資料3-2 学術研究における評価のあり方について(中間報告)

検討事項

  • 論文や被引用回数を科研費の評価指標として用いる際に、配慮すべき分野ごとの特性など、どのような点に留意する必要があるか。
  • 論文や被引用回数以外の評価指標として客観的数値で、諸外国との比較ができるものが考えられないか。

検討の経緯

  • 上記検討事項については、独立行政法人日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員会議への検討依頼があり、各専門研究員会議の議論を経て、科研費ワーキングおよび主任研究員会議で検討した。
  • また、科研費の審査システムの根幹であるピア・レビューのあり方や審査、評価のあり方についても検討した。

検討の中間経過報告

 1)検討事項に示されているように、近年、日本の論文数や被引用回数の多い論文数の占める割合は、諸外国と比べ低下傾向にある。一方、科研費の予算額が大きく伸びていることを背景に、「予算の上昇に見合った成果が得られていないからなのではないか」との意見がある。しかし、これらの指標は、我が国の学術および科学技術研究等への総合評価の指標として受けとめるべきものであって、学術研究の特性をもつ科研費に対する評価の指標としては、慎重であるべきであるとの結論に至った。
 科研費を使って生み出される論文は、発表に至るまでに長い期間を要する場合も多いという学術研究の特性に配慮する必要がある。とくに、新しい創造的取り組みにおいては、成果は予見できるものではなく、当初の見通しが、新たな困難に遭遇して成功しなかったとしても、そこから新たな課題が見つかるなら、むしろそれは、大きな成果と見なすことができる。しかし、論文数や被引用回数が、科研費の学術における貢献度を測る重要な参考指標であることも確かなことから、本会(本センター)としても、科研費取得者の成果を追跡的に情報収集することなど、様々な方策を検討しているところである。
 分野別の議論では、理工系の一部に、これらの論文数などの指標が有効との意見もあったが、その他の分野からは、科研費予算の上昇と論文数や被引用回数の国際的割合の低下とは直接結びつけられないのではないかとの意見であった。むしろ、学術研究を担う大学等や研究機関でのポストの減少、不安定性などによる士気の低下、科研費で雇用される人材の増加(定員内職員の減少に伴う処置)による直接研究のために使用できる経費の減少、さらに様々な評価や申請に対する公務の増加など、「研究に費やす時間の劣化」や「研究者の注意の分散」が原因になっているのではないかとする意見が多く出された。これらについては、定量的な検討が必要である。なお、上記の「科研費の予算上の上昇」には、間接経費部分も多く、直接経費の増加とは限らないことにも注意すべきである。
 2)科研費の審査システムのあり方に関しても、学術の評価と関係して議論が行われた。今日、提案(申請)課題を審査する手続きは、先進学術国のピア・レビューとして確立している。ピアとは、申請課題の学術的価値、方法の妥当性、研究の実施可能性などを総合的に評価できると判断された大学内外の資格ある研究者である。それ故、科研費審査をピア・レビューで行う理由は、申請の独自性や新規性を見極め、その学術的価値などを最も適切に評価できるからである。このように、ピアによる審査システムこそが、科研費が信頼される根幹である。それだけに、われわれは、ピアによる審査システムを検証し、改善することは不断に行われなければならないと考えるものである。
 科研費の大きな役割は、あらゆる分野から、新しい問題に挑戦する学術研究の人材を育てること、また、それらの人材を国内および国際社会に送り出し、知的基盤社会を構築することにあるとされてきた。学術研究の成果は、学術の世界だけでなく、教育や現実の世界の土台ともなっている。我が国でも、ほとんどすべての研究者は、学術資金の恩恵を受け、博士の学位を取得している。大学や研究機関で研究を継続している者も、企業で活躍している者も、ノーベル賞受賞者も、その例外ではない。また、計画通りの結果が得られない場合にも、科研費を用いた研究からは、新しい「未知」の成果を提案していると考えることができる。以上のことを考慮した上で、科学技術全体を対象にした論文数や被引用回数などのデータは、たしかに研究者の活動度や我が国の研究水準を判断する場合に参考になるものではあるが、学術研究の評価に関しては科研費でなされた成果をデータ化することが重要と考えている。
 これらのデータは、学術全体を俯瞰的に見た上での研究種目のあり方や、ピア・レビューシステムの評価、審査方法などについて検討し、科研費制度の仕組みを向上させるべく役立てるものである。
(平成24年12月21日 独立行政法人日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員会議)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課企画室企画係

小久保、矢崎
電話番号:03-5253-4111(内線4092)
メールアドレス:gakjokik@mext.go.jp