第6期研究費部会(第9回) 議事録

1.日時

平成25年1月22日(火曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学研究費助成事業(科研費)の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

平野部会長、深見部会長代理、小谷委員、小林委員、佐藤委員、鈴木委員、北岡委員、金田委員、小安委員、鈴村委員、谷口委員、野崎委員、家委員、勝木日本学術振興会学術システム研究センター副所長、村松同センター副所長、西田同センター主任研究員、桑原科学技術政策研究所長

文部科学省

吉田研究振興局長、森本研究振興局担当審議官、袖山学術研究助成課長、岸本学術研究助成課企画室長、他関係官

5.議事録

【平野部会長】
 皆様、こんにちは。ちょっと遅くなりましたけれども、明けましておめでとうございます。今日は第6期の部会の最後であります。主に次期の研究費部会に引き継ぐ事項を審議したいと準備しておりますので、よろしくお願いします。
 最初に吉田局長から御挨拶をいただきます。よろしくお願いします。

―吉田局長挨拶―

【平野部会長】
 どうもありがとうございます。ご存じのように政権が代わりまして、担当の方々は年末もなく整理あるいは打合せ等をされており、今日も局長、審議官はこの後予定があるようですので、退席されるということでございます。時間を割いて挨拶に駆けつけてくれました。どうもありがとうございました。
 それでは議事に入ります。まず、前回の会議以降の科研費関係の主な動きについて、事務局から報告をしていただきます。

(1)前回の会議以降の科研費関係の主な動きについて

事務局より前回の研究費部会以降の科研費関係の主な動きについて、事務局より参考資料に基づき説明があり、質疑が行われた。

【小安委員】
 参考資料の4-2、学術振興会の事業の見直しという中に、学術研究の助成に関する業務の一元化という話がありました。これは現在の新学術領域研究、特別研究促進費及び研究成果公開促進費を文科省から完全に学術振興会に移すというお話ですけれども、これに関して文科省でどうお考えになっているのかお教えください。といいますのは、全ての科研費の種目を振興会に移管するというのは、審査をやるという意味では良いいかもしれないのですが、本家本元の文科省が科研費を扱うことがなくなってしまうということに関して一抹の不安を感じます。そのあたり別に構わないのか、お考えはいかがでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 科研費の振興会への移管については、従前より、ファンディングエージェンシーとしての機能をより充実するという観点から、基本的には全て移管するという方向で進めてきているところでございます。しかしながら、体制の整備という観点で、特に新学術領域研究については専門委員会の審査など、非常に事務的にも負荷が大きいということが、一つ課題としてございます。
 また、小安先生おっしゃるように、本当に文科省として一切審査業務に直接関わらないということでいいのかという懸念の声もございます。そういった声も踏まえて、あるいは体制整備の状況を踏まえて、移管の時期などについては慎重に検討していきたいと思っているところでございます。

【小安委員】
 それに関連してですが、科研費制度の在り方、あるいは審査の在り方などに関しては、この研究費部会、それから審査部会で議論することになっておりますけれども、ほとんどの科研費が現実には学術振興会によってハンドルされていることを考えると、そこが実は現場に一番近いところとなります。したがって振興会でいろいろと考えられた制度の改善等に関してもう少し振興会の意見を間断なく汲み上げて議論するというシステムを作ることがおそらく非常に重要になってくるのではないかと思います。特に、文科省から完全に移管したときには、そのあたりが一つの大きな問題になるのではないかと危惧しますので、ぜひお考えいただきたいと思います。

【平野部会長】
 大変重要な御指摘をいただいたと思います。これはこの後、今日審議をいただく引継ぎ事項の中でも重要な問題として検討が続いていくと思っておりますし、この部会としては、今、委員がおっしゃったスタンスできちんと対応すべきと考えております。よろしくお願いします。

【家委員】
 資料の2-2でたまたま目についたのですが、8ページに若手研究者の確保及び研究支援体制の充実と。この改革すべき点、問題の所在は正にこのとおりだと思うのですが、対応方針の一番目に、大学コンソーシアムを作ってある程度長期間若手研究者の雇用を確保するとあります。私はこれを初めて目にしたのですが、どういうことを考えているのでしょうか。場合によっては労働契約法の改正に伴って長期にわたる雇用が難しくなるということを踏まえての話でしょうか。

【岸本企画室長】
 正に先生がおっしゃったような状況を背景としたシステム改革の案でございまして、これは専門調査会の議論の中で出てきたことということで、コンソーシアムで一体となって、若手研究者の雇用を確保して回していく、流動させていくというようなことをお考えなのかと思われます。

【家委員】
 何かあまり根本的解決にはならないような気がしますけれども。

【岸本企画室長】
 これは一つの案ということです。

【家委員】
 たらい回しですね。

【平野部会長】
 これは、研究現場としては大変重要な問題でありまして、若手研究者における労働契約上の問題という、これは非常に降って湧いてきたと言っては失礼ですが、大変大きな問題を一言で言われるだけでは、現場は大混乱を起こすということであります。
 これについては、どこで取り上げるかというのは文科省内で検討してください。ここは研究費の部会でありますので、関係は間違いなくあるのですが、今のようなシステムまで取り上げていけるかどうかということは検討する必要があります。
 ただ、文科省のどこかの部会で慎重に審議して、必要なことは提案していかなければならないと思っております。今の家委員の御発言もそういう背景を危惧しているのではないかと思いますので、省内で検討いただけませんでしょうか。これは現場に聞くと、大変深刻な問題であることは間違いないです。私がもし大学に総長としていたとすれば、これをどういうふうに労基を含めて対応するかというのは、学内で委員会を作って揉まなければいけないのですが、国としての制度設定をされますとどうしようもないことになりますので、早急に文科省の中で、どこでまず対応するか御検討ください。この専門委員会から上がってきた内容も含めて、ぜひ検討いただければと思いますが、そういうことでよろしいでしょうか。

【家委員】
 ありがとうございます。

【佐藤委員】
 今のことに関係いたしますけれども、労働契約法が改正になって、いろいろ問題点が噴出しているわけですが、それをどううまくこなしていくかというのも大事ですけれども、もし本当に具合が悪いなら、それはまた改めて直すようなことも提案すべきで、これはこの部会の話ではありませんけれども、文部科学省として非常に具合が悪いことであればそれを検証して、適切な意見をちゃんと主張していただくということを希望したいと思います。

【平野部会長】
 ありがとうございます。今、重要な御指摘をいくつかいただいておりますので、この部会で対応すべきこと、あるいはそうでなかったら文科省の中のどこで早急に対応できるか、検討していただきたいと思います。そのまま「そうですか」と受けて現場が大混乱する、あるいは若い研究者が将来戸惑うということのないように対応いただきたいと思います。

【北岡委員】
 先程の家委員の御指摘のあった資料の2-2ですが、8ページの下の科研費等の競争的資金制度の改革という点で、基本はこの部会でどういう方向でやるかというのを議論しないといけないと思うのですが、9ページの対応方針には、科研費等の競争資金の制度の在り方を検証する必要があるという御指摘があって、科研費は競争的資金全体の6割を占める中核的な競争的資金であることから、資金の大幅な増加が結果に結びついていない制度的要因、配分額と論文等の質との関係、分野の特性に応じた評価方法等の検証・分析を行い、これを踏まえて資金の配分の在り方を検討すべきということが指摘されています。これは正に今後研究費部会で議論するときの、やはり科研費は一丁目一番地で、研究者が研究を進めていく上で非常に重要な資金なわけですけれども、このような大幅な増加が結果に結びついていない制度的要因というのを指摘されたときに、それに対して、そうでないと。この科研費は今後さらに、基金化も踏まえて、より一層充実させていくと。そのときの反証とすべきデータとか、あるいはそういうことをちゃんと文科省として用意して、こういう議論に対してちゃんと物申されているのでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 このことについては正に今日、それから次期の研究費部会において議論していただきたいと思っている内容であるわけでございますけれども、私どもといたしましても、ここに書かれている資金の大幅な増加が結果に結びついていないと認識しているわけではございませんが、きちんと定量的な分析も含めて明らかにしていくことによって、きちんと反論をしていく。あるいは、仮にそういったところでさらに改善すべき要因が出てくれば、それを改善していくことは当然必要であろうと考えております。本日もそういったことを進めていく、いわば検証データの第一弾ということで、科学技術政策研究所の桑原所長にもお越しいただき、後程科研費の成果に関する定量的分析について御説明いただくこととしておりますので、そういうことを端緒としまして、さらに御議論いただきたいと思っているところでございます。

【平野部会長】
 ありがとうございます。それでは今日の報告に入りますので、科学技術政策研究所において非常に客観的な解析をしてくださっているデータを踏まえたお話をいただき、そのデータに基づいて今後、研究費部会としてどのように効果的な改善が図れるかということについては、また議論をいただくようにしたいと思います。
 では、今日の本題に入ってよろしいでしょうか。(「はい」の声あり)

(2)学術研究の評価の在り方について(科学技術政策研究所からの発表及び日本学術振興会からの報告)

科学技術政策研究所及び日本学術振興会より資料3-1及び3-2に基づき説明があり、質疑が行われた。

【平野部会長】
  冒頭申し上げましたように、今日は第6期の最終回であります。7期において引き続いて検討いただきたいことを今日の議題として御審議いただくのですが、その前に、一昨年の4月に日本学術振興会に、学術研究の評価の在り方についての検討をお願いし、まとめていただいております。研究力が低下している等々、いろいろな御意見をいただいておりますが、客観的なデータをきちっと把握しながらその議論もしていき、改善が必要だったら図るべきだと考えているところであります。
 では、まず科学技術政策研究所の分析結果について桑原所長よりお願いします。

【桑原科学技術政策研究所長】
 科学技術研究所の桑原でございます。今日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。
 これから私が申し上げますのは、既に御議論が始まっておりますけれども、競争的資金の中の一番重要なポジションを占める科研費が、具体的な成果としての論文をどの程度生み出し、それが増加基調にあるのかどうなのかに関する基礎的なデータがようやくまとまりました。基盤ができたのは昨年の末でしたが、第一段階の分析がある程度できましたので、御紹介いたします。
  背景は2ページにあるとおりでございまして、これまで、御議論いただいていますように、研究費とそのアウトプットである論文の関係というのは、日本全体の研究費と日本全体の論文というざっくりとした話はありますけれども、詳細の分析はまだできておりませんでした。今回私どもが取り組みましたのは、情報が非常に整理されて公開されているKAKENのデータベースによる成果、主に論文ですけれども、これと分析のベースになる論文データベースであるWeb of Science(WoS)をつなぐことができたということです。
  どうつながったのかというのは、このあと御紹介いたしますけれども、それによって何が分かるかといいますと、例えばWoSに日本が出している全論文、大体年間7~8万本ありますけれども、そのうち科研費由来のものがどのくらいあるのか。あるいは、それが時系列でどう変化しているのか。また分野によって違いがあるのかどうか。こういうことのアウトラインが見えてきたということでございます。
 分析に用いたデータベースはここにあるとおりでございまして、NIIから御提供いただいた、ウェブで公開されておりますKAKENのデータベース、主にその成果の部分でございます。成果の中には論文だけではなくて、書籍ですとか特許ですとか、いろいろなものが入りますけれども、その中から論文だけを抜き出して見ていくということでございます。それからもう一つ、WoSの方は科学技術政策研究所が整備しているものでございますけれども、一つポイントとしては、分析対象を自然科学系に限定しております。残念ながら社会科学系の英語論文というのは日本ではあまりございません。我々の分析は自然科学系のみしか見ておりませんので、社会科学はマッチングがもともととれていないという前提で、以下の議論をお聞きいただければと思います。
  また、データベースに収録される文献の種類もいろいろございますけれども、ここにあるようなものを対象としておりまして、いわゆる単純なProceedingsはマッチングの対象にしていないということでございます。収録対象はこの30年ぐらいの論文をベースにしております。
  それで、そのマッチングとは何かというのは、4ページに概念図が描かれています。左側の赤の部分がWoSの全体像で、日本が著者になっている論文全体という集合があります。もう一つは科研費の成果データベースに記載された論文。これは科研費が寄与した論文。科研費のみによる成果かどうかは必ずしもはっきりいたしませんけれども、少なくとも科研費が寄与した論文群。こういうものがあります。ここに当然、重複がある。
 また、科研費で生まれた、でもWoSには載らない論文というのがあります。これは、WoSは大体7~8000の雑誌だけが収録対象になっておりますので、仮に英語であっても全部の雑誌が対象にはなっていない。それから当然、日本語論文はここにほとんど入りませんので、この世界になります。また、日本が生み出す論文のうちで、WoSに入るものの中で科研費によらないもの、例えば独法の研究は大部分がここにありますし、企業の論文もここにあります。大学の論文でも、科研費によらないものはここに入ってくる。この三層構造でこれから議論をさせていただきます。
 まず、マッチングとは一体何かということで、これはあくまでサンプルでございますけれども、例えば科研費の報告書の中に著者が書いてあり、タイトルが書いてあり、書誌情報があります。ただ残念ながら、ジャーナル名は省略形で、著者もエトールでまとめてしまっていて、このジャーナルの刊号、ページ番号は省略されています。実際いろいろなケースがあります。これをWoSとマッチングをとりますと、本当はこの3人の著者の論文であると。タイトルは一緒。それから書誌情報もこれは省略されておりますけれども、フルタイプでいけばこうなると。また、刊号とページといった情報も付加されます。これとこれは同一の論文であると判断しますと、このマッチングがとれるということになります。
 では、具体的にどういうマッチングがとれるか。6ページの左側にありますのがKAKENデータベースによる成果のリストとお考えください。そうしますと、ある論文が一つありまして、マッチングをとった結果、WoSのあるコード番号の論文とこれは等しいと。これは、この別のコード番号と等しいと。赤の論文が二つありますけれども、これはマッチングをとった結果、実は一つの論文であったと。一見違う、例えば著者がこちらは3人ありますけれども、1人に省略されています。こういうケースがありますけれども、実際は一つであると判断されます。
 このKAKENの成果データベースの中には、例えば3年間の科研費ですと、毎年研究者の方が報告を出されます。それから3年終わった時点で、まとまった報告を出していただくことになります。それぞれを見ていけば、当然、論文がダブっているのは当たり前です。ダブっていても全くおかしくない。そういう重複もありますし、表記が違っていれば、一見違ってしまって見える場合もあります。したがって、KAKENのデータベースで論文を数えることは可能ですけれども、重複がどのくらいあるかがはっきりしません。あくまで分かるのは延べ数だけであって、ネットの数はわからないという残念な点があったのですが、マッチングをとることによって、ネットの論文数が見えるということです。
 当然、英語の論文ではあっても、WoSの収録雑誌になっていませんとマッチングがとれません。日本語の論文もとれません。こういうマッチングをとることができたということでございます。
 そこで、これはコンピュータによるマッチングをやっておりまして、ざっと申しますと、WoSの収録論文数が約2,000万あります。それから我々がNIIから御提供いただいたKAKENデータベースの収録論文数が、延べで数百万件。ですからその数百万件と2,000万件のマッチングをとるという作業で、これはコンピューターコードを作るしかないのですが、それを作りました。
 問題は、精度がどの程度あるのかということをベリファイしなくてはいけないということです。そこで、こういうベリファイをいたしました。これは科研費の大分類ですけれども、8つの大分類からそれぞれランダムに140の論文を成果データベースから抽出しました。この140の論文について、政策研のWoSに精通した専門家が人手の作業として、オンライン検索をしてマッチングをとるということをやりました。
 それとコンピュータが行った結果の比較がこれです。まず、KAKENのデータベースの論文の中には当然、日本語もあります。これは当然マッチングされません。それから英語論文の中で、コンピュータマッチングではWoSではないとみなされたもの、それからコンピュータのWoSがあるとみなしたもの。こういうものが出てきます。人間が行った結果の合計が一番右にありますが、コンピュータがマッチングがとれたとみなしたものは合計622になりましたけれども、人間が全部フルチェックをした結果、コンピューターがミスでマッチングをとっていたのは3だけでした。したがって、合計622分の619が正しかったということで、マッチング率は99.5%になります。ほぼ完璧だと言っていいと思います。
 ただ、人間がやりますと、コンピュータがマッチングをとらなかったものが20ほどとれました。ただ、中身を見ますと、報告書を書くタイミングの問題で、まだ収録雑誌が確定していない、投稿中で刊号が抜けているというケースが多々あります。それはコンピュータのコードではなかなかマッチングがとれなかった。これはもうやむを得ない部分と考えられると思いますが、これを含めましても正答率は96%でございました。
 そういう精度があるという前提で、以下の議論をいただくわけですが、分析結果のポイントとしまして、今日お示しいたしますのはWoSに収録された、年として2000から2009年の10年間の論文を見ております。したがって、これを生み出した科研費は、それより2年とか1年前にスタートした科研費の成果がここに見えていると考えられます。何年の科研費の成果かどうかというのは、今回はまだやっておりません。この後の課題と考えております。時期をこのあたりにしたのは、もう一つは科研費のデータのデータベースの構築状況で、ある年から少し報告書の記載のスタイルが変わるということが時々あります。そういう変化の要素も考えて、わりと安定しているだろうと考えられる範囲としてまずここをやったとお考えください。
 それから、対象は自然科学のみであるということと、論文数のカウントは整数カウントというものでやっております。これは、例えばある論文の著者の所属機関が東京大学と理化学研究所とスタンフォード大学という共著があった場合に、この整数というのは東大も1本、理研も1本、スタンフォードも1本とするものです。国でいきますと日本は1本、アメリカも1本と、全部切り上げで数えるのが整数カウントです。
 それから、以下で大学の関与がある論文、なしの論文という表現を使わせていただきますけれども、これは今申し上げたような所属機関として日本の大学が出現すれば、あるいは大学共同利用機関も入っておりますけれども、これは大学の関与ありとみなす。こういうように御理解ください。
 これから結果に入ってまいります。まず、9ページの一番左にありますのがWoSに収録された全ての日本の論文、即ち先程の整数カウントで、日本機関が出現する論文です。御覧いただくように、この10年間、若干微増基調にはありますけれども、あまり増えていないというのが現実であります。
 それで今回のマッチングで、これらのうち科研費に由来しているものと、そうでないものを分けました。下のブルーが科研費由来、赤がそれ以外ということになっています。真ん中は世界シェアで計算をし直しただけですけれども、一番右が、それぞれの年を100%にしたときにどうなるかというものです。そうすると、ここでおわかりになるように、2000年代前半、科研費由来のシェアは40%でした。それが最近では47%まで拡大しています。逆に言えば、科研費以外の論文のシェアが落ちてきているというのが、まず第一の結論です。
 ただいまの構造を、大学が関わるものと大学が関わらないものに分けて、さらに見ました。先程の科研費が関わっているものが下の二つですが、うち大学が関与するのが青、大学が関与していない、例えば独法にも科研費が配分されていますが、独法単独でやっているものは赤になります。それから上は、科研費によっていないもの、うち大学が緑、それ以外が紫。こうお考えください。
 それで、同じようなパターンのグラフをつくっているのですが、この11ページ表で御覧いただくのが多分一番クリアです。そうしますと、まず大学が関わるものがこのブルーと緑になりますけれども、大学が関わるもののうち科研費由来のものは、2001年から2003年と5年後の3年間の平均を比較しますと、14%、論文数が増えております。ただ、この同じ期間に、科研費が関わらない大学論文は約9%の減になっているということがあります。それから、大学が関わらない科研費の論文は、絶対数は少ないのですが増加率は非常に大きくて、5年間で8割増えていると。こういうことが、まず出てまいりました。すなわち、大学が関わる論文のうちで科研費分は増えている。ただ、それ以外がかなり減ってしまっている。トータルは微増ぐらいになっているというのが次の結論でございます。
 三点目は、ただいま御覧いただいた構造を個々の大学で見たらどうなのか。大変表が細かいので、お手元の資料11ページを御覧いただいたほうがいいと思いますが、個々の大学で見たらどうなのかを表にしたものです。これは、論文数の多い順から上位の40大学だけを絵にしております。トップは東大、次に京大、阪大と、当然ここに慶應とか早稲田とか私立大学も出てまいります。
 全体の論文数、それから科研費由来の論文数、非科研費の論文数を見たものです。論文数は赤がマイナスを表し、白はプラスです。科研費部分はプラスですが、それ以外が全部マイナスです。ただ、こちらの伸びが大きいので、トータルはプラスになっているというのが上の15大学ぐらいです。ところが下の方にまいりますと、非科研費に赤がかなり目立って、科研費部分は大体プラスなのですが、トータルでもマイナスというところが出てまいります。多くの中堅国立大学がこの構造になっていまして、科研費は増えているのですがその他のマイナスの方が大きいので、合計もマイナスになってしまっているという構造が見られます。
 もう一つ注目されますのは、非科研費部分が減っていない白の部分がいくつかあるのですが、この大部分は私立大学です。国立大学も中にはありますけれども、数がプラス4とかプラス2とか、ほとんどゼロみたいな数字ですので、一定の数が増えているのは私立大学に限られます。まずこういう構造が見えてまいりまして、上の方に少し書いてありますけれども、非科研費部分で多くの国立大学がマイナスになっている。ただ、多くの私立大学はプラスだということを考えますと、ここの部分に何がきいているのかということで、やはり運営費交付金の減がある程度きいているのではないかということが想定されます。これはまだあくまで推定にとどまりますけれども、そういうことが見えてきているということです。
 ただいまの大学ごとの構造を二次元のマップにいたしました(12ページ)。縦軸に科研費の増減率、上へ行くと増えていると。横軸が科研費以外の論文の増加と減少でマップにしたものです。そうしますと、第一象限に入る両者ともに増えている大学というのは、圧倒的に黄色いマークがついている私立大学であることが御覧いただけます。早稲田が非常に伸び率が高いということですね。そして、規模の大きい国立大学は、ほとんどこの辺にいます。第二象限でありまして、科研費が増加ではありますけれども、増加率はそんなには大きくないと。非科研費部分はマイナスになってしまっているというグループに主力の国立大学が入っていると。こんな構造が見えるわけです。
 続いて三点目としまして、まず全体を見て、それから大学ごとを見ましたので、次は分野ごとに見てまいります。ここで分野ごとと申し上げるのは、WoSの論文データベースの方の分野です。科研費の大分類や細目ではございません。まずWoSに22の分野分類があります。これはトムソン・ロイターが収録する雑誌ごとに、これは物理学、これは医学というようなフラグを立てておりまして、それに依存しております。ですから、データベース会社が勝手に決めたもので見ているだけだということでありますけれども、なかなか他に手段がないため、その分類で見てまいります。
 そういたしますと、ここの青、赤、緑、紫の構造は先程と同じで、大学で科研費、大学以外で科研費、大学で非科研費、大学以外で非科研費であるとをごらんください。三段目、四段目の伸び率のところを見ていただければいいと思いますけれども、例えば生化学ですとか化学は、まずトータルがマイナスだと。科研費は大学のところは白ですからプラスです。ただ、非科研費の大学はマイナスになってしまっていて、こちらの方が化学は大きいです。したがって、大学トータルでもマイナスになってしまっている。生化学も似たような構造があります。こういうパターンが見える分野がまずあるということです。
 それからあと、以下22の分野が出てきますが、例えば計算機科学はこの辺がマイナスでありますけれども、あとは数字は小さいですがプラス。工学も同じようなパターンで、科研費は両方ともプラスですけれども、非科研費部分のマイナスが大きい。トータルではこちらが勝ってしまうために、マイナスになっているという状況です。環境/生態学あるいは地球科学は、もともと日本がそれほど強くない、規模の小さい分野ですけれども、この全カテゴリーでプラスになっている数少ない分野であります。
 次のスライドは免疫学。このデータは私はショックだったのですが、大学は科研費部分もマイナス、非科研費部分もマイナスということで、これは一体何なのかというのがこれからの大きな問題かと思っております。材料科学は、科研費分は増えている。数学は全体的にプラスが勝っている。微生物学も似たような傾向です。
 先程の最初のスライドの化学と大きいコントラストをなしているのは物理学です。物理も非科研費の大学論文がマイナスなのは同じですが、科研費の大学論文の増加がこれをはるかに上回っているので、トータルはプラス。主力の大学がプラスなので、全体もプラスという構造になっています。最後の二つはその他の分野で、植物学ですとか心理学、あるいは宇宙科学。宇宙科学もトータルがプラスという数少ない例になっておりました。
 このように分野の構造が見えてまいりまして、ただいまの分野の状況を先程の大学の場合と同様にマップ化をいたしますと、18ページのようになります。この辺は両方とも増えている分野ですが、なぜか日本がわりと強くない分野、日本の論文数の少ない分野がこれであります。日本の主力になっていた物理学、材料科学、化学、この辺は第二象限に来てしまっていまして、科研費は増えているけれども非科研費がマイナスだという構造になっております。残念ながらこの分析では、免疫学が唯一第三象限に入ってしまっていることが観測されました。
 以上でございまして、現時点でのまとめをいたしますと、こういう分析が可能になったということ。それから科研費は日本の論文の47%に関わっており非常に大きな役割を果たしている、かつ、その部分の成果は着実に増加している。ただ、それ以外のマイナスがどうも大きいということで、せっかくの科研費の増が打ち消されてしまっている。ただ、その状況は分野によって大分違っていると。御覧いただいたとおりであります。トータルとしましては、大きな役割を果たしている科研費の充実も大事ですけれども、その他が減少していることに対してどう手を打つかということも、これからの大きい課題だろうと考えております。
 なお、今日御紹介したのはまだ第一弾目の分析でありまして、いわゆるインプット・アウトプットの分析はまだプリマチュアな段階です。また、今日は論文の数だけで御紹介しましたけれども、WoSとつなげることによって、論文の質、被引用数が多いか少ないかも全部見られますので、そういった分析。あるいは、科研費の分野概念と論文の分野概念がどういうクロス構造を持っているのか。おそらく科研費で化学の研究費をお取りになった方は、化学の雑誌に多くは論文をお書きになるでしょうけれども、たぶん他の分野にもたくさん論文をお書きになる。その構造もこれで見えるようになるはずです。また、インプットとアウトプットの時系列変化を種目別あるいは分野別で見ていくということ。これに国際共著率等ですとか、あるいは研究者が割と大勢関わる分野とそうでない分野とか、そういう性格の違いがあるのかというようなことを見てまいりたいと思っております。
 なお、最後に参考資料をいくつかつけておりますけれども、これは学振のホームページからの抜粋です。科研費の増減で御紹介したのが2001年から2003年。それからもう一つ、2006年から2008年で、この部分が真水の研究費、上が間接経費です。本日論文数が伸びている、減っていると比較したものに、ほぼ該当するであろう科研費の金額の推定ですけれども、論文が14%伸びていると申しましたが、お金の方もたぶんその程度です。もっと前になりますと、科研費はもっと大きく伸びているのですが、今日御紹介した分析の期間は科研費がほぼ安定成長に入った後の状況だということを、最後に御紹介申し上げます。
 以上です。

【平野部会長】
 どうもありがとうございます。大変重要なデータのエビデンスに基づいたお話をいただきました。
 このあと勝木学術システム研究センター副所長さんからも御説明いただきますが、今この段階で桑原所長の御説明に質問等ありましたら伺いたいと思いますが、いかがでしょう。

【小安委員】
 私は自分が免疫学をやっているので、このデータを見てショックなのですが、これは、一つの論文はこの分野の中のどこか一か所にしかカウントされていないという考え方でよろしいのでしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 はい。ユニークに決まっていますから、一つの論文はどこかの分野のみです。

【小安委員】
 そうすると、自分の免疫学にこだわって申しわけないのですが、数がこれは3年間の数ということですよね。例えば2001から2003。

【桑原科学技術政策研究所長】
 3年の年平均値を出しています。

【小安委員】
 平均値ですか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 ですから3年合計ではありません。

【小安委員】
 合計ではないのですか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 1年間の数になっています。

【小安委員】
 なるほど、わかりました。

【深見部会長代理】
 科研費以外の研究費の主なものというものは、どう考えたらいいのでしょうか。企業等を含めてということなのか。
 それともう一つ、まとめのところに運営費交付金の減少もその要因というふうに書かれているのですが、そこの解釈がちょっとわからないので、お教えいただければと思います。

【桑原科学技術政策研究所長】
 科研費以外の資金としか正確には申し上げられないのですが、まず競争的資金。文科省の中でも科研費以外に、例えばJSTのグラントもございます。それからその他省庁ですと、医学系であればこの厚労科研費が絡んでまいりますし、産業寄りの技術開発であればNEDOの資金とか、その他省庁のグラントも当然入ってきます。
 まず一つは大学が関わったもので、科研費由来と科研費が関わっていないものと、ここは比較しやすいのですが、もともと大学以外ですと、企業はもちろん自分のお金でやっていて国費との関係はあまり関係がないということになりますから、大学に限った議論で考えさせていただきますと、科研費以外は、一つは交付金由来のいわゆる校費、国立大学の場合ですね、校費という経費があって、それとJSPS以外の組織から配分された競争的資金が原資だろうと考えます。
 運営費交付金が影響しているのではないかと今、我々が考えておりますのは、ほとんどの国立大学で非科研費の部分がマイナスになっていると。一方私立大学、今日御覧いただいたのはサンプルが少ないのですが、私立大学ではそうはなっていない。そうすると、国立大学と私立大学の構造で最も違うのは、国立大学の方の交付金がこの10年来、毎年1%ずつぐらい削られてきたと。交付金の相当部分は人件費でございますから、人件費以外の真水のところにきく削減率というのは、1%どころではない率できいてまいりますので、それが一番大きい要因と考えるのが妥当ではないかなと考えているという程度のことでございます。

【家委員】
 二つ質問させていただきたいのですが、まず一つはWoSのテクニカルな話ですが、分野は雑誌ごとに分類されていると言いましたけれども、いわゆる総合誌、例えば「ネイチャー」や「サイエンス」といったものはどういう扱いになっているのか。これはたぶん、数の議論をしているときにはウエートは小さいと思うのですが、トップオブ1%とかという話になると、少し大きな話。
 それから二点目は、10ページに過去10年間の論文の推移というのがありましたけれども、これは先程の参考資料の2-2の指摘に関係するのですが、この増加率に科研費の予算の増加率を重ねると、どういう感じになるのかというのが質問です。つまり、予算の伸びに比して伸びていないではないかという指摘があったわけですけれども。

【桑原科学技術政策研究所長】
 まず、第一の点、先程私は端折った御説明をしてしまいましたけれども、御指摘の「ネイチャー」、「サイエンス」につきましては、実は論文ごとに分類をしています。例えば「ネイチャー」に載った論文で、これはイムノロジーと評価できれば、イムノロジーに区分けすると。どっちつかずのものは「ネイチャー」、「サイエンス」はもともとマルチディシプリナリーという分野がありまして、どっちつかずの場合はそこに残しますけれども、これは主に医学であるということになれば医学、物理であるとなれば物理に回すという処理をしております。それが第一の回答です。
 第二の御質問の、科研費全体の資金投入と論文産出の関係。ここは今日の段階ではまだ、あまりきちんとしたデータでの議論はできておりません。なぜならば、先程申しましたように、今日御紹介したのは科研費の全体の成果リストにあるもので、かつWoSに例えば2009年に載ったものと。ですから、その科研費が2005年スタートの科研費なのか、2008年スタートの科研費なのか、そこは今回アイデンティファイできておりません。したがってインプットとアウトプットの関係は、まだきちんと議論できていないと。それは今、別途進めております。
 ただ、最後にざくっとした話ということで申し上げたのは、今回の2001年から、スライドの10ページにありますように、大学関連の科研費が2001から2003の平均と2006から08の平均で14%ほど増えていますが、最後のこのグラフで、科研費の真水の部分ですね、間接費を除いた。かつ、どの科研費かというのはなかなか同定できませんから、2年ぐらいのラグがあるだろうと。えいやでやりますと、大体その間の伸び、十四、五%です。ですから、非常に限定的な話ですけれども、お金の伸びと論文数の伸びは比較的合っているなという印象です。

【家委員】
 だいたい私もそんな感じを受けました。

【小谷委員】
 大学別で、特に大きな国立大学とそうでない大学で、随分様相が違うのですが、科研費の採択率も同じ表に載せることは可能でしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 まだできておりませんけれども、可能ですので。こういう分析をしたほうがよいという御指摘があればどんどんいただければ、なるべく早くまとめて、また御報告するようにしたいと思います。

【小谷委員】
 もう一点です。科研費データベースに入っているものを科研費論文と数えられているのですね。科研費データベース、当然普及していると思うのですが、2001年ごろと今とで普及率は随分違うのか、それともかなり安定しているのでしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 普及率というのは捕捉率ということでしょうか。

【小谷委員】
 皆さんちゃんとデータを入れているかということです。本当は入っているべきものですけれども。

【桑原科学技術政策研究所長】
 今回お示しした期間に限りますと、難しいのは、本当は10本論文を書いたけれども報告書には5本しか書かなかったとか、そこは正直わかりません。ただ、そもそも報告が漏れていて、例えば2割、3割が落ちてしまっているとか、そういうことは今日御紹介した期間の中ではありません。ずっとさかのぼっていきますと、例えばある分野、例えば若手研究ですと、今は全部報告が求められているですが、ある時期までは必ずしも成果報告を求めていませんでした。そうすると、それは当然欠落することになります。こういうものは出てまいりますけれども、今日御紹介した範囲では、その辺はわりと安定していると御理解いただければと思います。

【谷口委員】
 大変興味深く拝聴いたしましたし、本当に御尽力にひたすら敬意を表します。決してお世辞ではなくて、本当に心からそう思っております。
 という前提でお伺いしたいのですが、ここにいる研究費部会のメンバーとか、それから文部科学省の中で、こういうデータが公表されるといいますか、お互いにシェアをして議論するのは非常に意味の深いことだと思いますが、一方で先程からいろいろ議論に出ておりますように、これだけが学術の指標では必ずしもないという、先生に申し上げるのは釈迦に説法ですが、そういう背景もあると。
 それから、先程委員からの御質問にあったように、参考資料2-2にあります総合科学技術会議といった、いわゆる政治家とか政治の方向にこういう科研費の目が向けられているという背景を見ますと、資金の大幅な増加や、結果に結びついていない制度的要因、配分額という、先程言っていたくだりが出てまいりますけれども、今回のようなデータが数値として出てまいりますと、確かに科研費は重要だけれども増えているわりにはまだ足りないじゃないかとかいう見方もされるかもしれない。
 いい見方をすれば、科研費が重要であるということを認識していただけるかもしれませんが、取りようによってはいろいろな取り方があるという危険性のようなものを考えるわけです。今後政治がどういうふうに介入してくるか私にはわかりませんが、学術全体の発展を考えたときに、こういうデータをこれからどう取り扱っていくかということに、ひたすら敬意を表しますが、一方でそういう懸念を抱く点もあるわけですが、先生はどういうお考えでいらっしゃいますか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 まず、科学研究の成果が別に論文のみではないと。そこはまず、先生御指摘のとおりで、全く同感です。特に分野によっては、論文の数で多い少ないを議論することはあまり意味がないという分野も中にはございます。ただ、自然科学の、特に大学が直接関わる研究ということで考えますと、自然科学の相当の分野は、まず一義的な成果というのは論文という形で現れるだろうと。しかも世界の動向から見ますと、国内限りの日本語論文を書いているのでは、世界の中での日本の立ち位置がどんどん見えなくなってしまうということがありますから、国際的に通用し得るような形態で論文を世に出していくことは、一定の重みを持つということは言えると思います。
 そうすると次の問題は、論文では見えない部分をどう評価するのかと。ここは、私どもはまだ解答を持っているわけではございませんけれども、ただこれから、先程の総合科学技術会議のペーパーにもありましたように、多分CSTPは明確な根拠はお持ちにならずにあれをお書きになっていると思います。なぜならば、今回御覧いただくように、科研費に限って言えば、お金が増えた分相当には論文が増えているわけですから、明確な根拠はないと思うわけですが、そういう議論はどんどん進んでおりますので、それに対して現状をきちんと理解するというベースを提供していかないと、非常に定性的な、もっと選択と集中をせよという形で、よい形のものがかえって崩れてしまうのではないかと懸念しております。
 したがって、それからもう一つ、たぶん先生の御懸念は、我々もいつも悩ましいのですが、私どもが定量的な分析データを出すと、データというのはいろいろな使い方ができますので、想像もしなかったようなネガティブな応用をされてしまうことが、実は時々というか、かなりたくさんございまして、そういうことにも配慮していくことは重要です。ただ、データを見せないでサイエンスは大事なんだからという議論だけでは、もう今の政治状況で多くの理解を得て、科学研究に対する資金投入をもっと増やすという議論にはなかなかなっていかないと思います。そこは注意深く出していくしかないのかなと思っております。

【谷口委員】
 ありがとうございます。先生も最後の方で、論文の数だけではなくて、クオリティという点からも解析をなさっているということで、大変期待申し上げているわけですが、おそらく日本がこれから勝負をしていくということを考えたときに、クオンティティじゃなくてクオリティ勝負というところでやっていかざるを得ないというか、そこをやっていくのが文化国、成長した日本のこれからの成長の在り方だと思うわけですが、ぜひ期待申し上げて、結果はどうなるかちょっと不安なところもありますが、期待申し上げております。どうもありがとうございました。

【平野部会長】
 ありがとうございました。私自身も、谷口委員もおっしゃるとおりに考えておりまして、この科学技術・学術審議会の中にあります評価部会においては、先程説明をしてもらいましたように、総合科学技術会議が出した大綱に基づいて指針をつくることになっております。私は、そのときには、こういうきちんとした客観的なデータは重要だと思っておりまして、評価部会は私が部会長を仰せつかっているのですが、その中に評価の作業部会を作っていまして、そこにこの資料を出していただきたいと思います。その資料に基づいて、今言われたような質等をどういうふうに評価の対象の中に入れていくのかということは、その作業部会から提案をいただきたいと思っております。エビデンスをきちっと持ちながら、一般的なメディアで言う印象だけではなく、私どもはきちっと対応をしなければいけないと思っております。この資料については、明日の作業部会にも出させていただきたく思います。

【野崎委員】
 今、ここが研究費部会なので、科研費という研究費、それから先程お話しになった運営費交付金という形での研究費に話が限定されるのは分かるのですが、論文数という視点からいったときには、研究者の数が非常にきいてくるのではないかと思っています。11ページの表を拝見して、WoSでも論文数が減っているのは地方国立大学と公立大学です。おそらくはこれらの大学では、1%ずつのシーリングのせいで新しく常勤の教員を雇用できなくて、その結果として論文数が減っているわけで、これは予想されたことではないでしょうか。数の上だけでは研究者数は増えているのかもしれませんが、大学に配分される金額が減ることによって、本当に研究ができて論文を書ける研究者の数が、特に地方の国立大学と公立大学で著しく減っているということではないでしょうか。おそらくその結果が、論文数の低下ということになって出てきていると思います。なので、そこを何とか数字で表せるといいなと思ったのですが、可能でしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 まず、先生御指摘のとおり、この10年間ぐらいで、中堅も含めた国立大学の統計にあらわれる研究者数、これは教員の数と博士学生の数、それに医局員等といわれる、医局員ですからポスドクも加えた数、これはほとんどの大学で増えています。減ってはいません。ですから問題は、先生おっしゃるように、論文を書くような人の数がどうなのかということかと思います。
 一般的な統計のインプット、研究者の数ですとかあるいは研究費ですね。お金と大学ごとの論文パフォーマンスで、何かそういう論点がはっきり言えないかということで、今、苦労して分析をやっていますが、なかなか統計の揺れが大きくて、あまりはっきりしたことは簡単には言えなさそうだということが、やればやるほどわかってきております。
 次の問題は、たぶん、おっしゃるように、若手から中堅になるのでしょうが、論文をどんどん書くような研究者の層が、厚みがもし薄まっていれば、それは人数が同じでもパフォーマンスは落ちることが考えられますから、そういう論点にどう踏み込めるかなんですけれども、通常の統計ではここの点にはなかなか歯が立ちませんので、どうしたらいいのか考えている最中という状況でございます。

【平野部会長】
 よろしいでしょうか。関係するお話を、勝木副所長さんからもまたいただけると思いますので、御説明もいただきながら、また御議論いただきたいと思います。よろしくお願いします。

【勝木学術システム研究センター副所長】
 日本学術振興会学術システム研究センター副所長をしております勝木でございます。本日は桑原さんから最初に、客観的なデータを御説明願いましたので、私どもはその調査能力あるいは分析能力が不足しておりますが、桑原さんからの御報告を聞きまして、我々が今まで議論してきたことを客観的に示していただけたと思っております。
 それを土台にしまして、我々は、これを知らないときに検討した結果でございますが、中心として考えましたのは、先程谷口委員からも御質問がありましたように、このような数値で出てくる論文数や被引用回数が、学術研究、あるいは科研費というのは「知の創造、蓄積、あるいは活用」という、未知に挑戦する研究評価の指標として直接採用してよいかどうかという点であります。科研費は学術研究に対する支援でございますので、後で申しますけれども、挑戦することによって新しい課題が見つかることも多く、実際には論文は書けなかったとしても、新しい未知の課題が見つかることによって重要な貢献をするというような、他の支援とは異なる性格のものであります。今まで人類がたどってきた最も重要な科学というものを蓄積していく方法として、ピアレビューシステムをとってきているということがございますので、先程の桑原さんのお話にありましたように、全体として論文が減少傾向にあったり、あるいは被引用回数が減少傾向にあったりしたものが、科研費に直接何か反映しているんではないかという心配は多少はありましたけれども、我々の議論の中ではそうではなくて、学術研究の在り方の評価の指標としては、大きな参考資料ではあるけれども、それを頼りに全てを評価してはいけないという立場から御説明したいと思います。結果から遡って科研費の在り方を単純に評価してはいけないのではないか,むしろ審査のシステムなどを充実させるためにこれらの数値を参考資料とすべきであるとの結論であります。
 検討の経緯でございますが、検討事項として当センターに依頼されましたのは,論文や被引用回数を科研費の評価指標として用いる際に配慮すべき分野ごとの特性の、どのような点に留意する必要があるか。あるいは、論文や被引用回数以外の評価指標として、客観的数値で諸外国との比較ができるものは考えられないかという、非常に具体的な御質問でございました。それで、学術システム研究センターにこれが諮問されましたので、センターの主任研究員会議を中心としまして、各専門研究員会議などで、あるいは科研費ワーキングなどを経て、主任研究員会議を,さらに数回行うなどして、頻度高く検討いたしました。
 また、先程申しましたように、科研費の審査システムの根幹であるピアレビューの在り方が、学術研究の根幹、科研費の信頼を得る最も重要なことであるとの結論から、このシステムの評価の在り方についても検討事項の中に我々が積極的に加えて、今日お答えすることにいたしました。いずれも非常に定性的なことではございますが、さまざまな議論の中から、センターの研究員である現役の教授たちが大学の中で直接さまざまに感じていること、あるいは検討していることを、この主任研究員会議あるいは専門研究員会議で議論した結果を御報告いたします。
 まず、検討事項に示されているように、近年日本の論文数や、被引用回数の多い論文数の占める割合が、諸外国と比べて低下傾向にある。一方、科研費は予算が大きく伸びているにかかわらず、予算の上昇に見合った成果が得られていないのではないかという、先程からたびたび出ている疑問がございます。先程桑原さんがおっしゃったように、論文数14%の伸びに対しまして、間接経費等を除いて直接経費の伸びを調べてみますと、約5%でございますので、直接経費で比較しますと論文数の方が伸びているということになるかと思います。いずれにしましても、予算の上昇に見合った成果が得られていないのではないかということについては、今、桑原さんが科研費を取り出して調べられた結果は、決してそうではないということでしたが、私たちが予測していたとおりのことでございます。
 それはなぜかと申しますと、科研費を使って生み出される論文というのは、発表に至るまでに長い期間を要する場合も多いという特性がございます。それから特に、新しい創造的な研究、つまり知の創造というのは、誰もまだ課題にしていないものを課題にして、ピアレビューを通して、それに挑戦するということで配分される資金でございまして、そういう意味の論文の成果を,事前に予見するということができるものではございません。
 あるいは、当初の見通しが研究を進めているうちに困難になって、しかし新しい壁を突破することによって新しい知が生まれるということが多くあります。そういうことがむしろ、報告書の中でたくさん出てまいりますので、直接論文に結びつける、あるいは論文の数からそれについてさまざまに評価するというのは、むしろ予見できないものを、遡って原因とするという、間違った見方になるのではないかと考えられます。
 しかし、そうは申しましても論文数や被引用回数は、個々の課題ではなくて全体としてみれば、学術における貢献度、あるいは水準や,活動度を計るものとしての重要な参考指標にはなることも確かでございますので、我々のセンターといたしましても、科研費取得者の成果を追跡的に情報収集することなど、今、WOS(WEB OF SCIENCE)と結びつけてきちんとできるシステムが、桑原さんは遠慮がちに、まだ第一歩だとおっしゃいましたけれども、大きな第一歩が進んでいるようでございますので、我々としましてもさまざまなシステムを共有しながら、さまざまな方策を現在検討しているところでございます。
 それから、分野別の議論その他につきましては、いろいろ議論がございました。ここに書いてあることは少し端折りまして、論文数の低下というのは、実際的には学術研究を担う大学や研究機関でのポストの減少し、国立大学法人では、現実に、毎年1%の人員削減がここ数年続いておりますし,不安定な雇用による士気の低下、あるいは科研費で雇用される人材の増加、つまり定員内職員が減少しておりますので、科研費の中からポスドクなどの人件費を出しているという、さまざまな要因から、直接研究のために使用できる経費が実際に減少しております。
 さらに、法人化後のさまざまな申請や評価などの増加がございまして、直接研究とは関係のない公務の増加がございます。これは学振のビジョン検討委員会等でも報告されていることでございますが、研究に費やす「時間の劣化」、あるいは研究者の注意の分散が、むしろ原因になっているのではないかという意見が多く出されました。これらについては定量的な検討が必要でございます。なお、科研費の予算上の上昇につきましては、間接経費部分が多くございまして、全てが直接経費の増加とは限らないものでございます。
 このように、学術研究の場合には、予算と論文数との関係とを直接評価の中心に据えることは,慎重である必要があるという点を強調したいと思います。同時にこれらの数値は、重要な参考指標になるという観点から、学術の特性を損なわないような視点でのきちんとした参考資料として扱う必要があると考えております。先程少し議論がございましたが、例えば「選択と集中」などということが、もし単純に数値だけからいろいろ議論されるとしますと、学術の性格からして極めて困ったことになると思いますので、参考資料としては重要ですけれども、学術そのものの性質を揺るがすようなことがないように使うべきであると考えております。
 それから、科研費の審査システムがピアレビューシステムであることが、論文が安定して出てきていることのもう一つの要因であると、我々が思っております。今日、ピアレビューシステムは皆さんご存じのとおり、先進学術国では確立しておりますけれども、ピアというのは要するに、申請課題に対して学術的価値や方法の妥当性、研究の実施可能性という、いわゆる一般的な見識としてできるというばかりでなくて、その分野について精通していることによって、提案された課題が新しいかどうか(新規性)、あるいは独自性(originality) があるかどうかということを判断できる研究者のことでございます。ですから、役に立つかどうかということを最優先するのではなく、提案課題をよく知っているピアが、提案が新しくて、知の創造につながるかということを審査することが出来るという特徴を持っているのだと思われます。
 センターは審査員を選ぶところで、この仕組みが機能しているかを、不断に自ら検討することが重要であると考えておりますけれども、その際にも論文数等の資料が参考になると思われますので,活用したいと考えております。
 もう一つの科研費の役割は、新しい問題に挑戦する学術研究の人材を育てることでございます。これらの人材を国内及び国際社会に送り出して、知的基盤社会を構成するために送り出していくことが非常に大きな役割だと思っております。すなわち、学術研究の成果は、学術活動への参加を通して人材を育成し、学術の世界だけで閉じることなく、教育や現実の世界の土台になっております。それは、この学術資金の恩恵を受けて博士の学位を取得しているというのが現実にほとんどでございまして、そのような一人前の研究者になる、博士を取るということからさらに進んで、大学や研究機関の研究を継続している人、企業で活躍している人、あるいはノーベル賞を受賞した人も、その例外ではございません。すなわち、学術研究の活動を通して、人材は育成され、我が国のみならず国際的な知的基盤を支えているということでございますので、科研費の在り方等の評価については深く,深く検討する必要があると思います。その中心は、やはりこのピアレビューシステムでありますから、このシステムが本当に機能しているかということを、不断に検討していくことを今後とも考えているところでございます。
 はなはだ定量的でなく御納得いただけたかどうか自信はございませんが、センターでの充分な議論を尽くした結果の中間報告でございます。今のようなことを観点に、今後さらに桑原さんのところとも協力しながら、あるいは本会の中にそういうシステムをつくりながら、さらに検討を続けたいと思います。以上でございます。

【平野部会長】
 どうもありがとうございます。学振の学術システム研究センターの御議論を、中間報告としてまとめてお話しいただきました。御質問ありますでしょうか。よろしいでしょうか。今後ぜひ、また報告をいただきながら、私どもの部会の第7期において詰めていただければと思っております。今日はどうもありがとうございます。

(3)第7期研究費部会において引き続き検討すべき課題について

 第7期研究費部会において引き続き検討すべき課題について、事務局より資料2に基づき説明があり、質疑が行われた。

【平野部会長】
 研究費部会でいただいた御意見、それから科学技術・学術審議会での意見を整理して、次期において引き続き検討すべき課題として案を出しております。この事項以外のことにつきましても、ぜひ御意見あったら伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。

【谷口委員】
 先程からの桑原所長、勝木先生の御発表をお伺いしていまして、科研費の重要性を改めて認識したわけですけれども、次期に申し送りをする事項を議論するということですので、少し私が考えることを申し上げますと、やはり3.11以降の日本というのは、非常に新しい時代を迎えるというか、苦難と言ったらいいのかもしれませんが、厳しい時代を迎えているとともに、学術本来の在り方とは何かといった問題を提起しているようにも思える気がします。
 最近では臨床の学術というキーワードも出ておりますが、学問というのは決して閉じられた大学等の空間で行われるものではなくて、勝木先生がおっしゃった、知の創造という学術の根幹を踏まえながらも、一方ではこれからの時代は、閉じられた空間という言葉がいいかどうかは別ですけれども、そういう学術ではなくて、開かれた学術であり、いわゆる知の循環を視野に置いた、知の創造とともに、そこから生まれた知恵が循環する、つまり学術が社会との循環をする、あるいは世界と循環をするという循環器系をいかに構築していくかということが、長期的に見ると、いかに学術を守るかではなくていかに学術を発展させるかという点で、非常に重要なのではないかと思うのです。
 それは必ずしも社会や政策に迎合するという意味では決してなくて、私どもの行っている学術本来の重要さを認識しながらも、世界に、社会に広く訴えて、支持を得ていく、それが重要ではないかと私は思います。ぜひその知の循環という文脈で、科研費がこれからどうなっていくかといった問題を、例えば地球規模の大きな問題から発して、結果的にそれが非常に基礎研究につながるといった在り方も、これからは視野に入れていくことが非常に重要なのではないかと思います。そこでは人文学、社会科学と自然科学とがいかに統合するかという視点も、非常に重要になることもあろうかと思います。
 その文脈において、もう一つの大切な要素は、先程から先生方がおっしゃっているように、人材育成だと思います。最近、大学で私どもが議論していまして、非常に深刻な問題は、若い人たちが学術の方向に向かないということです。なぜ学問が興味がなくなったのか。なくなったのかどうかわかりませんが、いろいろな理由は考えられますけれども、いかに学問の世界に若い人の目を向けられるかといった文脈の中で、科研費等の在り方も検討していただけるとありがたいと思います。

【平野部会長】
 ありがとうございます。学術そのものの根幹に関わる重要なことでありますので、それを次期では踏まえながら対応がとれるように申し送っていきたいと思っております。

【小安委員】
 先程勝木先生がおっしゃった中で、研究の時間の劣化という表現がありましたが、非常に実感するところでして、谷口先生がおっしゃったように、若い人たちが学術に対して、何か及び腰になっているのも、我々の時間の劣化を見ていてそれに対して非常に危惧を覚えているところがあるのではないかと感じます。ただ、これをどうやって定量化したらいいかというのはよくわからないのですが、多くの方が大学で経験されていることだと思います。何らかの形できちんと議論ができるとよろしいのではないかと思います。

【平野部会長】
 ありがとうございます。その点についてはここでも議論しなければいけませんし、学術分科会全体においても、人材育成とともに支援体制の在り方について議論しておりますが、ぜひ加えていただきたいと思います。

【鈴木委員】
 今、時間の話が出てきましたので、先程からの論文数の議論で、ふと思ったのですが、資料2の2ページですね。これまでの科研費の制度設計というのは、ある意味で一次元といいましょうか、金額によってだんだん変わっていくと。若手というような年齢によるものも若干ありますけれども、ほとんどは金額で変わっています。
 ところが、もう一次元の見方というのが、ここに書いてあるような研究期間ですね。ほとんど平均5年間。これだけいろいろな分野があるのに、なぜ研究期間は5年間なのか。人によっては3年間で成果が出るものもありますし、5年間ということもありますし、場合によってはお金は要らない、むしろ期間が必要なのだとなると、7年と設計して成果をどんどん出していくと。いろいろな研究分野において、研究期間に差があってもいいと思うのです。
 ですから、資料に小さい字で書いてあるのでちょっと心配になったのですが、分野に応じてあるいは人に応じて研究期間を、研究の進展具合にもよりますけれども、今は非常にトップスピードになると、その人はすぐ結果が出るかもしれない。これから立ち上げるという人は7年間かもしれない。まあ、10年間になると怖いですけれども、いずれにせよ、金額と時間の二次元の制度設計ということもあるかと思いますので、ぜひ次回、議論してもらいたいと思います。

【平野部会長】
 ありがとうございます。このような御意見は以前も出ておりました。期間ともう一つ議論があったのは、費用をどの年数で、どのぐらいのピークを出しながら配分するのかということも含めて、科研費の予算の配分の仕方について検討しなければいけないと思います。基金化も導入されましたから、余裕といいますか、検討の余地は十分できるようになったと思いますが、それを含めて検討するようにします。

【北岡委員】
 検討すべき課題のところで、我が国の研究力の強化に向けて、研究費制度はどう対応していくべきかということは、課題としてあると思うのですが、研究費をより効率よく運営していくまでのシステムの整備というのが非常に欠けているような気がします。特に谷口委員がおっしゃったような開かれた学術研究、社会のため、国際社会のため、あるいは人類のための学術研究ということで、開かれた学術研究にしていくためには、研究費はもちろん重要な基盤になっていますが、先程の、日本の科学技術政策をつかさどる司令塔の、総合科学技術会議の有識者会議の資料の中で「研究費の大幅な増加に結果が結びついていない」という誤った意見がここに出てくると。
 現実に今日、やはり我々の直感である、研究費が増えれば論文数は増えるということをデータで示していただいたわけですが、そういうことが国の司令塔である報告書の資料の中で誤った見方がとられているということは一つの大きな問題だし、イノベーション、イノベーションと今、はやりですけれども、イノベーションをやるための仕組みの開発については、もっと抜本的に研究費を使う、大学あるいは研究機関内のシステム。大学の中の、特に大学執行部のガバナンスを含めて、大学を改革していくための総合的なガバナンスの改善、あるいは人事制度が課題なのではないかと思うのです。今、大学の人事制度は、いわゆる教育職と行政職しかないわけですね。あるいはURA、あるいはもうちょっとインターン、要するに産学連携、スピードなどに特化した職種。そういうものの人事制度、あるいは就業規則。そういうのを含めてトータルなシステム改革をしていかないと、研究費を有意義に、各研究者レベルで自由な研究も各大学自身でやっていく上で、それをやる環境整備を含めて、国の上のレベルでこういう認識が出てくるような状況で、どういう形でそれをボトムアップ的に、正しい認識に基づいて科学技術政策に反映していただくかということも、重要な議論のポイントじゃないかという形で、今後の研究費部会でもそういうことを踏まえた上での、もう少し基盤的な部分の議論も踏まえて、文科省としても対応していただきたいな思いました。

【平野部会長】
 ありがとうございます。これは事務局にお願いですが、今の御発言は、学術の基本問題に関する特別委員会でも大きな問題になると思いますので、そこにも出しながら、連携していくようにしましょう。

【金田委員】
 資料2の最初に、基盤的経費と競争的資金双方によるデュアルサポートの重要性ということが書いてあり、そのとおりだと思いますが、ここのところで研究費制度といって、科研費に非常に強く流れてきており、両方私も重要だと思いますけれども、基盤的経費というのはどういう責任を持つべきなのかということも、この部会が一番適当なのかどうかわかりませんが、一度議論していただく必要があるのではないでしょうか。つまり、研究機関であればどういうことを基盤的経費できちっと準備すべきなのか、という議論をちゃんとやらないといけない段階に来ているのではないかと思いますので、お考えいただきたいと思います。

【平野部会長】
 ありがとうございます。これについても、研究費部会で対応しつつ、関連する本省での議論に持ち出しておいていただきたい。先程のガバナンスシステムもそうでありますけれども、当然、研究機関においては重要なリンクする問題ですから、それこそ基盤となる問題ですので、これはちょっと整理をしましょう。それで、科学技術・学術審議会全体の問題にするのか、その中のどこかでどう揉んでいくのかということを省内でも検討いただきたいと思います。
 この部会も大変重要でありまして、部会で提言したことについては、事務局の努力もあって進んでくるようになりました。とはいえ、まだ新政権においてといいますか、財務省においても基金化については、理解はしてくれつつあるのですが、もう少し成果を見た上で、基金化によってどのような改善がされたかという結果を見ながら次のステップに入っていってくれると思いますので、基金化を要求し、議論になったこの部会としては、ぜひ基金化した効果を見える形で、ここ1年ではできませんが、少し後においても見ていっていただきたいと思っております。理想的には全ての科研費が基金化できるように願っております。次期で全部やれるわけではありませんが、次期部会においてもフォローアップができるような検討を進めておいていただければと願っております。

【鈴村委員】
 基金化というのは科研費の使い勝手を改善する上で非常に大きなステップだと思うのですが、どのように使い勝手をよくして、それぞれの学問ごとで本当に研究成果が出るような意味がある仕組みに改善する仕方はいろいろあり得ると思います。そこは正に、人文学・社会科学と自然科学とではたぶんニーズは非常に違ってくるし、それがまた社会貢献になることに対しても違いが出てくると思います。
 ですから、先程も別のコンテクストで議論が出ていましたけれども、科研費は制度としてのある種の統一性は重要であり、ばらばらでいいとは思いませんが、さりながら分野ごとのニーズにちゃんと対応するような検討をもうそろそろ本格化する必要があるのではなかろうか。せっかく基金化が進んできた現状を踏まえると、別の次元でそういう研究の実績が社会に対してきちんとしたフィードバックが可能なように手助けをする制度であってほしいと思っております。

【平野部会長】
 ありがとうございます。先程来、谷口委員をはじめとして御意見ありますように、分野の特性もこの科研費の在り方の中に十分生かしながら対応するということを、次期の部会に申し送りをしておきたいと思います。よろしいでしょうか。

【深見部会長代理】
 この期を終わるに当たって、我々の研究環境というものを考えてみますと、研究者の負担が非常に大きくなった。どうしてか。これは何度もいろいろな形で議論されているのですが、1つ、私自身の反省ということもありますけれども、公平を余りに重視し過ぎて、競争的なことを必要以上に助長し過ぎたのでないかという思いがあります。デュアルサポートと書いてありますが、競争的資金の方です。
競争的なことは重要であるのはもちろんであって、社会的な説明責任もありますので、とても重要だと思いますけれども、文科省の競争的資金の公平性は非常に高いのではないかと思います。そういう意味では、ある一定の皆さんに納得できる水準は、もうある程度あると思っていて、むしろ余りに競争的なこと、そして評価に費やす時間というところは少なくして、効率的に行うことによって、研究者が本来の研究に向かっていけるようにするためにはどうすればよいか、そういうシステムを考えていかなくてはいけないのではないかと思います。
 その点では、基盤研究を重視する。新学術領域研究の在り方は、競争をとても激しくさせている一つの要因ではないかという気もしますので、このあたりの今後の制度設計の在り方は、もう一度考えていく必要があるのではないか思います。

【平野部会長】
 ありがとうございます。今の深見委員の意見も全体に関わってきますので、また検討するということとさせていただきます。
 どうもありがとうございました。次期にも、根本に関わることも含め、多くの事項を引き継がせていただきます。よろしくお願い申し上げます。
 今日は最後に、袖山課長が締めの挨拶をしてくださるようですので、お願いします。

―袖山課長挨拶―

【平野部会長】
 どうもありがとうございました。第6期において、皆様方の熱心な御議論をいただき基金化等の改善もなされました、ありがとうございました。また次期に宿題を申し送って、ぜひこの科研費がいい形できちっと運用されて、さらなる発展ができますよう、私も願っております。
 どうも御尽力ありがとうございました。これで終わります。

 ―― 了 ――

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