第5期研究費部会(第10回) 議事録

1.日時

平成21年10月23日(金曜日) 10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省第2講堂

3.出席者

委員

 有川部会長、小林委員、佐藤委員、鈴木委員、中西委員、深見委員、井上(明)委員、井上(一)委員、岡田委員、水野委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、倉持大臣官房審議官(研究振興局担当)、山脇振興企画課長、石崎学術企画室長、松川総括研究官、小谷技術移転推進室長、山口学術研究助成課長ほか関係官

4.議事録

(1)意見のまとめ(素案)について

 事務局より、資料2「第4期科学技術基本計画の策定に向けた検討と科学研究費補助金の在り方について(意見のまとめ)【素案】」、資料3-1「科研費の将来の規模等について(検討メモ)」及び資料3-2「科学研究費補助金の必要な規模について」の説明を行い、「第4期科学技術基本計画の策定に向けた検討と科学研究費補助金の在り方について(意見のまとめ)」について審議を行った。

【有川部会長】
 1ページの「はじめに」の部分、それから、2ページから5ページにかけては、これまでの科学技術基本計画における科研費の位置付けと第4期科学技術基本計画の検討についての部分であるが、まずこの部分についてのご意見をいただきたい。
 資料2の1ページの「はじめに」のところに○が3つあるが、そのうち2つはこれまでのことが書いてあり、科研費というよりも科学技術基本法と第1期、第2期、第3期の基本計画についてのことが書いてある。3つ目の○で第4期における科研費のことが書いてあって、それを少し分かりやすく書いたものが2ページ、3ページ、4ページであり、5ページで第4期の基本計画の検討の方向を書いている。

【深見委員】
 資料2の3ページに競争的資金の倍増を目指すというところがある。もちろん本当に倍増すれば、私たちが望んでいる基盤研究の充実がかなうが、全体的な予算が限られ、競争的資金の倍増が現実的に難しいような状況の中では、倍増ということを目標にしながら、基盤研究を充実していくための手法を少し考えていかなければいけないと思う。
 今回、基盤研究(A)と基盤研究(C)を充実するために新学術領域研究(研究課題提案型)、若手研究(S)が取りやめになったということで、現場の混乱は大きい。新学術領域研究(研究課題提案型)と若手研究(S)について、今年度は公募停止したが、今後も公募しない方向でいくのか。また、科研費の公募期間中であるため、現場の混乱は大きいものがあると思うが、ここまでぎりぎりにせざるを得なかった、避けられなかったことなのか。コメントがあればぜひお願いしたい。

【山口学術研究助成課長】
 今回の概算要求と公募停止については、さまざまな御心配をおかけしていることを、まずおわびしたい。先ほど企画室長が説明したように、今回、夏に概算要求を提出していたが、政権が変わり概算要求について全面的に見直すということで、作業が秋以降急激に進んだという状況がある。結果、科研費については約30億円の増ということで概算要求の枠が決まったが、今後は政府予算案を策定するということになるので、これから先でき上がりの額はまだ未確定なところがある。
 私どもとしては、30億円の増額要求ということが決まった中で、基盤研究の、特に(A)と(C)が非常に厳しい状況になるのではないかということを危惧した。それには2つ要因がある。応募の件数、特に基盤研究(C)などが非常に増加しているという状況があることが1つ。もう一つは、今年の特殊要因であるが、平成20年度公募から基盤研究の研究期間を2~4年を3~5年に延伸した結果などにより、後年度負担が大きくなり新規の採択枠が非常に厳しくなってしまうということが考えられた。このため、基盤研究(A)と(C)に重点的に財源を投入する方向で要望させていただいたものである。
 こういった関係で財源がなくなってしまったこと等により、若手研究(S)と新学術領域研究(研究課題提案型)は募集停止をさせていただくことになった。今回、現時点で募集停止せず、例えば薄く措置して数件採択するという選択肢もないわけではないとは思われたが、11月10日の締め切りまでに、他の研究種目に振りかえるというようなことができるのであれば、それによって研究者の方々が次の方途を考えることができるのではないか、なるべく早くお知らせをしたほうがいいのではないかということで、今回のような形にさせていただいた。なお、若手研究(S)や新学術領域研究(研究課題提案型)については、採択率も実際かなり低いので、重複応募を考えている方が多いのではないかと思っている。
 今回、別の方途を考えることができれば研究者の方には幸いではないかということで、このようなスケジュールになった。もう少し早く確定してもう少し早くお知らせをすることができれば良かったとは思うが、ぎりぎりのタイミングでこのような決断をさせていただいたということである。

【深見委員】
 この件は、来年度はどのようになるのか。

【山口学術研究助成課長】
 今回決めたのは、新規の公募について募集停止するということで、継続案件については引き続き対応する。今後、この種目をどうするかということについては、また議論していただくことになると思う。当面、私どもが行政的な対応として決めたのは、新規の公募を停止するというところまでである。

【有川部会長】
 予定していたものを中止ということは非常に残念なことではあるが、先ほど説明があったような事情があるということで、この時期やむを得ないのではないかと思う。

【佐藤委員】
 科学技術基本計画に、第2期は倍増と書いてあったのが、第3期では具体的に倍増とは書かれていない。これから規模のことも考えていくときに、第2期の計画が第3期になってどう理解をされたのかということはいろいろな解釈がある。倍増ということは基礎として生きているが、第3期ではそれよりブレークダウンして書いたのだという考え方も成り立つだろうし、一方、経費を減らそうと思う人は、第3期になったときに倍増ということはなくなったのだという主張をするかもしれない。その辺をどう理解すればいいのかということは一つポイントになるような気がするので、何か考えがあれば聞かせていただきたい。

【山口学術研究助成課長】
 それについては、正直なところ正確な説明をする材料を持ち合わせていないが、おそらくは第2期で倍増ということを出して、しかしながら、それが実現できなかったという状況を踏まえ、拡充という方向性は維持しつつ、第3期ではこのような記述になったのではないかと思う。

【有川部会長】
 はっきりしていることは、第2期で倍増と言っていたが、現在に至るまで倍増には届いてない状況にあるということだと思う。
 続いて6ページから9ページにかけて、「研究者の自由な発想に基づく研究」、あるいは「基礎研究」、「学術研究」といった考え方の関係について書いてある。それから、10ページから12ページにかけて、科研費が果たす役割等についての部分がある。この6ページから12ページにかけてご意見をいただければと思う。

【井上(明)委員】
 9ページの2つ目の○について、46.5%が科研費を使用したと回答しているが、下の棒グラフを見ると、必ずしも足したものは100ではない。これは解釈の問題になるが、この棒グラフは、科学技術振興調整費、未来開拓学術研究推進事業、戦略的創造研究推進事業などと比べて、科研費は大きな貢献しているととらえていいのか。あるいは他の外部資金や、政府(国)の競争的資金の比率が大きくて、科研費はもう一歩だというグラフなのか。

【山口学術研究助成課長】
 このグラフは、下にも書いてあるように、自分の論文を産出するに当たってどのような資金を使用したかということについて自由回答で回答していただいたもので、足すと100を超える。私どもの理解としては、科研費が最も大きな役割を果たしてきたとトップリサーチャーの方が言っているということで、ほかのワン・ノブ・ゼムというよりは、断トツに科研費の評価は高いのではないかというグラフとして使わせていただいているつもりである。

【井上(明)委員】
 第4期科学技術基本計画の中でも、今回初めてイノベーション的な要望が出てきた。科研費は論文の中でも非常にベーシックなところだけをとると、もっとパーセンテージが高く、外部資金や政府の資金等は、多少応用的な分野の論文をリサーチするとかなり比率が高いというように、もう一歩踏み込むと、科研費の特徴がよく出てくる可能性があるのではないかと思う。川上から川下までのトップリサーチャーの論文を用いることが、科研費の特徴を表すのにいいのかどうかと思う。

【有川部会長】
 トップリサーチャーということなので、もう少しこの比率は大きいのではないかという印象を持った。そういう意味では感じている直観とは乖離があると思う。
 それから、科学技術振興調整費などに関しては、実際にそれを使って研究をしている人口が少ないということの影響があるのではないか。そういう意味では、科研費は全分野にあまねく配分されていることなどがここにあらわれているという見方ができると思う。

【中西部会長代理】
 46.5%という数字が、多いと見るのか少ないと見るのか、読む人によって理解が異なってくると思われるので、できれば、ほかの資金と比較して多い、少ないなど、定性的な表現にとどめておいたほうがいいのではないかと思う。
 また、10ページの下から3行目に、「『若手研究』による支援を受けた研究者数は延べ約4万人」と書いてあるが、この数字も多いのか少ないのか、少しわかりにくいと思う。
 それから、6ページの2つ目の○について、「また、同提言においては」というところが長い一文章となっているため、書き方を少し工夫してもいいのではないかと思う。
 最後に、この提言のスタンスをどう考えるかということにもつながるが、例えば6ページの段落の最後の「繋がるものと考えられるのではないか」というところは、「繋がるものと考えられる」で切ってもいいのではないかと思う。同様に、8ページの最初の○の「役割は大きいと言えるのではないか」というところも、少し遠い言い回しのような気がする。また、例えば11ページの上の段落の最後のほうの、「過言ではない」というところも、遠回しに思える。これは学術分科会に出すものという気持ちが含まれているのかもしれないが、場合によっては、もう少し断定的に書いてもいいような気がする。

【山口学術研究助成課長】
 このトーンについては、今までのご意見の中で強く出されたものを強めに書いている。「何とかではないか」というのは、事務局でまとめた際に、まだ十分にご意見をいただいてないようなところがあるときに、少し弱めて書いているということである。もちろん、本日の審議の結果、これは断定していい、強く打ち出すべきだというお話をいただければ、この「何とかではないか」はやめて、「何とかである」ということで、次回、意見のまとめ案とさせていただこうと考えている。今回は素案として提示させていただいているので、そういった意味で少し表現を弱めたところと強めたところがある。

【小林委員】
 8ページの「学術研究の振興」との関係についてというところも、論理構造がもう一つはっきりしない。2つ目の○には「基礎・応用を含む自然科学を包含している」と書かれているが、11ページでは「科研費は、自由な発想に基づく基礎研究を支援の対象としている」と書かれている。ここだけを見比べると、学術といったときだけ応用を含むという論理になりかねない。この部分はそもそも、何を言いたいのかというところをもう少しはっきりする必要があるのではないかと思う。

【山口学術研究助成課長】
 少し説明したいと思うが、8ページのところでなぜ学術研究の振興という段落を立てたかと言うと、今回、第4期の基本計画の検討はこの部会以外にも学術分科会、あるいは学術の基本問題に関する特別委員会などでも同時並行的に動いていて、そこで一つの大きな議論になっていることとして、科学技術基本計画と学術というものをこれからどのようにとらえるかという問題がある。
 ご承知のように、科学技術基本計画においては人文学、社会科学ということは含まれていない。それから、学術という概念自体がおそらくは科学技術よりももっと広い概念であろうということがある。一方で、今、さまざまな社会の動きの中で、自然科学のみで対応することはもちろん難しい状況があって、人文学、社会科学というものも総合的にとらえて対応しなくてはいけない。そういう意味では、学術の重要性が大きくなっているのではないかということで、この学術の部分と科学技術基本計画の部分が大きな課題としてさまざまな形で出ている。この部会のまとめが、先ほど最初に説明したように、学術分科会へ上がり、その後基本計画特別委員会にも上がっていくということを考えると、この部分の整理が必要ではないかということで、8ページの記述をさせていただいている。そういう意味でいうと、少し問題提起的なところがあって、消化不良のところもあると思うが、なぜこの8ページが置かれているかということについては、そういうことである。

【小林委員】
 そういう趣旨であるということはよくわかっているが、「応用」という言葉がここにだけに出てくると、これから従来の科研費に応用を入れたものを目指すというようにも読めるので、その言葉の使い方はどうしたものかという気がする。

【有川部会長】
 学術といったときに、「応用」ということも入れておいたほうがいいということか。

【小林委員】
 それはそのとおりだと思うが、後ろにある科研費は基礎研究をサポートしてきたという言い方と対比すると、少し気になるところである。

【有川部会長】
 後ろのほうが問題になるのかもしれない。学術に関しては、基本計画特別委員会の資料にあったと思うが、今回の科学技術・イノベーションに関する説明の付近で、科学技術というものも学術の中でしっかり位置付けておく必要があるというような表現があったと思う。そういうことからすると、学術という言い方で広げて全体を覆っておく必要があるのではないか。

【山口学術研究助成課長】
 今、小林先生からご指摘の11ページの部分は、もう一度考えさせていただきたい。

【井上(一)委員】
 先ほど井上(明)委員が少し言われたが、同じイノベーションの中でもより萌芽的なイノベーションという意味合いに一番合う部分を、もう少し目に見えるような、例えば論文のサイテーションなど、うまい尺度が出せる数値はないだろうか。案があるわけではないが、先ほどからの応用ということについても、その基をつくっている部分がもっと見えるような表現ができないものか。そういうものがないと、もう一つ社会に訴えるものがない。第4期に向けてはもう一工夫してもらいたいと思う。

【有川部会長】
 そういう意味では、5ページに第4期基本計画の検討ということで書いてあるが、これは科学技術・イノベーションというようなことを押さえながら進めてきているので、4つ目の○ぐらいにそれを受けたようなことを入れておくと良いと思う。実際、構造的にはそのようになっているので、6ページにいくと、それを受けた形で研究者の自由な発想に基づく云々というところにきている。ただ、今、井上(一)先生が言われたように、5ページのところで、こういったことをやるためにも科研費が大事であるということを一度言っておく必要があるかもしれない。

【鈴木委員】
 今のイノベーションの件だが、6ページに平成21年1月8日の研究費部会の提言として「基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について(提言)」とあるが、これを見ると、科研費でこのようなこともやるのかというものがある。自由な発想に基づくということを全体に書かれているが、○の2つ目の下から3行目に、「また、今日、グローバル化の進展の中で、世界との競争に打ち勝ち、我が国の経済成長を実現していくためには、経済社会に大きな波及効果をもたらすと期待される革新的な技術のシーズを特定し、強力に推進していくことが必要である」と書かれている。このようなものを特定するということは、科研費の発想に合うのかどうか。自由な発想に基づく、自由な研究と言っておきながら、世界との競争に打ち勝つということは、既に目的が決まっていて、その目的に対してこれに打ち勝つということだと思う。このような目的を定めたものに対して革新的な技術を特定し、強力に進めるというのは、科研費の思想とは若干ずれるのではないかという気がする。
 この提言がどこまで拘束力を持つのかはわからないが、この辺は学術を超えたような書き方にしなければ、科学技術基本計画の第4期に迎合したような書き方になってしまう気がする。

【山口学術研究助成課長】
 これについては、既に1月に提言として出されているが、6ページに、世界との競争に打ち勝つためには、こういう特定をして強力に推進することが必要だとあり、「しかしながら」というのが7ページに続いていて、要するに頭から政策目的でやるということは難しいとある。いろいろな自由な発想に基づく研究があってこそ、そこから新しいものが生まれてくるということで、7ページの上の部分のことが重点的に記述されているのではないかと思う。ちょうど6ページで切れているが、続きが7ページにあって、それこそが自由な発想だということでお読みいただければと思う。

【有川部会長】
 「また」ともう一回繰り返されているが、もう一つのほうはどうか。

【山口学術研究助成課長】
 この「また」の部分も、革新的技術は、多様な基礎研究における試行錯誤や切磋琢磨からこそ生まれるものであるということではないかと思う。

【鈴木委員】
 世界との競争に打ち勝つというよりも、例えば地球規模のいろいろな未知の課題に対する知の創造など、何かもう少し科研費らしい表現で書いたほうが良いような気がする。

【有川部会長】
 科研費に、特定領域研究(C)など少し目的をはっきりしたようなものがあったが、そういったことが意識されたのかもしれない。

【井上(明)委員】
 9ページに、科研費による研究成果としての産業財産件数なども主要指標として出てきている。これも先ほどの議論とも絡む整理方法なのかもしれないが、ここをどう位置付けるか。

【有川部会長】
 最近では、特許の出願件数なども求められているので、科研費といえども、研究成果の一つとして、論文、図書などに加えて産業財産権ということで、出しておいたほうがいいのではないかと思う。

【水野委員】
 前回までの議論では、科研費という制度の枠組みの中で、例えば基盤研究などでのピアレビューというのはもちろん非常にうまくいっているが、そのような申請研究を選択するという限られた場面のピアレビューだけではなく、例えば運営費交付金との割合やライフサイエンス系のまとまったいろいろな試料を設置しておくような組織を設けることなど、科学技術全体に限られた予算をどのように使っていくのかという制度設計をすることについても、科学者の知恵を使うことを入れていこうという意見が比較的多かったと思う。そのことが全然出ていないが、今回はそういうことまでは言わないという判断なのか。
 もう一つ、些細な文言のことで恐縮だが、11ページの人文学と社会科学について書かれている部分が、とてもやせ細っているような気がする。「しかしながら」というところで書かれているこの3行が人文学だとすると、人文学は歴史研究と文化継承だけという感じがするし、法律や社会学というのは社会の変化に直結しているとだけは確かに書いてあるが、本来はもっと豊かなものを含んでいる学問領域だと思う。
 つまり、人間は群れで生きる動物なので、言葉で秩序をつくるし、言葉で社会あるいは物事を認識するというのが特徴であるが、その群れで生きる人間をどうやって平和裡に共存させて、より幸福な社会にしていくかということを、人文学も社会科学も大きく言えば目指している。人間に例えると、コンピューターのハードが同じように人間の脳細胞などは同じかもしれないが、そこに入れ込まれる文化のすり込みや言葉などがソフトにあたり、ソフト次第で全部動きが変わってくる存在である。そういう文化のすり込みのようなソフトの問題を扱う文化系の学問が、群れとして生きている人類をどのように共生させていくのか、あるいは人類がまだ認識できないような新たな科学技術の進展について、身体的な限界を持ち言葉と理念に強く縛られた人類社会が、どのようにしてそれを使いこなしていけるのかという知的営為を担当していることまで広げていくと、もう少し人文学と社会科学について豊かなものが描けると思うので、ここの表現が少し寂しい気がする。

【有川部会長】
 これはおそらく、出された意見をもとにしてこのようにまとめられたものなので、そこは水野先生に少しお知恵をいただいて、全体的にもう少し格調高い形にまとめていければと思う。
 それから、そもそも基盤的経費と競争的経費について、これまでいろいろなところでデュアルサポートという言い方をされてきていた。今回はその検討と科研費の在り方についてということで意見を言おうとしているので、このようなことになっていると思う。ただ、今言われたことは非常に大事なことなので、「はじめに」のところで基盤的経費との関係の重要性などにも触れて、その中で特に科研費について提案するということにしておけばいいのではないかと思う。

【山口学術研究助成課長】
 基盤的経費と競争的資金の関係については、実はこれから先、資料3-1等々で規模の話をまとめていて、その中に一部分競争的資金との関係ということを入れている。ただ、先ほど水野先生からご指摘いただいたことは、おそらくは科研費のみならず、いわば競争的資金全般にわたってのピアレビューということで、科研費の在り方の検討ということよりももっと広い話ではないかと思うので、こういったところではなくもう少し広い観点で書けるかどうか、少し難しいかもしれないが検討させていただきたいと思う。

【有川部会長】
 確かに資料3-1を見ると、基盤的経費などにも触れながら書いてある。

【井上(一)委員】
 同じことに関して、そういう意味でいうと前回も学術会議の提言という形でご意見をいただいている。ここは科研費について考える部会だからということにはなるのだと思うが、第4期科学技術基本計画の中でこれがどのような位置付けになるかという趣意のことがあまり書かれていない。この報告の中に書くのかどうかは分からないが、知的インフラストラクチャーとしての基礎研究と人材の育成というようなもう少し広い観点で、もう少し上のレベルで書いていただかなければいけない。先ほど言った応用としてどう使われていくかということなどは、いろいろなことに絡んで非常に大事なところだと思うので、何か工夫していただけると良いと思う。

 続いて、事務局より、資料3-1「科研費の将来の規模等について(検討メモ)」、資料3-2「科学研究費補助金の必要な規模について」及び資料3-3「各研究機関への科研費の配分比率を米国と同様の配分比率にした場合の試算(前回提出資料)」について説明を行い、引き続き審議を行った。

【有川部会長】
 資料3-1では、各世代間の採択率の状況、大学間の配分の偏りの問題等を踏まえ、各世代の採択率を30%として全ての種目に間接経費をつけた場合の試算に基づいて、次期科学技術基本計画の最終年度である平成27年度及び10年後の31年度に必要な規模が推計されている。このような方向でのまとめ方でいいかどうかということを中心にご議論いただければと思う。
 ポイントの一つとしては採択率30%ということである。それから、5カ年ということでいうと平成27年度、10年ということでいうと平成31年度の規模を考えて提言をしていくということになると思うが、ご意見をいただければと思う。

【岡田委員】
 この資料はいろいろな意味で非常にショッキングなものでもある。特に年齢別の採択率の表などはそのとおりで、既にこのような議論は行われてきたと記憶しているが、最低限採択率を30%にするという主張をもっと強くここで出していくことは非常に良いことだと思う。それから、間接経費30%を堅持するということも非常に良いことだと思う。そういう意味で、数年後に3,500億円が必要になるというようなことは、ここで強く主張することが大事だと思う。
 この計算の根拠になっている一つに、平成18~20年度の研究者の伸び率が平均2.87%と書かれているが、平成18年度から20年度というのは、研究費の伸びも鈍化している時代で、日本全体が少し抑制されたような時代の計算だと思う。現在もまだそのようなことは続いていると思うが、要するに現在は、若い人たちが研究者になろうとそれほど強く思っていない。むしろ、現在の社会状況あるいは経済状況を受けて、研究者になることを断念している人が非常に多い時代である。つまり、この2.87%というのはそのようなことの反映でもあるので、さらにこのままいくと、この数はもっと減っていくし、若者たちが研究者や教育者になっていこう、大学や研究・教育機関に残っていこうということ自体がプロモートできにくい、先生の側も残れということがなかなか言いにくい時代になってきている。このままいくと、ますます負のスパイラルに入っていく。ここは3倍増、3.5倍増ということをきちんと言って、それを正のスパイラルに持っていかなければ、日本の科学研究自体がじり貧になっていくので、その一つの具体的な対処方法としてこれだけの金額が要るということを強く言うことが必要だと思う。

【有川部会長】
 資料3-2の一番最後の3ページのところを中心にした話だと思うが、ここの伸びはどのようなデータになっているのか。

【山口学術研究助成課長】
 資料3-2の一番最後のページについては、研究者の数そのものの伸びではなく、ここにも書いてあるように、科研費の応募資格を有する研究者の数の伸びということである。
 したがって、その背景として、1つは若手の方も含めて研究者自身の数が伸びるということもあると思うし、もう一つの要素としては、今まで科研費に応募していなかった人が科研費に応募する研究者として新たに資格を得る部分も出てくると思う。特に、研究環境が非常に悪くなっている中で、科研費の応募資格を持つ方が増えてくる要素もあるのではないかと思っている。このグラフは、今まで登録された科研費の応募資格を有する研究者の伸びを前提としたデータである。

【有川部会長】
 そういう意味では、大学等にいる研究者の数が増えるとか減るとかいうことではない。民間企業の研究者も応募できるので、それがいい方向かどうかは別にして、今後その辺りの研究者がどんどん増えていく。これからの科学技術を企業等において支えるのは、これまでの修士修了者に代わって、これからは博士号を持った人であろうという観測も時々聞かされる。そういったことなどを考えると、この伸び率は場合によってはもう少し増えることもあり得るのではないかという気もする。

【佐藤委員】
 先ほど第2次基本計画の考え方について伺ったが、私の理解では、第2次で倍増といって実現できなかったからあきらめたということではなく、第3次では倍増は通奏低音になって、それを実質的に実現していく手段として30%の採択率とか、間接経費の措置ということを言ってきたので、根拠をもう少しきちんと詰めなければならない気はするが、その延長線で考えて説明がつく限り、研究者の増というような要素を足して倍増というところをターゲットに組み立てていくというのは、結果としてはほどよいターゲットではないかという気がする。
 ただ、1つ気になるのは、基本計画で科学技術政策から科学技術イノベーションへと言っているが、それは研究費部会に何の関係もないのか。イノベーションを進めていくには、科研費が充実すればそれが一番だというのであればそのように言ったほうがいいし、逆に、基本計画で全体の言い方が変わったとしても、科研費の考え方は全然関係ないと素通りしていいのかということが少し気になる。

【有川部会長】
 そこのところは、出だしの「はじめに」のところでしっかり書いておくべきだと思う。いわゆる自由な発想、研究の多様性、すそ野を広くしておく、そういったことがあって初めてイノベーションにつながっていく。それを学術というぐらいに広くとらえて初めて可能になるというようなことをどこかに書いておいたほうがいいと思う。

【山口学術研究助成課長】
 少し補足をさせていただきたいと思う。この資料3-1を事務局でつくる際に考えたことは、最初に2倍増、3倍増という数値ありきではなく、まず、基本となる考え方として、最低限この条件はクリアすべきということを提示して、その結果としてこういう数字が出てきたというほうが説得力があるのではないかということである。一体何が最低限必要なのかということについてまず整理しようということでやってみたものである。
 それから、今のご指摘であるが、増やすことによって、例えばそれがどのようにイノベーションにつながっていくかということについても記述する必要があるだろうということもあって、この資料の6ページの最後に採択率30%を確保し、間接経費を確実に措置することによって、優れた研究者に切れ目のない支援を行うことができ、これによってどういうことが起きるかということを少しだけ書かせていただいている。この先にイノベーションにつながる部分の記述を加えるというようなことは少し考えさせていただきたいと思う。

【有川部会長】
 今、言われたようなことは、いろいろなところで皆さんの理解を得られていることだと思うので、しっかり表現しておけばいいのではないかと思う。
 今回特に大事なことは、採択率30%ということであるが、現在では先ほどのデータのとおり採択率が20%を切っているという状況になっている。先ほどのデュアルサポートということからすると、基盤的経費が国公私ともに減っている状況にあって、自由な発想に基づく研究に対する競争的資金である科研費の採択率が20%を切っているという状況では、しっかり研究計画意識を持って研究に取り組めるかということが危うくなってくるのではないか。その限界を少し下回ってきつつあるのではないかと思う。
 統計をとって調べてみなければわからないが、今回言っている採択率30%というのは新規採択率なので、継続分を考慮すると、全体としては科研費で研究をやりたいという方の55%から60%ぐらいはカバーできるのではないかと思う。そうだとすると、健全なファンディングができていると考えられるような気もするが、そうしたところは議論しておかなければいけないと思う。今のように採択率が20%では、とてもだめになってしまう。
 そういうことでいうと、最後のところにある、すそ野を拡大するということができなくなって、ひいてはイノベーションにつながっていかないということになるのではないかと思う。

【深見委員】
 数値の30%がいいかどうかというのはわからないが、例えば基盤研究をもとにした場合はどのぐらい要るのかなど、様々な資料を用意していただいたので非常に議論しやすくなったし、いろいろな点でわかりやすくなってきていると思う。
 ただ、それを見た上で、30%というのがどのぐらいみんなが納得できるのかということについてはコメントできないが、広くいろいろな人に研究資金が行き渡るという意味では非常に画期的な数値だと思う。それと同時に、生命科学系でみんなが望んでいることは、何度も言っているが基盤研究の金額の倍増で、1人の人が使える金額を増やすことが必要である。採択率をあげて研究の裾野を広げるのと同時に、金額を増やすことが重要である。
 この試算をする上で重要なことは、要するに基礎研究、自由な発想をといった場合、みんなが言っていることは、基盤研究の充実ということである。基盤研究の研究期間は2年~4年が、3年~5年に伸びたが、トータルの金額がそのままなので、科研費の年間に使える金額が実質的に減っている。
 今回のような積算を行うときには、実際に1人の人が使える額を増やすというところの充実を目指した計算もやっていかなくてはならないのではないか。30%をもう少し減らして、例えば現状の19%を25%にして、その一つ一つの上限額をもう少し増やすというような積算も重要ではないかと思う。

【井上(一)委員】
 まさに今言われたことと関係すると思うが、これは採択率が最初にあるのではなく、どれぐらいの研究者がこれで研究をやっていくかということ、一人一人にどれぐらいの金額を渡すことが一番生産性が高いかということであって、どれぐらいの年限で研究費を渡すのかによって採択率とカップルするのだと思う。つまり、採択率の議論が最初ではない気がするが、その辺はどのような考えで30%を出されているか伺いたい。

【山口学術研究助成課長】
 採択率がどのぐらいが一番いいのかということについてはいろいろ議論もあると思うし、そういう面でいうと非常に難しいところはあるが、資料3-1の2ページの一番下の○にあるように、総合科学技術会議(CSTP)が、平成19年に科研費の一つの課題として採択率が低いということを出している。その際の目安として、欧米等も考えると30%を下回っているのは低いのではないかという指摘があった。それに基づいて、私どもとしては採択率30%というのを一つの目安にして、これまでも概算要求等で要求をしてきたところである。したがって、文部科学省あるいは学術研究助成課ではなく、CSTPという文部科学省とは別の政府の機関から一つの目安が30%だろうということが打ち出されていたので、それに従ったということである。

【有川部会長】
 それから、科研費に関しては、競争率3倍というところでかなり長いこと推移してきたと思うが、そのことが一つ背景にあるのかもしれない。

【井上(一)委員】
 採択されたときにどれぐらいの期間それをもらえるかによって、どれぐらいのパーセンテージの研究者に行き渡るかが変わってしまうので、そこをどのように考えているかということを伺いたい。先ほど、55%とか60%と言われたあたりのことは、どのように考えているか。

【有川部会長】
 私のほうで言ったのは、継続も含めればそれぐらいになるだろうという推測である。新規採択率が30%、それに加えて継続分があるので、その辺を考えると、大体それくらいの数字になるのではないかということである。
 ただ、深見先生、井上(一)先生が言われたことに関していうと、採択率と研究費の総額のどちらを先にということはあると思うが、基盤研究はS・A・B・Cとあって、その期間は大体同じになってきているので、現在では金額によって種目の区別があるような状況になっている。例えば採択率を30%ぐらいにしておいて、人社系であれば基盤研究(C)、生命科学系であれば基盤研究(B)ぐらいに応募することになるが、そのときに採択率が低くなるということであれば、その枠を広げていくといった戦略の立て方があるのではないか。つまり、こういう自由な発想に基づいて基盤をしっかり支えていくというときに、それが十数%あるいは25%ということでいいのか。その根拠をきちんと出すというのは難しいかもしれないが、先ほどあったように、アメリカなどで30%ぐらいあるということであれば、他の国でもこうだということで納得していただけることではないか。そういうことを活用しながら、徐々に質、量ともに充実していくという戦略をとることができるのではないかと思う。

【鈴木委員】
 30%の根拠が出ればいいと思うが、これを見ると全ての年代で30%である。もう少し何か戦略があってもいいような気がする。例えば30歳以下や60歳以上の方に対しても30%にするということはなかなか無理な話もある。問題になっているのは、例えば40歳から55歳ぐらいの一番頑張らなくてはならない時期の採択率が20%ぐらいになっているということなので、例えば35歳から55歳ぐらいまでは採択率40%ぐらいにするなど、日本としてどの層に力を入れるかということが見えてもいいと思う。外国がこうだから30%にしようという根拠だけになってしまうと、何となく迫力がないような気がする。

【有川部会長】
 そういう意味では、30%という数値を平均的に使っているだけだと思うが、今言われたようなことは当然考えなくてはならないと思う。

【岡田委員】
 まさにそのとおりだと思う。資料3-1の1ページの一番下に書いてあるように、要するに新たに研究室を主宰した人たちが、それをいかに展開していくかというときに一番お金が必要なので、そのときに十分サポートされなければならない。
 少し話がずれるかもしれないが、何人かの若手研究者に聞くと、教授などのPIになることを拒否したり、研究が好きなので研究者をやっているが、例えばポスドクなどをやっていても、必ずしもPIになりたくないという若手も増えてきている。それは、PIになるといろいろなことを考えなければいけないし、いろいろな資金も継続して取ってこなければいけないという、大変なストレスがあるからである。若手の人たちをどんどんエンカレッジして増やしていくために、いろいろな人たちが新しいことを考えて、それを実際に研究に持っていくことを考えるときには、そういう将来に対する不安などのストレスを軽減することも考えていかなければ、大学としてこれからもっていかないと思う。ぜひここのところは十分考えていただきたい。そういう意味では40代という年齢でもいいだろうし、研究室を主宰する人に対する手当てということを書いてもいいのかもしれない。

【山口学術研究助成課長】
 ここに書いてあることを、これから先、学術分科会あるいは基本計画特別委員会へ上げていくことを考えると、科研費というものについて最低限どのような条件を満たしていくことが必要なのかということがまず必要ではないかということで、採択率30%と間接経費30%というのを出させていただいた。これはあくまでも基本的考え方として絶対要るだろうということがあって、その上で計算の関係で、こういう考え方をとるとこうなるという金額が出た訳で、まず重要なのは何を満たすべきかという最低条件を提示するということではないかと思う。
 その上で、例えば1件当たりの額を伸ばす必要がある、あるいは40代についてはもっと採択率を上げるべきであるという話があるが、そういった点を考えることは重要だと思うので、そういう形の試算も考えてみたいと思う。ただ、繰り返しになるが、これから打ち出していくときに、私どもとしては最低限絶対にこれだけは要るというものを出すことがまず大事ではないかということで、こういう形にさせていただいている。

【有川部会長】
 そういう意味では、上位の委員会に上がっていって決まったときにそれが基本的な方針になる。それに従って科研費等がインプリメントされるということになるので非常に大事であるし、わかりやすく、整合性のある報告でないといけないと思う。今言われたような、例えば研究室を立ち上げるときは大変だというようなことはあると思うが、それは大きなところで方針が決まった後に、この部会等で具体的な作業をすることができるのではないか。つまり、数カ月前に、急ぐことに関して研究費部会で議論したが、ああいった種類の作業と今回のものは異なっていて、もう少し理念的なところをやろうとしているので、極めて一般性のある、だれでも納得してもらえるような議論を心がけなくてはいけないのではないかと思う。
 そういったことを考えると、例えば採択率30%と仮に置いて議論しているところだが、これが5%であった場合に、皆さんはそれを取りにかかるだろうか。ポジティブではあるが、限りなくゼロに近いような極めて高い競争率であったとしたら、それを取りにかかる人がいないわけではないが、それを自由な発想に基づく国全体の研究者の活動をサポートするようなものとはとても言えないと思う。それから、逆に100%に近いようなものだった場合、当然、予算額は決まっているので、非常に薄く広いものになってしまう。それはある意味では良いのかもしれないが、そうしたものを競争的という言い方でいいのかということにもなる。その両極端のところは極めてわかりやすいのではないかと思う。
 それから、数年前までは30%のところを行き来していたと思うが、それがどんどん皆さんの関心も高くなってきて、また、国立であれば運営費交付金が減少し、公立、私立についても同様な状況が起こっている中で、応募者数が多くなり、採択率がどんどん下がってしまい、今の20%を切るような状況になっている。こういう状況がいいとはとても思えないので、適当なわかりやすいところで一つの方向を出して、それをぶつけていくという戦略をとらざるを得ないのではないかと思う。

【井上(明)委員】
 これは文部科学省に伺いたいが、大学全体として教育、研究を考えたときに、今後1%減がどうなるかわからないが、競争的資金が増えると基盤的経費が減っていくというように、予算トータルは文部科学省としては一定なのか。基盤的経費は従来の1%減がなくなって、競争的資金は増えるという我々にとって非常に良い状況をつくり出すことが可能なのかどうか。それから科研費の採択率が30%になることと、基盤的経費との兼ね合いというような複合的な観点でこうだというような視点はないのか。

【有川部会長】
 文部科学省からお答えいただけると思うが、1つは、科研費というのは国公私、あるいは民間も問わず支援するものであるのに対し、運営費交付金等は国立だけ、私学助成金は私学だけである。一方で、科研費の間接経費は、国公私問わず、国立でいう運営費交付金的な基盤的な経費になっているという面はあると思う。

【山口学術研究助成課長】
 お答えが非常に難しい質問だと思うが、3ページの上にも書いてあるように、私どもとしては基本的には基盤的経費と競争的資金とのデュアルサポートということを前面に出して説明をしている。ただ、結果として必ず一定割合が保障されるという予算のシステムになっていないので、いろいろな交渉の結果、さまざまな事態が起こるとは思うが、私どもはこのデュアルサポートシステムを基本に置いて、予算等を要求していかなければならないと思っている。

【井上(一)委員】
 基本的な考え方のようなものが要るような気がする。結局、今、基盤的経費が非常に少なくなっていて、研究者の方々は競争的資金に頼らざるを得ない状況だと思う。現実に研究者の方々は100%近く研究費をもらえないと研究ができない状況では、競争的資金に頼らざるを得ない。研究者が必要としている研究費に対して、この競争的資金はどれぐらいの割合でそこを見ようと考えるかということがまずあるべきではないかと思う。その辺はどのように考えているか。

【山口学術研究助成課長】
 そこもなかなか難しいところがある。ここにも途中で書いてあるが、例えば法人化以降、研究室で使える研究費が少なくなってきたという声がいろいろな方々から寄せられている。それは前回の資料の中にも入っているが、ただ、現実問題としてそれが一体幾らが幾らに減ったのか、あるいは分野ごとにその違いがあるのかどうかということについては、残念ながら今のところ確実なデータがない。そういう声が強いということは前回も資料として出させていただいているが、現実に幾らあるのか、本当は幾ら要るのかというところの分析が、今の時点では十分でないと言わざるを得ないと思う。

【有川部会長】
 これは非常に難しいことだと思う。何とかなるお金の範囲内で考えてしまうということをずっとやってきているのだと思う。

【磯田研究振興局長】
 重複する部分もあるかもしれないが、ご指摘のとおり、我々は基盤的経費、運営費交付金並びに私学助成については、これを確実に措置していただきたいということと競争的資金の拡充ということで、財政当局あるいは総合科学技術会議にお願いをしてきている。それに対しては、基盤的経費については一定の削減をすべきではないかという考え方が特に財政当局のほうから強くあるというのはご案内のとおりである。
 そこで、ご議論いただいていることについては、先ほど何人かの先生方から話があったように、現在検討すべき全ての論点というよりは、まずスタートラインである、例えば20%の採択率を切るということは競争的資金としての基本的性格上問題ではないかとか、あるいは常識的に考えれば諸外国と比較しても30%というのは一つのスタートラインではないかとか、そういう議論をお願いしているところだと理解している。
 もちろんこの前提においては、実は配分金額が年々減少しているということがある。したがって、平成10年代前半のように100億円を超える科研費の伸びがある時代であれば、さまざまな制度上の改善や工夫というものが比較的容易にできたが、現在のように、昨年38億円の増、その前が10億円台の増であるということになると、非常に厳しい現状であるということがある。その中での第1の課題が、採択率であったと理解している。
 ただ一方で、今お話が出ているように、基盤的経費の削減に伴い、科研費が多くの研究者にとってなくてはならない研究費になっている、あるいは教育研究活動上の位置付けも明らかに変わってきているというご指摘を強く受けている。さらに年齢層に伴う研究者の姿というのも、例えばポスドク制度や一部のプロジェクトものの外部資金の導入等の中で変わってきているのではないかと思う。また、近年、応募資格者や対象機関を拡大しているということもある。それから独法研究機関が典型だが、これまでであれば同機関の中の運営費交付金で対応できた研究が、事実上困難になってきているという指摘も受けている。かなり多様な研究者、年齢層もあるし、それから所属されている機関のミッションが異なるということもあるが、そういう方々によってこの科研費の位置付けとか、望ましい姿というのは実は異なると思う。
 その議論に、どの段階でどういう形で移っていったらいいのかということについては、本日、年齢の問題の提案もあるし、あるいはもう少しきめ細かくという一般論での指摘もあったが、そういう論点にさらに詳しくメスを入れて、科研費の望ましい姿を探究するということは必要だとは思う。ただ、どの段階でそういうものに議論を展開していったらいいのかということについては、ご発言いただき、あるいはご指導いただければと思っている。
 とりあえず今回お示ししたのは、年齢層についてかなりの議論が出ていたので、最小限の資料を出させていただいている。これは若手研究者の議論から発展したものと理解しているが、あくまで30%という議論は最低限のスタートラインとしての議論と考えているので、よろしくお願いしたいと思う。

【深見委員】
 40代、50代の採択率が低いということで、何らかのサポートが重要だというのは同じ年代にいる私としては非常に重要だと思う。ただ、きめ細かな支援という形で40代には何%という個別なことはするべきではないと私自身は思っている。むしろ40代や50代をはじめ、その年代の人がどうして採択率が下がっているのかというところを考えて、基盤研究(C)に応募しにくい状況がある、あるいは基盤研究(B)に採択されにくい状況があるというところに着目すべきではないかと思う。
 つまり、個別なこの年代がとても重要だというのはすごくよくわかるが、だからといってその年代を特別にサポートするべきではないと思う。これまでは若手を重視してきたが、若手重視が今度は逆に上の年代の採択率を下げたということで、少し反動的なことになってきている。個別なそういうサポートということよりは、あまり極端に走らずに全体的に大きく考えていくことのほうが重要ではないかと思う。

【鈴木委員】
 間接経費の役割というものがあまりはっきりしない。デュアルサポートというときに間接経費を措置しなければいけないとか、ここでも科研費の間接経費30%措置が必要と言うが、そのときに間接経費はどのように見られているのか。この辺をはっきりしないと、デュアルサポートといいながら、片方で間接経費といった場合、ある見方をすれば間接経費で基盤的経費を補っているのではないかという見方をする人もいるかもしれない。間接経費がどのような存在であって、それをどう活用するかというところと、科研費の増額や間接経費の措置とデュアルサポートをどのように考えるかというところをもう少し明確にしなければならない。

【有川部会長】
 間接経費については、どういったものに使えるかという使途はかなりはっきり示されていたと思う。直接的なものには使えないが、それ以外のものについてはさまざまな面に使えるということになっていたと思う。そういう意味では、基盤的経費的に使うこともできるのかもしれないが、基盤的経費との違いはしっかりしているのではないかと思っている。もう一つ、いわゆる基盤的経費、国立であれば運営費交付金であるが、デュアルサポートの相手側のほうも考えなければいけない。つまり、若手が新しい研究を始めるときや、ベテランの研究者でも新しい領域へ入っていくときなどは、そこをサポートするお金というのは競争的なところには通常はない。その辺は基盤的経費で支えていかなければいけないし、その辺は大体どのくらいの比率であって、そこを脱出して方向が見えてきたら、残りは科研費でやるというようなストーリー性も示したほうがいいのかもしれない。そういう中で30%は仮置きであるが、採択率30%ぐらいは必要である、といった議論をする。今のように考えられそうなことは一応押さえた上で、他の国のことも参考にしながら議論して大きなところを設計した上で、その中で細かなことを決めていくというやり方をしなければいけないのではないかと思う。

【水野委員】
 まさに先ほど申し上げたように、きめ細かく設計することが大事である。基盤研究の上限の金額も、領域によって本当は異なると思う。文科系にとっては十二分な金額であったとしても、理科系のある分野にとっては実験器具を動かしておく電気代にしかならず、実際に実験を行う経費はでないこともあるが、ここでは全部まとまった同じ額の中で論じられている。
 枠を設定されると、枠の中でみんなで競争していくので、その中で最大限の金額を申請しようという形の競争になりがちである。もう少し大所高所に立って枠設定自体を自由にして、限られた資金をこの研究領域にはどうやって使うのが一番いいかということを設計できるのも専門家ではないかという気がするので、20代、30代ということだけではなく、もっときめ細かな制度設計を科学者のほうで議論できるような場を設けていただければと思う。
 自分の大学、あるいは自分の研究室ということだけではなく、限られた予算を自分の領域の科学研究を最も有効に発展させるためにどうすればいいかという視点、全体として公のための発想を科学者はみんな持っていると思うので、それを使って制度設計していけるような場を設けていただければと思う。

【井上(明)委員】
 デュアルサポートで両側面から充実させていくということは非常に重要であるが、運営費交付金的なものが減少していく中で、今、法人化された大学は自主・自律的に戦略的にいろいろ取り組もうとしている。むしろ基盤的経費はそちらのほうに結構必要となる。間接経費が科研費で措置されているとしても、それはそれを獲得した人や獲得した部局が活用しているので、そこでは戦略的な目標が違っている。したがって、デュアルサポートで基盤的経費も違った意味で重要で、間接経費があるからそれでいいということではないと思う。

【有川部会長】
 そこはきちんと整理しておかないと、せっかく導入されて定着している間接経費そのものにも影響を与えかねないので、大事だと思う。

【岡田委員】
 後半の議論は、資料2の12ページの科研費の将来の規模等についてというところに入る部分を議論していたと思うが、5ページの第4期科学技術基本計画の検討というところに○が3つあって、その4つ目ないし5つ目のところで、規模をどう上げるかということについての強い主張を出していただきたいと思う。

【有川部会長】
 今日いただいたご意見は、資料2の意見のまとめのところに反映させていただく。それから、人社系等に関する運営の仕方については水野先生から具体的にご指示もいただいたので、その辺は具体的にして議論を進めたいと思う。最後に議論した12ページの将来の規模等についても、例えば30%というところを表に出しながら表現してみるということになるのではないかと思う。そうした場合に、また表現についてご意見を伺うと思うので、次回はもう少し今日より進んだ議論ができて、最終的なものになっていくことになると思う。

【山口学術研究助成課長】
 本日ご審議いただいた資料2の12ページの科研費の将来の規模等について【P】という部分があるが、ここに資料3-1の検討メモを入れていくことを考えている。そこにさまざまな補足資料等をつけ加えて、まとめにさせていただきたい。それから今後のスケジュールについてという資料に書いてあるように、ターゲットとしては第4期の議論をしている基本計画特別委員会の11月19日のテーマが科学技術イノベーションのための戦略的な研究開発投資についてということであり、そこでは投資額の議論も出てこようかと思うので、そちらへ向けて学術分科会での取りまとめ等々に入れていただくという方向で動いている。

(2)その他

 事務局から、次回の研究費部会は10月29日(木曜日)15時から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

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研究振興局長学術研究助成課

(研究振興局長学術研究助成課)