参考資料1 人文学及び社会科学の振興に関する委員会におけるこれまでの主な意見

人文学及び社会科学の振興に関する委員会におけるこれまでの主な意見

審議事項例1 「人文学・社会科学の学問的発展」について

(1)異分野融合研究の意義

  • 日米を比較すると、日本の方が異分野融合研究を進めやすい。米国では、すぐに成果が上がらなければ研究をやめてしまうが、日本ではいろいろな研究をすることに寛容性がある。異分野融合研究では、このような日本の研究システムの強みを生かすことができる。
  • 政治学と脳神経科学とが融合研究を行うことにより、人間が政策や政党をどう考えているかという認知心理過程をデータで示すことが可能となり、政治学的な知見が深まることが期待される。
  • 土木技術と制度(ルール、規則)など、社会基盤の分野では、理系にとって文系の要素は不可欠になってきている。

(2)異分野融合研究を遂行する上での留意点

研究の継続
  • 政治学と脳神経科学の融合研究の場合は、科研費の研究領域として認められるようになったが、異分野融合研究はどの分野に属するのか不明確な場合が多く、研究継続が困難になりやすい。
  • 他の研究者から共同プロジェクト等の依頼が多くあったため、専門分野の研究を続けながら、プラスアルファで何とか異分野融合研究を続けることができた。
交流の場の形成
  • 大学の教養課程では、日常的に文理が知り合ったり語り合ったりすることができるが、専門課程では、同じ学部の中でも個個の専門分野の間の交流ができないほど狭い世界で研究が行われている。
分野を超えた相互理解
  • 理系の研究者にとって文系の研究者が言っている概念、認識枠組みは難しく、分かりにくい。
  • 分野が違うと、同じ概念、言葉でも、全く違う意味で使うことがあるので、お互いの文法を理解することが重要。
研究評価
  • 学位取得のための論文審査において、外部審査員に他分野の先生を入れることにより、評価が可能となった。異分野融合研究には、周りの関係ある教員の理解と協力も不可決。
  • 政治学と脳神経科学の異分野融合研究の論文を、政治学者が主要著者となって発表しても、ジャーナルの査読に回してもらえないことがほとんどである。

(3)異分野融合研究の推進方策

基礎研究の充実
  • トップダウンの課題解決型研究の奨励も必要だが、その不可決の大前提として、ボトムアップ型の基礎研究の充実が必要である。個別の研究分野が深まっていくことの中にしか、実質を伴った融合や分野間の共同作業は効果的には成り立たない。
交流の場の形成
  • 異分野融合研究を行うにあたって、同じ目的・関心を共有していれば、それを解決するために時間とエネルギーを払ってコミュニケーションを図ろうとするだろう。
  • 学際研究を始めるきっかけは、偶然の人脈に頼っているのが現状。研究業績だけではなく、どういう人柄かというところまでの情報を持っている人が身近にいれば、きっかけになる可能性がある。
  • 人文・社会科学から、理系の研究者に、解明してほしい事例を提供することで、新しい技術や新しい学問を生み出すことができるのではないか。
  • 異分野融合研究の成功事例の蓄積や情報交換ができるような場が必要。
分野を超えた相互理解
  • 新しい学問領域を開拓していくためには、違う研究分野の研究が、全体のストーリーの中でどこに位置するのかを、お互いに伝えあう能力(コミュニケーション)が必要だ。自律的に行っていく方が、政府が方針を示したりするよりも成果は大きくなる。
  • ツールとしての融合だけではなく、学問的発展のために、相互に持ちつ持たれつ関わっていくことが、これから期待されるのではないか。
  • 両方の分野の違いを分かって、専門用語を通訳のように話せる人材も求められる。
  • 研究分野のたこつぼ化により、専門の外に出て交流することは非常に難しい。そのため、異分野間の研究者がかみ合うところを見つけて仲介してくれるような人材の養成が急務である。仲介する人材は、2つの専門分野(学位)を持つ研究者がよいだろう。
研究支援制度の改善
  • 自分の専門分野の研究を行いつつ、異分野融合研究のための実験を行う場合、文系だとそのための資金は極めて少ない。
  • 異分野融合研究では、予想外の結果が出てくることを前提として、柔軟性がある程度高い研究支援制度となるように改善を検討すれば、異分野融合研究をする研究者が増えるのではないか。
  • 異分野融合研究への資源の配分については、パイロット研究に成功した研究者やグループを伸ばすべきか、これから挑戦することを重視すべきか、検討が必要。
研究者養成
  • 学部横断的な履修や、学際的プログラムを促すことにより、異分野融合の意義について判断できるようになるのではないか。
  • 留学することによって、自分が今いるところと違った視点があることを知り、そこから何かを眺めてみようということができるようになる。自分の今いる世界だけではない価値基準があることを理解できるので、異分野融合の可能性が高まるのではないか。
  • 研究の細分化を克服して違う分野の人と話すためには、ディベートの技術が必要。 

審議事項例2 「政策的課題や社会への貢献を視野に入れた人文学・社会科学の機能の強化」について

(1)社会貢献のための研究の意義

  • 課題設定型プロジェクト研究のメリットは、普段それぞれの分野でやっていた研究では気付かなかった対象を見つけたり、気付かなかった視角に出会えることである。
  • 従来であれば、研究室で違う分野の人と話をすることや、メディアの編集者が担ってきた「お見合い機能」を、課題設定型プロジェクト研究が果たすことができる。
  • 全然違う分野の研究者と一緒に研究をした方が、お互いに協力活動をしたことによって得たものをそれぞれの分野に持ち帰ることができ、相互に発展の可能性がある。
  • 人文・社会系でも比較的大規模な研究プロジェクトでは、ポスドクを雇うことができ、発展の可能性がある。一方で、長期的なスパンでポスドクのキャリアパスを考えておく必要がある。

(2)社会貢献のための研究を遂行する上での留意点

課題の設定
  • 社会貢献の研究プロジェクトにおいて、何を目標・ターゲットにするのかが大きな問題。社会課題の解決を目標にするのか、課題設定を目標にするのか。
  • 個々の実証研究の積み重ねにより、政府の政策形成・実施のためにデータを提供することを科学研究の本務ととらえ、価値選択は政治の役割とするのか、あるいは政策形成・実施に係る価値判断にまで踏み込むのか、という問題がある。
  • 共同研究によって、学術として何を目指すかが問題。各分野の認識枠組み・方法をイノベーションしていくのか、分野融合による新たな認識枠組み・方法を生成していくのか。
  • 社会貢献のプロジェクトを進めていくにあたっては、制度設計、政策提言等といった「課題解決」は、社会への説明責任という観点からも、遠い目標として大事である。
  • 現体制には不都合でも、長い目で見れば真理の探究を求めることが人類の幸福につながることもあり、現社会への貢献と未来志向の人類史的貢献との緊張関係がある。そのような中では、資金配分を誰が決定するべきなのか。人文系では専門家が資金配分を決定することが多いが、理系では巨額な資金を要する研究もあるので政府の介入があったりする。
  • 人文学の社会的貢献とは何なのかということ自体について、人文科学者の中でイメージを持つことが重要。
  • 「プロジェクトたこつぼ」「学際たこつぼ」と言われることがあるように、「学際」といって切り取ると、それ自体がまた殻に籠もってしまうこともあり得る。
研究と社会実践との関係
  • 成果に対して強くアカウンタビリティーを求めるようになると、エビデンスに基づく施策形成はエビデンスに基づく施策評価へつながり、本来の目的や内容を狭めてしまうことが危惧されるが、そのような危険性に留意しながらも、エビデンスに基づく研究を推進していく必要がある。
  • 学校などの個別機関等による個々の実践レベルでの社会貢献が、より大きな社会変革につながっていく一方で、政府の政策形成や評価が個々の実践や研究の有り様を制約していく。
  • 米国の場合、ボトムアップ型研究と、トップダウン型研究とが合流し、後者による前者のレビューが、制度設計・制度変革の1つの動因となっており、その中に研究者と政策・行政担当者の協働と人事交流を含んでいる。政策への研究者のコミットは、日本よりも米国の方が強い。
  • 研究者と実務家との距離感が難しい。研究者の研究のサイクルと、実務家の需要のサイクルとが一致する保証はない。両者のバランスをとるプロジェクト・マネジメントを、誰がどこで行うかが課題。
  • 分野によって、課題設定型プロジェクト研究に参加することへの研究者のインセンティブが異なることに留意する必要がある。どのような分野の研究者を巻き込んで、どのようなプロジェクト研究を行うかというのは、一様ではない。
研究者養成
  • 若手研究者が課題設定型プロジェクト研究を行うことが重要である。博士論文を書いた分野とは違う分野も含めて勉強することは、キャリアの上でも意味がある。一方で、そういった若手研究者をきちんと評価していくことが重要。

(3)社会貢献のための研究の推進方策

基礎研究の充実等
  • 社会貢献のためには、ボトムアップ型の基礎研究への積極的な助成とその多角的評価を前提とした上で、トップダウン型の課題解決型・課題提示型研究を行うことが必要。その際に、課題点を整理することと、トップダウン型研究を持続的な取組にしていくことが必要。
  • 米国では、法律に基づいて大がかりな調査研究が行われたことによって、多くのボトムアップ型の研究が積み重ねられ、それが大きな制度変革へつながった例がある。今後、日本で法整備等までできるかは分からないが、米国のように、政府レベルで大がかりな基礎研究をすることは重要だ。
  • 米国には人社系のシンクタンクが多い。シンクタンクは政策への貢献が求められるので、基礎的な研究と政策への貢献とをつなげる役割を担っている。日本には文系のシンクタンクが少ないので、充実する必要がある。
  • 日本の政府統計をもっと公開することが求められている。
交流の場の形成
  • 課題設定型プロジェクト研究には手間と時間がかかる。継続的に会う場を設けて、コミュニケーションをとることが重要。
  • 研究成果を政策に反映させる手段として、審議会が大きな役割を持っている。審議会が設置されることによってアジェンダが設定され、従来から個々の研究者が持っている個別の研究成果によって大きな政策転換が図られる。審議会の設置に合わせてトップダウン型研究を提唱したり、何らかの研究成果があるものに審議会を設定して政策の実現性を持たせていくといった検討が必要であり、その過程で人文・社会科学の研究成果と実際の政策との連動がさらに図られる。
  • 各学会と日本学術会議には共通するメンバーが多くいるので、学会での研究と日本学術会議の分科会での研究をつないで、研究成果の統合ができればよいだろう。
  • 大学の産学連携本部などが研究者に関する情報を持っているので、それを学内の人が利用できるようなシステムにすればどうか。また、その際に、そこでプロジェクト・マネジメントも行って、ノウハウを蓄積することが大事。
  • いろいろな分野の人に直接会えるような環境を、あまりコストをかけずに作ることが実効的。義務だと思ってやっても生産的ではない。
  • 分野横断的社会連携型プロジェクト研究への志向性を持つ研究者が15%程度いれば、人文・社会科学全体として変化が現れるのではないか。全員がする必要は全くないが、一定比率いることが重要。
  • 若手研究者や実務経験のある研究者が、相互交流できるような分野横断的な社会連携型の研究コミュニティをつくることが必要。
課題設定
  • 日本学術振興会を核として先導的研究を遂行し、課題解決型・課題提示型研究を仕掛けていくことが必要だ。その際、メニューを変えることよりも、持続的につなげていくことが大事。
  • 社会課題に寄与しようとする研究を、ある程度まとめて括るようなプロジェクト型研究を設定してはどうか。マネジメントには、通常の研究者のピアレビューだけではなく、実務家を含めたピアレビューを試みることも検討が必要。また、科研費だと主要研究分野を1つに決めなければいけないが、それは難しいので、関連分野を広く指定できるようにしたり、また、そのためのレビューシステムを作ったりするなどの工夫が考えられる。
研究支援制度の改善
  • 若手研究者や実務経験のある研究者に、小規模でもいいので、横断的な社会連携型プロジェクトをできるような研究支援が必要。
  • 個人研究が中心である文系と、チームプレーが中心の理系との共同研究では、研究の進め方の違いに配慮した組織運営を心がける必要がある。
  • 分野横断的社会連携型プロジェクト研究を制度化するためには、単発のプロジェクトで終わらせるのではなく、長期的な視点をもって継続できるように、プロジェクト・マネジメントを工夫する必要がある。
研究評価
  • 脳科学プロジェクトなどでは、人文系であっても理工系と同じように技術開発や課題解決が求められるが、そこまでの成果の達成は難しい。理系のプロジェクトの中に人文社会系との共同研究を入れることは、起爆剤になるのでよいことだが、成果の求め方には配慮が必要。
  • 「多元的評価」のとらえ方として、評価をする際に多元的な評価の視点を持つことと、評価の仕組み自体を多元的にすることの二つがある。そうした評価のあり方が、独創的な研究と、集団全体の知力を高めるような研究の両方の向上につながってくるのではないか。
  • 現在の日本の評価では、評価の公平性や、評価のばらつきを少なくすることばかり重視されていて、未来志向型であるかという点に関する評価は十分ではない。先をどれだけ見ているかというような不確定な部分も含めた、質的な面もある「多角的評価」を行うことが必要ではないか。

審議事項例3 「人文学・社会科学の国際化の推進」について

(1)国際化推進の意義

  • 海外に向けて能に関するデータを示したり、能についての英語論文を発信したりすることで、本物の能とは異なるものが出てくるだろう。また、英訳で能のことを読んだ外国人が、能の本質的なところを理解できるのかという問題がある。しかし、少々いい加減な形ででも世界中に能が広がって、能を知っている人や能を研究したいと思う人が増えればよいと思う。
  • 日本研究者については、黙っていても外国人が来て研究してくれる。東洋史などの外国研究者は、現地の研究者とは異なる研究のアプローチをすることで、彼らにはないものを提供することができる。

(2)国際化を進める上での留意点

国際化への取組の評価
  • 「国際化」には、外国の雑誌に日本からどれだけ載ったかということではなく、国際学会の組織化への貢献など、世界における国際的な研究活動に対しての日本の研究者の貢献というものもある。
  • 海外の研究者との公開ゼミナールを開催したり、英語論文を書いたりしても、評価してもらえず大学に就職できないため、そういった試みがその時限りで止まってしまう。
  • 日本人の日本文学者は海外に対して語るべきことを多く持っているので、留学すべきだと思うが、留学して帰ってきた時に就職先が見つからないことが多い。
国際化に対する認識
  • 多くの能楽研究者や学会は、能楽研究そのものの振興と、国際化することや外国人と付き合いながら研究を進めることとは、対立するものとしてとらえていたが、能楽研究者が多い大学がCOEに採択されたことをきっかけに、能楽研究において国際化が急に言われるようになった。
  • 能楽学会の学会誌に外国人の論文が載ることはほとんどなく、海外の動向に疎くても、日本の能楽研究者にとっては困ることはない。日本の研究者は、能楽研究では自分たちが研究のヒエラルキーの頂点にいて、周縁の情報を知る必要はないと思っている者が多い。また、海外で発刊された日本研究の報告書等に日本人研究者が原稿を書いていても、新しい知識を得られるわけではないとして、日本の能楽研究者はほとんど見ないし、関心を持たない。

(3)国際化の推進方策

研究拠点の機能強化
  • 国際化の推進のためには拠点や組織が必要だが、日本では、人文・社会科学は理系と比べて組織化へのサポートが弱い。関西にある国際日本文化研究センターのような拠点が、関東の方にもあればよいのではないか。
研究支援制度の改善
  • 政治学や社会学では、国際ネットワークへの参加や、常に海外と交流していることによって、何が世界共通の課題となっているかという論点を作り出す場に参加し、その論点の中で研究をしていくことが重要である。旅費の申請手続きを柔軟にしたり、エディティングの経費面での支援をしたりするなど、インフラ整備が必要。
成果の発信
  • 海外で国際的に関心が持たれるテーマと、国内で関心が持たれるテーマとは、必ずしも一致しないが、国内での関心が高いものであっても国際的に発表していくことは、長期的には重要なことであり、日本の学会のプレゼンスを高める上で大事なことであるため、そこにどうインセンティブをつけていくかが重要だ。
  • 日本語論文、学会誌、紀要などをPDF化して、ネット上で読めるようにすることが必要。
  • 国際化を捉える視点として、国際誌の発行ということがある。成功した国際誌の例について、何がよかったのか検討が必要。
研究評価
  • 海外経験を積んだ学生が帰国後に就職できないという現状については、大学での採用の評価基準に、海外での国際的経験や海外との研究活動という項目を入れればよいのではないか。

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