激甚な被害をもたらしたばかりではなく、これとともにあった科学や学術にたいしても、未曾有の衝撃と反省をもたらすものであった。地震とそれに起因する巨大な災禍にたいして、どのような対応の方途がありうるのであろうか。人文学・社会科学は本来において知的社会の推進に向けて注力すべきものであり、そこに重大な責任を負っている。はたして、人類と国民の安寧と幸福に貢献すべき学術として、起こってしまった災害と、今後にあって予測・憂慮される災害に関して、どのような研究活動を構想することが可能であろうか。この設問は、人文学・社会科学に従事・関与するすべての研究者等にあっても、回答への努力を強いるものである。私たちはこの責務に応えるべく、従来の活動への反省と、今後のあり方についての真摯な検討を要請されている。人類と国民から寄せられた負託に正面から応えることで、その責任を遂行したい。
 既往の諸研究はもとより、新たに提起される研究はどのような性格をもつであろうか。リスクの増大に直面する現代社会にあって社会のシステムにどのような問題が内包されているのか。それは根本的な解明を求められるであろう。具体的にはリスクの回避のためには、どのような対応策がありうるのか。それは、多様な社会研究の蓄積によって推知、解明することができるであろう。あるいは、地震による災害の歴史的資料の収集や精査、それに直面した過去の人間活動や、そこに込められた経験知や英知などの事例調査などは、重要なヒントとなるであろう。私たちは、これを特に当面する緊急な課題と考え、全力を尽くしてこれに取り組む覚悟であることを平成24年の現在にあって、明言しておきたい。これをもって、人文学・社会科学研究に従事・関与する研究者等からの、国民にたいするメッセージとさせていただく。

平成24年 月
人文学及び社会科学の振興に関する委員会
主査  樺山  紘一

1.人文学・社会科学の振興を図る上での視点

 災害に向き合う人文学・社会科学(※1)の研究には、広大な分野と領域が参画している。こればかりではなく、日本における研究の営みは、日常的な活動においても分厚い成果をもたらしてきたが、なお現時点にあって新たに、もしくは強調して要請される方向性について、考察しておきたい。以下にあっては、3つの視点と4つの制度・組織上の論点を取り上げることにする。これらは、人文学・社会科学にあっていま緊急性をおびており、具体的な施策を求められるものである。その基本の視点としては、

  1. 諸学の融合的連携と総合性
  2. 学術への要請と社会的貢献
  3. グローバル化と国際学術空間

 また、制度・組織上の課題としては、

  1. 共同研究のシステム化
  2. 研究拠点形成と大学の役割
  3. 次世代育成と新しい知性への展望
  4. 研究評価の戦略と視点

 これらをとおして意図するのは、人文学・社会科学を、本来あるべき文化の創造と継承の重要な一環と捉え、人びとが共同で追求すべき人文的、社会的理想を検討し提唱して、自然・人間・社会の全体像のなかで未来を展望することである。この営みをとおして、私たちは国民と歴史の負託に応えたいと念願する。

(1)諸学の融合的連携と総合性

 人文学・社会科学にあっては、従来ややもすれば、個別の分野の求心力に固執するあまり、急速に進む専門化を優先させて細分化に陥り、総合性への視点を欠落させることにより、結果として自然・人間・社会の全体的理解を等閑に附しがちであった。それの路線転換は容易ではないが、すでに試みとして進行しつつある融合的連携の方法を精査して、より可能性の高い方向性を模索することにしたい。人文学・社会科学にあっては、それ自体が開発してきた独自の諸方法を展開するのみならず、隣接する理工学や生命学の適切な、後に見るような学術への広汎な要請に対応すべく、戦略的に挑戦することを目指したい。極度の細分化の克服は、その結果として視野に入ってくるはずである。

(研究者の交流・相互理解の重要性)
  日米の研究の進め方を比較すると、米国では、すぐに成果が上がらなければ研究をやめてしまう傾向があるが、日本ではいろいろな研究をすることに寛容性がある。新たな領域開拓を目指す分野間連携の研究においては、このような日本の研究システムの強みを生かすことができると考えられる。(※2)
  日本にはこのような寛容性がある一方で、研究分野のたこつぼ化により、専門の外に出て交流することが非常に難しい状況もある。また、分野が違うと、同じ概念、言葉でも、全く違う意味で使うことがしばしばある。新たな領域開拓を目指して研究を進めていくには、分野間で「認識枠組み」や「文法」を相互に理解することが重要であり、時間をかけて他分野の文法も理解し、分野間の接点となる事例を見出すことができる実働的な研究者の育成・確保が不可欠である。
  また、異なる分野の研究が、全体のストーリーの中でどこに位置するのかを、お互いに伝えあう能力(コミュニケーション)が必要であり、その相互理解の上で自律的な活動を活性化することができれば、新たな領域開拓につながっていくことが期待される。
  なお、理工系は人文系に比べると組織的な研究が多く、論文の「作法」も定まっている場合もあるため、分野間の連携が、結果として理工系中心の研究となってしまわないように留意しなければならない。

(研究継続の重要性)
 新たな領域開拓を進める上では、自らの分野のアイデンティティと方法論を最大限に提供するなど、分野間の連携をしながら学問を進め、別の認識枠組を創っていくことが重要である。例えば、人文学・社会科学から、理工系の研究者に事例を提供することで、新しい技術や新しい学問を生み出すこともできる。
  分野間連携の研究は、研究者間の刺激をきっかけにして自生的に研究が成長するため、ある一定の研究分野・領域として確立するまでは、既存の専門分野の中での位置付けが不明確になりやすく、研究継続が困難になりやすい。研究者間の接触と追求によって自生的に成長しているものを評価して、安定的・継続的に支援するという観点が重要である。また、研究を継続していくには、他分野の研究者から共同プロジェクト等の機会を確保していく努力も求められる。

(2)学術への要請と社会的貢献

 人文学・社会科学にあっては従来では、研究者の側の契機・モチベーションが極めて重要視されてきた。このことは、依然として否定しうべくもない。しかしながら、今般の災害に直面したり、あるいは社会の高度な複雑化にも伴って、研究の社会的機能への真剣な認識が期待されるようになり、研究者への要求も水準を高めている。こうした状況のもとで、私たちはどのように思考を進めたらよいのであろうか。すくなくとも、研究者にあって自己満足とも受け取られかねない孤立化は、断じて許されない。必要なことはといえば、社会からの強烈な要請を正面から受け止めつつ、その理由と根拠を的確に見極め、主体性をもって判断する論拠と機能を整備することである。そのためには、政策立案からそれの批判的検討にまでいたる、多様な社会的活動に参画することで、社会的要請への積極的な応答を試みることが可能である。いわゆる課題設定型の研究推進は、有意義な結果につながってきており、今後の方向のひとつを指し示している。しかもそれらの研究成果はつねに、要請の母胎としての社会にたいして、明瞭かつ迅速にアウトリーチ(※3)される必要がある。内容の難解さや手続きの煩瑣を理由にこれを回避することは、いかにしても許容することはできない。デジタル手法の開発を含めて、成果発信のための技術や方式は無限に開かれている。

(目標・ターゲットの設定)
 課題設定型プロジェクト研究は、研究者の専門分野における研究だけでは気付かない研究対象や視点を研究者に与える。全く異なる分野の研究者との共同研究は、互いに協力活動をしたことによって得た成果をそれぞれの分野に持ち帰ることができ、その分野の発展にも貢献する。
 このようなグローバルな潮流の中で、社会貢献を目指す課題設定型プロジェクト研究においては、何を目標・ターゲットにするのかが重要である。個々の実証研究の積み重ねにより、政府や自治体等の政策形成・実施のためにデータを提供することを科学研究の本務ととらえ、価値選択は政治の役割とする考え方や、政策形成・実施に係る価値判断にまで踏み込むという考え方など、目標・ターゲットの設定には様々な考え方がある。(※4)
 また、研究には、現在の社会への貢献という短期的な観点と未来志向の人類史的貢献という長期的観点の間で緊張関係があることや、分野間連携の研究自体が、「分野の細分化」と同様に、殻にこもってしまうこともあり得る。例えば、都市計画や防災等の分野間連携が不可欠な研究においても、結果的に理工系の既存の研究手法が中心となってしまうこともある。
  しかしながら、社会ニーズに対応し社会貢献のプロジェクトを進めていくにあたって、制度設計、政策提言等による課題解決を目指すことは、社会への説明責任を果たす観点から重要である。

(研究と社会実践の関係)
 社会貢献を目指す研究成果に対しては、社会実践との関係について説明責任が求められるが、研究成果を厳密にとらえすぎると本来の社会貢献の目的や内容を狭めてしまう危険性もあることに留意しつつ、エビデンス(※5)に基づく研究を推進していく必要がある。
 また、社会貢献を目指していくには、NGO、政策形成、司法、企業等における実務の専門家やジャーナリストなど研究者以外の者(以下「実務者」)も含めた実効的な共同研究も必要である。実務者を含めた共同研究においては、研究者の研究のサイクルと、実務者の需要のサイクルは必ずしも一致しないため、両者の知識交換、知識の共同生産という観点から実務者の関与や実務の場での研究を進めるとともに、両者のバランスをとるプロジェクト・マネジメントを行う人材が不可欠である。また、社会貢献を目指す研究であっても、関係する分野によって、共同研究へのインセンティブが異なることにも留意して、プロジェクト・マネジメントを行う必要がある。

(3)グローバル化と国際学術空間

 20世紀末からの急速なグローバル化が、研究に熾烈な変革を強いたことは、いまや周知の事実である。この事態のもとで、わが国の人文学・社会科学が十分に周到な対応と発信を達成してきたかどうかは、疑問がなくはない。しかし、21世紀の現在にあっては、さらに広範な問題が提起されるにいたっており、迅速な意思形成が必須となっている。ことに、自然科学一般と異なり、人文学・社会科学にあっては、えてしてその研究上の特性から母国(語)特性に固執するあまり、外国籍や外国由来の活動にたいして、冷淡な対応を行うことも稀ではなかった。しかしながら、事態の進行とともに、吟味と参照に値する成果が蓄積され、国際学術空間にあっては、いわば世界標準のもとでの競争や協同が一般化しつつある。いまや、ごく少数の例外を別にすれば、人文学・社会科学の領分にあっても、内外の水準差や機構的な孤立化はありえないようになった。こうした状況のもとで、諸外国との競争や協同はいかに推進されるか、またその成果をいかにしてわが国の研究状況に導入することが可能であるかが、問われなければならない。しかも、たんに受身の形でグローバル化に対応するだけではなく、日本由来の学問領域を国際的な交流の場に引き出し、リーダーシップを取ることで貢献・寄与することが要請される。そのための政策や機構への注力も必須である。あきらかに、こうしたグローバル化は無視・忌避が不可能な現状に達している。

(国際的な成果発信の重要性)
 日本の研究に関心を持つ優れた外国人研究者は、これまでも日本に来て研さんを積んでいるが、我が国の人文学・社会科学を国際的に展開していくには、日本からの一層の発信が不可欠である。
 人文学・社会科学においては、海外と国内で関心が持たれている研究テーマは必ずしも一致しないが、国内で関心が高いものを国際的に発表していくことは、長期的には、日本の研究に対する海外での関心を高め、日本の学会のプレゼンスを高める上で重要である。(※6)
 また、海外に向けて、日本の文学や芸能などの日本研究や日本特有の経済・社会論に関するデータを提供し、英語論文を発信することで、日本固有の研究とは異なる知見を有する海外の研究者との対話が生まれ、今まで気づかなかった視座を得たり、比較により顕在化する価値を発見することが可能となり、日本研究がさらに発展する可能性がある。例えば、特色ある文学研究の翻訳を助成して各国に発信することができれば、さらに、世界中に日本研究について興味関心が高まるとともに、比較文学研究を通じて新たな解釈や発見が期待でき、日本研究にとって良い効果をもたらすと考えられる。(※7)
 なお、我が国の人文学・社会科学研究者が研究上のアンビジョンを持ち、我が国の人文学・社会科学が国際的に存在感を高めていくためには、日本学術振興会の調査機能を活用するなどして、海外における人文学・社会科学の諸分野の学術動向を継続的に把握することも重要な取組である。

(国際的な研究活動の評価の重要性)
 人文学・社会科学においては、研究対象が海外の事象である場合も多く、本来的に国際的な研究活動を進める素地がある。しかしながら、海外の研究者との公開ゼミナールを開催したり、英語論文を書いたりしても、それらの活動は必ずしも十分評価されているとはいえない状況にある。日本人の人文学・社会科学の研究者は、海外の現地の研究者とは異なる視点から語るべきことを多く持っている。留学後の国内ポストが少ない現状などは、国際化へのインセンティブにつながらない一つの要因とも考えられるが、大学等における専門的な研究教育を通じて、留学の目的意識を質的に高めていくことが重要である。

2.制度・組織上の課題

(1)共同研究のシステム化

 人文学・社会科学が長らくにわたり、すぐれて個人的モチーフに即して展開されてきたことは事実としても、近年にあっては研究水準の向上に伴って、多数の研究者や機関の参画による大規模な共同研究の必要性も、公言されるようになって久しい。また、その間にあって、引証される価値のある共同研究の実例が存在したことも事実である。しかしながら、この方法は必ずしも広く共有されることがなく、個性的な実例として称揚されるにすぎないことが多かった。しかしながら、財務的にも効率的な研究が訴求されるという側面もあって、共同研究の質的・量的な向上が強く要請されている。異なった分野間の交流は、偶然的なあるいは属人的な触れ合いから生起することがしばしばであるが、しかし、経験に基づくシステム化の追求は不可欠である。人文学・社会科学の共同研究のシステムに関する分析が、専門的な方法と機関において実施されることが望ましい。そのための財政的・人的な支援も行われてよかろう。

(人文学・社会科学に係る研究推進事業のこれまでの実施状況)
 人文学・社会科学に係る研究推進にあたっては、「他者との対話」という研究方法上の特性を踏まえて共同研究を位置付け、これまで
○人類が直面している問題の解明と対処のための学際的・学融合的取組
○異質な分野の学者との共同研究
○日本と研究対象地域との「共生」に向けた研究
○近未来において我が国が直面する経済的、社会的な諸課題の解決のための研究
○海外に存在する「日本」に関係する資源を活用した日本研究の国際共同研究
といった様々な観点から事業を展開している。
  これらは、各事業の趣旨・目的に沿ってそれぞれ実施されているが、1.「人文学・社会科学の振興を図る上での視点」で示した3つの視点に沿った継続的な募集の枠組みが確立していないため、人文学・社会科学の体系的な支援にまでは至っていない。

(総合性等の視点をもった枠組の構築)
 文部科学省における競争的資金制度の見直し等を踏まえ、人文学・社会科学に係る研究推進事業は、平成24年度から日本学術振興会の「課題設定に基づく先導的人文・社会科学研究推進事業」に統合されている。人文学・社会科学をさらに発展させるためには、これまで個別に実施されてきた事業の特色を活かしつつ、総合性、実社会対応、グローバル化への視点をもった枠組みを構築して事業・制度を安定的・継続的に運営していく必要がある。
 また、研究者同士が同じ目的・関心を共有していれば、それを解決するためにコミュニケーションを図ることはできるが、分野間連携による共同研究には手間と時間がかかるので、継続的に意思疎通を図る場を設けることが重要である。また、社会連携の共同研究においては、若手研究者や実務経験のある者が、学問分野と社会との間で相互交流できるような研究コミュニティを作ることが必要である。また、基礎的な研究と政策への貢献とをつなげる役割を担っているシンクタンクとの実効的な連携を深めていくことも重要である。
 実質を伴った分野間の共同作業や大規模な研究計画は、個別の研究分野が深まっていくことにより効果的に成り立つと考えられるので、課題解決を目指した研究の奨励の不可欠の大前提として、ボトムアップ型の基礎研究の充実が必要である。多様な研究により課題点を抽出・整理しつつ、課題解決を目指した研究を持続的な取組にしていくことが必要である。なお、人文学・社会科学分野における科研費への新規応募は比較的少ない状況にあるので、独創的な研究に一層意欲的に取り組むことも求められる。
 さらに、大学等においては、研究者に関する情報等を活用し、人文学・社会科学も含めて新たな領域開拓や社会連携の共同研究に意欲的な研究者が、学内外の様々な分野の研究者・実務者に直接会えるような実効的な環境を作っていくことが重要である。また、人文学・社会科学全体に変化をもたらすには、共同研究を志向する研究者が一定比率(※8)まで増加することが期待される。 

(2)研究拠点形成と大学等の役割

 人文学・社会科学にあっては、すでに見たとおり、従来にあってその研究営為が個人的なモチベーションに依存する度合いが強く、また成果の評価も個人の責任を問うものであったため、研究資源への重点投資を控えがちであった。むろん、個人の小規模だが、特徴的な学問成果には尊重すべきものが多いとはいえ、また問題の巨大さや広範さのゆえに、多数の研究者の組織的な参画を求めるべきものも軽視できない。自然科学における場合と同等とはいえないまでも、拠点の集中的な研究システムの構想は、これまでも試行されてきたし、かなりの成果をも収められている。これらに参照を求めたうえで、連携と集中の研究体制の新たな方向性を探査することが重要であろう。その際、人的ネットワークや地理的条件を吟味して、効率的に機能しうる拠点を設定することが現実的でもある。とくにその試行にあっては、従来にあっても拠点として機能することの多かった大学等を想定し、従来の経験にも学びつつ、あらたな可能性を探索することができよう。

(研究の機能強化のあり方)
 国際的学術空間において研究活動を推進するためには、窓口となる拠点の機能を活性化することが重要である。現在、人間文化研究機構においては、地域研究に係る複数の大学と組織的に連携した拠点間ネットワークを構築する機能、海外の機関と協定を締結して、機構内の研究機関への研究者の割り振りなどの国際交流を仲介する機能、国内外の大学、研究機関、博物館等と共同して行う日本関連資料の調査分析等に関する国際共同研究の推進機能等を担っている。
 また、人文学・社会科学系の共同利用・共同研究拠点としては、地域研究や経済学等において国立・私立大学合わせて18機関が認定されており、多様な研究者がチームを組んで共同研究を推進する機能を発揮している。
 我が国の人文学・社会科学の魅力を高め、海外へすそ野を広げていくためには、従来の枠を超えた新たな学問領域の創成を促す機能を強化するとともに、潜在的な研究ポテンシャルを備えている学問分野なども加味した拠点の形成が必要である。
 また、各大学においては、人間文化研究機構や関連の深い共同利用・共同研究拠点との連携を強化しながら、大学院における研究教育を活性化させていくことが求められる。

(3)次世代育成と新しい知性への展望

 人文学・社会科学にあっては、従来でも適正な次世代養成のシステムが存在してはいた。しかしながら、それらは現場の知恵によって運営されるという側面が大きく、結果として環境条件が変化するなか、従来のシステムが円滑に機能しがたくなるという現状が、指摘されるにいたった。財政難に伴う人事構成の窮屈化、「内向き」指向や現状肯定に向かう精神的保守化など、客観情勢は困難に溢れているが、このなかで次世代育成に向けて、どのような改善策が取られうるであろうか。障害の実在は否定できないにしても、他方では新世紀の新たな知性の出現が予測されることも事実であろう。これまで、ややもすれば、個別ケースに託されてきた次世代育成を、人文学・社会科学に通有の場に引き出し、可能性を探ることが必須であろう。その際には、制度上の改編や強化はもとより、関係者の意識転換をも大胆に要請せざるをえないであろう。さらには、近年のいわゆる「内向き」志向を克服すべく、次世代研究者への支援・育成の方向性を模索することも、視野に収めたい。

(人材育成のあり方)
 大学等においては、学部横断的な履修や実社会と科学の関連性を追求する教育プログラムにより、分野間連携の意義について判断できる人材育成が可能となってくる。また、留学によって、自らの視点とは違った視点を知り、異なる価値基準を理解できれば、そこから新たな挑戦の意欲を得る可能性も高まる。
 若手研究者が分野間連携のプロジェクト研究に参画することは重要である。研究の細分化の克服を目指して、異なる分野の研究者のみならず、広く社会の人々と対話するためには、コミュニケーションの技術が必要であり、分野間連携の実践を重ねることで、その技術を修得することも期待される。また、博士論文とは異なる分野において若手研究者が研鑽を積むことは、その後のキャリアの上でも意味がある。そのためにも、意欲ある若手研究者をきちんと評価することが重要である。
 また、理工系では、博士論文を書く前に、査読付き論文雑誌への掲載を義務づける場合があり、人文系の中でも、例えば経済統計学など一部の分野では同様の取組がなされている。しかしながら、単著としてまとめられる程度の博士論文の執筆を重視し、論文より単著の研究書が業績として高く評価されてきた分野も多い。このような分野の学問的特性を踏まえれば、査読付き論文雑誌への掲載を奨励するのではなく、将来、学術書となり得る大きな主題の博士論文に挑戦・専念させ、学術書の出版の際に外部のレビューやレフェリーを行うことが、若い世代への正しい動機付けとなることも考えられる。このため、学問分野において、優先して評価すべき項目を検討するとともにその違いについても分野間で共有する必要がある。
 なお、人文学・社会科学の振興のためには、優秀な人材を絶え間なく育成・確保することが必要不可欠であるが、優秀な人材が希望を抱いて人文学及び社会科学の研究の道に進むことができるようにするためには、若手の博士研究員が、国内外において多様なキャリアパスの展望を描くことができるようにすることも必要である。若手の博士研究員が、新たな道を切り開く自由な発想と幅広い視野を身に付け、研究者はもとより、様々な分野で活躍できるよう、大学や研究機関においては、キャリア開発のための講義やセミナー、長期インターンシップ等の機会の提供等、若手の博士研究員の多様なキャリアパスの確立に向けた支援のための取組を進めることが望まれる。

(4)研究評価の戦略と視点

 国立大学の法人化や社会一般の関心の増大もあって、研究の成果拡大への要請はいやがうえにも、高まっている。そのなかで、国や社会からの支援にたいして、研究者からの責任ある応答の必要性もますます強調されるようになった。そこでは、研究活動への財政上・人事上の助成にたいしては、これに対応する成果発信が必須になっている。従来、理工学・生命学等にあって成熟した評価の方式が存在する一方で、人文学・社会科学にあっては、評価は内在的なものであり、また定量的ではない定性的なものでもあるとして、大規模で客観的な評価制度に消極的な態度が顕著であった。しかし一般的にいって、公的・私的を問わず、助成や支援については事前・事後の評価は不可避のものであり、当事者にあっては、その独特の方式をみずから積極的に提起すべきところであろう。むろん、他の分野と比べて技術的な困難の度合いが大きいことは当然のこととして、しかし暫定的であれ仮説的であれ、社会的に説得力のある評価法を提唱することは、当事者にとっては義務というべきであろう。すでに、具体的な提唱も少なくないところから、迅速にその見通しを手にしたいと考える。

(研究評価における留意点)
 研究を通じた社会貢献のインセンティブを高めるためには、研究成果としての社会提言が具現化され、その評価がプロジェクトに関わった研究者への影響として結びついていくことが求められる。研究が社会とどのような結節点を持つのかという観点を踏まえて、評価を行う必要がある。
 分野間連携により課題解決を目指す研究においては、技術開発や課題解決の水準で評価が求められるが、人文学などの研究においては、認識枠組みの提示が評価されることが多く、具体的な技術水準の達成等による評価は難しいことが多い。理工系のプロジェクトの中に人文学・社会科学が積極的に参画することとあわせて、成果の求め方や評価の視点を複数設定することが必要である。
 また、人文学の研究においては、対話的な方法や科学的・実証的な方法を通じて、様々な視点から分析を加えつつ、自らの言葉で認識枠組みを提示し、大成するという面がある。短期的に評価される研究とともに、成果が出るまでに長い時間を要する研究を奨励し、長期にわたる研究への挑戦を評価することが大事である。なお、研究課題の評価において、その研究が未来志向であるかという視点にも留意した多角的評価を行うことが重要である。なお、問題の発見から見解の表明に至る過程を自らの言葉でまとめあげる研究書は、学問的な水準を評価する一つの仕組みであることから、学術図書の刊行支援は引き続き重要である。(※9)

3.当面講ずべき推進方策

 これまでみてきたのは、中長期的な視点としての、1.「人文学・社会科学の振興を図る上での視点」と、これらの視点も踏まえた中短期的な課題としての、2.「制度・組織上の課題」である。これらは、スピード感をもって検討されることが望ましい。なかでも中短期的課題である2.「制度・組織上の課題」については、できるだけ早期に改革の提唱と結論の設定が要請される。それらのうち、現在にあって可能な論点についての具体相を、ここでさらに強調して掲げておくことにしたい。

(1)先導的な共同研究の推進

(課題設定による先導的人文・社会科学研究の推進)
 人文学・社会科学が参画する共同研究には、大別して、ブレイクスルーを目指して研究方法の革新を目指す「領域開拓」、現実の人間社会における様々な問題に係る解決案の創出を目指す「実社会対応」、及び国際的な研究の場に参画し、リードしていく「グローバル展開」の3つの目的がある。
 「領域開拓」を目的として諸学の融合的連携を目指す研究においては、異なる学問分野の研究者の参画を得て、新たな研究領域への予想外の飛躍をもたらすような課題の追求や方法論の継続的な改良が求められる。
 「実社会対応」により社会的貢献を目指す研究においては、実務者の研究への参画を得て、研究の推進から成果の発信までの連携を確保するなど、社会的貢献に向けた実効的な体制作りが求められる。関連分野の実務者を含めた審査・評価を試行することも重要であると考えられる。
 また、「グローバル展開」を目指す研究においては、日本研究のみならず、人文学・社会科学の様々な分野を対象とした国際共同研究の推進と、国際的なネットワークの構築による海外の研究者との対話やグローバルな成果発信が求められる。
 これらの共同研究は、それぞれの目的に応じて参画する者や成果発信の方法などが異なっているが、いずれも、主要分野を一つに絞ることが難しいという共通の特性があり、分野間連携による知識の共同生産を正面から捉えたプロジェクトの実施が求められる。プロジェクトの運営においては、人文学・社会科学の特性を踏まえることが求められ(※10)、知識の共同生産等に優れた成果が期待できるものについては、短期間のプロジェクトで終わらせるのではなく、長期的な視点をもって継続できるようにする必要がある。日本学術振興会においては、人文学・社会科学分野におけるこれまでの共同研究事業の実績を踏まえて、評価結果に基づいて延長を可能とする支援の枠組を構築することが必要である。
 さらに、審議会によってアジェンダが設定されることも多いので、科学技術・学術審議会等における基本的な方針や議論を踏まえて、推進すべき共同研究の課題を定めることにより、政策の実現性を持たせていくといった課題設定プロセスも必要である。あらかじめ提示する課題や要件に沿った公募を実施するとともに、応募に際して関連分野を広く指定できるようにすることや、共同研究を促進するためのレビューシステムを構築するなどの工夫も考えられる。
 なお、知識の共同生産のすそ野を広げていく観点からは、小規模でもよいので若手研究者が、横断的なプロジェクトを推進できるような研究支援枠の導入を検討することも必要である。

(設定すべき課題の例)
 平成21年1月の学術分科会報告(※11)においては、近未来における全地球的な課題の例(貧困問題、エネルギー問題、人口問題、環境保全と経済成長、価値観の異なる文明の共存)及び近未来において我が国が直面する課題の例(少子・高齢化、生活の質の向上、東アジアの環境問題、我が国経済の成長制約条件の解明と打破、科学技術の成果を社会に適用する場合の倫理や合意形成の課題)が掲げられており、今なお重要な課題である。
 これらに加え、現在分野を超えて共同で取り組むことが求められる研究領域としては、例えば以下のようなものが考えられる。これらの研究領域は、現時点における例示であり、今後グローバルな視点から、継続的に見直していく必要がある。

◎非常時における適切な対応を可能とするための社会システムのあり方
 震災後や新たな感染症が流行した場合などの非常時には、既存の社会システムでは対応しきれない問題が生じ、都市・交通機能の麻痺や社会秩序の混乱を招く可能性がある。起こりうる非常時に備えた社会的リスクの管理と価値判断を行うことが求められていることから、現代の「リスク社会」に対応した新たな社会システムのあり方について検討を行う。(※12)
◎社会的背景や文化的土壌等を加味した新技術・新制度の普及
 今後、社会的価値を含む様々な新技術・新制度が創出・提示されることが想定されるが、人間社会が求める新技術・新制度の普及のあり方について、工学的・経済的検討とあわせて、民俗学、宗教学、心理学等の観点から検討を行う。(※13)
◎アジアの協調的な発展を目指した科学技術の制度設計
 アジア地域においては、技術開発等の科学技術を巡る不均等な発展による国家間の摩擦やイノベーションによる競争も激しい。それは、紛争の原因にもなりかねない。歴史学・経済学・政治学・法学等の観点から、地域のたどってきた長い歴史や宗教の相違、植民地化と国家形成の違いなどを含めて、科学技術の制度設計について検討を行うことにより、アジアの協調的な発展方策を求める。

(2)大規模な研究基盤の構築

 学術研究の大型プロジェクトは、最先端の技術や知識を結集して人類未踏の研究課題に挑み、当該分野を飛躍的に発展させ、世界の学術研究を先導する成果を挙げてきている。
 「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」(※14)においては、日本文化の根幹をなす歴史的典籍の活用体制の整備や持続可能な社会づくりの先端研究を推進するためのデータベース・ソリューション網の整備など、人文学・社会科学分野の拠点を活用した大規模な研究基盤・ネットワークの構築やデータ集積等を行う大規模研究計画が掲げられている。
 これらの大規模研究計画については、人文学・社会科学分野の基盤形成に資するのみならず、日本文化の国際発信や社会諸科学の分野横断的な研究を推進するものであり、研究者コミュニティの合意、実施主体、共同利用体制、計画の妥当性等を踏まえ、社会や国民の幅広い理解を得ながら、長期的な展望をもって戦略的・計画的に推進する必要がある。

(3)デジタル手法等を活用した成果発信の強化

(機関リポジトリの利活用による教育研究成果の発信)
 大学等においては、教育、研究などの様々な知的活動により生産される成果を電子的に収集し、原則として無償で発信する保存書庫として機関リポジトリが構築されつつある。機関リポジトリは、研究者自らが論文等を登載していくことにより学術情報流通を改革すると同時に、大学等における教育研究成果の迅速な公開・発信を実現し、社会に対する教育研究活動に関する説明責任の保証や、知的生産物の長期保存などを図る上で、大きな役割を果たすものである。
 機関リポジトリに収録されるコンテンツは、論文、図書、研究報告書、教材など様々な知的生産物が含まれるが、現状では著作権処理が容易であることなどの理由から、紀要論文が全体の4割以上を占めている。このことから、分野的には、人文学・社会科学の文献が多く収録され、利活用される傾向にあり、同分野の成果発信・流通の面からも重要な機能を果たしている。
 とりわけ、若手研究者にあっては、成果発表の場として紀要を活用する場面も多く、機関リポジトリを通じて、研究成果を迅速かつ広範囲に公開する機会が増大することにより、社会とのコミュニケーション活動が推進されることはもとより、研究者相互の交流がより活発化することも期待される。
 現在、機関リポジトリの構築・運営にあたっては、大学図書館が大きな役割を担っているが、国立情報学研究所においても、共用リポジトリシステムの提供など、これらの取組を積極的に支援している。機関リポジトリを通じた新しい学術コミュニケーションの可能性を切り拓く意味からも、大学等が、機関全体として機関リポジトリの整備を積極的に進めるとともに、その意義について所属する研究者の理解を促し、教育情報を含む幅広い教育研究資源を機関リポジトリに収録するなど、利活用の促進に向けた機能の充実が必要である。

(国際情報発信力強化のための科学研究費助成事業の改善)
 学協会等が定期的に発行するジャーナルは、学術論文を発表する場として、研究成果の発信・流通に大きな役割を果たしているが、人文・社会科学分野を含め、電子化の進展とともに、国際情報発信力をより強化していくことが重要である。
 そのためには、学協会等のジャーナル発行を支援する科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の「学術定期刊行物」について、これまでの限定的な助成を見直し、国際情報発信力強化を行うための取組内容の評価や、オープンアクセス誌の刊行支援を行うなどの制度改善が求められる。その際、ジャーナルの学術的価値に加え、学協会等が設定する事業計画が国際発信力強化に向けた目標達成に向けて妥当なものかどうかを適切に評価することが必要である。

(4)人文学・社会科学の学問的特性を踏まえた研究評価

 「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成21年2月17日)(※15)においては、学術研究の評価における配慮事項が掲げられている。人文学・社会科学の研究評価については、「人類の精神文化や人類・社会に生起する諸々の現象や問題を対象とし、これを解釈し、意味付けていくという特性を持った学問であり、個人の価値観が評価に反映される部分が大きいという点に配慮する」こととされている。
 また、「国立大学法人及び大学共同利用機関法人における教育研究の状況についての評価」(※16)では、研究活動の実施状況等を把握している。ここでいう「研究活動」とは、論文・著書等、学会での研究発表、海外の学術書・文芸作品等の翻訳・紹介、辞書・辞典の編纂や関連DBの作成、政策形成等に資する調査報告書の作成など広く教員の創造的活動を指している。
 今後、人文学・社会科学の特性を踏まえた研究評価を充実していくには、「教養」の形成に資する著書、公開講座、メディア等を通じた様々な成果発信・アウトリーチを一層積極的に評価することに加え、例えば、日本語希少原典や優れた文学研究の外国語への翻訳、国際共著論文、海外での研究活動等の国際的な活動なども「研究活動」として評価することが求められる。また、国際学会組織化の活動など、国際的な研究関連の活動への貢献ついて評価することも視点として重要である。
 これらの項目については、研究プロジェクトの審査・評価の観点や大学での研究者の採用基準等において適切に取り入れることが望まれる。
 新たな領域開拓等を目指す分野間連携を評価するためには、学問的な水準に加えて、共同研究から生み出される貴重なデータベースの構築等の研究者コミュニティに対する寄与、問題を共有するステイクホルダーへの研究成果の普及に向けた取組等についても評価することが重要である。これらは、研究成果の発信活動の評価とも考えられ、実際に研究成果を共有し活用する実務者等からの評価も重要である。

 


1 広く人間・文化・社会を対象とする研究については、人文科学、人文学・社会科学、人文・社会科学など、様々な表現がなされるが、ここでは「人文学・社会科学」という表現を用いる。
2 例えば、政治学と脳神経科学の共同研究においては、政策や政党に関する認知心理過程を脳神経科学に基づく実験データで示すことが可能となり、これまでとは異なる視点から政治学的な理解が深まることが期待される。
3 アウトリーチ(活動):国民の研究活動・科学技術への興味や関心を高め、かつ国民との双方向的な対話を通じて国民のニーズを研究者が共有するため、研究者自身が国民一般に対して行う双方向的なコミュニケーション活動(基本計画特別委員会(第3期科学技術基本計画)の重要政策(中間とりまとめ)平成17年4月  科学技術・学術審議会基本計画特別委員会)
4 2010年代のEU諸国においては、「inter-disciplinarity」や「multi-disciplinarity」は科学の領域での融合をいい、他方、社会が関与する場合をTR(transdisciplinarity)として、両者を使い分けた議論も行われている。
5 エビデンス:証拠、根拠(evidence)
6 例えば、我が国における東洋史研究の層は厚く、これまでの研究蓄積によって、海外の現地の研究者とは異なる研究のアプローチをしてきており、彼らにはない知見を提供することができる。
7 関連する施策として、文化庁では、我が国の優れた現代日本文学を海外に発信し、諸外国との相互理解の促進に寄与するため、外部有識者により選定した作品について翻訳を行い、海外において出版を行う「現代日本文学の翻訳・普及事業」を実施している。
8 我が国の人文学・社会科学分野の研究本務者(大学及び企業)は、約7.6万人である(平成22年度科学技術研究調査  総務省)。その一割程度と見込んだ場合には約8千人。
9 例えば、歴史学の分野では、業績面においても社会貢献の面においても著作のインパクトは論文よりはるかに大きいといわれる。
10 例えば、個人研究をベースとする人文学の研究においては、特定の解決策を提示するというよりは、何が問題であるのかという認識枠組みを創造し提示する研究が進められ、評価される。したがって、共同研究の計画当初に定めたそれぞれの役割分担の中で一定の成果を提供しあうだけでなく、知識を共同生産する過程で認識枠組みを重視したり、理解を共有するためのワークショップを重ねるなどのプロジェクト運営が求められる。また、政治学や社会学では、国際ネットワークへの参加や、常に海外と交流していることによって、何が世界共通の課題となっているかという論点を作り出す場に参加し、その論点の中で研究を進めることが重要である。その際、旅費の申請手続きを柔軟にしたり、エディティングの経費面での支援が必要である。
11 人文学及び社会科学の振興について(報告)-「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道-(科学技術・学術審議会 学術分科会  平成21年1月20日)
12 例えば、以下のようなものが考えられる。
○災害直後に緊急に外部の医療関係者が被災地において医療救護活動を行う際、被災地の医療機関等が有する大規模な個人医療データを共有するためには事前にどういった法的ルールを整備しておけばよいのか、といった非常時の社会システムのあり方についての、法学研究者や医療関係者等による研究。
○震災等の非常時におけるサプライチェーンの再構築に向けた、法的ルール等を含めたシステムのあり方の検討。システムに係る諸分野の知見を活かした検討が必要。
○非常時における、各現場での自律分散型の意思決定を想定した、行動経済学、歴史学、政治学、社会学、心理学等の観点からの、意思決定マネジメントの検討。
13 例えば、以下のようなものが考えられる。
○遺伝子組換技術の利用、医療用ロボットによる手術、fMRIによる鬱病治療などの新技術の導入・定着を図る上で不可欠となる、人工物をもって生命を操ることへの本能的な拒否感や、宗教や土着信仰などの思想的背景など、個人的・社会的状況の把握。
○製品開発における芸術工学(デザイン工学)を駆使した、人間の感性・センスへの配慮や、デザイン、使いやすさの追求。このような観点は、自然科学の成果を社会に伝わりやすくするという理解増進にも資する。
14 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会(以下、作業部会という。)では、純粋に科学的視点から評価を行った日本学術会議の「マスタープラン2010」(※)を踏まえ、大型プロジェクト推進にあたっての優先度を明らかにする観点から、各研究計画について、評価結果と主な優れた点や課題・留意点等を整理した「ロードマップ」(平成22年10月27日)を策定した。
(※)日本学術会議は、各分野の研究者コミュニティにおける大型研究計画の構想を集約し、純粋に科学的な視点から評価を行い、我が国の学術研究や科学技術の発展に真に必要と認められた7分野43の研究計画について、その意義や概要を取りまとめたマスタープランを策定した(平成22年3月17日)
15 「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年6月法律第63号)の制定等による研究開発強化への取り組みに対応し、より実効性の高い研究開発評価の推進を図るため、総合科学技術会議において、大綱的指針の見直しが行われ、平成20年10月31日に新たな大綱的指針が内閣総理大臣決定されたことを受け、文部科学省において「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」を見直し、取りまとめたものであり、文部科学省の所掌に係る研究開発について評価を行っていく上での基本的な考え方をまとめたガイドラインである。
16 独立行政法人大学評価・学位授与機構が行う評価。

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