資料3 人文学及び社会科学の振興に関する委員会報告骨子案

はじめに~震災に立ち向かって~

○平成23年3月11日に起きた東日本大震災は、わが国の社会に激甚な被害をもたらしたばかりではなく、これとともにあった科学や学術にたいしても、未曾有の衝撃と反省をもたらすもの。
○自然科学の諸分野はもとよりのこと、一見すると縁が薄いかに思われる人文学や社会科学にあっても、多様な問題設定に向かわざるをえない。

  • 地震とそれに起因する巨大な災禍にたいして、どのような対応の方途がありうるか?
  • 起こってしまった災害と、今後にあって予測・憂慮される災害に関して、どのような研究活動を構想することが可能か?
  • 既往の諸研究はもとより、新たに提起される研究はどのような性格をもつのか?

○地震による災害の歴史的資料の収集や精査、それに直面した過去の人間活動や、あるいはそこに込められた経験知や英知などの事例調査などは、重要なヒントとなるであろう。また、リスクの増大に直面する現代社会にあって、どのような対応策や回避策がありうるかは、多様な社会研究の蓄積によって推知・解明することができるであろう。私たちは全力を尽くして、この課題に取り組む覚悟。

1.人文学・社会科学の振興を図る上での視点・論点

○人文学・社会科学を、本来あるべき文化の創造と継承の重要な一環と捉え、人びとが共同で追求すべき人文的、社会的理想を検討し提唱して、その全体像のなかで未来を展望する。この営みをとおして、私たちは国民と歴史の負託に応えたい。 

(1)学の融合と総合性  

○人文学と社会科学にあっては、従来ややもすれば、個別の分野の求心力に固執するあまり、急速に進む専門化を優先させて細分化に陥り、総合性への視点を欠落させることにより、結果として人間・社会の全体的理解をなおざりに附しがち。
○融合とはあくまでも、それに関与する諸学が、その固有の方法や成果を放棄することなく、しかし融合的統合によって、方法の革新と研究者の協同を実現するよう努力することに始まる。
○人文学・社会科学にあっては、それ自体が開発してきた独自の諸方法を展開するのみならず、隣接する理工学や生命学の適切な分野とのあいだでも、大胆な融合の試行を提起し、その成功例を参照しながら、戦略的に挑戦することを目指したい。
(各論)
○研究者間の交流・相互理解等の問題→資料4のP1参照

(2)学術への社会的要請とアウトリーチ

○災害に直面したり、あるいは社会の高度な複雑化にも伴って、学術の社会的機能への真剣な認識が期待されるようになり、研究者への要求も水準を高めている。
○必要なことは、社会からの強烈な要請を正面から受け止めつつ、その理由と根拠を的確に見極め、主体性をもって判断する論拠と機能を整備すること。
○研究成果はつねに、要請の母胎としての社会にたいして、明瞭かつ迅速にアウトリーチされる必要がある。
(各論)
○目標・ターゲット設定の問題→資料4のP2参照
○研究と社会実践の関係→資料4のP2参照

(3)グローバル化と国際学術空間

○自然科学一般と異なり、人文学・社会科学にあっては、えてしてその学術上の特性から母国(語)特性に固執するあまり、外国籍や外国由来の活動にたいして、冷淡な対応を行うことも稀ではなかった。
○事態の進行とともに、吟味と賞賛に値する成果が蓄積され、国際学術空間にあっては、いわば世界標準のもとでの競争や協同が一般化しつつある。いまや、ごく少数の例外を別にすれば、人文学・社会科学の領分にあっても、内外の水準差や機構的な孤立化はありえない。
○たんに受身の形でグローバル化に対応するだけではなく、むしろ国際的な交流の場を生みだしたり、リードしたりする努力が要請される。
(各論)
○国際的活動の意義と評価→資料4のP3参照

(4)共同研究のシステム化

○人文学・社会科学が長らくにわたり、すぐれて個人的モチーフに即して展開されてきたことは事実としても、近年にあっては研究水準の向上に伴って、多数の研究者や機関の参画による大規模な共同研究の必要性も、公言されるようになって久しい。
○効率的な学術研究が訴求されるという側面もあって、共同研究の質的・量的な向上が強く要請されている。
○異なった分野間の交流は、偶然的なあるいは属人的な触れ合いから生起することがしばしばであるが、しかし、経験に基づくシステム化の追求は不可欠である。
○人文学・社会科学の共同研究化に関するシステム分析が、専門的な方法と機関において実施されることが望ましい。
(各論)
○人文・社会科学研究推進事業のこれまでの実施状況→資料4のP4参照
(日本学術振興会)
・人文・社会科学振興プロジェクト研究事業
・世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業等
○共同研究のシステム化にあたっての課題→資料4のP4参照

(5)研究拠点形成と大学の役割

○拠点的な集中の研究システムの構想は、これまでも試行されてきたし、かなりの成果をも収められている。
○これらに参照を求めたうえで、連携と集中の研究体制の新たな方向性を探査することが重要。
(各論)
○拠点の機能強化の在り方→資料4のP5参照

(6)次世代育成と新しい知性への展望

○従来でも適正な次世代養成のシステムが存在してはいた。しかしながら、それらは現場の知恵によって運営されるという側面が大きく、結果として環境条件が変化するなか、従来のシステムが円滑に機能しがたくなるという現状が、指摘されるにいたった。
○個別ケースに託されてきた次世代育成を、人文学・社会科学に通有の場に引き出し、可能性を探ることが必須であろう。その際には、制度上の改編や強化はもとより、関係者の意識転換をも大胆に要請せざるをえないであろう。
○近年のいわゆる「内向き」志向を克服すべく、次世代研究者への支援・育成の方向性を模索することも、視野に収めたい。
(各論)
○人材育成における現状と課題→資料4のP6参照

(7)研究評価の戦略と視点

○国立大学の法人化や社会一般の関心の増大もあって、学術研究の成果拡大への要請はいやがうえにも、高まっている。
○従来、理工学・生命学等にあって成熟した評価の方式が存在する一方で、人文学・社会科学にあっては、評価は内在的なものであり、また定量的ではない定性的なものでもあるとして、大規模で客観的な評価制度に消極的な態度が顕著であった。
○助成や支援については事前・事後の評価は不可避のものであり、当事者にあっては、その独特の方式をみずから積極的に提起すべきところ。
○暫定的であれ仮説的であれ、社会的に説得力のある評価法を提唱することは、当事者にとっては義務というべき。
(各論)
○研究評価における留意点→資料4のP7参照

2.当面講ずべき推進方策

○中短期的問題については、できるだけ早期に改革の提唱と結論の設定が要請される。それらのうち、現在にあって可能な論点についての具体相を、ここで強調して掲げておくことにしたい。

(1)先導的な共同研究の推進 

○日本学術振興会における「課題設定による先導的人文・社会科学研究推進事業」の制度改善→資料4のP8参照
○設定すべき課題の例→資料4のP9参照
○基礎研究の充実→資料4のP10参照

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)